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大祓百鬼夜行③〜涙雨に散花を

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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#大祓百鬼夜行


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 しとしと、雨が降っている。
 この辺り一帯だけ、けぶるような雨模様。
 霧の向こうに見えるのは、高くそびえ建つ呪われた「百霊鎮守塔」。

 雨の中、翅をひらめかせて飛ぶ者たちがいる。
 骸魂妖怪達が、百霊鎮守塔を壊そうと集まっているのだ。

 止めにおいでや、猟兵さん。
 毒の雨風で迎えたげる。
 さぁさ、わらわ達と遊びまひょ?

 蝶々の妖女が舞う。毒の鱗粉を雨と風に溶かして混ぜて。
 その唇に浮かぶのは蠱惑の笑みだけれど。
 頬を伝う雨粒が、一筋こぼれて落ちる。
 呑み込み絡み合って繋がった骸魂は、どうしようもなく死を振りまくから。

 猟兵さん。
 忘れ去られて死んだ者共に。
 どうか、葬送の花をくださいな。

●グリモアベース
 カクリヨファンタズムの最深層に通じる道を示すという、呪われた「百霊鎮守塔」。
 塔の最上階にある「百霊灯籠」が点灯した時、「竜神親分」の力は弱るという。
 今、この塔を破壊するため、骸魂に憑かれた妖怪達が集結しつつあるのだ。

「塔を守るために、防御装置を駆使して戦ってほしい」
 クック・ルウ(水音・f04137)は、そう説明を続けた。
 鎮守塔には、さまざまな霊的防御装置が備わっている。
 その内の一つが『散花の守り』とよばれる装置。
「これは、それぞれが待ち寄った花を捧げることで発動する。」

 やり方は、ただ風の中に花を投げれば良い。
 そうすれば花は光となってあなたを守るだろう。
 込められた思いや花の種類によって光は姿を変えて。
 花から生まれた光は、毒を防いで身体を癒やし、骸魂の力も弱める。
 それを利用して戦えば、こちらの有利となるはずだ。
「取り憑いた骸魂が消えれば、妖怪達も元に戻ることが出来る。だから、全力で戦ってほしい――雨の中は危険だろうけれど、どうか気をつけて」

 グリモアが閃けば、雨の音が耳朶を打つだろう。


鍵森
 一章完結の戦争シナリオです。
 涙雨に濡れた蝶へ、花を捧げてくださいますか。

●散花
 霊的防衛装置を発動させるためには花が必要です。
 お好きな花を持ち寄り、風に投じてください。
 花は光となってあなたを守ります。
 どんな光になるかはそれぞれ違いがあるでしょう。
 勿論ユーベルコード製の花や花びらでも大丈夫です。

●プレイングボーナス
 霊的防衛装置を駆使して塔を守る。

●採用人数
 採用人数が少数になる場合がございます。
 早期シナリオ完結を優先させて頂きますことご了承ください。
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第1章 集団戦 『胡毒蝶の艶女・遊々』

POW   :    颶風の舞
【舞うように扇を煽ぐこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【凄まじく毒々しい竜巻】で攻撃する。
SPD   :    伽日良の鐵
【サソリのようにうねる尻尾(麻痺属性)】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    蠱惑の銀煤
レベル×100km/hで飛翔しながら、自身の【翅】から【出た鱗粉を吸うと敵を魅了し混乱させる攻撃】を放つ。

