大祓百鬼夜行⑤〜連ね鳥居の一本足
●唐傘×逆鱗
カクリヨファンタズム最深層に通じる道の一つ。
その名を『竜神の霊山』という。名を知れど、歩む道を違えれば、永遠にたどり着くことのできぬ場所である。
赤い鳥居が数千にも連なり、その道筋を知らしている。
しかし、ぐねぐねと曲がりくねった道は遠回りであり、すぐそこに見えている霊山を目指すにはあまりにも長い道のりとなってしまう。
「だからと言って近道をしようとするのならば、絶対にたどり着くことはできない傘~」
「赤い鳥居は道標。良い子が道に迷わぬようにとご丁寧にたてられた道標傘~」
「入道雲の気配がしたのならば、すぐにおうちに変える傘~」
「通り雨に濡れてしまっても泣いたりしてはいけない。行くも帰るも必ず赤い鳥居を潜って帰るんだ。そうしなければ、永遠に迷ってしまうから傘~」
そんな声が『連ね鳥居』のあちこちから響き渡る。
赤い鳥居のあちこちから、ひょこりと顔を出しているのはオブリビオン妖怪『唐傘お化け』たちであった。
彼等は無数の骸魂と敢えて合体した存在である。
『大祓骸魂』の『大祓百鬼夜行』として連なり、さらにはこの霊山の霊力を取り込んで『ドラゴン化』しているのだ。
その力は強大そのものである。
「わっちらの霊力は霊山のもの傘~」
「竜になりしわっちらの体は無敵傘~。けど」
「逆鱗を攻撃されてしまうと一撃でやられてしまう傘~」
しかし、彼等は全部言ってしまっていた。
自分たちの弱点も、『連ね鳥居』の特性も。
黙っていれば、猟兵相手に優位に動くことだってできたはずなのに。それはきっと敢えて骸魂と合体した妖怪たちの覚悟が紡いだ言葉であったのかも知れない。
それはまるで嘗てUDCアースに在りて、子供らを夕暮れの道で迷わず家路につけるようにと脅かす心優しいやり方とそっくりであった。
あの日の思い出は今も彼等の中にある。
例え、彼等が忘れ去られてしまったのだとしても、あの日の夕暮れが落とす影が彼等の心を今もなお生かし続けている。
あの日の夕暮れも、あの日の夕立も、きっといつかの誰かの未来につながっていると理解できるからこそ、妖怪たちは自らの生命さえも投げ打つことをためらわないのだ――。
●大祓百鬼夜行
グリモアベースへと集まってきた猟兵達に頭を下げて出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)であった。
「お集まりいただきありがとうございます。今回の事件は、カクリヨファンタズム最深層、『竜神の霊山』へと至る道にて待ち受けるオブリビオン妖怪たちとの戦いになります」
彼女が伝える『竜神の霊山』。
そこは数千にも及ぶ『連ね鳥居』が立ち並ぶ道である。曲がりくねった『連ね鳥居』を如何に素早く走り抜け、『竜神の霊山』に至らなければならない。
「しかし、この『連ね鳥居』の外に一歩でも出てしまうと、どうあっても『竜神の霊山』へと至ることはできないのです」
そう、『連ね鳥居』は道標なのだ。
この外に出た瞬間に絶対に迷ってしまう作りになっているようで、霊山が見えるからと言って近道をしようとすれば、それこそ永遠にさまよう事になってしまうだろう。
「遠回りこそが近道とは良く言ったものです。さらにはこの地の霊力を取り込んだオブリビオン妖怪『唐傘お化け』は『ドラゴン化』しており、非常に強力なオブリビオン妖怪へと変貌しています」
その『ドラゴン化』した『唐傘お化け』は鳥居のあちこちから集まってきて、猟兵たちの進路を妨害するだろう。
そうなってしまえば、さらに『竜神の霊力』へと至ることは遅れてしまう。
「しかし、『ドラゴン化』していると言っても『逆鱗』さえ攻撃してしまえば、一撃で打倒できるのです。骸魂との合体が解除されてしまうからです」
なるほど。
まともに戦っていては苦戦を強いられてしまう。けれど『逆鱗』さえ破壊すれば一撃で打倒できるというわけなのだ。
これを狙わない手はないだろう。
して、その『逆鱗』の場所は……とナイアルテを猟兵達は見た。
なんで恥ずかしそうな顔をしているの。
「……その、『逆鱗』の場所は……」
まごまごもごもご。
猟兵達は彼女の態度に訝しむ表情になっただろう。何をためらっているのだろうか。そうしていると、ナイアルテはええい、と思い切って言葉を紡ぐのだ。
「『逆鱗』の場所は……!」
で、どこなの?
「『唐傘お化け』さんの傘の中の足の何処かですッ!」
何故か自身のタイトスカートを抑えている。いや、誰もめくらんて。彼女の羞恥のポイントがよくわからないまま猟兵達は見送られ、次々と『連ね鳥居』を駆け抜けるべく転移するのだった――。
海鶴
マスターの海鶴です。
※これは1章構成の『大祓百鬼夜行』の戦争シナリオとなります。
『竜神の霊山』へと至るために数千にも及ぶ『連ね鳥居』の中を走り抜けなければなりません。
ですが、この霊山の霊力を取り込んで『ドラゴン化』したオブリビオン妖怪『唐傘お化け』が皆さんの道を阻んでいます。
彼等は非常に強力なオブリビオン妖怪へと変貌していますが、傘の中の足のどこかにある『逆鱗』に一撃を加えれば簡単に骸魂との合体が解除されます。
『連ね鳥居』の外には出てはならず、素早く無数のオブリビオン妖怪『唐傘お化け』を打倒し、駆け抜けるシナリオになります。
※このシナリオには特別なプレイングボーナスがあります。これに基づく行動をすると有利になります。
プレイングボーナス……連ね鳥居の中で戦い、敵の逆鱗を攻撃する。
それでは、大祓百鬼夜行を阻止する皆さんの物語の一片となれますよう、いっぱいがんばります!
