銀河帝国攻略戦⑧~シンデレラ・ステージ
「命の光を、守る戦いです」
ニヒト・デニーロ(海に一つの禍津星・f13061)は左手の前で横ピースを決めながら、集まった猟兵に向けてそう言った。
ふざけているわけではなく、これが彼女が予知を見るために必要な工程なのだ。
「エンペラーズマインド……その防衛艦隊との、戦いに……なる。解放軍の戦力は、敵を上回っているから……正面から戦えば、計算上は負けない……んだけど」
グリモアベースの背景に表示されるのは、平面に展開する戦艦同士の俯瞰図だ。数量で言うならば、解放軍側が確かに圧倒的有利に見える、が。
「解放軍の艦は、元々は、普通の人々が暮らす民間輸送船、だから。艦船同士の戦闘経験があまりなくて……浮足立ってる。……このまま戦いが始まると、初戦で大きな被害が出てしまう……と、厄星が私に、告げたんです」
厄星、すなわち黒いヒトデ型のグリモアが、少女の横ピースの隣でうごうごしている。
「だから……みんなには、この初戦を支えて、ほしい……艦隊の指揮を担う、主力大型艦を……倒して、もらいます」
ついっと指を降る。新たな映像が、グリモアベースに浮かび上がる。
「目標敵艦は……『ディクタトル級巡洋戦艦“シン・ドゥルラ”』……内部の人員は、特殊部隊で、潜入して、撃沈するのは、難しい……と、予測できる。だから……」
一拍おいて。
「外から……破壊、する」
求められるのは後先考えない乾坤一擲の一撃離脱。
宇宙空間から、ユーベルコードによる攻撃を放ったら即座にグリモアベースに戻ることになる。
猟兵たちには宇宙空間で活動するための、最新の宇宙服が配られている。生身で宇宙空間に出て、戦うことは十分可能だ。
「ただ……相手はとーっても、大きいから。最低でも二人以上のチームで、連携して……行動、してください……難しい、かも、しれないけれど」
ニヒトは、目を閉じて、両手を揃え、頭を下げた。
「……命の火を、消さないで……お願い、します」
甘党
巡洋艦を生身でぶっとばせ!
●補足説明
チーム戦闘になります。
最低二人、最大六人まででプレイングの冒頭にチーム名を明記の上、必殺技をぶちかまして敵艦をぶっ飛ばしましょう。一人が相手の攻撃をしのいでいるうちに、もうひとりが……といった形でもオッケーです。ナイスプレイングをお待ちしています。
攻撃後はグリモアベースに強制転移しますので、帰りはあまり心配しないでください。
執筆は木曜〜金曜日ぐらいから開始になると思うので、プレイングはそのへんに合わせてくれると良いかと思います。
●
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
第1章 ボス戦
『ディクタトル級巡洋戦艦』
|
POW : 主砲発射用意!
予め【主砲にエネルギーを充填しておく】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : 航空各隊、邀撃に移れ!
【両舷カタパルト】から【直掩艦載機】を放ち、【対宙迎撃】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : オール・ウェポンズ・フリー
【兵装使用無制限状態】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ベモリゼ・テモワン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪
▼ ディクタトル級巡洋戦艦“シン・ドゥルラ” ブリッジ ▼
「戦局はどうなっている?」
「解放軍の艦、前方に二。それぞれ当艦による奇襲に寄って中破状態です」
「よろしい。容赦なく蹂躙せよ。主砲の使用を許可する」
「了解。主砲“サンドリヨン”、エネルギー充填します。30%……40%……」
エンペラーズ・マインド防衛艦隊に、このシン・ドゥルラが選ばれたのは当然の事だ。
艦隊戦において負け無し。他のディクタトル級と比較しても突出した攻撃力及び展開力。
何より銀河皇帝から直々に賜った主砲“サンドリヨン”及び防衛機構“ガラスの靴”は、無数の反逆者たちを宇宙の塵へ変えてきた。
搭乗員は選びぬかれた優秀な遺伝子から作られたクローン兵達であり、シン・ドゥルラを手足のように操る。
この戦力、この戦果、この実績。ここで武勲を挙げずしてなんとする。
正直な所、解放軍の戦力がどれほどエンペラーズ・マインド防衛艦隊を上回っていようと、負ける気など全く無かった。
なんならこの前線艦隊を片付けた後、後方の数十艦、全てをシン・ドゥルラ一隻で沈めてやっても良い。
――少なくとも、艦長はそのように考えていた。
「充填完了です、艦長」
「では――――放て」
「了解。主砲“サンドリヨン”、発射」
凝縮され、放たれる光は、触れたものを原子レベルに分解して抹消する。
これが敵艦に命中したときが堪らない。爆発ではなく、光の塵になって全てが“消える”様は……最高だ。
宣言どおり放たれた“サンドリヨン”の光は、一直線へ解放軍の艦へと向かう。
何万という命が住まう、命のゆりかごへと――――。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
ジョン・ブラウン
【MMチームB】
○
「うっわデッカ!宇宙戦艦!宇宙戦艦だよあれ!ねぇ、凄くない!?」
「こんだけデカいと半端な強化じゃキッツイね……無茶するしか無いか」
各種プラグインを過剰投与
ユーベルコードを起動
「……!?……やっ、ば、相性が、良すぎる……!」
帝国への恐怖が高まり続ける現状と、仲間のサポートによる相乗効果で
ウィスパーの処理能力が限界を突破
救いを求める声が生者死者問わず過剰に流れ込む
<オーバーフロー、精神汚染危険域です>
「いや、いい、そのまま続けろ!」
「全部、全部だ、全部持っていってやる!」
「回避ルートの指示任せた!」
仲間の誘導に全てを託し
自身を限界まで強化したまま敵艦へと吶喊
ど真ん中を蹴りぶち抜く
アルトリウス・セレスタイト
【MMチームB】
転移後、兵装部付近を狙い破天で爆撃
主砲が優先目標
発射に備え充填中なら伝達部と思しき箇所を破壊し自損も狙う
格納されて狙えないなどであればカタパルトの破壊に切り替え
高速詠唱・全力魔法・2回攻撃・範囲攻撃・鎧無視攻撃など活かせる技能は活用
爆ぜる魔弾の嵐で目標部付近を蹂躙する面制圧飽和攻撃
一撃離脱だが置き土産ができそうなら二撃目を進呈してから帰還
完遂前に自身含め狙われて危険な者があれば回廊で退避
トルメンタ・アンゲルス
○○○
なるほど、大型戦艦と来ましたか。
いいですねぇ、墜とし甲斐がありますよ!
さぁ、行くぞNoChaser!
