大祓百鬼夜行⑥〜たまにはこんな安息を
「状況を説明いたします」
グリモアベースに響くソプラノに、身構える猟兵もいるやも知れない。目の前に立つグリモア猟兵が斡旋する依頼の傾向を鑑みれば無理もない。次はどんな鉄火場が自らを待ち受けているのかと構えるのはごく自然な反応とも言える。
「本日は皆様に、お花見をしていただきます」
鉛のように重苦しい雰囲気の中、奉仕人形ティー・アラベリアが発した一言は大方の予想を裏切るものであった。
いつものブリーフィング時に見られる無感情さとは打って変わり、奇妙な程のぽやぽやさ加減で花見の実施を宣言したティーの手には、三次元地図投影用の銀の短杖ではなく、明らかに調理用であろう銀のおたまが握られている。その表情も、いつものような張り付けたような笑みではなく、暖かな春の陽気を思わせるようなぽやぽやさ加減であった。
花見とは、文字通り花を愛でながら飲食をする行為であるのかという問いに、人形はきょとんとしながらも頷く。転移先には花に擬態したオブリビオンも、植物型のオブリビオンマシンも存在しないらしい。
曰く、転移先となる丘陵には幻朧桜と呼ばれる美しい桜が咲き乱れているとの事である。その桜は如何なる原理かは定かではないものの、魂と肉体を癒やす効能を持つという。さらに付け加えるならば、猟兵達が幻朧桜の下で楽しめば楽しむほど、百鬼夜行との闘いに身を投じる猟兵達の支援になるというのだから不思議なものである。
常日頃から数多の戦場を駆ける猟兵達。肉体的にも精神的にも、積み重なる疲労は尋常なものではない。そこに降って沸いた休息の機会である、これを見逃す奉仕人形ではなかった。
「……と、言うわけでごさいますので、転移先には様々な料理やお酒、お菓子などをご用意しております。無論、酒精の入らぬお飲み物もございますので、どうぞ心行くまでお休みいただければ幸甚でございます。料理の持ち込みも歓迎いたしますよ」
いつ終わるとも知れぬ闘争の日々。たまには戦いを忘れ、美しい桜を愛でながら安息に浸るのも一興かもしれない。
とにかくも花見である。美しい桜と舌を愉しませる料理、そして適度な喧噪が揃えば、他に何が必要であろうか。
「それでは皆様、良いお花見を。良き休息の機会たらんことをお祈り申し上げます」
あーるぐれい
ごきげんよう皆さま。あーるぐれいでございます。
とにかくお花見だ、花見をするのだ! ということで、今回はお花見シナリオとなります。
転移先には美しい桜、古今東西のお料理、飲み物が揃っています。
また、グリモア猟兵は現地で料理を作っておりますので、お呼び頂ければ嗜好に沿った料理や飲み物を作ってくれるでしょう。
●プレイングボーナス
「よその戦争を無視して宴会する!」
血なまぐさい闘争はひとまず忘れて、まったりとしましょう。
●プレイング受付と採用人数について
オープニングが公開され次第直ちにプレイングの受付を開始いたします。
戦争シナリオということで、"最低達成数+元気の続く範囲"で採用させていただければと思います。
第1章 日常
『桜の下で宴会しよう!』
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POW : 美味しい料理や飲み物を提供する
SPD : 巧みな芸を披露する
WIZ : 桜の下で語り明かす
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
支倉・錫華
最近忙しかったし、久しぶりにアミシアとのんびりするのもいいかな。
会場の端に【ホバートラック】を停めたら、
アミシアに実体化してでてきてもらおう。
『錫華、サプライズと言うのはこのことですか?』
「うん。たまにはアミシアとのんびりしたいと思ってね」
『そうですか。なら……」
お? これは、和服ってやつかな。
戦闘服以外のアミシアを見るのはだいぶ久しぶりかも。
『ゆっくり【お話し】しましょうか』
あれ? これはお説教モード? でもならなんで和服!?
と、ちょっと汗ジトしてたら、
『冗談です。なにか簡単なもの用意しますから、場所取っておいてくださいね』
ホッとしてアミシアを見送ったら、足取り軽め?