イラスト:撒菱.R

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

曲輪・流生
アドリブ歓迎

「百霊鎮守塔」を護るためにもお花を捧げましょう。
僕が持ってきたのは白い芍薬の花。
昔、僕に似合うと沢山頂いた花だから…
僕の好きな花でもあります。

ふわふわと柔らかい幾重にも重なった花弁。
この花が僕達を守ってくれるなら嬉しいです。

そして骸魂さん達が望むのならば
それを葬送の花としましょう。

【破魔】と【浄化】の【祈り】を込めてUC【白き破魔矢】を放ちます。
鱗粉からは光が守ってくれるでしょう。

忘れ去られて死んだと言うのならどうかここで新しい意味を得て…僕は貴方達の願いも叶えたいから



 僕は行きましょう。
 叶えてほしい願いをもつあなたの元へ。
 どこまでも参りましょう。

 水を跳ねる小さな足音をさせて、細雨に漂う霧の中を童子が行く。
 人の姿をした竜神、曲輪・流生(廓の竜・f30714)の髪や衣には花飾りが咲きこぼれ。
 そして腕の中にも、大輪の白い芍薬を携えている。
「『百霊鎮守塔』を護るためにもお花を捧げましょう」
 そして。
「骸魂さん、あなた達のためにもお花を手向けましょう」
 流生が声を掛けた先に、雨に濡れて立ちすくんでいる姿があった。
 ゆらあり、広い翅をはためかせて女妖がじっとりと振り向く。
「来やしゃった。来やしゃった」
 はしゃぐような、しかし切なげな声音色をさせて、
「――……遊びまひょ。可愛らしい、坊や」
 軽々と飛び上がった遊々は、笑いながら毒の鱗粉を振りまく。
 雨に甘露のような香りが混じって、魅惑的な毒の息吹が混乱を誘う。風の中で扇を片手に舞い踊る姿は艶やかであったけれど、それを見詰める流生は憂うような表情をしていた。
「待っていたんですね、あなたは」
 華奢な見目をしている、あどけなくも美しい面差しはしかし隠しきれぬ神々しさを孕んで。
「その願いに応えましょう」
 竜神は、告げる。
 白い芍薬の花を風に投じたなら、それは光と姿を変えて流生の周りを浮かんで雨を遮った。
 ふわふわと優しく輝く花びらがやわらかく幾重にも重なった光の花。
「……う、ぅ!」
 清廉な光に照らされて、たじろいだように遊々は身を捩った。
 まぶしそうに、しかし花から目を逸らせなくなった様子をして。
「白い、芍薬……?」
「昔、僕に似合うと沢山頂いた花だから……僕の好きな花でもあります」
 遠き過日に馳せる思いが声に籠もっているようだった。
 忘れず大切にしている、その姿がなおさら眩しいと、蝶々は引き寄せられて。
「……その人達のこと、覚えてはるん?」
「ええ。――この花が僕達を守ってくれるなら嬉しいです」
 白く清廉とした光の花が毒を浄化する。
 さあさあと雨音は穏やかで、芍薬はその時一際輝いて標となった。
 標的を見据えて構え。
 流生は静かに、白き破魔矢を放つ。痛みも感じさせないぐらい疾く、一瞬に。

 骸魂さん達が望むのならば、葬送の花としましょう。

 白い炎の矢に撃ち落とされて、遊々はひらひらとぬかるんだ地面の上に倒れた。
 流生は傍へいき、泥に塗れるのも構わずに膝をついて。
「忘れ去られて死んだと言うのなら、どうかここで新しい意味を得てください」
「あ、たら……?」
「はい」
 もう一度、を望んでもいいのだと囁く。
 遊々の茫洋とした眼差しが彷徨った。なにかを考えていたのか、それすらも朧気だっただろうか。ふうっと吸い寄せられるように、光となった芍薬の花をその瞳に映して。
「……、おはな……きれぇ……、ねぇ……」
 願いが叶ったことを喜んだのだろうか、最後にまるで子供のような無垢な笑みをして目を閉じ、動かなくなる。
 骸魂は力尽きたのだろう。次に目覚めた時には、彼女も元の妖怪に戻っているはずだ。
 それでも。
「……僕は貴方達の願いも叶えたいから」
 流生は雨に濡れて冷たくなった手を、そのちいさな両手に包んでやりながら祈る。
 どうか、解き放たれて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
赤ずきんさん/f17810
花:桜

【紙技・紫煙】。桜の花を折ります。季節は過ぎていますし、枝を折るわけにも行きませんから。
そちらも洒落たもん持ってますね。

オレたちには桜を名前に持つ友達がいました。死にましたが。
あのバカ、よりによって桜の柄の折り紙を遺していったんですよ。
使いどころなんで使いますけど。
…まあ、偶然に偶然が重なったまでのことですが。