『MaximumEngine――Mode:Formula』
【MMチームB】で行動
一撃に専念し、支援をヴィクティムさんに任せます。
マシンベルトを起動し、アクセルユニゾン使用。
宇宙バイクを攻撃力重視の装甲として変身合体。
次いでOverDrive始動。
『OverDrive――Thunderbolt』
右足にパワーを収束。
限界までチャージ後、ジョンさんの突撃にタイミングを合わせて最大加速のダッシュ。
被弾しそうな攻撃は第六感で察知し、最低限の移動で回避。
直撃のブリッツシュネルで同時に戦艦へ突撃します。
ヴィクティム・ウィンターミュート
〇【MMチームB】
ハッハー!いいね、ヒット&アウェイって奴だろ?一撃に全力を込める。シンプルで好きだぜ。とはいえ、俺はそういう性分じゃねーし…端役らしく、膳立てでもしてやろうじゃねえの。
ユーベルコードによる戦術指揮でサポートに徹する。相手の挙動を観察して、回避の方向やタイミングを指示して攻撃を凌ぐぜ。そんでもって、【ハッキング】が通るかどうかも試してみる。一番いいのは停止だが、動きを制限できれば、隙を作れる【時間稼ぎ】だってできるかもしれねえ。
特に攻撃の最中じゃあ、ハッキングに対する防壁は二の次になる可能性だってある。
一家に一台エレクトロウィザード。ハイテクノロジーの天敵とは、俺のことさ。
≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪
▼ エンペラーズ・マインド防衛戦 宙域 ▼
『ようチューマ、聞こえるかい?』
「問題ない」
アルトリウス・セレスタイト(原理の刻印・f01410)は、事前に仲間たちに配られた通信機越しに、オペレーターの声を聞いていた。
『今そこでクソッタレの敵艦がフューミゲイションをキメようとしてる所だ。俺としちゃ今すぐバグ・アウトをお勧めするが――――』
彼がいるのは、小さなデブリの上だ。体を固定することもせず、自然体で立っている。
『アンタは退かないんだろう?』
「ああ、そうだ」
『理由を聞いても?』
「対抗する手段がある。犠牲も出ない。消去法で選んでも合理的だろう」
返答は彼にとって、当然のことであったが、通信の向こうにいる相手は、それでは満足しない。
『アンタ自身の理由さ。命を賭けるに足る方の理由って奴だよ』
問われて、はてと考えた。質問の答ではなく、問われた言葉の意味の方をだ。
「それに大した理由が必要なのか?」
『……オーケィ、そこからなら飛べるぜ、行ってこいよチューマ。後のことはこっちでやる、好きに暴れてくれ」
「了解」
ならば、好きにするとしよう。
アルトリウスはその決断と共に、群青色の粒子を全身に纏った。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
▼ 解放軍所属艦 “ピアニッシモ” ブリッジ ▼
「主砲! 来ます! 回避を――――」
「ならん! この艦が退けば後方の艦がまとめて沈む!」
艦長の悲痛な叫びは、多数の民間人を含む全乗員に『死ね』と言い放ったのに等しい。
だが――――万が一避ければ、後方に陣を構える艦が堕ちる。
その犠牲の数は、何十倍にもなろう。だから……こうするしかない。
「りょ、了解――あ、あと二十秒、十九、十八、十七…………」
「バリアを全開にしろ! 後のことは考えるな!」
「どう計算しても保ちません!」
上がる悲鳴。
光が迫る。全てを塵に変える光が。
「クソ、ここまで来て……………!? あれは!?」
直撃まで五秒の時点で。
艦のレーダーが、そして光学カメラが、その存在を捉えた。
突如として、群青色の粒子の尾を引いて、一人の人間が突如として“ピアニッシモ”の前に現れた。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
▼ 主砲“フォルテッシモ”射線上 ▼
破壊の光を前に、アルトリウスは一切の動揺を見せなかった。
「無粋だな」
そう告げて、シン・ドゥルラに向けられた右手は、酷く雑な構えを取るだけだ。
ただ突き出しただけ。狙いを定めたようには見えず、しかしその表情に動揺も躊躇いもない。
何故か。“必要ない”からだ。
「此処から先は行き止まりだ」
その掌中に、青い光が灯る。
「お前たちは、もうどこにも行けない」
光は細い線となって、直後、合計百二十五の矢となって、“サンドリヨン”の光に逆らうように放たれた。
宇宙が生まれる前の法則……『原理』を操るアルトリウスにとって、“距離”や“精度”は大した問題とはならない。
それらは全て“この世界”における制限であり、彼が従う必要は一切ないのだ。
放ち、当たるのは当然。そもそも、下敷きにしているルールが違う。
質量を無視して迫る攻撃にすら、容易に干渉する。
《破天》の光は『死』の原理。故に光でさえ『死』に、闇へ還る。
拮抗したのはほんの一瞬。
放たれた魔弾の弾幕が、破壊の光を喰らいつくし、後に残ったのは、無傷のまま宇宙空間に漂うアルトリウスと、解放軍所属艦“ピアニッシモ”だけだった。
「……ああ、なんというんだったかな、そうだ」
耳元の端末を操作し、解放軍の艦に向けて、彼は告げた。
「こちら猟兵。これより貴殿らの援護に入る。あの艦は――――我々が堕とす」
≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪
▼ エンペラーズ・マインド防衛戦 宙域 ▼
友軍の艦に主砲の光が命中する直前、アルトリウスがその攻撃を全てかき消すのを確かに見て。
ヴィクティム・ウィンターミュート(ストリートランナー・f01172)は成果に指を鳴らした。
「はっ、やるじゃねえか! それじゃあ今度はこっちのワークだ。俺の前で隙を見せるなんてのは……侵入って欲しいって言ってるようなもんだろ」
周囲に投影される0と1のディスプレイは、宙域の戦闘状況を全て表示している。
仲間の位置、敵の位置、友軍の位置。推し量れる推定火力。戦力――――。
その中の一つ、大きな戦艦のアイコンに、ヴィクティムは手を伸ばした。
主砲を放ち、無力化されて浮足立つシン・ドゥルラのシステムへの介入は実に容易い。
「そら、どうする? このままじゃ、たった一人に艦を制圧されちまうぞ? ……できないよなぁ、そんなことは」
向こうの艦にもハッカーは居るはずだ。すぐにヴィクティムのクラッキングに気づくだろう。
「…………よし、よし、よし、いいぞ、いい子だ。腕のいいカウボーイがいやがる。俺の予想より0.4秒速い」
ディスプレイの中で、戦艦のアイコンに繋がっていたラインが切断された。
ヴィクティムの攻撃を振り切った――言うよりは、一方的に回線を切断された所を鑑みるに、ハッキングをされないようにネットワークを完全に断ち切ってしまったらしい。
それが最適解であることは間違いない。あと二秒あれば、主砲のエネルギーを暴走させて壊滅的被害を出してやれたのに、とほくそ笑む。
だが。
「けど、それでどうやって艦載機のコントロールをするつもりだ? ん?」
口の端が釣り上がる。ここまでが計算通り。
放たれた艦載機達は、親と連絡のとれない迷子になってしまった。
ならパイロットが自分の考えで動けばよい、と言っても、その性能はあくまで連携と、艦から送られるレーダーのデータがあってこそ、100%発揮出来るのだ。
そして、戦艦からの支援がない艦載機ならば――――いくらでも、こちらから介入できる。
「OK、チューマ。露払いは十分だ。スロット・アンド・ランで頼むぜ!」
