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深海の玻璃花

#グリードオーシャン #戦後

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#グリードオーシャン
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#戦後


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●海色逍遥
 揺蕩う波間を越えた先。
 蒼の人魚達が住む海域には、海流に乗って様々な美しいものが流れ着く。
 きらきら輝く金貨が詰まった宝箱。
 煌めく真珠のネックレスや、海の如く深い色をした瑠璃のペンダント。
 大きな鉱石の塊や、魔力が宿った占い道具、ふわりとした花嫁のヴェール。
 玻璃細工の蝶、透き通った晶石の花簪。硝子の靴。イニシャルが刻まれた指輪や、宝石が飾られたブレスレット。
 そういったものを集めるのが、人魚達のいちばんの楽しみ。
 どの品物もきっと此処に流れ着くまでにそれぞれの物語を辿ってきたに違いない。品々は人魚達の手によって保存の魔法が掛けられ、海底に大切に飾られている。
 珊瑚に掛けられたアクセサリーの一角。岩場に並べられた宝箱の数々。花硝子の海中路や、沈没した海賊船の中に設けられた宝石展示の場など。
 其処はさながら水底の美術館。
 海賊でもある人魚達は宝物が壊れたり、何処かに流されてしまわないよう、普段から丁寧に手入れを行っていた。また、この場所がいつでも美しくあるように、海底でも永遠に花を咲かせられる魔法の硝子器を飾っている。
 宝物の横にはドーム型や小瓶型の器に入った薔薇や百合、雛菊に向日葵、桜や桃の枝などが飾られていて、深海はいつも華やかな雰囲気に満ちていた。
 人魚達は今日も玻璃内の花を愛で、流れ着いた品々を深海の美術館に飾っていく。
 海の忘れ物。
 そのように称された品々の本当の持ち主が、いつか訪れることを願って――。

 だが、人魚の島には波乱が訪れることになる。
 誰も気付かぬうちに海域に姿を現したのは黒く淀む念の塊。それらの正体は、平穏を乱しに訪れたコンキスタドールだった。

●水中花と宝物
 鯨の骨の亡骸に取り付いた黒い念の化け物。
 それらが蒼の海賊人魚の島に訪れて大暴れする予知が見えたと語り、鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)は猟兵達に呼び掛ける。
「その島は『メイディア』と呼ばれておる。深海に住む蒼の人魚達が流れ着くものを拾いに来る場所じゃ。海底には『海の忘れ物』と人魚達が呼ぶ品々で溢れる美術館があるのじゃが……コンキスタドールが全てめちゃくちゃにしてしまうのじゃ」
 しかし、敵が訪れるのは暫し先。
 こちらには迎撃準備を整える時間がある。だが、相手は海中からやって来るため、人魚達の協力を得て戦う方が得策だ。
「人魚達は海を守る海賊でもあり、守りの泡や水の魔法を扱えるらしい。魔法の泡に入れて貰えば、泳げぬ者や水中呼吸が出来ぬ者も問題なく海中で行動できるようじゃ」
 蒼の人魚はとても人好きらしい。
 こちらから訪問すれば快く迎え入れてくれるだろう。
 きっと海底の美術館を案内したいと申し出てくれるので、戦いの前に人魚達と交流を深めてみるのも良い。ひとりでゆっくりと眺めたい場合は、守りの泡だけを施してそっとしておいてくれるので自由に行動も出来る。
「人魚達はこの海域や島、美術館を大切にしておる。大事な場所が壊されてしまう未来など、訪れさせてはならぬのじゃ」
 頼んだぞ、と告げたエチカは仲間達に信頼の眼差しを向けた。
 美しい海と宝物を守りきる。それこそが猟兵達の使命であり、繋げるべき未来だ。


犬塚ひなこ
 今回の世界は『グリードオーシャン』!
 こちらは戦後シナリオなので二章構成となります。

●第一章
 日常『海底の美術館』
 人魚達が集めた素敵なものが飾られた深海美術館です。
 敵が来る前にここで人魚と親交を深めましょう。人魚達は喜んで深海の案内をしてくれます。おひとりさまや、グループのお仲間さんとだけでのんびりと海底を見て回ることも可能です。

 泳いだり水中呼吸が出来ない方は人魚が大きな魔法の泡を作ってくれます。泡の中にいれば水中でも地上と同じような活動ができるのでご安心ください。

 海の忘れ物と称された品々は保存魔法によって守られています。他にも、海中でも咲ける魔法が掛かった硝子器に花が飾られており、海中の花逍遥が楽しめます。
 グリードオーシャンは様々な世界と繋がっています。もしあなたが過去に海や何処かで物品を失くしてしまっていた場合、ここで見つかるかもしれません。

●第二章
 集団戦『淵沫』
 海中にて、海域に訪れた敵を迎え撃つ戦いとなります。

 ご希望していただいた場合、一章で仲良くなったり知り合いになった海賊人魚の協力が得られます。二章から協力を仰いでも大丈夫です。どの人魚も快く、水の魔法を使って援護してくれます。

●蒼の海賊人魚達🧜
 ちいさな島『メイディア』周辺の海域に住む気のいい人魚さん達。
 コンキスタドールの襲来情報は伝わっているので皆様からの状況説明は不要です。深海美術館の品々や海の美しさに思い入れや誇りを持っており、絶対に守りたい気持ちが強いようです。

 一章と二章のプレイングの冒頭か末尾に『🌊』の記号を明記してくださった場合、人魚NPCをリプレイに登場させます。人魚の名前や性別、性格や年齢などはこちらにお任せください。偶然の出会いや縁をお楽しみ頂けると幸いです。
 人魚の協力の有無で判定が変わることはないので、お好きなかたちでどうぞ!
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第1章 日常 『海底の美術館』

POW   :    美術品に魅せられる

SPD   :    館長に声を掛ける

WIZ   :    ゆっくりと見て回る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鳳凰院・ひりょ
🌊
アドリブ歓迎

海底にある美術館か…、どんな所なんだろう
1人で参加だけど凄く楽しみだな
コンキスタドール達がそんな場所をめちゃくちゃにしてしまおうとしているなんて、許せないな…絶対に阻止しなきゃ

そんな思いもあるけれど、まずは美術館を楽しもう
俺は水の中での呼吸は厳しいので人魚さんに助力をお願いしてみよう
折角だから助力していただいた人魚さんに美術館を案内してもらおう
1人で楽しむのもありだけど、やっぱり誰かと見て回るのも楽しいし
人魚さん達と交流するきっかけになるなら尚更の事

楽しくお喋りしながら過ごせたらいいな

グリードオーシャンは色々な世界から物が流れ着くみたいだから、物珍しい品なんかも結構ありそうだ



●海の中へ
 蒼海羅針域――コンキスタ・ブルー。
 其処から見て外界にあたる島々のひとつ、人魚の島メイディア。ちいさな島と周辺の海底から成る場所に訪れた鳳凰院・ひりょ(天然系精霊術使いの腹ぺこ聖者・f27864)は、揺らめく水面を見下ろす。
「海底にある美術館か……、どんな所なんだろう」
「こんにちは! メイディアにようこそ!」
 島の海岸にいたひりょを見つけ、声を掛けてきたのは少年の人魚。水面から顔を出した少年はひりょを手招きしたかと思うと、水の魔力を巡らせた。
「これは魔法?」
「泡の守りです。これで自由に海の底で動けますよ」
 少年人魚はにっこりと笑い、ひりょに手を差し伸べた。名前を聞くと、彼はライネというらしい。ひりょも自己紹介をして、二人は深海に向かった。
 最初は少し戸惑いもあったが、泡に包まれた状態でも普通に呼吸も行動も思うままに出来た。改めて眺めた泡は玻璃のように美しく透き通っており、視界も良好だ。
「ひりょお兄さんはおひとりで来られたんですか?」
「そうだよ、凄く楽しみにしてきたんだ」
「嬉しいです! ほら、向こうが僕たちの美術館ですよ」
 ライネとひりょは話をしながら水底に進んだ。
 少年人魚が語る声からは、歓迎の気持ちと言葉通りの嬉しさが感じられる。ひりょは微笑ましくなりながら、そっと語りかけてみる。
「大事な場所なんだね」
「はい! メイディアのみんな、あの場所が大好きですよ」
「それにしても、コンキスタドール達がそんな場所をめちゃくちゃにしてしまおうとしているなんて、許せないな……絶対に阻止しなきゃ」
「ありがとうございます。ひりょお兄さんのその気持ちがあれば百人力です!」
 ひりょはこの先に起こる襲撃を思う。
 ライネをはじめとした人魚達もそのことを分かっているので、密かに気合を入れているようだ。視線を交わしあった二人は頷き、深海の美術館に降り立つ。
「戦いへの思いもあるけれど、まずは美術館を楽しもうか」
「ではご案内しますね!」
 ひりょが柔らかく笑むと、ライネは泡を魔力でそっと引き寄せた。
 こっちです、と明るく笑った少年人魚は硝子に入った花が並べられた一角に進む。進んだ先には愛らしい硝子ドームがあり、その中には蒲公英が咲いていた。
「この花、綺麗だね。海の底でも咲くなんて不思議だ」
「はい、この花は島に咲いていたんです。枯れそうになる前のものを摘んできて、魔法でずっと咲かせているんです」
 少年は楽しげに硝子瓶に掛けられた魔法について話していった。
 花を全て摘むのではなく、ちゃんと考えて選んできていること。永遠に咲かせることも出来るけれど、定期的に土に還してあげていること。
 白百合にネモフィラ、梅の花。
 あの花は地上から、この花の枝は海に浮かんでいた等、硝子の中の花について説明していくライネは花が本当に好きなようだ。ひりょも穏やかに話を聞き、ときに質問をしたりと楽しくお喋りをしながら過ごしていった。
「わあ、大変です」
「どうしたのかな、ライネくん」
「僕、お花の説明に夢中で展示品のことを何にも話していませんでした!」
「あはは、いいんだよ。でもそれじゃあ次は展示のことを紹介してもらおうかな」
「はい、行きましょう!」
 グリードオーシャンは色々な世界と繋がっている。此処に辿り着いた品々には隠された物語があるのだろう。きっと、珍しいものもあるはずだ。
 流れ着いた品をひとつずつ眺めようと決め、ひりょは少年人魚の後に続く。
 巡る泡の守護は、硝子めいた煌めきを宿しながらふわりと揺れた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
🌊

素敵な美術館ですねぇ

頂いた泡の中
喜びに瞳を輝かせ
彼方へ此方へ
品々や花々を眺め歩く

好奇心に誘われるがままの
ちっとも落ち着かない様子は
世界が全て真新しく耀いて見えるかの
生まれたばかりの稚魚のよう

はっと気づいて
取り繕うみたいに
ささやかにする咳払いも
きっと今更の体

連れ立ってくれた人魚さんと
笑い合えたら
いっそう花が咲く心地かしら

ふと
心惹かれた小瓶
古びているけれど
うつくしい飾りの彫られたもの

大切に手に取れば
中には
手書きの、詩編一片

古い詞は
いつかどこかの文献で見た覚え
記憶のままに
詠んで聞かせる物語

きっと
誰かの戀の唄

贈り主と
想われ人と
未来が叶っていると良いですねぇ

人魚さんと微笑みかわす
透明に澄んだひととき



●波間に揺蕩う戀の詩
「素敵な美術館ですねぇ」
 揺らめき、煌めく水の中。都槻・綾(絲遊・f01786)は水面から射し込む光に照らされた品々を、魔法の泡の中から眺めている。
 綾の視線の先にあるのは、珊瑚の枝に掛けられている様々なアクセサリー。
 陽を受けて静かに輝く宝石はとても美しい。
 綾は喜びに瞳を輝かせ、揺蕩う水の中を彼方へ此方へと進む。
 繊細な装飾が施されたチェーンが綺麗な瑠璃のペンダント。その傍らにはアガパンサスの青い花が飾られている。
 品々や花々を眺めて歩く綾の傍には、初老の落ち着いた男性人魚がついていた。
 彼の名はウルヤナ。綾に泡の魔法を掛けてくれたのも、この深海美術館に案内してくれたのも彼だ。
「此方です、綾様」
 ウルヤナは多くは語らず、次の順路に導いてくれるだけ。
 しっかりとした佇まいはまるで執事のようであり、その落ち着きが心地好い。目礼で以て感謝を示した綾は、好奇心に誘われるがままに海の回廊を見てまわった。
 婚礼に使われたであろう花嫁のヴェールが波間に揺蕩っている。
 誰かのイニシャルが刻まれた指輪が綺麗に整えられて飾られている様子も見えた。そのどれもに楽しい思い出や、或いは悲しい記憶が宿っているのかしれない。
 続いて宝箱が並ぶ一角に訪れた綾は更に瞳を輝かせた。
 世界が全て、真新しく耀いて見える。綾の様子はいつもと違って落ち着いておらず、まるで生まれたばかりの稚魚のよう。
「……ふふ」
 その光景を見ていたウルヤナは思わず笑みを零した。
 はっとした綾は顔を上げ、取り繕うようにささやかな咳払いをした。
「燥ぎ過ぎていましたか」
 取り繕っても今更だと分かっていたが、綾はウルヤナに問いかけてみた。すると彼は首を横に振り、楽しかったから笑ったのだと答える。
「よろしいのですよ。この場所をそんなに楽しんでくださっているのですから」
 だから自分も嬉しいとウルヤナは語った。
 海の忘れ物と呼ばれている品々も、きっと誰にもみつからぬ場所にあるよりも、こうして誰かの目に触れた方がいい。たとえずっと持ち主が見つからずとも、其処に在った証として違う誰かの記憶に残る。
 綾はウルヤナに誘われ、次は硝子瓶に入れられた花が並ぶ方に進んだ。
 海中でも咲く花。
 綺麗でしょう、と呼び掛けられて重なる視線。其処にある感情は良いものだ。いっそう花が咲いていくかの如き心地を抱き、綾は大いに美術館を楽しむ。
 そんな中、ふと綾が心を惹かれたのは或る小瓶。
 古びているけれど、とてもうつくしい飾りの彫られたもの。綾は了承を取り、瓶を大切に手に取った。防護魔法が掛けられている品は海の中でも濡れないらしい。
 取り出したのは、手書きの詩編一片。
 その古い詞は綾にとって、いつかどこかの文献で見た覚えがあるものだった。
 記憶のままに詠んで聞かせる物語。
 それはきっと、誰かの戀の唄で――。
「贈り主と想われ人と、未来が叶っていると良いですねぇ」
「ええ。形はなくとも、詩だけは届いているように願うのみです」
 綾とウルヤナは小瓶の中に宿っていた想いと言の葉に思いを馳せ、微笑みを交わす。
 巡りゆくのは透明に澄んだひととき。
 泡沫と陽の光が揺らめく狭間で、もう暫しの穏やかな時が流れてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

雪白・雫
この世界に来るのも、海の中に潜るのも、初めてです
この様になっているのですね
人間ではない為
呼吸も泳ぎも問題無く

永く生きているとはいえ
可愛らしいもの
美しいもの
ときめいてしまいます

風に揺れる野花も好きですが
水中に静かに佇む姿も
幻想的で素敵、です
同じ花でも全く違った御顔をしていますね
こんなに美しい永遠なら…

煌びやかな光景
目に映る何もかもが新鮮です
見た事の無いものも多く
これは何に使われるのでしょう?と考察してみたり
…他者と接するのは苦手だけれど
ずっとこのままではいられない、から
意を決し、人魚さんに尋ねてみます

鳥籠に住まう死霊たち
生の残痕が流れ着いていないでしょうか
何か気になるものはありますか…?



●探しもの
 揺らめく水面。天から射し込む光。
 蒼に満ちた世界を見渡し、雪白・雫(氷結・f28570)は双眸を細めた。雫はこの世界に来るのも、海中に潜るのも初めて。見るもの全てが真新しい。
「この様になっているのですね」
 感心して呟くと、雫の傍で泡の欠片がふわりと浮いて天上に昇っていく。きらきらと光を反射する泡を見ながら頭上を仰ぐと水面越しの空が見えた。
 海と空の違いを改めて感じながら、雫は水底に向かう。
 其処に見えたのは魔法が掛けられた硝子壜に飾られた花々。
 永く生きているとはいえ、可愛らしいものや美しいものにときめく気持ちもある。雫は花の回廊と呼ばれている箇所に降り立ち、海底に咲く花を眺めた。
「幻想的で素敵、です」
 風に揺れる野花も好きだが、水中に静かに佇む花の姿も良い。
 硝子に映った花の色が海底に射す光と合わさっている。雫はネモフィラの花が飾られた瓶を見つめ、そっと呟いた。
「同じ花でも全く違った御顔をしていますね」
 こんなに美しい永遠なら――。
 氷とは違う硝子の様相を見つめた雫は何かを思ったが、すぐに頭を振った。
 何処を見ても煌びやかな光景が続き、雫にとっては目に映る何もかもが新鮮だ。宝箱の中に入っていたマジックアイテムなどは見たことがなく、どうやって使うものなのかもわからないほどに不思議だった。
「これは何に使われるのでしょう?」
 ぐるぐると渦巻いたネジに持ち手が付いているものを見て、雫は首を傾げる。それがアルダワ魔法学園のガジェットだということは、まだ雫には知れないこと。
 それでも、考察してみるのも何だか楽しかった。
 そんな中でふと、雫は辺りを見渡す。他者と接するのは苦手だけれど――。
(ずっとこのままではいられない、から)
 意を決した雫は、近くに居た人魚にあることを尋ねてみようと決める。雫に気が付いたのはマリッタという元気で明るい少女人魚だった。
「あの……」
「どうしたの? 何か困りごと? それとも案内が欲しいのかな!」
「いいえ、そうではなくて」
 雫はマリッタに向けて首を振ってみせる。そして、償いの導にそうっと触れた。
 鳥籠に住まう死霊たち。
 纏わる生の残痕が流れ着いていないでしょうか、と雫は問いかけた。
「何か気になるものはありますか……?」
 雫が周囲を見渡してみたが反応は著しくない。
 マリッタはふるふると頭を振ったが、すぐに明るい笑みを浮かべてみせた。
「ごめんね、あたしには分かんないけど、落とし物って見つけた瞬間に『これだ!』ってなるらしいよ。だからね、探してみて!」
 花の回廊の奥にある宝石の路。ひんやりした沈没海賊船の中の展示室。まだ雫が行っていない美術館の全てを見て回れば、いずれ見つかるかもしれない。
「何かが――」
「ほら、考えるより行動だよ。いってらっしゃい!」
 元気に手を振る人魚に見送られ、雫は更に奥に踏み出した。
 今日この日、此処で何を見て何を感じることになるのか。それは実際に深海の美術館を巡った彼女本人しか知らない、少しだけ未来のお話。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
🌊

深海美術館、ステキ!
蒼と月の幽世蝶を手招き
楽しみね
ルー、クー

泡で海中へ?
つついたらパチンって弾けたりしない、よね
人魚さんの魔法は信じてるけど
泳ぎはバタ足が出来る位だから少しドキドキ

とうちゃく!
お世話になった人魚さんにお礼
もし良かったらご案内して頂いてもいい?
ルーシーは、ルーシーというの
よろしくね

お花、見たい!
海の中で咲くお花は更に特別って感じする
ワスレナグサ、ポピー…ヒマワリもある!
ルーシー大好きなの

人魚さんのお好きは花は?何てお話しながら進むと
あれは…イングリッシュブルーベル?
ここに咲いてるなんて

見て、ルー
あなたのお花よ
大事に愛されているね

以前ならきっと
笑えなかっただろうに
不思議と、今は



●大切な彩
 広がる世界は一面の蒼。
 ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)は揺らめく水面を覗き込み、水底に集められた品々に思いを馳せてゆく。
「深海美術館、ステキ! 楽しみね。ルー、クー」
 蒼と月の幽世蝶を手招いたルーシーは期待を胸に抱いた。その隣にはラウハと名乗った少女の人魚がいる。
「さあ、いきますよー!」
「泡で海中へ?」
「はい、全然こわくないですよ」
 ラウハが魔法の泡を作り出していく中でルーシーはドキドキしていた。ラウハはルーシーよりも少しだけお姉さんらしく、今は魔法の修行中らしい。
「つついたらパチンって弾けたりしない、よね」
「大丈夫、わたしは泡の魔法が一番とくいなんです!」
 人魚の魔法は信じているが、ルーシーの泳ぎの技術はバタ足が出来るくらい。それなのでやはり緊張してしまう。そうして、ルーシーはラウハに連れられて海に入った。
「わあ……!」
「ふふーん、言った通りでしょう?」
 瞳を輝かせたルーシーは、地上と変わらない心地と海の綺麗さに感嘆の声を零す。ラウハは得意げに胸を張り、こっちです、と深海美術館の方にルーシーを誘った。
「とうちゃく!」
「とうちゃーく、です!」
 そして、二人は美術館の入り口に当たる岩場に辿り着く。ルーシーは人魚に礼を告げるべく、ふわりと微笑む。
「ありがとう、ラウハさん。もし良かったらご案内して頂いてもいい?」
「もちろん! それじゃ……あっ、あなたのお名前を聞いていませんでした」
 少女が願うと人魚がはっとする。
 そういえばそうだったと気付いたルーシーはラウハに自己紹介をした。
「ルーシーは、ルーシーというの。よろしくね」
「よろしくです、ルーシーちゃん! じゃあまず花硝子の路に行きましょう」
「お花、見たい!」
 人魚に案内され、ルーシーは海の中を進む。話に聞いていた通り、其処には永遠に枯れない魔法が掛かった花々が飾られていた。
 海の中で咲く花は以前にも見たことがある。地上で咲く花よりも更に特別だという感じがして、とても良いものだ。
「ワスレナグサ、ポピー……ヒマワリもある!」
「綺麗ですよね。島で摘んできたり、交易船から譲ってもらったりした花です」
「ルーシー、ヒマワリが大好きなの」
「わあ、よかったです。わたしも太陽みたいでだいすきです!」
「他にラウハさんの好きなお花はある?」
「タンポポが好きです。黄色いお花も、綿毛もかわいいから!」
 少女達は和気藹々と花について語っていった。飾られた花はどれも人魚達が集めてきたものらしく、深海を彩りたいという思いが宿っている。
 硝子壜の中に咲く花から優しい気持ちを感じ取ったルーシーは、暫しゆるりと花の回廊を巡っていった。そんな中でふと或る花を見つける。
「あれは……イングリッシュブルーベル?」
 ここに咲いてるなんて、と不思議そうな表情をしたルーシーは其方に近寄った。その傍に幽世蝶がひらりと舞い降りる。少女は目を細め、蝶に語りかけた。
「見て、ルー。あなたのお花よ」
 大事に愛されているね、と言葉にしたルーシーの裡には嬉しさが生まれていた。
 いとおしそうに花を眺める少女。その横顔をラウハが見守っている。
「だいじなお花なんですね」
「ええ、とっても」
 以前ならきっと、この花を見ても笑えなかっただろう。
 けれども不思議と、今は――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

千波・せら
🌊

人魚の集めた宝物!
海底の美術館って素敵!

私の故郷も海の中にあるんだけど
いつかこんな風に飾られる日が来るかな。
ううん。私が飾ろうかな。

水中で過ごす事は出来ないから、人魚さんに泡をお願いするよ。
素敵な人魚さん。
よかったらこの美術館を案内してくれるかな?

私ね、海が大好きなんだ。
冒険も大好き。
海の中の宝物なんて聞いたらわくわくしちゃう!

これは何だろう。
綺麗なフォーク!こっちは綺麗な装飾のお皿。

あっちの宝物は、あっ!
これ、私の故郷の地図だよ!
まさかこんな所に流れ着いているなんて。

もうボロボロになってて読めない所もあるけど
でも私の故郷が書かれている。
ずっと探してたんだ。

ここにあったんだね。



●忘れ物は此処に
 流れ着いたものが飾られた水底は煌めいている。
 人魚の集めた宝物に、海底の美術館。瞳を輝かせた千波・せら(Clione・f20106)は今、硝子のように透き通った泡の中にいた。
「御気分は如何?」
「とても素敵!」
 せらに問いかけたのは泡の魔法の使い手、スヴィという人魚だ。大人っぽい雰囲気を纏った彼女はせらを気に入ったらしく、穏やかに微笑んでいる。
「そう、良かったわ」
 こっちへ、とせらを誘ったスヴィは水底に向かっていく。
 水中に浮かぶ泡沫が水面から射す光を反射してきらきらと光っていた。その光景を眺めたせらも嬉しそうに笑う。
「私の故郷も海の中にあるんだけど、いつかこんな風に飾られる日が来るかな」
 せらが視線を巡らせた先には、宝物めいた展示品が見えていた。せらはスヴィと共に岩場に降り立ち、並べられた宝箱を見下ろす。
 憧れめいた思いが浮かぶ中、せらはそっとちいさな思いを零した。
「ううん。私が飾ろうかな」
「あら素敵ね。あなたの美術館がいつか出来るのかしら」
 スヴィはくすりと笑み、自由に見ていってね、と周囲を示した。彼女の隣に移動したせらは、海色の瞳を幾度か瞬かせて問う。
「素敵な人魚さん、よかったらこの美術館を案内してくれるかな?」
「勿論。私の好きなものの紹介になるけれど、よろしくて?」
 スヴィは嬉しそうに承諾してくれた。
 せらは頷きを返し、ぜひ、と彼女に改めて願った。
「うん! 私ね、海が大好きなんだ。冒険も大好き。海の中の宝物なんて聞いたらわくわくしちゃう!」
「それなら案内にも気合いが入るわ。それじゃあ、まずはあちらね」
 スヴィはせらを手招き、食器類が綺麗に重ねられた一角に向かった。装飾が施された食器や、金色の盃。
 宝石が飾られたカトラリーもあり、それらが並べられている様は不思議だ。
 まるで今から海底で食事会が行われるかのようで、せらは可笑しそうに目を細めた。
「これは何だろう」
「それはね、何処かの王家の紋章だと思うの」
「本当?」
「なんてね、私の想像だけれど、そう考えると楽しいでしょう?」
「そうかも! わ、綺麗なフォーク! こっちは綺麗な装飾のお皿で……あっちの宝物は――あっ!」
 せらとスヴィは楽しく語り合いながら展示品を見ていた。
 しかし或るとき、せらが何かを見つけて駆けていく。スヴィは首を傾げ、せらが向かった方向についていった。
「何か見つかった?」
「これ、私の故郷の地図だよ!」
 せらが手にしていたのは保護魔法が掛けられた一枚の地図。まさかこんな所に流れ着いているなんて、と地図を眺めたせらは嬉しそうだ。
 流されていたときに破れてしまったのか、ボロボロになっていて読めない箇所もある。しかし、せらの故郷のことが書かれているのは間違いない。
「すごい……ふふ、忘れ物の持ち主が見つかった所に立ち会えるなんて」
「ずっと探してたんだ」
 スヴィはせらに、どうぞ持ち帰って、と勧めた。
 地図をそっと抱きしめたせらは偶然の出会いに感謝を覚える。
「ここにあったんだね」
 これまで忘れ物でしかなかったものは今、在るべき場所に戻った。
 おかえり、と告げたくなったせらは故郷を思い、揺らめく水面を見上げた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
🌊◎


主や友と離れ離れになった品々は保護され大切にされていることに
途中から孤児院育ちだった俺は嬉しく、胸が締め付けられる

そしてある一点に釘付けになり
見慣れた警察章、ボロボロになった手帳表紙、そこに刻まれた番号は
「……汐種、慎…」
切欠になった事件の後、彼の警察手帳だけなかった
奪われてしまったのかと思っていたが…
彼らを襲撃した犯人は未だ尻尾も掴めていない
あの手帳に汐種が何か残しているかもしれない
…何より、連れ帰ってやりたい

人魚に向き直り、頭を下げ
「どうか、この品を…譲ってくれないか」
思い出す
生前の彼との思い出も
まぼろしの橋から始まったひとひらの夢のような再会も
『梓』と呼ぶ声も、唇の熱も
「……頼む」