雨と光と花、悪天候の《闇に紛れて》戦いましょう。
無差別ったって見えないものは叩けないでしょ。
当たったとしても結構平気で…

あいつがオレと赤ずきんさんを守ってるみたいじゃないですか。
そういうマジメなの、生きてるうちにやってほしかったんですけど。
…はあ。


レイニィ・レッド
坊ちゃん/f14904
花:桜

成程
坊ちゃんはそう用意したんですね

大丈夫です
自分もポッケに忍ばせてますンで
水たまりから拾った花びら
暇潰しに散った花びらを集めてたんですよ
こんな風に使うなんて考えてませんでしたが

ああ、あの人
そんなものを坊ちゃんに遺したんですか
此処で使えるとは
なんとまァ

馬鹿で五月蠅ェ奴でしたね
でもしぶとくて
なんだかんだ世話しちまったりした
ぁー…らしくないことばかり考えちまうな
考えるのは止めます

折角の雨だ
『雨の赤ずきん』の本領見せてやりましょ
雨の中なら負傷なんざ障害にはならない
それに今は花が、

……、
雨で散るくせに
嫌いにはなれないンですよ

ひらひらと散る花びら横目に
文句をひとつ



おあつらえの雨だった。
きっと、それだけのことなのだ。

 絹糸のような細雨が降っている。
 ひそりと、まるで影からにじみ出たように矢来・夕立(影・f14904)はそこに立って。
 手の中にあるのは、折り紙でつくった季節を過ぎた桜の花。
「成程、坊ちゃんはそう用意したんですね」
 横目に見て取った、レイニィ・レッド(Rainy red・f17810)が呟く。
 申し合わせたわけでもないけれど、その花を選ぶだろうと理解っていた。
 紅いレインコートのポケットに両腕を突っ込んで、溜め息のような笑いを零す。
「花は」素っ気なく夕立が訊いた。
「大丈夫です。自分もポッケに忍ばせてますンで」

 さぁさ、はじめまひょ。霧の中から囀るような声立てて妖女が笑う。
 標的を見つけて集まってくる気配に、二人は淡々と構えた。

 レイニィは両腕をポケットから引き抜く、その手の中にはやはり桜の花びら。
「そちらも洒落たもん持ってますね」
「暇潰しに散った花びらを集めてたんですよ」
 水たまりから拾いあげて、そのまま。
 捨てる気にもならず、持ち続けていたものだ。
「こんな風に使うなんて考えてませんでしたが」
 花びらを風の中に撒いてしまえば、それはさらさらと溶けるように光へと変じる。
 小さな煌めきが二人の周りを漂って。
 それが淡くてふわふわとした光だったものだから、夕立は不嫌そうに目を眇めた。
 次いで桜の折り紙を風に送れば、生まれた光は花の形をしている。
「あのバカ、よりによって桜の柄の折り紙を遺していったんですよ」
「なんとまァ」
 互いの脳裏にあるのは、桜を名前に持つ友達の面影。
「あの人、そんなものを坊ちゃんに遺したんですか」
「使いどころなんで使いますけど」
「此処で使えるとはね」
「……まあ、偶然に偶然が重なったまでのことですが」
 言葉を切り、夕立は雷花を一閃。霧から迫るサソリの尾を弾いた。
 おしいおしい。さざめくような声が囃し立てている。
 そして次々と空飛ぶ蝶々妖怪達がでたらめに飛来しては、百足じみた不気味にうねる尻尾を振るった。悪天候の中、彼女達は闇に紛れた気配を捉えきれないのだろう。
「折角の雨だ。『雨の赤ずきん』の本領見せてやりましょ」
 瞬間、強烈な血の匂いが漂い。レイニィの濡れそぼった全身が赤い雨に覆われていく。孤影は、大振りの断ち鋏をチョキリとさせて。傷つくことを恐れる風もなく雨の中を闊歩する。雨がある限り斃れぬ、その噂は真実なのだと姿で語るかのように。
 陽動の意味でも、この行動は理にかなっていた。レイニィが目立てば、その分夕立も隠密行動が取りやすい。
(無差別ったって見えないものは叩けないでしょ)
 高を括る。相手が本気であれ、遊びであれ、どうにもぬるい。最初の一撃は夕立にそう思わせるに充分だった。雨の中を飛び回り、確実に敵の急所を斬りつけていく。
 レイニィも同様に、鱗粉を浴びようが蠍の針が刺さろうが意にも介さず、反対に相手を捕まえて鋏を振るっている。少しの負傷なんざ障害にならない。