●
「ようやく出番が来ましたね――――大型戦艦とはこれまた、胸が鳴る」
なぜなら、堕とし甲斐がある。
トルメンタ・アンゲルス(流星ライダー・f02253)は、別に戦闘狂というわけではないが。
ただただ全力を持ってぶちかまして良い、という状況には、テンションだって上がるだろう。
「さぁ、行くぞNoChaser!」
己に愛車に呼びかける。
そうすれば、声に応じてくれる。
『MaximumEngine――Mode:Formula』
「Option、“WaveMaster”!」
『OK、“WaveMaster” Setting』
「アクセルユニゾン!」
『Accel Unison Start』
【OK】【OK】【OK】【OK】【OK】――――システムオールグリーン。
【CONNECT】【CONNECT】【CONNECT】【CONNECT】。
己の相棒を全身に纏う――――背中に展開したプラズマブースターが、即座に点火。
「オーヴァードライブ――行きます!」
『OverDrive――Thunderbolt』
全エネルギーが右足へ収束――――もはや道を遮るものはない。
「その図体で――――避けられるかぁ!」
その熱量を持って、トルメンタは一直線に“シン・ドゥルラ”へ向かう光の矢となった。
●
「うっわデッカ! 宇宙戦艦! 宇宙戦艦だよあれ! ねぇ、凄くない!?」
緊張感なく叫んだジョン・ブラウン(ワンダーギーク・f00430)だったが、状況は把握している。
致死の一撃は仲間が防いだ。ナビゲートも在る。即ち今がチャンスだということだ。
事実、トルメンタはもう攻撃の準備を終えている。
とはいえ。
「あのサイズの図体に? この僕が有効打を与えろって? 無茶言うねえ……」
《提言。プラグインの投与量が許容値を超えています。現在220%》
「そりゃそうだけどさ、ヘイ、ウィスパー。それじゃあ何時も通りに僕がやったとして、アレにヒビ入れられると思う?」
《100%の確率で“時間の無駄”と推測します》
「だろ? つまりやるっきゃないのさ」
《ですが、指定したプラグインによって敵対象に有効打を与えられる可能性は0.49%です》
「0%じゃなければ“奇跡”を起こすよ。ヒーローってのはそういうもんだろ?」
《――――――――》
「“いつもの”、頼むよウィスパー。ここでやれなきゃ嘘だ」
《……了解。300%……400%……500%……600%……》
ウィスパーに搭載されたプラグインは、ジョンの肉体に物理法則を超えた強化を与える。
電子の法則を、現実世界に適合し、当てはめるシステム。
それは、彼の体だけにとどまらない。
《――――イリーガルアクセス 起動します》
《現戦闘を続行した場合、敵艦による友軍の撃墜率 96%》
《絶望へ介入》
《エラー、弾かれました》
《”囁きを聞く者(ウィスパード)”起動》
《声なき声に耳を傾けます》
“ウィスパー”は確認を取らなかった。
決定事項を告げるように、そのシステムを起動した。
――――――助けて!
――――――この艦、落ちちゃうの!?
――――――誰か来てよ! ねえってば!
――――――今の光、何?
――――――お母さん! お母さん!
助けて怖い死にたくない誰かお願いこの子だけでも逃して信じるんだ誰だよきっと猟兵が助けてくれるそんなのわからないじゃないか――――――
「っ!? ウィスパー……これ、どこから……!」
《“確認できる全宙域”より“声”を確認。プラグインに変換》
「待、これ、やっば…………は、嘘だろ……?」
それは、ジョンが“ヒーロー”になるためのユーベルコード。
助けを求める声に呼応して、願いを叶える為の力を、ジョンに与えるのだ。
けれど。
ウィスパーが補足したのは、この宙域での戦いだけじゃない。
“戦争”が起こっているこの世界、全ての助けを求める声。
今、命の危機にさらされている者達だけじゃない。
この瞬間に死んだ者が最後に胸にいだいた慟哭すら。
《――――“奇跡”の実現率。15%》
「…………ここまでやって? はは、おいおい、なんて、割にあわない…………」
《オーバーフロー、精神汚染危険域です。続行しますか?》
「――――いや、いい、そのまま続けろ」
《警告。今後の精神に重大な障害が残る可能性が》
「いいから全部よこせ! 全部、全部持っていってやる!」
ああそうだ。
この悲鳴を上げた者たちには、“ヒーロー”が来なかった。
その絶望を全て背負って、なんてのはただの傲慢だ。
それでも、ジョン・ブラウンは――――自ら耳を傾けた“助けて”の声に、背をそむけることだけは許されない。
「回避誘導任せた…………突っ込む!」
人知を超えた強化を経て。
誰かの声を翼に変えて、ジョンもまた、“シン・ドゥルラ”へと突っ込んだ。
●
「OK、命知らずのチューマ共。俺がお前達を墜とさせない」
ヴィクティムのゴーグルが、ギラリと光った。
攻撃軌道上にある艦載機をハッキング。デブリとぶつけてぶち落とす。
細かい処理は全部無視、力づくで強引に回路を焼き切って。
「退け退け退け退け。お前らが塞ぐその道は――――」
もう邪魔をする者はどこにもない。
「――――英雄達の通る道なんだぜ」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
▼ ディクタトル級巡洋戦艦“シン・ドゥルラ” ブリッジ ▼
「目標接近二! これは――」
「何だ一体! サンドリヨンはどうなった!?」
「原因解析中! それより艦長! 何か来ます! 高速で接近中!」
「報告は明瞭にしろと言っているだろう! 何かとは何だ!」
「これは――人間!? 人間です、二人突っ込んでくる――――」
「…………何だと? いや、まさか……猟兵か!? だが! この艦を前に、何が出来る! このシン・ドゥルラを前に!」
「いかがしますか、艦長!」
「撃ち落せ! 副砲、全砲門開け!」
≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪
▼ エンペラーズ・マインド防衛戦 宙域 ▼
副砲とはいえ、宇宙戦艦のそれだ。
その口径から放たれるビームは、人間一人などまるまる飲み込んで消し飛ばせてしまう。
だが。
「その程度で」
熱の波をぶち抜いて、トルメンタは更に加速した。
「止まるものかよ!」
まだだ。まだ止まらない。
「NoChaser! もっと加速しろ! もっともっともっともっともっともっと――――」
『Limit Over』
「限界は過ぎてからが、本番だあああああああああああああああああああああああっ!」
●
この程度の熱で焼き切れるぐらいなら。
人の願いなど背負わない。
ジョン・ブラウンは生きている。
戦艦砲の直撃を受けて、生きている。
「ああ――――消すなよ、お前達」
拳をぐっと構えて。
頭から。
「消すなよ、“僕らは皆生きている”んだぜ?」
●
宇宙の――そして戦艦から見たら、ほんのゴマ粒みたいな、二人が同時に放ったその攻撃は。
シン・ドゥルラの物理障壁を打ち抜き、多重複合装甲を食い荒らし。
その艦隊を――――大きく、大きく揺らし、一拍おいて、爆発が巻き起こった。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ミーユイ・ロッソカステル
○
フィアラ・マクスウェル(f00531)と共に行動
……確かに私、夜空の下の方が活力に溢れている自覚はあるけれど。
夜空の中で戦いたいと思った覚えはなくてよ……?
