大祓百鬼夜行③〜後ろの正面
●後ろの正面
まるで鳥籠のようだった。
大きな鉄の柱が外周を取り囲むように、塔の最上階まで伸びている。
ジグザグ無秩序に上へと這う階段を進めば、数えきれない程の大小様々な鳥籠も吊り下がっていた。
階段を上る音だけが聞こえている。
聞こえていた、はずなのに。
──後ろの正面、だぁれ。
背後から耳元に、囁くように声がした。
──籠の中の鳥は、いついつ出会う?
●グリモアベース
『百霊鎮守塔』──カクリヨファンタズムの最深層に通じる道を示すという、呪われた塔。
地上から見上げる果てには、『百霊灯籠』がある。点灯するその光には、ふたつの力があると言われる。
ひとつは、最深部への道を照らすこと。
もうひとつは、最深部に眠る『竜神親分』の力を抑えること。
しかし、長い年月を放置され骸魂の影響を受けてしまった『百霊灯籠』。
今は、その点灯する光でカクリヨファンタズム全土を焼き尽くす『カタストロフ』を起こそうとしている。
「……ということでして、皆さんにはこの『百霊鎮守塔』を最上階の『百霊灯籠』を磨いて頂きたいのです」
太宰・寿(パステルペインター・f18704)は、スケッチブックに描き出される光景を指差して猟兵達を見る。
「注意点はふたつ。トラップだらけなので、トラップへの対応が必要です」
それから、と寿は人差し指と中指を立てる。
「必ず下から順に階段を上がることです。飛んで上層にひとっ飛び、はできません。必ず一階まで戻されてしまいます」
ぱたんとスケッチブックを閉じる。
「それで……トラップの内容がですね」
言いにくそうにもごもごしている。心なしか顔色も悪いような。
「階段を上っていると、背後から声がするんです」
──『後ろの正面、だぁれ?』って。
「こ、怖すぎません……!?」
自分が上るわけでもないのに、何故か涙目の寿が説明を続ける。
「全く知らない声の事が多いみたいですけど、時々知ってる声が聞こえることもあるみたいです」
いずれも、恐怖を駆り立ててくる声だという。知った声なら、自分が苦手だったり恐怖を感じている存在の声だと思います、と寿は告げる。
「なんてホラーですか……どうか、振り返らず逃げきってください。そのままの勢いで最上階の『百霊灯籠』まで……!」
よろしくお願いします! 勢いよく下げられた頭。それが合図。導く光が優しく道を示したなら、
「あっ、忘れてました! お掃除道具!」
……必要に応じて掃除道具を受け取った猟兵たちが、踏み込む先は『百霊鎮守塔』。
階段を上り始めれば、やがてその声は聴こえてくるだろう。
──後ろの正面、だぁれ?
105
105です。
こちらは一章で完結する戦争シナリオです。『大祓百鬼夜行』に影響を及ぼします。
内容は気持ちホラー風味ですが、プレイングの雰囲気に合わせて描写します。
描写範囲は、塔の中を抜けるシーンです。
『百霊灯籠』を磨くプレイングはなくて大丈夫です。どのように塔の中を進むか、に重点を置いてプレイングに書いて頂けると嬉しいです。
●プレイングボーナス
塔の中のトラップを解除する。
無視する、物理で蹴散らす、など。やり方はお心のままに!
