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人熅れに中毒

#クロムキャバリア

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#クロムキャバリア


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 希望の使者。救世主。救国の英雄。カリスマ。
 かつてこの小国家E3にて、数多の異名をほしいままにし、多くの人に惜しまれてこの世を去った男、マンフレッド・ブルクドルフの晩年は、秘されし苦悶に満ちていたことを知るものはごく僅かしかいない。
 E3に、否「人類に空を取り戻す」という狂信に取り憑かれた彼は、まるで突き動かされるかのように愛機エヴォルグを駆り、彗星のように戦場にその存在を刻み込んだ。得た軍功は綺羅星の如く。
 ――そして、その大望は秘密裏に開発された新兵器「奈落」を以って成就する。
 この完成と引き換えに命を落としたマンフレッドは、何故か、後継を指名することなくこの世を去った。まるで目に見えぬ「何か」を己を盾にして守るかのように……。

 時を同じくして、その死の秘密を知るもの、歌姫「ルフ」が立ち上がる。
 少女は、マンフレッドの隠し子――愛娘であり一人娘だ。彼の意向によりキャバリアから遠ざけられていたのだった。全てを知った彼女は自らの素性を隠して「ルフ」となり、天性のカリスマ性で希望の軍を再編したのである。
 彼女には、野望があった。

「偽りの希望を持たせてしまった父の罪は、この国の滅びでしか贖えません。歌い手はこの私、不肖ルフめが愛するこの国に無限の空を奏でましょう」

 キャバリアがあったから父は私を遠ざけていた。
 キャバリアがあったから父は狂ってしまった。
 キャバリアがあったから父はもういない。
 そして、希望は残された。ならば鎮魂歌は希望のメロディに乗せて。

 時の国家元首は突如現れた「ルフ」の、流行り病のような感染力を持つ「希望」に恐れをなし、その鎮圧に「戦力」を要請したのであった……。

●其れは、身を焼く人熅れ
 召集に応じてくれて感謝する。嘸口・知星(清澄への誘い水・f22024)は、集う猟兵に頭を下げると、そんな謝辞を述べた。元より鋭い眼光を一層輝かせ、まるで縋るように彼女は口を開いた。
「クロムキャバリア世界にて、事件が起きる。このままでは小国家一つが滅亡する」
 滅亡。落命。
 大量の血が流されるそんな死の予感を否が応でもさせる文言を並べる知星の表情は暗い。そしてその理由を猟兵たちが知るのはすぐ後のことだ。
「これはひとりの少女が起こしてしまった事件だ。彼女を止め、彼女を希望と崇める一党を根絶やしにし、その希望が偽りであるとしらしめてほしい」
 さぞ不快な心地であろう、知星は再び頭を下げる。予知をしてしまった自己嫌悪からか、一刻も早く説明をしきってしまいたい、そんな勢いを感じさせた。握った拳はぶるぶると震え、まるで紡ぐ言葉を選んで逡巡しているかのようだ。……あるいは、単に怒りに打ち震えているのかもしれない。

 クロムキャバリアは、数千もある小国家が、遺失技術で建造された生産拠点である「プラント」を奪い合う世界である。飛行技術は暴走衛星「殲禍炎剣」によって失われて久しく、互いの国家情勢は不透明であるという現状を余儀なくされている。
 今回の事件は小国家E3によって起こされる。
「簡単に言えば、E3の首脳が、その体系の枠外にある私設兵団に恐れをなし、助力を求めてきている、というだけの話だ」
 不当な弾圧、というか、大炎になる前に火消しを試みるのか、いずれにせよ臆病者の発想である。
「あなたたちはクーデターに加担する……のではなく、首脳側に立ち、この『希望の軍』を殲滅してもらいたい。というのも『希望の軍』が持つ『新兵器』が曲者でな」
 どうやらオブリビオンマシンの呪われた魅力の影響からか、明らかな欠陥品であるにも関わらず『希望の軍』に配備され、あまつさえ使用されかねない状態なのだという。これが用いられれば最後、「殲禍炎剣」の逆撃にあった軍もろとも、E3は壊滅してしまうだろう、ということである。
 『希望の軍』を束ねる少女ルフは、その秘めた悪辣さからは信じられないくらいにフレンドリーで、軍に相談すれば新兵器の現物でさえ入手可能であるという。軍の目的や彼女の真意を探り、来るべき奇襲のタイミングに備えるのが作戦の第一段階だ。もちろんのこと、首脳陣や一般市民を非難誘導してもよい。ともあれ民衆の人命が最優先だろう。

「新兵器の欠陥とは、使用すればキャバリアの搭乗者は必ず死亡するという点だ」
 敵キャバリアは新兵器をもれなく装備し、多くの注目を浴びながら、そして期待を一身に背負いながら、E3の一角を占拠している。
 キャバリア名は特にないが、便宜的に『殉情の特攻機』としておこう。その戦闘方法は特攻、すなわち一度稼働すれば必ず機体が焼き付いて爆発するという、人道無視の手段のみである。
 武装がなく、組み付き、突進からの自爆の一辺倒。対策すれば脅威ではない。もっとも、この場合の重要は勝ち負けのみでないことはすでにお分かりのことだろう。知星は言う。
「戦えば敵は全滅する。ゆえに最悪、あなたたちには両者痛みわけの引き分けはあっても敗北はない。そして、もし……仮に一人! たった一人でも、特攻兵を救うことができればそれは完全な勝利である。一度自爆が始まれば戦場にある新兵器はこの世には残るまい」

 『殉情の特攻機』と新兵器を軒並み破壊すれば、歌姫ルフ自らが猟兵たちの前に立ちはだかる。彼女は己を支配するオブリビオンマシンの力を引き出すために搭乗しているだけで、キャバリア戦はほとんど素人である。それでも、むしろそうでなければ、彼女の操るエヴォルグ玖號機『Diffusion』には太刀打ちできなかっただろう。生体キャバリアという特殊なカテゴリーに分類されるこの機体は、さながら毒物を撒き散らすが如く戦場に君臨する。
「本来なら忌避すべき戦略兵器、毒ガス、精神作用の攻撃を躊躇なく放ってくる。無力化するのは骨だろう。完全破壊でもしない限りは」
 彼女は罰されたがっているようにも見える。処遇は、生死問わず、オブリビオンマシンによる暴走と暴くのも二の次だ。
 ミッション成功条件は――エヴォルグの破壊、のみ。
 戦後処理も、不要――だそうだ。

「この国の希望も、絶望も、オブリビオンによりもたらされたものだ。踊らされていた人々に罪はない。と、思う。ああ。いや。考えは人それぞれだから、これは独りよがりなんだが」
 ぶつぶつ言っていた彼女は、再び頭を下げた。
「失われた命は戻らなくとも、あなたたちなら、死地に本当の希望をもたらしてくれると信じている。武運を祈る」
 本当の、希望。
 言葉の重みはずしんとのしかかる。期待、不安、それがないまぜになった、希望。燻る匂いの立ち込める地獄には不相応な旋律が、響くだろう。担い手は歌姫ではない、あなたたち、猟兵だ――!


地属性
 こちらまでお目通しくださりありがとうございます。
 改めましてMSの地属性と申します。
 以下はこの依頼のざっくりとした補足をして参ります。
 今回は小国家都市にて、邪悪なキャバリアに立ち向かっていただきます。夢も希望もありゃしません。

 この依頼はシリアス系となっておりますので、嬉し恥ずかし描写は十全に反映できない可能性があります。
 あえて不利な行動をプレイングしたとしても、🔵は得られますしストーリーもつつがなく進行します。思いついた方はプレイングにどうぞ。
 基本的に集まったプレイング次第で物語の進行や行末をジャッジしたいと思います。

 続いて、カリスマ軍人娘とその一派について補足をば。
 今回の敵になる「希望の軍」を統率する軍長は、「歌姫」ルフという女性です。暴走衛星「殲禍炎剣(ホーリー・グレイル)」の破壊を不可能と知りながら、私兵をそのカリスマ性で扇動して軍団化、戦闘に駆り立てています。団員やルフに直接、第一章内にて交流も可能です。被害を減らすような準備や作戦立案を行なっている場合、以降の章でボーナスになります。もちろん途中章からの参加も歓迎です。

 では皆様の熱いプレイングをお待ちしています。
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第1章 日常 『インターミッション』

POW   :    基地やバザーで、キャバリア用の補給物資を手に入れよう

SPD   :    格納庫に佇む、戦いで傷ついたキャバリアの修理をしよう

WIZ   :    次の戦いに備えて、キャバリアを強化改造しよう

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「立ち上がりましょう。そして、空を奏でるのです」

 跪く男の肩を抱いて、歌姫は微笑う。
 軽い神輿である、と、軽んじていた首脳陣が浮き足立つ、心奪う笑顔。
 向けられたものは大いに歓声に沸いて、一角が異様な響めきを見せる。誰も彼もが酩酊した眼差しだ。そんな彼らの門出を祝福するかのように、オレンジカラーの空が燃えていく。ずんぐりした姿勢のキャバリアは、どうやらこの私兵団の持ち物らしい。この戦力で攻めかかればプラントだって奪取できよう。しかし、そうはしない。

「ふふっ」

 ルフはこの国を愛していた。特に、街を一望できる小高い丘で、鳥の囀りと戯れながら歌うひとときが好きだ。花を撫でるそよ風が好きだ。眠る前の枕の感触が好きだ。彼女にとっては「それだけが」世界の全てだったけれど、時々彼方から聞こえる父の勇名には心踊らされたものだ。世界は愛と希望に満ちていて、幸せがどんな形であれあって、「好き」と「とても好き」しかなかった。
 だから、滅ぼすのだ。偽りの希望を夢見させてしまった、悪夢は歌い終えなければならぬ。

 彼女は知らない、闖入者の存在を……そして、不相応な盛り上がりをみせる界隈に警戒心などない。猟兵たちが潜入するのも、機体を持ち込むのも自在というわけだ。

 昂るものに聞いてみるのがいいだろう。必勝の「新兵器」の存在を。
 あるいは、神に祝福された「歌姫」の人望を。
 はたまた、彼らが掲げる壮大な「夢」を。
 どうせ全て藻屑になるのだから。紡ぐ歌詞の、瑕疵は決まっている。

「高らかに歌いましょう、遥かな希望を。夢見ているのはこの私、不肖ルフめが抱きます。願わくば、この夢を、皆と共に……!」

 ――前触れ(プレリュード)から途中休憩(インターミッション)を経て、爛れた希望がこの世に満ちる。
賀茂・絆
国が滅びれば将来的なお客様も滅びる…そんなのは許せないデスヨ!

ルフにヤクの売人として接近。首脳陣に冷遇されてる軍なら物資提供者は歓迎してくれるはず…これだけ盛り上がっていれば何も困ってないかもデスが。

ルフに会ったら彼女の思想に賛同してるように振舞い医薬品と入神導入剤の提供を申し出マス!
この薬による強化なら興奮剤よりも柔軟な作戦行動が可能!今なら無料でご提供!

…怪しすぎマス!大事の前に近づいて来たこんなヤツは絶対殺しておくべきデス!なのでUC発動!
なんとしても薬を受け取らせて兵士たちに行き渡らせるように強く勧めマス!

できるだけ人死には出したくないデスが、ルフは…いえ、判断するにはまだ早いデスネ。


グラディス・プロトワン
※アドリブ等歓迎

希望の軍が所有しているキャバリアのメンテナンスに来た、と言って案内してもらおう
この状況なら不審には思われまい
特攻機とやらに接触できれば、その後は人払いをしておく

さて、これが件のキャバリアと新兵器…要は自爆装置なわけか
キャバリアの出力を兵器に集中させて爆発させるのだろうか?
構造や仕組みに興味はあるが、誤作動でもしたらまずい
新兵器の方はあまり触れない方が良さそうか

となれば、キャバリアの方だが…重量級で出力が高そうだ
これでは被害も大きいだろう

なら、出力を下げてしまえば…?
そうだ、稼働エネルギーを抜き取れば良い
この体躯のキャバリアならエネルギーも豊富だろうし、俺の補給源になってもらおう


アリス・トゥジュルクラルテ
どうして、ルフさんは、こんな、ことを…?
彼女の、口から、彼女の、想いを、聞く、しながら、読心術で、本音を、探る、したい、です。

ルフさんは、歌姫、なのに、どうして、戦おうと、思った、です?
死ぬの、怖い、ない、です?
アリスは、怖い、です。
だって、死ぬ、したら、お姉ちゃん、にも、ロクローくん、にも、大好きな人、にも、もう、会えない、です。
大好きな、歌も、歌えない、です。
それでも、アリスは、大好きな、人たちを、守る、したい、から、戦う、です。
ルフさんが、そこまで、して、叶えたい、夢は、あなたや、皆が、いない、未来、です?

アリスは、あなたに、生きて、ほしい、です。
あなたの、歌を、聞く、したい、です。



「あ、ありす……トゥー、とうじ……?」
「アリスは、アリス、です」
「アリスさん! はい! あっ、こ、こちらは読めますよ。読めますとも。キズナさん! キズナさん……ですよね?」
「(最初に名乗った分しか呼んでくれてませんが……?)」

 仮設テント群の離れ、応接間としての役割を持たせているのだろうか。金属製のコップに水を注がれた水が温くなった頃、ようやく面通しが叶って賀茂・絆(キズナさん・f34084)と、アリス・トゥジュルクラルテ(白鳥兎の博愛者・f27150)は歌姫ルフと対面していた。
 よく言えば浮世離れした、悪く言えば世間知らずそうな様子。字を読むのも難儀していることから本当に学がないのかもしれない。梳かれた長い髪に柳眉、大胆に背と肩、臍、脚を露出した姿は、傍目から見ても高水準に整っているといえる。肉付きは筋肉質とはとても見えず、何かしらの魔力やら呪力で補強しなければキャバリア戦に耐えられなさそうにか細い。

「では早速商談に入りマショウ! 今日ご紹介するのはこちら!」
「言い値で買います。お買い物って楽しいですよね……ふふ」
「まだ何も紹介してないデスよ!?」

 がびーんと大袈裟なリアクションとともにすぽーんっとうさ耳がすっ飛んでいく。
 同行していたアリスもその勢いに思わずビクッと己の耳を押さえた。大丈夫。吹っ飛んではいないようだ。

「とれて、ない、です?」
「とれてないデス。ちなみに耳を生やすおまじないもありマスが」
「言い値で買います」
「冗談デスよぉ……少しは疑いマショウ?!」

 絆はぽりぽり頰を掻く。
 こういう危なっかしさというか、放ってはおけないという庇護欲を掻き立てるのも、ある意味ではカリスマなのかもしれない。しかし、それならそれで彼女という傀儡を裏から操る黒幕などがいて然るべきだ。御し易いというのは、暴走しやすいのと表裏一体。

 あらゆる意味で脱線しやすそうだったので、絆はさっさと本題に入ることにした。

「じゃじゃん! 今日の目玉商品デス! 拍手!」
「わ、わー、です?」

 ぱちぱちと意味もわからず小首を傾げつつも拍手を送るアリス。語調こそ途切れつつではあるものの、ひたむきで継続した健気さを見せる。その穏やかさにルフも気乗りして、興味津々といった体だ。

「この私に、私めに薬の効能を教えてくださる?」
「はて? 薬を売る、と、ワタシ言いましたか?」
「え、ええと、あれ? たしか、言ってない、です」

 ぞくりと背筋の凍るひとときを、カバンから取り出してみせる。
 言っていたか言っていないかなど、実は本質的にはどうでもいい。重要なのはそこで生まれる疑問、すなわち心の隙である。どれほど抜けた人物でも駆け引きに持ち込んでしまえば土俵上。無料で試供品のアンプルをしっかり渡しつつ、それを半ば強制的に私兵に配るよう絆は刷り込んだ。これが《巫術・エア友達》、巧みな話術に僅かな軋みを起こし、その隙に本筋を確実に通す。売人「キズナさん」として大成しているのもこのしたたかなテクニックを息をするように繰り出すからこそ、だ。

 ルフは疑いもなく、そのアンプルを団員に配ることだろう、恐らくはカンフル剤か導入剤かと思っているはずだ。効果は、お 楽 し み♪

「ルフさんは、歌姫、なのに、どうして、戦おうと、思った、です?」

 ぽつりと。
 せっかく空いた風穴をみすみす見逃すのも惜しい。アリスは読心術を試みる。まるで深い穴にその身を投げ出すように、途方もない思い切りが必要なことだが、彼女には確信があった。歌姫は自然を愛している。愛国心だって強いだろう。きっと家族にだって愛されたはずだ。……最後の一言はなかなか実感を持って言える内容ではないけれど、しかし信憑性は高い。この戦時下においてここまで浮世離れしているのはファンタジーに過ぎる。
 彼女は愛を知っている。ならば分かり合えるはずだ、と。

「アリスは、大好きな、人たちを、守る、したい、から、戦う、です」
「ふふ。歌のように優しく、清らかな心がけですね。不肖ルフ、共感いたします」
「アリスは、あなたの、歌を、聞く、したい、です。ルフさんは、戦う、人、ない、です。戦うと、歌も、歌えない、です」

 赤い瞳が真っ直ぐにルフの心を覗き込む。彼女の真っ白な心を見据えて。

「…………ひ」

 悲鳴をあげ、かけた。

「戦う? 私が?」

 ルフは、立ち上がった。勢いでコップの水がぶち撒けられる。
 ぼたぼたと巻き上がった水が己の顔に掛かるのも気にせず、ルフは二人を見下ろした。笑う。

「私は、戦う? 戦う、ふふ、私は希望を抱いて、共に空を歌うだけです。私めは、しがない歌姫なのですから。それしか知らない。知りません。あたまも、なかみもからっぽで、キャバリアの重さは私に耐えられないから、息苦しくて、だから空を目指すんです。ああ、苦しい。苦しい。苦しい! 胸を掻き毟っても除けない、私には!! 空気だって重すぎます」

「な、あ、こ、怖い、です」
「あなたには……そうですね。アリスさん、あなたには、『あなたには』世界を変えるほどの歌声があるのではないですか? 歌の力が、宿っているのではないでしょうか?」

 つうと、温い水滴が頰を流れ、顎まで伝った。

 彼女の心は真っ白だ。眩い光源に灼かれて、何も見えない。さながら暴走衛星を直視してしまい、視界を奪われた。その白は、そんな虚無。

「……アリスは、お姉ちゃん、も、ロクローくん、も、大好きな人、も、好きと、いう、歌を、歌うが、大好き、です」
「私も歌うのは大好きです。それしかないくらいに愛しています。ですが、この私、不肖ルフめは知っています。だってここ、現実ですよ?」
「現実?」

 そう! 現実という世界が、歌のように甘いわけないじゃありませんか?
 世界は苦くて、重くて、苦しくて、熱い。息苦しくて、死に物狂いで、生き辛い。

「――まあそういう方こそ、いい商売相手になるのデスと締め括るキズナさんでありました」

「待て。何を勝手に締め括っている」

 のっそりと重たげな体を揺すって姿を現したのは、グラディス・プロトワン(黒の機甲騎士・f16655)である。
 商談が終わり次第合流し、荒事になりそうであれば「迎えに来る」手筈だったが、いつまで待っても出てくる気配がないので乗り込んだわけだ。

「そちらの首尾はどうでしょうか。お眼鏡にかないマス?」
「新兵器は、つまり自爆装置だった。下手に触れて誤爆されても面倒だから放置したが……その分収穫はあった」
「というと」
「一中隊はロクに動けないだろうな」

 小腹を満たす程度だったが俺の補給源としてはなかなかよかった、と胸を張る。キャバリアの稼働エネルギーを丸ごと、それも二、三十機ほどを「つまみ食い」してきたのだという。道理でいつにも増して迫力ある体躯となっているわけだ。首尾は上場、こうして歌姫とハンガーを引き離しておいたのは作戦として成功だったと言えるだろう。

「む。彼女の状態に悩んでいるのか。俺には見当がつくが」

 アリスはピクリと耳を立てる。心を読んでもわからなかった、彼女の本心を、一瞥しただけでわかるものだろうか。それが本当なら、堅固なルフの砦を破る手立てもあるはず。

「ルフさんの、状態、知る、ほしい、です」
「ああ。彼女は『抜け殻』だ。俺もつい食事が進むと、こういう状態まで追い込んでしまう。感覚的な話になるが、記憶や拠り所、心の支えもある意味ではエネルギーだろう。そういったモノを根こそぎ食ってしまえば、こうなってしまう」
「『抜け殻』? でもさっきまで普通に会話していましたし、健康そうデスけど。ちょっと抜けてるところはありマスが、何もそこまで」
「この女の心を埋め合わせているものはある」
「ほほう」
「だが、『それ』は俺でも口にしたくはないな」

 泥水を啜った方がマシだ、とグラディスはかぶりを振った。
 骸の海に口をつける趣味はない、とでも言いたげだ。

「お前も薄々わかってはいるだろう」
「できるだけ人死には出したくないデスが、ルフは…いえ、判断するにはまだ早いデスネ」

 今撲殺することも一応考慮したが、それでは第二第三のルフが現れて、根本的な解決にならないだろう。彼女自身が言う通り、彼女は担ぎやすいほどに軽く、そして吹けば飛びそうなくらいに空の似合う存在だった。縋りたくなる気持ちも自ずと知れる。
 少しでも団の戦力を削いで適切に実情を把握し、彼らが飛び立つ直前に駆けつけて翼を折る。あとは鎌首をもたげる歌う蛇の首を切り落とせば仕舞いだ。絆はすでに布石を打っている。