 ――たかが、虫の尾だ。当たったとしても結構平気で……。
 ――それに今は花が。

 パシン! 二人の死角から迫る攻撃を防いだ桜の光が音を立てて弾けた。
 火花のように散った光の欠片は金色にきらめいて。
 息が止まるようなことをする。
「あいつがオレと赤ずきんさんを守ってるみたいじゃないですか」
 瞳をほんの少しだけ細めて、夕立は皮肉るように。
「そういうマジメなの、生きてるうちにやってほしかったんですけど」
 もう誰に言うでもない言葉を雨に零した。
 伝えられるなら文句の一つ、二つ、いや三つはあるのだが。
 相槌のようにレイニィがくつりと喉を鳴らした。
「馬鹿で五月蠅ェ奴でしたね」
 でもしぶとくて、なんだかんだ世話しちまったりした。
 もう思い出の中にしか無い、声姿が頭の中を通り過ぎていく。
「ぁー……らしくないことばかり考えちまうな。考えるのは止めます」
 ひとまず仕事にケリを付けましょう。

 やがて、蝶々達の声は止んであとに残るは花の残光。

「……、雨で散るくせに」
 フードを深くかぶれば、目元は暗い影に覆われる。
 淡い花びらの光がひらひらとこぼれ落ちて、水たまりに落ちる前に消えていった。
 流し目にゆっくりとそれを追って、レイニィは瞼を一度伏せる。
「嫌いにはなれないンですよ」
 文句を一つ、背中で聞く。
「……はあ」
 夕立は肩を竦め、大きなため息を零した。

 散花、散華、華と散った桜ひとひら。
 もし彼が花を折ったならやっぱり蓮みたいなチューリップだったんだろうか、なぞと考えるのも馬鹿らしいだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花色衣・香鈴
忘れ去られて死ぬ…わたしも、逆なら
「死んで忘れ去られるというなら、わたしもそう遠くなくそちら側になりますね」
右の二の腕に咲いた薄い硝子の様な花を茎ごと掴み、抜かれたくないという悲鳴代わりの痛みを無視して引き抜き、風の中に放る
後には血がこぽりと湧く、一向に塞がろうとしない肉の割れ目
花咲き病故の奇形

敵の鱗粉をUCの衝撃波で払いつつ、自分の土俵を作ってその上で確実に仕留めて行く
文通の友がくれたアルダワの種、宝石草
鉢で咲いてくれたそれは戦の為に使うなんて申し訳なかったから
わたしの意思で使えるのはわたしの命だけだから
「冥土の供にわたしの花(いのち)をお持ちください」
必要なら左太腿の花も抜いて手向けにする



