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【旅団】蛇の道は蛇

#キマイラフューチャー #【Q】 #旅団

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 薬には薬で対抗しなくっちゃね。
 妖狐の薬屋がそう九雀へ笑ったのは、青薔薇の仕事が終わってしばらく経ち、とある噂がとある場所にて広まり始めたからだった。
 ――曰く、悩みがあるならその薬を飲むとよい。
 ――曰く、薬についてくるアプリを読み込んで起動すると、神様になれる。
 ――曰く、神様になるととっても素敵なことが起きる。
 ――曰く、嫌なことは全部忘れられる。
 ――曰く。

「世界を明日滅ぼせてしまう」

 それはすべて、きっと事実だった。無論、世界と言ったって、『その薬を使った者』を取り巻く『世界』が精々だろうが。
 だからさ――神様なんぞをホイホイ呼び出したがるやつらに一泡吹かせてやりたいのさ。蛇のような顔で笑う狐は、九雀の屋敷、そのガゼボでそう言った。寒さの強くなってきた、十月頭のことだった。残暑の消えた街並みからは深まる秋の匂いが漂い、死にゆく生き物の匂いが濃くなる。そして誰もが皆、服を厚く着込んでゆくのだ――まるで自分の中の何かを隠すように。

「どうやって売り込もうか?」
「アンタだけが痛い辛い思いしてるのが『不平等』だと思うからで?」
「この世のものとは思えぬものにする薬?」

 いつぞやに言った台詞を再び口にしながら、呵々と笑って狐は仮面と顔突き合わせ、青い目光らせ『お願い』をする。

「ねえ九雀、僕を送って欲しい場所があるんだよ」

 得体の知れない『おくすり』なんぞに手を出して。
 得体の知れない『利益』と『願い』を浪費している場所なんだけれどね。

 かくして仮面は、その狐のためにグリモアを起動したのだった。

 


桐谷羊治
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 【これは旅団シナリオです。旅団「廃墟寸前の古い屋敷」の団員だけが採用される、EXPとWPが貰えない超ショートシナリオです】

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 なんだかポンコツなヒーローマスクのグリモア猟兵にてこんにちは、桐谷羊治です。
 番外編な旅団シナリオです。

 参加者様は既に決まっておりますので、その方以外は参加できません。ご了承ください。
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第1章 冒険 『ライブ!ライブ!ライブ!』

POW   :    肉体美、パワフルさを駆使したパフォーマンス!

SPD   :    器用さ、テクニカルさを駆使したパフォーマンス!

WIZ   :    知的さ、インテリジェンスを駆使したパフォーマンス!

👑1
🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ロカジ・ミナイ
ただのヤキモチ負けず嫌い
目に見えない神様なんてオバケと大差ないから嫌い
何より僕は僕が作った薬以外の薬が大嫌い

オリジナルを参考に奇稲田で作った薬をさらに改良しアレンジを加えた「まがいもの」
ホンモノの効能が世界を滅ぼせるような全能感ならばその通りに
しかしドラッグというにはぬるくて優しすぎる「改良」
加えて僕の薬は効かなきゃ腹壊して終わり
下剤にゃ丁度いい

この辺のクスリのルートにはちょいと詳しからね
流通の出処として種を撒く
死にたい女、儲けたい男、イイコトしたい青少年
治されたい人間はゴマンといて
大抵は秘密が好きで口が軽い

新雪みてぇなかわいいあの子らが汚れちまうその前に
手足の早い僕は一足先に足跡をつけるのさ



 
 
 或る女A曰く:

 ――薬を売ってくれたのはどんなやつだったかって? ……黒髪で、毛先だけピンク色にした、青色の目の……そうね、同じピンク色の眉毛が特徴的な男の人よ。ハンサム……だとわたしは思ったわ。欄干で、ぼーっと、死にたいなあ、死んじゃおうかなあ、なんて、川を見てたのよ。え? 違うわよ。わたしが。なんで死にたかったのかって? はあ……じゃあなんであんた、生きたいと思うの? なんで死にたくないの? ……生きるも死ぬも等価でしょう。そうでしょう? それで、薬を売った人についての話は要らないの? ああ、そう。それなら黙って聞いておきなさいよ。こっちはもう、捨てるものなんて何もないのよ。いつだってあんたをブチ殺してやれるし、ブチ殺されてやれるの。わかったなら黙って質問だけして。そう。ええ。そうよ。その男がね、今流行ってる例の薬より「ずーっといいもの」を売ってあげようって言ったのよ。まあ正直、流行りのやつも眉唾モノだと思ってたけど……どうしてかしらね。その男の薬は、何となく『信じてもいいかな』なんて思ったのよ。あの男が自分のことを薬屋だなんて名乗ったからかしら? 『このお医者の薬はね、よーく効くんだよ』なんて……まるで処方箋でも渡すみたいに……わたしに薬を握らせたからなのかもしれないわね。十月なんて、日が暮れるのが早くなってるじゃない? 夕暮れ時のオレンジ色に、男の青い目が、とっても綺麗だったのを覚えているわ……まあ、薬は、効いたと思うわよ。まだ生きてるもの。しばらくお腹を壊したけど、あれはきっと、お酒の飲み過ぎだと思うわ――飲み過ぎてよく吐いちゃうの。ああでも、あの薬を飲んでからは、お酒も飲んでいないかもしれないわ。そうね、世界はきっと変わったわ。だから実はね、同僚にも上げたのよ。同僚はお腹壊したみたいだけど――わたしと同じような気持ちだったみたい。だから結構、もらった薬は皆に配ったかもしれないわね? そう考えると、あの男は、何者だったのかしら? ま、今にしちゃ、例の薬なんか手を出す気はこれっぽっちもなくなったわね。もう救われたのに、これ以上救われたいなんて思わないわよ。

 ●

「ただのヤキモチ負けず嫌い」

 ●

 或る男A曰く:

 ――薬を売ってくれたのはどんなやつだったかって? 嫌な男だったよ! 眉毛を変な形に整えて――夜の路地裏に青い目が、蛇みたいに光っててさ。笑うと赤い舌が目立ってぞっとしたもんさ。あれはどこの国から来たやつだったんだろうな。顔だけはいい男だった、男の俺から見てもな。それで、『これはね、今流行りの薬よりずっと効くやつさ。あんた、儲けたいんだろう?』だなんて言って、どこそこの――ああ、医者の名前は言ってなかったな。とある名医が作ったものさ、なんて嘯いてただけだよ。それだけで信じちまったのかって? そうさ! どうしてだろうな? それだけで信じちまうような――説得力があったんだよ。あの男に笑って薬を渡されたら、『ああそうだ、この薬を売り捌けば【絶対に】儲かるんだ』なんて思えちまった。『絶対』なんてないと俺はよく知ってるはずだったのに。だから俺は、あれを仕入れて――冬の匂いがする路地裏でよ、あの男の青い目はぴかぴか光ってやがったよ。蛇みたいにさァ。けどよ、結局それを買ったやつらは皆、神様なんて呼べなかったって文句をつけてきやがった、当たり前だよな。とんだ薬をつかまされたモンだよ――いやだがね――実のところ、本当は、『アレ』だって神様に会えるなんて謳い文句だけど、結局あんなもんどうせ嘘なんだろうって俺もわかってたんだよ。いや、そう言うなら、俺たち、だろうなァ。神様なんてどこにもいない。俺たちはとっくの昔にきっと、神様なんてものを殺しちまってたんだ。……もしまだそれを名乗るものが在るとしたら、それは神様を騙る何者でもない何かさ。だから――それなら、あの男に騙されるのも、『アレ』を買うのも、きっとおんなじだったんだろう。まあだから、文句を言った奴らも実際はそれほど激怒してたってわけでもなかったんだよ。多分、みんな同じ気持ちだったんだ。同じように神様になれるような眩暈だけ買って、それで、神様がいないことを知って――それですっきりしちまったのさ。変な男から変な薬を買ったもんだよ。まあ……正直、案外儲けたな。また逢えたら礼の一つでも言いたいもんだ。

 ●

「目に見えない神様なんてオバケと大差ないから嫌い」

 ●

 或る青少年A曰く:

 ――欲しかったのはちょっとした刺激だったんだ。それだけだったんだけどさ。全員で、買った薬を持ち寄って遊んでたんだよ。……違法なものはなかったよ、『違法』なものはね。うん、そう、僕が買ったのは、確かにその男からだったよ。間違いない、黒髪の先の方だけピンク色にして、眉毛も同じ色で染めた、青い目の男。薬屋だってその人は言ったよ。でも、まともな薬屋にはちょっと見えなかったな。『カタギ』ってやつ? どうでもいいけど、あれって、堅いに気って書くのかな? ……どうでもいい? そりゃそうだよね。そう。ごめんね。とにかく、まともな薬屋じゃなかったんだよ。見た目がもう、さ。だから僕は、どうせだしと思って、「神様になれる薬はあるのか」って聞いたんだ。流行ってるってことは売れ線ってことだろ? それなら一つくらい入荷してるんじゃないかって思ってさ。売れるものを入荷しないやつなんていないだろ。今まで出会った『薬屋』は皆そうだったしさ。そしたらその薬屋は、『そいつは持ち合わせちゃいないけれどね』って言って、『でももっといい【お薬】なら持ってるよ』って笑ったんだよ。『これが例の【神様になれる薬】の、もっとすごいバージョンさ!』って言われて、僕はそれを、どうしてだろうね、信じちゃったんだ。お代は要らないよ、なんて言われたし。喫茶店でホットココアを飲みながら、薬をもらったんだけどさ。今思うと、なんだかずっと笑ってる男だったなあ。あれは騙すのが楽しかったのかな? それはともかくさ、それで薬を貰って、仲間と一緒に使ったんだよね。話に違わず、アプリとかもついてたし、正しいものだろうと思って。そしたらまあ、みんなグロッキーになっちゃってさ! アハハ! 吐きまくっておしまい、スッゲエ恨まれたよね。まあでも、それでなんか、すっきりしたのかな、みんな薬やめちゃった。残ったやつはまだ使ってないやつにあげてさ。ま、ヤバいとこまで首突っ込んでたやつは知らないけど。……狐に化かされるってああいうのを言うのかな? アハハ。なんだろ、まあアンタみたいなのに追われてるあたり、ヤバいやつに会っちゃったのはわかるよ。それじゃ頑張って。僕はもう、なんとなく、死んでもいいかなって思ってるくらいだからさ。え? 違うよ、もっと爽やかな気分なんだ。人間誰でも死ぬからさ。それをすっと理解出来たって言うか……まあそういうの! 恥ずかしいな、なんか!

 ●

 ――曰く、その薬を飲んでも何も起こらない。
 ――曰く、薬についてくるアプリを読み込んで起動すると、バイオリズムなんかを教えてくれてちょっと便利。
 ――曰く、神様にはなれないし、腹も下す。ひどいと吐く。
 ――曰く、嫌なことは残るけれど、なんとなく気分はよくなる。
 ――曰く。

 ●

「何より僕は僕が作った薬以外の薬が大嫌い」
 曰く――世界は明日も続いていく。
 そして今、ロカジの前には、拳銃を持った黒いスーツの男が数人立っている。雪村から譲渡されたデータで『神降ろしの薬』の改造版を作った連中だろう。商売の邪魔をされたなら怒るのが当然だ、しかもそれで神なんて大層なものを呼び出そうとしていたのだから!
 十月の、寒風吹きすさぶ夜中の波止場、その倉庫街で――ロカジは安い刑事ドラマみたいだね、なんて思った――ロカジと相対する男たちの顔は、無表情の一辺倒だ。武器を持っているあたり、そういう訓練でも受けているのか――否、頭につけられた傷口からして、脳を直接弄られているのかもしれない。
(やあ、それにしたって)
「釣れた釣れた、大量だ!」
 笑って手を叩けば、無表情のまま、男たちが銃口をロカジへと向ける。敵意はない、最早そんなものを残されていないのかもしれない。それは人であったろうか。『意思なるもの』をすり潰された存在は、人と呼べるだろうか。そんなどうでもいいことをロカジは思った。
 組織の方は既に周辺の人払いを済ませているだろう。それならばやることは一つだ。
「――殺しに来たなら倍返しにしてやるだけさ」
 真っ赤な舌で、薄い唇で笑いながら、狐は大太刀を引き抜いた。