まさかあの空の中で宙に浮いて戦う機会が巡ってくるだなんて、あの世界しか知らなかった頃には想像もしなかった、けれど。
……なに、以前にも似たような経験があるの、あなた。
そう、なら……たまには、手を引いて貰うのも悪くない、わね。
……少し、試してみましょうか。
「夜との闘い 第3番」
呼び出した星々の光で敵を焼き滅ぼす歌……。
満天どころか、全周天の星空の中で歌うことになるなんてね。
――戦艦と言えども、すべての星々から自分を守り切れる訳はないでしょう?
フィアラ・マクスウェル
○
ミーユイ・ロッソカステル(f00401)と行動
宇宙空間なら以前、VR?とやらで体験したことがあるのでフワフワ感覚も大丈夫です。たぶん
バランスを取るためにミーユイと手を繋いでおきます。離れちゃったらフワフワしちゃうんですよ、宇宙って
……手、離さないでくださいね
あんなに巨大な物を相手にしたことはないのですが……威力は足りるでしょうか
まぁ、足りなければ底上げすればいいですね。
【我が戦場に輝く精霊月光】で無数の蝙蝠を呼び出します。この場合、魔法よりはこっちですね
蝙蝠は本体や艦載機に攻撃、あとは周囲を飛び回って狙いを分断させます
瞬く宇宙のステージに、観客と……照らすスポットライトを作ってみせましょう
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
▼ エンペラーズ・マインド防衛戦 宙域 ▼
(ああ)
どこまでも続く暗黒と、その闇を払おうと瞬き続ける星の海。
体を縛る野暮な重みはない。一時だけ、ミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)は戦いの最中であることを忘れた。
夜空の下ならば、十全にその力を振るえるとはいえ。
全天が夜である世界にその身を投げ出すことがあるだなんて、思わなかった。
「ミーユイ、駄目ですよ」
お互いが無重力の波に攫われぬよう、手を繋いでいたフィアラ・マクスウェル(精霊と止まり木の主・f00531)はそれに気づいたのか、少しだけ咎めるような声をあげた。
「……大丈夫よ。寝てたわけじゃないわ。少し、思っただけ」
「何をですか?」
「眼の前に、これだけ無数の星があるなら、私は歌う意味があるのかしら」
本気で言っているわけではない。そういう話でないこともわかっている。
ちょっとした言葉遊びだと理解してくれると、ミーユイは思っていた。
「えい」
「むぐ」
鼻を摘まれた。
「……痛いのだけれど」
「変なことを言うからです」
「そこまで、変ではないでしょう?」
そういう意味ではありません、と。
フィアラは四つ年上の女性に対して、母親がするようなため息を付いた。
すなわち、『もう、しょうがないなあ』、だ。
「ミーユイは、甘え方が下手だと思いますよ」
「……今のは、甘えなの?」
「ええ。ですから私はこう言います。『歌う理由は自分で決めなくちゃいけません』と」
「……意地悪ね」
つまり、ちょっと拗ねただけなのだ。
今、現実にあるこの星々の前に、自らの歌が生み出す光は並び立てるのだろうかと。
ミーユイが作り出す夜は、劣らないのかと。
そんな小さな、取るに足らない、抱くべきでもない不安を、少し解消したかっただけ。
そして、バッサリ言い切られてしまっては、そんな子供じみたかすかな不満は、飲み下してなかったコトにする他ない。
「ですけど」
そんな心の内を、読み解いたかのように。
「やっぱり、私はこう思っています。星は綺麗で、夜は深くて……けれどそれとは関係なく、『貴女の歌が聞きたい』と」
……ああ。
結局、その言葉一つがあるだけで。
冷めた心に、火が灯るのだ。
敵を呪って歌うより。
誰かを思って歌うほうがいいに決まっているのだから。
『……猟兵の皆さん! 敵艦載機が向かってきます! 回避を!』
突如鳴り響いたそれは、友軍からの警告だった。
シン・ドゥルラが放った艦載機が、他の猟兵……そして、自分たちに向かっていくつも飛んでくる。
「……無粋ね」
「ですね。で、その無粋をやめさせるのが、今回の私達のお仕事です」
繋いでいない方の手を、開いて、握る。
「ここに具現せよ、闇の眷属たち。仇なす者には蹂躙せし力を」
一匹。二匹、数十、数百。
膨れ上がるように、闇から生まれた蝙蝠達が、一斉に向かってきた艦載機の迎撃に向かう。
蝙蝠が装甲に触れる度に破裂し、その破片が集まって、赤く明滅する月を作り出す。
「さあ、舞台はこちら、歌姫はここです――――ミーユイ」
その月が照らすのは、宇宙の海に漂う歌姫の姿だ。
真紅のスポットライトに包まれて、ミーユイは高らかに声を放った。
宇宙空間で音は響かない。
けれど……その歌は、何故か宙域全てに響いた。
「 聴け この叫びを 」
ああ、空気を振るわせないとしても。
心に届く。感情が刺さる。
「 見よ この光を 」
故に、この場に存在する夜の闇は全て彼女の思うがまま。
「 星の輝きは 全てあなたの敵である 」
《夜との闘い 第3番(ケンプファー・ナハト)》。
≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪
▼ ディクタトル級巡洋戦艦“シン・ドゥルラ” ブリッジ ▼
「―――何だこの不愉快な歌は!?」
宙域に響く――本来ありえない――その歌は、シン・ドゥルラのブリッジにも届いていた。
その歌と同時に、空間がミーユイが作り出す夜の闇に飲まれていく。宇宙の黒を、歌が飲む。
「あれか……! 皇帝陛下の宇宙を、あのような輩が汚すなどと!」
それは紛れもない敵意。
それは紛れもない害意。
故に。
「――――! エネルギー反応!」
「どこからだ!」
「ぜ……全方位です!」
天の光は、全て歌。
瞬く星々の放つ、あらゆる光が、熱量となってシン・ドゥルラを包み込んだ。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
コーディリア・アレキサンダ
○
【かもめ亭の仲間と同行】
なんだか慣れないね。このウチュウフクというやつ
――兎も角、あれ一つでいいんだろう?
