12
白紙の魔女とくらやみの森

#アックス&ウィザーズ #戦後

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アックス&ウィザーズ
🔒
#戦後


0




 白紙の魔女ミオソティス・シルヴァティカは天才であった。
 華やかな学術都市に生まれ、魔術の名家に引き取られ、何不自由なく育てられた。座学の優秀さはさることながら、その類稀な機転によって格上のウィザードをもやりこめる神童として評判だった。かつては人々の羨望の的であり、求婚だって絶えることがなかったものだ。
 そんな彼女が一体どうして、こんな僻地の山小屋で一人さびしく暮らしているのか。貧相な素焼きの壺で、なんだかよくわからない薬草をぐらぐら煮込んでいるのか。……それには、深い訳がある。
「これ何してるんだっけ?」
 記憶が十秒と保たないのだ。
 ――この『忘却の呪い』を身に受けたのは、はたして何年前のことだったろうか。おおかた出る杭を煙たがる権力者どもの仕業であろう。まあそんな経緯もすっかり忘れてしまっているので、今の彼女にとっては大した問題ではない。
 そんなことより現状だ。
 つんざくような高音とともに、山小屋が半分消し飛んだ。
「どわー!? なにごと!?」
 衝撃波か何かによって攻撃されたことは確かだ。周囲に広がる真っ暗な森をきょろきょろ見渡してみるものの、敵らしき影は見当たらない。何を探していたのか忘れた。とりあえず手元に視線を落としてみると、貧相な素焼きの壺でなんだかよくわからない薬草がぐらぐら煮込まれている。
「黒色火薬かな?」
 試しにちょっと火を点けたら大爆発した。
 こんな高威力の爆薬を用意していたということは、何やら厄介なモンスターでも駆除するつもりだったのかもしれない。実験の代償として山小屋の残り半分が消し飛んでしまったが、そもそも自分が山小屋に住んでいたことも秒で忘れた。ところで何してたんだっけ?
「ってか、おなかすいたなー」


「戦争が終わっても、猟書家を倒しても、全てのオブリビオンが消え失せるわけじゃない」
 グリモアベースの一角で、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)がその手を挙げる。
「特にアックス&ウィザーズは、普通にモンスターの居る世界だからね。『冒険者の酒場』への依頼が尽きることはない。……その中には、僕ら猟兵が出るべき案件も混ざっているというわけだ。興味がある子は寄っといで」

 夏報が掲げて示すのは折り畳まれた羊皮紙だ。細長く、全体的に縒れている。元は何かに結びつけられていたのだろう。
「とある町の酒場に届いた、差出人不明の依頼だよ。……町の中ではここ数日、森の奥から爆発や崩落の音がするって噂になってて。この矢文はその森のほうから飛んできた。十中八九、依頼主は激しい戦闘の渦中にあると思われる……ん、だけど……」
 既に鉄火場、一刻を争う事態である。しかし夏報の言葉はどうにも歯切れが悪い。
「……とりあえず、中身が、これ」
 矢文の結び目をほどくと、そこに現れたのは酷く乱雑な走り書きだ。

『なんか やばい ような きがする』

 ……重い沈黙がその場に落ちたかもしれないし、ツッコミの嵐が吹き荒れたかもしれない。
「い、いや、本当に、酒場に届いたのはこれだけらしいんだよね……。酒場の人は依頼主の目星がついてる風だったけど、どうにも問題のある人物みたいで。現地の冒険者たちも『こいつに関わるのはもう嫌だ』って」
 かといって、いつまでも放っておけはしないだろう。
「森で騒ぎが起きているのは事実なんだよ。今から現場に転送するから、まず君たちには戦闘の痕跡を辿ってほしい。冒険者として依頼主に接触できれば後はなんとかなるでしょ。――依頼したことを忘れてる、なんてことはあるまいし」
 ただでさえ雲行きが怪しいというのに、グリモア猟兵が一言多い。

「前情報も少ないし、妙な依頼には違いないけど……」
 夏報は肩を竦めて、アルバム型のグリモアを開く。
「予知に引っかかった以上はオブリビオンが絡んでる。どのみち猟兵にしか解決できない依頼ってわけだ。――夏報さんからも、よろしく頼むよ」


八月一日正午
 どもども、ほずみしょーごです。
 今回は戦後のアックス&ウィザーズから、IQ低めでお送りします。
 1章冒険、2章集団戦、「全2章」のシナリオとなります。

 プレイングボーナス(全章共通)……冒険者っぽく振る舞う。

 各章、冒頭に状況説明の無人リプレイを投稿します。それと同時にプレイング受付開始、〆切時期はプレイングの集まり具合に応じて別途アナウンスします。
 人数次第ではお時間をいただく場合があります。あと出版部でリプレイ本が出るかもしれません。他詳細はマスターページをどうぞ!

●NPCについて
 白紙の魔女なんとかかんとか、通称『ミオ』。記憶が十秒保たない呪いを受けた人間のウィザードです(もちろん非猟兵)。
 最低限の自衛はできますが、オブリビオンは倒せません。意思疎通もオープニングで御覧の通り困難です。なんとか彼女と合流して、敵に関する情報を調べてみてください。
 楽しいプレイングをお待ちしてます!
90




第1章 冒険 『痕跡の調査』

POW   :    見えるものから適当に辿る

SPD   :    くっきりとした痕跡を辿る

WIZ   :    見えないものを調べて辿る

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 酒場のある『トロイメス』は、もとは鉱山労働者たちが興した町であったそうだ。
 まあ、それは昔の話。周囲の主たる鉱脈は掘り尽くされており、住民たちは農業や採集でのんびり生活している。訪れる旅の冒険者には快く宿を提供するが、それに憧れた若者が町を出たがることが老人たちの悩みの種。――言ってしまえば、どこにでもある田舎だ。
 かつては鉱山に続いていた森も、今となっては山菜採りが入るのみ。『くらやみの森』などと呼ばれている始末。
 ……そんな場所で毎日のように怪音騒ぎが起きているのは、いちおう大事件なのだ。

 現場を見れば、ところどころにわかりやすい痕跡がある。
 薙ぎ倒された木々に、焼け焦げた草むら。目には見えない魔力の残滓を感じる者もいるかもしれない。それらを辿っていけば、戦闘の渦中にある『依頼主』を探すこと自体は簡単だろう。後は、会って話すだけ。

「あの嬢ちゃん、話になんねえんだよな……」
 そう証言する酒場の店主の表情は森より暗い。
「ウィザードってのは変わり者が多いが、そういう生易しいもんじゃねえ。言われたことを全く聞いてないっつうか……。いやありゃ頭の中身もダメだな。話してるとこっちの気が触れそうになる」
 どうにもこの辺り出身の人間ですらないらしく、ある日突然ふらりと町に現れたらしい。三日三晩の押し問答のすえ、得ることのできた情報は『ミオ』と名乗っていることのみだったとか。
「最近見ねえと思ったら森ん中に居たんだな。……散々言っちまったが、あんなでも死なれると夢見は悪い。冒険者さんたち、ここは頼むよ」
マジョリカ・フォーマルハウト
知人にも三歩歩くとものを忘れる鳥頭がおるが
あの男も流石にここまで重症ではないぞ…
呪術とはげに恐ろしきものよ

エイに乗り上空からミオを捜索
謎の爆発や崩落が起きれば一目瞭然であろう
接触する前に『馬鹿につける薬』の出番よの
UCをミオに発動
知性を著しく上昇させ症状への対処を図る

依頼人は元より優秀なようであるから
薬の効力で一時的にラプラスの悪魔的な状態と化し
記憶が消えども瞬時に状況を把握する力を得るであろう
その間に可能な限り彼女の話を聞こう

古典的な小細工もしておくか
『私の記憶は十秒で消える』
『私は魔物に襲われている』
『冒険者を頼れ』
以上を手の甲にでも書いてやろう

わしは貴様と同じ魔女よ
記憶があれば再び会おう


ユウ・シャーロッド
レテさんが気にする、変わり者の魔女さん…。
10秒毎に記憶を無くす様な、忘却の精霊ほいほいさんだったり?
って、そんな人そうそう居ませんよねっ!

(「再演」を使用。森に居る動物達の姿でこっそりと一帯を
【情報収集】。痕跡とその先を特定)

…そうそう居ちゃいました。びっくりです!
レテさんもミオさんの傍で楽しそうに小躍りして…ちょっとジェラシーです!


「忘却」と親しい私の作戦は、10秒交換日記!
私達が来た理由、辺りの状況等を紙に書いて見せ、
読んで気づいた事や考えられる事を教えて貰い、その内容と更に聞きたい事を
書いて見せ…の繰り返し。話すより読む方が早いはず!

…ミオさんの能力頼りですが、なんとかなる気がします!




 くらやみの森を訪れるより前――酒場で話を聞いたときから、冒険者ことユウ・シャーロッド(白練の杖・f06924)は不思議な気配を感じていた。相棒である精霊が、妙にそわそわと騒ぐのだ。
「レテさん……?」
 忘却を司る精霊『レテ』は、基本的にちょっとクールなのんびり屋だ。こうも落ち着きのない様子を見せるのは珍しい。実際に森に足を踏み入れてからは、居ても立ってもいられないと言いたげにユウの周りをくるくる回っている。
 ……オブリビオンを相手にしたって、レテさんはこんな風にはならない。
「ということは、変わり者の魔女さんが気になるんですか?」
 精霊に折り目正しく問いかけながら、ユウは同時に術を行使する。
 結術混成、再演《リアクト》。忘却の精霊に何らかの形を与え、そのモノの性質と『結』びつける――このくらいなら一瞬で、前準備も長い詠唱も必要ない。ユウの身体は、少女型ミレナリィドールの形をした一振りの杖なのだ。
 ぽんっ、と可愛らしい音を立てて、レテは野ウサギの群れへと変化する。町の住民たちにはとうに忘れ去られた、賑やかだった森の姿をほんの少しだけ蘇らせる。
「あっ、待ってくださーいっ」
 はたして動物たちは、脇目も振らずに森の中へと散っていった。まさにレテさんまっしぐらである。
 ……まあ、自分が慌てて追いかけなくっても、レテさんが一帯をこっそり調べてくれるはず。爆発や崩落の痕跡を見つけて、その向かう先を特定して、落ち着いて合流すればいいのだけれど。
 それにしても、レテさんがこんなに誰かに会いたがるなんて。どんな変わり者の魔女さんなんだろう。
「まさか、十秒毎に記憶を無くすような、忘却の精霊ほいほいさんだったり……?」
 自分以上の忘れんぼうなんて、生きて行くだけでも大変だろうに――そんな益体もない空想に気を取られていると、巨木の根っこにつまずいた。
「きゃっ、……って、そんな人そうそう居ませんよねっ!」
 なんて、ユウが気を取り直したところで。
 ――森の奥から、爆発音が響く。

「ここどこ?」
 一方その頃、白紙の魔女ミオソティス・シルヴァティカは大爆発の中心地に座り込んで首を傾げていた。なんだか学術都市で華やかな生活を送っていた気がするのだが、今居る場所はどう見ても真っ暗な森である。
 とりあえず現状を把握しようと周囲を見渡すと、茂みから野ウサギたちが顔を出した。ぴょこり。
「あっウサちゃん! かわいー!」
 可愛いは正義だったので他のことは全部忘れた。そうでなくても忘れるのだが。
 ミオが大声を出したというのに、逃げるどころか駆け寄って膝に乗ってくる野ウサギたち。どうしようコレ可愛すぎる。もしかして野良じゃないのかな。そんなことで頭をいっぱいにしていると、さっきと同じ茂みががさごそ動く。
「魔女さん!」
 全身葉っぱだらけになって息を切らした女の子が、ミオの姿を見て、安心したように笑った。
「ご無事だったんですね。お怪我はないですか!?」
「……ど、どこのどなた?」
「あっ、私はユウっていいます。冒険者……? 冒険者です! 依頼を請けてやってきました。それよりさっきの爆発は一体……。やっぱり魔物に襲われて……?」
 冒険者。依頼。爆発。魔物。次々と耳に飛び込む言葉にミオは目を白黒させる。言われてみれば魔物が出そうな森だし、爆発でも起きたみたいに木々が焼け焦げているけれど。
 そんなことより。
「……ど、どこのどなた?」
「えっ」
「ここどこ? あっウサちゃん! かわいー!」
 今度はユウが目を白黒させる番である。
 これまでの会話など無かったかのように、膝の上に居た野ウサギ――レテさんに頬ずりをするミオ。
 ……目の前の相手のことも、自分の身の危険のことも、あっという間に忘れるなんて。
「そうそう居ない人……そうそう居ちゃいました。びっくりです!」
 残りの野ウサギたちも彼女の傍で輪になって、小躍りなんかを始めている。レテさんがこんなに喜んでいるのは、大量の『忘却』が得られているからに違いない。
「あと……ちょっとジェラシーです!」
 ユウが素直にそう口にすると、レテさんの一匹が胸に飛び込んで来てくれた。可愛い。
 まるで楽しい絵本の一場面のようだけど、さっきまでここで戦闘が起きていたことには変わりがなかった。魔物もまだ近くに居るはずだ。ミオがこの調子ならユウが頑張るしかない。
 あらためて、森の景色を見渡してみる。
 大爆発で吹き飛ばされた木々にはぽっかり穴が開いていて、昼下がりの空が覗いている。そのまんまるい青色を、――巨大な影が横切った。
「まっ、魔物!?」
「魔物? 魔物なんて居るわけ……どわーっ!? サメが空飛んでるーっ!?」
「エイじゃよ。……全く、わかりやすい爆発が起きたと思って来てみれば」
 空を泳ぐイトマキエイの背の上で、きらめく海蛍を棚引かせて。南の魔女――マジョリカ・フォーマルハウト(みなみのくにの・f29300)はくらやみの森を見降ろしていた。

