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君影草のうた

#UDCアース

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#UDCアース


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 噎せ返るほど甘く馨しい花が舞い散る中に、無数の微笑み。
 うず高く積まれた花の山を中心ににこやかな宴がも催されているようであった。
 ふうわりひらりとはためく裾華やかに、人が楽しげに踊っている。
 染み一つさえ許さぬ、昼間ならば目を焼くほどの純白に身を包んだ人々が舞い踊るたびに、りん、しゃん、と鈴の音が響く不思議な祭りのような。
 音の根源たる鈴を足に飾っているのは、髪も白けた老人と亜麻色の髪の少女たちばかり。
 黒髪の、どこか似たような顔をした人々に手を取られて舞っている。
 たった一つ歪なところがあるとするならば、老人達の顔は暗く、少女達には純粋な戸惑いがあることくらい。

 しゃらん、じゃらん、   りん りん、り。

 つきよ、つきよ。
 うたわれよくよき つきこさま。
 うたえうたえよ つきこさま。

 りん りゃん しゃ、しゃんしゃ。

 よいへ、よいへ。
 こよいのつきさま まいられる。
 われらのうたを ききたまへ。
 われらのうたを ききたまへ。

 しゃらん、じゃらん   りんり りん り。

 りん。

 鈴の音が止んだ。
 誰かが囁いた、“御使い様だ”という声が伝搬して――……血飛沫が爆ぜた。
 黒髪の人々が恍惚と呟いた横で、爆ぜたのだ。次々、次々と。遠慮も容赦も、慈悲の欠片さえ持たない無慈悲さで、老人と少女達が赤に塗れていく。
 最後、怯え切った少女が突き飛ばされ花の山諸共黒い影に嬲られた時、歓声が上がる。

「“幸福の再来よ、ここにあり!”」

●トワイライトに告ぐ
 集まったグリモア猟兵の姿に、壽春・杜環子(懷廻万華鏡・f33637)の眦が安心したように垂れた。
「みなさま、お集まりくださりありがとうございます」
 深々と礼をしたのち、きゅっと頬を上げ緊張した面持ちに。
 とんとん、と胸を叩いて深呼吸してから着物の袖から覗いた指先で赤いペンをつまむと、不慣れな手つきで地図に丸を描く。
「このお山の輪の中は、窪地になっておりますの。ここで……人をいけにえに、儀式がおこなわれようとしています」
 ぎゅっと、指先白むほどペンを握りしめながら杜環子は予知を告げる。
 曰く、この山間の地は長らくある宗教を信奉する一族が住まう隔絶された土地であった。信じる神を祀り、敬い、供物を捧げる人々が住まうのだと。
「……問題は“神”が“UDC”であることですの」
 遡る事百余年は堅く、祀られた分だけUDCの力が増している。
 ゆえに、この解決には猟兵の力が欠かせないのだと力強い拳を握りながら。
「みなさまには、この地へ客人(まろうど)として潜り込み、鈴付きとして儀式に参加していただきますわ」
 鈴付きとは贄を指す土地言葉だと添えながら、杜環子は地図に儀式の流れを書き込んでいった。
 時間は陽が沈み始めた夕方から始まり、最初は一族が歌う歌に合わせて共に白い花の山を中心に踊りを踊る。一定時間踊るとUDCの眷属が現れ、鈴付きを狙って襲い掛かった来るため遠慮なく迎撃してくださいませ、と頷いて。
「踊りの種類は問いません、また、踊りの最中が一族の人達に接触する機会でもありますゆえ、気になることがあれば多少何か尋ねてもよいと思いますが、戦闘が始まればそちらに集中していただく必要がありますの」
 眷属全てを倒せば、一族は激しく動揺するだろう。
 しかしそれを沈めている暇はありませんのよ、と杜環子は首を振りながら。
「先に申しましたとおり、このUDCは強力ですわ。でも……この機会を逃せば、合うことままならぬやもしれませぬ。ゆえに、」
 どうか仕留めて下さいませ。
 静かな声と深い藍の瞳には、確かな信頼に満ちている。

「もう二度と、誰の血も、涙も、流されることありませぬよう」

 ――お気をつけていってらっしゃいませ。
 微笑んだ杜環子が抱えた古鏡を一撫で二撫で、輝いたグリモアが猟兵を導いた。


皆川皐月
 はじめまして、皆川皐月(みながわ・さつき)と申します。
 この度は当オープニングをご覧下さりありがとうございます。

 初めてのシナリオはUDCアースの陰惨な儀式阻止となります。
 そのえがおは、ほんとうにたのしいのでしょうか。

●各章の受付期間について
 各章、断章を追加しながらの進行の予定です。
 現在【6月14日朝8:30】までを予定しています。
 続く章の募集告知は、マスターページとTwitterの両方にさせていただく予定です。


●第一章:日常『白花の宴』
 花の踊りにご参加いただきます。
 客人(まろうど)として集落を訪れている猟兵の皆様には、白を纏い、足首に赤いリボンで鈴を結っていただきます。
 歩くだけで鈴が鳴るため、儀式に紛れ込むも良し、思い切り踊るも良し、捜査するも良しとなっておりますので思うようにお過ごしいただければと思います。

●第二章:集団戦『強欲の傀儡『烏人形』』
●第三章:ボス戦『ツミコ』
 という流れになっています。

●注意
 複数人でご参加される場合、互いの【ID】または【旅団名】などをご記載いただけますと助かります。
 また失効日も揃えて頂けますとなお嬉しいです。


 各章、ご参加は自由となっておりますのでお好みの場面にご参加いただけたら幸いです。
 ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
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第1章 日常 『「祝祭」への参加』

POW   :    奇妙な食事を食べたり、奇怪な祈りのポーズを鍛錬する等、積極的に順応する

SPD   :    周囲の参加者の言動を注意して観察し、それを模倣する事で怪しまれずに過ごす

WIZ   :    注意深く会話を重ねる事で、他の参加者と親交を深めると共に、情報収集をする

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 山々の間、夕日に染まり黄金色に輝く雲が揺蕩う中を白い花々が舞っている。
 子供たちの笑い声、人々の笑顔。響く鈴の音と柔らかな歌声。
 差し込む茜に染まり輝くようにひらめく花弁の、なんと美しいことか。

 夢、幻がごときこの光景は、常人ならば容易く心を掠め取られていただろう。
 徐々に心が酔うような、這い上がって来る微かな恐怖を感じることこそ、生きるものの証。生命らしさ。

 うたえうたえよ つきこさま。
 われらのうたを ききたまへ。

 りゃん、りん しゃん しゃ。


 鈴の音がよんでいる。
 うたがきこえる。
リグ・アシュリーズ
借りた装束を纏って儀式に参加するわ。
ただ踊ればいいと思ってる、無知な客人の体でね。
結わえ付けられた鈴さえなければ、
周囲から探りを入れたいところだけど。
かえって目立つし、時間がなさそうだもの、ね。

踊りながら、儀式に抵抗感がありそうな一族に接触するわ。
――静かに聞いて。
表情は不思議そうにあたりを見つつ、囁く声だけは自信をこめて。
――もうすぐ、あなたは儀式から解放されるわ。

静かに、心の内へ問いかける。
許せないのはUDC?村の人々?
たぶん、違う。
故郷から離れたはずのこの土地で、
故郷と同じ景色を見せた、この世の理不尽。

――だから、約束してくれるかしら?
全力でにげて。そしたら、私たちが何とかしちゃうから!



 今はただ、この儀式に対し蒙昧を装う。
 すうっと瞳を細め微かな笑顔を携えたリグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)は、足取り軽やかに借りた装束の裾を翻して見せた。
 笑顔張り付けた黒髪の一族とすれ違う度に微笑み返しながら、さも楽し気に。
 妙な結束の固さが窺えるこの地で、客人(まろうど)の自分が無遠慮に探り入れれば反発されることなど分かり切ったこと。だからこそリグは聞き耳を立てながら、丁寧に優しく取ったのは皺枯れた老婆の手。
「――静かに聞いて」
 足首の鈴が、りゃん、と鳴く。
 雲間から差した茜が二人の足下を照らす中、澱んだ瞳の先を知ったような顔の老婆は、黙ってリグを見上げていた。
「――もうすぐ、あなたは儀式から解放されるわ」
「――は、」
 足首の鈴が、りん、とうたう。
 薄桃と藍と紫苑の夜帳が空を満たそうとしている中、不思議そうな表情のまま見様見真似で踊っている風を装ったリグから出たとは思えぬ言葉に老婆はぽかんと口を開けてしまった。
 長らく地に染まった老婆の生に、“何故”“どうやって”と問い返す勇気は無いけれど。それでも、リグの手を無意識に握り返したことが答えに他ならない。
 沈み切る日がリグの瞳を掠めた一瞬、過った故郷が胸を締め付けたけれど。

 日が沈む。今は心を振り切り、リグは問うた。

「――だから、約束してくれるかしら?」
「ええ、お嬢さん」
 ぶつかった互いの瞳に僅かな希望の星明り。
 りゃん、りん、しゃん、とうたい続ける鈴の音など、もう耳につくことはない。
 静かに、ただ静かに老婆の頬伝った涙に悲しみと後悔と僅かな喜びを感じながら、リグは――。

「全力でにげて。そしたら、私たちが何とかしちゃうから!」

 手を取ったままふうわりとリグと老婆は廻って、一歩。
 自信に満ちたリグの笑顔は一等星のように、迷えるものを照らしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
旅の途中、地域の人との出会いは楽しみのひとつ
山奥の集落、風習。わくわくするなぁ

儀式が始まるまでの時間、集落の人達とお話ししたい
警戒されてもいけないので、withは預けるか隠すかしときます
折角なら、ここで伝わる踊りも教えて貰いたいな

昔から伝わる風習をずっと大事にしてるの、素敵やと思います
その、ツキコ様は、ここの守り神みたいな方なんですか?

歌が始まれば、教わった通りに
私の踊りも気に入って貰えたら嬉しいなぁ、なんて
繰り返される歌と踊り、響く鈴の音に
不思議な気持ちになりつつも
決して贄になるつもりは無くて

われらのうたをききたまへ
…この歌は、きっと今日で最後になるから
よくきいておくといいですよ、ツキコ様



 胸いっぱいに吸った山の空気は、今までの旅路と変わらずに清廉としている。
 ふっと頬を緩ませた春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は、手渡された衣装と鈴飾りを手に、着替え用のテントまで駆けて行った。
 ゲルの様な真っ白いテントの中は中々の広さであった。あたりを見回り、一族の人間らしい黒髪の少女に尋ねる。
「あのさ、荷物ってここに置いても大丈夫ですか?」
『ええ、もちろん』
 穏やかな回答に内心ホッとしながら、旅人らしいリュックと布を巻いて隠匿した鉄塊剣 withを取り出しやすい入口へと隠す。そうして、先程の少女が衣装を整える横で結希も習うように着替えながら、何気なく問いかけた。
「ね、ここで伝わる踊りってあなたは知ってますか?」
『踊り?ああ、もしかして花跳ね舞のことかしら……ふふ、旅人さんも一緒に踊る?』
 ちりん、と鳴る鈴を足首に結いながら結希が勿論!と答えれば、少女は頬を花色に染めて微笑み、早く早く!と急かしだす。
 曰く、同年代の中では私が一番上手なのよ!と自慢気に話しながら結希の手を引いて広場へとスキップする勢いで歩いていく姿は、見目から分かる年相応。
 “ツキコさま”について尋ねれば、“幸神様だって、お母様が”と少女は言ったきり、深くは知らないようであった。
 集落の人間以外と話すのが楽しいのか、話の止まぬ少女に相槌を打ち、時に微笑み返しながら結希は考える。
 この儀式の危険性と不可解さ、そして――。
『それでね、ツキコさまへの御祈りの時はこうやって組んだ腕をね――……』

 “ツキコさま”の怪しさを、訝しむ。

 鈴が鳴った。
 目の前の少女が、これが怪しげなUDCの為の儀式とは思えぬほど楽し気に踊りだす。
 つられて結希も習うように歩みだし、少女が教えた花跳び舞の真似をした。
 ちりん、しゃん、りり。
 鈴が鳴っている。
 猟兵ゆえに、結希は為すべきを見失わない。猟兵ゆえに、結希は贄になりえない。
『われらのうたをききたまへ』
「われらのうたをききたまへ……――ねぇ、」
 ねぇツキコ様――この歌は、きっと今日で最後になるから。
 だから、どうか。

「よくきいておくといいですよ、ツキコ様」
 結希は沈みゆく夕日を見据えて、そうっと呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾


篠笛を手に
信心に音律を添えたいのだと申し出、
一族の人達に尋ねる「神」の謂れのこと

喜んで語る様子は何処までも純粋で
だからこそ
人身御供という
人の世の護りを希う為に
ひとの命を欲する神を願う矛盾に
密かに憂う

其れを対価と謳うなら
捧げられる数多のいのちにも
幸福が齎されなくては等しくは無いのに
迎える終焉は
唯の無でしかないのに

想いを含んだ小さな吐息は言葉にせず
ただ微笑んで
唇添えた笛に閉じ込め、祭囃子に紛れさせよう

歌声に合わせて
奏でる笛音
軽やかな足取りで踊るかの如く
そっと踏む反閇

いずれ贄達が逃げ出す際、
彼らが惑わず恐れずに済むように、との
ささやかな破魔のまじない

足元で鳴る可憐な鈴の音が
意図を隠してくれるだろう


花剣・耀子

よくある理不尽。よくあること。見つからなければ、明日も続く。
――見つけたからには、逃がさないわ。
お仕事よ。

装いをそろえて紛れ込みましょう。
狙われた方が動き易い。
しゃん、しゃんと、足元を鳴らして一定のリズムを刻みながら。
踊ることに意識は割かず、周囲の観察に努めましょう。

あたしひとりだけなら戦うのも逃げるのも気兼ねないけれど、
それじゃあ根っこは潰せないもの。
儀式の中心。
贄のヒトを逃がす道筋。
猟兵らしきひとの目星。
位置関係を頭に入れながら、しゃんと鳴らしてもう一周。

どこかで歪んでしまったのかしら。
それとも、最初からいびつだったのかしら。
よくある理不尽。よくあること。
……それと赦すかは、別なのよ。



 理不尽なことなど、よくあること。
 よくあることなら、きっと明日も。
 きっと。 ああ、でも――……ならばこそ。

 そう、きっとこの祈りは純粋にどこまでも高らかなのだろう。
 だからこそ悍ましく、だからこそ止めねばならないと花剣・耀子(Tempest・f12822)は秘かな決意を胸に眼鏡を押し上げた。
 流れる風は少し肌寒く、こんなにも日常の様な顔をしているのに。
 山間の雲間を縫って差し込む夕日はとろりと暖かく、いやにぬるい。
 しゃんと鳴った足首の鈴に抗わず耀子が踏み出した時、その中を裾翻した都槻・綾(絲遊・f01786)が笛の音と共に舞い抜ける。
 ふらりひらりと舞い歩みながら、ひゅうるりと笛を吹く姿はひどく幻想的であった。
 つい見つめてしまった時、一瞬――たった一瞬、視線がぶつかった。
 そうして互いに理解するのは己たちが猟兵であること。

 耀子とすれ違った後も、綾は歩みをとめぬまま。脳裏を過るのは先程の青年と少年との会話。
「すみません、この宴に笛を一管添えてもよろしいでしょうか?」
『すっげー!それどんな音出るんだ?ぴーって感じ?それともぷーって鳴るの?』
 柔らかな綾の問いかけにすぐ反応したのは黒髪の少年だ。
 綾の篠笛が物珍しいのか、パっと瞳を輝かせ矢継ぎ早に尋ねながらにじり寄っていったところで、ひょいと抱えあげられる。
『こら、客人の方に失礼だろう!お申し出、是非お受けいたします』
 少年を軽く叱ったのは精悍な青年であった。
 綾へ向き直ると申し出を受け入れ深々と礼を返す姿は、まるでこの儀式と結びつかないちぐはぐさ。
 しかし、鈴の音は止まずうたは続く。
「皆さんの信心があまりに……ですので、お許しを頂け嬉しく思います」
『……お褒めいただき光栄です。長く、続いているものですから』
 美しいと、綾は言えなかった。
 だが青年も綾の言葉を追うことは無く、ほんの少し遠く夕日差す花の山を見た。
「一つ、お尋ねしても?」
 青年が頷く。
「こちらの神、とはいかなるものなのでしょう」
『それは―……』
『幸神さまだぜ!すっげーんだ!な、兄ちゃん!母さん言ってたじゃん!』
 やっと話題に入れると見たか、バッと手を挙げた少年がハイハイ!と会話に割り込むや、またぺらぺらと親の話を真似して語ってくれたのであった。

 純粋だ。
 誰よりなにより。この祈りが、対価を明け渡すのか――……。
 遣る瀬無さに蓋をして、綾は笛を吹く。

 一方、耀子は花の山の踊りの輪を一周終えたところであった。
 ここは本当に開けた場所だと実感する。何せ、目ぼしい建物は着替えのゲル二棟程度なのだから。
「……どこかで歪んでしまったのかしら。それとも、」
 一周回って感じたのは黒髪の人々の何と楽し気な事か。
 今、耀子自身が踏みしめているこの草原にはどれだけの血が染み込んでいるのか気にも留めないような人々と、知りながら己の番に諦めを持った老人達と無知な亜麻色の髪の少女達。
「本当に、理不尽ね」
 あたしなら一人でも逃げられる、けれど。
 思案した時、再びすれ違った綾が目配せをした。りゃん、しゃん、と鈴を揺らしながら追随した耀子が並んだ時、笛を吹くフリをしながら綾がそっと。
「同じように歩むことはできますか?」
「わかったわ」
 一歩、歩みてすくひをいのり。
 二歩、歩みてわをいのりゆく
 三歩――、ひらりと。
 綾と耀子の歩み方は反閇(へんばい)という破邪や鎮魂の呪歩法だ。
 効果のほどは明確に見えなくとも、この儀式同様“祈ればこそ”。

 夕日が沈む。夜が来る。
 きっと、この理不尽は耀子達が止めるまで終わることは無いだろう。
 隠れ行く日の向こうから、夜の欠片の様な影が迫っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レン・デイドリーム
こんな時代になっても邪神はアナログな儀式を好むんだよね
普通のお祭りだったらなかなか好みの光景なんだけど
人が死ぬのは放っておけないな
さて、どうしよう?

装束とリボンを借りてきちんと客人の姿になろう
踊りはほどほどに、周囲の情報を集めようかな

黒髪の人達が邪神の信者かな
彼らの様子を見てみよう
僕らを品定めしてるのかな
見られてたら笑顔を返す
品定めしてるのは君達だけじゃないよ

ここが戦場になるのなら周囲の状況は確認しておきたい
生け贄の人達を逃がせるルートはあるかな
それとも彼らを守れるような場所はあるか
しっかり確認しておこう

気がついたら、シュエが僕の鈴を鳴らしてる
……楽しそうだね
邪神の儀式じゃなければよかったのに



 滲む夕闇の中、人々が手を取り合って花の雨の中を踊る。
 まるで絵画の様な祭りの様子は中々にレン・デイドリーム(白昼夢の影法師・f13030)好みの光景であった。
 今笑顔で踊っている人々が踏みしめるこの地面が血に塗れた歴史を持っていることさえ、知らなければ。
「本当に綺麗だ。……ね、シュエ」
 茜差す。
 知らないはずの懐かしさを噛みしめながら、時折ステップ。
 花の山を横目に、レンは静かに周囲を観察しながら踊りの輪の中をゆっくりと歩んでいた。
 ちりん、と鈴が鳴る。
 ゆっくり、ゆっくり、歩きながら周囲を見て気が付いたのは、黒髪の一族からの何とも言えぬじっとりとした視線だ。視線の主の位置は二週目で確認も含めて把握出来たのが5か所。全員が程よい距離感で配置されており、隙が薄い。
 贄を逃がさないための配置かと肌で感じながらも、いくつかの脱出ルート想定は出来た。
 さて、生贄の人たちをどうやって逃がしたものか――……。
 思考の海に片足を投じかけた時、ちりん、と鈴が鳴った。ハッと足元を見れば、半透明の触手のようなUDC―シュエ―が鈴に触れていた。りりり、ともう一度鈴が鳴る。
「……楽しそうだね」
 りん。
 りり、しゃん。
 ――本当にこれが邪神の儀式でなければ良かったのに。
 そんな思いを小さな溜息で流し出し、レンはシュエと共にステップを踏む。鈴を鳴らし、視線を振り払いながら。

 夜が迫っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
匡(f01612)と

この図体に鈴とリボンって何かなあ
匡はそんなことねえ?
あー、武器が必要だと大変だよな

さて、イケニエだっけ。あいつらに接触してみるのもありか
ここは私に任せろ匡!
レディに話を聞くのは得意だぜ!