●忘れ物と忘れない物
 水底に沈んだもの、島に流れついたもの。
 品々が此処に飾られるようになった理由は様々で、たくさんの事情や物語があるのだろう。丸越・梓(月焔・f31127)は人魚に施して貰った魔法の泡から海中を眺めていた。
 主や友と離れ離れになった品々はいつか持ち主にの元に戻る可能性を秘めている。それが僅かな確率であっても、こうして人魚達に大切にされていることが尊い。
「……綺麗だな」
 梓は水底の回廊を巡り、花の硝子壜に手を伸ばした。
 その際に懐うのは孤児院でのこと。
 この美術館では捨てられたものも大事にされている。品々と自分達を無意識に重ね合わせていた梓は胸が締め付けられるような感覚を抱いていた。
 透き通った硝子をそっと撫でた梓は、回廊を進んだ。
 その先にあったのは雑多な小物が集められた一角。誰かの書きかけのスケッチブックや、小瓶に入った手紙など、紙のものが多い。流されてきたときに破れた箇所もあるらしいが、そのどれもが修復と保護の魔法によってある程度が復元されており、これ以上は傷まないようになっているようだ。
 そんな中でふと、梓は或るものを見つけた。
 ある一点に釘付けになって動けない。其処には見慣れた警察章が見えており、ボロボロになった手帳表紙があって――。
 そこに刻まれた番号にもまた、見覚えがあった。
「……汐種、慎……」
 梓が口にしたのは亡き同僚であり、友人でもあった男の名前。
 彼が命を失うことになった切欠になった事件の後、彼の警察手帳だけが見つからなかった。奪われてしまったのかと思っていたが、まさか世界を越えていたとは。
 彼らを襲撃した犯人は未だ尻尾も掴めておらず、せめて何らかの情報を、とずっと求めていた。汐種のことだ、手帳に何かを残しているかもしれない。
 それに、何よりも。
「……連れ帰って、やりたい」
 梓は自分でも意識しないまま、ぽつりと呟きを落としていた。すると、ちいさな少女の人魚がふわふわと泳ぎ寄ってきた。
 手帳を見つめる梓を覗き込んだ少女は心配そうに問いかける。
「おにいちゃん、どこかいたいの? テアがなおしてあげようか?」
「いいや、そうじゃないんだ」
 少女が回復魔法を使おうとしたことに気付き、梓は首を横に振った。
「よかった。なんだかね、とってもくるしそうだったから」
 自分の勘違いで良かったと語ったテア。少女もまた美術館を大切にしている人魚なのだと知り、梓は頭を下げた。
「どうか、この品を……譲ってくれないか」
「それ、おにいちゃんのものなの?」
「違う。けれども大切な、本当に大事な人の物で……」
 梓は語りながら思い出す。
 生前の彼との記憶。まぼろしの橋から始まった、ひとひらの夢のような再会。梓、と自分を呼ぶ声も、唇の熱も――夢で終わらせたくない。追えなかった事件の続きを、この出会いと共に繋げたいと思った。
「……頼む」
「だいじょうぶだよ、おにいちゃん。もってかえっていいよ!」
 テアはにっこりと笑み、手帳を示す。あなたが嘘をついているとは思えないから、きっと大人の人魚達だって快く手帳を渡すはず、と。
 テアは近くの岩場に腰掛け、梓を手招く。
「あのね、そのかわりにおにいちゃんたちのことをきかせて!」
「ああ、この手帳の持ち主は――」
 そして、少女に願われた梓は昔の話を少しだけ語っていく。持ち帰る品の代わりに、彼が生きた証と物語を此処に残していくために。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネムリア・ティーズ
◎🌊
わあ、人魚さんだ…すごくきれい
目の合った子に淡くほほえみ返し

案内して貰えるなら、ちゃんとごあいさつしないとだ
ボクはネムリア、よろしくね
よければキミの名前も教えて?
いっしょに楽しめたらうれしいな

海の忘れもの…迷子になってしまった子たち
でもこんなに大切に飾られて、見守られながら
大切なひとを待っていられる
…ここはきれいで、とってもやさしい場所だね

海の底や……小箱の中で
だれにも触れられず過ごすより、ずっとステキだ

それに今日はどの子か持ち主に逢えたかも?
ふふ、想像するだけでうれしくなるね

あ、そうだ
キミの一番すきな花はなあに?案内してほしいな

ボクに忘れ物はないけれど
ここでの想い出を連れて帰りたいんだ



●水底の記憶
 波間に揺れる蒼の尾鰭が飛沫を弾いた。
 泡沫に包まれる心地は柔らかく、ネムリア・ティーズ(余光・f01004)は揺らめく人魚の尾を追って海中に踏み出した。身体は沈んでいるというのに、浮かぶような心地が巡る中でネムリアは双眸を細める。その視線の先には先程の人魚が見えた。
「わあ、人魚さんだ……すごくきれい」
「きれい? 私にはあなたの方が綺麗に思えるわ」
 ふと目が合ったことで此方に泳いできた彼女は、ネムリアの明けぬ夜めいた瞳を覗き込んだ。そうかな、と淡く微笑んだネムリアに向け、人魚はそっと手を差し伸べる。
「良かったら案内をさせてくれる?」
「ありがとう。案内して貰えるなら、ちゃんとごあいさつしないとだ。ボクはネムリア、よろしくね」
 泡越しに重なった手と手と共に視線が重なった。
「ネムリアちゃんね。可愛い名前!」
「よければキミの名前も教えて?」
「私はペトラ!」
 早速、海底の美術館に連れて行くと告げたペトラはネムリアをいざなう。一緒に海を巡る時間が楽しくなるよう願い、二人は展示回廊に進む。
 まず目に入ったのは宝石の数々。
 豪華な宝箱に入っていたという品々は、水面から射す光を受けて煌めいていた。何処かの海賊か、それとも貴族などが持っていたものなのだろうか。
「海の忘れもの……迷子になってしまった子たち」
 ネムリアは並べられた品々を見つめ、そのひとつに手を伸ばしてみた。エメラルドの装飾が美しい腕輪は誰かへの贈り物だったのかもしれない。
 持ち主はまだ見つかっていない故に此処にあるのだが、知らない海を彷徨い続けて流されているよりは、こうして飾ってある方が素敵だと思えた。海の底や小箱の中で、だれにも触れられず過ごすより、ずっと良い。
 ネムリアが手にした装飾品に気付いたペトラは、そっと語り出す。
「私ね、この腕輪の持ち主は王女様だと思うの」
「こんなに綺麗な装飾だから?」
「そう! 想像だけれど、王子様が大切なお姫様に贈ったものだと思うと――」
 浪漫があると思わないかしら、とペトラは笑った。この腕輪に秘められた物語は誰も知らないことだが、人魚達はこうやって軌跡を想像しているのだろう。
「こんなに大切に飾られて、見守られながら、大切なひとを待っていられるんだね」
「ええ、ネムリアちゃんにもこの浪漫が分かるのね」
「うん。……ここはきれいで、とってもやさしい場所だね」
「そう言ってくれると嬉しい!」
 ペトラは心の底から喜びを示し、蒼の尾鰭を揺らして泳ぎ出した。次は違うものをネムリアに見せてくれるらしい。
 花の回廊を進めば、小瓶やカトラリー、誰かの日記など、様々な品があった。
「あら?」
「どうしたの、ペトラ」
「ここに飾ってあった手帳や地図がなくなってるみたい」
「それって、その子が持ち主に逢えたかもしれないってこと?」
「仲間の誰かが動かすはずはないから、きっとそうよ。すごいわ!」
「ふふ、元の主の所に戻れたって想像するだけでうれしくなるね」
 どうやら幾つかの品が美術館から持ち主の元に返ったらしい。嬉しそうにしているペトラを見ていると、ネムリアも穏やかな気持ちになった。
「あ、そうだ。ペトラ、キミの一番すきな花はなあに?」
「私? ええとね、あっちにあるルピナスの花なの」
「じゃあ案内してほしいな」
「もちろん! 行きましょう、ネムリアちゃん」
 人魚にそっと願えば、快い答えと微笑みが返ってくる。ネムリアはペトラと共に水底を進み、巡りゆくひとときを思う。
 自分には忘れ物はないので、何かを持ち帰ることは出来ない。
 けれども今日、此処で生まれた想い出を一緒に連れて帰りたいから――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
🌊

…実は、底のねェ海の青、てえのが苦手でよ
いんや、泳ぐのは得意な方サ
すれに、水底迄光が届くってンなら善いんだ
だが、ちいと一人くれえ居てくれると有難てェ
お宝ってえのもきちんと見てえしヨ

此処らに在る宝、てなァ別段座礁した物ばかりでもねェのかい
何かのはずみで落っことしちまった物、流されて此処迄来た物、か
積荷巻くのに使った錦絵なんてのもあるのかね
そうだ、海ン中でも花が咲くと聞いたゼ
ちいと案内しつくんな

お天道さんがねえのに、不思議なもんだ
珊瑚も良いだろうが、花が咲くなァ一等綺麗だ
もっと大きな器がありゃあ、木の一つでも植えられそうだ
桜なんてヨ、枝も良いが、鉢にしても乙なモンだぜ
何時か持ってきてやら



●海と花と約束と
「兄ちゃん、こっちこっち!」
 元気な少年人魚の声を聞き、菱川・彌三八(彌栄・f12195)は水面を見下ろす。
 互いに自己紹介を終えた彌三八と人魚の少年。彼によって作られた魔法の泡の中から見る海は、まるで硝子越し景色を眺めているかのようだ。ぱしゃぱしゃと鰭で波を弾いていた少年は、なかなか陸から踏み出さない彌三八に向けて首を傾げた。
「ヤザハチ兄ちゃん?」
「……実は、底のねェ海の青、てえのが苦手でよ」
 彌三八はアキと名乗った少年人魚に実情を打ち明ける。今から向かうのが海の底だと思うと妙に踏ん切りが付かなかったのだ。
「つまり泳げないってこと?」
「いんや、泳ぐのは得意な方サ。すれに、水底迄光が届くってンなら善いんだ」
 されど、彌三八にとって深海は未知の世界。もし誰の案内もなければ陸地にすぐ戻ってきてしまうだろう。事情を理解した少年はくすくすと笑い、彌三八を手招いた。
「だったら大丈夫さ! おいらがずっと兄ちゃんについててやるよ」
「有難てェ。お宝ってえのもきちんと見てえしヨ」
「このおいらに任せておきなって。宝物をいっぱい見せてあげる!」
 そういって、アキは彌三八を誘っていく。自信満々に先導する彼は幼いながらもとても頼もしく、彌三八も意を決して水底に向かった。
 浮かびゆく泡沫。揺らめく水面と射し込む光。
 辿り着いた海底は想像以上に明るく、彌三八は感心しながら辺りを見渡す。
 まずアキが案内したのは金銀財宝が詰まった宝箱の前。金貨に銀貨、記念硬貨などが入れられた箱は大きく、周囲の展示の中でも異彩を放っている。
「どうだ、すっごいだろ!」
「こりゃ何とも。海賊とやらの宝か?」
「多分ね。キラキラで、おいらの一番のお気に入りなのさ!」
 アキは腕を組み、胸を張っていた。彼の様子が妙に可笑しく、彌三八は何度か頷いて目を細める。
「此処らに在る宝、てなァ別段座礁した物ばかりでもねェのかい」
「島に流れ着いたのが殆どだけど、海に沈んでたものもあるよ。メガリス使いの仲間が遠くに行って拾ってきたものもあるんだ」
 何かのはずみで船から落ちてしまったもの、流されてこの海域まで来たもの。そういったものもこの深海美術館に集っているらしい。
「積荷巻くのに使った錦絵なんてのもあるのかね」
「ニシキエ? うーん、わかんないけど絵画みたいなのもあるかな」
 結構ボロボロだけど、と話したアキは彌三八を連れて別の一角に向かう。宝箱が並べられた岩場を越えた先には、彼の言葉通りに絵や紙が集められた箇所があった。
 どれも傷んでいたものを魔法で出来る限り修復し、水中にあっても劣化しないような力が施されているらしい。
 貴族を描いた絵画、浮世絵めいたタッチの絵。小瓶に入った文書。
 そういったものを眺めていた彌三八は、ふと或ることを思い出した。
「そうだ、海ン中でも花が咲くと聞いたゼ」
「ああ、まだ花の回廊に連れて行ってなかったや。次はそっちに行く?」
「ちいと案内しつくんな」
「任せて!」
 尾鰭を軽快に揺らして進む少年は、次に硝子壜に入った花が並ぶ回廊に向かった。其処にある花々は地上から摘んできたものに魔法をかけて海中でも咲かせているらしい。
「お天道さんがねえのに、不思議なもんだ」
「ふふーん、綺麗だろ」
 様々な花を眺め、彌三八とアキはのんびりと会話していく。
「珊瑚も良いだろうが、花が咲くなァ一等綺麗だ。もっと大きな器がありゃあ、木の一つでも植えられそうだ」
「木かぁ……」
「桜なんてヨ、枝も良いが、鉢にしても乙なモンだぜ」
「いいなぁ、ここにはちいさな枝しかないんだ」
「だったら何時か持ってきてやら」
「本当? やったー! 約束だからな、ヤザハチ兄ちゃん!」
「おうよ」
 交わされる会話は明るく楽しく、ひとつの約束と共に巡っていった。
 そうして暫し、二人の海底散策は続いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュジュ・ブランロジエ
🌊
お友達のラファエラさん(f32871)と
アドリブ歓迎
『』は裏声でメボンゴ(人形)の台詞

水中呼吸できないから人魚さんに協力してもらう
名前+さん呼び

わぁ、綺麗!展示の仕方も素敵だね!
海の忘れ物か……物語を感じるね
なんだか童話の世界みたい
でもどれも誰かの大事なものなんだろうなぁ
ここでとっても大事にされてるけど
『持ち主に迎えにきてもらえるといいね!』
その時は私も探すの手伝うね!

硝子の中で咲くお花もロマンチックだね
まさか海の中でお花を見れるとは思わなかったよ
ラファエラさんはどのお花が好き?
私は薔薇かな!
『メボンゴも!華やかでメボンゴにぴったり!』
鈴蘭も素敵!可憐で可愛いね!

うん、一緒に頑張ろうね!


ラファエラ・エヴァンジェリスタ
🌊ジュジュ(f01079)と
猟兵として初めての友達と初めてのお出かけだ

水中呼吸は人魚の力を借りる
案内も頼めるかな
貴公は、何と呼べば良い?

海の、忘れ物
もう持ち主のいない物もあるのだろう
だがしかしこうして丁寧に飾られてこれらも幸せだろう
でも、そうだね
メボンゴの言う通り、迎えに来て貰えると良い
いつか私も海で何かをなくしたらここに探しに来ようかな

…本当に
地上で見るものよりも美しく思えるのは何故だろう
ふふ、ジュジュもメボンゴも薔薇が好きなのだね
私も…嗚呼でも、鈴蘭も好き
地上に戻ったら花屋に行こうかな

でもまずはこの美しい場所をオブリビオンの手から守らなくてはね



●守るべきもの
 揺蕩う波間を越えて深く潜りゆく先。
 魔法の泡に包まれ、海底に集う宝物が展示された深海美術館に訪れたのは、ジュジュ・ブランロジエ(白薔薇の人形遣い・f01079)とラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)のふたり。
「わぁ、綺麗! 展示の仕方も素敵だね!」
 ジュジュは早速、海底に並べられた宝箱の方に掛けていく。泡のお陰で水の中でも地上と同じように動けるので、道中には何の心配もなさそうだ。
「ありがとう、貴公のお陰で無事に辿り着けた」
 ラファエラは魔法を施してくれた人魚に礼を告げ、そっと会釈をする。兎人形のメボンゴに目を向けていた人魚は顔を上げ、ラファエラに微笑みを返した。
「いいえ、私もお二人に訪れて頂けて嬉しいのです。お礼を言うのは此方ですわ」
「案内も頼めるかな。貴公、何と呼べば良い?」
「エレオノーラと申します。ぜひ、エレとお呼びくださいね」
「よろしくね、エレ!」
『仲良くしてね、エレ』
 人魚が自己紹介をすると、ジュジュとメボンゴが明るく挨拶をした。腹話術にくすくすと笑ったエレオノーラはジュジュ達を誘い、水底案内をはじめていく。
 宜しく頼む、と告げたラファエラにとって、これが猟兵として初めての友達との外出になる。それも人魚と一緒の道中となると不思議な感覚が巡った。
「……これが、海の底」
「御気をつけください。其方の珊瑚、綺麗な髪を絡め取ることで有名ですの」
 ラファエラに向け、エレオノーラは少し冗談めかして告げる。
 そうして珊瑚の森を越え、宝箱の岩場を抜け、人魚はひとつずつ説明をしていった。此処に集めたものはすべて、元は誰かの持ち物だったものだ。
「――ということで、私達は忘れ物を預かる形で此処に展示していますの」
「海の忘れ物か……物語を感じるね」
 なんだか童話の世界みたい、と感想を零したジュジュは珊瑚に飾られたペンダントや腕輪をじっくりと眺めた。
「海の、忘れ物」
 ラファエラもジュジュと同じ感想を抱き、ひとつの宝石箱を手に取った。保護魔法が施された箱はこれ以上、傷まないようにされているらしい。それはオルゴールにもなっているらしく、地上に持っていけば音が鳴るという。
「どれも誰かの大事なものなんだろうなぁ」
「きっともう持ち主のいない物もあるのだろう」
 ジュジュはラファエラの手の中にある宝石箱を覗き込み、こくりと頷く。元の持ち主が故人になっている可能性もある。だが、まだ持ち主が生きている品だってあるはずだ。
「ここでとっても大事にされてるから、いつか――」
『持ち主に迎えにきてもらえるといいね!』
 ジュジュはメボンゴを抱き、海の忘れ物を見渡した。
 ラファエラも首肯することで同意を示し、宝石箱をそっと元の場所に置く。
「こうして丁寧に飾られてこれらも幸せだろう。でも、そうだね。メボンゴの言う通り、迎えに来て貰えると良い」
『そのための深海の美術館だよね!』
「ええ、その通りですわ。メボンゴさんは本当に可愛らしいですわね」
 更にジュジュがメボンゴを操ると、エレオノーラが楽しそうに微笑んだ。その様子を見守っていたラファエラはふとした思いを言葉にする。
「いつか私も海で何かをなくしたらここに探しに来ようかな」
「その時は私も探すの手伝うね!」
 ラファエラに向け、ジュジュが明るい笑みを浮かべて告げる。その言葉も思いもとても真っ直ぐで、エレオノーラは穏やかに微笑んでいた。
 そうして、一行は花が飾られた回廊に向かう。エレオノーラは魔法が解けていないか確認してくると二人に告げ、何かあったら呼んで欲しいといってふわふわと回廊の奥に泳いでいった。その背を見送り、ジュジュとラファエラはゆっくりと花を眺めていく。
「硝子の中で咲くお花もロマンチックだね」
「……本当に」
「まさか海の中でお花を見れるとは思わなかったよ」
「地上で見るものよりも美しく思えるのは何故だろう」
『特別だからかな!』
「そうかもしれない」
 メボンゴを交えた和やかな会話が巡る中、ジュジュはふと綺麗な紅い薔薇が咲いている硝子壜を見つけた。そちらに駆け寄りながら、彼女はラファエラに問う。
「ラファエラさんはどのお花が好き? 私は薔薇かな!」
『メボンゴも!華やかでメボンゴにぴったり!』
「ふふ、ジュジュもメボンゴも薔薇が好きなのだね。私も……嗚呼でも、鈴蘭も好き」
「鈴蘭も素敵! 可憐で可愛いね!」
『あっちに鈴蘭も咲いてるよ!』
「行ってみようか」
 好きな花を語り、此処に咲いている花を見て回るひとときは心地好い。時折、エレオノーラも此方にひらひらと手を振ってくれていた。
 ラファエラは不意に花に触れたくなり、陸に思いを馳せる。
「地上に戻ったら花屋に行こうかな。でもまずはこの美しい場所をオブリビオンの手から守らなくてはね」
「うん、一緒に頑張ろうね!」
 ラファエラとジュジュはこの先に訪れる戦いについての考えを巡らせた。
 此処には人魚達が大切に想う宝物や、持ち主を待っている思い出の品ががある。それらを壊させはしないと決め、二人は決意と思いを重ね合った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
💎🌈


海底に美術館とか有るんだなぁ
人魚ってのは収集家みたいなもんなのかな?
いやほんと綺麗っつうか
めっちゃ色々あるな…俺様は忘れものとかはないとは思うが…
でも魔術物品とか有ったら欲しい…いや、流石に無理だろうが

俺様はまぁ海の中でも(なぜか)呼吸できるし泡は要らねぇ…いやいらねぇんだけどさ…
(体全体がアクアマリン色に淡く光っている(深海適応))
その泡…使い方教えて貰えるなら教えて貰いたいんだよな…!
あと海中でも花咲かせられる魔術も!
だって気になるじゃーん!

ただの泡は魔術で創れるけど…この手の泡は造れたことないんだよ俺様!
教えてくれるなら何でもするからさ…!
同じようにキラキラじっと人魚を見る


🌊


音海・心結
💎🌈



沢山の忘れ物がありますねぇ
どれも綺麗
保存がしっかり行き届いてる証拠です
魔術物品もあるのですか
みゆもいつか欲しいのです

あのっ、人魚さん!
さっきから聞きたかったのですが、
この泡ってどうやって作ったのですかっ!

包まれる泡を内側からぷにぷに
破れないのが不思議で堪らない
水中呼吸ができない立場からしたら、
仕組みから構造まで全てが謎

これが魔法で作ったものだとしたら
すごくすごく興味があるのですが、教えて頂けませんか?
お花を咲かせる魔術も気になりますが……
教わるのが無理でも、この目で見たいのですっ!

みゆたちの時間はありますっ
もし、貴方の時間が許すのなら

魔術を志す者としての想い
期待に満ちた眸を輝かせ

🌊



●ふわふわ魔法教室
 人魚の泡に包まれ、少年と少女が降り立ったのは海の底。
 輝く水面は頭上にあり、踏み締めた海底には揺らめく光が降り注いでいる。
「沢山の忘れ物がありますねぇ」
「海底に美術館とか有るんだなぁ」
 音海・心結(瞳に移るは・f04636)と兎乃・零時(其は断崖を駆けあがるもの・f00283)は周囲に飾られた展示品を眺めていた。その隣には心結に泡の魔法を施した少女人魚、ビルギッタがいる。
「えへへー、すごいでしょ。ボク達の自慢なんだよ!」
 元気で明るいボクっ娘のビルギッタは零時と心結に胸を張ってみせた。感心した二人は宝箱や宝石を見つめ、それぞれに景色を楽しんでいく。
「どれも綺麗で、保存がしっかり行き届いてる証拠です」
「人魚ってのは収集家みたいなもんなのかな?」
「ボク達の仲間はそんな感じかなあ。他の人魚さんもそうなのかなっ?」
 零時が零した疑問に向け、ビルギッタは楽しそうに答えていった。彼女の案内に従って順路を進む心結達は、様々なところから流れ着いたという品々に興味津々。
「いやほんと綺麗っつうか、めっちゃ色々あるな……俺様は忘れものとかはないとは思うが……でも魔術物品とか有ったら欲しい」
 いや、と首を振った零時は流石に無理だろうと思い直す。心結は素直な少年の様子にくすりと笑い、自分も同じことを思ったのだと話した。
「魔術物品もあるのですか。みゆもいつか欲しいのです」
「ここのものは勝手にあげちゃいけない物なんだ。でもでも、もう持ち主が絶対に現れないものもあるからね。ボクは欲しい人がいたらあげちゃってもいいと思うんだ」
 館長がダメっていうけどね、とビルギッタは不服そうに唇を尖らせた。
 次はこっちだよ、と先を示す人魚は花硝子の海中路に二人を誘う。美しい花々が硝子壜やドームに飾られている様を見学しつつ、心結はビルギッタを呼ぶ。
「あのっ、人魚さん!」
「どうしたの? なにか質問かな」
「さっきから聞きたかったのですが、この泡ってどうやって作ったのですかっ!」
「ふえ?」
 心結からの問いが美術館についてではなかったので、ビルギッタは首を傾げる。
 その間に心結は自分が包まれている泡を内側から突っつく。ぷにぷにとした感触が巡って妙にくすぐったい。こんな風に触れているというのに、破れないことが心結には不思議で堪らないようだ。
 人魚のように水中での呼吸ができない立場からすれば、仕組みから構造まで全てが謎の不思議魔法だった。
「そうだ、俺様も気になってたんだよな」
 零時は何故か海の中でも呼吸できるので泡は要らない。自分だけのことを考えると不要なのだが、魔法となると気になって仕方ない。
 そんな零時の身体は、先程からアクアマリン色に淡く光っている。
「泡は要らねぇ……。いやいらねぇんだけどさ、その泡……使い方を教えて貰えるなら教えて貰いたいんだよな! あと海中でも花咲かせられる魔術も!」
「なるほど、キミ達の興味は魔法ってわけだね!」
 ビルギッタは納得した様子で何度か頷く。
 心結は水中でも自由に動ける魔法について、詳しく聞きたいと考えていた。
「これが魔法で作ったものだとしたら、すごくすごく興味があるのですが、教えて頂けませんか? お花を咲かせる魔術も気になりますが……」
「うーん、ボク達にとっては難しい魔法でも何でもないんだけどなぁ。ふふ!」
 心結の真剣な眼差しを受け、ビルギッタはくすくす笑う。
 すると零時が強く言い放った。
「だって気になるじゃーん!」
「教わるのが無理でも、この目で見たいのですっ!」
「うんうん、いーよー」
 ビルギッタはふわふわと答え、蒼の尾鰭を揺らしていた。
 その声に気付かなかったらしい零時も魔法を教えて貰うために力説していく。
「ただの泡は魔術で創れるけど……この手の泡は造れたことないんだよ俺様! 教えてくれるなら何でもするからさ……!」
「みゆたちの時間はありますっ! もし、貴方の時間が許すのなら」
 心結は魔術を志す者としての想いと期待に満ちた眸を輝かせる。零時も彼女と同じようにキラキラした瞳で、じっと人魚を見つめた。
 ビルギッタは可笑しそうに口元に手を当て、大丈夫だよ、と話す。
「あはは! いいよ、何にもしなくたって教えてあげる!」
「本当ですか?」
「本当か!?」
 その途端、心結と零時の声が重なった。顔を見合わせた二人は自分達がとても真剣だったことに気付き、互いに笑みを交わしあう。
 そして、美術館の片隅で人魚による泡の魔法講習が始まっていく。
 だが――。
「それじゃあ行くよ。ふわっとしてぎゅーっとして、ぷかーってするの!」
「ふわ……?」
「ぎゅーっ?」
「そうそう、それでぷかーっ!」
 ビルギッタの説明はとても、恐ろしい程に感覚的だった。頭の上に疑問符を浮かべるしか出来ない心結と零時に向け、人魚は瞬く間に泡を巡らせていく。
「待ってください。ふわっとして、ぎゅっと……?」
「ぷか……どうやるんだ??」
「もう一回やるね。ぎゅわーってしてぷわわわーだよ!」
「やり方変わってねぇか!?」
「みゆにも分からなかったのです……」
 更に疑問が浮かぶ魔法教室はてんやわんや。この後、少年と少女が無事に目的の魔法を習得できたか否か。その顛末は、彼らだけが知ることとなる。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

彩波・いちご
🌊
あかねさん(f26442)と

海底の美術館ですか…セイレーンのあかねさんはともかく、私には不慣れな場所ですし…
まぁ、あかねさんもこの世界の出身ではないですし
やっぱり人魚さんに案内を頼みましょう
知り合いの人魚さんは子供みたいに無邪気な人ですけど、こちらはどんな人がくるんでしょうかねぇ

案内を受けつつ、綺麗な花を見ながら、腕を組んでお散歩
…はいいのですけど、あまりその、胸を押し付けないでいただけると(赤面
いえ、ですから、胸の話はいいので、美術品みましょうよ
案内の人魚さんも困ってるじゃないですか、もぉ…

すみません、お邪魔とかではないので、案内の続きお願いしますね?
説明楽しく聞かせてもらってますので!