 グリードオーシャンの深海人にとって、紙の地図に従って地表を歩くなど愚の骨頂。飛べるなら飛んだほうが楽である。老体にあまり無理をさせるな。そういう訳で、マジョリカは上空からの捜索を担当していた。
 離れた場所から俯瞰してこそ、得られる情報も多くある。
 森に残された戦闘の痕跡は大きく分けて二種類だ。指向性のある衝撃波が描く直線と、局地的な爆発が描く円。直線はいくつも重なり合って読み取り難いが、円はおおむね等間隔で連続している。
 衝撃波が複数の魔物からの攻撃、爆発が依頼主による反撃と見るべきか――そう見当をつけたあたりで、お誂え向きの大爆発が起きたのだ。
「で、あの爆発は貴様の仕業か?」
「爆発……? ミオ、今日はまだ爆発起こしてないよ?」
 遠くからでも一目瞭然の大爆発を一分足らずで忘れるなんて、いくらなんでも異常である。
 猟兵はなにかと記憶を代償にしたり意識が消失したりするものだし、マジョリカの知人にも三歩歩くとものを忘れる鳥頭が居たりはするのだが。
「今日っていつ……? ここどこ……? どわーっ!? サメが空飛んでるーっ!?」
「エイじゃよ。……あの男も流石にここまで重症ではないぞ……」
 まあ、某絵本作家の場合は『興味がないので学習もしない』という単なる自然の摂理だ。……しかし見たところ、ミオとやらの精神構造はごく普通の俗な小娘である。何らかの強固な術式によって、不自然に、理不尽に、記憶が削り取られているのだ。
「呪術とはげに恐ろしきものよ。――わしの手番はわしの専門で行くぞ」
 空飛ぶイトマキエイから降りようとする素振りも見せず、マジョリカはひとつの小瓶を地上へ投げ寄越す。

 ――『馬鹿につける薬』。
 そう名付けられたマジョリカの秘薬は、対象の知性を著しく上昇もしくは下降させる効能を持つ。頭痛薬の副作用が頭痛、みたいな話だが、要は紙一重なのだ。
 ……今回は安全第一なので、敵に用いるときのように脳天にぶつけたりはしない。流星のように落ちた小瓶は、ミオの鼻先で砕けて弾ける。
「はっ……、はわわわわわわ、何これ、星、太陽、宇宙の真理」
「じきに慣れる」
 記憶が十秒しか保たないという制約があるのなら、その十秒間で未来を予測し過去を推測すればよい。
 依頼主は元より優秀であることは確かだ。こんな呪いを受けた状態で生き永らえ、オブリビオンと思しき魔物の攻撃を防ぎ、助けを求める矢文まで書いてみせたのだから。そこに薬の効力が加われば、記憶が消えども瞬時に状況を把握する程度の能力くらいは得るであろう。ちょっとしたラプラスの悪魔の完成である。
「えっと……ええっとお……」
 ……むしろ、知能を上げすぎたか。ミオはすっかり硬直してしまった。思考に言葉が追いつかない、頭でっかちにありがちな状態である。どうやって会話を引き出したものか、と、マジョリカが考えあぐねていると。
「ミオさん、ミオさん!」
 横でこそこそと準備をしていたユウが、一冊の手帳を取り出した。
「どどどどこのどなた?」
「私はユウっていいます。冒険者です。そしてこれは――名付けて『十秒交換日記』!」

 常日頃より『忘却』と親しんでいるユウの考えた作戦は、王道中の王道――紙に書くこと。
 連絡手段に矢文を選んだ依頼主なら、話すより書く方が早いはず。見開きぐらいの内容なら読み返してもらうこともできる。これに『馬鹿につける薬』の効果が合わされば、あるいは。
 おろしたての手帳を広げて、ユウは最初の一言を綴る。
『お友達になりましょう。ミオさんのことが知りたいです』
 その一行をミオに向けると、彼女は何度か瞬きをして――とても嬉しそうに、ペンと手帳を受け取った。

 まずは自己紹介、ミオという魔女について。
 学術都市タブラ・ラサの生まれであること。本名はミオソティスで、シルヴァティカ家の養子であること。幼くしてウィザードとして活躍していたこと。
 特に炎属性の魔法を得意としていること。
 自分に呪いを掛けるような相手は、心当たりがありすぎて逆にわからないこと。
 自称十二歳らしいが、暦の認識には七年ほどの齟齬がある。外見的にも現在のミオは二十歳前後だ。

「トロイメスという町に心当たりは?」
「全然ないなあ……ミオなんでそんなとこ居るの……?」
 声でのやりとりも交えながら、こちらの事情も書いていく。猟兵……もとい冒険者たちがこの森に来た理由。くらやみの森の状況などなど。それを読んで気付いたことや考えられることについて教えてもらい、その内容からさらに聞きたいことを書いての繰り返し。時々脱線したりもしつつ、二人は対話を進めていく。
「爆発を起こしてるのはきっとミオだから、魔物は衝撃波を使ってる」
「どんな魔物かは解りませんか?」
「んん〜っ、う〜っ」
 ……このあたりで、薬の効力と紙面の量は限界のようだ。ミオの能力頼りでここまで情報が集まれば大成功である。

 完成した『十秒交換日記』をまじまじと眺めて、ミオはそれをユウへと差し出した。
「……きみが持ってて」
「私が?」
「うむ、妥当な判断じゃろうよ」
 マジョリカは、ミオの意図を理解していた。この交換日記の重要性さえも彼女は十秒で忘れてしまう。うっかり炎魔法の燃料にしてしまいかねない。それよりは、猟兵の手元にあるほうが有用だろう。
「これ……何だっけ? わからないけど」
「大事にしますね!」
「ユウとやら、それを持って一旦酒場に戻るとよい。情報の裏付けをとって他の者に回せ。こちらは――」
 とん、と地面に降り立って、マジョリカはミオの手を取った。海螢の光をインク代わりに、手の甲から腕にかけてさらさらと文字を書き込んでいく。

『私の記憶は十秒で消える』
『私は魔物に追われている』
『冒険者を頼れ』

「こんなもんで大丈夫じゃろ」
 古典的な小細工という名の魔法である。こうしておけば、すぐにでも他の猟兵と合流できるだろう。たぶん。
「……ところで、どこのどなた?」
「わしは貴様と同じ魔女よ。――記憶があれば再び会おう」
 交換日記を抱えたユウの手を引いて、マジョリカはイトマキエイの背に登る。

 名残惜しそうに手を振る誰かと、振り返りもしない誰か。誰だかわからない二人組が飛んでいくのを見送って。
 ほんのりと夕暮れに染まり始めた空を眺めて、ミオは呆然と呟いた。
「サメが空飛んでる……」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
まずは安いエールを一杯――ああ、いや、二杯だけ。内の一杯は店主の分だ。
情報料さ。とはいえ、店主もそう多く情報は持っていなさそうだがね。

正直なトコ、ミオに遭うのは俺からすると難しい事じゃない。その前に俺個人としては聞きたい事がある。
そのミオは『最近見ないと思ったら森の中に居た』…つまり、最初から森で居た訳ではなかった。何かしら理由があって森に入ったんだろう。暗闇の森、だったか。それはどういう所なんだ?
噂程度で構わない。例えば呪いを解く薬草だとか、貴重な魔石が手に入るとか、森の美女に夜遊びに誘われるとか…ねぇのか?そういう情報。
OK。十分だ。世話になったな。(指で銀貨を一枚、弾いて店主に渡す)


ヴァシリッサ・フロレスク
うーん、イイ薫りだ、朝に嗅ぐ硝煙の匂いはカクベツだねェ♪

テキトーな軽口を叩きつつ、世界知識、戦闘知識で分析。
こりゃ黒色火薬だ、奴サン地上で花火大会でもやってンのかい?酔狂だねェ。フフッ、イイ趣味じゃないか。
それとも金脈でも独り占めするつもりかい?発破はコッチの十八番だよ。オスソワケして貰わにゃだ♪

痕跡を情報、派手にぶっ飛んだトコを匂いの新しさを頼りに追跡して順に探索。野生の勘、第六感とも言うケドね?名前の通り真暗だケド、暗視は利くから問題ナシさ。

もし逢えたら、コミュ力、言いくるめ、取引、恫喝、狂気耐性で会話を試みる。

フフッ、お嬢チャン愉しそーなコトしてンじゃないか、アタシも混ぜてくンないかい?




 ――『トロイメス』の酒場は小さな店だった。
 上階も別棟もなく、客席から厨房までが一続き。入った瞬間に全体を見渡せるぐらいの広さ。冒険者たちに依頼を出す役割を持ってはいるものの、どちらかといえば住民たちの憩いの場といった印象である。
「兄ちゃんも冒険者か? 今日は妙に多いんだよなあ」
「波のある商売なもんでね。メニュー、頼めるか?」
 ボヤキ混じりに出迎える店主へ人懐っこい笑顔を送り、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は会話のしやすいカウンター席に腰を下ろす。第一印象が肝心だ。酒の席で情報収集する場合は――何よりも、警戒されすぎないように。
「どれどれ……」
 メニューに並んでいるのは大体が安い穀物酒だ。ワインの類もあるにはあるが、この辺りでは贅沢品と言わんばかりの値段である。
「じゃ、まずはエールを一杯――」
 と言いつつ、自分以外に客がいないのを確認して。
「――ああ、いや、二杯だけ」
「お、作法が分かってんじゃねえか」
 昼には遅く、夜には早い。店が空く時間帯は一休みには持ってこい。
 二杯のエールのうち一杯は店主の分、アックス&ウィザースではよくある『情報料』の支払い方だ。

「あの依頼なあ……」
 ……とはいえ、店主もそう多くのことを知っている訳ではないだろう。
 依頼主である『ミオ』については、名前以外はわからないと匙を投げていた程だ。先行した猟兵たちが手に入れた情報のほうが多いくらいである。
 十秒ごとに記憶が消える、忘却の呪いに囚われた白紙の魔女。
「魔女の嬢ちゃん――ミオと話ができたってだけでも驚きだ。ありゃ何かの呪いだったんだってな」
「俺はまだ会った訳じゃあないが」
 正直なところ、森に分け入って彼女を見つけるのは難しいことではなかった。しかしカイム個人としては、その前にもう少し酒場で聞き込みをしておきたい。
「そのミオは、『最近見ないと思ったら森の中に居た』って話だろ?」
「おうよ。……森から矢文が飛んできたからな」
 つまり、ミオは最初から森に住んでいた訳ではない。むしろ最近まではこの町に居たということだ。いくら記憶が十秒保たない忘れん坊だとしても、わざわざ人里を離れて危険な場所に赴く以上は――何かしらの理由や、きっかけがあったのではないか。
「暗闇の森、だったか」
「若い奴らはそう呼んでるなあ」
「それはどういう所なんだ? 入る前にできるだけ知っておきたい」
「うぅん……」
 店主は難しい顔をして唸る。……まあ、特に隠し事があるという訳でもなく、純粋に何から話せばよいのかが判らないのだろう。彼にとっては、身近な森はただの森なのだ。
「噂程度で構わない。例えば呪いを解く薬草だとか、貴重な魔石が手に入るとか――」
 ずい、とカウンターに身を乗り出して。
「……森の美女に夜遊びに誘われるとか……」
「ぶっふ」
「ねぇのか? そういう情報」
「っはは、そんな話があったら俺が真っ先に飛び込んでらあ!」
 一発笑いを挟んだことで互いの緊張が解けていく。残りのエールを全部煽って、店主は気楽な調子で話し始めた。
「昔は洞窟の奥で鉄だか銀だかが採れたらしいが、クズ石しか出てこなくなって廃業したんだとよ。山菜もここ数年は質が悪い。素揚げで食った奴が熱で倒れたこともあったっけか……」
 ――こういった何気ない言葉にこそ、重要な情報が含まれているものだ。
 便利屋なんて仕事をしていると、敵と戦っているよりも謎を追い回している時間のほうが長くなる。だからこそ、カイムはよく弁えていた。当事者の語る主観よりも、無関係な人物の語る客観にこそ価値があることを。
「昔話に興味があるなら、そっちの掲示板に町の案内書きが貼ってあるぞ。地図屋の爺ちゃんが趣味でまとめたもんだ」
「お、そりゃいいな。一枚ほど写しを頼めるか?」
「持ってけ持ってけ」
 掲示板へと歩み寄り、その貼り紙に手をかけて――店主はぴたりと動きを止める。そういえば、と呟いて。
「思い出した。……あの嬢ちゃんも、この案内書きを欲しがったことがあったな」
「……その時に、変わった様子は?」
「いや四六時中ずっと変なんだが……、あの時は悲劇がどうとかブツブツ言ってて不気味でよ。長居されても困るし、さっさと渡して店から放り出したっけ」
「ミオが姿を消したのはそのすぐ後か?」
「……ああ、言われてみれば」
「オーケー、十分だ」
 銀貨を一枚、指で弾いて店主に渡す。
「――世話になったな」
 たとえば出会い頭に銀貨を一枚渡したところで、これだけの情報を得ることは出来なかっただろう。何事も順序が肝心――それも、話術の心得のひとつ。