若いレディたちは、あんまり何か知ってる風じゃないよな
口を割らせるなら……どちらかといえば、年嵩のミセスか
――失礼、ミセス
こういうところに来るのは初めてなものでな、色々教えて欲しくて
こっちは私の友人。ニホンジンだから地理の案内役になってもらって
秘境を一緒に回ってる
……匡、話合わせて、ほら

村の昔話から入って、信仰に祭りの意義に、つつけるだけはつついておこう
鬼が出るか蛇が出るか……って言うんだっけ


鳴宮・匡

ニル(f01811)と

衣装を借りる時に、村人に話くらいは聞けるだろう
この風習がいつからあって、どういう意味があるのか、とか
警戒されない程度に聞き出すよ

……ああ、これ
動きづらいけどそれくらいかな
銃を隠しにくいのは難点、ってくらい

儀式の輪の中に入ったら、主導はニルに任せる
いつ襲撃が来てもおかしくないなら、周囲の警戒をしていたほうがいい
【無貌の輩】たちにも影に潜んで様子を見ていてもらうよ

――え? ああ
そう、こいつが日本を見て回りたいっていうからさ
その土地の風習とかも知りたいんだって
少しでいいから、教えてやってよ

……鬼でも蛇でもなくて神らしいけどな
でも話を聞く限り、鬼や蛇のほうがまだマシかもよ



 場にいた誰もがこう言った。
『いつから、と聞かれても……なあ?“昔から”だ』
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)のさり気ない問いかけに返ってきたのは、的を射ない曖昧な言葉ばかり。ある程度予想はしていたものの、こうも外れるとは想定外だ。
 仕方なしにもう一つ、気になっていたことを問う。
「じゃあこの風習ってどんな意味があるんだ?」
 ぴたりとざわめきが止む。
 ハッして村人を見れば、ただじっと匡とニルズヘッグ・ニヴルヘイム(伐竜・f01811)を見ている。
 そう、見ている。
「……――ああ、いや、悪かっ、」
『いやいやいや、君たちは興味があるのかい?若いのになんて熱心な客人だ!』
 内心慌てて口を開いた匡の言葉を飲み込むように黒髪の青年が言葉を被せ、話を喰った。話題を逸らすように勢いよく匡の手を取り、力強い握手をしてからにっこりと微笑み。
『また後で! 鈴を忘れないように気を付けてくれ!』
 先程の陰湿さが嘘のような爽やかさで手を振ると、二人を置いて青年達は出て行った。
 どうにも歓迎されない問いかけだったらしい。聞いた相手が悪かったのか、とため息をついたところで仕方がない。
 ちりん、とニルズヘッグの手中で鈴が鳴る。
「この図体に鈴とリボンって何かなあ」
「……ああ、これ。動きづらいけどそれくらいかな」
 あとこれが隠しづらい、と匡が愛銃 BHG-738C [Stranger]をしまいながら続ければ、武器があるって大変だな、とニルズヘッグは悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
 先の空気を払拭し、着替えも済んだところで二人は流れるように踊りの輪へと入っていく。
 青年達には後ほどと言われたもののあくまで口約束。客人である自分たちでは彼らを見失ってしまったから―……など、理由はでっち上げれば十分。
 今度こそ情報を、とあたりを見回したニルズヘッグの目に留まったのは俯いてとぼとぼ歩く一人の老婆だった。
「ここは私に任せろ匡! レディに話を聞くのは得意だぜ!」
「任せた。……――さて、ちゃんと仕事してくれよ?」
 駆けだしたニルズヘッグを送り出す傍ら、匡もまた夕日で伸びた己の影に囁きかける。して、影がブレたのは一瞬のこと。瞬きの間に匡の影こと無貌の輩(ストレンジネイバー)は散開する。
 そうして匡は何事も無かったようにニルズヘッグの下へ向かう。
 一方、ニルズヘッグは流麗な仕草で老婆の皺枯れた手を取ると、紳士然とした様子で微笑みかけた。
「――失礼、ミセス。こういうところに来るのは初めてなものでな、色々教えて欲しくて」
 つい声を掛けてしまいました、と肩をすくめて見せれば、当の老婆は一瞬ぽかんと口を開いた後、照れたように慌て始める。
『ま、まあまあまあ、外の国の方ははじめてだわぁ。遠いところから遥々いらっしゃったのねえ』
 ちり、ちり、と互いの鈴が鳴っている。
 ほほほ、と取り繕うように老婆が笑えばニルズヘッグも自然と微笑み返していた。
「こっちは私の友人。ニホンジンだから地理の案内役になってもらって、秘境を一緒に回ってるのだ」
「――え? ああ、そう、こいつが日本を見て回りたいっていうからさ。その土地の風習とかも知りたいんだって」
『そうなの、お友達とねえ。……でもね坊や達、お願いよ。どうか早くお帰りなさい。もう日が沈むわ。道が分からなくなってしまう』
 夕日が見えにくくなるにつれ老婆が不安気に震えだせば、鈴がちりりりと鳴りだして。
 だめよ、と悲しげな眼で老婆は言った。怯えたように首を振り、祈る様に手を組んだまま。
「ミセス、それは」
『幸神様が降臨なさる前に……いいえ、御使い様が来る前でなきゃ!』
 弾かれたようにニルズヘッグ達の顔を見るや、二人の袖をぎゅっと握り縋るように、しかし僅かな救いを求めて強く。強く、握る。
「幸神様も、御使い様も、何かあるんだな……」
 静かに呟いた匡の耳には、無貌の輩が集めた“幸神様”と“御使い様”の情報が僅かに揃っていた。
 影曰く、贄を作るのが“御使い様”で、呼び出されるのが“幸神様”。“幸神様”には髪色が黒でない余所者と髪色が黒でなくなった者を捧ぐこと。

 そして願うは―――。

 茜の光があと少しで途絶えようとしている。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鈴・月華


鈴の音は居場所をおしえるものだって、お師様が言ってた
足首に付けられた、自分のものではない鈴にちょっとした違和感を感じて。けど紛れ込む為なら必要なものだと受け入れて

…私、踊るとかしたことないんだった。情報収集も兼ねて、歳の近い子に声をかけて教わってみようかな

教わりながら祀ってる神さまについて、何か言い伝えられてる事があったりしないかとか。何かをくれるのかとか聞いてみる
聞いた事については否定も肯定もせず、そうなんだで済ませる
答えも参考にはするけど、反応を見るのが目的。反応も答えをくれるから

反応を見たら、足がもつれて転びそうになったフリして話題を切って、踊りを教わる続きに戻る


クララ・リンドヴァル
※アドリブ連携OK
【WIZ】
UDCアース、久々に戻って来ました。
とても綺麗な場所……でも、この胸のざわつきは、そういう事なのでしょうね。
神として祀られているUDCの正体、見極めませんと。

白いローブ姿でお祭りに参加します。
裸足に赤いリボンを巻いて参加します。

踊りの輪から少しだけ離れ、相手を探しながら歩きます。
どきらかと言うと、捜査寄りです。

……。
(魔術行使の影響で萎縮した両足に目を落とし)
もしかしたら、小さい子は怖がってしまうかも。
土地の老人を中心に接触します。
自分の事は語らず、鈴を鳴らして贄である事だけを仄かします。
聞き出したいのは、歌の内容です。
怪しまれないよう、注意深く会話を重ねますね。


雨宮・いつき

儀式へと参加して舞を踊ることにしましょう
邪な神へと僕の舞を捧げることになるのは癪ですが、これも御勤めを果たして皆を守るためなら…

…皆

…僕の役目は、人の世の理を守る事
それを乱すオブリビオンを討ち果たす事
でもどれだけ歪められていようと、この地の人々にとってはこれこそが理
それを今から僕は壊そうとしている
…そうして僕は、本当にこの地の人々を…心を、笑顔を守ることが出来るのでしょうか

…なんて、この期に及んで惑うだなんて未熟者ですね

僕は、勤めを果たす
そして後悔の無いように生きる
…救えるはずの命を取り零したら僕はきっと後悔する
だから

この地の人々を弄ぶ魔を必ずや討ち果たします
この舞は、魔への死出の手向けです


鬼桐・相馬

俺は苦手以前に踊ったことが殆どない
記憶を探り再生されるのは以前見た神楽舞
必要があるならばそれを舞うことにしよう

閉ざされた村ならば全体を統率する長がいるのではないか
彼らならば鈴付きどころか村の人々でさえ知らないことを知っている可能性がある
踊りや儀式に参加する振りをして人の流れや会話を把握
UCを発動し黒歌鳥に空からも探らせよう
村全体を見渡せるような位置、血飛沫を間近で見れる特等席、或いは――万が一の禍を避けるかもしれない
一際大きな家の内部へ意識を向ける

他人の命を供物として要求する神
其れが齎す幸福とは何なのか
聞いてみたいんだ

後半は身に着けた〈結び鈴〉に注意を
眷属が現れるタイミングが判るといいんだが



 鈴の音とは“居場所を教えるものだ”と鈴・月華(月来香・f01199)の師は言ったという。
 付けたことのない鈴とリボンの感触をむず痒さを感じながら、テントを出た月華は既に踊りの輪が出来ている広場を前にぽつんと立ち尽くした。
 何故なら、今までとんと踊ったことがないのだ。どうしたものかと逡巡した時、背の高い影が被る。
 横を見れば、月華よりももっと難しい顔をした長身、鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)の姿があった。相馬もまた踊りが苦手というより踊ったことがない。
 そんな二人に、声を掛けたのは雨宮・いつき(憶の守り人・f04568)と直感的に二人を猟兵だと悟ったクララ・リンドヴァル(白魔女・f17817)。
「僕達も、そしてお二人も猟兵ですか……?」
 いつきが舞扇で口元を隠しながら問えば、月華も相馬も視線を交わさず頷き返す。
 そうして4人共にまだ情報が得られていないと分かり、ならばとそれぞれ別の角度から偵察や、あえて人々の視線を惹く役など、できることに集中して探りを入れていく作戦へと移行していった。
 別れて最初に行動したのはいつきだ。
 陰陽師として長く続く家に生まれたいつきにとって、踊ることは日々の御勤めの一つでもある。
 本来は魂鎮めや厄除けなど、祓いごとを目的とした舞いだ。
 しかして、今日は。 いつきは静かに瞳を伏せ、考える。自身の役目は、人の世の理を守る事。それを乱すオブリビオンを討ち果たす事。
「でも……」
 “この地の理”とは何たるや。
 儀式が続くことか。儀式が続き犠牲が当たり前の日々か。儀式も神も黙認されることか。そして――この緑の下、土地に染む犠牲者から目を逸らすことなのか。
「この期に及んで惑うだなんて……未熟者ですね」
 浮かべた自嘲を飲み込み、息を吐くように体の力を抜いたいつきが舞った。
 りん、しゃん り り、りゃん――。
 ふわり花の如く人目を魅了する舞いは、指先まで洗練されたもの。わあっとあがった歓声と集う視線を肌に感じながら、いつきは願う。
 後悔の無いよう最善へ、皆で辿り着けるように。

 いつきが人目を惹く中、人に紛れた相馬の手が自身の影を掬う。と、現れたのは暁色の瞳の一羽の鴉。
 その鴉は生き物のようで生き物ではない、相馬だけが扱えるユーベルコード
標追いの黒歌鳥(シルベオイノクロウタドリ)だ。
 人目から隠すように木陰を歩きながら、黒歌鳥にそっと唇を近づけた相馬は“村全体を見渡せるような位置を取れ”と指示を出し空へ放つ。
 影に紛れて飛んだ黒歌鳥と感覚を共有しながら、相馬が探り始めたのはこの村を仕切る者の行方であった。
 これほど大規模な儀式の行える一族を仕切る者なら、鈴付きの理由も神を呼ぶ理由も、いやそれ以上に全て知っているはず。
 日没までに捕捉できたならばとしながら、その実、眷属出現の最速捕捉にも気を配っていた。
 ふと、視線を感じる。
 相馬が振り向いた時、いつの間にか影に座っていた老人を目が合った。
 見られていたのか、どう誤魔化すべきかと僅かに焦った時、パッと間に入ったのはクララであった。たっぷりとした白いローブの裾を摘み、静かながら所作正しく老人へ挨拶を。
「はじめまして。あの……私、お祭りは初めてなんです」
 一歩クララが踏み出せば、ちりりと鈴が鳴る。
 すると、老人は片眉を上げながらただ静かに“にえさんかい”と問うた。
「にえさん……?あの、皆さんが楽しそうに歌っておられた歌、とても素敵ですね」
『……さちがみさまのよびうた、だね。にえさん、うたっちまったかい?』
 ふるふるとクララが首を振ると、老人はホッとしたように息を吐く。
 こうして会話を重ねる隙にクララは背の相馬は後ろ手を振り合図をする。“お任せください”と込められた意思を汲んだ相馬は軽い会釈の後、怪しまれないよう広場へ向かう。と、見事な舞いを舞ったいつきは村人や鈴を付けた少女たちに囲まれていた。
 そして視線をずらした先には子供たちに交じる月華の姿。
 着かず離れずの距離で休憩の振りをしながら相馬は黒歌鳥の感覚へ意識を寄せた。
 一方月華はいつきの舞に興奮気味に笑っている少女たちと手を繋ぎながらくるくると回ってはぴょんと飛び、ぴょんと飛んでは繋いだ手を取り替えたり、交差したりとくるくるくる。
 りんと鳴りやまぬ鈴をBGMに姦しいお喋りに巻かれていた。
『すっごい綺麗だったよね、あのにえさん!』
『ねー、ほんとほんと!あれはもう御使い様もツキコさまも来ちゃうんじゃない?』
「ねえ、ツキコさまってどんな風に祀る神さまなの?」
 月華が尋ねると、少女たちはきょとんとして顔を見合わせた後、きゃらきゃらと笑いだす。
『あ、そっか!あなたもにえさんだから知らない系?』
『あー、ねー。えっとー、ツキコさまはマジヤバイ系の神様!ラッキーでハッピーって感じ!』
「ラッキー?ハッピー?」
 よくよく聞いた話を月華なりに繋いで分かったのは、ツキコさまとは老人達が幸神様と呼ぶ存在で村に幸福をもたらす存在なのだという。
 老人達よりも最低2世代は前から続いている儀式で、御使い様がにえさんで祝うと現れる特殊な存在のため、この儀式は“最低2年に一度は開催されている”ことが判明した。
「そうなんだ。言い伝えとか伝説とかって――……」
 あるのかい?そう尋ねようとした月華が唇を結ぶ。
 少女達の向こう側、離れた位置ながらあからさまに強い視線をぶつけてくる青年がいるのだ。微かに感じた危険性に、月華は自然な動作で視線を外しながら。
『あー、それなんか言われた気がするけど覚えてないわー』
『あれねーめっちゃ話長いしヤバいんだよねー』
「……そうなんだ」
 これ以上は踏み込まない。不意に一歩踏み外して転べば、大丈夫!?と少女たちが駆け寄ってくる。
 と、瞑想のような状態だった相馬がバッと空を見た。

 紫苑色の帳が山のてっぺんを飲み込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャト・フランチェスカ
無垢の白など僕に似合わぬだろうけど
彩が映えるのは確からしい

足首には鈴を結い
手首には癒えきらぬ切り傷
自傷の赤、焰を喚ぶための赤

傍に少女が居た
ちいさく震える指先を掬って
密やかに微笑ってみせる
本来は招かれざる客人の僕ら
黙って喰われる気も
喰わせる気もないよ
そうだな
これは悪い夢
内緒にしてね、僕らのこと

一歩、二歩
素足で草を踏む

黒髪のきみ、手を取って
僕にも踊りを教えて
―そちらへ、連れていって
救いがあるならどうか僕に齎して

赤を剥き出しに
見せつけるように舞う
リボンの印じゃ生温い
昏く嗤う
きっと、あの娘に見せた笑みは偽物
僕の本質は破滅と幸福を同一視するような歪み

でもね
作家を無視してピリオドなんて無粋は
赦せないんだよ



 茜の中を舞う人々を、シャト・フランチェスカ(殲絲挽稿・f24181)は静かな瞳で眺める。
 ふわらふわらと舞う花と人。昼間よりほんの少しの肌寒さを伴った山の空気。
 いっそ夢心地なのだろうか――、と思案したところでやめた。
 視線を落とせば、足首に赤いリボンと鈴ちりり。風がふうわり揺らした彼らと同じ白の服。
「僕も、似合わぬものを着たものだね」
 まったく、と掌握ったその腕には一筋二筋の赤が刻まれていた。焔を呼ぶため刻んだ、シャトの傷。それも今は詮無い事と、見ないふりをした時、手を伸ばせば届く距離に茫洋と花の山を見つめる一人の少女がいた。
 この光景とは相対するような、一人の少女。
 手を取った切っ掛けはただ近くにいたから、ただそれだけ。
 ちりん、と鈴が鳴る。
「(おいで)」
『……あ、』
 シャトが唇に人差し指を当て、静かにと合図しながら唇だけで話しかけたシャトと共に少女も輪の中へ。
 甘い花の香纏う白は雨のように止まない中、人を避けながらくるりくるりと軽やかな足取りで踊る様に歩いて見せた。
 ちり、り りんりり しゃん。
「本来、僕は招かれざる客人でね」
 ハッとした少女が逃げ出そうとした時、シャトは素早く少女の手首を握る。きゅっと大した力は込めず、まるで真綿のように。
『あ、あ、あの……』
 どうして、と紡ぎかけた少女の言葉は音になる前にシャトの瞳に飲まれて消えた。見開かれていた桃色の目が、きゅうっと弧を描き。
「黙って喰わせる気も、喰われる気も無くってね……ああ、そうだ」
 微かに震えた少女の手首を。ぎゅっと握り、シャトは笑った。
「黒髪のキミ、これは夢だ」
『夢?』
「そう、―――悪い夢」
 未だ上らぬ月より細く、シャトの瞳は笑んだまま細まって。
 シャト越しに少女は見た。沈む夕日が山間に隠れる直前の、その一瞬、まるでシャトが黒い陽を背負ったような、シャトの瞳だけが鮮やかになったような。

 ひら、と本来この場にない薄桃の花弁が落ちる。
 少女を手放して駆け出し、両手を広げて回って見せたシャトの白い腕には赤の過去が並んでいた。
 息を飲む村民がなんだ。驚愕した老人は無知か。
 この赤い過去よりも、村民も老人も知る地に染む暗き赤の方が、よほど驚愕の事実ではないか!

「こんな作家を無視したピリオドなんて無粋は、赦せないんだよ」

 刻々と夜が迫る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
借りた衣装を纏って踊ろうか
ダンスにゃちょっと自信があるんだぜ、もうちょい世俗的なやつだけど
ひときわ強く「神」とやらにアピールするよう鈴を鳴らす
目立つ事によって顕現したUDCの狙いを他の鈴付きから逸らせるよう

一族たちにゃあんま興味が湧かねえな
連中の浮かねえ貌を見りゃ、犠牲を名誉だと喜ぶほど狂信的なわけじゃねえってのが伝わって来る
なら神とやらがいなくなっても自暴自棄にならず生きてけるだろ
それ以上の手出しは他のお人好しに任せときゃいいってね

――へーぜんとしてる黒髪連中の方は気になるねェ
あいつらは人間か?
『人間じゃなかった』ってパターンの方がまだ怖くねーやな



 りん、りゃん しゃらら りり。
 湾曲して天を刺す角は夕日より鮮やかに、赤いリボンより映える翼と尾で空を切るジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)の踊りのなんと華やかなことか。
 時折、ジャスパーの紫苑の瞳に茜が差せば、ある者には燃えるような炎に。ある者には降り来る夜帳にも見える、人目を惹く宝石のよう。
 細い指先まで神経を張りながら、ジャスパーは足を止めない。
 何故なら、この鈴を鳴らすのには意味がある。
 この音には“神”の心を惹くものがあるのならば――、……鈴付きだからこそ鈴付きらしく、誰より美味い贄のフリが出来るのだ。
「他には目移りさせねえぜ、っと」
 手を伸ばして空を掴み、軽やかに。しゃん、りん、りゃんりゃ。
 視界の端、時折目につく暗い顔の老人達から察すに、この贄の役目というのは名誉でも何でもないのだろう。
 そしてそいつらに近づいたり、気にかけているものが幾人かいる。あのお人好しは猟兵だろうから任せてしまえば問題はない。
 更に言うならば、ジャスパーを見て微笑んだり手を叩いている黒髪の者達はまだいい。問題は、その向こう。平然と値踏みするように鈴付きを見ている幾人かだ。
「――あいつらは人間か?」
 自問自答も、答えは出ず。
 あああれが人でなかったならば。
「……まあ、ってパターンの方がまだ怖くねーやな」

 数多の想定をしながら、ジャスパーは来る夜を待つ。
 茜の光途絶えた空を見上げながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鎹・たから
衣装を借りて踊りに参加

ずっと、恐ろしい神様を祀っていたのですね
犠牲を強いる神様に
これ以上、誰の血も涙も渡しません

老人でも、少女でも
かけがえのないいのちです

たからは運動は得意ですが、ダンスは苦手かもしれません
場に溶け込めるようにがんばります
…難しいです(ぽてぽて
【宴会

鈴を鳴らしステップを踏んで
少女の一人に近付けたなら囁いて

あなた達の神様は、やさしいですか?
怖くはありませんか?

