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雨に煙るハイドランジア

#UDCアース

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#UDCアース


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「来てくれてありがとう。そこにかけてちょうだい」
 狐裘・爛(榾火・f33271)は尾を振って感謝の意を示すと、集った猟兵に楽にするように促した。どことなく自信溢れた表情の彼女は、ブリーフィングの瞬間でも笑顔を絶やさない。しかし、それはおかしいからではない。彼女の美的センスが、依頼の時に怒ったり泣いたりするのを許せないだけだ。
「UDC(アンディファインド・クリーチャー)――太古の邪神って呼ばれるものね。ん、んんー……一口には言えないけれど、どんなものにも盲信するヤツっているのよ。そいつらは決まって厄介ごとを運んでくるわ」
 ちょっと行って、綺麗に畳んできてちょうだい! 簡単に言えば、そう。この依頼はとある邪神教団の壊滅が目的である。

 とある邪神教団の活動を知り得ることができた。彼らは決まって日没、陽の失われたタイミングを見計らって行動を開始し、供物と称して無辜の人々を誘拐する悪質な存在だ。『供物として捧げた者』の代わりまで用意し、周到に日常を蝕んでいく。
 今回、バケツをひっくり返したような雨が一日中降り続き、その雨に乗じて行動を開始した。これは奇襲する絶好の機会だ。団員、そして教団を束ねる存在を屠る千載一遇のチャンスがやってくる。
 まずは『やれ恐ろしや』という団員を討伐する。彼らは言葉を話さない代わりに敵対者や誘拐対象の偽物を作り、それらを介して行動する邪な影。一体でも狩り残せば、影という存在の都合上、いくらでも無数に復活する。そして、日差しがあれば彼らの活動場所が増えていく。逃げ場のない「豪雨」の中で、彼らを残らず殲滅してほしい。

 長く降り続いた雨がひときわ強くなった頃合いで、その雨がただの水滴ではなく、おぞましい黒いものが混じり始める。それが、教団を束ねる『深海来訪者』の出現の合図である。
 邪神の忠実なしもべである彼らは、邪神の奉仕者を増やすことを一族の使命とし、人間の女を手に入れるために教団を作ったのだ。三叉槍を携えるが、脅威となるのはその切れ味ではない。フィールドを己にとって有利な儀式場に変え、理性を蕩かせ、邪神の紋様を植え付けて、最後は己と同じ……眷属へと変えてしまう。
 彼らが何を信奉し、信奉者を増やして何を目論んでいるかはわからない。ただ唯一断言できるのは、きっとロクでもない理解不可能なことだろうという一点だけだ。ゆえに必要なのは対話ではなく――討伐。これまでに拉致されてきた者たちの救済はできなくても、この来訪者を倒しひとときの平穏を取り戻すことはできる。猟兵に課せられた使命は、この不気味な来訪者の完膚なきまでの駆逐である。

 戦闘が終わった頃合いで雨は上がりかけになるだろう。
「そういえば、この辺りは紫陽花の咲く小径があるんだって。色とりどりで綺麗だから見てきてもいいんじゃない?」
 小径を道なりに行けば、ちょうど縁日を開催している地区に行きあたる。そのままお花見に興じてもよし。あるいは祭りを見物したり、屋台で食べ歩くのもいいだろう。一人でも、連れ合いでも構わない。あいにくの空模様、晴天というわけにはいかないが逆に小雨の中での楽しみ方もきっとあるはずだ。

「ふふふ! たまには雨も悪くないなって思ったでしょ」
 コルナを作ると、爛は狐火を浮かべて猟兵たちの目を奪う。瞬きした次の瞬間には、雨の降り頻る世界に降り立っているはずだ。常闇の世界に快晴をもたらすため、猟兵たちの戦いが幕を開ける――!


地属性
 こちらまでお目通しくださりありがとうございます。
 改めましてMSの地属性と申します。
 以下はこの依頼のざっくりとした補足をして参ります。
 今回は雨勝ちな空模様で眷属退治、晴れた後には紫陽花鑑賞をお楽しみいただけます。

 この依頼はシリアスとなっております。
 ピンチプレイングを記載しても想像した通りの描写にならない可能性がございます。
 もちろん集まったプレイング次第ではその限りではございません。

 続いて、第3章について補足をば。
 猟兵のどなたかがお誘いのプレイングを記載した場合のみ、妖狐の爛が冒険に登場します。画面外にてスタンバってますので、字数が余った場合はご検討ください。

 では皆様の熱を帯びたプレイングをお待ちしています。
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第1章 集団戦 『『やれ恐ろしや』』

POW   :    狐の七化け
【マントの中から相対者と同じ姿のもの】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
SPD   :    狸の八化け
合計でレベル㎥までの、実物を模した偽物を作る。造りは荒いが【供物として目を付けた相手】を作った場合のみ極めて精巧になる。
WIZ   :    貂の九化け
【恐怖や畏怖】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【影の塊】から、高命中力の【喰らった相手に化ける貂】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 降り頻る。
 降り頻る。

 歩めば染みる、視界が滲む、伝う雨滴の気味悪さよ。見上げた空は晴れ間なく、当然傘など意味はなさない。
 疎らな人通りの中で、影が、ひとつ、ふたつ。その中に、自分が混ざっていると気づいた時、ふと考えてしまう。

 雨中に佇む、わたしはだあれ?
花羽・紫音
【ソロ希望】【アドリブ歓迎】
「誘拐し儀式の生贄にするなんて許せないわ」
1人影の群れへと突撃し、格闘技で攻撃して倒していくわ
でも不意をつかれて拘束されてしまい、そのまま意識を奪われて誘拐されそうだわ、偽物を残して



 やれ恐ろしや。
 やれ恐ろしや。

 降り頻る雨音にかつん、こつんとヒールが踊る。
 浄らかな薔薇は雨にこそ気高く舞う。晒した皮膚に雨滴を這わせて、なお弾くような艶やかな柔肌。煌めく飛沫をその身に纏って、花羽・紫音(セラフィローズ・f23465)は独り、立つ。
 すでに栗色の髪は一束摘めば絞れるほどに、ぐっしょりと湿らせて、夜闇は目が利かず、湿気に体温がみるみる奪われていく。目を凝らせば凝らすほどに湧き出る影、影影、影影影……影!

「悪事もそこまでよ」

 口を開けば、雨露が唇をぬめらせ濡らす。桃色の唇を引き結んで、振りかぶった拳で殴り抜ける。その瞳は真実を捉え、虚ろのソレに触れ、爆ぜる。神速の一打。手応えは……ずるり、ずろん、影は霧散。霞か、空気の壁を殴ったかのように手応えはない。裏拳でさらに闇を引き裂く。
 べちゃり、ぱちゃり。今度はペンキのバケツを殴りつけたように、べっとりと泥濘がこびり付いた。雨泥の饐えたような匂いが充満し、整った柳眉が顰められる。匂い、匂い。鼻腔にまとわりつくような、なんて不快。溶けた影が視界の中で融解して、膜のように広がったと錯覚する。

「邪魔しないで」

 裏拳正拳、さらに膝で影を抉り、頭突きで影を張り倒す。手応えがないのが、すなわち効果がないとは限らない。黒々と辺りが暗がり、音と匂いだけが一層敏感に反応する宵闇の世界の中で、ただ己の四肢だけが信じられる。頭を働かせなければ、働かせ続けなければ、未来はない。止まれば影は追いついてくるだろう。追い縋って足に絡みつき、そのまま二度と立ち上がれないに決まっている。

 ――ふと、違和感。

「な……に?」

 やれ恐ろしや。
 げに恐ろしきは、恐れ知らぬこと。
 無知とは、やれ恐ろしや。

 白状してしまうと、この影が唯一持つ勝ち筋は、己の能力を使って、敵対者を疑心暗鬼に陥らせること。それのみだ。すなわち知恵があり、勇気を持ち、何より油断なく立ち回る者ほど、隙は生まれやすい。隙という言葉に語弊があるなら、軋み。そう、違和だ。普段とは違う何かを敏感に察知し、己の知識と照らし合わせ、打開していく。
 しかし、照らし合わせる光が強いほど、闇は濃くなるものなのだ。

 ――ボ……ゴォッ!!

「かはッ?!」

 闇を引き裂く影、漆黒の彫像の如き巨腕が、影の中から出でて紫音を殴りつけた。二度三度と地面をバウンドして、打ち付けられた彼女を触手のような影が拘束する。みちみちと悲鳴をあげる肉体。驚愕、焦り、何より恐怖が彼女に芽生えた。

「なっ?! あなた、は……わたし……?!」

 べろりと、影の舌が紫音を舐め上げる。首肯の代わりと言わんばかりに意思を示すと、その勢いのまま猛烈な勢いで首を絞め始めたではないか。
 このままではまずい! ようやっと翼の一翼を拘束から取り戻した彼女は、リングにおけるロープを手繰り寄せる動きで、むんずと影を掴んだ。息が苦しい。締め上げられた肉体が、豊満なボディを一層朱に染めて、必死さを主張する。このままなされるがまま、悪に屈してなるものか。
 しかし、その手は払い除けられる。他ならぬ自分自身にだ。紫のラバーグローブの感触が、雨垂れに滑る感覚とともに沸き起こると、にぎった拳をぐちゃぐちゃに握り潰そうとする。苦悶の悲鳴が堪らず紫音の美しい唇から漏れ出でた。何もない無のような闇に、己の手を握り潰される。そんな感触に恐怖を覚えないものはいない。紫音は知ってしまった。恐れを、影の真なる恐ろしさに、屈しかけてしまった。屈しかけたのは屈したのと同じことだ。

 がくりと、意識を落とす。

 壊れた人形のように打ち捨てられる紫音の肢体。それがむくりと「起き上がる」頃、世間は知ることになるだろう。雨中に、恐怖は宿るということ。そした、また一人、影に攫われた被害者が出たことを。目覚めた彼女は、もはや「彼女ではない」のだから……。

成功 🔵​🔵​🔴​

四王天・燦
爛に良いトコ見せたいし本気出しましょか

軒先で雨脚が弱まるまで雨宿り
刀剣類を隠して体のいい供物候補を装うぜ
雨は嫌いだな…空を眺めてセンチな気分でおびき寄せるよ

一匹じゃ物足りないね
石を投げつけたり、傘を振り回して増援を待つぜ

恐怖を演じるよ
貂が出てきても本当に怯えているんじゃねーんだし、冷静に見切って防御し、カウンターで傘を刺す

敵が集まってきたら隠しておいた神鳴を手に攻めに転じるぜ
ダッシュで詰めて薙ぐ
電撃属性攻撃全開だよ、こうも濡れているとよく通電するだろ

無情に斬り捨てて残る連中に殺気をぶつけて恐怖を与え、鏡花散月を行使
影の塊から乱れ撃ちで貂を呼びまくって残る敵を喰わせるぜ

化かされたのはテメエらさ



「喧しい」

 その言葉が音として、漏れいでていかないように最大限の気遣いをしながら、毒づいてみせる。今が夜なのか昼なのかもわからない。説明だと日中だったはずだが暗がりで、まるで街灯でも輝いているかのように影の中で眩い瞳たち。ここで何かしらの違和感を覚え、心の隙を生み、突かれてしまえば最後。もはや正気には戻れまい。目に見えるものが、聞こえるものが全てだとは限らない。
 今は夜ではないし、敵は己ではないし、先程からしきりに猫なで声で語りかけてくるそれは群れてはいない。
 四王天・燦(月夜の翼・f04448)の金の瞳が、みるみるうちに時間の感覚を失っていく中で、なお燦然と輝くには理由があった。

「良いトコ見せないとな」

 目指すは完全無欠の勝利のみ。手傷は負わされたがなんとか勝ち抜いた、などでは到底目指すものにはなり得ない。期待を裏切るくらいなら、この依頼は他の誰かに任せた方がよほどマシだったろう。
 雨は嫌いだ。鬱陶しい上に、気分まで盛り下がってくる。日差しも、月光も星光もない中で、服に広がっていく滲みが、ただただ沈ませる。
 影への意識ではなく、あくまでこの季節と、気候と、天気へのやるせない思い。影と己に恐怖を抱いた時から相手の攻撃が始まる。ゆえに今はセンチメンタルになる気分のまま微動だにしない。

 ――……ずるっ……!