 一方その頃。
「うーん、イイ薫りだ」
 戦闘の気配が色濃く漂う森の奥で、ヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)は森林浴を満喫していた。心安らぐ自然のアロマで心身ともにリフレッシュ――なんて優雅な振る舞いとは無縁の場所であることは言うまでもない。
 またひとつ、爆発音が響き渡った。まるで動じることなく口笛を吹いてやる。
「朝に嗅ぐ硝煙の匂いはカクベツだねェ♪」
 なんてテキトーな軽口までも叩いてみせるが、今が朝なのか夜なのかは正直よく分からない。何せ、時間感覚が無くなるほどの真っ暗闇だ。『くらやみの森』なんて直球の名前が付けられてしまっているのも頷ける。そこに独特の硫黄臭、俗にいう硝煙の匂いときた。間違いなく黒色火薬の類が大量に燃やされているのは間違いない。
 その状況下で、ヴァシリッサがこうして余裕の態度を見せている最大の理由は――血肉や脂の焼ける厭な臭いがしないこと。
「奴サン、地上で花火大会でもやってンのかい?」
 これも軽口のようでいて、割と的を射た分析である。吸血鬼の血が齎す暗視能力と、人狼の血が齎す嗅覚が、彼女にいくらかの情報を伝えてくれる。
 少なくとも死人は出ていない。銃火器が用いられている様子もない。……そもそも、アックス&ウィザーズにおける銃の技術はUDCアースに比べるとまだまだ未熟なものだった筈だ。一般人が手にすることができるのは、せいぜい冗長な造りの猟銃くらいだろう。この規模の爆炎とは辻褄が合わない。
 だとしたら依頼主は――『白紙の魔女』は、いかなる目的で黒色火薬を爆発させ続けているのか。
 仮説その一。爆発させるのがとっても好きだから。単なる酔狂。
「フフッ、だとしたらイイ趣味じゃないか」
 それはさておき仮説その二。地面や岩を破壊しようとしているから。
「ん-、金脈でも独り占めするつもりかい?」
 実際のところ一番もっともらしい説である。ここは元々鉱山労働が行われていた土地であるようだし、黒色火薬もその時代の遺物なのではないか。
「発破はコッチの十八番だよ。だったらオスソワケして貰わにゃだ♪」
 派手に吹き飛んだ地面、硝煙の匂いの新しさ。そういった痕跡を頼りに探索していく。野生の勘という名の第六感が告げるところによると、そろそろ目的地が近い。
 戦闘が起きているなら、爆発の前に殺気のひとつも感じるだろう。
 なんて思いつつ意気揚々と歩みを進めた次の瞬間、――本当に何の前触れもなく、視界が閃光に包まれた。

「どわ――っ!?」
「どわ――っ!?」
 悲鳴はきっかり二人分。どことなくノリが似ている。
 ……爆風は咄嗟の踏んばりで、熱は持ち前の炎耐性でなんとか凌いだ。ブレイズキャリバーでなければ危なかったかもしれない。それほどの規模の大爆発の中心で、――少女めいた雰囲気の若い女が、きょとんとした顔でヴァシリッサを見ていた。

「どこのどなた……?」
 そう言って首を傾げる彼女の身体に、目立った火傷の痕はない。衣服が燃えたりもしていない。至って健康体そのものである。――そういえば先行した猟兵が、『白紙の魔女』は炎属性の魔法が得意だとか言っていたっけか。もしかすると相当の実力者なのでは。
 とりあえず、ヴァシリッサは眼鏡の位置を直していつものニヤついた笑顔を浮かべた。ここで頼れる冒険者だと思われておきたいところだし、小粋なジョークでも飛ばしておこう。
「フフッ、お嬢チャン愉しそーなコトしてンじゃないか」
「…………?」
「アタシも混ぜてくンないかい?」
「何に……? ここどこ? ってか、おなかすいたなー」
 文学的な表現があんまり通用しなかった。いや、これは明らかにそれ以前の問題だ。自分が起こしたはずの大爆発でさえ、十秒で忘れてしまう『忘却の呪い』――彼女こそが、依頼主のミオで間違いないだろう。
 そんなミオの左手には、いかにも不味そうなキノコが握られている。森のどこかで採取してきたものか。
「あ、これ焼いて食べよ」
 軽く右の指を鳴らすと、手のひらの上に炎が生じた。
 次の瞬間に大爆発した。
「どわ――っ!?」
「どわ――っ!?」
 踏ん張りと炎耐性でなんとか凌いだ。すぐさま眼鏡の位置を直して、ヴァシリッサはニヤついた笑顔を作る。
「フフッ、お嬢チャン……本当に愉しそーなコトしてンじゃないか……」
「どこのどなた? あ、これ焼いて食べよ」
「どわ――っ!!」
 無限ループって怖くね――? そんなニホンの格言が脳裏を過って消える。……身体の前に頭がどうにかなりそうなので、ヴァシリッサはやむなく彼女を力づくで押さえつけるのだった。

 ……結論。『ミオが炎魔法を使うと、なぜか引火して大爆発が起こる』。
「あのねお嬢チャン、魔法! 引火! 爆発! あのね、魔法! 引火! 爆発!」
「魔法……引火……爆発……」
 語彙力を失ったヴァシリッサの極限のコミュニケーションが、意外と忘却の呪いに対して有効だった。三つの単語をぶつぶつと繰り返して、ミオは『くらやみの森』を見渡す。
「確かにこの森、炎属性の魔力の流れが異常だね」
「魔力ねェ、アタシにゃさっぱりだ。黒色火薬の匂いなら間違えないンだけど」
「黒色火薬? 何の話? どこのどなた?」
「…………」
 いつもの癖で凝った言い回しをすると、即座に会話がリセットされてしまう。頭を掻き毟りたくなるような衝動を抑え、ヴァシリッサは割り切って単語をずらずら並べ始める。
「魔力。異常。火薬。ええと、硝煙? 花火? 鉱山?」
「鉱山?」
「そ、鉱山。魔力、異常」
「『青の湖の悲劇』の話?」
「……なンだいその、アオノ、ミズウミノ、ヒゲキ? って」
「掘りかけの魔石鉱山を封印せずに放っといたせいで、町がまるごと滅んじゃうやつ」
 突然投げつけられた物騒極まる筋書きに、ヴァシリッサは不意をつかれて息を呑む。
「小さい時に舞台で見たなー。つまんなくって途中で寝ちゃったー。で、きみ、どこのどなた?」
「……魔石鉱山、ね」
 それはどうやら、しっかり調べてみる必要がありそうだ。
 ――ここから先は、人が死なずに済むような話ではないようだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヘクター・ラファーガ
白磁……じゃない、白紙か。
記憶力に難ありな魔女が山の中にいて、んで爆発騒ぎ。そりゃ誰も近づきたくねぇわな。
ま、ここは傭兵の力を見せてやりますか。

時間の猶予は無さそうだ。失せ物探しの要領で、痕跡をぱぱーっと辿るぜ。
できるだけ自分の痕を残さないよう、木々を辿ってジャンプ。こういう足場は慣れてるからな。魔女を見つけたら何があったか聞かせて貰おうじゃねぇか。

記憶は10秒しか持たない。が、話を聞いた限り知恵や知識は頭ん中に残ってるはずだ。赤ちゃんレベルじゃないだけ会話はできる……はずだろう。
出会ってすぐに「さっき何が起きたか」を聞いてみるぜ。頼む覚えといてくれ……


ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

●UC神論使用
ミオを守れなかったボクたちは後悔も悲しみもほどほどに彼女の形見を手掛かりとして立ち上がる!
その死と呪いの謎を解明するため、ボクたちは一路学術都市に飛んだ!
待ち受ける罠!陰謀!スペクタル!ロマンス!悲劇!野望!そして…死!
学術都市の闇に潜む者の正体とは一体…
暗躍する暗殺教団!異形の怪物たち!残された死者の紋章の示す意味とは…
蘇らんとする帝竜(の従妹)の封印を守ることはできるのか!?
待て次回!

とかなんか(プレボ達成のための)冒険者っぽい屁理屈と世界改変をぶっぱなして真相をなんとなく分かった段階で時間を巻き戻す!

ミオー!それ今日の晩御飯じゃないからーーーっ!!




 ――『くらやみの森』の名の通り、ここは日中ですら薄暗い。
 生い茂った木々に阻まれて陽光が届きづらいのだ。これが夜になろうものなら、月灯りを頼りに歩くことすら困難になるだろう。
 そんな魔境を、ヘクター・ラファーガ(風斬りの剣・f10966)は飛ぶように進む。枝から枝へ跳び移る。常人が見れば森の獣かと思うであろうほどの速度だ。
 地上を這って行くよりも、こうしたほうがずっと効率的だった。下手に土や草むらに足跡などを残すのも良くない。依頼主や魔物の痕跡と混ざってしまう。
 まあ、こういう足場は慣れている。考えなくても身体が動く。そのぶん五感に意識を集中することができる。
 衝撃波の爪痕。爆発の残り香。そういった手掛かりをぱぱっと辿っていけばよし。……あと、木々に注目してみると、もうひとつ目立つ痕跡もある。
「また矢文か。矢文だらけだな……」
 グリモアベースで見せられた紙と似たようなものが、そこかしこの枝に突き刺さっているのだ。いくつか回収して目を通してみたが、『なんかおかしい』『やばいかも』『おなかすいたな』といった頭の痛くなる内容が綴られているのみだった。
 ……酒場に届いた依頼すら、当てずっぽうの偶然だったらしい。
 それもそのはず。話によると、依頼主――『ミオ』の記憶は十秒保たずに消えるのだそうだ。
「白磁……じゃない、白紙の魔女か」
 ただでさえ険しい山の中に、記憶力に難ありの魔女が住んでいる。そこに連日の爆発騒ぎ。
「……そりゃ誰も近付きたくねぇわな……」
 地元の冒険者たちの判断はある意味正しい。生態が判明している魔物より、何を仕出かすか分からない人間のほうが数段恐ろしいものである。状況を把握せずに悪意のない振る舞いをするような奴なら尚のこと。
 予知に引っかかった以上はオブリビオンが絡んでいるのだし、むしろ余計な被害者が出なくて助かったとも言える。
「ま、ここは傭兵の力を見せてやりますか」
 これは、自分たちの仕事なのだから。
 にやりと笑うヘクターの横顔を、真横から差し込んできた夕陽が照らす。――夜が来るまであと少し。時間の猶予は無さそうだ。

『――――』
 狐人の鋭い耳が、人間の可聴域から外れた高音を捉えた。
 跳躍を止めて手近な幹に身を寄せる。その鼻先すれすれを衝撃波が横切っていく。――これは、音の発生源が近い。目前に新しく刻まれた爪痕は、戦闘の現場へと導く抜け道になるだろう。
 ためらうことなく疾走する。
 もしも魔女を見つけたら、まず何をするかはしっかり決めている。
 相手の記憶は十秒しか保たない。が、話を聞いた限りは、知恵や知識は頭の中に残っているようだ。人間の言葉を話すようだし、魔女として振る舞っているらしいし、少なくとも赤ちゃんレベルということはない……はずだろう。仮にそうだとしたらとっくに野垂れ死んでいる。
 会話はできる。十秒以内で返事が来るよう簡潔に、出会い頭に『さっき何が起きたか』を聞けばいい。頼む、覚えといてくれ、祈るような気持ちで駆け抜けた、その先には――。

「ミア――――っ!!!」
「いや本当に何があった!?」
 ぐったりとした女性を抱えて、ひとりの少年冒険者が膝を衝いている光景が! 少年というよりはお子様に近い体格なので、なかなかアンバランスな絵面である。
「うう……ミオおなかすいたよお……」
「なんてことだ……ボクたちはミアを守れなかった……」
「まだ生きてるっぽいからな!? あと名前間違えてるからな!?」
「ボクたちはミオを守れなかった……。でも――今は立ち止まっている場合じゃない!」
 後悔も悲しみもほどほどに、ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は勇ましく立ち上がった。ヘクターとしてはツッコミを入れたい点が多々有るのだが、とりあえずロニの代わりに女性の身体を支えてやる。……これが件の『白紙の魔女』とみて間違いないだろう。
「何があった? 覚えてるか?」
「……ううーん……あっ男の人だ……てことは求婚……?」
「違う。ああもう駄目だなこりゃ」
 駄目だったものは仕方がない。こうなったら衝撃波の痕跡をもう少し辿るしかないか、と、ヘクターが次の作戦を考え始めたところで。
「形見……形見……形見っぽいの全然持ってないんだもんなー、これでいっか」
 ロニは平然とミオの衣服を探っていた。特に目欲しいものは見つからなかったので、ポケットに詰め込まれていた非常食らしきキノコで妥協する。
「彼女の遺した形見の品……何かの手掛かりに違いない!」
「あの……アンタ、猟兵でいいんだよな? さっきから何を言って」
「その死と呪いの謎を解明するため、ボクたちは一路学術都市に飛んだ!」
 小さき神が、暴君めいた態度で告げたその瞬間。
 ――まるで子供の落書きのように、理不尽に世界が『書き換わる』。