もしも怖いのなら【手をつないで
無表情では、たからの想いが伝わらないかもしれないけれど

大丈夫
たからはあなたをすくい、守ってみせます
約束をしましょう
【優しさ、心配り

教えてください、神様のことを
どんなことでも構いません
【情報収集



 白いワンピースの裾が風になびいた時、鎹・たから(雪氣硝・f01148)は思う。
 この夕日差す郷愁に満ちたこの地はいくつの涙に濡れいくばくの血が流れたのか。そうしてそれを――……。
「ずっと、恐ろしい神様を祀っていたのですね」
 強いる“神”がいる。

 とんと踏み出した細い足が軽やかに地を蹴って。
 時折顔にかかる夕日の眩しさに目を細めながら周囲を観察していたたからの目に一人の少女が止まる。
 黒髪の、古い巾着を握りしめた一人の少女。
 りん、りゃん  しゃん。
 小柄なたからとほぼ同じ目線で目が合った。
「あなた達の神様は、やさしいですか?」
『え?』
「怖くはありませんか?」
『えっと……っ、あなたにえの』
 初めて見る者には分かりづらいたからの表情は真剣そのものだった。氷より暖かなシルバーの瞳をまたたかせて、もう一度。
「怖くは、ありませんか?」
『……やさしくないわ』
 ぎり、と音がするほど巾着を握りしめた少女が歯を噛んだのち、ぽつりと話し出したのは少女の祖母のこと。
 一つ前の儀式で“贄”になった、祖母のこと。助けられなかった、祖母のこと。
 たからはじっと耳を澄ませて聞きながら時折頷き、気づけば手を繋いでいた。それでも少女は最後まで怖いと口にすることは、無かったけれど。
「大丈夫。たからはあなたをすくい、守ってみせます」
 淡々とした声色ながら、真っ直ぐな言葉だった。
 惹かれた少女が顔を上げれば、名残の夕日に照らされたたからが誰より輝いて見えて。
「約束をしましょう」
『……気を付けてね』

 少女は言った。ツキコさまの見た目は少女で、御使い様は羽の生えた人形だと。
 御使い様は夜と共にやってきて、贄を狙ってくるのだと。

 “怪我しちゃだめよ”。
 そう言った少女に、たからは頷いた。
「大丈夫、約束です」

 空に濃藍色が落ちる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

皐月・灯

ユア(f00261)と


何を信じるかは自由だが……結局食いもんにされちまってるんだよな。
救いのねー話だよ。

そうか? ……そういや、見せたことあんまねーな。
白衣で着慣れてるから、自分じゃ違和感ねーんだ。
お前はどう思う? ……そうか。なら、いい。

しかし、この鈴だけは落ち着かねーな……首輪付けられてるみてーだ。
実際そういう向きもある、か。
まあ、それなら精々鳴らしてやるぜ。
お前に合わせんのは得意だって、知ってるだろ?

できねーことは言わねーんだよ、オレは。
まあ、こっからが本番だからな。
まだ足りねーなら、帰ってからいくらでも付き合ってやるから。
……バーカ。こんな場所で、お前を置いてどっか行くかよ。


ユア・アラマート

灯(f00069)と


閉じた土地だな。今まで、一体何人が犠牲になったのか
せめてこれ以上犠牲が出ないよう、ひと働きするとしようか

しかし、あれだな。こんな時に呑気な事を言うが…
灯が白を着ているのなんて、滅多に見ないからなんだか新鮮だ
ああ、よく似合ってるよ。さすが私のつがいだなと思ってる
惚れ直したよ

さて、私達は餌役だ。精々喰いつきが良いように舞ってみせよう
とりあえずは歌に合わせておけば、そう違和感はないだろう
案外こういうのは得意だぞ、私は
ほら、お前も

お前の舞も綺麗だな
けど、あんまり熱中しすぎても良くないか
確かに、私もお前に踊らされる方がずっと愉しいよ
あと、あんまり私から離れないでほしい
寂しいからな?



 信心に貴賤は無い。
 だが、この閉じた地で行うにはあまりにも――。
「今まで、一体何人が犠牲になったのか」
「……結局食いもんにされちまってるんだよな」
 冷静に呟いたユア・アラマート(フロラシオン・f00261)は目を細め、溜息とともに後頭部を掻きながら皐月・灯(追憶のヴァナルガンド・f00069)は呟いた。
 そう、ユアの指摘通り儀式規模から鑑みるに相応の強力なUDCの為のものであることは想像に難くない。また灯が察したように村人は非常に“儀式慣れ”しているのだ。
 世代を超えて慣れるほど儀式を繰り返している、ということはかなり以前から嵌まり込んでいたのだろう。
「救いのねー話だよ」
 冷たい山の風が二人の頬を撫でた。
 その時ふと、夕日に照らされた灯の白い儀式装束をユアがまじまじと見つめながら。
「いや、しかしあれだな。こんな時に呑気な事を言うが……灯が白を着ているのなんて、滅多に見ないからなんだか新鮮だ」
 いいものを見た、とユエがペリドットグリーンの瞳に喜色滲ませれば、つられて灯の口角も上がる。先程まで引き結んでいた口元を緩ませ、照れくさそうに。
「そうか? ……そういや、見せたことあんまねーな」
 白衣で慣れてて違和感ねーんだ、と灯が自身の装束を摘むと、ユアが少し背伸びして灯に耳打ちした。
「ああ、よく似合ってるよ」
「……そうか。なら、いい」
 一瞬目を見開いた灯の口から出たのは淡々とした言葉だったけれど、夕日差し込む中ほんのり灯の耳に集った照れた熱は、つがいのユアだけが知っていれば十分。
 本当は愛しいつがいにもっと触れたいけれど――……刻々と日没が迫っている。ユアが踏み出せば、りゃんと耳擽った鈴の音。りん、ちりんとうたうそれそのままに、ユアは灯の手を引いた。
「さて、私達は餌役だ。精々喰いつきが良いように舞ってみせよう」
「まあ精々鳴らしてやるとするか」
 足首の鈴は何かの為の目印だろう。
 なら、その“首輪”ごと“楽しい”とでも笑ってやろうか。
 ユアに一歩目から合わせる灯の動きに迷いはない。初めからユアがそこで足を伸ばすことも、手を広げることも知っていたかのように灯が合わせる一糸乱れぬ舞いの美しいこと。
 日が、山間に消えてゆく。
 夕日が消える瞬きほどの時間こそ、夜よりなお暗いことだろう。
「あんまり熱中しすぎても良くないから、あんまり私から離れないでほしいっ、」
 寂しいから、と口にする前にユアは灯の腕の中。
 足縺れたまま見上げれば、くっと喉鳴らした悪戯な笑みの灯が居て。
「……バーカ。こんな場所で、お前を置いてどっか行くかよ」
 こっからが本番だからなあと灯が見上げた夜の入り口に何かが蠢いたのは、気のせいではない。

 夜が、来る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リヒト・レーゼル
衣装を借りて、参加をする、よ。
儀式に、まぎれこんで、様子をみる。
鈴の音がたくさん、ある。

鈴の、音は好き。
好き。だけど、不気味だ…。
うたえうたえ?
はなびら……。キレイだね。
儀式の中じゃなかったら、もっと、たのしめたのに。

まわりのひとの、真似をしてみる。
真似を、していたら、怪しまれない気がする。
ダークセイヴァーで、色んな儀式を、みたけど。
UDCの儀式は、みんなが一緒になっている。
俺には、何が出来る、かな。

!!
変な、気配が、強くなってる。
眷属が、現れるのかな。
みんなの、真似をして、話しかける。
戸惑う子に、話しかける、ね。
何が来るの?怖くない?


ユルグ・オルド
◎真似っこの衣装に
踏むステップは気性よりはゆっくりと
鳴る音を邪魔しねえように
輪を乱したりはしないように

ちょっと笑っちゃうのは
儀式に酔ったからでなくって
ちょっとした好奇心からかなァ
何が出てくるかなンて気になるでショ?
カミサマとやらがどんなものだかはさ
そっと収めて潜めてすまし顔、

ねェ、カミサマに何を願うの?
捧げものをしてまで。
尋ねる答えには、そんなもんかしらと頷くだけだケド
何に変えたって良いものかい
その盲信があるならば、……ちょいと滲むのは羨望かなあ



 りん しゃん――り、り、りゃん。
 夕闇の訪れた山間部に鈴の音が木霊する。
 深呼吸すれば、甘い花の香に交じって微かに草木の青い匂いがリヒト・レーゼル(まちあかり・f01903)の鼻を擽った。
 りゃん、しゃん、しゃんしゃ。
「(鈴の、音は好き。 好き。だけど、不気味だ…)」
 ただ一側面だけを見れば華やかな祭りの様相のこの儀式。しかし、リヒトがぐるりと首を巡らせれば目についたのは無数の人々の笑顔――と、ぽつりぽつりと所々に目立つ暗い顔の老人達だ。酷く両極端なその構図が、歪でならない。
 ふんわりと飛んできた花弁がリヒトの手に落ちる。真っ白で小さな花は、酷く可憐であった。
「(儀式の中じゃなかったら、もっと、たのしめたのに)」
 残念な気持ちを、懐に花弁と共にしまい込み、広場へと踏み出していく。見ているだけで分からないことを得るために、まずは周りの真似事から。
 リヒトが軽やかに踊りの輪へ交じる。

 一方、先に踊りの輪に混ざっていたユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)のステップは優雅なものであった。
 一挙手一投足を丁寧に、りんとなる鈴の余韻も鮮やかに。
 そして向けられた笑顔にも丁寧に対応している――かに見えた。が、その実踊り始めてからずっと燻っていた好奇心が抑えられず自然とユルグの口角は上げていたのだ。
「んふふ、何が出てくるかなンて気になるでショ?」
 笑み隠せなかったユルグのささやかな独り言は届かないままでいい。
 と、くるりとすれ違いざま避けたリヒトとばっちりと目が合ったことに驚いたものの感覚的に互いが猟兵なのだと何となく気づけたのは、ユルグ達にとっての幸運だろう。
 ある程度踊ったところで、ユルグは近くで熱心に祈る黒髪の少女にさり気なく声を掛けた。
「ねェ、カミサマに何を願うの?」
『え?……お兄さん、にえさんなんだ』
 近づいた時、ちりりと鳴ったユルグの鈴に過敏に反応した少女が眉を寄せた。何かしているのかと思いつつ、儀式事態を知らない風体でユルグは笑ってみせる。
「んふふ、そうだねェ。捧げられる方ってやつだね」
『あー……あの、あー、いややっぱいいごめん。アタシ知らないんで。 お兄さんイケメンだから教えてあげる。早く帰った方がいいよマジで』
 じゃあね、と駆けだした少女の背を、ユルグは追えなかった。
 あの言い淀み方も“帰った方がいい”という言葉も、微妙なラインでしかない。分かるのは、あの少女は儀式の危険性を知っているということだけ。
「まァ、逃げるわけにはいかないンだけどね」
 鈴の無い少女が人込みに紛れた時丁度、夕日が沈み切った。
 ぶわりと背筋が泡立ったユルグは咄嗟にリヒトを見ると同時、リヒトはかがり火の聖痕に身を包んだ瞬間であった。
 立ち昇る炎のようでいてほの暖かさが見て取れるそれはユーベルコード。
 かがり火に身を包んだリヒトは泣きじゃくる鈴を付けた少女をの背を撫で宥めながら、隣で顔を引き攣らせた黒髪の少女を静かに問いただしていた。
「何が来るの?怖くない?」
『ひっ……お、お、“御使い様”が!』
 りゃん、と鈴が鳴る。
 鷹の如き鍵爪が、かがり火と鈴の音に迫っていた。

 夜が来た。
 ああきっと、今宵も幸福の禍がやってくる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『強欲の傀儡『烏人形』』

POW   :    欲しがることの、何が悪いの?
対象への質問と共に、【自身の黒い翼】から【強欲なカラス】を召喚する。満足な答えを得るまで、強欲なカラスは対象を【貪欲な嘴】で攻撃する。
SPD   :    足りないわ。
戦闘中に食べた【自分が奪ったもの】の量と質に応じて【足りない、もっと欲しいという狂気が増し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    あなたも我慢しなくていいのに。
【欲望を肯定し、暴走させる呪詛】を籠めた【鋭い鉤爪】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【欲望を抑え込む理性】のみを攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●帳を引くもの来たれり

『“御使い様”……!』
『“御使い様”よ!』
 わっと小さな歓声が上がる。
 だがどうしてか、黒髪の一族は興奮した様子ながらも必死に声を潜めていた。
 くすくす。ふふふ。
 身を寄せ合いこそこそとしながら、“贄”と呼ぶ彼らを指差して笑いあう様は異様に他ならない。
 ばさりと、いつのまにかいくつもの黒が夜を支配していた。
 一見柔らかそうな白の髪に艶やかな銀の肢体。身の丈程もあろうかという黒の翼が、羽ばたく。ぎらりと凶悪な紅爪携えた三趾足を膝を曲げ縮めた――、瞬間。

「来るぞっ!!」
 叫んだのは誰だったか。

 じ、リリリ しゃらん、じゃらんッ、   りん! りん、り。
 りん りゃん! しゃっん! しゃッんしゃ。 り!

 よいへ、よいへ。
『――わぁあっ』
 こよいのつきさま まいられる。
 われらのうたを ききたまへ。
『きゃーっ』
『こねいでぇ!』
 われらのうたを ききたまへ。

 しゃ らん!じゃらん、がりゃん!   りん!り りん! り。
 じゃらじゃ ゃん、りん! しゃら じゃん!

 われらのうたよ にえのいのちよ。
 われらがかみへ とどきたまへ。
春乃・結希

わ、ほんとに来ました。みんなの願いが通じたんですねぇ。よかったよかった
UCでwithを呼び、牽制するように空を一回りさせてから手元に
お待たせwith、出番だよ

踊りを教えてくれたこの子も、黒髪の一族なのな
どんな気持ちで、どんな顔をしてるんだろう
大事なお祭りを壊してしまうことを恨むだろうか
そうやったら…ちょっと悲しい、かな
だから顔を見ないように、空の鳥を見上げて
ありがとう、あなたと話せて楽しかったです
それから…ごめんなさい
今日の御使いは、失敗します

爪をwithで受け【武器受け】、wandererで蹴り上げる
空へと逃げてもwithを向かわせる

私のものは私のもの
あなたにもツキコ様にも、何もあげないよ



 夜を支配するように黒翼の人形が飛んでいる。
 曲げた膝にぎゅうっと足指を丸めた突撃姿勢が一羽、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)の鈴の音を標的にしているようだ。
 上空のあからさまな敵意に結希は目を細めて、声だけで笑っていた。
「わ、ほんとに来ました。みんなの願いが通じたんですねぇ」
 淡々とした様子でよかったと口にしながら、翳した掌を結んで開いて、呼び出すのは“いとしいひと”。
「“心はいつも、貴方と共に”」
 夕陽が沈む前の衣装を着替えた際、結希がゲルの入り口に置いたwith魔力を纏って滑空。ふいと結希が上空を指さし円を描けば、意に添うように空中に纏まる強欲の傀儡『烏人形』を牽制し、当たり前のように結希の手中へ収まった。
 何となく、未だ上空を見ているであろう横の黒髪の少女の気配が揺らぐ。
 ああきっと――いや、分からない。でも……あからさまにこの儀式に敵対しようとしている結希を、あの少女がどう思うのかなんて、分かり切ったことではないか。
 恨むだろうか。悲しむだろうか。
 ただ袖擦りあいも他生の縁程度の出会いだけれど、何故かさみしい。
 今までの旅路で寂しさなんて沢山あったのに、やっぱり胸が苦しいから振り返らないまま、結希がwithを構えた時。
『ま、待って!危ないよ! ねぇ、ねえあなた鈴が……鈴が付いてるんだから!』
 ぎゅっと黒髪の少女が結希の袖を引く。
 危ないといった声は、怯え交じりに震えていて。
「……大丈夫。私、あなたと話せて楽しかったです」
『ねえ待ってよ!だめよ!動いちゃダメ、だめったら!』
 強く強く、結希の裾を少女は引く。
 震えた声を精一杯潜めて、でも精一杯の心配と勇気を持って。
 結希が振り返った時、ちらちらと上空見ていた少女は目を見開いて悲鳴を上げた。でも決して結希の裾を離さず、一緒に逃げようというのだ。
「ありがとう、でも――」
 痺れを切らしたように飛来した鳥人形の爪をwithで受け止め、結希は困ったように少女へ微笑む。
「ごめんなさい。今日の御使いは、失敗します」
『――え』
 結希は最後まで少女の顔を見ないまま。
 ただ、もしこの儀式が無くなったとてきっと、あの少女があの優しさを持つ限り大丈夫だろうと結希は不思議と安心した。
 だから、もうやることは一つだけ。

 爪弾いて押し返したことでバランス崩した鳥人形をwandererで足場に、蒸気魔導の血からで飛び出す。
 飛び出様、足場にした鳥人形の首を斬り落として狙うは上空で構えた次の人形。
「私のものは私のもの」
 逃れるように放たれた鴉の嘴を掻い潜り、足場にしてwithを振り上げる。

「あなたにもツキコ様にも、何もあげないよ」

 結希によるwithの重量任せの叩き切りが、鳥人形をぐしゃりと撃ち落とす。
 二体の御使いが動かぬ人形へとなり果てた。

 ――まだ夜は終わらない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

皐月・灯


ユア(f00261)と

……お出ましか。ったく、もう少しゆっくり来てもいいのにな。
まあいい、わざわざ出迎えてやったんだ。
もてなしてやろうぜ、くたばるまでな!

どんなに危険な呪詛でも、ヤツらのそれは鉤爪を当てることがキーになってる。
……オレの術式と同じで、接触しなきゃ意味がねーってわけだ。

オレは鉤爪の一撃を【見切】って回避しつつ、ユアの攻撃の時間を稼ぐ。
大した苦労じゃねー。オレの女は、絶対に最高のタイミングに合わせてくれる。
だから世界一の女なんだ、あいつは。

――アザレア・プロトコル、幻想開帳。

【全力魔法】の【属性攻撃】だ。
渾身の《轟ク雷眼》を叩き込む。
とっておきの供物だぜ。轟雷の檻で灼け落ちな!


ユア・アラマート

灯(f00069)と

せっかく楽しんでいたところなのにな?ふふ、まあいい
さあ、お前らのために私達が用意した最高の夜だ
綺麗に舞い散ってみせろよ?

確かに、面倒な攻撃だが当たりさえしなければどうとでもなる
そうでなくても、私が欲望を抑え込んでるように見えるなら節穴だ
【第六感】と【見切り】で敵の攻撃を避けながら、刹無の風杭を地面や敵本体にぶつけ。少しずつ一箇所へ固まるように囲い込む
周りの一般人に攻撃が飛んでもまずいしな

準備が整えば、後は頼もしい男が控えているからな
撃ち漏らしが出ないように、灯の攻撃が決まるまで外に敵を逃さないように気をつける
灯、後は任せたぞ

ほら、どうだ?
私の「欲望」は、カッコいいだろう?



