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妖精の誘い:銀鈴蘭の壺

#アックス&ウィザーズ #戦後 #妖精の誘い

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#戦後
#妖精の誘い


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 フェアリーランド。
 其れは、妖精の作る夢のような世界。
 主の想像を形とする素敵な世界。
 夢に溢れたものが形と成る、其れだけでも楽しいけれど。

 ――……折角なら、一緒に楽しんでくれるヒトが欲しいわ!

 お花に満ちた世界。
 ちょっぴり冒険気分を味わえる世界。
 ねぇ、そこのあなた。
 私の自慢の世界を見て下さらない?

 そう告げたフェアリーの差し出す手には、鈴蘭の彫刻が施された銀壺が煌めいていた。

 ●

 「皆々、先の大戦、お疲れ様じゃったなぁ」
 集う皆を労うように、髪の鈴蘭を揺らした少女が微笑んだ。
 「戦うばかりでない様々な戦場が在った一件ではあれど、ひと月、駆け続けた皆には休息も必要じゃろう?」
 とっておきのお話を、お持ちしたのよ?
 少しばかり悪戯めいた藤彩を弧にして、少女、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)は話を進めて往く。

 彼女が語るには、アックス&ウィザーズにて出逢ったフェアリーの一人から、お願い事を頼まれたのだそうだ。
 「彼女がユーベルコードで生み出した、フェアリーランド。ご自慢のその世界を楽しんでくれる人を募って欲しい、と依頼されたのじゃよ」
 フェアリーの女性……名を、フィーアと言うそうだ。
 彼女が旅先で手に入れた銀の壺、鈴蘭の刻印がされたその中に生み出したフェアリーランドで、誰かが遊んでくれること。其れが彼女の望み。ご自慢の世界を、自分以外の誰かに見て欲しい。そんな思いからの依頼だという。
 「妾の髪に咲く花と、壺に刻まれた花が同じでな、これも縁と其の依頼を此処へ持ち帰らせて頂いたの」

 フィーアの作る世界は、穏やかで花と水に満ちた世界だという。
 壺に触れ導かれし先、最初に降り立つ広き野には、季節を問わぬ色とりどりの花が咲き、其処から少し歩く先の大きな大きな湖には、葉にヒトが乗って渡れるような睡蓮も多く咲いている。その湖に流れ込む川の上流には、花が流れ落ち、水飛沫で虹のかかる滝も在るのだとか。
 そうして、中でもとっておきは、其の『睡蓮の湖』を超えた先に、月夜にだけ咲く花が群生するのだそう。
 「そのお花が何なのかは、『湖の向こうに辿り着いてからのお楽しみですわ』と、伏せられてしまったのじゃけれど……」
 何となく、予想は出来るなぁ、と。彼女は指先を口元に添えて、からころと笑う。
 「きっと、陽に煌く水辺も花々も、心身を癒してくれようし、月明かりの中咲く花や湖は、幻想的で美しい筈じゃよ」

 ――どうぞ、戦いの疲れを、日々の疲れを、彼女の世界で癒していらして。

 折角じゃから、妾もゆるりとさせて頂こうか。
 そう続けた少女は、君達を銀壺を持つフェアリーの元へと案内するのだった。


四ツ葉
 初めまして、またはこんにちは。四ツ葉(よつば)と申します。
 此の度は当オープニングをご覧頂き、有難うございます。
 未熟者ではございますが、今回も精一杯、皆様の冒険を彩るお手伝いが出来ましたら幸いです。

 それでは、以下説明となります。

 ●シナリオ概要
 A&Wにおける2章完結のシナリオです。
 ご自慢のフェアリーランドで、楽しく過ごしてきてあげて下さい。
 満喫するほど、フィーアも喜びます。

 ◎【NPC】フェアリーの女性、フィーア。
  金髪のウェーブヘアを持つ碧眼の女性です。20代前半。
  お花のドレスを好む、ふわふわ明るく社交的なお方。
  この日はクチナシを模したお衣裳のようです。
  皆さんの様子を楽しげに見ており、話しかけられたら応じます。

 ◎【プレイングボーナス】とにかく楽しむ!
  そのままです。
  とにかく、皆様のお心の儘に楽しんで、息抜きをなさっていって下さい。

 ★各章について。
 第1章:冒険『目的地まで泳ごう』
 此方の時間帯は日中です。
 温かな陽気で湖の水温も心地よく、泳いでも寒くありません。
 泳ぐ場合は、衣装の下に水着を着てきただとか、泳いでも平気な衣装という体で受けとらせて頂き、お着替え的な描写は致しません。
 また、『泳ごう』となってはおりますが、OPにもありますように、巨大睡蓮の咲く大きな湖を対岸まで渡って頂けるならば、手段は問いません。
 睡蓮の葉を橋代わりにぴょんぴょんしても良いですし、ボトルシップを含め舟を使用して頂いたり、空を飛んで越えて頂いても構いません。
 少しを遠回りして、上流の滝まで行けば滝の裏に歩行可能な一本道もございます。
 皆様、思い思いに、目的地たる対岸を目指して下さいませ。小さな冒険めいたプレイングをかけて頂いても、ピクニック気分でもお好みでどうぞ。

 フェアリーランド内と言う事もあり、危険な生物やモンスターの類は居りませんので戦闘行動は不要です。道中の警戒は……場所によっては、何か可愛らしい悪戯を施しているかもしれませんね?(そう言うプレイングをかけて頂いたら何かしらさせます)

 第2章:日常『闇に咲く花』
 此方の時間帯は夜となっております。
 月夜に咲く花(詳細は2章公開時に)の咲く湖畔で、満月の夜をお過ごしください。
 花や夜景を見て静かに過ごすもよし、この世界の主たる彼女から、お願いを聞いてくれたご褒美(おもてなし)を受けるもよし、思い思いに過ごして頂ければ幸いです。
 章冒頭文章にも出来そうなことは記載致しますし、それ以外でも、この世界や周囲の方々への害にならない事でしたら、自由になさって頂ければと思います。

 もしお声がけがあれば、日常章である2章のみ当シナリオ案内役のティルが顔を出しますが、あくまでメインは皆様方のお時間です。皆様のお時間に少し交ざる、くらいのイメージで関わらせて頂ければ、幸いです。(基本は景色を見てのんびりしてると思います)

 ●プレイングについて
 OP及び各章公開後に断章を追加し、MSページ及びタグにて、受付開始日をお知らせ致します。
 受付前に頂いたものは、お返しとなりますのでご注意ください。
 受付の〆についても、同様にご連絡差し上げますので、お手数をおかけいたしますが、プレイング送信前にご確認下さい。

 有難くも想定より多く目に留めて頂けた場合、採用出来ない方が生じる可能性もございます。
 今回は無理なくゆったり書かせて頂く予定ですので、各章15名を超えたり、ご参加人数の集中する日があると、お返しの方が出てくるかと思います。
 決して筆が早い方ではありませんので、全員描写の確約は出来ませんことを念頭に置いて、ご参加頂ければ幸いです。
 また、その場合は先着順ではなく、筆走る方から順に、執筆可能期間内で出来る限りの描写、となりますので、ご了承頂けますよう、お願い申し上げます。

 ●その他
 ・同行者がいる場合は【相手の名前(呼称可)とID(f○○○○○)】又は【グループ名】のご記入お願いします。キャパの関係上、今回は1グループ最大『2名様』まででお願い致します。また、記載無い場合ご一緒出来ない可能性があります。
 ・逆に、絶対に一人がいい。他人と組んでの描写は避けたい、と言う方は【絡み×】等分かるように記載して頂ければ、単独描写とさせて頂きます。記載ない場合は、組んだり組まなかったりです。
 ・グループ参加時は、返却日〆の日程が揃う様、AM8:31をボーダーに提出日を合わせて頂ければ大変助かります。

 では、此処まで確認有難うございました。
 皆様どうぞ、宜しくお願い致します。
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第1章 冒険 『目的地まで泳ごう』

POW   :    どんな困難も何のその、力強く泳いで向かう

SPD   :    舟を作ったり水の上を駆け抜けたり

WIZ   :    迂回路を調べる、特別な突破方を考える

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ●

 ふわりと、クチナシの花を思わす白いスカートを靡かせて、あなた達を迎えたのは、鮮やかな碧眼を尚いっそう煌かせたひとりのフェアリー。
 「あらあら、まぁ!私の世界で遊んで下さるのは、あなた方?お会い出来て嬉しいですわ」
 両手に持った銀壺を落とさぬ様に、両手でしっかり抱えつつ猟兵達に微笑む彼女は、その身を宙に浮かせたまま、ふわりと一礼してみせた。
 「初めまして、私、フィーアと申します。これから、皆様を私の世界にご案内させて頂きますわ。どうぞ、此方の銀壺に触れて下さいませ」

 ――大きな方もいらっしゃいましょう?指先だけでも構いませんわ。

 にっこりと微笑んだ彼女の銀壺に触れたなら、其処に刻まれた鈴蘭が煌めいて……瞬きの間に、あなた達は彼女のフェアリーランドへと誘われるだろう。
 地に足をつけたなら、先程、彼女との出逢いを果たした街の煉瓦道とは異なった、柔らかな草の感触。
 そよそよと吹き抜ける風は、草木と花の香りを連れてくる。
 少し耳を澄ませたなら、離れた所で流れる水の音も聞こえてくるかもしれない。

 「うふふ、こうして誰かをお招きできるなんて夢のようですわ。ようこそ、私の世界へ!」
 踊るようにくるりと宙に輪を描き、両手を広げたフィーアもまた、野に咲く花に負けぬ色で咲っている。
 今居る此処は、『百色の野』。季節を問わぬ様々な花々が隣に並んで咲いては揺れて、腰を下せば、寝転べば、心地よい柔らかさの草がその身を受け止めてくれるだろう。
 「気持ちのいい所でしょう?どうぞゆっくり、この世界を楽しんで下さいませね。そうそう、どこをとっても私の自慢なのですけれど、とっておきもお見せしたいんですの」
 ですから、夜にはあちらの湖の対岸へと、来て頂きたいのですわ。
 そうして、フィーアが指し示す向こうには、陽の光を受けて煌く湖が見えている。

 『睡蓮の湖』と彼女が呼んだ湖は、その名の通り大きな睡蓮が咲いていて、水面に浮くその葉はヒトが乗って渡れるサイズと強度があるという。
 肌で感じる気温は勿論、湖の水温も泳ぐに適していると云い、湖の此方側から対岸まではそこそこの距離はあるものの、葉で休憩を取り乍ら往けば泳ぎ切る事も苦ではない。
 湖の左半面には睡蓮の姿が無く、其方ならば小型の船などを使用して、右手に睡蓮を眺めながら渡る事も叶いそうだ。
 泳ぐ事や水上が苦手な人もいるかもしれない、それならば、湖の右手から流れ込む川を暫く遡れば、水飛沫を上げる滝が見えてくる、と彼女は言う。
 「滝の裏側には、ヒトの通れる道が御座いますわ」
 剥き出しの岩肌は少し洞窟めいてもいるけれど、滝裏を往く、それも心地よいと思いますの。そう添えて、手を打ち鳴らし語る彼女は実に楽しそうだ。何でも上流で咲く花も水に混ざり落ちてくる上、陽に照らされた水飛沫で、常に虹がかかっているという。

 ――……あゝ、そうそう!

 想い出したように告げる彼女は、悪戯めいた色をその眸に宿して。
 「フェアリーランドは夢の国。願いが形を成す世界。ですから、この世界では、外の世界で飛べない方も飛行の力が得られるようにしてあるんですの」
 だって、私、色んな方と一緒に飛んでみたいとも思っていますのよ。
 にこりと笑ったフィーアは、爪先をとん、とん、とん、と三回地に打ち付ける。其れが飛行能力付与のおまじないなのだそう。
 「どうぞ皆様、沢山遊んで行ってくださいな。そうして、きっと、きっと、月が顔出す頃までには、約束の場所にいらして下さいませね?」

 そう告げて、フィーアはあなた達を送り出した。
 自分の作り出した世界で、楽しい想い出を作ってくれることを願って。
旭・まどか
ミラ(f27844)と

眩い光に包まれ開いた先に広がるは百色の世界
見惚れるも束の間
隣から浮足立つ声音に合わせ
力強く手を引かれるものだから
嗚呼
短く応じつんのめらない様努めて駆け出す

そよ風揺れる水面に浮かぶ確りとした足場
その上に立った事が無い事も無いけれど
より魅力的なのは君の誘いの方だから
秘密の抜け道を見つけたみたいだね

滝裏は騒音もさることながら
地上より少しだけひやりとする
悲鳴に何事かと其方を向けば
今度は此方が声無く驚く番
嗚呼やられたよ
後で彼女にお詫びを要求しないとね

指の先
眼前に広がる七色に
此処にも百の色があるのか、と

さぁ、何だろう
行ってみてのお楽しみ
けれど屹度
もっと綺麗な世界が広がっていると思うよ


ミラ・ホワイト
まどかさま(f18469)と

目前に広がるは御伽噺の世界そのもの
弾む気持ちその儘に
白い指先を握っては引いて
行きましょ、まどかさま!

水に浮ぶ葉っぱの上をぴょんと飛ぶのも
すいすいお舟の旅路も惹かれますけれど
遠回りも楽しみのひとつと、湖を見下ろす場所へ
ちょっぴり冒険気分も味わえるでしょう?

ぴゃっ
ひんやり冷たい水の感覚は
妖精さんのいたずらかしら
あら、ふふー
まどかさまもいたずらされちゃいました?

さやさやと清らかな水に
連れて揺れ落ちる四季の花

――わぁ、見て見て!
指差す先、湖へと続く滝に
くっきり架かる七色の橋

あの橋の向こうには
どんな世界が広がっているのかしら
恒以上の期待に胸膨らむのは
きっと隣にあなたが居るから



 ●

 包み込むよな眩い光に瞼を伏せて、初めに感じたのは草木の香り。
 招きの光に、思わずきゅ、と閉じた瞼を緩やかに開いた、旭・まどか(MementoMori・f18469)の視界に広がるは、百色の世界。
 鮮やかな彩りに満ちたその景に、思わず吐息を零したまどかの隣、ミラ・ホワイト(幸福の跫音・f27844)もまた、その瞳を溢れんばかりに瞠いていた。
 なぜなら、その瞳に映るこの地の姿は、彼女の知る御伽噺の世界そのものだったのだから。
 四季混ざる花々の共演は、さながら、これから紡がれし物語を彩る、鮮やかな表紙。
 あゝ、この先に待つものは?続く頁の先を早く知りたくて。
 弾む気持ちその儘に、ミラはまどかの白い指先を握っては引いて。
 「行きましょ、まどかさま!」
 浮足立つ声音を帯びた、鈴鳴る彼女の言の葉が、逸る気持ちを表すよな、細い指先から伝わる、力強く手を引く感覚が、束の間景色に見惚れたまどかの意識を引き戻す。

 ――嗚呼。

 返す言葉は短くも、思わず零れた笑いを含む吐息と共に紡がれた、その声音と眦は柔らかい。
 早く早くと、ふたりで見るこの世界を楽しみに、彼の手を引くあどけないミラの爪先は軽やかに。
 応じる彼もまた、柔らかな草に、はたまた浮き立つ爪先につんのめらないように。
 駆け出す足音が重なった。

 そうして次に二人を出迎えるのは、フェアリーの女性が告げていた湖。
 温かな陽光を受けて漣は煌めき、睡蓮の葉と花は静かな風を受けてゆらゆらと揺れている。
 眼前に広がる景に、わぁ、と小さく感嘆零したミラは、両の手を胸の前で合わせて。
 「この湖を対岸まで行けば良いんだね」
 「はい!」
 そよ風揺れる水面に浮かぶ、確りとした足場。ヒトが乗れるほどの、大きな大きな蓮の葉。
 その上に立った事が無い事も無いけれど。
 そんな思案と共に、爪先で突いてみるまどかの隣、ミラもまた対岸へと渡る方法を考えていた。
 水に浮ぶ葉っぱの上をぴょんと飛ぶのも、すいすいお舟の旅路も惹かれてしまう。
 あゝけれど。
 彼と御伽噺の中をゆくのなら、遠回りも楽しみのひとつと、提案する先は、湖を見下ろす場所へ。

 ――ちょっぴり冒険気分も味わえるでしょう?