「おっと」

 大胆にも絡み付いた影が、首の隙間からうねうね入り込んできたではないか。声を上げさせて意識を向けさせようと必死だ。
 気持ち悪さ、気味の悪さ、薄気味悪さ、気味気味きみ君キミキミ――!
 覗いた八重歯を舐め、瞳にべろべろと這わせ、耳先から前髪から伸びたまつ毛から、何から何まで影の塊が蹂躙していく。その塊が、黄鼬の如き小動物の形へと変じていく。意識させることができれば、後は狩るだけ。今宵の獲物は決まったと、黒塗りの顔とは思えないほど豊かな表情を見せる。

「雨は……少し止んだか? じゃあ手番をもらうぜ」

 ズぐンッ! と、大きく開いた貂の口に、どこからか取り出した雷光の刀を突き出す。ズバッと豆腐を裂くように抵抗感なく、影の一つをバラバラにしてしまった。
 時間の感覚も狂ってはいない。瞳は濁っていない。意識はハッキリしている。演技と本音の境目がしっかり認識できている。影に溺れず仁王立ち、己を餌とし喰らわんとするそれに逆撃する――!

 ――たんっ……!

 軽いステップで雨宙に跳んだ。
 そのまま空中で一回転、空気の塊を蹴って速攻! ダッシュで距離を詰める。

「避けなくていいのか? 通電するだろ」

 そんな声が遅れて聞こえてくる。気づいた時には斬られている。影たちが己を見遣るその刹那に、雷光が迸り、ずんばらりと微塵に切断した。斯様に動揺して、黒塗りの口腔をだらしなく開ける存在が己であるものか。何が君だよ、お前だろ。

「見せてやるよ、今どんな顔してるのかな」

 着地。
 ぱしゃんと影が、波紋を起こして四方に散る。《符術"鏡華散月"(ユーベルリフレクション)》は、新たな主人に従い力を行使する。地面を波打つ影から現れた良質な貂たちが、牙を剥いて襲い掛かったのだ。雑兵相手に「狐」を呼ぶまでもない。化かし合いなど片手間で十分。
 その証左に、どうだ。鏡の護符には、怯え惑う影の表情がくっきりと現れているではないか。いずれも邪神を妄信する無知な木端たち。斬られたことも喰われることも、何もかもが理解の埒外なのだろう。よもや反撃に身震いすることすらままならない。これは特権だ。歴然とした力の差を誇れる、強者の特権なのだ。ゆえに、そんな、何が起きたかもわかっていない哀れな奴らに、燦は勝利の確信と共に突きつけてやるのであった。

「化かされたのはテメエらさ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

岩社・サラ
邪神教団案件ですね。了解しました。敵教団の殲滅、開始しましょう。

豪雨の中での戦闘なので戦闘中は視界や足元には注意しておきます。

まずはUCを発動せずに相対し敵が私の偽物を作るのを待ちます。
偽物を作り襲ってきたらクレイゴーレムを私の姿を遮るように展開、攻撃を防がせている間にUCの装備(ボディアーマーとショットガン)を身に着けます。
装備し終わったらゴーレムの影から出てショットガンで制圧射撃を行い敵集団を攻撃します。

私の偽物ということは銃を使った射撃戦を仕掛けてくると思います。なので防弾仕様のボディアーマーで防御力を高めながら制圧力に優れたショットガンでオブリビオン諸共偽物も倒してしまいましょう。



 やれ恐ろしや。
 やれ恐ろしや。

 ――と、言いましたか。
 岩社・サラ(人間の戦場傭兵・f31741)は、目深に被ったフードの中で思い返す。思い返して口の中で意味を解釈する。咀嚼する。誰に対しての恐れなのか、何に対しての恐れなのか。その名は何を思い、誰が名付けたのか。呼気に湿気が混ざり、革の匂いが気持ち悪い。鼻先についた水滴を拭ってサラは飛び出した。視界不良、足回りは最悪――!

「上等です」

 ならば目を凝らし、足を踏みしめましょう。
 ずるり。と、否、ずぼり、と。
 踏みしめた床が滑って溶け落ちる錯覚と共に、膝から下が柔く崩れ去る。自分の中身が内側から削がれる感覚。はっと紫の瞳に動揺が走る。注意していたのに。注意していたからこそ。ならば。
 足はある。足場もある。
 どころか一歩として踏み出してはいない。

「ここは動かず、出方を探ります」

 銃器で影を捉えるなど、雲を掴む話だ。まして今日は標的は多い。乱射して弾数を無闇に減らすくらいなら、信じてみよう己の感覚を。確固たる意思さえあれば、恐怖に竦むことはない。前進は禁物、退いては負けを認めたようなもの。結んだ一房の髪に湿り気が十二分に混じった頃合いまで、じっくりと、立ち尽くす。一滴の音を聞き分けるのを明鏡止水と擬えることもあるが、何かが涎を垂らしてにじり寄ればすぐにトリガーをひく準備はできていた。
 影、闇、覆い尽くして、音もなく視界を囲う。

「残念でしたね」

 囲ったのは岩壁。玉石混交ではなく、純粋混じり気のないクレイゴーレム。攻撃を契機に自動で発動する防壁だ。動かなかったことで十全に防ぐことができた。その自信があったからこそ、恐怖が心を覆わなかった。覆うのは岩、隙間なく纏って、影が滲む余地を残さない。形勢は、早くも決まった。

「シッ――!」

 ――ドウンッ!!

 ポンプアクションの駆動すらない、クレイゴーレムの一打よりなお重い轟音。影で象られた異物が音ともにびちゃばちゃと弾け飛んだのと同時に、サラはその身を躍らせる。クールな笑みが、ぱっと返り血に染まる。黒き影のインクが、びしゃっと濡らした。

 やれ恐ろしや。
 げに恐ろしきは、敵を知り己を知る、知識の深淵。

 全身黒尽くめの異形が、味方の屍を踏み越えて、泥濘の腕をくぐり抜け攻め寄せてくる。仮に手にした銃器まで模造しているのであれば、それこそ弾数まで無尽蔵。単純な手数、頭数から考えても相手にはしたくない厄介さである。

 ――ドウンドウンッ! ドドドドドッ!!

 それはあくまで散開した時の話。反撃をボディアーマーで最小限の被害に抑え、フルオートの一撃を影の塊に幾度となく叩き込む。敵が乗り込んで来たのを確認してからか、いつの間にかつけていたマスクで表情こそ見えないものの、暗視により動きは筒抜け。

 ――どちらが恐怖の繰り手か、もはや語るまでもないだろう。

「……制圧完了」

 クレイゴーレムに片足をかけ、天を見遣る。
 死屍累々。影は霧散し、復活する兆候はない。耳を傾ければ、其処彼処でまだ戦闘が続く音がしている。加勢に向かうか……しかし戦場傭兵の並外れた勘が、さらなる敵の来襲を予感していた。これで、終わりではない。グリップを握る手にも自然力が込められて。
 血の匂いが刻一刻と増していく。不倶戴天。どちらかが土塊に還るまで、戦いの時は終わらない。

「それにしても、この雨はいつまで続くのでしょうか」

 ぐいっとマスクをズラして恨めしげに溢す。身体が冷えてきた。……すぐにこの場も戦場へと帰るだろう。望むところです、と、降り頻る天を睨みつけるサラであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

瞑・冥夜
アドリブ歓迎

……恐怖。畏怖。
あなたの姿からは感じることができない。
こちらへいらっしゃい。
どうして、人の姿を仮りて真似ることばかりするの。
…自分を主張してごらんなさい。
そのマントの下にいる、本当のあなたを見せてちょうだい。
雨傘はいらない。
あなたのマントが雨よけになる…。
ふふ、私に触れてみるといいわ。
温もりは、ないかもしれないけれど。
あなたの、したいことをすればいいの。
言葉はなくても、欲望は満たせるでしょう?
こんな教団に仕えるよりも、もっと至上の悦楽を…
与えてあげる。
…私の、オブリビオンになるといいわ。
このネクロオーブに召喚される存在に。
全ての想いを吐き出して骸の海へ還ったあとは、
…私のものよ?



 やれ恐ろしや。
 やれ恐ろしや。

 その感情が、もしも根源的なものから生まれているのだとしてら、名は「孤独」だろう。人肌であれ温もりであれ、会話であれふれあいであれ支え合いであれ、ともかく慰めるものを、埋め合わせるものを欲して、その希望を絶望に見立てて漏らす。恐ろしいと口にして、口実に欲する。例えば狐のように、例えば狸のように、例えば貂のように。

「そう…なら、私の、オブリビオンになるといいわ」

 そう。
 ゆえに、この冒険は希望の物語である。孤独に苛まれた群れを、一声で救いし、未来に紡がれる物語である。誰が、何と言おうとも。
 語り手は、瞑・冥夜(僵尸の死霊術士・f32902)。表情こそ符で隠されて見えないが、端麗な容姿であった。

「おいで」

 白磁の指先が影をかき分けて、悍ましいローブをいとも容易く剥ぎ取ってみせる。そこにあるのは恐怖。畏怖。などではない。
 根源的な感情を模倣した、否、模倣すらしきれていない、極めて単純で短絡的な、一過性のものに過ぎない。怖いと思った次の瞬間には、一切の情動を忘れてしまっているだろう。要は中身がないのだ。ローブこそ物理的な感触はあれど、その奥にある思念体は黒々と煙が燻っているかのようで、とても触れられる代物ではなかった。

「…自分を主張してごらんなさい。そのマントの下にいる、本当のあなたを見せてちょうだい」

 もし、彼女の薫陶を受けることができたのなら。死者と幻影。それらが混じり合う状況が現出した。ゆるりと着込んだ道服の隙間から影が入り込み、薄布が影の形に盛り上がる。よろよろと蹌踉めく身体をかき抱く両腕。自分の指先が一層冷たくなっていく感覚。周りから先端へ円を描く動きで揉み込むように愛撫され、さながら五指が這い回るように柔肌に感触が走る。悦楽を味わうのはどちらか。

 やれ恐ろしや。
 げに恐ろしきは、至上を知ること。

 高みを知りたいと欲するのは、私情を催す。神の御元に連れて行く、それは崇高な理念でなく。

 ――ぷつっ……!

 影はそのまま冥夜を覆い隠すと、微細な触手が針のごとく無数に突き刺さった。艶やかな髪の裏の首筋に、両腕を後頭部に当てたせいで外気へ露わになる腋に、すでに歪に膨らんだ服の内側からはもうはち切れんほどに、痺れる感覚と、影のとろりとした暴発が、ちくちくぷちゅとひたすらに苛む。
 言葉などない。この誇り高い僵尸を手籠にしたい。整った顔を歪めたい。影をインクのように注ぎ込んで、白い肢体を真っ黒に染めてしまいたい。至上を貶めるそんな欲望に、影は正直だった。
 粘膜を徹底的に引っ掻かれ、神経をずる剥けにされていく感覚。視覚をかき混ぜられる不快感。これがオブリビオンを取り込むということなのか、あるいは虜にするということか。

「ふうっ……」

 冥夜の柳眉が顰められた。全神経を励起され、冷たかったはずの体ににわかに熱を帯び始めて、血が通ったかのように覚醒していく。
 邪神の信奉者を調伏しているだけにもかかわらず、どうしてもその有様が艶かしくなってしまうのは、物静かで感情を表に出さない気質と相まって、ある種の荘厳な気高さをより主張させるようだ。「格」の違いを見せつけているともいう。
 一歩、雨中を歩んで、足元の水溜りに波紋が広がった。黒い影の泥濘も呼応して、波を起こす。やがてそれらが不規則に収縮していくと、宝珠に吸い寄せられていく。吸引力に耐えかねて、というよりは、むしろ自らが望んで首輪を繋がれていくかのような従順さ。邪神よりも従うべき、高位の存在を目の当たりにしてしまったのだ。無理もない。

「私に…尽くしなさい」

 ネクロオーブにそっと口付けして、雨滴を上書きするように。

 調伏完了――新たな力を内に秘め、死霊術士は雨中を邁進する。

成功 🔵​🔵​🔴​

グラディス・プロトワン
※アドリブお任せNGなし

辺りは視界が悪く『それ』を認識するのが遅れてしまうかもしれん
だが先手を取られたぐらいでは問題ない
敵が1体ならば、な

揺らめく影のような存在が複数
しかし影というよりは黒い『それ』に見覚えがある

俺の外見だけ模倣した所で無意味だ
幻覚の類だろうと次々に攻撃するが手応えが薄く霧散してしまう

やがて霧散した『それ』らが集まり俺に纏わりついてきて…
大きな影の中に囚われてしまう

影の暗闇の中で現れた『それ』は俺を拘束し何かを吸い取っているようだ

徐々に『それ』が黒く鮮明になっていく
奴が奪っていたのは俺という『存在』

完全に形を成した『俺』がニヤリと笑い、吸収機構を起動する
俺は用済みという事か…!