 夕の余韻も失せた夜に、強欲の傀儡『烏人形』が飛んでいる。
 黒い羽根を見せびらかせ夜の様な顔で羽搏く様に、皐月・灯(追憶のヴァナルガンド・f00069)は残念そうな溜息を。ユア・アラマート(フロラシオン・f00261)はそんな灯の様子に小さく声を漏らして笑っていた。
「せっかく楽しんでいたところなのにな?」
「ったく、もう少しゆっくり来てもいいのにな」
 しゃん りん と二人が動くたびに鈴が歌えば、“御使い様”の首がぐるりと灯とユアを見た。
 包帯が巻かれていて本当の顔は伺えない。だがもう気配だけで十分なほど、鳥人形の殺意が二人に突き刺さる。
「……まあいい、わざわざ出迎えてやったんだ。もてなしてやろうぜ」
「ああ、お前らのために私達が用意した最高の夜だ。綺麗に舞い散ってみせろよ?」
 意地が悪いほど綺麗に瞳細めた灯と、同じようにユアのペリドットグリーンの瞳が弧を描く。
 先に駆けだしたのはユアだ。
 突撃する鳥人形の鋭い蹴りを咲姫の名持つダガーで弾き上げて避け、振り上げた刃を鳥人形の腹へ。
 どすん、と堅い殻を抜け綿を刺すような、何とも言えぬ歪な感覚がユアの指先に残るも、今は後。藻掻く鳥人形に刺したナイフを軸代わりに、ユアが近い鳥人形を蹴り飛ばす。
 怒ったように鳥人形が殺到すると同時にナイフを抜いて転がり避ければ、鳥人形が掴めたのは傷ついた仲間だけ。
 再び鳥人形が上空で体制立て直そうとした時だった。
「荒れ狂え古の風。残るものは何も無し」
 ユアの言葉に合わせて風が殺到する。逆巻き荒れ狂う風が、杭の如く三体の御使いを捕らえた瞬間、空気が震える。
 ちりちりと灯達の鈴が震えるほど空気揺らすそれは不可視の電子精霊プログラム―エレクトロ・ナビ・カリキュレータ―。杖などいらず、扱うには指先だけで十分。
「オレの女は、絶対に最高のタイミングに合わせてくれる」
 齢からは測れぬ態度で灯は笑っていた。

 ――アザレア・プロトコル 起動    ―承認。
 ――プログラム オールグリーン。
 ――使用者:皐月・灯のナンバーを確認 ―承認。

 風が逆巻き鳥人形が藻掻けども戒めは解けないまま、肌撫でチリチリ爆ぜる感覚が徐々に強まっていく。
「灯、後は任せたぞ」
「とーぜん。――アザレア・プロトコル、幻想開帳」
 すれ違い様、ユアの瞳に映った灯は“いつもの君”だった。
 灯が、中央に戒められた鳥人形を殴りつけた、直後。

「アザレア・プロトコル3番――《轟ク雷眼》!!」
 音も闇も全て全てが爆ぜた。
 光に喰われ、搔き消され、圧倒するような轟音。
 全力で撃ちだす灯の雷属性の術式が影すら残さず三体の“御使い様”を消し飛ばした。

 ――夜は踊り続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
匡/f01612と

ようやくお出ましかよ
防衛戦は私の得意だ
まして匡がいるなら、負ける気しねえな!

ミセス、私の後ろへ
離れるよりは近くにいてもらった方が守りやすい
少々恐ろしい思いをさせてしまうのは忍びないが……
奴らの動きを止めるまで、私に掴まっていると良い

天罰招来、【奸計の霜王】
千と五十本の剣で鳥人形どもを包囲する
少しでも動いてみると良い
自慢の翼も爪も、役に立たない氷に早変わりだ
遠くの連中は私が足止めするから――近場のは、匡、お前に任せる
もう大丈夫。ミセス、なるべく遠くへ走っておくれ
送ってやりたいがそれも叶わん
無理はせずにな

イケニエが必要な神様なんて碌なもんじゃないけど
どんなもんが出て来るやら、だな


鳴宮・匡

ニル(f01811)と

猟兵連中はそれぞれうまくやるだろうけど
他のやつらはそうもいかないしな
……ああ、お前と一緒ならやれるよ

このくらいの広さなら、俺の眼と耳で余さず捉え切れる
周囲に出現した敵の位置と数をしっかり把握しておくよ
……心配しなくていいよ、婆さん
ちゃんと守るから、さ

一般人たちに近い相手から順に狙撃していく
まず羽を削いでから頭を狙うよ
動き回られると面倒だし、被害を出したくもないからな
ニルが動きを止めてくれている敵からも意識は外さず
おかしな素振りがあればすぐに排除できるよう備えておくよ
合理を考えても、それ以外の理由でも
犠牲はないほうがいい

……何が出てきたって関係ないさ
敵なら殺す、それだけだ



 今宵は星遠く月眠る日。
 過ぎ去った夕日を惜しむ間もなく、笑う夜がニルズヘッグ・ニヴルヘイム(伐竜・f01811)と鳴宮・匡(凪の海・f01612)に値踏みをするような不躾な視線を浴びせてくる。
 りん、りゃんと二人の鈴が微かに鳴く度に反応している強欲の傀儡『烏人形』の姿に、ニルズヘッグは体を伸ばした。
「ようやくお出ましかよ」
「まあ、猟兵連中はそれぞれうまくやるだろうけど――」
 すいと周囲に視線を滑らせた匡が気掛かりなのは“他の人間”だ。
 この儀式で“鈴付き”やら“にえさん”などと呼ばれた老人と亜麻色の髪の少女達は勿論、黒髪の一族でさえ所詮はただの人。
 しかし、匡の心配は杞憂に終わる。同じ猟兵達はそれぞれ己の役割を察し、動き出していたのだから。
 少し離れたところで空を駆けた少女に、視界外で降った目を焼くほどの轟雷。
「なあ匡、防衛戦は私の得意なんだが」
「……ああ、お前と一緒ならやれるよ」
 匡の隣には楽し気に空を笑うニーズヘッグがいた。
 ならば答えは一つだけ。やれることを、今すぐに。

 心配しなくていいから、と匡が老婆に笑いかければ、逡巡したものの老婆は納得したように身を屈めたが、未だ震えている。
「ミセス、私の後ろへ……なに、大丈夫だ。怖いものなど直失せる」
 ニーズヘッグが穏やかな笑顔をしたのは、これで最後。
 いつのまにか上空から囲むように鳥人形達が二人――否、鈴の付いた三人を見下ろしていた。
 弱いものから食おうとでも言うように、老婆目掛け鳥人形達が縮めた足で飛び掛かろうとした――その時。
 息白むほどの冷気が上空を占めた。
 魔王然と笑ったニルズヘッグは鳥人形へと告げる。
「ここまでだ――……動けるならばして見せろ。まあ、“アレ”と同じになるだけだが」
『―――ッ!!』
 ニルズヘッグの言葉と同時に、凍てついた鳥人形一体が落下して砕け散った。
 呼吸さえ許さぬ速さで展開されたニルズヘッグのUC―奸計の霜王 ウトガルデロック―は容赦なく鳥人形を追い立て、逃れようと動く鳥人形を次々と撃ち落とすではないか。
 一歩も動かぬまま術織成したのはニルズヘッグが持つ魔導機械式懐中時計 Bashirだ。微かに蒸気を吐き出すそれが高速化したのは詠唱速度だったのだ。
 同時、聞き耳を立てニルズヘッグと老婆、そして自分の周囲把握に努めながら引き金引き続けていた匡の腕も恐ろしく正確であった。
「逃がさないよ、悪いけど」
 “いつもの匡”のまま淡々と迷いなく、狩る。
 上空でニルズヘッグの氷から逃れる勢いのまま突撃する間抜けにはBR-646C [Resonance]で時に翼を、運が悪ければヘッドショットで地獄行き。
 幸運にも低空飛行で知恵絞った人形には至近距離からの報酬としてBHG-738C [Stranger]の鉛玉を。
 匡のUC―彼方の光 グリムリーパーズ・サイト―は鷹の目の如く鳥人形を逃がさない。

 砕け散った“御使い様”は二体。撃ち落とされたものもまた二体。
 這う這うの体のもの、合わせて三体。

 ――踊る踊る、夜は続く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
黒髪連中が邪神の眷属で他の奴らをいいように誘導してるってセンも考えたんだがハズレかぁ
盲目的に信じられるモンがあるってのはまあ、ご立派なこって

瞬く眸がナイフを強化する
寿命の代わりに己の腕を削ったら残り全てで傀儡を刻んでやろう
「足りない」ならこいつでも食うかい?
血滴り肉見える腕をちらつかせ
餌に群がる鳥たちはオウガの燃える炎で焼き尽くす
ちょっとくらいなら本当にあげたってイイんだぜ
俺痛いのだぁいすきだし?

あんたらの信じるものが壊れていく様を
よーくその目に刻んでおけよ
カミサマなんざいなくたってお天道様は登るんだ
髪掻きあげる手には十字の聖痕
――はん、神の奇跡なんざ信じちゃいねえよ



「あーあ、あっちはハズレかぁ」
 幾度も鈴を揺らし続けたジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)の上空には、夜擬きの様な強欲の傀儡『烏人形』が蠢いていた。
「あいつらが眷属だったら、楽だったのになぁ」
 “あいつら”とジャスパーが差したのは黒髪の一族だ。
 先程まで踊るジャスパーを見てにこにこしていたというのに、“御使い様”の現れた今、見ているのはそちらだけ。
 現金なものだと肩を竦めながら、ジャスパーは周囲を見た。
「盲目的に信じられるモンがあるってのはまあ、ご立派なこって」
 空を見上げ喜ぶ黒髪の一族と、怯えた様子の“鈴付き”達。
 この落差に胸やけがする――なんて気持ちは腹の奥へと押し込んで、するりと取り出したのはバタフライナイフ。
 ひたりと当てて、引く。
「足りないなら、こいつでも食うかい?」
 白い肌をひたひたと赤が伝った瞬間、空の首がいくつもジャスパーを見るや、殺到する。
『きゃー!』
『ひ、ひぃ!』
 あっという間にジャスパーは鳥人形に群がられ誰もが怯えた――次の瞬間、火が立ち昇る。
 ごうごうと空気を焼き、芝を焼き、鳥人形を焼く。燃えて燃えて燃えて、と、一体の鳥人形が悲鳴を上げて飛び出した。
 喉が焼けたのか、悲鳴にも音にもならない声を上げながら芝の上をのた打ち回っていたそれに、同じく炎の中から飛び出した影―ジャスパー―が馬乗りになる。
 捩る頭を押さえつけ、藻掻く翼を踏みつけに。
「おい」
『ひっ』
 抜き身のナイフを振り上げたジャスパーが、“御使い様”に刺すか――となる直前、眼前で腰を抜かして震える黒髪の男を顎で指した。
「あんた……いやそっちのおっさん、あんたらも、よーくその目に刻んでおけよ」
 信じるものが壊れていく様を!
 強く強く叩きつけるような言葉と共に、瞳瞬く刹那ジャスパーのUC―九死殺戮刃―が発動する。
 
 悲鳴も上がらず、ただ人々が飲んだのは己の息だけ。
「ハハ……――神の奇跡なんざ、信じちゃいねえよ」
 乱れた髪をかき上げるジャスパーの手に、痛々しいほど深い十字傷。
 人はそれを聖痕と呼ぶだろう。だが今は夜に紛れた痛々しい古傷の顔で、ジャスパーの手にあるだけであった。

 炎に焼かれた“御使い様”は二体。斬り潰したのが、一体。
 ――夜が深まっていく。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

雨宮・いつき

この地に住まう全ての人達が、贄を捧げる事を心から良しとしているわけではない
もはや迷うつもりはありませんでしたが、その事が改めて分かって、少し安心しました
…犠牲となった人達の為にも、犠牲に心痛める人達の為にも
いざ、参りましょう

鈴をつけていたのは僕達猟兵だけではありませんでした
まずは彼女らを敵の狙いから逸らすのが先決
彼岸花の花びらによる【範囲攻撃】を敵に浴びせ、【誘惑】する事でこちらへ【おびき寄せ】ましょう

さあさ、どうぞ僕を狙って
と言っても、先の術で誘惑と共に幻惑も浴びた貴方達では、それも叶わないでしょうけど
同士討ちをさせつつ、雷撃符と浮かべた陰陽宝珠から雷の【属性攻撃】を放って仕留めていきます


レン・デイドリーム


さっきの素敵な踊りより、こんな狂乱の方が見慣れてるんだよなぁ
そんなことを思いつつまずは生贄達を逃がそう
『誘霊灯』を掲げつつ彼らを庇い、柔らかな光を見て落ち着いてもらおう
逃げるルートならさっき調べておいたよ
落ち着いて
君達は僕らが守る
……あとで記憶処理はさせてもらうけど

そのためにも鳥達には退散してもらわないとね
彼女達は僕にも喰らいつこうとするかな
人形だから食べても美味しくないと思うけど
それに、捕食者は君達だけじゃない

接近してきた人形達に腕を突き出し、そこから憑依させた狼霊の頭を飛び出させよう
生贄達を食べていない鳥ならそんなに強くないだろう
弱い者は喰われる
君達が好きそうな話だろう?
さあ、喰らいつけ


都槻・綾


贄となりし人々の守護優先
背に庇い
薄紗の如き柔らなオーラを広げ
自他共に防御

身を捧げぬを畏れることはありません
ひとは生きてこそ
幸いを知るものでしょう?

理不尽に奪われようとしているいのちを
どうか諦めてしまわないで、との
励ましの笑みは穏やかに

黒翼に向けて踏み出す一歩は
踊るみたいに優美

可能な限りの広範囲へ響かせる為
朗と詠いあげる花筐
巻き起こすのは真白の花嵐

清浄な白花の幻が
人々の視界を覆い
嵐に刻まれる烏らの残骸を
無惨に記憶に残さぬための
目隠しとなれば良い

鴉の骸達は彼方の海まで
花筏に乗せて運んで差し上げる

やがて嵐は凪ぎ
地を渡る静かな風に
澱んだ闇の帳は祓われて
ひらり舞う一枚の黒羽根さえ
ただ夜の大気にとけ入る



 ここにいる黒髪の一族全てがこの儀式を受け入れているわけではなく、儀式を恐れる者もいれば、嫌う者もいる。
 そしてささやかながら贄をかわいそうだと心傾ける者も、いるのだ。
 だからこそ、雨宮・いつき(憶の守り人・f04568)は諦めない。
「いざ、参りましょう」
 りん しゃん、りゃんり――鈴を鳴らす。
 音も無く開いた九尾扇―静黙な蒼扇―を翻した瞬間、それは軽やかな紅い花 彼岸花へと姿を変える。
 いつきのUC―木行・抱心艶狐 ヴィクセン・テンプテーション―が花開いた瞬間、上空で蠢いていた強欲の傀儡『烏人形』が殺到した。
 彼岸花に羽を切られようと身を切られようと怯むことなく鳥人形は熱に浮かされたようにいつきへ集う。その様子を好機とし、都槻・綾(絲遊・f01786)は素早い詠唱で贄の役を背負った一般人へ守護のオーラを施せば、一つ保険が掛けられる。
『こ、これは……』
『なんか、暖かいね』
「それは私からのお守りのようなもの……身を捧げぬことを、畏れることはありません」
 綾の施した守護の術式に戸惑った人々が、弾かれたように綾と自身を見て幾人かが泣き出した。
 彼らにとって、上空から迫る“アレ”はただの凶器であり恐ろしいものに過ぎない。つい先程まで、死ぬのだと――否、死なねばならないのだとばかり思っていたのに。
「ひとは生きてこそ、幸いを知るものでしょう?」
 眼前の青年はまるで他人事のように言うけれど、そうなのだ。
 生きてこそ、良いことも悪いこともあるのが、生。いきたい、そう力強く贄たちが願った時だ――いつきの誘惑から漏れた鳥人形が一羽、高速で飛来する。
 ハッと気付いた綾が手を伸ばした時、一歩早く妖しげな燈火を揺らす者が鳥人形も贄も綾をも出迎えた。
「逃げるルートならさっき調べておいたよ」
 銀の亡霊ラムプ―誘霊灯―を揺らしているのはレン・デイドリーム(白昼夢の影法師・f13030)と常に共にあるUDCシュエの白い触手で、当のレンはひらりと空いた左手を振っていた。
 UC―憑依人形・狼 タンキードール・モードウルフ―で狼に変えた右手で、鳥人形を食みながら。
「ん?……ああ、大丈夫。この子、お腹空いてるんだって」
 軽やかに微笑みながら、レンの右手の狼は鳥人形を一匹食い潰す。
 それからレンの示したルートを綾が辿り、誘導できた範囲の最後の人を小さな祈りと共に送り出す。
「どうか、いのちを諦めてしまわないで」
 どうかどうかと願いながら、綾も急いで踵を返した。
 聞こえる稲光と見えた炎に猟兵の存在を感じながら、未だ誘導しきれない人々を鳥人形から守るために。

 枯れぬ彼岸花で夜の一部を占有しながら、尚艶やかな花を咲かせたいつきが細い手を翳して鳥人形を誘き出す。
「狐の沙汰も艶次第。その心、抱いて蕩かして差し上げます」
「捕食者は君達だけじゃない」
 と、誘惑に負け地上へ降りかけた鳥人形を、レンの降ろした狼の霊が躊躇いなく引き千切っていた。
 無数に飛ぶ鳥人形を引きつけながら食らう鮮やかな連携も、たった二人では限度がある。誘惑の網から漏れ出た一羽の鳥人形が、逃げた“鈴付き”の一人を追いかけた時だ。
『きゃー!』
「鴉の骸達は彼方の海まで、花筏に乗せて運んで差し上げる……ああ、いつか見た――未だ見ぬ花景の柩に眠れ、」
 悲鳴の主をふうわりと後ろから包んだのは、柔らかな綾の声。
 舞ったのは光の無くも時折走る稲妻や踊る炎に照らされ夜を泳ぐ、白い山梔子の花嵐だ。
 儀式の花より柔らかく仄かな甘さは怯えた鈴付きの気持ちを和らげるには十分。とんと背中を押され振り返った鈴付きは見た。
「(どうか、おきをつけて)」
 人差し指を唇に、音無く見送った人影を。
 紅と白が艶やかに舞う夜を狼が駆け、鳥が堕ちる。

 花に沈んだ“御使い様”が五体、獣に喰われたものが二体。
 ――夜塗り替える花が、ひらり舞う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シャト・フランチェスカ


痛いなあ
嗤っちゃうよ
こころなんてもの、僕にあったの
おかげで、ようくわかったよ
僕の中で悼むのは紛れもなく
僕自身の激情であると

有難うね?

あはッ
きみが囁いたんだよ
我慢しなくていいのに、って

作家が持つのは万年筆
けれど僕のペン先は空っぽ
好きに穿てば
きみたち自身の色で染まるもの

中身ばっかり傷つけないで
そんな切ないことしないで
もっと痛ましく
もっと烈しく
白装束が真紅に染まる迄
ああ、贄がみんな白いのは
無垢なる原稿用紙を穢したいからなのかな

きみたちは誰の御使い?
かみさま呼ばわりされているなら
さぞや愛に満ちているのだろうね
あいの証に
消えない傷をつけてくれるほど!