それなら往こうか。お願いされたからね、友達に
後のことは考えない。最初からボクらの総てを出し切ろう
ここで動けなくなっても構わない覚悟で《壊し、破るもの》を連打する
即ち〈全力魔法〉を可能な限り〈高速詠唱〉で撃ち続けるわけだ
とはいえ、あの大きさから考えれば100本の矢を当てたところで城塞に小石をぶつけるようなもの
なら、小石のほうを大きくしてあげればいい
100本、200本、300本……
連打で生み出したありったけの弾丸を束ねて最大の一撃を以て粉砕しよう
その時間や後の事は2人に任せるよ。信頼してる
ステラ・ペンドリーノ
〇
【かもめ亭の仲間と同行】
星明りに溢れるこの空で、友達に妹に従妹、せっかく一緒なのに
やることが戦いじゃ、色気がないわね
気を抜かず無事に帰って、皆で落ちついて星を見ましょう
相手が大きいからこそ、中までカチカチってことはないでしょう?
≪百億の星≫――時を巻き戻す星の光
堅牢な装甲だろうと製造前、金属粉にまで戻してしまえば良いわけね
撃ち抜けなくても良い。とにかく広く、殻を剥がして防御力を落す
そうしたら後は、頼りになる仲間がきっと貫いてくれる
光を当てている間は対象を見て居なくてはならないけれど…
スバルちゃん、自慢の妹がついているんだもの、何も怖くないわ
リアの攻撃が命中したら、無理せず皆で離脱しましょうか
スバル・ペンドリーノ
○
【かもめ亭の仲間と同行】
宇宙に出るのは、初めてだけど……
こんなにも、星が近いのね。どこを見ても星が瞬いて、夜の闇に包まれて
力が幾らでも沸いてくるみたい。これならきっと、何からだって守れるわ
防御力を上げて、仲間の盾になる
ビーム砲だろうと何だろうと、ありったけの魔力を込めた爪で打ち払って、それでもダメなら身体で受け止める
命より大事なお姉さまはもちろん、リアも……いつもお世話になってるし、まあ、その……大事な友達だもの、ね
私は、壊す魔法は得意じゃないけど
2人は、凄いもの。時間さえ稼げば、きっとあんな船、どうとでもしてくれるわ
さぁ、来なさい
私の目の前で、私の愛する物を害せるだなんて、思わないことね
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
▼ エンペラーズ・マインド防衛戦 宙域 ▼
百本の魔力の矢が、宇宙の闇を裂いて“シン・ドゥルラ”に突き刺さる。
が、展開された謎のバリアによって、力は相殺され、装甲に届くこと無く消滅してしまった。
「ふむ、防御力は相応、ということだね。仮に装甲に辿り着いても、アレを貫けるかどうか――」
コーディリア・アレキサンダ(亡国の魔女・f00037)は、その結果に落胆するでもなく、淡々と結果だけを見とどけた。
「あらら……どうするの?」
「リアの魔力でも難しいとなると……」
ステラ・ペンドリーノ(きみと見つける流れ星・f00791)とスバル・ペンドリーノ(星見る影の六連星・f00127)、姉妹は、お互い手をつなぎながらコーディリアを見た。
信頼を寄せる彼女だからこそ――だが、当の本人はしれっと告げる。
「友達の頼みだ、無理でした、で済ますわけにはいかないさ。今のでおおよそ、どれぐらいの威力が必要なのかは推測できた。――――ぶち抜いてやろうじゃないか」
「……出来るの?」
「多少の時間と準備が必要だけどね。それとステラ」
「ん?」
「ボクの指定する場所を、“柔らかく”できるかい?」
言わんとする事はわかる。出来るかどうかで言えば……。
「できるわ。ううん、やるわ」
「お姉さま、けど……」
「うん、私の能力は“見て”ないと駄目だから。スバルちゃん」
妹は、どうにも自分のことになると、我を忘れてしまう性質がある――まぁ、自分のまた、妹のためならば何でも出来るのだけれど。
だから、こうして“お願い”するのは、時と場合をよく選ばなければならない。
ステラの望みなら、きっとどれだけ傷ついても、命をかけてでも、やり遂げようとしてしまうだろうから。
「私とリアを、守ってくれる?」
スバルの返答は、意外にも、笑顔でにっこり、ではなかった。
ちょっと頬を膨らませて、少し怒ったような顔で。
「そんなの、頼まれなくたって、絶対守るに決まってるじゃない!」
「……そっか、そうよね、ありがと」
「そうよ、もう! これは……今夜は、たぁーっぷり、お姉さまの血を飲ませてもらわないと」
「スバルちゃんったら……」
「……キミたち、いちゃつくのはいいけどね。そろそろいいかい?」
ため息をこぼしながら、コーディリアは姉妹に向かって言った。
手をつないで、視線を魔女に向けた二人の顔に、もうお巫山戯の色はどこにもない。
「ええ」
「いつでも」
「よし、では――――」
指揮者がタクトを振るように。
コーディリアは、魔女の箒を持ち上げて、先端を“シン・ドゥルラ”に向けた。
「―――始めよう」
その声に呼応するかのように。
戦艦から…………一筋の光が、三人目掛けて放たれた。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
▼ ディクタトル級巡洋戦艦“シン・ドゥルラ” ブリッジ ▼
「猟兵共め――――――! 主砲用意!」
「リょ、了解! ターゲットは――――」
「近くの猟兵だ! 誰でもいい、吹きとばせ!」
「了解! “サンドリヨン”…………発射します!」
≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪
▼ エンペラーズ・マインド防衛戦 宙域 ▼
「――――っ!」
攻撃に、真っ先に反応したのは、スバルだった。
両爪に真紅のオーラを纏い、主砲の光を抑え込むように手を広げた。
「スバルちゃん!」
「大丈夫! 二人は攻撃に、集中して!」
戦艦が放つエネルギーを、全身から魔力を放出することで受け止める。
当然、それが個人の出力でまかないきれる訳もない。
スバルが利用しているのは、宇宙に散らばる星の光だ。
その体に流れる、吸血鬼の血と、星の悪魔の血。
普段は、ただの少女だけれど、夜の闇と星の光。
二つを浴びた時、スバル・ペンドリーノの身体はその“本性”を見せる。
姿は人のままでありながら、異次元の法則によって性能は別物へと変じるのだ。
――――なんて綺麗な星。なんて近い夜。
――――出来るならもっと静かな所で。誰も邪魔のない所で。
――――皆と、お姉さまと、ゆっくり静かに見たかった。
――――ああ、だけど、これだけ、私の世界が近いなら。
――――どんなものにだって、負けはしない。
「負けないわ」
勢いを増す光の本流を、赤い爪で受け止める。拡散する熱の波を、魔力で受け止めて無に還す。
「絶対に負けない」
体がきしむ。端正な顔がゆがむ。
けれど、退く訳にはいかない。
背後には、スバルの守るべき人がいる。
「消え――――なさい――――――っ!」
光の勢いが増していく。
抑えきれない。
それでも。
スバルは退かない。
●
「スバルちゃん……っ!」
ステラは、その手に、小さな星を生み出した。
まわる。まわる。まわるまわるまわる。
ステラは、スバルを信じている。
けれど、敵の放つビームとスバルの力は、きっと相性が悪いのだ。
近くなれば近くなるほど、スバルに届くはずの星の光を飲んでしまうから。
ステラは躊躇なく、妹の元へ飛び出し、自らが生み出した光を、スバルが受け止める熱量の塊へと向けた。