 やれ恐ろしや。
 やれ恐ろしや。

 ヒトの一生は彷徨い歩く影法師、屈強なるウォーマシンとて変わりはない。天を仰げばその空は古代帝国時代のそれと見た目を同じくして、郷愁こそないけれど、苛立ちの気持ち以外をも募らせる。走るノイズ、モニターに映るジャンクデータ、砂嵐の真っ只中ように不快感が滲む。
 雨滴を弾いて艶やかに、グラディス・プロトワン(黒の機甲騎士・f16655)は滑空する。

「邪魔だ。早々に消えてもらう」

 ――ズァッ!!

 空気の圧縮される音。
 振り下ろされた両手剣が、大地と刃の間にあるもの、大気に至るまでその全てを無に帰する。塵が舞い上がった。落涙したような雨垂れに立ち上る埃が絡みつき、ただでさえ視認しにくい戦場が不可視の蝕域に変わっていく。踏みしめた大地は衝撃により原型を失い、出来上がったクレーターの中心でグラディスは周囲を観察した。

「……この反応は」

 揺らめく影のような存在が、複数探知。波間から突如現出する違和感。平時ならば故障を疑いたくなるような奇妙奇天烈な状況下で、グラディスは油断なく剣を握りしめる。切先が露を裂いた時、四方から一斉にソレは襲い掛かった……!
 迫る黒い巨躯! 巨躯! 巨躯! その貧相なローブを脱ぎ捨てて、迫る敵影を、剣を横なぎに振るって迎え撃つグラディス。秘めたる力は「エネルギー吸収」。命という眩さをも吸光する魔性の力だ。触れれば生命を痩せ細らせ、瞳から希望を奪い、やがて鼓動をも止め得る。その力が、機能していない。まるで霞か雲を切り裂いたかのような手応えのなさ。己は何を相手にしているのか?

「まさか、俺か…?」

 影が、嗤う。
 否、影は表情など保ち得ない。たまたまゆらめきが、その形に合致しただけだ。

「うおおおおッ?!」

 しかしその「揺らぎ」が恐怖と結びついた、その時、敵の群れは真価を発揮する。すなわち粗悪な模造品からコピーへ、そして本物に成り代わるほどの精巧さを備えた、更なる恐怖の具現へと変容するのだ。グラディスはある意味では、その群れへ純粋な恐れにも似た感情を抱いてしまっていたのだ。そんなことはない、と頭で否定しようとも、心がある限り、恐怖は鎌首をもたげて忍び寄る。まして機械的に、己と同一存在が山ほどいると誤認してしまえば、恐れという動悸――同期を伝播させられる可能性もないわけではない。どうしようもなく相性の問題だ。覆せない相性差、ゆえに。

 ゆえに、堕ちていく。
 静寂。
 黒。闇、影、漆黒。
 くろくろくろくるくろ。
 くるくるぐるぐる。
 狂う――!

 巨腕が、腰部が、首が、紫光を発することができない。モニタに至るまでべったりと黒いペンキがこびり付いて、何も正確に認識できない。今が昼なのか夜なのか、朝か夕方かもわからない。
 ただ一つ鮮明なのは、まとわりつくソレが徐々に形を成して、まるで自身がニセモノに代わっていくかのような、朧げな感覚を己に感じてしまっているということだ。言うなれば己が希薄になっていく。この世に存在できなくなっていく、世界と同期できなくなっていく。まるで自分だけが現実の外から排出された、虚構だと感じてしまう。

「俺は俺だ…!」

 苦境でこそ笑え。他人の力をいつだって己のものに変えてきた。自分の力が失われていること、それすなわち絶望とはならない。
 息切れしたならばその力を、奪えばいい。簒奪こそ活路! 容量が大きければ大きいほど、吸収できるエネルギーもおおきくなっていく。奪われるなら奪い返せばいい。主導権は己の手の中にあるという自覚が、それ自体が立ち上がる力に変わる。
 つまり。
 笑う。
 笑っているのは。
 ……己だ。
 あの笑顔に見えた揺らぎは、己自身が浮かべたものか。自分を模倣した鏡と相対していると思っていた。それが間違いだった。吸収機構が稼働する。それも己だ。どうしようもなく避けられない、見覚えのある、己の招いた結果だった。伸ばそうとした手が、闇に溶け込みどろりずるりと形を失う。声が出ない。代わりに苦悶が聞こえて来る。己だ。

「俺は用済みという事か…!」

 気づいた。奪う、のではなく、搾取されていたことに。もう影は己の体内まで入り込んでしまっている。再び戦場に佇むグラディス・プロトワンとは、果たしてこれまでのグラディスと同一なのだろうか。
 答えは決まっている。それも己だ。影は本体に付き従うもの。疑う方が、誤りである。

 恐ろしや。
 恐ろしや。げに恐ろしきは。

 不可視、認識の外。
 この世に在って、ない異物――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メアリ・イーズディル
アドリブ歓迎!

あっははは!やれやれやれやれ恐ろしや恐ろしやー!
これはとっても楽しみだね💔

私に化けてくれるだなんて。我らに化けてくれるだなんてさ!

土砂降りの雨の中をウキウキにスキップで跳んで、ノリノリにステップを踏んで。
偽物ちゃんと楽しく踊ろう!

悪魔の力を身に付けて~
継承ぱわーでお化けを断つぞー!

偽物さんにびっくりして負けちゃうかも!
どんな酷いことをされちゃうのかな。
私と同じなんでしょう?
おお恐ろしや!こわこわこわわ!

素敵な偽物だったら我らの一部になってほしいね!
ダメダメなら養分にしちゃお。

とか言っといて負けたらかっこ悪すぎるよね……
まあそう言うのも我らなんだけど!
試合に負けても勝負に勝つさ!



「あっははは! やれやれやれやれ恐ろしや恐ろしやー!」

 そこにあるのは紛れもなく一人でありながら、非常に愉快に喧しく、笑い声共に彼女は雨中にいる。まるで笑い合うように朗らかに、向き合うように意識して、それでも彼女の視線は他ならぬ自分自身ばかりを見とめていた。継承の悪魔、メアリ・イーズディル(混沌まぜまぜ・f33694)とはそういう存在である。混沌の具現である彼女は、この戦場において誰よりも客観的に、俯瞰して見ていた。

「おやおや、早速お出ましだ。しかも婦女子一人に大挙して、とても数えられそうにないときた。これはとっても楽しみだね💔」

 喉の張り裂けそうな勢いで、五体をバラバラにされそうな心地で、五臓六腑を期待に波打たせて、渦中の真ん中、両手をあげる。歓迎の意。メアリなりの、臨戦態勢だ。とはいえ言葉通り、文字通り、待ち遠しいことだって決して嘘ではない。
 影の四方からの視線が突き立つ。元より隠し遂せるほどの厚着でもない。水滴を滴らせ滲みを作るその姿はいつにも増して艶やかに見える。その姿をまじまじと観察されて、メアリは上気するのを抑えられかった。これから何をされてしまうのか。
 そう、楽しみだ。
 楽しみでワクワクする。
 ドキドキする。
 この高鳴りを――!

「あギッ?!」

 ぬるり。
 どろり。
 生暖かい液体が吹き出して、雨粒に混ざって溶け落ちていく。影の一人が笑った。否、影は私で、群れで、すなわち「我ら」。

「がアッ……ぐ……げ」

 銀糸の髪が涎と共に落ちて、滲んだ視界が崩れて、地面と一つになる。どちゃ、と緩い音。負けたらカッコ悪いとか、この後の予定どうしようとか、色々楽しみにしていたのに、なんてあっけない。
 力が入らない。
 暗がりの帷がいよいよ落ちる。もう昼かも夜かもわからない。
 かき分けられた胸は今もこんなに高鳴っているのに。どうしてこんなにも。

「は、あははは」
「……」
「――おお恐ろしや! こわこわこわわ!」

 ぐりんっ!
 金の瞳が、宵闇の如き暗がりで、それだけが別の生き物のように動く。影をその視界に捉えたまま、目だけで笑う。口先だけ恐怖に塗れて、唇がぺろりと舐めるのは鉄錆の味。濡れた地面から体を起こして、乱れた着衣をより艶かしく撫で上げる。
 なんて残酷、それでこそ、我ら……!

「悪魔の力ーでー私は」

 ――めごッ!!

 上げた上体が、影によって固定されると、槌のように固められた黒き怒涛で、メアリを強かに打ちつける。
 捻れ、痛めつけられる体。洗濯機に放り込まれたような衝撃に、苦悶の声を口腔で反響させる。

「ちょ……おッ゛?!」

 ボロ雑巾と化した体を影たちは巨腕で持ち上げ、一方的に嬲り始める。同じ姿の影たちはメアリに成り代わろうと、その存在を摩耗させることだけに死力を尽くすのだ。ゆえにだらしなく開いた口に、閉じられない耳や鼻に、閉じていれば細く伸びた脚を無理やりに割開かせて蹂躙する。影をさらさらの墨やらドロドロのペンキやらに変えて、ともかく一体化させようと存在を刻み込む。抵抗すれば、動かそうとした指一本にまで踏みつけにし、涙を流せば瞳に泥を擦り付けるように徹底的に。

 しかし。
 それもまた期待の内だ。

「げほッごほ……総ての路は、我らに通ずってね」

 継承とは、輪廻。己が与えた暴力は己に与えられ、己が与えた慈しみもまた己を慮る。影がしゃにむにメアリを攻撃するほど同化は進み、元から「個」にして「全」であるからこそ、同化しても自我を失うことはない。どころかむしろ彼女は「元からそうであった」かのようにさらに力と存在感をより強固にすることだろう。ゆえに期待。もしも己の一部とすらできないほどの脆弱な模倣なら、ただの養分として吸収してしまう。だが、狐やら狸やら貂やらは、使役するにはなかなか興味深い。
 その原型を残し、「継承ぱわー」に組み込むのも一興だ。
 その笑顔が歪むほどに、強烈な一撃が喉奥に打ち込まれる。熱した鉄杭のような影の塊にえずくメアリ。呼吸さえままならない。苦しい。痛い。覗き込んでくる影が、肉体の内側からメアリを観察した時、果たして何を見るだろうか。胎から召喚されたソレは、少なくとも、か弱い女性の姿(それ)ではあるまい。もっと名状し難い、悍ましくも美しい何か。それは悪魔であり、魔女であり、幽霊。言い換えれば、捉えようのないモノ。存在に付かず離れず付き従う影にとって、これ以上仕えるにふさわしい存在もいない。

 ――ずぢゅッ!! ズブッ……ゾグッ!! ずるるる……ボヂュッ゛! ず……ご、プッ……!