喜んでくれた。かな。
●
美しい桜が乱れ咲く花見会場。風に運ばれ、新雪の様に降り積もった淡い花弁が、人工的に作られた強風によって巻き上げられ、再びゆっくりと薄桃色の絨毯を形成していく。
会場の隅に自前のホバートラックを停車させた支倉・錫華は、防弾仕様のフロントガラス越しにその様をぼんやりと眺める。クロムキャバリアを中心として、様々な世界を巡り戦う錫華にとって、久しく訪れた休息の機会であった。
花びらで舗装された地面に降り立った彼女は一つ伸びをすると、ホバートラックに備え付けられた端末を操作し、同行者であるパートナーユニット、アミシア・プロフェットを実体化させる。
「錫華、サプライズと言うのはこのことですか?」
トラックの演算能力によって肉体を得たアミシアは、ゆっくりと眼を開き、周囲の状況を確認する。周囲に脅威はなく、穏やかな風と木々のさざめきが支配する空間である。アミシアは些か意外そうに眉を上げ、自らの主に尋ねる。
「うん。たまにはアミシアとのんびりしたいと思ってね」
「そうですか。なら……」
と、言葉を区切るとアミシアは自らの身体を包む衣装を再構築する。一瞬の光と共に置き換わった彼女の装束は、深い藍色で染められた和装であった。飾り気のないシンプルな作りではあるが、それがかえって彼女の無機的な肌の白さを際立たせている。背後に広がる幻朧桜の美しさも相まって、戦闘服姿の機能的なそれとはまた違う、ひどく現実離れした美しさをアミシアに与えていた。
「ゆっくり【お話し】しましょうか」
しかし、続けて放たれたアミシアの一言は、錫華の想定から些か外れた物であった。その表情と声色は冷たく、明らかにお説教の構えである。
心当たりは枚挙に暇がない。数々の戦場で視線を潜り続けている錫華の傍らで常にサポートを担う彼女である。苦言の一個連隊程もため込んでいて不思議ではない。しかし、説教するにせよ、わざわざこの場に合わせた和服に着替える必要はあるのだろうか。確かに、戦闘服とはまた違った迫力があるのは事実ではあるが。
アミシアが放った一言によって、すっかり動揺した錫華の心中に浮かんでは消えていく思考。幻朧桜の合間から届く温かな風が、錫華の首筋にじんわりと浮かぶ冷や汗を撫でていく――。
「……冗談です。なにか簡単なもの用意しますから、場所取っておいてくださいね」
戦場においては常に冷静な主に対して、精神的な奇襲に成功したアミシアは、その相貌をわずかに崩すと、それを隠すように背を向け、足早に調理用具が準備された一角に向けて歩き始める。
「冗談、ね」
唐突な緊張から解放された錫華。呆然とアミシア言を繰り返すと、胸をなでおろす。
「ああ、でも……喜んでくれた。かな」
錫華はほっと笑みを浮かべながら、アミシアの後ろ姿を見送る。その視線の先にある彼女の足取りは、いつになく軽やかに見えた。
大成功
🔵🔵🔵
三辻・蒜
料理も飲み物も用意してくれるって、ティー凄いね
お腹空いてるし、何か丼物を味噌汁付きで欲しいけど、さすがに難しいかな?