 それから、いくらかの月日が流れて。
「…………?」
 ふと気付くと、ヘクターは見慣れない空間に立っていた。
 豪華な彫刻の施された石造りの部屋だ。足下には毛足の長いカーペット、頭上には宝石の散りばめられたシャンデリア。壁は幾重もの布飾りで覆われている。相当に裕福な者の邸宅――もしくは隠れ家であることは確かかと思われた。
「おーっほっほっほ! にっくきミオソティスの野郎、まさかまだ生きてやがったとは驚きですわ」
 というか、部屋の真ん中にいかにも貴族っぽい化粧濃いめの女がいる。そいつは魔法の鏡らしき物体を覗き込み、どの角度から見ても完璧な悪役の笑顔を浮かべていた。
「ま、特に関係ない魔物にブチ殺されたようで何よりですわー! ふふふっ、養子風情が調子に乗りおってマジにクソでしたわね。シルヴァティカ家の正当なる第一子、このミアスマタ・シルヴァティカ様の地位は盤石のものとなりましたのよー!」
「そこまでだ!」
 あからさまな説明セリフをヘクターが飲み込むより先に、分厚い扉を蹴破ってロニが乗り込んできた。王子様のようなぴかぴかの鎧に、キノコの剣を携えて。
「ミオの義姉――ミア! キミが彼女に忘却の呪いを掛けた犯人だったのか」
「呪い? 全く心当たりがありませんのことよー?」
「逃げられると思うな! この隠れ家の護衛兵、そいつはボクたちの仲間の冒険者だ!」
「あっ俺のことか?」
 全く意味がわからないが、この謎のスペクタクル劇場は何らかのユーベルコードの効果なのだろう。たぶん。そういう割り切りが生じてきたのでヘクターは逆に冷静になった。淡々と、目の前のミアなんとかいう女に改造型自動小銃を突きつける。
「そんな……ヘクター! 愛していましたのに!」
「知らん」
 突然の雑なロマンス要素にも塩対応である。
「くっ……、この程度で! 我が野望は! 潰えませんのことよ――ぐえっ」
 そこに投げナイフが飛来し、女の喉を貫いた。あまりにも軽い死に様に呆然とする冒険者たち。すると壁に飾られた布飾りが妖しくはためいて、その陰から黒尽くめの男が姿を現した。
「哀れなお喋り女め。学術都市の闇をこれ以上知られぬ訳にはいかぬ」
「仲間を……こんな簡単に殺すなんて……!」
「これも我ら暗殺教団の掟よ。――貴様等にもここで消えてもらう!」
 ドレスを伝って滴り落ちた女の血が、カーペットに不気味な紋章を描き出す。
 その忌まわしき『死者の紋章』に呼応するように、石造りの部屋全体が鳴動する。床が、壁が、立方体に分割されては組み直され、物理的にありえない広さの迷宮へと変貌していく。
「地獄から指をくわえて見ているがよい。帝竜ヴァルギリーナの復活をな……!」
 天井から現れる死の罠の数々、足下の暗黒より湧き出る異形の怪物たち。それら全てを睨み据えて――ロニはぽつりと呟いた。
「飽きてきたかも」
「そうだろうとは思ったよ……」
 銃を下ろして、肩を落とす。振り子の刃が飛んできたのでひらりと避ける。そんなヘクターの溜息が聞こえているのかいないのか、ロニは昼寝を終えた子猫のように伸びをする。
「ほら、『冒険者っぽく』ってこういう感じかなって」
「参考資料がおかしいんじゃないか?」
 芸術を愛する神ことロニ・グィー、砲と火薬は嫌悪するが、剣と魔法のJRPGは好んで嗜むほうだった。
「あと帝竜の名前はヴァルギリオスな」
「ヴァルギリーナは帝竜の従妹っていう裏設定が」
「適当かよ……。まあいいが、これ、――『元に戻せる』んだろうな?」
 もちろん、と、子供の姿をした神は鷹揚に頷いた。
 散らかした玩具を片付けるように、クリアしたゲームの電源を切るように。
 ――改変された世界の中で、急速に時間が巻き戻る。


「はっ」
 そしてまたふと気が付くと、ヘクターは森の中に居た。
 ものすごく長い悪夢を見せられていたような気がする。まだ頭の中にはに靄が掛かっているけれど――『今』最も重要なのは、腕の中でぐったりとしている一人の女性だろう。
 彼女が『ミオ』であるならば、為すべきことは決まっていた。決めていたからこそ迷うことなく口に出来た。
「――何があった?」
 閉じかけていた魔女の瞳が、ぱたりと瞬く。
「魔石コウモリ……」
「それがアンタを襲った魔物か?」
「……魔物? 魔物がどーかしたの? どこのどなた? あっ男の人だ……てことは求婚……?」
「違う」
 心底不思議そうに首を傾げる様子からして、記憶が十秒で消えるというのは事実のようだ。魔物の名前を聞き出せただけでも幸運か……などと考えを巡らせるヘクターの横で、なぜかロニが得意げに胸を張っている。

 ――そう。ロニが世界改変をぶっぱして筆者も知らない裏設定を大量にとっちらかしたのは、決して単なる面白半分の行為ではない。
 もちろん面白半分ではあるのだが、残り半分でちゃんと猟兵としての役割は果たしている。『神論《ゴットクィブル》』と名付けられたユーベルコードに伴う時間遡行によって、ミオが魔物の姿を覚えている最高のタイミングへと時間を巻き戻したのだ。

「魔石コウモリって知ってるか?」
 ヘクターはあえて単純な質問を選ぶ。ミオは素直に頷いてくれる。
「魔石コウモリっていうのは俗称、正確にはエレメンタル・バットだね。洞窟に住んでて魔石の鉱脈を食べるんだ。魔石が……なんの話だっけ?」
「エレメンタル・バットの話」
「エレメンタル・バット、魔石、エレメンタル・バット、魔石」
 呪文のように何度か単語を繰り返して、『白紙の魔女』は饒舌に知識を語り出す。
「エレメンタル・バットは魔石を食べて力をつけるの。食い尽くしたら共食いでどんどん強くなって、人間も襲うようになるの。早く駆除しないと大変なことに……大変……何が大変なんだっけ?」
「――いや、十分だ。感謝する」
「えっ、あっ、どういたしまして? どこのどなた? あっ男の人だ……」
 これで、敵の正体は掴んだも同然だ。

「なんなの……ここどこ……おなかすいた……」
「ミオー! それ今日の晩御飯じゃないから――っ!!」
 さっきまでの話もすっかり忘れて、見るからに不味そうなキノコを生のままかじり始めるミオ。……ぐったりとしていた原因は単なる空腹だったらしい。ちゃんとした食料を分けてやれば回復するだろう。
「もー、世話が焼けるんだからー」
「アンタが言うな」
「まあまあ、ボクのお陰でなんとなく真相も分かったじゃない。崇めてもいいんだよ」
 世界改変によって多少設定は盛られたものの、無かったことになった時間軸で二人が見たものは大筋において事実である。……帝竜の従妹が復活するかまでは、流石にわからないけれど。
「意地悪な義姉の起こしたお家騒動。学術都市の表に出せない権力闘争。ミオはそういうやつに巻き込まれて、忘却の呪いを受けたまま遠い町まで逃げ延びて――」
 ロニは会心のキメ顔をした。
「それとは特に関係なく、エレメンタル・バットに襲われている!」
「いい加減にしろ」
 どっとはらい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真神・衣縫
やあやあ、おキヌさんだよ
組織が周章狼狽で狼の手でも借りたいって空気でさぁ
通りすがりのエージェントに付いてきて正解だったね

さて、おキヌさん、収容されるまでは山に住んでいたんだ
夜目も利くし、痕跡の情報収集と爆発音にでも聞き耳を立てていれば……

や、おキヌさんだよ
キミが矢文の主かな
話を聴こうじゃないか

おや、おキヌさんだよ
一応冒険者とやらさ
キミの名は?

やあミオ、おキヌさんだよ
なるほどね……夜目が効く、即ち闇が視える
見覚えのある色に似ているねぇ

ああ、おキヌさんだよ
どれ、理(ことわり)の異なる世界でどこまで通じるかわからないけど
負に負を掛ければ正となるというし、物は試しだ
とはいえ弱めにね

【断金】
忘却を忘れよ




 ほんの一ヶ月ほど前、このアックス&ウィザーズは大天使ブラキエルとの最終決戦の渦中にあった。幸いにも地上の被害は最小限で済み、今となっては世界は平和そのものである。
 そして、真神・衣縫(おキヌさん・f30959)の棲む世界――UDCアースもまた、同時期に大祓骸魂の齎す災禍と戦っていた。こちらも無事に終結したにはしたのだが、……こちらの世界の戦争は、むしろ後始末が本番。
「周章狼狽、狼の手でも借りたいって空気でさぁ……」
 秘密組織は書類仕事で動いている。数々の怪事件の証拠隠滅、カバーストーリーの流布、果てはUDC-Nullに関する事実確認作業。みんな揃って連日徹夜のデスマーチ。
 つまり、ふらっと散歩など楽しめるような雰囲気ではないのだった。手の空いている人材と見做されたが最後、机の前に収容されてしまいかねない。
 ……まあ、そうなったらそうなったで、『声』のひとつも聞かせてやればどうにでもできるのだけれど。
 今の『おキヌさん』はオブジェクトではなくエージェント、それも猟兵だ。ずっと楽で穏当な方法がある。
「通りすがりのエージェントに付いてきて正解だったね」
 ――グリモアベースに向かう同業者にくっついて、楽しそうな依頼を案内してもらうという方法が。

 さて、『くらやみの森』はすっかり夜だ。
 名前の通り日中ですら暗いのだが、陽が落ちれば月灯りも届かない。とても常人が足を踏み入れていいような場所ではない、が。
「うん、懐かしい。異世界と言ってもこういう処は同じだね」
 衣縫も、あの狭い部屋に収容されるまでは、此処によく似た静かな山に住んでいたのだ。獣の気配も、虫の声も、彼女にとっては安らかな子守唄の範疇。……似ている分、漂う火薬の匂いがちょっと気になるけれど。
 だったらそれを追っていけばいい。狼の鼻先で煙を嗅ぎ分け、夜目の利く瞳を細めて痕跡を追う。爆発音の頻度は随分少なくなってきたけれど――それよりもっと明白な目印があった。
 誰かが灯した小さな光。
 ……夜道に灯りを灯すのは、人間という生き物だけである。

 光の照らす一帯は、この森の中にしては珍しく人の営みの形跡があった。
 露出した岩肌に、崩れた石と朽ちた木の板で塞がれた洞窟の入り口。砂利で舗装されていたのであろう通り道。……百年ほど前に放棄された鉱山といったところだろうか。
 その前に、小さな人影が佇んでいる。
「やあやあ、オキヌさんだよ」
「ひゃっ」
 ひょこりと顔を出してみせると、可愛らしい悲鳴が返ってきた。
 二十歳に届くか届かないかの若い娘だ。その傍らには、いわゆる『魔法』の類であろう光球がひとつ浮かんでいる。まさかそこらの山菜採りが道に迷っただけではあるまい。
「キミが矢文の主かな」
「矢文?」
「話を聴こうじゃないか」
「は、話? 話……。うーん、話、あった気がするけど忘れちゃったな。えっと、どこのどなた?」
「……ふうむ」
 一応人違いのセンも疑ってはみたが、――彼女が左手に握りしめている羊皮紙は、矢文に用いられていたのと同じものだ。その手を取ってまじまじと見てみると、腕から手の甲にかけて何やらきらめく文字が書き込まれていた。
 曰く、『私の記憶は十秒で消える』。『私は魔物に襲われている』。『冒険者を頼れ』。
「なるほど、古典的だなあ」
「えっ、何、えっ、私の記憶は十秒で……えっこれ大変じゃん!?」
「おやおや」
「ところでどこのどなた?」
「おキヌさんだよ。一応冒険者とやらさ」
 しっかりと手を握り、落ち着くように『声』を掛ける。
「――キミの名は?」
「ミオ……。ミオソティス・シルヴァティカ。えっと、キミは」
「やあミオ、おキヌさんだよ」
「オキヌサン!」
 固有名詞の理解は若干怪しいものの、――やりとりを繰り返すうちに、ミオは落ち着きを取り戻していった。

「その紙、見せてくれるかな」
 ミオが混乱しないよう手の甲の文字を示しつつ、衣縫は羊皮紙を拡げて覗き込む。
 ところどころ破かれているものの、それは麓の町の観光案内のようだった。おおまかな地図と、町の歴史が書かれている。その中にひとつ、後から線が書き加えられている文章があった。
「『鉄鉱山は徐々にクズ石ばかりが出るようになり、爆発事故をきっかけに閉鎖』――」
「それって、炎の魔石だったりして」
「ほう。炎の魔石」
「魔石ってシロートには区別が付きづらいから。炎の魔石の……鉱脈。放っておくと『青の湖の悲劇』みたいになっちゃう」
「『青の湖の悲劇』、なんだか詩的だね」
「水の魔石の鉱山を放っといたせいで、洪水で町が滅ぶ話……。小さい時に舞台で見たなー。つまんなくって途中で寝ちゃったー。……えっと、どこのどなた?」
「ん、おキヌさんだよ」
 だいぶ話が見えてきた。ゆっくりとミオの手を引いて、すぐそこにある塞がれた洞窟の跡を指し示す。
「魔石の鉱山を放っておくと危ない。そうだね?」
「最悪、魔物とか湧いちゃうよね。魔物……『私は魔物に襲われている』……あーっ!」
 ミオが笑顔で快哉をあげた、次の瞬間。
「……忘れた! なんか分かりそうだったのに忘れた!」
 まあそうなる。単語を投げ返している間はなんとか会話が続くものの、一度やりとりが途切れると即座に振り出しへ戻ってしまう。――まあ、重要そうな情報はあらかた出揃っている気がするが。
 足りないものがあるとすれば、それこそミオの記憶だけ。
「で、キミ、どこのどなた?」
「ああ、おキヌさんだよ――」

 ところで狼は夜目が効く。即ち、闇を視透すことができる。
 十秒と記憶が保たず、まるで幼い子供のように振る舞う『白紙の魔女』。その澄んだ瞳の奥底に、『おキヌさん』は見覚えのある昏い色を捉えた。
 奇しくもそれは、真神・衣縫が行使する力と同じ――『忘却の呪い』。
「どれ、」
 魔法とやらの仕組みは知らない。根本から理《ことわり》の異なる世界で、自分の力がどこまで通じるかも判らない、ひょっとすれば、異なるからこそ足し算ではなく掛け算になる可能性だってある――負に負を掛ければ正、毒を以って毒を制するとも云う。
「六呂、断金」
 物は試しだ。
「――『忘却を忘れよ』」