オープニングでは振り返らずに、と説明がありますが振り返ってもデメリットはありません。振り返る場合は、何がいるか書いて頂けると筆が進みやすいと思うので助かります。
●採用方針
・判定が成功以上。
・4名程度。
・先着順。
公開と同時にプレイング受付いたします。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
第1章 冒険
『後ろにいるのはだぁれ?』
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POW : 勇気を振り絞って振り向く。
SPD : 振り切るように走り出す。
WIZ : 意識を集中させ気配を感じ取る。
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
吉備・狐珀
カクリヨファンタズムのカタストロフは何としてでも防がないといけません。
最上階へ急ぎましょう。
踏み外したり躓いたりしないように気を付けながら階段を上がり最上階を目指す
聞こえてきた声に背筋がぞわりとするけれど足を止めないのは先を急がねばという意識が強かったから
けれど
嘗て私がいた神社の境内に遊びに来ていた子供達の声が聞こえた気がした
毎日、挨拶に来てくれていた老夫婦の声を聞いた気がした
大切な村の人達の声…
立止り振り向きそうになる私を止めたのは絡繰り人形
物言わぬ人形が私を見つめる
振向くことなく一言「ごめんなさい」と告げて
階段を走り抜ける
同じ過ちは繰り返さない
この手で守れるものは何が何でも守ると決めたから
●
鉄の籠に木の籠。格子に編み込み。様々な鳥籠が吊るされる中、吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)は慎重に階段を上っていた。
暗がりの中、足裏からの感触を頼りに踏み外したりしないよう、躓いたりしないよう、一歩一歩確実に。
「(カクリヨファンタズムのカタストロフは、何としてでも防がないといけません)」
日頃優しい笑顔を浮かべるかんばせも、今日ばかりは真剣味を帯て些か険しい。最上階に急がなければ、そんな気持ちで狐珀はただ前だけを見据えていた。
幾分視界が慣れてきた時、その声は狐珀の耳へと響いた。もしかしたら、それは実際には聞こえていない声かもしれない。背筋に冷たいものが走り、思わず狐珀の肩が小さく跳ねた。
「……っ」
それでも足だけは進めなければ。それは、狐珀の心に強く宿った使命感。与えられた時間は有限なのだ、とにかく上へと向かわなければ。
「(……あぁ、けれど聞こえてくるこの声を私は──)」
知っている。忘れられるはずがない。
「かーって嬉しい花一匁」
「相談しましょ、そうしましょ」
屈託のない子どもたちの声がする。
──ねぇ、遊ぼうよ。
「こんにちは、今日もいい天気ね」
「明日も晴れだそうですよ」
毎日、欠かさずに挨拶に来てくれていた老夫婦の声が聞こえる。
──お顔を見せて。
どれも、とても大切なものだ。村の、神社の景色が脳裡に鮮やかに蘇る。その美しい景色は、やがて諸共炎に巻かれて焼け落ちた。
狐珀はぐっと堪えていた。これは、全てまやかしだ。頭では分かっていた。
けれど、もし振り向いて会えるのなら──。
歩幅が狭まる。ひたすら上だけを目指して動いていた足が、鈍くなる。
心に弱気が芽吹いて──かたり、声とは違う音がした。狐珀が俯きかけた顔を上げると、目の前にはからくり人形。
狐珀と対の狐像、兄のように慕っていた魂の宿る人形が、物言わずただ狐珀を見つめていた。
「……そうですね、進まなければ」
止まった足を再び前へ。
「ごめんなさい──」
ただ、一言だけ振り向かずに告げた言葉。
思いはもう胸の内にある。
「(同じ過ちは繰り返さない)」
この手で守れるものは何が何でも守ると決めた。だから、今はただ前へ──!