「ここら一帯が焦土になれば、未来のマーケットを失うことになりマス」
「フ。食えない奴だ……」

 グラディスは、ふと、巨躯を屈めてアリスに目線を合わせる。アリスにとって言葉が届かない、ということほど残酷な仕打ちもない。
 愛と生命の伝道者は、しかし、狂騒の歌姫との相性は最悪だった。出会いが違えば友達になれただろう。ここが花咲く緑の丘の上で、せせらぎやそよ風に身を預けながらおしゃべりすれば、言葉が心に響かないなんてことはなかったはずだ。

「また会いましょう」
「そういうことだ。失礼する。おい、行くぞ」
「でも、ルフさん……」

 難しい話を聞き取る能力がないのだろう、途中からルフは内股を擦り合わせるばかりで話の輪に入ってこようとはしない。心ここに在らず、ならば好都合だ。用は済んだから退散するとしよう。
 エネルギーの取り扱いに長けているグラディスは、長居がここの空気感、フラストレーションを刺激することを知っている。あまりに深く関わりすぎてはオブリビオンの影響を受けないとも限らない。万が一、アリスが同調してしまえば目も当てられないだろう。現に、彼女が狂気に当てられて参ってしまっていることは火を見るよりも明らかだ。
 その点絆は油断なく拳を握っていた。脱出できなければ力尽くで障害を排除する、最初からその心づもりだけでかなり気を確かに保てたらしい。

 ルフは自爆にちょうどいい対象を見つけたと喜んでいる節さえあった。何を憎んでいるのか、希望を忌避し、己の適性も外殻も投げ打って、「希望」を演出している。

「心によほど傷を負ったか、あるいは空白につけ込まれたか」

 会話から及び知れるのはごく僅かだ。グラディスは顎に手を当てる。去る間際の瞬間さえ油断なく、少しでも身動きすればすぐさま鯖折りにして根こそぎエネルギーを喰らい尽くす準備があった。
 ……動かない。まるで眼中にないのか。
 それとも、すでに別の役割を見つけそちらに向けてエネルギーを溜め込んでいるのか。この手の手合いは何をきっかけに爆発するかわからない。先ほども一部始終を目撃していたが、何がトリガーとなって感情を発露させるに至ったか見当もつかない。

 グラディスの分析はシンプルである。つまり、ただ一つわかっていることは、刻一刻と状況は悪化しているという点だ。新兵器とやらはもう私兵一人一人にまで行き渡り、何をきっかけに空へ飛び立つかわかったものではない。あるいは、きっかけはもう与えられているのかもしれない。それが「ルフ」。この奇妙な歌姫の存在が周囲を導く女神のように君臨し、夥しいほどの熱を伝播させている。
 希望といえば聞こえはいい。だがそのエネルギーの温床が、彼女のカリスマ性のみとはとても信じられない。カラクリがある。

「キャバリア……いや、オブリビオンマシンか」

 この世界に潜む敵……!
 ほとんどの現地人がそれを見抜くことはできないだけに、情報から彼女の乗機の所在を抜くのは困難だ。あるいは、乗機ではなく別の機体という線もないわけではない。
 ……考えれば考えるほど頭が痛くなってくる。

「もういい加減に行くからな」
「ではおさらばデス」
「うう、はい」

 なんとかアリスを引き剥がして出口へ向かう。絆はようやく腰を上げると、一礼して足並みを揃えた。振り返らない。
 唯一アリスは出て行く間際に再度、最後に振り返って彼女の顔を見た。彼女の笑顔以外がどうしても見たくて、誰譲りか、諦め悪く辛抱強く、ルフを見た。――キャバリアに乗り込まれてしまえば、その顔を拝むのは難しいから。

 果たせるかな「ルフ」は……まだ、笑っていた。もう笑うしかないと、彼女は放棄して、力なく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

天城原・陽
【特務一課】
この前はクーデターへ加担、んで今度は現政権側への支援…と。
うちの局長も節操無しね

(希望の軍へ接触)
んじゃ、あんたに便乗するわキリジ。私のキャバリア、見る人が見たら一発で所属がバレるから…そうね、専属オペレーターって体でいくわ。癪だけど。

ルフ…だっけ…どうにもああいう外面「だけ」が良いタイプは好きになれないわ
とっ捕まえてふん縛って吐かせてしまえばいいのだけどそれじゃダメなんでしょ?段取りってもんがあるくらい分かってるわ。顔合わせたら絶対ロクな事にならないしそこらのモブ兵でもとっつかまえて聞いてみましょ

『どいつもこいつも酔っぱらいばかりね。耳障りの良い毒が回ってる。』


キリジ・グッドウィン
【特務一課】
臨機応変に対応しろって事なんだろうけどな。局長サンも人使いが荒いというか

傭兵として新兵器に興味を持った振りをしてってのが妥当か。まぁオレは傭兵ってのは間違いじゃねぇし
ギバ、手前はどう見てもオペレーターってタマじゃないけどなァ?せいぜい大人しくしてな

希望の軍の奴に適当に接触
「こちらとしてはあわよくば美味しい方かつ美人な方に一枚噛ませてもらおうと思ってな。殲禍炎剣を落とせる新兵器とやらはさぞかし強いんじゃないかと
んで?『新兵器』はどんなヤツなんだ。砲台か?キャバリアか?」

……酔っぱらったまま踊ってた方が良い事もあるがな。
まあギバにしては抑えた方じゃねぇか、妥当



 第三極都市管理局戦術作戦部特務一課。
 その任務は多岐にわたる。撤退戦支援は記憶に新しい。ジャイアントキャバリアを相手取り悍ましき色彩のデカブツを相手取り、見事現在を背負いしオブリビオンマシンを破壊せしめた。荒涼なる大地の中、キャラバンの護衛を請け負ったこともある。一政権への拘りも薄い。時にはクーデターに加担することもあれば、今回のように政権に与することもある。要はケースバイケース。

「うちの局長も節操無しね」

 スパウトに口をつけつつ顔を顰める。天城原・陽(陽光・f31019)がこのミッションに不服がある、ということでは決してなく、単に飲み下した飴色のゼリー飲料が舌に合わなかっただけだ。
 キリジ・グッドウィン(what it is like・f31149)は、茶化すように笑う。

「臨機応変に対応しろって事なんだろうけどな。局長サンも人使いが荒いというか」
「そういうことじゃない」
「おーおーご機嫌なことでお嬢様。ンじゃあ、早速、演技頼むぜ。専 属 オ ペ レ ー タ ー さん?」

 ぽんぽんと赤髪を撫でようとして、陽の目線に気付いて手を硬らせる。視線で人を殺められるのだとしたら大量に屠れそうな目つきを晒しながら――次に人とすれ違った瞬間。その刹那に、ゼリー飲料のパッケージを懐にねじ込んで、営業用のスマイルを浮かべられるのだから流石は自他ともに認める天才、といったところであろう。
 一方のキリジといえば相も変わらずの適当さを雰囲気にまといながら、カモフラージュは十全で、目標へ向け淀みなく足を進める。完全にE3を取り巻く喧騒に溶け込みながら、件の「希望の軍」への接触を試みるのだ。
 プラント排煙からかどんより橙色の空が、ゴチャゴチャと雑然で、密集した建造物群をしっとり濡らしていく。曲がりくねってさらに進めば、テントに仮設ハンガーが目につく。道中、道行く人の大半は、何をするでもなく徘徊する者ばかり、酒飲みドラッグ喧嘩○○の横行も日常茶飯事なのだろう。たまたますれ違ったギラついて泳いだ目線が交錯して、キリジは愉快そうに笑った。こうまでして守りたい時の現政権とやらは、果たして現状を理解しているのだろうか。まさかこれが正しい在り方ではあるまい。
 しかしクーデター側もクーデター側、戸籍や国籍を持たない奴らを思想と信仰で集めて、キャバリアに乗せる。賢しいだけの頭でっかちの考えそうなことだ、と思ったためだ。
 どちらが正しいなんて、ない。

「随分とご機嫌ね」
「皮肉まで言えるようになるたァ感心感心。ギバ、せいぜい大人しくしてな」
「ふん」

 鼻を鳴らす彼女に、てめぇはどう見たってオペレーターなんてタマに収まらねぇしなァと歯を見せる。
 こういう時に釘を刺すのが年長者の、そして背中を預ける者としての務めである。そこに彼なりの心遣いがあるのだが、果たして伝わっているのか、いないのか。
 ともあれ面会である。ルフへの直接の面会を頑なに固辞した二人は、メンバーらしき人物と面通しに成功する。

「ようこそ。我々はどんな方でも歓迎しますよ。どうぞこちらへ」
「へぇてめぇが……オレは流れの傭兵で、こっちはオペレーターだ。世話んなるぜ」

 接触した希望の軍のメンバーはまだうら若い女性で、語調はぬるりとして暖かく、やけに情感を煽る。まるでつい先日まで学徒だったかのようだ。正規の軍人が放つ独特の雰囲気が感じられない「緩さ」。
 そのまま寄りかかってきそうな勢いに苦笑しつつ、埒があかないので陽が話を切り出した。

「早速だけど、新兵器について聞かせてもらえる?」
「はい! オーバーフレームの上腕や前腕部のハードポイントに外付けのシールドを取り付ける技術を応用し、アンダーフレームから喉頚部にかけて大型リアクターを取り付けることに成功しました。兵器槽を懸架するよりも遥かに高い継続戦闘時間を確保し、推進力を得ることができます。ご覧ください、この出力数値を! 高速飛翔により『殲禍炎剣』の追撃を振り切ることも可能です」

 放熱出力式外擁動力炉「奈落」。
 熱エネルギー放出をブレードアンテナに集中させることでボランチを可能にした、その制御下における圧倒的な駆動力。それこそが秘密兵器なのだという。速さこそが強さ。特に、空を駆ける高速戦闘が軒並み軽んじられ重装化の進む昨今、革新的な技術であるといえる。

「でも、言ってしまえば速く飛ぶだけ、よね? ……それにこの位置って」
「いいところに目つけたじゃん。腰の上の辺りつーっとここだぜ。オレでいうとここらあたりだ。いいか? 姉ちゃんよ、じゃあてめぇは、仮にこれを取り付けたとして、どうやって降りんだ」

 仮にヒートショックで癒着してしまった場合、胸部コクピットを開閉する手段がない。脱出ポットも機能しないであろう。第一、キャバリアの耐熱性能そのものにもよほど特化させていない限りは疑問が残る。ハードポイントに着想を得ているということはある程度の汎用性を維持しているわけだ。よほど特化させなければ炉心の隣でおちおち操縦などしていられまい。そこにコンセプト上の矛盾があるように思われる。
 何より、仮に音速で移動できたとして、そしてその推力に内部コクピットが耐えられたとして、殲禍炎剣を振り切ることができるのだろうか。もっともらしく掲げる数値の根拠がわからない。
 穴だらけで、欠陥だらけの理論。
 机上ならともかくすでに既定路線だというから恐ろしい。少しでもメカニックを齧っていれば、思いつきそうな疑問に、枚挙に遑がない。

「降りませんし、降りる気もありませんが?」
「……白状すると、こちらとしてはあわよくば美味しい方かつ美人な方に一枚噛ませてもらおうと思ってな。殲禍炎剣を落とせる新兵器とやらはさぞかし強いんじゃないかと期待してたんだが」

 流石に語尾から力が抜ける。よほどこの場で現状を突きつけてやろうとしても、歯車の噛み合わなさが尋常ではない。

「まぁてめぇがそれでいいなら、それでいいんじゃねぇの」

 キリジは賢明であった。
 別に理解する気もなければ、どうしても歩み寄らなければならない人物でもない。どこにでもいる、ある意味この世界ではありふれた狂人。
 己を勘定に含まない、自分自身を単なる歯車として認識してしまっている人。

「あんたね……」

 軍のメンバーの襟を掴んで、凄みをきかせて重々しく言葉を紡ぐ。
 陽は、向かいの人間が、それも歳だってそう離れていない女の子が、そう言い切ったことに耐えられなかった。義憤ではなく、理解できない情報に脳が悲鳴を上げたのだ。考えることを放棄しているものの考えが、彼女の脳細胞にダメージを与えた。ゆえに、反射的に手を伸ばしてしまったような形である。

「そんなにそのルフって奴が大事なわけ?」
「げほッ……が、ごほ!?」
「ギバ、その辺で」

 崩れ落ちて咳き込む女性を尻目に、間髪いれずに答えを促す。
 今、大ごとにする気はなくても穏便に済ませる理由だってないのだ。一睨みで萎縮させることだって造作もない。

「どうなのよ。聞かせてもらえる?」
「ルフは……ルフ様は私の全てです! 行き場のなかった私に歌をくださり、生きる意味と希望を教えてくれた……あの人の夢のためならなんだって、そう、なんだって!」
「私はそういうタイプは好きになれないわ」
「ッ!」

 真っ向対立。
 しかし食い下がるように「お二人もルフ様にお会いすれば、きっと考えを改めます」と呟いて、その場に蹲ってしまった。

 これ以上情報を引き出すことは一旦難しいだろうが、交流がまだ少ない故の行き違いだと思われたようだ。つまみ出されるような心配もないだろう。狂気的な団員を捨て置いて、「奈落」について調べを進める二人。先ほどのやりとりが尾を引いて、どちらともなく口を開くタイミングもなく、黙々と調査してしまう。
 しかし、予感というのはえてして悪い方向に的中してしまうものだ。
 最初に会った彼女同様、いかにも口の軽そうなものに目をつけて片っ端から情報収集を敢行したが、情報の集まりこそ良いものの、その返答の質は惨憺たる有り様であった。これならば頑として口をきいてもらえない方が気分的にはマシであったかもしれない。

「どいつもこいつも酔っぱらいばかりね。耳障りの良い毒が回ってる。希望、夢、未来。そのためなら命も惜しくないわけ?」
「……酔っぱらったまま踊ってた方が良い事もあるがな」

 キリジとしては、むしろよくここまで陽が耐えたものだと内心舌を巻いていた。結局手をあげたのも最初の一回だけ、もちろんマトモに取り合わなかったわけでもなくきちんと聞き入れた上で、その妄言のラッシュを耐えたわけである。
 この小さな同僚が実は頼りがいのあることを、改めて思い知らされた形だった。

「つまるところ何? 現実を見ないで、何かを信じていた方が幸せだとでもいいたいわけ。金銭でも組織でも、恋人でも、夢でも」
「まあギバが恋を語るのはまだ早いとして」
「あんたね……」

 はあと大きくため息をついて、休憩がてらドラム缶に寄りかかる。
 収穫は少なくなかったが、心的疲労も蓄積していた。

「『酔っ払い』の話に付き合ってたようなもんだしな。それで、なんでそのルフって奴が気に入らないんだ?」
「別に」
「別にってことはねぇだろ」
「ああいう外面だけが良いタイプはね」
「外面だけって、いやいやいや、さっきまで見てきたじゃん。皆口を揃えて、ルフ様ルフ様〜ってな。あれが外ヅラだけだってんなら、慕われてることは説明できないよな?」

 顔を上げて、周りの様子を一応確認する。尾行されている気配はない。言葉狩りなどされないだろうが、敵地ど真ん中であることに変わりはない。警戒するに越したことはないというわけだ。
 相変わらず賑やかで、興奮に沸いている。これなら問題ないだろう。
 赤い髪を手櫛で梳くと、陽は言葉を選んだ。

「外面だけ、で説明つくわ。この作戦が決行されれば遅かれ早かれ参加者は命を落とすことが周知されているようだけど、そんな奴が未来を語るなんてことある?」
「未来……」
「そ。なら話は簡単。ルフは未来なんて最初から見ていない。一人で死を選ぶ勇気もないから心中する相手を見繕っているだけ。それを見栄っ張りと言わないでなんて表現したらいいか、私にはわからないわ。もちろん、傍目には勝算があるように見えるだろうから、同調するか、あるいは力尽くで排除しようとするか、何かしらの手を打とうとするけどね」

 くだらない。とか、馬鹿馬鹿しい、とか。見下すような言葉はなるべく使わずに、彼女は状況を分析していた。クーデターを起こす側の思惑は知っている。その作戦に携わった経験が活きている。今回のケースはそれとは全く違うのだ。反抗は、当初の目論見とは外れていて、やりたいことをやっていたらいつのまにか現政権に反抗していた、といった形だろうか。
 そして、その気まぐれかつ独断専行で、国一つが滅びようとしている。

「さすがオペレーターだ。よく見てるぜ」
「だからその設定、ホントどうにかならないの」

 多少抵抗はされたとて、直接手を下す……つまり今、捕まえに行くのもそう難しいことではない。
 しかし、ルフを捕縛してひととき希望の軍を足止めしたとしても、新兵器の存在があれば希望の軍はいずれ再編されるだろう。死後神格化されるカリスマも少なくない。ルフの弔い合戦という名目を得て、さらに増長・暴走する新生希望の軍……そんなタチの悪い冗談も現実味を帯びる。事態の鎮静化を任された猟兵が、いたちごっこの一旦を担ってしまったとなれば、それこそ酔っ払いの笑い話にもなりはしない。
 酔夢が蔓延る小国家にて、どうすれば現実を直視させることができるだろうか。

「……まあ」
「それを考えるのは私たちの仕事じゃない」

 そんなことは政治家にでも任せておけばいい。
 時間だ。
 そろそろ引き上げるとしよう。次に相対するのは希望の軍を完膚なきまでに解体するときだ。当然、戦場になる。そして、それは二人の望むところでもあった。束の間の夢が、終わる時が来たのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジェイ・ランス
【SPD】【渡り禽】連携、アドリブ歓迎
■心情
いーや、ルフちゃんとやら破滅的過ぎやしないかい。
ま、その辺は小枝子ちゃんが聞くからいいか。避難誘導はエィミーちゃんがやってくれるし、オレのやる事は戦力の情報収集だーな。
さてさて、鬼しかでないけど探りますかね。

■行動
キャバリア"レーヴェンツァーン"に、"事象観測術式"よる【情報収集】によってUCを持って希望の軍側の傷ついたキャバリアに偽装、基地へもぐりこみます。
自身と小枝子にもUCによる偽装を施して兵員に成りすまします。自身は修理するふりをしつつ、周りの塀に会話に【聞き耳】を立て、また、新兵器に関する情報も【情報収集】、【偵察】します。


朱鷺透・小枝子
【渡り禽】
歌姫の真意を問います
殺す事となっても…せめてそれだけは、知っておかなければ。

小型自律兵器群で索敵、仲間と共有
UCの外套とジェイ殿の偽装を活用し目立たない様に行動
遠隔操縦デモニックララバイの楽器演奏催眠術、エィミー殿の陽動を補助

人が離れるのを待って歌姫に声を掛けます

「どうして、この国を滅ぼすのですか?
あんな物では、勝てる筈がない。でなければ人類はもっと速く空を取り戻せた…!
何故ですか?貴方は、この国を、父親を憎んでいるのですか?」

確信を持って、勝てないと言い切る。無意味だと訴えます。
狂気耐性、歌姫の言葉に惑わされず、その真意を問う

…いっそ殺すか、否、軍は暴走しかねない
また、会いましょう


エィミー・ロストリンク
【渡り禽】
ルフちゃんの歌はとっても綺麗なんだろーなー
だったらそれを群を統率する為じゃなくて、皆の心を癒す為に使って貰わないとね!

別行動の小枝子ちゃんとジェイくんが活動しやすいように陽動を担当するよ!
UC「サンモトのマヨヒガの愉快な東方妖怪達」を発動して妖怪メダルを装着して、東方妖怪のどろんバケラー達を召喚
化術で軍団員に変装してルフちゃんの警備に配置している団員を誘導して、できる限り離すよ!

わたしも誘導してきた団員さん達と交流して情報を聞き出したりするよー
ルフちゃんの評判や、軍団の配置、武装なども聞き出して事前情報を収集していくよ!
団員に化けた東方妖怪達がうまく情報を聞き出してくれるのに期待!


中小路・楓椛
ニンゲン間の衝突には関わらない原則からこの話は本来スルーするつもりでしたが、多少気になった事があり…お邪魔しますね。

【ミスラ】さんに臨時手当を対価に働いてもらい、オブリビオンマシンの独特な出力反応を頼りに周囲の施設を次元潜航して探査、オブリビオンマシンの方は手を付けず、見つからないようにアセンブル前の特攻機の自爆に作用するユニット/モジュールを現地で確保し持ち帰ってもらい、解析して起爆抑止手段を探りましょう。

私は街でマンフレッドさんでしたか?「奈落」の開発経緯と、彼の死因と状況について、怪しまれない程度に探りを入れていきましょう。

夢を悪夢と変えたのは果たして何処のどなたでしょうね…?