 忘却の呪いに対する、忘却の呪いの重ね掛け。
 その『声』を受けたミオは、呆気に取られたように何度か瞬きをして――弾かれたように手を振い、後ずさる。
「あっ……うっ……」
 先程までの能天気な様子から一変して、怯えたように周囲の様子を確認する。そして震える唇で、何かの呪文を唱え始めた。
「『我は白紙の魔女』――『溝より出て雨へと至る』――『片道の』――『片道の』――ええと、ええっと」
「それが『忘却の呪い』の詠唱なら、今は思い出せないよ」
 彼女の瞳を視たときから、なんとなくそういう予感はしていた。闇が視えるということは、その闇の種類も視えるということだから。
「キミに『忘却の呪い』を掛けたのはキミ自身。そういう話だったんだね」


 ……すっかり叱られた子供のように縮こまってしまったミオが、ぽつぽつと話ってくれた真相はというと。
 生まれ育った学術都市の閉鎖的な環境。神童と持て囃されたゆえの、子供の身に余る重責。身勝手な大人たちの陰謀劇。そういったストレスに晒され続ける生活が全て嫌になり、強固な『忘却の呪い』を編み出したのが十二歳のとき。
 それから彼女は実に七年もの間、『白紙の魔女』として天衣無縫極まる人生を送ってきたらしい。
「しかし、思い切りがいいというか」
「だってーっ! 勉強やだーっ! 仕事やだーっ! 政略結婚やだーっ!」
「うんうん、まずは落ち着くんだ。おキヌさんは叱ったりしないからね」
 人様のことを善悪で量るような性質でもないし、実際のところ叱る理由もさほどなかった。たしかに彼女の忘れっぽさは町の人々や猟兵たちを困らせたが――彼女の妙な依頼のお陰で、鉱山に湧いた魔物をいち早く見つけることができた訳だし。
「ミオ、キミが望むなら、『忘却の呪い』は後で元に戻してあげよう」
「……ほんと?」
「ほんとだよ。ただ――もう少しだけ、手を貸してはくれないかな?」
 自分たち猟兵の仕事は、洞窟の奥のオブリビオンを倒すだけ。
「この町には、たぶんキミの知識が必要だろうから」

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『エレメンタル・バット』

POW   :    魔力食い
戦闘中に食べた【仲間のコアや魔法石、魔力】の量と質に応じて【中心のコアが活性化し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    魔力幻影
【コアを持たないが自身とそっくりな蝙蝠】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    魔力音波
【コアにため込んだ魔力を使って両翼】から【強い魔力】を放ち、【魔力酔い】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 どこにでもある平凡な田舎、『トロイメス』。この町で起きた奇妙な事件について分かったことをまとめよう。
 この一帯はもともと鉄鉱山であり、労働者たちで賑わう町であった。しかし次第に鉄は枯れ、クズ石ばかりが出るようになり、爆発事故をきっかけに鉱山は閉鎖。人々は農業や採集で暮らすようになったのだと言う。
 そこにたまたま滞在していた旅の魔女が、観光案内の貼り紙を読んで異常に気が付いた。子供の頃に観た舞台のあらすじに状況が似ていたためだ。
 記録に残っているクズ石というのは、炎の魔石だったのではないか。魔石の鉱脈を不適切な状態で放置すると、周囲の環境が変質し、災害や魔物の発生の源となる。
 最悪の可能性に思い至った彼女は、一路『くらやみの森』を目指した――までは、いいのだが。
 ……その魔女は十秒しか記憶が保たず、常人と会話の成り立たない『白紙の魔女』だった。彼女は目的を誰にも伝えられずに早々に忘れ、偶然思い出したり、また忘れたりを繰り返しながら『くらやみの森』に住み続け、ついには手の付けられない魔物――魔石コウモリの群れに襲われた。そして冒頭に続くのである。

「……この洞窟の奥……じゃ、ないかな。魔石コウモリの巣があるの……」
 一時的に『忘却の呪い』から解放されて、ミオは人が変わったように弱気になっている。自身の置かれている状況を正確に理解したゆえの反応か、……それともこちらが、彼女本来の性格なのか。
「きっと、岩の隙間から出てきてるんだ……塞がってるとこを開けて……内側から全部駆除しなきゃ、駄目だよね。ちょっと……待ってて」
 手帳にいくつかの計算式を書いて、しばらく考えこんでから、ミオは洞窟――旧鉱山の入り口を睨みつける。

 ほんの小さな火花が生じて、次の瞬間には轟音を伴う大爆発が起きた。
 礫となって崩れた岩肌、その向こうの洞窟に――猟兵であれば馴染み深い、骸の海より来る者の気配がある。

「えっと……見た? このあたりは魔力の流れがおかしくなってて……『炎属性』の力を使うと、こういう風に暴走しちゃうの。洞窟や、山まで崩れちゃうかもしれないから、気を付けてね……って……さんざん爆発起こしたミオの言うことじゃないよね、ごめん……」
 縮こまって、洞窟から距離をとるように数歩下がるミオ。この戦闘で自分が役に立たないことは了解済で、もしもの時も自衛はできる。普通に戦うだけであれば、彼女のことを気にかける必要は特にない。
「でも……ミオに、何か手伝えることがあったら、言ってね」

 洞窟に踏み込んだ君たちを迎えるのは、魔石コウモリこそ『エレメンタル・バット』の大集団。
 彼らは石の持つ魔力を喰らい、体内のコアに蓄積していく性質を持つ。時には死した仲間のコアや、冒険者の持つ魔力を肉体ごと喰らうという。この洞窟に発生している個体はほとんどが火属性だが、他の属性を持つ個体も探せば居るかもしれない。
 猟兵にとっては弱敵だが、数の多さと崩れやすい地形が厄介だ。

 改めて。
 ――『白紙の魔女』から君たちへの依頼は、これらの魔物の駆除である。
餅々・おもち(サポート)
俺はケットシーのおもち。ペットショップ育ちのケットシーだ。身長は24.6cmだが将来的にはもっと伸びる予定だ。

もし危険な目にあったら、【シャーク・トルネード】で派手に攻撃したり、
【ライオンライド】で柴犬程度のライオンを召喚する等、任意のUCを使って切り抜けるぞ。
人間の世界のことは勉強中なので、まだまだ世間の常識が分からない時もある。

アドリブ共闘OK、負傷を厭わず行動する。よろしくたのむ。




 一方その頃。
「このキノコ……、食べられるかどうか検証する」
 すっかり陽の暮れた『くらやみの森』で、餅々・おもち(ケットシーの鮫魔術士・f32236)は迷子の子猫ちゃんだった。
 柴犬サイズのライオンに乗り、半日かけて森をぽてぽて駆け回り、発見できたものはこの野営の痕跡ひとつだけ。周囲の木々が軒並み吹き飛ばされているので、正確に言えば『誰かが野営をしようとして大爆発した痕跡』である。
 こんがりと焼かれたキノコの串差しを見つめて、おもちは小さく鼻を鳴らす。ついでに、くう、とお腹も鳴る。
 ……これは誰かが焼いて食べようとしたものだろうし、もったいないから食べてしまっていいのではないか。
 いや、しかし。人間にとっては食べ物でも、猫にとっては毒になることだってある。だから残りご飯をエサにしないでくださいね――と、ペットショップの店員さんに教わった。店員さんが話しかけていたのは飼い主候補のお客だったのだが、当時からおもちは話を理解していた。ケットシーなので。
 考えてみれば自分は猫ではなくてケットシーだし、人間の食べ物を食べても、まあ、たぶん大丈夫だろうと口を付けたところで。
 ――ぺこぺこのお腹の底まで響く、大爆発の音がした。

 真っ白な毛がぶわっと逆立つ。ぴんと立った耳が、風にそよぐヒゲが、敵の気配を察知する。
 爆発自体はどこか遠くで起きたものだが、その音に呼応するように、暗闇で魔物がうごめいたのだ。人間から見ると小さな、しかしおもちの身体からすれば十分大きな、コウモリの群れ。
 真っ赤な宝石が、ぎらりと妖しい光を放った。

「む……!」
 立ち上がった拍子に視界が揺れる。さっきかじったキノコに毒があった訳ではなく――強い魔力を一気に浴びせられたことによる、一種の魔力酔いである。
 おもちは慌てず騒がずバブルワンドを構えた。森で迷子になっていただけの彼は、この魔物の正体もよく知らない。けれど、こいつらが麓の町に下りてしまえば大変なことになるのは分かる。
 とりあえず、敵がお腹に抱えている宝石は赤色だ。
 赤いやつが魔法を使ってくるときは、だいたいの場合、水が効く。
「星の煌めきよ、降れ」
 シェイプ・オブ・スターの詠唱と共に、夜空から星屑が降り注いだ。
 それはきらめくマリンスノーのように舞い踊って、戦場の環境を書き換えていく。山奥の森の静けさが、深海の冷たさへと変わる。風が、重たい波に変わる。
『――――』
 火属性の魔力をたっぷり貯め込んだ『エレメンタル・バット』が、深海の環境に適応できるはずもない。一匹、また一匹と、溺れて地面へ沈んでいく。
 ……昼間に洞窟の外で『白紙の魔女』を追い回していた魔物たちは、こうしてしっかりと退治されたのであった。おもちのお手柄である。

 動かなくなった魔物たちに、おもちはそろりと近付いて。
「キラキラしている……」
 うんしょ、と、全身を使って、コウモリの身体から宝石を剥がし取る。小さな両腕いっぱいに抱えるほどの大きさだ。
 ……『エレメンタル・バット』から採れる魔石は非常に上質であり、使ってよし売ってよしの貴重品。思いがけない大収穫である。
 しかし、おもちにはそのあたりの欲があんまりない。綺麗だから持って帰ろうかな、くらいの考えだった。そうして彼の興味は早々にコウモリの肉へと移る。
「これは……お腹を壊すだろうか」
 おもちの冒険はまだまだ続く。

成功 🔵​🔵​🔴​

カイム・クローバー
さて、ミオ。一つ確認しても良いかい?魔物退治が依頼内容。洞窟内のお宝は見付けた冒険者の自由、それで良いかい?
……決まりだな。

這い出て来たお宝(蝙蝠のコア)に当てねぇように【見切り】、銃弾で翼を狙い【クイックドロウ】。
コアを蝙蝠から【盗み】、回収して、売り捌く。出来るだけ傷物にしないよう、当然、炎も紫雷も無しだ。
ああ、クズ石も一定量持ち帰るぜ。こっちは酒場のオッサンにタダでくれてやろうと思ってな。
アンタらの鉱山が残した最後の土産さ。機会があったら王都にでも言って換金してきな。炎の魔石、だそうだ。
んで、次に俺が寄る機会があったらもう少し――ワインの値段を下げてくれると助かる、って伝えとくぜ。


真神・衣縫
切った張ったは面倒だから御免だよ
……洞窟みたいな閉鎖空間だと『声』が反響してしまうんだ

だがなにもしないわけにもいかないね
あえて大声で
【勝絶】
――耐えよ
今後爆発があっても、これで鉱山は持つだろう

撃ち漏らしを逃がさぬように入口付近
下手に衝撃を与えると危ないかな
眠りの呪詛を籠めた《声》で蝙蝠を落とし、翼を捥ぐ
ああ、おキヌさんのは魔力じゃないんで酔いようがない

あとでミオの記憶を、戻すというか忘れさせるというか
ややこしいな……ま、おキヌさんはとやかく言うつもりはない
人間、なにもかも忘れたいってことがあるんだろうさ
……ま、キミのおかげで「赤の鉱山の悲劇」にはならなかったということ、おキヌさんは覚えておくよ




 洞窟の内部へと赴く前に、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は背後の依頼主を振り返った。小柄な彼女の背丈に合わせて、視線の高さを同じにして。
「さて、ミオ」
「ひゃい……!?」
「そう構えるなって」
 実質、これが初対面である。……酒場では奇人変人として語られていた『白紙の魔女』は、カイムの目にはごく普通の気弱な女性としか映らなかった。『忘却の呪い』が解けた以上、ある意味当然ではあるのだが。
「で、だ。一つ確認しても良いかい?」
「だだだ大丈夫、大丈夫だけど、大丈夫ですけど、顔、顔が近っ」
「ああ、悪ぃ――レディ相手に不躾だったな」
 考えてみれば、わざわざ顔を近付けて声を潜めるほどの内緒話でもなかった。改めて自然な姿勢で向き直り、洞窟の奥の暗闇を指す。
「魔物退治が依頼内容。洞窟内のお宝は見つけた冒険者の自由。それで良いかい?」
「え、と」
 耳まで真っ赤になった顔を両手でぽんぽん叩き、ミオは暫し考え込んだ。洞窟を見て、森を見て、その視線は最後に――麓の町のある方角へと向けられる。
「うん、冒険者のひとにお任せしたほうがいいと思う……。魔石は扱いが難しいし、エレメンタル・バットの体内で濃縮されたコアはすっごく高価なの。平和な町に持ち込んだら、争いごとの元になっちゃう」
「……決まりだな」
 欲のない、話のわかる依頼主で助かった。……そのお宝を自分のものにしようという発想すら出てこないあたり、善良すぎて心配になるくらいである。

 意気揚々と鉱山に踏みいるカイムを見送って、ミオは一先ずほっとしたように肩の力を抜く。その背後から、すいっと半人半獣の鼻先が顔を出す。
「落ち着いたかな」
「あっ、オキヌサンさん」
 呼称は若干怪しいが、とりあえず記憶は保っているようだ――そう判断しつつ、真神・衣縫(おキヌさん・f30959)はミオの傍らに並ぶ。彼女と同じように鉱山の岩肌を眺めて、ふむ、と息を吐く。
「いい夜だね。静かな夜とは行かないだろうけど」
「オキヌサンさんは、洞窟の中に入らないの……?」
「切った張ったは面倒だから御免だよ」
 エージェントとしても、オブジェクトとしても。『おキヌさん』は形ある武器を手に戦うような存在ではない。冒険者らしさというお題目からは、最も遠い処に居ると云ってもいい。
 まあ、そんな前置きを抜きにしても――『声』という武器はどうにも扱いが難しいのだった。特に洞窟のような閉鎖空間では、どうやっても反響を起こして制御を外れてしまう。徒党を組むには向かない権能だ。
「だが、なにもしないわけにもいかないね」
 一応、仕事で来ているのだし。