 細雨が風にそよいで、辺りには霧がかっていた。
 病に冒された身で雨の中を行くのは体に障るだろう。
 熱を出して寝込んで、発作に苦しむことにもなりかねない。
 それでも。
 与えられるものがあってよかったと思ってしまうのだ。
 忘れ去られて死ぬ……わたしも、逆なら。
 うすく唇を開いて花色衣・香鈴(Calling・f28512)は言葉を紡いだ。
「死んで忘れ去られるというなら、わたしもそう遠くなくそちら側になりますね」
 わたしを覚えていてほしいと、望むことはできない。
 病に苦しんだ挙げ句先に逝く姿を見せてしまう、それならせめて枷にはなりたくなくて。
 だから今までもこれからも、たくさんの事を諦めて飲み込んで生きるのだろう。
 いまも刻々と小さくなる命の灯を感じている。
「さびしい雨ですね、蝶々さん」
 どのように呼ぼうかと迷って、つい大きな翅を持つ妖女をそのように呼んだ。
 ふふ、ふふふ。なまめかしい笑い声を雨の中に響かせて、空を飛び舞う遊々が姿を現して。
「お花は持って来やしゃった? ――……遊びまひょ」
 さあっと翅が風を扇いで毒の鱗粉を吹き付けてくる。
 毒の甘い香気が立ち込めて、少し触れれば強く魅了されるのだろう。こちらにおいでよと死が手招いている。けれども金木犀色の眼差しが怯えを浮かべることはない。
 香鈴は双鈴の羽衣を操りながら霊力を放って毒気を跳ね除けると、もう片方の鈴から放つ霊力の波でその場を満たして自身の力を高めた。
「私の花は、ここに」
 その華奢な体には悲壮な覚悟が秘められている。
 右の二の腕に咲いた花を茎ごと掴んだかと思うと、香鈴は力を込めて、それをぐっと引き抜いた。抜かれたくない、悲鳴代わりの痛みを無視して、薄い硝子の様な美しい花を風の中に投じる。
 あまりのことに「アッ」と遊々ですら驚きの声を上げていた。
 傷口からは血が溢れ、抉れた肉は塞がる気配もなく穴が空いたままになる。
 あまりにも惨い、と目を背けたくなるような光景だろう。
 これが花咲き病故の奇形。
 身を裂いて咲いた花は、風の中できらきらしい光となった。
 アルダワの種、宝石草は、文通友達から頂いた花だった。鉢で育てて咲いてくれたそれを戦の為に使う事が申し訳なく。けれど。
「わたしの意思で使えるのはわたしの命だけだから」
 我が身を省みないような振る舞いだったけれど、それはどこまでも真摯でいっそ健気なのだった。だからこそ胸を衝く。響く。
「冥土の供にわたしの花(いのち)をお持ちください」
 必要とあらばこの足の花も捧げましょう。
 さあ、と両の手を掲げたのなら。
 花の形をそのままにした光が遊々の元へ飛んでいく。それは胸の中に抱きしめるように受け止められて、骸魂の力を弱めていくようだった。それ以上を求める様子もない。

 腕から血が滴って、雨の中に落ちる。
 痛みに構う時間も惜しい。
 涼やかな双鈴の音が響いて、やがて残る邪気も払われた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城野・いばら
しとしと降る雨と一緒に零れる想い、受け止めて
まっていてね妖怪のアリス達
いばら達はアリスに笑顔を届ける為に咲くのだから

捧げるお花はひとつ?
アカもキもミドリも…イロイロなのに
えへん、ここは代表して私のシロバラを
頭の花をそっと風へ贈り

いばらの中の皆、だいじょうぶ
皆の出番はこれからよ(UC発動)
さぁ、たくさん咲かせましょ
この地に眠る、みーんなに届くように
そうして、寂しそうな妖怪のアリスの慰めになるよう
飛ばした種から、カラフルな花咲かせ蔓伸ばし
アナタを抱き締めたなら生命力吸収を

毒や狂気耐性はある方だと思うけど
シロい光の加護はうれしい
進攻をお邪魔するのも忘れずに
伸ばした挿し木の蔓で
こちらへおいでとお誘いを



 細かい雨がしとしと降っている。
 この雨雫に一緒に零れる想いがあるのなら受け止めてあげたい。
 まっていてね妖怪のアリス達。
 いばら達はアリスに笑顔を届ける為に咲くのだから。