 とある王室では「ワタリガラスが去ると王朝が崩壊する」などという迷信がかつては真剣に信じられていた。理由は定かではないがその飛び立つ黒い風切り羽に、不吉さを見てとったのだろうか。
 ならば、騎兵団〈渡り禽〉の面々もまた、彼の地の希望の軍にとっては凶兆になり得るかもしれない。

 騎兵団を構成する最たる利点の一つに、面々の役割がはっきりと決まっている点が挙げられる。多少変形してはいるが、今回のようなクーデターの鎮圧に動いたのは以下、四名である。
 諜報班/ジェイ・ランス(電脳の黒獅子・f24255)。
 陸戦戦闘員/朱鷺透・小枝子(亡国の戦塵・f29924)。
 同じく陸戦戦闘員/エィミー・ロストリンク(再臨せし絆の乙女・f26184)。
 暫定・兵站・商業班員/中小路・楓椛(ダゴン焼き普及会代表・f29038)。
 何より、全員が騎兵戦闘員としての適性を持つ、選りすぐりの将星である。暗雲立ち込める小国家の空を眩く飛ぶに相応しい。

 さて、まずは陽動。次に潜入・接触の段取りとなる。

「小枝子ちゃんとジェイくんが活動しやすいようにフォローしないとね。あっあれは」
「軍事糧食は口にあったようですね。ではお願いします……おや」
「こんにちは! なんだか珍しいね。楓椛ちゃん」
「エィミーさん。多少気になった事があり…お邪魔しますね」

 狼王たるミスラと会話(ケイヤク)していた楓椛は、陽動工作中のエィミーとばったり出くわし会釈する。交錯する眼差しの中で互いの狙いを察知したのか、「ジェイくんが基地に向かってるよ」と短くエィミーが伝えると、楓椛はミスラを随行させた。周囲にその身を蕩かすようにかき消えたミスラ。次元潜航したことは楓椛のみ及び知ることである。
 判断のスピードもまた、団でミッションに挑む利点と言えるだろう。

「オブリビオンマシンの瘴気を色濃く感じます。やはりこの辺りも酷く侵蝕されている様子」
「ならいろんな人に話を聞いてみないとね! うーんそろそろかなー」

 キョロキョロと背伸びして辺りを見回す。
 まさか彼女が陽動の工作員だとは露にも思うまい。現に楓椛も、鳩がダゴンを喰らったかのような顔で見守っている。程なくして――。

「おーいこっちこっち!」

 軍団員たちが何者かに連れられてぞろぞろやってきたではないか。
 高らかな軍歌のリズムに乗って、おそらく魔音の類だろうか、疑う様子はない。

「なるほど……『どろんバケラー』ですか」
「そのとーり! 大成功だね!」

 化術を看破できるものはこの場に二人しかいない。事前のブリーフィングという情報を流すとそれに面白いように釣られてくる。エィミーは引き続き誘導をしつつ話を聞き、楓椛もそれに混じってヒアリングを敢行するようだ。今回の作戦は奇襲戦。すなわち事前にいかに情報収集できたかによって作戦の成否に大きく影響を及ぼす。いわば前哨戦は情報戦。――ジェイと小枝子はさらに深い虎穴に入る、リスク分散の意味で大役を担っている。

「えぇえー!? みんなのキャバリアの武装、ないの?!」
「はい! ですが高速疾走形態に加え、高速飛翔する、三本衝角形態への変形が可能です。キャバリア混成大隊に全て新兵器を搭載し、その高速推進で一斉に空を目指します。我らの願いがきっと天に届き、必ずや人類に空を取り戻すでしょう」
「へ、へ〜……」

 無理に決まってるよ! という言葉が喉のそこまで出かかったがなんとか飲み込んで生返事の相槌を打つに止まった。
 しかも件の「新兵器」これがまた怪しげだ。単に素早く飛べる「だけ」の外付けリアクターのようにしか聞こえない。そもそも高速で飛んで、その素裸のキャバリアがGに耐えられるとも思えないし中のパイロットも無事で済むまい。仮に耐えられたとして、これだけの速度を出したから殲禍炎剣の反撃を防げる、なんて保証もない。肝心の部分を担保するのがまさか「夢」「希望」なんて都合のいい文言だけとは。エィミーの笑顔が引き攣るのも無理ない。
 ……埒があかない。そう判断した楓椛は質問のアングルを変えてみることにする。

「マンフレッドさんについてお聞きしてもよいですか?」
「ああ、あの人は私たちの誇りですよ! ですが、不運な最期でした」
「不運……ですか」
「今でも私たちの胸の内で、その夢は生き続けています。崇高な志が――」
「そういうことではなくてですね」

 制止しつつ、嗜めつつ、精神論が多分に含まれているせいで読解に難儀したが、聞き出した要旨は以下の通りとのこと。
 小国家であるE3を今まで現存させた立役者であるキャバリアの名駆り手、マンフレッド。いつか人類に空を取り戻す、そんなことを夢物語のように語っていた。
 彼がその魁となる「新兵器」を開発したその矢先、ハンガーの崩落事故によりキャバリアに押し潰される形で圧死。即死だった。一説には暗殺も囁かれたが当時は彼一人で作業をしており事件性はないとの当局判断とのこと。
 彼は「新兵器」の使用方法も用途も、それどころか後継を匂わせることなくこの世を去っている。当然事故死なのだからやむなし、と思われたが。

「ルフさん、ですか」
「はい。彼女こそ希望を束ねるお方……」

 「ルフ」という未世出の歌姫が瞬く間に彼の手勢を掌握。その新兵器は「奈落」と呼び、量産しキャバリアに装着することで運用可能であること、そして希望の軍一丸となれば、マンフレッドの掲げた大望も成就するとのことであった。
 ……その辺りは情報を統合しなければならないだろうが、もし彼が噂通りの人格者で、かつ事故死を確信されるような状況下でこの世を去っているとしたら。

「(……となればやはりマンフレッドの乗機、エヴォルグ玖號機?とやらは事の始めからオブリビオンマシンの可能性が高そうです。今はルフの手に渡っているとして……)」

 マンフレッド。「ルフ」。
 稀代のカリスマ。希望の軍。

「ルフちゃんの評判はとってもいいみたいだねー! よければ歌も聞いてみたいな。ね? 楓椛ちゃん」
「そう。ですね」

 夜闇を司る夢魔は、近くにいる。……あらかた検討はついたが、さて。

「頼みましたよ。ミスラさん。皆さん」

 その視線は、遥か先を見据えていて――。

 ――基地、内部。
 多次元偵察電子機体“レーヴェンツァーン”にカモフラージュを施して視覚的に破損させると、その搬入と修復に汗しつつ、様子をうかがうジェイ。

「怪しまれては……いねーな。さっすがオレ。と、浮かれてる場合じゃないか。はじめますかね」

 腕部に相当する箇所のない量産品組み換えのカスタム機。ここでひと暴れする強行偵察は、できなくもないがスマートではない。することといえばただ一つ。情報収集一択だ。
 愛機をコンソールに見立てると空中に青白い半透明のウインドウを開き、しばし文字列――それも0と1の複合羅列に没頭する。電脳に設けた架空領域にて、全意識投射さながらの情報攻撃を開始する。といっても、書架から目当てのタイトルを抜き取るほどに容易く、警戒されないことだ。ヒトが普段はお目にかからない「電脳魔術」。

「新兵器……新兵器、こいつだな」

 なにせ機体に装備らしい装備を搭載してない、外付けモジュールを前提としたキャバリアが配備されているのだ。
 「奈落」と呼称される新兵器はすぐに見つかった。
 そして驚愕の事実を目撃する。上半身のハードポイントの殆どを使い潰す上、推力放出の代償に機体が熱量に耐えられない懸念がある。さらに加速はできても出力の調整もできない。つまり一度稼働させてしまえば取り外すことも、止めることも不可能な、欠陥品もいいところである。搭乗者は必ず機体と共に命を落とす。それが奈落に魅入られた者の定めなのであった。

「いーや、ルフちゃんとやら破滅的過ぎやしないかい。脱出は……ここが噴出口。操縦者は……近っ!? ……デッド・オア・ダイ?」

 救出するならば、出力が一定を超える前に半身をもぎ取るか、そもそもこの機体に乗せないのが最も手っ取り早い。一定以上の出力を出してしまったこの機体は際限なく出力を上げて爆発するか、制御しきれず中身をひき肉にしながらバラバラになるか、運良く天頂へ向けて飛翔し殲禍炎剣に貫かれるか。どれも人間の最期の迎え方ではない。
 そもそもこんな機体に乗る、という神経がわからない。誰がこんなモノに好きこのんで乗るというのか。〈渡り禽〉にはキャバリア好きは数多いるし、その誰もが機体に乗り込むことに抵抗はない。当然だ。ともすればキャバリアの中が居心地が良いか、安全であるからだ。
 何者かがこの棺桶の安全を保証するか、さもなくば何か狂気的な信仰がなければ、これに乗り込む発想は生まれまい。乗ったら最後、逃れられない生命の終わりを与える乗機。それを理解するのは、本当の意味で「わかる」のは、土台無理かもしれなかった。

「と、あとはサンプリングだーなと。お! あれは……ミスラちゃん!?」

 視界の端を駆ける影。次元潜航する狼など、そうそうお目にかかれるものでもない。
 やはり見間違いではなかった! よしよしと毛並みを確かめるように撫でてやる。

「よーしよし。あとでミニクーちゃんでかき氷でもご馳走してやるよ」

 自爆ユニットやモジュールに相当する部分を奪取できれば、と思ってたところで決め手になる活躍だ。解析には楓椛も手伝ってもらうとしよう。
 ミスラの眼差しはしかし何やら違うものを訴えている様子。視線の先は……小枝子ちゃんの向かった、ルフのパーソナルスペースか。邪魔が入らないように陽動を噛ませているが、万一のこともあるか、と顎に手を当てる。小枝子ちゃんの仕事の邪魔しちゃ悪いし……いやいや、いやいや。

「……これ以上の『鬼』はゴメンだぜ」

 そろそろと、こっそり足先を向ける。
 会話の熱源はここら辺りかと見当をつけて向かうと、ヒートアップしていた。案の定、というか、危惧が当たってしまって頭を抱えたいような。

「さっきからはぐらかしてばかり……質問に答えてください」
「先ほどから私めは答えているではありませんか。何を言わせたいのですか、私めに」

 小枝子は、今にも掴みかかる勢いでルフに食って掛かる。対するルフはまるで困ったような笑みを浮かべて、いなすように応対していた。少なくともジェイの側から見る横顔は、言いがかりをつけられて困っている女性、といった雰囲気である。
 同時に奇妙な感覚を覚えたのは、もともとの出自を電脳体とするバーチャルキャラクターであるジェイらしい感性なのだが、「ルフがハッキングされている」という認識が生まれたことだ。悪意を持った存在によってばら撒かれるコンピュータウイルスのように、何かしらの不正を働かれている。

「でははっきりと聞きます。どうして、この国を滅ぼすのですか?」

 小枝子は、そんな物陰からの気遣いを気にも止めず、激しく詰問する。

「滅ぼす気など、毛頭ありません」
「白々しい。あんな物では、勝てる筈がない。でなければ人類はもっと速く空を取り戻せた…! 何故ですか? 貴方は、この国を、父親を憎んでいるのですか?」

 質問が、否、「最期の質問」がルフの胸中を貫いた、その時、彼女の様子が急変した。

「私の父親、どうして、私の、私の父だと知っているのですか!? 隠していましたのに、それだけは隠していましたのにッ?!」
「貴方の父親は立派な方でした。勝てない戦いに挑むような無意味な行為はしなかった。父親の勇名に泥を塗るのが、『希望』なんですか?」
「違う!! 違う違う違う違うんです! 父が、父は私にとって誇りです。その希望は絶やしてはならないのです、なり……なりません!」

 ジェイの見た横顔は、そう、たしかに柔和な笑みを浮かべているままに見える。物陰から密かに観察すれば、彼女は笑いながら語気を荒くしてるように見えるだろうか。
 しかし「父」の話題を出され、正面切って向かい合う小枝子は、ルフの容態を重く見ていた。
 顔半分、ちょうど眉間辺りで左右分けたとき、顔の半分は泣いているのだ。号泣している。端正な顔を歪めて、ぐずぐずと。……いかにもカリスマ然とした狂喜の歌姫「ルフ」と、父と国を愛し涙する少女が並立していた。
 いっそ、殺してみるか、と小枝子は懐に手を忍ばせるが、そこに尋常ならざる気迫と、うちに潜んだ狂気の蔓延を感じてしまう。

「く……」
「私はルフ、いえ――ペトラ・フランツィスカ・ブルクドルフ。おっしゃる通り、マンフレッドは父です。父は私を気にかけて、戦場とは遠いところに置いてくれていました。そこで何不自由ない生活を送って……遠くから父の武名を聞いていたんです」
「それは、随分と狭い世界ですね」
「私には、それでもよかった。しかし現実は非情で、父は最期、愛機と共に自死を選ぼうとして咎められ……」

 咎められ?
 誰に、死を咎められるというのか。
 国民か、時の政権か。この口ぶりだとルフに、ではなさそうではある。不審だ。

「人は生きている限り戦い続けるものです。そうでなければ生きている意味はありません」
「……私もそう思います」

 紛うことなき本心だろう。声音でわかる。一方で死を強要するカリスマでもある。自爆兵器を新兵器として配備し、同志に使わせる算段だ。それがわからない。父の死が決定的になにかを変えてしまったのか。彼女の中でしか分かり得ない理論が組み上がってしまっている。
 もはや、あまり残されている時間はない。

「私の中の憎いという気持ちが叫ぶんです。キャバリアを許すな、キャバリアのある世界を許すな、父を奪ったキャバリアを許すな、と。事実を直視すると心の中がそれだけでいっぱいになってしまって、他のことが思い浮かばなくなります」
「それは喩え? それとも、何か他のことを伝えようとしているのですか」
「……わかりません。父の『エヴォルグ』は体を機械ではなく、侵食細胞で構成する――特殊な生体キャバリアでした。かのキャバリアが犯人、自爆を試みた父を殺害した。それが私の知る真実です……」

 ……また、会いましょう、ペトラ。
 小枝子はそれ以上の詮索は難しいと判断して、早々にその場を立ち去った。振り返ることはしない。今言葉を交わしたのが「ルフ」ではなくペトラだと信じていたかったからだ。

 情報を統合すれば自ずと真実が見えてくることだろう。打ち倒すべき敵も、判然としてくるはずだ。そして困難な道のりであることも、きっとわかるに違いない。しかし、道は示された。天へ昇るその道を、渡り禽は飛翔する――!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
類似した事件の被害者はOマシンの影響で殲禍炎剣の破壊が可能と信じ切っていましたが、かの歌姫は不可能と知って扇動を…?
真意を測らねばなりません

希望の軍データベースハッキング情報改竄
小国家E3シンパの連絡員と身分偽装
(違和感持たれぬ猟兵の異能は便利)

トリテレイアと申します
先任の者に代わり宜しく願います、ルフ様

…個人的な質問をする為に、この立場を手に入れました
国民的英雄のお父上の死の多くの謎、そして貴女の真意を知る為に

お為ごかしは結構
新兵器は殲禍炎剣相手に力不足と囁く者もいるのです!

同時並行でUC遠隔操縦
軍の機体に破壊工作
一体機能不全が御の字でしょうが、自爆機構の情報収集は後の戦闘で必ず役に立つ筈…



「今日はお客様が大勢いらして、心うれしいです」

 仮設テント群の離れ、簡易応接間の組み立て式ソファから立ち上がって、握手を求めてくるルフ。
 今のトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は小国家E3シンパの連絡員である。異貌の巨躯ではあったものの、それ自体は特段の違和感なく受け入れられている様子である。むしろトリテレイアが見るには、一連絡員の報告を、首魁であるルフがやすやすと接触を許し、対面している警戒心の薄さが気がかりであった。
 工作は完璧、ならば。

「軽い……」
「ふふ」
「いえ、ご容赦を。私はトリテレイアと申します。先任の者に代わり宜しく願います、ルフ様」

 握手を交わす。自分の手が感覚機能を麻痺しているのか錯覚しかねない、それほどの冷たさをルフの手は帯びていた。
 しばらくは隣国の近況を世間話程度に共有しながら、人となりを探る。広域空路連絡網が遮断されて久しいこの世界において、例え隣国であろうともこと情報となれば価値が高い。独裁を目論む時の権力者であれば、喉から手が出るほど渇望することだろう。
 それらをチラつかせてトリテレイアが得た結論は、「ルフは世間に疎い」という残酷な真実であった。
 それだけ豊かなプラントをお持ちならぜひ遊びに行きたいだとか、それほど切れ物な摂政がいるなら友達になりたいだとか、いかにも当事者意識が欠如していて、まるで重要事を全てしたに任せているワガママ姫君な様子である。興味がなくて丸投げしているのか、トリテレイア自体に興味がないのか。
 この軽い、ふわふわした女性は、しかし一方で妄信するものが後を立たない抜群のカリスマ性を備えている。庇護欲を掻き立てられるのか? 内心で値踏みするように緑の眼光が輝いて、眼前に微笑する歌姫を視線から離さない。見るものにとって都合のいい解釈がなされるように、彼女にはどうにも他人にそれぞれ、態度を変えている節さえある。安定していない。まるで歌姫さえもロールプレイであるかのように。

「私は騎士。そしてルフ様は歌姫、なるほど……?」
「ふふ。話し込んで、すっかり水がぬるくなってしまいました。楽しい時間はあっという間ですね」

 元からたいして冷えていない水を呷ると、そろそろお暇の時間でしょうか、と時計を確認する。いちいち気品のある立ち振る舞いは、この場に似つかわしくない芸能人のようなお洒落な格好と相まって、独特の空気感を孕んでいる。
 このままでは本当に世間話だけで時間が過ぎ去ってしまう。やむを得まい。多少強引だが、時には先陣を切って斬り込むのも騎士の務めだろう。

「失敬…個人的な質問をする為に、この立場を手に入れました。国民的英雄のお父上の死の多くの謎、そして貴女の真意を知る為に」
「……真意、ふふふ。……いえ、お待ちになって、父、父と言いました?」
「ええ。貴女の父、マンフレッド氏について……それが何か?」

 ぐらりと体を揺らして、豹変した表情を見せる。奇怪なその顔色は、トリテレイアをして、この場で斬り伏せるかどうか、と逡巡する程度だ。
 すなわち、顔半分が人形のように張り付いた優美な笑顔であり、顔のもう半分は涙を浮かべて苦しげな苦悶に満ちている。どちらかといえばそちらの方は年相応な少女の表情に見えなくもない。

「隠していたのに……どうして」
「妖精に教えていただきました」
「冗談も嗜むのですね」

 妖精は妖精でも動かしているのは《自律・遠隔制御選択式破壊工作用妖精型ロボ》なのだが、この場合は瑣事であろう。指定された時間になれば保管庫で工作を行い、自身が脱出する隙を確保しつつ、機体トラブルを誘発する手筈である。自爆機構の情報収集は来るべき交戦時に必ず役に立つだろう、という目論みであった。
 当然ルフはそんなことは知り得ない。彼女は自らをペトラ・フランツィスカ・ブルクドルフと名乗った。「ルフ」は歌姫として人前に現れる時の通称だそうだ。

「父は……キャバリアに殺されました」
「ああ、なるほど。確かにそういう考え方もできなくはありません。キャバリアに生きたお父上はまさしくその最期をキャバリアと共に迎えたと――」
「そういう意味ではないのです。父は、キャバリアに物理的に殺されました」
「? 確か秘密兵器の完成と共に、命を落としたとか……?」

 何やら話がおかしい。噛み合っていない。戦場で倒された事実を隠蔽したい……わけでもあるまい。
 何より、「(父の)開発した新兵器で空を取り戻す」と公言しているのが「ルフ」だ。
 ならばこの情報を流布しているのが別のものでなければ、斯様な話の展開になるはずがない。彼女は、「新兵器は殲禍炎剣相手に力不足」と勘づいている節がある。わかっていて、希望の軍を編成し、そして多くのものを巻き込みながら自滅しようとしている。

「情報が飛躍し過ぎていますので、私の戯言と聞き流していただきたい。ルフ様、思うに」
「ペトラで構いませんよ。騎士のようなお方」
「っ! こほん、ペトラ様。思うに――その秘密兵器とやらは、お父上が使うものだったのではありませんか」

 明らかに力不足の秘密兵器。できることはせいぜい、搭乗すれば確実に搭乗者を「機体ごと」葬ることくらい。
 そして、それを成し遂げることができず不審死を遂げたマンフレッド。ルフの言葉を借りるならば、キャバリアに殺された、のだという。
 この世界における骸の海の使者、オブリビオンマシン。それを見抜けるものは、この小国家には……。

「生体キャバリア・エヴォルグシリーズ……」
「?」
「機械でないボディを持つ、特殊な機体なんですが、ご存知ですか?」
「……名前だけなら」

 なんと答えたらいいものかわからず、トリテレイアが逡巡してるうち、ふと、そのシリーズこそ彼女の父の死に関わっているのではないか、そう思い至る。
 否。そう確信を持てるのはトリテレイアだけで、少なくとも目の前の少女には、漫然とした使命感だけが残るはずだ。キャバリアへの怒り、憎しみ、無念さ、その狂気の説明が誰にもできない。歌姫「ルフ」の誕生に、父の死が関わっていることは明白。例えば、父の死の秘密を知った少女ペトラが、キャバリアを調べるうちに「秘密兵器」にたどり着く。狂気のキャバリアは次なる駆り手に娘を選び、この世界を破滅に導くための使徒とした。キャバリアへの憎しみを増幅して、名ばかりの希望を旗印に掲げさせて。
 さながら、熱病。それも群れた人熅れに、冷め止まない。

