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月鏡パイリダエーザ〜偸安の夢花

#カクリヨファンタズム #戦後

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#カクリヨファンタズム
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#戦後


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●forbidden fruit
 天蓋を塗り固めた夜色に焔を灯すが如く、一つ二つと星が煌めいた。
 堂々たるかんばせを覗かせた黄金蜜の月は幽世を見下ろしていた。
 平穏を忘れたその地には大輪の花々が花開き、蔦が伸び上がる。蔦は停滞を、花は甘美なる蜜を垂らして揺蕩う眠りを与え給うて――

 カクリヨファンタズムを覆った花と蔦。
 一方の眠りは傲るすべての生命を寛容に受け入れた安寧の揺り籠を与えるとされていた。
 それがこの世界を覆う花である。溢れる蜜が芳醇な香りを漂わせては訪れる者を幸福な眠りへと誘う。

――この花を踏み躙るならば、決して迷ってはいけないよ。

 月が揶揄うように囁く気配がした。そう、感じ取ったのはどうしてだろうか。
 この幽世を救うが為に。迷わぬようにカンテラの灯りを辿り進み行く。

――ほら、迷うてはならないよ。

 見上げる丘には祝福を灯す純白の花々が咲き誇る。誘われるように歩を進めれば鼻先を掠める馥郁たる花蜜の香。
 其れ等の下で少女が蜷局を巻いて眠っていた。固く閉じた花瞼がゆっくりと開かれる。
「ああ――あなたも、いきていたいの……?」


●introduction
「せかいをまもるたたかい、おつかれさまでした。それでもまだ、カクリヨファンタズムのよあけはまだ、」
 花葬・ラヰア(鍍のココロ・f12936)は落ち着いた声音でそう零した。見た目にそぐわぬ不可思議な雰囲気をもつ真白のこどもは、文字が並ぶ資料を指先でなぞる。
「みわたすかぎりの"はな"と"つた"。つぎつぎとまた、たべられてしまいました」
 平坦な声は少しだけ寂寞の空気をまとわせて紡がれる。しゃらりと雪の華が咲く簪を抜くと、先端で花を描く。
 グリモアの力が添えられたその花は、鮮やかな春色を伴ってひらいた。
「"むくろだま"のすがたがみえました。
 ……そう、オブリビオンです。どうか、かれらをたすけてください」
 覗く単眼が然りとした意志を宿している。
 花蔦に覆われたその世界では、花は眠りを誘うのだろうだ。甘い香りと幸せな夢を与え、来る者全てを優しく包み上げる。それが真に幸福だというのであれば、どれほど良かっただろうか。
 決して進ませはしないとでも告げる柔い護りは、行く手を遮るかのように咲き乱れている。
「あるじさま、これを」
 ラヰアはそっとカンテラを差し出した。仄明かりがゆらりと揺らぐ、淡い途往きの導。
「あるじさまがたのみちをてらします。まようことなく、すすめるでしょう。
 "はな"のみつにみちたこのせかい、なにをみても、すべてまぼろしです」
 それは、幸福の夢。あるいは、幸福に到る夢。
 死者の甘言か、はたまた望んだ世界の恒久か。
 罰を望めば罰を与え、褒美を望めば褒美を与え、――愛を望めば愛を与える。
 どのような夢が訪れるのかは分からない。だが、そこで立ち止まり振り返ってはならないのだ。
「どうあっても、まやかし。けっして、たちどまらないよう。
 あるじさまがたをつかまえて、はなさないでしょう。ですから、カンテラをてばなさぬよう」
 カンテラの明かりは往くべき場所をただ示してくれる。道などない花蔦の天蓋の袂、カンテラだけが正しき途を照らすのだ。
 そうして、辿り着いた花蜜の園に『妖怪を飲み込んだ骸魂』が存在しているはずである。
 彼女を倒せば妖怪を救い出すことが出来る。
 善性の妖怪は一人寂しく泣いているのだろう。心の隙に僅かに生じた愛憎が、膨れ上がっては災いとなる程に。
「ひとはさびしいとくるしくなってしまいます。
 かのじょもまた、くるしんでいるだけなのでしょう。ですが、どうか。
 あまいゆめからさますことを、ためらわないでください。いきるべきは、げんじつなのですから」


驟雨
 初めましての方は初めまして。お久し振りの方はこんにちは。
 驟雨(シュウウ)と申します。
 以下のコメントをご確認の上、ご参加ください。

*
 日下部あやめMSの『月鏡パイリダエーザ~蔦牢の苹果』と合わせシナリオでございます。
 鏡映し。何方とも、気兼ねなく片方ずつでもご参加して頂けます。もしも宜しければそちらもご覧くださいませ。
*

●1章:冒険 花に誘われる事勿れ
 世界に蔓延る花は『眠り』を齎します。世界を覆ったそれでは行く道さえも分かりません。
 用意されたカンテラをお持ちいただければ迷うことなく進めることでしょう。皆さんが足を踏み入れた途端、甘い蜜の香が夢へと誘います。
 花の香りは『あなたの望む夢』を齎します。
 それは誰かと共にある未来かもしれない。自らの望む罰を得られた世界かもしれない。平穏と安寧、幸福と奇跡、自罰と許容……。あるいは、無すらも望みのままに。
 世界に蔓延る理不尽は皆さんの知るところでしょう。楽園に足を止めてしまいたくなったとしても、決して止まることなく歩み続けてください。
 純白の花々が咲き誇る苹果の木へと辿り着いたならば、其処がこの道の終着点です。

●2章:ボス戦 戀ひは祈りになりて
 苹果の木の下に少女が一人、妖怪を飲み込んだ骸魂です。
 詳細は2章にて。『彼女』を倒すと飲み込まれた妖怪は救出可能となります。

●ご注意
 同行者がいる場合は名前とIDをご記載ください。名前は呼び名でも構いません。

 それでは、幽世に蔓延りし終焉に終幕を告げるため。よろしくお願いいたします。
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第1章 冒険 『昏い参詣道』

POW   :    ただ心を強く持って進む。

SPD   :    惑わされる前に突破すればいい、急いで駆け抜ける。

WIZ   :    耳を塞いで進む。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 咲き乱れる花々は甘い香を身に纏い、訪れる人々を楽園へと誘う。ましろの花弁が風に乗り運ばれる時、その先々には願い望み嘆いた人々の救いを求める手があったのだろう。
 そうして、また。花籠に降り立った猟兵たちの掌の元へも祝福は降る。
 これは誰にも拒めないもの。これは誰にも分け隔てなく与えられるもの。

――ほうら、****はすぐそこに。

 何処から囁く声は花蜜の香水と共にようく溶け込む。
 万人へと、幸福を届けるために。
 
都槻・綾


燈を標に闇を往く

踏み出す一足ごとに
濃く薄く
漂う甘い香に包まれて
まるで酩酊するかの心地

幽かに浮かべた笑みに添う吐息にも
甘さが乗っているかもしれない

ねぇ
あなたもきっと酔っているでしょう

眼前に佇む人影に
カンテラの灯りを掲げれば
ひかりはいっそう深く
まぼろしの君のかんばせを闇に沈める

けれど
あなたも
私とおんなじ表情で
おんなじ仕草で
おんなじ出で立ちで
笑い返した気がして

…尊い夢ですこと、

今一度
零した吐息に乗せるのは
ささやかなうらみごと
或いは先程よりも甘やかだろうか

背の瑕痕に
花の蜜めく毒が
じくりと滲みるがままに
痛みを抱えたままに
夢から醒めて
闇路に還る

笑いかけてくれた記憶など
一片もありやしないのに

何て残酷な、夢




 甘く痺れる毒は、時に苦痛ではなく極上の夢見を齎すという。それは時期に体内を巡る生命の象徴と共にじんわりと体を蝕んでゆくのだ。
 吐息にも、微笑にも、その甘さと至福は伝染する。仄かな熱はまるで恋人達の睦み合いにも等しい温度を持っていた。
 酔いだ。花道を進む都槻・綾(絲遊・f01786)の足は、確かに地面を踏みしめている筈なのに、軟らかな心地を伝えてくる。

 ――ねえ。

 声がした。したような、気がした。
 風が一等強く吹き、瞬き一つする間に行く手を阻む影が一つ。

 ――あなたも、きっと。

 カンテラの灯は真実を暴く。綾の双眸に映るかんばせは、おんなじ表情で、おんなじ仕草で、鏡映しの世界と同じく鏡映しの人影を示す。ようく似た出で立ちの、けれども決定的に違う本質を持った、ひと。
 響く声は、自分のようにも、眼前のあなたのようにも、聞こえた。どちらともなく唇は笑みを描いた。確かに互いの瞳に互いを映して微笑んだ。
 記憶と同じならば佳かったものを。記憶に在れば、まだ信じたものを。
「……尊い夢ですこと、」
 人の熱を宿した吐息の幻は、夢を打ち破るささやかなうらみごとを乗せて吐かれた。甘やかに充る声は、蜜に溶ける事なく存在を刻む。
 つくりと、背の瑕痕が綾に云う。真に在るものは何かと問う。
 幸福の底に痛みなど有る筈もない。沁みて滲みて漸く蜜が毒へと変じた。巡る毒が次第に自覚を以て綾の輪郭をなぞる。此処に在るのは此れだけだと。霞みは所詮夢事だと。
 息が詰まるようだ。
 ふわりと人影をすり抜けた花弁が、カンテラの灯に触れ焼けた。在りもしない記憶と共に、闇路に還る。残るは只、瑕を残した飛べぬ鳥だけ。
「夢はゆめへと、お還り」
 誰の足跡もない途を往く。人影など、其処には無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント

蜜の甘い香りはあるが特に変わった様子は…いや、体に僅かに違和感がある
頭に手をやればそこに獣の耳は無く、振り返ってもあったはずの尾が無い
獣の特徴を持たない、普通の人間の姿に変わっているようだ

…成程、これが俺の望む夢か
もし俺が人間だったなら、満月を目にしても理性を飛ばして暴れたりはしないだろう
本当に消し去ってしまいたいのは獣の耳や尾ではなく、意図せず仲間を傷付けかねない人狼の特性だ
またいつか誰かを傷付けるかもしれないと、今も恐れ続けているのだから

