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ミズ・エングレービングの帰郷~鉱石の彩を添えて

#アルダワ魔法学園 #戦後 #北方帝国

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●ミズ・エングレービングの帰郷~鉱石の彩を添えて
 北方帝国は、アルダワ魔法学園の北西に位置する、金属や宝石などの鉱石を多く産出する地域だ。
 鉱物資源を利用した蒸気機械技術も発達しており、魔法学園との技術交流も盛んであることから、それが高じてアルダワ魔法学園の学生になる者も少なくない。
 シィラ・エングレービングも、その一人。
『カルセドニーならジャスパーやカーネリアンも好きだけど、模様次第で表情が変わるアゲートが一番好き、かしら。彫り甲斐があるもの』
 鉱石ランプが放つ光で像を結ぶ――蒸気魔法だ――スクリーンに映る女は、ハニーブロンドを所々跳ねさせ、黒縁眼鏡の奥でエメラルド色の瞳を少女のように輝かせる。
 年の頃は三十に差し掛かろうかというところか。雰囲気からして、猟兵ではなさそうだ。
 どうしてこの場面でアルダワ魔法学園の一般生徒が話の輪に加わっているのだろう――という疑問は、シィラへ『うちの娘の為に、何か作ってちょうだいな』と約束をとりつけているハーモニック・ロマンティカ(職業プリンセス・f30645)によって明かされる。
「災魔が出ると予知したのが、シィラさんの故郷なの」
『偶然、里帰りしていたタイミングだったのよ。ちょうど彩祭の時期だから、災魔もそれに釣られちゃったのかもね?』
 ハーモニックに求められるまでもなく、シィラは語り出す。
 街の名は、エングレービング。
『あ、私の姓と同じと思ったでしょ? でも単にエングレービング姓が多いだけで、私自身は特別立場でもなんでもないのよ。うちは代々、彫刻師の家系なの。彩祭でも屋台を出すのよ』

 彩祭。シィラがそう呼ぶのは、エングレービングの街で年に四回催される夜祭ことだ。
 街一番の大通りにずらりと並ぶ屋台にはそれぞれ扱う石や装飾に特色があり、時にはその場で客の注文に応えてオリジナルの品を作ってくれるのだそう。
 ちなみにシーズンごとで、扱う『部位』が異なる。冬前は足、春前は首、夏前は手、秋前は耳といった具合に。
『今度は手ね。ブレスレットやリング、マニキュアを作ったり出来るわよ。そうやって一年を通して、自分を彩るとっておきを作っていくの。素敵でしょ!』
 故郷の催しを語るシィラは頗る楽しそうだ。
 だがエングレービングには災魔の危機が迫っているはず――しかし。
「ひとまず、皆さんも彩祭を楽しんでらして? そうすれば災魔は自ずと姿をあらわしてくれるわ。それがわたくしの予知だもの」
 ふふふ、と微笑むハーモニックの貌にも腹にも裏はない。つまり本当に、まずは彩祭を楽しめば良いらしい。

『石の種類はもちろん、金具だって店ごとに種類がたくさんあるから、絶対お気に入りが作れるわ。マニキュアだって、容器の硝子瓶から迷えるから幾ら時間があっても足りないかも!』
 ――螺旋を描く指輪に、カラーチェンジする石を乗せたらきっと素敵。
 ――ロードナイトを薔薇のカメオに仕立てて、ブレスレットにするのも良さそう。
 ――ラピスラズリベースにベニトアイトを加えたら、きっと夜空みたいなマニキュアが出来るわ。
 ――蒸気魔法を仕込んだチャームを使うのも面白そうね。
 はしゃぐシィラは今回は案内人ということで、現地で猟兵と合流してくれる。
 だから石に明るくない者も大丈夫。参考に意見を求められれば、シィラはきっと喜んでお勧めを教えてくれるだろう。

 名のある石、名もなき石、蒸気魔法が込められた唯一無二の逸品。
 彩祭が、あなたを待つ。
 けれどもご用心。
 祭には騒ぎも付き物だから。


七凪臣
 お世話になります、七凪です。
 今回は北方帝国を冒険するシナリオをお届けです。

●シナリオ傾向
 ほのぼの日常系+戦闘。

●シナリオの流れ
 【第一章】日常。
 …OP参照。導入部追記はありません。
  お好きな指輪・ブレスレット・マニュキアをお求めください。
  お一方あたり一品を推奨。
  この章のみの参加も歓迎。
 【第二章】ボス戦。
 …災魔との戦い。
  詳細は導入部を追記します。

●プレイング受付・シナリオ進行について
 各章、受付期間に関してはタグ・個別ページにてお報せします。
 おおよそのスケジュール等を、個別ページの【運営中シナリオ】にてお知らせしますので、諸々参考にして頂けるとありがたいです。

●採用人数
 確実なシナリオ完結を優先する為、全員採用はお約束しておりません。
 第一章は状況次第、頑張れるだけ。
 第二章はさっくり目に完結を目指す予定です。

●同行人数について
 ソロ、あるいはペアまでを推奨。
 3名様以上は全く書かないわけではありませんが、採用率は低下します。

●シィラ・エングレービング
 北方帝国出身のアルダワ魔法学園の生徒。
 明確な石の指定がない方など、彼女に尋ねてみれば、イイ感じにチョイスしてくれると思われます。

●その他
 書けるタイミングで採用・執筆を行います。
 此方から再送をお願いすることはありませんが、お気持ちにお代わりがなければ、再送は躊躇なく・遠慮なくどうぞです。
 執筆が確実に滞る期間は、タグ等でお知らせします。その間はどれだけプレイングを送ってい頂いても執筆は出来ませんが、参考にはさせて頂きます。

 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
 宜しくお願い申し上げます。
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第1章 日常 『爪先彩る』

POW   :    ブレスレットを作る

SPD   :    リングを作る

WIZ   :    マニキュアを作る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

蘭・七結
ともえさん/f02927

以前、戯れの中にて
鉱石を好む貴族の娘を演じていたわね
あのひと時も、たのしかったわ

彩のお祭りだなんて
つい心が踊って、逸ってしまうよう
ともえさん、往きましょうか

せっかくの機会なのだもの
新たな爪紅をいただきたいのだけれど
……そう、ね。金緑石を
アレキサンドライトのものがいいわ

わたしと、あなた
ふたりにとって縁深き宝玉

おんなじ名を関する紅茶
金緑石の刀身を持つ揃いの守刀
思い出を重ねる度に、増えてゆく

思えば、長い時を共に過ごしているのね
この爪紅を見映せば、あなたを思い出すかしら

ともえさんの細指の、その一本だけ
この彩に染めてもいい?

もちろん、喜んで
この彩りを上手に塗ることが出来るかしら


五条・巴
七結と/f00421

ああ、王太子を取り合った時だね?
ふふふ、煌びやかな世界だったね。あの時楽しかったなあ。

季節ごとに彩る部位が違うんだね
洒落た祭りだ
マニキュアかあ。どの色も綺麗だね。
紅や碧、カラフルな色に目移りするけれど、最後に目が止まったのは僕らがよく見る色。
アレキサンドライト

そうだね、僕らとなんだか深い縁のある石、色だ。
少しずつ、思い出と一緒に物が増えてくのが、宝物が増えてくのが、少し怖くて、それ以上に嬉しい。
七結が僕を思い出すきっかけが増えるなら沢山増やそう。

ねえ七結、我儘言っていい?
僕マニキュア塗ったことないから、全部塗ってほしいな?



●アレキサンドライトの記憶(おもひで)
「あのぉ、オレの顔になんかついてます?」
 わずかに眉を下げて此方の様子を窺う青年に、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)と五条・巴(月光ランウェイ・f02927)は顔を見合わせ、小さく吹き出す。
「ごめんごめん、君のせいじゃないんだよ。ねえ、七結」
「そうなの。あなたが少し、わたし達の知っている方に似ていたものだから」
 季節ごとに彩る個所を変える洒落た祭に、心を逸らせていた七結と巴が目に留めたのは、小ぢんまりとした卓にずらりと並ぶ貴石たちではなく、それを商う青年の方。
 金髪碧眼の彼は、なかなかの男ぶりだ。大通りを行き交う年頃の娘たちの中には、彼自身がお目当てらしき者もいる。
 だがそこは何処か浮世離れした雰囲気を持つ七結と、各種グラビアを賑わす巴だ。青年のことが気にかかったのは、恵まれた容姿そのものではなく、重なる記憶のせい。
「あのひと時も、たのしかったわ。ね、ともえさん」
「ふふふ、あそこも煌びやかな世界だったね。此処とは違う意味で、だけど」
 肩を並べて視線を交わし、七結と巴は目尻を下げる。二人の脳裏に浮かぶ光景は、目映いばかりに輝くシャンデリアと、高慢で不遜な王太子。
 電脳の遊興世界で彼を奪い合ったのは、初夏の足音が聞こえ始める頃。そして大気がじっとりとした熱を帯び始める季節に出逢った青年の彩に、七結と巴は『あの』王太子を思い出してしまったのだ。
「そういえば、わたし。鉱石を好む貴族の娘だったわね」
「七結は石と縁があるんだよ、きっと」
「うーん、よく分かんねぇけど。石が好きなら、じっくり見ていってくださいよ。ほら、これなんてお嬢さんに似合いの色でしょう?」
 状況はよく呑み込めないが、七結と巴が十二分に楽し気なのを把握した青年は、貴石たちと共に並べた硝子瓶から、ひとつを摘まみ上げる。それは緋色に紫が差すマニュキアだった。
「確かに七結の色だね」
「綺麗な爪紅ね――でも、そう、ね。金緑石……アレキサンドライトのものはあるかしら?」
 問いつつも、七結の瞳は既に神秘的な赤紫へ向いており、気付いた巴も「あ」と短く声を上げる。
 鉱石ランプの下では静かに佇む色は、得も言われぬ雰囲気を湛え、不可思議な揺らめきを覚える彩だ。おそらく日の光の下であれば――。
「こいつをご所望とは、お目が高いね。ちょいとばかり値は張るけど……ほら!」
「わあ!」
 馴染み深いカラーチェンジに、巴が歓声を上げる。
 青年が鉱石ランプの目盛りを動かした途端、赤紫が水底の青緑へと変わったのだ。
「こいつは魔法のランプでね、お日様の光も再現できるんですよ」
「へぇ、すごいね。ね、七結」
「凄いわ。ともえさん」
 自慢げな青年に是を頷きながらも、巴と七結の心はパルファム瓶に収められた彩へ向いている。
 アレキサンドライトは、巴と七結に縁深い宝玉。
 ――同じ名を冠する紅茶。
 ――金緑石の刀身を持つ、揃いの守刀。
「……思えば、長い時を共に過ごしているのね」
 白い肌に影を落とす睫毛をけぶらせ、七結がゆっくりと瞬く。その横顔へ、巴はことさら嬉しそうに微笑みかけた。
「そうだね。思い出の数だけ、宝物が増えていくね」
 『宝物』が増えることは素敵なことだ――と思う巴の胸には、針先めいた怖さもある。だって宝物はひとつたりとてなくしたくない。
 喪失を恐れるものが増えれば、何時か身動きがとれなくなる場面に出くわす可能性が増すことだと巴は理解している。
 それでも。
「これを使う時、七結は僕を思い出してくれるかな?」
「ええ、きっと。この爪紅を見映す度に、あなたを思い出すわ。ともえさんは?」
「僕も七結を思い出すに決まっているよ」
 二人で過ごした心浮き立つ時間を味わえるのなら、怖さよりも嬉しさが上回る。これからも重ねて往こうと思える。

「ねえ七結、我儘言っていい?」
 気の好い金髪碧眼の青年が幾らか値引いてくれたアレキサンドライトのマニュキアは、巴と七結の手に一瓶ずつ。
「ともえさんの我儘なんて、珍しいわ。なにかしら?」
「あのね、僕。マニキュア塗ったことないから、塗ってもらっていいかな?」
 今日の思い出に、と巴が差し出した手を、七結は目をまるめてみつめ、花咲くようにふわりと笑む。
「この彩に染めてもいいの?」
「もちろん!」
「なら、一本だけ……」
「一本と言わずに、全部塗って欲しいな?」
 おそるおそる一本の指を掬い上げる七結へ、巴は両手を広げて太陽みたいに顔を輝かせた。
「まあ、ともえさんったら。上手に塗れなくても、気分を害さないで頂戴ね?」
「大丈夫。それもまた七結との思い出として、ずっと大事にするよ」
 宵の祭の片隅で、七結が手ずから彩る巴の爪は赤紫に。
 帰って眠って朝日に翳せば、十の彩は青緑へ移ろうだろう。その鮮やかな変化はまた新たな二人にとっての宝物になる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻


まにきゅあ?
成程、爪紅か…
サヨの爪は何時も美しい紅に染っているね
まさか
どんな宝石より美しい爪だ
私も生まれつき爪が紅いからお揃いだね、サヨ

沢山の鉱石があり悩むね
私はあまり斯様な事には詳しくない故
サヨに相応しいものを探したい

私の爪に繊細な指先で咲かせられる桜に瞳を瞬く
指先にまで春が咲いたようで
そしてきみの独占欲のようで心地い

サヨのは私が選ぶ
鉱石達と睨めっこ
黒…黒は前の私を纏わせるようで何か嫌だ
そうだ
ホワイトオニキスを
守りの力が強い鉱石を使ったマニキュアを桜の瓶に詰めてもらう
サヨ、私も…と思ったが中々爪に絵を描くのは難しく不格好な桜に…

それでも笑ってくれた巫女が愛しくて胸の裡が擽ったい心地だ


誘名・櫻宵
🌸神櫻


鉱石で作るマニキュアなんてときめくわ!
爪紅よ!
己の長い紅爪を示してウインク一つ
噫…私の爪は塗っているのではないの
元々、血の様に紅い龍の爪なの
……気味が悪いかしら

ふふ
ありがとう
お揃いねカムイ
私達のあかにピッタリなマニキュアを見つけましょう
紅似合うのは白かしら
カムイと同じ紅と白
噫、けれど
モルガナイトを手に取って桜色のマニキュアにしてもらう
あなたの指先にまで、私(桜)を咲かせていて欲しいから

私のはカムイが?期待してるわ
あれこれ悩む姿もかぁいらし
心が和む心地

神のまにまに、爪には不器用に描かれた白桜
同じ桜型の瓶に詰められているのはホワイトオニキスで作ったマニキュア

大切に抱く
ありがとう、カムイ!



●二色桜~モルガナイトとホワイトオニキス
 声も足元も弾ませた誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)が、朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)の手を引く。
「カムイ、鉱石で作るマニキュアですって!」
「まにきゅあ?」
 聞き慣れない単語をカムイがおうむ返しにすると、ぱちりと片目を瞑って開いた櫻宵が、自身の長い爪を示す。
「爪紅のことよ!」
「成程、爪紅か。サヨの爪は何時も美しい紅に染まっているね」
「噫」
 櫻宵の紅色の爪に、カムイは得心を頷く――が、そこで何かを思い出したように櫻宵の貌が曇る。
「御免なさい。私の爪は塗っているのではないの」
 物の喩えとして見せはしたが、櫻宵の紅爪は生来のもの。血によく似た色の龍の爪。
「……気味が、悪いかしら?」
 ほんの少し前までの喜色は鳴りを潜め、櫻宵はおずとカムイを見遣る。鮮やかな彩ではあるが、その鮮やかさを禍々しく思われやしないだろうか。
 護龍と胸を張る以前が過れば、無意識の不安が顏を出す。なれどそれはカムイにとって気にかける必要のない些事。
「気味が悪い? 何故? どんな宝石よりも美しい爪だよ。それに私も生まれつき爪が紅だからお揃いだね、サヨ」
 櫻宵の恐れが心底分からないという顏でカムイは目を細めた。櫻宵はカムイにとって、何物にも代えがたい愛しい巫女だ。その巫女の何をカムイが忌避するというのだろう?
「もう、カムイったら……ありがとう」
 向けられる真っ直ぐな視線と想いがくすぐったさに、櫻宵は微かに笑むと、また満面を喜色で染め上げる。
「お揃いね、カムイ。なら私達のあかにピッタリなマニキュアを見つけましょう!」
「そうだよね、サヨ。けれど私は斯様なことにあまり詳しくない故……」
「それこそ杞憂よ。こういうのはインスピレーションが大事なんだから!」
「いんすぴれーしょん?」
「直感ってことよ。そうね、私に似合う彩を探して頂戴とお願いしたら、分かりやすいかしら?」
「そういうことなら、私にも択べそうだ」
 言った傍から、ひどく真剣な眼差しでカムイは屋台を眺め出す。大通りの端から端まで並ぶそれらからひとつを択ぶのも大変なのに、そこから更に唯一無二の石(ぎょく)を探し出さねばならぬのだ。集中し過ぎては、体力がもたない。
 だのに鉱石たちと睨めっこするカムイは、自分の疲労などお構いなしだ。
(かぁいらしいこと)
 あれでもない、これでもないと思案するカムイの横顔に、櫻宵の心はふわりと和む。
 もちろんそこには、カムイが自分にどんな石を択んでくれるかという期待もある。しかしそれ以上に、櫻宵のためならばと出し惜しみ無しのカムイの姿勢が嬉しい。
(私も張り切って択ばなくっちゃ)
 紅に似合いは白かしら、と櫻宵も目を走らせて――そこで、ふと。
「噫」
 視界に飛び込んで来たモルガナイトに、櫻宵は天啓を受ける。

「ね、こうすればあなたの指先にまで私が咲くわ」
 作ってもらいたての淡いピンクのマニキュアで、櫻宵はカムイの爪に桜の花を描き上げてゆく。
 一輪、二輪、三輪、四輪、五輪、六輪、――。
 器用に、そして繊細に咲き増えていく小さな桜たちに、カムイの胸まで春色に染まる。
「まるで、きみの独占欲のようだね?」
「嫌かしら?」
「まさか。とても心地好いとも」
 ふう、と仕上げに櫻宵が吹きかけた吐息にカムイは面映ゆそうに笑み崩れると、次は自分の番だと白いマニュキアの封をおそるおそる切った。
「ホワイトオニキス、だそうだよ。守りの力が強いそうだ」
「そうなのね」
 護龍に似合いはやはり護石だろうかと、鉱石の謂れを尋ね乍ら見つけ出したのは白――先に勧められた黒は、以前の己を思い出してしまって断った――の石。
「……サヨ、これは、また……なかなかに、難しい……」
 紅に白は、カムイの彩。不器用ながら懸命に、紅爪に施されていく白桜に櫻宵はこの上ない幸せを味わう。
 何事も、神のまにまに。それが偏に自分を想ってのことならば、これ以上の喜びはない。
「すまないサヨ、随分と不格好な桜に……」
「そんなことないわ。ありがとう、カムイ!」
 不揃いに咲いた白桜と、桜型の小瓶に詰められた白を大切に抱いて、櫻宵は笑みを蕩けさせ。そんな櫻宵に、カムイは身も心も至福の桜に染め上げられながら、色違いの小瓶を堪らなく嬉しそうに指先で撫でる。
 咲いた桜は、二色。
 モルガナイトとホワイトオニキスは、カムイと櫻宵を結び護る新たな絆となるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

百合根・理嘉
ぶっちゃけ、宝石とかは興味ねぇまま
この歳まで来ちまった関係で
まーったくもって詳しくないから
シィラに希望伝えてアドバイス貰お!

え?ならなんで来たって?
二十歳の記念になんか作って貰うのも悪くねぇかな!って?

黒系の宝石メインで茶色系の宝石も添えてくれるとウレシイ!
一つしかダメなら黒!
宝石の種類とかはありふれてるのでいいんだケド
あ!ブレスレットでオネガイシマス
(大事なことを言い忘れてたって顔)
んで、金具はプラチナ一択!

宝石が映えるだろー?
金もイイけどさ!
茶色の宝石も入れて貰うなら
多分、きっと、銀のがイイ!

へ?なんでその色なんだって?
黒は俺の髪色で瞳の色だから!
んで、茶色は死んだ母さんの瞳の色だから?



●母色キャシテライト
 宝石にまったく興味をもたないまま今日まで来たと正直に告げた百合根・理嘉(風伯の仔・f03365)へ、シィラは「まだ若い男の子なんだから、それも当然よ」とあっけらかんと笑った。
「二十歳の記念に何か作ろうと思ったんでしょ? 十分十分。将来有望だわ」
「それって、金づるとしてって意味じゃないだろうな?」
「あらぁ、よく分かったわね……って、冗談よ!」
 どことなく不穏に聞こえた単語に理嘉が訝しむと、年長の女は悪びれた風もなく肩をそびやかす。
 本当にアドバイスを貰うのはこの人で良いんだろうか――という一抹の不安が胸を過るが、行き交う人々とシィラが交わす気安い挨拶に、理嘉は「えぇい、儘よ」腹を括る。
 他に頼る伝手はないのだ。それに窺い知る範疇ではあるが、彼女の目は信頼に値する。
「で、どんなのが欲しいの?」
「えぇと、黒系メインで茶系も添えられたらいいなって思ってる」
「その心は?」
「黒は見ての通り俺の色だろ」
「そうね、髪も瞳も真っ黒ね。で、茶は?」
「…………死んだ母さんの瞳の色だから?」
「ん、まぁ! まぁ! まぁ! なんて、イイコなのっ! イイコなのっ!!」
「ちょっ、やめろってっ」
 ハグする勢いで飛びついてくるシィラを、理嘉は両手を突っ張って跳ね退けた。長身の理嘉に対し、平均的女性サイズのシィラだ。こうしていれば指先さえも届きはしない。
 全く、年上の女性というものはこういうテンションなのだろうか? 宝石同様あまり馴染みのない触れ合いに理嘉は戸惑うが、シィラの方は俄然やる気を出したようだ。
「とびきりの石があるお店に案内してあげる。もちろん、お値段も勉強させるわよ」
「お、おう……あ、ブレスレットな。あと金具はプラチナ一択っ」
 ぐいぐいと理嘉の手を引き人波を掻き分けるシィラへ、慌てて理嘉がオーダーを付け足すと、力強い頷きとにっかりとした笑顔が振り返る。
「了解了解、お任せお任せ。にしても、青年。初心者のわりに、こだわりあるじゃない」
「やー、だって金より銀のが宝石が色映えするかなって」
「あなた、本当に将来有望ね。私の実家に弟子入りでもしてみない?」
 惜しみない賞賛と、屈託のないエメラルドの双眸が理嘉にはこそばゆい。
 でも、正気の母と今の自分が出掛けたら――なんて過りかけた想像は、すぐさま心の片隅からも消し去った。
 そんなこと、有り得ない。理嘉は、有り得ないことを夢にみるような子供では最早ないのだから――でも。

「ベースの黒曜石はオーソドックスと言えばオーソドックスだけど。貴方みたいな若い男性でも付けやすいでしょ?」
 出来上がったブレスレットを手首に巻いて、連なる黒曜の真ん中で燦然と輝く茶を理嘉はしげしげと眺める。
「綺麗な石でしょ? キャシテライトっていう、不安を取り除いてくれる石よ」
「キャシテライト……」
 舌を噛みそうな名前だな、と理嘉は悪態めかして呟く。けれどそれは照れ隠し。
 深く澄んだ色の石は、先ごろ仮初めの再会を果たした母の瞳にとてもよく似ていて。
「まぁ、悪くないんじゃねーかな。助かったぜ」
 シィラへ一応の礼を述べつつ、理嘉は暫くブレスレットに見入っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
POW
鉱石を加工しさらなる彩を作る。なんて素敵なのかしら。
でもそうなるとなおさら迷うわ。
そうね華美ではない、シンプルなブレスレットがいいかしら。きっとそれなら占い師という仕事にも支障をきたさないだろうし。
石はおすすめか似合うものがあればご意見伺いたいわ。私は職業柄それなりの石の知識はあるけど、似合うかどうかはまた別でしょう?
あ、でもだからこそ避けたい石は最初に伝えておきます。ラピスラズリと紫色の石。これらはどうにも苦手なの。
紫でもラベンダーアメジストとかローズアメジストぐらい淡い、薄い紫なら平気なのだけど、部屋に飾るのは平気だけど身に着けるのはなぜか苦手なのよね。