「そうか。ですから、秘密兵器が、新兵器・奈落に……」

 成就することのない夢、叶わない希望。それを掲げてしまった罰を、受ける。その裁きを下すのは、呪われた機体。降りることの許されない、手放せない麻薬のような、キャバリア。そう。黒幕はキャバリアだった! オブリビオンマシンの狂気が搭乗者を狂わせて、その狂気が伝染している!
 考えが、頭の中でかっちりと填まる音がして。

 す、と人差し指を唇に当てられた。泣き笑いの少女がいた。
 強張る顔でも、流れるような所作は、普段から小鳥と戯れているような生来の優美さを感じさせる振る舞いであった。

「それこそ飛躍ですよ。ですがそういった話の飛躍は、好きです。空想、良いではありませんか。夢なんて陳腐な言葉で片付けるのはもったいないです。どれほど狭い世界でも、空想は私を縛らない。それにほら、空、という字が含まれていますからね。……私、学はありませんが、歌がほんとうに好きで、そこに在る御伽噺や綺麗な世界が愛おしいんです。現実でないと分かっていても、私には……歌しかないから」
「……もう歌われる気はないのですか。私にはそう聞こえましたが」
「どうでしょう? ふふ。もし最後に歌えるのなら、そうですね、騎士の登場するフェアリーテイルがいいです」

 歌と空と国とを愛し、夢と希望を信じた少女が、悍ましき悪魔に拐かされ、鉄と血と濃密な死に世界を染め上げる。それもまた由緒正しい物語には違いない。万人受けするかどうかは、さておいて。
 今もこうして泣き叫ぶ少女に、仮面を被せて、さらに重い十字架を背負わせている。
 騎士が、いたならば。
 果たして何ができるだろうか。

 トリテレイア・ゼロナインは胸に手を当て自問する。
 もしもこの問いに即答できたのであれば、それは紛うことなき「本物」であったろう。思えば順序立ててお膳立てして、前もって何から何まで筋書きを立てて、それは果たして物語たり得るだろうか。いざこうして眼前に、何かを求める手を伸ばされたとして、咄嗟に手を差し伸べて握り返せるものが果たしてどれだけいようか。世界に何人も「本物」がいたとして、その中に自分はいるだろうか。いる資格は、あるだろうか。答えは出ない。
 ただハッキリしているのは、すでに火蓋は切って落とされたということ。自分もまた、すでに当事者であるということだけだ。

「もし、もしも、本当に『騎士』が実在したとしたら、伝えたいことはありますか?」
「そうですね。では、助けてください、と」
「……」

 ふと。どこかで――音がした。仕掛けたのが己なだけに、いささか頭を抱えたくなるが、時間だ。

 工作した通り、時限式の破裂音とともににわかに辺りが騒がしくなる。別れを惜しみつつ、トリテレイアは立ち去る。しかし別れの言葉はない。これを別れにしないためにも、彼の信念のためにも。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『殉情の特攻機』

POW   :    自爆特攻「我が命は故国の為に」
【高速疾走突撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【自爆】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    殉国の伝染病「我らの命は仲間の為に」
自身が戦闘不能となる事で、【抱きついている】敵1体に大ダメージを与える。【仲間へと伝染する、殉国の精神】を語ると更にダメージ増。
WIZ   :    参角念願「平和の為に」
【心からの願い】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【自爆。敵目掛けて高速飛翔する、三本角頭】に変化させ、殺傷力を増す。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「希望の軍よ、今こそ立ち上がる時です。私はルフ、いえ――ペトラ・フランツィスカ・ブルクドルフ! 亡父の遺志を継ぎ、皆様の手に今一度、空を取り戻す使徒です! 歌い手はこの私、私たちこそ、私たちだけが暗冥たるこの世界の光であり翼なのです!」

 愚かな希望の再帰性、または究極のマッチポンプ。
 英雄を失った小国家が渇望した、後継者。容姿端麗、浮世離れしたカリスマ。超然と佇み神の如く微笑んで、心打つ演説をする。筋書き通りに、天を揺るがす歓声を浴びて、最も効果的な亡父の名前を絶妙のタイミングでひけらかして。
 少女はキャバリアの手に乗って「希望」を歌う。期待が「夢」を後押しして、今こそその手に「未来」を掴まんと、しゃにむに手を伸ばす。
 そんな狂気は感染する。希望は伝染する。
 一度着火すれば、止まることのない出力をひたすらに加速させ続けて、熱病は止まない。止まらない。狂って狂わせて、夢心地に狂うことしか、できなくて。

「共に天を! 共に天へ!!」

 割れる。歓声で、天が、世界が行進曲に衝かれて。
 大地を鳴動させ、空を動かす大歓声。殉情の檻に押し込められて。

「「「「うぉおおッ! ウぉぉぉォオオおおーっ!!」」」」

 棺桶が、立ち並ぶ。待つのは、死のみ――!
グラディス・プロトワン
アドリブ等歓迎

始まってしまったか
少しは稼働不能にさせたとは言え、まだこれだけの数のキャバリアが動いてしまっている
全ての搭乗者を助け出すのは不可能だが、犠牲者は減らしたい所だ

しかしこれだけの数を1体ずつ対処していく猶予はないだろう
1体抑えている間に他の機体が爆発してしまう
逆に考えれば1体に絞れば救える可能性が高いという事だが…
使い勝手の分かる専用キャバリアを所持していない俺には厳しい

ならば特攻機の出力を削いで他の者が対処しやすいようフォローする
UCで広範囲の特攻機からエネルギーを奪えば、進行速度や万が一の際に爆発威力を落とせるだろう
直接搭乗者を救い出せないのは歯がゆいが、被害は抑えられるはずだ


トリテレイア・ゼロナイン
身分偽装で堂々と持ち込んだロシナンテⅣに搭乗

戦闘兵器で最も高価な部品は大抵生身の搭乗員
善悪は別として、それ故に私の種族が生まれる余地があるのですが…
あの機体は随分と人的資源が安価な場所がルーツな様子

…これ以上マシンの狂気にペトラ様を始めとした人々を心中させる訳には参りません

妖精の情報収集で機体構造や強度は把握済み
サブアームのライフル乱れ撃ちスナイパー射撃で疾走する敵の四肢関節撃ち抜き、突撃出鼻挫き接近
剣を抜き放ち
【コクピット付近を剣で突き刺し、搭乗員は無傷で操縦・自爆システムのみを破壊】し次の敵へ

出力、動作制御…一つのミスも許されません
ですがこれを為せずして、何が少女の望み叶える騎士でしょうか



「始まってしまったか」

 支給されたキャバリアのコクピットで腕組みしつつ、静かに開戦の時を見守っていたグラディス。
 気の毒なことだが、全ての搭乗者を助けることは難しいだろう。彼の頭脳が打ち出した予測は、冷酷なほど正確に結果を算出していた。レーダーで察知できただけでも夥しい物量の熱源が感知できている。

「……ん?」

 中でも、出力が桁違いの存在。いずれ爆発的に増えていくであろう中で、加速度的に、暴走さながらに動き出しているものがいる。もしや指揮官機かと、モニターを睨みつけると――。

 ――ジュィィィィンッ! ギャリォッ! ガゴォッ!!

 身悶えするようにガクガクと震えるキャバリアを抑え込み、実体剣で斬りつけているではないか。
 火花散る輝きが反射する優美な体躯に、六枚の花弁を思わせる颯爽眩いパーソナルエンブレム。量産型改造キャバリア「ロシナンテⅣ」である。
 ――戦鬼。
 肉薄し剣を突き立てるその姿は、美しい彫像のような見た目のイメージから乖離し、無我夢中に突き進む鬼のような気迫を感じさせる。

「…これ以上マシンの狂気にペトラ様を始めとした人々を心中させる訳には参りません」

 トリテレイアを突き動かすのは、半ば使命感のようなものであった。宣言した通り、コクピット間近に突き刺さった大剣を抜くと、誘爆もせず、暴走も封じられたように見える。緑のカメラアイが光を帯びて、ゆっくりと見下ろし――。

 ――ずううぅぅぅ……ぅぅぅううん!

 『殉情の特攻機』が役目を果たすことなく地に崩れ落ちていく。

 ――ドドドドドッ!! バババババッ!!

「よくもォオお!! がッ?!」
「このッ……ぎゃあァアッ?!」

 その影から、両側から挟み込む駆動で襲いかかる特攻機。目視することなくサブアームによるライフルの乱れ打ちで蜂の巣にする――否、一見無作為に放たれた弾丸はしかし、コクピットを貫くことなく、四肢だけを破壊して抵抗力を削ぐ。
 死を覚悟した団員たちも、叫び声を上げながら顔を覆うが、己が命を落としていないことにぼう然自失。その内にコクピット部を切り落とされ、再び外界に突き出されることになる。
 何が騎士か。と自問する。何が騎士か。答えはない。ならば、戦いの中で答えを見つけるしかない。悲壮な理想論を「理想」のまま終えないためにも、トリテレイアの戦いは孤独に続く。

 ――ボゴォ……ボゴボゴボゴ……!!

「くっ!」

 コクピットを失ったキャバリアが、自らを掻き毟るようにしてその場に蹲ると、やがて内側から何かが噴き出すようにして急速に膨れ上がっていく。自爆までのコンマ数瞬間、投げ出されたパイロットを防ぐ手立てを幾パターンかシミュレーションして。

「拘り、か」
「友軍! これは私の『道』です! 付き合う必要は……!」
「いや。味にうるさいヤツは、俺も嫌いじゃない……!」

 膨れ上がったエネルギーをキャバリアタンクに吸収していく。黒い量産型キャバリアが躍り出ると、両腕を大きく構えて増加するエネルギーを「食べ」始めたではないか。目の前で膨張するのをまるでパンか何かかとでも錯覚するように吸引し、ベキベキベキと装甲ごと飲み込む。大喰らい。そして大物喰い。戦場においてその二つが両立した時、それは時に最強の矛になり得る。
 次々に呼応し、膨張していく機体に肩からぶつかり体勢を崩し、その間に「ロシナンテⅣ」がライフルで四肢を破壊。爆発間近なものはコクピットを切り落とすかエネルギーを吸収し、少しでも爆発の威力を低減させていく。普通に戦うより遥かに骨の折れる作業だが、それでも被害は抑えられる。

「流石に全てを救うことは難しいか。1体抑えている間に他の機体が爆発してしまう」
「承知しています」

 ……嘘だ。
 そんなことは誰の目から見ても明らかである。ひとり、またひとりと自爆していく中で、落胆の気持ちが手に取るようにわかる。どうしてそこまで? と思う気持ちもないわけではない。しかし、グラディスとしては設備や装備、持ち合わせもないような状況下で、彼の狙いを無碍にするわけにもいかないのだ。適材適所という言葉がある。
 そも戦時下において最たる貴重資源といえば「搭乗者」であるはずだ。認めたくはないがウォーマシンという種の起源に、人に代わる戦争の担い手として期待されていた部分も少なからず存在する。精密動作、出力、強度、ヒトにはできないことを、ヒトと共に。あるいはあの特攻機も、替えのきく存在を乗せるための機体なのかもしれない。

「これだけの犠牲者を出してまで成し遂げたいこととは、何だろうか。数少ない言葉でこうも大衆を扇動するとは」
「……」
「言葉数少ないのはコチラもか。ずっと手を握り込んでしまっていては掴めるものも掴めないが」
「手を……」

 その手は深く、深く剣を握り込んでいる。
 もし差し伸べたとして、この手を掴み返されてこその逸話の騎士か。未だ未熟、未だ途上、しかし成長の余地が残され、ミスなく完遂して、完遂為せずして、何が少女の望み叶える騎士だ?

「私は、それでも、貫きます!」

 ――ギャリリリリ!!

 火花散らして戦場に舞う。
 腕が、足が、四肢が、首が、飛んでいく。
 その勇姿が、誰かの勇気になると信じて。

「あ、ああぁあ……!」
「なんだ、なんなんだアレは……!」
「怯むな! くそぉ……!」

 しかし、非情な現実が降りかかる。彼らもまた希望を背負って立つ者たちだ。自分たちが何も成さずに倒れるのは、国の存亡に関わると本気で信じている。少しでも手傷を負わせて謎のキャバリアを押し返さんと、目を血走らせて向かってくる。
 やがて仲間の屍を踏み越えて、組みついてきた一騎が、また一騎が、「ロシナンテⅣ」の武装を、そして片腕を自爆の勢いで吹き飛ばしていく。悪鬼さながらのフォルムに影を変えながら、悲壮な戦いは続いていく。グリモア猟兵は言っていた。これは敗北なき戦いであると。ならば、今の両者の死に体はどうだ? 両成敗とは相ならないか。

「黒幕は……どこだ? ん……?」

 グラディスが苛立たしげにコンソールを叩くと、認知可戦域の彼方、かなりギリギリのところに飛翔体の存在を認知する。周囲には他の何者もおらず随伴機もいない。戦略的優位地かと考えを巡らせたが、どう考えたところで「あえて人気のない位置」を選んで陣取っているようにしか見えない。
 この場において臆したか、はたまた自身の戦略価値を認識しているのか。

「小賢しい」
「ペトラ様は……まさか、彼女も『奈落』を……」

 グラディスの独言る態度とは対照的に、トリテレイアは顔面蒼白な様相の、悲鳴にも似たセリフを振り絞る。自爆兵器、確実に乗機を搭乗者ごと葬る代物。最悪のイメージが脳裏を過ぎる。この想像は単なるノイズではない。行かなくては……!

「いけません、早まっては……!」
「お前こそどういうつもりだ! その手傷で、なぜ行く! 退け!」

 制止を振り切って、その場のキャバリア勢を怒涛の如く斬り伏せると、「ロシナンテⅣ」は滑空する。
 なぜ行くのか。答えは決まっている。しかしその答えはまだ出せない。ですが! それでも、と。不撓不屈の精神が彼を先へと進ませる。体より早く、言葉より早く、思うよりもずっと早く。風に乗って、命の価値を噛み締めて。
 グラディスもまた後に続く。メインディッシュを独り占めさせてなるものか。何より、一人で立ち向かうには荷が重かろう。

 助けを求める声がする。未だ哭く歌姫の旋律を聞いて、鉄の巨兵は、前へ――その先へ!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

キリジ・グッドウィン
【特務一課】
「へいへい、了解。オペレーター」…こんな過激なオペレーターがいてたまるか
GW-4700031『(今回のキャバリア名、アドリブで)』で出撃

ギバが落としたヤツが変な気起こす前に推力移動での接敵して先制攻撃。まったく忙しねぇ
RXランブルビーストによるグラップル、喉頚部から爪を刺し入れリアクターを一気に剥がす。
コックピットに近すぎるから繊細な作業だな、苦手じゃないが
抵抗は機体の腕でも撃ちぬいて黙らせるか

わざわざ弱点まで話してくれて助かったぜ
あんま抵抗すんなよ?オレはギバみたいに機嫌で動いてるワケじゃねぇから「死に、損なっても」いいワケ。
ま、ここはリーダーの温情に甘んじておきな


天城原・陽
【特務一課】

「決めたわキリジ。私、奪う側になるわ。」
あの酔っぱらい達が自らを犠牲にする事が夢だの希望だの宣うのなら、それらを奪い去る。
『死に損ない』にしてやる。そう決めた。
命の大切さとか倫理観とかそんなんじゃない、気に入らないからそうするのだ。
「赤雷号、あんたにも付き合ってもらうわよ」

オーヴァドライブ。出力が上がり切る前に一気に叩き落とす。要は分かっている…あのブレードアンテナを悉く、最大戦速で動きながら狙い撃つ。
「キリジィ!!落とした奴ら全員二度と飛べないようにしてやりなさい!!」

もし、希望の軍で出会った女が『死に損なった』ら宣言する
「よく見てなさい。『戦う』ってのはこういう事よ。」



「ああ、あぁああ……!」

 天地がひっくり返っている。
 ひっ剥がされて、剥き出しと化したコクピットで地上数メートルのところで宙吊りになったまま、悲鳴をあげるものがいた。希望の軍の女兵士である。
 何をされたかわからなかった。無我夢中で起動したキャバリアシークエンス、そして新兵器。加速度的に上がっていく出力の中で、自分自身が歌姫と一つになるような高揚感。まるで自分自身が物語の主役になったとでもいうような、ハイな心地だったのが一転、赤い閃光をモニタに見て、あっという間にこのザマだ。わからなかい。二機、いた気もする。というより、今自分がどんな状態でぶら下がっているのかさえ実はよくわからなかった。
 これを離したら……落ちる!
 落ちる……落ち続ける? どこまで?!

「お、おちる……いやっ」

 ――ずッ……!

 ふわりと浮遊感が、脳裏から足先に。
 自分がいた場所が、そこで初めてはっきりと認識できた。地に落ちて、固定化されぶら下がっていたわけじゃない。引き剥がされた勢いのまま上に、「空中に投げ出されて」――そこから落ちているのだ。必死に掴んでいたものは命綱ですらなかった。受け身を取らなきゃ、とか、頭を守らないと、とかそういう考えがわちゃわちゃと溢れるが、数メートルではなく十数メートルの位置にいた今、自分がミンチになるのは不可逆的な未来のように思える。
 空がはるか、遠い。
 どこかでルフ様は見てくれているだろうか。あの子は勇敢だったと褒めてくれるだろうか。いや、仮に褒めてくれたとして、どうでもいい。まだ、未だ――!

 ――ッ……ドうッ!!

「おっ、当たりだな?」
「なっあッゲホっ」
「閉めるから屈んだ方がいいぜ」

 コクピットブロック、座席の隙間に体を叩きつけられて一瞬意識を消失する。声をかけられてハッとすると、慌てて頭を抱えて蹲った。
 生きている、死んでいない、生きている。情報量が多い。咳き込む。体中が酸素を求めて、ヒクヒクと醜く痙攣している。浮かんだ涙も拭えない。

「メットもしてないとは呆れるぜ」
「その声……あの時の傭兵……? どうでもいいって言っておきながら、私を助けて?」
「あ。あーあー……あー」

 そうか。そういうインプットになるのか。
 特務一課、キリジ。まさかの不覚である。
 ミッションの性質上、救助した敵兵と接触する可能性も考えていなかったわけではないが、ちょっと心の準備ができていなかった。

「話が早いですね! ルフ様を」
「話を急ぎすぎるのも考えもんだよなぁ。とりあえず口は閉じとけよ。舌噛むぜ」
「わギッ?! う、うそ……私、まだ乗って」

 ――ドンッ! ドンッドンッ!!

 振動音。
 キャバリア特有の重厚な射撃の揺れが、腕を通してコクピットを揺らす。当然、座にしがみついているだけの軍兵はがつがつ頭部を叩きつけられて、必死の形相でしがみつく他ない。出せとも殺せとも吐くこともできず、モニタ越しに映る交戦状況だって十全には見えていない。
 なんだ。わからない。出してほしい。でも、出て行って、どうやって、何を? 乗機も新兵器もない。乗れば何も考えなくていい。これ以上ないくらいに楽だって、希望だって、夢だって、そう聞いていたのに。わからない、教えてほしい。答えがほしい、もどかしい、わからない……!

「キリジィ!!」

 ノイズ混じりの通信が入る。
 聞き覚えのある声だ。

 ――ヒィウゥウウウン……バゴォオッ! バグォオ!!

「きゃあ?!」
「そんなに叫ばなくても聞こえてるが」

 音を切り裂き、はるか彼方から飛来する赤光。炸裂するキャバリア! 爆発、煙! 荷粒子が寸分違わぬ狙いで次々に友軍を狙撃していく――しかも射手は高所から低所へ、跳躍、水平移動、さらにまた上昇と絶えず動きながら、より多く討ち取れるよう移動を繰り返している。
 そうか。赤い閃光は二つではなかった。射手が動いているから! 誤認したのだ。わざわざなぜそんなことを、何をそんなに急いでいる。遠距離担当が狙われるのを嫌ったか……いや、それだけでは……?

「落とした奴ら全員二度と飛べないようにしてやりなさい!! ノルマ! 通信は切らないこと!!」
「へいへい、了解」
「……オペレーターじゃなかったんですか」
「はっ!」

 いてたまるか、そんな過激なもの。

「さて、ウルリーケ、力を貸しな!」

 量産型キャバリアGW-4700031。白兵戦仕様でありながら、精密動作を可能にするカスタマイズを施された女性(ソレ)はキリジの操縦により躍動する。狙いは赤光に灼かれ、体勢を崩した『殉情の特攻機』だ。ボディブローの如く掌底を叩き込み、浮き上がった体にもう片手でクローを突き立てる。外科手術の如きデリケートな作業だが、キリジにとっては「多少面倒」な程度。それも面倒なのは、次から次へとノルマが課せられる、スピーディーな作業との両立という点だ。ノープロブレム。

 一方の――八面六臂。

 空中に足場があるような動きで駆け回る機体の中で、操縦桿に齧り付いている陽は悲鳴をあげる機体に向けて張り裂ける声をあげた。

「赤雷号!! もう少し、私に付き合いなさい!」

 《オーヴァドライブ》――全武装を出し尽くしながら高速飛翔する、消耗度外視の切り札。それをこうも長時間、多対象に向けて放ったことは訓練でもない。
 知ったことか。
 手を上げて、恨めしげに、首をもたげて、恨めしげに、一矢報いようと、恨めしげに、どいつもこいつも希望を奪われたその怨念を込めて、向かってくる。命のエネルギーそのものを破壊力に変えて、突撃してくる。
 知ったことか。
 希望を奪われたら生きていけないとか、誇りある死だとか、歌姫は聖人だとか、新兵器で全て解決するとか、生きていたって何も報われないとか、どうせただ生きているだけなら命を使いたいだとか、苦しみながらどうして生きなきゃいけないんだとか、楽しいこと都合のいいことだけで生きていたいとか、早く解放されたいとか、全部酔っ払いの戯言だ。全部聞き入れてやっただけ感謝してほしい。奪わないとは、言ってない。そもそも自分の話か歌姫の話ばかりで、聞いちゃいやしない。
 陽は思う。私は、知っている。
 「だから」恨まれる筋合いもないし、死にたがりの信念なんか知らない。何より、私には抑止できる。止められる。そういう風に、できている! 自らを犠牲にする事が夢だの希望だの宣うのなら、それらを奪い去る。決めたのだ。だから宣言した。

 強い「私」には、その責任がある。
 責任は、気持ちは、言葉にしなければ。

「あああああっ!!」

 絶唱。陽は吼えた!