カンテラを握って気を落ち着けて、これ以上精神を揺さぶられない内にと足を速める
どんなに望んでも叶わないと理解している
自分がそういう存在だと、もう諦めている




 ふうわりと蜜の香りが鼻腔を擽り、花々の微かな囁き声や蔦に触れる葉の游ぶ音が遠退いてゆく。肌をなぞる甘やかな空気が粘着いて感じられはするが、其れを厭と思う心は何処にも無かった。
 違和感は、在ったのだ。在ったにも関わらず、進む内に馴染んで溶け込んだ。
 切欠は本当に些細な事で、歩む道筋でじわりと体を蝕み貯まった滓がシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の意識を攫った。
 始めは体幹のズレから。次に五感のズレから。そうして芽生えた新たな感覚を訝しむ事で、シキは己に降りかかった変化に気付いた。
 其処にいたのは人間だった。
「……成程、これが俺の望む夢か」
 獣性は消え失せ、只ひととしての姿が此処に在る。訪れた時から仄かに奥底で燻ぶっていた猛りが鳴りを潜めている。花籠の底、蔦檻の隙間から降る月光に晒されてなおシキは理性を保っていた。
 きしりと踏んだ蔦の先、花々に囲まれた満月が小さな水溜まりに落ちている。
 まるで知らしめるかのように、突如として存在した水面には獣の特徴を持たないシキの姿が映し出されていた。鏡に映るのは本当のもの。其処に在るのは今の真実。
 もし、と。考えるのは悪だろうか。
 もし、本当に人間だったなら、一晩訪れる不自由を、理不尽を、無かったことに出来るのだろうか。
 甘露のような花に誘われ、諦念の縁に潜めた情が顔を出す。理解を退けて、感情を認めて、どうか手を伸ばしてと囁いた。
「ここなら……いや、」
 シキの足は満月を踏む。
「自分がどういう存在かは、自分がよく理解かっている」
 足元を濡らし進む中で、カンテラが照らした水面は波打つ度に消えた筈の獣を映した。立ち止まれば消えたままで居られるのだと欲が叫ぶ。それを打ち消す為にも、ようく聞こえる耳で以て囁きを聞き、取り戻した重心を意識して足を動かす。
 ぱしゃり。ぱしゃり。
 甘言は、未だ。けれども変わらぬ意志も、未だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

幽遠・那桜
◇◎
しっかり、カンテラを持って進むのです。
……とても、甘い香りが。

「那桜ちゃん」

あ……転生前、大好きだった男の子……海斗君の、声。
懐かしくて、声がするだけで嬉しくて、思わず立ち止まって探したくなる。
でも、抗わなきゃ。だって、もう海斗君はいない、から……

「もう辛いこと、しなくていいんだよ。僕と一緒に、いつまでも居て、遊ぼうよ」

あぁ……一緒にいられたら、どれだけ嬉しいんだろう。どれだけ素敵なんだろう。足を止めたい。一緒にいて、一緒に遊んで、いつまでも、いつまでも……

わぅっ、風の精霊さん……ちょ、突風、突風吹かせないでくださいです! 進みます! 進みますから!

海斗君……ごめんね。また会えたらいいな。




 そんな筈は、ない。
 頭の中では分かっていても、芳醇な香りの中にある微かな潮の香りに幽遠・那桜(輪廻巡る霞桜・f27078)は足を止めた。手に持ったカンテラが慣性で揺れる。キィキィと繋ぎの金具が音を立て、辺りを照らした。
 本来ならば互いに喧嘩するような香りが、何の違和感もなく那桜の体を満たす。震える身体を叱咤して、一歩進めた足がぱしゃりと水音を立てた。驚いて足元を確認しようとした矢先、那桜の耳に声が届く。
「那桜ちゃん」
 前ならば、分からなかっただろう声。今ならば、それが誰のものか知っている。
「海斗、君」
 進む足が怯んだ。猶も進もうとする那桜の手を引くように、人の温度が掌に触れる。瞳が大きく揺れた。ともすれば振り返ってしまいそうな誘惑を、カンテラが立てる小さな音と現実を照らす灯で断ち切った。
 だってもう、彼は居ない。
 嫌な予感は、きっと過ごした年月が告げる警鐘だった。家にも行って、探し回って、漸く見付けたのは亡骸だった。
 そう、彼はもう居ない。どれだけ願ったとしても。
「もう辛いこと、しなくていいんだよ。僕と一緒に、いつまでも、遊ぼうよ」
「でも、」
「だってそこは、寂しそうだよ」
 息を呑む。那桜の途を閉ざすように、波が押し寄せては引いていく。包み込む空気は優しく、まるで海のように広大だ。この中にずっといられたなら、どれだけ幸せだろうか。
 望む事は罪だろうか。幸福を願う事は罪だろうか。
 あの日々を取り戻せるのだと、甘露は囁く。このまま手を取りふたり歩めたら、それはとても素敵なことだ。
「海斗君……、わわっ!」
 ひゅう、と風が吹いた。目も眩むような突風は那桜の髪と桜を煽って過ぎていく。柔らかな両手が声を遮るように那桜の耳を塞いだ。

 ――大丈夫だよ。

 一等優しい声がして、海が静かに枯れてゆく。

 ――またね。

 それは、名前を呼んでくれた、あの男の子の声だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コッペリウス・ソムヌス

甘い蜜の香が夢へと誘う
こんな夢の見せ方もあるんだなぁ、と
カンテラを手にしながら感心して

大輪の花々が咲き誇る世界で
進むうちに増えて聴こえる足音
……そうとも此れが『オレの望んだ夢』
姿あるキミと一緒に世界を巡りたかったね
色んなものを視てきた
悲劇であろうと喜劇であろうと何でもいいが
増えていく感想は独りぶんだけ

果てなんて無いように思える道の先
足下の影まで見えなくなってしまう前に
まぼろしの同行者とは別れを告げよう
さようなら、オレのみた夢
晩鐘の音が響く時、
……オレが死んだらまた逢おう




 いつしか足音は二人分となっていた。
 いつから増えていただろうか。花の香はコッペリウス・ソムヌス(Sandmann・f30787)の感覚全てを鈍らせるように、蔦籠の中を漂っていた。夢の語り手をも呑み込んで、幸福充ちる揺り籠へ誘う。
 カンテラが揺れて、目も覚める。幾度となく同じ現象を繰り返した。甘い香り再びが濃くなり、感覚は朧に呑み込まれる。
「……全く、こんな夢の見せ方もあるんだなぁ」
 ぱちりぱちり、弾ける夢の泡は霞めど消えない。夢の形を確りと象り、足跡二つ進んで往く。
 風景は訪れた時より何も変わらない。花々を踏みしめ、花弁を散らしながら、姿あるキミと進んでいく。巡り歩きたい世界の一つを歩んでいく。
 望んだ夢のかたちは、隣に在った。
 コッペリウスの影が純白の花に侵され形を変える。同時に、片割れは影を残してゆく。存在が徐々に明確となる其れは、コッペリウスへ楽し気な声を、悲し気な声を、数々届けた。
 記憶の端々を埋める声が、記憶の風景に足される。過去の存在は果たして本当にひとりぶんだっただろうか。確かに、此処に在ると云うのに。
 今までが間違いで、此れが現実ではないか。
 払拭する度に消さないでと告げる声が体を蝕む。積み重なれば無視できぬものと化す澱を引き摺りなおも進む。
「識っているんだ、独りだと」
 果てない途を照らす灯が月明りを食い潰し、明確な影を映し出す。抗うように花々は蜜を垂らして咲んだ。隣のキミも、また。
 此れを是とするならば、影を無とする事許されり。しかして、晩鐘は真実を刻み終焉を結ぶ。
「さようなら、オレの見た夢」
 漸く、まぼろしを見た。
 夢は、嬉しそうに笑っていた。 
「……オレが死んだら、また逢おう」
 届かぬ約束を乗せて祈りを贈る。明確な影の形が、ひとりぶんを花のキャンバスに描いた。
 足跡はひとつ。存在も、ひとつ。眠り見る夢に離別を告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菊・菊


「アキちゃん、お寝坊さんだねえ」

チャイムの音で机から顔を上げる
俺はサボらず焦らずカンテラ片手に花を踏み荒らしてたはずだ

んでも、俺は知らねえ教室にいた
もう授業おわっちゃたよ、そう言ってかわいい女が笑ってる

俺が知ってんのは、小さい頃のかわいい女だけ
つまり、セーラー服姿のこのかわいい女は、
あの白くてちっこくて可愛い奴の言うまぼろしに違いない

分かったけど、分かりたくはなかった

「ね、アキちゃん。一緒に帰ろ。」
俺の足元に、カンテラ
俺の目の前には、かわいい女の白い手

どっちも掴んで進めないから、やっぱりこの世はクソだと思った

「またな。」

そう言って、教室のドアを開けるので精一杯で
俺を呼ぶ声がもう思い出せない




「アキちゃん、お寝坊さんだねえ」
 そんな声が菊・菊(Code:pot mum・f29554)の耳に届いた。音は確かに脳を揺らし、そうして菊は覚醒する。この感覚に覚えはあった。眠りから覚めた時の、あの感じ。ぼんやりとした視界は徐々に明瞭になっていき、力の抜けた身体に活力が戻っていく。
 目を覚ます。
「もう終わっちゃったよ」
 色の変わった女の声が引き戻す現実では、チャイムの音が鳴った。
 おかしい、と。気付くのは容易だった。
 ざわざわと人の声が見知らぬ教室を満たす。服装も景色も何もかも、花籠にいた直前の記憶を塗りつぶしては違和感なく馴染んだ。それでも、ひとつの欠落だけは覆せない。
 声がした方で、かわいい女が笑ってる。
「ね、アキちゃん。一緒に帰ろ」
 夏がよく似合う白いセーラー服に身を包む女。膝よりも少しだけ上に折ったスカートの中でお行儀よく膝がぶつかっている。机の上で組んだ細い指の先っぽは、可愛らしい色に染まっていた。
 伸びた髪が成長を告げる。鐘のような声はころころと可愛らしく、菊だけに向けられた。
「帰る準備しないの?」
 ああ、クソッたれ。
「アキちゃん」
 分かってしまう。
 どうせならいっそ、何も分からずにいた方が幸福だった。
 身動ぐと足は何かを蹴る。見ればカンテラの灯が揺れていた。いつの間に手放したのか、天辺を爪先で押されたカンテラは横倒しになって女の方へと転がっていく。
 煌々と照らす先、女の影は何処にも無かった。
「アキちゃん、」
「またな」
 ふっくらとした、赤みを帯びた生きたてのひら。血の通うそれは、触れたらきっとあたたかい。
 掴めない。菊にはそれだけが真実だ。
「ア――、ちゃん……?」
 全てを置き去りにして教室のドアを開ける。取り残された女の声が不思議そうな色を伴って耳に届いた。
 違う。あの声をもう、思い出せない。
 ふっと身体から力が抜けて、菊の意識は霞んでいく。甘い香。花の夢。
「アキちゃん、お寝坊さんだねえ」
 導を失くした迷子は、夢を見る。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

夜鳥・藍
POW◎
こちらの世界に限らず、戦争が終わったところで一難去ってまた一難、と言う事でしょうか。
カンテラをいただいた時、あるじさまと言われた時はどうしようかと思いましたが……。

見事な、と言いますか。この中を歩くのは足元が怪我しないか少し気になりますが。
眠りを誘い夢を見る。それは白昼夢。
灯を照らし歩くといつの間にか私は誰かと共に歩いている。
傍らのその人を見上げれば、見つめ返すその人の瞳に映る私は少し色彩が違っていて。今の私よりずっと淡い色。
お互いに穏やかな表情で一言二言言葉を交わし、歩みを進める。