第1章 集団戦
『唐傘お化け』
|
POW : 良い子は帰る時間
【夕暮れの郷愁】を放ち、レベルm半径内の指定した対象全てを「対象の棲家」に転移する。転移を拒否するとダメージ。
SPD : 入道雲の気配
【目線】を向けた対象に、【局所的な豪雨】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : 帰り際の通り雨
【夕立】を降らせる事で、戦場全体が【夕暮れ】と同じ環境に変化する。[夕暮れ]に適応した者の行動成功率が上昇する。
イラスト:とのと
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
夜鳥・藍
唐傘お化けさんがドラゴン化、エリマキトカゲみたいになったんでしょうか?
いえ、姿形が変わったとは限らない。体表が硬質化してるかもしれないし、火を吐くかもしれない。気を抜かず行きましょう。
……ええ一番の問題は傘を剥がさないと逆鱗が見つけられないかもしれない事ですから。
複製した神器鳴神、複雑に操作しこれらで目線を私に向けさせないようにします。そして傘の部分を少しずつでも剥ぐと言いますか、破くと言いますか。素足なのでどうにも抵抗がありますが、顔があるのであれは仮面だと自分に言い聞かせて。
鳴神の攻撃の合間に私はなるべく気配を隠し、逆鱗の位置を探します。場所を確定出来たらそと近づき青月で一突きします。
『ドラゴン化』。
それは一概に言っても、『竜神の霊山』から得た霊力が如何なる変化をもたらしたのかはわからない。
『連ね鳥居』のあちこちに隠れ潜むオブリビオン妖怪『唐傘お化け』たちは、一見すると『ドラゴン化』という言葉から程遠い姿であった。
「唐傘お化けさんがドラゴン化……エリマキトカゲみたいになったのでしょうか?」
そんな風に想像を膨らませてきた夜鳥・藍(kyanos・f32891)にとっては、やや残念な結果になってしまったようであるが、それはそれである。
姿形は変わらず、けれど得た霊力に寄って普段よりもさらに強力なオブリビオン妖怪となった『唐傘お化け』たちの視線が生み出すユーベルコードの局所的な豪雨は猟兵達にとっても脅威そのものである。
「……姿形が変わっていない。ならば、体表が硬質化しているのかもしれないし、日を噴くかもしれない」
どちらにせよ油断は禁物である。
藍は気を抜かずに『連ね鳥居』の中を走る。なにはともあれ、この『連ね鳥居』を全てくぐらなければ『竜神の霊山』へと至ることはできないのだ。
この道を行くことこそが四人の親分へと至る道へとつながっているのだから。
「まずは……意識を私に向けさせないようにしなければ」
手にした黒い三鈷剣をユーベルコードによって複製し、それらを全て念力でバラバラに操作し、宙を舞わすのだ。
それは無数の黒い三鈷剣。
「んん? なんだこれ。剣が空を飛んでる傘~」
『唐傘お化け』たちの視線は宙を舞う黒い三鈷剣に釘付けである。しかし、それで終わるわけがない。
放たれた黒い三鈷剣が次々と雷鳴(ブロンテス)のように電光石火の如く『唐傘お化け』たちの傘を削ぐように刻んでいくのだ。
「傘~!? な、なにをする傘~!?」
黄色い悲鳴……いや、黄色い? かどうかはさておいて、『唐傘お化け』たちは神器によって刻まれ、素足を晒す。
そう、これは仕方のないことなのだ。
彼等の弱点である『逆鱗』。
そこを探すためには『唐傘お化け』たちの傘の部分に隠れた素足をさらけ出さなければならない。
やっていることはなんだかなという抵抗が藍にもあったが、仕方のないことなのだと自分に言い聞かせて神器を操作し、次々と『逆鱗』を見つけ出し、彼女は青白い光を放つ打刀を走らせる。
「ものすごいことになっていますが、少しの間の我慢です。不意打ち、傘を剥ぎ取ったことはおわびしますが……!」
走る青い雷光のような斬撃が『唐傘お化け』たちの『逆鱗』を突き、次々と骸魂と妖怪の合体を解除していく。
「……なんとも言い難い気分ですが、まだまだ『竜神の霊山』へと至るためには遠いようですね……」
遠回りこそが近道。
言葉で言うのは容易いが、やってのけるのは容易ではない。しかし、近道をしようと横着をすれば、さらなる時間だけが浪費されてしまう。
『大祓百鬼夜行』――この大きな戦いを制するためには、時には遠回りこそしなければならない。
藍は電光石火の太刀さばきで、次々と『唐傘お化け』たちを骸魂から開放し、数千本にも及ぶ『連ね鳥居』を疾駆するのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
鈴久名・紡
傘の中がどうなっているのか
気になってきてしまった……
存在証明を使用し子供の姿に変身
オーラ防御を纏った状態で接近
竜神さまに用があって訪れた子供を装う
引っ掛かってくれれば良いが
まぁ、引っ掛からなくてもいい
彼らの思い出を利用するようで少し申し訳なさもあるが
助けるためだから、うん……
天候操作で雷を呼ぼう
雷の音や閃光に怯えたフリで、近くの足にしがみき
そのまま、傘を怪力に任せて力ずくで開く
同時に素早く逆鱗を探して破壊
手間取るようなら他の唐傘の目線を
傘に受けて貰い、その隙に探し出した逆鱗を破壊
以降は天候操作で強風を呼んで
豪雨を吹き飛ばしながら他の唐傘も力業で逆鱗を破壊していく
しかし、犯罪者の気分だな、これは
『竜神の霊山』へと至る『連ね鳥居』の空に入道雲の気配がする。
何処からともなく雨がやってくるのだろうと、鈴久名・紡(境界・f27962)は肌で感じていた。
突然の夕立。
夕暮れに煙る雨の粒。
そういう時に決まって現れる妖怪たちがいる。
それは『唐傘お化け』。傘の一本足をぴょんと跳ねさせ、飛んでやってくる。早くお家におかえり。
彼等はいつだって幼子を脅かすだけ。雨が降る前に、ずぶ濡れになってしまう前に、暗くなってしまう前に。
「傘の中がどうなっているのか、気になってきてしまった……」