 よく見ろ。
 そして、もしどこかで『死に損なった』のなら、黙って聞け。希望の光に目を眩ませたって、言葉なら届くのだから。

「よく見てなさい! 『戦う』ってのは……こういう事よ!」

 赤雷号の前に、内から膨れ上がった特攻兵が立ちはだかる。
 組み付き、その腕だけでもへし折らんと肉薄する。

「うおおぉおおッ! 万歳、歌姫様万歳ィイッ!」

 白熱し、明滅し、膨張して。そして、その顔面を小銃の接射で吹き飛ばされた。また他人のノルマを奪ってしまった。何をモタモタしている。急がなければ、もうこんな酔っぱらい達に長々と付き合うのはごめんだ。『死に損ない』にしてやる。全員、残らず、立ち塞がるもの全て! 全て!!

「次!」

 ――ドゴォオっ……ずずぅううん……!

「す、すごい動き……!」
「あんたがわざわざ弱点まで話してくれて助かったぜ」

 呑気な口調に、シニカルに答える。
 未だ座と、そこで敢闘するキリジに引っ付いたまま女軍兵、もう脱出するタイミングを完全に逸してしまっていた。
 当初こそウルリーケの振動が止まるたびに恨み言の一つでも呟いていたが、オレはギバみたいに機嫌で動いてるワケじゃねぇ、「死に、損なっても損なわなくても」いいワケ、と言うと、借りてきた犬のように大人しくなった。
 キリジは直感していた。出会った時の濁った瞳、やけに方向性に乏しい妄信的言動、先程のいざ放り出された時のいかにも死にたくなさそうな未練のある言動。何かに思考をコントロールされているか、さもなくば都合のいい妄想を信じ込まされていたか。いずれにせよ、ロクな状態じゃない。

「私は……私は、なにを……見ていたんでしょうか」

 あんなに鮮やかに見えていた世界が、今はこんなにも色褪せて見える。希望に満ちた戦いが愚行に思えてくる。歌姫の鈴の鳴るような慈しみある声は、今だってずっと脳内でリフレインしている。この二人には聞こえてこないらしい。きっと「戦って」「生きて」いるから。
 私は、まだ死んでいないだけだ。目的があったから生きていたようなものだ。それでも、早く死んで目標を達成しなければ、とも、もう思えない。口をついて出てきた疑問だって、まるで自分でない何かが口を借りて喋ったようなものだ。まるで自分自身に何かを言い聞かせる、他の誰かがいるような。
 この長身の「傭兵」は答えをくれるだろうか。答えさえあれば生きていけるのに。正ければ生きていけるのに。正しいですよ、と言ってもらえれば生きていけるのに。

「さぁな」

 ぶっきらぼうに「答える」。まるでわざわざ答える必要なんてないだろうとでも言いたげに。

「忘れちまえよ。今朝まで見てた夢なんて」

 あまり嬉々として夢の話ばっかされっと、どんな顔して聞いてやったらいいんだかわかんねぇ、と。

 女軍兵――少女ウルリーケは頷いて、刮目する。己の知らなかった「戦い」を、奇しくも、同じ名を冠する機体、量産機ウルリーケの中で。
 希望を奪う者は、その姿で語る。語り手がいれば、聞き手もいるだろう。「戦い」は終わっていない。……伝えなければ。ごめんなさい。奪われた私は、もう同じ夢は見られない。頭の中に鳴り響く、喧しいほどに語りかける歌声。今までは心地よかったのに。この「傭兵」と「オペレーター」の言葉に今は少しでも耳を傾けていたい。

「ルフ様は、お一人で向こうへ、ここから北東へ行かれました。……お願いします」

「だそうだ。聞こえたよな? ギバ」
「遅い!! 先行するわよ!」

 見上げた空を、真紅の残光を尾にして駆ける一騎。フルスロットルの彼女を追うのは、それこそ骨だ。
 ノイズ抜きにしても、流星のように雄々しくも華やかな光は見たものの心を奪うだろう。
 操縦桿を握り直して、キリジは一度周囲を見渡す。散開した猟兵側友軍の戦いは続いているようだ。とはいえ奇襲戦である。そう長く続くものではない、ここは足並みを揃えるよりとっとと敵の頭を叩くのが先決。何より、ギバばかりに無理はさせられない。
 ――この即興曲の出来栄えが如何なるか、見届けに行くとしよう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

朱鷺透・小枝子
【WIZ】【渡り禽】
自分の敵は、やはり人ではなかった。
敵は、マシンだ!だから、殺してはならない。死なせてはならない!

デモニック・ララバイに搭乗操縦。

ジェイ殿のUCに合わせエィミー殿と示し合わせ、
ララバイで楽器演奏【陽月光】を発動。
推力移動で移動しながら、事前調査で得た情報を元に敵機を破壊、
再構築で爆破機能や奈落を機能停止にし、搭乗者を摘出する。

催眠術、ララバイの音で歌姫の声を繰り返し再現する。
『エヴォルグは特殊な生体キャバリア。かのキャバリアが父を殺害した。私の中の憎いという気持ちが叫ぶんです。父を奪ったキャバリアを許すな』
正気に戻った者達に広める。この狂気の大元、歌姫を狂わせる元凶を。


ジェイ・ランス
【WIZ】【渡り禽】連携、アドリブ歓迎
■心情
OKOK。裏でオブリビオンマシンが糸引いてたわけだ。
この熱狂も全てがその伝播だとするなら、話は早い。その伝播を止めて、正気にすればいいだけだ。

―――Operation:Dreizehn_Schwarz_Löwe Lauf.

夢の時間は終わりだ。
頼んだぜ、エィミーちゃん、小枝子ちゃん!

■行動
生身で基地上空に"重力制御術式"にて陣取り、特攻機が起動する前にUCを先んじて展開(先制攻撃)、兵員のオブリビオンマシンによる熱狂を取り除き、正気にさせます。
自身は重力障壁(オーラ防御)で防御態勢を取っておきます。

熱病は、早いうちにワクチン打っとかないとな。


中小路・楓椛
【WIZ】
【渡り禽】

ニンゲンが無駄に死ぬのを避けましょうか。

他メンバーの行動に合わせ【ばーざい】全技能行使、【神罰・呪詛・限界突破・ロープワーク】併用でUC【アトラナート】起動、銀の蜘蛛の眷属を多数召喚。

蜘蛛の皆さんで網を張りキャバリアの動きを止め、エーテル超強化した超振動する光糸でコックピットの外部を切り飛ばし中の人を搬出。
精神干渉で暴れるならエナジードレインする蜘蛛さんに貼り付いて貰い生気を吸って沈静化(強制)。

同時に自律稼働する【クロさん】に【谺】を召喚装備、救出後のキャバリアを稼働不能となるよう中枢ごと破壊して回って貰います。
ニンゲン要らずの動く爆弾となる前に処理しておくのが肝要です。


エィミー・ロストリンク
【WIZ】【渡り禽】
このまま無謀な特攻をさせるわけにはいかないよ!
軍人さん、偽りの希望の犠牲にはさせないからねー!

キャバリア・アカハガネに搭乗して参戦
ジェイくんの先制に合わせて行動し、UC「大海を制する姫君の縛鎖」を発動させてメガリス『鉄鎖ドローミ』を伸ばして殉情の特攻機を複数拘束
動きではなく、UCの自爆機能を封印して動きを止めた後に、機能の要である頭部と首部分をバーニングナックルで撃ち抜いて破壊
その後にコックピットにいるパイロットを確保して救出していく

事前調査でコックピットの位置を把握しているので、そこは攻撃しない
ちょっと荒っぽくなったけどごめんねー! でもしっかり助けるから安心してね!



 誰しもがわかっていたことではあるが、誰も、当人さえも、制止はしなかった。危険だから、といって、プラン変更を、とは言わなかった。
 自棄ではない。これは信頼の形だ。決着をつける――六十秒で、戦場を掌握する。

 愛剣"ツェアライセン"のトライデカゴンが空中キャンバスに幾何学模様を描いて、戦場を俯瞰する遥か高高度に陣取るジェイ。ここはいい。生身でいられるギリギリの高さから、振り下ろしたるは「概念兵装」。現象よ、理よ、斯く在るべし。破断するモノ、その一振りがおよそ五秒、邪なる企みを無に帰す――!

「本当なら、黒幕相手に取っとくべき……だったよな?」

 自問する。戦術と戦略的価値を異にする、しかし与えられた役どころに忠実なのが自身の優れた箇所だ。感染源相手にはまた別に、やりようもある。黒き獅子の牙は、一本だけではない。
 ならば、なればこそ、今は!

「夢の時間は終わりだ!」

 幸せな夢から覚めたのか、悪夢から覚めたのか。刹那、戦場がどす黒い感情に包まれる。
 それは怒りであった。偽りの希望を担わされたことへの。騙されたことへの。娘の名を騙ったことへの。新兵器など最初からなかったことへの。
 それは諦念であった。空など取り戻せないことへの。英雄の不在への。抗おうにも棺桶の中に閉じ込められていることへの。心が折れた証左だ。
 それは恐怖であった。自分が死ぬことしかできない身であることへの。よしんば生き残ったとしてその後の仄暗い生涯への。逃げられないことへの。

「うへぇ……」

 舌を出す。パニックになることは覚悟していた。でも、まさか、いざ自身の意志を取り戻したらその責任を歌姫に転嫁するとは、ふてぶてしさここに極まれりだ。
 英雄の名を騙った女狐が、できもしない作戦で扇動し、多くの命を奪おうとした。その構図はしっくりくるし、何より、真なるカリスマであったところの父ブルクドルフの名には傷がつかない。最後に消えるのは歌姫だけ。しかも、自決用の「奈落」は当然彼女も持っているだろう。賢しいくらいに上手い手だ。だからこそ、げんなりする。
 そんなことに知恵を働かせるやつらに、可能性を見せるのが「渡り禽」の責務だ。

「これしかないんだ。頼んだぜ……!」

 混沌としたこの場を悠然と飛ぶキャバリアたち。

 まずは異貌の巨躯。
 カメラアイに睨まれれば殉国の精神を持ち合わせようとも身動きひとつできない。その眼光に何やらの特異性を見出そうとすれば、それは素人のかかる罠である。罠を仕掛けるのは蜘蛛。何者をも逃れえぬ束縛……解けることのない戒め、愚者を虜にする網。鉾を指揮棒のように振るうと、面白いようにキャバリアたちを絡め取り、地面に縫い付けていく。

「暴れると余計に絡まりますよ」

 ひょこりと物陰から顔を覗かせる楓椛。キャバリアをあえて自律稼働モードにしてトドメを任せ、自身の霊力を以って被害を最小限に防ぐ。元よりニンゲンのつまらない死を減らすため、否、ゼロにするためにやって来たのだ。限られた時間で効率よくやるには、手を増やすに限りますね、と笑う。
 この苦境で、笑ってみせる。

 ――ビィイイイン!! バゴ! ガコッ……!

 その必死さを笑うつもりはない。

「ですが、興奮しすぎというのも一考ですね」

 青い奔流が目で見てわかるくらいにぎゅんぎゅんとエネルギーを吸い取り、なお恐慌状態に陥る軍の人々を宥め……鎮静する。黙って話を聞けるならともかく、恐怖に怯えるものはこうして寝かしつけるに限る。心理学の一説では、蜘蛛の夢を見ることは母なる存在の束縛から逃れるべき時がきた、という暗示があるそうだ。ならば光糸を放ち、その牙でじゅるじゅるとエネルギーを吸い上げる蜘蛛も、希望の使者としの側面がないともいえない。
 多少の荒療治? ニンゲンいらずの動く爆弾に乗ったままよりかは幾分かマシだろう。せいぜい夢見が悪くなるだけだ。そして夢見は今の方がよほど悪い!

 また、深紅の巨腕も同様に行動を開始する。
 明らかにその体躯以上の質量のある鎖を引き伸ばして、貫く。ガタガタガタと不安定なフォルムは、複数の鎖に拘束され貫かれ、引き摺り回されるとより一層心許ない影を地に落とす。ぼたぼたとオイルのような液体を吐き出し身震いする姿はまるで生き物のようだ。無論のことそんなことはない。自爆するようにインプットされた機体が、その機能そのものを封印されたことで不安定に鳴動しているに過ぎない。魚が泳ぐことを封じられた、みたいなものだ。

「どんなもんだーい!」

 がしゃがしゃと忙しなく動かし回すのはエィミーだ。乾いた唇を舐め、むふーと自身に溢れた表情で、次々にターゲットを移しては虜にしていく。行動には一切の淀みや抵抗がなく、時間がないことを抜きにしてもスムーズでスピーディーだ。心なしか「アカハガネ」もイキイキとしている。
 死に体の殉情の特攻機、対して動けば動くほどに使命を全うせんと邁進するエィミー。その原動力は軍人さんを犠牲にしたくない! という純粋な思いだ。

「こうしてみると……これ、結構ドキドキものなんですけど!」

 「イフリータ」。衝撃に呼応して爆発的に発熱する、ブラストナックルである。彼女は火力への信頼とロマンを込めてバーニングナックルと呼んでいるが、しかし流石にこれを人命救出のために使ったことは、ない、と言っていい。しかもこれを爆発物に対して打ち込むのだ。

「ええい! ままよ! できた!?」

 ――ドグッ!! メリメリメリ……!

 頭部、そして細い首周りの部分を掌底で貫き、完全に粉砕する。いかに爆発を封じていても、導火線に火を注ぎ込む心地。感嘆するのも無理はない。
 おっと感動に震えている時間はなかった、ぽいぐしゃと手際良く残骸を丸めると、抜き手でコクピットを破壊しなかったように無論のことパイロットを傷つけず、救出、手のひらに確保していく。

「うぅううう……ひいいー!」
「ちょっと荒っぽくなったけどごめんねー!」

 諦めていた。この籠のようなコクピットに閉じ込められて、当然理性と正気を取り戻してしまって。一気に体の熱が冷めていく心地の中で、狂気が愛おしいとさえ思う。自分を呪った。歌姫などと都合のいい存在に踊らされて、このザマだ。そんな顔が見えた。
 ならば……ならば! そんな不安は笑い飛ばしてしまおう。今すぐには、空を取り戻すなんてできないかもしれないけど、それでもいつかは。その時までは不安がってる暇なんてない。蹲っていてはますます世界は遠のくばかり。近道なんてない。誠実に、着実に!

「もちろん、ウソはダメだけどねー!」

 そう。道のないところに案内しようと、そんな心根では、先導する資格はない。

 そして、黒白の音響兵器が躍り出る。
 空中に波紋を広げ、威風堂々と「喚き散らす」。

「マシン共……」

 コクピット内で、小枝子は血の滲む声で呼んだ。どいつもこいつも敵だ、敵、打ち倒すべき敵!
 その敵に無視されるなどあってはならない。アレは私が倒すべき存在! 聞け! そして消えろ!
 魔女帽のような独特なヘッドを傾けて、四肢から殺戮音叉を撒き散らす。反響を促す媒介物としての役割を持ちながら、これ自身も棘として接触したものを拘束する。

「壊す」

 超振動とはそれだけで明確に破壊力を持つものだ。鋭利な棘の突き立った状態で、なおかつ爆散それだけを目的にした貧弱な機体ならば、抵抗の余地なく蹂躙破壊できよう。これを戦いと称するのは公平な見地に欠けている。
 何が怒りだ。怒りに身を任せこの機体に乗り込み、怒りによって身を滅ぼす。なんとか繋いだ命もまた何かに怒らなければ維持できない。

「……」

 左目に手を当てる。
 そんな温い炎に、燃やせるものなどないと。

「ジェイ殿……エィミー殿……」

 そして。ああ。
 自分には、このマシンたちを黙らせるだけの力と、その機会を託してくれた仲間がいる。戦って、戦い続ける戦いの化身に、夢も希望もない戦場にて、人を救う機会を与えてくれる。

「こういう使い方も、ある」

 ――ザザっ……ザザ……!!

『エヴォルグは特殊な生体キャバリア。かのキャバリアが父を殺害した。私の中の憎いという気持ちが叫ぶんです。父を奪ったキャバリアを許すな』

 デモニック・ララバイには「喉」がある。
 魔音、催眠術、それらを視認・知覚させることができれば、単なる信号も真に迫ったメッセージに変容する。怒りの矛先は、こんなところか。チューニングは時間がないため甘いが、自失した兵士たちには多少ノイズ混じりの方がかえって浸透するだろう。棒読みより、少し震えていた方がより迫真だ。だからこれでいい。これがいい!

「この声は……歌姫様?」
「なんて嘆かわしい……」

 ならば怒るべきは、キャバリア。どれほど蒙昧で知識に乏しかろうとも、そのエヴォルグが呪われていることくらいは察しがつく。カリスマ父娘の裏で糸を引いて、この小国家を混沌と混乱の渦に叩き込んだ忌むべき敵。それは、誰だ……?

「歌姫様!」
「私たちは生きます……希望が、かえって苦しませるなら」

 ――ブゥン……ガオッ!! ギャリリリィ!!

「目は覚めたな。そう。敵は、マシンだ! だから、殺してはならない。死なせてはならない!」

 戦鎌を舞うように取り回し、コクピット部を切断摘出する。他の二人ほど精密動作に長けてはいないが、誘爆の可能性を絶っているため、やりようはある。……そろそろ指定した時間を迎える頃だ。
 だが、この怒りはせめて、手近な特攻機にぶつけなければならない。何の因果がどこで絡み合ったのか、これは、こういうものがあるから、いるから、戦争はなくならないし国も滅ぶ。国を滅ぼすために運用されている兵器なのだ。件の「新兵器」も含めて、存在するものは壊さなければならない。
 まるで仇敵だな。自嘲気味に小枝子は笑う。
 そんな可愛らしいものではない。もっとどす黒いドロドロとした、言葉で表すべきだ。一筋縄で倒すことのできない、不倶戴天の宿敵。存在自体が相容れない。

「……」

 そのコンセプトが見ている自分をも狂わせる。どこからあんなものがこの国で湧いて出た? 人的資源かそれに代わるものがよほど余っているか、技術が確立していなければ成り立たない兵器じゃないか。命を使い捨てるつもりでなければ、この量の特攻兵器を用意するまでの技術体系自体が今の境地に辿り着かない。本来なら人の方が貴重なはずだ。なのになぜ一般化され、特攻機が安価に手に入る。
 そう、あのタイプの機体に乗り込むのは、失っても惜しくない命。

「……」

 脳裏に嫌な光景がフラッシュバックする。何度も見た、その度に血の涙を流しそうな、しかし慣れないシーン。クローン、という言葉がすんでのところで出かかって、止まる。まだ戦いは終わってはいない。笑ってる場合じゃないだろう、と囁く声は、数多ののし掛かる怨嗟は、自分のものじゃない。今すぐ叫び出しそうになる喉を押さえると、操縦桿を握れない。もどかしくて、ままならない。
 でも、ままならないのが人の生き様だ。少ない手札で、足りない腕で、色々全部やらなきゃいけないのが人間なのだ。……命は、ひとつだ。
 だから怒ったのだろう、自分は。声を上げそうになって、それで自制することができた。まだ黒幕が残っている限り、この怒りは冷めやまない。

 ――六十秒、経過。

 友軍が集合し、累々たる残骸を踏み崩しながら、レーダーと目視で動体を確認する。戦果は上々といったところだろう。歌姫は、ギリギリ追尾できる戦域内に、未だいる。こうしてはいられない。

「こんなところでしょう」
「うーうー、自律稼働するクロさん……自律稼働、自律稼働、あ!」
「……」
「何ですか?」
「オブリビオンマシンが自律稼働する可能性もあるよね! 歌姫さんはそれをどこまで考えてるのかなー?」

 ふと、そんな会話が荒涼の戦場を過る。
 そんなこと、と楓椛は言いかけて、考えた。クロさんに神器が備われば、並のキャバリア相手なら無人でも無双できる。それほどの力があるとは、露にも思うまい。オブリビオンマシンは想像を絶する。仮に、もしもそこまでイメージが膨らませられる人だらけなら、父がオブリビオンに殺されたなんて話ももう少し受け入れられているはずだ。見積もりがどうしたって甘くなる。
 ……よもや自爆を成功させられるなんて、もう思えなかった。

「行きましょうか。ニンゲンが無駄に死ぬのを避けるために」

 戦いに終止符を打つべく、渡り禽たちは高く飛び立つ。目指す目的は、ただ一つ――!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

アリス・トゥジュルクラルテ
アリスは、すぐに、子守唄を、皆、助ける、という、祈りを、込めて、歌唱、する、です。
キャバリアは、搭乗者の、意識が、なければ、動かない、はず。
動かない、だったら、自爆も、できない、です。
仮に、自爆、したと、しても、子守唄の、結界で、守る、しながら、回復、して、死なせない、です!