 紡ぎ笑うミラの表情は、湖面の光に負けず煌めいて。
 触れていた睡蓮の葉からその身を離し、まどかもまた彼女に頷く。
 その身に経験のある方法は、確実性もあるけれど、より魅力的なのは君の誘いの方だから。

 左手には水上の花を、右手には四季の花をと楽しみながら、二人は川縁をゆく。暫く流れに逆らい歩いたならば、流れ落ちる水音と共に大きな滝が見えてきた。
 離れた場所からでもその姿は雄大だったが、近づけばまたいっそう増すもので。頭上から落ちる水と花を、二人はしばし見上げたのち、其れに気付いたのはミラの方。
 そう、滝の裏に繋がる小道だ。
 「あっ、まどかさま!あそこっ」
 「嗚呼、秘密の抜け道を見つけたみたいだね」
 指差す彼女に頷き返す、まどかのそんな言葉もまた、冒険心を擽るものだ。
 地上より少し高いところをゆくその道へふたり、岩で出来た硬い道を上がってゆく。
 ぼこぼことはしているものの、もとより通行を想定して作られたその道は、存外歩きやすい。

 辿り着いた滝裏は騒音もさることながら、地上より少しだけひやりとする。
 そんな涼やかな感覚に浸っているまどかの耳へと唐突に、ぴゃっ!とミラの声が飛び込んできた。
 小さな悲鳴に何事かと其方を向けば、滝の方からぴゅっ!とその頬に張り付く冷たい感覚。

 ――……ッ!?

 声なき驚きと共に、頬に張り付いた其れへと手を伸ばしたなら、その指先に付いてきたのは四葉のクローバー。
 何事かと瞬くまどかに、同じく濡れた四葉を手にしたミラが、あら、ふふーと空いた手を頬に当てくすくすと笑っている。
 ひんやり冷たい、ちょっぴり驚き混じりの贈り物は、妖精さんのいたずらかしら。そんな思いも胸に抱き。
 「まどかさまも、いたずらされちゃいました?」
 「嗚呼、やられたよ。後で彼女に、お詫びを要求しないとね」
 零れ落ちる水音に混じり、楽しげな笑い声が混じっていたような気がして。ふたりは顔を見合わせて小さく笑った。

 そんな、小さな悪戯混じりの贈り物が飛び込んできた、滝をゆるりと眺めれば、さやさやと清らかな水に、連れて揺れ落ちる四季の花。
 そうして、そんな滝の切れ間を見たミラの声が一際弾んだ。
 「――わぁ、見て見て!」
 彼女のあえかな指の先、眼前に広がる七色にまどかもまた、息を呑む。
 「――此処にも百の色があるのか」
 そんなふたりの瞳に映るのは、滝が生み出しくっきり架かる七色の橋。
 まるでヒトが渡ってゆけそうな、大きな大きな虹の橋。
 「あの橋の向こうには、どんな世界が広がっているのかしら」
 どこかうっとりと夢見心地に紡ぐミラに、まどかも柔く口を開いて。
 「さぁ、何だろう。行ってみてのお楽しみ」

 ――けれど屹度、もっと綺麗な世界が広がっていると思うよ。

 まどかの言葉にミラの想像も期待も、ますます膨らんで、その木苺色の瞳は輝きを増す。
 そう、こうして恒以上の期待に胸膨らむのは、きっと隣にあなたが居るから。
 にっこりと、笑み合うふたりが滝を抜けた先。
 そこに広がる景色は、世界は、物語は。
 まだまだ、煌めく百色が詰まっている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【鏡飴】
朝顔の羽織に黒の水着

フェアリーランドへ行くのは初めてだなァ
良い景色だ

泳げるが俺は普通かねェ
…睡蓮(触って
知ってるぜ
創造主サマの故郷にも咲いてたから(”俺”(真の姿)の記憶の中で見た
カクリヨ戦争の塔で”俺”と創造主の宿敵に睡蓮を捧げたばかりなンだ

此処では無い遠く眺め
我に返る

しんみりさせちまって悪ィ
なァ、真っ直ぐゴールしたらつまらないよな(茶目っ気の笑顔
寄り道してこうぜ!

ティアの後を泳ぐ
水中の彼女は何時もより美麗で
水着も相俟って本物の人魚姫のよう

(目を離したら
泡となりて簡単に消えゆきそうな
…考えすぎか)

上流の滝へ
偶然かかる虹見て驚く

前髪へにょってるからあんま見ンな
俺も
ティアと見れて良かった


ティア・メル
【鏡飴】

人魚姫をモチーフにした、
ひらひら揺れる白いキャミワンピ風の
水着を身に纏って

クロウくんは泳ぐのは得意?
んふふ
ぼくはねー得意っ
こう見えてもセイレーンだからね

んに、冷たいね
睡蓮の花だっけ
こんなに綺麗なんだね
ぼく、初めて見たかも
クロウくんは見た事ある?

クロウくんの創造主さん
相槌打って
遠くへ行っちゃいそうな君の裾を引く
だいじょうぶ!
ふふふー寄り道しちゃおっか

水中は落ち着く
すいすい泳いで魅せて
クロウくん、クロウくん
こっちだよっ
手をぶんぶん振った

あう
水に滴るなんとやらだよ
濡れるクロウくんも格好良くて
ずっと見ていられない

小さな虹を見つけて視線を其方へ
えへへへークロウくんと見られて良かった



 ●

 柔く吹き抜ける風に、草花が揺れる。
 香りたつ緑と甘い花香は四季が混ざり合い、高い空を見上げれば、涼やかな青に白雲が泳いでいる。
 ここが、小さなフェアリーの抱えていた壺の中というのだから不思議な話ではあるけれど。
 「フェアリーランドへ来たのは初めてだなァ」
 良い景色だ、と。百色に彩られる野をくるりと見渡し言葉零したのは、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)。
 その隣で、彼の様子を見つめているのは、ティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)だ。

 湖を泳いで渡ることに決めた彼らは、其々に水着を纏っていた。
 「クロウくんは泳ぐのは得意?んふふ、ぼくはねー得意っ」
 こう見えてもセイレーンだからね。
 輝く湖面を眺めたのちに、彼を見上げながらに問い告げるティアの瞳は、陽の光を受けていたずらに煌めいていた。
 得意げに視線を移す折、彼女の纏った真白の水着は、さながら人魚の尾鰭のように揺らめいて、既に水中にいるかのような錯覚を運んでくる。
 「泳げるが俺は普通かねェ」
 ティアの言葉と視線を受けながら、小さな笑みを浮かべつつクロウの言葉が返ってきた。
 彼の装いはと言えば、シンプルな黒の水着に朝顔の羽織がよく映えている。
 どちらともなく、行こうか、と。湖へと足を踏み入れれば、きららかな光にふたりの白と黒はくっきりと浮かび上がるよう。
 そんな彼らを見上げるように、湖面に咲く白き花がさわわと揺れた。
 「んに、冷たいね」
 そんなティアの声を耳に拾いながら、クロウは揺れた花に手を伸ばす。

 ――……睡蓮。

 ぽつり、触れた指先から流れ込んだ何かが、裡を満たし溢れるように。
 そう呟いたクロウの言葉を、ティアは逃さない。
 「睡蓮の花だっけ。こんなに綺麗なんだね」
 彼の触れたその花へと近づいて。
 「ぼく、初めて見たかも。クロウくんは見た事ある?」
 「知ってるぜ。創造主サマの故郷にも咲いてたから」
 そう、それは。『俺』の記憶の中で『見た』景色。裡で小さく重ねながら、クロウは過日を思い起こす。
 「……クロウくんの創造主さん」
 「カクリヨ戦争の塔で、『俺』と創造主の宿敵に、睡蓮を捧げたばかりなンだ」
 彼の紡ぐ言の葉を、柔らかに繰り返し相槌をうつティアへと、クロウはその日を紡ぐ。
 かの大戦で花を捧げた瞬間は、決して遠くない出来事ではあれど、意識を向ければつい先程のことのように蘇る。

 此処では無い遠くを眺めるクロウの姿が、まるでこのまま遠くへ行ってしまいそうで。
 ティアはそのあえかな指先で、クロウの裾を引く。
 そうして彼女の指先は、クロウの意識を引き戻し、我に帰った彼は、ティアの姿を己の瞳へとしかと映して。
 「しんみりさせちまって悪ィ」
 「だいじょうぶ!」
 そう告げるティアの笑顔は、湖面のように煌めいて、湖を満たす水のよに、身を包む響きをも持っていた。
 そんな彼女の言葉を受けて、返すクロウの表情もまた茶目っ気を帯びた笑みへと変わり。
 「なァ、真っ直ぐゴールしたらつまらないよな」
 「ふふふー、寄り道しちゃおっか」
 笑い合ったふたりは岸辺に別れを告げて。
 すいと柔く水を蹴ったなら、その身を透明な中へと沈めてゆく。

 軽やかに、まるで湖水と溶けゆくように先を泳ぐのはティアの方。
 ゆらゆらと、その白き布を揺らめかせ、心地よい水の感覚を楽しんでゆく。
 あゝ水中は落ち着く、と。静かにもたげた瞳に映るのは、輝く陽光が水中に射し込み作る光のカーテン。
 その輝く布を時には避けて、時には纏うよに、すいすいと滑らかに泳いで魅せて。
 ティアの後ろを泳ぐクロウは、彼女のそんな姿を見つめながら追ってゆく。
 水中の彼女は何時もより美麗で、水着も相俟って本物の人魚姫のようだ。
 そう、それは。

 ――目を離したら、泡となりて簡単に消えゆきそうな。

 ふと過ぎるそんな感覚に、クロウが目を細めたその直後。
 ティアはすい、とその身を半分水上へと露わにして。
 「クロウくん、クロウくん、こっちだよっ」
 明るい声音で、ぶんぶん手を振りクロウを呼んだ。
 追って水上に顔を出したクロウに届く、鼓膜を揺らす確かな声も、明るい笑顔も。今確かに彼女が此処にいるという証。
 「――……考えすぎか」
 「んにー?何か言った?」
 「何でもねェ」
 聞き取れぬ呟きを問うティアへ笑って返し、濡れて滴る髪を片手でかき上げる。
 陽の光を受けた雫が、艶と黒髪や彼の肌を煌めかせ、そんな姿に見惚れるように、ひとときティアは視線を奪われて。
 「……あう。水に滴るなんとやらだよ」
 「……前髪へにょってるから、あんま見ンな」
 ティアから溢れた言葉にクロウも返すが、その言葉を受けずとも、そっとティアの視線は逸れる。

 ――濡れるクロウくんも格好良くて、ずっと見ていられない。

 言葉にならない思いをそっと逃がすよに、近くの睡蓮の葉へと一度身を預け、逸らした視線を斜めへ持ち上げたなら。
 少し離れた滝から生まれる小さな虹を視界に捉えて。
 「クロウくん、みてみてっ」
 細い指先の指し示す向こう、上流の滝にかかる七色の橋をクロウもまたみとめたなら、思わず感嘆の吐息を漏らして。
 少し遠くに見える七色は、手を翳せば其処に収まってしまうほどで。それが何だか、宝物のようにも思えたから。
 「えへへへー、クロウくんと見られて良かった」
 「俺も、ティアと見れて良かった」

 同じ緑の葉に手を預け、眺め見た七色の橋。
 きっときっとその先は、この湖面のように煌めく思い出となる未来。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

かれと手を繋いで上流の滝へ
滝の裏など、普段は目にすることも、ましてや歩けることもないですからね

散る水しぶきのきららかさ
世界を映して輝く湖
そしてそれに浮かぶ青々とした睡蓮の葉をまぶしそうに眺めつつ

かれに手を引いてもらい滝の裏へと差し掛かったなら
まじまじと滝の向こうの光景を見るかれの横顔を眺めましょう

滝の裏からの眺めもすばらしく、とても感動いたしますが
なにより、楽しそうなかれの面差しを眺めていると、幸福感が胸の内に満ちてゆきます

かれが振り向いたなら、微笑みを向けつつかれの言葉に頷いて
ええ、ザッフィーロ
これからも、こうして二人で世界の美しい景色をたくさん見てゆきましょう


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

宵と手を繋ぎ上流の滝を目指す
滝の裏…か
初めて入るが、どのような物なのだろうな
そう首を傾がせながらも、きらきらと陽の光を浴び煌めく湖やら
睡蓮の葉の鮮やかさやらを隣を歩く宵と楽しもう
本当に美しい場所だな、ここは

滝の裏側に入る時は宵の手を握り直しつつ安全を確かめるよう先に足を踏み出さんと試みる…も
流れ落ちる滝の迫力と、その隙間から見える美しい景色が視界に飛び込んで来れば思わず見入ってしまうやもしれん
…斯様な景色もあるのだな。本当に美しい
そうおもわず呟きながらも、ふと宵の視線に気づけば照れ臭げに瞳を細めながら宵へ笑みを返してみよう
これでまた、共に見た美しい景色が増えたな



 ●

 百色の花に満ちた野原。
 四季の花々が咲き誇り、甘やかな香りに満ちた其処から、フェアリーに送り出された面々が先ず向かう先は、指し示された湖の傍。
 きららかな漣が湖面を飾り、睡蓮の白と葉の緑が彩を添える大きな大きな美しき湖。
 其処を対岸へ向かう方法は委ねられているが故に、どの道を選ぶかにも、集う者たちの個性が生まれるもの。
 手を繋ぎ、煌めく湖面を見つめる此方のふたりは、どうやら滝の道を選んだようであった。

 「滝の裏……か。初めて入るが、どのような物なのだろうな」
 そう首を傾がせながらも、きらきらと陽の光を浴び煌めく湖へと視線を向けたのは、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)。
 「滝の裏など、普段は目にすることも、ましてや歩けることもないですからね」
 繋いだ手の先、彼へと柔らかにそう告げるのは、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)。
 湖の対岸へと渡る術を、滝の道と決めたとはいえ、其処へ至る道中も味わわねば勿体無い。
 今はまだ先の方に見える滝も、此の距離だからこそ流れ落ちる水と花、そして水飛沫のきららかさが視界のうちひとつに収まるものだし、その視線を左へ向けたなら、この彩に満ちた世界を映して輝く湖が、すぐ側にある。
 そうしてその湖面には、青々とした睡蓮の葉が、まるで対岸との架け橋となるように密と揺れている。
 既に湖を渡り始めた猟兵たちの姿も見て取れたなら、泳ぐ姿や跳ねゆく姿もまた、この生きた美しい世界に溶け込むだろう。
 夢のような此の世界にも、生は溢れている。
 そんな美しい景を受け、まぶしそうに目を細めた宵と共に、ザッフィーロもまた、湖面に揺れる睡蓮の花の鮮やかさを楽しまんとしていた。
 大切な人と共に見るからこそ、同じ景色を共有し、美しいと感じられるひとときが、愛おしくもあるものだ。

 ――……本当に美しい場所だな、ここは。

 素直に溢れたザッフィーロの言の葉に、宵はその眦を柔らかに緩めて、ええ、と頷いた。
 宵とゆく道を先導するように、一歩先をゆくザッフィーロが引くその手の感覚が、常の如くにあたたかい。
 穏やかな道行に、宵の心もまた満たされてゆくようで。ざあざあと滝の音が間近に大きく響くようになるのもあっという間だった。

 滝に辿り着けば、その裏に続く道を見つけるのは存外容易い。
 今まで歩いてきた地よりも、少し高い位置にある滝裏の通路は、見た目にはぼこぼことした岩路で。
 ザッフィーロは宵の手を握り直し、安全を確保するように慎重に進みゆく。
 己の手を強く握る、そんな彼の手を、彼自身を頼もしく思いながらも、宵の視線はザッフィーロの表情へと向けられていた。
 そうしてふたり、斜になった岩路から滝の真裏へと差し掛かったその時。
 一際大きくなった水音と、流れ落ちる滝の迫力。そうして、その隙間から見える、七色の橋を含んだ美しい景色がザッフィーロの視界に飛び込んで。
 思わずぴたりと足を止めて息を呑む。
 水飛沫にかかる七色、降る花を抱き流れる川、その先の湖は日を受けて煌めく中に、睡蓮が咲き揺れていて、彼らが降り立った百色の野原は、この地から眺めたならば、色鮮やかな絨毯のようにも見えた。

 ――……斯様な景色もあるのだな。

 本当に、美しい。そう続けた彼は、眼前に広がる景色に唯々見惚れているようだった。
 宵はと言えば、そんな景色に目を奪われるザッフィーロの横顔を眺めては、満足げな笑みを浮かべていた。
 宵もまた、滝の裏からの眺めもすばらしい、と。大きな感動を覚えてはいたのだが……あゝそれよりも。楽しそうな彼の面差しを眺めていることこそが。

 ――ああ、幸福感が胸の内に満ちてゆきます。

 そう、言の葉には乗せず、裡へ響かせて。
 己の幸せの在処を、ただただ、噛み締めるのだ。
 暫し眼前の景色に見惚れていたザッフィーロだったが、宵の視線に気付いたならば、その事実にほんの少し照れ臭そうに眼を細めつつ、けれども、穏やかな笑みを彼へと返すのだ。
 「宵、これでまた、共に見た美しい景色が増えたな」
 そう紡ぐ彼の言葉と笑みに、宵もまた微笑みを向けて。
 「ええ、ザッフィーロ。これからも、こうして」

 ――二人で世界の美しい景色を、たくさん見てゆきましょう。

 ざあざあと、滝の音がふたりを包む。
 花降る景を眺め見る其処へと踏み入り、先へ歩んだならば、きっとまた、新たな美しい景が彼らを迎えゆくだろう。
 一歩、一歩と共に歩んで、歩みゆく最中の景色も、その先に待つ景色も、ひとつ残らずふたりの思い出へと刻んでゆくのだ。
 これからも、ずっと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
【春嵐】

幾度訪れても、不思議に満ちている世界ね
彼方も此方もと、歩を進めてしまいそう

もちろん、憶えているわ
忘れることもないでしょう
音色と拍に合わせ、一歩、二歩

気の昂りにて跳ね上がり過ぎぬように
跳躍の加減には気をつけましょう
溺れてしまうのも、また一興だけれど

溢れる微笑を覆い隠すことはなく
緩む眼差しで、ひと時の光景を見映す

やさしい風が頬を撫ぜてゆく
以前ならば、感じることも出来なかった
此度の年もまた、季節は巡っている

春過ぎて、夏を――その後のひととせを
手繰ることを思えば、心が踊るかのよう
また、とりどりの花を見に行きたいわ

そうした未来を展望しながら
律動に合わせて、ステップを刻みましょう

さあ、あともう少し


榎本・英
【春嵐】

君と小指をゆわい、蓮の葉の上を共に行こう。

けんけんぱ
覚えているかい?