グリモア猟兵が告げる『逆鱗』の位置。
それが『唐傘お化け』の傘の中にある足の何処かにあるという情報を得た、鈴久名・紡(境界・f27962)はどうにも、もやもやした気持ちを払拭できずに居た。
しかし、悩んでも考えても答えは出ない。
ならばどうするか。そう答えは決まっている。存在証明(ソンザイショウメイ)……それは結局己の瞳で見たものしか理解できぬならば、今の紡の姿は幼少期の自分自身と変わる。
それは彼自身を構成する記憶の一部であったろうし、幼子であれば『唐傘お化け』たちの傘の中を下から除くことだってできるだろう。
「傘傘傘~おっ、こんなところに子供が一人で来るとは何用傘~?」
「ここは迷いやすいから、絶対に鳥居の外に出てはいかん傘~」
どこからともなく『唐傘お化け』たちが寄ってくる。
正直、彼等の思い出を利用しているようで申し訳無さもあるが、紡とて猟兵である。
彼等の『逆鱗』の位置を見極め、すぐにでも彼等を骸魂から解放させなければならないのだ。
そう、助けるためなのだと紡は誰に言うでもなく自分に言い聞かせ、とことこと『唐傘お化け』たちへと寄っていく。
「竜神様に用があって訪れた。この道であってるだろうか」
自分の姿が幼少期のものであることを利用して、『唐傘お化け』たちに尋ねる。
「あってる傘~でも、鳥居の外に出ては危ないし、急に雨が振ってくるといか……と言ってる傍から雷傘~こっちにおいで、雨宿りをしていくといい傘」
そういって『唐傘お化け』たちが傘を広げる。
いや、マジでどうなってるんだ、と思っていた『唐傘お化け』たちの傘の中身は、普通の傘と変わらない。
いや、傘の持ち手が足になっているというだけなのだが、即座に『逆鱗』が分かる。
確かに傘を広げなければわからない。
しかし、それ以上に罪悪感が紡を襲う。
なんだかとても悪いことをしているようにさえ思うのだ。
何故なら、突然の雷は竜神である紡が天候操作をしたせいである。騙しているようで大変申し訳ない。
「ありがとう……しかし」
一瞬で鬼棍棒を振るい、『唐傘お化け』の『逆鱗』を打ち据える。
たった一撃を加えるだけで『唐傘お化け』たちは骸魂と妖怪に分離してしまうのだ。
「犯罪者の気分だな、これは」
無理矢理に強風を呼び起こし、次々と現れる『唐傘お化け』たちの傘を広げさせるのだ。
すでに『逆鱗』の位置は把握済みである。
ならば、あとはそこを叩くだけでいい。紡にとっては、イージーな作業でしかないが、それでも彼等の思い出と良心を逆手にとったやり方に紡はどうしても罪悪感を抱かずには居られない。
「だが、それでもあんたたちの思い出は失われてはならないんだ。許せとは言わないが、せめてこれからも生きてくれ。あの日の思い出のために」
紡は走る。
雨の中を、風の中を。
いつかの幼き日に、こんな日もあったかもしれない。
心優しい妖怪たちとの思い出。
傘のない子に傘を差し伸べるように、帰り道を迷わぬようにと危ない道を遮るように。
そんな優しい彼等のためにこそ、紡は急ぎ『大祓百鬼夜行』を終わらせねばならぬと決意し、『連ね鳥居』をひた走るのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友。
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
武器:漆黒風、陰海月
…傘も竜になるんですねー。
ええと、陰海月が先行してるんですよねー。
夕暮れは悪霊の時間でもありますし、夕立は陰海月にちょうどよく。
陰海月に興味をもったら、指定UC発動させましてー。漆黒風も陰海月(分類:武器)も、雨弾き結界を纏った鬼蓮の花弁になりますー。
驚いたついでに、逆鱗が見えればよくてー、見えなくても隙間に入りこませますねー。
…駆け抜けますかー。悪霊が脅かすのも、たまにはいいでしょう?
※陰海月、花弁になるのは初めて。なにげに楽しむ。
「ぷっきゅう」
数千本にも及ぶ『連ね鳥居』の道は見上げるだけで荘厳でありながら、どこか妖しげな雰囲気を醸し出していたことだろう。
それが『虞』であるというのならば、『竜神の霊山』へと至る道となるのもまたうなずけるものである。
一歩鳥居の外に出れば、すぐさま正しい道はわからなくなり、永遠に迷い続けることだろう。
この赤い鳥居は間違いなく『竜神の霊山』へと至るための道標でもあったのだ。
「ぷっきゅう」
奇妙な鳴き声と共にふわりふわりと浮かんで飛ぶ海月……『陰海月』が鳥居の中を行く。
それは、普段んは馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の陰に潜んでいる生物であり、今回は彼等に先立って先行してもらっているのだ。
夕暮れは宵闇時。
言うまでもなく妖怪たちの時間である。
ならばこそ、『唐傘お化け』たちが紡ぐ夕暮れの時間に適応できるというものである。
「傘傘傘。どうした傘? 迷子傘?」
早速、『唐傘お化け』たちが一本足を跳ねさせて、鳥居の間からやってくる。
『陰海月』の様子に迷子になってしまったのではないかと心配してやってくる姿は、骸魂と合体した後であっても、本来の妖怪としての思いを忘れることがないようでもあった。
ばさばさ唐傘の裾を広げるように『陰海月』の周囲に飛ぶ彼等は、まるで幼子を脅かすようでもあったが、同時に慰めるようでも在ったのだ。
夕立が振り出し、ずぶ濡れになってはいけないと傘を広げて『陰海月』を中に入れてくれる姿は、なんとも微笑ましいものであった。
本当に敵なのかと疑うものであったけれど、それでも四柱の一柱である『疾き者』は己のユーベルコード、四天境地・風(シテンキョウチ・カゼ)によって、『陰海月』を鬼蓮の花弁へと変えるのだ。
「傘も竜になるとは……ですが、これでよくわかります」
花弁となった『陰海月』に驚きふためく『唐傘お化け』たちを他所に『疾き者』は見定める。