敵の、攻撃は、防御の、結界術で、防ぐ、です。
防げない、だったら、三本角頭の、動きを、視力で、よく、見て、見切って、当たる、ぎりぎりの、タイミングで、逃げ足で、避けて、地面や、壁に、攻撃が、当たる、ように、する、です。

隙を、ついて、ロクローくんに、コックピットの、扉を、壊して、開けて、もらって、搭乗者を、助ける、です。


賀茂・絆
元凶さえ壊せば全ては平常に…なればいいなあ、デス。
将来の商売のため、ワタシもちょっと頑張りマスカ…。

UC発動!くっ!ワタシがつい商売魂発揮して売りつけてしまったヤクのせいで敵の能力が6倍になってしまったのデス…!
…猟兵でもない上にしかも狂い気味の人たちがこんな急激な強化に対応できるとも思えマセンガ。ちなみに薬の本当の内容は【薬品調合】で作った遅効性の睡眠薬デス。昏睡しちゃえばそのままグッナイ!デスヨ。

パイロットの意識を奪ったら【結界術】でパイロットを可能な限り保護しながらコックピットから取り出しマス!可能な限り全員!

ったく!もう!死にたがりの馬鹿につける薬は流石のワタシでも作れねーんデスヨ…!



「〜♪」

 鼻歌混じりに、カツコツとヒールを鳴らしてひょいひょい瓦礫を乗り越えながら闊歩する。ひらりと舞い降りた先で、一人の背中に声をかけた。不用心にもキャバリアを降りている人物がいたためだ。

「精が出マスネ」
「売人さん」
「違……わないデス。語弊があるのデスヨ!」

 絆とアリスの取った作戦は奇しくも同じプランであった。すなわち「キャバリアの操縦者が意識を失えば、自爆機構は作動しなかろう」ということである。予想通り、たしかに周囲に自爆するものはいなくなった。作戦勝ち、と言えるだろう。

「途中、もの凄い、速度で、動く、機体が、いた、です。どう、なるかと、覚悟、した、です」

 瞳を閉じれば思い出す。交戦開始してからほんのわずか、カタログスペックからは想像もつかない膂力や速度を引き出して暴れ回るものがいた。本来なら限界を迎えて即座に爆発するはずのソレが、一向に起爆するそぶりを見せず、やがて崩れ落ちていく。結界術で中に囲い込み、跳び回って窪んだ地面や建造物の壁に誘い込んでいたアリスは首を傾げたものだ。一向に自爆しない?

「その節は申し訳ございませんデス! 事前にヤクを配っていたのデスヨ」
「なるほど、です」

 たしかにそんな話をしていた。本当に言われたとおりにヤクを配って処方したのだとしたらなかなかに素直、美徳と言っていい純粋さと言えるだろう。あるいは、他にも多くの支援を受けていたゆえにそこまで警戒を払わなかった。いずれにせよ、リミッターまでの可動閾値を多く確保し強度を上げて自爆を防ぎ、やがて内部で昏睡させる。その作戦は想像以上の結果をもたらしたと言えるだろう。

「そういえば戦場に歌が響いてたのを聞いたのデス。まさか歌姫の歌だとは思いマセンガ」
「アリスが、子守唄を、歌唱、した、です。本当は、ルフさんと、コーラス、するのを、希望、した、です」
「子守唄デスか。それは睡眠導入剤としてはうってつけ! ワタシたちの作戦勝ちといったところデスカ!」

 そのままハイタッチしそうな勢いで歓喜する絆。いや、そんな作戦はない、と突っ込むことのできない奥ゆかしいアリスは、額に汗してはにかむだけだ。
 作戦は成功した、として。
 後始末がまだ残されている。この戦いに参戦した参加者の責務とでも言いたげに、倒れた機体のコクピット部によじ登ると、ちょいちょいと何かを呼ぶ仕草をする。

「ロクローくん!」

 ――にゅっ!

 どこの物陰に潜んでいたのか、白鱗の大鰐がヌッと姿を表した。鼻で突くような動きで接合部を観察している。

「この子は……?」
「アリスの、大切」
「そういうことデスカ」

 キズナさんは察する能力もあるのですと、慈しむ表情を浮かべてその様子を絆は見守る。やがてがばっと大口を開けると、ダイヤモンドのように堅牢な歯を突き立てて、その勢いのままバリバリと閉じたコクピットの扉を破壊してしまった。

「ありがとう。これで、救出、できる、です」
「オマカセを! おはよーございマス!」

 ずるずると力ずくで引っ張り上げる。うさ耳とバニーの共同作業に、狂気のまま眠りについたパイロットは、驚愕の覚醒をする。ここは月か? それとも自分はまだ夢を見ているのか?! 頭に疑問符をつける彼を自走担架に叩きつけると、しばらくおとなしくしててねとヤクをもうひとつまみ。
 多重に掛けられた結界術の影響からか、夢の世界への誘いは非常にスムーズに、尚且つスピーディーに進んだ。
 爆発を止める、その作用が働く前に犠牲になってしまった機体へのケアも忘れない。医療用具箱を持ったアリスは大忙しの様子で右に左に駆け回っている。軍に衛生兵がいるのといないのとでは被害規模は大きく変わるものだが、優れた治癒力を持つアリスの存在は殊更大きいと言えるだろう。

「こちらの薬も使いマス?」
「…………」
「これは本当に医薬品デスヨー! ……多少高くつきマスガ」

 値段なんて時価、その時々の供給量で変わるものだと、いかにもそれっぽいことを言ってちゃっかり懐をあたためようとする。絆の口調が独特で、いかにも違法な薬物を取り扱ってます、という胡散臭さに加え、なまじ効果が高いだけに、真っ当なのか如何なのかその場で判断つかないのが曲者だ。意識あるものなら、とりあえず高くても即効性があるなら、とつい購入してしまう。
 軽症のものは立ち上がらせて、ルフの名前をチラつかせつつ救出作業に没頭する。

「ひとり、でも、多く、助ける、です」

 自分の大切な人たちなら、この窮地において誰かを見捨てることなんてしないだろう。疲労しても、大変でも決して手を止めることはしない。包帯を巻いて薬を塗って、声をかけて立ち上がらせる。動けなければロクローくんに乗っけて運び、他の動ける人たちと連携する。これが繋がりというものだ。
 一方で、絆はどこか安堵していた。起き上がってきた者たちに存外、理性と呼ぶべき代物が残されていたからだ。馬鹿につける薬はない、は持論である。仮に軍兵たちが自決用の爆発物でも持っていたら……と思うと、ゾッとしない話である。数々の薬品は商売道具でありながら、コミュニケーションツールでもある。話が通じるから商売ができ、商圏が広がるのである。言葉、意思疎通なくして、信頼はない。馬鹿は苦手だ。時間を際限なく使うところが特に。あと、周りのことを考える余裕がない奴も。

「そういうやつには実力行使も、と覚悟してたのデスガ、いやはや」
「?」
「こっちの話デス」

 案外こういうパートナーが商談の際にいてもいいのかもしれない、それもまた繋がりだろうか、と夢の広がる話を想像してみる。
 プランを具体化するには、まず目の前のタスクをクリアしなければ。アリスもまた、現実に引き戻すように不安げな声を上げる。肝心カナメの「彼女」の背中はまだ掴めない。

「ルフさんの、姿が、見えない、です。まだ、近くに、いる、はず」
「こうしちゃいられマセン! 彼女からも負債を回収するのデス。ビタ一まけマセンヨ」
「負債、です?」

 実はヤクはツケで払わせてた、なんてことでもなさそうだ。絆の言い回しは真に迫っているが、時々本質を外したような聞こえ方をする。

「言い換えれば投資デスよ。元凶さえ壊せば全ては平常に…なればいいなあ、デス。万事将来の商売のため、ワタシもこうして骨を折っているわけデス。あなたは?」
「アリスは……」

 アリスは、両手を胸に当てる。
 自分に与えられた力は、愛と生命だ。すでにこの戦場において愛する気持ちは途絶え、生命がゴミのように打ち捨てられつつある。絶望的な状況下でできること。それは自分自身が他人を愛することだ。自分の真心を伝える。他人を受け入れ、その本心を引き出す。その結果は、たとえ悲惨なことになったとしても、伝え続けなければならない。一方通行だから意味がないと決めつけては、それこそ相互不干渉になってしまう。
 手を差し伸べ、握り返されるのを待つのも、愛だ。

「アリスは、ルフさんに、生きて、ほしい、です。ルフさんの、歌を、聞く、したい、です」
「それはきっと価値あることデスヨ。今度こそ、その思いをぶつけマショウ! 届くはずデス!」

 愛と、商売と――。
 奇妙に絡み合った思惑を、雷鳴がシャンと成形する。時は金なり、喋る時間はもうない。
 その落雷を引き裂いて、再び黄金の「別雷大神」を呼ぶと、彼方に待つ歌姫の元へ向かう。アリスの汎用機も随伴すると、空の特攻機を踏み台にして駆ける。
 ――それぞれの思いを成就せんがために。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『エヴォルグ玖號機『Diffusion』』

POW   :    狂機拡散『Trance』
【機体からキャバリアに侵蝕する鱗粉を放出。】【キャバリアの中枢を侵蝕し、暴走させる。】【人にも高い毒性を持ち、自己進化する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    黒殲拡散『Diffusion』
【感染侵蝕し体を黒く染める鱗粉を込めた刃】で攻撃する。[感染侵蝕し体を黒く染める鱗粉を込めた刃]に施された【理性低下、空気感染、凶暴化、衰弱】の封印を解除する毎に威力が増加するが、解除度に応じた寿命を削る。
WIZ   :    国死拡散『Lost paradise』
【機体から放出される黒い鱗粉】を降らせる事で、戦場全体が【高い毒性を持つ瘴気が蔓延する死の土地】と同じ環境に変化する。[高い毒性を持つ瘴気が蔓延する死の土地]に適応した者の行動成功率が上昇する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はビードット・ワイワイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ルフ、こと少女ペトラにはキャバリア操縦の知識や経験はほとんどない。天才カリスマ軍人の父親が、彼女を意図してキャバリアから遠ざけていたからだ。全ては危機を察知し未然に防ぐための処置。オブリビオンマシンに気づいていた、わけではないだろう、勘のようなものだ。……しかし、もっとも遠ざけたかった「エヴォルグ」――玖號機「Diffusion」に彼女が乗り込んでしまっているのは、なんとも皮肉な結果だと言えた。
 すでに新兵器奈落を本当の開発意図、すなわち「危険なキャバリアの破壊」のために装着した彼女は、追い縋ってきた猟兵に動揺する。本当に、どういうことなのだ。関係ない人を巻き込んでしまうことは覚悟していた。己が言葉に実際の意味以上の力を感じていた。しかし、願ってもないことだ。キャバリアに乗って追いかけてくるだなんて。否、本当は心の底では、願っていたのかもしれない。

 ――ZAZAZA……z、やはり、キャバリアは、人を狂わせ、世界を破壊する……!!

 そう。そうだ、そうなのだ。やはりキャバリアこそ、悪!

 片目を充血したように発光させ、半喜半狂の奇貌を晒しながら、通信を接続する。その姿は人目に晒すのも悍ましい、コクピットに磔にされたような、無惨極まりない姿で。

「来てしまいましたか、この自爆公演に。私めに付き合う必要などなかったでしょうに。…………やむを得ません。悪魔のマシンへのレクイエムです、ご静聴を」

 出力は順調に推移している。あとは起爆を待つのみだ。
 しかし、どういうことだろうか。機体から放出される黒い鱗粉こそ際限なく増えていくが、肝心の機体強度を超えるほどには至らない。焦りから操縦桿から手を離そうとして、さらに恐怖した。

「どうして、操縦桿から手を離せないのですか?! く……こんな身体! 言うことを聞いてください! ぐうぅっ……うぐ……ぐ、ああ゛あ゛あ゛ッ゛!!」

 ――ブヂィ!! メリ゛ッ……ぼ、ぎん!!

 肉音。生爪を剥ぎ、操縦桿を握る指をもう片方の手で無理やり逆関節に折り曲げても、片手は確かに固く握り込んだままだ。傷ついた手をさらに痛めつけても、ますます強く握り込んで離すことはない。
 コクピットの中をぴしゃぴしゃと鮮血が滲む。生身の人間が意識を保ったままでいられる痛みではない。でも死なない! 鮮烈に過ぎる苦しみが、彼女の視界と使命を一層明瞭にさせるのだ。

「ギ……ひっく……ううっ゛ぐ……こんな、痛みなど……私が強いた――ァア゛ッ゛!! ひいっヒッ……苦しみに、く……比べれば……! 離れ、て……指を捥ぐか……腕を斬り落としてでも、止めてみせます……ううぅあァア゛ッ゛!!」

 鮮烈にして悲痛な、魂の雄叫びだ。その声を誰かに聞かせただけでも、彼女が「歌姫」を名乗った意味もあったろう。
 その声に呼応して、一層黒き鱗粉の濃度が増していく。侵蝕細胞が搭乗者を毒牙にかけたその時、絶望はすでに始まっているのだ。人間一人がとても持ち堪えられるものでは、ない。

 ゆえに――絶望する。

 ざ、ざ、ざ、と、ノイズが、羽虫のように視界を、喉を、覆った。

「はぁ……はぁ……そう……だったんですね。エヴォルグ、あなたが最初から……望むのは生体ユニット……! 私たちは必要としなかった……なんて、なんでわかってしまった。嗚呼……キャバリア! なんて、恐ろしいのでしょう……!」

 最終楽章は悲鳴と共に始まる。
 その野望を、叶わぬ希望を、打ち毀すのは、誰だ――?
グラディス・プロトワン
アドリブ等歓迎

彼女の希望通りに例の兵器を起爆させれば事は済むが、それではあまりにも寝覚めが悪い
マンフレッドが守りたかった娘を見殺しにはできんだろう

しかしあの様子ではコクピットから引き剥がすのは無理だな
マシンそのものを停止させるしかあるまい

あの黒い鱗粉も取り込んでしまうだろうが、奴もマシンであるならエネルギーを奪えば動きが鈍るだろう
侵蝕を受けるのは覚悟の上だ
それに黒い鱗粉そのものが奴の正体という可能性もある
もし俺を侵蝕するのに意識が向けば、彼女が手薄になるかも知れない
そうなれば救出のチャンスが生まれる

俺も含めてだが、彼女を助けたいと思っている者は多いだろう?
お人好しが多いな、猟兵という奴は!


朱鷺透・小枝子
【WIZ】【渡り禽】
ドロモス達、奏でろ!!
楽器演奏集団戦術、楽団のビット達で四方八方から敵機を囲み、音の衝撃波で鱗粉の拡散を防ぐ。

ルフ殿、いえペトラ殿!その覚悟は、見事です!!
だからこそ、そのマシンが、赦しがたい!!

デモニック・ララバイを操縦、推力移動、UC範囲内で、敵機との距離を常に保ちながら殺戮音叉の弾幕。
【陽月光】の破壊と、物質再構築で鱗粉の無害化、味方や周囲への感染を治療し続ける。

妨害をしながら観察し、情報収集と第六感で、急所を推測、
瞬間思考力、狙い撃てる隙を、スナイパー、小銃形態の戦鎌で狙撃。

死なせてはならない!こんな死に方、赦さない
治せ、ララバイ!!
接近しペトラを【陽月光】で再生。


エィミー・ロストリンク
【WIZ】【渡り禽】
ペトラちゃんを死なせはしない!
オブリビオンマシンは徹底的に破壊だよ!

キャバリア・アカハガネに搭乗して参戦
ジェイくんと楓椛ちゃん・小枝子ちゃんが鱗粉を無効化するのを確認して、UC「受け継がれる魂の姫君」を発動、108秒間アカハガネの能力を6倍にする

両腕のオルトロスⅡを連射しながら鱗粉を発生している箇所を重点的に弾幕を張って攻撃し、接近してイフリータによるアッパーカットを頭部に叩き込む
さらに力任せに巨大化したベルセルクを振るって、コックピットの上のオーバーフレームを攻撃してペトラ救出とエヴォルグ破壊に努める

絶対にペトラちゃんは死なせない!
ここで壊す!

残り10秒になったら後退する


賀茂・絆
確かに恐ろしい機体デスガ…ワタシの操る神とはちょぉーっと相性が悪いようデスネ!!
降臨するのデス!別雷大神!

金鵄装甲が持つ神威による【破魔】の力は敵からの支配を無効化シマス!侵蝕できるものならしてみるのデスネ!
ま、油断はせずにすぐ掴みかかってエヴォルグの魂を支配し拘束してやりマスガ。これだけのことやっておいて魂がないとは言わせマセンヨ!

ルフさん、エヴォルグの魂をワタシが支配している今あなたはある程度自由と正気を取り戻せていると思いマスガ、あなたの望みはなんデスカ?

ま、聞いた上でそれがどんな願いでもエヴォルグぶっ壊してルフさんは助けマスけど。
この国でのこれからの商売にはあなたの力が必要デスカラネ。


中小路・楓椛
【渡り禽】

空気感染しキャバリアを侵蝕しニンゲンに毒性…ではそれ以外なら?

【クロさん】に【すたりさん】と乗り込み三者相互補完、召喚装備貸与。 偽装解除した【しゃんたくす・ばーざい】全技能行使、【神罰・呪詛・限界突破・封印を解く】併用でUC【にとくりす】起動。 第6王朝最後の女王の逸話を以て狂気山脈の地下より黒きの不定形(ショゴス)を多数召喚しクロさんに耐侵蝕装甲として着装。
初撃をUCで相殺、空間にショゴスを射出し跳躍の足場に。急速接近し物理攻撃乱打と同時にショゴスを取り付かせ暴食。
回避離脱時に【対酸素呼吸系生物無力化弾頭】を叩き込み遅延起爆、生体構造に致命的環境を現出させ行動阻害します。


ジェイ・ランス
【SPD】【渡り禽】連携、アドリブ歓迎
■心情
あれが黒幕、全ての元凶。なるほど、捻りも無く禍々しい。
対象の効果確認。既に被害は出ているが、なれど、これ以上の好き勝手を許す道理もなし。

―――Ubel:Code Edler_Löwe 超過駆動開始。

貴様が好き勝手するならば、"我々"の結論はこれだ。事象に【蹂躙】にされるがいい

■行動
"ツェアライセン”と融合、真の姿となって現れます。
自身は重力障壁の塗膜で防御(環境耐性)、【世界知識】より【情報収集】し、"事象観測術式"にて事象へ【ハッキング】。UCを起動し、対象と対象の放出する鱗粉に逆ベクトルの慣性をかけて,動きと鱗粉の拡大を封じます

…トドメは任せます


トリテレイア・ゼロナイン
ペトラ様、貴女は御伽の騎士に願われましたね
助けてください、と

不肖の身なれどその願い、承りました!

英知をお借りします
我が創造主
(電脳禁忌剣励起・以後電脳魔術フル活用)

鱗粉弾くオーラ防御機体纏わせ剣盾で切り結び
同時に鱗粉●ハッキングし素材構成●蹂躙
生体●医療ナノマシンに●武器改造
搭乗席へ送り込み少女の治療及び●浄化
Oマシン精神干渉の●封印を解き

ペトラ様
空への希望、責任、罪
そんな物、今はどうでも良いのです

お父上のことを思い切り悲しみ、怒った事は?

貴女の敵はキャバリア…機械ではありません
ヒトの心踏み躙る“悪意”です!
さあ、歌って下さい
貴女の心を!

Ⅳを敵機組み付かせ機体放棄
怪力でハッチ破壊し手を差し伸べ


キリジ・グッドウィン
【特務一課】
『ウルリーケ』に搭乗
(生体ユニット認識……攻撃性だけは一丁前にある癖に何故ユニットを必要とする?それでいつだって面倒な事になるんだ)
「ルフ様」のケアなんかは別の誰かがやるだろ。とりあえずぶん殴って大人しくしてもらうか

了解、ギバ。
手前ェの作ったルートでオレが突っ込んで殴り飛ばす。これで本来の仕事ができるってワケだ

鱗粉を吹き飛ばした道を推力移動。攻勢は激痛耐性と狂気耐性で耐え、次が来る前に接敵する。少なくともオレには精神を揺さぶるなんてのは効かねぇな

RX-Aランブルビーストのリミッター解除、張り付きThrobbing Crack!!!!!脳まで揺らして大人しく寝てな!


天城原・陽
【特務一課】

エヴォルグシリーズ…まさか此処でも遭遇する事になるなんてとことん縁があるじゃない
『殺す。』
赤雷号の殺意と自身の感情がリンクする。あの生体兵器は生かしておくわけにはいかない。決して逸る事は無い、感情を研ぎ澄まし、知覚し、感覚へ変える。冷静に敵戦力と使用兵器を分析。活路を見出す。

「キリジ、私が戦端を拓くわ。一撃ブチかましなさい。」

カートリッジ、徹甲榴散弾装填。弾着地点設定。
「オラァッ!!」
咆哮。ダブルファイア。
徹甲榴散弾の爆風で鱗粉を吹き飛ばし、更に追撃の加粒子ビームで直線状の鱗粉も焼き払う。道は切り拓いた。あとは

「行きなさいキリジィ!!」

あんの度胸もないクソお嬢様にお灸を据えてやる


アリス・トゥジュルクラルテ
(自分の腕を切り落としてでも止めようとしたのならば、彼女はきっと邪心で動いていない。悪いのはオブリビオンキャバリアのはず)
マシン、への、鎮魂歌、なら、ご一緒、する、です!