僕の心は未熟だからさ
花もどきの毒にしかならないけれど



 目の前で血を流しながら笑う女と対面する日が来るなど、何ものも思うまい。

「痛いなあ……嗤っちゃうよ。こころなんてもの、僕にあったの」
 くくく、と喉鳴らしながら至極おかしそうに笑う女―シャト・フランチェスカ(殲絲挽稿・f24181)―は強欲の傀儡『烏人形』が鋭い紅爪の三趾足に込めた欲望を肯定し、暴走させる呪詛を身に受けながら、笑った。
「ふふっ。おかげで、ようくわかったよ。僕の中で悼むのは紛れもなく、僕自身の激情であると」
 弧を描く艶やかなピンクの瞳は髪の桜より鮮やかに心を語る。
 細い手を伸ばし、シャトは鳥人形の頬を撫で。
「有難うね?」
 小首傾げた甘やかな顔は、瞳だけ笑わないまま鳥人形の心臓を鉤爪で抉る。
 鉤爪こと鉤フックの名はリヴァイアサンの鉤。かの悪魔の名を冠した嫉妬深く執拗で欲しがりの爪。
 痛いのか、藻掻き暴れた鳥人形が叫ぼうとした時、鉤を捻じ込みシャトは笑った。
「あはッ……――きみが囁いたんだよ、我慢しなくていいのに、って」
 笑った声が現実に返ったように淡々としたのは一瞬。
 頭部抉られこときれたと鳥人形を捨て、シャトが探すのは次の人形。ちりん、しゃんと鈴を鳴らして。
 くるりくるりと鉤爪を揺らし、シャトはくるりと装束の裾を翻す。
「空っぽの僕のペン先が、キミたちの色を求めてるんだ」
 白装束があかく染まるまで踊ろうか。
 ちりんと鳴らした鈴の音に誘き出された一体の鳥人形の首を奪うように鉤で引っ掛け引き倒す。
 馬乗りに羽を押さえ、足で背中掻かれれば人形の頬撫で、鉤で花弁の様な傷を刻んで、ほら。
「僕が“臨むのは、きみの解釈”さ。ねぇ――一体、キミたちは誰の御使い?」
 教えておくれと二度三度撫でる頃には、鳥人形は痙攣し泡を吹いていた。
 残念だ、と瞳伏せたシャトは新たな人形を呼びに踊りだす。ふわふわ、ふわふわ、花のように。

「かみさま呼ばわりされているなら、さぞや愛に満ちているのだろうね」
 ちりん りゃん、しゃんしゃ。
 りん りんりん ちりり。
「ふふ、あいの証に消えない傷をつけてくれるほど!」
 すばらしい!と両手広げたシャトの後ろ。堕ちた“御使い様”が三体こときれ転がっていた。

 ――未だ明けぬ中、花は舞い続ける。

成功 🔵​🔵​🔴​

リグ・アシュリーズ
何が悪い、って――知れた事じゃない。
人のものに手を伸ばす事自体が悪いのよ!
ましてや、あなた達は命にまで手を伸ばした。
キツいお返しをあげる。覚悟はできてるわよね?

隠していた黒剣を手に、烏人形を迎え撃つわ。
皆が逃げる時間を稼ぐためにも、
鈴を踏み鳴らして気を惹きつつ、剣を振り回して薙ぎ払い。
多少手傷を負うのは承知の上よ、烏が襲ってきても怯むもんですか。

人形本体の数を減らすよう戦いつつ、
烏の数が増えたら一旦距離をとるわ。
剣を激しく地面に打ちつけ、
打ち上げた砂利を回転斬りで振りまく、砂礫の雨。
誰かの犠牲の上に成り立つ幸福なんて、願い下げ。
そのまま烏もろとも撃ち落としてあげる!



 礼節も無く、意味があると思っているのは奪われないものと奪うものだけ。
 無辜の命を奪うことの、なんと愚かしく罪深いことか。ましてや――……。
「あなた達は命にまで手を伸ばした。……覚悟はできてるわよね?」
 ちりんと、鈴が鳴く。
 すらりと抜いた黒剣―くろがねの剣―を手に、リグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)は空を睨んだ。
 夕日も眠った夜を縦横無尽に飛ぶ腕を翼に変えたオブリビオン 強欲の傀儡『烏人形』が弾丸の如くリグに迫る。
『――我慢しなくていいのに』
「っ、!」
 上空から斧の如く叩き下ろされた三趾足が、リグの頬を切る。ギリギリのタイミングで受け止めたものの、叩き下ろすような一撃がくろがねの剣越しにリグの腕を痛めた。
 ぎ、と無理やり捻じ込まれる足に歯を食いしばりながらもリグは押し返す――のではなく、剣を傾け往なした。
『――ッ、ギぃ!』
 力関係のバランス上、急降下した鳥人形の身はリグを軸に正しい位置にあった。が、往なされバランスを欠いた身は恐ろしいほど無防備で。
「人の命にまで手を伸ばしたあなた達には、キツいお仕置きをあげる!」
 受け取ってね、と朗らかに微笑んだ女性とは思えない重量級の一撃が鳥人形を圧し斬った。
 戦いの最中、リグの足元で鈴がりゃん、と鳴った瞬間だった。
 擽るような囁きが耳を打つ。
『(欲しがることの、何が悪いの?)』
「っ、きゃ!」
 両サイドから挟むように鴉達がリグへ嘴の雨を見舞ったが、リグとてこの乱戦の状況を十分に心得ていた。再度襲い来た鳥人形達へ向け、抜き身のくろがねを“思い切り地面へ叩きつけた”。
「目も開けられなくしてあげる!」
『!』
 すれば、地形を利用するリグのUC―砂礫の雨 ダスティ・レイン―は、芝生の下に眠る小石や砂を呼び起こし、くろがねの剣の剣圧に巻き上げられたそれらが突進してきた鳥人形達をしたたかに打ち付ける。
 翼を振り回せど、羽の間に刺さる砂礫が空気を乱し上手く飛べない。
 その時――銀の尾引いて飛び上がったリグが、鳥人形を見下ろしていた。
「誰かの犠牲の上に成り立つ幸福なんて、願い下げよ!」

 夜を抜き撃ったかのような刃が、偽りの夜を二体斬り飛ばす。
 ――少しずつ、“にせもの”の夜が削れていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユルグ・オルド
おおっと、主役のおでましだ
借りものの鈴をちりりと鳴らして
鬼さんこちら、余所見をしないで

まあ踊りにお祈りよか荒事のが得意だとも
振り抜くのは白に染め損ねたシャシュカ一振り
“御使い様”、お相手いただける

贄にされる奴以外は狙ってかないもんなのかな
標的が分かりそうなら阻むように飛び込んで
無粋だなンてごめんなさいネ
元よりその心算
爪を噛ませて翼から落とそう
上から見られんの好きじゃアなくてね
踏み込むなら躍る様に、躱すならターンのよにつかず離れずの紙一重に
ブラッド・ガイストで滑る刃に紅曳いて
鴉ごと落としにかかろうか

ご忠告くれたお嬢サンは無事かなァ
躊躇わない刃の先で思うのは
慮ってくれた君の無事を



 夜空を仰いでユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)は笑った。
「おおっと、主役のおでましだ」
 りん りちりり――とんと草を踏んだユルグが軽やかに跳ねれば鈴がうたう。
 突き刺さる視線を感じながら気にも留めず、鈴をうたわせれば人の気配が引いていく、いや意図的に誘導され恐らく逃がしている猟兵がいるのかと安堵した瞬間、激しい羽搏きと共に荒々しい風が迫る。
「危ない危ない、さて……鬼さんこちら、余所見をしないで」
 伸ばされた爪を避け、至近距離ですれ違った強欲の傀儡『烏人形』がぐるりと首を回してユルグを“見て”いた。
 ユルグは己―シャシュカ―を抜いて朗らかに言う。
「俺、荒事のが得意でね」
 鳥人形は知り得ないユルグの“ほんとう”が鈍く微かに閃いた瞬間、片翼が落ちた。
 ひどく陳腐な音を立てて分かりやすく切り落とされた右翼。瞬く間に均衡崩した鳥人形が地を這うことは――無かった。落ちる前に、こと切れたのだから。
「んー……俺、上から見られんの好きじゃアなくてね」
 曲げた足伸ばす勢いで突撃してきた鳥人形の足を、ギリギリまで引きつけてから刃の背で力いっぱい弾き上げる。
 飛び込んだ鳥人形がバランスを崩すこの一瞬こそ、ユルグの独壇場。走る刃の性か、本能か。今度は左翼を斬り落とし様、斬ったソレを足場にひらりユルグは空を駆けた。
 慌てて翼揮った鳥人間の鴉が殺到するも、恐れるものなど何もなく。
「鴉ごと落としにかかろうか」
 赤い瞳が弧を描いて。
 いつの間に切れていた頬なぞれば、己に差す赤はこれで十分。うねる己の感覚にユルグの頭過ったのは僅かに胸躍る高揚感。
「“御使い様”、お相手いただける?」
 まことのなにかが、鳥人形一体を余すことなく吞み込んだ。

 夜御す黒羽が六対、三体分空から消えた。
 ――淡い星明りが空を掠めた気がする。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鬼桐・相馬

巻き込まれそうな村人や背後を取られた猟兵を庇うことを第一に立ち回りたい
ワイヤーを連結した〈ヘヴィクロスボウ〉で烏人形を数体纏めて空中から引きずり降ろし〈冥府の槍〉で攻撃
[怪力・対空戦闘・範囲攻撃]

何かを欲することは何も悪くない
その渇望が、ソレ自体が己を前へと進ませる力になる
――問題なのはソレが何かってことだ
稀有なモノを欲しがれば立ち塞がる壁も強大になるもんだろ

カラス達から攻撃を喰らっても好都合
身体から滲む炎を逆に彼らへ延焼させていきUC発動、纏めて[焼却]・殲滅したい
可能ならばあの青年の間近で

本来屠られる側である鈴付きが御使い様を喰らっている
儀式を台無しにされれば何か聞けそうな気がするんだ



 先んじて黒歌鳥で上空を探っていた鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)は、共有していた視界が突然ブレた。
「……っ!?」
 一瞬体が震えてしまったものの、集中して探ろうとした瞬間、体を握り潰されるような痛みと黒い翼が視界を掠める。
 “黒歌鳥が何者かの襲撃を受けている”とは分かるものの、乱れた視界では“それ”が何者か分からない。もっと、もう少し、あと少しで――。
「あ、」
 真っ白な包帯で視界隠した鳥――否、人間。そう把握できたのも束の間、生臭さと喰われる感覚に意識が押し出された。
 傷む頭を押さえ、反射的に相馬は叫ぶ。

「来るぞっ!!」

 ぐらつく視界と痛みの名残に不快感。
 フーッと息を吐き、落ち着いて音と気配で戦況をザっと把握する。
 鈴を鳴らし既に戦闘を開始している者、一般人達を誘導をしている者が既にいる。寧ろ足りないのは戦う手の方か。
「数が多すぎる」
 夜を覆うほど黒い翼が羽ばたいている。あの強欲の傀儡『烏人形』が生じた瞬間を相馬は把握できなかった。
 が、ただ一つだけ分かったことがある。それは、“このUDC達は儀式の範囲及び儀式上の上空から湧き出るように生じた”ということ。
「むしろ生まれている……いや、」
 ばさりと、頭上で羽音がする。
「“生んでいる”とでも言うべきか」
 相馬が片手で軽々とヘビィクロスボウの射出口を真上に向け、撃つ。
 鈍い音。ワイヤー越しに分かる確実に得物捕らえた感覚。
「――問題はソレが何か、何を願ってかってことだ」
 望みが強大であるからこそ“人間の贄”を捧ぐのだろう。
 果てに出るのが鬼か蛇か、その“果て”の力を僅かでも削ぐため、今は鳥人間を撃ち落とす。
『ギィッ―――!!』
『っ、“御使い様”……!』
 激しい戦いの最中、誰もが怯え口を噤む中にも拘らず“御使い様”と叫ぶ者がいた。
 反射的に相馬がそちらを向けば、それが気になっていた件の青年らしきだと直感的に分かった。視線がぶつかる。
 はくりと音にならない言葉で、青年が何か言った。
 りん しゃん!ワザとらしく踏み出せば鈴が鳴る。
 構わず、相馬が力一杯ワイヤーを引けば天より引き摺り下ろされた三体の“御使い様”が縺れ合うように藻掻いていた。
「よく燃えそうだ――!!」
 重々しい黒鉄の槍が紺青の炎を立ち昇らせ、一息に鳥人形を貫く。すればUC―鬼火継ぎ オニヒツギ―が轟々と、鳥人形を薪に燃え盛る。
 爆ぜ散った紺青の炎が空さえ焼けば、眩い燈火のよう。その光景に目を見開いたまま、件の青年がはくりと言葉を紡ぐ。
『――鈴付きが』
「弱きを喰う理、変わってはいないがな」
 忌々し気に歯軋りした青年に、相馬は淡々と言葉を返す。
 未だ、二人の上空に羽音は絶えない―――だが確かに、確実に、数を減らしていく。

 再び相馬の狩りが行われた後、青年が目に焼き付けたのは灰に帰す五体の“御使い様”。
 ――偽りの夜を焼き祓う炎は燃え続ける。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鎹・たから


あなた達が天使だというなら
たからはかみさまにだって背きます
誰一人、傷つけさせません

人々を襲う彼女らに手裏剣を投げ気を惹き攻撃を此方へ
間に合わぬ際はこの身で庇います
たからの足には、まだあなた達の欲しい鈴の音がしていますよ
【2回攻撃、誘惑、かばう、早業

贄の人々には安心を
大丈夫、たから達はあなた達をすくいます
出来るだけ遠くに逃げてください
【勇気、心配り

瞳を開いてなるべく数を視界に入れ
氷柱で天使達の翼や手足を縫い留めます
氷柱が足りないなら手裏剣、セイバー全てを使って、刺して斬って
【念動力、貫通攻撃

欲しがることは悪ではありません
けれど、誰かから奪ってまで自分を満たしても
心は一生満たされません



 りん、しゃん、と鈴が鳴る。
 来るぞと張った猟兵の声を聞いた瞬間から、鎹・たから(雪氣硝・f01148)はゆっくりと肩幅に足を開いて身構えた。
「あなた達が、天使だというなら」
 恐れ戦く鈴を付けた人々目掛けて強欲の傀儡『烏人形』が足を伸ばした瞬間、たからは音もなく忍者手裏剣―不香の花―を、擲つ。
 当たれば上がる叫び。
 雪の結晶象った手裏剣は返しある樹枝状のものを模していため、刺されば抜けず、溶けぬ金属ゆえに身か刃が落ちるまで残り続ける。
「たからはかみさまにだって背きます」
 二投、三投と見える限り擲つ中、たからの視界で転んだ老婆がいた。
『ひ、ひぃ……っ!!』
 勢いよく伸ばされた足が老婆の頭を引きちぎる――前に、たからが滑り込む。
 もう受けるしかない、そう思った時だ。
『怪我しないって、約束って言ったじゃない!!』
「――っ、はい!」
 人込みに紛れ見えないけれど、確かに今声がした。たからが心配し、たからを慮った“あの子”の声。
 正義の味方が戦うならば、ちょっとの勇気と一人の応援があればそれで充分。たからは百の悪とだって戦える。
「狙い撃ちます」
 UC―棘雪 トゲユキ―。
 氷より熱い瞳が見開かれた瞬間、羽搏きは落ちた。
 夜闇で尚煌めいたたからの瞳は僅かばかりの星明りに透き通る。

「誰一人、傷つけさせません」
 生み出された鴉も赤い鉤爪も、全て全てを鋭利な氷棘が刺し貫く。
 穿って縫い留めて花のように。

 “御使い様”が落ちてゆく。
 ひとつ、ふたつと、落ちてくる。

 ――真の夜がほんの少し、覗いた気がする。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈴・月華


うるさいなあ。もっと静かにできないの?
色々教えて貰った子には、適当に逃げちゃって貰う
私は大丈夫だから

【厭世文豪と蝶】で蓬莱蝶を、烏人形達に向けて一斉に放つ
眠るか動けなくなるかしててよ

蝶の鱗粉の効果で烏人形の動きが鈍ったら、怪力任せに大鎌で破壊していこうかな
…いや、鈍る前から積極的に薙いで壊していこうか。待ってたら他に被害が出かねないし
イキモノだったら急所を狙えば静かに暗殺出来るけど、人形は完膚なきまでに壊さなきゃ動ける限り動こうとするから

鈴の音は居場所をしらせる。ならば私はこの鈴の音を使って、神さまにまだ此処に居るよって聞かせてあげよう

壊して奪っていくならば、私も同じことをするだけ


菊・菊


こどもたちのわのなかで、クソ女と手を取り合って踊る
地獄みたいな時間が漸く終わった

待ってたぜ、よく来たなクソ鳥

腕に刃を滑らせて、肌を伝う赤
悲鳴を掻き消すぐらいの、クソ女の嘲笑がほんっとにうるせえ
「付き合え、寒菊。」

お前らだけが猟が上手いってわけじゃねえ
ちり、ちり、俺が動くたびに鈴が鳴る

クソ鳥がわらわら、ゴミ捨て場みてーだな
ほら、俺が生ゴミだ

餌に釣られて、鬼さんこちら、鈴の鳴る方へ
ちり、ちり、ちりん
でも、このガキは違う
「働け、寒菊。」

刀がふうわり、宙を浮いて
笑い声をともに獲物を狩っていく

食った分、殺せ
それが俺たちの縛りだ

ほら、俺はもう弱くない



「私は大丈夫だから」
「はぁー……ったく」
 鈴・月華(月来香・f01199)と菊・菊(Code:pot mum・f29554)が子供たちの輪を抜けたのは同時だった。
 片や心配そうに袖を引く子らを宥めて別れ、片ややっとの思いで逃げてきた真逆な二人の足首の鈴が鳴った瞬間、同時に空を見る。
 夜を隠すように羽広げ羽搏く強欲の傀儡『烏人形』。
 ひらり月華の指先から飛び立った蓬莱蝶。その姿に頭過った一説が月華の口から滑り出た。
「恋愛は人世の秘鑰なり……と。かの文豪は書いたが……ま、そのうち君にもわかるさ」
 UC―厭世文豪と蝶 エンセイモノカキトチョウ―。月華には理解しえないこの一文は蝶に釣られた文豪のもの。分かる訳ないじゃない、なんて内心頬膨らませる月華も今だけ少し“声と言葉”を貸してやる。
 羽搏いた蝶の鱗粉は不可視。近くにいたからこそ、菊は痺れた様にのたうつ鳥人形に合点がいった。ならばと抜いたのは菊紋様鍔の日本刀。
 ひたりと冷えた鋼を、腕に滑らせて。
「付き合えよ、寒菊」
 目の前の月華の瞳が僅かに見開かれたことなど、菊の耳元で嘲笑する女の声に比べれば些末なこと。
 ほたりと草濡らすはずの赤は全て鋼に染み消えれば契約成立。
 夜見上げた菊の目には、鳥人形が鴉のように映る。ああ、ゴミのごとき己が身でも啄ばみに来たか。
 だが。
「ゴミにも爪があるんだよ」
 空気さえ断つ勢いで刃が閃く。
 躊躇いではなく寧ろ歓喜するように。命を啜り空を舞う姿は強者のソレ。
 空を暴れまわる寒菊の姿に、菊が無意識に笑った時だ。隣駆けた月華の手に、少女と釣り合わない大鎌が、大口を開けるように振り抜かれる。
「……ハッ、ンだそれ」
「人形は完膚なきまでに壊さなきゃ」
 追いかけてくるわよ?なんて経験者顔でいう月華の淡々としたこと。
 菊は精一杯声潜めたものの、体が震えることは隠せなくて。妙にちぐはぐに感じる少女が面白いくらい理にかなったことを言う。
「そうだ、ぶっ壊すか。……働け、寒菊」
「奪っていくならば、奪われる覚悟もしなきゃね」

 “御使い様”が無惨にバラバラ動けない。
 積み上がった数七体なれども、二人の狩りは終わらない。

 ――星が瞬いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子

祈りも想いも、無駄じゃあないわ。
最後にどうにかするのは己だとしても、担げる験は担ぐ派なの。
しゃん、しゃんと、合わせた歩法をそのままに。
最後の一歩を踏み出して、――ここからはあたしの時間だわ。

人々を逃がすための道を開けて、すれ違うように傀儡の方へと駆けましょう。
応えなければ、寄せられるのかしら。
守るなんて柄でもないから、此方に気を惹いて囮になれれば上々よ。
逃げようとするヒトの方へは行かせないように。
白刃でその行く手を阻みましょう。

そうね、……悪いことなんてないわよ。
好きにすればいいとあたしは思う。
――只。分を超えた欲が通るかどうかは、別の話だわ。

好きになさい。
あたしは好きにおまえを斬るだけよ。



 偽りの夜を幾度斬ったか。
 短い呼吸を繰り返す花剣・耀子(Tempest・f12822)は強欲の傀儡『烏人形』減った夜空を仰ぐ。
 そうして何度でも思うのだ。“祈りも想いも、無駄じゃあない”と。