夕立に濡れぬようにと広げた傘の中、その持ち手であろう一本足の付け根に『逆鱗』があるのを確かに見たのだ。
花弁が舞い散る中、それらを操作し、一瞬で『逆鱗』を貫き、妖怪と骸魂の合体を解除させ、『疾き者』は駆け抜ける。
「傘!? 何傘!? え、どうなってる傘? さっきのあの子はどうなった傘~!?」
最後の最後まで誰かのことを心配する姿はオブリビオン妖怪としてはどうなのだろうと思わないでもなかったが、『疾き者』は走る。
「さあ、どうなったのでしょうー? とは言いませんが、悪霊が脅かすのも、たまにはいいでしょう?」
花弁になるのは初めてであった『陰海月』の楽しげな声が響く。
それを聞いて初めて『唐傘お化け』たちは自分たちが化かされていることに気がつく。
そう、最初から『唐傘お化け』たちの弱点である『逆鱗』を識るための術策だったのだ。
ならばこそ、彼等は憤慨しても仕方のないことであったが……。
「なぁんだ、それなら良い傘~てっきり鳥居の外に出てしまったのかと思った傘~……って、海月が鬼蓮の花弁になるってどういう原理傘!?」
今其処なんだ、と『疾き者』は思ったが、驚きのままにやられてしまうのもまた仕方のないこと。
だって隙だらけなのだ。
一瞬の交錯で『逆鱗』を一撃で切り裂き、『疾き者』は彼等を追い抜いて、『連ね鳥居』を走り抜けていく。
「あなた方の思い出は、きっと忘れがたいものなのでしょう。『陰海月』もまたあなた方を忘れない。それがいつか良い結果に結びつくことを祈りましょう」
ぷっきゅい、と鳴く声が鬼蓮の花弁から聞こえる。
良い経験をさせられただろうか、などと考えるのは子を持つ親のような気分であったことだろう。
それを少し面映ゆく感じながら『疾き者』は次々と『連ね鳥居』の中を走り抜けていくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
連ね鳥居か。伏見稲荷様を思い出すわね。よし、行きましょうか。
一人で登るのも味気ないから、アヤメ、付いてきて。
万一鳥居を外れたらどうなるか、黒鴉の式を一羽飛ばして確かめてみよう。
唐傘お化けたちが集まってきたら、「結界術」「仙術」「道術」風の「属性攻撃」「範囲攻撃」「弾幕」の風吼陣。
少しアレンジして、足下から暴風を吹き上げさせて、傘を逆開きにしてあげる。そこへ剣の嵐。
これで済むなら、逆開きにする必要もなかった気がするわね。
万一陣を抜けてきた唐傘お化けがいたら、アヤメに任せる。
皆、大丈夫かしらね? あたしの十絶陣は手加減難しいから。無事に骸魂を祓って、元の妖怪に戻れてたらいいんだけど。
『連ね鳥居』は道標である。
『竜神の霊山』と呼ばれるカクリヨファンタズム最深層へと至るための道程であり、鳥居を必ずくぐらねばたどり着くことはできない。
それが如何なることであるかを識るために黒鴉の式神が鳥居の端から飛び出して、最短距離で『竜神の霊山』へと至ろうとする。
しかし、空を飛んでいるはずなのに、一向に『竜神の霊山』との距離は縮まることはない。
それどころか、まるで延々と彷徨うような気持ちの悪い感覚が襲ってくる。
必ず迷うように作られているというのは、空をとんでも、地を走ったとしても一緒のことなのだろう。
「万一、鳥居の外に出てしまったらこうなるってわけね」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》/黒鴉遣い・f01658)は年のために黒鴉の式神でもって、鳥居の外がどうなっているのかを確認して頭を振った。
未だに視界がぐらつくような気持ちの悪さがあるが、今は先に進むことを優先しなければならない。
「一人で進むのも味気ないわね」
『連ね鳥居』の延々と続く光景は、彼女の記憶の中にある伏見稲荷を思い出す。
せっかくならばと呼び出した式神アヤメと共にお参りするようなほうがいいだろう。
しかし、ただ進むだけではないのが『大祓百鬼夜行』の一筋縄ではいかぬところであろう。
「ともあれ、オブリビオン妖怪が現れるのは当然ですね」
二人の前に鳥居の端から顔を出したのは『唐傘お化け』たちであった。
骸魂と合体した彼等は霊山の霊力を得て『ドラゴン化』している。
強敵と言っていい力を得た彼等を打倒するのは正攻法では難しいだろう。けれど、グリモア猟兵から得た情報がある。
そう、『逆鱗』だ。
其処さえ叩けば一撃で『唐傘お化け』たちは骸魂との合体を解除され、妖怪と骸魂に分かれてしまうのだ。
「問題は『逆鱗』の位置ってわけね……けど、多少のアレンジを加えれば――!古の絶陣の一を、我ここに呼び覚まさん。天上までも響き渡る破壊の風よ。その身に宿せし無限の剣刃により触れるもの悉くを裁断せよ。疾!」
詠唱の言葉とともに生まれるのは周囲を巻き込む無数の刃と共に走る暴風であった。
それこそがユーベルコード、風吼陣(フウコウジン)である。
彼女の生み出した暴風が足元を舐めあげるように『唐傘お化け』たちの傘の部分をめくりあげ、その一本足をさらけ出すのだ。
「風、風がっ、強い傘~!?」
「ああ、骨が折れちゃう傘! これじゃ傘の面目を保てない傘~!」
次々に悲鳴を上げて逆開きになった『唐傘お化け』たちは涙目である。あ~あ、そんな暴風が吹き荒れる中を外出するから……みたいな雰囲気で彼等の『逆鱗』の位置がわかる。
まあ、傘が逆に開いているわけだから丸わかりであろうが、しかし、なんとも言い難い光景である。
一本足に傘がついたような奇妙な姿。
そこに現れる『逆鱗』は良い的でしかなかったのだ。
「これだけで済むなら、別に逆開きになるまでまくりあげなくってよかったかもしれないわね」
「でも、簡単です、これで!」
二人は次々と吹き荒れる刃と手にしたクナイで『唐傘お化け』たちの『逆鱗』を切り裂き、妖怪と骸魂の合体を解除していくのだ。
それは疾風のように瞬く間に為され、彼女たちの行く手を阻んでいたオブリビオン妖怪たちの姿を一掃させるのだ。