 断続的に続く音、音、音。飽きるまで暴力は振るわれ続けた。大の字に縫い付けられたメアリが反応しなくなるまで、たっぷりと、著しく惨く。着衣は着衣の意味をなさず、孔という孔から影を逆流させて、ぴくぴくと痙攣して。

 ……そして、誰もいなくなった。
 雨中に打ちひしがれて、「何事もなかったかのように」むくりと起き上がったメアリは、水で体が冷えていることに気づいた。でも、お誂え向きの装束が、あるじゃないか、と。

「そのローブも継承(もらっ)てあげよう。私を包むには、少し心許ないけど」

 やれ恐ろしや。
 やれ恐ろしや。
 次は、我を恐れよ。次は、永久に。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『深海来訪者』

POW   :    r^@w=xx:@9
【邪神の眷属以外の理性と正気を削る暗黒の雨】を降らせる事で、戦場全体が【邪神に奉仕するための儀式場】と同じ環境に変化する。[邪神に奉仕するための儀式場]に適応した者の行動成功率が上昇する。
SPD   :    b;fd8h2hw@3.
【邪神への忠誠心を植え付ける祝福】を籠めた【儀式用の三叉槍】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【精神を侵し、理性】のみを攻撃する。
WIZ   :    tnkb5=g:
攻撃が命中した対象に【邪神に隷属したことを示す紋様】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【心身を穢していく邪神のおぞましい囁き】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は甲・一二三です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「時は満ちた」

 影が、溶け落ちる――!

 降り注いだ雨が天に還るように、重力が逆転し、大地から空へ漆黒が噴き上がっていく。
 すでにここは、邪神に奉仕する為の祭壇と化した。行動のその全てが信仰心からなるのだ。

 鱗を鳴らして『深海来訪者』が来たる。収穫の為に。

「俗体を捧げよ」

 耳を塞いでも。
 目を閉じても。
 口を噤んでも。
 鼻を摘んでも。

「平伏せ」

 肌を通して浸透する、拭い難い狂気。
 淫雨は終わらない。むしろ加速する。
花羽・紫音
【アドリブ歓迎】【ソロ希望】
攫われてしまい、気が付けば儀式場の祭壇に四肢を拘束されユーベルコードを封じられてしまうわ

必死に体をゆすって抵抗するけど、拘束も侵食も防げなさそうだわ

そしてそのまま【tnkb5=g:】を受けてしまい、おへそを中心に紋様を刻まれ、さらに囁かれて美しくも禍々しい人魚に変化されて、完全に落ちてしまい忠誠を誓ってしまいそうだわ



「いぎっ……う、アっ……!?」
「威勢はどうした」

 ――ちりッ……!

「はっがアアアアあッ……!?」

 黒き水溜りに浮かぶように、紫音の四肢が投げ出される。露わになった下腹部に、あてがわれる槍先。そこに痛みも出血もない。
 拘束されてすでに十二、否、十三画目。見てて不安な心地にさせるような不快な幾何学模様を、剥き出しのあられもない姿に直に刻まれた。そのたびに目の裏にバチバチと火花が散り、打ち上げ花火のように視界が明滅する。それは刺青のようで拭うことも洗うこともできず、高貴な生まれを持つ彼女をして永遠に近い屈辱と試練を叩きつけることだろう。しかし問題はそんなことではない。

「失望した。未だに自我を持つことがどれほど罪深いか。なぜわからない?」
「……ぁ……ぉ」
「見ろ。変わるその姿を。昇華せよ」

 細胞レベル、遺伝子レベルで己が作り替えられていくのがわかる。
 見ろ、と、言われても動かせるのは首だけだ。攫われてからどこに囚われたのかも分からず、頼みの技も使えず、動くこともままならない。しかし、制限された情報の中でこそ絶望感は一層深く激しく募る。そこに希望はないのだ。ゆえに、だからこそ、激しく触手のように絡みつく魔性の絶望が、紫音を魔道に誘う。……すでに足先の感覚はない。

「ああッ、あああああ!?」

 臍の穴に槍先が突き込まれる。ちくり、ぴくり。刺激がが薄い腹膜を抜けて背筋まで通る。括約筋がきゅうと引き締まった。白い腹がのたうち回るたびに、深海来訪者は面白くもなさそうにぐりぐりと槍を押し付ける。やがて小指大の穴から奥底にある赤い腹膜さえ晒されているほどに広げられると、更なる悲劇が彼女を襲う。皮膚が鱗に生え変わっていく感覚だ。おそらく直視していれば彼女は発狂してしまっていただろう。有翼の魚人。空にも海にも居場所のない、怪異。その誕生は直視しがたい惨状だ。いっそここで狂ってしまった方がなお幸せであったかもしれない。彼女は、正気だ。
 内臓は人体構造上鍛えることもできない。いかにスーパーヒーローといえど強度は生娘と変わらないということだ。自分がそこらの一般人と変わらない、そう錯覚させられることで、さらに変異は進んでいく。失われた足がひとつになり、みるみるうちにヒレが生えていく。恐怖。紫音は体を上下させて激しく抵抗した。

「あああッ、いやあ゛ッ゛、いやああああ゛ッ゛ッ゛!?」
「拒否権はない」
「あぎぃ?! え、ぁ、抉らないで……」

 いやだ、いやだいやだ。
 この姿を失いたくない。生粋のヒーローである、美しい栗色の髪に黒い瞳。誰もが羨む白い肌。それが目の前の、この狂った深海の海棲物のような鱗だらけの姿に変わってしまう。

「な、なんでもする、なんでもするから、だから助けて……たすけ」
「……」
「ひギィ?!」

 白い翼を鷲掴みにされる。臍と同じく特に神経が集まる、人で言うところの性感帯に当たる部分。無理やり毟られるような怖気の走る衝撃に、紫音は人目を憚ることなく半狂乱で悶えた。
 そこからは更なる屈辱だ。邪神を賛美する囁きに身を委ね、心身を邪神の仔を宿せるように作り替えられ、風景が極彩色に見えるように施術させられる。生き延びるために地面に頭を擦り付け、靴を舐めるような、そんな仕打ちを受けた。
 死んだ方がマシだと思うほどの恥辱を。何度も、何度も……!

 永遠と思えるほどの時間が経った後――、
 やがて……興味も失せたかのように。
 ぽつりと。

「では望み通り、姿の変異を止める」

 ――しかし、翼を持ち、人の上体と魚の半身を備えて、人の世に居場所はあるのか?

 などと、その囁きを最後に、来訪者は雨の中に消えていく。

 ……その通りだ。小魚でも鳥でも、人間でもオラトリオでもない。
 ましてやヒーローでもない。異形の人魚は、絶望に瞳を見開いて口をだらしなく開けて、それでも助けは来ない。帰る場所を失った英雄は、壊れた嗚咽をあげながら、ただただ佇むことしかできなかった……。

成功 🔵​🔵​🔴​

メアリ・イーズディル
邪神に奉仕か~💔
そゆのも楽しそーだけど、今回は邪神ちゃんは来てくれないんだね
がっかり残念しょんぼりしちゃう…
いやいやそれでも私は諦めない
深海ちゃんと遊んじゃおう!

狂気にノッてお歌を詠って適応したり削られたりのオールナイト?のお祭り騒ぎ!
いろいろ継承(もらっ)たことだし、我らもたくさん増えちゃおう!
どーゆー我らがお好みかい?
期待以上に期待外れに、キミらの信仰を侵しちゃうぜ!

ぶちころしたりころされたり、
ぶちおかしたりおかされたり!こころのことだよ💔もちろん?ね!
まけたりかったりいきたりしんだり
みんなまとめて迷路行き!

壊れた我らは溶かしちゃえ
新しい私がああいいお話だったねってハッピー?エンド!


グラディス・プロトワン
※アドリブお任せ

あまり危険な相手には見えない
機械的な判断ではそう思えた

真に危険なのは祭壇と化したこの場所そのものだが、センサー等では分からない類だ
思考に異常が出始めるが、自分では異常とは認識できない
やがて戦闘にも支障が出始め、何の変哲もない攻撃すら受けてしまうだろう

被弾した装甲に紋様が浮かび、不可思議な声のようなものが聞こえてくる
これは…何だ…?
形容し難い『何か』が俺の心身を蝕んでいく

俺の任務は…奴の討伐…だったか…?
『声』が教えてくれる

ああ、そうだ…俺の任務は…供物を集める事だったな…

機械が命令を忘れるとは欠陥品もいい所だ
すぐに任務再開しよう
邪魔する者がいれば俺の食事にしてしまえば良い



「うおおオオオッ!!」

 猛牛の如き突進が、黒き雨を引き裂いて肉薄する。黒の機甲騎士であるグラディスの猛進は止められない。何者にも、そう、味方さえも……。

「いっ……あぁッ」
「手こずらせてくれたな」

 三メートルに迫る巨躯、その大腕がメアリの首を掴むと軽々と持ち上げてみせる。いくら足をバタつかせて抵抗しようとも地に足をつけるどころか、状況は好転しなかった。

「ゲホッ……いやいやいや信仰熱心なのは構わないけどね! あなたの使命は私を痛めつけることではないんじゃないか、と思うわけだよ……?」
「俺の任務は…供物を集める事だ。声がそう教えてくれる。しつこいくらいにな」
「ああ。……そういう感じ」

 メアリが力なく笑っていると、不意に全身を襲う不快感と脱力感。身動きが取れないまま、何か途方もない気だるさが体のうちから催されてくる。まるで一日休まず歩き続けたかのような奇妙な疲弊。何より、全身の感覚を励起されている過敏さ。愛撫されて鳥肌が立つ。そんな違和感がある。
 まず耳飾りが砕け散った。次に指先が骨張り、角にヒビが入る。ぎょろんと目だけがギラギラ輝いて、皮膚からは艶めきが失われていく。丸呑みされ、消化されていくような……。

「食事の時間だ」
「んあぁああッ……かは……け、ぉ……け……」

 でもその食事は物理的ではない。
 グラディスの発光体の周りで青い旋風が渦巻く。残光すら残さないほどに溢れる生命力は、メアリから吸い出したものだ。彼の能力とはすなわち、エネルギー吸収の力。そしてその力は対象に密着しているときに最大限の力を発揮する。
 足をバタつかせていたメアリはなんとか両手で黒腕を掴んで逃れようともがく。あまりにも無意味な抵抗に、グラディスはおかしそうに赤き眼光を明滅させた。

「イキの良さは見上げたものだ……ん? ほう」

 ――……ガッ!!

「んギャ!?」

 見えない声に導かれたかのように、自由な片腕が影を掴んだ。驚くべきことに、死角から仕掛けてきたのも、それもまたメアリである。見れば先ほどまでバタついて注意を引きつけていたメアリはミイラの如きカラカラの屍に成り果てて、とうに命は失われたかのように見える。一方で影から現れ奇襲を仕掛けてきた方は健在だ。
 メアリからしてみれば、完璧なタイミングでの不意打ちだったはず。それがまたもや虜となってしまっては納得がいかない。別の感覚器官を持っているかのような鋭さ。彼女もウォーマシンと組み合った経験はないため彼我の感覚差を見誤ったか。

「……わかっちゃった。邪神の加護か~💔」
「ああ。『声』に従わなければアンブッシュを受けていたようだな。どういう体質かはわからないが、供物としては合格だ。お前は神に捧げる。だがその前につまみ食いさせてもらおう」
「ぎぎ……万事休すか、はは……」
「では遠慮なく吸わせてもらおうか!」

 ――ギュオオオッ!!

 紫の発光体が再び力を奪い始める。今度は一滴たりとも残さない。生命を搾り出す。

 ――ピッシャアアンッ! バチバチバヂィッ……!!

「ひっぎいいい!? おおッ゛!? あぎャアあーっ?!」

 落ちる雷撃。エネルギーが迸る火花と痺れと共に対外に流出していく。敏感になったところに、体を雑巾のように捻られ無理やり吸い出される感覚。痛みがあまりにも強烈すぎて何が起きたのか把握できない。陸に打ち上げられた哀れな雑魚のように、メアリの体がびちびちびちとのたうつ。それでもグラディスの徴収は止まらない。
 今度こそ、メアリの肉体から生命の灯火が消え失せて……。

「とーいーうー、私がいたのさ。メリバメリバ!」

 すたんっ、と。
 大雨の中、器用にバランスを取って、両腕を掲げて悠々と立つ。
 敵の虜となり洗脳下で食事に勤しむ勇士、哀れ無限に増えるも無限に吸われ続ける悪魔。神の思し召しにより悪魔は討伐され、この地には恵みの雨が降り続けるのでした。なんて幸せなことなんでしょう。まるでそこに聴衆がいるかのように、己が第三者の語り手かのように、ローブを雨よけにしていたメアリの姿が、戦場の中心に現れたではないか! 彼女は好みの彼女を「私」にして、笑っているだけに過ぎない。そこには好意も、善意もない。ただ悪意はある。彼女は継承の「悪魔」 であるがゆえに。

 ……無論、そのメアリもまたグラディスの猛攻により無惨に灰になるまで吸収される。

「最後まで言わせてくれない? くれない」
「小賢しい。だが任務を完遂するのが俺の戦いだ!」
「結構結構。いろいろ継承(もらっ)たことだし、我らもたくさん増えちゃおう!」

 メアリはそこでようやくグラディスの背中に深々と槍が突き立っていることに気づく。この雨の中だ。センサーの異常、認識のズレ、少しずつ変えられていく感覚。やがて些細な攻撃を受け、深傷に繋がってしまったことも容易に想像がつく。今の我らは想像力豊かなものがお好みだ。
 もし、もしも邪神の「本体」が現れたとしたならば、そこに奉仕する「私」もまたアリかもしれない。楽しそーだ。なぁんて狂気に呑まれる想像。自分への暴力、自己の完全な支配。我らを御する私。圧倒的な私。――つまり、我ら!