静宮・あかね
いちごはん(f00301)と久々のデートは美術館
しかも海の底…ふふっ、ロマンチックやわぁ…♪
※彼にのみ京言葉

ほら、ウチはセイレーン言うても此処の出身やないし
水中呼吸できても、こないな神秘体験はなぁ?
人魚はんも…商売で出入りする恋華荘に一人いてはるけど
他は縁ないさかい、案内の人魚はんとも興味深げに話すんよ♪

わぁ。ほらアレ、キレイな花やわぁ…♪(ぎゅむ)
美術品とかも、由来どないなもんやろ…?
…っていちごはん、さっきから顔赤いんよ?
え、胸が当たって?…んもう、いけずやわぁ…(ぽっ)

あ、でも去年の星占い以降驚く程大胆になって
胸は結構育っとるし…押しも強くなったかもなぁ?
…こういう風に♪(頬にちゅ)

🌊



●押しの強さと恋の行方
 揺らめき、波が轟く海の世界にて。
 彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)と静宮・あかね(海慈屋の若き六代目・f26442)は、メイディアと呼ばれる島の海岸に訪れていた。
「海底の美術館ですか……」
「ふふっ、ロマンチックやわぁ……♪」
 久々のデートは美術館。しかも海の底と来れば期待や興味も高まる。迎えの人魚を待っている二人はそれぞれに思いを馳せた。
「セイレーンのあかねさんはともかく、私には不慣れな場所ですし……」
「ほら、ウチはセイレーン言うても此処の出身やないし」
「そうですね。まぁ、あかねさんもこの世界の出身ではないですし、やっぱり人魚さんに案内を頼みましょう」
「そうそう、水中呼吸できても、こないな神秘体験はなぁ?」
 いちごとあかねは、わくわくとした様子で蒼の波間を眺めた。もうすぐ、水中でも呼吸や行動ができる魔法を施してくれる人魚が現れるらしいのだが――。
「知り合いの人魚さんは子供みたいに無邪気な人ですけど、こちらはどんな人がくるんでしょうかねぇ」
「恋華荘に一人いてはるけど、この世界の子はどんな人魚はんなんやろ♪」
 あかねには他の人魚との縁はなく案内の人魚がどんな相手なのか楽しみなようだ。そうして、いちご達の前に現れたのは少女の人魚だった。
「あ、あの、ごめんなさい。遅くなりました……っ」
「こんにちは、人魚さん。お名前は?」
 恥ずかしそうにもじもじとしている人魚が現れたことで、いちごはにこやかに問いかけてみる。すると彼女は頬を赤く染め、おずおずと自己紹介をする。
「パイヴィッキと申します。ヴィッキーとお呼びください。はわわわ……」
「ヴィッキー様ですね。恥ずかしがり屋さんなのでしょうか?」
 興味深げに話すあかねは普段の口調で丁寧に問いかける。パイヴィッキは恥ずかしそうにこくこくと頷く。どうやら彼女は極度の照れ屋らしく、いちごはそんな人魚を応援したくなっていた。
「では、案内をお願いします」
「はっ、はい! 泡の魔法をかけさせてもらいますね」
 こちらです、と二人をいざなったパイヴィッキは深海の美術館に向かっていく。
 その後に付いていったあかね達は、まず硝子壜やドームに入れられた花が並べられた回廊を見ることになる。
「わぁ。ほらアレ、キレイな花やわぁ……♪」
「とても綺麗に保存されているんですね」
 あかねはハイドランジアが飾られた硝子を覗き込み、いちごの腕にぎゅっとしがみついた。仲睦まじく腕を組んでの花逍遥はゆったりと巡っていく。
「あっちにはガーベラもありますよっ」
「ありがとうございます、そちらも見に行きましょうか」
 パイヴィッキの案内を受けつつ、いちごは綺麗な花を堪能していく。しかし、ひとつだけ気になることがあった。先程から、ぎゅむ、と当たるものがある。
「花はいいのですけど……」
「いちごはん、美術品とかもみたい? 由来どないなもんやろ……?」
「そうではなくて……」
 いちごは懸命にあかねにあることを伝えたいのだが、なかなかうまくいかない。その間に彼の頬は先程のパイヴィッキのように赤くなっていった。
「……っていちごはん、さっきから顔赤いんよ?」
「あまりその、胸を押し付けないでいただけると……」
「え……。んもう、いけずやわぁ」
 赤面したいちごの言葉を聞き、あかねもまたぽっと頬を染める。しかし照れてしまっているいちごとは反対に彼女は満更でもない様子。
 思い返すのは去年の星占いのこと。
 あれ以降は驚くほどにあかねは大胆になった。今もこうして腕にぎゅっとしているのも成長の証かもしれない。
「胸は結構育っとるし……押しも強くなったかもなぁ?」
「いえ、ですから、胸の話はいいので、美術品みましょうよ」
 その様子を見ていた人魚はというと顔を押さえてしまっていた。どうやら恥ずかしがりな人魚には刺激が強い光景だったらしい。
「はわわ」
「案内の人魚さんも困ってるじゃないですか、もぉ……」
「でも、ほら……こういう風に♪」
 あかねはいちごに更に近付き、頬に唇を触れさせた。ちゅ、と音がしたことでパイヴィッキは柱の影に隠れてしまう。
「ごめんなさいっ! 私、お邪魔ですよねっ」
「すみません、お邪魔とかではないので、案内の続きお願いしますね?」
「で、でもでも……!」
「説明楽しく聞かせてもらってますので!」
 はっとしたいちごは人魚にそっとフォローを入れたが、慌てている彼女は隠れたまま出てこない。しかし、ちらっとあかねを見た人魚の視線は何だか羨ましそうで――。
 その後、意を決した人魚があかねに積極性について教えを請うという事態が巡った。何だかんだできっと、この出会いも良きものだったのだろう。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナターシャ・フォーサイス
ディフさん(f05200)と共に🌊

私はヒトの身。
人魚さんに泡で包んでいただいて、案内を頼みましょう。

色々経験した故に、使徒たる装いも新たになりましたが…
その、ディフさんに褒めていただくと、照れてしまうと言いますか…
いえ、いえ、とても嬉しいのですけどね?

こう眺めて、どれも物語があることに思いを馳せると…
とても遠大で悠久なるものに触れている気がします。
私の贈った白銀の加護もですが、ディフさんの持つものには宝石のあしらわれた物も多いですし…不思議な気分になります。

…おや、これは?
この羽根は…かつての聖祓鎌、その欠片でしょうか。
あの時砕けたものと思っていましたが、よもやここにも流れ着いていたとは…


ディフ・クライン
友のナターシャ(f03983)と
🌊
人形故酸素の補給は不要だから
オレはこのままで
人魚に案内を頼もうか

水に揺蕩うナターシャの服を見て
まるで海の女神様と一緒に居るみたいだ
綺麗だね、ナターシャ

深海の景色を楽しみながら向かう沈没船
海の底で眠る船を珍し気に眺めながら
そこに並ぶ宝石に
ベニトアイトで出来た己の宝石眼を細め
これが全部、落とし物や失くしものか
それが海の底でこうして飾られているなんて、不思議なものだね
オレ自身に使われている宝石は、魔力の媒介になるからかな

ナターシャ、それは?

彼女が見つけたものに首を傾げ
あの時の欠片か
海は何処へでも繋がっているんだね
遥か遠い世界にも
…きっと、遠き海の果ての楽園にも



●縁と水の巡り
 ヒトの身である者と、人形として在る者。
 似て非なるものであるナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)とディフ・クライン(雪月夜・f05200)は今、それぞれの方法で海に入っている。
「ありがとうございます、人魚さん」
「いえ、あたしたちの美術館に来てくださる方を歓迎するのは当たり前です!」
 ナターシャは人魚に泡の魔法を施して貰っていた。二人の案内を買って出た彼女はエヴェリーナというらしい。
「お兄さんはそのままで良かったんですか?」
「オレはこのままで。案内を頼む」
「はい! では行きましょう」
 エヴェリーナはディフにも泡の魔法をかけようとしていたが、本人が大丈夫だというのでそっと頷いた。そして、人魚はナターシャ達を誘って深海に進んでいく。
 こっちです、と案内されたのは花が並べられた海の回廊。
 此処から先に進めば沈没船を利用した展示室があるのだと語り、エヴェリーナは二人に先に進むように促した。
 どうやら自分が先に進んであれこれ言うより、ディフ達が自ら進むことで色々な発見をして欲しいと考えたようだ。人魚にそっと見送られた二人は、硝子壜に入れられた花を眺めながらゆったりと歩いていく。
 その際、ディフは水に揺蕩うナターシャの服を見ていた。
「まるで海の女神様と一緒に居るみたいだ」
「私ですか? 確かに、色々経験した故に使徒たる装いも新たになりましたが……」
「綺麗だね、ナターシャ」
 ディフからの言葉に少し驚いたナターシャは自分の装いを改めて見下ろす。綺麗だ、と続けて言われたことで彼女は僅かに頬を赤らめた。
「その、ディフさんに褒めていただくと、照れてしまうと言いますか……いえ、いえ、とても嬉しいのですけどね?」
「綺麗なものは綺麗だからね。嬉しいなら良かった」
「ええと……。はい……ありがとうございます」
 ディフがあまりにも真っ直ぐに告げてくれるのでナターシャはお礼を告げて頷くことしか出来なかった。そんなやりとりをしつつ、二人が辿り着いたのは船の内部。
 泡が揺らめいて浮かんでいく最中、ふんわりとした魔法の灯りに照らされた宝箱が見えてきた。船の中の棚には装飾品が綺麗に並べられており、保存と保護の魔法によって守られている。
 紋章が入った剣や斧、宝石が埋め込まれた腕輪。
 きっとそのどれもに持ち主がいて、様々な経緯があって海に流れ着いたのだろう。
「これが全部、落とし物や失くしものか」
「こう眺めて、どれも物語があることに思いを馳せると……とても遠大で悠久なるものに触れている気がします」
 ベニトアイトで出来た宝石眼を細めたディフが感嘆混じりの言葉を落とすと、ナターシャもそっと頷いて答えた。
「それが海の底でこうして飾られているなんて、不思議なものだね」
「私の贈った白銀の加護もですが、ディフさんの持つものには宝石のあしらわれた物も多いですし……不思議な気分になります」
「オレ自身に使われている宝石は、魔力の媒介になるからかな」
 ディフはナターシャと言葉を交わしながら、海の底で眠る船や宝石、アクセサリーや武器などを珍し気に眺めていった。
 そんな中でふと、ナターシャが或る場所で立ち止まる。
「……おや、これは?」
「ナターシャ、それは?」
「この羽根は……」
 棚の一角に置かれていたそれを手に取ったナターシャは少しばかり驚いた表情をしていた。彼女が見つけたものを覗き込み、ディフは首を傾げる。しかし、二人ともすぐにそれが何であるかを察していた。
「かつての聖祓鎌、その欠片でしょうか」
「あの時の欠片か」
「砕けたものと思っていましたが、よもやここにも流れ着いていたとは……」
 不思議な縁が今、此処で巡った。
 ディフがナターシャが持つ羽根を宝石の瞳に映していると、其処にエヴェリーナが泳いできた。はっとした人魚はナターシャの傍に近付き、すごい、と言葉にする。
「わあ、もしかしてこの羽根の持ち主さんだったんですか?」
「はい、実は……」
「それはね、あたしが見つけたんです! 陸に上がったら空から海に降ってきたので、天使様の贈り物なのかなって思って。でも、そっかあ」
 運命的だと語ったエヴェリーナは本当に嬉しそうにナターシャを見つめた。それをどうするかは持ち主次第だと告げた人魚は、ディフにも笑いかける。
 数多の世界と繋がっている海は、こうして縁を繋げることもあるのだろう。
 そう感じたディフはエヴェリーナとナターシャを見守り、思いを言葉にする。
「海は何処へでも繋がっているんだね。遥か遠い世界にも……」

 ――きっと、遠き海の果ての楽園にも。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アトラム・ヴァントルス
【水精】
『海の忘れ物』に興味を覚えたので行きましょう。
流れ着くものが飾られた美術館と聞いていますし、
もしかしたら今はなき故郷のものが何かたどり着いてないだろうかと考えまして。
形見などは期待していないのですが…

おや、ティティもこちらに用ですか?
良ければご一緒にいかがですか?

ティティは何に興味をもったのでしょうね。
見る視点が異なると同じものでもまた違う魅力も見えるもの。
この子の視点はとても興味深い。

色々と見る中でふと、飾られた白の水中花に目が留まる。
故郷でも咲いていた花で、よく母が髪に飾っていたものだと懐かしむ。
ティティに何か問われればその思い出を語りましょう。
君にもその花は似合いそうですね。


テティス・カスタリア
【水精】
(人魚姿で潜水)
「久しぶり、って言うべき?」
この海域、知らない
でも陸に上がるまで、深海流の一部だったから
個人を知らなくても、深海人魚自体は、ずっと知ってる
ふと振り向く
「アトラ?」
同じセイレーン
でもアトラが何を感じてるかはわからない
「ん、行く」
ぴっとりくっついてもわからない

自分もずっと流れ着く物、受け止めてて
たまに引き留めた物の共通点は、今思えば『意志が残ってる物』
それ以外は海流任せ、残っても残らなくても…そんな感じ
人魚も中々来ないくらいすごく深い所だったから、迎えに来る人なんて考えたこともない
だから此処の人魚たちのやり方、ちょっと新鮮
「?」
アトラ、何かずっと見てる
知ってる物?(首傾げ)



●巡る流れと花模様
 海に沈み、或いは波に乗って世界を巡る漂流物。
 それらが人魚達によって収集され、『海の忘れ物』と呼ばれていると聞いて、アトラム・ヴァントルス(贖罪の咎人・f26377)は興味を覚えた。
 メイディアと名付けられた島に訪れたアトラムは、件の深海に向かっていく。
 其処は流れ着くものが飾られた美術館だと聞いている。
(もしかしたら――)
 今はなき故郷のものが何か辿り着いているかもしれない。形見などは期待していないのだが、一縷の希望を抱いてみるのも悪くはないだろう。
 そのように考えたアトラムが水底に進む最中。
 彼とは違う方向から、人魚姿で海に訪れていたテティス・カスタリア(想いの受容体・f26417)がふわりと游いできていた。
「久しぶり、って言うべき?」
 テティスは海に游ぐ人魚達を眺め、そっと言葉を紡いだ。
 この海域は知らない場所、
 けれどもテティスは現在のように陸に上がるまで、深海流の一部として深い海の中を巡っていた。たとえ個人を知らなくとも深海の人魚自体はずっと知っている。
 それゆえにこの海域でかけるべき言葉は、初めましてではなく久し振りというものが相応しいと思った。
 緩やかに游いでいくテティス。
 その姿に最初に気付いたのはアトラムだった。自分に背を向ける形で進むテティスをそっと追いかけた彼は声を掛ける。
「おや、ティティもこちらに用ですか?」
「アトラ?」
 振り向いたテティスは、同じセイレーンである彼の名を呼び返した。互いに深海美術館に訪れた者同士だと知り、アトラムはテティスを誘う。
「良ければご一緒にいかがですか?」
「ん、行く」
 問いかけにすぐに答えたテティスはアトラムの方に游ぎ寄った。ちょうど其処には硝子の中に飾られた花が並べられている一角だ。
 テティスには、アトラムが何を感じているかはわからない。
 彼にぴったりとくっついてみても、どうしてアトラムが此処に訪れたのかまでは知ることが出来なかった。
 同様に、アトラムもテティスが何に興味を持ったのかを考えていた。
「ティティ?」
「花、きれい」
「ええ、そうですね」
 名をもう一度呼ぶと、テティスは硝子壜の中の花を示した。同種族とはいえど見る視点が異なると、同じものでもまた違う魅力も見えるもの。
 テティスは海の流れを感じながら昔を思う。
 これまでの自分もずっと流れ着く物を受け止めていた。形は違っても、この島の周辺に住む人魚も同じようなことをしている。
 テティスがたまに引き留めた物の共通点。それは今思えば『意志が残っている物』というものばかりだった。誰かが物に宿した強い思い。託された儚い願い。物品などには、そういった心の欠片が宿ることが多い。
 それ以外は海流に任せ、残っても残らなくても――。
 そういった感じだったというテティスは、じっと花々を見つめ続けていた。
 テティスが元いた場所は、普通の人魚は来ないくらいのとても深い所。それゆえに迎えに来る人がいるなんて考えたこともなかった。
 反面、この場所は水面に射し込む光が届くほどの浅い場所。
 だから此処の人魚たちのやり方はテティスにとって新鮮なものだった。
 花を眺めている間、ぽつりと語られるテティスの話。それに耳を傾けていたアトラムは静かに笑む。
 この子の視点はとても興味深いものだ、と感じながらアトラムも花硝子の海中路を眺めてゆく。ハイドランジアの花、アクロクリニウムにカレンデュラ。人魚が摘んできて飾っているという花はどれも美しい。
 それらを見る中でふと、片隅に飾られた白の水中花に目が留まった。
「?」
「どうかしましたか、ティティ」
「アトラ、何かずっと見てる」
 白い花を見ているアトラムの様子に気付いたテティスは、軽く首を傾げる。
「ああ、この花ですね」
「知ってる物?」
「故郷でも咲いていた花で、よく母が髪に飾っていたものなんです」
 懐かしむように双眸を細めたアトラムは、過去の記憶の欠片をテティスに語って聞かせていった。こくりと頷くテティスは静かに彼の話を聞いていく。
「君にもこの花は似合いそうですね」
「そうかな」
「こうやって硝子に君を映してみると……ほら――」
 アトラムは花の硝子壜にテティスが映っている様を示す。テティスの姿が硝子に重なり、まるで髪に花を飾っているかのように見えた。
 穏やかな時と華やかな深海世界。
 こうやって、此処でゆったりと過ごすひとときはとても心地の良いものだ。
 そうして二人はもう暫し、水底の美術館に広がる景色を楽しんでゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浅間・墨
ロベルタさん(f22361)。
海底にある美術館へロベルタさんを誘って伺いますね。
泳ぐのは苦ではありませんが…深海となると流石に息が。
とても心配なので人魚さんに対応をしていただきますね。

「…す、水中…呼…で…ない…で…お願…できま…か?」
人魚さんは小声で要件を言い応じて貰えるようにお願いを。
もし人魚さんがすすんで案内をしてくれる場合はお願いします。
「素敵…で…ね…」
展示品には触れません。一点一点時間をかけ鑑賞したいと。
薄暗闇と魔法の光とで幻想的で不思議な空間になってます。
…ここが深海だということを忘れてしまいそうになります…。

?ロベルタさんが見当たりませんが彼女は別行動中でしょうか。


ロベルタ・ヴェルディアナ
墨ねー(f19200)。
深海の美術館かー。面白そうだから墨ねーといくじぇ!
水中は呼吸ができないから人魚のねーちゃんにお願い。
「僕らは呼吸するのが難しいけど、何か方法あるかな~?」
して貰ったら「ありがとーねぃ~♪」と感謝するじょー!

美術館の中はなんだか海の深淵にいるみたいに静かだよ。
殆どの音がなくなったような。雪原のど真ん中にいるような。
そして雰囲気は華麗で…何故か悲しくて不思議な感覚だった。
僕は自分のペースで鑑賞して館内を見て回ろうかなって思う。

人魚のねーちゃんが案内してくれるならそれに従おうかな~。
ついでに展示品の説明とかしてくれるとうれしいねぃ~。



●海底に巡るもの
 いざ、海底にある美術館へ。
 メイディアと呼ばれる人魚の島に降り立ったのは、浅間・墨(人見知りと引っ込み思案ダンピール・f19200)とロベルタ・ヴェルディアナ(ちまっ娘アリス・f22361)。
「深海の美術館かー。面白そうでいいね、墨ねー!」
「……はい」
「確かこの辺で待ってると人魚のねーちゃんが来るんだっけ? おーい、誰かー! 墨ねーと僕が来たじぇー!」
 海岸に立ったロベルタは海に向かって元気に手を振る。
 するとふわりとした泡が浮かび上がり、其処から人魚が現れた。
「お待たせしました! こんにちはー!」
 登場したのは元気いっぱいの少女人魚だ。名をマイラというらしい人魚は空中をふわふわと泳ぎ回り、ロベルタと墨を歓迎した。
「……す、水中……呼……で……ない……で……お願……できま……か?」
「僕らは呼吸するのが難しいけど、何か方法あるかな~?」
「はいっ、もちろんですよ! わたしがふわっと泡の魔法で解決します!」
 小声で伝えた墨と、わくわくしながら問いかけたロベルタに対して、マイラは快い笑顔で以て答えた。墨は泳ぐことは苦ではないのだが、深海にずっといるなると流石に息が続かない。とても心配だったが、人魚が対応をしてくれるなら安心だ。
 そして、マイラは魔法の力を巡らせていく。
 そうすればロベルタと墨の身体のまわりに割れない泡が生まれていった。
「ありがとーねぃ~♪」
「……あ……がと……ござ……ま……す」
「いいえ、どういたしまして!」
 それぞれにお礼と言葉を交わし、三人はいよいよ深海の美術館に踏み出す。魔法の泡に包まれているとはいえロベルタも墨も制限などは感じなかった。
 まるで地上にいるときと同じ動きで海中を進めるので、これから始まる鑑賞のひとときも穏やかに過ごせそうだ。
 人魚のマイラは二人を案内していき、花や美術品が並ぶ一角に泳いでいく。
「はーい、ここは宝石のコーナーでーす!」
 楽しげにロベルタ達を導いて説明していく人魚はとても上機嫌だ。墨はマイラの説明を聞きながら、そっと展示品を眺める。
 大海賊の紋章が入った宝箱。輝く魔法が掛けられたペンダント。解読できない暗号文字が記された本など、保存魔法が掛けられた品々は様々だ。
「展示品の説明、見ただけじゃわかんないからうれしいねぃ~」
「素敵……で……ね……」
 ロベルタはあちこちを眺めてまわり、墨は展示品には触れることなく、一点一点に時間をかけ鑑賞していった。
 あまりにも真剣に墨が眺めているので、マイラは次第に声のトーンを落とす。きっとあまりうるさくしすぎない方がいいと感じて気を使ってくれたのだ。
 墨はそのまま、薄暗闇と魔法の光が混ざりあった空間を見つめた。幻想的で不思議な空間になっているこの場所に居ると、ここが深海だということを忘れてしまいそうになる。それほどに居心地の良い場所なのだろう。
 墨がゆっくりと展示を巡っていく中、ロベルタは少し先に向かっていた。
 美術館の中はなんだか不思議だ。
 海の深淵にいるみたいに静かになった一角は、殆どの音がなくなったかのよう。例えるならば雪原の真ん中にいるようだ。
「どうしてかな~、ちょっと悲しい気がするねぃ」
 雰囲気は美麗で、華麗だと感じる品物もあった。けれども何故か悲しい感じがするのは、此処に並べられたものすべてが持ち主の手を離れてしまっているからかもしれない。ロベルタは双眸を細め、たくさんの品々をひとつずつ見ていく。
 そして、墨も自分もそれぞれのペースで鑑賞していくのが良いと考えた。
「?」
 そんな中でふと、墨はロベルタの姿が見えなくなっていることに気付く。
 いつの間にかはぐれてしまったのか。それとも敢えて彼女は別行動中なのか。墨が辺りを見渡すと、遠くから声が聞こえてきた。
「墨ねー!」
 ぱたぱたと駆けてきたロベルタの表情はいつもの明るいものだった。
 その傍には先程の人魚、マイラもついている。どうかしたのかと墨が首を傾げてみせると、ロベルタは満面の笑みを浮かべた。
「あっちにすごくきらきらなすごいオブジェがあったんだじょー!」
「……?」
 墨が不思議そうな顔をしていると、マイラも微笑みかけてくる。
「さっき流れ着いたばかりの金の像があるのですが、一緒に見に行きませんか?」
「墨ねー、いくじぇ!」
 そういってロベルタとマイラは墨を誘って駆け、泳ぎ出した。静かな中にも賑やかさが巡る美術館でのひとときはどうやらもう少し続いていくようだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふわあ、海底の美術館ですって、素敵ですね。
海で失くした物がここまで流れ着いたんですね。
きっと、いろいろな物語があったのでしょうね。

あれ?これって水着ですよね。
波に水着がさらわれるなんてことがあるんですね。
ふええ、そんなおっちょこちょいは私ぐらいって、アヒルさんひどいですよ。
これまで一緒に旅をしてきてそんなことはなかったじゃないですか。
ふえ?記憶のない元の世界の私がしたのかもしれないって・・・。
(あれ?この水着、よく見ると今の私より少しサイズが小さい物ですし、まさかそんなことが・・・。)



●失くした海の記憶
 振り仰いだ天には揺らめく水面が見える。
 人魚の島の海辺にて、泡の魔法を施して貰ったフリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は水底に向かっていた。
 地上の光が届くほどの深さの海底は明るく、様々な宝物や小物で溢れている。
「ふわあ、海底の美術館ですって、素敵ですね」
 フリルは水底に降り立ち、硝子のように透き通った泡の中から展示物を眺めた。
 その隣にはもちろん、相棒ガジェットのアヒルさんもいる。海の中でも地上にいるように動ける魔法の泡はとても不思議だ。
 アヒルさんは泳ぐようにして、すいすいと美術館の奥に進んでいく。
 フリルはその後を追いかけ、周囲に並べて飾られている品々を瞳に映した。
「海で失くした物がここまで流れ着いたんですね」
 ルビーの腕輪、エメラルドのペンダント。銀の指輪に、宝石で彩られたティアラ。宝石ばかりが集められた一角はとても煌めいている。どれもに保存と保護の魔法が掛けられているらしく、水中にあっても色褪せないままらしい。
 宝飾品の多くは、誰かに贈られるもの。
「きっと、いろいろな物語があったのでしょうね」
 持ち主の手を離れた品々は今、こうして海の彼方に流れ着いた。フリルはエメラルドの首飾りにそっと触れ、誰かの物語を思い浮かべてみる。
 たとえば、これを受け取るはずだったのは何処かの国のお姫様。
 結婚相手だった王子様が海の事故に遭って、渡されることはなくなったもの、といった少し悲しい物語。或いは失恋した女の子が敢えて海に首飾りを投げて、すっきりとした気持ちで別れを告げたなど、想像は広がる。
 そんな中で、先に進んでいっていたアヒルさんがフリルを呼んだ。
 どうやらアヒルさんがいる場所には違うコーナーがあるようだ。宝石の回廊から抜けたフリルは、どうしたんですか、とアヒルさんの方に歩み寄った。
 其処にあったのは――。
「あれ? これって水着ですよね」
 アヒルさんが示していたのは少女用の水着。ドット柄の明るい色の水着は整えられ、可愛らしく見えるようにきちんと飾られていた。
「波に水着がさらわれるなんてことがあるんですね」
 不思議そうにフリルが水着を眺めていると、アヒルさんがふるふると首を振った。
 どうやら、そんなことはあまりないと語っているらしい。
「ふええ、そんなおっちょこちょいは私ぐらいって、アヒルさんひどいですよ。これまで一緒に旅をしてきて水着が流されたことなんて……ふえ?」
 フリルは思わず否定する。
 だが、アヒルさんは彼女の声を遮ってぐわっと鳴いた。
「記憶のない元の世界の私がしたのかもしれないって……そんなことは――」
 水着を前にしたフリルは考え込む。
 この可愛い水着に見覚えはない。記憶がないのでたとえ着たことがあっても思い出せないのだが、妙に心に引っ掛かった。
(あれ? この水着、よく見ると今の私より少しサイズが小さい物ですし、まさかそんなことが……)
 水着は巡り巡って此処に流れ着いたのかもしれない。
 水底で重なったのは不思議な縁。文字通りに海の落とし物だった水着を見つめるフリルは、未だ知らぬ過去にそっと思いを馳せていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユノ・フィリーゼ
🌊
頭上に広がる空とは違う、
深い蒼に彩られた世界
底は、一体どんな場所なのかしら

こんにちは、蒼の君
深海への招待状
ひとときの泡の魔法、私にもかけてくださる?
……泳ぐの、少し苦手なの。少しだけ、ね
小声でぽそり

海の底に広がる空
その美しさは想像を遙かに超えて

きらきらと煌めく色とりどりの宝石細工達
まるで夜空を飾る星々の様

あの花飾り、水晶で出来てるの…?
光の加減で違う姿を魅せてくれるのね
とても、綺麗…

…みんな、こうして待ってるのね
短く長い時間を、ずっと、此処で
嘗ての主のことを想い
まどろむように夢を見ながら

私、もっとこの海を、みんなの事を知りたいわ
ねぇ、紹介してくださらない?
あなた達の守る、この美しい世界を



●果て無き海蒼へ
 空の色は青色。海の色は蒼色。
 スカイブルーの天の青と、エメラルドグリーンめいた蒼の波間を交互に眺めたユノ・フィリーゼ(碧霄・f01409)は海を覗き込む。
 深い蒼に彩られた世界。波の向こうに続く底。其処は一体どんな場所なのかしら、と考えたユノは島の波打ち際に踏み出した。
「こんにちは、蒼の君」
「はい、こんにちは! ぼく、ティニヤと申しますです」
 ユノの前に現れたのはボーイッシュな幼い少女人魚。ぺこりとお辞儀をしたティニヤにユノも自己紹介を告げ、ふたりは微笑みを交わした。
「ひとときの泡の魔法、私にもかけてくださる?」
「もちろんなのです。ふわっふわにしますね!」
 泡の魔法は、宛ら深海への招待状。
 ユノがそっと願うと、ティニヤは快く答えた。彼女の言葉通りにふわりと魔力が巡っていく中、ユノは小声でぽそりと呟く。
「……泳ぐの、少し苦手なの。少しだけ、ね」
「それはたいへんです。でしたら、ぼくがユノちゃんをお守りします!」
 するとティニヤはぐっと掌を握り、頼もしい決意を固めた。そうして、人魚に案内されたユノは海の底へ向かう。
 ふと、先程に地上で見上げていた空を海中から眺めてみた。
 海の底に広がる空には波紋が重なり、揺れ動く光がきらきらと輝いている。その美しさは想像を遙かに超えたもので、ユノは思わずちいさな感嘆を落とした。
「すごい……」
「ふっふーん、海はステキでしょう? ぼくたちの自慢なのです!」
 ユノが海の美しさを知ってくれたのだと感じたティニヤは得意げだ。そして、人魚はユノをいざなって深海美術館の奥に進んだ。
 こっちです、という声を追って辿り着いたのは宝石が飾られた回廊。
 きらきらと煌めくのは、色鮮やかな宝石細工達。とりどりの光はまるで夜空を飾る星々のようで、ユノはすっかり魅入ってしまった。
 深い色を宿す菫青石のイヤリング、紫と黄色が美しく合わさったアメトリンがあしらわれたネックレス。アレキサンドライトのリング。どれも綺麗だったが、特にユノの目を引いたのは或る花飾り。
「何かいいもの、みつかりましたです?」
「あの花飾り、水晶で出来てるの……?」
「はいっ、キラキラできれーなのです。ぼくイチオシの展示品をみつけるなんて、ユノちゃんはお目が高いです」
 ティニヤは手にとって見てもいいと語り、水晶の花を手渡してくれた。光の加減で違う姿を魅せてくれる花飾りは、陸からの光を受けて輝いている。
「とても、綺麗……」
 ありがとう、と告げて水晶を元の棚に戻したユノは、そっと思いを馳せた。
 この水晶の花も元は誰かの持ち物だった。理由があって海に流れついたけれど、こうして人魚達に大切に守られている。
「……みんな、こうして待ってるのね」
 短く長い時間を、ずっと、此処で。
 持ち主はもうどの世界にもいないかもしれない。それでも、いつか――というちいさな希望と共に。きっと、ただそれだけで救われることもある。
 ユノは嘗ての主のことを想う。
 穏やかな水底で、まどろむように夢を見ながら大切に飾られている品々。かれらのことが少しだけ、本当に少しだけ羨ましくも思えた。
「ユノちゃん、どうかしましたか?」
 俯いていたユノを心配したのか、ティニヤは顔を覗き込んできた。何でもないの、と答えたユノは穏やかに双眸を細める。
「私、もっとこの海を、みんなの事を知りたいわ。ねぇ、紹介してくださらない?」
「えへへ、任せてくださいです!」
 ユノの申し出に明るく答えたティニヤは、手を差し出した。
 まだまだ美術館にはたくさんの品々や場所がある。その手を取ったユノは導いてくれるティニヤに微笑みを向け、そっと思う。
 もっと、もっと識りたい。
 焦がれた空とは反対の場所。人魚達の守る、この美しい世界を――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
🌊