キャバリア、から、降りて、愛聖歌を、歌唱、する、です。
鱗粉と、敵機の、浄化を、試みる、です。
念のため、アリスたちの、周りに、結界を、張って、毒を、防ぐ、です。
医術で、ケガ人の、治療も、する、です。
敵の、浄化が、できたら、ロクローくんに、コックピットの、ふたを、開けて、もらって、ルフさんを、助ける、です。

ルフさん。
悪いこと、した、だから、生きて、ちゃんと、償う、です。
そして、償う、終わったら、ルフさんの、歌、聞かせて、ください。




「誰かが斬り込まなければなりません」

 友軍からの全機通達だ。簡単に言ってくれる、とグラディスは鼻を鳴らす。厳密にはそんな機能はないが、しかしそう溢す気持ちは他のキャバリアにも伝わっているだろう。「ルフ」ことペトラの希望通りに例の兵器……「奈落」を起爆させれば事は済む、が、それさえもリスクを伴い、介錯のいない切腹のような長い苦しみを与えることになる。
 そもそも、破壊(ソレ)がそもそもの依頼内容じゃあなかったか? しかも、コクピットにほとんど同化してしまっている。先ほどと同様切断穿鑿で挑みかかっても引き剥がすことはできまい。
 そこまで考えた上で、先の発言だ。
 ……斬り込む? ハッ。

「ワタシの機体ならうまくいなせるかと。高くつきマスケド」
「こんな時にまで商売の話か?」
「まさか! あなたたちに請求書はきりマセンヨ」

 まあまあまあここはワタシにお任せを、気楽な声で通信する絆。彼女とて、この場にいる猟兵たちと志同じくするものの一人。投資にリスクはつきものだ。あんな黒いモヤモヤに掻っ攫われるなど売人の名が廃る。
 希望だとか、そういう損得勘定度外視の存在ならともかく、明確な害意や敵意で行動するならやりようはある。例え相手が、オブリビオンマシンであったとしても、だ。
 とはいえ油断はできない。互いの強度に加え、オブリビオンマシンは出力増加用の追加兵器と生体ユニットを両方持ち、使い分けられる。作戦において最も困難な人質救出に加え、毒ガスに近い類のものを持ち合わせている。相手がキャバリアでなければ分の悪い交渉を持ちかけられていたところだろう。

「私が皆様の剣となりましょう」
「……なら二人に任せるよ。わたしたちも行こう! ジェイくん! 楓椛ちゃんと小枝子ちゃんも!」
「ええ。あのニンゲンに作用する毒性、試せることもあります」
「……殺せるならなんでもいい、アレを、とっととね」
「はい。マシン、への、鎮魂歌、なら、ご一緒、する、です!」
「よく言ったわ。連携して畳みかける!」

 言い出したという負い目もある。
 白銀の精鋭機体、ロシナンテⅣが佩剣を抜き放つと、天に掲げ誓いを述べる。それは、不退転の覚悟。必ずや切先を心臓部に突き立てるという、騎士の誇りにかけた誓約だ。中破機体にしては重い大役だが、猟兵たちはここで連携をしてみせた。すなわち一つの目標に向けて多面的、かつ連続して仕掛ける。共通の敵を見定め、必殺する。

「ZZZ――ZAZAZA……話は、終わりましたか? こちらもようやく準備が整いました。死の狂想曲を送りましょう、歌い手は私、不肖ルフが担います。早速ですが……」

 仮面状の頭部に隠されたモノアイが、歪な光を放つ。溜め込んだ力を発散する! 紅刃のショーテルがぶくぶくと泡立ち、弾けた泡沫が空気に溶け込むように黒く、黒く黒く――!
 ……瘴気だ。揮発性の高さなのか、そういうウイルスなのか、散布された箇所は一瞬だけ変化はない。しかしその刹那の後、散布されたと思しき場所が原型をなくし黒ずんでいく。押し寄せる津波が大地を押し流すように徐々に、しかし確実に、やがて急速に! 地面を死の大地へと変えていく。スラスターからエネルギーのように毒素を噴出し「浮き上がり」ながら、歌姫は哄笑した。
 彼女は知っている。キャバリアは空中戦は不得意でしょう?

「国死拡散――命名、楽園からの追放。消えてください」

 避けるだろうか。だが外してもいい攻撃だ。どのみち世界は瘴気に塗れた死の大地となる。適応できるのは己のみ。

「我が身こそが希望。ならばそれ以外が絶望に満ちようとも、関係ないでしょう?」

 確信した勝利。瞼の裏に映る、凄惨な光景。

「死ね。この身に宿る憎しみとともに!」
「自分だけ命を落とすような話をしたかと思えば次はそれか。忙しないやつだ」
「なに……?」

 エヴォルグ玖號機『Diffusion』の前に陣取るキャバリア。まるで影そのものが立ち上ったかのように全身黒く染め上がった異様な機体。確かに黒ベースの量産機ではあったが、その要因はひとえに戦闘中に変色したから、である。
 黒には黒を、闇には闇を、影には影を。
 これが力の使い方だと教示するかのように、両手を振り上げてしゃにむに吸収を始める。

 ――ガギガ……ガギィ……!

「どうだ、機体が軋んでいるようだぞ」

 不敵な言い回しをぶつけつつ、その様子をモニタ越しに、つぶさに観察する。いかにもその噴出量は目に見えて収まり、黒き鎧のような形状で纏っていたそれは機体の姿を再び戦場に現出させる。ヘドロに舌を這わせるが如き暴挙だ。あまり長い時間をかけられる余裕はないと言える。
 何より、なんだ? このプレッシャーは!?

「犬の如く首を垂れて舌を伸ばしますか! はは、よろしい。では首以外は必要ないでしょう? 特に、その粗相しそうなだらしない下腹部、目障りです」

 ――ミシッ……ガゴォッ! メキメキッ、ザグンッ!!

「なんだと?!」

 一閃。
 右手を振り払ったように見えた。ショーテルにまとわりついた黒ウイルスが「刃を形成し」その伸びる刀身でキャバリアの下半身を両断したのだ。たまらず体勢を崩す。虚脱感と、浮遊感。何より吸収したエネルギーが暴走し、瞬く間に侵蝕してくる不快感。
 まさか、物理的にこうも破壊力を持たせられるとは、ぬかった。
 歯噛みしてももう遅い。早々にリタイアか。

「だが、まだだ……ウオオォオオッ!!」

 張り裂け、一歩進むうちに砕けていく機体の腕を伸ばし、その刃に掴みかかる。汚染された大地を生む、この得体の知れない怪物の、力を少しでも削ぐ。どうしてこんなことまで、と自分を呪わずにはいられない。まったく、やれやれ。
 だが、いつものことなのだ! これは!!

「お人好しが多いだろう、猟兵という奴は!」
「く……うざったいです、邪魔!! です!」

 纏った絹のような装束が拘束ベルトに変容すると、白き蜘蛛糸のように変わって量産型キャバリアに巻き付き、引き剥がして彼方へと放り投げる。ぐずぐずに溶けていく大地。上半身のみの無惨な姿に成り果てた機体。これで終いだ。まず一つ。
 随分と餌付けてしまったが、何、必要経費だろう。この気だるさの対価は、他の機体を血祭りにあげて晴らすとしよう。そうだ。それがいい!

「……キリジ!」
「わかってるからそう叫ぶなって。美人が台無しだぜ」

 次のターゲットは決まったとばかりに向き直るエヴォルグを前にしていつもの調子の二人組。
 ……ちょっとばかし姿を消してたからって、随分とまあ騒ぎ立てるもんだ。こちらだって近くで見られたくないものの一つや二つだって、ある。
 お荷物だなんて言うつもりはないけれど。いずれは必要になるかもしれないが、今はなるべく戦場から離れておいてほしいことは間違いない。

「ま、どうでもいいか。ああいうのがしぶとく生き残って『ルフ様』のケアなんかはやるだろ」
「もしかして、もう助けた後の話してるの? あっっっきれた」
「もうプランはできてんじゃねえの。なら、いつしたって同じ話さ」
「かもね。キリジ、私が戦端を拓くわ。一撃ブチかましなさい」

 あいよ、と短く返す。
 翻った先の視線。

 陽は――滾っていた。
 体を機械ではなく、侵食細胞で構成する生体キャバリア、エヴォルグシリーズ。

「まさか此処でまで遭遇するなんてねえ」

 とことん縁を感じるじゃない。まるで運命の赤い糸。そしてそれは血塗られている。
 たしか引き剥がされても操縦桿から手を離さなかったっけ。その気持ちはわかる。仇敵の同類を前にして、例え五指が砕け散ったってトリガーを引く。使命感でも、責任感でもない。言うなれば、そう、嫌悪だ。それも生理的に拒否反応を示す類の、相容れない存在への。憎悪だなんて簡単な言葉では片付けたくない。
 その感情が、『修羅人』が一、赤雷号の機体に発露する様に、エネルギーを充填していく。
 赤く昂る感情は、この機体の色は、沸騰する血は全て同じ箇所を指し示す。純然たる赤は、時として黒をも塗りつぶす。

「ZZZ――ZAZAZA……なんて醜いんでしょう。我が声を聞いて一から」
「黙れ! 動くな、喋るな!」
「ッ……下品な」

 ――ザワッ! …….ズオォオおおおお!!

 両腕、両足、今度は関節部から黒き胞子を噴出する。大地への侵蝕だけが技ではない。むしろ本命はこちら。キャバリアの中枢、そしてキャバリア搭乗者……人体そのものへの攻撃! 無人だろうと友人だろうと構わず、対敵した存在を暴走させ、内外から自壊させる。これをエヴォルグは進化と称する。進化に追いつけない機体や人類は、抹消対象だ。触れるどころか近づくことさえ、許さない。

「狂機拡散――命名、無我の境。近寄らないでください」

 ぴりぴりとざわつく。空気が痛い。呼気が重い。
 なのに、静かだ。雑音など耳に入らない。先ほどまでの煮えたぎった気持ちが嘘のようだ。片目を閉じ、ターゲットサイトを覗き込んで、赤雷号に全てを預けるようにして、陽は狙う。
 集中している。それもあるだろう。だが、時に純然たる想いは明鏡止水の境地にヒトを導き、想念だけで岩をも穿つ。
 それが単なる粒子の塊なら、試すまでもない。

「殺す」

 汚染された大地で退路を奪い、なおかつ胞子鎧で白兵戦を拒む悪魔のマシン。

「……カートリッジ、徹甲榴散弾装填」

 ――ガシャゴ……ッ!!

 この音がいい。そうだ。命を刈り取る、弾丸の音色だ。色彩は真紅だろう。

「感情を出力に変える、ですか。なんたる非効率でしょう! わざわざ死にに来たゴミにはふさわしい! あは、あははは!!」

 人を蝕む、ならばそんな機械(モノ)に乗り込んでいる彼女こそ真っ先にその影響を受けそうなものだ。果たしてその通りである。掠れかけた声に悲嘆と血を滲ませながら、己が辞書にすらなさそうな下劣な言い回しで、感情に振り回されている。外せという方が無理な話だ。
 弾着地点設定。目標はその馬鹿な頭、と言いたいところだが、今回は勘弁しておいてやろう。

「おおおおオルゥあああァアァ――ッ!!」

 ケダモノの、咆哮――!

 唾することすら厭わず、発現した感情を爆発させ撃ち込む。達人は一撃に、感情を込めるのが限界だろう。しかし天城原・陽は天才だ! 二撃に、それぞれに、潤沢に殺意を込めている!!

 ――ボゴォ!! ドゴオオッ!!

 ぐらりと、エヴォルグが姿勢制御を崩す。四肢から赤黒い電光をスパークさせながら、モノアイをぎょろぎょろ動かした。健在……!

「ハッ、この程度でぇえ!」

「――でしょうね! 行きなさいキリジィ!! あんの度胸もないクソお嬢様に! キツいお灸据えてやって!!」

 ――バオォオオオオオ!! ズガゴッ!!
 ――バジッ! ギャリリリリッ……!!

 殺意を込めた二連射。それさえも囮だ。散弾が胞子を散らし、レーザー兵器で道を開く。迷うことのない直線。お膳立てしてやったのだ。決めてくれなくては困る。
 コクピットブロックから、弾ける火花の光景が眼窩を灼く。推力移動で肉薄した機体に叩き込み、爪攻で抉る。確かな手応えだ。

「これがオレ本来の仕事ってわけだ。子守ばかりってわけじゃねえってのを教えてやる」

 無論、代価として、機体としての残り命数を貰い受ける。ギチ、ギリと金属的な抵抗の中にみちみちと肉の張り裂けそうな音がするのがなんとも不気味だ。両腰、両肩の結晶体が明滅している。何か仕掛けようとしているのか、これほどまでに接近を許して、今更何ができる。ガインガインと突き刺したまま揺り動かし、反動で大きく強く、軋め、壊れろ、崩れろ、と、己が機体ウルリーケが悲鳴をあげるのも聞かずに。
 さて、そろそろ大人しく眠っていてもらおうか、と、さらに一際深く爪をめり込ませて、そこで、はたと異変に気づいた。

 ――どぽ……。

「なんだと……!?」

 可燃性の液体か、と身構えたが、どうやらそうでもないらしい。強い弾性に可変性、照り。これは未知の液体だ。それもこのエヴォルグから分泌されている。血液……いや体液か? 生体だなんだと聞いてはいたが、こうも生命活動的なものを目の当たりにさせられると頭が痛くなる。流血して、苦しんで、自分は何と戦わされている。
 いや、これも見せられた狂気。まざまざと見せつけられたが、自分の意識を、保て! オレはそういうモンじゃねぇ、そうだろ?!

「くっ……!」

 錯覚じゃあ、ない!
 爪――ランブルビーストが融解していく。触れた箇所から溶け落ちていくのはリミッター解除の反動だけではない。わからないことだらけだ。けたたましくコクピットを赤のアラートが鳴り、明滅する。
 意地がある。それでも、せめてコクピットブロックだけでも取り出せれば……!

 ――ずろぉおお……メゴォッ!!

「うおおおおおっ!!?」

 表現するなら、これ、は……脱皮か?!
 ぶちゅっっと液体のように霧散し、飛び散ったはずのエヴォルグが目の前で「再構築」されると、万全な腕で溶けかけの爪を握り潰した。
 形成されかけのモノアイが歪んでいる。にんんまり、と嗤っているらしい。
 バランスを崩して、膝をつくその間際に、またもや「ルフ」を取り込もうとするエヴォルグを見た。何か叫んでいる彼女は、救出の余地なく機体に飲み込まれていく。キリジは舌打ちする。なんだ、その拘りようは。

「何故だ、何故ユニットを必要とする……?」

 面倒ごとを引き寄せる存在、同時に可能性をもたらす存在。キャバリアはやはり搭乗者あってこそだ。ならば失われたパーツを取り戻すのは……自衛か? とことん都合よく使っておきながら、どこまで傲慢なんだ。
 腕がない。伸ばせないものは、届かない。
 そうか。

「……そうか。だから、どこまでも届く『声』が、欲しかってわけか」

 赤雷号に抱えられる浮遊感に揺られながら、確信する。病を、希望に変えるために。病のように希望を伝染させるために。口頭で伝え、その熱意を伝播させる必要があった。だから父親まで巻き込んで亡き者とし、ようやく得た「声」。そりゃ大切だろうさ。手放したくないのだって頷ける。そういう妙にプロセス立ててるところが無性に機械っぽくもあるし、綿密に悪意を積み重ねるところはオブリビオンだ。壊す役割は、他に譲るとしよう。

「あーそうだ。剥きたてってのは柔らかいって聞いたぜ」
「減らず口を……ッ?! っ……あぁ!? なんですか、この……耳障りな」

 聖なる、聖なる、聖なるかな。
 主たる女神の深き慈愛を以って、邪な心のみを攻撃する。いや、攻撃ですらない。これを攻撃だと思っているのは、エヴォルグのみであろう。

 曲名は、《愛聖歌Ⅰ(シャンソン・ダムール・サクリ・アン)》。
 汎用キャバリアの音響装置から、戦場に伝播する優しき声色。震えるでもなく、響くでもなく、ただ届けるのみ。邪悪を屠るのに、暴力はいらない、というのが、アリスの心情である。

「あなた……何を、降りて……血迷いましたか?」
「ルフさん、直接、話、したい、です」

 大きく声を張り上げて、そして機械越しモニタ越しすらもどかしくて、アリスはキャバリアのコクピットを出ると、手のひらに乗って祈るようなポーズを取る。
 戦うことなどしない、それが「戦いが恐ろしい」と言った際の返答だ。戦うのが怖い、当たり前の感情だろう。戦わない、向き合わない、だから傷つかない。怖がりの、臆病者のセリフだ。
 結界という予防策があるが、リスクは十二分に犯している。ショーテルを振りかざせば即座にぐしゃぐしゃの肉塊にできるだろう。しかし、しない。敵意ある行動を繰り返してきたエヴォルグが、止まっている。どれほどの時間だろう。歌に聞き入る僅かその時、友軍が仕掛ける好機を用意する。戦略的にはそれだけの意味がある。

「出られ、ない、なら、ロクローくんに、コックピットの、ふたを、開けて、もらう、です。助ける、です。……アリスが、助ける、です」

 憎むべきは――オブリビオンマシン。

「こんな……私が、いまさら」
「ルフさん」

 その声はまやかしではない。神からの加護を授かった、正真正銘、癒しと救いを与える声である。歌姫が授かった、洗脳と悪意の装置ではない。耳を傾ければ鳥を、動植物を、星さえも動かす。

「悪いこと、した、だから、生きて、ちゃんと、償う、です。生きる、手伝いは、アリスが、する、です」

 たどたどしい言葉だ。だからこそフレーズごとの重みが違う。軽い、風に漂うウイルスや胞子とは違うのだ。げほ、ごほ、と咳き込みながらも、必死に祈りを続けて、エヴォルグを射抜くように見つめる。声は届いている、歌を直接届けるには、やはり一手。多少強引にでも手を貸す必要があろうか。
 静止しているとはいえ、機体そのものが強力な毒性を持っている。ロクローくんといえど、容易に近づくことはできないでいる。
 もっと癒しが必要だ。ならば、愛を、命の輝きを、ルフから引き出さなければ。

「ZAZAZA……あ、が、ぎ……いまさら、もう遅いのです。終わり方が、そう、どれだけ醜くなるか。どこまで醜くなるか、聞くに耐えない悲鳴となるか、だけなんですよおぉおお!! 都合のいい、ああ、なんて都合のいい! 全て壊してしまいたくなる。あなたも、知りなさい! 知る義務がある、ここまで私に寄った、あなたには!!」

 サブアームがにょきりと生え、ギラリと短刀を見せつける。短刀とはいえキャバリアサイズ、アリスを抹殺するには過ぎたる得物である。

「ルフさん……!」
「黒殲拡散――命名、流布。救けないでください」

 刀身から放たれているのは鱗粉だ。直接粘膜に取り込めば理性喪失に凶暴化、衰弱、さらには他社に感染するキャリアに変容させるさまざまな効果を及ぼす。カバーを巻きつけることで封印しているが、剥き出しの状態に見える。本来であれば相応の負荷がキャバリアの搭乗員に降りかかる諸刃の剣だが、ことエヴォルグに関してはそんなリスクはないも同然。

「どうせ死ぬさだめ、ならばどれほど寿命を削ってでも、私の敵は全て、倒します……!」

「なるほど、捻りも無く禍々しい」

 ――ズン……!

 ずしり、と。
 言葉以上に、明確な質量を持って、短刀がサブアームごと、こぼれ落ちた。

 ここらが潮時だろう。見るからに顔色が悪くなり、卒倒しそうだ。これ以上外で行動すれば、生命活動に支障が出かねない。
 決死で作ったその隙に、アリスへ撤退を促すのは、束ねた針金が形をなしたような異様な形状の機体であった。

「対象の武装確認。『Trance』『Diffusion』『Lost paradise』」

 ……なんてことはない。体を張って猟兵たちが集めてくれたデータと照合すれば、見えてくる。いずれも撹乱、制圧用の武装ばかり。量産され敵地に放たれれば脅威にもなり得ようが、指揮官機、それも内乱で用いられるような機体ではない。搭載武装は今しがた晒したもので全て、奥の手の「新兵器」が機能をブーストしているせいで一見難敵に見えるが――。

「対象の効果確認。既に被害は出ているが、なれど、これ以上の好き勝手を許す道理もなし」

 ―――Ubel:Code Edler_Löwe 超過駆動開始。

 暴挙もそこまでだ。
 不慣れな武装、チグハグな使い回し、いたずらにエネルギーを消耗し、ここから「我々」を相手取るのが不運だったろう。たしかに、策謀をめぐらし周到にこの小国家を焦土にする算段だったのかもしれない。
 だが、情報戦用のこのレーヴェンツァーンが姿を見せたのは、勝負が決した時だ。結論は覆らない。

「貴様が好き勝手するならば、"我々"の結論はこれだ。事象に蹂躙にされるがいい」
「言いたいことは言われてしまいました。つまり、そういうことだよ」

 クロムキャバリア……クロさんも並び立ち、すぐさま迎撃姿勢を取り始める。直線上の位置をキープし、常にどちらかが背後を取れるようなポジショニング。
 撹乱されまいと、背部スラスターから再び黒き鱗粉を噴き出し始め、後背部の守りを固める。

 ――ビュンッ! バウっ!!