けんけんぱと声に出し、葉から葉へと飛び移ろう。
覚束ない足取りも、不安定な足場もまた一興。
君と共に片足で飛んで、水面を歩む。

私が落ちたら引き上げて呉れ。
冗句も程好く。

それにしても不思議な心地だよ。
水面を歩むなど、前の私であるならば考えもしなかった。

なゆ、君は大丈夫かい。
高下駄は一層不安定になるだろう?

葉から落ちる時は共に、だがね。
それもまた楽しみの一つではないか。

春が終われば夏が来る。
今年の夏も向日葵を見ようか。

あと少しだよ。けんけんぱの声も忘れずに。
こうしてまた夏へと歩むのだ。



 ●

 四季混ざる花が咲き誇り、さわさわと柔らかな風が抜けてゆく。
 どこか心地良すぎるほどのその景は、外の季節を忘れさせるかのような。
 少しばかり、現実味を霞ませる現実。
 柔らかな夢のようでいて、けれども確かに刻まれる、今。

 「幾度訪れても、不思議に満ちている世界ね」
 そんな世界を肌で感じつつ、柔らかに紡ぐのは蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)。
 彼女の紫彩に映る壺中の世界は、不思議と好奇に満ちていて、彼方もあゝ此方もと、歩を進めてしまいそうだと、その爪先は自ずとかろく。
 そんな七結の白い小指を、己の其れで結い取り、赤を添わせてやわと笑むのは、榎本・英(優誉・f22898)。
 傍に控える三毛猫のナナもまた、七結の足元にそ、と添うて、好奇の儘、ひとり駆けてはいけないよ、と言うように尾が触れた。
 
 そんなふたりと一匹が、対岸へ渡る術と選んだのは、大きな大きな睡蓮の葉。
 煌めく漣にその身を揺らし、緑も白も心地良さそうに揺れている。
 湖面の其れらを眺めつつ、英は徐に口を開いた。
 「葉の上を共に行こう。けんけんぱ、覚えているかい?」
 けんけんぱ。それは決して遠くない過日、英が教えたいとけない遊戯。
 「もちろん、憶えているわ。忘れることもないでしょう」
 柔らかに紡ぎ返す七結が示すのはきっと、遊びのことのみならず、其れを知った日の思い出も含めて。
 眦やわらかに紡がれる彼女の返答に、英もまたその相貌を緩ませて。
 それじゃあ、行こうか、と。
 結わう小指もそのままに、声を揃えて。

 ――けん、けん、ぱっ。

 音色と拍に合わせ、一歩、二歩。
 初めは柔らかな草の感触から爪先を離して、その後は葉から葉へと飛び移る。
 淑やかな三毛猫もまた、彼ら彼女らの足元へついて軽やかに葉を渡ってゆく。
 難なく渡り行く三毛猫とは対照的に、少しばかり覚束ない足取りも、不安定な足場もまた一興だ、そんな思いを裡に浮かべて、英は七結と共に片足で跳んで水面をゆく。
 「私が落ちたら引き上げて呉れ」
 英の程好い冗句も交わりながら、彼らの足は水上を前へ、前へと。
 踏み切る折には、ほんのわずか柔らかに沈んで、着地をしたなら、その身を受け止めるよにふわりと揺れて。
 どこか鼓動にも似た其れは、此処に生きているのだと、彼らへと知らせるようでもあった。

 けん、けん、ぱ。
 軽やかなリズムで葉が揺れて水面が揺れる。水面の揺れを受け、其処に浮かぶ花もまた、跳ねゆく彼らを見守るよにゆぅらり揺れた。
 「それにしても不思議な心地だよ」
 徐に、どこか眩い眼差しをした英が紡ぐ。
 水面を歩むなど、前の私であるならば、考えもしなかった、と。
 そう、そんな彼の日常を、花嵐のように塗り替えたのは、ほかでもない。
 結わう先の彼女を見れば、その眼差しもまた柔らかに英を見つめていて。
 嫋やかでありながら、確かな芯を裡へと宿し、好奇に満ちたこころのまま、彼の手を引いてゆく彼女は、いつだって眩い。
 今も彼女の爪先は、軽やかに前を向いている。
 「なゆ、君は大丈夫かい。高下駄は、一層不安定になるだろう?」
 そんな彼女の足元をみとめ、気遣わしげにかけられた言の葉へ、柔らかに笑んだ七結は楽しげに。
 「ふふ、気の昂りにて跳ね上がり過ぎぬように、跳躍の加減には気をつけましょう」

 ――溺れてしまうのも、また一興だけれど。

 ほんの少し、悪戯めかして咲う七結に、英もまた柔らかに頷いて。
 「嗚呼、葉から落ちる時は共に、だがね。それもまた楽しみの一つではないか」
 届く英の言の葉に、溢れる微笑を覆い隠すことはなく、七結は緩む眼差しで、ひと時の光景を見映した。
 そうして、どちらともなく、結わう小指の力を込めたなら、どこまでも一緒、と伝うよに。
 そんなふたりを見上げたナナもまた、其処に添うのだと尾を揺らす。
 顔見合わせて笑い往くふたりの頬を、その下に控える三毛の彼女の髭を、やさしい風が撫ぜてゆく。
 吹き抜ける先、その風を追うように七結の視線はつ、と移って。
 以前ならば、感じることも出来なかった。此度の年もまた、季節は巡っている。
 そう、多くを紡ぎ結わった今ならば、あゝそして、彼と共にならば尚のこと。
 どこに居ようと忘れることなく感じゆける、四季の巡り。
 そのことを、柔らかにしかし確と噛みしむように、金環抱く紫彩が緩められた。
 春過ぎて、夏を――その後のひととせを手繰ることを思えば、心が踊るかのよう。
 「また、とりどりの花を見に行きたいわ」
 先の季節を思うよな、眩いものを見るような、そんな七結の眼差しを、隣で柔く見つめた英も頷き告げる。
 「嗚呼、春が終われば夏が来る」

 ――今年の夏も、向日葵を見ようか。

 七結の望みを叶えるように、そうして其処に混ぜる己の望みも叶えるように。
 紡ぐ英の言の葉は、遠くない未来を描く。
 ひとつ、またひとつ。ふたりの日々にいろを足してゆくのだ、これからも。

 そうした確かな未来を展望しながら、律動に合わせて、ステップを刻みましょう。

 さあ、あともう少し。
 ほら、あと少しだよ。
 けんけんぱの声も忘れずに。
 こうしてまた夏へと歩むのだ。

 けん、けん、ぱ。
 けん、けん、ぱ。

 彼らの季節は、その歩みと共に。
 揃う声音と律動を伴い向かい往く。
 跳ねる水音が垣間見せるよに。
 嗚呼ほら、眩い季節は、もうすぐ其処だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

戀鈴・イト
【硝華】

わ、凄いな
見て、シアン
たくさんの睡蓮の花が咲いているよ
こんなにも綺麗なものなんだね

シアンは水辺、大丈夫かい?
泳いで渡るのも良いけれど
滝の裏側を通るのも楽しそうじゃない?

一緒に行こう
手を差し出して
交わす体温にじんわり頬が熱を孕む
好きな人と手を繋ぐだけで
引き寄せられるだけで
心臓が早鐘を打ってしまう
シアンに気付かれないよう、足を進めて

本当に洞窟みたいだね
花も綺麗で
あ、虹だ
シアン、見える?
あそこに小さな虹がかかっているよ
指先で指し示せば
君の横顔を盗み見
花よりも、虹よりも
うんと綺麗な、僕の好きな人

いや、何でもないよ
まだ道はあるからね
せっかくの機会だもの
最後まで楽しもうじゃないか


戀鈴・シアン
【硝華】

嬉しそうな片割れの姿
彼に後ろに咲き誇る睡蓮たちの美しさに眸を細めて
本当、綺麗だ
花もお前も、なんて心の中でだけ添えて
イトは本当に花が似合うね

ん、もちろん平気だよ
いつもはイトの手を引くことが多いけれど
手を引かれるのも嬉しくて
滝の裏の道なんて胸が踊るね
っと、水飛沫が
濡れないように気をつけてとイトの肩を抱き寄せ
涼やかな道をきみと歩く

虹のアーチをくぐり流れ落ちてゆく花達
これだけでも贅沢な景色なのに、虹までお目に掛かれるなんて
小さくても綺麗……ん、どした、疲れた?
愛らしい花緑青の瞳と眸が合えば、微笑みひとつ

先を行こうか
もう少しで着いてしまうのが名残惜しいけれど
イトと一緒なら、何処だって楽しめるから



 ●

 柔らかな風が吹く。
 それに合わせてそよぐ睡蓮と煌めく水面。
 小さな波がきらきらと瞬くように閃いて。
 揺れる数多の花も、光の中を踊っているかのよう。

 「わ、凄いな」
 目の前に広がる光景に、花緑青の瞳を尚も煌かせ、戀鈴・イト(硝子の戀華・f25394)は言葉を零す。
 息を呑むのも束の間、くるりと明るい表情で振り向けば、直ぐ傍に立つ戀鈴・シアン(硝子の想華・f25393)を映し。
 「見て、シアン、たくさんの睡蓮の花が咲いているよ」

 ――こんなにも綺麗なものなんだね。

 そう紡ぐイトの表情は、その水面に負けぬ程、輝いていて。
 そんな嬉しそうな片割れの姿に、そして彼の後ろに咲き誇る睡蓮たちの美しさに、シアンもまた眸を細め。
 「本当、綺麗だ」
 と、眦を和らげながら肯定を示す。花もお前も、なんて。其れは心の中でだけ添えて。

 ――イトは本当に、花が似合うね。

 そう告げるシアンとイトは、顔を見合わせて微笑みあった。
 そうして、煌めく湖の姿を楽しんだ後、ふと、シアンを見つめてイトは問う。
 「シアンは水辺、大丈夫かい?」
 「ん、もちろん平気だよ」
 問う彼に、シアンが頷き返したならば、その返答にイトは頬を緩めて。
 「泳いで渡るのも良いけれど、滝の裏側を通るのも楽しそうじゃない?」
 一緒に行こう、と。投げかける提案と共に、その手をシアンへと差し出した。
 いつもはイトの手を引くことが多いシアンだけれど、手を引かれるのも嬉しくて。己に差し出される手を取り、きゅ、と握り返した彼の面差しも柔らかい。
 そうしてふたり、しっかりとその手を繋いだまま、花降る滝まで歩みゆく。

 「滝の裏の道なんて胸が踊るね」
 辿り着いた雄大な滝を前に、その姿もまた美しいものだけれど、その裏手をゆくならば、どんな顔を見せてくれるのだろうか、と。シアンの目は期待に細まる。
 そんな時だ、滝壺に落ちる水飛沫が、一際大きく此方へ飛んだ。

 ――……っと、水飛沫が。

 隣のイトが濡れないようにと、彼の肩を抱き寄せて、濡れないように気をつけて、と告げる。
 そうして、庇われるように彼の腕に包まれたイトはといえば、滝に至るまでの間、繋いだ手から互いに交わす体温に、じんわり熱を孕んでいたその頬に、いっそうの熱が上るのを感じていた。
 好きな人と手を繋ぐだけで……引き寄せられるだけで。

 ――……心臓が早鐘を打ってしまう。

 とくん、とくん、と、己の心音が耳に響く。
 この身を包む温もりから、離れるのは惜しくもあるけれど、此の心の臓の音が、跳ねゆく其れが、彼に気づかれないように。
 彼へと預ける様になった身を起こして、笑顔を向けたなら、先へ続く道へとふたり足を進めゆく。
 再び繋いだ手はそのままに、滝の裏手へつながる道を、足元に気をつけるよう互いの手をしっかりと握りながら、緩やかな岩の斜面を登った。

 右手には岩壁、左手には流れ落ちる水の壁。
 決して短くはない距離の滝裏の道へと足を踏み入れたなら、その姿に小さく息を吐いた。
 「本当に洞窟みたいだね。花も綺麗で」
 ぼこぼことした岩肌に手を添えれば、ひんやりと冷たい。
 その反対側には、先程の野と同じよな、季節混じりの花々が彩り豊かに流れ落ちてゆく。
 さらさらと流れ落ちてゆく百色に目を細めていたイトが、あ、と声を上げる。その視線の先には……虹だ。
 「シアン、見える?あそこに、小さな虹がかかっているよ」
 それは、常に大きくかかる、滝の外にある虹とは別に、時折光を受けて水飛沫の内側に産まれる小さな小さな偶然の産物。
 滝の表から見えた、虹のアーチを潜り抜けて落ちてゆく花達。
 今はその花々が、手を伸ばせば届く程の距離で流れていて。
 どちらの景も、鮮明に心に残る程に印象的で。

 ――これだけでも贅沢な景色なのに。

 滝裏に現れる虹にまでお目に掛かれるなんて、と。
 その幸運な景に、シアンは柔らかく目を細めた。
 そうして、嬉しげな表情を浮かべる彼の表情を、イトはそっと盗み見て。
 彼よりも尚、眩しげにそして愛おしげに、その目をつ、と細めてゆく。

 ――花よりも、虹よりも、うんと綺麗な、僕の好きな人。

 静か、心の裡で紡ぐイトの傍ら、己を見つめる愛らしい花緑青の瞳と眸が合えば、シアンは微笑みひとつ。
 「イト、教えてくれて有難う。小さくても綺麗……ん、どした、疲れた?」
 「……いや、何でもないよ」
 笑顔で問うシアンへと、柔らかに首を横に振り、笑み返す。
 「そう?なら、先を行こうか。もう少しで着いてしまうのが、名残惜しいけれど」
 促す彼へと頷き返し、いつしか恒のように引かれる側となった手を、イトは握り返して。
 「まだ道はあるからね。せっかくの機会だもの」
 最後まで楽しもうじゃないか。そう告げて微笑む。

 名残惜しいのは同じだけれど、あゝけれど、だからこそ。
 彼もまた、名残惜しさを抱いてくれている事が嬉しい。
 其れは、言葉にはしないけれど。
 そうして、シアンもまた、イトの言葉に頬を緩めて。
 彼の言葉の通り、最後まで楽しもうと心に刻む。
 だって、そう。イトと一緒なら、何処だって楽しめるから。

 ざあざあと、滝が歌う音を聞きながら。
 ふたりの足音は重なって。
 抱いた名残惜しさは、きっとすぐに露と消えるだろう。
 滝のうろを抜けたなら、また新たな煌く景色が、ふたりを迎えるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雲烟・叶
【涙雨】

この手の術があるのは知ってましたが、普段は何に使うんでしょうねぇ
一般人の避難なんかには有用でしょうか
……と、すみません、つい
今は難しい話は置いておきましょうかね、折角ネムリアのお嬢さんと遊びに来てますし

湖なら彼方みたいですよ、遠目に湖面が見えます
葉の上に乗って移動するなんてなかなかありませんし、新鮮な気持ちですよ
お嬢さんはそういうの、似合いそうですけれど
まさか相手が妖精になった己を想像しているだなんて思わず、やけに真剣な顔に首を傾げた