海の中というのは、不思議と気持ちが穏やかになるというか、何だか妙に安心するんだよな。

海の底の美術館か…ミヌレは何かみたいものはあるか?
鉱石もあるみたいだ、俺達に似た奴もいるかもしれないな。
…そうか。お前が何より人魚に興味があるのはわかった。そうだな、光る鱗に透ける鰭は俺も綺麗だと思うよ。

出会った人魚に案内を頼めれば。
しかしこの泡はすごいな。泳ぐのは好きだが限度があるし、呼吸できるのは助かる。ありがとな。
見慣れたようなものも、此処で見れるものはまた違って見えるものなんだな。
初めは人魚やお魚さんの方が気になる!と主張していたミヌレは『海の忘れ物』に目を輝かせて、俺も共に美術館を楽しむよ



●鉱石と海の巡り
 泡沫が水中を巡り、空に向かって弾けていく。
 蒼の波間は心地好い音を響かせ、降り注ぐ光を受け止めていた。
 ユヴェン・ポシェット( ・f01669)は海の景色を瞳に映し、水中を往く。その隣にはいつものように仔竜のミヌレもついていた。
 二人を包み込んでいるのは不思議な魔法の泡。
 硝子のように透き通った丸い壁が周囲にあるのだが、隔たれていると感じたり、閉じ込められている感覚はない。
「海の中というのは、すごいな」
 不思議と気持ちが穏やかになり、何だか妙に安心する。母なる海とよく言われているからか、とても居心地が良い。
「おにーちゃん、ミヌレちゃん、こっちー。ニナについてきてー」
 ユヴェン達を先導するのは泡の魔法をかけてくれた人魚の子。少しだけ気怠げな口調の少女ではあるが、ニナはしっかりと案内役を担ってくれている。
「ああ、すぐに行く」
「はーい、ここだよー」
 ニナに連れられて辿り着いたのは花が飾られた水底の美術館。
 頭上の水面から射し込む光はまるでスポットライトのように、硝子の中に咲く花や展示品が飾られた珊瑚を照らしている。
「ここが海の底の美術館か……。ミヌレは何かみたいものはあるか?」
「きゅ!」
 ユヴェンが問うと、おさかな! と示すようにミヌレが飛んでいった。壁がない周囲には当然、海を泳ぐ魚も見えている。ミヌレが魚を追いかけ始めたので、はっとしたニナがふるふると首を振った。
「だめだよ、ミヌレちゃん。お魚さんがびっくりしちゃうよー」
「きゅう?」
「そうそう、いいこ」
 ミヌレは魚にごめんなさいをするように頭を垂れ、ニナの元に戻ってくる。和やかな光景を見ていたユヴェンは、続けて少し先の通路を見遣った。
「ほら、鉱石もあるみたいだ、俺達に似た奴もいるかもしれないな」
 仔竜を呼んだユヴェンは、ふと或ることに気が付く。そう、ミヌレはまったくユヴェンの話を聞かず、ニナの尾のまわりをくるくる回っているのだ。
「きゅー?」
「わわ、ミヌレちゃん? ニナの尾鰭がきになるのー?」
「……そうか。お前が何より人魚に興味があるのはわかった」
 ごめんな、とユヴェンが人魚に謝った。しかし、ニナ自身は気にしていないらしくミヌレと一緒に通路を泳ぎ回っている。
「あはは、おにーちゃんって律儀だね。面白いからいいよー」
「きゅきゅう!」
「そうだな、光る鱗に透ける鰭は俺も綺麗だと思うよ」
「えへへ、照れるなー」
 ユヴェン達はそんな会話を交わしていく。ニナとミヌレはじゃれあい、ユヴェンはゆっくりと展示品を眺めて回る。暫し、回廊を進んでいると、ふとエメラルドの鉱石が置かれている棚が目に入った。
 地上で見ればエメラルドだという感想だけだっただろう。しかし今、この鉱石は波間から射す光を受けて不思議に光っている。
 見慣れたようなものも、海の中で眺めるとまた違って見えるものだ。
「ほら、ミヌレ」
「ミヌレちゃん、ユヴェンおにーちゃんが呼んでるよー」
「きゅっ!」
 ニナと一緒にユヴェンの傍に訪れたミヌレは、エメラルドなどの鉱石が並んだ棚を見て瞳を輝かせた。どうやら魚や人魚にばかり興味が向いていた仔竜も、やっと海の忘れ物を意識しはじめたようだ。
「それじゃあちゃんとした案内をはじめるねー」
「ミヌレ、ちゃんとニナの後に付いていくんだぞ」
 ニナは嬉しそうに笑い、ユヴェンも次の場所に案内して欲しいと願う。そうして――其処から暫し、水底には楽しげな案内の声や、はしゃぐ仔竜の鳴き声が響いていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

波瀬・深尋
🌊キトリ(f02354)と

魔法の泡の中
人魚の案内を受けようか
俺たちに宝物を教えてくれたら嬉しいよ

水中で花が咲くなんて凄いな
あそこの花とかキトリに似合いそうだ
瑠璃のペンダントも、晶石の花簪も
とか考えながら水中探索を楽しみ

俺は、失くすのは記憶だけで
物に対して執着はなかったからな
一度手放したら二度と思い出せないから
これとこれは大切にしてるよ
ゆらりと揺れた胸元のおほしさま
そして手首で揺蕩う君から貰ったリボン

キトリも失くしたもの分からないのか
似た者同士か、なんて優しく微笑み
お前が分からなくても
それを見るのも知るのも自由だろ
人魚の案内もあるし
フェアリーの落とし物、捜そうか
掌を上に向け、君に差し出した


キトリ・フローエ
🌊深尋(f27306)と

魔法の泡に包んで貰って人魚さんも一緒に
折角だもの、あなたが好きな宝物を教えてほしいのと人魚さんに

揺らめく水中の風景に、視線も翅もそわそわと
海の底に花が咲いているのもとっても不思議
玻璃の蝶に硝子の靴、沢山のきらきらした宝物
たとえ忘れられてしまっても
こうして今も大切にされているこの子達は幸せね
あたしはきっと何かを失くしていても
それが何かも知らないけれど
似た者同士、確かにそうかもしれないわ
深尋は何か気になるものはあった?
おほしさまと一緒に示されたリボンに
何だか擽ったくて翅が揺れる
…ここにはフェアリーの落とし物もあるかしら?
差し出された掌の上に舞い降りて、それから暫しの逍遥を



●わすれものとさがしもの
 泡沫が波間に浮かび、空に向かって弾ける。
 それとは逆にゆっくりと水底に向かって沈んでいくのは、波瀬・深尋(Lost・f27306)とキトリ・フローエ(星導・f02354)が入っている魔法の泡。
「さあ、こちらです!」
 二人に魔法を掛け、案内をしているのはメルレルルメという少女人魚。蒼の鱗を煌めかせた彼女は尾鰭を揺らし、深尋達を先導していく。
「メルレルルメ、今日はよろしくね」
「俺たちに宝物を教えてくれたら嬉しいよ、メレ……メルレルルメ」
「ふふ、がんばりますね。それから、わたしのことはメルで大丈夫です!」
 キトリと深尋が少し呼び辛そうにしていることに気付き、人魚はくすりと笑った。この名前は祖父がつけたのだが、少しややこしいのでみんなには愛称で呼んで欲しいと願っている、と人魚は語った。
「お二人は何か見たいものはありますか?」
「そうだな、水中花とか?」
「そうね。色々あるけれど折角だもの、あなたが好きな宝物を教えてほしいの」
「でしたら、わたしのスペシャル案内コースで参りますね!」
 そんな話をしながら、キトリ達は海底に到着した。ふわふわとした心地がずっとしているのはきっと、身を包む泡沫のものだろう。
 深尋とキトリは視線を交わしあい、人魚の後についていく。
「じゃーん! まずは花硝子の回廊にご案内です!」
 メルレルルメが示したのは、深尋が見たいと語った花が飾られている場所。スイートピーに雛罌粟、向日葵。どれも違った硝子壜やドームに飾られており、季節が違うというのに凛と咲いている。
「やっぱり水中で花が咲くなんて凄いな」
「わあ、綺麗! 海の底に花が咲いているのもとっても不思議ね」
 二人が硝子の中の花を眺めていると、メルレルルメは胸を張った。
「えへん! みーんな、わたし達が摘んだり集めたりして飾っているんですよ」
「あそこの花とかキトリに似合いそうだ」
「あのカスミソウ?」
「深尋くん、良いですね。あの花だったらキトリちゃんの髪飾りにもできます!」
 メルレルルメを交えて語る花談義は楽しく巡る。
 それから、こっちです、と案内されたのはアクセサリーや小物が飾られた一角。岩場に当たる地上からの光が揺れる中、装飾品がきらきらと輝いている。
 瑠璃のペンダント。晶石の花簪、玻璃の蝶や硝子の靴。
 水中の風景の中にあるのは煌めくものばかりで、キトリの視線も翅も、そわそわと揺らめいていた。
 蝶々の硝子細工に近付いたキトリは眸を細める。
「たとえ忘れられてしまっても、こうして今も大切にされているこの子達は幸せね」
「深い海に沈んでるだけじゃ、誰にも見つけて貰えないからな」
 キトリの言葉に頷きを返した深尋は、海の忘れ物についての思いを巡らせた。其処にキトリがふとしたことを問いかける。
「深尋は何か気になるものはあった?」
「どうかな、みんな綺麗だと思うけど、俺のものはなさそう」
 自分が失くしたのは記憶だけ。物に対して執着はなかったから、此処に自分の忘れ物が流されたということはないだろう。
 それに、一度でも手放したら二度と思い出せないから――。
「これとこれは大切にしてるよ」
 深尋が示したのは、ゆらりと揺れる胸元のおほしさま。
 そして、手首で揺蕩うリボン。
 キトリは彼の手元を見つめ、そっと笑みを浮かべた。この美術館にも、彼の傍にも大切にしてもらっているものがある。そう思うと擽ったくなってきて翅が揺れる。
「あたしはきっと何かを失くしていても、それが何かも知らないけれど」
「キトリも失くしたもの分からないのか。俺達、似た者同士か」
 ふわりと泡沫と共に海中を舞ったキトリ。彼女が描く水の軌跡を眺め、深尋も軽く双眸を緩めた。其処に宿っているのは優しい微笑みだ。
「似た者同士、確かにそうかもしれないわ」
「お前が分からなくても、それを見るのも知るのも自由だろ。メルの案内もあるしさ」
 キトリが少し遠くを見つめていると、深尋はメルレルルメを示す。
 二人の邪魔をしないようにぼんやりと待っていたらしい人魚は、はっとして深尋とキトリを交互に見遣った。
「わあっ、わたしを呼びましたか?」
「ええ。ここにはフェアリーの落とし物もあるかしら?」
「どうだったでしょうか。妖精さんのものだとしたら、ちいさいものですよね。むむむ……記憶をフル回転させます!」
 悩みはじめたメルレルルメの様子を知り、深尋は静かに笑った。
「だったらみんなで一緒に捜そうか」
 そうして、彼は掌を上に向けてキトリに差し出す。
 キトリは差し出された掌の上に舞い降り、花硝子の回廊の向こう側を見つめた。
「よおーし、出発ですよー!」
「深尋、メル。行きましょう!」
 知らないものを探して、此処から始めていくのは暫しの逍遥。海の底で何を見つけて、どんな出会いや再会が巡っていくのか。
 泡沫と花と、君と――この先はまだ、誰も知らない未知の御話。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルクス・カンタレッラ
【揺蕩う魚】
◎🌊

リルに人魚たちを見せたかったんだ、母親もこの海で暮らしてたって言ってたし
私?あはは、見慣れてるよ

お、君が私たちを案内してくれんの?
宜しく頼むよ、綺麗な尾鰭の美人さん

んー、これは……オルゴールかね?
懐中時計に、黒薔薇……うわ珍し、綺麗だな
はしゃぐリルにほっこり
沈没船からお宝引き上げることは良くあるけど、こうして保管されてんのは初めて見るな

そっか、リルの母親の、……良し、ちょっとのんびり探してみっか
こういうのも一期一会って奴だろうしさ、君に良き巡り合わせがあるように願っとく

私は落としたもんは無いなぁ
捨てたもんは要らねぇから捨ててるだけだし、大事なもんは手から離す気ねぇからさ


リル・ルリ
【揺蕩う魚】
◎🌊

見て、ルクスねえさん!
人魚達がいる!
僕こんなに沢山の人魚ははじめて
ルクスねえさんは海をよく知ってて頼もしいんだ
きゅと泳ぐヨルも楽しそう
美術品にぶつからないようにね

歌うように泳ぎとりどりの人魚と宝物達を見つめ
どの忘れ物も綺麗だね
きっと皆
物語を抱えてる

ルクルねえさん!
これは何かな?
不思議な色に音
黒薔薇もある!

忘れ物かぁ
この世界の何処かにかあさんの故郷がある
人魚の国らしい
…かあさんの故郷の物もあればいいのに
美術館を旅するカナン達に瞳を細め
彼女の言葉に喜色を歌う
探してくれるの?ありがと!

ルクルねえさんは落としてしまったものはある?
手にしたものは離さず落とさない
ルクルねえさんらしいや!



●思い出探し
「見て、ルクスねえさん! 人魚達がいる!」
 陽が射し込む海域の最中、リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)はルクス・カンタレッラ(青の果て・f26220)を呼ぶ。
 自由に泳ぎ回る人魚達は、メイディアと呼ばれる島と海の住人だ。
「どうだい、リルに人魚たちを見せたかったんだ」
「僕、こんなに沢山の人魚を見るのははじめてだ」
 蒼の鱗と尾鰭を持つメイディアの人魚達は、海中に訪れたリル達に手を振ってきた。ルクスもひらひらと手を振り返して軽い挨拶をする。リルも片手を掲げて人魚達に応え、ヨルもきゅっと鳴いて楽しげに辺りを泳ぎ回った。
「ルクスねえさんは、この場所を知ってたの?」
「母親もこの海で暮らしてたって言ってたしね。私も勿論、見慣れてるよ」
「ルクスねえさんは海をよく知ってるね。すごく頼もしいんだ!」
「あはは、任せておきなよ」
 穏やかな言葉を交わしながら、リルとルクスは水底に向かっていく。
 すると其処に、長い髪を揺らした人魚が訪れた。ルクスはその人魚が案内役の者だと感じて、どうも、と会釈をする。
「お、君が私たちを案内してくれんの? 宜しく頼むよ、綺麗な尾鰭の美人さん」
「……美人じゃねえ。オレにはトニ・ニトって男らしい名前があるんだ」
 ゆったりとした服を纏った線の細い女性だと思ったのだが、口を開いた人魚の声は青年のものだった。
「トニだね。僕はリル・ルリで、こっちはヨル!」
「きゅきゅー!」
「気に障ったなら悪いね、トニ。けれど男性だって美人さんだと呼んでいいだろう。このリルみたいにさ」
「……別に良いけど。ほら、行くぞ。客人を案内しなきゃ爺ちゃんに叱られるんだ」
 仏頂面をした青年人魚は女性に間違えられることが嫌らしい。しかし、リルを見た彼はルクスの言葉に頷き、ルクス達を手招く。
 するとヨルがトニの回りをくるくると泳ぎはじめた。
「ヨル、美術品にぶつからないようにね」
「ペンギン、危ないから気を付けろよ」
 不意にリルとトニの声が重なり、二人は顔を見合わせる。リル達は親近感めいたものを感じており、互いにふっと笑う。
「うん、さっそく友達が出来たみたいだね」
 ルクスも満足気に笑み、トニが案内する花硝子の回廊に降り立った。リルは歌うように泳ぎ、色とりどりの花屋宝物が並ぶ様子を瞳に映す。
「どの忘れ物も綺麗だね」
「あっちには小物もある。自由に見ていいぞ」
 いつの間にかヨルを抱えていたトニは、リル達に展示品がある場所を示した。
 硝子の靴。コインが詰まった宝箱に花水晶の簪。
 きっと全て、それぞれの物語を宿したものだ。
 ルクスも後に続き、岩場に飾られていた懐中時計を手にとってみる。そうしていると後ろからリルの声が届いた。
「ルクスねえさん! これは何かな?」
「んー、これは……オルゴールかね?」
「黒薔薇もある!」
「……うわ珍し、綺麗だな」
 あっちも、こっちにも、とはしゃぐリルにほっこりしたルクスはその姿を優しく見守っていた。すると、トニがルクスの傍に寄ってくる。
「どう? ウチの美術館は」
「そうだな、沈没船からお宝を引き上げることはよくあるけど、こうして保管されてんのは初めて見るな」
「飾り方もいいセンスしてるだろ」
 爺ちゃんが監修してるんだ、と語ったトニ。彼の祖父は海底美術館を立ち上げた人魚であり、館長であるらしい。
 人魚も交え、色々な話をしていったルクス達は大いにこの場の雰囲気を楽しんだ。
「忘れ物かぁ」
 リルはふと、美術館をふわふわと旅するフララとカナンを見つめ、そっと語った。
 この世界の何処かにリルの母がいた故郷がある。人魚の国である母の故郷の物も、もしかしたら此処に流れ着いているかもしれない。そうだったらいいのに、と――。
「そっか、リルの母親の、……良し、ちょっとのんびり探してみっか」
「探してくれるの? ありがと!」
 ルクスは周囲を見渡し、リルも彼女の言葉に喜色を歌う。
「こういうのも一期一会ってやつだろうしさ、君に良き巡り合わせがあるようにってな。ほら、トニ。手伝え」
「仕方ねえな、やってやるか」
 軽口を交わすルクスとトニもすっかり仲良くなっているようだ。
 ヨルを抱いた人魚が先導する後に続き、一行は美術館の品々を眺めて回っていく。そんな中、リルはちらりとルクスを見た。
「ルクスねえさんは落としてしまったものはある?」
「私は落としたもんは無いなぁ、捨てたもんは要らねぇから捨ててるだけだし、大事なもんは手から離す気ねぇからさ」
 リルが問いかけると、ルクスは明快に笑って答えた。
 つまり、彼女は手にしたものは離さずに落とさないということ。
「ルクスねえさんらしいや!」
 明るく笑うリルは心からの嬉しさを感じていた。
 進むみちゆきの先で、どんなもの見つけることが出来るのか。海と人魚という縁で繋がった美術館巡りの中、出逢えるのはきっと――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻
◎🌊

サヨ!しっかり!
気を確かに持つんだ、大丈夫だ
私がついているよ
震え上がる巫女を姫抱きして先に進む
大丈夫だよサヨ
何処も水になったりしていない

人魚よ
案内をしておくれ
そなたらの宝からは温かさを感じる
数多の世界の縁を

サヨ、見てご覧
美しい花がある
少し馴染んできた巫女を撫でて一つずつ見て廻る
『私』はよく落しものをしていた気がするが
何かあるのだろうか
落とした大切な約束はみつけた
もう無くさないと決めたんだ

サヨは落し物ある?
…大蛇に櫛、か
神話めいている
それ以上に其れは…大切な物だね
見つかるよ
縁は結ばれている

サヨ
歩いてご覧
水の中だって怖くない
きみはちゃんと歩いて行ける

花ね
珍しいのがあちらに
行ってみようか


誘名・櫻宵
🌸神櫻
🌊◎

ひいイィしぬうぅ!
水になってとける!
私は水が苦手
産まれたての小鹿は歩めない
ひんひん言いながらカムイにしがみつき抱えられたまま海を往く

慣れてくれば美術品を見る余裕もでてくるはず
カムイも撫でて鼓舞してくれるし
不思議なものも沢山だもの!
お花まで!海底で花見ができるなんて思わなかった
師匠の落し物…
約束は見つけたでしょ?カムイの頬を撫でる
師匠の落し物はカムイのものになりそうよ

私の落し物?
噫、昔─櫛を失くした
美鈴様のくれた綺麗な竹の櫛
…母上が不吉なものを持つなと取り上げてどこかへ
ふふ…見つかるかしら

励ましを受けて海底に立つ
怖いけど
震えてはいられない
手を握って歩いて、行くの
次はあの花がみたいわ



●戻りの縁と繋ぐ路
「――ひいイィしぬうぅ!」
 人魚の島の浅瀬に響き渡ったのは震える叫び声。
 魔法の泡に包まれた誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は今、朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)に支えられながら波に揺られている。
「サヨ! しっかり!」
「水になってとける! 噫、私はもう駄目!! 先立つ不孝を許して……!」
「気を確かに持つんだ、大丈夫だ。私がついているよ」
 櫻宵のバッドステータス:混乱。
 水耐性皆無の巫女にしっかりとした言葉を掛けたカムイは、震え上がる巫女を姫抱きして海の中に進んでいく。
「カムッ、カムイっ! カム!」
 鳴き声のような声をあげて神にしがみつくことしかできない櫻宵は、抱えられたまま為す術もなく海に沈められていった。ぷるぷると震える様子はまるで生まれたての小鹿のよう。そんな姿もやはり可愛いと思いながら、カムイは巫女の髪を撫でた。
「大丈夫だよサヨ。何処も水になったりしていない」
「本当……?」
 櫻宵はきつく瞑っていた瞼を開き、海中の景色を見渡す。すると其処に派手なメイクをした男性人魚が泳ぎ寄ってきた。
「あらあら、そんなに怖かったの? アタシの泡の魔法は頑丈だから安心してネ」
 ばちん、とウインクをした人魚・アイノはいわゆるオネェ系らしい。彼はがっしりした身体つきではあるが、見た目に反してとても優しい口調で櫻宵達に告げた。
「アイノだったね。サヨも大丈夫そうだから、案内をしておくれ」
「うふふ、分かったわカムイちゃん。櫻宵ちゃんも抱っこされたままでイイからおいでなさいな。ステキなものを見せてあげるわね」
「え、ええ……!」
 アイノは櫻宵を抱えたカムイをいざない、花硝子の回廊に導いていった。
 その道中に見えた宝物の数々は地上から射す光を受けて輝いている。カムイはそれらをそっと眺め、大切に飾られている品々に思いを馳せた。
「そなたらの宝からは温かさを感じるよ」
「光栄なお言葉だわ。アタシ達にとっても大事なものだからネ!」
 数多の世界の縁を感じると語ったカムイに向け、アイノは嬉しそうに微笑む。その頃には櫻宵の気持ちも落ち着いてきており、展示品を眺める余裕もできてきた。
「サヨ、見てご覧。美しい花がある」
「本当ね、不思議なものがたくさん。お花まで!」
 徐々に馴染んできた巫女をカムイが撫でれば、その口元に花のような笑みが咲く。ひとつずつゆっくりと見て回る櫻宵達は、穏やかな心地を抱いていた。
 そうして、ふとカムイが呟く。
「確か、『私』はよく落しものをしていた気がするが何かあるのだろうか」
「師匠の落し物……約束は見つけたでしょ?」
「噫、そうだね」
 落とした大切な約束はみつけた。
 もう無くさないと決めたが、物品としての落とし物はどうだろう。少し考え込んだカムイの頬を撫で、櫻宵も昔を思い返す。
「そういえば師匠、私に貸そうと思っていた黒い唐傘を失くしたと話していたわ」
「傘を? サヨを雨に濡らさないためのものだった……という気がする」
「きっとそうね。師匠の落し物はカムイのものになりそうだから、探してみる?」
「そうしてみようか。サヨは落し物はあるかい?」
「噫、昔――櫛を失くしたわ。美鈴様のくれた綺麗な竹の櫛だったのだけど……」
 母が不吉なものを持つなと取り上げられたまま、どこかに消えてしまった。櫻宵がそう語ると、カムイは先程とは別の思考を巡らせる。
「……大蛇に櫛、か」
 妙に神話めいている。しかし、それ以上に櫛は大切な物だと思えた。
「諦めていたのだけどね。ふふ……見つかるかしら」
「見つかるよ、縁は結ばれている」
 カムイと櫻宵が花の回廊で失くし物の話をしていると――いつしか何処かに行ってしまっていた人魚がひょっこり、もとい、どっしりと姿を現した。
「うふふ、アイノちゃん特急便が落とし物をお届けよ! ハイ、鴉みたいに真っ黒な唐傘でしょ。それから竹の櫛ってこれのことかしら?」
「それだ!」
「それよ!」
 アイノが持ってきた品を指差したカムイと櫻宵の声が重なる。どうやらアイノはかなり出来る人魚だったようだ。あまりのスピーディーな解決に驚いた二人だったが、きっとこれもまた縁だ。
 人魚に礼を告げたカムイと櫻宵は不思議な巡りを思って微笑みあった。
 それから、二人は水中の散歩を楽しもうと決める。
「サヨ、歩いてご覧」
 水の中はもう怖くないはず。きみはちゃんと歩いて行ける、と語るカムイ。
 その眼差しを受けた櫻宵はおそるおそる海底に立つ。怖いけれど、いつまでも震えてはいられない。握っていた櫛をそっと仕舞い込んだ櫻宵はカムイの手を取った。
「次は向こうの花がみたいわ」
「花なら珍しいものがあちらにあったよ。行ってみようか」
 一歩ずつ、歩いて行く。
 共に進むちいさな軌跡こそが先に繋がる路をつくるものだと思えた。
 そして、二人は海と花が織り成す世界を逍遥していく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

守りの泡施して貰い

海の美術館か
まるで人魚姫の世界みたいだ
…あ
知ってる?
人魚姫
分かる
俺なら泡になんかさせねぇのに
…いやその
ハピエンのがいいよな
瑠碧何から見たい?
手取り

すっげぇな
めちゃくちゃ綺麗じゃん
海の中で花が咲いてるみてぇ
水に揺蕩う様子が
花畑にいるみたいじゃね?
花硝子の海中路見上げ
挨拶する様に目細め

何だか宝探しみたいだな
岩場を泳ぎ宝箱の中眺め
宝剣とかあるぜかっけぇ!

全部魔法が掛かってんだよなぁ…
ヴェールとか全然色褪せないのな…
不思議そうにヴェールや指輪眺め
誰のだったんだろうな?