 そして、見つけた来訪者!

「この気持ちは継いでおこう。邪神ちゃんと相対する、来るべき刻に備えて、ね」
「貴様」
「あなた、実は邪神ちゃんなんて見たことないんじゃない。だからこの雨で誤魔化して、声で誤魔化して、騒いで唄って攫ってサクって」
「何を」
「遊んじゃおうって話だよ、夜通し? そーゆーお祭り騒ぎってこと」

 槍を失った深海来訪者に、べっと舌を出すメアリ。
 行間で倒せるような小魚に興味はない。

「それとも、そーゆー我らがお好みかい。構わないけど人形遊びもほどほどにしよう」
「神に代わり誅する。捧げよ」

 ――ザクっ!

「ひぐッ゛……!? ふっ゛、グうううウッ……!」

 首目掛けて、大口開けた来訪者の牙が迫る。ロクに抵抗もできないまま首筋に噛みつかれたメアリは、苦悶の叫びを上げながら黒き飛沫をあげて水溜りの中を転げ回った。痛い、熱い! 鮮血が止めどなく溢れ出す。自分の首から血肉が穿られるというのは、苦痛よりも恐怖が先行するものだ。細い指で、五指でなんとか振り解こうとしても鱗だらけの体は引っ掛けるところもなく、焦って血と涙とで視界もボヤける。彼女は後悔した。もう幾度となくしてきたことではあるけれど、己を呪った。
 ……彼女はその場で全てを失っているわけではない。奪われ、落とされ、零され、死んだその時を、その瞬間さえも、全て継いでいるのだ。無になるわけではない。むしろ限りない、連なりの一つに連結する。どれほど手放したくても赤い糸で、細くてもしっかりと、繋がっている。

 ――血のように、運命のように。

 言い換えれば、呪いと祝福とは紙一重、否――裏表である。メアリは、溶かされた本能から少しだけ理性を固め直して、グラディスの背に寄りかかる。

 さて、オーバーフロー寸前までエネルギーを吸い尽くしたグラディス。この背中の槍を抜いたらどうなってしまうだろう。壊れた理性のまま、本能に従ってメアリに襲いかかるかもしれない。そうすれば、もはや筆舌に尽くし難い。言語化できないカオス。
 つまりは、ぶちころしたりころされたり、ぶちおかしたりおかされたり!(言っとくけどこころのことだよ💔 もちろん? ね!) 更なるぐちゃぐちゃドロッドロの壊れたもの同士、混ざり合って求め合う、メリーバッドエンドの訪れだ。無限にスタートとゴールが接続された螺旋迷宮。終わらない発生と吸収の地獄。
 でもそういう時こそ、言わなければならない。笑って、俯瞰して。

 ああ、いい話! 大成功のハッピーエンドだった、ってね!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

瞑・冥夜
アドリブ歓迎

火神よ、召喚に応じなさい。
どのような姿で出現するかは自由を与えましょう。
邪神を焼き払い、陽の光をもたらさん。

槍先は芭蕉扇で打ち払い、間合いを取る。
精神を揺るがす誘いの雨とコトバは流す。
拒否するならば消耗する。
受容したなら摩滅する。
ならば中庸をとる。
私は、私。
眷属にしようと焦って踏み込んできたところで、召喚。
隷属のためでなく。
捧げるためでなく。
我が悦楽は、我が身のために。
自分の手と、指先で……感覚を確かめる。

火神という力をこの場に留めるために、
理性を失うわけにはいかない。
例え正気が削がれたとて。
邪神を手早く片付けることができたなら、
私と逢瀬を楽しむ時間もあるはずよ。
さあ……早く……。


四王天・燦
邪神様に身も心も捧げて贄となれってか
信仰の強要はよろしくねーぜ
稲荷神の巫女として成敗してくれる

狂気耐性で耐えながら戦闘だね
神鳴で斬るよ
槍は武器受けで捌く
何か吐いたり、体表の穴から吹き出してこないか警戒して見切るぜ
邪神隷属の紋様なんて乙女の肌につけたくないね
最悪、削ぎ落とすが恰好つかねーや

邪神の声がきつくなったら神鳴の電流を自身に流して痛みで正気を護る

八卦迷宮陣で幸せな白昼夢を見せるよ
さしずめアタシが敗北、良質な贄となり邪神様に褒められる夢かな
夢と現実の区別がなくなった方が負けさ

白昼夢で足が止まった所でヒレの隙間を一突き
電撃属性攻撃を流し込んで締める
成敗!

紫陽花見に行きたいが先に風呂に入りてえ…



 ――ドッ……!

「あっ?」
「えっ?」

 雨中、足元縺れた背中合わせ。無音に近いからこそ、あるいは意識を他に奪われているからこそ他人の息遣いが酷く喧しく聞こえるのだが、冥夜と燦は向き合うことなく身を寄せ合う。激戦の最中の邂逅。背中に走った衝撃が一層神経を過敏にさせる。ずっと続いていた耳鳴りのように甲高い音は理性を脅かす警鐘。それがこのひとときだけ鳴り止んだように感じた。片や氷の如き冷たさを備え、片や炎のように燃え上がる熱を帯びる。混ざり合えば中庸だ。緊張が解れたのか、やっと二人に表情が戻った。
 沈黙に耐えかねて、申し訳なさそうに冥夜は言う。

「不注意だった。ごめんなさい」
「ん?」
「この不始末は、戦後の逢瀬にて埋め合わせするわ」
「え? いいのか」
「え?」
「でも遠慮するぜ。媾曳になっちまうからな」
「え?」
「ん?」

 氷と炎は噛み合わせが悪いのか、会話もちぐはぐだ。まるでピースの足りないジグソーパズル。答えがなければ導きようもなく、ふとした瞬間に意識を落としそうになる。
 雨とは、不可思議だ。断続的に降り注ぐ雫をそう呼んでおきながら、しかし、天から一滴落ちてきて、それを頬に受けてもなお雨かと訝しむ。個でありながら全。見上げた時には認識してしまう。この黒黒と降り続けて精神を犯す液体を、雨として認めてしまう。性質的には毒に近いだろうに。

「考えがあるんだ」
「合わせてほしいのね。やりましょう」

 振り返って顔を見る。黒い視線と金色の視線が交錯した。
 その、刹那――!

「上だっ!」

 その音が届くには耳鳴りが酷く、雨音が喧しかった。冥夜が数瞬遅れて見上げ、認識してしまう。そして異変は起きた。全身の皮膚が溶け落ちて、自由と感覚を奪われていく感覚。生きながらに削がれる恐怖に冥夜は絶叫した。絶世とされた美貌が歪む。見上げた視線の先には月はなく、どころか日輪も見えない。伸ばした指先が触れられたのは、槍先。
 それは、天を覆うほどの絶大な存在感を放って、槍を構える来訪者……!
 来襲! 思わずネクロオーブが手のひらの隙間から落ちて、深海来訪者に踏み砕かれる。

「隷属せよ。捧げよ」
「あ……か……ッ」

 ――ずぐりっ……ブジュっ!

「ぎアッ」

 無防備な胸元の柔らかい肉に、槍先が飲み込まれていく。深々と、ゆっくり、深々と。槍先が背中まで貫通する頃には、疵口を中心に幾何学模様が肉体に刻まれた。この刻印は隷属の証。刻まれてしまったから抵抗しよう、という順序ではなく、刻まれたことが隷属したという結果を導く呪い。因果を逆転し、敗者の末路を決定づける、ひどく傲慢な神の薫陶だ。
 びくっと大きく身じろいで、天へと伸びた手がばちゃと濡れた地面に落ちた。漆黒の飛沫が札を湿らせる。魄や怨念で動いていたとするならば神への冒涜だ。それが手ずから堕とされたのであれば、これ以上の祝福はなかったろう。

「くッ、アタシを忘れるな!」
「忘れるはずもない」

 威圧するような視線。
 ふと、警戒する。
 ぱくぱく開いた口腔、鱗の隙間、尾。手には槍、打ち合ったが見切れないスピードじゃない。言ってしまえば槍術は素人だ。

「(じゃあ今の奇襲は……何だ?)」

 考えてもわからない。柄を握り直し、身構える。あんな隷属の模様を刻まれるなんてまっぴらごめんだ。冥夜をなんとか回収して、タネが割れるまで一度距離を置きたい。この雨の中、喧しいくらいに聞こえる音にいい加減うんざりしてきたのもまた事実。体勢を整えて、仕切り直す。
 ぎゅっと力が込められた、その指先に走る違和感。
 電熱を放つ名刀・神鳴。戦いの最中はひとときも手放すことのない愛用の得物だ。
 そのはずだった。
 それは見慣れぬ儀礼の槍。邪神への信仰を示す、象徴的な物体だ。
 ダメだ。まるで理解が及ばない。タチの悪い手品でも見させられたかのような、驚きよりも気味悪さが勝ってしまう。口の中が酸っぱい。崩れ落ちないように手足を縛って這ってでも、この場から離れなければ。やはり雨は苦手だ。この中で相対するのが間違いだった。早く、早く早く! 逃げないと!

 ――ずるっ……!

 膝から下が、感覚がない。足がありえない方向に曲がって、まるで関節が溶けたかのように原型を留めずぽろりと外れてしまった。受け身もロクに取れず、地面に絡みとられ縫い付けられる。べちゃべちゃに衣装を黒き泥濘のような雨滴に包まれながら、もはや満足に動かせない体を揺すって吠えた。

「なんで……アタシの考えをぉ……ッ!」
「神の御前だ。詳らかにせよ」
「なんっだよ、それ……ぐあ?!」

 わからないならわかるまで教えるだけだ、と、血の痕を残しながら逃れようとする燦の背。
 槍の置き場としてはちょうどいい。雨が打つように何度も、何度も背中から刺し貫いてやると、恨言も悲鳴も、一声も漏らすことなく事切れてしまった。もしかすれば、あるいは、声を上げなかったことが最期に彼女ができた唯一の抵抗だったのかもしれない……。

「……焦りは禁物ね」

 じゅわ、と。

 辺りの黒き雨が蒸気と化して霧散する。驚く深海来訪者を他所に、冥夜は立ち上がった。
 否、まるで最初から損傷などしていないかのように、ゆるりと。

 手にした扇をぎゅっと両腕で抱えるようにして、掻き抱いた感覚を確かめる。どうやら全く無影響、というわけでもないらしい。それに理性がせめぎ合うのは「むしろ、ここから」なのだ。ともかくトリックの説明は任せるとして、完璧なネクロオーブから悪魔を発す。
 《火神召喚》――ゆらぎの中から現出する化身。
 黒い霧の中で、忠告する。感情の昂りは、豊かな先行きを奪う。自分を隠し、瞳を閉じ、穏やか心地の中で望む。しゃにむに神だ何だと手を伸ばすのは。

「無粋なのよね。消えて」

 ――ちりっ……!