ああ、これはきっとかつての私が夢見て望んだ光景なのでしょう。
そしてそれは叶わなかった。死んだから。




 ゆらり、くらり、揺れるカンテラ。灯は月光降る花道を照らす。
 緩やかな足取りで進む夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)は、充る蜜の香の誘いに釣られぬよう、確りと途を確かめながら足を運んだ。多量に咲む花々の隙間を縫うのは容易ではないが、確実な足場を選んで進む。
 咲き誇る花はどれもこれも、自分の存在を認めて立派に開いた。どうして足を止めないのかと、花はさやかに問うてくる。蜜を垂らし、甘い夢を望まんとする人々へ眠りを齎す花の誘惑を、藍は意識して断ち切っていた。
 ――それでも、
 ふと声がして顔を上げた、その先に。
「どうしたの?」
 当然のようにいる隣人が首を傾げた。真っ直ぐに見る双眸に住む藍の姿は、少し色彩が異なっている。
 深き宙の果ての色は、仰ぎ見る曇りなき空を。遠い星々の輝きの色は、繊細な銀装飾の輝きを。
 ふわりと風が運んだ髪は、確かに淡い色に染まっていた。
 これが私。本当の私。
 ――いいえ、これは、偽物の私。
「行きましょう」
 言葉はさらりと口から出た。
 まるでそこにいるのが当たり前で、そもそも一緒にいた人で、藍の違和感は薄れていく。ふうわりと花の香りが鼻腔を擽った。
 花道は際限なく続いていく。歩めど歩めど風景の変じぬ途をカンテラで照らせば、風に煽られた髪が時折青く煌めいた。ささやかでいて、確かな輝きを、藍は見る。
「"綺麗"ね」
 口先だけの言葉。
「うん」
 穏やかな返事。
 積み重ねるものは少なかれど、藍の胸中に幸福が広がっていく。その感覚すらもどこか他人事のように感じられた。悲しくも理解していた。
 ああ、これはきっとかつての自分が望んだ光景。
 ああ、これはもう二度と叶わぬ夢。
 歩く拍子に触れた手のひらがあたたかさを伝えてくる。なんて、残酷な夢なのだろう。
 けれども、もう少し。途の終わりが見える頃まで、二人でどうか歩みたい。そのぐらいの幸せを望んでも、それはきっと、花のせいだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
◎◇
ミラ達仔竜を引き連れて参加…。

て自分や仔竜達を守る様に周囲に【狐九屠雛】を展開しながら、カンテラの灯りを頼りに着実に前進…。

わたしの望む夢…そんなの決まってる…。

今は亡き家族が存在し、現在共に在る家族達(メイド人形達や仔竜達、【共に歩む奇跡】で救ったオブリビオン達)…そして、戦いの中で救ってあげられなかったオブリビオン達とさえ、共に平穏を享受する…。
そんな穏やかでありえない光景…。

でも、わたしは止まる事はできない…。
所詮これは夢…。
現実のこの仔達やみんなの為に…。
大祓骸魂との戦いでも力を貸してくれた、死んだ姉さん達の為にも…。

わたしは世界を守り、戦い続けるって決めたから…。




 パキパキと氷が割れるような音が響く。
 踏み締める足は時を止めた花の上に降ろされ、霜柱を折った時と同じ感覚を伝える。それが楽しいのか、お供を言い遣った仔竜達が氷の花を割っていた。不思議な炎を恐れた様子は何処にもない。随分と慣れたものだ。
 雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)の手の先、色の違うカンテラが揺れる。
「あんまり、遠くに行かないでね……」
「くるるっ」
 楽し気に喉を鳴らす仔竜達はじゃれ合うように飛び遊ぶ。その後ろを追い掛け、メイド人形が璃奈を追い抜かした。
 掌に熱。
 見れば、幼子が璃奈の手を握っている。璃奈よりも短い歩幅を懸命に動かし、凍て付く花を楽しそうに共に踏む。
 出来立てのパイにも似た、香ばしくも甘い匂いが漂っている。
「わたしの……望む、夢……」
 気が付けば騒がしい声が周囲を満たす。幸せな日常を描く何気ない会話があちこちから上がる。聞き取れない音も、理解出来ない声も、全てが幸福の煌めきを宿していた。
 此れが夢だと、知っている。
 するりと腕に巻き付くミラが首を傾げて璃奈を見上げた。
「ぎぅー」
 一緒に遊ぼうと、訴える声は何時もと同じ。けれど、猟兵として戦う中で仔達が甘える事は殆どない。
 戦いも、憎悪も、悲しみも、あらゆるものがない世界だからこそだ。
 足元に咲く花がゆらりゆうらり、立ち止まってと囁いた。
「だめだよ……行かなきゃ……」
 蝕む感情は幸福に充ち、平穏を拒む意志を削る。
 璃奈は知っている。璃奈だけが。
 息を吐き、静かにカンテラを掲げた。影が落ちぬ世界の中、ひとつ、ふたつ、みっつ、――真実の影だけ、花弁に落ちた。
「ミラ、クリュウ、アイ……」
 願いを込めて名前を呼ぶ。
「行こう……戦い続けるって、決めたから……」
 熱が消え、音が消え、幸福が溶けていく。

 ――どうして?

 そんな懐かしい姉の声が聞こえても、璃奈の足は止まらなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
周囲を覆う白い花、甘い香り
夢路への誘惑に耐え歩む
それでも垣間見てしまう望みは

平和になった世界
吸血鬼に支配され虐げられることもなく、皆幸せに暮らしている

傍らには愛する夫の姿
「ここにいれば何も不自由することはない
ただ俺の隣で笑っていればいい
いつまでも、いつまでもここにいよう……」

違う
これは過去に何度も見せられた幻
敵の卑劣な謀が見せるまやかし
何より本物の夫は、わたくしを縛るようなことも
外の世界を見捨てるようなことも決して言わない

甘い幸福で包みながら真綿のように生きる意志を奪う
そんな「欺瞞の楽園」にはもう騙されない

ああ、ささやかな望みすら疑わねばならないなんて
この心に刻まれた深く醜い傷は今も消えない




 余りにも濃い花の香り。垂れた蜜が纏わり付いて、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)の足取りを重くする。ひらりと舞う花弁は優雅でいて、見惚れてしまうのも肯ける。
 一等強く風が吹いた。視界一杯を占めるよう、花びらが舞い踊ると同時、視界は薄暗い世界を切り開く。
「ここは……」
「ヘルガ」
 声。見慣れた姿がそこに在る。聖騎士たる姿からは遠い軽装に、剣も無い。戦いは不要だとする彼の隣、自身も純白のワンピースに変わっていた。
 まるで歌劇だ。差し出された手に、ヘルガの指先は乗せられる。
「ここにいれば何も不自由することはない」
 手を引かれ、常闇から光ある方へ。
「ただ俺の隣で笑っていればいい。いつまでも、いつまでもここにいよう……」
 甘い囁きは確かに彼の声と同じもの。触れる温度も同じもの。見目も、態度も、何もかも……。
 ただひとつ、心が違う。
 甘言は強い毒となって体を蝕む。導かれるまま進んだ先に何があると言うのだろうか。
 何度だって夢を見る。幸福を叶える幻を見る。
 真に望むものを得られる世界にただひとり行ったとして、其れは本当に真実だろうか。
「違う」
 足は力強く大地を踏みしめた。
「ヘルガ?」
「その声で、わたくしを呼ばないで」
 手を振り払い睨みつける。困惑した表情を見せる愛しい夫に、偽物のレッテルを貼り付ける。もし本当ならばと願う心がないとは言わない。
 けれど。これは裏切りだ。真に愛した夫への。
 カランと金属の音がして、ヘルガの意識は握りしめた左手の熱を思い出す。決して手放さぬようと念押しされたカンテラの灯が心情をそのまま映し取ったかのように不安げに揺れた。
「途を、明けなさい。わたくしの邪魔をなさらないで」
 ヘルガの意志を汲んだか、灯はぱっと周囲を照らす。影のない男は朧となり、くすくすと咲む花々が眼下に開いた。
 つくりと胸に棘が刺さる。もうずっと、抜けないまま。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榎本・英
嗚呼。夢か。

歩めば歩む程に色濃くなる世界を見据え
夢の世界だと漠然と思うのだ。

断罪

私の望む夢だ。
処刑台の上で民衆に囲われる様はどこぞの女王のようだとも
もっとも私はこの上に立つ意味を知っているがね。

あまりにも多くの命をこの手にかけすぎたのだ。
いつかはこうならなければならないと理解をしている。

そしてそれが今ではないと云う事も。

すまないね。私は未だ裁かれる訳にはいかないのだよ。
犯人はまだまだ逃げ続けるのだ。
私には成さねばならない事が山のようにあるからね。

これは私の望む夢だ。
夢は所詮夢である。

私が歩むべきは現世。今、この時だ。
儚い望みに別れを告げよう。
私はまだこの世を生きているのだ。




 階段を上っている。
 甘露に満たされた空間は四角く切り取られ、取り囲む花々は徐々に人のかたちを得た。葉が擦れる微かな音は次第に騒めく人の声へと変わった。
 罪人だ。榎本・英(優誉・f22898)を取り囲む声がそう告げる。

 ――嗚呼、夢か。

 漠然とそう、感じた。かつりと硬い金属を叩く音と共に、足は前へ前へと進んでいく。かつり、かつり、音が鳴る度に声は大きくなった。
 英の見る先に在るのは、何とも見事な断頭台だった。鈍い刃は嘗ての裁きを思わせる血色に錆び、刃毀れすらも直されず、只、其処に在る。てらてらと月の灯を浴びて光るのだ。
 歓声を受けるは己か、其れか。
 人殺し。
 聞こえた声。ふと其方を見遣れば、確かに手に掛けた命の顔が其処に在った。指を突き刺し、英を真っ直ぐ見上げ、赤い口腔を一杯まで開けながら声高々に叫ぶ、人殺しと。
 同調する声が止まない。降り頻る雨のように、声が粒となって浴びせ掛けられた。身を護るものは何処にも無い。守る権利すら有やしない。
 其れで良い。良いのだ。
 余りに多くを手に掛けすぎた。断罪されるべき我が身が、今、執行されるのだ。

 ――嗚呼、しかし、

 望みが儘、手放せたならどれ程良かっただろうか。否、其れこそ救いと為る。其れでは往けないのだとも。
 謝罪の言葉は何処へと向けられたか。描く小説ならば、ジョキンと首を裁たれてエンディングだが、悲しくも現実は終焉を望まない。
 処刑台の上、見下ろす民衆は嬉々交々に歓声を上げた。其の頭へ、処刑台の先へ、靴を下ろす。
「おゆるしくださいね、ムッシュウ。わざとではありませんのよ」
 かの女王の台詞を綴り、人を、――花を踏み躙る。
「歩むべき途は此処ではないのでね」
 純白の花弁が散った。生きるべき世が還る。儚い望みに別離を告げ、今日も現世を生きている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラファエラ・エヴァンジェリスタ

望んだ通りのまやかし、か
怖いもの見たさ以上に心惹かれる自分が居る

夢見てしまうのは、かつて望むべくもなかった愛と平穏
御父様と御母様が、私を血族の駒でなく娘として、あの美しいお顔で笑いかけてくれて
他愛のない話さえ頷いて聞いてくれる
好きな人が出来た…だなんて紹介してもゴミを見るような目を向けたりせずに祝福してくれる
私の傍らで微笑む彼を、たかが騎士風情と嘲ることもなく
私を血族の恥晒しだ等と罵ることもなく