「周れ」
マワレ。数多の命を守るために。
「回れ」
マワレ。愛すべき血の繋がりを守るために。
「廻れ――――――ッ!」
マワレ。この場に集った星の光を消さないために。
●
「お姉さま!」
スバルが抱きとめたステラの体は、脱力したせいもあるのだろう、体重がそのまま伝わってくる。
「スバルちゃん? 大丈夫?」
なのに、笑顔でそんな事を言うものだから。
「もう――私が守るって言ったのに、お姉さまに守られてちゃ、私……」
スバルは、最愛の姉を、抱きしめることしかできなかった。
ステラの放った光は、“サンドリヨン”を相殺し、宇宙には一時だけ、闇の空間が戻っていた。
「いいのよ、お姉ちゃんなんだから」
「……でも、私を守るために、能力を使っちゃったら……」
「あら、一言も言ってないわよ、私――――光が連中に届いてないなんて」
「え……?」
スバルは、遠く宇宙に浮かぶ、“シン・ドゥルラ”を見た。
隔壁の一部が、まるで強くぶつけた豆腐が崩れる時のように。ボロリボロリと剥落を始めた。
その亀裂はどんどんどんどんと広がっていく。見るからにその速度は増していく。
「私の星を喰らったんだもの、ちょっと図体が大きいから“遅かった”けど―――塵になるのは、そっちの方」
ステラの《百億の星(アンドロメダ・シリンダー)》は、手の中で生み出した擬似的な中性子星の回転が生む光の照射によって、次元を歪ませる規模の重力変動を、ごく僅かな点に作用させる事で時間逆行を発生させるユーベルコードだ。
けれど、そんな超エネルギーの本流に耐えられる物質など存在しない。時を巻き戻される代償として、全ての存在は事象の地平線にて等しく崩壊する。
どれほど装甲が強固だろうと関係なく、
どれほど最新の機能だろうと容赦なく、
どれほど巨大な艦体だろうと躊躇なく、
この世に物体として存在している限り、逃れ得ぬ死の光となる。
「さあ、リア、頼んだわよ」
ここまでやって――――ただの時間稼ぎ。
なぜなら、本命はこの後。
今度の光は、こちらが放つ。
「ああ」
二人の背後で、詠唱を終えたコーディリアは、静かに頷いて、。
「当てるとも。勝利の星は――――見えている」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
▼ ディクタトル級巡洋戦艦“シン・ドゥルラ” ブリッジ ▼
「――――何事だ!?」
「しゅ、主砲反応消失しました! 原因解析中!」
「急げ! ……一体どうなっている!?」
“サンドリヨン”の輝きは、確かに放たれ、軌道上にある全てを光の塵へと変える筈だった。
それが何故、綺麗サッパリ消え失せているのか。
あの莫大なエネルギーはどこへ言った?
返答は、オペレーターからやってきた。
「解析完了……か、艦長! 報告します! 主砲発射に使用したエネルギーが“元に戻って”います!」
「……何だと!?」
「“サンドリヨン”、発射前の状態そのままです! 如何しますか!?」
「む…………」
何らかの現象によって、“サンドリヨン”の攻撃が“放たれる前”に巻き戻った?
馬鹿な、そんな事があるわけがない――――。
「……ま、待ってください、装甲が……何だこれ、崩壊しています! 艦体が六番ブロックを中心に崩壊! このままだとコア・ブロックまで――――」
「何だとぉ!? ………………ぐぅ、六番ブロックを廃棄しろ! 切り離せ!」
「了解…………つ、続いて高エネルギー反応……来ます!」
「何!? どこからだ!?」
「サ、“サンドリヨン”着弾点――――宙域G-25779! うわあああああああああああああああああ!?」
「か、回避! 回避ーーーーーーー!」
≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪
▼ ??? ▼
――――問題提起。
――――この状況下における有効手を問う。
――――審議。参加二十六体。
――――却下。被害ノ拡大コレ以上ヲ望マズ。
――――却下。代償ノ対価ヲ支払エズ。
――――承認。有効ト認メル。
――――承認。ソノ対価ヲ妥当トスル。
――――却下。過剰火力故ニ。
――――採用。《壊し、破るもの》。
――――権能。■■■■■。
――――決定。審議終了。
――――実行。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
▼ エンペラーズ・マインド防衛戦 宙域 ▼
「――――――――――――――――――」
魔女の口が紡ぐ呪文を記録することは到底不可能だろう。
なにせ、常人が長い時間をかけて行う“詠唱”という動作を、限界まで“圧縮”したものを高速で唱え続けているのだから。
聞き取れたとしても意味にならず、意味があったとしても実現できない。
理屈で語ることは出来る。
詠唱一つが終了する、その末尾の一文を、次の呪文の詠唱の開始へと繋げるアレンジを、何百何千と並べ立てる行為を、その場の即興で行っているのだと。
「権能選択、限定状態での顕現――承諾確認」
積み重なり紡がれたその魔力の矢の数、およそ一万と五千二百。
本来一本一本放つはずの力を停滞、融合させて、束ね、凝縮し、巨大な槍とした物。
「我身に宿る悪魔、破壊の黒鳥」
そのサイズも、もはや人間が制御できる大きさではない。
なにせ、巨大な戦艦の片翼と比する程なのだから。
「――――――撃ち落としなさい」
けれど、コーディリアにとって、この力は理屈と道理を持って制御できるモノにほかならない。
「《壊し、破るもの》」
引き絞った矢が放たれるように。
光の尾を引いて、流星が走る。
遠く、遠く、遠くあるはずの“シン・ドゥルラ”に。
まず、破壊の力が寸分違わず、ステラの崩した“穴”へと突き刺さり。
ついで、発生した爆発が艦体を大きく揺さぶって。
その力の波が全てを破壊する前に、“シン・ドゥルラ”は攻撃を直撃した区画を切り離した。
「あー! 惜しい!」
ステラは悔しそうな声を上げたが、コーディリアはふうと息を吐いて。
「いや、こんなものだよ。1/3もなくなれば、後は沈むだけだ。他の猟兵が片してくれる。……スバル、大丈夫?」
「ええ、大丈――――」
スバルはふと、何かを思いついた顔をした。ピコーンてな感じである。
そのままふらっと体をよろめかせ、ステラにピンポイントによりかかり。
「あっ、駄目、力が抜けちゃった――お姉さま、抱っこして。支えて。ベッドまで連れて行って」
「も、もう、スバルちゃんたら……じゃあ、戻りましょうか」
苦笑しながら、妹を支え、ステラは小さく笑った。
「うん……ああ、そうだ。ここは宇宙空間だからね。重力がないということは、重さがない。だから――。」
コーディリアは、ふ、とイタズラを思いついた子供のような笑みを浮かべ。
「お姫様抱っこだって、できてしまうよ?」
その一言に。
スバルは目を輝かせ。
ステラはその期待に答え、そっと妹の体を抱き上げた。
≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ギド・スプートニク
○
【無貌の民】
宇宙空間を生身同然で活動できるとは、なかなかどうして面白い趣向だ
くるりとその場で旋回したり
身体の動きを確かめるようにふわふわ
さて、遊んでばかりもいられまい
あのデカブツを堕とせば良いのだろう?