呪われた塔の周りは、心寂しくなるような場所だった。最奥に通じる場所というだけあって、ここはカクリヨの外れ、普段から人の気配もなくただひっそりとしているのだろうか。
曇天の薄暗さも相俟っているけれど、灰色の景色には花の気配もない。
「捧げるお花はひとつ?」
 アカもキもミドリも……花はイロイロなのに。
 悩ましげな表情で城野・いばら(茨姫・f20406)は瞳を瞬いたけれど。
 僭越ながらここは、と「えへん」咳払いをしてちょっと胸を張る。
 花々を代表して私のシロバラを贈りましょう。
 頭の花に手をやって、そっと風に贈ったのなら、美しい薔薇は白い光になった。
「あらまあ、綺麗なお花やこと」
 空から光を見つけたらしい、蝶々の妖女たちが現れて囁きを交わしあった。
 褒めそやす言葉に偽りはないのだろう。
「さぁさ、遊びまひょ」「毒に惑うてずっと此処にいて」「ほぅら」
 骸魂によって正気を失った彼女らは、翅をはためかせては毒を撒く。
 危険な甘い香りは、誘惑をさそうものだけれど、白い薔薇の光がいばらを護っている。
 寂しそうな蝶々のアリス、とまる花を探しているのね。
 いばらの中の皆、だいじょうぶ。皆の出番はこれからよ。
「さぁ、たくさん咲かせましょ。この地に眠る、みーんなに届くように」
 不思議な薔薇の挿し木を魔法の杖のようにくるりと振って、いばらは優しく告げる。
 次々と薔薇の種が飛び出しては、色とりどりも鮮やかな薔薇の花を咲かせていった。
 ねえ笑ってアリス。
 一輪一輪がそう願い、微笑みかけているような花姿。
 自分のために咲いた花を前に遊々と呼ばれる蝶々は呆けたようにやがて手を伸ばしていた。
 蔓は伸びてその腕をとった、そのままそっと引き寄せて、アナタを抱き締めたなら。
 花の咲く場所に導いて迎え入れよう。
「まぁ……きれいなぁ」
 咲き誇る薔薇に囲まれて、ころころと笑った遊々達はやがて眠るように地に伏せていく。
 シロい薔薇の光がその安らかな顔を照らし、骸魂の力も払われていくようだった。
「怖い夢を見ないように、ここに咲いているから」
 花もないのが寂しいというのなら、土に根を張り花が咲く度笑いかけるよ。
 だからおやすみなさい、穏やかに。

「アナタも、こちらへおいで」
 雨の向こうへ薔薇の蔓が手招き誘う。
 塔へ行こうとする蝶々達が振り返って、あざやかな薔薇の花園を目にしたのなら。
 きっと翅を休めずにはいられないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎

_

気付けば、掌の中に一輪の花があった。
──桜だ。『まぼろしの橋』や『幻朧桜の丘』を経て、この花を通じてずっと護られているようだった

…愛おしい
細めた瞳は、あいに満ち
「──大丈夫」
大切な人に宣言する様
そして自身に言い聞かせるように口にする
俺は大丈夫
膝をつこうとも倒れようとも、その度に立ち上がる
生きることを諦めたりしない
この身が、魂が朽ち果てようと
大切な人に報いるためにどこまでも走り続ける

不意に風が吹き桜が舞う

光に変わる最中
「私を忘れないで」という花言葉を思い出す

大丈夫
忘れないよ
大切な人達、そして忘れ去られて死んだ者達の
想いや願いを全て背負い
眼差しを真っ直ぐ前へ向け
走り出す



 まるで五里霧中。霧雨の中を手探りで進んでいる気分だった。
 しかしそびえ立つ長い塔の影を見れば、自分がどの辺りにいるかぐらいは把握できる。
 狐狸に化かされたりでもしない限りは迷うこともないだろう。なんて、カクリヨでは洒落にもならないが。
 雨に濡れたぬかるみを踏み歩く。靴裏のどこか不安定な感触が、おぼろげな処へ迷い込んだような気持ちを強くさせた。
 ――どうして俺はここへ来たのだったか。
 浅く息をして、丸越・梓(月焔・f31127)は逡巡する。仕事の内容を忘れたわけではない、何をすべきかも理解っている。
 ただ、なにかしなくてはいけない事を思い出さなくてはいけないような。輪郭のない引っかかりが胸の中にあって。
「花を」
 手向けなくてはいけない。理解っている。けれど、自分は花を用意しただろうか。
 覚えがない。
 立ち止まって、梓は不意に自分の手がなにかを握っている事に気がついた。
 手を開いて掌を見ると、淡い色をした小さな花が一輪。
「……桜だ」
 カクリヨの世界を廻る間。『まぼろしの橋』や『幻朧桜の丘』、この花を通じてずっと護られているようだった。
 いつの間に手の中にあったのだろう。
 ああ、……愛おしい。和らいだ双眸がゆるりと細まって、あいに満ちた眼差しを送る。
「──大丈夫」
 大切な人に宣言する様に、そして自身に言い聞かせるように、口にする
「俺は大丈夫」