 後退る怪物の目に火花が映る。それが視界の中で爆発的に広がると、白い輝きが満たした。灼かれる網膜、奪われる退路。それが稲光であると、果たして正確に認識できただろうか。
 《符術"八卦迷宮陣"》――ゆらぎをその場に作り出す魔城。囚われのかれはおそらく幸せな夢に包まれて、もがいても外には出られまい。深海から出でし存在が幻惑に溺死するなど、少々出来過ぎのきらいはあるが、果たして望みは叶わない。

「自分の夢だぜ。責任持てよ」

 かれは見誤った。氷というには肌を焼くほどの刺激を伴う炎を、炎と見紛うには視界に刺激の強すぎる雷を。時に敬虔な信者は、世界を都合のいいように誤認する。怪物であれ例外ではない。自身を神と勘違いした存在が世界に裏切られるのであれば、それこそ神罰もくだろうというものだ。
 すなわち、鰭の下の柔肌に雷刃を喰らい、瞳が白濁するほどの豪炎に抱かれることになる。

 冥夜の細い指が火神の顎を撫でる。焦げ付く匂いと、水の蒸発するぼんやりとした大気の中で、歪みかける視界。幻想的な暗闇に包まれて、燦の放電が希望の燈となった。痺れ、熱、感覚が刺激されるたびに、自分は正気で、生きていると実感できる。私たちはどれほど雨に打ちひしがれても、体を砕かれず進めるのだと、強く心を保てる。
 生きていれば、快不快もまた切っては切り離せない問題で。燦は伸びをして、息一つ。

「ハァ……紫陽花見に行きたいが先に風呂に入りてえ…」
「私は……」

 札の下の表情は読めないけれど、少なくとも。

 陰鬱な気分を催す雨は、少し弱まって――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

岩社・サラ
嫌な雨は続きますが目標確認しました。殲滅に移ります。
(カービンに銃剣としても使用できるナイフを取り付けながら)

戦闘は射撃を中心に。取り付けた銃剣は牽制に使用して接近戦を望んでいないと敵に印象づけるような演技をしつつ行動します。

接近戦が苦手ならと敵が大振りな突き等で勝負を決めにきたらUCを発動、攻撃を装備した武器で受け流しながら敵の懐に入り込みます。接近したら鎧のように鉱石を纏わせた四肢での一撃で敵の動きを止めます。
動きを止めたら鱗の薄い部分を狙い銃剣を突き刺し銃口を押し当てた零距離射撃で制圧します。

敵の技は武器受けで対処しますが、被弾した場合は呪詛耐性で耐え囁きは自身の集中力で抑え込みますね。



 天からの視線を見れば、すなわち神の視線であれば、外とは隔離されたように雨の檻で仕切られた一角が存在しており、この街に漆黒の帷が降りたかのようだろう。黒き豪雨はまとわりつくように湿気と粘性を増して耳に喧しいくらいに響いてマクロな認識を奪っていく。戦闘中のサラにとって、閉ざされた視界と荒い息遣いだけが世界である。追う。撃つ。跳弾が壁を壊し、窓ガラスを砕き、街灯をへし折ろうとも、むしろ感覚は閉じて先鋭化していく。

「はっ……はっ……!」

 すでに敵影は手負い。あえて市街地に逃げ込む素振りを見せながら、しかしこの呪いが降り注ぐ中では市民を盾にすることもできず逃走の一手のみである。あまりに離れすぎると、人だかりのある小径にまで逃げられてしまう。
 そのために断続的に牽制を仕掛けているのだ。より危機感を煽るために。

「状況確認」

 ずらされたマンホール。
 深海生物にはお誂え向きのハイドスペースといったところか。ならば浚渫しなければなるまい。
 一度後ろを振り返る。応援を待っている猶予はない。ここで決着をつける。覚悟を決める間もなくサラは、ひとり、滑りやすい梯子に手を掛けていた。

 下水道は想定よりは臭いはないが光源もなく、降りしきった雨で許容範囲スレスレの水量と化していた。
 暗視装備を頼りに捜索をする。一分経過、二分経過。何も起きないまま時間だけが過ぎていく。――五分経過。サラの眉間のしわが深くなる。こめかみを汗が流れ落ちた。手摺についていた、深海来訪者特有の生臭さ。奴はいる。マンホールをずらしてカモフラージュするほどの余裕も感じられなかった。
 溝鼠一ついない。
 しかし、歴戦の兵としての勘が囁いていた。いる……下水の臭いより遥かに下劣で、不快な心地を催す存在感を。全身をべろべろと舐め回すような、他人を見下すもの特有の視線を。今まさしく、この瞬間に牙を剥かんとする邪悪を。

「ぎゃカカシャアアアァアッ!!」

 ――ざばぁあ……!

 裂帛の気迫。
 水の浅さを無視し同化していた深海来訪者が、槍を突き出す。奇襲! しかし緊張に耐えかねていたのは向こうとて同じこと。精細を欠く!

「浅い」

 踏み込みが、覚悟が、考えが、何もかもが浅い。切先は頬に切り傷を与える程度で、突き出されたそれに対処すると地に手をつけて逆撃の足技を繰り出した。脳天に当たった手応えのまま、無理やり水場に押し返す。
 からんっからと儀礼槍を取り落としたのを確認すると、それを拾い泥腕にへし折らせた。

「ぎィッ! 供物が……」
「来なさい。次は仕留めます」
「愚弄するかァ!」

 深海来訪者が再び肉薄する。距離を詰められるたびに精神汚染の囁きがサラの視界を揺さぶった。神経毒でも盛られたかのように、針で目を突かれた刺激が走る。耳鳴りが酷く、音の反響も相まって、まるで闇に放り込まれたようだ。まぶた同士がピッタリ張り付いてしまったみたいに言うことを聞かない。必死に目を擦りたい衝動と闘いながら、あえてカッと見開いて歯を食いしばる。
 暗がりに紛れて一般人を攫うような存在に、遅れを取るわけにはいかない。

「(意地があります)」

 猟兵としての。
 兵士としての。
 傭兵である、サラの誇りにかけて。

 体を屈め、両腕で抱くように掴みかかる来訪者の懐に潜り込み、右肩をぶつける。

 ――ドグッ゛!!

「ぐごげ!?」

 指先から肩まで魔装で強化したタックルだ。至近距離でも威力は絶大だ。その勢いのまま投げ飛ばすように壁に叩きつける。黒い飛沫を迸らせて、さながら血を噴き出すように来訪者は上下反転姿勢で下水道壁に縫い付けられた。遅れて、息の塊を吐き出して喘ぐ。上下する胸が教えてくれた。
 鱗の薄い部分、すなわち命を終わらせる箇所――!

 ――ドスッ……バパァンッ!!

 鮮血の花が広がる。壁面は暗がりで見えないが、満開の血痕を散らして貫通した弾丸が命を奪ってみせた。銃剣で喉奥まで破り開いてからの、至近距離射撃。これを狙っていたのかと、来訪者はスローな時間の中で理解する。槍を振るう己に、あえて近づいてきたのは、これを狙って……白兵戦も得手なのだと悟らせないために隠して。あれだけ聞こえていた神の囁きが聞こえない。信仰は、最期には救いにならないのか。ぐぽと黒い塊が漏れた。
 紫の眼光が、暗視装備の奥で光る。言葉はいらない。トリガーに指をかけ直して、弾く。

 ――バァンッ!!

 二発目でついに、ぐりんと目が裏返る。骸の海が、呼んでいるようだ。
 静寂が戻り来たる。無意識のうち膝をついて、ようやく息をつけたようだ。まるで今まで呼吸すら忘れていたかのように、ギラギラしていたサラの瞳に、少しずつ普段の冷静さが戻ってくる。本来、狙撃戦よりかはこういった泥臭い戦いの方が性に合っているような、そんな気さえしてしまって。

「……任務、達成です」

 ぐっ!! と、拳を天へ向かって突き上げた。普段は露わにならない感情が、彼女をそうさせた。

 ……雨と同じだ。
 たまにはそれも、いいだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 日常 『花の宴を楽しみましょう』

POW   :    屋台でいっぱい食べる

SPD   :    のんびりお祭り見物する。

WIZ   :    お花見を楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 パシャリ、と。

 その紫陽花に気を取られてしまえば、小径の水溜りに踏み込んでしまうかもしれない。パステルピンクにブルー、降り続いた雨もようやく小雨になって、淡い色合いの映える明るさが戻ってきた。

 猟兵の手によって、この地に日差しがもたらされたのだ。しかし、雨ならではの愉しみを得るなら、この機会は絶好であって。

 耳を傾ければささやきではなくお囃子が。
 鼻をくすぐるのは香ばしい香りで。
 花でも、団子でも、よりどりみどり。
 ささやかな労いを存分に楽しもう。
メアリ・イーズディル
絡み・アドリブなんでも大歓迎!

どしゃぶりも良いケド、差し込む光も好き好きさ
お散歩に合った傘でもさしてぱしゃぱしゃ水たまりを巡ってゆこう!
お花も団子も味わうよ、私はとっても欲張りだから

美味しい🌸に舌鼓を打ちながら
きれいな🍡を鑑賞しながら
(逆?可能性を探求してゆこ?)

邪神ちゃんのことに思いを馳せたり、
戦いの記憶を思い出したり!

あと、可愛い女の子とか付き合ってくれるとうれしーんだけど
どーだい爛ちゃん?爛さん?爛さま!
素敵な冒険に連れてきてくれてたくさんの感謝を伝えよう!

ちなみになんか既にいい雰囲気だったりすると空気を読みまくってすぅっと消えるよ。
悪魔でも馬に蹴られては死ぬので。ので。


グラディス・プロトワン
※アドリブお任せ

雨が弱くなってきたか
事件が解決した証のようなものだな

これは…例の小径か
機械の俺が見ても見事だと思える紫陽花が顔を覗かせている

小径を進むと賑やかな縁日が見えてくるが、俺は少々場違いかと考えてしまう
ふと水溜りに映る自分の姿が目に入り、なぜか目が離せなくなる
次第に自分の影も気になってきて…

先の戦いでの事もあり、今の自分は本当の俺なのか?と疑問を抱く
影は本体に付き従うもので、決して離れない
常に共にあるという事は、いつでも成り代われるという事

そんな思考を巡らせてしまうが、考えすぎかと再び歩き出す
縁日の明かりに照らされて、影が濃く大きくなっていく
まるで俺を飲み込もうとしているかのように



 服が水分を吸って肌に張り付き、白い髪からは雨が滴る。ベルトの光沢も今や鈍く重たく感じるほどに、ぐっしょりと濡れ切った体は、激戦を終えて冷えてきた。ああ、寒い。なんでこんなにも肌寒いのだろう。先ほどの興奮が嘘みたいだ。雨上がりの感傷的な気分は、どうにも拭えず重くのし掛かる。

 ……この渇望は、雨じゃ冷めない。

 雨量が減り、雫となり、やがて一滴にまでか細くなった雨を、自分自身と重ね合わせる。
 個となった、異なった己を夢想する。
 個体。
 孤独。

「いやいや、ないない」
「何がないのよ」

 見上げた視線を戻すと、金髪の狐娘、狐裘・爛(榾火・f33271)が傘を持って立っていた。労いの言葉をかけようとしていたのに咄嗟に生意気な言葉を出してしまって、少しバツが悪そうに。

「お迎えご苦労! 傘は人数分いらないよ。傘やさんが開けてしまうからね」
「なになになに、傘や? もーっ、私の出迎えはそんなにおかしい?」
「そんなことないよ……爛ちゃん? 爛さん? 爛さま! どうかな我らのエスコートは」
「調子がいいわね! ん、んん、でも私もそのつもり。ね、一緒にまわりましょ。お団子買ってきたよ」

 串に刺された三色団子を手渡しつつ、傘をさす。傘の閉ざされた視界越しに見る風景は、屋外にいながらパーソナルスペースにいるようで、緊張する。相合い傘ともなればなおさら、密着して己が空間に招き入れるなど、平常心は困難を極める。

「どうしたの? お腹減ったでしょ」
「もちろん味わうよ。私はとっても欲張りだからさ」

 晴れ間覗く天も、土砂降りも、雪も、槍が降っても好きさ。全部継承してごちゃ混ぜにして、すべて平らげる。それがメアリというものだ。
 こうやって綺麗な団子も、見て楽しんで目一杯に堪能して、花だって選り取り見取りでパクつくつもり。パクつくつもり?!