 すう、と、冷たい夜気を胸に満たして。あえて張った大声で――六呂、勝絶。
「――耐えよ」

 狼の遠吠えめいた声量に、明瞭な人の言霊が乗る。その単純な命令は、森に、岩に、大地に深く染み渡る。
「よし。これで鉱山は持つだろう」
 無機物に意識があろうとなかろうと、衣縫の『声』を受けた万物は自然と彼女の意志に沿う。少なくとも、爆発のひとつやふたつには耐えてくれる。山ごと大崩落、なんて心配は無くなる筈だ。
「すごい……。今のはどういう魔法なの?」
「説明が難しいなあ」
 何せ根本から理が異なる世界である。そもそも衣縫にはミオの云う『魔法』の仕組みが分からない。
「詠唱は短いけど、省略してるのとも違うよね……。意味を圧縮してるのかな? うぅん……それとも……」
「いやいや、そう難しく考えることじゃあないさ」
 ぶつぶつと何事か呟くミオの肩を軽く叩いて。
「キミが思うより簡単だよ。――うん、何事もね」

 ――洞窟の暗闇の奥に、ぼんやりと灯る光の群れがある。
 その色彩は概ね赤一色だ。時折青やら緑やらが見受けられなくもないのだが、混ざり合ってしまえば赤という表現の範疇に収まってしまう。
 圧倒的な量と純度の、炎の魔石が飛び回っている。――カイムにとっては、それらにへばりついている蝙蝠の肉体などオマケのようなものだった。むしろ自ら這い出て寄って来てくれるのだから好都合。既に頭の片隅で、算盤が『お宝』の総額を弾き出している。
「ド派手に――行きたいところだが、」
 せっかくの魔石が傷物になっては堪らない。鉱山を崩す訳にも行かない。当然、炎も紫雷もなしだ。
「今夜は大人しめで頼むぜ、『オルトロス』」
 双頭の魔犬を宥めつつ、目にも留まらぬ一瞬の動作で二丁銃を抜く。
 狙うのは蝙蝠の翼、薄い皮膜だ。胴体のコアに当てないように注意を払いながら、一匹一匹確実に穴を開けていく。――銃撃の協奏曲《ガンズ・コンチェルト》の連射速度を以てすれば、それでもほんの数秒で死骸の山が築かれる。
 コアを持たない個体や、逃げる個体はあえて深追いしないでおく。……後方に控えている猟兵たちに、こんな弱敵に苦戦するような者は一人も居やしない。むしろ取り分を残すのがマナーとすら言えるだろう。
「さて、後は楽しい盗みの時間だな」
 積み重なった蝙蝠たちから、てきぱきとコアを回収していくカイム。
 ……これだけでも相当な儲けになる計算だが、プロの盗賊は上手く行っている時こそ最終確認を欠かさない。何か見落としはなかろうか、と、魔石の光を暗闇に翳す。
「お、――これはなかなか」

『――――』
「む」
 獣の耳がぴくりと動いて、かすかな金切り声を捉える。……威嚇や攻撃というよりは、悲鳴に近い響きがあった。洞窟内部の戦いから逃げてきた魔物たちであろうか。
 無論、逃すつもりはない。こういう場面も想定して、衣縫はあらかじめ洞窟の入口付近に待機していた。
「下手に衝撃を与えると危ないかな……」
 羽撃きの音が徐々に近付いて、夜空へと飛び立とうとする、ぎりぎりの一瞬を見計らって。枕元で囁くような声量で。
「――眠れ」
 洞窟を出たその瞬間、蝙蝠たちは呪詛を籠めた『声』を受けることになる。一斉にぴたりと動きを止めて、そのまま力が抜けて、ぽたぽたと地面に落ちていく。
 あくまで眠らせただけだ。一匹一匹しっかり止めを刺さなければ――いや、翼さえもいでしまえば後はどうとでもなるか。付け根のあたりを捻って関節を砕けば効率がいい。腹に抱えた宝石は、まあ、ちゃんと回収しておくか。
 そうやって手仕事をしていると、背後からそろそろとミオが近付いてくる。
「すごい魔力波だったね……、酔ってきちゃった……。オキヌサンさんは大丈夫?」
「うぅん、まずその魔力とやらを感じないからなあ」
 感じないのでは酔いようがない。一応、感覚を研ぎ澄ませて注意を払ってみるけれど――衣縫に感じられたのは、魔力ではなく人の気配だ。洞窟の中から誰かが帰ってきたようだ。
「大漁大漁っと!」
「キミか。ちょっと撃ち漏らしが多いよ?」
「独り占めはマナー違反だろ? その宝石はあんたの取り分さ」
 満面の笑顔で凱旋してきたカイムの両腕には、石の詰まった麻袋がいくつも抱えられている。それらの中身の大半は、もちろん蝙蝠から剥ぎ取った炎の魔石の数々なのだが。
「ミオ。鉱山のクズ石ってのはこれか?」
 一袋だけ、様子の違うものがある。緩んだ袋の口から零れ落ちるのは、どこにでもありそうな、多孔質の赤茶けた小石だった。
 ミオはその小石を一粒拾い上げて、まじまじと観察してみせる。
「うん……。やっぱり炎の魔石だね。純度はかなり低いけど……」
 ……素人には価値の分からない代物だろう。カイムですら、事前に話を聞いていなければ見落としていたかもしれない。それを一目で見極める彼女の姿には、魔女という肩書きに恥じない佇まいがあった。
「王都とかに行けば、換金くらいはできると思う……」
 そう言って、借りた石を袋に戻そうとするミオを制して――カイムは、クズ石の袋を丸ごと差し出した。
「酒場のオッサンに届けてくれねぇか?」
「えっ、えっ?」
「こっちはタダでくれてやろうと思ってな。アンタらの鉱山が残した最後の土産さ――とでも、伝えといてくれ」
 目を白黒させて戸惑う彼女に、ゆっくりと袋の重みを預けて。
「……んで、次に俺がこの町に寄る機会があったら、」
 ここから先は内緒話だ。声を潜めて、耳打ちをする。
「もう少し――ワインの値段を下げてくれると助かる、ともな」
「わっ、わっ、わかった、ワインね? わかったけど近い、顔が近い」
「悪ぃ悪ぃ。じゃ、よろしく頼むぜ?」

 ……そういう訳で、半ば強引に押しつけられた荷物と睨めっこをする羽目になったミオ。
 そんな彼女の様子を見つつ、衣縫は先の約束の話を切り出すこととする。
「キミの記憶のことだけども」
「あっ、うん、その……戻してもらえるん、だよね」
「戻すというか、また忘れさせるというか、ややこしいな……つまり……」
 そもそも『おキヌさん』の『声』は取り扱いが繊細であり、思った通りの結果が得られないことも割とよくある。忘却に忘却の重ね掛けが上手く行ったのも言ってしまえば偶然だ。それを解除するとなると、よくよく考えて言葉を選ばなければならない。
 さて、この場合、最も適切な命令は。
「そうだね、――『呪文を思い出せ』」

 ミオに施されていた『忘却の呪い』は、もともと彼女自身が望んで編みあげた呪文だ。
 それを否定せず、肯定せず、選択肢だけを与えてやる。――思い出した呪文を再び唱えるかどうかは、彼女の意志に任せるとしよう。

「ありがとう。……どう、しよう、かな」
「……ま、おキヌさんはとやかく言うつもりはない」
 そこから先は、安易に命じてはならない領域だ。
「人間、なにもかも忘れたいってことがあるんだろうさ。忘れたいなら、忘れればいい」
 生きる道なんて人それぞれだ。一本道では済まないことだって、同じところをぐるぐる回ることだってある。他人の選択を善悪で評する趣味はない。
 ただひとつ、間違いなく『善い』ことがあるとするならば。
「ま、キミのおかげで『赤の鉱山の悲劇』にはならなかったということ、おキヌさんは覚えておくよ」
「うん、……うん。本当に、ありがとう」
 この気弱そうな魔女が、かつて忘却を願った理由を知りはしないけれど。これから先、何を願うのかも分からないけれど――見知らぬ町の危機を放っておけないような、真面目な娘であることだけは確かだ。
 少なくとも、預かった荷物を途中で放り出すようなことはするまい。
 彼女が呪文を唱えるとしたら、少なくとも酒場の店主に言伝を届けた後だろう――と、衣縫は思うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘクター・ラファーガ
なるほど。十秒で記憶を忘れる真相はそういうことか……よくそんな状態で独り暮らしなんて始めようと思ったな。
とはいえ、今は魔女の手も借りたいほどの危機が迫ってるわけだ。

指定UCを発動。コウモリ相手にはワイヤーで対処しよう。奴らの一匹をワイヤーで捕まえて、ソイツをそのまま武器にさせてもらうぜ。さながらワイヤードランスってやつだ。コイツなら、周囲を刺激しにくいはず。

昔話が災害のヒントになるなんて、歴史の一端を垣間見たみたいで面白いぜ。よくある話だが、こうして本当にその場面に立てると……ロクでもねぇな。
住む場所、変えた方がいいんじゃないか?今日は爆発しなかったが、明日はどうかわからねぇしな。


ヴァシリッサ・フロレスク
なンだい、癖で一寸ボッとヤッたら

KABOOM!

ってなワケかい?

景気良くド派手にブチかましたいンだケドねェ

まァ、ここに居る面子見るに、そうそうクタばッちまうようなタマはいなそーだケドさ?
お嬢チャンが巻き込まれッちまっても寝覚め悪ィからねェ?

……何シミッたれた面してンだい、調子狂うねェ

火気厳禁、てもコッチの“火器”はセーフだろ?

ノインテーターとスコルで片端から……

Shit!
的が定まンないね

なァ嬢チャン、ちょいと風とか起こせないかい?

旋風でも起こしてくれりゃ纏めてUCで見切り、早業からの弾幕で一掃してやるよ

そーだ、最中でも事後にでも、訊かずにいられない

で、この後どーすンだい?
ずっと一人でいる気かい?


ユウ・シャーロッド
(共闘OK)

私にできる事…目立たない役割ですが、後方で補助役に集中します!
この戦闘中は地形が崩れても、すぐに「復元」で崩れる前の状態に戻しますよっ。

更に蝙蝠さんの攻撃からは、落ち着いて周囲の石や水気等あらゆる物を「復元」で操り、
盾や足場にして味方を守り、援護します!

でも、いっぱいいる蝙蝠さんと味方の動きをすべて把握するのは
レテさんと私だけでは難しいです…という事でっ!覚えてないかもですがお友達のミオさん!
崩れそうな所や、攻撃を効率よく防ぐ位置とか、
気付いた事があれば助言が欲しいです!あっ不安なら手をつなぎますよ?

ミオさんが頑張ってくれた今回の事件。
せっかくなら一緒に最後まで見届けましょう!




 洞窟の突き当たりには、いくらか開けた場所があった。
 坑道半ばの荷物置き場といったところだろうか。寝泊まりができるくらいに整えられた空間に、錆びた鶴嘴や猫車の残骸が転がっている。
 かつての労働者たちは、ここで酒など飲み交わして疲れを癒していたのかもしれない。そんな人の営みに想いを馳せるのも一興だけれど――注目すべきは、その地形だ。
 この広場を起点にして、坑道は三つ四つに分岐している。……逆に言えば、奥に広がる坑道は全てこの広場へと収束する。
 蝙蝠たちを迎え討つなら、この位置が戦場の要となるだろう。

 ――そう判断したヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)は、列の先頭で足を止めた。彼女の赤い瞳には暗闇の向こう側が視えているけれど、冒険者たちの中には夜目が利かない者も居る。
「お嬢チャン、このヘン明るくできるかい?」
「あっ、うん……」
 ふよふよと頼りない光球がヴァシリッサの肩を通り過ぎ、広場の天井へと向かい、ぱっと輝きを増した。
「わ、明るい」
「あー、確かに事を構えるなら此処だな」
 照らし出される人影は合計で四人。先頭を行くヴァシリッサと、殿を務めるヘクター・ラファーガ(風斬りの剣・f10966)。中央できょろきょろとしているユウ・シャーロッド(白練の杖・f06924)と――その傍らに、もう一人。
「これは光属性の魔法だから、心配しなくて大丈夫……。でも、火にはほんとに気を付けてね」
 借りてきた猫のように大人しい、『白紙の魔女』ことミオである。
「火属性の魔力の……流れ? がおかしいンだッけか」
 ダークセイヴァー出身であるヴァシリッサは、魔なる力には親しいほうである。その肉体に流れる血は炎そのものと云っても過言ではない。……しかし、当の彼女からすれば感覚で使えてしまう力である。魔法使いの理屈はあまりピンと来ないというのが本音だった。
「じゃあなンだい、癖で一寸ボッとヤッたら――KABOOM!」
「ひゃんっ」
「ってなワケかい? 景気よくド派手にブチかましたいンだケドねェ……」
 お気に入りの遊びを禁止された子供のような顔をして、自動拳銃をくるくると回す。射突杭や重機関銃も今回はナシだ。魔力の暴走云々どころか、物理的に鉱山が荒野にリフォームされかねない。
「――まァ、ここに居る面子見るに、そうそうクタばッちまうようなタマはいなそーだケドさ?」
「そりゃ死ぬつもりはないが、崩れないのに越したことはないからな?」
「そ、そこは私が頑張りますのでっ!」
 埒外の生命体たる猟兵たちは置いておくとして、問題は中の様子を見に来たという同行人だ。
「――お嬢チャンが巻き込まれッちまっても、寝覚め悪ィからねェ?」
「うっ……」
 くすぐる程度の気持ちで言葉の矛先を向けると、ミオは肩をびくりと震わせて縮こまってしまった。一歩退がって、こちらの機嫌を伺うような上目遣いを返してくる。
「……何シミッたれた面してンだい」
「うぅ」
「調子狂うねェ……」
 視線を背け、ヴァシリッサはばつが悪そうに嘆息する。……ついさっき会って話した時の彼女は、こんな卑屈な態度を取るような娘ではなかった筈なのだ。底抜けに明るく楽観的で、根拠のない自信に溢れているようにすら見えた。
 あれは『忘却の呪い』によって保たれていた虚像で、今の彼女こそが本当の彼女。
 そう考えると――はたして、どちらが幸福なのだろうか。