 膝をつこうとも倒れようとも、その度に立ち上がる。
 生きることを諦めたりしない。
 この身が、魂が、朽ち果てようと、大切な人に報いるためにどこまでも走り続ける。

 確かな口調で告げる。
 小さな花だけがその声を聞き、そして。
 さあっと、後ろから強い追い風が背中を叩くように吹き付けた。
 掌の上の桜を風がさらって、ひらりと舞う。それは散花となって。
 目の前で桜の花が光へと変じていくその光景に。
 私を忘れないで――不意に桜の花言葉を思い出した。
「大丈夫、忘れないよ」
 大切な人達、そして忘れ去られて死んだ者達。
 その想いや願いを全て背負うと決めたから。

 手を刀にかけて、梓は真っ直ぐに前を見据えて走り出した。
 泥を跳ねて汚れることも厭わずに駆け抜ける。
 霧をも払うような鋭さは迷いもなく、やがて蝶々にも至るだろう。

 抜かれた刀は閃いて。
 桜に散った骸魂に葬送をくれる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
アドリブ捏造歓迎

俺はお前と初めて出会うが
”俺”と亡き創造主サマはよく知っているらしい

真の姿の俺が見た記憶に彼女はいた
創造主が倒した妖怪の一人
数々の縁が絡み今の姿に

『誘結う
粤…そなた可哀想に』

お前の憂いの総てを掬えるのは俺でないが
代行者として、為すべきコトを為す(創造主も其れを願ってるハズだから
お前の涙を見るのは、辛いなァ
何でだろ

UC使用
鏡を104枚出す
尻尾攻撃や雨は鏡を操って防御
尻尾の毒に触れないのと雨で滑る足元注意

装置に添える花は睡蓮
彼女らの故郷─高天原で咲き匂う花
色お任せ

還すならば
この花しかない

弱めた所で剣に炎属性出力させ絡み合う骸魂を狙う
割れた鏡の破片は風に靡かれ天へ

『安らかに、お休み』



 百霊鎮守塔を背に降りしきる細雨の中に立って待つ。
 塔を目指して彼女は此処に必ず現れるだろう。
 なにか胸の中にさざめかしい予感がしてならない。

 漸く現れたのは蝶の羽で風扇ぎ空を舞う天女が如く美しい妖女。
 彼女の面差しを目の当たりにして、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は胸を衝かれた。
「『誘結う。粤……そなた可哀想に』」
 無意識の内に言葉が溢れ、口をつく。
 初めて出会う彼女を"俺"と創造主サマはよく知っている。
 佇む人影に興味を惹かれたのか、蝶々は近くに降り立って。
「だあれ……? よう来やしゃったねえ。 ふふ、ふ……さぁさ、わらわと遊びまひょ」
 茫洋と正気を失った眼差しをして、その頬を雨に濡らし微笑んだ。
 カクリヨを治める親分たちでさえ飲み込む骸魂の狂気がそこに滲む。
 それを思い知るだけの理由がクロウにはあった。
 この姿はちがう。本来の彼女は――本当はもっと。
 真の姿の"俺"が見た記憶の中にいた彼女達は。

 遊々――誘結う。
 それは創造主が倒した妖怪の一人。
 倒した、それは間違いのないことだ。
 けれど果たして創造主と彼女達はどの様な縁で繋がり、そして刃を交えたというのだろうか。
 敵ではない時期が、あったのだろうか。友と呼べるような時間が、あったのだろうか。
 敵意も禍根も感じない、あるのは変わり果てた姿となった彼女への憐憫だけ。幾多の縁を複雑に絡み合わせてこの姿になってしまったのだと、クロウだけは知る。