防御は少女ふたりに任せる
なに、幼くともその力量は信頼に足る
なればこそ私は、全身全霊をこの一撃へと傾けられるというもの
魔眼をフル稼働
視界全て、周囲の空間を支配域として掌握
視えざるものを視て
それを支配する魔眼の力
出し惜しみは無しだ
妖刀を支配し力を限界以上に引き出す事で、妖刀を媒体とした巨大な魔力の刃を形成
その長さは戦艦など悠に越え、宙域をひと薙ぎできるほど肥大化
後はそのまま、戦艦へと刃を振り下ろす
イリスロッテ・クラインヘルト
補足:○
仲間の呼び方:名前+ちゃん
【無貌の民】で参加なのです!
◆でっかい!
あんな戦艦と生身で戦う事になるとは…
でも、イリスは一人じゃないのです!
みんなでやって見せるのです!(虹色にぺかーっと光る)
◆イリスも出来るもん
大きいのが来ても【ミレナリオ・リフレクション】で
相殺しちゃうのです!
なんかちょっと規格外な気はしますが…
イリスは立派なミレナリィドール!
戦艦ちゃんに出来て、イリスに出来ない事はない!なのです!
(装備【虹の翼】を大きく広げてかっこよく対抗準備します)
◆本命は…
相殺して隙を作る事なのです!
さあ、今なのですよ!!
攻撃はお任せするのです!!
シャーロット・リード
補足:◯
【無貌の民】のみんなと参加です
わぁ……でっかいのですよ
でもきっと力を合わせれば戦艦だって必ず壊せるはずなのですよ!
わたしは強い攻撃を通せるよう支援でお手伝いしますね
確かレーダーとかセンサーは光に弱いとか聞いた気がするのです
頑張ってすごく光ってみたらこちらを見失ったりして攻撃の邪魔とかできないでしょうかね
邪魔できなくとも攻撃で頑張るのですよ
1つ1つの光は小さくても重ねるほど輝きは強くなるのです!
こちらに攻撃をしてくる近い所にある邪魔な敵の砲台や艦載機を狙って
光を収束させてどんどん攻撃していきますよ
攻撃から逃げることは許さないのです!
あなたがたはここで墜ちて世界からどいてもらいます!
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
▼ ディクタトル級巡洋戦艦“シン・ドゥルラ” ブリッジ ▼
「被害状況を報告しろ!」
「か、艦体の42%がシステムダウン……第六ブロックの切り離しは正常に成功しましたが……」
被害状況は極めて申告。
そもそも、艦の四割以上を失って、何が出来るというのだ。
かろうじてコアが残っているから、まだ沈んでいないものの。
この姿を見たら誰もが言うだろう。
『もうこの艦はおしまいだ』、と。
「……主砲のエネルギーはどうだ」
「コ、コアユニットは無事です。出力は80%になりますが、まだ撃てます」
「反動を考えなければ、どれぐらいあげられる」
「……はい? 艦長?」
「後のことを考慮せず、全エネルギーを主砲に回せば、どれほどの威力になるかと聞いているのだ」
「そ、それは……け、計算上は、300%まで……」
「…………構わん。“ガラスの靴”を起動しろ」
艦長のその一言に、ブリッジの人員がざわめきたった。
「で、ですが艦長。反射する“サンドリヨン”の中和機構が死んでいます! “シン・ドゥルラ”が堕ちる可能性が……」
「構わん」
「艦長!?」
「騒ぐな! このままこの“シン・ドゥルラ”が引き下がって良いと思うか!? 断じて否だ!
我々は見せつけねばならぬ! この艦が偉大なる皇帝陛下の剣であることを! 違うか!」
怒声。
傷つけられた挟持は、怒りは、どのような手段を使っても拭わねばならないのだ。
たとえ、命と引き換えにしても。
「退避はない。後退はない。我々は常に皇帝陛下とともにある。役目を果たせ」
「……りょ、了解しました。“ガラスの靴”、起動します……」
「それでいい。見ていろ、猟兵共……そして反乱軍よ。我らの意地を見るがいい……!」
≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪
▼ エンペラーズ・マインド防衛戦 宙域 ▼
「……もう大分、終わりかけているみたいだな」
半壊した“シン・ドゥルラ”の様を確認し、ギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)は目を細めた。
転移してきた直後に見た光景がこれなのだから、むべなるかなだ。
どうやら他の猟兵達は、かなり派手に暴れたらしい。
「あ、あの艦、まだ動けるのです? もう壊れちゃいそうなのです……」
イリスロッテ・クラインヘルト(虹の聖女・f06216)も、同じく傍らでその光景を眺めていたが……どう見ても、スクラップ寸前だ。
このままだと、イリス達の出番はないかも知れない、なんて思った所で。
「あれ、何ですか? キラキラしてるですけど」
二人と一緒に転移してきたシャーロット・リード(ホーリープレイ・f04624)が、声をあげた。
“シン・ドゥルラ”の艦体から射出されたのは、銀色に光る、無数の多面で構成された巨大な球体だった。
「わぁー、すごいのです。イリス、あれと似てるのもってるのです」
「……似てるモノ?」
疑問をいだいたギドに、イリスは両手をばっと広げて答えた。
「はい! おひさまの光を当てると、イリスの翼みたいに、七色にぱぁーっとなるのです、綺麗なのです」
「ああ、プリズムか。反射や屈折を利用した道具だな。一方向から飛び込んできた光が周囲に拡散………………」
言葉が途中で止まる。
珍しく。
本当に珍しく、ギドの頬に一筋の汗が伝った。
「……あの主砲のビームを」
「拡散……」
「する……?」
三人の声が重なると同時、“シン・ドゥルラ”が主砲を放った。
●
放たれた光は、展開したプリズム……正式名称“ガラスの靴”に命中した。
特殊な機構によって内部で主砲の光を乱反射・増幅させた後、周囲に拡散し巻き散らかす、無差別広域破壊兵器。
本来ならば、“シン・ドゥルラ”は、この光線を無害化する機能を備えているが、今の艦にその力はなく。
よって、これから行われるのは、触れたモノを原子に還す超熱量の光が、己を含めた全てを解き放つ。
自爆攻撃に、他ならない。
●
「だ、駄目なのですっ!」
光線は全て“ガラスの靴”の内部に収束し、乱反射を始めた。
あと数十秒もすれば、増幅したエネルギーが周囲に放たれるだろう。
本能的に危険を察知して、イリスは“ガラスの靴”の前に飛び出した。
サイズ差は著しい。なにせ艦戦を前提とした兵器と、たった一人の少女だ。
イリスがビー玉なら、“ガラスの靴”はバスケットボールだ。
けれど。
「絶対に、駄目なのですっ! そんなの、そんなの――――」
もしこの攻撃を許せば、今までのみんなの努力が全て無駄になる。