 最後の一歩を踏みしめ、人々逃がすための陣が完成した直後だった。
 この災いの様な夜が来たのは。
 武運を――と、耀子を送り出した猟兵の青年は無事だろうか。もしそうなら、嬉しいけれど。
「――さあ、まだあたしの時間だわ」
 サムライブレイド―残骸剣《フツノミタマ》―を抜き打ち放つ一閃の名は、UC―《花剣》 テンペスト―嵐の名を冠す一閃は雨嵐の如く幾重にも。
 飛び掛かる鳥人形など数え忘れるほど切った。ほんとうに。
「好きにすればいいと、あたしは思う」
 耀子の言葉は淡々と鳥人形を凪ぐ。
「“お呼ばれ”したんだものね、……悪いことなんてないわ」
 そう、鳥人形とてこの悪趣味な宴に呼ばれた客程度、しかし。
「――只。分を超えた欲が通るかどうかは、別の話だわ」
 そう、別。
 幾羽もの鳥人形を盾にした一匹が飛んでくる。まだ諦めないのかとため息をつく心を飲み込んで、耀子は下段に残骸剣《フツノミタマ》を構えた。
「好きになさい。……あたしも好きにおまえを斬るだけよ」
 逆袈裟に翻る一閃。

 ちりん、と鈴が一鳴き。
 どさりと沈んだ鳥人形の音に喰われ、誰の耳にも届かない。

 ――真の夜に星が瞬いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ツミコ』

POW   :    ××のカタチ
自身が装備する【髪留めの赤いリボン】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
SPD   :    ××の在処
【梔子の花弁】と【甘い香り】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
WIZ   :    ××の代償
【実体を持たない青い鳥】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鈴・月華です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 きらきら きらきら。
 星が弱々しく瞬く向こうから、ふうわり降り立ったのは一人の少女だった。
『――ツキコさまだ』
『ツキコさま!』
 逃がされるのに抵抗した黒髪の一族の一部が、空から来るUDC―ツミコ―を見てはらはらと涙を流しては祈るように手を組む。
 すれば、決して笑わぬ目で口角だけ上げた歪な笑顔の少女がひらりと手を振った。
『みんな、いいこにしてた?』
 ふふと微笑み、スカートをつまむ様は少しおちゃめなお嬢さん然としているけれど。
 にぃっと笑うその眼の奥はどろりとして、いっそ煮詰めすぎたジャムに似ていた。
『……ねえ、みんな?どうしてきょうは、お花がさかないの?』
 酷く不思議そうに、さも当然のことを尋ねるように、ツミコは犠牲者の無い儀式場を見回し問うた。
 落ちているのは鳥人形ばかりで、面白みの欠片もなければ彩の一つさえない広場に少し苛立っているようにさえ見える。

 と、ツミコが赤い目を細めた瞬間、重苦しいほどのプレッシャーが猟兵を襲う。
『―――ッ!!』
『あなたたち、ほしいものはある?』
 見慣れぬ猟兵にプレッシャーを与えているとは思えぬ、ひどく穏やかな問いかけだった。
 一歩、また一歩とにこにこ笑みのようなものを浮かべ、近づいてくる。
『わたしはツキコ。ツミコじゃないよ、ツキコだよ』
 にこにこ。
『ほしいものあげる。なにがすき?なにがほしい?』
 くりくりと小首を傾げて、また一歩。
『あのね、んっとー……あのおじちゃんは、お嫁さん。あの坊やはお金、あのお姉さんは力、あとー……』
 忘れちゃった!
 順繰りに指さされた男と青年、女性と、彼らは猟兵の動きに反応していた者たちであった。
 “知る者”であり“恩恵を受けた者”だったのだ。
『あなたたちにもあげるわ! なにがいい?』

 “神”が笑った。
 無邪気な問いかけのはずが、ぶるりと震えるこの危機感は、警鐘を鳴らす感覚は何と呼ぶべきか。
 猟兵たちは無意識に得物の柄を握り、それぞれが構えた。

『……いらないの?』

 じわりと、ツミコの放つ圧力が猟兵たちを睨めつける。
菊・菊

神様が目の前に立ってる

ほしいもの、時間を戻す力
ほしいもの、大人たちに負けない強さ
ほしいもの。いくらだってある
『神』へ一歩近づく、黒髪を真似て、手を組んで
全部くれるってンなら
俺だって、お前の爪先にキスしてやるよ

でも、

あの時、祈って、願って、信じて、
それでも何もしてくれなかった癖に、今更?
『悪食』

信者に交じって奴に近づければ、良い
どこでもいい、味と匂いが分かれば、それでいい

神様だろうが人間だろうが死体だろうが、変わんねえな
「覚えたぜ、クソったれの味」

何もしてくれなかった神様に八つ当たりできるなんざ
最高の機会だ、感謝してするぜ

俺はもうお前なんて頼らない
もう、鈴の音は聞こえない

菊紋様鍔が、音を立てた



●信じたかった“子供”の場合

 眼前に、きらきらしたモノがいる。
『……いらないの?』
 痛いほどの圧力が襲い来る感覚が、訳も分からず“神だ”と言った気がした。
 ごくりと菊・菊(Code:pot mum・f29554)は唾を飲み込む。頭の奥がぐわんぐわんと警鐘を鳴らしているのに、ピリピリと震える肌が近づくなと言っているのに、駄目だと、分かっているのに――……。
 菊は、時間を戻す力が欲しい。
 菊は、大人たちに負けない強さが欲しい。
 菊は、ああ……欲しいものなど、欲しいものなど数え切れるはずもない。ほんとうのほんとうに、菊は願ったことがあるのだから。

 ふらりと一歩踏み出て膝をつけば、見なくても漠然と“ツキコ様”とやらが笑った気がした。
『あなたのほしいものはなあに?』
 浮いていた“ツキコ様”が草を踏んだ音がする。
 菊は見様見真似で腕を組み、瞳を伏せてそっと首を垂れた。他の猟兵が息を呑んだ気がするが、今はいい。夜の草原が僅かに見えていた視界にほんの少しだけ、真っ白い爪先が見えた。
 ああ、“神”よ。
「なあ」
『なあに?』
「なあ、なんであの時来なかった」
 徐に立ち上がった菊の眼は夜の帳降りたにもかかわらず、不思議なほど鋭利に煌めいている。
 きょとりとしたまま瞳瞬かせたツキコ様は答えない。
「なんであの時、祈って願って信じてやったのに」
 一歩踏み出して近づけば吐息の聞こえそうな距離――だが、“ツキコ様”は呼吸をしない。“ツキコ様”の心臓は脈打たない。“ツキコ様”は、生命ではない。
 ああ、やっぱり。
「―――、」
『ねえなにが――きゃっ!』
 全て実感して菊の心に何かがすとんと落ちた瞬間、間髪入れずに“生命”でも“神”でもないUDCに嚙みついた。
 引き千切る勢いで細い首に歯を立て“いのち”のフリをしたものを啜る。
 叩きつける様に振るわれたリボンに張り飛ばされて引き離されて、草原を転がる痛みの中、菊は笑った。なんだ神なんて、結局こんな味なのかとUC―悪食 エゴイズム―で咀嚼して。
「覚えたぜ、クソったれの味」
『あっちに行って!』
 鼻で笑えば怒ったように声上げたツキコ様――否、UDC ツミコの呼び起こした青い鳥の影が空より迫る。
 だが、ソレが何だ。
「俺はもうお前なんて頼らない」
 信仰と贄を糧とする“お前”へ否定をくれてやろう。
 もう鈴の音など聞こえない。菊の足首から解け落ちた鈴は、草に食まれてもう鳴らない。

 菊文様の鍔が嗤った。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

リグ・アシュリーズ
いらないの、って。貰ったが最後、
さっきの烏人形みたくなっちゃうんでしょ?
だから、ね。

襲い来るリボンをぶわり、と吹き上げる黒風で切り裂いて。
いらないわ。施しも祝福も、何もかも。
だって私、神様信じてないもの!
プレッシャーをはねのけ不敵に笑い、黒剣で斬りかかり。
少しずつ手傷を負わせ、追い詰めてくわ。
もし近くにどなたか居たら即席で連携して、
互いの攻撃を避けた所へもう片方が仕掛けるようにできないかしら。

ある程度疲れが見えたら、ここぞとばかりに強風を吹かせ、
そのまま気流に乗って大ジャンプ!
上空から剣を翻し、勢いつけての兜割り。
一度きりの人生、自分の好きなように生きたいの。
神様の言いなりなんてお断りよ!


春乃・結希

嫌われるかと思ったのに、すごく怖かったはずなのに
初めてお話して、一緒に踊っただけの私を守ろうとしてくれて
…うへへ、嬉しかったなぁ。私が勇気を貰っちゃった

あなたに貰わなくても、withと居るだけで私は幸せなんよ
花弁を翼で燃やし、香りを羽搏きで吹き飛ばす
それでも眠りが誘うなら、眠ってしまう前に接近して叩き付ける
速度も乗せた一撃、それだけでも十分な力が、withにはあるはずだから【重量攻撃】【怪力】

私が欲しいものは、withと旅した思い出
私が海に還るときに、楽しかったねって思う為に
今日ここに来てからの全部。梔子の香りも、歌と踊りも、あなたに会えた事だってそう
だからこれ以上、何も要らんよ



●奔放なる人狼乙女と愛刀と共に行く旅人の場合

『……いらないの?』
「いらないわ!」
 太陽より明るく笑ったリグ・アシュリーズ(風舞う道行き・f10093)が間髪入れずに答えれば、“ツキコ様”は並び立つ春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)へ視線を向けた。
 すると、結希もまた困った顔で微笑み返し、抜き身の愛刀を撫でる。
「うーん……私もね、あなたに貰わなくてもwithと居るだけで私は幸せなんよ」
 結希がwithと呼んだ鉄塊剣との旅路は目を瞑るだけで、楽しかったことも辛かったことも、困ったことさえすぐに思い出せる。
 リグの願いであり今までしてきたのは広い世界を己の足で歩き、己の眼で見て肌で感じること。この願いに必要なのは、丈夫で健康な自身の肉体があれば十分叶うものだ。
 二人の旅路は未だ半ば。誰かの力を借りて巡ってしまう旅路はリグも結希も望むものではない。それに――……。
「貰ったが最後、さっきの鳥人形みたいになっちゃうんじゃないの?」
「んー、そうだったら嫌ですね」
 ああこわい、なんてリグが肩を竦めれば結希がくすりと笑みを零す。一方、中空に立っていたツキコ様は額に青筋を浮かべていた。
 ほんの少し肌寒さを感じていた山の空気が、瞬く間に一変する。
『いらないのね』
「いらないわ。施しも祝福も、何もかも。 だって私、神様信じてないもの!」
「うん、いらない。私は、私が海に還るときに胸を張れるような思い出があれば十分ですから」
 付け入る隙の無さにツキコ様が唇を嚙んだ瞬間、二人に手を翳して叫んだ。
『だったらいらない。いらないこはいらないから!!』
 ぶわりと白い梔子の花弁が舞い上がり爆ぜる。
 噎せ返るほど甘くとろける花の香が二人を飲み込まんとした時、結希が柔らかく微笑み歌うようにキーコードを口にした。
「希望を結ぶ為の、私の想い……ここでの全ても、私の“思い出”になるんです」
 ぎゅっと握られたように心臓が痛むも、結希は今だけ気付かないフリをする。太陽よりも煌々と夜を照らす炎の翼が香りごと梔子の花弁と眠気を焼き払う。
『あつい、あついいや!やめて!』
「まだまだ、こんなものじゃないんだから!」
 燃え盛る結希の翼から逃れるように飛び出したツキコ様を待っていたのは、常は隠している耳と尻尾を顕現させたリグだ。
 自慢の銀毛艶やかな人狼が結希の焔を上昇気流に飛ぶ。
 黒き風が渦巻いて。
「神様の言いなりなんて、お断りよ!」
『きゃあ!』
 深くツキコ様こと、UDC ツミコを切り裂いた。

 落ちる火の粉に焼き切られ、黒い風に舞いあげられ壊れた鈴が二つ。
 夜の草むらに落ちて転がり埋もれた。

 もう鈴は鳴らない。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

皐月・灯

ユア(f00261)と


ああ、どうやら仕上げ時みてーだぜ。
ありゃ典型的な「よくねーヤツ」だ。
土着信仰に根付いてるのがタチ悪りーな。

オレの攻撃手段は、とにかく接触しなけりゃ始まらねー。
となると、広範囲攻撃を捌いて接近しなきゃならねーんだが…
ここは遠慮なくユアに頼るぜ。
あいつが開いた道を突き進む。
残ったヤツらは【見切り】でかわしつつ、懐に【ダッシュ】で飛び込み、
【全力魔法】の《猛ル一角》を叩き込んでやる。
オレが目の前にいたんじゃ、ヤツもユアの接近を阻害できねーだろうしな。

生憎だな、欲しいものはもう手に入れてんだよ。
オレが望んだ女だぞ。何かに願ってる場合かよ。
――てめー如きじゃ、役者不足だったのさ。


ユア・アラマート

灯(f00069)と


漸く本命のお出ましか
見た目は可憐そのものだが…この圧や悍ましさを隠し切るには足りていないな
やるぞ、灯。幕引きだ

広範囲を同時に攻撃してくるなら、あまり時間はかけられない
【見切り】で青い鳥を回避しながら、灯がツミコに迫るためのルートを作ろう
こっちにも、鳥はいないが綺麗な羽があるからな
自分達とツミコの直線状にいる青い鳥を優先的に焼き払い、道を拓いて灯を先に行かせる
彼が接敵を果たしたら自分も接近
追撃する形で合体強化した羽を【全力魔法】で叩きつける

誰かの命を犠牲にしてまで手に入れたいものなんてあるはずもない
ましてや今は、世界一の男がこうして隣にいてくれるんだ
だから、お前はここで眠れ



●紅蒼両玉の魔狼と花開きし魔狐の場合

 偽りの夜全てを撃ち落とした先に見えたのは、この地で長らく“神”と呼ばれたUDCの姿であった。
 きらきらと不思議な輝きを纏い、形だけでも慈悲の皮を被った微笑みを浮かべ降臨したそれに、ユア・アラマート(フロラシオン・f00261)は目を細めた。
「漸く本命のお出ましか」
「ああ、どうやら仕上げ時みてーだぜ。……ありゃ典型的な“よくねーヤツ”だ」
 同じく神ことUDC“ツキコ様”正式名称 ツミコを見た皐月・灯(追憶のヴァナルガンド・f00069)が眉間に皺を寄せた。
 灯曰く、意味の無い微笑みを浮かべたモノほどヤバいものはない。元より儀式の形態事態にも問題はある。血や死といったものを媒介に呼び出されているうえ、アレは土着信仰。つまり、この地で戦うだけ強いままやり合わねばならないということだ。だが――……。
「ユア、任せたぞ」
「やるぞ、灯。幕引きだ」
 こつんとぶつけた互いの手の甲は、信頼の証。

 やると言ったとて、まず相手の出方を見なければ始まらない。
 よって、この問いかけは二人にとって丁度良かった。
『……いらないの?』
「生憎だな、欲しいものはもう手に入れてんだよ」
「まして、誰かの命を犠牲にしてまで手に入れたいものなんてあるはずもないからな」
 灯とユアが一瞬視線を交わして答えたのも束の間、ツミコの赤い目が鋭くなる。
『ほんとにそう? だいしょうはなあに?』
「そんなものはないが?」
 喉を鳴らして笑ったユアが人差し指でちょいちょいとツミコを誘った瞬間、ゴウッと空切る音と共に青い小鳥の影が次々と矢雨の如く突き立てられる。嵐の如き攻撃の中、ユアは目と耳を勘を頼りに踊るように避けていく。灯にきちんと託されたのだから、全力で見切るも多少掠めてしまったのはご愛敬。
「綺麗な羽が好きか?鳥ではないが、この熱も、この想いも、秘密の内に灰となるまで見せてやろう」
 UC―艶災 インサイド・ナタナエル―。
 ペリドットグリーンの瞳が弧を描きながらユアがツミコを指差せば、爆ぜるように羽を模した紫焔が青い鳥の影とぶつかり相殺し合う。
『あ、あ、とりさんが……!』
「ああ、全部燃えちまうぜ人の犠牲で得た幸運なんぞ」
 ツミコからすれば、突然の強襲だった。
 ユアの言葉と存在に惹かれすぎてユアにばかり注目していたこそは、灯達にとって幸運であり作戦通り。紫焔と小鳥がぶつかり合い目晦ましになる中を灯は駆けていたのだ。
「悪いが、オレが望んだ女はもう手に入れてンだよ。――てめー如きじゃ、役者不足だし、遅いンだよ」
 ニマリと笑った灯が、偽神兵器 泡影を引き絞れば、蒼銀を使ったガントレットの泡影は微かな夜の光を照り返しぬるく輝いた。
「アザレア・プロトコル1番――《猛ル一角》! じゃあな、神様!」
 小さな神様が悲鳴も無く吹き飛び転がった。 

 りん、とも鳴らなくなった鈴が一対草原に落ちる。
 切れた紐は結ばれない。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レン・デイドリーム


欲しいものかぁ
特にないかな
僕はシュエと一緒に暮らせればそれでいいから
そのために、今日も頑張ってお仕事しに来てるんだよ
君みたいなのを殺す仕事をね

古代の戦士の霊を召喚
相手は実体のない鳥を飛ばしてくるようだけれど、僕らに干渉出来る以上は攻撃も効くだろう
だから戦士さんの炎で鳥を次々と撃ち落とすよ
ここにあるのは決して自由な空なんかじゃないからね

鳥の対応は戦士さんに任せて、僕はツキコさんの対処をしよう
【呪詛】を籠めた【衝撃波】の刃を以て彼女の身体を切り刻む
この地で流れる血は、君のものでおしまいだ

ヒトは欲深いものだから
君のような存在は求められ続けるだろう
その度に、僕らは君達を殺す
それが僕らの仕事だからね



●人ならざるゆえの“こころ”

『……いらないの?』
「特にないかな」
 ツキコ様の問いかけにレン・デイドリーム(白昼夢の影法師・f13030)が返したのは断りだった。
 否定でもなく、肯定でもなく、拒否や拒絶というには柔らかい断り方。
 ツキコ様ことUDC ツミコは真っ赤な目をきょとりと見開いて幾度も不思議そうな顔で瞬きをしながら中空からふんわり降り立つと、レンを見つめながら再度尋ねた。
『どうしていらないの? みんなしあわせになるのよ?』
「僕はシュエと一緒に暮らせる今があれば、それで十分なんだ」
 綺麗な微笑みでレンは言った。
「今日も頑張ってお仕事しに来てるんだよ。君みたいなのを殺す仕事にね」
 レンは綺麗な微笑みを崩さないまま、ふいにツミコ指さした瞬間――召喚された古代兵の槍が殺到する。
『っ、ひどいわ!人間のくせに!』
「――僕は人ではないからね」
 え、と一瞬でもツキコ様の視線奪えればまた隙ができる。所詮出来たのは槍や炎が少し掠める程度だけだとしても、それで充分。一回で駄目なら二回、二回で駄目なら三回と、諦めなければいいだけだから。
 相棒たるUDC シュエの力を借りたレンの攻撃は素早く間断が無い。加えてレン自身の織る衝撃波と呪詛込めた刃に追い込まれ、ツミコは歯を噛んだ。
『どうして……どうしてなの!』
「ヒトは欲深いものだから、君のような存在は求められ続けるだろう」
 泣きそうな顔で赤いリボン振り回したツミコに、レンは憐れみを持って告げた。
 欲の連鎖が途切れない限り……きっと、ツミコは解放されない。いつかきっと、また違う形で呼び起こされてしまうかもしれない。だからこそ、今ここでレンは刻み付ける。
「でも、その度に、僕らは君達を殺す。 ――それが、僕らの仕事だからね」
 幼子に言い聞かせるような柔らかさで織り上げられた最後の刃が、確かにツミコを貫いた。
 すれば、レンを締め付けていた赤いリボンが命を失ったかのように解け落ち、空気に溶けるように消えていく。

「これで、この地の儀式は最後にしよう」
 さようなら。
 祈るように囁いたレンの足首に、もう鈴は無い。いつの間にか解けて落ちて転がって、誰にも分からず消えていく。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー

欲しいモンならあるぜ
「命」だ
せめて人並みの命が欲しかった
欲を言えばあいつを寂しがらせないくらいの

九死齎すナイフの一撃目は自分に
残り短い命を削らない為、痛みで睡眠に抗う為

そうじゃなかったら「力」が欲しい
俺が地獄に堕ちる時、不死に近いあいつを道連れに出来るくらいの力が

残る八撃を至近距離から叩き込む
眠りに抗う痛みが足りなかったら
己の血を「燃やして」身体を焼いてでも
立ち続けてやるさ

欲しいよ、すげえ欲しい
手に入るならここの連中丸ごと皆殺しにだってしてやる
そのくらい欲しくて欲しくてたまらない
――で、あんたが叶えられるって?んなわけねえだろ
そんな簡単に手に入ったら、苦労はしねーんだわ