やがて声は小さく薄れていく。
狐珀の決意は、きっと彼らにも届くだろう。
大成功
🔵🔵🔵
丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎
_
『かごめ かごめ』
何処からか唄う声がする。
それは知っている声によく似て
…俺が今、護りたいと思っている人達の声だ
『籠の中の鳥は いついつ出会う』
声は次第に重なっていく
同時に酷い頭痛が苛み、それでも脚は止めず
一心に前を向いて生を駆けていく中で
護りたいと思う大切な相手は増えていく。
俺はそう思った人たちをかつて護れなかった
だから、『大切』を作るのは恐ろしかった。
また、護れなかったら。
また、喪ってしまったら。
けれど
『後ろの正面』
そんな恐怖ごと全て受け入れて
『だぁれ?』
背後を振り向く
そこにはやはり護りたい大切な人達の姿
俺はフと笑って
「大丈夫、」
俺が、護るよ。
●
不気味な程の静寂が、塔の中を包んでいた。
まるでこの塔自体が鳥籠のようだ、と丸越・梓(月焔・f31127)は上を見上げる。天井は遥か高く闇に覆われてよく見えないが、細い柱が、鉄格子のように地上に向かって幾重にも走っているのが分かった。
「……──」
梓は言葉少なくただ真っ直ぐに、最上階を目指して階段を上る。やるべきことが定まっているのだから、その歩みが止まることはない。
どれくらい進んだだろうか、見上げる視界の変わりはないが、見下ろす地上は朧げになった頃。
──かごめ かごめ。
何処からか唄う声がして、梓の眼差しが幽かに鋭くなる。刑事としての反応のようなものだろうか、異常を感じれば身体が即座に反応する。だけれど、聞こえる声に聞き覚えがあって。
耳朶を打つその声は、梓の知っているものとあまりによく似ているのだ。
「(……俺が今、護りたいと思っている人達の声だ)」
──籠の中の鳥は いついつ出会う。
声は次第に重なっていく。女の声、男の声、年頃も様々だ。同時に酷い頭痛が梓を苛む。精悍な顔つきが僅かに歪む。それでも前へ進む脚を止めることはなかった。その姿は、梓のこれまでの人生と重なるようだった。
ただ一心に前を向いて生を駆けていく。その中で、護りたいと思う大切な相手は増えていった。それ故に、献身と自己犠牲に溺れる事もあった。
慕われていた。梓はそんな彼らを大切に思い、護りたいと願い、──しかし護れなかった。
「(だから、『大切』を作るのは恐ろしかった)」
また、護れなかったら。
また、喪ってしまったら。
孤独が常に、隣にあった。
けれど梓は、
──後ろの正面
そんな恐怖ごと全て受け入れて。
──だぁれ?
尋ねる声にぴたりと歩みを止めて、背後を振り向く。
そこには、梓が想像した通りの光景があった。護りたい大切な人達の姿がある。
梓をじっと見つめる数多の眼差しが、ある。
「大丈夫、」
梓の口角が上がる。
「──俺が、護るよ」
迷いのない目で、声で、彼らを見返す。
彼らの浮かべる表情が、一様に穏やかでどこか梓を慕うような目に変わって。
その姿を脳裏に留めて、梓は再び前を向く。
今日も明日も明後日も。後悔しないように、ただ真っ直ぐに梓は未来を見据える。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
後ろの正面だあれ……ね。そんな遊びがあったよな。あれは色々な解釈があったが、誰かに連れて行かれる……みたいな都市伝説もあったんだっけか?
異常事態が日常的に起きるカクリヨの世とはいえ、実際こういう変な声が聴こえてくるなんて事があるのならあながち嘘とは言い切れなかったりするのか……なんて益体もない事を考えながら塔を登っていく
何やら意味不明な声が聴こえてきても徹底的に無視。仮にも剣を修める身として、精神面の修行だってしてきている
明鏡止水の境地には至らないとはいえこの程度に声で影響を受けるような事はない
足を止めることなく1階ずつ確実に登り、最上階に辿り着いたら丁寧に百霊灯籠を磨いていく
●
左に折れたと思えば、今度は右に。無秩序に伸びる階段を、ブーツの踵が打ち鳴らす。分岐でもあれば迷ってしまいそうな作りだったが、幸いにも階段は一本道だった。
「後ろの正面だあれ……ね」
弛まず足を進めながら、夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は周囲に吊られた鳥籠を見遣る。
「そんな遊びがあったよな。あれは色々な解釈があったが、誰かに連れて行かれる……みたいな都市伝説もあったんだっけか?」
サクラミラージュもUDCアースに似た文化が様々ある。諸説あるが、しゃがんで目隠ししたひとりを、他のみんなで囲んで周囲を回る。歌が終わった時、後ろにいるのが誰か当てる。そんな遊びだっただろうか。地域によって歌詞も変われば、解釈も異なるその歌を鏡介は諳んじる。
「(異常事態が日常的に起きるカクリヨの世とはいえ、実際こういう変な声が聴こえてくるなんて事があるのなら。あながち嘘とは言い切れなかったりするのか……)」
なんて、益体もない事を考えながら鏡介は塔を上ってゆく。幾分進んだところで、鏡介は幽かな違和感を感じる。空気が僅かに変わった気配がして。
──籠の中の鳥は、いついつ出会う?