…嗚呼、良いな
ゆえにこれはまやかしだとよくわかる
あの恐ろしい方々の前で愛だの恋だの口にする勇気は私にはないからね

何も問題はない
カンテラを握り締めて歩くよ
だけど頬が濡れるのは何故だろう




 気が付けば食卓にいた。歩みを止めたつもりも、カンテラを手放したつもりもない。実際、左手には人肌の温度が移った金属の感触が残っている。だと言うのに、脳は是が現実と告げた。
 左手にはナイフ。右手にはフォーク。嗚呼、金属の感覚はこれだったのかと当たり前のように認識した。
「最近どうだ、うまくやってるかい」
「ええ、御父様」
 口から言葉が勝手に溢れた。どこか奇妙な違和感が残る。ゆるくかぶりを振って邪念を追い出そうとしていれば、ラファエラ・エヴァンジェリスタ(貴腐の薔薇・f32871)へとかかる心配そうな両親の声。その声は、とても優しい。
 惹かれた心は容易く許す。甘い毒は肉を喰む。女の心に蛇が巻き付き誘った先は、幸福満ちる夢見の世界。
 そこには愛があった。
 そこには平穏があった。
 愛娘へ注がれる愛に偽りは無く、本の端で指を切っただけで大騒ぎだ。眉目秀麗な顔をこれでもかと歪ませて、愛しき子の為に東奔西走駆け回る。
 どんな話も出来た。ラファエラが頬を赤て恋を告げれば、甘いお菓子とちょっぴり渋いハーブティーでお茶会が開かれる。唆す声に従い彼を伴えば、純白の花々と共に祝福をくれた。
 確かに、そんな記憶がある。
 囀る全てが幸福に満ちた、

 ――……嗚呼、良いな。

 囀る全てが欺瞞に満ちた、世界だ。
 ラファエラの端正な唇が歪む。咲む口からは甘い吐息が溢れた。豪奢な装飾の向こう、眇めた瞳がクスクスと嘲笑う花を見る。
 まやかしだ、全て。
 侵食する記憶が過去を喰い潰そうと蠢いた。愚かな事だ、自分の事は自分が一番分かっている。
 勇気は無かった。幸福は無かった。愛は無かった。
 左手をようく見ればカンテラの灯が足元を照らす。確りと握るその持ち手を離さぬよう力を込めた。
 なにも、ない。問題はない。
 前を向く女の歩は続いて往く。流れるものは、時と風と、透明な雫だけ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
花の齎す幸せな夢、か
其れに惑わされてしまえる様な心なら
いっそ楽だったかもしれんな……

カンテラを手に歩む足取りは決して緩まない

記憶の――心の深奥に、変わらず在り続ける「彼女」の声、其の姿
柔らかな微笑み浮かべ、白い手が此方へと差し伸べられて
伴に歩むと誓った灰の竜が佇んで
寂し気な様子で伺いながら、黒手袋に包まれた右手で袖を引く
見慣れた能く知る町並みを――“家”を示して
何よりも愛おしい護るべきものと、共に過ごす永遠が叶う場所が其処に在る

……全く、有り得ない幻を見せて寄越したものだな
かの2人が共に在る筈が無く、私を引き留める様な真似をする筈も無い
此の程度で足を止める様な無様を晒す事なぞ出来るものか


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
昔なら、きっと違うものが映ったんだろうけど――

カンテラの灯りが暖かい
花の香りは甘ったるすぎて、ちょっと苦手だけど
迷わせる夢に負けるわけにはいかないよな

見えるのはいつもの光景
家族がいて、友達がいて、私の帰る場所でいてくれる奴がいて、皆しあわせそうで
唯一違うことがあるとすれば、そこに私がいないこと
そうあるべきだと今でも思ってるし
……そうだった方が、本当はしあわせだったんだろうとも思ってる

だけど足は止めてやらないよ
煙草に火を付けるのは香りを和らげるためじゃない
これが何より強く私を導いてくれる
皆に沢山のものをもらったから
せめて大事なものの今は、私が守るって決めたんだ
いつか、その傍にいられなくなるまで




 カンテラが揺れる。甘い香りが煩わしい。
 花弁を踏み潰し鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は進んで往く。拐かされる程の心で来てはいない。確りと金具を握り締め、往く途を照らす。
 花の齎す夢は様々だ。声を聴いた者は振り返り、風景を見る者は立ち止まり、迷いを得た者は来た途を還る。
 ふと心を他所へと許せば、お前もおいでと囁いた。
 そうして来る声は、当然と言えば当然なのだろう。

 ――ねえ、

 心の奥底、やわらかい処に触れる音。花弁が一瞬視界を過ったかと思えば、眼前に居るは「彼女」の姿。
 人が最初に忘れるのは声だと云う。
 其の音を未だ忘れ得ぬと云うのはつまり、其れだけ存在が明瞭と云う事である。
 変わらず在る「彼女」が嵯泉へと手を伸ばす。実に見事なまでに記憶と同じ微笑みを見せた。

 ――何処へ往く?

 揺らぎは嵯泉の心に隙間を作る。罅割れた処に無形の毒が入るのは容易い事だ。瞬きの間で、人影がひとり歩み出る。誰ぞと疑う前に結論は出た。
 伴にと誓った灰の竜。薄い唇が彼の名前を紡いだ。
 身動ぎの間にも距離は縮む。困ったように眉を下げ、黒手袋の右手が袖を引く。言葉無くとも通じるのは、忍び寄る毒牙の賜物か。
 風景が変じ往く。辿り着くべき場所から遠ざかり、竜は能く知る町の一点を指先でなぞる。
 其処へ往こうと声が囁く。伴に在ろうと甘言が降る。此処ならば永遠を紡げるのだ。
「……はは」
 此れは自嘲か嘲笑か。
「全く、有りもしない事をしてくれる。幻だとしても」
 かの二人が斯うして引き留める訳も無く、亦、共に在る事も無い。静かに瞳を閉じて風を聞く。齎される声を意識して省き、質の悪い花籠を想起する。
 黙想の果て、隻眼は元凶を見た。下ろした足は、迷う事無く花を潰した。


 カンテラが揺れる。甘い香りが煩わしい。
 花弁を踏み潰しニルズヘッグ・ニヴルヘイム(伐竜・f01811)は進んで往く。抗う心は持ってきた。確りと金具を握り締め、往く途を照らす。
 花の齎す夢は様々だ。声を聴いた者は振り返り、風景を見る者は立ち止まり、迷いを得た者は来た途を還る。
 変化は確かに訪れていた。ぽつぽつと人影が増え、花道は何時しか街道へと変わる。カンテラに従い真っ直ぐ進んで往く足は、カツンと石畳を蹴った。
 其処に広がるのは何時もの光景。
 ニルズヘッグの視線が左右に動く。誰も彼もが男を認識せずにお喋りをして通り過ぎた。容姿の能く似た男女が笑う。其の狭間で見上げて居るのは小さな子供。両手を確りと掴んで楽しそうに声を上げた。
 とん、と小さな衝撃。其れに見合わぬ人影がニルズヘッグの腹を擦り抜けて往く。衝撃こそ本物に感じられたが、走り抜けた見知った顔は何事も無く通りを抜けた。名前を呼んだ声は、男の名を紡がない。
 一等強い匂いに誘われて、ニルズヘッグが視線を滑らせた先は、伴を願った男が居た。店主と話す其の姿は穏やかで、剰え笑顔を見せる。
 ふと、足が止まった。
 細めた両目が其の姿を捉えて離さない。幸福充る世界で生きる人々の、際限のない幸せが、ニルズヘッグの身体にも沁みて甘い甘い毒と為る。
 ずっと眺めて居たいと思うのは、花の夢が魅せる理想の夢か。
 何より、誰も男を見留めない。
「……なんだ、私が居ずとも幸福そうじゃあないか」
 其の声は呆れでは無く笑いを含んでいた。
 希薄に為っていたカンテラを持ち上げ、其の灯を煙草に移す。微かに弛む煙は天上に昇って溶けた。芳醇な香に混じる一筋の光明は夢に小さな亀裂を生む。
 沢山を喪った。沢山を哀しんだ。其れでも尚、溢れる程の大事なものを手に入れて、守りたいと願う今を見つけたのだ。
 いつか来る日は今じゃない。足を止め眠る日は、未だ遠く。


 斯くして岐路は交わった。
 訝しむ顔には勝ち気な笑みを。咲む唇には僅かな安堵を。
「お前も来てたのか」
「それはこっちの台詞」
 並び立つ影は然りと二つ。幻の夢は切り裂かれ、苹果の途へと繋がれる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
ランタンを手に歩く横にはきっと
いつしか、紫の灯が揺れている

それを手に歩む、藤色の髪の――約束を交わした彼女の姿も見えるだろうか

……そうだな
欲しいもの――望んだ幸せがあるとしたら
なんでもない、ありふれた奇跡みたいな日常
その中に――その隣に、彼女がいてくれることだ

でも、俺はちゃんと知ってる
この胸の裡にある想いが、彼女に届くにはまだ遠いってこと

……だからこそ、夢に惑わされたりはしない
この光景を、都合のいい夢で終わらせたくはないから
これから歩いていく道の先に、いつか
同じ光景を、見たいから

彼女が光を灯してくれた明日を諦めない為に
そこに、彼女を連れていけるまで
足を止めないと決めている
立ち止まらないで行くよ




 暖かな光に紫紺が交わり溶けて、対と為る。
「どこまで行くノ?」
「もっと先まで」
 何時しか二人手を取り歩む。歩幅の違う足は、藤色の少女に揃えられた。遊び跳ねる少女の、楽し気な声と倣う足。
 まるで此れが当然のように感じられた。日常の一幕を切り取った、或る日の出来事。今日の散歩道は花籠の中。只、其れだけ。
 繋ぐ掌は仄かに熱い。自身の熱か、彼女の熱かは混じり合って分からなかった。
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)の思い描く、なんでもない、ありふれた奇跡。幼少から戦場を渡り歩いた男にとって、穏やかでいて平和な日常は貴重とも言えた。
 其の平穏に、彼女が居る。ただ居るだけではなく、隣に。
 胸中を満たすのは幸福だ。罅割れて猶も動き続ける心臓に、液体の如く沁み込んでは広がってゆく。捨てて来たものを拾い上げ、踏み砕いたものを搔き集め、掌をどろんこにしても楽しい思い出だったと差し出す彼女と、伴に在りたいと願う。

 ――嗚呼、なんと都合の良い夢か。

 数多の戦場を抜けた男だからこそ、其れを享受し眠る事など許さなかった。僅か芽生えた胸の裡の想いに、身勝手に水を注ぐ花蜜の誘いを自ら潰す。
 まだ、まだ、遠い。
 背伸びして、勝手に育った気分になって、誰が報われると云うのか。其処に真実は存在しない。都合の良いまやかしに縋る程にこころは柔くなく、亦、想いを無碍にはしていない。
 いつかを望む、からこそ。
 繋いだ手を解くと、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「もういいノ?」
「もういいよ」
 誰の為でもない自分の為に。他の誰でもない彼女の為に。光を灯してくれた明日を掴むには、このまま微睡んでてはいけないと知っている。
 足は止めない。彼女を灯の袂に連れていけるまで。そうして、その先までも。
 漸く目を合わせた彼女は、嬉しそうに笑って消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荻原・志桜

あまい香り
わたしが望んでいたもの
手に入らない幻
そうだね、ひとつしかないね

一度だけじゃない
何度も願いそうになった夢
大切な人たちが誰一人欠けていない
いとしいあの人
信頼している友人
守りたい子
そして、もういない魔法の先生
幸福が満ちた夢に泣きそうになる