 ●

 最初から勝てる勝負だった。
『いかさま』じみてさえいた。
 何故ならば、彼らに譲渡された『神降ろしの薬』の『設計図』こそなかれども、ロカジの手中には、『オリジナル』の『神降ろしの薬』、その試作品が幾つかあったからである。その上、ロカジは、彼らが『試験場』として使っていた街のクスリのルートにまで、心当たりがあった。そして、ロカジ・ミナイ。彼は『薬のプロフェッショナル』だった。バックには、彼が唯一持ちえない、『量産や一緒に渡すアプリケーションの開発を可能とする』組織。
 ――これを『いかさま』と言わずにして何という。
 最初から最後まで、ロカジ・ミナイの手のひらで全ては踊るために造られたのだ。
 きっと、最早、こうなってしまえば。
 計画はこうである。オリジナルを参考に、奇稲田〈イシャノフヨウジョウ〉で作った薬をさらに改良しアレンジを加えた『まがいもの』。その薬に、噂通り、組織に開発してもらった適当なアプリを添えてばら撒く。
「ホンモノの効能が世界を滅ぼせるような全能感ならばその通りに」
 本当に世界を滅ぼせるのならば――『滅ぼしたような幻覚』でもお好きに見せてやろう。しかしドラッグというにはぬるくて優しすぎる『改良』。回った視界で千変万化に映る幻惑は、気持ちの悪さに水でも飲んで吐き戻せば消えてしまうような代物で。
「加えてぼくの薬は効かなきゃ腹壊して終わり」
 下剤にゃ丁度いい。
 くく、と、ロカジは話を聞く組織の職員――研究を主にしている者たちに説明をしながら喉で笑った。この世界に彼を転送してくれた仮面も後ろの方に居るが、彼は完全に専門外であるので、話には参加していない。
「この薬が『正当な』薬の代わりに出回って、これこそが『神様になれる薬』として認知されていけば――絶対に『動く』でしょ」
 そいつらはさ。
「だって苦労して自分たちの作ったもののニセモノが勝手に現れてのさばってるんだから。『動かない』なら、そいつらは『本気じゃない』。本気じゃないなら――逆に不味いけどね」
 それでも薬の開発なんてタダじゃない。人件費だの材料費だのなんだのとかかる費用ならわんさかある。わざわざ雪村が譲渡した薬を制作して改造までしているのだ、そこにかかった費用は回収しないと『採算が取れない』。幾ら邪教の教団と言えど、会社として運営して、薬を作っているならそこは回収しようとしているはずだ――多分。
「引っかかってくれると思ってるけど――どうだろう、そちらさんとしては?」
 僕の提案は? ロカジは会議室と言った風情の一室で、職員に告げる。
「『本物』と『まがいもの』の違いが分かるのは、『本物』を作った者だけ。ならば『それは偽物だ』と告発してきた者が制作者だ――ということですね」
「そういうこと。勿論相手が上手で、そのまま手を引いて告発もしない可能性もあるけれど――それならそれで、『アブナイ』薬が多分一つなくなる。少なくともこの近辺からは」
 誰も買わないなら、そこはもう市場にならない。副作用が強すぎる薬は嫌厭される傾向にあるし――ロカジの薬ではまともなトリップは見込めない。中毒性もない。ならば買う者は居なくなるだろう、というのが見込みだった。まあ、よく効く下剤として買う奴はいるかもしれないが。それは流石に、彼の知ったところではない。それにある程度流通したら流すのもやめる予定だ。
「この辺のクスリのルートにはちょいと詳しいからね。流通の出処として種を撒く」
 死にたい女、儲けたい男、イイコトしたい青少年――治されたい人間はゴマンといて、大抵は秘密が好きで口が軽い。
「新雪みてぇなかわいいあの子らが汚れちまうその前に、」
 手足の早い僕は一足先に足跡をつけるのさ。
 初雪もまだ降らぬ十月の寒さに、ロカジは笑って言う。
「だからまた別の場所で同じことが起きるなら、もう一度同じことをする。三度もやれば、奴さんも腹を立てて噛みついてくるでしょ」
 職員は、少しばかり考えているような素振りを見せて、それから、「成程」と呟いた。
「――わかりました」
 そうして職員はロカジの話に頷いて、「協力いたします」と彼の計画を承認したのだった。