●調和と浄化のクリスタル
「ラピスラズリと紫の石だけは、避けたいのです」
 目深にフードを被った夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)の要望に、シィラは静かに耳を傾けた。
「紫でもラベンダーアメジストとかローズアメジストぐらい淡くて薄い紫なら、部屋に飾る分には平気なのだけれど。身に着けるのは、なぜか苦手で」
 なぜか、の部分をシィラは問わない。だからこそ、人見知りの藍も人心地をつくことができた。
 彩祭――鉱石を加工して、さらなる彩を作る祭。なんて素敵な催しなのだろうと藍も思う。
 でもだからこそ、迷うのだ。
 身を彩るからには、相性がある。藍自身が藍晶石のクリスタリアンであるから尚更に。
「仕事は? 猟兵以外に何かしてるの?」
「占い師を」
「そうなのね。なら、雰囲気を盛った方がいいかしら?」
「――いいえ。余計な印象を人に与えたくはないので」
「じゃあ、シンプル路線ね」
「はい」
「ブレスレットとかどう? マニキュアや指輪より、視界に入らないもの」
「良いと思います」
 とつとつと藍が返す応えに、シィラはひとつひとつ頷き、幾つかの屋台を眺めては、また藍の元へ戻る。
 それを幾度か繰り返されるうち、任せきりにして良かったのかという不安が藍の裡を過った。
 職業柄、藍にも石の知識はそれなりにある。だから選ぼうと思えば選べなくもない――けどやはり、その知識も今ばかりは余計に感じてしまうのだ。
 知る謂れに、想いは芽生える。芽生えた想いは、時に人の目を曇らせる。
(『好き』と『似合う』は別物だから……)
 ゆえにこそ、藍は彩祭が催される土地で生まれ育ったシィラへ全てを委ね、委ねられたシィラは真剣に、そして楽しげに思案を巡らせるのだ。
「これなんてどうかしら?」
 そしてシィラが選んだのは、銀環と小粒のクリスタルが二連を成したブレスレット。
「あなたの青に、ぴったりだと思ったの。振ればシャラリと謳うのも可愛いでしょ?」
 はい、と手渡されたそれを、藍は灯された鉱石ランプに掲げて眺める。
 注文通りのシンプルさだが、よくよく見れば銀環には月を模したと思しき文様が彫り込まれていた。
「調和の象徴でもあるクリスタルには浄化の力があるし。あなたから禍を遠ざけてくれるかもって思ったの」
 藍晶石の特徴がよくあらわれた宙色の瞳と視線を合わせ、シィラが笑む。
「月の光にも浄化の力があるといいますよね――ありがとうございます」
 礼を述べ、藍が繊細なブレスレットを腕へと巻くと、確かに二連が触れあい、涼やかな音色を奏でる。
 初めて耳にした旋律なのに、不思議と心安らぐそれに、藍は微かに口元を弛めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アウグスト・アルトナー
【恋人のアパラさん(f13386)と】

「そうですね」と相槌を打ちつつも
石が好きな彼女の、遊色の瞳の煌めきに釘付け
これを見られただけでも、このお祭りに来た甲斐が……
いえ、気が早いでしょう、ぼく

お揃い、良いですね
マニキュアを新調したいと思っていたんですが、いかがでしょう?
はい。ありがとうございます、嬉しいです

ぼくが選ぶのは、ファイアオパール
情熱に溢れた炎の赤、煌めく遊色

アパラさんはどんな石にしました?
……おや、これは(黒の瞳を瞬かせ)

二つを合わせて、街路灯の形の瓶に入れて
ええ、とても綺麗ですね
塗ってみましょう

「はい」と頷き、【手をつなぐ】

……これでぼくら、24時間一緒……ですね?
顔を真っ赤にしつつ


アパラ・ルッサタイン


恋人のアウグストさん(f23918)と

見て、アウグストさん!
彩祭とは正に、だな
彼方此方で色とりどりの石が輝いているよ!

折角だ
何か揃いの一品を作ろうよ
マニキュア?
常に爪先を綺麗に染めておられるものね
あたしも好きだし、良いね!

互いに一つ石を選ぼう
あたしはオニキス
真黒一色の黒玉髄
彼の瞳色

あなたは何を?
おや、(遊色の目を瞬き)……ふふ

オニキスとオパールを合わせ
街路灯の様なデザインの硝子瓶へ
夜街を彩る灯りの様でとても綺麗
早速塗ってみない?

揃いの爪色をした手を差し伸べて
少し歩こうか

あなたの言葉に
二度目、遊色の目を瞬かせて
嗚呼、……そうだね!
ずうと一緒さ

顔が熱いや
どうやら揃いの色は、爪だけでは無かったよう



●二人で宵を~オニキスとファイアオパール
「見て、アウグストさん!」
 振り返ったアパラ・ルッサタイン(水灯り・f13386)が笑顔を弾けさせる。
「彩祭とは正に、だな。彼方此方で色とりどりの石が輝いているよ!」
 カンテラオパールのクリスタリアンであるアパラにとって、様々な鉱石が扱われる祭は居心地が良いのかもしれない。
 けれども「早く早く」と手招くアパラの瞳の煌めきそのものの方が、アウグスト・アルトナー(悠久家族・f23918)にとっては眩くて仕方ない。
(アパラさんのこんな笑顔を見られただけでも、このお祭に来た甲斐が……いえ、それはあまりに気が早くありませんか、ぼく?)
 先ほどから「そうですね」とか「わかりました」とか、相槌を打つので精一杯なアウグストは、いささか簡単に過ぎる自分を叱咤する。
 でも、それくらい嬉しいのだ。恋人となったアパラと、こうして並んで出歩けることが。
(アパラさんもぼくと一緒だから楽しいのかもしれない――じゃなくてっ)
 こほん。
 どうにも迷走しがちな思考を強制中断すべく咳払いすると、「どうしたのかな?」とアパラがアウグストを覗き込む。
 より近くなったアパラの瞳の遊色に、どくんとアウグストの心臓が跳ねた。が、頬が染まるより早く、アパラの提案がアウグストを表情ごと攫う。
「折角だ、何か揃いの一品を作ろうよ」
「――え?」
「お揃い、嫌かな?」
「っ、そんなはずありません。良いですね、お揃い」
 反応に一拍要したのは、驚きのせいだ。思わぬアパラからの誘いに、もちろん否やがあろうはずもないアウグストだ。
 既に彩祭に来た甲斐は、当初の心づもりの天井を遥かに突破している。ならばあと少しだけ、欲張ってもいいのかもしれない。
「ちょうどマニキュアを新調したいと思っていたんですが、いかがでしょう?」
「マニキュア? そういえば、常に爪先を綺麗に染めておられるものね。あたしも好きだし、それで行こう!」
「ありがとうございます」
 顔が嬉しさばかりに支配されないよう細心の注意を払い、アウグストはアパラの同意に感謝する。そこから先は、とんとん拍子。
 数あるマニキュアの屋台の中から選んだのは、街路灯を思わすデザインの硝子瓶を扱う店舗。
『せっかくだから、二人で一つずつ石を選ぶってのはどうだい? 良い記念になるよ』
 察しの良さげな女性店主に勧められるまま、恋人たちは数多の鉱石から、各々一つを選び出す。
「あたしはこれにするよ。真黒一色の黒玉髄」
 アパラの繊細な指先が摘まみ上げたオニキスに、アウグストはパチリと瞬く。その色は、どこからどう見ても、アウグストの瞳の色。
「どうやら、似たようなことを考えたみたいですね」
 そしてアウグストがファイアオパールを選ぶと、今度はアパラが擽ったそうに瞬きする番。
「――ふふ、情熱に溢れた炎の赤だね」
 確かに赤だが、重要なのは遊色の方。遊色の煌めきは、アパラと同じ煌めき。
 おやおやお似合いの二人だねぇ、なんて冷やかしつつも、女店主は手早く二色を取り混ぜたマニキュアを仕上げると、とろりと小瓶に封じてくれた。

「夜街を彩る灯りみたいだね」
 黒にゆらゆら揺れる赤は、確かにアパラの例え通り。最初に惹かれた小瓶と相俟って、小さな街灯りを閉じ込めたよう。
「とても綺麗ですね。せっかくだから、塗ってみましょうか?」
「よいね、塗ろう塗ろう」
 そうして二人、揃いの彩を爪に宿し――。
「少し歩こうか」
「はい」
 気が付けば、先に歩き出そうとしていたアパラの手をアウグストは握っていた。
「……え?」
「こ、これでぼくら、24時間一緒……ですね?」
 思わぬ触れ合いに目を丸くしたアパラへ、アウグストは思ったままを口にする。さすがに今度ばかりは頬が紅潮するのを止められなかった。
 しかしそれはアウグストに限ったことではない。
「あ――嗚呼、そうだね!」
 一際遊色が鮮やかな瞳を、今度は大きく瞬かせ、アパラも顔に熱が昇ってくるのを自覚する。
 どうやら揃いの色は、爪だけでは無かったらしい。
「ずうっと一緒さ、アウグストさん」
「そうですね。ずうっと一緒にいましょう、アパラさん」
 確かめ合うみたいに名を呼び合い、アウグストとアパラは繋ぐ手にぎゅっと力を込めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エール・ホーン
【夢音】

ミラちゃん
あのお店、行ってみよ
君の手を引き目についたお店へ

たくさんの煌々に胸踊る
わぁ、このブレスレッドミラちゃんに似合いそう
お星さま!ふふ、似合うかな?

どれにするか、迷っちゃうねぇ
わ。これ、素敵――
みてみて、ミラちゃん
示したのはピンクゴールドのピンキーリング
リボンがあしらわれたものや
蝶々がとまるデザインもとっても愛らしい

蝶々でお揃いっ
へへ、大賛成さっ

その言葉にほっこり綻ぶ
じゃあその蝶々はミラちゃんに幸せを運ぶボク?
任せてって表情でふふり胸を張る

ボクも、ミラちゃんの眸の色にする
はじめてのリング
ミラちゃんとお揃い
なんだかもう、たくさん幸せだね

ね、今度はこれをつけて
一緒にお出かけしよう?


ミラ・ホワイト
【夢音】

なんて浪漫溢れる通り…!
足取り軽やかに繋ぐ手を揺らして
ええ、行きましょエールさまっ

宝石箱をひっくり返したみたいな
とびきりの煌きがそこかしこに
うふふ、わたしに似合いそう?
あっ、お星さまの形をしたのもあるわ…!
エールさまにぴったり!

どれも素敵で可愛くって
あれもこれもと迷子のこ
――まぁ、ピンキーリング?
ほんのり柔く甘やかな色合いは
乙女心をぎゅっと掴むのに充分で
リングのお色はこれで決まり…!