触れぬよう気遣ってくれる距離感が心地好くて、手招きに従って葉から葉へ
煌めく湖面と相手の姿が良く似合って

……触れてみたいですね、君に

思っても、言わないけれど


ネムリア・ティーズ
【涙雨】

壺の中にこんなにステキな世界があるなんて
分かっていてもびっくりする
すごいね、宝物をいっぱい集めたみたい
見えるもの全て、きらきらしてるように感じるから

湖はどっちかな?叶にはみえる?
背伸びして辺りを見回し
ふふ、それじゃあ向こう側を目指そうか

スイレンの葉っぱに乗れるなんてボクたちも妖精になったみたいだね
……ちっちゃい叶、かわいいかも
ふと妖精サイズのキミが浮かんで、ちょっぴり真剣なかおで見上げる

くすり笑うと音もなく葉に飛び乗って
決してふれないけれど
こっちだよ、と誘うように手招く

かわいいけど…やっぱり変わらないほうがいい
叶は叶のままで、大好きなんだ

どうしてか照れるようになった言葉は秘めたままで



 ●

 柔らかな風が頬を撫ぜ、花の香りがその身を包む。
 穏やかな陽光は心地よいほどに降り注ぎ、百色の野は鮮やかに彩を踊らせて。
 まるで夢のような、描かれた絵画や物語の中のような、そんな景色に今、此の身が立っている。
 「壺の中にこんなにステキな世界があるなんて」
 分かっていてもびっくりする、と。感嘆の吐息を交えながら、あえかな唇から言葉を零したのはネムリア・ティーズ(余光・f01004)。
 そんな彼女の隣、くるりと同じ景色を見回しながら、その指を顎に当てて、彼女とは違う音の吐息を溢した雲烟・叶(呪物・f07442)も口を開いて。
 「この手の術があるのは知ってましたが、普段は何に使うんでしょうねぇ」
 一般人の避難なんかには有用でしょうか、と。思案げに言の葉を紡いだならば、ふと、瞳を煌めかせたネムリアの姿が彼の瞳に映り。
 「……と、すみません、つい」
 まるで癖のよに自ずと思考の海へと踏み出しそうな一歩を踏み止まって、柔く口を押さえたなら、隣の彼女へ穏やかに笑む。
 「今は、難しい話は置いておきましょうかね」

 ――折角、ネムリアのお嬢さんと遊びに来てますし。

 そう告げた叶へと、気にしなくていいと言う思いと、その言葉が嬉しいと言う思いと、両方が籠った笑みを彼女は浮かべて。
 そうして再びその瞳に、周囲の景を映したならば、ネムリアは彼へと語りかける。
 「すごいね、宝物をいっぱい集めたみたい」
 そう、この世界は宝物に満ちている。
 見えるもの全てが、きらきらしてるように感じるから。きっと、きっと、そうなのだ。
 そうしてそれはまた、ひとりではなく、ふたりでこの地を踏みしめているからでもあるのだろう。
 降り立つ地の景色を堪能したならば、目的の場所にも向かわなくてはいけない。
 「湖はどっちかな?叶にはみえる?」
 少し低い視点の彼女は、背伸びして辺りを見回し、隣の彼へと、そ、と問うて。
 そんな彼女の問いを受け、ゆるりと視線を動かした彼は眦を和らげて。
 「湖なら彼方みたいですよ、遠目に湖面が見えます」
 その瞳に捉えた煌めきを、指し示しながら彼女へと伝えゆく。
 「ふふ、それじゃあ向こう側を目指そうか」
 頷き合ったふたりは、煌めく湖へと並び歩を進めた。

 暫し歩いた先にて、ふたりを出迎えたのは、白き睡蓮の花と緑鮮やかなその葉が揺れる、広い湖。
 風が吹けばさやさやと水面が揺れて煌めいて、花と葉もまた静かに揺れた。
 こっちへおいでと手招くように、揺れる睡蓮に誘われて、彼らは連なる大きな緑を橋代わりとすることに決めた。
 「葉の上に乗って移動するなんてなかなかありませんし、新鮮な気持ちですよ」
 近くに浮く睡蓮の葉を、ツン、と爪先で突きながら、その先に待つ感覚を想像しつつ紡ぐ叶は、お嬢さんはそういうの、似合いそうですけれど、と裡で続け、隣立つネムリアへと視線を向けた。
 「スイレンの葉っぱに乗れるなんて、ボクたちも妖精になったみたいだね」
 そう告げて、彼女もまた、目の前にゆれる大きな大きな葉を眺めたならば……あゝ言葉と変えたその想像の翼は、広がりゆくもので。

 ――……ちっちゃい叶、かわいいかも

 ふと、妖精サイズの叶の姿が彼女の脳内にありありと浮かんで、故にちょっぴり真剣なかおで、ネムリアは彼を見上げる。
 そんな斜め下からの視線を感じた叶は、まさか相手が、妖精になった己を想像しているだなどとは思わず、やけに真剣な彼女の顔に首を傾げた。

 不思議そうに首を傾げる彼と、先程の想像が重なって、くすりと笑ったネムリアは、音もなく地を蹴り葉に飛び乗って。
 そうして、彼へは決してふれないけれど。
 こっちだよ、と誘うように彼を手招くのだ。
 あゝ、彼女が自分に触れぬよう気遣ってくれる。その距離感が心地好くて。
 自ずと眦が緩んでゆくのを感じながら、ネムリアの手招きに従って、叶もまた、柔らかな草を踏み締めていた地から、タン、と爪先鳴らし跳躍すれば、大きな広い葉が彼の身を受け止める。

 そうしてふたり、葉から葉へ。
 煌めく湖面と己を手招く相手の姿が良く似合って、少しばかり眩しそうに叶は目を細めた。
 触れぬようと気遣う彼女の距離が、其れが心地いいのも確か、なのだけれど。

 ――……触れてみたいですね、君に。

 そう、思ってしまう。
 あゝ、思っても、言わないけれど。

 彼を手招き先導しながら跳ねゆくネムリアもまた、己を追いついてくる彼を眺めて想う。
 想像に描いた小さな彼も、かわいいけど……やっぱり、変わらないほうがいい。
 そんな想いを抱きながら。

 ――……叶は叶のままで、大好きなんだ。

 裡で紡げば、自ずと頬が染まる心地。
 どうしてか、照れるようになったその言葉は、秘めたままで。

 互いに互い。
 言葉に変えぬ想いを裡に抱いたまま。
 ひとつ、ふたつ、と葉を渡る。
 爪先が水面を揺らすたび、きらきらと煌めく湖面も揺らめいて。
 それはどこか、ふたりの気持ちを映すよに。
 眩くも揺れ、美しくも静かに。
 そんなふたりの時間を、歩みを。
 真白の花はゆらり、見ていた。
 ほら、対岸まで、あとすこし。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

テティス・カスタリア
【双精】
青い風と彩りの匂い
地上、陽光で育つ草花たちの色(におい)
海の底だったら、知り得なかったもの
「ん、今行く」
いつも通り少し浮いたまま
メガリスのオーブも手元に浮かべて
湖の前まで来て隣を見る
「どうする?シルヴィ」
シルヴィ、お花好き
だから、シルヴィがルート決めたらいい
「わかった」
引かれる力に抗わないでついていく
片腕で抱えたオーブの中の花も、この壺の中にあるかもってちょっとだけ考えて
でも何も言わない

シルヴィ、船だったから
ある意味ずっと自由がなくて
だから今、きっと自分の意思で動く足と視界があるの、楽しいはず
今日の冒険、シルヴィにとって楽しいといい
その気持ちが伝わってくるならそれがいい(薄っすら笑み)


シルヴィア・セーリング
【双精】

彩りの花達に水の音に冒険心を押してくれるような風
素敵!海とは違う輝きで溢れているわ!
風に導かれるまま、湖へダッシュ!
テティも早くー!

湖に到着!確か湖の向こうへ行くのよね?
…え、私?
うーん…私の船で渡れそうだけど…
…この世界の景色を、沢山見たい!
決めた!今日の航路はこっち!
川の方を指差し、テティの手を引くわ

地面を歩いて
花が流れる川を眺めて
真近で見る虹の滝に歓声をあげて!
…ふふっ
誰かを『私』に乗せて一緒に冒険するのも好きだったけれど
自分で路を決めて、誰かと歩いて冒険するのは
まだちょっぴり不思議な気分
でも、ワクワクで一杯!
テティも楽しいって感じてもらえたら
私にとってもこの冒険は宝物になるわ!



 ●

 この地を包む青い風と彩りの匂い。
 地上、陽光で育つ草花たちの色。
 それは、海の底だったら、知り得なかったもの。
 テティス・カスタリア(想いの受容体・f26417)は、地から僅か浮いたその身をこの地を包む地上の幸へと浸し、柔らかにその瞼を一度伏せた。
 彼と共にこの地を訪れたシルヴィア・セーリング(Sailing!・f30095)もまた、その髪を揺らす風に両の手を広げ、全身でこの地を感じようとしていた。
 「彩りの花達に水の音に、冒険心を押してくれるような風」

 ――素敵!海とは違う輝きで溢れているわ!

 きらきらと、輝く眸と同じくらいその声音も輝かせ、その背を押す風に導かれるまま、シルヴィアは湖へ向かって爪先軽やかに駆け出した。
 駆け行く最中、くるりと金色の髪を靡かせて振り向いたなら、彼を招くように大きくその腕を振る。
 「テティも早くー!」
 己を呼ぶ声に瞼を擡げ、その姿をみとめたテティスは緩やかに頷いて。
 「ん、今行く」
 短くも、確かに彼女へを言葉を届け、恒の如く少し浮いたまま。メガリスのオーブも手元に浮かべ、彼女の後をゆうるりと追って往く。

 「湖に到着!確か湖の向こうへ行くのよね?」
 きらきらと輝く広い湖面を見つめ、笑みを深めるシルヴィアの姿を隣からそっと眺めて、テティスは緩やかに頷いた。そうして、一拍の間を置いたのち、その視線を彼女と合わせて柔らかに首を傾ぐ。
 「どうする?シルヴィ」
 「……え、私?」
 選択を委ねられたシルヴィアは、パチリ、パチリと瞬いて。そんな彼女の背を押すように、テティスは続ける。
 「シルヴィ、お花好き。だから、シルヴィがルート決めたらいい」
 大きく表情を変えるわけではないが、少し柔らげられた眦が、彼女の答えを待っている。
 「うーん……私の船で渡れそうだけど……」
 そんな彼の視線を受けて、正面から湖を見つめたシルヴィアは軽く首を捻って思案をした後、心に決めたようにパッと明るい表情で顔を上げた。

 ――……この世界の景色を、沢山見たい!
 
 そう言葉にしたならば、思いもまた明確になり、立ち止まる時間も勿体無く思えてくる。
 彼女をじ、と見つめたまま待つテティスへと、その煌めく笑顔のまま向き直り。
 「決めた!今日の航路はこっち!」
 その柔い指先で、彼の手をキュ、と掴んだなら。行き先を示すように、彼の手を引き川の方へと指をさす。
 「わかった」
 指し示す先、繋いだ手を引かれるまま。
 ご機嫌な風を帆に受け進むよに、軽やかに踏み出す彼女の航路へ、抗うことなく彼はついていく。
 楽しげな彼女の横顔を眺め見て、ふと、その視線を片腕で抱えたオーブへと向けた。

 ――オーブの中の花も、この壺の中にあるかも。

 そんな想いを、少しだけ胸の中に浮かべて。
 けれども、それは言の葉には変えることなく、静かに静かに、胸の裡にて抱きかかえた。

 穏やかな陽光に包まれて、柔らかな草に満ちた地を歩く。
 隣を流れる川は、滝から流れ落ちた花々が色取り取りにと水面を彩り流れてゆく。
 踏みしめる柔らかな感触も、百色の流れゆく川もシルヴィアの思い出に刻まれてゆくけれど。

 ――……わぁ!

 真近で見る虹纏う滝には、受けた感動のまま、一際大きな歓声をあげ、陽を受ける滝の水飛沫にすら負けない、きらきらと輝く瞳をテティスへと向けて。
 「……ふふっ!誰かを『私』に乗せて一緒に冒険するのも好きだったけれど」
 自分で路を決めて、誰かと歩いて冒険するのは
まだちょっぴり不思議な気分。
 そう続けるシルヴィアの表情は、仄か頬が赤く染まって、身を包む興奮や歓びが、そのまま彼女を染めゆくように。
 そうして、そんな心地がその身を満たしたのだろう、満面の笑みを面に浮かべて。
 「でも、ワクワクで一杯!」
 と、紡がれた言の葉は、彼女の想いを儘と表して軽やかに弾む。
 そんなシルヴィアを、穏やかな視線で見守るテティスは、目の前で咲む彼女を想う。

 ――シルヴィ、船だったから。ある意味ずっと自由がなくて。

 だから今、きっと自分の意思で動く足と視界があるの、楽しいはず。
 彼女自身も言葉に変えていたその楽しさは、紛う事なく、彼女の身を包んでいることだろう。
 シルヴィアの抱く楽しみが、歓びが、ありありと伝わってくることが、あたたかくも嬉しいから。
 「今日の冒険、シルヴィにとって楽しいといい」
 願うままに、目の前の彼女へと言の葉に変える。
 そんな想いを彼から伝えて貰えることもまた、シルヴィアにとって嬉しいことだから。
 あゝそして、ふたりで共にゆく冒険、だからこそ。
 「テティも楽しいって感じてもらえたら……」

 ――私にとっても、この冒険は宝物になるわ!

 陽を受けて、だけではない。
 身を満たす楽しさが、ふたり一緒の冒険の喜びが、彼女の笑顔を煌めかせる。
 其処には、彼女の気持ちがそのまま乗って伝わるから。
 あゝ、彼女の楽しい気持ちが伝わってくるなら、それがいい。と。
 テティスの表情もまた、薄らと、けれども確かに、笑みを帯びた。

 さあ、まだ冒険は始まったばかり。
 七色の橋が迎える滝を行き、まだ見ぬ景色を刻んでゆこう。
 目に映る彩りも、肌に届く水飛沫も。
 それを受けて煌めき響く心も。
 もしかしたら、そう。
 密か願う花との邂逅もあるかもしれない。
 あゝきっときっと、たくさんの宝物が、この先も、ふたりを待っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

何と美しい世界だろう、サヨ
とても心地がいいよ
睡蓮の葉を伝い向こう岸に行けるようだ
葉の上に、なんて未知の体験に心が踊る、が
…ひとつのことに気がつく
噫…でもサヨは水が苦手だ。遠回りして陸路がいいね
私の為に恐怖を我慢してくれる姿も
強がる姿も可愛らしくて大丈夫だよと手を握る
じゃあ行こうか
葉の上は意外と…揺れるな?
サヨが落ちないように幸福を約し
しかと震える指先を握りしめて
私から先に葉に飛び乗りサヨを招く

可愛らしい悲鳴には思わず笑みを浮かべてしまうが
まさか、可愛いと思っただけだよ
拗ねて尖る唇をつつく
もう少しだよ、サヨ
鼓舞を重ねて先へ進もう

如何なる花が咲いているのだろう
サヨと見る景色だから楽しみなんだ


誘名・櫻宵
🌸神櫻

本当ら美しい世界だわ

湖、を?
私は泳げない
情けないけど水が苦手で本当は怖くて仕方ないのだけど
あんな風にわくわくと瞳を煌めかせるかぁいい神の姿をみたら否とは言えない
カムイ!だ、大丈夫よ!睡蓮の葉の上を行きましょ!
怖くなんてないんだからっ

ひぇ……カムイ!手を離さないでッ
ゆ、揺れてるわぁ!