みんなが笑って、傍にいて
争いもなくて、涙することもなくて
あたたかく柔らかな居心地の良い世界

渇望して手を伸ばすことはできない
だって誰よりも生きたかった先生が望んでないの
わたしに生きろと言ってくれた最期の言葉を忘れてない

先生の軌跡を憶えていると約束したの
傍にいなくても
先生の志がわたしの中にある
それにひとりにしたくない人がいるから
わたしはあの世界で生きていたい




 甘い香り。望んだもの。
 荻原・志桜(春燈の魔女・f01141)には手に取るように、訪れる夢が何かを知っていた。
 何度だって願った。願いそうになって、胸の裡に仕舞い込んだ。
 誰だってきっと同じ事を願った筈。欠けたいのち。欠けた存在。手のひらから零れ落ちてゆくそれらをずっと、手のひらの内に暖められたらどれだけ良かっただろうか。
 手に入らない幻が、訪れる。
「志桜」
 あの日、最初で最後、呼んでくれた名前がもう一度綴られる。忘れられないあなたの声は、どこか不満げで、居心地悪そうで、それがまた先生らしいと志桜は思う。
 何時しか純白の花々は、優しい桜色を伴って咲いていた。志桜を、友人を、先生を、祝福するように。降る花びらは淡いピンク色に染まっている。溶け込んでしまう先生の姿を、志桜はじっと見つめていた。
 視線を外せない。まるで、魔法がかかったみたいに。
 初めて見た小さな魔法。咲いた桜に魅入られて、無我夢中に追いかけた。先生が笑い、名前を呼んで、傍にいる。辛い時や苦しい時は友人たちが心配して、守りたいあの子が背伸びをして頭を撫でた。
 記憶が、混じる。
 いとしいあの人が隣に立って笑っている。仕方ないから傍にいるだなんて、言いながら。
 なんて、なんて、――幸せな夢なのだろう。
「……昊くん」
「先生、だろ」
 視界が歪む。ダメだ、と、心が訴える。
「行くぞ。ぼさっとしてんな、置いてくぞ」
「うん」
 差し出された手。掴みたいその手を、志桜は取れずに頷いた。
「……昊くん、わたし、行けない。だって、昊くんがそう願ってくれたんだよ」
 幻よりも、確りと。あの日届いた声は、少しずつ時間に溶けて分からなくなってしまいそうだけれど、言葉だけはずっと、胸に残り続ける。
「約束したの。それにね、ひとりにしたくない人がいるから」
 空を見上げた。見えなくとも、天にはいつも日がある。忘れない。あの日のこと。最期にくれた、生きろという言葉を。
「だから……わたし、生きていたい。さよなら、昊くん」
 二度目のサヨナラは、案外呆気なく訪れた。
 言葉を最後まで聞いた男は、軽く肩を竦めると満足気に笑って消える。桜が、全てを攫って世界が還った。残ったのは、桜色の少女がひとり。

大成功 🔵​🔵​🔵​

岩元・雫
【円月】

ほのりと温い、カンテラの光
甘い匂いも相俟って、何時しか微睡んで終いそう

まどかこそ
夢魅せるあんたが、夢に溺れたら御笑い種だ
翼が有っても、油断しないで
おれじゃ、手を引けないから

――おれは、そもそも
今、斯うして在る事が、夢の様だと思って居て
此れ以上、望む物なんて無いと、思って居たの
なのに
何でかなあ
何で、おまえが見えるの、『静久』
何で、おまえが――おれの友達と、わらってるの

知ってたよ
でも振り払ってた
有り得ない事だから
静久の――『俺』の侭で、今の様に友達が居たらって

おれは、何時から此様なに
夢に、弱く為ったのだっけ

ぽつり、滴る雫で目を覚ます
柔い光が、今は眩しい

――いいよ
其れを、『まどか』が望むなら


百鳥・円
【円月】◎

甘ったるい香りに酔ってしまいそう
脳内まで支配されるのは御免ですよう

カンテラの光を浴びた白花の眩しいこと
しずくくん、大丈夫です?
宙を游いでゆくあなた
あなたが足元を掬われることは無いですけど
迷わないように、気をつけて


わたしの幸福って、何でしょう


肉親である父と母が居て
日々の些細な出来事に一喜一憂して
平日は学校に通って
休日は目いっぱいお洒落して
友達と、家族と、過ごすことが出来たのなら

なんて、“わたし”に語らせるのは誰ですか
わたしにあるのは、成すべき使命
欲しかった日常なんて、ただの胡蝶の夢です

光を手に、先へと進みましょう
心の核が求めたものたちに、惑う前に

ねえ、しずくくん
手を引いても、いいですか




 揺れるカンテラは二人分。くっつけ合って大きな光になる狭間、甘い闇が押し寄せる。垂れる花蜜の誘いは、夢を齎す百鳥・円(華回帰・f10932)の元へも分け隔てなく訪れた。
 くらり、酔う視界は一杯の花。
 ふらり、惑う道筋は微睡の先。
 色の違う両の目が、先往く岩元・雫(亡の月・f31282)の背を見留めた。
「しずくくん、大丈夫です?」
「まどかこそ」
 宙游ぶ雫が鰭とも附かぬ白きころもを翻し、吃々と咲む。
「夢魅せるあんたが、夢に溺れたら御笑い種だ」
 二人声掛け進んで往く。花を潰し、宙を遊び、訪れた先は異なる景色が広がっていた。
 片や、故郷の景色をめいっぱいに広ませて。
 片や、友人と共に日常を送る風景を馴染ませて。


 此れが、夢だと思って居た。
 弛ませる尾が空気を叩き、カンテラの灯と共に夢を灼く。そも、夢で夢見るだなんてそう無い事で、此れ以上を望むべくも無い中で、誘いが来るとは思って居なかった。
 万人に等しく、万物に等しく、毒は忍び寄る。
 するりと抜けた、人の影。
 嗚呼、忘れもしない其れが何か理解っている。何で、如何して、喘いでも、ひとは何処へも消えやしない。
 雫の瞳に映るのは、静久の姿そのものだ。そうしてかれは笑っていた。其の隣に在るべきは雫の筈なのに、何時も笑う友達がかれに笑っている。
 息が詰まる。海の底に墜ちてゆく。白く染まり征く脳髄の奥で、自分自身がさやかに雫を指差した。
 言葉を紡ぐ、見ぬ振りするな。
 瞳が責める、受け止めろ。
 知ってたんだと返そうとして、こぼりと口から泡が溢れた。有り得ないと蓋をした、其の罰がいま、雫を苦しめる。このまま静久で好いのだと蛇が笑う。
 
 ――嗚呼、おれは、いつから此様に弱く為ったのだっけ。
 
 毒は何時しか薬に変わり、苦味は何時しか甘露に変わる。
 雫は眠り、静久が起きる。其れで、――


 幸福とは、何か。
 其れは訪れるよりも前から在った問いかけだ。実際訪れる夢がどのようなものかは、夢魔には想像も容易い。
 さて。
 進み足は滞り無く、蜜垂らす花を踏み潰しながら天を仰ぐ。其処に在った筈の共は霞の先に誘われて往ったらしい。近くに存在を感じはすれど、靄がかった視界には何人も映らない。
 そうして声が聞こえた。何とも近くから響いた声だ。
 紡ぐ物語は平穏極まる日常の話。血のつながった両親は、些細な出来事に一喜一憂して、どんな事も分け合い共有出来る存在だった。お休みの日に作ってくれるケーキが美味しくて、何時も紅茶を淹れてお供するのだ。
 平日は学校に通い、友人たちと心ゆく迄遊んで帰る。勉強だってお手の物だ。教え合い、高め合いながら日々成長した。
 何時だって隣には家族が、友人が、大切な人達が居た。

 ――なんて、そんなものはない。

「……全く、都合の良い夢」
 同じ声が、現実を綴る。沁み込んだ毒を追い出すように、深く深く息を吐けば、心地良いあたたかさが気味の悪いものへと変じてゆく。こころを容易く書き換え、剰え偽りの記憶を植え付ける其れを、受け入れる筈も無い。
 蝶の見る夢にしては、幸福過ぎた。


「しずくくん」
 声がする。
 僅か出来た楔が冷たい感覚を引き込んだ。ぽつり、滴る雫で昏い底に灯が点る。唐突に齎された輝きに、雫は思わず目を閉じた。ゆっくりと瞼を押し上げていけば、カンテラの灯と見上げる円の顔。
「手を引いても、いいですか」
 言葉と共に、雫へと差し伸べられる手。
 円が進んだ先で微睡む雫を見付けて声を掛けた。惑いの底と云うには浅く、夢を払うには深い其処から引く為の手は、真っ直ぐに雫へと向けられる。円の両目は逸らされる事無く、雫だけを見ている。
 くるり、尾鰭のころもが揺れた。
「いいよ。其れを、『まどか』が望むなら」
 宵の爪先が、軟らかな手のひらを静かになぞった。
 迷いの霧が晴れてゆく。熟れる林檎の木は目前に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子

確かなものは、この手のあかり。先へと進む脚。

――そうとこころに定めていても、進むうちに、ゆめをみる。


おはよう? ……覚めた気がしないわね。おかしいな。

並んだベッドに、おおきな窓。
寝坊助を起こしながら朝の支度。
おかあさんが作ってくれたあたたかいごはんを食べて。
ごちそうさまでした。いってきます。
学校はみんな違うのよ。でも門までは一緒だから。
放課後は遊ぼうかなんて話しながら、庭の手入れをしている管理人さんにも挨拶をして。
当たり前の、唯々平和な、ふつうの日常。


――わかっているわ。

あのこたちは同僚。
あのひとは寮母。
あのひとは上司。

……おはよう。ちゃんと、覚めるわよ。
進むことを選んだのは、あたしだもの。




 おはよう。それはいつもと変わらぬ朝のご挨拶。
「ねえ、それとって」
「これ?」
「違う違う、その隣」
「名前で言ってよ、もう!」
「おはようみんな~、今日も元気だね!」
 騒がしいリビングの声がキッチンに立つ花剣・耀子(Tempest・f12822)の耳に届く。
 やわらかくてふかふか、温かいベッドから出るのは至難の業だ。それでも、いの一番に抜け出せる少女は寝坊助さんを起こし、おかあさんの手伝いをする。お料理はいつも手作りで、どれもこれも美味しい。皿洗いぐらいはさせてと我儘を言うと、おかあさんは嬉しそうに笑った。

 ごちそうさま。いってきます。それはいつもと変わらぬ朝の掛け合い。
「今日、小テストだって。勉強した?」
「してない、やばいよ~」
「きっと大丈夫です」
「耀子の成績が悪いの知ってるんだからね」
 学校はみんな違うけれど、門までは一緒だから一緒に通う。騒がしい声が増えてくると、あちらこちらから元気な挨拶が聞こえてきた。少女もまた、その声に応えて律儀にお辞儀を繰り返す。
「放課後、校庭に集合ね」
「りょーかい、また後で!」
 元気な子たちを見送って、ぱちりと目があった管理人さんにもお辞儀する。
「おはよう」
「おはようございます。今日もお庭、綺麗ですね」
「ありがとう」
 そよそよと、暖かな風を受けて花が揺れた。
 当たり前。全部全部、当たり前のふつうの日常。