可愛らしいリボンにも惹かれるけれど
蝶々のデザインでお揃いにしましょ
私達に喜びと幸せを運んで下さるよな

それと。わたしのに嵌める石はね
エールさまの眸のお色にしたいわ
いつだって、あなたと共に在れる気がするから



●乙女色ピンクゴールド~ボクと私の眸色を添えて
 ピンクに黄、緑、青、赤に紫。
 それぞれの店先に吊るされた鉱石ランプの灯はカラフルで、まるで虹色の夜空に迷い込んだようだ。
「なんて浪漫溢れる通り……!」
 ポインセチア色の瞳を真ん丸にして、ミラ・ホワイト(幸福の跫音・f27844)は先まで続く輝きに見入る。
 このままずうっと眺めていたいような、でも弾む心音と同じリズムで駆け出したいような。そんな刹那の逡巡は、きゅっと繋がれた手で後者に振り切れた。
「ミラちゃん。あのお店、行ってみよ」
「ええ、行きましょエールさまっ」
 童話の世界から抜け出してきたユニコーンめく少女――エール・ホーン(ドリームキャスト・f01626)に手を引かれれば、あとは宝石箱をひっくり返したみたいな世界へまっしぐら。
 エールは蹄の音と、ミラは靴音を軽やかに石畳に躍らせ、並ぶ屋台を覗いて回る。
 どこのテーブルの上も、煌々(きらきら)がいっぱいで、エールとミラの瞳の中も煌めきが散りばめられて止まらない。
 一抱えはありそうな緑の結晶に驚きの声を上げ、遥か昔の花を閉じ込めた石は食い入るように見つめ、立派なティアラを恐る恐る被らせてもらったり。
 そんな中でも特別二人を惹き付けたのは――。
「ああ、可愛らしい……!」
「見て見て! このブレスレット、ミラちゃんに似合いそう」
「こちらのお星さまの形をしたのは、エールさまにぴったり!」
 所狭しと飾られた小ぶりのアクセサリーたちに、年頃の少女たちはすっかり夢中。
「お星さま! ふふ、似合うかな?」
「ええ、とってもお似合いです――けれど、こちらの翼のイヤリングも……」
 にこにこ顔の店主に見守られながら、目についたあれやこれやを互いに合わせては、黄色い歓声を上げ、また「ふむむ」と悩む。
 あれもこれも素敵すぎて、どう頑張っても目移りするのが止められない。
 いっそこの屋台ごと買って帰りたいくらいだけれど、それはお財布事情的に厳しい。そして何より、せっかくの二人でのお出掛けだから、記念になるようなとびきりの『素敵』が欲しいのだ。
 ふらふら、くらくら、迷子になるエールとミラの視線。けれど、ふと。何とはなしに上げた瞬間、視界は開ける。
「わ」
 先に気付いたのはエールの方。きっかけは、ツンと角先に触れる感触に誘われたこと。
「これ、素敵――みてみて、ミラちゃん」
「――まぁ、ピンキーリング?」
 天鵞絨が張られたスタンドラックにシャラシャラと飾られていたのは、小指専用の華奢な指輪たち。ほんのり柔く甘やかな色合いのピンクゴールドが、乙女たちのハートをぎゅぎゅっと掴む。
 石の台座がリボンになっているのもガーリーで魅力的。でも、もっともっと二人をときめかせたのは。
「エールさま、この蝶々のデザインでお揃いにしませんか?」
「お揃い! へへ、大賛成さっ!」
 大きく広がる翅を繊細なラインで作り上げた蝶々を模るリングは、可愛らしくも美しく。今にも羽搏きそうで、ワクワク感もある。
「この蝶々がわたし達に喜びと幸せを運んで下さる気がするの。エールさま、エールさま。わたしこれにエールさまの眸のお色の石を嵌めて良いかしら?」
 きらきら。
 期待に満ちた赤い瞳が、ピンク色の瞳を覗き込む。
 もちろんエールの答えは、YESの一択。
「じゃあ、その蝶々はミラちゃんに幸せを運ぶボクってことだね!」
 任せてよ、と胸を張ったエールは、今度はミラの瞳を見上げてにこり。
「ボクはミラちゃんの眸の色にするね」
「まあ! わたし達いつでも一緒ということね」
「うん、そう! はじめてのリング、ミラちゃんとお揃い。離れてても、一緒」
 エールとミラ。二人の少女の頬は淡く色付き、ピンクゴールドの笑顔になって輝き合う。
 取り付ける石は小さいけれど、幸せは胸におさまりきれないくらい大きくて、たくさん。

 そして仕上げられた蝶々のピンキーリングを嵌めた小指で、二人は指切りするのだ。
 今度はこれをつけて、一緒にお出かけしようね――と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「給仕をしていて、邪魔にならないもの…マニュキュアでしょうか」

バックの中に忍ばせて邪魔にならない細長いガラス瓶
色はピンクパール
此れを下地にして、パールホワイトで花を描いてラインストーンで飾ったら素敵かな、と思った

艶出しのパールを塗ることはあっても
マニュキュアで爪に絵を描いたことはなくて
何時か試してみたいな、と思っていたから

単品でこれだけ塗っても
本格的に塗る下地にしても
爪に何を描くか
想像するだけで楽しくなる

(夏に海に行く時、手だけじゃなく足の爪も此れで塗ったら楽しそうです…今回は手のお祭りですから、言えませんけど)
どう使おうか想像して頬を緩めて
試し塗りした指先を光に翳してじっくり眺めた



●夢色のひと時
 木製の小さな丸椅子に行儀よく座り、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)はずらりと並んだマニキュアたちを見つめる。
 色とりどりのそれらは、まるで絵の具のようだ。細長い硝子瓶も、ハンドバッグの中に忍ばせやす気なのがとても良い。
 それに何より。
『うちのは全部天然素材だから、除光液は要らないよ。アルコールでさっと一拭き。安心安全さ』
 魔法使いを彷彿させる店主の老婆の売り文句が、桜花の心を擽った。
 パーラーメイドという職業柄、お客様の健康を害する心配がないというのは魅力的。そもそも『仕事の邪魔にならないもの』という理由で桜花はマニキュアを択んだのだ。
 艶出し程度で、オーソドックスなパール系をさっと塗ることはこれまでもあったけれど、ここのマニキュアなら色々なお洒落が楽しめそうだ。
(パールピンクを下地に、パールホワイトで花を描いて……あ、ラインストーンも飾りたいかもしれませんね)
 広がる想像に、白い頬が桜色に染まる。
 貴石を惜しみなく使っているからか、巷で見かけるものよりキラキラして見えるのもまた乙女心をときめかせる要因だ。
(これだけ塗っても、素敵でしょうね)
 枝角に咲く花より僅かに色の濃いマニキュアの瓶をツンと突いて、その色が爪に乗った景色を想像する。
 パフェを運ぶトレイの下に、こんな彩が隠れていたら、気付いたお客様はちょっぴり得した気分になれるかもしれない。
「あの、試し塗りしてもいいですか?」
「もちろんだよ」
 遠慮がちに尋ねると、皺だらけの顔をますます皺くちゃにして、店主が封を切ってくれた。
 漂う匂いに、刺激はない。なるほど、本当に天然素材のみで作られているようだ。
(でもこれだと、海だと剥げちゃう心配もあるかしら?)
 今回の彩祭は手を飾るのが主旨だというから、口には出さないけれど。桜花の心は夏の海まで旅立っている。
 これだけの発色の良さは、足の爪をも煌めかせるに違いない。水着と揃いの色、或いは差し色にしても、きっと映える。
 夢見る一時は、邪魔が入ることもなく穏やかに。
 試し塗りした指先を鉱石ランプの光に翳し、桜花は桜色に染まった爪へそっと息を吹きかけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
……
あゝ、爪紅か
俺が塗る訳じゃねェが、色付けんのに使えそうだな
石なんかは腕守りにも善いかしれねェ、ちいと見繕うか

すれにしても、どいつも舌ァ噛みきっちまいそうな名だなァ
違いなんざわからねえから、見目だけで決めさしちもらうぜ
俺ァ青がかったのが好いやな
藍…否、もちいと明るい…澄んだ色が…
あゝ、然しその碧が混ざったのも捨て難い
中々ドウデ、朱鷺色も橙も見事なもんだ
此の白雲母みてェな色も…

紙に塗り、なんやかやと爪にも翳し
首を捻り、唸り
欲を云やあ全て欲しいが、ぐっと堪えて選んだなァ縹色
……
…まァ、たまにはな

したが他の店も冷やかしに行こうか
此の国にしかねェからくり仕掛けの品も見てェもんだ



●縹色縁
 蒸気を吹き上げながら、カタカタと動く何某かを菱川・彌三八(彌栄・f12195)は食い入るように眺めていた。
 河童の皿みたいな口に、砕いた石を飲み込ませたのはちょっと前。
「うお」
 思わずの驚嘆が彌三八の口をついて出たのは、綺麗な朱鷺色が鴉の嘴みたいな突起部から、とろりと溢れてきたせい。
 すわ故障かと彌三八の肩に力が入ると同時に、屋台を商う主が素早く洒落た硝子瓶で色を掬い取る。
 無駄のない手際の良さに、彌三八はまずは畏れ入り、彩の列に加わった朱鷺色に目を細めた。
 青味がかった色を好む彌三八だが、なかなかどうして、温かな色味も悪くない。俄然、もっと鮮やかな色にも興味が沸いてきた。橙なぞも、面白いやもしれぬ。
「なぁ、親父。この石の名前は何てえんだ?」
「ん、これかい? これはタグトゥパイトさ」
「た、たぐとう、ぱいとぅ??」
 訊いたことを後悔しそうになりながら、彌三八は舌を噛み切りそうな石の名前を反芻する。
 煌々しい石たちには、御大層な名前持ちばかりだ。どうやら河原に転がる石っころ達とは、生まれからして違うらしい。
(爪紅……ねェ?)
 月代頭をぽりと搔き、一揃いの絵の具のようなマニキュア達を彌三八は見る。
(色付けんのに使えそうだナ)
 自分の爪に塗る気はないが、花街の女たちへの土産にしても喜ばれそうだ。そも石は腕守りにも善いので、適当に見繕うのも悪くない。
 石の謂れや名前は気に留めないことにした。こういうのは、ピンと来るのが大事なのだ。
「こっちの藍もいいねェ……否、もちいと明るい澄んだ色もいいか……あゝ、そっちの碧が混ざったのも捨て難ぇ……」
 勧められるままに紙に色を刷いては、彌三八は唸る。
 鉱石ランプの光だけではなく、お天道様の下での色も見てみたいと思った。
「っち、此の白雲母みてェな色もイイなあ……」
 余りの決まらなさに、つい舌打ちまで飛び出してしまう。いっそ目の前にある色全部を買って帰りたいが、それでは元より心許ない懐が、すっからかんを通り越す。
「……むううう」
 首を捻りに捻り、唸りに唸って、ついでにぎりりと奥歯を食いしばり。
 なんやかんやで爪にも翳し、彌三八は腹を括る。
「お、決めたかい?」
「……まァ、たまにはな」
 選んだ一色(ひといろ)は、縹色。花色と呼ばれることもあるのがこそばゆいが、決めたからには後には退かない。
 さっと銭を払うと、ぱっと袖へと仕舞い、これで義理は果たしたと言わんばかりに彌三八は勢いよく立ち上がる――が。
「ところで、兄さん。あんたこっちの方が興味あるんじゃないかい?」
 にんまり笑う店主が指差すのは、カタカタ動く蒸気機械。
「えっ、絡繰り見してくれんのかい?」
「いいとも。俺ぁ元々、こっちが専門でね」
 同志を得たとばかりにご機嫌顔の手招きに応じないのは無粋の極み。
 然して彌三八、鉱石の街の技術者の招待を受け、大通りを逸れてゆく。

 ――この後、何やかんやで『呑み』に発展するのもまた宵祭の醍醐味である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

毒藥・牡丹
【花牡丹】

花雫さんに誘われて来たけれど……
ど、どうすればいいの……?

指輪とか、ブレスレット……
き、急にそんなこと言われても……
えっ、な、なんだか向こうは決まってるみたいね……

じゃあ、このブレスレットとか……
あ、いや、これを選んだのはなんとなくというか……
その、一緒に来てる……と、友だち、に。似合うかと思って……
息苦しく生きていたあたしに、息の仕方を教えてくれた。綺麗な綺麗な人魚さん。

やっぱり、青がいいかな……?よく似合うと思うから…
あの……私詳しくないので、色々、教えてください。お願いします。

ひゃあっ!!??
わ、私は、えっと……じゃあっ、私も!内緒!!
だ、だめっ!内緒ったら内緒なんだから~!!


霄・花雫
【花牡丹】

ふふー、牡丹ちゃんとデート!
楽しみだねぇ、何作ろっかなー

なぁんて、もう決めてるんだけど
まだ内緒だけど、牡丹ちゃんにね、ちょっと遅い誕生日プレゼントしたいの
ブレスレットならお宿のお仕事の邪魔にもならない、かな?
牡丹ちゃんが俯いた時、手首に「あたしが居るよ!」って出来たら良いなあ、って

なるべく明るめのガーネットで牡丹みたいに出来ないかな
調べたんだけど友愛の石なんだって
心を豊かにしたり、努力を実らせるパワーがあるって書いてあったから
周りの石は小粒めで、百花の王を目立たせたいんだけど……うーん、あとは職人さんに色々アドバイス貰おっと

牡丹ちゃんはどんなのにしたー?
あたしのはまだ秘密!



