大祓百鬼夜行㉕〜愛し慈しみ、そして
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東京スカイツリーの最上部に設置された『ゲイン塔』。
そこに彼女――、『大祓骸魂』は現れた。
真っ直ぐに切り揃えられた黒い髪が、風に靡かれ揺れる。
愛しき世界を見下ろすその目は、無垢な少女のそれだった。
『愛するUDCアース あなたを永遠にしたい』
月の光に照らされて、彼女が手にする懐刀が鈍く光る。
――あと、ひと刺し。あとひと刺しで、その願いが叶う。
彼女の懐刀は、時間さえかければ殺せないものはないのだから。
そう、それが例え、世界だったとしても。
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「愛されすぎるのも困っちゃうものだね。……さて、戦争も大詰めだ」
これまでの戦いもお疲れ様、と告げてから。アルテュール・ドリィブ(ガラクタドール・f03646)は早速説明に取り掛かった。
とは言え、彼女のことを知らないひとはそんなにいないだろうけれど、と呟いて。
「ええと……。彼女こそが、究極妖怪『大祓骸魂』だよ。東京スカイツリーの頂上にいる」
戦い方は無茶苦茶だ、とアルテュールは困ったように笑う。
大祓骸魂は、その膨大な「虞」によって、東京上空をまるでカクリヨファンタズムのような空間に変化させている。
その影響か、今回の戦場に存在したあらゆる手段を行使して猟兵たちに襲い掛かってくるそうだ。
「まあ、それは裏を返せばこちらの得意分野で戦うことが出来るということでもあるし。あなたたちなら、勝てると思ってる」
でも、相手は骸魂の元凶たる究極妖怪にして、UDCアースの大いなる邪神でもある。油断は禁物だ。
どうか気を付けて、と告げたアルテュールの手のなかでグリモアが光る。
瞬きすれば、ぱちり。あかい瞳と視線がぶつかる。――そう、此処はもうスカイツリーの頂上。
あなたと目が合ったあかい瞳の少女は、――大祓骸魂は。嫋やかに微笑んで、やわらかな声で囁いた。
「猟兵たちよ あなたたちを待っていました 私を止められますか」
あまのいろは
あいのちからってつよい。あまのいろはです。 ついに最終決戦ですね!
こちらは、大祓百鬼夜行の戦争シナリオです。1章のみの構成になります。
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プレイングボーナス:全ての戦場のプレイングボーナスから好きなものを選び、使用できます。
詳しくは戦争概要ページをご確認の上、番号で指定してください。
特に指定がない場合、プレイングボーナスは【真の姿を晒して戦う】になります。
補足情報:大祓骸魂を救うことはできません。
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プレイングの受付は5月29日(土)08:31からになります。
タグに『プレイング締切』と表記されるまではプレイングを受け付けております。
受付時間前、プレイング締切後に届いたプレイングは不採用とさせて頂きますので、ご了承くださいませ。
それでは、世界を救いに参りましょう。皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『大祓骸魂』
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POW : 大祓百鬼夜行
【骸魂によってオブリビオン化した妖怪達】が自身の元へ多く集まるほど、自身と[骸魂によってオブリビオン化した妖怪達]の能力が強化される。さらに意思を統一するほど強化。
SPD : 生と死を繋ぐもの
自身が装備する【懐刀「生と死を繋ぐもの」】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 虞神彼岸花
【神智を越えた虞(おそれ)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を狂気じみた愛を宿すヒガンバナで満たし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:菱伊
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
佐伯・晶
ボーナス㉑
いよいよ決戦だね
世界や妖怪の為にもここまで頑張った皆の為にも
皆と協力して打倒を目指すよ
永遠にするか
あいつと同じような事言ってるなぁ
あら、私は誰かを殺したりしませんの
輝かしい姿のまま永遠にしますの
人間からすれば大差ないんだけどね
虞は飛んで躱したり
神気で防いだりして凌ごう
親分から学んだ虞知らずもあるしね
彼岸花による強化は厄介だね
でも、ここはUDCアースで
そして人間も無力じゃないだよ
UCを使用
UDC組織にも増援を頼み
ドローン編隊のミサイル攻撃で
彼岸花ごと大祓骸魂を薙ぎ払おう
この世界を愛してくれて悪い気はしないけど
まだまだ新しい存在が生まれ続けてるんだ
だから過去は大人しく眠っててくれないかな
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究極妖怪『大祓骸魂』との決戦は、スカイツリーの最上部、ゲイン塔。
戦場へと送られた佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)の頬を、風が軽く撫でた。
晶の視線の先には、世界を見下ろす少女がひとり。――――彼女こそが、大祓骸魂。UDCアースに揺るがない愛を注ぐもの。
けれど、その愛はとても、とても自分本位で。殺して、過去にして、永遠にしたい、なんて。
「永遠にするか。あいつと同じような事言ってるなぁ」
どこか呆れたような晶の呟きに、彼女と融合した邪神が不満そうに囁く。
『あら、私は誰かを殺したりしませんの。輝かしい姿のまま永遠にしますの』
――――殺してしまったら、そのものが持つ輝きが失われてしまうでしょう?