俺は魔法使えねぇけど
共に幸せ閉じ込めときたい
願う様
握る手に少し力込め

案内役に
ありがとうな
忘れ物
届くといいな

🌊


泉宮・瑠碧
【月風】

私は精霊達に頼み
水の酸素で身体を覆う様にして
人魚の方に案内をお願いします

人魚姫は、知っています
…悲しくて、少し苦手ですし
自分が泡に成る方が良い、も…
手を繋ぐと安堵して
花硝子が見たい、です

わ…
硝子に守られて、咲く様子も綺麗…
海中の花畑、ですね
花硝子の花達へ、初めまして、と挨拶し
一緒に見上げます

宝箱は理玖が楽しそうで
ふと向日葵の迷路を思い出します
あの時も、宝探しでした

どの品も保存の魔法で…ヴェールも綺麗なまま
指輪は、イニシャルまで…
持ち主が、見付かると良いですね

握る手に
捕まえていてくれるから
私は迷子や泡にならなそう、と擽ったい気持ち

海の忘れ物を、大事にしてくれて…
案内の方も、ありがとう

🌊



●泡沫には迷わない
 水の精霊と人魚が織り成すのは、水流の護りと魔法の泡。
 陽向・理玖(夏疾風・f22773)は人魚の泡を、泉宮・瑠碧(月白・f04280)は精霊の守護を身に纏い、光が射す水底に踏み出した。
「海の美術館か。まるで人魚姫の世界みたいだな」
「……あ、知ってる?」
「人魚姫は、知っています。……悲しくて、少し……」
 苦手だと話した瑠碧は俯く。その視線の先に浮かんだのは、人魚姫の物語を連想させるちいさな泡の粒。自分が泡に成る方が良いと考えた人魚の考えも悲しいのだと語った瑠碧の横顔は悲しげだ。
「分かる。俺なら泡になんかさせねぇのに」
「理玖が、王子様……だったら……?」
「……いやその、ハッピーエンドのがいいよなって思って」
 瑠碧は顔を上げ、理玖が自分達を人魚姫の登場人物に当てはめたのだと気付く。はたとした理玖は頬を掻いてから、そっと瑠碧に手を伸ばした。
 自然に繋がれた手と手。水の中でも感じるちいさな熱は、今ではすっかり当たり前だと感じられるものとなっている。
「瑠碧、何から見たい?」
「花硝子が見たい、です」
 安堵した様子の瑠碧は理玖に淡い笑みを向けた。
 すると其処に、二人の遣り取りを見ていた人魚がひょこりと顔を出す。
「ふふーん、青春ですなあ」
「わ……」
「うわっ、びっくりした」
 にまにまと笑みを浮かべている人魚の名前はピア。先程、理玖に泡の魔法を施してくれた子だ。華奢なので女の子のようにも見えるが、ピアはれっきとした少年。彼は二人が恋人同士だと察したらしく、うんうんと頷いている。
「お二人の思い出を飾れるように、このピアちゃんが一肌脱ぎます! とっておきの花の回廊にご案内しますよ!」
 調子の良い口調で明るく笑ったピアは理玖達を手招いた。
 そうして辿り着いたのは、硝子に入った花がたくさん並ぶちいさな回廊だ。アガパンサスにラナンキュラス、プルメリアなど種類は様々。どれも季節を越えても硝子壜の中で可憐に咲き続けている。
「すっげぇな、めちゃくちゃ綺麗じゃん」
「硝子に守られて、咲く様子も綺麗、で……」
「海の中で花が咲いてるみてぇ」
「そうでしょう、そうでしょう。ピアちゃんオススメのコーナーですからね!」
 落ち着いた二人とは反対に、少年人魚は賑わしく語る。
 瑠碧は明るいピアの様子にそっと笑った。水に揺蕩うように光を反射する硝子。その中にある花の様子はとても愛らしい。
「花畑にいるみたいじゃね?」
「海中の花畑、ですね」
 理玖が花硝子の海中路を見上げていく最中、瑠碧は花達に初めましての挨拶をしていく。森で植物に親しんでいた彼女らしいと感じた理玖はその様子を愛おしそうに眺めた。そうしていると、ピアがこっそりと理玖に耳打ちする。
「それで、おにーさん。彼女さんとはどこまで進んでるんですか?」
「え、どこって……」
「手を繋ぐのはクリアしてるみたいですから、次は……ふふふ」
「そういう話、なしで」
「えーっ! ピアちゃんに特別に教えてくださいよう!」
 理玖とピアが何やら話していることに気付き、瑠碧が振り返る。
「……?」
 きょとんとした様子の瑠碧には何を話していたか言えず、理玖は首を横に振った。
「悪い、瑠碧。何でもねぇ」
「むーむー、何でもあるのですけどー」
「良いから次。案内してくれ」
「はーい」
 なんとか誤魔化して、次に人魚がしていったのは宝箱が並ぶ岩場。理玖はわくわくしとした気持ちを抱き、コインや宝石が詰まった箱に近付いていく。
「何だか宝探しみたいだな」
 岩場を泳いで見て回っていく理玖は、ひとつずつ宝箱の中を眺めていった。
「色々、ありますね……」
「宝剣とかあるぜかっけぇ!」
 瑠碧が感心していると、理玖は楽しそうな声をあげる。ふと思い出すのは一緒に宝物を探した向日葵の迷路のこと。あの日に見つけた指輪は今も二人の傍にある。
 それから二人はピアに連れられ、様々な場所を巡った。
「これ、誰のだったんだろうな?」
 理玖が示したのは花嫁のヴェールやイニシャルが刻まれた指輪。
 硝子の靴や、ふわふわと揺らめく蝶々の硝子細工。どれもが海中にあっても傷まず、美しく保たれている。
「全部に魔法が掛かってんだよなぁ。全然色褪せないのな」
「この、どれもに持ち主がいて……いつか、見付かると良いですね」
「ピアちゃんも……ううん、僕達もずっとそう願っているんです」
 不思議そうにヴェールや指輪を眺める理玖と、元の所有者を想像する瑠碧。二人の思いを感じ取ったピアも少し真面目に語った。
「俺は魔法使えねぇけど……」
 共に幸せを閉じ込めておきたい。
 理玖は自分に誓い、願うようにして瑠碧の手を握った。込められた力を心地好く感じながら、瑠碧はほんの少しだけ彼に寄り添う。
(理玖が、捕まえていてくれるから)
 自分はきっと迷子や泡になんてならない。擽ったい気持ちをそっと秘め、瑠碧も理玖の手を握り返した。
「ということで、そろそろピアちゃんの案内はおわりでーすっ!」
 暫し続いた美術館逍遥も終わりの時間。
 明るく挨拶をしたピアに向け、理玖と瑠碧は礼を告げた。
「ありがとうな」
「海の忘れ物を、大事にしてくれて……、なんだか、ほんわりしました……」
「忘れ物、誰かに届くといいな」
「はいっ!」
 そうして、三人の視線と笑みが重なって――此処にもまた、ひとつの花が咲いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夕時雨・沙羅羅
🌊

わあ…すごい
おおきな宝箱みたい
きらきらの空間は、僕の理想とも言えるのかもしれない

僕は、アリスのために…、いや、
アリスにあげたいものを、僕のために、集めているけれど
ただ、僕の中に呑み込んでいるだけで、こうやって飾ろうなんて、考えたことがなかった
呑み込むものも、花とか、宝石とか…うん
ここのものと比べると、シンプルで
すごく…参考になる
きれいな飾りつけとか、アリスの喜びそうなものとか、見て回ろう

ねえ、この美術館のいちばんの自慢はなに?
アクセサリーや宝石もきらきらで良いし
花を硝子に入れて飾ってるのも、きれい
あちらこちら、見て回って
だけど、最初の感想に戻る
やっぱり、この美術館まるごとが、いちばんの宝物



●たくさんの宝物
 海の中はしんと静まり返っている。
 しかし、見つめた水底にはきらきらと賑わしく光るものが見えた。泡沫が揺らめく水中に潜り、夕時雨・沙羅羅(あめだまり・f21090)はそっと泳いでいく。
「わあ……すごい」
 沙羅羅の瞳に映ったのは人魚が集めた宝物の数々。
 深海の美術館と呼ばれる海中は、まるでこの場所そのものがおおきな宝箱のように思えた。金貨や装飾品、小物類。たくさんの漂流物が集められた一角は煌めいている。
 きらきらの空間。
 此処は沙羅羅にとって理想とも言えるのかもしれない。沙羅羅が周囲を見渡していると、不意に背後から男性の声が届いた。
「やあやあ、貴方は硝子のようにお綺麗な方ですね」
「……?」
 振り向いた沙羅羅の後ろに居たのは年を召した男性人魚だ。ローブを身に纏った落ち着いた様相の彼は、館長のアードルフと名乗る。
「失礼、貴方の中にある花や品に興味が湧きましてね。よければ暫しご一緒しても宜しいですか? 僭越ながら、案内も致しますよ」
 アードルフは沙羅羅の身体を示し、恭しく一礼した。
 うん、と頷いて答えた沙羅羅は人魚に案内を頼むことに決める。そうして、二人は美術館をゆったりと泳ぎはじめた。
「僕は、アリスのために……、いや、アリスにあげたいものを、僕のために、集めているんだ。だから、こうしてここに花を添えていて――」
「成程、素敵ですね」
 沙羅羅が語る話を静かに聞いていたアードルフは穏やかに頷く。
 ゆるりと首を振った沙羅羅は、美術館に飾られている品々に目を向けた。宝箱に入った宝石の数々。珊瑚の枝に揺れる装飾品。棚に並べられた花の瓶。
 どれもが綺麗に見えるようにしっかりと飾られている。
「僕はただ、自分の中に呑み込んでいるだけで、こうやって飾ろうなんて、考えたことがなかったから……」
「ふふ、展示の仕方は拘っているのですよ」
「呑み込むものも、花とか、宝石とか……うん、ここにあるようなものとは、違う」
 アードルフと話しながら、沙羅羅は様々なものを見つめた。
 自分の内部にあるものは此処のものと比べるととてもシンプルだ。だからすごく参考になるのだと語った沙羅羅に向け、アードルフは嬉しそうに微笑んだ。
 きれいな飾りつけ方。そして、アリスの喜びそうなもの。
 そういったものを見て回ろうと考えた沙羅羅は、アードルフに問いかける。
「ねえ、この美術館のいちばんの自慢はなに?」
「そうですね……」
 アードルフが考え込んでいる最中、沙羅羅は周囲を眺めて回った。アクセサリーや宝石もきらきらで、花を硝子に入れて飾っている形もとてもきれいだ。
 沙羅羅が彼なりに燥いでくれているのだと知ったアードルフは、ふと思い立つ。
「自慢は、あちらです」
「あの鏡?」
「ええ、どうしてかというと……わかりますか?」
 海中に飾られている大きな姿見の前に向かった沙羅羅は、あることに気付く。其処には自分達の姿が映っていた。しかし、鏡にはこの美術館もはっきりと映っていて――。
 そっか、と言葉にした沙羅羅は鏡が自慢である理由を知る。
 そう、最初の感想こそが正解だった。
「――やっぱり、この美術館まるごとが、いちばんの宝物だ」
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『淵沫』

POW   :    残影
【屍と影の機動力に併せ、思念を読み取り】対象の攻撃を予想し、回避する。
SPD   :    群影
全身を【深海の水圧を帯びる液状の物質】で覆い、自身の【種のコンキスタドール数、互いの距離の近さ】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
WIZ   :    奔影
【屍の持つ骨や牙】による素早い一撃を放つ。また、【屍が欠ける】等で身軽になれば、更に加速する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●海底の煌めき
 人魚の海域に流れ着いた、海の忘れ物達。
 或るものはこれまでと同じように美術館に大事に飾られたまま。別の或るものは持ち主の元に戻り、また或るものは人伝てに主の元に返されていった。
 各々の運命を辿った品々は人魚によって、或いは持ち主の元で大切にされる。
 だが、ずっと続くはずの平穏を乱すものが人魚の島に近付いていた。

「皆、戦いの準備を!」
 淵沫と呼ばれる黒い念のコンキスタドール。その接近を知り、美術館の館長を務めるアードルフ老が人魚達に呼びかけた。
 鯨の骨に纏わり付く漆黒の念は深海の水圧を帯びながら海域に迫っている。
 このままでは美術館に突撃され、展示品などが木っ端微塵にされてしまうだろう。
「皆、それぞれにご案内した猟兵さん達について援護をしてください。我々も海賊の端くれです。あのような輩など返り討ちにしてやりましょう!」
「はい!」
「えいえい、おーっ!」
「頑張るよー!」
 アードルフの指示を受けた人魚達は迎撃の準備を整えた。戦う場所は美術館の領域から少し離れた海中となるが、人魚の魔法があるので行動に不自由はない。
 そして、猟兵達もコンキスタドールを見据える。
 揺らめく念と軋む骨。
 其処には破壊の意志しか見えず、倒すことでしか救えない相手だと分かった。人魚の大切な海を守るために――今こそ、戦うべき時だ。
 
都槻・綾
🌊

うつくしい品々と
優しき想いに満ちた凪の海に
時化を齎す邪は悲しい

一片たりと
穢させることなく
魔を祓ってみせましょう

人魚達と美術館を護るよう
柔らな薄紗の如きオーラを展開

研ぎ澄ました第六感も
ウルヤナさんと声を掛け合い、補い合えば
骨の尾鰭が襲い来る死角も恐れることは無い、と
交わす眼差しと笑み
其れは私からあなたへの揺るがぬ信頼の証

踏み込んで斬り薙ぐ一閃
水圧も覚えぬ抜刀は水の魔法の援護のお陰
浮かぶ笑みは鮮やかに

振り切る軽さに反して
一太刀は重く、確かに骨を断つ

一瞬の薄氷が
煌き散る様は花の如し

暖かな海の中では咲かぬ六花の幻も
人魚達への贈り物になるかしら

襲撃で傷ついた心も怯えも
耀く景色の記憶へと彩れますように



●護りたいもの
 うつくしい品々、優しき想い。
 誰も傷付けない心と気持ちが満ちた凪の海はとても素晴らしい処だと思えた。時化を齎す邪は悲しいと感じた綾は、迫りくるコンキスタドールに向かう覚悟を決める。
「一片たりと穢させることなく――」
「ええ、私達の力で」
 綾の言葉に応えたのは人魚のウルヤナだ。綾の少し後ろに布陣した彼は泡の魔力を更に強固にしながら頷いた。綾も彼にそっと視線を送り、首肯する。
「魔を祓ってみせましょう」
 綾の言の葉が紡がれた瞬間、その掌からあたたかな力が巡っていった。
 海中に広がるのは柔らな薄紗の如き力。それは人魚達と美術館を護るよう広がり、しっかりと展開されていく。
 されど、その間に淵沫の念も綾達に近付いてきていた。
 一見は鯨の骨の化け物に見えるが、本体はその奥に潜む黒い淀みだ。綾は第六感を研ぎ澄ませ、人魚に声をかける。
「ウルヤナさん」
「はい、固まらずに攻撃を散らしましょう」
 距離を詰めてこようとする淵沫の動きを察し、綾とウルヤナは左右に散開した。すると淵沫は綾を追いかけてくる。水圧で以て綾を押し潰そうとしているようだ。
 ウルヤナに攻撃が向いていないことに安堵した綾だが、泡までも散らされそうな勢いの敵が迫ってきている。
「綾様! 案ずることはありません」
「守りはお任せしました」
 するとウルヤナが、水の魔力を巡らせた。薄紗の力と人魚の援護。重なり合った守りは
と声を掛け合い、補い合えば淵沫の突進を跳ね除けるものとなる。
 だが、骨の尾鰭が襲い来る。
 されど死角はウルヤナが補ってくれるので恐れることは無い。綾が僅かに視線を向けた瞬間、彼もまた同じ視線を向けてきてくれていた。
 交わす眼差しと笑みは信頼の証。
 僅かな時間であっても、綾とウルヤナは海のひとときを過ごした者同士。
 そして、二人にはこの場所を守りたいという揺るがぬ心がある。ウルヤナが再び泡の力を増す為に魔力を紡ぎあげていく。
「綾様、全力でどうぞ。どれほど激しくとも泡は破れませんので!」
「――参ります」
 ウルヤナからの声を受け、綾はひといきに敵に向けて踏み込む。
 水圧は魔法の泡を消し飛ばすほどのものだが、ウルヤナの力がそれを阻んでいた。綾は雪花の舞う凍気をその身に纏い、冴の刃を虚ろの骨に差し向ける。
 斬り込み、薙ぐ一閃は水中に軌跡を描いた。
 水圧も覚えぬ抜刀はまさに、ウルヤナの魔法の援護のお陰。斬り断たれた骨が念から分離して、水底に落ちていく。
 其処に浮かぶ笑みは鮮やかに、綾は更なる一閃をコンキスタドール本体に向けた。
 振り切る軽さに反して一太刀は重く、鋭く。
 黒い念を守る骨を確かに断った一撃は、そのまま黒の淀みを貫いた。刹那、綾の周囲に念が広がり、一気に視界を黒く染める。
「綾様!」
 ウルヤナは素早く泳ぎ、綾の元に向かう。
 そして、黒い念が完全に消えたかと思うと――其処には綾の微笑みが見えた。彼は無事なのだと察したウルヤナは恭しく礼をして、穏やかな笑みを返す。
「我々の勝利ですね」
 交わした眼差しと言の葉は柔らかく、二人は思いを重ね合った。
 この海も、大切な品々も、決して壊させない。
 どんなことがあってもこの思いだけは永劫、揺るぎはしない。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュジュ・ブランロジエ
🌊◎
お友達のラファエラさん(f32871)と
『』は裏声でメボンゴの台詞

人魚さんが大切にしている場所を壊そうとするなんてとっても悪い子!
『メボンゴ達がお仕置きしちゃうよ!めっ!』

前衛は任せて!
ラファエラさんやエレよりも前に出る

氷属性付与した白薔薇舞刃の2回攻撃
討ち漏らしても欠けた骨の分の氷を纏わりつかせて軽量化を防ぐ
えへへ、ありがとう!
氷薔薇のショーをご覧あれ!

茨に絡め取られた骨ってちょっと芸術的だよね
なんて軽口言いつつ連携し撃破
これもショーみたいだね

守りはラファエラさんに任せ攻撃に専念

ラファエラさんのUCを見て
『白馬の王子様!ラファちゃの王子様?』
ラファエラさんの騎士さん、素敵だね
頼もしい!


ラファエラ・エヴァンジェリスタ
🌊◎

友達のジュジュ(f01079)と

おや、迷子だろうか
此処は貴様たちの在るべき海ではないよ
この場所は壊させない
骸の海へ還るが良い

愛馬Tenebrarumに騎乗
敵からやや距離をとり、UCで騎士を召喚して前衛へ着かせる
「今日は私だけでなくジュジュやエレのことも守っておくれ」
言葉通りに自身もオーラ防御を展開

嗚呼、ジュジュのユーベルコードは美しいな
まるでショーを見ているよう
氷の薔薇に阻まれて尚、敵が、加速しようとしている?
私もショーに彩りを添えようか
敵の影から「茨の抱擁」で茨を呼び出し、纏わりつかせる
無粋なオブリビオンには過ぎた彩りかな

王子…嗚呼、彼は私の騎士だよ
とても頼りになる男なんだ、昔から



●白と黒と泡沫のショー
 海の全てを呑み込むかのような重圧。
 押し潰されそうな水圧を受け、ジュジュとラファエラは戦いへの意志を抱いた。敵からは強い力が巡っているが此方には泡の守りがあるゆえ平気だ。
「おや、迷子だろうか」
 ラファエラは鯨の骨を纏うコンキスタドールに向けて声を紡ぐ。無論、それは答えなど期待していない問いかけだ。
 ジュジュはメボンゴと共に身構え、人魚のエレオノーラよりも前に出る。
「人魚さんが大切にしている場所を壊そうとするなんてとっても悪い子!」
『メボンゴ達がお仕置きしちゃうよ! めっ!』
「そうですわ、私達は屈しませんことよ」
 エレオノーラは水の魔力を巡らせ、ラファエラやジュジュ、メボンゴの周囲に満ちる泡の力を強くする。その援護を頼もしく感じたジュジュは一気に飛び出した。
「前衛は任せて!」
「はい、お願いしますわ!」
 狙いは此方に迫ってきている鯨の骨を引きつけること。エレオノーラからの声を聞きながら、ジュジュは銀のナイフを構えた。同時にラファエラもユーベルコードを発動していき、愛馬に騎乗する。
「此処は貴様たちの在るべき海ではないよ」
 青鹿毛の名牝が高く嘶き、天鵞絨めいた毛並みが海中で鈍く光った。それと同じくして召喚された白馬の騎士がジュジュの隣に現れる。
「この場所は壊させない。骸の海へ還るが良い」
『白馬の王子様! ラファちゃの王子様?』
「ラファエラさんの騎士さん、素敵だね。頼もしい!」
 凛としたラファエラの声を聞き、メボンゴとジュジュが明るい声を紡いだ。ラファエラはそっと頷き、自身は敵からやや距離を取る。
「今日は私だけでなくジュジュやエレのことも守っておくれ」
「ふふ、私も皆様をお守りしますわ」
 騎士に願ったラファエラがオーラの防御を展開すると、エレオノーラも魔力を強くした。二人の援護と騎士の存在に信頼を抱き、ジュジュも敵に向かっていく。
「いくよ!」
 ジュジュは氷の属性を巡らせた刃を振るい、白薔薇を海中に広げた。舞うような刃は二度、鋭く振るわれる。それによって白い花弁が更に水中を彩る。
「嗚呼、ジュジュのユーベルコードは美しいな」
 まるでショーを見ているようだと零したラファエラは口元を僅かに緩めた。ジュジュはふわりと微笑み、ラファエラに向けて片目を閉じてみせる。
「えへへ、ありがとう! 氷薔薇のショーをご覧あれ!」
「私もお力添えをさせてください!」
 ジュジュが更に氷の力を巡らせると、エレオノーラも水流を起こしていき、花と氷が広がる勢いを強めた。たとえ討ち漏らしても、欠けた骨の分の氷を纏わりつかせて軽量化を防ぐジュジュ。
 ラファエラの騎士も白馬と共に駆け、光の一閃を見舞う。見事な一撃と氷の薔薇は敵を貫いた。だが、不意にラファエラの馬が低く嘶く。はたとしたラファエラは敵の動きに気が付いた。
「氷の薔薇に阻まれて尚、敵が、加速しようとしている?」
「そうみたい。気を付けてラファエラさん!」
「私の水術でも抑えきれませんわ。泡の護りを強くします!」
 ジュジュは身を翻し、エレオノーラは守護に力を巡らせる。それによって泡の防護がジュジュとラファエラを確りと包み込んだ。
 突進は恐ろしいものだったが、鯨の骨の動きは耐えられないものではない。
 援護と守りは人魚に任せ、ラファエラは反撃に移る。
「私もショーに彩りを添えようか」
 ラファエラは敵の影を見据え、茨の抱擁を用いた。呼び出された茨を纏わりつかせることで鯨の骨が黒い棘に覆われる。
「茨に絡め取られた骨ってちょっと芸術的だよね」
「無粋なオブリビオンには過ぎた彩りかな」
「ラファエラさんの言う通り、これもショーみたいだね」
 ジュジュは敢えて軽口を語り、明るい笑顔を浮かべてラファエラや騎士、エレオノーラと連携していく。黒薔薇と白薔薇、水の泡と光の剣。それらによって念を散らされた淵沫の形は徐々に崩れ落ちていく。
 そして、次の瞬間。
「――今だ」
「ええ、全力で援護しますわ!」
 ラファエラの呼びかけによって騎士が駆け、エレオノーラが数多の泡で敵の目眩ましをした。騎士の一閃が敵を貫いた刹那、ジュジュが動く。
「これで終わりだよ!」
『バイバイだよ、コンキスタドールさん』
 ジュジュとメボンゴの声が続けて紡がれ、そして――。
 白い花は黒い念を包み込み、操られた骨ごと浄化していった。海水に解けるように消えていく念を見送ったジュジュとエレオノーラは笑みを交わしあう。
 そうして、二人はラファエラの元に戻った白馬の騎士に目を向けた。
「ふふ、騎士さんも素敵でしたわ」
『やっぱり王子様だったね!』
 エレオノーラがふわりと笑うと、メボンゴと共にジュジュも騎士を褒める。ラファエラはそっと頷き、役目を終えて戻っていく騎士を見送った。
「王子……嗚呼、彼は私の騎士だよ。とても頼りになる男なんだ、昔から」
「昔? そのお話、聞かせてくださる?」
「うんうん、聞きたいね!」
『聞きたーい!』
 ラファエラがそのように答えたことで、エレオノーラとジュジュ、メボンゴも更に白馬の騎士に興味を示した。この戦いが無事に終わったら、人魚と過ごす穏やかな時間がふたたび訪れるのだろう。
 海の平穏を守った暁には、きっと――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳳凰院・ひりょ
🌊
アドリブ歓迎
WIZ

人魚さんと共にこの場を絶対に死守するぞ!
先程と同様に呼吸に関してはサポートをお願いしよう
【拠点防御】を意識し、打って出るのではなく迎撃する形を取る
俺達が布陣する所を突破されると美術館まで到達される恐れがある
ここで絶対に死守しなきゃ!
UC【絶対死守の誓い】を発動だ!

自身の前に【結界術】にて防御特化の結界を形成、さらに【オーラ防御】も纏わせて防御力を強化する
相手の素早い一撃だって、この結界で防ぎきってやる!

迎撃するのはUCの闇の波動、ダメージを与えると共に相手から【生命力吸収】し弱らせる
人魚さんが狙われたら【かばう】
誰も傷つけさせやしないよ!
自分が負傷しても光の波動で回復だ



●大切な明日の為に
 これは守り抜くための戦いだ。
 美しい品々やこの場所には、人魚が大切に思う心と優しさが宿っている。ひりょは美術館の領域を背にして構え、迫りくる淵沫を迎え撃つ気概を抱く。
「この場を絶対に死守するぞ!」
「はい! ご協力お願いします、ひりょさん!」
 ひりょの傍には先程に海中を案内してくれた人魚、ライネがついていた。彼は泡の力を強固にするために魔力を巡らせていく。
 頷いたひりょは全面的なサポートをライネに任せ、敵をしっかりと見据えた。
 ひりょは敢えて此方から打って出ることはしない。屍を操っている念が本体だといえど、相手は鯨の骨を纏っている。大きな体で美術館の方に突っ込まれでもしたら、あの美術品や展示品達がどうなるかは想像に難くない。
「俺達は防御に注力しよう。行けるかな?」
「もちろんです!」
 ひりょが問いかけると、ライネも強く答えた。
 そして、ひりょは拠点防御を意識していく。
「俺達が布陣する所を突破されると美術館まで到達される恐れがあるからね。ここで絶対に死守しなきゃ!」
 ユーベルコード、発動。
 ――絶対死守の誓い。
「光と闇の疑似精霊、力を貸してくれ!」
 ひりょが呼び掛ける声を聞き、光と闇の疑似精霊が顕現していく。闇の波動による衝撃を淵沫に放ったひりょは周囲を見渡した。
 戦闘領域となった辺りには自分が呼んだ疑似精霊の力の他に、別の猟兵の守護や隣にいるライネの泡の防護が巡っている。
 更に守りを強くしようと決めたひりょは、自身の前に結界を張り巡らせた。
 奔影の攻撃、すなわち骨や牙による素早い一撃が来ても、数撃ならば保つだろう。たとえ相手が加速してきたとしても、何度でも結界術を巡らせる心算だ。
 防御特化の結界は淵沫を見事に防いでいく。
「どんなに素早い一撃だって、この結界で防ぎきってやる!」
「ふふ、ひりょさんはすごいですね」
「ライネさんこそ!」
 巡る戦いは危機を感じさせないものだ。其処に頼もしさを感じているらしいライネは、ひりょに問いかける。
「でも、どうして見ず知らずの僕達にこんなに良くしてくれるんですか?」
「どうしてって、もう見ず知らずじゃないからね。それに、困っている人が目の前にいるんだから見過ごすことなんて出来ないよ」
 もちろんどんな相手だとしても、と告げたひりょは快く答えた。
「ひりょさん……。僕、あなたたちに出会えてよかったです!」
 ライネは嬉しそうに目を細め、更に守りの力を巡らせていった。ひりょは静かな笑みをたたえ、オーラの防御を纏わせていく。
 ひりょは更に淵沫を迎撃する闇の波動を強くしていき、ダメージを与えると同時に相手から生命力を吸収していった。敵を弱らせていく間も、ひりょはライネが狙われないようにしっかりと庇っていた。もし自分が傷ついたとしても光の波動の回復がある。
「誰も傷つけさせやしないよ!」
 コンキスタドールも、操られている鯨の骨さえも――海に還す。
 ひりょが宣言した刹那、闇の波動が黒い念を貫いた。その瞬間、それまで猛威を奮っていた鯨の骨が砕けて散り、海の底に沈みながら消えていった。
「やった……僕たちの勝ちです!」
「ああ、やったね。ありがとう、ライネさん」
「こちらこそです、ひりょさん」
 ひりょと人魚は視線を交わし、共に笑いあう。こうしてまたひとつコンキスタドールが倒れ、この海の平穏が取り戻されていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

夕時雨・沙羅羅

まるで自然災害みたい
荒れ狂う水の嵐
でも、この嵐は止められる
安心してほしい
絶対に、この海の宝物を守る

館長さんも、人魚さんたちも、美術館には大切なひとたち
きれいに飾るのも、永く輝かせるのも、あなたたちがいないと
だから、無理はしないで
手伝いは、ありがたいけど

海中でみずのさかなになるのは、周りの海水も巻き込んで、いつもよりおおきくなったよう
みんなを邪魔しないように気をつけて、この水流の塊は敵にぶつける
砕ける骸が他を傷つけないように
素早い動きを鈍らせて攻撃しやすいように
ぐるり、水で押し潰す

飛沫は泡となって真珠の輝きを放ち、氷の刃は歌を唄うだろう
きれいな海に、きれいな記憶がもっと増えますようにって
祈るよ



●水と詩と祈り
 骨に纏わり付く黒い念が奥底で渦巻いている。
 其処にどのような感情があるのか。それとも、感情など何処にもないのか。
 沙羅羅は迫ってくる水圧と骨の巨体を見据える。まるで自然災害のようだと感じたのは、荒れ狂う水の嵐に意志が見えなかったからだ。
「でも、この嵐は止められる」
「そうですね、止めてみせましょう」
 沙羅羅が淵沫の怪物を見据える中、アードルフも身構えた。その周囲には彼の呼びかけを受けた人魚達も懸命に猟兵の援護に入っている。
 刹那、はっとした沙羅羅が動いた。
 彼は淵沫の蠢く念の動きを見極め、突撃を避けながら深い部分に潜る。そうすることによって敵を引きつけ、美術館の方から意識を逸らせた。
「沙羅羅様!」
 アードルフが沙羅羅を心配して、泡の守りを巡らせる。
 平気だと告げるようにその場でくるりと回ってみせた沙羅羅は人魚達に思いを向けた。
「安心してほしい」
 ――絶対に、この海の宝物を守る。
 沙羅羅の意志は眼差しと共に水中を伝い、アードルフ達に安堵を与えた。人魚達も弱くはないが、彼らだけではコンキスタドールには勝てなかっただろう。
 しかし、今は沙羅羅達がいる。
 淵沫は再び影を奔らせて沙羅羅を狙ってくる。人魚達に狙いは定めさせない方が良いと感じた沙羅羅は更に深く潜っていった。
(館長さんも、人魚さんたちも、美術館には大切なひとたちだから)
 守るのは海だけではない。
 其処に住む人々、集められた品々も、同じくらいに大事な存在だ。敵を引き付けていく最中、沙羅羅を追ってアードルフが泳いできた。
「いけません。それ以上、我々から離れては……!」
「来ないで、いいよ」
「どうしてですか、沙羅羅様」
 しかし、沙羅羅はアードルフを制止する。自分も敵を、と強く意気込むアードルフだが、少し無理をしているのが分かった。
「きれいに飾るのも、永く輝かせるのも、あなたたちがいないといけないから」
「それは……」
「だから、無理はしないで」
 手伝いはありがたいけれど、と感謝の気持ちを示した沙羅羅は姿を変えた。海中でみずのさかなになった彼は人魚と美術館を背にしてぐるりと身を翻す。
 周りの海水も巻き込んだ沙羅羅は、いつもよりおおきくなったような感覚を抱いた。
 淡く光る飛沫が周囲に巡り、淵沫を穿つ。後方に下がったアードルフは沙羅羅の勇姿をしかと見つめていた。
 沙羅羅は水流の塊を敵に衝突させ、砕ける骸をさかなの尾で弾く。
 この破片が他を傷つけないように。そして、懸命に守りを施してくれる人魚達の邪魔にならないよう、敵の素早い動きを鈍らせて攻撃しやすいように立ち回る。そして、沙羅羅は骨の奥に見える淀みを見据えた。
「水に、還ろう」
 呼びかけと共にぐるりと水で押し潰す。すると飛沫は泡となり、真珠の輝きを放った。氷の刃は歌を唄い、願いの欠片を巡らせてゆく。
 ――きれいな海に、きれいな記憶がもっと増えますように。
 祈る沙羅羅の想いは強く、何処までも優しく海の中に廻っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓

マスタリング歓迎

戦場から離脱しなさい、と口にしようとして
然し君の瞳に宿る誇りと強い意志の前に口を閉ざす
…フ、と不敵に口角僅か上がり
代わりに口にしたのは
「背中は任せた」
テアが覚悟を決めたのなら
俺は彼女を護るだけだ

テアを最優先に庇う
遺された品《子》たちを、彼ら人魚たちを、この地を、何一つ傷つけさせはしない
思考を読まれたか寸でのところで刃は躱されるも
「テア」
全て計算通り、我が後ろにて構えるは戦士の指先
淵沫の身体がテアの魔法により揺らぎ──返す刃で、彼の根底を斬る

──…淵沫にも、もしかすれば無くしたものがあるのかもしれない
この美術館にあるのかもしれない
けれど、否だからこそ
破壊させるわけにはいかない



●影は水底へ
「あずさおにいちゃん、くるよ」
 幼い少女の声が響き、その視線は淵沫に向けられた。
 異形のそれは奇妙な水圧を纏いながら此方に近付いて来ている。梓は普段の仕事等で一般人に願うように、戦場から離脱しなさい、とテアに向けて口にしようとした。
 だが、口を開く前にそうすることを止める。そうした理由はただひとつ。
「おにいちゃん、どうしたの?」
「いや……」
 ふ、と不敵に笑った梓の口角が僅かに上がった。幼いとはいえどテアの瞳には怯えなど宿っていない。共に戦おうとする意志を宿す少女を、下がらせることなど出来なかった。少女の瞳に宿る誇りと強い意志を認め、梓は身構えた。
「何でもない」
「それならよかった。でも、あっちはよくないみたい」
 テアはほっとしたようだが、すぐに敵の動きに気付いて身を翻す。黒い念を纏った鯨の骨は残影となって禍々しい気を振りまいていた。
「背中は任せた」
「うん、まかせて」
 梓は先程の言葉の代わりに信頼の思いを向け、テアを守るように布陣する。
 テアも梓に守護の泡を二重に巡らせ、守る思いを伝えてくれた。彼女が覚悟を決めたのなら、梓も彼女を護るだけ。
 刹那、再び淵沫の怪物が大きな体を揺らがせてやってきた。
 梓は刀を相手に差し向け、テアを最優先に庇いながら相手の動きを見切る。人魚達も決して弱くはないのだが、コンキスタドールの大群相手となれば押し負けてしまう。そんな未来を訪れさせない為に、自分達が此処にいる。
「遺された品《子》たちを、彼ら人魚たちを、この地を――」
 梓は身体を揺らした骨の鯨に向け、刃の切っ先を差し向けた。次の瞬間、梓は鋭い宣言と共に刃を一気に振り下ろす。
「何一つ傷つけさせはしない」
 思考を読まれたのか、既の処で一閃目は躱された。だが、それは梓の狙い通りでもある行動だ。梓は間髪いれずに後方に呼びかける。
「テア」
「いくよ」
 全ては計算通り。己が後ろにて構えるは戦士の指先。
 瞬く間に淵沫の身体がテアの魔法によって揺らいだ。その隙を狙い、梓は返す刃で以て骨の奥底にある根底を叩き斬る。
 それによって骨を繋ぎ止めていた黒い念が剥がれ落ち、亡骸は海に沈んでいった。
「やったね、あずさおにいちゃん」
「――……」
 勝利を確信したテアが泳ぎ寄ってきたが、梓は少しばかり黙り込んでいた。
 淵沫にも、もしかすれば失くしたものがあったのかもしれない。それがこの美術館にあったのだったとしたら。
 そう考えた梓は深海に沈みゆく骨を見下ろす。
 けれど、否。だからこそ破壊させるわけにはいかなかった。するとテアが梓の手をぎゅうっと握ってから、そっと告げる。
「だいじょうぶだよ。テアたち、ちゃんとおいのりするから」
「ああ、冥福を――」
 共に祈り、願おうと決めた。
 此処に訪れたものは誰からも忘れられない。今日という日のことも、ひとつの記憶として――ずっとずっと残っていくものだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

テティス・カスタリア
【水精】
「アトラ、人魚たちと前出て」
そう、直接敵とやり合う人皆、自分より前に
「後ろのこと何も考えなくていい」
一切何も
だって
「行かせない」
美術館側を背にして、手元に浮かべたオーブに力を注ぐ(UC発動)
あとは光のヴェール…結界の発動核になってただその場に留まるだけ
戦況だけちゃんと見て、怪我した人魚たちには結界の内側に下がるよう言う
「アトラ、お医者さん。無茶してもいいけど、後のこと知らないから」
怪我してるなら誰でも看ると思う
でも無茶した人、いつも手荒くするから
ちょっとだけ忠告

「ん、」
アトラに片手をひらりと振って無傷を知らせる
帰る前に少しだけ此処の人魚とも話してみたいような
話しかけ方なんて知らないけど


アトラム・ヴァントルス
【水精】
さて、作業の時間ですね。
この場を踏み荒らそうという者を一掃してしまいましょうか。
後ろを任せてよいと言ってくれるなら、人魚の皆さんの力を借りてあれを倒しに行きましょう。
ティティ、頼みましたよ。

挑発して出来る限り美術館から目を遠ざけるように動きます。
UCを発動させる為に少し人魚の方々に時間を稼いでもらい出来るだけ距離が近い所で【罪人の左手】を発動。
絶対に行かせませんよ、あの場所へは。

無事に倒せたなら協力して下さった人魚の方や怪我をした方々の治療や救助活動を行います。
こちらの方が本職(医者)なのでご心配なく。

ティティも無事でしょうか。
君に怪我をさせてしまうと、後程厄介なことになりますからね。



●守護の聖域と海の仲間
 黒い念は骨に纏わり付き、異形の化け物となって襲い来る。
 自分達の元にも一体のコンキスタドールが迫ってくることに気付き、テティスとアトラムはそれぞれに身構えた。
 周囲には館長の指示を受け、魔力を巡らせている人魚たちが居る。
「さて、作業の時間ですね」
「アトラ、人魚たちと前出て」
「わかりました。この場を踏み荒らそうという者を一掃してしまいましょうか」
 アトラムはテティスの声を聞き、その言葉通りに前方に布陣した。テティスの願いは、直接的に敵とやりあう者達を自分より前に出すこと。
 その狙いの答えは、今からテティスが行うことにある。
「後ろのこと何も考えなくていい」
 一切、何も。
 アトラムに告げられた言の葉はとても強い意志を感じさせるものだった。
 後ろを任せていい。テティスがそのように言ってくれるなら、アトラムも信じて進むのみ。人魚達が猟兵みんなに守りの力を巡らせてくれていることを知り、アトラムは淵沫との距離を詰めていった。
「皆さんの力を借りてあれを倒しに行きましょう。ティティ、頼みましたよ」
 彼の呼びかけに対して、テティスがこくりと頷く。
 その気配を察したアトラムは一気に攻勢に入っていった。
 人魚も援護してくれているが、彼らだけを危険に晒すような戦いはしたくはない。アトラムは淵沫を挑発するように素早く目の前に移動し、ひらりと身を翻した。
 彼の目的は、この挑発によって美術館から目を遠ざけること。
 骨とはいえど元は鯨だ。
 大きな身体で以て美術館の一角にでも侵入されれば、展示品などひとたまりもない。アトラムはユーベルコードを発動させる準備を整えながら、人魚に呼び掛ける。
「少し時間を稼いで貰えますか?」
「はいっ!」
「わかりました!」
「くれぐれも無理はしないようにお願いします」
 人魚達にそっと願ったアトラムは力を巡らせていく。その間に人魚は先程にアトラムがそうしたように、敵の眼前まで迫っては逃げるという挑発を繰り返した。
 その様子を見つめるテティスは淵沫をしかと視界に捉えている。
 前に、と皆を進ませたのはテティスが発動させている守りの力に起因する。
「絶対に行かせませんよ、あの場所へは」
「行かせない」
 アトラムの言葉に続けて、テティスも思いを声にした。
 美術館側を背にしたテティスは、手元に浮かべたオーブに力を注ぎ続けている。そうすることによって光のヴェールが結界を発動するための核となり、アストラの聖域が作り上げられたのだ。
 後はテティス自身がその場に留まるのみ。
 もし怪我をした人魚がいれば、結界の内側に下がって貰うことで保護できる。テティスはふと、敵を引きつけている人魚の体力が減っていることに気付いた。
「こっち。無理は、駄目」
「ごめんなさい……。でも……まだ戦えます」
 テティスの近くまで泳いできた人魚は首を振る。しかし、テティスも頭を横に振って、無茶をするのはよくないと告げた。
「アトラ、お医者さん。無茶してもいいけど、後のこと知らないから」
「それなら余計にまだ戦って――」
「怪我、してるなら誰でも看ると思う。でも無茶した人、いつも手荒くするから」
「え?」
 つまり、敵よりも味方が怖くなる。テティスからの忠告が冗談ではないと悟った人魚は大人しく結界の中に入り、前線で戦うアトラムに声援を送った。
「後は任せました、お兄さん!」
「いいこ」
 大人しく保護された人魚にテティスがそっと頷く。
 後ろでどんな遣り取りが行われていたか知らないアトラムは、最後の声援だけを聞いて静かに手を振った。
 そして、アトラムは黒に銀の装飾が美しい銃を構える。
 ――罪人の左手。
 刹那、鋭い銃弾が海中に舞う。
 義手で以て撃ち放たれた銃弾は淵沫の骨を擦り抜け、その奥に潜む念を貫いた。二発、三発、四発。敵が動くよりも疾く撃たれた弾丸は見事に敵を穿つ。
 そして、目の前の淵沫が崩れ落ちた。
「ん、」
 戦いが終わったと感じたテティスは、アトラムに向けて片手をひらりと振った。それが無傷を知らせる合図だと知った彼はテティスの元に泳いでいく。
「よかった、ティティは無事でしたか。君に怪我をさせてしまうと、後程厄介なことになりますからね」
「平気。誰も、何も壊れてない」
 安堵を見せたアトラムの医者としての出番はないようだ。しかし、それこそが何よりも喜ばしいことでもある。すると人魚達が花のような笑顔を咲かせた。
「はい、おかげさまで」
「すごかったです! お兄さんたち、とっても強いんですね!」
「それほどでも、あるかな」
 テティスは帰る前に少しだけ人魚と話したいと思っていた。されど話しかけ方など知らず、どうしていいか考えていたとき。
「あの、僕はアスタっていいます」
「私はアンニカ。よかったら、お二人のお話を聞かせてください!」
「お話?」
 なんと人魚達の方から話がしたいと言ってくれた。テティスが首を傾げていると、アトラムが快く応える。
「良いですよ、ぜひ」
 そうすれば更に人魚達の口元に笑みが咲き、嬉しそうな声があがった。
 どうやらまだまだ、この海で過ごす時間は終わらないようだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

ピアの水の魔法と
瑠碧の水の精霊さんの力って
どう違うんだ?

まぁ頼もしい事に変わりねぇ

泡は戦闘阻害しない程度で
水中呼吸は頼む

変身し衝撃波敵目がけぶつけUC起動
水蹴りジャンプ駆使し
水流でフォローも貰い接敵
グラップル
拳で殴る

泳げるし衝撃波とかで加速も出来るけど
まぁ魚…鯨?には勝てねぇ
しかも骨だし
削ぎ落とし過ぎか
とはいえ追えなくても迎撃位できる
動き見切り
向かって来る勢い利用しカウンター
纏めて片付けるぜ
廻し蹴りで範囲攻撃
俺が瑠碧の援護貰っといて外すとかあり得ねぇ

鰭とか鰓とかぶっ壊したら多少動きも鈍るだろうし
後ろの奴も止まるだろ
出来るだけ引き付け
可動部狙い部位破壊
美術館は壊させねぇ
そっちが壊れろ

🌊


泉宮・瑠碧
【月風】

えと…色々と省いて省略すると…
力の源とか、そういう違いかと思います
多分

ピアは淵沫と距離は取って
理玖の援護をお願いします
特に、水中でも動き易い様に

水中は水の精霊に満ちてますから
私は特に苦は無いので

水の精霊へ
動きを阻害する様に
淵沫の周囲の水を纏わりつかせるよう頼みます

私は杖を手に天飛泡沫
鈍る淵沫へ更に
数十羽ずつ向かせて周囲を舞って気を散らしたり
水鳥が含む浄化でも屍に攻撃を

水鳥の内十羽程は治療や咄嗟に守る為にも
理玖とピアに随行させておきます

淵沫達は視界内に捉えてはおきますが
様子や変化、視界外は第六感でも
被弾の兆候があれば回避

攻撃は浄化を籠めた水の槍を撃ち出し
骸の海、その深海にて…安らかに

🌊



●泡沫に明鏡止水
 浮かぶ泡沫が不穏に震えていた。
 迫ってくる淵沫の淀みの気配を感じながら、理玖は隣の彼女と人魚に問う。
「ピアの水の魔法と瑠碧の水の精霊さんの力って、どう違うんだ?」
「こんな危機が迫ってるときにそれを聞いちゃいます? リクは大物ですねえ」
 問われた人魚、ピアは尾鰭をぱたぱたと揺らしながら明るく笑った。いつの間にか二人をちゃっかり名前で呼んでいる少年人魚は状況とは反対に楽しげだ。ねえ、と話を振られた瑠碧は、自分と人魚を見比べる。
「えと……色々と省いて省略すると……力の源とか、そういう違いかと思います」
「そーいうことです!」
 悪びれもせず説明を丸投げしたピアに対し、瑠碧は至極真面目に答えた。二人の性格の違いが如実に現れている問答だ。
 理玖は少し首を傾げ、成程、と言葉にする。
「気になるもんは気になるだろ。まぁ頼もしい事に変わりねぇ」
「それより、敵さんが来ますよ! ルリ、リク、準備はいいですか?」
「はい。……慎重に、行きましょう」
 身構えたピアに頷き、瑠碧は水の精霊の力を巡らせた。ピアには淵沫と距離を取って貰い、理玖の援護を願うつもりだ。
 それと同時に理玖が水の泡を強く蹴った。
「――変身」
 その力は水中を鋭く推進するための動きだ。敵に向かって駆けると同時に龍珠をドライバーにセットした理玖。彼の身体は瞬く間に変化していく。
「わあーっ、リクってば変身ヒーローだったんですか? すごい、すごいです!」
「そう、です。理玖は、とても――」
 男の子であるゆえにピアも心を揺さぶられたらしい。瑠碧はそうっと肯定しながら、理玖が衝撃波を放つ姿を瞳に映した。
 ピアは瑠碧の横顔を見つめ、くすりと笑う。
「私にとっての格好良いヒーローで、素敵な恋人、で……将来は旦那様になって欲しいと思って、いたり……お家に犬や猫をお迎えして暮らして、ゆくゆくは……」
「あ、あの……」
「ピア、瑠碧の声真似してんじゃねぇ。気が散るだろ」
 一瞬は彼女本人が旦那様云々と言っているのだと思ったが、理玖はすぐに悪戯だと気付いた。続かなかった瑠碧の声を勝手にピアが代弁したつもりらしい。瑠碧本人は止めることも出来ず、頬を淡く染めておろおろしていた。
「あはは、ごめんなさい! だってルリ、すごく気を張り詰めてましたから」
「緊張を、解くために……?」
「正解です! それじゃあルリ、リクをお助けしていきましょう!」
 ピアは瑠碧を呼び、拳を振るい続ける理玖に泡の守りを巡らせる。瑠碧も水の精霊に敵の動きを阻害するように願い、淵沫の周囲の水を纏わりつかせていった。
「良いな、動きが読みやすくなった」
 呼吸も動きも阻害されないとはいえ、理玖にとっては慣れぬ戦場。敵の行動が僅かに鈍くなっただけで理玖には随分と戦い易くなる。
 彼の役に立てていると感じた瑠碧は、手にした杖を胸の前に掲げた。
 ――天飛泡沫。
 鈍る淵沫に向け、更に浄化の水を向かわせる。鳥を模った水は数十羽。敵の周囲を舞う水の鳥達は相手の気を散らす役割を担っていた。それに屍である相手には浄化の力がよく効くだろう。
 同様に理玖も連撃を叩き込んでいく。水を蹴って跳躍してからの骨への蹴り。骨と骨の間を飛びながら巡ってきた水流に乗り、黒い念に拳を突き放つ。
 そうすることで、屍に取り憑いている漆黒が少しずつ剥がれ落ちていった。
「まぁ普通だったら鯨には勝てねぇけど」
「今のピアちゃん達は友情と愛情パワーで無敵ですよ!」
「友情と、愛……?」
 理玖が身構え直したとき、ピアが元気いっぱいに宣言する。瑠碧は照れてしまいそうな物言いに気付き、ふるふると頭を振った。其処に理玖の冷静な突っ込みが入る。
「ピア、一言余計だ」
「ええっ!? ピアちゃんとリクとルリの間に友情はないのですか?」
「そちらでは、なくて……」
「ほっとけばいいか。行けるか、瑠碧」
「……はい」
「ピアちゃんもばっちりいけます!」
 理玖の呼びかけに瑠碧が応え、めげないピアも水流を更に激しく迸らせていった。淵沫は素早く身を翻し、速度を上げながら理玖に迫ってきている。
 理玖は敢えてその場で止まり、敵を迎え撃つ構えを取った。
 淵沫を見据えた瑠碧も彼の援護として水鳥の内の十羽ほどを遣わせる。理玖はその力に頼もしさを感じながら、敵が迫る勢いを利用して高く跳んだ。
「纏めて片付けるぜ」
 泡が落下すると同時に放つのは廻し蹴り。鋭い一閃が敵を貫き、追撃として瑠碧の飛ばした鳥達が黒い念を穿っていった。
「流石はリクとルリ!」
「俺が瑠碧の援護貰っといて外すとかあり得ねぇ」
「私、も……理玖を怪我させたくなかった、ので……」
 ピアが理玖を褒めると、瑠碧も静かに首肯する。しかし、三人はすぐに淵沫に目を向けた。先程の連撃で随分と弱ったようだが、相手はまだ倒れてはいなかった。
「やっちゃってください、二人とも!」
 ピアは力を振り絞り、どんなことがあっても割れない泡を展開する。その声に応えた理玖は更に水を蹴り上げることで敵との距離を詰めた。
「美術館は壊させねぇ。そっちが壊れろ」
「骸の海、その深海にて……安らかに」
 瑠碧も浄化を籠めた水の槍を紡ぎ、理玖が拳を振り被ると同意に撃ち出した。
 そして、一瞬後。
 骨がぐらりと揺れたかと思うと、内部に渦巻いていた念が海の泡と共に水中に散った。
 こうしてまたひとつ、魂は眠る。
 優しい海に抱かれて、穏やかな祈りを受けながら、そっと――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ、このままでは海底の美術館が壊されてしまいます。
えっと、ここはガラスのラビリンスで覆ってしまいましょう。
これでコンキスタドールさん達はここまで来られないはずです。
でも、こうしてガラス越しに海中を見るとなんだか水族館みたいですね。

ふえ?ここにはコンキスタドールさんは来られない筈では?
ふええ、迷路だから出入口はあるって、
とりあえず、逃げましょう。
ふええ、水族館みたいと言いましたが、これは逆に迷路の中を追いかけられる私達がお魚さん達に見られているのではないでしょうか?



●硝子の中のアリス
 迫りくるのは骨を操る黒い念の大群。
 死したものを操り、生者の住む島を求めて泳いできた敵は奇妙な雰囲気を纏っている。彼らに明確な意志は見えず、ただ生きるものを害する動きだけが見えた。
 フリルは人魚が守る美術館を背にして、アヒルさんと共にしっかりと身構える。
「ふええ、このままでは海底の美術館が壊されてしまいます」
 襲い来る淵沫の勢いは激しい。
 周囲の人魚は魔法の泡で以てフリルを守護してくれており、防護においての問題はないようだ。それでもフリルは、これだけでは足りないと考えていた。
 人魚達の力だけではいずれコンキスタドールに押し負けてしまう。そういった未来が予知されたからこそ、猟兵が此処に訪れたのだ。
 どうするべきか。
 フリルは一生懸命に考え、アリスとしての力を巡らせることを決めた。
「えっと、ここはガラスのラビリンスで覆ってしまいましょう」
 フリルは魔力を紡ぎ、周囲に透明な硝子で出来た迷路を張り巡らせていく。透き通った硝子に隔たれた淵沫は何やら蠢いた。
 おそらくフリルによって行く手が阻まれたことを知ったのだろう。
「これでコンキスタドールさん達はここまで来られないはずで……ふえぇ」
 しかし、次の瞬間。
 淵沫の化け物が硝子に向かって体当たりを仕掛けてきた。ユーベルコードは頑丈だと分かっているが、フリルは思わずびくっと身体を震わせる。
 すると、アヒルさんが大丈夫だというように鳴いた。
「流石に破っては来られませんよね。でも、こうしてガラス越しに海中を見るとなんだか水族館みたいですね」
 ひとまずの安堵を抱いたフリルは、守るべき人魚達も硝子迷路の中に入っていることを確かめる。迷路外では他の猟兵が淵沫を倒しており、なかなかに順調だ。
 だが、あるとき。
 淵沫の化け物の一匹がフリルの近くに出現した。
「ふえ? ここにはコンキスタドールさんは来られない筈では?」
 はっとしたフリルの頭の上で、アヒルさんもはたとして鳴いた。フリルは気が付いていなかったが、此方に狙いを定めた一匹が懸命に迷路を伝ってきたようだ。
「ふええ、迷路だから出入口はあるって……とりあえず、逃げましょう」
 フリルは出口を目指し、急いで進んでいく。
 まるで自分が水槽の中にいるお魚のようだと感じたフリルは、ふと思い立った。
「ふええ、水族館みたいと言いましたが……」
 この状況を逆に考えてみると、迷路の中を追いかけられる自分達が魚に見られているのではないだろうか。フリルは一生懸命に逃げ、仲間達のもとに急いだ。
 この後、少女は人魚や仲間に助けられて協力することで事なきを得る。
 だが、本人は気付かない。
 この硝子の迷路があったからこそ、美術館が無傷でいられたということに――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

浅間・墨
ロベルタさん(f22361)。
マイラさんに泡の強度を窺っておきます。
技の斬撃に泡が耐えきれるかどうか不安だったので。

初撃が難なく回避された対策で相手を待つ手段に変更を。
気配を見切りつつ第六感と野生の勘で斬撃をくりだします。
相手の回避行動をする先を予想しながら斬ろうと思っています。
私の心の不安は技の切れ味が不安定になるので一切考えません。
相手の動きとロベルタさんや人魚さんの位置の確認だけを考えます。

美術館を背にされた場合は攻撃を一旦中止します。
この場合は技を使わずに通常の斬撃で対応しようと思います。
相手ごと美術館を斬ってしまったら人魚さんが困るので。はい。


ロベルタ・ヴェルディアナ
墨ねー(f19200)。
封印を解くのとパフォーマンスで身体能力を上げるじぇ。
で。多重詠唱して継戦能力して準備は完了だねぃ~。

淵沫ってのは骨に見えるけど…これ負の念なんだねぃ?
まあいいや。倒さないといけない相手だし!
僕は技で泡から高速で出て相手を蹴ってから泡に戻るよ。
うーん。仕方ないけど水中で蹴ると威力が半減しちゃうかな…。
脚に破魔と重量攻撃と鎧砕きに鎧防御無視を加えておこう。
なるべく相手に与える威力を上げておきたいんだじょ~。

もし墨ねーや人魚さん達がピンチになった場合フォローするよ。
深呼吸してから泡を抜ければ少しは動けるはずだから!



●轟く海に彼岸花
 淵沫が迫りくる少し前。
 墨は共に戦う人魚のマイラに、魔法の泡のことを問いかけていた。
「……泡、の……強……ど……くら……です……?」
 島で施して貰った魔法の泡は今まで一度も壊れたりはしていない。だが、今から始まる戦闘を思うと泡の強度が心配になったのだ。
「大丈夫ですよ。割れたりは絶対にしません!」
「……斬撃……泡……耐え……る……不安……た……で……」
「心配になる気持ちもわかります! ですが、私達の魔法を信じてくださいっ!」
 マイラは墨に懸命に説明していく。
 魔法の泡は海で呼吸が出来ない種族のために調整されていること。外側からの衝撃は吸収して、ある程度は緩和すること。しかし、内側から放出するものに関しては吸収することはない。そのままの威力や勢いのままに外に逃すらしい。それゆえに泡に入ったままの攻撃も可能であり、墨達が気を使うことは何もないのだという。
「なるほどー! じゃあ平気そうだねぃ」
 話を聞いていたロベルタはうんうんと頷いた。しかし、マイラはふと不安そうな顔をして墨達にそっと告げる。
「でも……私が死んじゃうと、泡も消えちゃいます……」
 そのときは他の人魚が助けてくれるはずですが、と俯いたマイラ。その顔からは先程の元気さは消えていた。
 おそらく敵が襲撃してくることが怖いのだろう。そのことを察したロベルタはマイラの背をぽんと叩く。こうしして泡の中に居ても触れ合えることや、問題なく行動が出来ているのは人魚の魔法があるからだ。
「だいじょーぶだじょ~。墨ねーと僕がいるからね」
「……死……なん……て……考えな……で……くだ……い……」
「ごめんなさい。私、怖くなっちゃって……」
 顔を上げたマイラはロベルタの励ましを聞き、先程までのように明るく笑った。それが空元気だとは分かっていたが、墨もロベルタも心配はないと語る。
 何故なら、人魚を死なせることなど絶対にないからだ。
 ロベルタは敵が迫ってきていることを察して自らの封印を解く。それと同時にパフォーマンスで以て己の身体能力を上げ、多重の詠唱を重ねていった。
「これで準備は完了だねぃ~」
「…………」
 ロベルタが見据えた先に、墨も視線を向ける。人魚に援護を任せた二人はひといきに淵沫の化け物に攻撃を仕掛けていった。
「淵沫ってのは骨に見えるけど……これ負の念なんだねぃ?」
「骨……奥……に……」
 ロベルタが首を傾げていると、墨が骨の奥に蠢く念を示す。成程、と言葉にして鯨の骨の中を見遣ったロベルタは雷神の大槌の力を迸らせていった。
「あれが本体なら、全力でやって骨を砕くしかないねぃ」
 きっと骨が阻んでしまうので念をすぐに穿つことは出来ないだろう。ロベルタは泡の力を信じ、いつもどおりに攻撃を発動させる。
「まあいいや。倒さないといけない相手だし!」
 雷の属性を宿らせたロベルタの一閃。それは超光速で懐に踏み込み更に加速し放つ蹴りだ。鋭い一撃が骨を砕く最中、墨は待ちの姿勢に入っていた。
 初撃が難なく回避された対策として、相手の動きを待つ手段に変更したのだ。
 幸い、ロベルタが先陣を切ってくれている。
 墨は気配を見切りつつ、第六感と野生の勘を働かせながら斬撃を繰り出していった。その狙いは、相手の回避行動をする先を予想すること。
 真っ直ぐに凛と繰り出される斬撃は泡を通過して敵に向かった。
 不安は一切、抱かない。
 墨は己の心の不安が技の切れ味に直結すると分かっているからだ。人魚に泡のことを聞いたのも、不安定になることを懸念したゆえ。
 集中している墨は無言のままだが、しかと相手の動きやロベルタ、マイラとの位置の確認を行っている。
「うーん。水中で走るために蹴ると威力が半減しちゃうかな……。脚に破魔を込めて、それから……」
「心配しないでください。全部まとめて私が援護します!」
 ロベルタが次の一手について考えを巡らせていると、マイラが声を響かせた。彼女なりに懸命に力を貸してくれようとしているのだろう。わかったじょ、と答えたロベルタは重量を載せた攻撃と鎧を砕く力、鎧の防御を無視する力を加えようと決めた。
 それはなるべく相手に与える威力を上げるため。
「――Uccidi i nemici in orbita con l'aiuto del ruggito!」
 ロベルタの果敢な蹴り込みに合わせ、墨も攻撃を続けていく。
 黄泉送りの一閃。雷神の大槌の一撃。それらは確実に敵を追い込み、念を削り取るまでに至っていた。
 墨は敵が此方に回り込み、美術館を背にされた場合は攻撃を中止することまで考えていたのだが、その心配はないようだ。されど、墨はどんな場合にでも対処しようとする考えと柔軟さ、心構えを持っている。
 もし相手ごと美術館を斬ってしまうなどという事柄は絶対に起こしたくない。万が一に事故が起こったとしたらったら人魚達も困るだろう。
「墨ねー、人魚のねーちゃん!」
「……はい」
「何ですか、ロベルタさん?」
「合わせて一気に倒しちゃおうと思うけど、どうかな?」
「いいですね、最高だと思います!」
 ロベルタは二人を手招き、一気に攻め込もうと呼びかけた。墨は頷き、マイラも今がチャンスだと答える。
「いっくじょ~!」
 そして――ロベルタと墨、マイラは力を合わせてひといきに畳み掛けた。
 刹那、淵沫の骨が完全に砕ける。それと同時に纏わり付いていた黒い念も崩れ落ち、コンキスタドールがまた一体、深海に沈んでいった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーシー・ブルーベル
🌊◎

だめよ、この美術館は壊させたりしない
ルーのお花と、人魚さんたちのステキな愛が詰まってるから
ラウハさん、がんばりましょうね!