住んでる近所の桜は葉っぱだけになっちゃったけど、幻朧桜は満開なんだ
魂を癒すって話だけど、これだけ綺麗な花なら当然の効果じゃないかな
暖かくなってくる季節の中で、少しずつ散っていく花弁とか、風情があるからお花見って良いよね
大人はお酒飲めれば何でも良いみたいなのも多いけど、そういうのは良くないと思うな
それはそれとして、食欲には正直に従うよ
こんなに色んな料理を食べられる機会なんて、次はいつになるか分からないからね
食べることは生きること、腹が減っては何とやら、だよ
●
神秘的と表現できる程の美しさを持つ幻朧桜が咲き誇る花見会場の一角。用意された座席に腰かけ、美しい花弁を眺める三辻・蒜は、ゆっくりと自らに近づく足音に首を向ける。
「料理も飲み物も用意してくれるって、ティー凄いね」
「ありがとうございます、三辻様。こちらも、ボクの本業でございますから」
足音の主は、彼女をこの場に送り届けた奉仕人形であった。以前のブリーフィングからは想像も出来ぬほど柔らかな口調で話すそれは、お料理のご希望はございますかと蒜に尋ねる。
「お腹空いてるし、何か丼物を味噌汁付きで欲しいけど……さすがに難しいかな?」
「丼物と、お味噌汁でございますね。承りました、少々お待ちくださいませ」
蒜のリクエストを変わらぬ笑顔で快諾した人形は、一礼すると調理用具が揃えられた一角へと足を向ける。その様を見送った蒜は、再び桜へと視線を向ける。
桜の季節からは些か外れた今日ではあるが、この丘陵には満開の桜花が咲きこぼれている。
陽光を受けて淡く輝き、麗らかな風と共に花びらが舞う様は、それ自体が一種の神秘として人々の魂を癒すのだろうと、蒜の感性は捉えていた。
春の訪れと共に咲き誇り、陽光の力が増すと共に移ろいゆく季節の流れに散る桜花は、万物の運命を端的に示すが故に格別の風情を感じさせる。
その有様を愛でる機会を飲酒の口実に矮小化するのは実に勿体ないことではないか。蒜の翠眼に映る幻朧桜は、その美しさをもって彼女の考えを肯定していた。
「お待たせいたしました、三辻様」
不意にかけられた声と香りによって、蒜の意識は形而下の世界に引き戻される。傍らに目を向けると、料理を乗せた盆を持つ奉仕人形が、先程と変わらぬ笑みと共に佇んでいた。
差し出された盆には三種の器。作りの良い焼き物の器と香物鉢、そして漆塗りの碗であった。
黒の器の中には、少し多めの酢飯の上に、赤身と白身とが丁寧に盛り付けられている。薄く醤油を纏い、白い米の上で艶のある身を晒す刺身は、器のシンプルな外観も相まって、視覚的な美しさと共に食欲を想起させる。
漆塗りの碗にはあおさを具とした味噌汁が控えめな湯気をたてて収まっている。碗の内側に塗られた赤漆が、あおさの鮮やかな色彩を引き立てている。
幻朧桜の美しさの影に隠れていた食欲が急激にその主張を強めていることを自覚した蒜は、己の欲求に素直に従うこととした。
礼もそこそこに箸を取ると、まずは海鮮丼を口に運ぶ。魚の新鮮さを如実に示す弾力のある触感と共に、醬油に彩られた魚のうまみと酢飯の香りが広がる。
良く噛みしめ、刺身を嚥下した後に味噌汁を含めば、丁寧に引かれた出汁とやや控えめな味噌の香りに引き立てられたあおさの風味が、舌を温めると同時に広がっていく。
小鉢に乗せられた香物が齎す酸味は、口の中に留まる丼物と味噌汁の塩味を中和し、味蕾を食前の状態に戻していく。
黙々と箸を進め、多めによそられた丼物と味噌汁を瞬く間に平らげた蒜の下に、芳ばしい香りを漂わせたほうじ茶が差し出される。
次は何をお作りしましょうか、と笑顔で誘惑とも問いかけともつかぬ言葉を発する奉仕人形。
食べることは生きること、腹が減っては何とやら。こんな機会は滅多にないのだ、蒜はいまだその旺盛さを発揮し続ける食欲に従うことにするのであった。
大成功
🔵🔵🔵
空亡・劔
この最強の大妖怪である空亡劔を差し置いての大異変とは生意気よ!