解放軍も、この場にいる猟兵達も、無事では済むまい。
「止めるのです、止まるのです、皆、イリスが守るのです――――っ!」
意志に呼応するように、その背に七色の翼が生まれた。
いかなる仕組みか、小さな機械仕掛けの天使が生み出す虹は、とどまる事無く膨らむ。
相手は巨大だ、ならばもっと。
相手は強力だ。だからもっと。
大きく、強く、輝かなければ、この光は跳ね返せない。
虹の翼が、“ガラスの靴”を包み込むように広がっていく。
「っ、うううううう~っ!」
破壊をもたらすエネルギーと、それを抑え込む力が拮抗する。
――いや。
小さな体が、ジリジリと後退する。虹を裂き、微かに溢れ出した光線が、デブリを塵芥に変えた。
「イリスさんっ!」
その背を、シャーロットが支えた。
「シャーロットちゃん――っ!」
「大丈夫です、負けないのです、だって、わたし達、三人もいるのです!」
優しく微笑んで、シャーロットもまた、自らの身体から、光を生み出した。
その光は、強く輝きながら――――イリスの虹色に混ざり、その存在を増していく。
より強く。より大きく。重なり合う二人の光は、“ガラスの靴”の内部に入り、内側で荒れ狂うエネルギーにぶつかった。
「小さな光だって――重ねれば、輝きは強くなるのです! だから!」
右手の甲の疵が熱を持つ。痛いけれど、痛くない。
《聖光の裁き(ホーリーレイ・ジャッジメント)》。
慈悲と善性、シャーロットが心に刻んだ“あるべき姿”として存在する限り。
その光は途絶えない。
「「わあああああああああああああああああああああっ!」」
二人の少女の声が、宇宙の果てに、確かに響いた。
虹の極光が、“ガラスの靴”を満たす。
破壊の力を相殺し、かき消して――――。
「ギドちゃんっ!」
「ギドさんっ!」
イリスとシャーロットは同時に叫んだ。
●
「ああ」
何もしていなかったわけがない。
対象は大きく、視るべきモノもまた広い。
“掌握”に時間はかかったが、此処から先は――――。
「ありがとう、二人共。今度はこちらの番だ」
――――妖刀『玲瓏』を天に翳す。
キィン、という耳鳴りのような音は、狼の遠吠えにも似ていた。
「では、世界を救うとしよう」
その宣言は、誰にはばかること無く、気負うこと無く、戸惑うこと無く。
ごく自然に、ごく当然に、ごく必然に行われた。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
▼ ディクタトル級巡洋戦艦“シン・ドゥルラ” ブリッジ ▼
「ど、どうなっている!」
「“ガラスの靴”――内部エネルギー、消滅、しました……」
「…………馬鹿な。て、敵の姿は!?」
「…………駄目です! 視認できません! レーダーも……ものすごい光量だ! なんだこれは!」
ついぞ彼らが知ることはないだろう。
“ガラスの靴”の内部で膨れ上がった、七色の光が圧縮・屈折されて、“戻ってきた”結果、“シン・ドゥウラ”の【目】はついに焼ききれた。
電子の回線を奪われ。
情報を奪われ。
ついに“シン・ドゥウラ”を守る、何もかもがなくなった。
「――――まだだ! 突撃せよ! コアのエネルギーを臨界させろ! 質量で押しつぶせ!」
「……! 了解!」
オペレーターは、速やかにその指示に従った。
自爆の手段は、一つではない。主砲が無力化されたなら、本体をぶつけるまでだ。
死にかけの艦が、動き出す。
魔法が、解けようとしている。
≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪
▼ エンペラーズ・マインド防衛戦 宙域 ▼
ギドの魔眼は、視認した空間――――領域を支配する。
妖刀を媒介に、宙域に存在する全てのリソースを支配し、魔力の刃を形成した。
「わぁ……っ!」
「綺麗……なのです」
力を使い切って、無重力の宙に身を投げだした、イリスとシャーロットは見た。
限りなく、どこまでも膨張し続けるその形なき刀身の、虹色を。
宇宙に放たれた魔力の残滓を全て束ねた、その光輝を。
“掌握”された刃のサイズはもはや、“シン・ドゥウラ”など問題にならない。
宙域すら両断する、最大、最強の一刀。
「出し惜しみは無しだ」
仲躊躇なく振り抜いた。
●
赤の光が、最後に残ったバリアを砕き。
橙の光が、複合装甲を焼き切り。
黄の光が、フレームを叩き斬り。
緑の光が、その力を艦体全てに伝播させ。
青の光が、“シン・ドゥウラ”を飲み込み。
藍の光が、膨れ上がって。
紫の光が、尾を引いた。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
▼ ディクタトル級巡洋戦艦“シン・ドゥルラ” ブリッジ ▼
沈む。この艦が沈む。
馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!
こんな馬鹿な事があってたまるか!
かくなる上は――――――貴様らだけでも。
艦長は、自らが光に焼かれるその一瞬前に、自らの権限を行使した。
コアの臨界を早める。今この場で。
我らと共に、宇宙の塵に消えるがいい!
≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪
そして今、ギドは見ている。
両断され、宇宙の塵になりゆく“シン・ドゥウラ”の姿を。
臨界を迎え、制御を失い、暴走を始めたエネルギーの奔流を。
ユーベルコード、 《意志無き者の王:鏖殺領域(アルカードグラムゲイズ・オーバーロード)》。
それは、“視認した空間と領域を支配し、掌握する力”。
「――――在るべき塵芥の海へと」
遠近法で、残骸が掌中に収まるように調整して。
「還れ」
握りつぶす。
コアがもたらす最後の爆発は、その一動作で圧縮され、僅かなまたたきだけを残して、完全に消え失せた。
●
「…………任務完了。しかし、なんだ」
妖刀を仕込み杖に戻しながら、ギドは改めて、身体を動かし。
「……ふわふわとするものだな、これは」
宇宙空間の無重力を思い出したかのように、しばしその場でくるくると回ってしまうのだった。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
▼ 戦果報告 ▼
敵艦“シン・ドゥウラ”――――撃破。
解放軍所属艦――――――被害無し。
戦闘終了。
諸君の戦いに、心から感謝する。
≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪≪
大成功
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