「皆、大丈夫かしらね?」
ゆかりは自身のユーベルコードが加減の利かぬものであることを自覚しているからこそ、彼等の身を案じた。
「大丈夫みたいですよ。みんな気絶しているだけみたいですから」
アヤメが妖怪たちの安否を確認して、二人は再び『連ね鳥居』を走る。
目指す『竜神の霊山』はまだ遠い。
けれど、二人ならば何の問題もない。少し早いお参りだと思えば、足取りだって軽い。
再び襲いくるオブリビオン妖怪たちを二人で蹴散らしながら、意気揚々と駆け上がっていくのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
姫川・芙美子
千本鳥居は胎内回帰の象徴。人間でない私がどこか懐かしさを覚えるのは、忌み子の妖怪だからでしょうか。
【隠れ鬼】。鬼達の【怪力】で傘達を掴んで動けなくして貰います。
忌み子である私に棲家はありません。今立っているここが私の唯一の居場所です。
子供ならお腹が空いたらお家に帰りたくなるのでしょうね。でも、私は感情を食べる妖怪。人間が幸せなら私もお腹がいっぱいになって幸せなのです。だから私は前に進まないと。
「鬼髪」の【封印を解き】【武器改造】【範囲攻撃】。髪の毛1本1本が目と牙を持つ蛇と化し、伸び蠢いて傘達の内に潜り込む。髪の目で逆鱗を探し食い破ります。
色々と心配してくれてありがとう。
じゃ、行ってきます。
夕暮れに染まる『連ね鳥居』の朱色はどこまでも続いていくようだった。
『竜神の霊山』へと繋がるこの道は一本道であるが、鳥居の外に一歩でも出てしまえば、迷いたどり着くことはない。
この『連ね鳥居』は道標なのだ。
決して迷わぬように。
家路も、辿るべき道行も。
そう願われるような道を見て、千本鳥居に郷愁を覚えたのは姫川・芙美子(鬼子・f28908)であった。
「人間ではない私がどこか懐かしさを覚えるのは、忌み子の妖怪だからでしょうか……」
彼女は妖怪である。
『産怪』――正体不明の妖怪であれど、生まれ落ちる。
その出生が如何なるものであってもオブリビオン妖怪『唐傘お化け』たちにとっては、あまり関係のないことであったのかも知れない。
鳥居のあちこちから顔をのぞかせ、夕暮れと共に帰ろうと呼びかけるように、一本足で近寄ってくるのだ。
「帰ろう。家路がわからないのであれば、一緒に行こう傘」
「迷ってしまったのならば、わっちらが教えてあげよう傘~」
「こっち傘~こっちこっち」
そんな風に郷愁を誘う言葉を紡ぐ。
それは彼等が猟兵を脅かそうとしているのではなく、骸魂と合体した妖怪たちの本質であったのかもしれない。
「忌み子である私に棲家はありません。今立っているここが私の唯一の居場所です」
正義の味方として。
彼女の心を襲う強迫観念のような思いが、彼女の足を突き動かすのだ。
一定の棲家なんていらない。ただ、そこに居ていいという居場所が欲しいのだ。自分が正義の味方であるという証明。
すなわち、オブリビオン妖怪を打倒するという今此処こそが、彼女の棲家そのものである。
「迷わないのならば、それは良いこと傘~」
「でも寂しくはない傘?」
「誰かと一緒にいたいと思わない傘? きっとそれは寂しいこと傘」
彼等の言葉は本質的に優しさからであったのだろう。
けれど、芙美子はかぶりを振って走る。
「隠れ鬼(カクレオニ)――もういいよ」
文子のユーベルコードによって、空間に隠れた見えない鬼たちが『唐傘お化け』たちへと迫り、彼等の足を掴んで固定する。
「子供ならお腹が空いたらお家に帰りたくなるのでしょうね。でも、私は感情を食べる妖怪」
そう、人間の感情があれば、助けて感謝してくれる時に生まれる感情こそが彼女の食べ物である。
それだけあればい。
他のなにもいらないのだ。だから、芙美子は戦うのだ。
彼等は心配してくれているのだろう。だからこそ、芙美子は鬼髪の封印をとき、髪の毛一本一本を目と牙を持つ蛇へと変化させ、宙を走りうごめくように見えぬ鬼たちによって固定された『唐傘お化け』の傘の中へと潜り込み、『逆鱗』の位置を確認するのだ。
「けれど、人間が幸せなら私もお腹がいっぱいになって幸せなのです。だから」
だから、私は前に進まないといけないのだと、芙美子は一斉に『唐傘お化け』の足にある『逆鱗』を変化させた蛇の牙で一気に砕くのだ。
骸魂と妖怪たちが合体を解除され、ぽてんと気絶するように落ちていく。
彼等の言葉は確かに猟兵の郷愁を誘うものであったのかもしれない。
打算があったのかもしれないし、それが戦術であったのかもしれない。
だが、それでも芙美子にとっては嬉しいことであった。
「色々と心配してくれてありがとう。じゃ、行ってきます」
二つの世界を救うために己の生命を顧みることなく、骸魂と敢えて合体した妖怪たちに芙美子は頭を下げて、『竜神の霊山』を目指して走る。
彼等は気絶しているから、自分の言葉は届かないだろう。
けれど今、芙美子のお腹を満たす感情の名を知っている。
「ごちそうさま。とても、とても――」
そう、とても美味しい感情だった。
嬉しいと感じる感情が湧き上がり、芙美子の足をさらに走らせる。この感情が強迫観念を加速させるなどとは思わないだろう。
だって、そう。
彼女のお腹には今、暖かないっぱいの『ありがとう』が満たされているのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
薙殻字・壽綯
走るのは、好きです。駆け抜ける為にも……えっ傘の中って、足の何処かって、え、え……や、やりづらい……!
そりゃ、弱点はそういうものだと思うけどこれは、なんだその。……やるしかないけど、目が泳ぎます、ね
えっと、失礼します。本当に失礼します。すみません、グラップルで組付を行い、力技で無理矢理傘をこじ開けます
……逃しません。自身に弾薬を打ち込んで逃亡阻止を。いや本当に申し訳ない、こんなに美しい夕暮れの中、このような暴行をして大変申し訳ないのですが……!!