●友だち思い~ベニトアイトとパイロープガーネット
 夜なのに、そこかしこが彩で溢れていて目映い。
 眩む世界に立ち竦みそうになった毒藥・牡丹(不知芦・f31267)は、腕を引かれて我に返った。
「ふふー、牡丹ちゃんとデート!」
「え、え、え、デート? ど、どうすればいいの……?」
 ――我に返りはしたが、動揺は拭いきれない。でもそんなのお構いなしに、霄・花雫(霄を凌ぐ花・f00523)からは全開の笑みが向けられる。
「楽しみだねぇ、何作ろっかなー」
 行こうよ、と先を急かす花雫のはしゃぎぶりに、牡丹の唇から、ふ、と細い息が漏れた。
 花雫に誘われて訪れた彩祭。何が何やらなのは変らないけれど、花雫と一緒ならば『何か』が出来そうな気がする。
「……指輪とか、ブレスレットが作れるみたい……です、よ?」
「そうだね! じゃあ、行こう!」
「行こうって、どこへ――」
「あたしはあの店! 牡丹ちゃんはどうするー?」
「どうするって……えええええ」
 何を作ろうか迷っている口振りではあったが、どうやら花雫の心は端から決まっていたらしい。それに牡丹が気付くのは、赤みを帯びた鉱石を専門に商う店に花雫が陣取った時。
 畳を二枚並べたくらいの軒先には、幾つかの椅子が並べられており、花雫が座ったのが埋まっていなかった最後のひとつ。
「牡丹ちゃんも素敵なのが作れるといいね!」
 不意に味わう置いてきぼり感に、牡丹は途方に暮れかける――が、隣の店に視線を泳がせた途端、戸惑いとか、不安とか、色々が吹き飛んだ。
「じゃ、じゃあ……私は、こっちで……」
「いいの見つかった? 良かった!」
 ぱっと離された手にも寂しさはない。むしろ逸る心地で牡丹は、海の泡を連ねたみたいな華奢なブレスレットの前へ急ぐ。
「あ……あの、これに、青い石を合わせることは出来ますか?」
 勇気を出して声をかけると、人の好さげな女性店員がにっこりと牡丹へ椅子を勧めてくれた。
「もちろん! 青にもたくさんあるわよ。どんなのがいい?」
「え、と……そうです、ね……」
 ちらり。牡丹は隣の店で話し込んでいる花雫の横顔を窺い見る。すると何かを察したのか、女性定員が身を屈めた。
「お友達に作ってあげるの?」
 内緒話みたいな囁きに、牡丹はぱっと顔を上げ、こくこくと頷く。
「そう、なんです。似合うかな……と、思って」
「綺麗な人魚さんね。それなら確かにこのブレスレットと青の組み合わせは最高よ」
「……ありがとうございます! あの、私、詳しくないので、色々、教えてください」
「ええ、ええ。幾らでも聞いて頂戴。とっておきの海のブレスレットを完成させましょ!」
 友だちを――花雫を、綺麗な人魚さんと言ってもらえて、牡丹は嬉しかった。
 だって花雫は、本当に綺麗で綺麗な人魚なのだ。そして息苦しく生きていた牡丹に、息の仕方を教えてくれたのも、その綺麗で綺麗な人魚さん。
「アクアマリンじゃ直球過ぎよね。雰囲気からしてベニトアイトの方がいいかしら――」

「これなんてどうだ?」
「わあ、凄い! キレイ!」
 厳つい指が創り出したとは思えない、繊細な銀の花びらが重なる台座に、花雫は歓声をあげる。
「あとはこいつの真ん中に、さっきのパイロープを据えてだな……」
 パイロープとはガーネットの一種だ。鮮やかな色合いと、前向きに進む力を引き出してくれるという話を聞き、たくさん見せてもらったガーネットの中から花雫が選んだ一粒。
 それが台座の中央に収まった途端、周囲の銀は赤を映し、華やかな大輪が咲いた。
「これでどうだ!」
「うん、まさに百花の王だね」
 あぁでもない、こうでもないと知恵を絞ってくれた店員兼職人のおじさんへ、花雫は惜しみない感謝と賛辞を贈る。
 ちょっと遅れた誕生日祝いとして牡丹へ贈るものだから、咲き誇る牡丹を感じられるアクセサリーにしたかった。ブレスレットを択んだのは、二人で手伝うお宿での仕事の邪魔にもならないかな、と踏んだからだ。
 それに。
(これなら牡丹ちゃんが俯いた時、手首に『あたしが居るよ!』ってきっと出来るね)
 仕上げを急ぐ職人の手元を覗き込みながら、花雫はふくふくと笑む。
 他は小さめのピンクトパーズで揃えてもらったブレスレットは、牡丹のチャームが際立ち、友達の手元を温かく華やげてくれるに違いない。
「ね、ガーネットって友愛の石なんだよね?」
「おう、そうだな」
「心を豊かにしたり、努力を実らせるパワーもあるって本当?」
「お嬢ちゃん、よく調べて来たな。確かにガーネットにはそういう力があるって言われてるし、オレ達もそうだって信じてるぜ」
「そっかー。職人さんが言うんだから、間違いないね」
 渡す瞬間が今から楽しみで、花雫の貌も自然と咲ってしまう。と、そこで隣の店へ目を遣ると、いつもより目を輝かせている牡丹の横顔があった。
「ねーねー、牡丹ちゃんはどんなのにしたー?」
「ひゃあっ!!??」
 何の気なしに呼び掛けたら、ひっくり返った声が返って来る。
「わ、私は、えっと……」
 それでも一生懸命答えてくれようとする牡丹に、花雫はくすり。
「ちなみにあたしのはまだ秘密!」
「っ! じゃ、じゃあっ、私もっ、私も……まだ、内緒!」
 慌てた様子なのに、顔は全然怒った感じじゃないから、牡丹も牡丹で素敵な何かに出逢えたようだ。
 まさかそれが自分宛の贈り物だとは、今の花雫は知る由もない。

 ――はい、これ。牡丹ちゃんに!
 ――え……あ、私は、此れを花雫さんに。
 少女たちの顔が、最高の笑顔に変わるまで、あと少し。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ノヴァ・フォルモント

猟兵の仕事として赴いたが
まずは祭りを楽しもうという事か

数多の煌めきが並ぶ彩祭
光を受けて輝く宝石の世界に
密かに心踊らせて

綺麗なものを見るのは好きだ
普段はそれで満足してしまって
自らを宝石で着飾る事は無いけれど
でも折角来たのだから
今日は自分にも何かひとつ、土産を買っていこうか

…楽器、竪琴を普段から奏でる自分にとっては
指に嵌める物は邪魔になってしまいそうだし
マニキュアも似たような理由か
とすると腕輪がいいだろうか

しかし、宝石の種類や名にはあまり詳しくないんだ
案内役のシィラにお勧めを聞いてみるか
…そうだな。
星空や星そのもののような、青い宝石がいい
実際付ける事になるであろう
自分の左腕を見ながら



●ラピスラズリの旅人
 並ぶ屋台の軒先には、鉱石の街に似合いの小洒落たランプが飾られている。
 放つ光の色合いや、技巧を凝らされたデザインから、どことなく手元のランタンに近しいものを感じたノヴァ・フォルモント(待宵月・f32296)は、ほんの一時、エングレービングを訪れた真の理由を棚上げすることにした。
 目も綾な祭は、賑わいぶりが納得の魅力で溢れている。
 元より宝石とは美しいものだ。だがそれらが一堂に会すると、まるで街そのものが貴石で構築されているような気分になってくる。
 ――ふ、と。
 日頃から物腰柔らかなノヴァの、その口許がさらにまろみを帯びた。
 綺麗なものを眺めるのは嫌いではない――むしろ好む――ノヴァにとって、数多が煌めく彩祭は、密かに心を躍らせるもの。
 歩を進める度に異なる表情を見せてくれる耀きの世界に、『眺めて満足する』以上の興味が沸く。
(今日くらいは、自分にも何かひとつ、土産を買っていこうか)
 自由気ままな浮き草暮らし故、自らを宝石で着飾ろうとは思ってこなかったが、折角の機会に恵まれたのだ。気紛れのひとつを起こしても、問題はあるまい。
 とは言え、今回の彩祭が手に纏わる品に限られているのは、ノヴァにとって少々困りものだった。
「その竪琴、弾くのでしょう? なら、指輪とマニキュアは避けてブレスレット一択ね」
「やはり君もそう思うか」
「指、とっても繊細そうだもの」
 知恵を借りようとしていたシィラにも得心顔で言われ、ノヴァは抱えた竪琴を軽くかき鳴らす。
 ほろん、と光めく音粒が転げ出る。
 幾本も張られた弦を爪弾くのに、指輪が妨げになるのは言うまでもないが、爪の感覚も軽んじられない。薄膜一枚でも、違和感は違和感。フィガリングに影響するのだ。
「あまり揺れないものがあるだろうか?」
「あるわよ。バングルタイプなら今のと重ね付けしても支障はなさそうね」
 実際につける事になる左腕をノヴァが翳すと、シィラは迷うことなく即答し、――。
「ねぇ、希望の石とかある? あなたの雰囲気からして、夜空っぽいのがいいかしらとか思うのだけど」
 シィラの既に思い至る品がある口振りにノヴァは気付かず――或いは、フリかもしれないが――黄昏色の眸に宵の明星を灯す。
「俺もそう思っていたんだ。星空や星そのもののような、青い宝石がいいと」
 ――よし来た、お買い上げ確定ね!!
 この時、シィラが上げた快哉の意味を、ノヴァは彼女の実家が営む店に案内された後に知ることになる。

『ラピスラズリよ。ストレート過ぎるかなと思ったのだけど、やっぱりこれよねって』
 それは五つの星を渡った旅人の物語。配された大粒の青い石は、星の意匠。丁寧に彫り込まれた文様は、古の言葉による記録文。
 かつてシィラ自身が手掛けたという腕輪を月明りに照らし、ノヴァは目を細める。
「これはまさに、俺にうってつけ――かな?」
 思わぬ縁は、良い記念になりそうだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