澄んだ海に黒い塊は良く目立つでしょう
見失ったとしても早く動くのなら
零れる泡や水音に耳をすませて目標を探し当てましょう

ルーとクーはルーシーとラウハさんに其々付いて
オーラの帳で守って
ラウハさんももし怪しい影に気づいたら教えてね

……ああ、見つけた

此処は海の底、ならルーシーも海のお友だちを呼びましょう
さあ、お出でなさい
【およぐお友だち】

影も骨も、深海の水も、
破魔まとう牙で全てまとめて貫いて
ラウハさんや他の人魚さんに害及ばぬ様に動くわ

何故あなたはここに来たのだろう
眩かったのかな



●憧れた世界
 淵沫の気配が色濃く、強くなっていく。
 ルーシーは美術館に向けて迫ってくるコンキスタドールの姿を捉え、両手を広げた。それは美術館を守るための意思表示だ。
「だめよ、この美術館は壊させたりしない」
「そうです! わたしたちの大事な場所なんですから!」
 ルーシーの隣に控えている人魚、ラウハも淵沫に向けて言葉を紡いだ。ルーシーは人魚の強い思いを感じ取り、絶対に守り切ると誓う。
「ルーのお花と、人魚さんたちのステキな愛が詰まってるから」
「わたしたちだって退きませんから」
「ラウハさん、がんばりましょうね!」
「はいっ、ルーシーちゃん!」
 少女達は思いと言葉を重ね、しっかりと身構えた。見据える先には水圧を纏いながら近付いてくる淵沫の化け物がいる。
 澄んだ海の中に蠢く黒い塊。それはよく目立つので見逃すはずがない。たとえ見失ったとしても、素早く動いたり水圧の巡りで敵の行動は把握できるだろう。
 ルーシーは零れる泡の動きを見遣り、水音に耳を澄ませる。
「ルー、クー。ルーシーとラウハさんに其々付いてね」
 オーラの帳で守って欲しいと願ったルーシーはラウハへの気遣いも忘れない。ラウハも守りの泡を巡らせて援護してくれるつもりらしい。
「ラウハさんももし怪しい影に気づいたら教えてね」
「わかりましたです! 二体目がこっちに来ちゃったらたいへんですものね」
 ルーシーがそっと呼びかけると、ラウハは周囲を警戒する役についた。そして、ルーシーは一体目の方に集中する。
「……ああ、見つけた」
 其処から巡らせたのはおよぐお友だちの召喚。
 此処は海の底。それならばルーシーも海のお友だちを呼んで対抗するだけ。
「さあ、お出でなさい」
 ――おねがい、導いて。
 一角獣を模したヌイグルミは此度、宙ではなく海中をゆく。迫る影も骨も、深海の水も纏めて穿てばいい。破魔を纏う牙で全てまとめて貫いていけば脅威は散らせる。
「わたしも頑張るですよ!」
「でも無理はしないでね」
「だいじょうぶです。ルーシーちゃんや他の猟兵さんが頑張ってくれてるのに、わたしたちだけ楽はできないですから!」
 ラウハはぐっと意気込み、水の魔力でルーシーのお友だちを援護する。
 戦況は猟兵と人魚の有利。
 それでもルーシーはラウハや他の人魚さんに害が及ばないように動いていった。そして、ルーシーの一角獣は淵沫を深く貫く。
 骨が崩れ、内部の黒い念が海に沈んでいった。
 その姿を見送りながら、ルーシーはふと思う。あのコンキスタドール達はどうしてこの場所を目指して訪れたのか。そのことに少し疑問を抱いた。
「何故あなたたちはここに来たのかな」
 問いかけても、言葉を語らぬものからの返答はないと知っている。それでも言葉にしたのは、ルーシーなりの答えを見出していたからだ。
 きっと、眩かったのだろう。
 この場所が――きらきらと光る、思い出に満ちた海に焦がれたから。ルーシーは深海を見つめてから顔を上げ、隣の人魚とそっと笑みを交わしあった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
海ン中がお前ェの領分なら、戦は俺の領分だ
然し此処は一つ、郷に入った戦いとしようじゃねえか

先に錦絵の事を聞いたなァ、俺が画工だからヨ
すらりと筆を取り出して、横に一薙ぎ
水の中で膨れた墨の大波で鯨を圧し返すぜ
円を描きゃあ周りの水ごと撒き込んで大渦を
水ン中に勢いを出してんだ、人魚の奴等ァ流されねぇようにしな

時にアキと云ったか、お前ェは何が得意だ
歩兵だってンなら水煙と渦の勢いで援護を
妖術ってンなら俺の波に合わせてみな
鯨ァ如何やら此方の動きを読んでやがる…が
「コウ」としたのに「矢張り此方」と目の前で読みを変えられりゃあ対処もできまい
読んだ所で仕方のねえ程上を行くだけよ
したが、行くぜ



●波濤と泡沫
 穏やかだった水の巡りが激しくなっていく。
 泡がなければ押し潰されてしまいそうな水圧の最中、人魚は守りの魔力を強める。
「ヤザハチ兄ちゃん、大丈夫!?」
 アキは少し苦しげな顔をしていたが、両腕を前に掲げることで泡の守護を広げる。彌三八は少年が懸命に水圧を防いでくれているのだと知り、ああ、と頷いた。
「海ン中がお前ェの領分なら、戦は俺の領分だ」
 彌三八はアキに無理はするなと告げつつも、彼に信頼の眼差しを向ける。然し、と言葉を続けた彼は筆を取り出す。
「此処は一つ、郷に入った戦いとしようじゃねえか」
「よーしっ! おいらは泡に力をこめるから、兄ちゃんは敵をたのむよ!」
 彌三八が力強く語ったことで、アキも心強さを感じたようだ。それぞれが得意分野で敵に立ち向かえば黒い念と骨の怪物にも負けないはず。
 迫ってくる淵沫の前に素早く移動した彌三八はアキを守る布陣につく。後ろは振り返らないまま、敵の出方を窺う彼はすらりと筆を海中に躍らせた。
「兄ちゃん、その筆は?」
「先に錦絵の事を聞いたなァ、俺が画工だからヨ」
 不思議に思ったらしいアキが問うと、彌三八は筆を横に薙いだ。その瞬間、水の中で一気に膨れた墨が大波となって鯨を圧し返した。
「わあ、すごい!」
「見てな、こいつをこうして――」
 瞳を輝かせたアキに披露していくようにして、彌三八は円を描く。そうすることによって周りの水ごと撒き込んだ大渦が更に淵沫を穿った。
 その水流をもっと見ようとしたアキが移動する。すると、その身体が揺らいだ。
「うわわっ」
「平気か? 水ン中に勢いを出してんだ」
 すっと彼に近寄った彌三八はアキを支え、流されねぇようにしな、と告げる。アキも彌三八の力を理解したらしく、ありがとう、と告げ返しながら後方に下がった。
 その間にも淵沫の化け物は彌三八達に気概を加えんとして泳いでくる。
「来るよ、兄ちゃん!」
「心得てるぜ。時にアキと云ったか、お前ェは何が得意だ」
「おいらは泡のイタズラが得意!」
「へぇ、だったらそれを思いっきりしちくんな」
 彌三八が願うと、言葉通りに悪戯っぽく笑ったアキが魔力を巡らせた。泡のイタズラとは数多の泡を出現させて目眩ましをすることらしい。
 それによって敵の視界が防がれ、攻撃が逸れた。
 良い妖術だと感じた彌三八は再び筆を掲げ、敵がいる方向に波を起こしていく。
「次ァ俺の波に合わせてみな」
「わかった!」
 泡と波。ふたつの力が重なったことで淵沫の身体が押し返された。だが、肝心の衝撃は避けられてしまったようだ。
「鯨ァ如何やら此方の動きを読んでやがる……が、」
「大丈夫、おいらたちなら勝てるさ!」
「その通り」
 彌三八は鯨の骨に向け、筆を振るおうとする。だが、一度はこうとしたことを、矢張り此方だとして行動を移していく。こうやって目の前で読みを変えられたならば敵も対処ができまいと考えてのことだ。
 此方の行動を読んだところでどうしようもない。それほどに上を行くだけ。
「したが、行くぜ」
「やろうぜ、兄ちゃん!」
 呼びかけあった二人は今一度、泡と波の力を轟かせた。
 重なる力。巡る衝撃。それらによって深く穿たれた淵沫の化け物は力を失い、海の底に沈みながら消えていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルクス・カンタレッラ
【揺蕩う魚】


はっ、デカブツのお出ましってか!
生憎と、此処で暴れられる訳にいかねぇんだわ
どれもこれも嘗ての誰かの宝物かもしれないってんなら、大切にしてやんなきゃだろ

トニ、ちょっと場が変わるから気を付けろよ!
リル、頼んだ
君のプロデュースで私の舞台を作っておくれよ
めいっぱい私が暴れられるように、さ?
仲間の力が場を変えたなら、

さあ、あとは私らの仕事だよ!
行くよ、クヴェル!
巨大化した海竜の背に乗り、槍化したゼーヴィントを片手に突っ込むよ
回避されるのを防ぐため、【早業、先制攻撃、見切り】
荒れ狂う雷混じりの嵐や大津波を【天候操作、蹂躙】で強化しとこうかね
骨が剥き出しなら、さぞかし良く圧し折れるだろうさ!


リル・ルリ
【揺蕩う魚】


わぁ!ルクスねえさん!
大きいのがきた

美術館を泳ぎながら様々な宝物をみた
花に羅針盤や宝石に…皆の大切な宝物達
在るべき場所へ在るべきものがかえるんだ
かあさんの故郷への手がかりだってきっと

トニ、ヨルをよろしく
ヨルはキュッと歌って鼓舞してくれる
トニの水の魔法も心強いや!あれが水の魔法…すごい
僕だってやるぞ
宝物も皆も傷つけさせない

ルクスねえさんの力を最大限に発揮出来る舞台を創ろう
美術品が傷つかないように水泡のオーラを纏わせ
破魔を宿して歌う歌う「享楽の歌」
今一度享楽をここに

今宵の舞台は海上
歓待船の甲板の上
襲い来る嵐すらも打ち消す強さを歌う

僕達の宝の強さをみせよう
櫻沫の歌う享楽は守る為に幕開く



●人魚と守護の思い
 海中に響くように広がる重い水圧。
 黒く渦巻く念と白い骨から成る怪物の接近に気付き、リルが声をあげる。
「わぁ! ルクスねえさん、トニ!」
「うわ……なんて姿をしてやがる」
 大きいのがきた、と前を示すリルに反応して人魚のトニが身構えた。ルクスも人魚達のように構え、啖呵を切る。
「はっ、デカブツのお出ましってか!」
 言葉と共にルクスは力を巡らせはじめた。リルもトニと並んで美術館を背にする。今、此処にいる誰もが大切な場所を守ろうとしていた。
 美術館を泳ぎながら、たくさんの様々な宝物をみてきた。
 花に羅針盤、宝石に――。
「どれも、皆の大切な宝物達だったから。在るべき場所へ在るべきものがかえるんだ」
 かあさんの故郷への手がかりだって、きっと。
 リルが紡いだ言葉を耳にしたトニは静かに頷く。最初は案内が面倒そうだったが、トニも美術館や海を大事に思っていることが分かった。
「生憎と、此処で暴れられる訳にいかねぇんだわ。どれもこれも嘗ての誰かの宝物かもしれないってんなら、大切にしてやんなきゃだろ」
 ルクスも思いを声にして、人魚達に注意するように呼び掛ける。
「二人共、ちょっと場が変わるから気を付けろよ!」
「トニ、ヨルをよろしく」
「任せとけ。オレ達はもう親友だもんな」
「きゅ!」
 リルからヨルを渡されたトニはわざと調子の良いことを語ってくれたようだ。ヨルも元気に鳴いて歌いはじめ、皆を鼓舞してくれている。
 人魚とペンギン達の遣り取りに和みを覚えつつ、ルクスは力を発動させた。巨大化した竜に乗ったルクスは嵐と大津波を纏いながら淵沫に向かっていく。
「リルも頼んだ。めいっぱい私が暴れられるように、さ?」
 君のプロデュースで私の舞台を作っておくれよ、と告げたルクスは突進していく。
 それと同時にリルが享楽の歌を奏でた。
 周囲は瞬く間に変化していき、歌い手を守る深海骨魚が現れはじめる。
 ――今一度享楽をここに。
 それはルクスの力を最大限に発揮できる舞台。創りあげられた世界の波に乗り、ルクスは淵沫の動きを食い止めた。
「さあ、あとは私らの仕事だよ! 行くよ、クヴェル!」
 ルクスは槍化したゼーヴィントを片手に、更に突っ込んでいく。
 リルも歌いながら、美術品が傷つかないように水泡のオーラを纏わせた。破魔を宿して歌う調べは優しく、それでいて強く海中に巡っていく。
「オレだって一緒に戦える。見てろ」
「きゅきゅー!」
 鼓舞を続けるヨルを抱き、トニもリルとルクスを援護する魔法を解き放った。水流はルクスの竜の勢いを増すものとなり、海の中に拡がる。
「これが水の魔法……すごい。僕だってやるぞ」
 宝物も皆も傷つけさせない。
 リルの思いを感じ取ったトニは心強さを感じた。しかし、彼はふと首を傾げる。
「おい、リル」
「どうしたの、トニ」
「お前だってその歌以外の魔法、使えるんだろ」
 呼ばれたリルが軽く振り返るとトニは少しばかり不思議なことを言った。確かに魔法が使えないわけではないがトニに使えると語った覚えはない。リルがきょとんとしていると、トニは言葉を続けた。
「だってさ、お前ってあっちの人魚と同じ雰囲気がするから」
「あっち?」
「レフリフルルだかルフリフララだか、詳しい名前は忘れたが、ここから遠いもっと深海の方にある人魚の島。あそこ出身じゃないのか?」
「それって――」
 はっとしたリルがトニに詳しく聞こうとしたとき、前方から声が響いた。
「リル、トニ! まずい、そっちに余波が!」
 ルクスは淵沫の突撃を受け止めていたが、水流の巡りが人魚達に向かっている。
 とっさにトニが泡を巡らせ、リルも美術館を守るために泡沫を広げた。ルクスも突撃を続けることで敵の接近を防ぐ。更にルクスは相手に回避されてしまわぬよう早業からの先制攻撃を行えるように努め、敵の動きを見切る。
 荒れ狂う雷混じりの嵐を巻き起こし、轟かせる大津波は天候操作の力で操る。そうして敵を蹂躙するのがルクスの目的だ。
「こっちは大丈夫だ。心配させて悪かった、ルクス!」
「ルクスねえさん、やっちゃおう!」
 幾つか気になることはあるが、今は敵を倒すことが先決だ。そのように感じたリル達は戦いに集中していく。
 今宵の舞台は海上。そう、歓待船の甲板の上。
 襲い来る嵐すらも打ち消していく強さを歌うべく、リルは聲を響かせた。
「僕達の宝の強さをみせよう」
 櫻沫の歌う享楽は、滅ぼすのではなく守る為に幕ひらくのだから。
 リルとトニ、ヨルの援護を受けたルクスは果敢に吶喊していった。源流を意味するクヴェレ。潮風を意味するゼーヴィント。
 二竜の力を最大限に引き出したルクスは、ひといきに鯨の骨の化け物に向かった。
「骨が剥き出しなら、さぞかしよく圧し折れるだろうさ!」
 そして、槍が突き放たれた瞬間。
 淵沫の骨が崩れ落ち、中に宿っていた黒い念が海中にとけてきえた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻


鴉色の唐傘をひらく
之ならサヨを雨に濡らさずに済む
あの時は壊れかけたボロ傘でしか迎えに行けなかったけれど
もう違う

サヨ
きみがそれを妹君に渡せるように私も尽くそう

サヨ、大丈夫?
離された手が名残惜しいが必死で立ち向かおうとする巫女を止める道理はない
危なくなったらすぐに助けるよ

アイノの魔法は頼もしい
礼をしなければ

結界を重ねて守りを強化し先制攻撃─サヨの路を拓くように切り込み
巨体ごと断つが如く斬撃派を放ち切断

因果を約す神罰を叩きつけ
水圧も何もかもきみを害するものは約されないと打ち消す

きみが水を恐れるのは…母から受けた仕打ち故か

サヨは護龍だ
そばに居る
無くさない
私は人魚の宝も私自身の宝も…守ってみせる


誘名・櫻宵
🌸神櫻


美鈴様の櫛
よかった、見つかって
きっとこれは、美珠に渡すべきものね
大切に櫛を抱きしめる

カムイに掴まっていたいけど
ぎゅと掴まっていた手を離す
…刀が振るえないもの

大丈夫、カムイ
あなたが居てくれる
震える手を誤魔化すように刀を握る
アイノ、頼むわ…泡を絶対割らないでね

あえかな桜を咲かせてあげる
あの子がここに居るなら同じ人魚達の姿に喜んでるはず

未だ震える脚に喝を入れてカムイに続くわ
破魔と浄化を添えてなぎ払い、骨ごと断つように斬り
桜化の神罰を巡らせて生命を喰らって咲かせる

水は、母を思い出す
囚われ呑まれる蛇の腹の中のよう
あの頃を思いだすから
でも
私だって護龍
怯えてはいられない

神様が、ついていてくれるんだ



●護龍と水の記憶
 鴉色の傘をひらけば、幽かな記憶が浮かぶ。
 泣いていた幼子の頬にこれ以上の雫が伝わないように。心までも冷たくなってしまわないように。ただひとりを想う心のあらわれが此の傘だった。
(之ならサヨを雨に濡らさずに済む)
 あの時は壊れかけたボロ傘でしか迎えに行けなかったけれど――今はもう違う。
 カムイは櫻宵を見つめる。櫛を仕舞った懐に手を当て、抱きしめるように慈しんだ櫻宵もまた、記憶に思いを馳せているのだろう。
「よかった、見つかって」
「サヨ、きみがそれを妹君に渡せるように私も尽くそう」
「ええ、カムイ。そのためにはまず、ここを守らないとね」
 櫻宵は美鈴の櫛が見つかったことを本当に嬉しく思っていた。自分の元に戻ってきたこれはきっと、彼女の本当の子である美珠に渡すべきもの。
「サヨ、大丈夫?」
「大丈夫、カムイ。あなたが居てくれるから」
 カムイは離された手を名残惜しく感じていた。しかし、必死で立ち向かおうとする巫女を止める道理はないので、その手を追うことはしない。
「このままじゃ刀が振るえないものね」
「危なくなったらすぐに助けるよ」
 強がっているが、櫻宵の手は震えていた。誤魔化すように刀を握ったが、周囲が水ばかりの場所で戦う怖さがある。
 そのことを察した人魚、アイノは櫻宵達の後ろにそっと回り込む。
「アイノ、頼むわ……泡を絶対割らないでね」
「櫻宵ちゃん、心配しないで。どんなことがあったって泡は壊させない。たとえアタシが死んだって破らせるものですか!」
 彼の言葉と同時に、櫻宵とカムイを取り巻く泡が二重、三重に巡っていった。
「アイノの魔法は頼もしいね。けれど、死なせなどしないよ」
 カムイは喰桜を構え、アイノの守護の上に更なる結界を重ねる。泡と神力の守護は櫻宵にも、人魚にも危害を加えさせないという意思表示だ。
 そして、カムイは一気に淵沫の怪物に駆けていった。櫻宵の路を拓くように斬り込んだカムイは巨体ごと断つが如く、鋭い斬撃を叩き込む。
 櫻宵はカムイの背を追い、自らも刃を振り上げた。
「あえかな桜を咲かせてあげる」
 怖がる気持ちは一時的に忘れてしまえばいい。それにもし、あの子がここに居るなら同じ人魚達の姿に喜んでいるはずだから。
 巨体が水を揺らし、群影となってカムイを狙って動く。
 されどカムイは怯まず、因果を約す神罰を放った。水圧も、黒い念も、何もかも――きみを害するものは約されない。
 カムイが打ち消した威力を散らしていく中、櫻宵も更に斬り込む。
 脚は未だ震えていた。それでも活を入れて立ち回る櫻宵は、果敢に淵沫の骨を穿っていった。渦巻く黒い怨念はまるで何かに執着する思いのようだ。
 それを祓うのが己の役目だとして、櫻宵は破魔と浄化の力で以て敵を薙ぎ払う。骨を念ごと断つように斬り、相手の動きを鈍らせた。
 桜化の神罰は骨を包み込み、その生命を喰らいながら花を咲かせる。
 しかし、次の瞬間。
「やだ、あの黒いモヤモヤがアタシの方に来てないかしら!?」
「アイノ!」
 後方から悲鳴が上がったことでカムイがはっとした。気付かぬうちに念の一部が蠢き、後方支援をしていた人魚に迫っていたのだ。
 咄嗟に櫻宵が念を追っていったが、水の巡りが速いので止められない。
「駄目、間に合わない……!」
 されど櫻宵は諦めなかった。怖い気持ちを抑えながらアイノの前に回り込み、自分が攻撃を受けることで守ろうとしたのだ。
 確実に泡ごと自分が穿たれる。櫻宵が覚悟した刹那、大きな影が櫻宵の前に現れる。
 声すら紡げなかっ櫻宵が見たのは怒りの視線を敵に向けるアイノだった。悲鳴を上げてはいたが、ただ驚いただけだったらしく――。
「テメェ! 大切なお客様に手を出すんじゃねえ!!」
 豪腕が振るわれたかと思うと、櫻宵に迫っていた念が殴り飛ばされた。
「サヨ……!」
「見苦しいところをお見せしちゃったわネ。櫻宵ちゃんは大丈夫よ」
 急いで駆けてきたカムイに向けてアイノはウインクをしてみせた。巫女の無事を確かめたカムイは敵に向き直り、黒い念を見据える。
「噫、サヨとアイノを傷付けようとしたそなたには、神罰を――」
「私もやるわ、カムイ」
 アイノの腕からそっと離れた櫻宵も体勢を立て直した。守り、守られ、戦いは続いている。路を拓いてくれたカムイにも、泡の守護を続けてくれている人魚にも報いたいと思ったゆえ、櫻宵はこうして立っていられた。
 水は母とあの頃を思い出す。
「……水の中は囚われて呑まれる蛇の腹の中のようね」
 櫻宵がぽつりと呟いたことから、カムイは水への恐怖の正体を知った。
「きみが水を恐れるのは……母から受けた仕打ち故か」
 でも、と頭を振ったカムイは櫻宵と並び立つ。此処は優しい海の中。何も案ずることはないと伝えた彼は巫女に語る。
「サヨは護龍だ」
 今だって懸命にアイノを守ろうとした。
 そばに居る。もう何も失くさない。
「そうね、私だって護龍」
 自分に言い聞かせた櫻宵は、怯えてはいられないと考える。何度、恐怖が襲ってきたとしてもカムイならば幾度でも寄り添ってくれるから。
 二人が機を合わせてトドメを差しに向かうのだと知り、アイノは声を張り上げた。
「うふふ、仲良きことは美しきかな、ってやつね。さあカムイちゃん、櫻宵ちゃん! やっちゃいなさい!」
 その声を聞き、櫻宵とカムイはひといきに駆けてゆく。
「神様が、ついていてくれるんだ」
「私は人魚の宝も私自身の宝も……守ってみせる」
 巫女と神。
 唯一無二の想いと力を宿す二人の一閃は重なり、悪しき影が斬り祓われた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

音海・心結
💎🌈



ええ、この綺麗な美術館を護りましょう
此処に辿り着くものを守る為にも、決して潰させやしない
ビルギッタは援護をお願いしますっ

不自由はないとはいえ慣れない泡の中
戦闘狂の血が僅かに疼く
泳げないなら泳げる姿になればよい
零時、メモリ借りますっ

UC
下半身には銀色に透き通る魚の姿
耳には捕食者である狼の耳
――その名も吸血獣鬼人

泡を破り、水中を巧みに泳ぐ
刻印を起動させれば水中も何のその
甘い聲に血に飢えた眸
相対するふたつ
何方も彼女の魅力であり、時に刃を向ける(誘惑×水中戦)

わお、相変わらず派手ですねぇ
……泡の魔術を応用して攻撃に活かせないでしょうか
泡を丸めて辺りに魔力花を散らす
花に彼の攻撃が当たれば水中花火


兎乃・零時
💎🌈


泡の魔術は何とか覚えられた…
素の泡の魔術覚えて無ければできなかったかもしんねぇ…

ともかく!ビルギッタには教えて貰った恩もあるし
全力で護ってやろうぜ、心結!


折角だ
戦争で手に入れたメモリ使うか
心結も使うか?折角だし

成るは宝人魚!

相手の動きは早いが
人魚の群れが海中で遅れを取る事はないだろ

よし
俺様は此奴の動き封じるの重視で!
戦場全体を水の膜で包むように、行動範囲を制限するよう空間術式を起動(結界術×地形の利用)
そのまま水のレーザーの弾幕の範囲攻撃を放ち続ける!

動きの的が絞れたら
後は全力で海を掴んで魔術の起動!
荒れ狂う海流をぶつけてやる!
砲撃×重量攻撃

海激流《シー・トレント》ッ!!