「いただきます」
「や、やめなさーいっ。あっちょっと! もーっ、あっこら! 跳ね回らない! ううっ、飛沫で私もびしょびしょじゃないのよぉ」
「爛ちゃんどうしたのかな。そんなに濡れて、風邪ひくよ💔」
「ぐぬぬぬ……」

 げに恐るべきは可能性の探求心。
 ぐっしょりずぶ濡れになってふるふる震えて、しばらくはああもうああもうと繰り返しぶつくさしてたが、やがてその突拍子のなさに笑いが込み上げてきた。混沌とまともに取り合うのは、同じ混沌たるものだけだ。美的センスだけが先鋭化している爛は、一度噴き出してしまったら止まらない。

「ああもうっふふ、ふふふっ」
「けらけらけら!」
「ほらほらいきましょ。縁日だってあるんだから、楽しみはこれから。ねっ?」

 腕でも組みかねない勢いで並んで歩き出していく。足取りは軽やか、それも澱みない先行きを暗示しているかのように軽快さだ。
 しかし、光景とは見た者の心象を投影するもの。すなわち、そこにある風景から得た感傷は、誰にも共感し得るものではないのだ。

 メアリは小径の果てに、とある人物と出くわすことになる。グラディスである。彼は雨の中傘を持たずに佇んでいた。仁王立ちして紫陽花に心奪われる姿は、彼が機械であるということさえも忘れさせる。しかし、その様子はどこか浮かない。

「俺は…………」

 彼の体躯からすると自然、視線は地に向かって下へと向けられる。そうすると生い茂る紫陽花にだけでなく、水溜りまで視界に収まることになる。
 そこに映る姿は、見下ろす己だけだ。しかし、全く別の感覚がどうしても催されて抑えられない。それは降り続ける雨が拭えないのと同じことだ。すなわち、見られているという感覚。実は自分とは、本当は自分自身を見上げているのではないか。とっくに影の方になり代わりをされて、本来の自分でないものが外界に溢れているだけではないか。
 胡蝶の夢さながらに、ふわふわと覚束ない考えが、どうしても彼を苛む。

「俺は……?」

 疑心暗鬼。
 心の影が、付き従う。疑いようもなく、離れることもない。
 この心にある空虚を埋めるのは、一つしかない。

「腹ペコなのかな?」
「……ん? お前は……」

 メアリが両手を広げて声をかけた。先の戦闘では抱きしめられたものと、抱き竦めたもの。混沌たる宴において簒奪されたものと、喰らい尽くしたもの。
 風景への感想は多岐にわたる。多岐にわたる、それすなわち、我らだ。あらゆる感想は、その時のインスピレーションまで含めて継承するに値する。他人のセンチメンタリズムとて例外ではない。

「そこは入り口なのだよっ」
「入り口?」

 縁日のことか、とようやく合点がいく。微動だにしてなかったグラディスは、そこで初めて背を向けた。喧騒とは反対の方向へ、どうやら自身が場違いだと思っているらしい。その気遣いは美徳ではあるけれど、メアリからすれば、彼がこちらに向かって来ているようなものだ。方向だけ、状況だけみれば、今にも彼は抱きしめかねない。
 入り口とは、出口なのだ。そして何かの入り口は、別の何かの出口でもある。
 メアリは笑っていた。表面上は。

「……『食事』に行かなければならないようだ。機会があれば別の依頼で会うだろう」
「唆るね。我らはこれからも探求するよ、この世の全てを。まだ物足りないからさ」
「それはお互い様だ」
「ご馳走様🍽」
「ふっ」

 互いに笑い合っていた。話に花を咲かせていた。
 彼らは運命さえも笑う者だ。対面すれば影も、悪魔も、笑顔で抱きしめることだろう。そこに介在するのが今の己でなかったとしても、些細なことだ。不安そうに見つめる予知者の及び知らぬところで、己を世に知らしめる、または再認識すべく、何度でも危険な冒険に身を預けていく。彼らを求める声がある限り、彼らの戦いはまだ続く。それは欲望との戦いでもある。希望も絶望もない、味気ない日々には、きっと彼らは満足しないだろう。
 時に、紫陽花の花弁は、見た目の鮮やかな部分ではない。咲いた花は、厳密には花ではないのだ。本当は小さく、目を凝らさなければ見逃してしまう。
 そういう時は立ち止まって、覗き込むといい。案ずることはない。仮に目線を向けたところで、逆に見られている、なんてことはないのだから。

 ――縁日の明かりに照らされて、影が濃く大きくなっていく。
 まるでふたりを、飲み込もうとしているかのように。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

岩社・サラ
アドリブ歓迎
WIZ

紫陽花ですか……撃破対象が精神を汚染してくる敵ということもあって精神的な疲労を感じますね。あの手の敵は厄介です。
今は静かに花を眺めて一息つきたいですね。

雨を避けられる場所があれば自動販売機の缶コーヒーでも買ってきて飲みながら鑑賞するのも良さそうですが、そういう場所がないなら歩きながら紫陽花を見て回りましょう。雨はまだ降っていますがこれぐらいの小雨であればあまり気にもなりませんしね。

花を眺めていれば先程の戦闘についての自己分析や反省なども頭を過るかもしれませんが、とりあえず今だけはそういった事を頭から出して素直に花の鑑賞を楽しむとしましょう。



 目にするのもうんざりな黒い色彩を前にして、しかしどうにも原初的な欲求を抑えきれないのはヒトの性かもしれない。仕事を終えた後の一杯のコーヒー。生き返った、と、そう感じるほどに蓄積した疲労は大きい。それも、肉体の疲れ以上に精神力を使い果たした感じがする。苦い。丁寧に淹れたものでも、上等な豆を使ったものでもなくていい。このチープな味が、日常に帰ってきたことを認識させるのだ。
 小径のそばにある公園。といっても遊具もほとんどない、散歩コースの一部になる程度の緑地である。お誂え向きに雨除けの常緑樹がベンチ脇に聳えており、降り頻る雨の雨避けになっていた。
 目を閉じれば、想像が瞼に映る。翌日にはこの公園も賑やかな喧騒が戻ってくるだろう。雨上がりの水溜りだって子供からすれば格別の遊具だ。
 そして子供を含めたこの地区の人々を守ったのだという自負がある。
 それに対する労いはない。強いて言えば、生い茂る紫陽花をこうして静かに鑑賞する時間を得たことくらいだろう。

「雨も上がりそうですね」

 雨を確かめる手に、雨滴が飛沫を散らしていたのもつい今し方。
 ふと。
 世界の音が、消える。

 自分の手には黒い液体がこぼれ落ちて溢れ、その手だって錆びた鉄のような血の臭いがむせ返るほどに刺激する。頭が痛い。息を吐き出すのも億劫だ。
 ふと目を上げる。
 鱗塗れの来訪者が、儀礼の槍を携えて、歯軋りしながら立っていた。血みどろになりながら、槍を杖にしながら、しかし立っている。ローブの影の群れを引き連れながら。
 追ってきたのか。蘇ったのか。仕留め損なったのか。――他の猟兵は気づいているのか!? 自分の残りの装備は……残弾は、いや、まずは!

 立ち上がる。祭りのお囃子が聞こえる。
 手には零したコーヒーが、一滴、垂れていた。
 小径にはサラが立ち尽くしている。先ほどの戦闘の記憶がリフレインしたのか。それにしてはやけにリアルだったような、自分もヤキが回ったのかもしれない。
 音が戻ってきた。己は正気だ。あるいは穏やかな時の流れの中でうたた寝でもしてしまったのかもしれない。緊張の糸が切れてしまったのか。はたまた精神汚染の影響が残っていたのか。ぐいと頬を拭っては、指先まで感覚が戻ってる事実を確認して嘆息する。恨み言をすでにこの世にいないものにこぼしても仕方のないことではあるのだけれど。

「……最期まで手を焼かせてくれます」

 なんて厄介な敵だろう。
 たしかに教団は壊滅した。しかし残された謎は少なくない。かれらの語った「邪神」とはなんだったのだろうか。いずれは相対することもあるのだろうが、少なくとも装備も、技術も、まだまだ磨く必要性を痛感する。私はまだまだ強くなれる。その自覚を持つ限り、自分は強くならねばならないという使命感を覚える。例えばナイフのみで戦ったら、例えば狙撃をしてみたら、例えばバギーを持ち込んだら。携行式のガトリングだって一考に値する。
 職業柄というやつか、どうしたって、花の鑑賞の最中でも、私は私。どうしたって戦いと、自分を切っても切り離せない。戦場にいない自分を想像できないし、自分のいない戦場に不安を感じて仕方ないのだ。気が変になる。先ほどの悪夢だって、あと数秒もあれば制圧できていた。誇張ではない! 同じ敵との遭遇戦など恐るるに足りない。弱点は判明している。

 それすなわち、自己分析した己の弱点をも、しっかりと把握している、ということだ。
 手札を増やさなければ。戦術を磨き、経験値を積まなければ。やるべきことはまだまだ多い。

「こうしてはいられません」

 休憩は終わりだ。
 次の戦場が自分を呼んでいる。

 いざ、次の嵐の中へ――!

成功 🔵​🔵​🔴​

ルルチェリア・グレイブキーパー
≪狐御縁≫

燦さん邪神教団の退治お疲れ様
お風呂上りの濡れた髪をタオルで拭いてあげるのよ
疲れたでしょう?傘はこの子達(幽霊の子達)が持つわ

皆で紫陽花の小径を歩くのよ

ここの紫陽花、青から紫、紫からピンクにグラデーションしてて綺麗なのよ!
集合写真を撮るならここが良いわ! 私、爛さんの隣が良いのよ
爛さんとは燦さん伝手に知り合ったばかり
この機会にもっと仲良くなりたいわ!

むむ、写真の隅に白いもやが
幽霊の子達のせいね

シホのお弁当は相変わらず美味しそう
私は焼きそばにわたがし、りんご飴を買って来たわ
近くで縁日の屋台が有ったからつい
皆で分けて食べるのよ

焔さんがガーデニングした神社、絶対綺麗なのよ
今度見に行きたいわ


シホ・エーデルワイス
≪狐御縁≫

燦が戦っていた2章迄の間
【供宴】でお弁当を作って合流

燦と爛さん
お疲れ様です

近くにある銭湯をUDC組織に貸切ってもらいました
良ければ爛さん達も冷えた体を温めて下さい

燦達が入浴中の間
希望者の服を預かり『聖紗』で泥等の汚れを浄化
乾かすのは焔にお願いします

依頼で焔と家事の様な事をするのは初めてかも
流石慣れていますね


お弁当は
体が温まる油揚げと春雨のスープ

かぶとビーツを紫陽花の花柄に切り揃えた肉そぼろご飯

爛さんの分もあります

ルルもありがとう


ルルの幽霊の子達に傘を差してもらいながら紫陽花鑑賞

記念撮影に丁度良い場所ですね

天候操作で一時晴れさせ虹を出す



神社が更に華やかになりますね

燦の耳打ちに頬を紅潮


四王天・焔
《狐御縁》

まずは銭湯から上がった後の燦お姉ちゃんに労いの言葉を掛けてあげよう。
「お疲れ様―、燦お姉ちゃんのお陰で綺麗な紫陽花が見られそうだよ」

燦お姉ちゃんの服は、焔の狐火で乾かしてみるね。
「間違って燃やさない様に、注意しないとね」

後は、皆で楽しく紫陽花観賞を満喫しようかな。
お弁当も楽しみだね、どんな具が入っているんだろう、ワクワクするなぁ。

焔も、集合写真に一緒に写ってみたいなぁ。
こうやって皆で揃って遊びに行くのも、いい思い出になった事だし。

紫陽花の剪定した枝を包んで貰った後は
焔がガーデニングを任せられてみるね。
「こういうのは得意だから任せてね!」


四王天・燦
《狐御縁》

戦闘終に即銭湯だ
衣類はシホにお願い、焔に狐火で乾かせるかなと煽ってみる
上着が乾くまでルルに髪を拭いて貰うのも心地いいね

爛にも声をかけて合流だ
梅雨と言えば紫陽花散策だもん
お弁当にも期待して皆を呼びました

小川と紫陽花と言った映えポイントや、虹でも出てくれりゃあ皆で撮影
うりうりと爛を中心に一枚撮りますか
グリモア猟兵デビュー祝いだ
ルルの影響で心霊写真になるのはご愛敬で