「な、どこから?!」
「自分で視界を塞いでおいてそれは、世話がないと思わないかい?」

 ぶるんと焜鉾「ばーざい」を放ち、しゃんしゃなり鈴を鳴らす。生まれ出るは黒をも飲み込む、漆黒の狂気。直視すら憚られる狂気山脈の産物だ。
 体が重い。駆動部が軋む。いじめ抜かれた関節が暴力的な重力圧にたまらず壊れ始める。逃げようにも断続的に放たれるレーザーのような婉曲射撃が音の螺旋を描いて逃さない。何だこれは。竜巻に飲み込まれたかのように動けない。

「鱗粉が……機体も、動きません!?」

 ――ド、グシャッ!!

 ジェイの蹴撃が立て続けにエヴォルグの下腹部に食い込む。ごぼ、とこぼす流体が、重力に逆らって浮遊する。理解が及ばない。完全に物理法則を無視している。感染もしない。

「げほッ、が、は……く!」
「おっと」

 位置をスイッチし、楓椛が焜鉾を振り上げる。ショーテルが振り抜かれる前に眷属を踏み台にして肉薄、直接触れようと、不定形の眷属が攻性防壁の刃ごと包み込んで反撃を許さない。

「そいやぁ! おっと、気になってもこれの名前を呼んではいけない」

 ショーテルを破壊する。それだけでは飽き足らず、ぼこぼこぼこぼこと両腕で無防備な肉体を完膚なくまで殴りまくる。体が浮き上がろうが知ったことか、地面に叩きつけて身動き取れなくなるまで、容赦なしの連撃で撃ち落とした!

「がっはァ?! ば、ばかな……」
「好機は今! ドロモス達、奏でろ!!」

 地面にめり込み、膝を落とすエヴォルグ目掛け、ビットたちが協奏をかき鳴らす。見えないはずだ、と後悔してももう遅い。周囲を囲い込み、耐えず攻撃を繰り返していたのは楽団のビットだったのだ。
 デモニック・ララバイの十八番、音撃の楽器演奏集団戦術。
 指一本の動きも見逃しはしない。あのマシンが、あのマシンこそが!

「ルフ殿、いえペトラ殿!」

 そうだ。赦し難い、絶対にあってはならないのはこのオブリビオンマシンだ。怒りに震える指先を必死に落ち着かせつつ、的確に弱い関節部、そして噴出口に音波を当てて相殺する。ひしゃげ、砕け散っていく装甲。悲鳴を聞かせろ、泣き叫べ!

「ZAZA――無駄です。無駄ですよ! 全て!」
「あなたではない。ここで断絶する! ララバイ!」

 音響が高まる。密度を上げて、ジェイの重力攻勢、楓椛の神話術装式と共に包囲を狭めていく。半死半生、その姿が見たかった。コクピットを抉り出し、悪意を白日に曝け出す。待ち遠しかった。

「このマシンが、赦しがたい!! このマシンだけは!」
「…トドメは任せます。エィミーさん」

「ありがとうっ! ペトラちゃんを死なせはしない! 勝負ー!」

 巨腕のスーパーロボット、メガリス・アカハガネ。てんこ盛りの使命と意志とを束ねて、崩れかけのオブリビオンマシンの首根を掴んで持ち上げる。

「たくさんの人に迷惑をかけて、いっぱい傷つけて、今、どんな気持ちなのかな?」

 メガリスと自身の強制接続。単に頭部を掴んで持ち上げているだけなのに、聳え立つ城砦のようにびくともしない。屹立。その一言がふさわしい。抵抗しようと殴りかかった腕が逆にへし折れるほどだ。
 パッと離し、身構えて。

 ――ドドドドドガガガガガガガガッ!!

 ガトリングの魔銃、オルトロスⅡを連射する。補充知らずの、弾を自動錬成する対オブリビオンマシン用の武装だ。もはや吐き出す鱗粉もない、重力に反しふわっと浮かび上がる、格好の的。拳を振りかぶり――!

「すまーっしゅ!」

 アッパーカット!! オーバーフレームがグチャッとスローモーションで潰れていく。バラバラと四散する破片。悪魔のマシンが掌底により、野望とともに破壊されていく。
 トドメとばかりに取り出すのは、黒竜大斧ベルセルク。帝竜ベルセルクドラゴンの名を冠する、味方をも威圧しかねないプレッシャーを放つ最大級武装だ。

「み、見事です……」
「む、むー……?」
「ですが、私は、私は! キャバリアを、憎悪している!! その気持ちが、私を突き動かすのです!! どうか止めないでください!」

 狂われしカリスマが仮初の姿だとするならば。
 少女の叫びは、真の姿であったろう。

「我が身を喰らえ、そして強く憎め。いや、違う、もう、嫌です。生きろという、死なせないという、どうして? 父は死んでしまった、キャバリア! キャバリアが! あああ! くうっ、身を焦すこの気持ちだって私なんです……!」
「こんのぉー! とま、れって、ば!」

 握り潰し、斬り払った先からブクブク膨れ上がって再生してくる。死に物狂いの果たし合い。オブリビオンマシンとて計画立てて得た「歌姫」だが背に腹を代えられない。生体ユニットの感情を最後、汲み取って再生力に変えている。この憎悪の気持ちは、偽物ではない。カリスマも、希望も、すべて偽物、紛い物でも、彼女がキャバリアに人生を狂わされたことだけは揺るぎない真実だ。
 それはわかっている。わかっていても身勝手だ。自分の都合ばかり押し付けて。
「あんの度胸もないクソお嬢様」
 陽はそう言ってたっけ。彼女にも、転機を求めなければならない。総力戦。全てをオブリビオンマシンに毟り取られる前に救出しなければ、精神を燃やし尽くして灰になってしまう。本格的にルフの憎悪のみで動くようになってきている。消耗はしている。

「骸魂無骨! これでいくよー!」

 ペトラ救出の切り札はあと二枚ある。それまでに、体力を尽きさせ、生体ユニットを露出させる。十字槍「骸魂無骨」。中距離戦用の長物だが、ここで抜く理由がある。エィミーは理由のないことはしない。裏表のない彼女は、常に表立って行動を起こす。

 ――メリッ!! メキメキメゴ……ズグンッ!!

「ぐあ!? 機体、が、あああ……ぁああ」
「よーしよーし、少しクールダウンしたらどうかな?」

 槍が貫通したまま、辛うじてエヴォルグとしてのフォルムを保ちながら、泡立つ装甲は今にも断末魔の叫びを絞り出しそうだ。その呪詛を、根源たる憎悪を緩和する槍が突き立っている。槍先から、天へと昇り立つ煙のように、憎しみが消えていく。どれほど伸ばしても届かなかった天。そこへ、消えていく。
 しかし、そこでエィミーもまた《受け継がれる魂の姫君(オーバーロード・オブ・ソウル)》のリミットで退かざるを得ない。戦果としては大金星だ。トドメを刺せるなら十度はその機会があったろう。

「ほう。ほーうほう」

 アンテナの先に至るまで眩き金色。戦場を席捲する「永遠の雷霆」。黄金神器「咲雷神」を携え、不敵な笑みともに、ついに絆のターンが回ってくる。
 挨拶代わりとばかりに黒殲拡散を見舞ってくるが、雨中で防水加工を施してあるかのように装甲の上を弾いて霧散していく。ジェイほど分析が進んでいるわけではないが、実は見た時から確信していた。

「キズナさんの読み通り! 侵蝕できるものならしてみるのデスネ!」

 支配無効の防神加工の施された全身「金鵄装甲」の特注モデル。分類上オブリビオンマシンと称せざるを得ないほどの、機巧の神格。それが「別雷大神」である。死にかけの悪魔に遅れをとる神がどこにいよう。
 蒼光の大剣を横凪に払うと、剣の軌跡が流星の尾のように確かに空間に描かれ、緊張した空気をばっさりと切り裂く。勝負を決するのによもや一刻の猶予もない。

「お、おお、おおお!」

 全身の装甲に硬質化した鱗粉を刃のように固めて纏い、タックルを見舞ってくる。感染しなくとも質量による打撃はこたえるだろうか。そんな判断が見て取れる。
 クスリが、効きすぎましたかね? とほくそ笑む絆。戦いが、あるいは商談が、自分の思い通りに進むことほど愉快なことはない。詰みに向けての一手を打っていく、それが愉快でなくてなんだというのか。

「そしてゆくゆくは販路を独占デス。おっと!」
「馬鹿にしてぇ……!」
「馬鹿になど、してマセン! むしろこうして掴みかかってくれると思いマシタ! さあ掴みマスヨ! 見せなさい、その魂を!」

 マシンに霊魂があるのか? それは永遠の命題であり答えはこの場では出まい。ではオブリビオンマシンはどうか? 渦巻くほどの悪意や想念を魂と称するのならば、それはYESである。ぎゅうと広げた五指が掴んで、離さないふよふよとした何か。魂に形があるとしたら、このような半透明の水風船のものなのか。絆に問いただせば、たまたまこんな形デスヨ、イメージしやすい形だからデスヨ、なんて答えるかもしれない。
 ともあれ、霊魂を掴み上げ、抜き出している。

「ルフさん、ルフさん、ルフさん?」
「……あ」
「質問よろしいデスカ?」

 接触して回線を繋げ、顔を視認する。ひどい顔だ。この一戦で十年は老け込んだのではないかという憔悴具合。カラダは見える範囲はぐちゃぐちゃで、半顔だけがギラギラとした眼光を放ち、もはや人の「てい」を成しているのかさえ怪しい。そもそも機体の動きがパイロットの存在を無視しているのだ。緩衝作用が働かなければミンチになったっておかしくない。

「もう……ころして……これだけ傷つけて……伸ばしていただいた手を……振り払って、私めは……父の勇名にも泥を塗り……私は……」
「ワタシが聞きたいのはそういうことではないんデスヨ。残念デスガネ。全くもってノーサンキューデス。そういう懺悔は、今この場でするものでもなし、後でゆっくり聞きマスヨ」

 おっと、と指に力を込める。暴れ馬をいなすのだって一苦労だ。接触を許すほどに消耗しているとはいえオブリビオンマシン。油断すれば牙を剥いて逆撃されかねない。もちろん、だからこそ油断なく接敵して魂を鷲掴みにする強硬策に出たのだが。
 絆の見解としては、別段ルフのカリスマが全てオブリビオンマシンの影響とは思っていないのである。学なく、浮世離れした彼女。戦略を練る頭だけが人を惹きつける魅力ではない。売人としてのキズナさんは、商売相手としてはむしろ「賢くない人物」の方が圧倒的に多い、と経験則が睨んでいる。
 才能がある。人の心を掴む才能が。それはこの閉塞された小国家群の世界で、何より生きる資格になり得る。生きてさえくれれば、憎悪以外の何かを糧にしてさえくれれば、それだけでいい。

「あなたの望みはなんデスカ?」
「あ……望む、望み……?」
「そうデス、気をしっかり持って」

 目を閉じて、開ける。

 ペトラは夢想する。
 さて、私の望みとは、何だったろうか。

 今も、どこか、耳の奥で、聖なるかな、響き渡る声。瘴気に身を毒されながらも響く声、身を預け、眠りたくなるような声がする。アリス・トゥジュルクラルテ。博愛の女神。彼女の歌声には世界を変える力がある。どれほど打ちひしがれようとも、一度ルフの歌声が聞きたい、願わくば一緒に歌いたいと言ってくれた彼女。彼女のように歌で世界を変える力が欲しかったのだろうか。そんな歌声が喉に宿っていれば、悲しみに暮れる弱い自分も、聖者のように励ましてくれたに違いない。
 あるいは、戦場に降り注ぐ温もりのような光。朱鷺透・小枝子。こんな死に方赦さないと、今なお死にかける自分と、傷ついた友軍とに回復を振り撒く彼女。全てを決められる力。文字通り圧倒的な、力強いハーモニー。世界を変えるのではなく、自分たちの未来を切り拓く音楽。真に希望になり得ず、道化として振る舞い、挙句多くの命を奪った自分とは違う。いずれはこの世に天を取り戻すことだって可能な、覚悟を持つ女性。もし物語の勇者がいるのなら、彼女が主人公にふさわしい。
 目の前の賀茂・絆はどうだろう。いかにも道化師、な見た目ではあったが、その実、賢者とでもいうべき権謀術数。何より、内に秘めた豪胆で、強引で、全部を決められる、決めてしまう高潔な存在。か弱く、愚かで流されやすく、それでいて他人に迷惑をかけてばかり。他人との関係性を尊重する彼女のようになれれば、弱い自分を打ち捨て、父と向き合うこともできたかもしれない。いつも笑いながら、いつも何かを真剣に考えながら。
 喰らい尽くす胆力でも、真っ直ぐな怒りでも、ニヒルでも、分析でも聡明でも無邪気でも、何だって構わない。

「そうか、私は何かになりたかったの、ですね。だから歌姫にさせられた。そういう名前を着させられた。……ありがとう」
「ああっ、どこへ行くんデス?! ちょちょおっとォ?! これから先、あなたが必要なんデスッテバ!」

 ならば、最後は、最後くらいは孝行ものの娘になろう。
 機体の魂は抜け落ちて、身軽になった今。手動作、ボタン一つで天上へと昇れる。制止する言葉を振り切って、高く高く天へ。いっぱい迷惑をかけてしまったけれど、後始末は自分でつけないと。
 あの時、父は自分で後始末をつけたがっていた。その代わりを自分がする。父の名前を穢さないこと。今の自分に残されている希望は、それだけしかない。どれだけ言葉をかけられても、歌声を披露する気にはどうしてもなれなかった。自信がないからだ。自分は歌が好きなだけで、人前で歌うことなんてしなかったから。私は暗闇の住人だ。瘴気放つ、毒された大地の、鱗粉塗れの歌姫。……ノイズが走る。
 なんて傑作、なんて滑稽。なんて人生。

「さようなら。私の愛した……世界」

 目を閉じる。
 もう開くことはないだろう。暗いコクピットが、今はゆりかごのように心地よい。もう眠くなってしまった。天雷の火が灼いてくれる高高度まで、眠っていたい。願わくば、そう。

 ああ、なんだっけ。
 なんだっけ。

 ああ。

 ――不肖の身なれどその願い、承りました!

「え……?」

 暗中に、光あれ。
 無骨な、甲冑の如き手が差し伸べられる。

 ここは空中で、何よりコクピットの中で、自分は一人だったはずだ。
 全てが終わったはずだ。

 翠の瞳、巨躯、盾と剣はなくともわかる、それは、まるで。

「よく、耐えましたね。悪魔からの、最後の精神干渉を、ペトラ様、貴女ご自身で振り払ったのです。ですから間に合った」

 銀光が煌めく。それが医療ナノマシンだとは、ペトラは気づかない。彼女が知らないうちに、知らない人間から助けを得ている。なんとも意地らしいではないか。
 思い違いから始まる物語も……ある。

「私は、ようやく、己の役割を全うすることができます。これもひとえに、貴女様のおかげ」
「私の……?」
「ええ。ペトラ様、貴女は御伽の騎士に願われましたね。助けてください、と」

 ――言った。
 覚えている。高揚する気分の中で、父の名前を出されてふと冷静(しょうき)になったあの時だ。でもそれだけで。それだけのことで、ここまで追い縋ったのか。この毒素に塗れた機体の内部にまで乗り込んできて、こうも勇ましく、格好良く。

「(創造主よ……今は感謝します。叡智を貸してくださったこと。そしてこの時間を作ってくれたことを)」
「ふふ。それならあなたが、私の騎士だったのですね」

 斬り込む、と宣言した男がいた。その役目は己しか果たせないと、暗に知っていたからだ。だから来た。短絡な二段論法だからこその説得力。あの場の全員が拒否しなかったのは、期待であり確信であった。この場の誰よりも、彼こそが「騎士」であった。
 差し伸べられた手を、ぼろぼろの指で握り返して、その身を投げ出して、ああ、はしたない。父はお許しくださるだろうか。空から落ちる少女が、恋に落ちるなというのも、不可能な話である。しかし、これで終わる、ということもない。このまま悪魔のマシンと心中するなどまっぴらごめんだ。
 その細い体を抱き上げると、彼は有無を言わさない調子でこう続けた。

「では、しばし辛抱ください。失礼!」
「えっ、ああ――?!」

 頓狂な声。そして。
 浮遊感、落ちていく! ――感覚。
 追いつかない悲鳴。そのまま無我夢中で見上げる。天地逆さまになった世界で、ロシナンテⅣと組み合ったエヴォルグは、槍を突き立てられたまま、もはや振り払う余力もなく、今にも落ちていきそうな奈落のような空にぐんぐん突き進んでいく。アレに乗り込んでいたら最後、と思うと、背筋が凍る。先程までの自分は呪いか何かだったろうか。後悔なんてないけれど、しかし疑わしくもあった。憑き物が取れたような、晴れやかな心地が、作り物のようにわざとらしく感じてしまうほどに。

「ペトラ様」
「ああ。ええと、はい。なんでしょう」

 騎士様、とおずおずと、初恋した乙女のように紅潮して述べる。応急処置で生命活動を維持しているものの、いささか心許ないどころか全く化粧もしていない顔。……そもそも生まれて一度も化粧なんてしたことないペトラだ。もう全くもって勘違いも甚だしい。なんだこれは。一体全体なにがどうして今、自由落下しながら照れてしまっている? わからない。わからないけど、愉快だ。
 脇を締めつつ両腕で、上半身と太ももあたりを担ぎ上げられて、実演はついぞ未経験ではあるけれど、これは俗に言う横抱きとやらではないか。

「もしやお体の具合が」
「これは、よいのです。続けて?」
「この空への希望、責任、罪。そんな物、今はどうでも良いのです」
「え? ですからそれは私にとって全てで……」

 今なお遊泳しているこの空が、狂おしいまでに望んだ全てであった。この空を話題に出せば、誰もがそれと引き換えに全てを差し出した。命も、命さえもだ。それを、どうでもいいと言い切ってしまった。他の憧れた、恋焦がれた何よりも違う。言ってしまえば、私のためにキャバリアの蔓延るこの世界でキャバリアを手放してしまえるような、思いきりの良さ。発想の転換。生まれ変わるような、価値観。

「お父上のことを思い切り悲しみ、怒った事は?」
「それは……紛れもない私でした」
「そうです。そうでしょうとも、貴女の敵はキャバリアという悪意です。悪意に溺れるのも時には仕方ないでしょう。ですが屈してはなりません」

 敵は誰か。味方は、誰か。
 自分を見失い、偽った己にはなるほど難しい話だ。しかし、目の前で「個」を語るトリテレイアさえも、未だ確固たる己を見定めてはいないような、そんな気配をペトラは感じた。試しに胸へ顔を埋めてみる。父に抱かれた記憶はないけれど、なるほどきっと、こんな心地に違いない。手の感覚が戻らないことがこれほど悔しいと思ったことはない。手を回して口づけすれば、私はお姫様になれるのに。

「私、今、無性に歌いたいのです。不肖、とは申しません。あなたに聞きせたい、今の気持ちが、音楽として溢れてくる。抑えきれない……!」
「そうですか。聞き届けましょう。さあ、歌って下さい。貴女の心を!」

 空の彼方から流れ星のように颯爽と、ロシナンテⅡが駆けつけて二人を背に乗せる。自由落下の勝手のきかない旅は終わりだ。次は空を駆けるとしよう。
 ペトラは歌った。

 即興の、小鳥の囀りのような、想いの丈を。
 ふつふつと湧き上がる、初心な恋を。
 やりようのない絶望と、怒りを。
 もう会うことのできない人への哀悼を。

 歌った。世界の果て、皆、天国にまで届きますように、と。

 それは戦いの終わりを示していて、ここに、語られることのない苦しみに満ちた戦いは、終結した。「希望」の終わりと同義でもあった……。


 後に、歌姫解放戦線と称された一連の事件は、その規模からは想像もつかない程の少ない犠牲と、首謀者ルフの逮捕を以て幕引きとなった。国家の権威を揺るがすテロリストの台頭。それに狂わされた市民たち。本来は死刑でもおかしくないそのルフの罪過も、「悪しきはキャバリア」という幾つかの有力な証言、そしてそのキャバリアが激戦の末大破・隠匿されたことにより罪状そのものの大部分が抹消。失われたものは還らない。なればこそ、残された結果と、感謝と、悪意の残滓とを繋ぎ合わせれば、そこに浮かび上がる物語は、ひとつ。

 つまり、これは、そう――語り尽くされた、よくある伝承である。平々凡々、すなわち……歌姫と悪魔、それを破った数多の兵と、騎士の英雄譚。

「……ならば仔細は、語られることもないでしょう」
「ルフ様、歌を途中で? どうかされたのですか」
「いえ。……不肖、私めは覚えています。あの時に握ってくれたあの感触を、ぬくもりを」
「――はい!」

 童謡のように親しまれ、愛される、機巧の騎兵の物語。
 歌おう高らかに――!
 希望は確かに在ると。
 戒め多い空のその先へ、響くように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年08月03日


挿絵イラスト