 朝起きて、昼は学校に通って、夕方は遊んで、夜は密やかな女子会をして眠る。

 ――なんて、素敵なのかしら。

 庭に咲く純白の花に触れ、その茎へと指を滑らせる。にこにこと笑ったままの管理人の手前、耀子は軽く指先に力を入れた。
 ぷちっ。
 花が、墜ちる。
「わかっているわ。忘れられないの、全部」
 あのこたちは同僚。
 あのひとは寮母。
 あのひとは上司。
 変わらない。変われない。――あたしたちは《土蜘蛛》。

 おはようと唇が形作って、目が覚めるのは苹果の木の袂。ふつうの日常なんてものからは遠くかけ離れたそこで、白き蛇が耀子を見た。
「――……あなたも、生きていたいでしょう?」
「ええ。だから、お前を斬る」
 これは花を散らす剣。八岐の命をも平らげる、冷たきつるぎ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『桜獄大蛇・愛呪』

POW   :    愛呪:いきていたいの?
【狂気と消滅を齎す、荒れ狂う狂愛の桜焔】が命中した部位に【感情全てを憎悪に変え、抵抗する程強まる呪】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
SPD   :    愛呪: おなかがすいたの。食べていい?
攻撃が命中した対象に【自我が崩壊する程の憎悪と激痛を齎す愛の呪】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【魂を穢し侵食し歪ませて、喰らい続ける事】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    愛呪:しにたいの?
骸魂【桜獄大蛇】が、愛呪を刻み寄生した【他者】と合体し、一時的にオブリビオン化する。強力だが毎秒自身の【寄生した主に絶望的な苦痛を与え、主の生命】を消費し、無くなると眠る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は朱赫七・カムイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 楽園にひとつの木があった。苹果の木は今や満開に花開き、周囲を春色の花嵐で彩っている。
 白蛇が寂しそうに猟兵を見る。瞳に狂った愛と憎悪を滲ませて、木の袂で待っている。

 ――ああ、あなたたちも、生きていたいの?

 言葉に溶けた毒は容易く精神を犯す。幸福を、奇跡を、自罰を、平穏を、許容を、望むがままに脳に与える。
 抗わなければ――須らく訪問者は決意する。夢に呑まれ眠る時、其処が終焉なのだと漠然と思う。
 胡蝶の夢。
 現実と夢は、容易く引っくり返るのだ。覚めぬ夢は、果たして夢と為りうるか。
 此れは決意を問う戦い。ひとたび揺れれば落とされる。カンテラの灯はもう、消えた。

 ――おいで、おいで、いとしい子。決して迷うてはいけないよ。

 呪いは確かに迫っている。
 
雛菊・璃奈
◎◇

悪いけど、わたしに呪いは効かないよ…。
これでも、呪いは専門だし、わたしにはこの子(【ソウル・リベリオン】)がいるからね…。

あらゆる呪詛や怨念を喰らい、力に変えて浄化する魔剣…。
貴女にとっては天敵かもね…。


敵の桜焔に対して、こちらも黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い、早業】で対抗…。
桜焔と黒桜のぶつかり合いで相殺しつつ、【ソウル・リベリオン】で愛呪の呪を喰らい、逆に自身の力へと変換…。
自身の力を強化しつつ、魔剣の力を込めた斬撃で相手を追い込み、妖怪から骸魂を引き剝がして浄化を行うよ…。


生きるよ…。亡くなった人達の分まで…!

※ミラ達は後ろで璃奈の応援してたり、時折ブレスで援護したり


シキ・ジルモント
◇◎
生きていたいかと問われて、すぐに肯定できずに沈黙
今憎悪が向かうとすれば、真っ直ぐ自分自身へ
人狼である事に、その性質にいまだに振り回される事に、大切なものを傷付ける可能性に
そんな自分が生きていてもいいのだろうかと、自罰的な疑問すら浮かんで

…いや、もし許されなかったとしても、俺は生きなければならない
カンテラの代わりに握り直した銃を見てそう思い直す
この銃の持ち主だった師の命と引き換えに救われた命だ
容易く投げ出せば、彼の犠牲が無駄になる

呪いに屈したように振る舞い、相手が攻撃範囲に入ったらその一瞬だけ強く抵抗
呪いの強化を最小限にユーベルコードで反撃
今は仕事を優先
この妖怪を迎えに来たのだと強く意識する




 言霊というものがある。
 そこに化学的な証拠や理知的な解があるわけでもないが、確かに人間が及ぼす感情には力があって、与えられたもののこころを揺るがす。楽が籠れば楽しく、怒が籠れば苦しく、愛が籠れば幸福が宿る。
 であれば、呪が籠められればどうなるか。
「……、」
 女の問いかけに対し、シキは息を詰まらせ沈黙した。返すべく感情の悉くが憎悪へと書き換えられる気味の悪い感覚が脳を塗り潰してゆく。
 自分という人格が、別のものに侵蝕される。
 ふらりと月明りに照らされた影が視界で揺れた。戦闘に即した意識は動くものを素早く捉える。それは、狼の尾だ。
 心臓が鳴る。奔り終えた獣のように、呼吸が細切れに続き、短い呼吸音が煩わしく耳に届いた。
 生きていたいか。
 ――生きていても、いいのだろうか。
 ぞわりと湧いた憎悪は自分自身へと向かい、いつの間に掴んだか、手首に爪がめり込んだ。痛みと共に明滅する視界、徐々に染まる赤色が、妙に心地良い。
 自罰だ。求めた罰が、降り注ぐ。
「――生きるよ、亡くなった人達の分まで……!」
 シキの血霧を切り払ったのは、魔剣を振り翳した璃奈の言葉だった。
 呪詛喰らいの魔剣(ソウル・リベリオン)。
 変遷と転換を正しく司る魔剣が、桜色の炎を質量を持って斬り開く。盛る焔は隙間を埋めるように襲い来るが、そのどれもが魔剣に食われて消えた。猶も抗う焔は桜の火花を散らしはするが、そのどれもが致命傷にはなり得ない。
 此れは、呪を喰らう剣。
 ちらりと様子を窺う璃奈に、シキは軽く頷いた。
「貴女にとっては天敵かもね……」
 剣を構え直した璃奈は、息吐く間もなく飛び出した。黒き桜が食い千切った桜色を塗り潰し、本来あるがままの姿へと浚ってゆく。呪を払われた焔は、染められた黒に随伴して猛々しく燃えた。
 まるで、生を謳歌するかの如く。
「どうしてこばむの?」
「望んでないから……」
 応答は疾く。閃戟は瞬く。
 桜を纏う大蛇の顔が眼前に在った。触れたと理解したのは一瞬、次には容易く肉を断ち、咲き誇る苹果の根を抉る。
 悲鳴があがった。
 妖狐の耳がそれに反応するより速く、人狼が身を翻させて焔を裂いた。傍らから溢れ出づる無形の蛇を、小さなブレスが遮る。同じ爬虫類の鱗に炎を反射させ、ミラ達が璃奈の懐に飛び込んできた。まるで、護るかのように。
 飛び出したシキは、背後にあった焔の衰えを一瞥し、氷華の瞳に蛇を映す。そこにもはや迷いも赦しも無かった。
 ――そうだ、生きなければならない。
 足元を照らすカンテラはもう無いが、握り直した銃が確かな居場所を告げている。師を喪い、救われたいのち。その遺物がシキの心を叱咤する。甘言に乗り投げ出せるほど、このいのちは軽くない。精々が一人だなんて、嘲る程、犠牲なく成り立ってはいないのだ。
 敵意を消し、従順なフリをして、今この瞬間を待っていた。
 全対象、射程圏内。今日、死にに来たのではない。迎えに来たのだ。
 連続する銃声が、血飛沫のような桜色の中でくぐもり哭いた。其れは誰かの悲鳴のようにも、決意のようにも、諦念のようにも、聞こえた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

幽遠・那桜
WIZ
またねって……
海斗君は、見守ってくれてる。
寂しいけど……ほんの少しだけ、勇気を貰えた。

愛と憎しみは紙一重……でも、もう、間違えたくないです。
どんなに苦しくても、辛くても、私は皆と時を歩んでいくのです。そう……生きると決めたのですよ。
霞桜を咲き誇らせて、あなたを還しましょう。
そして、妖怪さんは、一緒に帰りましょう?

まずは、ありったけの光の精霊さんに声をかけて、光属性攻撃の浄化を試みます。
風の精霊さんに声をかけて(風属性攻撃)残像が出来るほど、空中浮遊で飛び回りますよ。

全部詠唱出来ることが決め手だから、呪いを刻まれないようにしてUCを高速詠唱!
もし刻まれても、魔力溜めの要領で自分ごと対象に!


荻原・志桜

愛と憎悪の彩を宿す双眸
木の袂で佇むその姿は誰かを待っているように思えて
真白を纏う女性にちいさく笑む

うん。生きていたい
わたしを選んでくれて
共にいると約束をしてくれた人がいる世界で

寂しいよ。悲しい。消えるはずがない想いだもの
先生がいない世界は寂しかった
失くしたものも多いけど、手に入れたものもたくさんある
甘い夢の世界にいた彼じゃない
求めて手を握ってくれた人はひとりしかいないの

どろどろした想いも憎しみだって余さず受け入れてくれる
離すことは決してない
わたしが唯一と定めたひとだから

憎んでしまう心は誰にだってある
だからわたしも否定しない
でもその気持ちに負けたくない!

魔術解放、華月!
禊の光をいま解き放て!




 ――その問いかけに、少女はゆるくかぶりを振った。
 もう何処にも居ない彼の声が聞こえた時、那桜は自分の耳を疑った。けれど、過去が還るこの世界に、奇跡が還ったって良い筈だ。
 確かにあの声は、彼のものだったと確信できた。
 根拠はない。ただ漠然とそう思う。間違いだと否定する心が生まれないのも、きっと彼がそうしてくれたからだ。
 見守ってくれてる。
 其れは、もう居ないという事実を強く心に焼き付けはしたが、寂寞と同時、雫が湖面に波紋を作るように、那桜に勇気を刻んだ。
「……もう、間違えたくないです」
 自身の胸に手を当てて、那桜は寂しげな女を見る。
「どんなに苦しくても、辛くても、私は……皆と時を歩んでゆく。そう、生きると決めたのですよ」
 決意を桜に、勇気を聲に変えて、那桜は高々と詠唱する。これは愛憎狂うあなたに捧げる桜詩。悲しく寂しい桜を包む、白き花。
 霞桜がふわりと開き、万象の流れを優しく導く。祝福するように光る数々の精霊が、万華鏡のようにきらきらと桜を映して永遠に咲いた。風が那桜の髪を撫でる。きみのしたいようにと、囁いた。