くすくすくす。可笑しそうな笑い声を聞いて、彼女も大祓骸魂も同じものであった、と晶は思い直す。神と人では、見えるものも、思うことも違うのだ。
「人間からすれば大差ないんだけどね」
そんな晶の言葉も、神である彼女たちはきっと分からないと言うのだろう。
戦場は、大祓骸魂から溢れる虞で満ちていた。
「世界や妖怪の為にもここまで頑張った皆の為にも、打倒を目指すよ」
多くの妖怪たちが、その身を捧げてくれた。新し親分から学んだ虞知らずもあるし、彼女がどんなに強敵だとしても、立ち止まる理由だなんて、ひとつもなかった。
晶は持てる力すべてを使って虞を躱し、防ぎ、大祓骸魂の虞を凌いでいく。
けれど、攻撃を凌いでも、それは彼岸花へと姿を変え、大祓骸魂の力を高めてしまう。
「厄介だね」
『私はこの世界を愛しています この世界を永遠にするためなら なんだって』
顔色ひとつ変えず、大祓骸魂は嘯く。
その真っ直ぐな瞳には、迷いも、躊躇いも、誤魔化しも、なにひとつみえない。
「……この世界を愛してくれて悪い気はしないけど」
晶のその言葉も、本当だった。けれど、この世界はまだ、今この瞬間も歴史を紡いでいて。
「まだまだ新しい存在が生まれ続けてるんだ」
例えば、この瞬間に。生まれた新しい命もあるかもしれない。始まった関係もあるかもしれない。
「だから、過去は大人しく眠っててくれないかな」
この世界がおしまいになるとしても。それは、過去によってだなんてことは、ないのだから。
「――……人間も無力じゃないんだよ」
ユーベルコード、試製火力支援無人航空機。
小型のミサイルが飛来して、大祓骸魂に次々に着弾する。UDC組織の力も借りた攻撃だ、その威力は計り知れない。――――彼岸花が、燃えていく。
大祓骸魂はと言うと。彼女は、燃え盛る彼岸花のなか、微笑みを湛えたまま立っていた。
彼女の愛は、まだまだ折れそうにない――……。
成功
🔵🔵🔴
琴平・琴子
⑮
真の姿を晒しましょう
貴女がUDCアースを愛するというのなら
私は愛された姿で
愛する者と愛された者の対決をしましょう?
私は貴女を留めてみせましょう
足元ご注意、周りにいらっしゃる妖怪さん達も邪魔ですね
絡め取って払い除けておしまいなさい
愛がなんですか
永遠が何ですか
そんなの愛なんて呼びませんよ
愛とは心が真ん中にあるでしょう?
心を受け止めると書く真心の事を愛と呼ぶんですよ
それなのに
貴女の愛は自分勝手すぎる
そんなの愛じゃない
精々下心の恋なんじゃないですか
喋らなくて結構ですよ
貴女が喋れば喋る程私の中で嫌気が差すだけですから
ほら
動けば動く程
もがけばもがく程
食い込む棘の味はいかが?
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父に、母に、愛された姿。
それが、琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)の真の姿だった。
UDCアースを愛すると嘯く大祓骸魂と、両親に愛されてきた琴子。――――愛する者と、愛された者の対決をしましょう?