げ、逆鱗の場所をお教えください!! これは、脅迫です……痛みは、一瞬ですから。抵抗するならば乱暴します、よ……どうか、私をお怨ください……っ失礼!!!
自分の心臓が高鳴るのを覚えている。
いつかも同じように走っていた。足の筋肉が躍動し、己の体を前に前にと押し出していく。腕が風を切り、頬を撫でてていく。
体は熱を持って、風が冷ますように。
けれど、いつまでたっても己の熱はどこまでも上がっていく。
吹き出す汗も流れて、頬を伝う。
それが心地よいと思ったし、好きだと思った。
薙殻字・壽綯(物書きだった・f23709)は、走るのが好きだ。『竜神の霊山』へと至るために『連ね鳥居』の仲を走り抜けていく。
それは『大祓百鬼夜行』を勝つために必要な行為であったけれど、どこかいつかの自分を思い出さずには居られないだろう。
しかし、駆け抜けるだけでは戦いは終わらない。
この『連ね鳥居』の中には霊山の霊力を得てドラゴン化した強力なオブリビオン妖怪『唐傘お化け』が潜んでいるのだ。
「鳥居の中は走っちゃだめ傘~!」
「そう傘! もっとじっくり見て回らないと傘~!」
そんな風に一本足で跳ねてくる『唐傘お化け』たち。
彼等を見て、壽綯は一瞬たじろいだ。
別に彼等の姿に忌避感を覚えたわけではない。
そう、彼等は強力なオブリビオン妖怪である。けれど、『逆鱗』さえ捉えることができれば、一撃で骸魂と妖怪の合体を解除できるのだ。
ただ、その位置が問題だったのだ。
「えっと、失礼します。本当に失礼します。すみません」
言葉は丁寧であったけれど、『唐傘お化け』に組み付く壽綯は、美しい夕暮れ時の光景にはあまりにも似つかわしいものであったことだろう。
組み付き、力技で『唐傘お化け』たちの傘をめくりあげて、足にある『逆鱗』の場所を見つけては、砕くのだ。
「乱暴はやめて傘~!?」
「ひぇ~!」
とてもやりづらい。絵面がものすごく悪い。
そりゃ、弱点とはそういうものであるとは思っているけれど。それでも、なんて言えばいいのだろうか。
こう、目が泳いでしまうのは仕方のないことであったのかもしれない。グリモア猟兵が転移前に余計なことを言ったせいかもしれない。いやほんとまじで。
「やべー傘! 逃げる傘ー!」
そんな壽綯の行いに『唐傘お化け』たちは逃げていく。
だが、逃してはならない。彼等だって妖怪と合体した存在である。骸魂と合体した妖怪たちは己の意志で合体したのだ。
『大祓骸魂』を打倒するために敢えて彼女の軍門に勇気と覚悟でもって下った彼等を野放しになんてできない。
彼のその思いが今現在のものすごい、なんていうか、アレな絵面を生み出していることは皮肉であった。
「痛みは一瞬です」
いや、そういう意味ではないと誰もが思っただろう。
Kiss it better(イタイノイタイノトンデイケ)。いやそういうことじゃなく。ユーベルコードによって、自身の医療道具から発射された弾丸でもって壽綯は己の身体を強化し、逃げる『唐傘お化け』たちをとっ捕まえていくのだ。
「げ、逆鱗の場所を教えて下さい!! これは、脅迫です……痛みは一瞬ですから」
抵抗するなら乱暴しますよ、と慣れぬことをしていることが丸わかりな態度で『唐傘お化け』たちを脅すのだ。
脅し慣れていないせいもあるけれど、『唐傘お化け』たちにとって、それはあまりにも恐ろしいことであったことだろう。
「い、いのちだけはお助け傘~!」
そんな目で見ないで欲しい。
ものすごく悪い事をしているような気がするのだ。
「どうか、私をお怨みください……っ失礼!!!」
がばー!
擬音であるのはせめてもの配慮である。
傘を引っ剥がし、一本足に生まれた『逆鱗』の位置を確認し、医療道具である機関銃の銃口を突きつけ、打ち込んでいく。
ただの一撃で合体が解除されるのがありがたい。
ものすごい罪悪感を感じながら、壽綯は美しい夕暮れの中、『唐傘お化け』たちを追いかけ回し、徐々に『竜神の霊山』へと近づいていく。
「ああ、どこか汚れ仕事をしてしまったような気がします……ッ!」
本当にね――!