狹山・由岐

千鶴さん(f00683)と

宝石には疎い方ですけれど
こう煌びやかだと浮き立つのも仕方ない
内緒噺にも似た囁きを君へ

贈り物を探すのに、付き合って頂けますか
愛を誓う指輪でも
永遠の繋がりを求める銀鎖でもなく
導く指先を標と染める彩を

子供の様な純粋さと
大人びた鋭敏さを兼ねた人に
どんな輝きが似合うでしょう

逸品揃えの中殊更目を惹く
曲線美描く硝子壜に盈ちる
真珠の艶融かしたような柘榴石の輝き

細く繊細な手を恭しく掬ったなら
形の良い爪へ筆を乗せよう
あえかな白を染めゆく深い赫は
――ほら。千鶴さんに、とても良くお似合いですよ

お返しにと彩を授る己の爪は
宵の海にとっぷりと浸したよう
秘めた煌きは、そう
彼女の他に君のみぞ識る


宵鍔・千鶴

由岐(f31880)と

宝石を身に着けることは無いけれど
眺めているのは好き
きみの囁く聲に愉しげに首是する

じゃあ、俺も、付き合って貰っても?
洗練された彼へ贈るには
洒落たものに疎い自分だけど

夜染まる凛と繊細さの中に
柔らかな漣を連れてくる、そんなひと
偶に、少し意地悪だけど、傍ら彼へちらり見遣る

暫し悩んで
星屑色の蓋に、青藍の硝子壜
漆黒も良いけど眸と重なる差し色を

鮮やかな赫が爪を彩る
慣れた様な手付きのきみ
見違える指先をずうと眺めてしまう
宝石よりも価値が在る
だって由岐が選んでくれたから当然

お返し、って拙い乍
由岐の靭やかに伸びる指先の爪に塗る
瑠璃石混じる䙧み青、薄く広がれば深海色へ
噫、やっぱりよく映えるね



●映す二色~柘榴石と瑠璃
 女性の顔にはたく白粉ならば十二分に熟知する狹山・由岐(嘘吐き・f31880)も、そこから先を飾り彩るものへの造詣はそこまで深くない。
 なれどこうも煌びやかだと、皆々が浮き足立つのも仕方ないと素直に思えるから不思議なものだ。
 自分の鼓動が刻むリズムも、常より幾らか早いのを自覚しながら、由岐は半歩分だけ前をゆく宵鍔・千鶴(nyx・f00683)の横顔を見る。
 幾らか年下の彼も、日頃から宝石の類を身に着けることはないようだが、貴石の輝きは好ましく感じているらしい。
 並ぶ店々へ馳せられる視線には、隠し切れない興味が垣間見える。
「贈り物を探すのに、付き合って頂けますか?」
 きっと愉しい一時になるはずだという確信は胸に秘し、由岐は僅かの距離を追いつき、内緒噺でもするよう囁きを千鶴の耳朶へ落とす。と、思った通りの笑顔が、首肯とともにふわり咲く。
「じゃあ、俺も、付き合って貰っても?」
「勿論です」
 先に誘いをかけたのは由岐の方。否定の選択肢は端からありはしない。それに傍らに在ってくれた方が、より有難いというものだ。
 何故なら由岐が贈る相手は、子供の様な純粋さと、大人びた鋭敏さを兼ね備える千鶴その人。
 彼に似合う輝きを探すのだ。本人が隣に居てくれれば、足らぬ知識を補って余りある。
「千鶴さんは、どなたに贈る品でしょうか?」
「――え? あ、うん。まだ内緒だな」
 肩を並べて由岐が問いを重ねると、何やら窺うような眼差しが返された。
 思う処があるらしい。そう察した由岐は、千鶴からマニキュアを商う店が集まる界隈へ意識を移し――目を惹く柘榴石の輝きに、はたと歩みを止めた。
 千鶴に贈るのならば、愛を誓う指輪でもなく、永遠の繋がりを求める銀鎖でもなく、導く指先を標と染める彩が良いと考えてはいた。
 だがこうも似合うと思える品に出逢えるとは思っていなかった。
「少し、いいですか?」
「俺の方は構わないけど」
 一言、断りを入れてから、逸品中の逸品へと由岐は手を伸ばす。
 とぷり。曲線美が麗しい硝子壜を指先で突くと、盈ちた水面が真珠の光沢を放って揺れた。
「それにする?」
「ええ、そうしようかと――千鶴さん」
 手早く払いを済ませ、由岐は千鶴の繊細な手を掬い取る。
「……」
 息を飲む音を間近に走らせる筆は、滑りも進みも良い。然して千鶴のあえかな白爪は、瞬く間に深い赫へと染め替わった。
「――ほら。千鶴さんに、とてもよくお似合いですよ」
 賛辞は、心から。浮かべた笑顔もお飾りではなく、嘘偽りない真実の顕れ。
 色付いた自身の爪を、宝石よりも価値あるものとして見入っていた千鶴も、詰めていた息をほろりと吐く。
「由岐が選んでくれたから当然だね」
「お褒めに与り光栄ですよ?」
 寄せられる過分な信頼へ演技めかして応えるのも、祭の余興。そんな由岐の洗練され具合に、千鶴はきゅっと唇を噛んだ後、意を決したように星屑色の蓋が特徴的な青藍の硝子壜を買い求めた。
「お返し」
「はい?」
 首を傾げた由岐の手を、今度は千鶴が軽く掬う。
 由岐が足を止めた瞬間から、千鶴はずっと䙧みある青が気にかかっていたのだ。
(夜染まる凛と繊細さの中に、柔らかな漣を連れてくる――そんなひと。偶に、少し意地悪だけど)
 おそらく先程、贈り先を尋ねてきたのもその一環に違いない。
 思い出すやり取りに口元を弛めながら、千鶴は由岐の靭やかに伸びる指先の爪に色を置く。
 漆黒も良いかと考えたが、眸に重なる差し色の方が似合いそうだと過った閃きの方が正しかったようだ。
 す、と瑠璃石混じる彩を薄く伸ばすと、静かなれど美しい深海色が広がった。
「噫、やっぱりよく映えるね」
 由岐のようにとまではいかないまでも、それなりの仕上がりに千鶴は満足を頷く。そして由岐が抱いた感慨もまた、海底(うみそこ)よりも深い。
(この色は――)
 とっぷりと宵の海に浸したような煌めきは、きっと『彼女』の他では千鶴しか識らぬ彩。
「ありがとうございます」
「それは俺の科白」
 見交わし、笑み合い。
 由岐と千鶴は、彩る祭に各々の爪を煌めかせる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】★
アドリブ◎
アレスにやるブレスレットを作る
ベースは白に近い金
鎧の下につけても邪魔にならねぇ細さで
やっぱ石は青だよな
なぁアレス
アレスはどんな青が好き?
誰のブレスレットか言わぬまま尋ねれば
お、おうそうか
そんな気はねぇんだろうが…俺の色みたいだなんて
赤くなる顔をごまかす

俺?俺は…
聞かれたら少しくらい照れやがれの気持ちで
アレスの頬を両手で挟み覗きこむ
この青が一番すき

石の色は決まったから
そっからシィラに意味を聞いて選ぶ
幸せになれそうな意味がいいな
…って、アレスはなんで石粉にしてるんだ?失敗?

渡されたものに瞬きひとつ
ははっ何だ、交換じゃん
じゃあアレス手出せ
つけてやるから
こっちはアレスが塗ってくれよ


アレクシス・ミラ
【双星】★
アドリブ◎

セリオスへ贈るマニキュアを作るよ
偶につけているのを見ていたし
魔力を宿して戦う彼の助けになれればと
一番星の装飾の瓶に
石はやはり青かな
…え、僕?
そうだな…と真面目に考え
青はどれも好きだけれど
一番は夜空のような…深い青が好きだ
君は?

…そっか
彼の髪を少しくしゃっと撫でて
両手が離れたらそっと囁く
―覚えたよ
(君のすきな青に
頬に熱を感じたのは、内緒)

贈り物作りを再開
彼のすきな青…を目指し
セレスタイトと、他に幸福を呼んでくれそうな青い石が無いかシィラさんに聞こう
セリオスの方は…金色?珍しいな…?

贈られた物に目を瞬かせ
僕達同じ事を考えていたんだね
ああ、勿論
それでは…どうぞ、お手を
―青を、君に



●青を君に~アウイナイトとアイオライト(天使のセレスタイトを添えて)
 射干玉もかくやという黒髪なのに、艶があるからだろう。店々の軒先に吊るされたカラフルな鉱石ランプの灯りを受けて、セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)の髪が帯びる光色はくるくる変わる。
 その移ろい方が、存外に子供っぽいセリオス自身の表情のようで、数歩後ろから彼を追うアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)は片手で覆った口元を弛めた。
 微笑ましい――なんて思ったのを本人に知られたら、眉を吊り上げられるかもしれない。
 せっかくの祭だ、存分に楽しむ為にも時間の浪費は避けたい。
 それにアレクシスが買い求めようと思っているのは、セリオスへ贈るマニキュアだ。ならばセリオスに最も似合う色にしたい。その為にも、セリオスの挙措からはあまり目を離したくない。
(石はやはり青かな……)
 指輪にブレスレットに、マニキュア。三つの選択肢の中からアレクシスがマニキュアを択んだのは、セリオスが偶に爪を彩るのを見ているからだ。
 魔力を駆使して戦う――何かにつけ、物理の力で物事を解決しようとするきらいはあるが――セリオスの一助となるような望ましい。ならば本人との親和性の高さは重要だ。
 容器となる硝子瓶の方は既に目星がついている。
(魔力の高まり的にも、セリオスらしさからも――)
 一番星を模るカッティングが表面に施された円錐瓶は、旅の荷物に忍ばせるのにも適するだろう。
 そんな風にあれこれ思案を巡らせていたら。
「なぁアレス」
 いつの間にか、立ち止まったセリオスがアレクシスへ向き直り、まっすぐに見上げてきていた。
「アレスはどんな青が好き?」
「……え、僕?」
 不意の問い掛けに、アレクシスは目を丸める。
「そうだな……青はどれも好きだけれど、一番は夜空のような――うん、深い青が一番好きだな」
 咄嗟のことで、気の利いた答は探せなくて。アレクシスはただ素直に、真面目に、セリオスを見つめる。
「君は?」
「俺?」
 問い返す形で訊きたかったことを尋ねられたのは、ありがたかった。
「俺は……、」
 不意にセリオスに頬を両手で挟まれ顔を寄せられたのは、鉱石ランプに染められてか、いつもより赤らんでいたセリオスの頬を、つい見入ってしまったことへの逆襲か。
「この青が一番すき」
 はたまた色をしっかり教えてくれようとしたせいか――と、アレクシスは己の眸をセリオスから間近に覗きこまれた理由を、そう受け止めて。でも強く言い切ると同時に離れていく彩を惜しんで手を伸ばすと、黒い髪をくしゃりと撫でた。
 ぷい、としっぽを向いてしまったセリオスは一目散に駆けて往く。
 目当ての品を見つけたのだろう。こうなったらセリオスはもう振り返らない。だからこそアレクシスは安堵して、ひっそりと呟く。
「――覚えたよ」
(君の、すきな、青)
 息が触れあいそうな接近に、頬に熱を感じてしまったのは、内緒だった。

(ああああもうっ。少しくらい照れやがれっつうのっ)
 こっちは深い青が好き、と言われただけで、自分の色みたいだと心臓を跳ねさせたというのに。
 仕掛けた意趣返しにも平然としていたアレクシスを思い出しては、セリオスはふんすふんすと息を荒げる。
(わかってる。わかってるさ。そういうつもりで言ったんじゃねぇってことくらい)
 白にも近い金の細い鎖に、小粒ながらも深いブルーの石が取り付けられていくのを、セリオスは頬を膨らませながら眺めた。
(アウイナイト、だったけな)
 新たな光、勇気と希望。
 シィラから訊いた石に纏わる言葉を、セリオスは胸中で反芻する。
 不思議なくらいアレクシスにぴったりで、彼を幸せに導いてくれそうな気がした。
 そう、セリオスがオーダーしたのは、アレクシスに贈るブレスレット。できるだけ装飾の少ない、細い鎖をベースにしたのも、鎧の下につけても邪魔にならないよう。
 これほど自分は、アレクシスのことを考えているのに。
(……まぁ、アレスに気付かれるような態度じゃねぇしな)
 一人百面相を職人に面白がられているとは露知らず、セリオスは深々と溜め息を吐く。
 今日は理想の品を贈れるだけで良しとしよう、と意識を切り替えようとして――。
「って、アレス。なんだそれ失敗? あ、」
「そう。石の粉じゃなくて、マニキュア」
 奪われた言葉尻と、差し出された美しい青に満たされた瓶にセリオスは、ゆっくりと瞬いた。
「これ、俺に?」
「そう。セレスタイトにシィラさんお勧めのアイオライトを混ぜてもらったんだ」
 浄化と安らぎのセレスタイトに、標のアイオライト。薄青に濃青を合わせた鮮やかな青は、セリオスの道行きを守ってくれるだろう。
 そんな事を思っていたアレクシスは、今まさに仕上がったブレスレットに首を傾げる。
「金色? 珍しいな……?」
「珍しくねぇよ、だってアレスの色じゃん。はい、交換交換」
「え? あ? そういう、こと?」
「そういうこと、そういうこと」
 歓びに笑い出しそうになるのをセリオスは懸命に堪え、何でもないみたいにアレクシスの腕を要求すると、しゃらりと青を纏う鎖を絡ませた。
「こっちはアレスが塗ってくれよ」
 尊大を装い、にやりと口の端を上げるセリオス。
 ようやく得心いった様子で破顔するアレクシス。
「ああ、勿論。それでは……どうぞ、お手を」
 騎士の礼に則ったアレクシスが恭しく求めると、いつか虹の前で約束を交わした手が羽のように乗せられる。
「ムラなく塗れよ」
「仰せの侭に」
 冗談めかして言葉で遊び、見交わし笑み合い、青で飾られた手でアレクシスは、セリオスに青を施す。

 ――青を、君に。
 其々の青が相手を彩ることになったのは、ただの偶然かそれとも――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『『宝石人形』勝利のダイヤモンド』

POW   :    アーティフィシャルダイヤモンズ
無敵の【自身の分身体(レベル×5体)】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD   :    ヴィクトリードール
全身を【あらゆる攻撃にほぼ無敵の勝利のオーラ】で覆い、自身の【背中に光の翼を展開し、勝利の意識】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
WIZ   :    金剛石は砕けない
全身を【レベル×1倍の威力に増幅して反撃する状態】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●災厄ダイヤモンド
 人形に託されたのは猟兵の殲滅だ。
 けれど、何とはなしに感じた嫌な気配に、人形はふらりと赴き、かわいらしく造られた顔(かんばせ)をぎりりと歪めた。
「彩祭? 信じられない」
 人形の名は、ダイヤモンド。
 その名の通り、核にダイヤモンドを据えられた強化型ミレナリィドールのオブリビオン。
 故にこそ、自らの足元にも及ばぬ――と、勝手に決めつけている――屑石たちが、重宝されているのが気にくわない。
「ありがたっていいのはダイヤモンドだけよ。他の石で身を飾ったって、みっともないだけだわ!」
 然してダイヤモンドは、賑わいへ強襲をかける。

 軒先に吊るされた鉱石ランプが、一斉に警戒の赤を灯した。
 察した店主らは慣れた様子で店を畳み、手伝わせる素振りで客らを大通りから引き剥がす。
「やっぱり出たわね」
 こうなるだろうと思って、話は通しておいたのよ、とシィラはどんと胸を張る。
 伊達にアルダワ魔法学園に留学していないのだ。災魔の襲来に対する備えは、既に十分。
 とはいえ、倒すには『力』が足りない。
「申し訳ないけれど、後は任せていいかしら」
 すたこらさっさの避難体制を整え、シィラは猟兵たちを仰ぐ。
 無論、否やを唱える理由はない。
 災魔は一体、さらに余人を巻き込む恐れがないとあれば、あとは此方も思い切り暴れるだけ。
「できるだけさっさと片付けて頂戴ね。四カ月に一度の稼ぎ時だもの、隠れていたら商売あがったりで困っちゃうの」

 商魂たくましいシィラ他街人たちの声援を背に、いざ勝負。
 勝利を掴むのはダイヤモンドか、それとも鮮やかな彩を得た猟兵か?