「私は貴女を留めてみせましょう」
足元で揺れる彼岸花。ざわわと群がる妖怪たち。みんな、みぃんな、邪魔ですね。
「足元ご注意、絡め取って払い除けておしまいなさい」
琴子がそう呟けば。大祓骸魂の足元から、ぞわりと棘が吹出した。
棘に絡め捕られながら、大祓骸魂はぱちり瞬くと、琴子の顔をじぃと見た。ばちりとぶつかるふたりの視線。どちらも視線は逸らさない。
「…………愛がなんですか。永遠が何ですか」
この世界を、愛していると大祓骸魂は言う。けれど、琴子はそうは思わない。
この世界で生きているひとたちに目を向けることもなく。それを想像することもなく。愛しているなんて綺麗な言葉で蓋をして。殺してしまおうだなんて、それを永遠と呼ぶだなんて。
「そんなの愛なんて呼びませんよ」
琴子の言葉に、大祓骸魂の瞳が不思議そうにくりりと丸くなる。
何を言われているか分からない、なんて表情で琴子を見るものだから。――ああ、それも気に入らない。
『私の愛を 疑うのですか』
きゅう、と無意識に拳に力が入る。手のひらにきりりと爪が食い込む感触がして、琴子ははっと手を開いた。
「愛とは心が真ん中にあるでしょう? 心を受け止めると書く真心の事を愛と呼ぶんですよ」
愛がどういうものなのか、琴子は知っている。
だって、彼女は愛されてきたのだから。もらった言葉が、撫でてくれた手が、それらすべての記憶が、琴子のなかに今もやさしく残っている。
「それなのに、貴女の愛は自分勝手すぎる」
大祓骸魂の言う愛からは、やさしい気持ちも、しあわせな気持ちも、なにひとつ感じない。あるのはただ、嫌悪だけ。
「……そんなの愛じゃない。精々下心の恋なんじゃないですか」
恋を、否定するつもりじゃないけれど。大祓骸魂の言う愛と、琴子の知る愛は、あまりにも掛け離れすぎていたから。
『理解できなくとも構いません これが私の――……』
「喋らなくて結構ですよ」
大祓骸魂の言葉を、琴子は遮った。何を言われたとしても、嫌気が差すだけ。
彼女の心情と連動するように棘はざわわと騒ぎ出し、彼岸花を根こそぎ払いながら辺り一面を棘の森へと変えていく。
「ほら。動けば動く程、もがけばもがく程、食い込む棘の味はいかが?」
それでも、大祓骸魂は。これが愛だと、笑うのだろうか。
笑いたいなら、笑えばいい。でも、こんな自分勝手な思いを愛だなんて、私は絶対に認めない。
その足を、進めてなるものか。――――ざわわと棘の森が揺れた。
大成功
🔵🔵🔵
香神乃・饗
誉人f02030と
真の姿は今の姿と変わらないっす
いまの主、誉人がこの姿に固定してくれたっす
でも力はマシマシっす!
ずっと一緒に居たいなら
居ればいいじゃないっすか
でも相手はそうしたいって思っているんっすか?
答えを聞かないまま手をくだし嫁ぐのは愛とは言わないっす
ただの片思いっす
誉人に対してはいつもと変わらないように接するっす
どんな格好をしてても誉人には違いないっす!
初めて見たこの超絶イケ狼姿でも
いつも通りにっと笑顔
周りの敵の妖怪の陰に隠れたり敵を剛糸で引き寄せたりして誉人を含めて刃を避ける
誉人の花弁という地形を利用して暗殺を狙って斬りにいくっす
誉人が斬り易いように大きな隙を作るっす
なんか言ったっすか
鳴北・誉人
饗f00169と
真の姿
紺瞳の黒毛の大狼
狼の間は一切声を発さず
ヒトの時と体長は変わらない
愛してっから殺してずっと一緒ってな…
愛したンならずっと健やかでいてほしいだろ
そいつの幸せしか考えねえだろ
ずっと一緒にいてえってのは、よくわかるがな
俺の血を再認識するから狼の姿は好きじゃねえ
でも
どんな姿の俺でもいいと言ってくれた
初めて見せるから緊張するけど
(なあ饗、こわくねえか?)
オーラで防御したUCの花嵐で妖怪の集結を阻害し
同時に敵の視線を遮れたなら
残像を纏い加速し間合いを詰め
咥えた脇差で斬り込む
斬傷を抉るよう花弁を繰り追撃
花は饗の姿も隠すだろう
(狂ってンのはお互い様だからァ、せめて愛に目が眩んだまま逝けよ)
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月に照らされるは、獣の姿。それと、それに寄り添う人影。
紺の瞳を持つ黒毛の大狼は、鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)の真の姿。寄り添う人影は、香神乃・饗(東風・f00169)のものだった。
(俺の血を再認識するから狼の姿は好きじゃねえ)
僅かに視線を落とせば、人のものとは違う鋭い爪が視界に入る。
(でも、どんな姿の俺でもいいと言ってくれた)
人目にみせることすら抵抗があるのに。饗にこの姿を見せるのも、始めてのことで。
(――……なあ饗、こわくねえか?)