ヨロヨロ、ふらふら
グッとカムイの手を握ってくっついて、ひとつひとつをゆっくり超えていく
ひゃああ?!落ち……うう……ありがとう、カムイ
むう、何を笑って
か、可愛いなんて!
尖る唇をつつかれて、照れ隠しに顔を背け─揺れたのでしがみつく

最後まで渡りきってやるんだから
きっと向こう側の景色は最高よ
こんなに頑張ったんだからね



 ●

 穏やかな陽光を受け、百色の花が揺れている。
 ふわりと柔らかな風が吹けば、極彩の花弁が舞う。
 踏みしむ地は柔らかで、その景の全てが身を心を癒しゆく。
 一人のフェアリーによって生み出された世界は、何処までも優しい。

 「何と美しい世界だろう、サヨ」
 そんな景の中に立ち、ほぅ、と感嘆の吐息を零したのは、朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)。
 「本当、美しい世界だわ」
 彼の言葉に、誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)もまた、こくりと頷いて、柔き笑みを湛えつつ、何処か夢見がちな声音でそう紡ぐ。
 「噫、とても心地がいいよ」
 身に受ける心地よさへと儘に意識を委ねながら、ふたりは百色の野を抜ける。
 次に彼らを迎えたのは、きらきらと輝く水面を湛えた大きな大きな睡蓮の湖。
 湖面の漣は煌き、浮かぶ大きな緑葉はヒトが乗るには十分だ。
 物によっては寝そべることが出来そうなものまであるし、その傍に咲く白花もまた、水にゆらと揺れながら、様々な大きさで湖面を彩っていた。
 「サヨ、サヨ。睡蓮の葉を伝い向こう岸に行けるようだ」
 葉の上に、なんて未知の体験に心が踊る、と。
 その朱の眸を、あどけなさすら抱く色で一際輝かせたカムイの聲が、楽しげに跳ねる。
 「……湖、を?」
 恒ならば、彼の楽しげな声音に真っ先に反応し、微笑ましい笑みを向ける筈の櫻宵の聲が、少しばかり硬い音を発した。

 ――……私は泳げない。

 裡で呟き、神妙な顔で湖を見つめる櫻宵。
 そう、櫻宵は泳げないのだ。
 情けないと自身でも思いつつ、水が苦手で本当は怖くて仕方ない……の、だけれど。
 あんな風に、わくわくと瞳を煌めかせる、かぁいい神の姿をみたら、否とは言えない!
 内心、葛藤を繰り広げる櫻宵の隣、瞳を輝かせていたカムイもまた、そのひとつのことに気がついた。
 そう、彼も知っているのだ。なにせ、大切な櫻宵の事なのだから。
 思い至れば、好奇に煌めかせていた眸を、落ち着きの色へを変えて、穏やかに櫻宵を見つめたならば。
 「噫……でも、サヨは水が苦手だ。遠回りして陸路がいいね」
 そう、柔らかに。己を律して、櫻宵を優先して。提案をする。
 あゝ、そんな彼でもあるから。
 「カムイ!だ、大丈夫よ!睡蓮の葉の上を行きましょ!」
 思わず、櫻宵の声も大きくなった。

 ――怖くなんてないんだからっ!

 だから、我慢などしなくていいと、彼を説得する様に。
 そして同時に、己を奮い立たせるように。両の手を強く握りしめた櫻宵は彼へと告げる。
 そんな姿が、櫻宵の想いが、真っ直ぐと届いたならば、カムイの眦は一際和らいでゆく。
 あゝ私の為に、恐怖を我慢してくれる姿も、強がる姿も可愛らしい。
 そんな想いが彼の裡を満たすから。
 強く握るその一つを柔らかに解いて、己の手と繋ぎ合わせて。
 「大丈夫だよ」
 その一言に、櫻宵への想いを全て籠めて。
 繋いだ掌から伝わる温もりが、恐怖を和らげますように。
 踏み出す勇気に変わりますように。
 決して落ちることの無いように、幸福を、籠めて約して。

 ――じゃあ、行こうか。

 カムイの一言で、ふたりはその手を繋いだ儘、大きな葉へと慎重に足をかけた。
 どの葉も、ふたり乗ろうと沈むことは無い。
 ……が、やはり水の上、揺れるのは、揺れる。
 乗る折にかかる体重や、他の場所で人が跳ねた際に生まれた波の揺れが葉を揺らす。
 「葉の上は意外と……揺れるな?」
 身が揺れる感覚に、其れもまた面白い、と眸をまどかにするカムイの手の先。
 「ひぇ……カムイ!手を離さないでッ。ゆ、揺れてるわぁ!」
 不安定な足元の感覚に、葉の揺れだけじゃない其れで身を揺らしつつ、櫻宵の声が上がる。
 安堵を与えられるよう、震える指先を握りしめたカムイは、繋ぐ手其の儘に櫻宵の前を往き、先に飛び乗る葉へと優しく招いてゆく。
 櫻宵もまた、グッとカムイの手を握り返しくっついて。
 ひとつひとつを、ゆっくりゆっくりと超えていく。
 足元はヨロヨロと。身はふらふらと。それでも、確かに。
 そんな折、濡れた葉で足を滑らせた櫻宵のバランスが、崩れた。

 ――ひゃああ?!落ち……!

 あわや、と。一気に顔の血の気が引いた櫻宵の身を、カムイはぐい、抱き寄せその身を護る。
 「うう……ありがとう、カムイ」
 余程怖かったのか、僅か震えの残る指先で彼の衣服を掴む櫻宵の姿も、先程の可愛らしい悲鳴にも、ついと笑みを浮かべてしまうカムイであったが、その表情に気付いた櫻宵はぷく、と頬を膨らませて。
 「むう、何を笑って……そんなに可笑しかったというの?」
 「まさか、可愛いと思っただけだよ」
 むくれた顔で抗議する櫻宵のとがった唇を、柔らかな笑みでつつく彼に、ぱちり、と眼を瞬かせ。
 「か、可愛いなんて!」
 尖る唇をつつかれて。櫻宵は火照る頬を隠そうと、慌てて顔を背け――ようとして。
 その拍子に葉が揺れたから、ぎうと彼へとしがみつく。
 そんな姿もまた愛おしいから、カムイの頬は緩むばかり。
 「もう少しだよ、サヨ」
 穏やかな声音に、櫻宵への鼓舞を重ねて。

 ――さぁ、先へ進もう。

 そんなカムイの余裕ある笑みが、頼もしくあるけれども何だか少し悔しい。
 胸に湧き上がる前向きな気持ちは、カムイからの鼓舞の成果だろうか。
 桜色の眸で真っ直ぐと前を見据え、気合十分、声に出す。
 「いいわ、絶対に最後まで、渡りきってやるんだから」

 ――きっと、向こう側の景色は最高よ!

 そう、だって。
 こんなに頑張ったんだから、ね。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『闇に咲く花』

POW   :    言い伝えを信じ、森中を踏破

SPD   :    周囲の町や村から情報収集

WIZ   :    自分の魔法や、夜の動物たちに協力してもらい情報収集

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ●

 約束の場所。
 そうフィーアが紡いだ湖の対岸。
 其処に集う面々をくるりと見回し出迎えた彼女が、嬉しげに笑む。
 「うふふ、皆様、日中は思い思いに楽しんで頂けたようで、何よりですわ」
 そうして約束通り、此処に来て頂けたことも、嬉しいんですの。
 頬を緩めたフィーアが空を見れば、陽は傾きもうすぐ夜の帳が降りる頃。
 間もなくですわね、と告げた彼女が改めて向き直る。

 「皆様は、『銀鈴蘭』と言う名に、聞き覚えは御座いますかしら?」
 其れは、アックス&ウィザーズにて見られる鈴蘭の一種。
 日中は咲くことなく、月光でのみその花を開く、鈴蘭の花。
 月光に照らされて、淡く銀に輝く事からその名を冠す、夜の花。
 この世界に繋がる壺の姿とも、ぴったりでしょう?なんて添えながら。
 「……私が、初めてその花を見たのは、旅先でのことでしたの」
 その姿に感動して、己の世界にも咲かせようと決めたのだ、と彼女は咲う。
 そうして、その花の群生地には共通点があり、それが。

 “二つの月が顔を合わせる場所”

 そう、その言葉が表すのは、月の映る水辺の近く。
 フェアリーランドであるこの地でも、その条件は護られている。
 「銀鈴蘭は、咲く場所や条件が限られる事も在り、その群生地では様々な言い伝えを持っている事が多いんですわ」
 彼女がその花を知ることになった地では『満月の夜、銀鈴蘭を手に願いを込めて、月映す其処に流せば叶う』と言うものだったらしい。
 けれども、此処はフィーアの作り出したフェアリーランド。
 この地の銀鈴蘭に、言い伝えは存在しない。

 ――ですから、此処に咲く銀鈴蘭には、皆様で意味を与えて欲しいんですの。

 もう一つのお願い事です、と彼女が微笑む。
 言い伝えを考えるのか、と。首を傾げる猟兵をみとめれば、くすりと笑って続けた。
 言葉の通り、“其れ”を考えてくれてもいいけれど、そう言う意味ではないのだ、と。
 唯、思う儘に過すだけでいい、と彼女は咲う。
 「此処を訪れて下さった皆様によって刻まれた想い出が、ひとつ、ひとつと重なって」
 そうして、其れを繰り返し、時を経て。
 いつしか、其れが、この地の銀鈴蘭に意味を齎すだろう、と。
 皆様に、その一歩となって欲しいのだ、と。

 そんな話を彼女がしているうちに。
 いつしか太陽は沈み、空は薄暗く宵の色と染まった。
 そのときだ。
 睡蓮の湖が、其の湖面が、揺れた。
 そうして、睡蓮の咲いていないもう反面が、段々と輝きを帯びて往く。
 ざざ……と、音を立て、水面が盛り上がったなら、其処から丸い満月が顔を出した。

 「うふふ、驚かれましたかしら?」
 湖面を見つめる猟兵達に、悪戯な笑みを向けてフィーアの聲が楽しげに跳ねる。
 此処はフェアリーランド、夢の国。
 月だって、地平から昇るとは限らない。
 その丸い輝きが、湖からすべて露わとなって、“二つの月”が湖と言う鏡写しに顔を合わせたなら。
 皆の立つ足元もまた、緩やかに頭を擡げ咲く、鈴鳴る銀花に満ちて彩られてゆくだろう。

 さあ、どうぞ思うままとお過ごしになって。
 ささやかですけれど、お茶の席もご用意しておりますわ。
 お望みならば、銀鈴蘭に囲まれた、其方の卓へお着きになって。
 お茶もお菓子も軽食も、願えば出てくる魔法のテーブル。
 あゝけれど、其処に限った事でも御座いません。
 過ごす場所も勿論、皆様のお望みのまま。

 皆様だけの素敵な夜を、どうか、想い出と刻んで下さいませ。
雲烟・叶
【涙雨】

これは、……流石にちょっと驚きましたね
本当に何でもありって奴ですか

銀鈴蘭の花に真っ先に思い浮かべたのはネムリアのお嬢さんだった
透き通るような銀色に、月の雫を零す、鈴のように小さな花
なのに相手は自分に似ているなんて言うから思わず小さく吹き出した
自分は花なんて柄じゃねぇですよ
こっちはそれこそ、お前に似てると思ったんですがねぇ

嗚呼、そりゃあ良い
何が出て来るんでしょうね、気になります
……っと、そうでした
今日、リボンねぇんでした
先日のように手首のリボンを引こうとし、はたり
やらかしに思わず視線が逸れた

……あー……すみません、ちょっと見ねぇでください……

絶対耳が赤いから、見なかったことにして欲しい


ネムリア・ティーズ
【涙雨】

湖から月が昇るなんて、びっくりしたね

だから不思議な世界はすきだ
キミが新しいものに出逢うたび
すごくうれしくなるから

このお花…銀色なのと、きれいなとこが叶に似てるの
そう思うとふれたくて銀花に手を伸ばす

え、だって良い香りがするのも同じだよ
きらきらして見えるのも
……ボクに似てる?
それは…とってもうれしい
思い浮かべてくれたことが、うれしいんだ

ねえ叶、お茶を飲みながら花をみたいな
美味しいものをお願いしたら、なにが出るか気になるの

キミのゆびさき
逸れた視線の理由
(ふれたいのはボクだけじゃなかったんだね)
胸があたたかくて、くすりと笑ってしまう

…ふふ、わかった

もう少し目を逸していて
この頬の熱が、冷めるまで



 ●

 水音と共に湖から顔を出す月。
 輝く大きな円を湖面から現す様は、どこか雄々しくもあり、その身から銀の雫をきらきらと零しながら空へ昇る姿は、夢のような感覚にも拍車をかける。

 現の世界ではそう見られるものではない光景は、この世界がフェアリーランドであるが故に叶う、月の在りよう。
 目の前に広がる景に、雲烟・叶(呪物・f07442)とネムリア・ティーズ(余光・f01004)のふたりも並び瞬いて。
 「これは、……流石にちょっと驚きましたね」
 銀の瞳を思わず瞠り、言の葉を溢した叶は、本当に何でもありって奴ですか、と吐息混じりに呟いた。
 そんな彼の言葉を受けて、ネムリアもまた、ほぅ、と吐息を溢した後、どこか晴れやかな、そして柔らかな笑みで彼を見上げる。
 「湖から月が昇るなんて、びっくりしたね」
 そう、だから不思議な世界はすきだ。
 見上げた彼の表情をその淡い紫色に映し、彼女は咲む。

 ――キミが新しいものに出逢うたび、すごくうれしくなるから。
 
 そんな言葉と共に綻ぶ彼女を見て、叶は眩しげに目を細める。
 彼女の姿を眺め見るその先に、ふわりと鈴生り咲くのは銀色の鈴蘭。

 ――銀鈴蘭の花に真っ先に思い浮かべたのは、ネムリアのお嬢さんだった。

 透き通るような銀色に、月の雫を零す、鈴のように小さな花。
 昇り行く月明かりを浴びて、柔らかな銀の髪をふわりと靡かせ、花咲くように笑うひと。
 叶の目の前に在るネムリアは正に、彼女を囲み咲き綻ぶその花の様で。
 自ずと頬が緩むような感覚を覚える叶の耳に、彼女の鈴鳴るような澄んだ声が届く。

 「このお花……銀色なのと、きれいなとこが叶に似てるの」
 柔らかに弧を描いた彼女の目が、彼を映して。そんな言葉と共にその細い指先が、銀の煌めき宿す鈴の花へと伸ばされる。
 その花に彼女を重ねていた叶は、まさか彼女に己を重ねられているとは思いも依らず。
 思わず小さく吹き出してしまった。
 「……自分は、花なんて柄じゃねぇですよ」
 ほんの少し気まずそうに、其処に何処か照れも混じるよに、ぽそり、と叶の口から言葉が溢れでた。
 そんな、囁くような言の葉を、しかと耳に捉えたネムリアは、その指先を花に触れさせたまま彼を見上げて。
 「え、だって良い香りがするのも同じだよ」

 ――きらきらして見えるのも。

 そう告げながら、叶を見るネムリアの瞳が、柔らかに緩められるものだから、月光のせいだけでなく、彼女がやはり眩く見えてしまうのだ。
 そう、月明かりに煌めくその花のように。
 「……こっちはそれこそ、お前に似てると思ったんですがねぇ」
 だから、其の儘を、言の葉に乗せて。
 それを受けた彼女は、ぱちり、ぱちりと瞬いて。
 「……ボクに似てる?」
 彼と、花と、そして自分の手を見比べて。
 最後に再び彼をその瞳に見映したなら、嬉しげな笑みに乗せるのだ。
 「それは……とってもうれしい」
 あゝ、思い浮かべてくれたことが、うれしいんだ、と。この胸の裡に湧き上がる素直な喜びが、彼にまっすぐと届きますように。

 鈴鳴る銀の花に互いの姿を見たことを、伝え交わすことが叶ったなら。
 やはり今宵はこの景を、ふたりでゆるりと楽しみたい。
 そして、どうせならば。
 「ねえ叶、お茶を飲みながら花をみたいな」
 “美味しいもの”をお願いしたら、なにが出るか気になるの。
 なんでもありな夢の国。そこに設られた妖精の卓からは、どんな不思議が飛び出すのだろう。好奇心に満ちた色で彼女の瞳が尚輝くから、叶もまた楽しげに首を縦に振る。
 「嗚呼、そりゃあ良い」
 何が出て来るんでしょうね、気になります。そう告げながら、ついと伸ばす彼の指先が、彼女の手首付近でふと止まる。
 
 ――……っと、そうでした。今日、リボンねぇんでした。

 妖精の卓まで共に、と。
 伸ばした指先が掴む為のリボンは、今日は無い。
 先日、当たり前のように握っていた“其れ”が、つい伸ばしてしまうくらいに、此の身に馴染んでいたのか。はたまた、あの日のように触れたいという気持ちがそうさせたのか。
 いずれにせよ、己が身のやらかしに、思わず叶の視線が逸れた。
 そしてその仕草は、白き手首を目指し伸びた彼のゆびさきは、ネムリアもまたしっかりと気付いていて。
 つ、と逸れた彼の視線の理由もまた、読み取ることが、できていて。
 ……嗚呼。

 ――ふれたいのは、ボクだけじゃなかったんだね。

 想いを裡に響かせたなら。
 じわり、と。染み入るように、胸があたたかくて、くすりと笑ってしまう。
 彼女の柔らかな、小さな笑い声が此の耳にしかと届くから。
 だからまた、いっそうに居た堪れなくて。
 「……あー……すみません、ちょっと見ねぇでください……」
 染まりゆくのが己でわかる。
 絶対耳が赤いから、見なかったことにして欲しい。そんな懇願するよな想いを、少し掠れた声に乗せて、彼女へ紡ぐ。
 「……ふふ、わかった」
 彼の願いを、ネムリアもまた快諾する。
 其れは、彼の願いを叶える為だけでなく……そう、自ずと染まる自分の頬をも隠す為。
 あゝ、もう少し目を逸していて。この頬の熱が、冷めるまで。
 そんな想いは、裡に秘して。

 互いの朱に染まる姿を刻むのは、今はお預け。
 けれどもひととき、見ぬふりするのもいいでしょう。
 さわさわと、揺れる鈴花が歌い誘う。
 並び立つふたりの銀鈴蘭が、重ねゆく今宵の想い出を。
 さぁ、不思議に満ちた夜は、まだ始まったばかり。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【鏡飴】前髪は下ろした儘

湖面が鏡みてェ(鏡に親近感
こんな月が見れるたァ幸運だったな
フーン?俺とだからそんな嬉しいって?(弄る
少し調子乗ったわ

歓ぶティア見て一緒に笑う
隣に座る
軽く軽食摘まむ
横目で彼女の足の数字を見る

ずっと聞こうと思ってたンだ
その刻印、何か意味があるのか

話聞いて驚く
(隷属的な?もしかして暴行なども…
支配って相当強い力なンじゃ
イヤ、まだ聞く時ではないか)

そうか…痛かっただろ
なァ、願い事しねェ?(銀鈴蘭持つ

ずっと…か
嬉しいコト言ってくれンなァ(頭撫で
もっと近くってどれぐらい?