「何でだろ」
 瞳の奥が熱くなる、すべては雨だ。
「お前の涙を見るのは、辛いなァ」
 代行者として、為すべきコトを為す――創造主も其れを願ってるハズだから。
 彼女の憂い総てを掬えるのは自分でないと理解ってはいても。
「遊んでやるよ、俺が」
「ふふ、嬉しやなぁ」
 遊々は両手を広げて袖を一振りすると、舞い踊りはじめた。死の毒薫る胡蝶舞。
 その背で巨大で不気味な百足の足めいた蠍の尾がうねり、鎌首を持ち上げて、しなる。
 ぞるぞると悍ましい尾が放たれて、クロウは軽々とした身のこなしでそれを躱し、宙を撫でるように掌を滑らせた。黄金鏡の複製がその手の流れに沿ってズラズラと並んでいくのだ。
 玲瓏な輝きをした黄金鏡は盾となり壁となり、遊々の攻撃を防いで、時に尾を叩きつけられて割れた。
「もっと舞って、さあさあさあ」
 息をつく間も与えないほど攻撃は続く、クロウは鏡を張り巡らせるように駆け巡った。尾が迫ればくるりと身をひるがえし、まるで踊るような身のこなしで相手をする。
 そして展開された黄金鏡――その数実に壱百四枚。それらがズラリと連なって檻となる。
「誘結う」
 遊びに夢中だった彼女の肩が跳ねた。
 そしてゆるゆるとまるで悪い夢から覚めたように、呆けていた表情に生気が宿りだす。
「――今、なんと言わはりました」
 それは呼ばれず久しい懐かしい名ではなかったか。
 頭の中が晴れていくような、感覚がする。どうしてわらわは今此処に。
 そして焦点のあった眼で 誘結う は鏡に映る自身の姿を見た。
「…………あ、ああ……!」
 驚愕に細い悲鳴を上げて、両手で顔を覆うと彼女は地面に崩れるように突っ伏した。
「……厭……いや……!」
 体を震わせてすすり泣き、今度こそ自分の涙で顔を濡らしている。
 気づいてしまったのだ。この体が元の自分とは違うことに、それも縁の深い者達を飲み込んでこうなったことに。
 弱々しい姿に胸が締め付けられて、クロウは体を強張らせた。
「ゴメン。……心優しいお前なら、耐えられないよな」
 そうだ。この妖怪は心優しい者達だったのだ。
 覚えもないはずなのにそんな確信がある。
 雨に濡れた地面に膝をついてクロウは誘結うの肩を抱いた。
「誘結う、これをお前に。お前達の花だ」
 さあ、と。差し出したのは睡蓮の花。彼女の髪によく似た淡い黄色の花色に、匂い立つ爽やかな香り。還すならば、この花しかない。
「お前達の故郷、高天原で咲き匂う花だ」
 ポウッと睡蓮の花が光へと変じる。花の姿もそのままに淡い光をまとい、二人をやさしく照らした。
 顔を覆っていた指をゆっくりと離して、誘結うは睡蓮の花を見詰め。
「……もう誰も、覚えている者もおらんと思うていたのに」
 両手の中に収めるように睡蓮を受け取って、花開くように優しい笑みを浮かべたのだ。
「ありがとう、おおきになぁ」

 骸魂の力が光に充てられ弱められていく。いや、もしかしたら彼女は自分を忘れていない誰かと出会えたことでもう満ち足りたのかもしれない。
 胸に睡蓮を抱いて、誘結うは眠るように瞳を閉じていった。
「『安らかに、お休み』」
 重なる声は穏やかな響きをしている。

 漆黒の刃が炎を纏い、一閃、絡み合った骸魂を切り離した。
 その時、風が巻き起こって黄金鏡の破片と散花の光を、天へと吹き昇らせる。
 いつの間にか、雨は止んでいて。
 雲間の切れ目から差し込む陽射しの中へ、きらきらと破片と光は輝きながら高く遠く飛んでいく。
 ああそれはまるで蝶々達が舞っているようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月27日


挿絵イラスト