でもそれはそれとして最強の大妖怪だって美味しい物は食べたいわ
あのティーって奴が作るのか
しかし…あたしの最強の大妖怪である直感が凄くヤバそうな印象を受けるんだけど…気のせいかしらね
取り合えず拉麺をリクエストするわ
そうね…ティーの得意なのとか好きなのを作ってくれればいいわ
但しあたしは最強の大妖怪!この舌を唸らせるものを頼むわよ(偉そう
出された物はしっかりと食べて味についても食レポするわよ
後はのんびりと花を見ようかしら
そういえば朧桜とかいったかしら
此処なら骸魂も浄化されたりするのかしら
それならこれからのカクリョでもきっと必要になるわね
●
「この最強の大妖怪である空亡劔を差し置いての大異変とは生意気よ!」
大喝と共に花見の席に現れたるは、百鬼夜行との戦いにおいて、自ら称する大妖怪の名に違わぬ活躍を示している空亡・劔である。
数多の戦場において、文字通り八面六臂の戦果を挙げる彼女だからこそ、栄養補給は軽視すべからざる事項であった。
腹が減っては戦はできぬ。最強の大妖怪だって、美味しいものが食べたいのである。
そんな彼女にとって、降って沸いたる宴席を見逃す道理はなかった。
「しかし……最強の大妖怪であるあたしの直感が、凄くヤバそうな印象を受けるんだけど……気のせいかしらね」
料理の作り手である奉仕人形に対して、彼女の直感が言い知れぬ不気味さを囁いている点が些か気掛かりではあるが、一応は同じ猟兵である。
「取り合えず拉麺をリクエストするわ。味は……そうね、ティーの得意なのとか好きなのを作ってくれればいいわ」
他の猟兵の目もあるのだ、そう滅多なことは起こるまい。自らにそう言い聞かせた彼女は、気を取り直して人形にリクエストを飛ばす。
「但しあたしは最強の大妖怪! この舌を唸らせるものを頼むわよ」
「承知いたしました、空亡様。少々お待ちくださいませ」
劔のそこはかとなく大妖怪っぽい威厳と共に発せられた注文に対し、奉仕人形はいつもの笑顔で快諾する。
軽やかな足取りで調理スペースに引っ込んだ人形を待つこと暫し、食欲を誘う味噌の芳ばしい香りと共に、黒曜の焼き物らしき器を盆にのせた彼が再び姿を現す。
静かに置かれた器の中を覗けば、その香りが示す通り、白味噌タレを使用した味噌拉麺であった。
淡く白濁した琥珀色のスープに、小麦特有の鮮やかな黄金色を残した中太の縮れ麵。トッピングはやや厚めに切ったチャーシューとメンマ、半分に切られた半熟の卵に刻みネギが添えられ、褐色中心の色味に彩りを添えている。
美しい黒曜の器の内に丁寧に盛り付けられたそれらは、外観を見ればシンプルな味噌拉麺である。味噌と大蒜の芳ばしさの中にひっそりと忍ぶ生姜の涼やかさがスープの香りを引き締め、劔の食欲と唾液腺を刺激する。
「色味と香りは美味しそうね。それじゃあ、いただくわ」
箸を手に取り、ゆっくりと麺を口に運ぶ。スープが良く絡んだ縮れ麺を口に含むと、まず彼女の味蕾を刺激したのは鳥と野菜をベースとした白味噌スープの滋味であった。
味噌と大蒜による、香りを裏切らない芳ばしさと旨味が、あっさりとしたスープの土台の上でしっかりと引き立ったかと思えば、微かに広がる生姜の爽やかな刺激が全体の味を引き締め、口の中に塩味が無節操に広がることを抑制している。
コシのある麺をひと嚙みすることによって広がる小麦の甘さと香ばしさが、口の中でスープの風味と調和し、拉麺としての味を完成させていく。
縮れ麺の喉越しを楽しみながら嚥下すれば、後味として口の中に広がるは白味噌特有の優しい甘さと、微かな芳ばしさであった。
果たして自らを大妖怪と称する劔の舌は、一口でこれだけの情報量を正確に把握して見せたのである。
傍らで盆を胸に抱くようにして彼女の感想を待つ奉仕人形に対し、自らの舌が感じたままの評価を伝えれば、彼は笑みを深めて一礼し、調理場へと下がっていく。
人形が笑みを深めたその瞬間、劔が感じていた言い知れぬ違和感が強まった気がしないでもないが、眼前にある拉麺の味に比べれはその様な些事はどうでもよい事であった。