それを願うのはお前だけの特権だから
俺も出来うる限り
お前と居たい

(永遠などあり得ずとも
いつか涯が来ても
今だけは)


ティア・メル
【鏡飴】

わわっ
すごい、すごい
見て見て、クロウくん
はしゃいでくるりらその場で回る
こんなに綺麗な景色、早々見られないよね
んふふ
クロウくんと見られて嬉しいな

水辺のほとりに座って
のんびりお話しよう

うん?ああ、これ?
これはね、
ぼくが孤児院に居た時のものなんだよ
孤児院の院長に刻印を付けられたの
ぼく、支配に特化した力を持ってるからさ
それを怖がったんだろうね
痛かったけど、今はもう痛くないよ
だいじょうぶ
クロウくんは優しいね

そうだ、せっかくだからお願い事をしよう
ぼくはねー
クロウくんとずっと一緒にいられますように
クロウくんのもっと近くにいけますように
撫でられて嬉しげに笑う
もっとを願うぼくを、欲張りだって言う?



 ●

 ゆらゆらと輝き揺れる水面は、陽の高き頃ふたりで泳いだあの湖面。
 煌々とした光を湛え、盛り上がる水から姿を表した月の姿に、その光景に、湖畔に立つティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)と杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)の瞳も奪われる。

 「わわっ、すごい、すごい!」
 見て見て、クロウくん!と、手を叩きはしゃぐまま、くるりらその場で回るティアと、彼女の無邪気な様相を見守るクロウは、湖面より現れた満月が昇りゆくのを眩しげに見上げていた。
 そして、月がその姿を露わとした後の水面は、先程の光景が嘘のように静かに凪いで、対するものを映す姿は宛ら――。
 「湖面が、鏡みてェ」
 月を、周囲の景を映す水鏡たるその姿に、親近感を覚うまま、クロウの唇からぽつりと溢れる言の葉は風が攫った。
 「こんなに綺麗な景色、早々見られないよね」
 と、機嫌よく跳ねるような声音で語りかけるティアへと向けるクロウの眦も柔らかく。
 「こんな月が見れるたァ幸運だったな」
 そう紡ぐ言の葉もまた、穏やかな響きを纏っていた。
 「んふふ。クロウくんと見られて嬉しいな」
 言葉のまま、嬉しげな瞳を向けて告げるティアの声音も笑顔も、どこまでもまっすぐと届くものだから。彼の裡も、つい機嫌よく彩られて。
 「フーン?俺とだからそんな嬉しいって?」
 歓ぶティアに笑いながら返す言葉は、どこか彼女を弄るよな響きを帯びていて。少し調子乗った自分に気づけば、少しばかりはにかむような笑みを零した。

 のんびりお話ししよう、と、提案しつつ湖のほとりに座ったティアの隣に、クロウも腰を下ろす。
 フィーアの用意した魔法の卓から、軽食をいくつか頂戴して、借りたクロスの上に並べたならば、ちょっとした夜のピクニック。
 そよそよと吹く風に、銀鈴蘭と己の前髪が揺れる中、手を伸ばしたサンドイッチをひと齧りしたクロウは、ふと、その視界に捉えた、彼女の足に刻まれる数字に意識がゆく。
 「ずっと聞こうと思ってたンだ」
 こくり、と。飲み込んだ其れを合図に、静かに口を開いたクロウに、ティアの澄んだ瞳が向けられる。続きを促すよな其れに、一度閉じた彼の唇が再び開かれる。

 ――その刻印、何か意味があるのか。

 視線で、彼女の白き其処に赤く在る『Ⅹ』を示しながら、問う。
 「うん?ああ、これ?」
 そんな、クロウの視線を己が視線でなぞるよに、つ、と、赤き数字を映したティアが柔く口を開いた。
 「これはね、ぼくが孤児院に居た時のものなんだよ」
 そう、語るティアの話はこう続く。
 其処の孤児院の院長に、刻印を付けられたのだと。
 「ぼく、支配に特化した力を持ってるからさ」
 それを怖がったんだろうね、と。
 静かに彼女が語るその内容に、驚くクロウの瞳は僅か瞠られて。
 院長につけられたという刻印、それは隷属的なのものではないのだろうか、もしかして暴行なども……?そんな想像が彼の裡を駆け巡る。
 そして、彼女の持つ『支配』の力というものは。

 ――相当強い力なンじゃ。

 と、思わず口を開きかけ、裡より擡げるそれを柔く押し込み、その先を呑込んだ。
 そう、まだ、今はまだ、聞く時ではない。そんな気がして。
 代わりに、僅か開いた口から紡がれるのは、彼女に対する気遣いの言葉。
 「そうか……痛かっただろ」
 「痛かったけど、今はもう痛くないよ」
 クロウの言葉に、柔らかな笑みを湛えてティアは紡ぐ。

 ――だいじょうぶ。クロウくんは優しいね。

 それは、痛みを案じた言の葉に対してか、はたまた、今はまだ、と、呑込んだ何かに気づいた故のことなのか。
 其れはティアにしかわからないことだけれど。
 柔らかな笑みは、穏やかな声音は、其処に込められた感謝は、紛れもなく彼の元へと届いただろう。

 「なァ、願い事しねェ?」
 傍に揺れる一輪の銀鈴蘭をその手に迎え、クロウがティアを誘う。
 その言葉にぱっと笑み咲かせた彼女はこくりこくりと頷いて。
 「うん、うん!そうだ、せっかくだからお願い事をしよう」
 にっこり笑ったティアが、ぼくはねー、と、頬に指先を当てて思案するよな仕草を見せて。
 そうして、弧を描く瞳で彼を映し見たならば。
 「クロウくんとずっと一緒にいられますように」
 そう、柔らかに告げる。
 その言葉を受けたクロウは、声なき驚きと共に、その目を大きく見開いて。
 「ずっと……か。嬉しいコト言ってくれンなァ」
 己の声音が、柔らかくなることを感じながら、その手をティアの頭へと緩やかに伸ばし、そっと撫ぜる。
 己の頭を撫でる彼の手、その心地よさに目を細めながら、ティアはそれから、ともう一つ続けた。

 ――クロウくんの、もっと近くにいけますように。

 嬉しげに笑い告げるティアの姿が、いとけなく。
 「もっと近くってどれぐらい?」
 そう問うクロウの眦も柔らかい。
 どれくらい、そう問われた言葉には、んにー、と曖昧な笑みで返しながら。
 「……もっとを願うぼくを、欲張りだって言う?」
 問いに問い返すティアの声は、甘露のように甘く響く。
 「……それを願うのは、お前だけの特権だから」
 俺も出来うる限りお前と居たい。その想いを乗せて、甘い問いかけにクロウは応えた。
 真っ直ぐと、向けられる彼女の視線に己の其れを重ねて。
 そう、永遠などあり得ずとも、いつか涯が来ても……今だけは、と願うまま。

 ふたりの願いを乗せた銀の鈴花は、空と湖、二つの月に見守られ、柔らかにその身を揺蕩わせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

旭・まどか
ミラ(f27844)と

足先を着けた彼の地
約束の地の名に相応しい情景に
二度びの感嘆が零れる

彼女の指先に銀白が握られたなら
そういうもの?
傾げつつ、為れば倣い此方もその様に

そよ風揺らされるひとひらに沿い
惑う指先は誰が良いだろう、と
月光を一身に受け満開のそれが屹度、正解なのだろう
けれど
より相応しいのはその影にひっそりと身を忍ばせる方に思えたから
密やかに色づく七分咲きのいのちを手折り、水面へ葬る

この裡に抱く願いは常にひとつだけ
けれど
隣を見遣れば穏やかな木苺と交わるから
今日ばかりは彼女の眸の奥に宿るものが叶えば良いと

耳打つ柔らかな声音に心傾けながら
まろい黄金移す水面に流る銀白に
そう、願った


ミラ・ホワイト
まどかさま(f18469)と

虹の橋を渡り着いた地は
濃藍の夜に双子の月が顔出し
そよぐ夜風に可憐な銀白が揺れる場所

『言い伝え』と聞いて倣わずにいられない
それが乙女心とゆものなのよ
ふふと笑ってはそっと摘み取る一輪の花

お気づきかもしれませんけれど、なんて前置き
あれもこれもそれも、と欲張りなわたしのこと
込めたい願いは抱えきれないほどあるの
けれど今日とゆ日にこの胸を占める気持ちはひとつ

ふっくらした子と、つつましやかな子
ほのかにまろい光孕んだような釣鐘の花達が
身を寄せるよにゆらと流れてゆく
隣り合うふたつの薔薇色と交わるなら
内緒噺を耳打ちするよな囁きを

――これから先も、まどかさまと素敵な世界が見られますように



 ●

 麗かな陽気の中。
 花降る水のカーテンを眺めて。
 飛沫の生み出す大きな七色の橋を軽やかに渡って。
 繋ぐ手の温もり交わし、同じ景色を薔薇色と木苺のまなこに映す儘、柔らかな草にその足先を着けたのは、少しばかり前のこと。

 虹の橋を渡り着いた地の空は、いつしか濃藍色に染まりゆき。
 集う面々に驚きを齎して、湖からその姿を表したまどかな月は、ゆっくりと天へと昇りゆく。
 天と水面、双子の月が顔出し見合わせて、そよぐ夜風に可憐な銀白が揺れる場所。
 どこまでも、どこまでも優しき夜の情景は、約束の地の名に相応しい。

 そんな景をその瞳に、その身に受けて、旭・まどか(MementoMori・f18469)のその唇から、二度びの感嘆が零れゆく。
 彼の隣に並び立つ、ミラ・ホワイト(幸福の跫音・f27844)の瞳もまた、満月より受ける月光のせいだけでなく、裡から込み上げる感情のまま、きらきらとした輝きを帯びていた。
 そうしてその輝きは、彼の地にて語られるフェアリーの話を受けて、尚いっそう深みを増してゆくのだ。
 どきどきと、高鳴る鼓動も、それによって高揚する頬も、隠す事はない。
 そう、だって。
 『言い伝え』と聞いて、其れに心惹かれずにはいられないのだもの。
 そうして、その中身を知ってしまったならば、其れに倣わずにはいられないのだもの。

 ――それが、乙女心とゆものなのよ。

 鈴鳴るような、スキップするよな、かろく、かろく、そうしてほんの少し悪戯めかした音を抱き。
 ミラの言葉は、まどかへと伝えられる。
 ふふ、と楽しげに笑ったミラの手は、風に揺れるふくよかな銀鈴蘭へと伸びてゆき、そっと摘み取るは一輪の花。
 其れは、今の彼女の心のように、ふくふくと、満ちて咲いて、今正に満開の銀鈴蘭。
 そうして、彼女の柔らかな指先に、選び取られた銀白が握られたなら。
 「そういうもの?」
 と、先の彼女の言の葉受けて、緩やかに首を傾げるまどかも、為れば、と、ミラに倣いその様に。
 ゆるやかにその指先を、銀の輝き宿す柔らかな鈴の群れへと伸ばしゆく。

 そよ風揺らされるひとひらに沿い、惑う指先は、誰が良いだろう、と。
 縁を求め、円を描き、僅か宙を彷徨う彼の指。
 今宵、このとき手繰るなら、月光を一身に受け満開のそれが屹度、正解なのだろう。
 そう、今、彼女の手の中で今にもチリリと歌い出しそうな、ふくよかな。
 そんな思いも、裡へと過る。
 あゝ、けれど。

 ――……より相応しいのは。

 そう、此度、己が手繰るのは。
 並ぶ彼女のその隣、此の手で手繰る一輪は。
 そのふくよかな影に、ひっそりと身を忍ばせる方に思えたから。
 つ、と。視線を満開の其れから僅か逸らし、そのすぐ側。密やかに色づく、七分咲きのいのちを手折り、水面へ葬ることに決めたのだ。
 まどかが、彼の一輪を心に決めたことをみとめたミラは、眦柔らかに手折る姿を見守って。
 徐に、そのあえかな唇を開いた。

 ――お気づきかもしれませんけれど。

 そう、柔らかに前置いて。
 「あれもこれもそれも、と欲張りなわたしのこと」
 込めたい願いは、抱えきれないほどあるの、と、ミラは笑む。
 「けれど、今日とゆ日に、この胸を占める気持ちはひとつ」
 にこりと、そのかんばせを、花の如くと綻びせたなら。
 裡を占める其れを示すよに、銀の花を胸へと寄せて、まどかと共にほとりへと立つ。

 対するまどかの願いは……そう。
 彼の裡に抱く願いは常にひとつだけ。
 そう、ひとつだけ、なのだけれど。
 己の手にした、控えめな銀色の鈴花を見つめた後に、隣を見遣れば、穏やかな木苺と交わるから……あゝ、今日ばかりは。

 そ、と。
 ふっくらした子と、つつましやかな子。
 ほのかに、まろい光孕んだような釣鐘の花達が、ミラとまどかの指先離れ、水面へと送られて。
 身を寄せるよにゆらと、月明かりの中を流れてゆく。
 静かに流れゆく二輪の花を、彼らもまた、かの花の如く隣に身を寄せて、その行方を見守るように。
 ふと、どちらともなく互いの視線が重なって。
 隣り合う、ふたつの薔薇色と木苺色が交わったなら、そうっとミラからまどかへと。
 内緒噺を耳打ちするよな、囁きを。

 ――これから先も、まどかさまと素敵な世界が見られますように。

 耳打つ柔らかな声音に心傾けながら、まどかはまろい黄金移す水面に流る、銀白に願う。

 ――彼女の眸の奥に宿るものが、叶えば良い。

 静か、胸裡に響かせた願いは、音に乗ることがなくとも。
 きっと、その薔薇色の視線が届け、つつましやかな花へ乗っただろう。
 
 ふたつの願いは寄り添って。
 ゆらゆらと優しき水面を添うてゆく。
 鏡映しの双子月に見守られ。
 薔薇と木苺の彩に見守られ。
 きっと、きっと。
 この先ふたりを幾重も待つ、素敵な世界へ繋がる鍵にと、変わりゆくのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

眼前に広がる夜闇色と咲き誇る銀鈴蘭の花々を
古城の睡蓮の葉の上から眺めましょう

美しく輝く月と、湖に鏡と映るそれ
そしてきらめく銀鈴蘭に、ほうと魅入られるように溜息をついて
それからかれのほうへと視線を戻せば、目と目があって思わず微笑んだ

準備されたカフェインレスの飲み物を少しずつ飲み下しながら
僕は、願いは自分から叶えに行くものですから
それに僕の願いはきみとのことなので、自分で叶えなければね、と笑って

きみのほうこそいいのですかと問うたなら、帰った言葉に目を細めて
ええ、ほんとうにしあわせです
きみとこれからもうつくしい眺めを見て、幾百の年を過ごしてゆきましょう


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

滝からの景色も美しかったがこの景色もすごい物だなと思わず感嘆の吐息を漏らしつつ銀鈴蘭の咲き誇る様を眺めよう
湖に浮かぶ月と鈴蘭の花に見惚れながらも、蓮の葉の上の卓に宵と向かい合うよう座れば月明かりに浮かぶ白い整ったその顔へと視線はついぞ引き寄せられてしまうやもしれん
目が合えば照れ臭げに笑みを返しつつ、美しい夜だなとそう声を投げてみよう
茶が用意されれば口に運び楽しみながら談笑を
そういえばなんだ、宵は銀鈴蘭を流さずとも良いのか?
そう声を投げながらも、己について問われたならば今、すでに願いは叶って居るからなとそう笑おうか
ああ、世界中の美しい景色を見て回ろう。そして本当に幸せだとそう想う