●泡と光と花彩
 美術館内を巡る時間は終わりを迎え、敵が訪れる時刻。
 少年と少女は他の人達よりも少しばかり先に鑑賞を止めていた。その理由は人魚に魔法を教わるため。指南役がかなりの感覚派だという難はあったが、二人ともしっかりと受け入れて学んだ。
「泡の魔術は何とか覚えられた……」
「ええ、みゆたちとっても頑張りましたね」
「素の泡の魔術覚えて無ければできなかったかもしんねぇ……」
 頑張りすぎて少し疲れた様子の零時の傍で、心結はこくこくと首を縦に振る。多少の苦労はしたが、なんとか敵の襲来までに間に合ったので上出来だ。
 顔をあげた零時は美術館前の戦場を見据える。
「ともかく!」
 拳を高く突き上げた零時は気持ちを切り替え、戦いに向けての思いを紡いだ。
「ビルギッタには教えて貰った恩もあるし全力で護ってやろうぜ、心結!」
「そうですね、この綺麗な美術館を護りましょう」
 人魚は本当に此処を大切にしていた。それだけではなく美術館にあるものだって大事な存在。此処に辿り着くものを守る為にも、決して潰させやしない。
 揺らめく水底は今だって静かで穏やかだ。それがコンキスタドールの到来で荒らされ、無残な姿になることは誰も望んでいない。
 心結も気合いをいれ、傍についてくれている人魚を呼ぶ。
「ビルギッタは援護をお願いしますっ」
「はーい! ボクも頑張るよー!」
 零時と心結の後ろに回り込んだビルギッタは泡の力を巡らせた。二人が魔法を習得したとしても守りの援護は別。
 思いっきり戦ってね、と告げた人魚は二人を信じ切っている。
 その思いを感じながら心結は周囲を見渡した。既に淵沫の化け物たちは美術館を取り囲むように布陣していた。
 自由に泳ぎ回るコンキスタドールに対し、此方は慣れない泡の中。
 不自由はないとはいえど心結は少しの不利を感じている。それに裡に眠っていた戦闘狂の血が僅かに疼いている。
 そう、泳げないなら泳げる姿になればよい。
 心結が思い立ったとき、零時がある提案をした。
「折角だ。戦争で手に入れたメモリ使うか。心結も使うか? 折角だし」
「零時、メモリ借りますっ」
 そして、心結はユーベルコードを発動させていった。そうすれば、少女の姿は見る間に変わっていく。下半身には銀色に透き通る魚の姿。耳には捕食者である狼の耳があらわれており――その名も吸血獣鬼人。
 同時に零時も力を巡らせてゆく。
「成るは宝人魚!」
 宝石獣人となった零時は淵沫の化け物を強く見つめた。
 鯨の骨を纏って動き回る黒い念。その動きは素早いが、人魚の群れが海中で後れを取ることなどないはず。
 心結は敢えて泡を破り、水中を巧みに泳いでいった。
 こうして刻印を起動させれば水中も何のその。
 差し向けるのは甘い聲に血に飢えた眸。相対するふたつの力は、何方も彼女の魅力であり、時に刃を向ける鋭いものとなっていく。
 誘惑の力を解き放っていく心結はふわりと笑った。
 その甘やかでしなやかな泳ぎとは反対に、零時は力強く進んでいく。
「よし、俺様も此奴の動き封じること重視で!」
 心結は敵の動きを撹乱している。対する零時は戦場全体を水の膜で包むように魔術を練り上げていく。相手の行動範囲を制限するよう空間術式を起動すれば、結界が水中に広がっていった。
 そして、零時はそのまま水のレーザーによる弾幕を放ち続けた。
 その光景は水に真っ直ぐな光が射し込んでいるようだ。零時の見事な攻撃を見て、心結はぱちぱちと瞼を瞬かせる。
「わお、相変わらず派手ですねぇ」
 そんな中で心結は自分も攻撃に転じたいと考えた。ビルギッタは防御に徹してくれているので守りについてはこれ以上、考えなくていいだろう。
 先程の出来事を思い返し、心結は思考を深める。
「……泡の魔術を応用して攻撃に活かせないでしょうか」
 そうして、彼女は片手を掲げた。
 生み出した泡を丸めることで辺りに魔力の花を散らす。ふわふわと浮いた花に零時の攻撃が当たれば水中花火になるだろう。
 そのとき、零時の攻撃の一部が泡を貫いた。パチン、という音の揺れが水中に伝わったかと思うと、心結の予想通りの展開が起こる。
「おぉ、花火だ!」
「零時、ビルギッタ。これで合わせて一気に決めましょう」
「わかったぜ! ビルギッタも手伝ってくれ。全力を出すからな!」
「ボクも攻撃できるんですね。やったー!」
 三人は力を合わせ、ひといきにコンキスタドールを穿とうと決めた。零時は動きの的を絞り、海を掴んで魔術を起動させていく。
 心結は魔力の花を更に散らし、ビルギッタは水流を操っていった。
「みゆたちの力、思い知るといいですよ」
「いっけー!」
 少女達の声が響き渡った刹那、零時の魔術が敵に向けて叩き込まれていく。
「荒れ狂う海流をぶつけてやる!」
 海激流――シー・トレントッ!!
 力強い言葉と共に解き放たれたのは花を咲かせる光と水の渦。悪しきものを散らした海中花火は、明るい未来を繋ぐものとなって明るく迸った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
友のナターシャ(f03983)と
🌊
エヴェリーナ
さっきは案内をありがとうね
援護を頼むけれど
無理はせず危ないと思ったら迷わずオレたちの後ろに
貴女達の大切な美術館も、貴女たちも
ちゃんと守るよ

あれは……鯨の骨かな
海で静かに眠っているはずだったろうに
無理に起して使っているのなら、再び眠らせてやろう、ナターシャ

雪華の杖を持ち
指先で描く契約の召喚陣
おいで、ユーラ
深海の清き水。君の力を、オレに貸して
破魔と浄化の光乗せ
深海で駆ける流星となって
穿て、その黒き念

ナターシャやエヴェリーナが狙われたならば
前に出て庇おう
氷結のオーラ身に纏い
そう簡単には通さないよ


深海の揺り籠に抱かれて、もうおやすみ
魂の忘れ物、空の身体


ナターシャ・フォーサイス
ディフさん(f05200)と共に🌊

エヴェリーナさん、先程はありがとうございます。
彼等もまた、使徒として導かねばならぬ存在…
今一度、力をお貸しください。
破壊の意志を宿すのなら、まずはそれを祓います。

結界を張り、お二方を護りましょう。
次に天使達を呼び、動きを封じるよう命じます。
相手は鯨、偉大なるもの。
屍となってなお変わることはないでしょう。
数を重ねて抑えるのです。

ですが結界があると、天使はいると過信は禁物。
もし破られてしまっては…
…ディフさん?
その、あの、ありがとうございます…

最期は、天使達と共に【高速詠唱】【全力魔法】【2回攻撃】の聖なる光を以て。
どうか貴方へも、楽園のご加護のあらんことを。



●海に還る魂
 敵が襲来しようとしている美術館前。
 展示品が飾られた領域から離れた場所は既に戦場と化していた。淵沫の怪物が泳ぎまわる様子を窺いながら、ディフとナターシャは人魚にお礼を告げる。
「エヴェリーナ、さっきは案内をありがとうね」
「エヴェリーナさん、先程はありがとうございます」
「いいえ、さっきも言いましたが当たり前のことですから気にしないでください。それよりも、あたし達の方にも敵が来てます!」
 人魚は快い笑みを返しつつ、二人に危機が迫っていることを伝えた。
 頷いたディフは身構え、エヴェリーナにそっと願う。
「貴女にはオレたちの援護を頼みたいんだ。けれど、無理はせず危ないと思ったら迷わずオレたちの後ろに下がって」
「大丈夫です。あたし、こうみえて強いんですよ」
 するとエヴェリーナはぐっと拳を握ってみせた。無理はしないと約束するのはみんなだと答え、人魚はナターシャの傍につく。
「今一度、力をお貸しください」
「もっちろん!」
 ナターシャが改めて願うと、エヴェリーナは満面の笑みを湛えた。ディフはその笑顔が頼もしいと感じながら淵沫を瞳に捉える。
「貴女達の大切な美術館も、貴女たちも、ちゃんと守るよ」
「彼等もまた、使徒として導かねばならぬ存在……」
 ナターシャもコンキスタドールである骨の怪物――否、其処に宿る黒い念を見据え、結界を張り巡らせていった。
 破壊の意志を宿すのなら、まずはそれを祓うのみ。
 ナターシャの守りがディフとエヴェリーナを包み込む。確かな守護の力を感じたディフは敵をしっかりと観察していった。
「あれは……鯨の骨かな」
 本来であれば、海で静かに眠っているはずだった存在なのだろう。
 それが今、骨の奥に蠢いている黒き念によって操られている。あの漆黒からは明確な意志は感じられないが、害意があることは確かだ。
「無理に起こして使っているのなら、再び眠らせてやろう、ナターシャ」
「ええ、動きを封じてしまいましょう」
 ナターシャは次に天使達を呼び、敵の動きを止めて欲しいと命じた。
 屍とはいえ相手は鯨。偉大なるものであるという認識をしている。それは骨だけとなってなお、変わることはない。
「数を重ねて抑えるのです」
「はいっ! あたしだってお手伝い、ちゃんと出来ますから!」
 ナターシャの声を聞き、エヴェリーナも水の魔力を放出していった。先程の宣言通り、人魚もそれなりの力があるようだ。
 流石は海賊だ、と呟いたディフは雪華の杖を強く握りしめた。
 そして、指先で描くのは契約の召喚陣。
「おいで、ユーラ」
 ――深海の清き水。君の力を、オレに貸して。
 水の精霊を呼び出したディフは浄化の力持つ深海水の矢を作り上げていく。其処に破魔の光を乗せた彼は、一気に力を解き放った。
 矢は深海で駆ける流星の如く、鋭く迸る。
「穿て、その黒き念」
 凛とした声と共に深海水の矢が骨の間から見える念を穿っていった。
 だが、相手もただ黙ってやられているわけではない。
「結界があり、天使がいるとしても過信は禁物ですね。もし破られてしまっては……」
 ナターシャが懸念を言葉にしたとき、ディフがはたとした。
 エヴェリーナもナターシャが狙われてしまったことに気が付いたらしく、危ない、と呼び掛ける。しかし、淵沫は天使と結界を突き破る勢いで迫ってくる。
 刹那、咄嗟にディフが前に出た。
 氷結のオーラ身に纏った彼はナターシャを庇い、衝撃を受け止める。
「そう簡単には通さないよ」
「……ディフさん?」
 庇われたナターシャはかなりの衝撃が彼を襲ったと知っていた。しかし、ディフは果敢に耐え、穏やかな言葉を返した。
「心配しないで、大丈夫」
「その、あの、ありがとうございます……」
 機械の大天使に変身したナターシャとて、あの攻撃を受けきることは出来た。しかしディフはナターシャを守ることを選んだ。そうしたいと感じたからこそ身体が勝手に動いたのだろう。
 彼の心を無下にしたくないと感じたナターシャは礼を言うだけに留めた。その代わりにコンキスタドールを見つめ、早く在るべき場所に還してやろうと決める。
 エヴェリーナの助けもあり、淵沫の力も徐々に弱ってきていた。
「ディフさん、参りましょう」
「ああ、骸の海に送ってあげようか」
 ナターシャは天使達と共に高速詠唱を紡ぎ、全力で魔法を放つ。ディフも浄化を宿した深海水の矢を打ち続け、黒の念だけを貫いていく。
 その攻撃は幾度も巡り、聖なる光と清浄なる力が敵を追い詰めていった。
「貴方へも、楽園のご加護のあらんことを」
「深海の揺り籠に抱かれて、もうおやすみ」
 そして、二人の言葉が重なった次の瞬間。骨を支えていた念が砕け散るように崩れていき、静かに消えていった。その姿を見送ったディフとナターシャは勝利を確信する。
 それから、二人は人魚と共に祈った。

 魂の忘れ物よ、空の身体よ。
 どうか――この優しい海で、安らかに眠れ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

波瀬・深尋
🌊キトリ(f02354)と

此処にあるのは、
誰かにとっての大切な物だからな
それを簡単に奪わせやしないよ
似たような言葉選びに瞬きひとつ
ふ、と穏やかに笑ってから
ああ、行こう、キトリ、メル
俺たちの手で守ってみせようか

確かにこうして共闘するのは初めてだったか
でも、お前のことは信じてるから
背中だって預けられるよ
まあ、二人に庇われてばかりだと
男として立つ瀬がないけど
楽しそうにくくくと肩が揺れていた

頼もしい二人が敵を引き付けてる間
二振りのナイフで敵群に応戦しながら
自身に宿るオウガの名前を呼んで
キトリの合図と共に
ああ、これで決めようか!
花嵐は燃やさないように
青白き炎を乗せて敵へと放った
骸の海で、ゆっくり眠れよ


キトリ・フローエ
🌊深尋(f27306)と

残念だけれど、ここから先は行き止まりよ
人魚の皆が集めた、たくさんの宝物
何ひとつだって奪わせはしないわ
深尋、メル、行きましょう!
纏めて返り討ちにしてあげる

そう言えば、深尋とこんな風に
ちゃんと一緒に戦うのは初めてね
あなたの力、頼りにしてるわ!
頼もしい言葉にわかってるわよと笑って
ええ、背中は任せて
あたし達のこと、ちゃんと守ってちょうだいね
なんて少し悪戯っぽく

メル、あなたの力も貸してほしいの!
光る花弁を纏って敵群を誘惑、纏めて引きつけてから
メルの水の魔法で動きを鈍らせてもらって
いくわよ!と深尋へ声を
息を合わせて空色の花嵐で攻撃を
身軽になる前に全部呑み込んで
骸の海へ還してあげる



●共に戦う意志
 穏やかで静かな海の底。
 此処にあるのは、誰かにとっての大切なものばかり。人魚の皆が集めた、たくさんの宝物は誰かが勝手に壊していいものではない。
「残念だけれど、ここから先は行き止まりよ」
 キトリは淵沫の怪物を強く見つめ、敵である相手に指先を突きつける。美術館を守る形で背にした深尋もコンキスタドールに宣言した。
「大事な物を簡単に奪わせやしないよ」
「何ひとつだって奪わせはしないわ」
 二人が同時に紡いだのは似た思いと言葉。瞬いた深尋は、ふ、と穏やかに笑った。その言葉を聞いていたメルレルルメも楽しげにくすりと微笑んだ。
「深尋くんとキトリちゃんは仲良しさんですね。でもね、わたしも同じ気持ちです!」
 メルレルルメもこの場所を守りたいという思いが強い。
 頷きあった三人の気持ちは重なっている。大丈夫、と伝えあった彼女達はそれぞれの力を発揮するべく、コンキスタドールに立ち向かっていく。
「深尋、メル、行きましょう!」
「ああ、行こう、キトリ、メル。俺たちの手で守ってみせようか」
「えいえいおーです!」
 キトリの呼びかけに深尋が答え、メルレルルメも泡の魔力を更に巡らせた。その間にコンキスタドールはぐるりと水中を泳ぎ、深尋達を睨みつけるような仕草をする。
 そこから伝わってくる害意を感じ取り、キトリは宣戦布告をした。
「纏めて返り討ちにしてあげる」
 花精霊の杖に魔力を込めたキトリは敵の出方を窺う。深尋もメルレルルメと一緒に美術館への進路を防いでいく。
 そんな中、不意に或ることがキトリの頭に過ぎった。
 共に語ることや遊ぶことはあっても、こうやって戦場に並び立つことはなかった。
「そう言えば、深尋とこんな風にちゃんと一緒に戦うのは初めてね」
「確かにこうして共闘するのは初めてだったか。でも、お前のことは信じてるから」
 背中だって預けられるよ、と深尋は軽く笑ってみせた。予想外ではあったが、とても頼もしい言葉を聞いたキトリも、そっと目を細める。わかってるわよ、と返したキトリはひらりと海中を舞った。
「あなたの力、頼りにしてるわ! 背中は任せてね」
「わたしもいっぱい援護して、深尋くん達を守ってみせます」
 するとメルレルルメもすいすいと二人の間を泳ぎ、頼りにして欲しいと語る。その間に淵沫が突撃してきたが、キトリと人魚が相手を引きつけていく。見事に敵の意識を逸した彼女を見た深尋は、流石だと称賛する。
「まあ、二人に庇われてばかりだと男として立つ瀬がないけど」
「ええ。あたし達のこと、ちゃんと守ってちょうだいね」
 キトリが少し悪戯っぽく笑うと、深尋の肩も楽しげに揺れた。
 それから深尋は反撃に入っていく。頼もしい二人が敵を引き付けてくれている間に、彼が構えたのは二振りのナイフ。泡のお陰で自由に動けることを利用して駆けた深尋は敵に向かって斬り込んでいく。そして、彼は自身に宿るオウガの名前を呼んだ。
「ミカゲ、頼む」
 その声に呼応したオウガは青白の焔を巻き起こし、骨を穿ってゆく。キトリも光る花弁を纏いながら敵を誘惑していき、更に引きつけていた。
 しかし、不意にメルレルルメが驚いた声を上げる。
「わわ! 二人とも、またきましたよ!」
「大丈夫よ。さあメル、あなたの力も貸してほしいの!」
 新たな敵が現れたのだと示した人魚に近付き、キトリはそっと耳打ちをした。泡の守り以外にも魔法を使ってほしいという旨を聞き、メルレルルメは片腕を大きく掲げる。
「がってんしょうち、です!」
 人魚は水流を巻き起こすことで敵の動きを鈍らせていった。其処にキトリが放つ花の舞が重なり、敵の視界を塞ぐ。
「いくわよ!」
「ああ、これで決めようか!」
 キトリは深尋に声を掛け、息を合わせて敵を倒しにいった。空色の花嵐が海中を彩っていく最中、深尋も消えぬ炎を迸らせる。
 二人の攻撃を援護する形で、メルレルルメも水の流れを操作していった。
 此方に近付くこともできないコンキスタドールはただ翻弄されるだけ。一体が深尋のナイフによって刻まれ、本体である念が崩れ落ちた。
 二体目を見据えたキトリは、相手が突っ込んでくる前にかたをつけることを決める。
「身軽になる前に全部呑み込んで、骸の海へ還してあげる」
「骸の海で、ゆっくり眠れよ」
 深尋も花嵐と共に敵の元に鋭く移動した。花の嵐は決して燃やさぬように、青白き炎は海の最中に深く巡ってゆく。
 そして、花と焔が収まった一瞬後。
 淵沫の怪物は水中に散り、残された骨はゆっくりと水底に沈んでいく。
「やった、やった! やりましたー!」
 明るい人魚の声が響き渡り、深尋とキトリの手が握られた。そのまま二人の手を掴んで、ぶんぶんと振るメルレルルメは本当に嬉しそうだ。
「わたしたちの大・勝・利ですよー!」
「ええ、そうね。やったわ!」
「ありがとな、二人とも」
 人魚のあまりの喜びようにきょとんとするキトリと深尋。しかし、二人はすぐに笑みを浮かべた。交わした眼差しと、重ねた思いは快いものだ。
 この調子だと、メルレルルメは暫くは二人を離してくれそうにない。
 きっと、そう――もう少しだけ、人魚達と過ごすひとときは続いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
🌊

良いものを見せて貰った。楽しませて貰ったな。
なら、此方もそれなりの戦い方で応える番だろう?
なぁミヌレ。俺達の連携見せてやろうぜ。

UC「halu」使用。
片腕を花にかえて、カンパニュラとカスミソウで埋め尽くして。
反対の手を人魚の方へ差し出す。
ニナ!…一緒に来てくれないか?と微笑んで。

小さな泡を纏い、花の群生と化して延ばした腕は淵沫の元へ。
花の中から鉱石竜の槍が、貫く為に、鋭く飛び出す。
ニナが危険に晒されることのない様に、翻した布盾と花へと変えた腕を延ばす事で軌道を逸らしたり動きを抑えたり。

折角綺麗な海の中なんだ、戦うにしても見て楽しめる方が良いだろう。
まあ、何にせよ。全力で向かうだけだ。



●少女の信頼
 海の忘れ物と深海美術館。
 人魚と巡った館内と海の様子を思い返し、ユヴェンは穏やかな気持ちを抱く。
 良いものを見せて貰った。そして、とても楽しませて貰った。胸の奥に宿ったのは嬉しかったという思いと感謝の念だ。
 それならば――。
「此方もそれなりの戦い方で応える番だろう? なぁ、ミヌレ」
「きゅい!」
 ユヴェンが相棒竜に呼び掛けると、威勢のいい明るい鳴き声が返ってきた。彼等が見据える先には既に淵沫の化け物が現れている。
 相手は鯨の骨を纏う黒い念だ。
 骨しかないとはいえ、その身体の大きさはかなりのものだ。されどユヴェンは何も恐れることなく、ミヌレと共に身構えた。
「俺達の連携見せてやろうぜ」
 ユヴェンは踏み込むと同時に己の力を発動させていく。
 敵に向けて掲げたのは片腕。それを花に変えていくユヴェンは海中にやわらかな彩を広げていった。花の名はカンパニュラとカスミソウ。水中が花で埋め尽くされていく中、ユヴェンは反対の手を人魚に差し出す。
「ニナ!」
「なあに、おにーちゃん」
「一緒に来てくれないか?」
「いいよー。ニナ、ユヴェンおにーちゃんのお手伝いするー」
 微笑んだ彼に対し、人魚のニナもふわりと笑んだ。
 ニナはそのままぎゅっとユヴェンの手を握り返し、泡の魔法を巡らせていく。ユヴェンは小さな泡を纏い、花の群生と化した腕を淵沫へ向けた。
 刹那、花の中から鉱石竜の槍が飛び出す。
 それはミヌレが変じたものだ。竜槍は敵を貫く為に鋭く飛び出し、鯨の骨ではなく黒い念の方を鋭く穿った。
「ミヌレちゃんも頑張ってる。ニナだって!」
「あまり無茶をするなよ、ニナ」
 ニナがミヌレの為に守護の泡を増やしたことに気付き、ユヴェンは声をかけた。しかし、ニナは平気だといって笑う。
「えへへー。大丈夫、おにーちゃんが守ってくれるでしょ?」
「……ああ」
 少女からの信頼を感じたユヴェンは頷いて答えた。
 そして、彼はニナが危険に晒されることのないように、翻した布盾と花へと変えた腕を延ばした。それは敵の軌道を逸らし、動きを抑えるためのものだ。
「ふふ、お花きれーい」
「折角綺麗な海の中なんだ、戦うにしても見て楽しめる方が良いだろう」
 ニナは何の心配もしていないらしく、ユヴェンの傍にぴったりとくっついて泡の援護を続けた。戻ってきた竜槍を握ったユヴェンは、期待と信頼に応えたいと思う。
 其処から攻防は巡り、徐々に敵の力が削られていった。
「見て、くじらさんが弱ってるよー」
 ニナの声を聞き、ユヴェンは鋭い槍の切っ先をコンキスタドールに差し向ける。彼の身から広がっていく花は海中を更に明るい彩に染めていった。
「まあ、何にせよ。全力で向かうだけだ」
「がんばれ、ミヌレちゃん、おにーちゃん!」
 少女人魚の声援を受け、ユヴェンは一気に海中を駆ける。その刃は黒き念だけを狙って放たれ、そして――。
 ユヴェンが竜槍を下ろした次の瞬間、淵沫は跡形もなく消えていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユノ・フィリーゼ
🌊/◎

こんなにも美しい世界だもの
焦がれる気持ちも分かるわ
…それとも、忘れ物に呼ばれた?

(けれど、今のあなたに差し上げられるものは
もう、どこにも―)

……ティニヤ
お願い貴女の力を貸して
私にもこの海を守らせて頂戴な

ねぇ、こっちよ
誘うように呼びかけ
美術館の方から少しでも遠ざけながら、銀剣を振るう
骨や牙の一撃は、踊るようにして躱し
或いは銀剣で受け止めて

―海中でのダンスはお嫌い?
それなら此方は如何かしら

骨の躰にそっと触れ、贈る種
纏う闇を覆う様に咲く花は、
どこかあの水晶の花を思わせて

あげられるのは、これぐらいしかないけれど
寄り添い、満ちて。あなたを導いてくれるわ
還るべき場所、あなたの愛した思い出が眠る海へ



●水中に咲く花
 此処は、こんなにも美しい世界だから。
 黒く淀んでしまったものがこの場所を目指し、焦がれる気持ちも分かる気がした。
「憧れ……それとも、忘れ物に呼ばれた?」
 ユノは淵沫を見つめ、渦巻く黒の動きを窺う。対峙しているというのに相手からは意志のようなものは感じられない。ただ分かるのは害意があるということ。
 何かを探しているのか。
 それとも、何かを求めているのか。
(けれど、今のあなたに差し上げられるものはもう、どこにも――)
 ユノは僅かに俯きかけ、すぐに首を横に振った。淀みのことばかり考えていては、勝てる戦いも勝てなくなる。
「……ティニヤ」
「はいです!」
「お願い貴女の力を貸して。私にもこの海を守らせて頂戴な」
「いいえ、おねがいするのはこっちなのです。ぼくたちに、力を貸してください!」
 敵が襲ってきている危機的状況だというのに、ティニヤは明るく笑った。
 ええ、と頷いたユノは敵を呼ぶ。泡と水流の魔法で援護してくれるというティニヤを背に庇いながら、ユノはひらりと片手を振った。
「ねぇ、こっちよ」
 誘うように呼びかければ、淵沫は大きな尾の骨を揺らして近付いてくる。
「ユノちゃん、気をつけてくださいです!」
「大丈夫よ。ティニヤこそ、無理はしないでね」
「わかりましたですよ!」
 心配してくれた人魚の声には穏やかに答え、ユノは美術館とは別方向に駆けた。大切な場所から敵を少しでも遠ざけたい。その一心でユノは銀剣を振るい、骨を穿った。
 しかし、相手からも骨や牙の一閃が迫ってくる。
 海中を蹴ったユノは身を翻し、踊るような動きで以て牙を躱した。されどコンキスタドールも尾を揺らがせて二撃目に入ってくる。
 相手の動きを察したユノは、すぐさま銀の剣で骨撃を受け止めた。
「――海中でのダンスはお嫌い?」
 問いかけたユノは素早く骨の間に剣を滑り込ませた。それによって黒い念が切り裂かれ、相手の動きが僅かに鈍る。
「それなら此方は如何かしら」
 手を伸ばしたユノは骨の躰にそっと触れ、種を贈った。
 纏う闇を覆うように咲く花は白と黒のコンキスタドールに色彩を与える。その様は何処か、あの水晶の花を思わせて――。
「あげられるのは、これぐらいしかないけれど」
 寄り添い、満ちて。
 この花はきっと、あなたを導いてくれるから。
 ユノがコンキスタドールに花を咲かせていく最中、ティニヤも両手を重ねた。祈りと共に紡がれる幾つもの泡沫は彼女なりの葬送の証のようだ。
「ゆっくり眠ってくださいです」
「……おやすみなさい」
 ティニヤとユノは散りゆく魂を思い、別れの言葉を送った。
 どうか、願わくは。
 還るべき場所へ。あなたの愛した思い出が眠る海へ、戻れますように、と――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネムリア・ティーズ
🌊

海の底なのにあたたかい場所
驚かせないようひみつだけど
ボクも迷子の道具だったから…ここはいっとう特別に思えるんだ

ぜったい、守ってみせるよ
ペトラ、ボクたちもがんばろうね

守りの泡に月光のオーラ防御重ねて
青い耀きを纏う
このひかりでも相手の気を引けないかな

泡のおかげで動きやすい
脚に魔力を集中させれば
今だけは、負けない早さで駆けてゆける

もっと、もっと速く

相手を追跡、動きを覚えるのは得意なんだ
迫る瞬間を見切って蹴撃の2回攻撃
海の中ならきっと、風放つ反動も回避に使えるはず

狙い定めたなら
その全身を覆うものごと全て、冱てる光の奔流で包もう

キミのことも忘れないよ
もう一度、穏やかな眠りへと
どうか迷わず還れるように



●深い海の中で
 此処は海の底なのにあたたかい場所。
 人魚を驚かせないように、そっとひみつにしていたけれど――。ネムリア自身もまた、迷子になった道具だった。
(だから……ここはいっとう特別に思えるんだ)
 ネムリアは美術館を背にして、凛とした眼差しを海の向こう側に向ける。
「ぜったい、守ってみせるよ」
 視線の先には人魚の海域を害そうとする淵沫がいた。それらは数が多かったが、猟兵や人魚達が一体ずつに立ち向かうことで行く手を阻まれている。
「ペトラ、ボクたちもがんばろうね」
「……うん、私も……頑張れる、かな」
 友達になった人魚に呼びかけたネムリアは、彼女が怖がっているのだと気付いた。彼女も海賊人魚の一員であり、先程までは明るく案内をしてくれていた。だが、コンキスタドールに立ち向かう勇気が出ないらしい。
「大丈夫だよ。怖くない。ボクがペトラも、みんなも守るから」
「ネムリアちゃん……」
「もしそれでも怖かったらボクの後ろにいてね」
 ネムリアはペトラを励まし、彼女が施してくれていた守りの泡に月光のオーラを重ねていった。ふわりと広がった青い耀きは海中に彩りを与えた。
 このひかりで相手の気を引けばペトラの方に攻撃が向くことはないはず。ネムリアの思いを感じ取ったのか、人魚はぐっと掌を握り締めた。
「ううん、駄目ね。私も元気を出さなきゃ。泡の援護は任せて!」
 勇気を振り絞ったペトラは前に出たネムリアの防護を更に強くした。泡を蹴ったネムリアは敵を引き付けながら、素早く移動した。
 泡のおかげで動きやすい。そのまま脚に魔力を集中させれば泳ぐ以上に疾い速度で水中を駆けることが出来た。
 二人の力が重なった今だけは、負けない早さで駆けてゆける。
 ――もっと、もっと速く。
 淵沫を追うネムリアは、真剣な眼差しを黒い念に向けた。目指すのはあの黒く蠢く本体の方。阻む鯨の骨を擦り抜けて、更に先へ。
 逃げるように泳ぐ相手を追跡していくネムリアは、その動きの癖を覚えていく。敵が身を翻して迫る瞬間を見切り、放つのは鋭い蹴撃。
 海の中でも自由自在に動き回るネムリアは、風を放つ反動を用いることによって的確な回避行動を取った。
 その間にペトラは敵を囲う泡の領域を作り上げていく。こうして怖じ気付かずに戦えるのはネムリアのおかげ。守ると言ってくれた気持ちも思いも、この魔法で報いたいと人魚は考えていた。
 ペトラは懸命にネムリアを支え、ネムリアもペトラを守護していく。
 そして――。
「ネムリアちゃん、今よ!」
 先程まで怯えていたペトラが凛々しい声を響かせる。
 もう怖くない。そう告げてくれているような人魚の声を聞き、ネムリアは狙い定めていく。抵抗しようとしているのか、コンキスタドールは激しく動いていた。
 だが、これが最後の一体だ。
 ネムリアは全身を覆うものごと全て、冱てる光の奔流で包もうと決めた。
 終わりを導くのは月の睡り。
 涯ての光を齎すように、ネムリアは黒く淀むものに鋭い一閃を放った。
「キミのことも忘れないよ」
 海の青のように透き通った光は、風と共に最期を与える。人魚達が見守る最中、海の平穏を乱す存在はしかと葬られた。

 もう一度、穏やかな眠りへと。
 此処は何も忘れ去られたりしない優しい海だから。どうか、迷わず還れるように。


●Mermaid Dear
 影を纏い、平穏を脅かしに訪れた淵沫。
 猟兵と人魚は協力しあい、かれらを全て海に還した。
 人魚達は友人や知り合いになった猟兵達にたくさんの感謝を示し、また会いたい、また遊びに来てね、ということをそれぞれに伝える。その後に人魚のひとりひとりが、猟兵にどのような言葉を掛け、何を話したのかはお互いだけが知ること。

 そして、人魚達はひとつの話を猟兵達に教えてくれた。
 それは『メイディア』という略称で呼ばれているこの島の名前の由来だ。人魚達が集めた大切な品々が集められた場所。
 最初は名のなかった島は、いつからかこのような呼び名が付いたのだという。
 ――マーメイド・ディア。
 いつかまた、この島に訪れるときは思い返してみるといい。
 人魚達が愛する、誰かにとっての大切な宝物を。そして、此処に宿る記憶を。
 玻璃に飾られた花もまた、君達を歓迎するために咲いているから――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月17日


挿絵イラスト