激しい戦闘によって不足しがちな塩分と糖分、そして精神的な安寧を料理によって補給し終えた劔は、心地よい満腹感と味の余韻に浸りながら、意識の外にあった幻朧桜へと視線を向ける。
「そういえば、幻朧桜とかいったかしら」
陽光を浴び、淡く光りながら咲きそろう桜花の美しさを愛でながら、彼女はふと思いを巡らす。仮に幻朧桜が魂を癒す神秘を持つならば、骸魂もまた浄化されるのではないかと。
「それならこれからのカクリヨでもきっと必要になるわね」
百鬼夜行との戦いは熾烈さを増す一方である。数多発生するであろう骸魂に幻朧桜の神秘が好い影響を与える事を祈りつつ、劔は暫しの安息に浸るのであった。
大成功
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チトセ・シロガネ
花見酒なんてシックな雰囲気ネ……。
盃を片手に桜を見上げる。
舞い散る花びら、そよぐ枝葉のざわめきを奏でる風に耳を傾ける。
第六感を通して感じるそれらの声を聞き取り、立ち上がる。
芸のリクエストかな……? それじゃあ、お応えしちゃおうカナ。
網膜に映し出されたUIにUC【フォクシィ・オーダー】発動の表示。
風の音に従い、早着替えで巫女服にチェンジし、鈴の音を響かせ、ダンスを踊り始める。
自身の軽業による緩やかなステップが続く、その動きはいわゆる神楽と呼ばれる古来からの踊り……と思われる。多分、メイビー。
その動きによるものなのかどうかは不明だが幻朧桜を活性化させ、周囲の空気を浄化して癒していく。
●
「花見酒なんてシックな雰囲気ネ……」
柔らかい陽光に淡く輝き、春風に舞う桜花。未だ闘争に満ちる数多の世界から隔絶され、安寧に満ちた場にあって、チトセ・シロガネは静かに漆塗りの盃を掲げる。
盃に注がれた清酒は、静かにさざめく水鏡となって幻朧桜の夢想的な美を孕む。
瞑目し、一つの美を閉じ込めた清酒を口に含めば、淡い口当たりと共に、米の豊潤さと酒精の爽やかさが絶妙に調和した味わいが味蕾を包む。
口腔から鼻腔へと抜ける淑やかな香りが周囲に満ちる桜花の香りと交じり合えば、名状し難い快感が、酒精がもたらす僅かな火照りと共にチトセの身体を包み込んでいく。
幻朧桜の神秘を嚥下し、その余韻を楽しむチトセ。彼女が眼を開くと同時に、一陣の風が彼女を囲むように靡き、薄く降り積もった花弁をわずかに巻き上げる。
「芸のリクエストかな……?」
チトセは微かに口元をほころばせると、おもむろに立ち上がる。形而上の世界に存在する彼女のもう一つの感覚は、幻朧桜の求めを正しく理解したのだった。
「それじゃあ、お応えしちゃおうカナ」
彼女の言葉と共に全身を光燐が包むこむ。一瞬周囲を覆った光が晴れると、そこには紅白の巫女装束に身を包んだチトセの姿があった。
幻朧桜のさざめきと共に、神楽鈴の清らかな音が周囲に響く。風の流れに導かれるまま、チトセはそのしなやかな四肢を伸ばす。
淡い蒼色の肢体が一定の拍子と流れで紡ぎ出す舞は、古来より受け継がれてきた神祇舞と能舞であった。
古今東西において、舞踊とは即ち神との対話を行うための儀礼である。流水の様に滑らかなチトセの所作一つ一つが、言葉を持たぬ幻朧桜を楽しませると共に、彼女と彼女の護るべき数多の命から発せられる願いを伝えていく。
神楽鈴が響き、心地よい風が彼女の周囲を駆ける。時に穏やかに、時に激しく、桜花が虚空を舞う。
もしこの場に余人があれば、幻朧桜が風を介してチトセとの舞を楽しんでいる様を目にしたことだろう。
最後の鈴声が響き、チトセと幻朧桜との舞が終わりを迎える。
幻朧桜はその葉をさざめかせ、彼女に歓びと称賛を贈ると、その身に宿る神秘を活性化させる。
チトセの舞によってより神気を増した幻朧桜は、その浄化の力を未だ戦いの続く幽世全体へと送り届けるのであった。
大成功
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