飯だ飯だー♪
雨で冷えた体がぬくもるぜ

アタシ『達』の神社にも紫陽花が欲しいな
管理人に剪定した枝を挿し木用に包んで貰おう
焔、ガーデニングは任せた(えっへん)

んふ、綺麗な花だ
シホに耳打ち…エーデルワイスがアタシにとって一番綺麗だよとね



 げに驚嘆すべきはUDC組織への根回しか。戦場となった区域のほど近くである銭湯――その一角、風通しのいい乾燥室にて、鼻歌混じりに家事に勤しむ影が一つ。

「ご機嫌だね」

 四王天・焔(妖の薔薇・f04438)がその背中に声をかける。暗室に浮かび上がるは夜空の星のような狐火の数々。その一つ一つは温度の匙加減が絶妙に調節され、触れても火傷しないほのかな熱量となっている。いささか神経を使うのか、普段の無邪気な表情はむむむと若干の翳りが見て取れた。
 上機嫌な影は振り返って微笑する。

「お疲れ様」
「もう少し待ってね。燃やさないように……」

 泥一つ、解れ一つない衣装は、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)の光のヴェールである『聖紗』により処置されたものだ。彼女が上機嫌だったのは汚れ一つなくなった衣装への満足感もあるが、何より依頼で焔と家事に勤しむ愉しみからであった。その背はまるで新婚の愛妻のよう――。

「(――なんて言ったら燦お姉ちゃんはどんな顔をするかな?)」
「焔……?」

 なんでもない、と思わずこちらも頬が綻ぶ。
 こういった何気ない会話もいずれは思い出となる。止まない雨はないように、いずれは過ぎ去ってしまうかもしれないけれど、込めた真心は尽きぬことはない。仄暗い雨の中で精神を磨耗した燦の、少しの癒しとなればいい。その一心で衣装の修復を買って出たのだ。そろそろ頃合いだろうか。焔の合図で炎がかき消えると、シホの手にふわふわの衣装が舞い降りる。さあ、労いの時だ!

 と、息巻いたのも束の間。

「燦さんお疲れ様。風邪をひく前に拭いてあげるわ」
「サンキュー。気がきくじゃん」
「ちょっと! 今回はもっと情熱的に振る舞ってくれないの?」
「お前はなんで依頼の時だけ積極的なんだよ……」

 ルルことルルチェリア・グレイブキーパー(墓守のルル・f09202)がタオル一枚ラフな姿な燦にもたれるようにして、ホカホカ上気した髪を丁寧に拭いていた。休憩中とばかりに腰掛けるその隣は爛が占拠し、よく冷えた牛乳を飲ませようとしている。
 両手に花にしては多少賑やかだが、ともあれ労いのひとときは始まっていたようで。

「……」
「お疲れ様ー、燦お姉ちゃんのお陰で綺麗な紫陽花が見られそうだよ」
「そうでもあるな。これで多くの女の子が救われるかと思うと、アタシも出張った甲斐があったぜ」
「燦さんは本当に女の子好きよね」
「てへっ」

 ……。
 思えば、生来の気質は「捧げるもの」。無私の奉仕を信条としていたところでもある。
 などと言い訳をしたとしても、一度発芽してしまったこの「モヤモヤ」とした気持ちを簡単には抑えられないのもまた認めなければならない事実。捧げたらそれだけでいい。報われなくていい。曇ったままでいい。いっそのこと雨は降ったままでも構わない。晴れ間は望まない。なんて。
 だなんて、そんなことはもう言えないのだ。
 矛盾というか、醜いというか、そういう清濁併呑を受け入れなければならない。

「燦と爛さん」
「おう」
「ん、ん?」
「お疲れ様です」

 ――……ずざざざざ!!

 緊急談合である。ルル、焔、爛の肩を抱くと、燦は小声でひそひそ。

「待て。なんであんな表情してる。なぁおいナンデデスカ?」
「(ちらっ)……屋敷の時と変わらないでしょ」
「服を乾かしてる時は普通だったよ」
「ついさっきじゃねえか!」
「直接聞いてみればいいのよ」
「それは……あー。パスで」

 それでは埒があかない。談合解散! ルルは虚空に目配せすると、手を掲げた。その手の動きにそってふよふよ動き始めた傘は、ひとりでに開くと各々の上で静止する。一見すれば魔法のように見えるその素振り、実はもっとオカルティズムに溢れているのだが、爛はおーと拍手すること頻りだ。
 実は心配りのできるデキる女の子、ルルの心遣いの賜物である。ちなみに正解は「相合い傘を用意する」だったのだが、今回は人数分。

 こうして傘を手にし(?)着替えを済ませ、紫陽花小径の散歩へと洒落込む。
 ちなみに紫陽花の花言葉は「団らん」「和気あいあい」、それに「移り気」そして「浮気」がある。気品ある高嶺の花のイメージこそあれど案外本質は手に取りやすい俗っぽさがある。青から紫、紫からピンク、色とりどりのパステルカラーが湿った空気に爽やかな彩りを与えるようだ。綺麗な花々は心の癒しになる。両手に抱えきれないほどの花に囲まれれば、これほどの幸せもあるまい。例え目移りしてしまったとしても。
 石畳を雨滴が跳ねる。今や霧雨ほどに弱まった勢いが、浮つきかけたテンションをしっとり包み込み、面々を冷静にさせた。誰しもが没頭してしまうほど、ひたすらに幻想的でどこまでも続く風景。人の手では絶対に作り出せない絶妙の美、しかし人が手入れをしなければ実現できない調和があった。
 やがてせせらぎの聞こえる小川沿いにたどり着く。川沿いに咲き誇る紫陽花により涼やかな気分は一層際立って、面々の歩みはつい遅くなる。

「写真を撮ってみたいな」

 卓越したツールユーザーであり、無類の花好きでもある焔の提案に一同が頷く。
 チェキを手に、ああでもないこうでもないと構図を考えながら、ようやく決めて。

「では、天気を調整しましょう」
「ありがとう! 日差しがちょうどいい塩梅だわ」

 一瞬、ほんの一瞬ではあるが。
 差し込んだ日差しで虹の橋がかかり、淡くてカラフルな色彩に花が添えられる。
 手を組んだポーズのシホ、手を腰に当て小首を傾げて微笑する燦、中心でいじられつつも片足を浮かせて得意げな爛、尾を揺らしニッコリはにかむルル、正面きって満面の笑みの焔。まるで一つの飾り紐で繋がっているかのような固い絆を感じさせる一体感あるポーズで、シャッターがきられる。
 撮影したらすぐさま現像ができるのが優れもの。早速現物を確認してみる。すると。

「むむ、写真の隅に白いもやが……」
「もう一度撮影してみましょうか?」
「これでいいよ。いい思い出になった事だし」

 見ようによっては心霊現象そのもの、ホラーを掻き立てるものでも、立派な思い出として見ればこれほど印象深いものもない。付かず離れず存在してくれる「お子様幽霊たち」を無碍にするのも気の毒だ。むしろ賑やかさを足してくれる付加価値として歓迎しよう! そんな寛大さが共通の認識である。
 写真撮影をしていると、川原のこの辺りが休憩スポットとして申し分ないことに気がついた。ならば散策は小休止。腹ごしらえを提言する。

「飯だ飯だー♪ でもウロコだらけの魚は勘弁な」
「イヤにピンポイントなのよ」
「気持ちはわかるけどね……」

 ルルが爛と顔を見合わせて苦笑する。どういう戦いがあったかあらましを聞いているだけに、そんな弁当来訪者が来ないことを祈るばかりである。
 言うまでもなく杞憂だったようで、シホはお弁当を、ルルは縁日で買い出しした軽食を準備していた。ソースの香ばしい香り、ふわふわの甘い匂い漂わせる綿菓子、甘酸っぱく食欲をそそる林檎飴。さらにはイカ焼きにたこ焼きにチョコバナナ。焼きとうもろこしにラムネにカキ氷まである。シホは逸品料理だ。油揚げと春雨のスープ、それと、かぶとビーツ入り肉そぼろご飯。紫陽花の花柄に器用に切り揃えられた点に遊び心を感じさせる。

「かんぱーい! 飲め飲め!」
「あまりハメを外しすぎないようにね」
「焔の言う通りです。だいたい……」
「アタシのラムネが飲めないのかアーン?」
「むがもごむが?!」

 好物の油揚げを食みつつ上機嫌の燦。もはや彼女を止めるものなど現れるはずもない。瓶を口にしながら目を白黒させる爛を傍目に、心配そうに見つめる面々。それも束の間、思い思いに箸を動かしてパクつき始めた。花より団子になるのは談笑があってこそ。皆で囲む食卓より美味しいものはない。まさしく一家団欒のていで夢中で味わう。時には切り分けて、箸であ〜んと口に持っていって。時には冷えた体を癒すように熱々のスープをあえてふうふうと冷ましてみせて。互いに食べさせ合って品評会をして。シェアして。レシピを教えてとねだったり。
 その風景もまた写真に収めていく。形にして残す幸せを、後で噛み締めるために。

 時が経つのは早いもので、いつの間にやら辺りは薄暗くなってきた。光源を失ってより朧げに幻想的な、ほのかな色彩が際立つ時間帯。
 縁日の祭り拍子が夕暮れ時の風に乗って聞こえてくる。紫陽花祭りに浴衣を着てこなかったことをなんとなく後悔する面々。
 そんな感傷的な空気を払拭する燦の次なるリクエストにより焔が剪定鋏を握っている。

「こういうのは得意だから任せてね!」

 どうやら挿木をしてみたい様子。万年楽しめるように、より居心地の良い神社にするために、焔が腕を振るう時が来たようだ。
 爛としては有形のものを限りなき永遠に愛でるのは歓迎だったし、シホもまた仕切りにヘアバンドを撫でている。「今度見に行きたいわ」とルルもノリノリだ。
 すなわち満場一致。管理人了解の下、ガーデニングしやすいように焔は紫陽花を頂戴していく。他の誰に任せることなく、彼女が適任であろう。
 しゃきんしゃきんと軽快な音が、雨中の辺りに凛と響く。
 青い色を。桃色を。紫色を。
 目を閉じれば、「アタシ『達』の神社」を彩る、紫陽花の数々。今日この日の感動をいつでも味わえる幸福。それを考えるだけで無性に楽しくなってくる。そして、それを実現出来るのは一人しかいない。

「焔、ガーデニングも任せた」
「がってんだよ、燦お姉ちゃん」

 んふと、得意げに頷く燦の横顔を、爛はどうしようもなく焦った様子で見つめている。
 焔の羨ましい関係に。シホにさんづけで呼ばれるもどかしさに。ルルともっと仲良くなりたい渇望に。燦を姉と呼べない客人(じぶん)の不甲斐なさに。

「そうだ。爛、ご苦労さん」
「な、わ、私は別に……」
「お前はお前なりによくやってるよ」

 琥珀のようにしっとりと深みを帯びた声色で、うりうりと弄られながら労われると、どうしても思いが抑えきれなくなってしまう。報われた気になってしまう。言われたかったことを幻聴したのではないかと、勘繰ってしまう。
 声をかけてくれた、そのことへの感謝を忘れるはずもない。爛は、ニヤけてしまう。皆への感謝と、恩義と、未来への期待と、それだけで頬を抓って夢かと疑ってしまうほどに果報者の自分だ。この幸せは、他の誰にも、自分自身にだって分けてやらない!

 呆けた爛。剪定に夢中の焔。空気の読めるルル。

 皆の注意が向いてないほんの一瞬、誰にも聞こえないように耳打ちする。それは千年の嫉妬も一瞬で溶かすような、口説き文句で。

「今日は月も綺麗だな」
「……っ!」
「エーデルワイスがアタシにとって一番綺麗だよ」

 今宵、満開の花が一輪、可憐に咲いて――。

 ――この物語は、これにてお仕舞い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年06月24日


挿絵イラスト