 ●

 静かな夜がふたりを包む。
 湖面から昇りゆく不思議な月を驚き楽しみゆけば、其の月明かりを受け綻び咲くは銀の花。
 「滝からの景色も美しかったが、この景色もすごい物だな」
 思わず感嘆の吐息を漏らしつつ、銀鈴蘭の咲き誇る様を眺めるのは、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)。
 その隣、常の如くと彼の傍へと寄り添いながら、同じ景色と彼の姿を瞳に映し、柔らかに笑むのは逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)だ。
 湖に浮かぶ月と鈴蘭の花に見惚れながらも、今宵の此の景色をふたり共に楽しむ場と決めたのは、目の前の湖に浮かぶ睡蓮の葉の上。

 此の地に至る時のよに、しっかと手を繋ぎ、湖面に浮かぶ大きな葉を渡り行きつつ、これと決めたひとつを選べば、向かい合うよに腰を下ろして。
 ゆら、と水面に揺らめく葉の感触に、傍に浮かぶ睡蓮の花。
 煌々とした月明かりを浴び、陽とは異なる煌きで漣は光を反す。
 視線を上げ、先までいた地を眺めれば、優しく広がる夜闇色と、其処に咲き誇る銀鈴蘭の花々。
 そんな景を、湖上の睡蓮の葉の上から眺めゆく。
 美しく輝く月と、湖に鏡と映るそれ、そしてきらめく銀鈴蘭に、あゝ視界に広がる一枚の絵画のよな景色に。
 宵はほうと、魅入られるように溜息をつく。
 そんな彼の吐息を耳に、視線を動かしたなら、月明かりに浮かぶ白い整ったその顔へと、ザッフィーロの視線は、ついぞ其の儘引き寄せられて。
 まるで、縫い付けられたかのよに、彼の姿を映すままその位置で止まってしまうのだ。
 だから。
 景色から視線を戻した宵の瞳と、彼を見つめるザッフィーロの瞳が重なって。
 おもわず微笑む宵の姿もまた刻みながら、彼を見つめるが故に目が合う事実に、少しばかり照れ臭げに笑みを返す。
 「……美しい夜だな」
 と、そう声を投げたのは、言葉の通りでもあるけれど、そこに面映さを隠したかったから。
 
 向かい合う彼らの前に準備された、カフェインレスの飲み物は、魔法の卓から頂戴してきたものだ。
 その味を楽しむように、少しずつ飲み下しながら美しき景色のもと、ふたりは談笑を交わしゆく。
 日常とは離れた景の中、それでも常と変らず言の葉、思いを交わし往く時間は、特別な色を帯びてゆくのだろう。
 そんななか、ふと、思いついたよにザッフィーロが宵へと問う。
 「そういえば……なんだ、宵は、銀鈴蘭を流さずとも良いのか?」
 何気なく、己へ向けられた問いに、宵は柔らかに頬を緩めて。
 「僕は、願いは自分から叶えに行くものですから」

 ――それに、僕の願いはきみとのことなので。

 自分で叶えなければね、と。笑う彼の表情はどこまでも穏やかで。
 「きみのほうこそ、いいのですか」
 と、その問いは其の儘、ザッフィーロへと返される。
 己について問われたならば、彼もまた、眦を柔らかに緩めて口を開く。

 ――今、すでに願いは叶って居るからな。

 そう笑うザッフィーロの表情は、月明かりを帯びていっそう晴れやかに宵の瞳に映った。
 眩いほどの彼の表情も、返る言の葉も喜ばしいものだから。
 宵の瞳も、幸せそうに細められてゆく。
 そう、こういったひとときが、彼と共に、ふたり重ねゆく時間が、景色が、想い出が。
 「……ええ、ほんとうにしあわせです」
 ほろり、心のままに溢れゆく言の葉は、その裡が満ち満ちているから。
 「ザッフィーロ」
 彼の名を呼ぶ。
 其れに呼応して、彼の瞳が己を映すこともまた、嬉しい。だからこそ。
 「きみとこれからも、うつくしい眺めを見て」

 ――幾百の年を過ごしてゆきましょう。

 そう、それは。きみと僕となら叶えゆけるから。
 穏やかに、あたたかに。
 視線を向け告げる宵に、ザッフィーロもまた柔らかな視線を返す。
 「ああ、世界中の美しい景色を見て回ろう」
 穏やかに、それでいて確と言い切る声音に宿るのは、彼もまた、ふたりなら叶えゆけると確信があるから。
 そして、どこまでもその同じ願いを抱くから。
 あゝ、こうして伝え合い、共有しあえる今こそが。

 ――本当に幸せだ。

 その事実を噛み締めるように、裡に響かせて。
 先ずは、そう。
 数えきれぬ程の美しい景色に、ふたり共に出会いゆく、重ねゆくその中の、ひとつ。
 今、この瞬間を、確と刻みゆくのだ。
 まどかな光がふたりを見守る。
 銀の花が時を彩る。
 そんな、今宵を、存分に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榎本・英
やあ、ティル。
今日はナナが着いて来てくれたのだよ。

この鈴蘭に意味を与えるのかい?
此処で咲いているだけでも
十分意味があると思うのだが。

実は、私の願いの一つは置いて来たのだよ。
一つはきちんと持って来ているとも。
けれども、持ってきた願いを流すにはいかなくてね。

その願いは、誰の手も借りずに
この手で叶えると決めたからね。

さて、ここはナナの願いを流すのは如何だろう?
私もティルも知らない、ナナの願いだよ。
私ばかりでなく、彼女の願いも叶えば良いと思う。

ティルは願いを流すのかい?
君の願いは、なんて野暮な事は聞かないさ。
良ければ君も、ナナの願いが届く様を見守って呉れ。

この鈴蘭の美しさと共に。



 ●

 風にそよぐ銀鈴蘭。
 月明かりを受け花咲く鈴が、チリリと歌うように揺れている。
 同じ風を受け、柔く揺れた茶の髪は榎本・英(優誉・f22898)のもの。
 その足元を並びゆく三毛猫のナナと共に、月下の逍遥を楽しんでいた彼の瞳は、見知った秘色とそこに咲く白き鈴花を捉えた。

 「やあ、ティル」
 少し高い位置から掛かる聴き慣れた声に、湖畔を眺め腰掛けていた少女は振り返り笑み、ひらりと手を振る彼とゆらりと尾を揺らす三毛猫へと返すように、手を振った。
 「今日はナナが着いて来てくれたのだよ」
 「ほほ、英殿も、ナナ殿もこんばんは」
 此の地を楽しんでおられる?と、彼らを瞳に映し問う少女は、彼から返る笑みで肯定を知り微笑んだ。
 ゆるりと話をするならば、と。並び座るよう促す少女に応えて腰を下ろした英は、すぐ傍に咲く銀鈴蘭へと指先を添わせ、先程のフェアリーの言葉を思い出す。

 「この鈴蘭に意味を与えるのかい?」
 此処で咲いているだけでも、十分意味があると思うのだが。
 そう続けた英の言葉に、間違いはない。
 特別な意味を与えずとも、此の地に咲く花には、そこにある命には、ただそれだけで意味がある。
 「ふふ、そうじゃな、其方の言う通り。だからきっと……“この花”に意味を授けるのが、本当の目的ではなくて」
 彼女は、語り継ぐ物語が欲しいのかも知れぬよ、と、一輪、傍らに揺れる銀鈴蘭に触れ少女は笑む。
 己の産んだ愛しい景色が、此の世界が、時が経てども褪せぬよな、物語のひとつとなるように。
 此の世界を知る人に、思い出という名の物語を刻み、花と咲くように。
 「……なんて。それも、妾の想像に過ぎないのだけれど」
 と、別の場所で誰かと話すフェアリーを一瞥しては、悪戯めかしてくすりと笑った。

 「其れはそうと、英殿は何かお願い事などなされるの?」
 そんな物語の切欠に、と。彼女が語ったひとつに彼は乗るのだろうかと、視線を向けて問う娘に英は柔く笑み。
 「実は、私の願いの一つは置いて来たのだよ」
 何処に、とは言わず。ただ、置いてきた、と彼はいう。
 「置いて?」
 「そう、置いて。嗚呼、一つはきちんと持って来ているとも」
 しぃ、と秘すようにか、ひとつ、を表すようにか、指先を立ててみせる彼が穏やかに笑み。
 「けれども、持ってきた願いを流すにはいかなくてね」
 「ほぅ、お持ちになっているもう一つも、此処には流せぬものなの?」
 きょとりと瞬き見つめる少女へ、ああ、と頷く彼は続ける。

 ――その願いは、誰の手も借りずに、この手で叶えると決めたからね。

 そう告げた彼の表情は、まるで春の陽の如く、穏やかで晴れやかだ。
 そんな彼を見つめる三毛猫も、ゆうらりと揺らす尾の動きが穏やかで。
 そう、と頷く少女もまた、彼らにつられるように、柔らかく微笑んだ。
 「ならば、今宵は何も流さず、景色を楽しまれるの?」
 其れもまたいい、と緩かに告げる彼女へと、ふむ、と顎に手を当てた英は視線をナナへと向け。
 「ここは、ナナの願いを流す、というのは如何だろう?」
 「ナナ殿の?」
 パチリ、と瞬いた藤色が、彼の視線を追って三毛猫へと向けられた。
 「嗚呼、私もティルも知らない、ナナの願いだよ」
 告げて、英はその手を柔らかにナナへと伸ばし、そうっとその胸に抱き上げて。

 ――私ばかりでなく、彼女の願いも叶えば良いと思う。

 そう、告げるまま、優しく毛並みを撫でたなら、にゃあ、と小さく彼女も鳴いた。
 「ふふ、それはとうても良き案じゃな」
 ナナ殿の願いはどのようなものじゃろう、そう微笑む少女は、ならば流すお花もナナ殿に選んで頂くのがいいかしら、と。花と三毛猫とを見比べて。
 その声が届いたか否か、彼の腕からすとんと軽やかに、何処か優雅さすら感じる身のこなしで降りた彼女は、一輪の銀鈴蘭へと尾を寄せた。
 「おや、これかい?」
 問う英へと、もう一度、にゃあ、と小さく鳴くものだから、ふたり、顔を見合わせ笑い、英はその指先で三毛の尾が触れる一輪をそっと手折った。
 そんなやり取りを微笑ましげに眺める少女へ視線を向ければ、彼は問う。
 「ティルは願いを流すのかい?」
 その言の葉に瞬いた娘は、銀に輝く鈴蘭へと視線を移す。
 「君の願いは、なんて野暮な事は聞かないさ」
 「ほほ、有難う。けれども妾も、今宵は眺めるだけにとどめるよぅ」
 今は、花に乗せると欲張りなほど、満ちているから。と、内緒話のよに友へと囁いて。
 「そうか、ならば。良ければ君も、ナナの願いが届く様を見守って呉れ」

 ――この鈴蘭の美しさと共に。
 
 そう告げて、彼が水に預けた銀鈴蘭は、温かないろを湛えた6つの瞳と輝く望月に見守られ、ゆらゆらと流れゆく。
 そこに乗る願いは、柔らかに尾を揺らす三毛猫だけが、知るのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

見事なものだ

風が撫でる度に鈴音が響くよう
はしゃぐ巫女の晴れやかな笑顔も
可愛らしくて美しくてきみを見つめたままに美しいねと応えよう
愛しい薄紅を抱き寄せるのは私の巫女が月と花ばかりを見るからだ
…妬いたといったら?
桜色の頬すらも愛おしい

お茶会を?
では私は甘い蜜をとかした紅茶をいれる
上手くできればいいが
サヨのスコーン美味しそうだね
私にも食べさせてと強請ろう
偶にはいいだろう
何時だって甘えたいと思っているよ

きみが摘んだ二つの鈴花を
枯れぬように約して結ぶ
私の幸はきみに出逢えた事だ
捧げられる祈りと願いの甘さに気がついている?

片方を受け取り
優しくきみの頬に口付けを

当たり前だよ
櫻宵は私の愛しい巫女なのだから


誘名・櫻宵
🌸神櫻

なんて綺麗なのかしら

咲き誇る銀鈴蘭と湖に映る二つ月
吹き抜ける風に髪を流し鈴なる花々に感嘆の息をもらしてはしゃぐ
カムイ、見て
綺麗─気がつけば神様の腕の中
景色を見て言っている?かぁいい神様
ヤキモチかしら?なんて
そこで認められると照れる
鼓動がやまない

折角だから月夜のお茶会よ
照れ隠しに席へ誘う
甘いジャムをつけたスコーンは欠かせない
紅茶いれるの上手になったわ

今日の神様は随分と甘えんぼでかぁいらし

銀鈴蘭を二つ
神に約された花は枯れることは無い
赤い紐で結いて月に翳して
片割れをカムイに渡す
訪れた幸を繋いで離れぬよう

私の愛しい神様が
幸で居られるようにと願い祈る
──!

もう、本当に
私を咲かせるのが上手い神だわ



 ●

 睡蓮の湖から輝き昇る月。
 銀に煌めく雫をほろほろと零しながら、煌々とした満月が空へゆく。
 その身から溢れる雫がおさまったなら、凪となった水鏡にその姿はくっきりと映り、双子月となり景を彩った。
 月光を受け、緩かに頭を擡げ花弁を揺らす銀鈴蘭も加われば、其処はまるで絵画の世界。

 ――なんて、綺麗なのかしら。
 ――見事なものだ。

 咲き誇る銀鈴蘭と、天と湖に映り輝く二つ月。
 さあ、と、柔らかに吹き抜ける風に髪を流し、鈴なる花々に感嘆の息をもらしてはしゃぐ誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)と、風が撫でる度に鈴音が響くようだと眺めつつ、笑み零した朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)の声が重なった。
 跳ねるような声に視線を景色から櫻宵へと移したカムイの瞳に映る、傍にてはしゃぐ巫女の晴れやかな笑顔が、可愛らしくて美しくて。
 「カムイ、見て、綺麗――」
 はしゃぐ声音を切らさぬままに、彼へと振り様に紡ぐ櫻宵の言葉が終わらぬうち、気づけば巫女は己が神様の腕の中。
 景色ではなく、櫻宵をを見つめたままに。

 ――噫、美しいね。

 と、応える彼の声音はほのか熱の篭るよう。
 「……景色を見て言っている?かぁいい神様」

 ――ヤキモチかしら?

 なんて、細めた瞳で問う櫻宵へ、尚もその視線は逸らさぬままに。
 あゝ、だってその通り。
 愛しい薄紅を抱き寄せるのは、此の腕に閉じ込めてしまうのは。
 私の巫女が、月と花ばかりを見るからなのだから。
 「……妬いたといったら?」
 その想いを隠さぬまま、確とその薄紅に伝わるようにと、声音に熱を乗せるまま紡いだならば、侭と櫻宵の裡へと送られて。
 少しばかり、揶揄うように、戯れに、問うたつもりだったのに。
 そこで認められると、照れてしまう。
 真っ直ぐと伝わる彼の言葉に、篭められし想いと熱に、鼓動が――やまない。
 どきどきと、逸る鼓動で染まりゆくその桜色の頬すらも、愛おしげなカムイの瞳にとらわれてゆく。

 「ほ、ほら、カムイ!折角だから月夜のお茶会よ」
 照れ隠しに、櫻宵はカムイを席へと誘う。
 「お茶会を?」
 腕の中の温もりが離れゆくのは名残惜しくも、共に過ごす時間は嬉しいものだから。
 カムイも櫻宵の誘いに快く乗って、月明かりに照らされた卓へと足を向けた。
 お茶会と言ったなら、甘いジャムをつけたスコーンは欠かせない、お手製のスコーンを卓に整える櫻宵の隣、其れならば、とカムイが手にしたのはティーポット。
 「では、私は甘い蜜をとかした紅茶をいれる」
 上手くできればいいが、と添えながらも、紅茶を淹れるその姿は様になっていて。
 「紅茶いれるの、上手になったわ」
 見守る櫻宵の言葉もまた嬉しいから、彼の頬も柔らかく、つと視線を向けた櫻宵のスコーンも、焼き色美しく食欲を唆る。
 ティーテーブルが、ふたりの手で月夜のお茶会にふさわしく彩られたなら、月昇る湖を前に、寄り添うように席に着き。
 「サヨのスコーン美味しそうだね」
 甘き蜜落とした紅茶の香りに包まれながら、其れより甘い音に乗せて。

 ――私にも、食べさせて。

 偶には、いいだろう?と、そう強請るカムイに、櫻宵の眦も柔らかく。
 「今日の神様は、随分と甘えんぼでかぁいらし」
 そんなあなたを見られるのも嬉しいのだから、その口許へとスコーンを運ぶ指先も、ふわりと柔く、甘くなりゆく心地。
 そんな櫻宵の指先から、甘い贈り物を迎えた唇は、あゝ歓ぶままに、尚甘やかに囁くのだ。
 「何時だって、甘えたいと思っているよ」

 あまやかな月夜のお茶会を、ふたり、話に花を咲かせ堪能したなら。
 銀に揺れる花にも想いを馳せて。
 どちらともなく席を立ち、湖畔に足を進めたならば、櫻宵の指先にて摘まれるのは鈴花ふたつ。
 そうっと差出した二輪の銀鈴蘭を受け取ったカムイは、その花が枯れる事無いように、神の約を結びゆく。
 彼の力で約された花は、枯れることなく咲き誇る。彼から受け取るその鈴花へ、櫻宵は赤き紐で結わいて月に翳して。
 月光を浴びた煌く銀鈴蘭。ふたつのひとつを彼の手に。そう、訪れた幸を繋いで離れぬように。

 ――私の愛しい神様が、幸で居られるように。

 と、櫻宵は花を贈るまま、静か、願い祈る。
 その祈り込めた囁きを耳に拾い、柔らかな視線を向けたカムイはその花を受け取り乍ら、空いた手を櫻宵の頬に当て。
 「私の幸はきみに出逢えた事だ」
 顔を近づけ、そう紡ぐ。

 ――捧げられる祈りと、願いの甘さに気がついている?