無邪気な子どもの声がする。ひとり、ふたり──いや、もっと?
──夜明けの晩に。
足音はしないのに、背後から声がする。
「(仮にも剣を修める身。明鏡止水の境地には至らないとはいえこの程度に声で影響を受けるような事はない)」
この程度の事象で、鏡介の心が波立つことはない。振り向かずに進めば最上階に辿り着けることだって、分かっているのだから。
己の足音だけを耳に入れる。訓練された動きが生み出す規則的な音が、時計の秒針のように正確に響く。足を止めることなく一段一段、確実に階段を上る。
やがて暗がりが薄れて、気付けば子どもたちの声も消えていた。
「そろそろこれの出番かな」
懐から手にしたのは、『百霊灯籠』を磨くための布巾。
上階から漏れる光が、鳥籠の出口を示していた。
大成功
🔵🔵🔵
シン・クレスケンス
【WIZ】
闇色の狼の姿のUDC「ツキ」、梟の姿の精霊「ノクス」を伴って。
後ろから声がするというのは怪談話ではよく聞くシチュエーションですね。
「お前も振り返ったりするんじゃないか?神話の類でも碌な目に遭わないぞ」とツキ。
今は先に進まないといけませんから。と苦笑。好奇心を見抜かれてますね。
後ろから聞こえるのは若い男の声。
何処かで聞いたような声―
何も聞こえていない様子の使役達に声を発してやっと気付いた。
背後からする声は、自分自身の声?
邪悪な気配。この身に宿るUDCの力を憚らず揮う事を良しとする、何処かにある己の心か。
「決して狂気(あなた)にはのまれたりしない」
ぼそりと呟き、振り返らず歩みを進めます。
●
夜空彩の翼が、光のない空間で瞬く。利口な精霊は、決して道を逸れたりはしない。ただ、ほんの少しだけ主人たるシン・クレスケンス(真理を探求する眼・f09866)の前を先導するように羽ばたいている。
「後ろから声がするというのは、怪談話ではよく聞くシチュエーションですね」
ノクスを視線で追いながら、階段を上るシンの声は落ち着いた調子だが、好奇の色も滲ませている。そんなシンの足元で金色の双眼が光る。
「お前も振り返ったりするんじゃないか? 神話の類でも碌な目に遭わないぞ」
背後ではなく足元から、その声はした。
「今は先に進まないといけませんから」
大丈夫ですよ、ツキ。とシンは応じる。闇色の狼──ツキは、どうだかな、と鼻を鳴らした。
「(好奇心を見抜かれてますね)」
思わず溢れる苦笑い。どんな声が聞こえるのか、興味がないわけではない事をツキたちはお見通しのようだった。
──後ろの正面、だあれ?
「(ほら、聞こえた)」
シンの耳に聞こえたのは、若い男の声だ。とは言え、慌てるわけでもなく冷静さはそのまま。だけど、この声は──。
「何処かで聞いたような声──」
ではないですか? そうツキたちに問いかけようとして、口を噤んだ。どうやら、彼らには何も聞こえていないようだった。ツキは不思議そうにシンを見上げているし、ノクスは変わらず翼を動かしている。
それに、この声は。
「(……自分自身の声?)」
ぶわ、と広がる邪悪な気配に、はじめてツキとノクスが反応を示す。低く唸る声を、シンは手を翳して制した。
「(なるほど。この身に宿るUDCの力を憚らず揮う事を良しとする、何処かにある己の心か)」
相変わらず、表情は柔らかなまま。いつかは手放すつもりの力ではあるが、今はまだその術を知らない。それでも、
「決して狂気(あなた)にはのまれたりしない」
シンはぼそりと呟き、決して振り返らず歩みを進める。
「なんだ、振り向かないのか」
「そうですね」
背後の自分はどんな表情をしているのか、なんて。少し気になりはしたけれど。
「それより、後ろの正面を当てた時ってどうなるんでしたっけ?」
ツキは知ってますか? 相変わらず柔らかく告げるシンに、ツキは知らん、とやはり鼻を鳴らすのだった。
大成功
🔵🔵🔵