「しかし、なるほどな」
 ついつい物思いに沈んでしまうヴァシリッサに対して、ヘクターの捉え方はいくらか軽いものだった。十秒で記憶を忘れる真相と、ミオの豹変ぶりに驚きはしたものの――あれこれと深い事情を推し量ろうとは思わない。呪いは呪い、解けたなら解けた。気兼ねなく率直な疑問を口にする。
「というか、よくそんな状態で独り暮らしなんて始めようと思ったな」
「……ミオ……お友達いなかったから……」
「そういう問題か……?」
 一緒に暮らす相手が居なければ、そりゃ独りで生きる以外の選択肢はないのだろうが。……頼るアテすらないのに、文字通り全てを捨てて人生をやり直そうとするなんて。相当なやけっぱちである。
 まあ、そうするに至った過去を詮索しても意味はない。
「……今は、魔女の手も借りたいほどの危機が迫ってるわけだ」
 少なくとも。そんな状態で七年も生き延びてきたような手合いが――この程度の戦闘で死ぬなんてことはないだろう。作戦次第では十分な戦力になりうる。そうでなければ、同行を受け入れてはいない。
『――――』
 分岐した坑道の奥から、魔物たちの金切り声が近付いてくる。
「今更、帰るだなんて言わないよな?」
「はっ……はい! ミオに、何かできることがあればっ」
「よし、なるべく後ろに居ろよ」
 ミオの肩を軽く叩いて、前に出る。フック付きワイヤーに微量の魔力を纏わせて――狙撃準備。
 すかさず射出。
 暗闇から姿を現した最初の一匹を即座に捕らえる。もがく動きを利用して更にワイヤーを絡ませ、固定。
 ……普段は投擲した武器の回収に使う道具だが、工夫次第ではそのまま武器にすることもできる。森と狩りの女神《ミエリッキ》に倣った戦法、その応用だ。
 続いて押し寄せるコウモリの大群に、横薙ぎの一撃を喰らわせる。
「これだけ数が多けりゃ――狙う必要もないな」
 捕らえたコウモリの鉤爪を刃に見立て、翼を切り裂き、風圧で敵全体を押し返す。攻守一体の運用はさながらワイヤードランスだ。――これなら周囲の脆い地形を刺激せず、最低限の動きで戦線を維持できる。
「じゃ、アタシも加勢するよ」
 ヴァシリッサもまた己の武器を構える。右手に『Sköll』、左手に『Neuntöte』の二丁構え、力任せの殲滅スタイルだ。
「火気厳禁、でもコッチの『火器』はセーフだろ?」
 魔法だか呪文だかより、黒色火薬の持つ暴力性のほうが余程信頼できる――それが彼女の性分だ。ワイヤーに当てないように隙を縫いつつ片端から撃つ。仲間の死体に集って共食いをする連中は、特に念入りに穴を開けていく。
 坑道の広場は、見る間に戦場と化した。

「私に出来る事……、とにかく、援護を!」
 本格的に戦闘が始まったので、ユウは後衛の位置につく。攻撃魔法は不得手なのだ。正確に言えば不得手ではなく不可能なのだが、彼女はその違いを深く気にしていない。周囲を見渡し、まずは自分とミオの身の安全を確認する。
 剣戟と銃撃、その音の洪水の中で――はらり、と、洞窟の天井から小石が落ちてきた。
「こ、坑道、やっぱり崩れちゃうかもっ」
「ミオさん、大丈夫」
 ユウが結術の杖を高く掲げると、その輪郭が解けて消える。
 そこに代わりに現れたのは――『忘却の精霊』の渦巻く気配だ。杖という形など喪われた過去の似姿に過ぎない。彼女の用いる結術の要は、ユウ・シャーロッドの身体そのもの。
「――レテさん、お願いしますっ!」
 結術混成、忘却の精霊術、『復元《リストア》』。
 この世界から『現在』の状態を忘却させ、直接『過去』と結び付け、時間軸に生じた欠落を強引に埋める。あらゆる変化を無かったことにしてしまう、ユウとレテの力を合わせた大魔術。
 その結果として――落ちた小石が、元の位置へと戻る。
「……これだけ……?」
「ええと……これ目立たないんですけど! つまりですね、もし地形が崩れても、私がすぐに元の状態に戻しますよっ」
「そりゃ助かる」
「もっと暴れていいッて事だね!?」
 ユウの後方支援に応え、前衛二名も攻めに転じた。ヘクターは坑道の奥までワイヤーを展開し、ヴァシリッサは飛び回る個体に銃口を向ける。
 ……無論、蝙蝠たちもやられっぱなしで事を済まそうとはしない。攻撃が止まないならば数で勝負と言わんばかりに、ワイヤーと銃弾を掻い潜り、冒険者たちに牙を剥こうと捨て身で襲いかかってくる。
「じゃあ私も、――ちょっとだけ派手に行きますよ!」
 落ち着いて、集中。洞窟の構造、敵、味方、全ての動きを把握して――『復元』。即席の土壁がところどころに出現し、蝙蝠たちの突撃を弾く。
 理屈は単純だ。坑道は人の手によって掘られたもの。つまり大昔は土と石で埋め尽くされていた訳だから――空間の一部を切り取り、百年以上を遡り、『過去』と結んでやればそこに壁が出現する。
 万物の流転を無限に辿れば、事実上、あらゆる物体を思い通りに操作することすらも可能……とは、言っても。
「っと、ええと……!」
 ユウとレテの二人がかりでも、思考速度には限界がある。盾を作って味方を守り、崩れる足場をその都度修繕するだけでも、実のところかなりいっぱいいっぱいであった。
「……という事でっ! お友達のミオさん!」
「お、お友達?」
「覚えてないかもですが――お友達です!」
 一冊の手帳を囲んで過ごした時間は、十秒で消えてしまったかもしれないけれど。ユウにとっては、お友達だ。
 ミオは今、不安そうな顔をしているかもしれない。それを振り返って確かめている余裕はない。代わりに、しっかり手を繋ぐ。
「何か、気付いたことはありますか? 崩れそうな所とか、攻撃を効率よく防ぐ位置とか……なんでもいいので!」
 記憶が有っても無くても関係ない。交換日記の中で感じた、『本当の彼女』を――信じて、頼る。
「な、なんでもって言われて……、も、」
 戸惑うような細い声が、息を呑む音に変わって。手指が強く握り返されて。
「上っ!」
「上ですね!?」
 言われるままに洞窟の天井を見上げると、戦闘から逃れた一匹の蝙蝠が居る。単なる撃ち漏らしにしてはどうにも様子がおかしい。
 ……腹に抱えた一際大きい宝石が、強い光を放っている。ミオの浮かべた光球の傍に隠れて、密かに魔力を溜めているのだ。
 あれを一気に解放されてしまったら、魔力酔いだけでは済まないかもしれない――そこからのユウの判断は一瞬だった。
 火には水、炎には氷。
 洞窟内に存在する水分を、かつて氷であった過去へと『復元』する。樹氷のように張り巡らされた氷の壁が、火属性の魔力を封じ込めていく。
「今のは危なかったです……。さすがミオさん!」
「えっ、そんな、……えへへ……?」
 ほんの少しだけ後ろを振り返ると、ミオも肩の力を抜いて嬉しそうに笑っている。……彼女の自信も、ちょっとは元に戻せただろうか。

 ……先程の個体が群れのリーダーであったらしい。蝙蝠たちは次第に統率を失い、数を減らしていく。そのこと自体は喜ばしいのだが。
「Shit――的が定まんないね」
 大群を相手取るのと、残敵を掃討するのとでは別の難しさがある。まばらに飛び回る蝙蝠はどうにも狙いづらく、大振りな攻撃も当たらなくなってしまう。
「なァ嬢ちゃん、ちょいと風とか起こせないかい?」
「風……、だね! やってみる……!」
 一度調子を取り戻せば、ミオもまた腕利きの魔女。ヴァシリッサの一言だけでその意図を理解した。蝙蝠たちに杖代わりの人差し指を突きつけて、深呼吸。
「――『我は白紙の魔女』――『熱より出て波と為し』――『昇れ』!」
 洞窟内に巻き起こった旋風が、蝙蝠たちを一箇所に纏めて壁に叩きつける。……倒すことまではできないが、猟兵の援護としてはそれで十分。
「アリガトね、……さあ、穿け、叛逆の矢」
 火力、入射角、全てを計算し尽くした取って置きの一射が――蝙蝠たちの足下、積み上げられた火薬の袋を貫いて。

 ――KABOOM!

「崩れないのに越したことはないって言ったろが!」
「いやだって、トドメくらいは派手にさァ」
 結果として広場は大爆発に包まれたのであった。なんとなくこうなるような気はしてました。
 一応、ヴァシリッサとて考えなしに弾幕をブチかました訳ではない。ユウの『復元』によって最低限の安全は確保されているのだし、洞窟内の敵を一掃するまたとない好機ではあった。てへぺろ、みたいな顔をしているように見えるのはきっと気のせいである。
「山ごと崩落したり……しない?」
「大丈夫です、爆発より――いえ、坑道が老朽化するより前の状態に戻しておきますね。これで、しばらく保つはずです」
 環境保全担当が大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろう。今回何かと保護者役を任されがちなヘクターも、大きな溜息をひとつだけ吐いて、さっさと気分を切り替える。
「鉱山で澪とされていた炎の魔石が、魔物や災害を呼び寄せるとはな……」
 退屈な昔話が未来の災害のヒントになるなんて、繰り返す歴史の一端を垣間見たようでなかなか面白い。こんな発見があるのも、冒険者稼業の醍醐味というもの。
「よくある話だが、こうして本当にその場面に立てると――」
 ぱらり、と鼻先に落ちてくる小石を見て。
「――ロクでもねぇな」
 面白い話というのは他人事だから面白いのである。自分たち猟兵は元の暮らしに戻ればいいが、――ミオは、これからどうするのだろう。
「住む場所、変えたほうがいいんじゃないか? 今日は爆発……爆発はしたが、明日は崩れるかもしれねぇしな」
「うぅん……。麓の町には、鉱山や魔法のことわかる人いないでしょ? 影響が落ち着くまでは、ミオが様子を見たいかな……」
「真面目だな……。ま、森ん中うろつくのは止めた方がいいと思うぞ」
 町の人々も、説明すれば事情を理解してくれるだろう。……多少第一印象に問題はあったかもしれないが、今のミオなら村八分にされるようなことはあるまい。
「で、その後どーすンだい?」
 鉱山の魔物を片付けて、大災害の危機を退けたその後の――本質的な問題を、ヴァシリッサは訊かずにはいられない。
「ずっと一人で居る気かい?」
「それ、は……」
 口ごもって、俯いて。
「故郷にも、帰っていいのかわかんないし……」
「別にいいんじゃないか? 帰らなくても、一人でも」
 女性陣の湿った空気に首を傾げて、ヘクターはあっけらかんと言い放つ。無責任、という訳ではなく。むしろ確信のある顔で。
「アンタくらいの腕だったら、十分冒険者としてやって行けるぜ」
「そ、そう……かな?」
「仕事はその都度請ければいいし、同じ仲間と毎回つるむ必要もない。……俺たちだってそんなもんだ」
 フォーミュラ無きアックス&ウィザーズの世界は基本的には平和だが、倒すべき魔物も、解決すべき問題も山積みだ。オブリビオンの残党さえ絡まなければ、それは一般の冒険者たちの仕事。魔女を必要としてくれる場所は、探せばいくらでもある。
「それに! ミオさんは、もう一人じゃないです」
 坑道の『復元』を一通り終えたユウが、ミオの元へと駆け寄って――今度はしっかり目と目を合わせて、両手で両手を包んで繋ぐ。
「ユウ、ちゃん」
「あ、覚えてくれたんですね。……ミオさんがこの先どうするのか、まだ、わからないですけど」
 忘れてしまうのだとしたら、また十秒交換日記をすればいい。もしも覚えてくれているなら、文通くらいは出来るだろうし。
「まずは……ミオさんが頑張ってくれた、今回の事件」
 せっかく、お友達になれたんだから。
「一緒に、最後まで見届けましょう!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マジョリカ・フォーマルハウト
ほうほうほう
政略結婚…暗殺教団…其のような人界の闇
深海育ちの清き乙女にはさっぱり分からぬなあ
後程詳しく聞かせよ

その手の文字も多少は役立ったな
『冒険者を頼れ』
貴様に刻んだこの契約が有効性を維持する限り
我が流星の弾幕は脅威を排除し続けようぞ

敵を追尾する誘導弾を放ち
余計な箇所へ触れぬように
ミオはそうじゃな…
精神を安定させる薬でも飲んでおれ
こやつに支払い能力があるとは思えぬ
代わりに魔石をいただくが構わぬな

しめしめ…良い依頼であった
それで貴様記憶はどうするのだ?
ゆっくり考えて結論を出し
その間診療報酬を払い続けるがよい
くくく…

まあ時々は様子を見に来てやるから
自由にせよという事だ
患者の意思が第一であるからな


ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

あーっ!戻ってる!?
「ミオ、婚約者のボクのこと忘れちゃったの…?」とか
「お姉ちゃん、どうしていなくなっちゃったの…?」とか
「ママ、どうしてボクと妹を捨てたの!?」とか
10秒ごとにやろうと思ってたのに―!