 きらきらとした幻のような“ツキコ様”を見上げた時、ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)は無意識に笑っていた。
 山間部の夜らしい少し冷たい風が頬を撫でる中、魅力的なはずの申し出にこうも心が揺らがぬものかと自身の腹の奥から笑いそうになってしまうのを、なんとか口角を上げる程度に収めたまま、ツキコ様をじいっと見つめる。
『……いらないの?』
「あるぜ、欲しいモン」
 ジャスパーがそう口にすれば、パッとツキコ様の表情が明るくなった。
 早く早くと促されれたジャスパーが、どこか遠くを見るような目でツキコ様へと願いを告げる。
「“命”だ。俺が欲しいモンは、命。せめて人並みのな。それかまあ……」
『んーっとね、いのちっていうのは“にえ”のこと?』
 ――むつかしいね。
 スカートの裾を握り、もじもじとしながら言うツキコ様は、いやUDC ツミコは、一見してただの少女と変わりなかった。
『ねえ、じゃああなたのいちばーんだいじなもの……ちょうだい?』
 ツキコ様が無邪気に手を伸ばせばし、対価たる命さえ要求しなければ。
 ひくりとジャスパーの口角が痙攣したように動いて一拍、ジャスパーは躊躇いのない所作で自身の腕を斬りつけた。
『それじゃなくって――』
「ああ、大事だぜ。俺の命の欠片みたいなモンだからな」
 ジャスパーにとって切り傷一つ程度なら無いも同じ。
 一息に距離を詰め、“一番大事なもの”を要求した“神騙り”たるUDCに手中の隠しナイフを振り下ろす。
『きゃ!』
「俺さ、ほんと欲しいンだよ。すげえ欲しい。あいつを寂しがらせない程度の命、あいつを守るか――道連れにできるぐらいの力、」
 一回、二回、三回。 八回ナイフを振り下ろしたころには、ツキコ様に赤い花が咲いたようになっていた。
『う、うううっっっ……!ひどいわ、あなたなんてだいっきらい!』
「ハハ、叶えられもしねーあんたに吹っ掛けられて、燃やしてやりたいぐらいなんだよ!」
 飛来した青い影が燃え落ち、千切れたリボンが落ちては霞と消える。
 残ったのは荒い呼吸のジャスパー一人。

「……そんな簡単に手に入ったら、苦労はしねーんだわ」
 わずかに震えた声が、ぽつりと落ちただけ。
 いつの間にか、足首のリボンも鈴もどこかへ消えていた。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡

ニル(f01811)と

……悪いけど
お前に与えてほしいものは何一つないよ

オーケー、油断せずいこう
【影装の牙】で銃を形成
見た目は手に慣れた自動式拳銃と同じ
但し、高めた攻撃力は段違いだ
代わりに防御は疎かになるけど――前にニルがいてくれるからな

目だけでなく、耳で聴いた音や、肌で感じる風の感触、向き
あらゆる情報から相手の攻撃を予測してニルに伝えていくよ

守ってくれると信じて
後は全て、敵の観察に意識を割く
動きの切れ間、攻撃の直後など
隙を晒すタイミングを逃さずに狙撃していくよ

――他人を犠牲にして、誰かに与えてもらう
そんな人任せの幸福なんて望まない
この手に掴むものは何もかも
自分の力で手に入れると決めているから


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム

匡/f01612と

イケニエを欲しがる神様なんてロクなもんじゃねーけど
今の時代にそいつを頼る連中もロクなもんじゃねーな
悪いが私たちは何も要らないよ、レディ
欲しいものは自分の手で掴み取る趣味なんだ

とはいえ本当に油断は出来ねえか
匡、後ろから援護頼む
――起動術式、【死者の毒泉】
選ぶのは防御力。呪詛を鱗に変えて身に纏う
蛇竜を黒槍に変えて、匡の盾になろう
飛んでくるリボンは出来る限り槍で受け流すが、後方に通さないことが先決
致命傷さえ避ければ構わん
叩き落とせない分は鱗を使って受け止めよう
後は上手くやってくれるさ――匡の弾丸、存分に喰らうが良い

与えられる幸福なんざ、私は御免だな
達成感のない目標に、価値はないよ



 “イケニエを欲しがる神様なんてロクなもんじゃない。”
 本当にこんな儀式、一体いつの時代の話だというのか。
 ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(伐竜・f01811)が寒気すら覚えたのは仕方のないことだった。
 ちらりと横を盗み見れば、並び立つ鳴宮・匡(凪の海・f01612)は無表情のまま得物の銃を握りなおしたではないか。
 こちらを微笑み浮かべて見下ろす“ツキコ様”へ、ニルズヘッグが一歩前へと踏み出した。
『……いらないの?』
「悪いが私たちは何も要らないよ、レディ」
「……悪いけど俺も、お前に与えてほしいものは何一つないよ」
 ニルズヘッグと匡の言葉に、にこにこしていたツキコ様の表情が固まる。
 ぎゅうっと拳を握り、もう一度ツキコ様が問いかけた。
『ほんとにいらないの?』
「俺達、欲しいものは自分の手で掴み取る趣味なんだ」
 ニルズヘッグがそう告げた瞬間、どうと赤いリボンが殺到する。

「匡、後ろから援護頼むぞ」
 ニルズヘッグは振り返らず後ろ手を振って、匡に告げたのはたった一言。
 何をどうしてくれと言わずとも二人ならばそれで十分。
 殺到するリボンが互いの身に絡もうと、ソレはニルズヘッグに任せていいのだろう。術式を織り始めたその背に、匡はフッと笑って告げる。
「オーケー、油断せずいこう……準備は念入りに、だ」
 UC―影装の牙 シャドウアームズ―が形成したのは匡の手に慣れた自動式拳銃――なのは形だけ。狙いはUDC ツミコ、ただ一人。
「そこ」
『っ、きゃ!』
 足を肩幅に影装の牙のスライドを引き、銃口をツミコに真っ直ぐ向けて引き金を引く。匡の慣れた動作は酷く素早いものだが、もっとも凄まじいのはその判断力だ。雨の如く迫るリボンの中、正確に合間を縫った弾丸でツキコ様の肩を撃つ。
 バランスを崩したツミコのリボンが乱れた時、匡の目の前でニルズヘッグの術式が完成する。
「呪わば呪え――起動術式、【死者の毒泉】」
 そう口にした瞬間、ニルズヘッグは真っ暗な海に落ちたような感覚がした。
 真っ暗で、真っ黒で、不思議な――いや、違う。違うこれは怨嗟の中だ。突然目を覚まさせるような激痛が頭を奔った瞬間、ニルズヘッグは気が付いた。
 いつのまにか全身絡まれた黒い何かの付いた箇所が疑似的に痛む。どろりとぬるく絡むそれは重く、泥の中のような癖に息だけはしやすい。痛い。痛い痛い痛い。この地にはもう言葉さえ持たぬ恨み、悲しみ、死がある。
 そう認識した瞬間、突き飛ばされるように現実へと帰らされた。
 これは一瞬のこと。瞬き程度の邂逅である。
「いくぞ、Ormar」
 頼むぞ匡、ともう一度心で思いながら、ニルズヘッグは槍に戻したドラゴンランスで一息に赤いリボンの全てを振り払う。
 今宵のニルズヘッグは盾になる。全ては射手たる匡のために。
「さあ俺と踊ろうか、レディ!」
『っ、もう、あなたじゃまよ!』
 青い鳥の影をOrmarで振り払いニルズヘッグは走った。足を狙った鳥の影を踏み台にツミコを肉薄すれば、ギリリとツミコが歯を噛んだのが分かる。
『やだってば!』
「――そこ」
 いつのまにか、匡の影装の牙にはサイレンサーが付いていた。
 ツミコがニルズヘッグに気を取られすぎれば撃たれる。しかし匡を狙おうにもニルズヘッグのガードはあまりに固い。
『もうっ、もうもうもう、や!!』
 駄々を捏ねたところでもう遅い。淡々と詰める匡の狙いは恐ろしく正確で、軌道を変えたリボンで弾丸が逸らせたところで、出来るのは一回だけ。次々と学習されて確実に打つ手が狭められていくことに、只管ツミコは焦っていた。
 だが、阿吽の呼吸で槍突き出すニルズヘッグの一撃に込められた呪詛が、絡みついて離れないのだ。
『~~~もうっ!!』
 もう行き絶え絶えのツミコが放ったのは、波の如き梔子の花弁。
 拒絶するように、追い払うように放った花が、噎せ返るほど甘い香りごと――爆ぜた。
『え、』
「与えられる幸福なんざ、私は御免だ。達成感のない目標に、価値はない」
 ニルズヘッグの竜翼の羽搏きが、たった一瞬の間を作ったのだ。
 匡の銃口が、ツミコを見ている。
「俺は人任せの幸福なんて望まない。――他人が犠牲になっているなら、尚のこといらない」

 漆黒の弾丸が“神を騙ったもの”を撃ち落とす。
 もう二度と、鈴が鳴ることはないだろう。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨宮・いつき

己の欲の為に他者の犠牲を厭わない…その身勝手は手放しに看過は出来ません
ですが…その欲につけ込み人心を誑かし、市井の人を徒に犠牲にする
貴女のその非道はそれ以上に許し難い
神を名乗る悪しき者、今ここで討ち果たさせて頂きます

青い鳥は陰陽宝珠から放つ、【破魔】の力を込めた【範囲攻撃】で迎撃します
相手の攻撃は間断無く続くでしょうが、迎撃の術式と並行した【多重詠唱】で九頭龍様をお呼びし、顕現して頂きましょう
九つ首から散弾の如き水の息吹を放って青い鳥ごと敵を撃ち、
仮に避けられても着弾した水を神酒の霧へ変じさせて敵を包み、酩酊させます
淀んだ思考で二度目の攻撃も避けれるほど、九頭龍様の神威は甘くありませんよ



 雨宮・いつき(憶の守り人・f04568)が横目で見た、先ほど願いを叶えてもらった一部の人々は視線を下げたままだった。
 少し指摘された程度で動揺するなら、何故願ったのか。
「何故、己の欲のために犠牲を厭わなかったのに……」
 今更、悔いるような素振りをするのか。人はずるい――過った思考を振り切って、いつきは浮かべた八尺瓊勾玉―陰陽宝珠―に破魔の力を込めた瞬間、ツキコと名乗るUDC ツミコがいつきを呼んだ。
『ねえ、いらないの?』
 ぷうっと頬膨らましている様だけは、まるで幼子のよう。
 けれど滲む何かは確かにツミコが人ならざる者であると、いつきに訴えかけていた。
「貴女の非道は許しがたい。……神を名乗る悪しき者、今ここで討ち果たさせて頂きます」
『なあにそれ』

 明確に拒否も肯定もしなかったいつきに、ツミコは不思議そうな顔はしたものの、走った破魔の衝撃波に目を吊り上げていつきを睨みつけると、微かな甘い香りを認識した次の瞬間には、波の如く迫る梔子の花弁が噎せ返るほど甘い香りと共に殺到する。
「ぐ、」
『……ツキコ、わるくないもん』
 紅玉の瞳を潤ませ、ツミコは叫ぶ。
『ツキコは、わるくないもん!』
 襲い来る凄まじい眠気がいつきの判断力を揺らがせ、次々重なる甘い香りに息が詰まりそうになる。頭が痺れて何も考えたくなくなるような、全て委ねてしまいたくなるような――……意識が落ちかけた時、偶然当たった陰陽宝珠がいつきの頭を打った。
「っ、あう!?」
 突然殴られたような痛みと去った眠気に足をふらつかせながら、いつきは咄嗟に指を組んだ。
 脳裏に浮かぶのは数多の術式。織り上げ紡いで繋ぎ合わせ、重ねた高速詠唱と多重詠唱がいつきの周囲に数多の文様を浮かばせる。
『きれいね!でも……ねちゃえばいいのに。ね、とりさん』
「いいえ、水神の逆鱗に触れし者に、清き怒りを与え給え……参りませ、九頭龍大明神!」
 UC―龍神絵巻開帳 ライオット・オブ・デリュージ―。
 いつきの言の葉に合わせて出でたのは、いつきを取り巻く真白い九頭龍。わあ、と手を打って喜ぶツミコと放たれた青い鳥の影共々、全てを押し流すように神酒の霞で吹き飛ばす。
『きゃっ!……いた、い?あれえ?』
 毒や呪詛を浄化する神酒の霧はツミコにとっては一種の猛毒にもなりえる。痛みと共に体験したことのない酩酊感を受けたツミコが体をふらつかせれば、いつきの思惑通り。
『もう、へんなことしないで!』
「……九頭龍様、終いといたしましょう」
 伸ばされた赤いリボンの雨を、いつきの呼んだ九頭龍が一つ首の水の息吹で振り払うと、残る八つ首が嵐の如き水の刃でツミコを切り祓った。

 土砂降りの雨のような中、ツミコは霞と消し流される。
 気づけばいつきの鈴もいつのまにか消えていた。
 
 星が瞬いている。
 
 

苦戦 🔵​🔴​🔴​


●今宵の燈火がたりの場合   ジャスパー・ドゥルジー様


●顧みぬ背に信を置ける場合  鳴宮・匡様、ニルズヘッグ・ニヴルヘイム様


●酔夢に舞う狐蛇の宵の場合  雨宮・いつき様


 になります。
 差し込み損ね、失礼いたしました。
シャト・フランチェスカ
◎🔴

花を見たいの?
散らすほうが好きそうな貌して

しあわせの青い鳥
欲しいのは痛みだわ
だから、存分に傷つけて頂戴
私の纏う白が真紅になる程

なぜって
生きていないと痛くないもの
貴女、まだ痛覚は生きている?

私に得物は要らないの
紡ぐ言葉がいっとうの毒だから

ねえ、狂った神様
ツキコだなんて皆に呼ばせて
貴女の正体はなあに
赫い眸はお揃いね
貴女もこちら側の娘ではないの?

私は『シャト』を依代にしなければ
満足に顕現もできない影法師
貴女には捧げ物が必要?
与えると見せかけて奪う
喰い尽くして嗤う

かみさま、だなんて
そんなものよね

貴女はひとりぼっち
終わりのない孤独の埋め合わせに
か弱い存在を侍らせて

憐れまれたことはある?
可哀想な神様



●お喋りな薄桃の徒花の場合

 くるりとそのペン先がバツを描いた時には、シャト・フランチェスカ(殲絲挽稿・f24181)はの眼の色が変わっていた。
 明確に色を変えたのではなく、それとは少し違うような――……あえて言葉にするならばまるで中身が違うような、そんな風に。

 ふわふわ天から降りてきた少女の問いかけは、酷く威圧的であった。
『……いらないの?』
 たった一言。されど一言。
 ひらりひらりと名残の白い花が風に踊る中、UDC ツミコを視界に捉えた瞬間、にんまりと赤みがかった瞳で弧を描いたシャトが撥ねるような足取りでツミコに近づくと、逆に尋ね返した。
「花を見たいの? 散らすほうが好きそうな貌して」
 脈絡のない問いかけであった。
 くつくつと喉を鳴らせば、シャトの髪飾る桜にツミコはにこにこ笑顔を向けながら近寄って。
『おはなはきれいだからすきよ! ねえ、おはなのあなた、ほしいものはなあに?』
「ああ、貴女の幸せの青い鳥――そうね、欲しいのは痛みだわ」
 シャトがそう答えた瞬間、きゃらきゃらとしたツミコの笑い声と共に実体無き青い鳥がシャトを傷つける。
『あなたへんなこ! ふふ、おもしろいわ!』
「ええ、存分に傷つけて頂戴。私の纏う白が真紅になる程。そうして語ろう、雨が止むまで。騙ろう、夜が明けても」
 叶えることを良しとしたツミコの青い鳥が再びシャトを強襲すれば、シャトの言葉通りの様相になっていた。
『ねえ、あなたいたくないの? いままでね、こんなこというひと、いなかったわ!』
「……生きていないと痛くないもの。貴女、――まだ痛覚は生きている?」
『え?』
 げほり、と咳をしたツミコの口から落ちたのは血であった。
『あれ?』
 げほり。ごほり。
 こん、こん、ごほっごほ、げほっ!
「私、得物は要らないの。紡ぐ言葉がいっとうの毒だから」
 不思議そうな顔で咳き込んでは血を吐くツミコを見た瞬間から、シャトの眼も口角も弧を描いたまま、張り付けたような笑顔になっていた。
 にこにこ、にこにこ。シャトはひどく楽し気に、いっそ踊り出しそうな雰囲気で笑っている。
『なん、れ……?』
「ねえ、狂った神様。ツキコだなんて皆に呼ばせて、貴女の正体はなあに?赫い眸はお揃いね。もしかして、貴女もこちら側の娘ではないの?」
『え、あ……ツキコだよ。ツキコ、だもん……ツキコは、ツキコで――』
 矢継ぎ早の問いかけに目を白黒させながら、咳止まらない中でもツミコが発しようとした言葉に、シャトは容赦なく言葉を被せていく。
「私は『シャト』を依代にしなければ満足に顕現もできない影法師でね。そして貴女には捧げ物が必要? 与えると見せかけて奪う、喰い尽くして嗤うというのかい?」
 ねえねえと笑顔のまま言葉を重ねて重ねて。
 シャト――否、シャトではないと語るものは、答えも逃げ道も奪いつくして。
「かみさま、だなんてそんなものよね」
 吐き捨てるように、伏したツミコを見下ろした。

「貴女はひとりぼっち……可哀想な神様、」
 ああ不幸なことよ、と口にするシャトの顔は、やはり笑っている。
 UC―Don't Lay Down Your 《✕✕》 キミシニタマフコトナカレ―。奪って騙って殺してしまうくせに、死ぬなとはよく言うたもの。

 てっぺんぐらりん。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾


眼前の少女めいた神のように
いとけなく首を傾いでみるけれど

そうねぇ
欲しいもの、
何も浮かばなくて

淡い笑み浮かべ
幽かに肩を竦める

誰かが幸福なら
誰かが不幸であったり
世の理は、陰と陽
表裏一体

其れでも

例え希う何かがあったとしても
誰かの犠牲のもとに与えられる、と識っている血濡れの幸いなど、
後ろめた過ぎて寝覚めが悪いでしょう?