大成功
🔵🔵🔵
董・白
※アドリブや他猟兵との連携OKです。
【心境】
「う~ん。傘が竜になる時代。まさに不思議…。」
鳥居の中から出ないように注意が必要なのですね。
いつもと少し工夫が必要ですね。
【行動】
例えドラゴンと化しても傘は傘。
傘のプライドが残ってるなら傘の本能が傘であるはずです。
何言ってるのかわかりませんけど、言いたいことはつまりあなた達は傘なのです。
宝貝「太極符印」を使用します。
周囲の元素を操作し、水の大風を吹かせます。雨です梅雨です。傘が雨にやることは一つ、さすことだけです。
あ、私は道術による結界術で水を防ぎます。ごめんなさい私合羽派なんです。
その隙に破魔の霊符を開いた傘の中にある逆鱗に投げつけます。
『竜神の霊山』から得た霊力の凄まじさは言うまでもない。
オブリビオン妖怪たちは、その霊力でもって『ドラゴン化』するのである。別に特に変わっている様子はないけれど、その身に宿した霊力に寄って強化されていることは違いない。
それは無数に存在する『唐傘お化け』たちとの相性は最高である。
猟兵達はカクリヨファンタズム最深層である『竜神の霊山』へと至るために急ぎ、『連ね鳥居』を駆け抜けねばならないのだ。
しかし、すぐそこに『竜神の霊山』は見えているのに、遠回りするように『連ね鳥居』をくぐり続けねばならないのは、正直に言って億劫であった。
「近道はいけない傘~! ショートカット断固許すまじ傘~!」
そう、『唐傘お化け』たちが言う通りである。
この『連ね鳥居』の外に一歩でも踏み出せば、『竜神の霊山』へとたどり着くことはできないのだ。
外は絶対に迷う作りになっており、空を飛ぼうが地を走っても関係なくたどり着くことはできないようになっているのだ。
「う~ん。傘が竜になる時代。まさに不思議……」
とは言え、そんなことよりも董・白(尸解仙・f33242)はとっても気になっていた。
傘は傘だけど『ドラゴン化』。
一般的にドラゴンのような姿になるわけではないけれど、何を持ってドラゴン化というのかと頭を捻ってしまう。
しかし、鳥居の外に出てはならないというのは、いつものように自由に戦えぬという制限がある。
「わっちらはどこまでいっても傘傘~! 雨が降れば傘が必需品傘!」
どれだけ時代が変わってもそれは変わらん傘! と『唐傘お化け』たちが一斉に鳥居の端から飛び出してくるのだ。
その光景を白は見据え、己のユーベルコードに瞳を輝かせる。
「傘のプライドが残っているなら傘の本能が傘であるはずです! 何を言っているのかわからないけど!」
「つまりはわっちらは傘ってこと傘ね!」
あ、通じた。
白はちょっと驚いたけれど、これもまた不思議な世界ということで一つ片を付けるのだ。
彼女の宝貝「太極符印」(パオペエタイキョクフイン)が輝き、周囲の元素を操作して水の大風を吹かせるのだ。
そう、すなわち嵐。
少早いが雨だ。梅雨だ。傘が雨が吹き荒ぶ中、やることは一つ。
「濡れちゃう傘~! お嬢ちゃん、はやくこっちに来る傘~! 風引いちゃう傘よ~!」
ばっ! と『唐傘お化け』たちは一斉に傘を広げる。
え、今まで敵同士だったはずなのに、いきなりの親切。それが骸魂と合体する以前の妖怪たちの気質であったのだろうけれど、あまりに親切過ぎる。
敵でしたけど、という言葉を白は飲み込んで、頭を振る。
「ごめんなさい。私合羽派なんです」
「えー!!!!?」
結界術で雨を防ぎながら、白はとても申し訳無さそうな顔をする。
せっかくの親切心、厚意を無にするような仕打ち。心が若干痛むけれど、そう、白はこの瞬間を待っていたのだ。
「傘ならば、雨に傘を開く。当たり前ですけど『逆鱗』の位置はそこですね!」
無理にめくる必要などないのだと言わんばかりに白は破魔の霊符を開いた一本足に在る『逆鱗』へと投げつける。
その一撃は容易く『唐傘お化け』たちの合体を解除させ、次々に骸魂と妖怪たちを分離させていくのだ。
「うう、なんとも心の痛む事件でした……」
彼等の親切と本能につけ込むようなやり方ではあったものの、一人の犠牲もなく彼等を打倒できたのは褒められてしかるべきであろう。
白は『竜神の霊山』へと開かれた『連ね鳥居』が続く先を見据え、さらに駆け出していくのであった――。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…弱点を隠す場所としては割と利に叶っているのよね
骸魂でオブリビオンになった傘の妖怪がさらに竜化した…なんて、
訳の分からない存在である点に目をつむればだけど…
事前に自身の存在感を残像に付与するよう"写し身の呪詛"に武器改造を施し、
自身は小石のように存在感を消して気配を絶ち闇に紛れ、
先行させた残像を囮にして敵UCの豪雨を受けさせる
…竜化してもドラドラ言う訳じゃないのね
再度分身を創造してカウンターでUCを発動
コピーした【入道雲の気配】を乱れ撃ち敵集団の頭上に豪雨を降らせて、
傘を広げ露出した逆鱗を銃撃するように試みる
…雨が降ったら傘をさす。貴方達の存在理由そのものだもの
必ず、そう動くと思っていたわ
オブリビオン妖怪『唐傘お化け』たちは『竜神の霊山』の霊力を得て『ドラゴン化』している。
それは言うまでもなく個体しての力もまた強力になっているということである。
集団で襲いくる彼等は脅威そのものであり、猟兵であれ彼等と真っ向から戦うのは得策ではない。
だからこそ、弱点を突く。
けれど、その位置が問題であった
「……弱点を隠す場所としては割と理にかなっているのよね」
リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は深く深くため息を付いた。
そう『唐傘お化け』は傘の妖怪と骸魂が合体した存在である。
グリモア猟兵曰く、その弱点である『逆鱗』の位置は傘に隠れた一本足の何処かであるというのだ。
まあ、骸魂でオブリビオンになった傘の妖怪がさらにドラゴン化したというわけのわからない存在である点に目をつむらなければならないというのは、なんとも言い難いものがあるけれど。
それでもリーヴァルディは進まねばならない。
彼女の存在感を残像に付与するように写し身の呪詛を遣い、彼女は夕暮れに沈む『連ね鳥居』の陰に潜む。
走る残像たちを前に元気いっぱいに『唐傘お化け』たちが一本足を跳ねさせながら近寄ってくるのを見て、リーヴァルディは頭を抱えた。
「どうした傘~?」
「お嬢ちゃん、迷子傘?」
「ここから先は危ないので、通行止め傘~!」
あ、別にドラゴン化したからと言って、ドラドラ言うわけではないのかと一瞬思ったが、問題は其処じゃあない。
だって、彼等には敵意というより、親切心のほうが勝っているのだ。
正直言ってものすごくやりづらい。
「…………魔力同調。返礼よ、受け取りなさい」
その親切心に仇で返すような真似をしてしまうのだけれど、仕方ない。オブリビオン妖怪は倒して置かなければ、妖怪たちの覚悟が無駄になってしまうからだ。
入道雲の気配を写し身の呪詛がコピーし、先手必勝とばかりに豪雨を『唐傘お化け』たちに見舞うのだ。
「突然の雨! ここはわっちらの出番傘~! さあ、お嬢ちゃん、傘の中に入る傘……? あれ?」
そう、傘は雨が振ったら広げる。
広げるってことはつまり『逆鱗』があるであろう一本足をさらけ出すということである。
傘の持ち手が足ってどういうことだと思わないでもないが、リーヴァルディは邪念と雑念を取り払う。
吸血鬼狩りの業・幽眇の型(カーライル)。
それこそが彼等のユーベルコードをコピーし、豪雨を降らせた正体である。
一瞬の交錯。
瞬時に振るわれた大鎌の一撃がさらけ出された『逆鱗』を切り裂き、『唐傘お化け』たちの骸魂との合体を解除させる。
「あー! ずっこい傘! わっちらの本能を逆手に取って傘!」
「……雨が降ったら傘を差す。貴方達の存在理由そのものだもの。必ず、そう動くと思っていたわ」
若干、罪悪感があるのは確かかもしれない。
だって敵意っていうより親切心ばかりが先行していて、リーヴァルディはなんとも言えない気分になりつつ、大鎌を振るう。
夕立の中、リーヴァルディは駆け抜ける。
傘としての本能に抗えず、傘を広げて『逆鱗』を晒す『唐傘お化け』たちを躱し、『連ね鳥居』を駆け上がっていくのだ。
「……雨が降る中、傘をささずに走る自由だってあるのよ――」
大成功
🔵🔵🔵
メンカル・プルモーサ
…唐傘のドラゴン化、ねぇ……?