 ――その問いかけに、少女はふわり優しく微笑んだ。
 待ち人来ぬ苹果の木の下、佇むましろの気持ちが志桜のこころに忍び寄る。
 世界には、哀しみも、苦しみも、多すぎる。
「……先生がいない世界は、寂しかったよ」
 人ひとりではままならないものは多く、亦、それが複数連なっても運命というものは突然天から降ってくるのだ。何処かで道を違えただろうか。何処かで選択を誤っただろうか。振り返ってもどうしようもなく、人は時の流れに逆らえない。
 そうして、沢山零れ落ちた。
 夢にまで見た先生の姿。縋れば或いは、幸せの世界で生きられたかもしれない。
 ――けど。
「求めて、手を握ってくれた人はひとりしかいないの」
 どんな想いも憎しみも、余さず受け入れてくれる唯一のひと。どうしようもなく持て余し、どろどろになった感情さえも掬ってくれた。
 離さない。わたしが、そう決めた。
 世界には、憎しみも、恨みも、多すぎる。――だから?
「わたしも、否定しない」
 だから、何だと云うのだ。其れすらも抱えて生きるのが、『生きる』という事ではないのか。
「憎んでしまう心は、誰にだってある。……でも、その気持ちに負けたくない!」
 志桜の叫びは魔術と為って舞い踊る。櫻鏡が仄かな赤を灯して散り遊び、志桜の周囲を桜色に彩った。

 こうしてふたつの桜が咲き誇る。
 
「――魔術解放、華月!」
「――宵に招いて狂い咲く、桜還」
 蛇が吐いた桜焔を飲み込んで、見事な桜が互い違いに花を開かせ空間を彩る。どんな想いが其処に在るかはふたつの桜こそ知るが、どちらも大層立派に開いて未だ続く生を謳歌した。
 はくりと動いた女の口が何かを吐く。
 途端、両名に流れ込むのは憎悪の感情。未だ幼い少女に降り掛かる災いは、重い。
 息も出来ないその圧を、風が、桜が、攫ってゆく。
 それぞれの傍で離別を唄って、寂しげな焔と共に消え去った。後に残るは少女が二人。只、それだけ。一瞬交じった人生の途で、互いにそう生きるのだと決めたのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍

折角生まれたんだもの生きていたいわ。
そしてそれはきっと、死んでもなお心残りがあって影朧となった過去の私の願いでもあるのよ。
きちんと生きて過去の心残りを終わらせる事。そして今の私自身の願いを叶える事。

神器鳴神をできるだけ、でも倒れないぎりぎりのところまで複製して攻撃します。
相手の攻撃は避けるようにしますが、当たったとしても自分の攻撃の代償で侵食への抵抗でもあり、魂を寿命を賭ける事で夢まぼろしへの抵抗。

先程までの幻は思い返せばどこか他人事。
そうよね。だって幻朧桜で転生する前の私の願いだから、どこか他人ごとになるのよね。
だからもう迷わない。だってもう過去の私は、今の私と一つになったんだもの。




 桜焔の蛇が大口を開けて喰らい付く。その口外へと突き抜けるは黒く燈る三鈷剣の剣先だ。数本束ねた其れは蛇にも呑まれず焔を破り、存在感を主張する。
 幾度と繰り返される焔の波と呪詛の花々を蹴散らしながら、藍は先に女を見据えた。
 どこか寂し気で居て、かつ奥には憎悪を秘めている。
 切り裂いた炎が肌を微かに焼く度に、侵蝕する呪は夢現の世界を視界に揺らめかせた。微かなりとも影響を齎すその呪いを、真っ向から受けたらどうなるか。想像に難くない。
 一瞬たりとも気は抜けない。
「あなた、生きていたいか、と問うたわね」
 言葉を繰る間にも、剣の数は増えていく。数は何時しか十を越え、刃の翼が展開された。くらりと、血の気が引く感覚。身体から確かに大事なものが削ぎ落されていくような神器の代償を、限界まで耐えて力を引き出した。
 ぽろぽろと、墜ちてゆく。
 幻に揺り動かされたこころもまた。
「折角生まれたんだもの、生きていたいわ。当然でしょう?」
 言葉は案外すんなりと出た。共鳴するようにこころの奥底に熱が生まれ、藍の力を支えている。ここで負けるべきではないと、訴える。
 影朧となった過去の私。転生した今の私。
 何方もが望む"生"を、誰にも邪魔させない。きちんと生きて、心残りを終わらせる。きちんと生きて、自分自身の願いを叶える。
 終わってはならないと、二人揃って踏み出すことが出来るから。
「残念ね、"私"も私……でも、どこか他人事なの。あなたにはもう惑わせられない」
 白蛇が爛々と目を輝かせて赤い口内を覗かせた。鋭い牙にはまだ乾かない血が滑り、怪しい光を灯している。お前もその一部になるのだと言わんがばかりの勢いが眼前に迫り――
「さようなら」
 天から落ちる黒き一撃が、蛇の脳天を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
【相照】
元より生とは痛苦に満ちていると知っている
傍らの竜も又、望まぬ其の苦しみの内にいる事も
――余計な真似をしてくれたものだ

強制される負の感情を捻じ伏せる事は易くは無いが……
助けを求める声――其処まで追い込まれている
……私の前で、よくも遣ってくれたな
外からの憎悪も絶望も、裡から鎌首擡げた怒りが焼き尽くす
謝らなくて良い、今、助けよう

気にするな
お前なら必ず成してくれると信じているから切る札だ
巫山戯た毒なぞ無意味な代物と化して呉れよう
――貪詞虚消、喰らい尽くせ
衝撃波を囲う様に飛ばして逃げ場を塞ぐ
怒れる竜の蹂躙を受けろ、愚かな骸球

生きていたいか、だと?
生きていたいのではない、私は――我等は、生きるのだ


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【相照】
痛み苦しみは慣れてるから耐えられる自信があったけど
これは無理かも知れない

憎悪も絶望も、感じられるほど自覚したのは最近で
ただでさえ制御が利かないのに
無理に叩き込まれると、どうしようもなくなる
格好付けたばっかりなのに情けないけど
嵯泉、ごめん
……たすけて

……そんな札、切らせる気じゃなかったんだけどな
一分半で終わらせるよ、任せてくれ
起動術式、【定運】。十二匹全部で仕留めてやる
理性など幾らでも持って行け
今の私は怒っているんだ
守ると言いながら守られる不甲斐ない己にも、余計なことをしてくれる骸魂にも

生きていたいかと言ったな
愛すべき世界を守り、愛すべき人々を守る
そのために生を繋ぎたいと願うのは、当然だ




 無形の焔は悉くを焼き、亦、其の勢いを増して食い破る。理性を、知性を、自制を越え、焚き付ける憎悪は留まる処を知らない。一度芽生えた其の感情を抑え付ける術は、もはや経験と意地の張り合いか。
 幻想の花弁すらも焦がして桜色が視界を覆う。嵯泉の赤い隻眼にも、薄紅の炎が撓んで揺れた。強制される感情の励起を、男は苦虫を嚙み潰したように顔を顰めて耐え忍ぶ。
 憎しみのまま力を奮う事は簡単だ。然し、其れを許すことは断じて有ってはならない。逃げだ。現世からの逃亡に過ぎぬ。
 一歩踏み出した足は焔を蹴散らして大地を踏む。
 対して、隣人は。
「――……、」
 はくりとニルズヘッグの口が言葉を描いた。音は漏れ出ず、只、空気だけが出入りする。水を奪われた魚のように、酸素を断たれ、鼓動だけが忙しく鳴る。
 嗚呼、此れは。
 痛み。苦しみ。まだ、良い。
 憎悪。絶望。そう、此れが。
 胸の裡で暴れ狂って、幻の自身を食い散らす其れの名を漸く知った。肉体に傷はひとつも無いのに、この手足は如何して動かないのか。痺れた頭は碌な推論も戦略も許さず、与えられるままを処理してダメージを蓄積する。
 言うなれば此れは、拷問だ。
 そんな中で生きていたいのと囁かれ、告げる答えなど決まっていた。その言葉を口にしてしまいそうになる度、辛うじて喉元で留めていた。
 呑み込み、砕き、挿げ替える。泣きそうに見た隣のきみは、二本の足で立っている。
 嗚呼、クソ。くやしい。悔しい……!
「――……嵯泉、ごめん、」
 たすけて。
「……」
 炎が声を焼き尽くす。両者を遮る桜は嘲るように咲き誇り、理想の夢へと溺れた者を誘う。
 ふ、と。炎が揺れた。
「……私の前で、よくも遣ってくれたな」
 饕餮が哭く。
 断つ炎を散らし、咆哮一つで周囲の焔華を消し去った。彼の言葉通り、欠片も残さず焔が散り散りに引き裂かれ、掴み取れる筈のない無形の蛇たちを叩き潰す。
 後に残ったのは、擡げた怒りを宿し唸る饕餮と嵯泉の姿だった。ニルズヘッグが見上げた先、男の背中がすべての災いを払う。
「……そんな札、切らせる気じゃなかったんだけどな」
「気にするな。お前なら必ず成してくれると信じているから切る札だ」
「ははっ、……一分半で終わらせる。任せてくれ」
 ニルズヘッグの唇が曖昧に歪む。沸々と奥底から噴出するのは、隣人に釣られた感情からか。食い潰された筈の感情に火が灯り、最初に顔を見せたのは、怒りだった。
 其れは、自身に。其れは、骸魂に。
 増幅する呪力を背に、嵯泉は開けた視界に立つ女を見据えた。喰らい尽くしてなお、屈服する素振りも見せず無味の瞳で眺める女は再び焔を灯し始める。
 右に一歩、左に一歩、揺れた目線は所在無さげに彷徨った後、嵯泉を認識する。途端、身体中を蠢く呪詛が怒りを食い散らそうと勢いを増した。
 屈するか? ――否。
「――貪詞虚消、喰らい尽くせ」
 場を調えると信頼された。応えぬ道理もない。背を預けるに足ると、灰燼の竜が託したのだから。
 展開された召喚陣から吼える饕餮は名にも劣らぬ勢いで焔を喰らう。這う白蛇の頭部を叩き潰し、剰え女の髪をも食んだ。白き炎が一瞬吹き出し、女の顔がややに歪む。
「生きていたいか――と、言ったな」
 一分。
 ぷつ、ぷつ、と思考回路が閉ざされる感覚がある。一つ切れる毎に"ひと"と乖離するのが理解る。構わなかった。幾らでも対価は支払う。
 ニルズヘッグの理性が捧げられ、降り立った黒蛇の竜は十二。七つ首の白蛇が、為す術もなく黒に呑み込まれるのも時間の問題だ。
 声も捧げた。彼の言葉の続きは、きっと。
「生きていたいのではない、私は――我等は、生きるのだ」
 伴と誓った男が、朗々と述べた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

コッペリウス・ソムヌス
見せられるのは幸福に到る情景
嘗ては有り得た姿に夢をみた
……別に見続けたかった訳でもないんだ
望むこと、ふたりで居られた時のこと
何を臨むか聴きたかった、唯それだけの

憎悪を齎す愛が呪っても
死ねない神に問いかける術はないから
代わりに白蛇連れた彼女へ問おう
書物から情念の黒蛇を呼び出して、
いきているから観る夢は
しんだら覚めることになるだろうか
其れとも覚めぬ夢こそ現実かい?