 そう、耳元で囁いたなら、優しく櫻宵の頬に口付けを。
 己の頬へと優しく贈られる温もりに、言葉にならぬ驚きで、櫻宵はその桜色の眸をまどかにして。
 じわじわと、染まりゆくその頬も桜色。
 「……もう、本当に、私を咲かせるのが上手い神だわ」
 「当たり前だよ。櫻宵は私の愛しい巫女なのだから」

 月明りに照らされて。
 神に約され枯れぬ花は、銀鈴蘭に限らない。
 この地にて今宵変わらず染まり咲く、薄紅桜も朱桜も。
 祈りと願いを、その裡に抱き纏いて――あゝきっと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
銀の彩を宿す鈴鳴りの花
スズラン、と聞いたなら
浮かぶおもてが、ひとつ

ひいらりと舞うつがいに、ふふりと笑んで
夢の国の中を歩んで往きましょうか

嗚呼、とてもうつくしい景色ね
あなたも――
ランも、喜んでいるのかしら
なんて。問わずとも知れたこと

真白い蝶と共に先へと進んで
そうして、あなたの姿を捉えられたのなら
つい、無意識のうちに口許が緩んでゆく

ごきげんよう、ティルさん
此度のご案内もお疲れさま
あかを溢す白蝶が言葉を添えるかのよう

スズランと耳にして
あなたを浮かべていたの
不思議なこのお花には
巡り合わせの力が秘められているのかしら
そうであれば――なんて、うれしい

ねえ、もし良ければ
うつくしい月たちを、共に眺めましょう?



 ●

 煌々と輝く満月は、柔き花も、広き湖面も、そうしてヒトをも照らし往く。
 静かな夜を、浮かび上がらせるよに、穏やかな光がこの地を包む。

 月明かりを受け、灰の髪も輝きを帯び、その色を銀と見紛う程に艶と靡かせ往くのは、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)。
 彼女の傍をひいらり、ふわりとついて舞う、白蝶も柔らかなあかを零して彼女と往く。
 柔らかな草の上を、馴染みの高下駄でこつ、と行けば、胸の裡も跳ねゆくよう。
 つ、と向けた彼女の紫が捉えたのは、風をうけ、リンと鳴りそな銀ひとつ。
 「銀の彩を宿す、鈴鳴りの花」
 柔らかに紡ぐ声音は、優しい。
 そう、スズラン、と聞いたなら、彼女には浮かぶおもてが、ひとつ。
 徐に膝を曲げ、近くなった一輪に指先を添わせたなら、ふわりと、柔らかな銀が彼女へと咲むように揺れた。

 咲み揺れる一輪から指先離せば、ひいらりと舞うつがいにふふりと笑んで、ふたたび、夢の国の中を共にと歩み往く。
 昼の景も鮮やかであったけれど、夜の景もまた夢の国に違わぬ景色。
 銀の雫を零した月は、今もなお空へと昇りゆき、その身映す湖面は鏡のようでいて、花と光で身を飾る。
 湖畔に咲き誇る銀鈴蘭も、湖面に揺れる睡蓮も、この夜を彩る『今』のいろ。

 「嗚呼、とてもうつくしい景色ね。あなたも――」

 ――ランも、喜んでいるのかしら。

 なんて。そっと視線を、傍らに添う白蝶へと向けてみるけれど、あゝ其れは、問わずとも知れたこと。
 七結がくすりとわらえば、その想いが伝わるかのよに、応えるかのよに。
 つがいの白は、ふうわり、ふわ、と。七結の傍を添うて舞う。
 喜びを、己のいろで伝うよに、あかき光をほろほろと灯して。

 静かでいて鮮やかな、夢のよな夜の逍遥を、真白な蝶と楽しみ往くなか、つ、と。先を見る彼女の瞳が僅か開かれ、そののち、眦がやわと緩められた。
 視線の先を追えば、銀の鈴花に交じりて、真白の鈴花が、秘色に添うてゆら、と揺れていた。
 彼女の浮かべた、スズランのおもてを、其処に捉えることが出来たなら、七結の口許は無意識に緩んで。
 「ごきげんよう、ティルさん」
 綻ぶ唇で、その少女の名を紡ぐのだ。
 呼ばれた少女もまた、耳に馴染む柔らかな声音に顔を上げ、眦柔く彼女を映したなら。
 「ごきげんよう、七結殿。ふふ、良き夜にお会い出来て、嬉しい」
 と、笑むままに、彼女を真似て挨拶を返した。
 「此度のご案内も、お疲れさま」
 労いくれる彼女の傍で、あかを溢す白蝶もまた、言葉を添えるかのように舞ったなら、少女の笑みはますます深まり。
 「ほほ、有難う。あゝ今宵はラン殿もご一緒なのね?お会い出来て嬉しいよぅ」
 蝶の挨拶になるかしら、と。白蝶へ向け、ひいらり柔く手を振る様にあどけなさを帯びるのは、友たる彼女の前だから。

 「スズランと耳にして、あなたを浮かべていたの」
 「わぁ、ほんとう?妾を浮かべて頂けたの?」
 七結から柔らかに紡がれる言の葉に、嬉々と返す少女の表情に、彼女のかんばせもまた花咲くようにと綻んで。
 「不思議なこのお花には、巡り合わせの力が秘められているのかしら」
 こうして、思い描くまま歩んできたそのおもてと、巡り会うことができたように、と。
 嬉しげな笑みを向ける少女の姿を、穏やかないろ湛える紫色に映し、鈴鳴るように、ころりと七結も咲う。

 ――そうであれば……なんて、うれしい。

 白くあえかな指先を口許へあて、花咲く笑みを浮かべる彼女もまた、この月夜に花開く、夢の景を彩し一輪と言えるだろう。
 月光を受け、艶と咲む友を眩しげに見つめる藤彩も、柔らかに光を受けたなら。
 「へへ、妾もね、この銀鈴蘭が、優しき月夜が、七結殿とのご縁を繋いでくれたのならば」

 ――とうても、とても、嬉しいのよ。

 と、いとけなき笑みを、溢すのだ。
 そんなふたりを見守るように、白蝶がふわりふわりと円を描くよに舞い飛んで、花彩にあかを添える。
 「ねえ、もし良ければ」
 柔らかな眼差しが、向けられて。
 そう、こうして巡り合いを果たせたのだから。
 夢の国にて、夢の如くと終わらぬように。

 ――うつくしい月たちを、共に眺めましょう?

 七結からの提案に、嬉しげな笑みと共に頷き返し、ティルと七結は湖畔にふたり並びゆく。
 柔らかな草に腰を下ろして、空を見上げれば、美しい金色の望月。
 その視線をまっすぐ下ろしゆけば、同じいろを湛えたまんまるが、水鏡に映りもうひとつ。
 空と水と、透明な境界を経て向かい合う双子月は、幻想系な景を見せている。
 時を経て朝が訪れる頃には、かの月は再び湖へと戻るだろう。
 その時、ふたつはひとつになるのだろうか。

 そんな言葉を交わしゆきながら、銀鈴蘭に囲まれたふたりの夜は更けてゆく。
 傍に添う白蝶と共にその瞳に映す景色は、想い出は、ふたりの裡へと刻まれる。
 今日という日の物語となって。

大成功 🔵​🔵​🔵​

テティス・カスタリア
【双精】
『意味を与える』…ってよくわからない
でも好きにしていいって言ってた
ならそれでいい、筈
「シルヴィ、したいことは?」
ベクトル、相変わらずシルヴィ任せ
正直陸へ上がってきた目的も、もう終わって
それこそ今居る意味、もうなくしてしまったから
その内シルヴィたちの海賊船で居候するのもやめるかも
でも、今は関係ない話
望まれるまま
透明なまま
「船、押すなら水入る。自分で漕ぐ?」
じゃあ乗る

?湖の底、何か見えたかも
「…シルヴィ、ちょっと待ってて」
人魚になって、するんと飛びこんでチカッとした物を手に上がってくる
「これ、また見つけた」
何であったか知らないけど
シルヴィの帽子の、世界中に散ったらしい飾り石
「ん、わかった」


シルヴィア・セーリング
【双精】

素敵な景色がまだありそうね!
え、また私が決めていいの?
じゃあ…湖の上に行かない?銀鈴蘭も一緒に!
一緒に過ごす思い出もこの子達の“意味”に繋がるんじゃないかなと思って!
新しい世界での、素敵なはじまりを見つけましょうね!

土属性魔法で銀鈴蘭の鉢を作り
ボトルから出した船に乗るわ
ふふ、ありがと!
でも、今日は私と風に任せて
船は…『私』は誰かを乗せて一緒に冒険するのが好きだから!

あ…
テティがそのまま水に帰っちゃいそうに見えちゃって…思わず手を伸ばす
でも、待っててって言われたから…
ーおかえり!
その石…!此処にもあったのね!
…ねえ、テティ
また一緒に冒険に行こうね
一緒にいっぱい『宝物』を見つけましょうね!



 ●

 柔らかな月光を受け、銀の花が煌めく。
 さわさわと吹く風は、柔き鈴と水面を揺らす。
 まるで澄んだ音すら聞こえてきそうな銀花を見やり、テティス・カスタリア(想いの受容体・f26417)は、ポツリ、と呟いた。
 「『意味を与える』……って、よくわからない」
 ほろりと溢れたその言の葉は、テティスの偽りなき感想。
 そして、思い出されるのは、フェアリーがその後に続けた言葉。
 はじめのは、よくわからない……でも、好きにしていいって言ってた。

 ――ならそれでいい、筈。

 そう、己の中で結論付けたなら、テティスが選ぶのは、ひとつ。
 「ねぇ、テティ、素敵な景色がまだありそうね!」
 そう、彼へ向け、晴れやかな笑みを向けるシルヴィア・セーリング(Sailing!・f30095)へと、ゆるりと真っ直ぐな視線を向け、ふわ、と常のよに少し浮くまま近寄ったなら。
 「シルヴィ、したいことは?」
 と、問う。
 「え、また私が決めていいの?」
 瞬くシルヴィアに、こくりと頷いて返すテティスのベクトルは、相変わらずと彼女任せだ。
 正直なところを語るのならば、テティスが陸へ上がってきた目的も、もう、終わっているのだ。

 ――それこそ今居る意味、もうなくしてしまったから。

 決して言の葉には、今彼女の耳に届く音としては、乗せないけれど。

 ――その内、シルヴィたちの海賊船で居候するのもやめるかも。

 そんないつかのもしも、過ぎるほど。
 今の、陸での、彼の存在する意味は、透明で。
 あゝ、でも其れは、今は関係ない話、と。
 静かに、委ねるままにと、シルヴィアをみつめた。
 そんな彼の裡は、知らぬまま、そうねぇ、と小首を傾げていたシルヴィアが、ポン、と手を打ち鳴らす。
 「じゃあ……湖の上に行かない?」

 ――銀鈴蘭も一緒に!

 明るい声音でシルヴィアが指し示す先には、きらきらと銀を煌めかせる鈴の花。
 「一緒に過ごす思い出も、この子達の『意味』に繋がるんじゃないかなと思って!」
 と、笑む彼女の表情は何処までも明るくて、そう、きらきらと陽を受け煌めく、真夏の海を映すよに。
 「新しい世界での、素敵なはじまりを見つけましょうね!」
 伸ばされる手は、銀鈴蘭だけでなく、目の前の……そう、テティも一緒に、と告げるよに。
 そんな彼女の言の葉に、想いにと。
 望まれるまま、透明なまま、テティスもまた、頷いて。
 そんな彼の肯定に、笑みを深めたシルヴィアは、この地の土へと手を触れて、土属性魔法で鉢を作り、そこに銀鈴蘭の花を迎えた。
 大切そうに、鉢を胸に抱えたならば、ボトルから出した船……『彼女』でもある、セーリングカヌーに乗る。
 たん、と、乗り慣れた風に湖のほとりから、船の上へと渡った彼女へと、静か、テティスは口を開いて。
 「船、押すなら水入る。自分で漕ぐ?」
 己はどうすればいいだろうかと、澄んだ瞳でシルヴィアへ問う。
 「ふふ、ありがと!でも、今日は私と風に任せて」

 ――船は……『私』は、誰かを乗せて一緒に冒険するのが好きだから!

 伝える笑顔は晴れやかに。
 伸ばす手は彼を迎えるように。
 「じゃあ、乗る」
 そんな彼女の誘いを受けて、こくり、柔らかに首を縦に振ったテティスは、言葉少なに受け入れながら、『彼女』へと乗り込んだ。

 月明かりを浴びて、銀に揺れる鈴花をも乗せて、静かにカヌーは水面を泳ぎ行く。
 柔らかな風に祝されて、シルヴィアが舵を切るままに、月映す湖面をすい、と往く。
 心地よい風が頬を撫で、花と水の香りが裡を満たしゆくような。
 静かな、穏やかな月夜の船遊び。
 船の軌跡に水面が揺れるが、ふと。其れとは異なる煌めきを、テティスの目が捉えた。

 ――……?湖の底、何か見えたかも。

 己の直感が、其れを見逃すなと告げたよで。
 「……シルヴィ、ちょっと待ってて」
 告げたテティスは、ひらりとその身を人魚と変えて、するんと、湖へと飛びこんでゆく。
 「……あっ」
 かける言葉も紡ぎ切らぬまま、水中へと姿を消した彼の姿が、あまりにも自然だったから。
 彼がそのまま、水に帰っちゃいそうに見えてしまって。
 思わず伸ばした手が、行き場を失ったように宙で止まる。
 彼が潜った後の波紋は既に無く、静かな湖面から、月が見ている。
 その代わり、過った不安が、胸に波紋を残すけれど……でも。
 「待っててって、言われたから……」
 彼の言葉を信じて、水面を見つめる瞳は真っ直ぐと。
 そして、銀鈴蘭の鉢を握る手には、知らず知らずと力が籠る。

 ――……パシャッ。

 水音と共に、チカッと煌めくものを手にしたテティスが水面に顔を出す。
 「――おかえり!」
 思わず跳ねゆく声音にて、彼を迎えるシルヴィアへ、すい、と泳ぎ戻るテティスの手には、きらりと煌く飾り石。
 「これ、また見つけた」
 そうして、彼女へと手渡された飾り石は、シルヴィア帽子から世界中に散ったという、飾り石の一つだ。
 「その石……!此処にもあったのね!」
 己の探すその石を、彼が見つけて来てくれた。
 消えることなく、約束通りに此処へ戻って。
 飾り石が見つかったことも嬉しいけれど、安堵のような胸の温かさはきっと、彼に『おかえり』と告げることが出来たから。
 そう、だから。
 「……ねえ、テティ。また一緒に冒険に行こうね」
 銀鈴蘭を抱いた儘、願うように約束を。
 「ん、わかった」
 いつものように、言葉は短く端的だけれど、頷き返る彼の言葉が嬉しいから。
 その言葉で、続く冒険が楽しみだから。
 シルヴィアは、晴やかと笑み告げるのだ。

 ――一緒にいっぱい『宝物』を見つけましょうね!

 月明かりの中。
 銀の鈴花が見守る中。
 船たる『彼女』のその上で、交わされた約束は。
 ふたりで見つける新たな『宝』、そこへと続く地図にきっとなる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月17日


挿絵イラスト