獣の姿では、人の言葉を発することは出来ない。言葉の代わりに誉人がうるると小さく唸れば、饗がぱちりと瞬く。
そうして、にっと笑って見せた。いつもと変わらない、明るい笑顔。どんな格好をしてても誉人には違いないっす! そう言いながら。
新しい姿を認めた大祓骸魂は、捉えられていた棘からずるりと抜け出して。ふたりの前にとん、と下り立った。今まで受けた傷も、なんてことないとでも言うように、涼しい顔で。
そうして、自由になった大祓骸魂は、じぃとふたりの顔を見てから、あまい声色で囁く。
『猟兵たちよ あなたたちも ただの人ではないでしょう』
その言葉に含まれているものは。
彼らに流れる時間は人のものとは違うという事実だ。ふたりはそういう存在だということを、大祓骸魂は見抜いていた。
――人より短命だと言われているもの。人より永く生きるもの。
誉人がちらりと、饗の横顔を見る。彼は、愛する人との別れを知っているから。
けれど、彼の瞳が揺らぐことはない。別れも知っているけれど、出会う喜びも知っているから。そして、何より。今は隣に、誉人が居るからだった。
「ずっと一緒に居たいなら、居ればいいじゃないっすか」
ぎゅう、と拳を握って。饗は大祓骸魂に問う。
それを相手も望んでいるのかを。答えを聞いたのかを。それは、独りよがりな感情ではないのかと。
「それを愛とは言わないっす、ただの片思いっす」
『片思い』
大祓骸魂は、くりりと丸い瞳を見開いてから。きゃらきゃら可笑しそうに笑った。
『それも愛と 呼ぶのではないですか』
どこまでも純粋で、だからこそ狂気めいた愛。どれだけの時間が流れても。人から忘れ去られてもなお、貫き続けた愛だ。
言葉では、きっと届かない。けれど、猟兵たちは自分の前に立ち塞がるということを、大祓骸魂も分かっている。――だから。
『これが私の愛です』
力で示すしかないのだろう。懐刀「生と死を繋ぐもの」が大祓骸魂の手を離れると、それはひとつ、ふたつと数を増やし、ふたりへと襲い掛かる――……!!
「……誉人は大丈夫っすか?」
ユーベルコード、香神共鳴の力で饗は飛び交う懐刀を次から次へと切り落としていた。
この技は、誉人といるときだけのとっておき。けれど、襲い掛かる懐刀すべてを防げたわけではなかった。彼女は究極妖怪で。その力は流石すべての元凶、と言ったところだろうか。
ぽたり。饗の頬から血が滴り落ちる。鈍と言えど触れれば皮膚は裂けるし、切り付けられた傷はぢくりと痛む。
「わっ! 誉人!?」
誉人が傷ついた饗の頬を軽く舐めた。口のなかに、鉄の味が広がる。慌てて頬を擦る饗の姿を見てから、誉人は大祓骸魂へ視線を移した。
(愛してっから殺してずっと一緒ってな……)
ずっと一緒に居たい。その気持ちだけなら、よく分かる。分かるけれど、でも、それだけだ。
(愛したンならずっと健やかでいてほしいだろ。そいつの幸せしか考えねえだろ)
殺して永遠にする、なんて。きっと、間違いなのだろう。だって、猟兵だけではなく、妖怪たちまで立ち上がったのだから。
(ずっと一緒にいてえってのは、ああ、本当によくわかるがな)
ぶわり、と。誉人の武器が形を変える。戦場に巻き上がる、白いアネモネの花弁。
それらは大祓骸魂と、辺りに集まっていた妖怪たちの視界を奪うには充分な数だった。
きっと、花は饗の姿も隠すだろう。すこしくらい離れたって問題ない。花弁の隙間を縫うように、誉人が駆けた。
残像を纏い、地を蹴る。例え懐刀が身体を刻んでも、より早く、早く、早く――……!!