描く幸いが過去の夢に在り
歩みを止めないものが未来であって
どちらかが欠け覚めてしまった夢なら
あぁ、此れは
どうしようもなく現実だ




 愛多ければ憎しみもまた多し。
 数々の夢を拒まれ嘆く女は猶も焔と蜜を振り撒いて問う。望んだ答えを得られずとも、女の問い掛けは続いた。愛しているから。憎んでいるから。
 綺麗な夢で生きられたなら、それはそれは、素敵な現世の物語でしょう?
「……果たして、それはどうだろう」
 確かに見た幸福な夢をコッペリウスは思い出す。かつては有り得た二人の姿。歩む足跡二つ並べて、何を望んで、何を願って、進んでいくかを相談出来た。
 聴きたかった。多分、夢では都合の良い答えしか返ってこない。
 開いた書物に綴られた文字が、コッペリウスの指先がなぞるに合わせて浮いてゆく。文字の羅列は徐々に互いに組み合い縺れ、一本の紐と変わっていく。
 変化はそこで終わらない。
「いきているから観る夢は、しんだら覚めることになるだろうか」
 一ページ、亦、一ページと増えていく文量はいつしか巨大な縄と為り、鱗と為り、異物へと為る。どこから引き出したか赤い舌を覗かせて、書物は黒蛇を生み出した。
 墨色は光を通さない。光点す桜色の焔を塗り潰し、呪すらも食んで女の足元まで迫る。憎悪に充ち、治らぬ傷を受ける筈の炎を受けてもなお死なぬ蛇は、貪欲の知を求めた。
 影が降り、月光を背に浴びたコッペリウスの瞳が蛇と同じ色に染まる。薄暗い瞳を真っ直ぐに向け、夢現は猶も問う。応えを得るまで。答えを識るまで。
「其れとも、覚めぬ夢こそ現実かい?」
「さめぬしあわせは、とわに」
 夢の中ならば、何事も叶う。そうと言わんがばかりに、吹き荒ぶ焔が渦を巻いて晴れた途端、コッペリウスの眼前にはひとりの姿があった。

 ――さあ、おいで。迷うてはいけないよ。

 頭に声が響く。嗚呼、彼女は疑ってはいないのだ。うち破り示す其れが女にとって幸福でなくとも、我々は進まねばならないと知っている。
 過去の夢に幸い在り。未来の途に足跡残す。
 その何れかも欠けてしまったなら、それは。
「過程だ。どうしようもなく、現実なのだよ」
 黒蛇の牙は、現実を捉えぬ女の喉を引き裂いた。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
人の弱さにつけこみ、惑わせ、狂わせる悪しき夢
しかし、わたくしが何よりお前を許せないのは
人の尊い想いや願いを穢し歪ませ食い荒らしたこと

取り込んだその人を返しなさい
これ以上お前に好きにはさせない

胸の奥、蒼く輝く【永遠の双星】
「本物の彼」がくれた勇気と優しさは決して手放さない
ほんとうの彼はあの偽物のようにわたくしの意志を奪うことはしない
どんな過酷な現実も共に歩むと誓ったから

いかなる呪詛も狂気も激痛も耐え抜いて
破魔と浄化の力込めた祈りの聖歌で己と犠牲者の正気を保ち
そのまま敵に呪詛返し(カウンター)
神罰の光輝放ち悪意を焼き尽くす

人を踏み躙り嘲笑う悪意で
これ以上『愛』を穢すな
虫唾が走る




 ――ああ、虫唾が走る。
 憎悪に書き換えられようとする感情の変化に、ヘルガは人一倍敏感に気が付いた。
 其れは、辿り着く途で見た光景。其れは、終わりの木で見た光景。
 どこかしこで蝕む呪に抗い、時に嘆き、時に呑まれ哭いた声を聞いた。歪む世界の認識の果て、自身もまた同じく夢に苛まれた。
 許せない。
 人の弱さを晒し、決意を拒み、齎された仮初めの幸福。それを実現するためにとられた手段は、現在に至るまでに歩んだ道の否定だ。人の尊い想い、託された願い、望んだ夢……そのどれもを穢し、弄び食い荒らしたことが何より許し難かった。
 眼前の女はゆらりと足元をふらつかせる。それでもなお嘆くように愛を叫び、滲み出る憎悪を蜜に垂らして炎を燻らせた。
「これ以上、お前に好きにはさせない」
 侵蝕する憎悪を胸の奥から焼いてゆく。輝く蒼き双星は「本物の彼」がくれた光。差し出された優しさと勇気は、今なおヘルガの中に息衝いている。
 それを、何人たりとも否定は出来ない。
「誓ったのです、共に歩むと」
 どんな過酷な現実が待っていようと、悪意が二人を阻もうと、死がふたりを分かつまで――否。
「お前の独り善がりな悪意で、これ以上『愛』を穢すな」
 いついかなる時も、この胸に。
 蝕む呪詛は確かにヘルガの体の自由を奪う。荒れ狂う憎悪は怒りの感情を鎮めぬままに喰らう。然し、断続的に続く激痛さえも、ヘルガの歩みを止める言い訳にはならない。
 ここで負ける訳にはいかないのだ。
 示すしかない、歪んだ『愛』の有様が間違っているのだと。
「悩み、迷い、進む現実を、それでもわたくしたちは生きます」
 焔を裂いて光が差す。呪を確かな愛に変えて、女の体を貫いたそれは、確かに内在する悪意のみを焼き尽くした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
◎◇

生きていたい。
当たり前のねがいが当たり前には叶わないことを、あたしは知っている。

そうよ。生きることを望んだから、おまえを斬るの。
泣いて暮らせばその必要は無かったし、
夢に溺れれば唯々穏やかに過ごせたでしょう。
……それを選ばなかったのは、あたしの意志よ。

焔を花と咲かすなら、それを斬り散らしてやりましょう。
其処に在るものを斬れない道理なんてない。
此方へと来る焔に白刃を合わせてひとつふたつみっつ、
――当たっても致命傷にならなければ瑣末事よ。
生きていたいから、死線を踏むのだわ。
きっと、おまえとは相容れないのでしょう。

生憎、呪詛には慣れているの。
呑み干してやるから、代わりにいのちを置いて行きなさい。




 当たり前のねがいが当たり前には叶わないことを、あたしは知っている。
「――ああ、ああ……きえていく、いやよ」
 純白の花々を、桜色の焔を、更なる白が斬り散らす。
「――どうして、みな、いきていたいはずなのに」
 蛇が吐いた焔は薄紅の色を伴って咲き誇る。其れがあまりに花に近いが故に、――否、其処に"在る"が故に、耀子の白刃は容易く存在を斬りひらいた。
 ひとつ。
 鎌首を擡げた赤黒い断面。既に再生力を失った女の力の顕現が、頭を喪ってなおも耀子を狙っている。焔も牙も無い鱗と肉のかたまりは、其の質量だけで果敢にも戦いを挑んだ。
 結果など、知れたこと。
 ふたつ。
 こわれた蛇をデコイにして飛び出した白蛇は大量の桜を喉に咲かせて口を開いた。溢れる焔を返す刃で散らせば、風に攫われた花弁のようにはらはらと焔は勢いを失くす。
 うちいくつかは、風圧に乗って耀子の肌に触れた。一瞬感じたのは熱。瞬きの間に、解けて呪と為る。内側に潜り込んだ悪意の蛇は。
 みっつ。
 煽る焔の熱に焼かれ灰と化す。桜色が焼いたのは、黒髪の少女ではなく浸透したはずの毒だった。
 おあいにくさま、呪詛には慣れているの。
 痕は残れど瑣末事。踊るように戦場を奔る鬼の娘は膂力のみで剣を振り下ろした。跳ねた蛇の頭部が死を知らず、ばたばたと不自由に暴れては解けて空気に溶けてゆく。
「生きていたい。そう望んだから、おまえを斬るの」
 嘆きの声はいつしか憎悪の声に変ずる。
 あれが果てかと、耀子は思う。しかし手を休めてやる義理などない。
「これが、あたしの意志。あたしの選んだ、途」
 泣いて暮らせばこの道はなかった。夢に溺れれば唯々穏やかに過ごせた。
 それでも全て捨て去って、自らの意志で、自ら掴み取る、みち。
「呑み干してやるから、代わりにいのちを置いて行きなさい」
 おおよそだいたいの物事は、斬れば解決するのだから。だから、この手に迷いはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾


泣いている妖しの背が見えるようで

夢を見ていたかったのはあなたの方かしら
其れとも未だに夢の中なのかしら
目を開けるのが怖いだけなのではないかしら

夢に縋っているのは
骸魂の方とも
妖しの方とも思えて
夢うつつのあなたへ
涙の訳を問うてみようか

でも
骸魂は
ほんとうに海へ還らなくてはならないから
互いに縛る絲を解いてしまわせてね

私は
手に入らぬ夢を眩く想うことはあっても
溺れるほど沈むことはないの

眠りを要しない身で
ひとを模しただけの身で
其れでも生きていようと
続きを歩く傲慢さ故に

罰なのかしらねぇ

高速に詠い紡ぐ馨遥
眠りへ誘う香に紛れての呟きは
抜刀の一閃と共に

微睡みよりも
もっと深い夢に落ちた底で
彼女たちを繋ぐ緒を断ち切ろう




 蛇はもはや溶けた。残された女が消えゆく七つの胴をひとつひとつ丁寧になぞる。未だ焔は女を護るよう燃え続けてはいるが、その勢いは些か弱い。
 孤独の女は声を上げず、その場に留まっている。
 嗚呼然し、見えずとも涙声が聞こえるよう。
 呪は確かに綾の胸の裡を蝕んだ。只、其れは眠りを齎す毒が故、効きが悪いように思える。女の力が弱まった証拠ではあるが、其れこそが物だと訴えるようにも感じられた。
 最早、ゆめ見る者にしかゆめは与えられぬと桜は云う。
 手繰る指先が魂結ぶ絲の綻びを探して惑う。果たして何処から伝わるのか、雁字搦めに見える繋ぎを丁寧に見極めた。
 夢に縋っているのは、骸魂なのか、妖しなのか。似た性質に寄り添う事も多いと聞く其れの真相は、解いて還して離別させねば分からない。縛る絲が互いを望んだとしても、片や現世で、片や海で生きる事を定められている。
「夢を見ていたかったのはあなたの方かしら」
 女の枯れた瞳が綾を見た。
「其れとも未だに夢の中なのかしら」
 其処に映っているのは、満開の桜と八つの頭。童が同じ満開の笑顔で笑い合っていた。
 ――嗚呼、
 妖しとて、望むゆめはあるらしい。
 手に入らぬ夢を眩く想うことはあっても、溺れるほど沈むことはない。息が出来ない程に苦しみ、足掻き、堕ちてしまえるのは、ひとだからこそか。
 なれば此れは、過ぎた真似なのかもしれない。ひとを模しただけのこの身で何を与えられるだろうか。
「――……、」
 馨は籠めた温度を以て、眠りへ誘う香を縫い合わせそらを詠い紡ぐ。
 ぷつり。
 蜘蛛の糸が疾く切れた。夢の海へと落ちる魂のてのひらが離れ、妖しは重石を失くして幽世へ還る。緒は再び繋がれる事はなく、女の瞳が綾を映して静かに閉じられた。
 唇が何事かを描いたが、音を伝える空気も、亦。
「おやすみなさい」
 代わりに零したひとの真似事を、餞に。


 眠る女は妖の、散る夢は骸の海へ。偸安の夢は枯れて逝く。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月14日
宿敵 『桜獄大蛇・愛呪』 を撃破!


挿絵イラスト