【事務連絡】
 第二章プレイングは、上記導入部追記と同時に受付を開始しております。
 採用人数は、クリアーに必要な人数最小限の予定。
 なお採用は先着順とさせて頂きます。
 規定数に達し次第、タグにて受付締切のお知らせを行います。以降の方はプレイングをお返しします。予めご了承下さい。

 プレイング受付期間内に参加された方のお連れ様は、別枠としてカウント・採用見込みです。
 ですが、お連れ様の方も『受付締切』を掲示した日のうちにご参加下さいますようお願い致します。
 ご参加が翌日以降になった場合は、不採用とさせて頂きます。
 (先にご参加下さった方は、ソロ描写が可能なようであれば採用します)
百合根・理嘉
まーかせて!(ぶい!)
ブレスの相談乗って貰った分くらいの働きはすっから!

双撃使用
Black Diamondで先制攻撃
速度についてけない場合はSilver Starに騎乗して
ジャンプでまずは一撃当てる

本題はそっから!
俺のオーラは『Black Diamond』
でも、そこに求めてんのは宝石としての美しさじゃなく『硬度』
そもそも、お前と求めてるもんが違うんだって話!

勝つことを疑わないのは悪い事じゃねぇけど
その思考はちっとばか、胸糞悪いぜ
選民意識ってのは好きじゃねぇ

それと、ダイヤモンド同士なら、勝機はこっちにあんだ
とか言いくるめらんねぇだろかね?
いや、実際のダイヤじゃねぇけど

敵の攻撃は見切りと残像で回避



●疾風Black Diamond
 人々の輪と和を乱す不粋な乱入者の登場に、百合根・理嘉(風伯の仔・f03365)は素早く相棒へと跨った。
 託された後を継ぐのに否やはない。
「ブレスの相談に乗って貰った分くらいの働きはすっからさ!」
 然して理嘉は、ご機嫌なブイサインを残し、夜を奔る風と化す。
「何、お前――」
「さぁ、何だろうな?」
 いけ好かないと判断した相手の問い掛けに、律儀な反応を返してやる無駄な優しさを、理嘉は持ち合わせない。
 ダイヤモンドを名乗り、核に有するだけあって、災魔の少女は美しい。が、他を見下す高慢さを理嘉は認められない。
(勝つことを疑わないのは悪い事じゃねぇけと、お前の思考はちょっとばかし胸糞悪ぃぜ)
 赤と銀のラインが鮮やかな黒い宇宙バイクを、理嘉はダイヤモンド目掛けて疾駆させる。
 アクセルは全開で、ブレーキに割く意識は爪先ほどもない。
 ダイヤモンドは速い。飛んでしまえば、きっと自分では追いつけない――猟兵の嗅覚か、或いは無意識の本能で察する『事実』に抗うには、理嘉自身が疾く疾く疾く疾く駆けるのみ。
 そうしてダイヤモンドが理嘉の実力を把握する前に、渾身の一撃を叩き込むのだ。
 目指す一瞬に賭け、理嘉は強さを求めた果てに手に入れた力を呼び覚ます。
 途端、搭乗する理嘉ごと、黒い車体がますます艶やかな黒へと染まる。
(Black Diamond――俺のオレのオーラは、宝石としての美しさじゃなく、その硬度)
 貫け、貫け、貫け。
 意識までをも研ぎ澄まし、理嘉は接敵までの僅かの間に、全霊を注ぐ。
 七色に輝く瞳が、理嘉をより注視したのは、その時。
 何者か? という興味が、敵意へと変わった瞬間、人間を超越した力を持たされた人形は空へと跳ねる――ならば、そうさせる前に。
「知ってるか? ダイヤモンド同志なら、勝機はこっちにあんだぜ!」
 口で仕掛けたのは、ハッタリだ。そも理嘉が繰る力は、ダイヤモンドそのものではない。けれど真実など、どうでもいい。
 居丈高な災魔の自信に、僅かでも疑念を抱かせられれば、それで十分。
「……え? お前も、ダイヤ――」
「お前とオレとじゃ、そもそも求めてるもんが違うんだって話なだけだぜ!」
 続くはずだった科白を断ち切って、理嘉は体当たる。
 衝突の衝撃に、理嘉の全身が悲鳴を上げた。けれど災魔を撥ね飛ばした手応えの爽快さの方が、今は大きい。
「ざまぁみろってんだ。下らねぇ選民意識ごと、砕けちまえ」

 エングレービングの夜空に、巨大な流星が降る。
 ダイヤモンドの輝きを放つそれは地に叩きつけられ、澄んだ身の内に微かな破壊の濁りを宿すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

指先の紅を彩るモルガナイトの桜色
きみが咲かせてくれた愛しい花彩に頬が緩むのがとめられない

噫、ダイヤモンド─そなたもまた美しいが
私にとってはサヨが選んでくれた、愛という名の彩を纏うこのモルガナイトこそが一番なのだ

刀を振るう
指先の桜が削られはしないかと案じてしまう
そうしたら、またサヨに咲かせてもらおう
流石に硬いな…されど斬れないなんてことは約されていないのだ
無敵なるものに凋落を

再約ノ縁結

禍を巡らせ不運を齎す神罰を叩きつけて無敵のまもりを断ち切るよ
サヨの太刀筋に合わせ斬撃派を放ち、切り込み切断する

見てくれの美しさが全てなのではない
大切なのは宿された縁と想い─それこそが、生命をより輝かせてくれる


誘名・櫻宵
🌸神櫻

指先を嬉しそうに眺める神がかぁいらしくて微笑ましいわ
私の指先に咲いた不格好なホワイトオニキスの白桜は、まるで神が纏う香を宿す花─梔子のようにも見えて
うふふ
ホワイトオニキスの石言葉をしっていて選んでくれたのかしら?
厄除けと……夫婦の幸福
どんな宝石にも勝る神の愛を指先に宿して刀を握る

どんなに美しい宝石だってこの愛には叶わない
無敵の宝石を咲かせ砕いてあげましょう
あなたの無敵さは神様に約されていないのだから

艷華
僅かな疵を抉るようにカムイと共に太刀筋を重ねていくわ
生命を喰らって咲かせましょ
力一杯になぎ払い、斬り壊す
手は緩めない
ダイヤモンドは砕けなくてもあなたの心はどうかしら
綺麗に砕けて
咲いて頂戴



●二振り、一太刀
 くふり、と。自身の紅爪に咲いたモルガナイトの桜に、朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)の貌が緩む。
 慈しむよう眺めていたかと思えば、軽く拳を握って花を抱きしめ、また開いて花を愛でる。
 幾度も幾度も繰り返される仕草は、歓喜が湧くのを止められない童が如く。だから誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)の目元も咲ってしまう。
(かぁいらしいこと)
 自分が咲かせた花を神様が喜んでくれているのは、巫女として至上の歓び。とは言え、櫻宵も似たようなものだ。
(ホワイトオニキスの石言葉をしっていて選んでくれたのかしら?)
 不格好に咲いた白桜へ視線を落とし、櫻宵もまたカムイの想いに酔い痴れる。
 花の輪郭が崩れたおかげで、梔子――神が纏う香りを宿す花――にも見えてきた白は、厄除けの他にも意味をもつ石。
(……夫婦の幸福、ですって――うふふ)
 ――噫、幸せ。
 幸せ過ぎて、舞の一差しでも奉りたくなる。
 そして程よく巻き込む相手は眼前に。
「どんなに美しい宝石だってこの愛には叶わない」
 桜枝角と枝垂れ桜の翼に、今まさに満開になろうかという花たちを咲かせ、櫻宵は腰に佩いた太刀に手をかける。
 抜き放つ時の静かな高揚は常のことだが、今宵は格別。
 どんな宝石にも勝る、神の愛を宿した指先で鯉口を切るのだから。
「さあ、無敵の宝石を咲かせ砕いてあげましょう」
 一足先に、巫女が駆け出す。
 その軽やかな足音に、爪の花に魅入っていたカムイも顔を上げる。
「ダイヤモンド─―そなたもまた美しいが」
 煌めきの夜に降臨した災厄の少女は、確かに美しい。なれどカムイの手元には、彼女以上の美が既に咲く。
「私にとってはサヨが選んでくれた、愛という名の彩を纏うこのモルガナイトこそが一番なのだ」
「っ、まったく! 臆面もなく!!」
 ぶつけられた直截さに、強固を誇るダイヤモンドの眸が鋭い光を帯びた。
「いっておくけど、お前たち程度じゃ私は砕けないのよっ!」
「それは、どうかしら?」
「なっ?」
 身構えたダイヤモンドは当然、櫻宵の接近にも警戒していたはず。だが予測を超えた速さを纏い、櫻宵は踏み込む。
「だってあなたの無敵さは、神様に約されていないもの」
 ――はぁ? と、不可解に眉を顰めたのはダイヤモンド。
 ――噫! と、胸昂らせたのは、櫻宵から贈られた赤を抜いた神(カムイ)。
「そうだ、私は汝の無敵を約していない」
 舞う櫻宵の軌跡を追って、カムイもダイヤモンドの懐へ踏み入る。
 世の条理なぞ知らぬ。
 櫻宵にとって唯一無二の神はカムイであり、カムイは『約する』神。
 そのカムイがダイヤモンドの無敵を否定したのだ。綻びは必ず生じる――例え、力尽くであろうとも。
「私たちを前に、身動き取れなくなるのは悪手よ」
 ――夢見るように、蕩けるように。
 ――甘く咲いてたべさせて。
 ――ほら、こんなにうつくしい。
 うっそりと微笑んだ櫻宵の赤い剣閃が、ダイヤモンドを袈裟懸けに薙ぐ。当然、手応えは硬いにも程があった。刃毀れしなかっただけ幸いとも言える。そして櫻宵の切っ先が描いた一線にカムイがピタリと重ねれば。
「流石に硬いな……」
 実感を呟くカムイの眼には、見得ぬものが視獲ていた。
 つるりと照るダイヤモンドの肌は、未だ無疵。けれどもそれは、あくまで今生の理の内。
「斬れないなんてことは約されていないのだ――無敵なるものに凋落を」
 ――人もをし 人も恨めし あぢきなく。
 ――世を思ふゆゑに 物思ふ身は。
 上から下へ払った刃をカムイは、今度は神罰を下から上へと切り返す。
 途端、うっすらと薄い線がダイヤモンドの身に浮く。
「サヨ」
「任せて頂戴」
 カムイの為に退いた一歩を櫻宵は詰め、カムイに入れ替わって白線に太刀筋を添える。
「   」
 守りと反撃に備える為に、ダイヤモンドは言葉一つ発せない。しかし美しい宝石の動揺を五感に拾い、櫻宵はいっそう艶やかに咲う。
「あなたの器は砕けなくても、その心の方はどうかしら? 綺麗に砕けて咲くのも、見物ね」
 ちりぢりになったダイヤモンドが放つ煌めきは、満点の星空をも凌ぐだろう。
 その光景を今宵神と共に愛でんと、巫女たる櫻宵はもう一太刀をダイヤモンドへ浴びせかけ、再び場を神(カムイ)へと明け渡す。
 一人では太刀打ちできないものも、二人でならば。
「汝、憶えておくが良い。見てくれの美しさが全てなのではないことを」
 大切なのは、宿された縁と想い。なればこそ、櫻宵がカムイの為に択んだモルガナイトこそが至宝。
「愛という名の彩を纏わぬ汝は、この桜咲く爪の前では塵芥も同然」
 言い切って、カムイは未だ『疵』とは言い難き白へ太刀を叩きつける。
 唯一の憂いは、硬質と硬質がぶつかる余波に、せっかく咲かせてもらった桜が削れてしまうこと。でも愛の籠った桜の色は、既にカムイの懐中に。一度散ったとしても、幾度でも咲かせて貰える。誰よりカムイの命を輝かせてくれる櫻宵の手によって。
「征こう、サヨ」
「ええ、私たちの愛で無色を染め上げてあげましょう」
 そんな事は頼んでいない――というダイヤモンドの悲鳴を封殺し、神と巫女は神罰を舞う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
おいでなすったな
前に遣り合った時ァ此奴の力を消す事が出来たモンだが…
此度は真っ向勝負
負ける気はしねえ
然し…此奴削ったら何色になるンでェ?