不思議そうにきょとんとするあなたも、
ひとに仇なすあなたへ怒りに燃え上がらぬ私も、
神と呼ばれる者同士
ひとではない者同士

優美に掲げた指先で
空に描くは七つ星
神と崇められし其の御力を
封じてしまいましょう

あなたを断罪するのは私ではない
涯てなる骸の海で待つ
理不尽に散らされた命たちから、裁かれなさい



●宵に花の馨とモノがたり

『……いらないの?』
 そう都槻・綾(絲遊・f01786)に問う少女めいた“神”と呼ばれているコレは、本当にただ見ただけならば、少女然としたものだった。
 白くまろい頬に桜色を差して南の海の如き碧き髪艶やかに、差し色の髪飾りと同じ色をした紅玉の瞳を潤ませて。本当に、綾と同じく“まるで最初から人のような”風で。
「そうですねぇ、私は……」
 逡巡の末、綾は続く言葉が出てこなかった。
 内心困った果てに眉を下げて肩を竦めてしまえば、頬を膨らませたのはツキコ様と呼ばれるUDC ツミコの方。
『ねえねえ、あなたほんとうにいらないの?』
 今までそのようなことを言われた事が無いのだろう。見目と同じく、まるで幼い子供のように『なんで?どうして?』と綾の周りをぐるぐる歩き、最後に正面へ来ると、また頬を膨らませ腰に手を当て怒っていると表現するようなポーズを取った。
「……誰かが幸福なら、誰かが不幸であったり。世の理は影日向、陰と陽の如く表裏一体です」
『むつかしいの、ツキコわかんないよ』
 綾の言葉に右に左に首を傾げた末、膨らましていた頬を窄ませてしゅんとしたツミコに綾は膝をついて目線を合わせ、説くように言葉を重ねていく。
「そうですね、例え希う何かがあったとしても、誰かの犠牲のもとに与えられると識っている血濡れの幸いなど、後ろめた過ぎて寝覚めが悪いでしょう?」
『……ツキコじゃだめってこと?』
 分からないことが更に分からなくなったのか、きょとんとした顔で小首傾げたツミコを綾はそっと撫でながら、少し困ったように微笑みを浮かべながら、思う。
 百余年あまり、小さな手を血に染めてきたこの“神”と祀られた少女と、香炉の身の上で永き在り方の末“命”得た己の身。変わらぬ“人ならざるもの”同士であることと、この少女に命奪うことの罪悪を感じていない様を感じてしまった綾は、どうにも、どうしても、怒れなかった。
 無知を罪というならば、それを悪と教えなかったことも罪である。
 罪はいつか裁かねばならない。どのような形であれ、必ず。
 綾は“ごめんね”と言わなかった。ただ唇で紡ぐに留め、音にはせずに符を一枚手に取って。
「――神と崇められし其の御力を、封じてしまいましょう」
『え? ――や!』
 七星描いたその指で、綾がツミコの胸元に符を翳せば柔らかな白い光が結ばれた。
 どんなに引けども外れない、解けない、強固な結び。名を、UC―七星七縛符―。
『なんで!や!や!』
 とりさん、と叫べど幸福の青は羽搏かず、髪のリボンまで手は届かない。足踏みすれど梔子は決して、馨らなかった。
『やー!!』
「あなたを断罪するのは私ではない。涯てなる骸の海で待つ理不尽に散らされた命たちから、裁かれなさい」

 幼子の癇癪も叫びも、涙も、花のように散っていく。
 まるで罪のない真白い花に紛れて空へ行く。

 微かな朝の気配が香る。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子

貰ったのが先か上げたのが先かなんて、興味はないの。
罪も罰も領分ではない。
ただ。
報いというのなら、これもそのひとつというだけよ。

誰も守る必要が無いなら話は早い。
鞘を解いた刀を下げて、踏み込み距離を詰めましょう。

リボンに囚われたら厄介だけれども。
あたしを留めるには、あたしに触れる必要があるでしょう?
それなら、動きを縫い止められる前に斬れば良い。
触れたら終わりは此方側にも言えること。

願いはあるわ。望みだってあるけれど。
それを、おまえに叶えて欲しいとは思わない。

……、あたしは、おまえと此処の人間の是非を問いに来たわけじゃあないのよ。
見つけたからには逃がさない。
あたしはただ、終わらせに来ただけだもの。



●花鬼の剣閃奔る場合

 物事には領分というものがある。
 世に生くるものならば、何事も踏み込みすぎてはならない――それは、花剣・耀子(Tempest・f12822)の胸にあるルールの一つだ。

『……いらないの?』
「あたし、貰ったのが先か、あげたのが先かなんて、興味はないの」
 威圧感放つUDC ツミコことツキコ様へ答えた耀子の言葉は淡々としたものであった。その答えに、むっと眉寄せたツミコがもう一度問おうとした時、先に口を開いたのは耀子だ。
「それに、罪も罰もあたしの領分ではないけれど……これはただ、報いの形の一つ」
 耀子が“何かを握った”瞬間、ソレは解き放たれる。
 クランケヴァッフェ―機械剣《クサナギ》―それはUCD オロチを内包せし回転刃剣。鳥居の如き飾りから指先が入り柄を握れば、耀子の手に妙に馴染む一刀。
 警戒したツミコが眦つり上げ耀子を見た。
『あなたきらい』
「そう、」
 殺到した青い鳥の間を縫うように耀子は駆ける。
 掠める翼が嘴が肌を切れども、ソレが何だ。だんっ、とツミコの一歩手前で思い切り踏み込めばツミコがびくりと肩を震わせる。逃がすわけにはいかない。
「そこに“在る”貴女を斬れない理由は無いわ」
『っ、あ゛……!!』
 UC―剣刃一閃―は、素直に叩き切るための剣技である。
 ぞふりと抉る様に裂き切る機械剣《クサナギ》は肉食獣の牙に似てツミコを抉った。
『こないで!』
「――ふ、」
 トンと耀子が半歩下がった時、怒涛の如くリボンが殺到し耀子を吞み込んだ――かに見えた。真っ赤なリボンがめちゃくちゃに暴れ切ったとき、残ったのは砂埃だけ。
『え――』
「あたしはただ、終わらせに来ただけ」
 ツミコの真後ろからした声が袈裟懸けに薄い背を斬る。
 真っ赤な花の如き飛沫が草原に散って。
「おまえと此処の人間の是非を問いに来たわけじゃあないけれど」
『な、んでぇ』
 競り上がる血を、ツミコが吐いた。
 激痛に体を丸めて涙を流す様は一見ただの人のようだけれど、放たれた実体無き青い鳥が耀子の頬を切る。
「……あたしが見つけたからには、逃がさない」
『うぅぅうう!!』
 ぞぶりと、肉の切れる感覚。

 花が散る。
 真白い花が散って、夜空を踊って――そうして山の向こうがほんの僅かに明るい気がする。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユルグ・オルド
◎ ふ、と息吐いて踵鳴らして
お目見えすんなら楽しみだなんて
罰当たりかな

施して貰うモンはないが
遊んでくれるかい、お嬢サン
大仰な動作で誘ったら
武者震いだと笑って駆け出そう
絡むリボンは力のままに
振るって抜くのはもっと先まで
奔った赤に気を止めるでもなし

他人で対価支払った誰かさんも
今は助けてやろうじゃアないか
カミサマだからね、なんつって
いいや向こうから見りゃ悪者かなァ
どちらにせよ今この時だけは
儀式も忘れてその指先まで戦場へ

今一瞬駆けるなら
刃の触れる距離だけを思って
顧みず飛び込んで熄で切り伏せる須臾まで
良い名前だね、ツキコ
貰えるなら月がほしかったな、なンてな



●システマの影に星瞬く

 “神”の降臨を、ユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)は内心今か今かと待っていた。
 そうして目の前にした“ツキコ様”とやらは、一見して所謂神というよりも、何とも不思議なことにただの少女に見えた。――肌にヒリつく圧力さえ感じなければ。
「あれが……ねえ」
 お嬢サンじゃあないかなんて言葉は呑み込んで向かい合えば、ツキコ様は音がしそうなほどにこりと綺麗で、どこか作り物めいた笑顔を浮かべてユルグを見た。
『……いらないの?』
 得物に掛けた手をそのままに、ユルグは少し柔らかな笑みを浮かべる努力をしながらツミコを見た。
「施して貰うモンはないが……遊んでくれるかい、お嬢サン?」
 上げた手をふうわりと流れるように胸へ当て、洗練した所作で行う礼はいっそ慇懃無礼に見えるが、ユルグの所作が物珍しいのかツミコはぱちぱちと手を打って微笑んだ。
『あそんでくれるの? ほんとう? なにをするのかしら!』
「戦いごっこ、なんてね」
 草を蹴り出した時、ちりんと鈴が鳴ったのが聞こえたのは、それが最後こと。

 きゃらきゃら笑う声と共に殺到した赤いリボンのに襲われようと、ユルグは足を止めない。
 ど、と踏みしめた一歩でツミコの間合い30センチまで踏み込んだ瞬間、見切り抜き撃つ居合の一刀。
「――王手、」
『きゃあ!』
 ユルグのUC―熄 ツフラ―が、袈裟懸けの一撃をツミコに刻み込む。
 目にも止まらぬ一刀に対応し損ねたツミコが身悶えたのを見届けもせずユルグが飛び退き背で受け身を取った瞬間、その場に上から殺到した赤いリボンの滝が草を散り散りに踏み潰す。
『~~っ、いたい!あなたひどいわ!たのしくない!』
「俺もカミサマだからね、ちょっと力比べさ」
 なんつって、といった直後横合いから束ねられたリボン、否赤い大木がごとき物がユルグを殴り飛ばす。
『ひどい!』
 咄嗟にオーラと草の柔らかな場所を見極められたからこそ軽傷ですんだが、ユルグの頬が引きつる。
「おいおい束ねられるなんて――」
『あなたなんかきらい!』
 聞いてないんだが、という言葉は言う前に呑み込まざるを得なかった。
 子供の癇癪のような攻撃に計算などないなら、自身もまた感覚と経験、そして平坦そうに見えて凹凸のある草地を利用し、ユルグは舞を舞うように避けていく。
 指先まで神経通して、しなやかでいて艶やかに。だがここはもう既に戦場なれば。
「なあ、ツキコ」
 怒るツミコは答えない。
 実体無き青い鳥を差し向けて、ぎゅうっと握ったスカートはくしゃくしゃ。潤みきった紅玉は熟れたように潤んだまま。
「――良い名前だな。今日、月はねェけど」
 お前の名前があるからな。

 ユグルの埋火の如き太刀筋が斬った月は鮮やかなまま、草原に沈み込む。
 山の間、僅かに光が覗いたかに見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鎹・たから


要りません
欲しいものを叶えてくれる代わりに
誰かのいのちが引き換えなのでしょう?

あなたの欲しい花は咲きません
もう二度と、咲かせません

攻撃の中を素早く駆けぬけ
躱しきれぬリボンは手裏剣で斬り払い
更に氷の膜で防ぎます
【ダッシュ、オーラ防御

たからはあの子と
怪我をしないと約束しました

必ずすくうと、約束しました

残像を残し超接近
確実に氷の拳をツキコに与えます
砕け散りなさい
【暗殺、早業、貫通攻撃、衝撃波

あなたがどんなにすごい神様でも
あなたのせいで涙を流すこども達が居ます
全て、全て終わりにしましょう

誰かのいのちを奪って幸せを手に入れた人々も
元は善良であったはず
彼らはきっと、罪を償えると信じています



●黒曜の鐶のうたいての場合

『……いらないの?』
「要りません」
 直後、鎹・たから(雪氣硝・f01148)の頬を姿形無き青い鳥が掠めかけた。咄嗟の氷のオーラが間に合い、切ることは免れたが、ついとたからを指差すUDC ツミコの眼は決して笑っていなかった。
 嫌に長く感じるこの間合い。つう、とたからの頬を汗が滑る。
 震える指先を叱責するように握りしめ、たからは声を張った。
「欲しいものを叶えてくれる代わりに、誰かのいのちが引き換えなのでしょう?」
『だって、みんながいつもくれるのよ』
 真っ赤なお花。
 そう目を細めて笑ったツミコの瞳の奥に、たからは邪なる根幹を見た。
 いくら見た目が子供のようであろうと、アレは百余年も信奉され続けついぞ“神”を騙ったUDCなのだ。人類の敵。更に言うならば――子供の敵でも、ある。
 この地において黒髪の子供はまだマシだろう。だが、贄として連れてこられていた亜麻色の髪の子供たちはどうだ、あれはそう……“死ぬため”だけに此処に連れてこられたのだ。
 他者の幸福の礎となるためだけに、此処へ。
 正義の味方としては勿論、たからが一人の羅刹だとしても、決して看過出来るものではない。
 だからこそ。
「――あなたの欲しい花は咲きません。もう二度と、咲かせません」
『どうして? あなた、おはなはさかせられないの?』
 此処で潰す。
 六花結晶手裏剣と青い鳥がぶつかり合い、爆ぜた。

 障害物目立たぬ草原駆けるたから健脚は目では追いきれぬ素早さを保ちながら、ツミコの操るリボンを刈ってゆく。
『ああ、もう!』
 苛立ったような様子で、ツミコが極限まで意識高めやっとたからの足を掛けるように一瞬絡めたとて――。
「邪魔です」
『っ、この!』
 たからの六花結晶手裏剣がいとも容易く赤を刈り取る。
 鼬ごっこの様に見えて、隙間縫うように投下される手裏剣は徐々にツミコの体力と集中力を削り続けた末、とうとう歯を噛みを業を煮やしたツミコが怒りに叫んだ。
『もういいわ!あなたなんてきらいっ、だいっきらい!』
「あなたがどんなにすごい神様でも、あなたのせいで涙を流すこども達が居ます」
 決してたからは心を波立たせない。
 淡々と、粛々と、己の目指した役を全うするかのように手裏剣を擲ち続ける。
『しらないっ! ツキコはそんなのしらないもん!』
「ならば――」
 頭を抱え叫んだツミコが無差別に放った姿形無き青い鳥が、落とされた。
 滝の如く放たれた赤いリボンの群れを、踏み出した一歩を体の軸ごと後ろへ戻して避けた直後自然と前へ踏み出すのに合わせ、たからがトップスピードでツミコを肉薄する。
「ならば疾く、砕け散りなさい」
『こないで!』
 たからだけが扱えるUC―冰雪 コオリユキ―。
 引き絞った拳から打ち出すように放たれた正拳突きがツミコの全身を駆ける衝撃波にツミコの口から赤が飛ぶ。
『あ゛、ぅ』
「全て、終わりにしましょう」
 凍てる拳が神騙ったものを打ち壊した。

 きらきらかしゃかしゃ、乾いた音と共に凍てついた神だったものが崩れてゆく。
 ふとたからが顔を上げた時、朝露の煌めきが瞳掠めた気がした。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鬼桐・相馬

どれだけ希っていたとしても
個人の欲望に使われる為に嘗ての鈴付き達は生きていた訳ではない

〈冥府の槍〉を意識して握り込み重圧に抵抗、[落ち着き]を呼び起す
赤いリボンは槍と身体から発する冥府の炎で[焼却]できるだろうか
槍で受けられる攻撃ならば積極的に受け反撃を入れて行く
それとは別に己に薄く[結界術]で障壁を貼り保険を

そのリボンも服も、髪も
そんな燃え易いもの、火の側に在っては駄目だろう
一気に踏み込みUCを発動

ここで散った花の気持ちをお前も知るといい
猟兵が動いた時点でこれ以降花が咲くことはない、儀式もお終いだ

恩恵を受けた奴らは現世で残りの生を楽しんでおけ
地獄の底では俺の同僚が命尽きるその時を待っている



●天秤傾けし青鬼の場合

 願っても助からなかった命があり、願ってもいないのに潰された命がある。
 己の欲望の為に他者を突き飛ばした者がいて、己の願望の為に命軽んじた者がいる。
 その惨き行いを、鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)は決して許さない。
『……いらないの?』
「鈴付き達は個の欲望の贄となる為に生きてきたわけではない」
 ぎりぎりと音がするほど冥府の槍の柄を握りしめながら、相馬は夜闇にも冴える鋭い金眼でUDC ツミコを睨み上げる。
 すれば、ツミコは相馬を見下ろして悪びれた様子もなく“笑った”のだ。
『だって、みんながくれたんだもん!』
 地獄の紺青の炎が夜を焼かんと立ち昇る。

 殺到する赤いリボンを振り払うように、相馬は重量級の冥府の槍をいとも簡単に振り回す。
 雨霰の如く飛来する姿形無き青い鳥を、時に踏み壊し、時に蹴りこみ、間に合わなければ滑り止めの利いた軍靴がより正確な回避を生み出していく。
 水平に構えた槍を突き出しツミコが身を翻して交わした直後、相馬は言う。
「燃えやすいものを火のそばに置くな」
『え……!?』
 振るい方一つで一瞬下火になった紺青の炎が爆発的に槍を包めば、ツミコの髪を焼却する。
『や! なにするの!』
「そうか、ならば――その身の内から冥府を知れ」
 突いた槍をそのままフルスイングすればツミコの軽い体は吹き飛ぶ寸前、発動されたUC―炮烙棘 ホウラクキョク―がツミコに深々と炎を打ち込んだ。
『や! や、なにこれぇ……もう!』
 泣けど喚けど、冥府の炎は消えはしない。
 紺青の焔は、裁くべきものを逃がさない。
 貫通した腹の傷と、楔の如く突き刺さる炎に這うツミコを相馬が見下ろしている。藻掻き苦しみ、助けをこう幼子のような風貌――だが、ツミコの罪過を知る相馬に慈悲など無かった。
「ここで散った花の気持ちをお前も知るといい」

 鮮やかなる青い焔が闇振り払うように立ち昇った。
 強い視線を感じ相馬が振り返れば、瞳孔開いたままの青年が呆然と相馬を見ていた。軍帽を上げ、青年ごと残る黒髪の一族を眺め、淡々と告げる。
「恩恵を受けた奴らは現世で残りの生を楽しんでおけ。地獄の底では、俺の同僚がお前達の命尽きるその時を待っている」
 心より。
 
 山の向こう、微かに真白い輝きの片鱗が見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈴・月華
あなたからの施しは要らない。私はあなたを刈り取って、今までの対価を取り立てるだけ
それに。お師様は欲しいものは自分の手で手に入れるものだって言ってた
その方が何倍も得られるものが大きいって

大鎌を握って【死神は微笑まない】を使う
最初は少しでも掠ればいい。大鎌が敵のことを憶えて、どんどん精度が上がるから
花弁と甘い香りは大鎌を振るって、衝撃波を発生させて吹き飛ばす

あなたを刈り取るということ
それはここに暮らす人たちからも取り立てることになる

幸福を与えられることに慣れきって、自分の手で掴むことを忘れている人たち
明日は、明後日は、今日よりも幸せになれるようにと自分から頑張らないなら。そこに取り残されるだけだよ



●邂逅

『……いらないの?』
「あなたからの施しは要らない」
 ぴり、と総毛立つような感覚が走るも、鈴・月華(月来香・f01199)は譲らない。紫苑色の瞳を逸らさずUDC ツミコと睨み合いながら、更に月華が重ねたのは師の教え。
「師様は欲しいものは自分の手で手に入れるものだって言ってた。その方が何倍も得られるものが大きいって」
『ふうん、いらないんだ……じゃあ、わらしもいらない!』

 ガァン!と激しい音を立て、月華が飛来する姿形無き青い鳥を撃ち返す。
 行きわたるツミコの念動力で的確に虚を突かんとする鳥達は厄介だが、月華はほぼ勘で避けていた。
「っ、くっ」
『またよけちゃう……じゃあ、こうしましょ!』
 次に迫ったのは赤いリボンの洪水。怒涛の如く操られた赤いリボンが月華を呑み込まんとすれば、月華は笑った。こんなもの、想定の内なのだ。
「えいっ」
 全身で捻るように遠心力を使って振るう大鎌の衝撃波は広範囲に利く。
 断ち切られて散るリボンに歯を噛んだツミコの頬から、つうっと赤い筋が一本。先の衝撃波が掠めていたのだろう。
 と、月華が軽やかな足取りで撥ねるように迫る。
 不思議と半歩、先ほどより早く感じるのはなぜか、目を凝らすように擦ったツミコは、また月華の鎌の先に身を掠められて。
 また半歩月華の踏み込みが早くなる。
 どうして。おかしい。
 ぎゅっと拳握ったツミコが苛立ち紛れに叫ぶ。
『どうして、どうしてしあわせになりたくないの!』
「幸福は、与えられることになれていいものじゃない」
 月華は諭すでも話すでもなく、淡々とツミコに答える。
 なんでと叫ばれる度、どうしてと涙される度、全てに等しく淡々と答えていく。

「今日より幸せになろうと自分から頑張らないなら、ずっと立ち続けているのと同じ。後も先も無くて、取り残されるだけ」
 そう、この集落の幸福に後と先はない。
 まるで染みのようにボツりボツりと落ちた墨のように描かれていくだけ。
 点はつながらず、この点は一生そのままなのだろう。
「だからそれはもう終わらなきゃ。幸福と違って、死は全てにおいて平等だよ。ただ来るのが遅いか早いかの差があるだけで」
 あなたはいますぐ。
 すれ違う時、月華にそう告げられたツミコは慌てた。先ほどからどんなに逃れようと不思議なほどの精度で月華の鎌、鈴華が迫ってくる。
 どこに隠れようとも逃がさないと言わんばかりの刃が――眼前に。
『あ、』
 UC―死神は微笑まない スゥシェン―。
「あなたを刈り取ったら、あの人達からも取り立てるね」
 拒否権許さぬ白銀の刃が、綺麗な切り口で首を刈る。
 過ぎたる幸福のご利用は計画的に。他者へ押し付けた不幸の対価は、全てを以って償われなければならない。

 山の間から朝の光が差し、月華を照らした。
 きらきらと透き通る真白い髪も、白い肌も、紫苑の瞳も宝石のよう。
 悍ましき夜が明け、冷えた山の空気を温める朝日がゆっくりと昇ってくる。

 ほんとうに朝が来た。
 花舞う儀式がなくなって初めての、ほんとうの朝が来た。

 誰の足にも鈴は揺れない。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年07月03日
宿敵 『ツミコ』 を撃破!


挿絵イラスト