 ●

 ロカジを囲んでいた人形のような男たちを峰打ちで黙らせてやれば、その顔はやはり人間なのだった――肉体は。その姿にロカジは目を僅かに細める。これは元に戻るのだろうか、廃人同然にされた――あるいは、実験過程で出た『廃棄物』なのかもしれない、彼らは。
「……見ているなら出ておいでよ」
 大太刀を手にしたまま、薄ら笑いを浮かべて、ロカジは倉庫の影に声をかける。現れたのは、車椅子に乗った、一人の老人だった。それと、それに付き従う男。
「――そこに転がる彼ら。それを簡単に傷つけられる、その残酷さを、私は欲しいと思っている」
 開口一番そう言った老人に、ロカジは呵々と笑った。
「『ざんこく』! 辞書引いた方がいいよ、御老体」
「そうかね?」
「そうだよ。それに僕ァ、しがない薬屋さんだからねェ。そういう勧誘はお断りなのよ」
「では、薬の研究員としてならばどうだ。君の作った薬を見た、あれは、我々の作ったものとはまったく別方向からのアプローチで『改悪』されたものだ。あんなことが一人でできるのなら、我々の組織に来てくれれば、もっと素晴らしいものを作れるだろう」
 ロカジはその言葉に、ぴくりと肩を揺らす。笑みを深くして。
 この笑みの意味を――この老人は理解しているだろうか?
「『もっと』?」
「そうだ、『もっと』だ」
「僕が『改悪』した薬よりも『もっと』『素晴らしい』ものが作れるってェ――本当に言ってンのかい」
「当然だ! 君は天才だよ――君の名前を教えて欲しい」
 アハハハハハ、とロカジはついに腹を抱えて笑った。
「アハハ――ハハ――僕はロカジ・ミナイだよ。アハハ、覚えなくていいさ」
「何を言う! 君の技量を考えたら覚えないなど有り得ない!」
「ハハハハハ――『僕一人』に技量であんたら全員負けてるんだよね」
「そうだな」
「じゃあ――なんで僕がそっちに行って『もっと』いいものが出来ると思ってンだい」
 ロカジはピタリと笑うのをやめると、大太刀を握り直す。
「あんたらは負けてるんだよ。僕一人に。わかってないみたいだから言うけどね」
 それに『改悪』。
「『改良』の間違いだよ――薬は、『治す』ためにあるんだからね」
 これ以上ないほど完璧にロカジは『神降ろしの薬』を『改良』した。
 完璧に、完全に。
「要するに、あんたのお誘いなんぞ、要らねえってことよ」
「そうか、仕方ないな」
 付き添っていた男が銃を引き抜いて動く。その弾丸を大太刀で払い、ロカジは強く踏み込む。ざざ、と冬の気配に荒れた海が波音を強く立てた。そうして狐が下から上へと撫でるように大太刀を払うと、袈裟に割かれた男が斜めに落ちた。
 降り注ぐ血を浴びながら老人まで突き進むと、「――ひ、ぉ」なんぞと老人が悲鳴を上げ、顔を両腕で覆った。それに大太刀を振り下ろし――
「……首謀者には、ちょいと訊きたいこともあるからねえ」
 直前で止めた。哀れにも失禁した老人の前で大太刀を仕舞う。チン、という音の後に倉庫の影から更に現れるのは、組織の職員である。
「ところでどうだい――」
 ロカジは、震える老人に問う。
「同じものをベースにした薬使ってさ。『需要で負けた』気分は」
 ――そう。
 ロカジの計画で最も重要だったもの。それは『需要』である。どれほど出来のいい『改良品』を作っても、『種』になった人間から広がっていくには、『需要』がなくてはならない。欲しいと思わせなければならない。渡してやろうと思わせなくてはならない。
 その点において、彼らは完全にロカジの薬に負けたのだ。
「僕の勝ちだよ」
 そして――僕の価値だ。
 駆け寄る職員からタオルを貰いつつ、ロカジはそんなことを呟いたのだった。

 ●

「一先ず事件は解決したようであるよ」
「そう? そりゃよかった」
 そうは言ったが、仮面共々後始末に多少駆り出されていたロカジは、勿論その事実を知っていた。一週間ほど拘束されたのは予想外だったが、無事事件は収束し、雪村から資料を譲渡されたあの老人は、他の情報を持っていなかったことから、組織が何らかの処理をしたらしい。部下を相当『真っ白』にしていたようなので、もしかしたら司法の裁きを受けたのかもしれない。そこまではロカジも知らない。『真っ白』にされていた会社員たちは、外科的な処置がされており、元に戻すのはやはり難しいようであった。
 荒れた海を見ながら、「そろそろ帰るであるか?」と仮面が言うのを聞く。
「うん――帰るよ」
「何か心残りがあるならば付き合うが?」
「いや、ない、ないさ。あるわけない――」
 サムライエンパイアで培った、己の薬の技術によって、薬を扱う者たちを打ち負かした。しかも、製薬会社が費用を注ぎ込んで作った、渾身の薬、丸々一つを。
 完膚なきまでに。
 ロカジは正義の味方じゃない。
 改良と言って下剤になるような薬を出回らせたし、漂白された会社員たちをある程度まで元に戻す薬も、一応作って渡しておいたがその結末までは見届けない。ここから好転するかどうかは、組織次第だろう。
 それでも――『種』にした彼らからの話を組織伝いに聞いて、彼は思うのだ。

「ここまでの大成果――そうそうあるわけないからね」

 だからロカジは笑って、仮面に帰りの転送を頼んだのだった。
 
 
 

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年07月11日


挿絵イラスト