敵が無ェってなァ、殴り続けても良いってェこったろ
顔を潰そうが腕を折ろうが、死ぬ事ねェってんだからヨ
抑、潰れないし折れない?構やしねえさ
“潰されるやも知れぬ”“折られるやも知れぬ”ってえ恐怖くれえ感じるだろ

喧嘩は派手さと気迫
どちらも俺の十八番サ

しっ掴んでぶつけて、ぶん回して投げ飛ばす
敵とあっちゃあ見目なんざ関係ねェ
お前ェの気が折れる迄、影武者と喧嘩してやら

気の折れた、其の時は見逃さねェ
ぐんと本体に近付いて拳に渾身の力を込め、ぶち折れるくれえの一撃をくれてやる



●透色の彩
 同じ姿を持つ災魔と、菱川・彌三八(彌栄・f12195)は相まみえたことがあった。
(あん時ァ、此奴の力を消す事が出来たモンだが……)
 思い出すのは、大魔王の軍勢と遣り合った時分。そして此度は遠く離れた北方帝国。
 確かに災魔は禍根の一片までをも砕かねば、幾度でも現れる。つまり再会は珍しくなく、だからこそ『あらゆる手段』も試せるということ。
「此度は真っ向勝負と征くかねェ」
 にんまりと、彌三八は口角を上げる。
 その表情のまま、石畳を草鞋で駆け出す。
「いつまでもやられっぱなしだと思わないでよねっ!」
「ンあァ? 生憎、俺も負ける気はしねえのサ!」
 細い罅を無数に走らせた災魔の咆哮を右から左へ聞き流し、彌三八は固めた拳を適当に叩きつけた。
「――ってェな、オイ!」
 見目は小娘なれど、中身は流石の金剛石。打ち負けた初撃に彌三八は右の拳に息を吹きかけ、左手で筆を繰る。
「翔雲、弥栄、鳳鳴朝陽!」
 後退るのではなく、態勢を整えなおす為の歩を踏みながら、彌三八は意気揚々と全身に鳳凰を描く。後は再び、前へ、前へ。
「敵が無ェてなァ、殴り続けても良いってェこったろ?」
「はぁ? お前なにを言って――」
「遠慮は無しだぜ」
 金剛石の小娘が何をか問い返してきたが、彌三八はお構いなしだ。そもそも、確認しようと『無敵』の意味を口遊んだわけではない。
 択んだ戦い方(やりかた)で、自身の魂までをも染め抜くためだ。
「まずは、ひとつ」
 手近な処にいた一体の顔面目掛け、彌三八は拳を突き出す。一方ならぬ力を得た今度は、競り負けることはなかった。
「つぎに、ふたつ」
「「っきゃ!?」」
 砕けるところまではいかないものの、窪んだかんばせへ蹴りを呉れ、その勢いで反転した彌三八は、手が届いた腕二人分を右と左で其々むんずと掴むと、侭よと引き寄せぶつけ合う。
 がしゃん、と派手な音を立て、二つのダイヤモンドが砕けた。互いの硬さに、互いが負けたのだ。とは言え、災魔の少女自身は未だ健在。
 ――そう。彌三八が相手取るのは、有象無象に湧いて出る分身体。多少潰したところで戦況に影響はないし、金剛石の災魔も痛くもかゆくもない筈だ。
 だからこそ、彌三八も心行くまで大暴れする。
「喧嘩は派手さと気迫で勝負ってなァ!」
 災魔が被った洒落た紗を鷲掴み、無遠慮に引きずり回し、天へと放り遣り。落っこちてきたところへ、別の人形を蹴り出す。
 ともすれば庇護欲を誘いそうな見目麗しさも、『敵』と認識した彌三八の前では形無しだ。
 そも江戸っ子彌三八にとって、喧嘩は十八番(オハコ)。町火消よろしく、手あたり次第でぶっ壊す。ぶっ壊せなくても、ぶっ壊す。
(要は心意気さあ)
 数は暴力と云う。圧倒的な物量は、彌三八の息を荒げさせ、疲れさせもするだろう。しかしその数ゆえに、万一の恐怖を災魔に与えないとも限らない。
 脆い個体がいたら。重ねた疲弊に、容易に崩れる個体がいたら。そんな『もしも』が災魔の脳裏に過れば、しめたもの。
 そして彌三八の読みは的中する。
「――ッ」
「よし来た、そこでえ」
 金剛石の災魔が無意識に怯んだ隙を見逃さず、彌三八はとっ捕まえた分身体たちを蹴散らし、硬質な輝きの主へと駆け征く。
「覚えときな、喧嘩はテメェを疑った方が負けるつうことを!」
 握り締めた掌に、鳳凰の加護の一切合切を集めに集め。呉れるありったけの一撃は、華奢な肩へ。
「そん、な……どうし、て」
 ぽきり。
 存外、軽い響きで折れた腕を、彌三八は爪先で蹴って浮かして、拾い上げる。
 戦利品として持ち帰るような趣味はないが、無色の透色は削ると何色を醸すかは、彩を操る絵師として興味があった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アウグスト・アルトナー
【アパラさん(f13386)と】

▼アパラさんへの態度
友人から、今年2月に恋人になったばかり
共闘の経験はまだ少ないものの、信頼しています
上手く連携できたら、ぼくは笑顔をこぼすでしょう

▼敵への考え方
ぼくは『人々の幸福を壊す者』は許しません
こんな幸せなお祭りを邪魔する災魔は、骸の海にお帰りいただきましょう

▼戦闘
【神の奇跡】。ロザリオを手に【祈り】、敵を【焼却】します
敵が『金剛石』だというなら、炎には弱いはず
もし核の『金剛石』に届かずとも、動けない状態でずっと加熱されていれば、多少はダメージが入るでしょう

ぼくやアパラさんには、かなり高温の炎が向かうと思われますが
水魔法での防御、任せましたよ


アパラ・ルッサタイン
アウグストさん(f23918)と

アウグストさんと共闘するのは2度目かな
だが背を預けるに足る方である事は十二分に識っている
それに笑顔が咲くと大変可愛らしく……イヤ
まずは目の前に集中せねばね

ダイヤモンドがお相手とは光栄だこと
オパールでは到底、硬度じゃァ敵わない
けれどこの祭はあたしにとって、もう特別なものだから
勝利をくれてやる訳にはいかないの

攻撃は頼んだよ、アウグストさん
防御は任された
あなたに火の粉ひとつ降らせたくはない
【全力魔法】で応えよう

【秘色】で水の悪魔を喚び
火の耐性帯びた水泡で我々を包む
周囲にも幾つもの水泡を生み出して、我々の【残像】も映そうか
誤認を誘えれば重畳

嗚呼、あなたの火はうつくしいね



●貴石の夜に咲く大輪
 アウグスト・アルトナー(悠久家族・f23918)とアパラ・ルッサタイン(水灯り・f13386)。
 二人の関係が『恋人』といわれるものになったのは、今年の二月のことである。
 経て、四カ月。共に戦場に立つのは、これで二度目。阿吽の呼吸に至れる段階ではない――が。
(背を預けるには足る方である事は、十二分に識っているよ)
 揺れる柔らかそうな金の髪を横目に、アパラは遊色の特徴が顕著に現れる目を細めた。
 前を向く黒い眼差しは、ダイヤモンドのみを捉えて燃えている。
 強い眸だ。でも、それが笑顔に変わる瞬間をアパラは知っている。
(その変わりようが、大変可愛らしくてね……イヤ)
 つい上がってしまった口角を、アパラは意識して引き結び直す。恋る男が可愛らしいのはとても良い事だが、今は心を研ぎ澄まし、災魔と対峙することに集中する時。
「ダイヤモンドがお相手とは、光栄だこと」
「っ、お前オパールね? オパール如きが、私に敵うはずないじゃない!」
「――おや」
 アパラの何気ない呟きが災魔の少女の耳まで届いたのは、偶然ではなく必然。互いに手が届く距離まで幾らかあったが、神経過敏になった少女の反応は覿面だった。
「アパラさんっ!」
 冠する名に相応しい眼に宿った殺気に、アウグストはアパラの前へ身を呈す。
 既に片腕を失い、全身がうっすらと曇って見えるほど罅走ったダイヤモンドにとって、鮮やかな彩を放つアパラはただただ目障りなのだろう。
「邪魔よ、羽の男っ! 私は、その屑石をぶちのめさないと気が済まないのよ」
「成程、羽の男……ねぇ」
 刺さる苛烈な怒気は気にも留めず、アパラはダイヤモンドの喩えに得心を頷く。成程、確かに自分の恋人は『羽の男』と称するに相応しい翼持ちだ。
 そのアウグストと過ごした祭は、アパラにとっても既に『特別』。だからどうあっても災魔へ勝利を献上するわけにはいかない。硬度では到底かなわぬダイヤモンドが相手であろうとも。
「攻撃は頼んだよ、アウグストさん」
「――っ、」
 目の前にあった背をアパラがそっと押すと、弾かれる勢いでアウグストは振り返り、刹那の逡巡から僅かに目元が和らぐ。
「はい、任されました。幸せなお祭を邪魔する災魔には、速やかに骸の海へお帰り願いましょう」
 笑みとは言えない、けれど柔らかなアウグストの貌は、アパラだけが見ることが出来たもの。そこに勝利の暁には咲くであろう満開を垣間見たアパラは、力強く『守り』を請け負う。
「アウグストさんは、アウグストさんの思いの侭に」
「ありがとうございます」
 アウグストが羽搏き、踏み出す。
 もうアパラを振り返らない。しかし置かれた心の温もりを傍らに、アパラは手製の鉱石ランプを掲げた。
「内緒の友人をご紹介しよう」
「はぁ? 何を言って――」
「あなたはもっと僕を警戒するべきですよ!」
 貴石として、どうしてもアパラを意識してしまうのだろうダイヤモンドの視界に、アウグストは強引に割り入ると、ロザリオを巻いた腕をぐっと胸元に押し付ける。
「神よ、救いを」
「ご覧あれ」
 ぴたりと重なり響いたアウグストとアパラの声。前者は祈りで、後者は披露目。然して異なる二つの力は同時に発動した。
「え。え、え――」
「炎に灼かれてください」
 困惑と防御に身を固めたダイヤモンドへ、アウグストは灼熱の炎を差し向ける。
 ただし熱源はアウグストの足元。過剰に繰ればアウグスト自身も危うい――だが、その為にこそアパラは水の悪魔を喚んだのだ。
 無数の水泡が、二人を護る壁となる。
 熱に炙られても弾けぬ泡が、紅蓮の赤に照らされ虹色に煌めく。そこに映り込むアウグストとアパラの姿は、まるで星の海で踊るよう。
「熱いでしょう?」
 動きの一切を捨て、無敵の防御態勢をとったダイヤモンドを、アウグストは冷ややかに眺めた。
「確かにあなたか硬い。でもあなたの本質が金剛石にあるのなら、ぼくの炎の前では無力なはず」
「   」
 アウグストの指摘に、ダイヤモンドの口がはくりと動く。けれども既に声は音にならず、荒ぶる炎の熱に溶かされる。
 アパラの水に護られるアウグストの頬さえ赤らめる炎だ。炭素の結晶体であるダイヤモンドにとっては、天敵も同然。
「……あなたの火は、うつくしいね」
 嗚呼、とアパラが感銘を漏らす。
 芯を白に染める炎はどうしたって熱いが、眩しさは宝石にも似て。何より、救済をもたらす炎は美しい。
 そしてその白に抱かれて、極限まで耐えはしたがダイヤモンドも黒炭と化す。
 断末魔は、なかった。
 貴石の輝きを失った災魔は、熱を孕む風に巻き上げられ、空へ空へと消えて逝く。

「終わりましたね」
(ほら、ね。やはり、この笑顔だ)
 夜の空に黒の一端までもが消えるまで見守っていたアウグストの、恋人を振り返る顔は、アパラの知る、明るく、華やかで、甘やかな大輪であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月15日


挿絵イラスト