嫌なら嫌でさーもーどっかーんっ!ってやっちゃえばいいのにー
人生の、短い灼熱の一瞬を呆けてすごすなんて、そんなもったいない!
あと君のお姉ちゃん可愛かったから会いにいくときは手伝ってあげるよ!
10秒ごとに会う男の人みんなに求婚するよりいいと思うけどなー

●駆除
UC使ってすり抜けモードの餓鬼球くんたちに任せよう
ニオイは覚えた?キミたち鼻はないけど!
じゃ~綺麗に食べちゃってね~!




 ミオは子供ではあったけれど、世の中のことは大体理解していた。
 両親が魔力の量だけを見て自分を売ったことも、それを買った貴族が自分の才能しか必要としていないことも。ちやほやと誉めそやしてくる連中が陰で笑っていることも。十歳にも満たない少女に押し寄せてくる求婚が、何を目的としているのかも。
 それでもミオは生まれつき強くて賢かったので、その場その場は別にどうとでもなった。気に食わない大人たちの企みを叩き潰したことも一度や二度ではない。そんなことを延々と繰り返しているうちに、なんだか疲れてしまったのだ。もう嫌になってしまったのだ。
 どうせなら、全部めちゃくちゃにしてしまおう。
 そんな衝動を実行に移してしまうくらいには――ミオは、子供だったのである。


 そういう訳で、『白紙の魔女』ミオソティス・シルヴァティカは実のところ途方に暮れていた。
 言ってしまえば、目が覚めた途端よくわからない森に放り出されて、おまけに七年経っていたという状況である。記憶は混乱しているし、身体なんてすっかり大人になってしまっている。どうしろと。
「ミオ!」
 たった今抱き付いてきた子供が何者なのかもよく分からない。眼帯が印象的な、十歳くらいの男の子だ。感覚的には同い年だが、こちらの背が伸びているのでちょうど胸に顔が埋まるくらいの身長差がある。
「いや……どこの……どなた?」
 見覚えがあるような気がしなくもないが、どうしてそんなに堂々と女の子の胸に顔を埋めているのか。おろおろと戸惑うミオに対して、少年は上目遣いで訴える。
「ミオ、婚約者のボクのこと忘れちゃったの……?」
「ふぇ……ッ!?」
 流石にそれを忘れているとしたら失礼かもしれない。慌てて記憶をひっくり返してみるものの、夕焼け空にサメが飛んでいる光景くらいしか浮かんでこなかった。なんだこの記憶。
「婚約者って……何番目の!? ミオ年下の子はちょっと……。あっ、あの、ミオと婚約決まった人ってすぐ暗殺されちゃうから、気をつけた方が、いいよ……」
「…………?」
 しどろもどろに何とか返した言葉を受けて、金色の大きな右眼がぱちくり瞬いて。
「あーっ! もしかして戻ってる!?」
 暇を持て余したロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)の遊びは、どうやらここまでのようだった。

 東の空が、うっすら白み始めている。
 夜明け前にもなれば坑道内部の探索はあらかた終わっており、エレメンタル・バットとの戦いも残党の殲滅を残すのみ。
 ミオを含めた冒険者たちの間には、早くも一仕事済ませた雰囲気が漂っていた。洞窟の入口近くに陣取って、休憩を取っていたところである。
「うわーん! 『お姉ちゃん、どうしていなくなっちゃったの……?』とか、『ママ、どうしてボクと妹を捨てたの!?』とか、十秒ごとにやろうと思ってたのにー!」
「ミ、ミオ、まだママって歳じゃないもん……! たぶん……!」
 なんて、微笑ましい戯れ合いをする余裕すら生まれていた。当人たちは割と真剣そうだが。
「子供同士の喧嘩でも、会話になっておるだけ上出来じゃな」
 そんなミオの様子を見つつ、マジョリカ・フォーマルハウト(みなみのくにの・f29300)は悠々と無味の緑茶を啜る。
 ミオよりずっと幼い少女の姿をしている『南の魔女』は、こう見えてそれなりの老体だ。足場の悪い洞窟に分け入るつもりなどさらさらなく、こうして焚火の傍らで助言役を決め込んでいるのだった。
 事ここに至るまでの経緯も、ほかの猟兵たちから断片的に聞き及んでいる。
「しかし、政略結婚……暗殺教団……果ては帝竜の従妹の復活か。其のような人界の闇――」
 唇を湯飲みから離し、ふう、と小さな息を吐いて。
「深海育ちの清き乙女にはさっぱり分からぬなあ。やはり大金が動くのか?」
 ずずいとミオに迫るマジョリカの瞳には、乙女らしいとも言えなくもない好奇心のきらめきがある。
 物心ついた時から六十余年、たった一人で晴耕雨読の日々を送ってきた彼女にとって――波瀾万丈の人生というものは、三文小説の中の出来事なのだ。
「教団というからには宗教絡みかのう」
「まったくとんでもない神様だね!」
「いやっそこは……ちょっとセンシティブな話題かなって……!」
「ほうほうほう――」
 なんとなく気圧され気味のミオの両肩に、マジョリカはその両手を置いて、もう少し顔を近付けて。
「――まあ、後程詳しく聞かせよ」
 ひょいと引き寄せてやると、ミオの背があった空間を蝙蝠の爪が掠めて行った。コアとなる魔石を持たない痩せた個体だ。……残り少ない生き残りが、洞窟の中から逃げて来たらしい。
 それでもロニは膝に頬杖をついたまま動こうとしないし、マジョリカも仰々しく呪文を唱えたりはしない。勝敗は、既に決している。
 夜空で翼を翻し、再び牙を剥こうとした蝙蝠を――一筋の流星が貫いた。

 続いて洞窟から現れた数匹も、木々の間に潜んでいた数匹も、降り注ぐ流星の弾幕に次々と撃ち落とされていく。
「ひゃ……!」
「その手の文字も、多少は役立ったな」
 ――『冒険者を頼れ』。
 肉体に直接刻んだ契約は、単純ゆえに強力だ。もとめよ、さらば、与えてくれよう。ミオがマジョリカを頼るべき存在と見倣している限り、必要とされている限り、星《ラサルハグェ》の加護は彼女に迫る脅威を排除し続ける。
「どうせ魔石持ちの本体が隠れとるじゃろ。探れ」
 白く細い指が洞窟を指さすと、流星は軌道を変えて魔女の言葉に従った。坑道を崩さず、価値ある品を傷付けず、敵の命のみを狙う誘導弾と化して、暗闇の奥へ消えて。
『――――』
 そのうちに、甲高い断末魔が聴こえてきた。

「しめしめ……良い依頼であった。これさえ手に入ればオンボロ鉱山に用はない」
 至極満足そうに魔石を回収するマジョリカの傍らで、ミオは心配そうに洞窟を覗き込む。
「魔物、ちゃんと全部倒せたのかな……」
「これ以上は虱潰しになるからのう。あれよ、悪魔の証明というやつよの」
「あ、だったらこの残ってるやつもらっていい?」
 剥ぎ捨てられた蝙蝠の死骸を拾い上げ、ロニは神様の影から浮遊球体群を召喚する。黒曜石の質感と不揃いな歯列を有した貪食細胞――通称『餓鬼球くん』たちだ。
『――――』
「この肉だけね、土とか石は食べちゃダメ。ニオイは覚えた?」
『――――』
「ま、キミたち鼻はないけど! じゃ〜後は任せた、綺麗に食べちゃってね〜!」
 神罰《ゴッドパニッシュメント》の権能を与えられた球体は、指定された物体以外をすり抜ける性質を持つ。……彼らが鉱山の中を自由に動き回れば、魔物とて流石に逃げ場はないだろう。
 ――『くらやみの森』に大量発生した『エレメンタル・バット』の討伐は、これにて無事に完了した。

「ほ、本当に終わり、なんだ……」
 ……依頼が果たされたと言っても、ミオの表情は晴れない。むしろ翳りが増したようでもある。目の前の問題が片付いてしまったら、その次を考えなくてはならない。
「どう考えても支払い能力があるとは思えぬ……、代わりに魔石を頂くが構わぬな」
「……それは、もちろん。この土地には過ぎた代物だから」
「しめしめ……良い依頼であった」
 依頼につきものの報酬は、ひとまずそれでいいとして。
「それで貴様――記憶はどうするのだ?」
 うっ、と言葉に詰まって、ミオは己の手元に視線を落とす。――『私の記憶は十秒で消える』と書かれた文字が、今もきらきらと輝いている。

 一度は『忘却の呪い』を忘れた身だが、それを掛け直すための呪文は思い出させてもらった。望めば今すぐにでも、ミオは『白紙』に戻ることができる。
 けれど、まずは町の人々に届ける荷物や言伝がある。魔石の鉱脈がもたらす災害、環境が変化した森について、対応策を考える必要もあるだろう。
 この町での役目が終わったら、冒険者として旅に出たっていい。それだけの実力はあると太鼓判だって捺されている。
 いくつかの道は示されていて、あとは本人の意思次第だ。

「それよりさ、仕返しとかしないの?」
「し、仕返し?」
「学術都市とか、いじわるなお姉ちゃんとかにさ! やられっぱなしじゃいられなくない?」
 ただでさえ迷っているミオに、ロニは容赦なく選択肢を追加してくる。悪く言えば短絡的で、善く言えば真っ直ぐな、お子様らしい発想だ。
「……確かに、嫌な思い出ばっかりの場所だけど……」
「嫌なら嫌でさー、もー、どっかーんっ! ってやっちゃえばいいのにー。爆発させるの得意なんでしょ?」
「……それ、は……」
 ミオだって――何もかも壊してやりたいと思わなかった訳ではない。最終的に、自分のほうが姿を消すことを選んだというだけだ。心当たりがあるからこそ、暴力的な提案にたじろいでしまう。
「自分で自分を呪うなんてナンセンスだよ。ミオの人生はミオのものでしょ? その短い灼熱の一瞬を呆けて過ごすなんて、そんなもったいない!」
 十二歳からの七年間、本来であれば女の子が最も輝く青春のひとときだ。本当にもったいない。まあロニとしては二十過ぎから出てくる魅力だってあるとは思う。そうだ、そういえば。
「あと、君のお姉ちゃん可愛かったからね。会いにいくときは手伝ってあげるよ!」
「アレが……?」
 古今東西、女という生物は同性の身内に辛辣である。
 あくまで気ままなロニの態度に、ミオの力も抜けたのだろう。険しく寄せられていた眉根が、ふにゃっと崩れて、――吹き出すように、笑う。
「……ふふ、ふ……どっかーんはどうかと思うけど、キミと一緒なら楽しそうだなあ」
「そうそう! 里帰り復讐デートしよーよ! 十秒ごとに会う男の人みんなに求婚するよりずーっといいと思うけどなー」
「えっ!? ミオそんなことしてた!?」
「イケメン相手だと明らかにテンションと口調が違った」
「えぇ――!?」
 なんて、騒いでいるうちに。
 ――いつの間にやら地平線から昇った太陽が、冒険者たちを照らしていた。

「あ、なんか……色々思い出してきた……」
 朝が来て、長い夢が醒めた心地になって、ミオは寝起きの子供のように麻袋を抱えて突っ伏した。十秒ごとに切り刻まれた七年分の記憶は完全に支離滅裂だが、とりあえず自分が奇行を繰り返していたことだけはうっすら分かってきたらしい。
「……恥ずかしすぎる……」
「あー、まあ、そうじゃな……」
 全てのミオの意思次第とは言っても、その意思が整うまでは時間が必要だろう。このまま放っておくと一時の感情で『忘却の呪い』を唱えかねない。それでは元も子もないので、マジョリカは飲んでいた茶に海蛍の雫を一粒落とす。
「精神を安定させる薬じゃ。ひとまずこれでも飲んでおれ」
「うぅ……」
 渡された湯飲みをおずおずと啜るミオに向かって、にやりと笑いかけてやる。
「幾月でも、幾年でも。ゆっくり考えて結論を出し――その間、診療報酬を払い続けるがよい」
「有料!?」
「くくく、十割負担でな……」
 ――つまり。時々は様子を見に来てやるから、自由にせよという意味だ。払う金を用意する過程で自ずと人生に向き合う機会も得るであろう。
 治療は患者の意思が第一、ここから先の主人公は彼女自身であるべきだ。
 ひとつの章が終わっても、三文小説は続くのだから。


 前略。

 十秒じゃない交換日記って、どこからどこまで書いたらいいのかわかんないね。
 とりあえずミオは元気だよ。
 鉱山の封印はなんとかなって、今は森にどんな影響が出ているのかを調べてるところ。採ってきた薬草を煮るとなんでか黒色火薬になるから、それをみんなに売ったりもして。
 あと、時々、酒場の仕事を手伝わせてもらったり、旅の冒険者さんに話を聞いたりもして。
 うん、なんとかやっていけてます。

 故郷に帰るかどうかはね、正直まだ悩んでるの。
 いい思い出もあんまりないし、立ち向かえる自信もないし。
 でも、今度嫌なことがあったら――忘れようとしちゃう前に、相談の手紙くらいは出そうかなって。
 矢文じゃなくて、ちゃんとしたやつね。

 冒険者のみんなは今頃どこにいるのかな?
 なんとなくだけど、ミオなんかには想像もつかないような冒険をしてるんだろうな。
 それじゃあまた、元気でね。

 ――『白紙の魔女』ミオソティス・シルヴァティカ

 P.S.
 もうすぐ二十歳になるんだけど、精神を安定させる薬はお酒と一緒に飲んでもいいのかな?
 よかったらサメの魔女さんに聞いておいてください。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年07月08日


挿絵イラスト