『……!!』
――――大祓骸魂が見たものは。
白い花びらの間から飛び込んでくる、口に脇差を咥えた、美しく凛々しい、黒い狼の姿だった。
(……狂ってンのはお互い様だからァ、せめて愛に目が眩んだまま逝けよ)
誉人の刃が、大祓骸魂の腕を切り裂いた。白い花にぱっと、赤が咲く。
白い花が消えれば、饗が誉人のもとに駆け寄ってきた。
無茶をして、とでも言いたそうな顔を見て、誉人がくるると喉を鳴らす。
「そう言えば誉人、さっきなんか言ったっすか?」
饗がそう聞きながら、その身体にそっと触れれば。とくん、とくん、と、生きている鼓動が鳴っていた。
成功
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岩永・勘十郎
「お前さんに恨みは無いが、お前さんの死を皆が望んでいる。
悪いが……斬らせてもらうぞ」
そう言って刀をゆっくり抜き、【恐怖を与える】【殺気】と共にマントを脱ぎ棄て本気の姿となる。
敵の攻撃を【第六感】で感知し、全ての攻撃を【受け流し】ながら斬り付けダメージを与えて行く。五感では得られない見えない物が見える仏の境地。それは全てを【見切り】、まるで【読心術】で先を読んだかのようだ。きっと【幸運】も勘十郎に味方する。
「さぁ、そろそろ終わりにしよう」
そう言ってある程度ダメージを与えた相手の肉体にUCを発動した魂や存在、技の概念その物を断ち切る力を纏った刀でトドメと言わんばかりに斬り付ける。
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傷が深い、と思った。
――――無理もない。猟兵たちの攻撃は、大祓骸魂の一瞬の隙も見逃しはしなかったのだから。
けれど。どんなに傷を負ったとしても。どんなに否定されたとしても。それは、退く理由にはならない。
だって、これこそが彼女の愛で。愛しいものを永遠にする、一度かぎりの好機なのだから。
だから、大祓骸魂がその愛を疑うことはない。間違っていたと認めることもない。彼女はきっと、最後のその瞬間までも愛を貫くのだろう。
「お前さんに恨みは無いが、お前さんの死を皆が望んでいる」
岩永・勘十郎(帝都の浪人剣士・f23816)は、彼女の愛について触れることはしなかった。きっと何を言っても分かり合えないと、心のどこかで感じていたのかもしれない。
「悪いが……、斬らせてもらうぞ」
そう言うと、勘十郎はゆっくりと刀を抜く。勘十郎の殺気で、ぴん、と空気が張り詰める。脱ぎ捨てたマントは、風に煽られ飛んでいった。
大祓骸魂が集めた妖怪たちは、ゲイン塔の周りをぐるりと取り囲んでいる。
猟兵たちの手によってその数は随分と減ったけれど、まだ大群と呼べるほどの数だ。彼らによって強化されてる大祓骸魂の攻撃を、すべての攻撃を受け流すことは難しいかもしれない。
勘十郎は、感覚を研ぎ澄ませる。目で見えないものは、視界以外のもので感じればいい。――それは、五感では得られない、見えないものを見る境地。
己の腕を疑うな、ひとつでも多く先を読め。例え運だとか形のないものも、それらすべて味方に引き込んで。
「さぁ、そろそろ終わりにしよう」
『いいえ 私の愛は 揺るぎません』
飛んでくる懐刀を見切り、避ける。勘十郎とて無傷なわけではないけれど、その足は止まらない。
大祓骸魂は、あとひと刺しで願いが叶うと言った。あとひと刺しで殺すことが出来るのだと。愛する世界を永遠にするのだと。
けれど、その願いは敵わない。だって、猟兵たちがそれを許すわけがないのだから。
「……万有を返す!」
――――一閃。勘十郎の刀が、大祓骸魂に届いた。
鋭い太刀筋が斬ったのは、大祓骸魂の身体そのものだったのか。それとも、彼女の執念とでも言えるほどの、狂気めいた愛だったのか。
『…………嗚呼、』
ふらり。力の抜けた大祓骸魂のちいさな身体が、風に煽られスカイツリーからぽおんと投げ出される。
『私の愛しき UDCアース あと あとひと刺しで――――……』
ひらひら、ひらと。スカイツリーに咲き乱れていた彼岸花が散って。空を覆うほどの妖怪たちが、ざざざと引いていくのが見えた。
スカイツリーに居る猟兵たちは見ていた。大祓骸魂が最後まで愛を貫いた姿を。
身勝手な愛だ、と誰かは言うだろう。でもそれも愛の形だ、と誰かは言うだろう。
確かなことは、猟兵たちの手によって、世界の破滅がまたひとつ遠退いたということだけだ。
今も彼女は、骸の海でひとり、夢をみているのだろうか。愛しき世界を永遠にする夢を、ずっと、ずっと、ずっと――――……。
大成功
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