…龍柄になってるとか生地が鱗になってる…わけでは無いのか…
…ともあれ逆鱗が足にある訳ね……ふむ…まずは動きを止めようか…
…【竜屠る英雄の詩】で装備に竜に連なる者への特攻を付与…夕暮れを黎明剣【アウローラ】で『斬って』解除…
さらに連ね鳥居を利用して術式組紐【アリアドネ】による括り罠を展開…
…足に引っかけて鳥居に宙づりにすることで足を観察しやすくしよう…
…何か唐傘が恥ずかしがってる気がするけど気にしない…
…よし、だいたい位置は掴めた…
…あとは術式装填銃【アヌエヌエ】で竜鱗を撃ち抜いて対処するとしよう…
…さてと…先を急がせて貰うとしようか…
『ドラゴン化』。
それは力の象徴でも在り、オブリビオン妖怪『唐傘お化け』を強化し、強力な集団へと変えるものである。
『竜神の霊山』から霊力を得た『唐傘お化け』たちは、1体でも強力なオブリビオン妖怪であるが、『連ね鳥居』にあっては集団で猟兵達に襲いくる恐るべき敵である。
だが、当然ドラゴン、竜が強大な存在であればあるほどに、それに相対するカウンターとしての力もまたあるのである。
「……唐傘のドラゴン化、ねぇ……?」
不敵な雰囲気を持つメンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は別段、彼等を脅威に感じてはいなかった。
むしろ、少し興味すら抱いていたのだ。
『ドラゴン化』――その結果、オブリビオン妖怪『唐傘お化け』たちにどのような変化が起こっているのか。
それを識ることもまたメンカルにとっては重要なことであったのだ。
「傘~! なんかさっきから下のほうが騒がしい傘ね~」
「ホント傘~。もうちょっと心にゆとりをもったほうがいい傘」
「門限に遅れて焦る気持ちは分かるけれど、やっぱり時間に余裕が在ったほうが怪我しなくてすむ傘~」
などと『連ね鳥居』のあちこちで『唐傘お化け』たちはのんびりとした感じで、一本足を跳ねさせながら飛び出してくるのだ。
あ、別に龍柄になってるとか生地が鱗になってるわけではないのかとメンカルは若干残念な思いもあれど、『逆鱗』という弱点があるのならば、話は簡単である。
「まずは動きを止めようか……厄討つ譚歌よ、応じよ、宿れ。汝は鏖殺、汝は屠龍。魔女が望むは災厄断ち切る英傑の業」
紡がれるは、竜屠る英雄の詩(ドラゴンスレイヤーズ・バラッド)。
そう、彼女こそがドラゴンに対するカウンターである。
彼女の手にした黎明剣『アウローラ』に宿るのは、竜にまつわるものを殺す竜殺しの概念術式である。
一閃であった。
ふるった『アウローラ』の斬撃が一瞬で展開されたユーベルコードによる夕暮れを切り裂き、霧散させる。
ドラゴン化した『唐傘お化け』たちが生み出したユーベルコードであるのならば、今のメンカルにとっては障害にすらなりえないのだ。
彼女がそれを振るう限り、『ドラゴン化』した『唐傘お化け』たちに勝ち目などない。
「見るからにヤバそうな物騒なものを持ってる人来た傘~!」
「絶対負けるやつ傘! わっちは詳しいんだ傘~!」
慌てふためく『唐傘お化け』たち。
けれど、メンカルは容赦なんてしない。逃げ出した『唐傘お化け』たちの足に絡まっていたのは、術式組紐『アリアドネ』であった。
罠にかかってずっこけた『唐傘お化け』たちを前にメンカルは、指先で『アリアドネ』の術式をたぐり、彼等を宙吊りにしてしまうのだ。
「あーれー!? さ、さかさ! 傘が開いてしまう傘~!」
なんか微妙にやめて欲しい叫びである。
こっちがものすごく悪いことをしているような気分になってしまうではないか。けれど、メンカルは冷静であった。
『唐傘お化け』たちが恥ずかしがっているが、まあ、正直なところ、メンカルの瞳に映っているのは『逆鱗』だけである。
何恥ずかしがっているのだろう、位の気持ちでメンカルは開かれた傘の一本足にある『逆鱗』を確認にして、うん、とうなずく。
「大体位置はつかめた」
手にした術式装填銃『アヌエヌエ』の銃口を向け、『逆鱗』を一撃のもとに砕いた瞬間、『唐傘お化け』たちは合体を解かれ、ぼてんぼてんと『連ね鳥居』に転がっていく。
正直言ってちょろい。
ふぅ、とメンカルは息を吐き出す。なんともやっていることは絵面が酷いものであるが、まあ、彼等を救い出せたのだから良しとしよう。うん、よし。
「……さてと……先を急がせて貰うとしようか……」
メンカルは何事も無かったかのように『竜神の霊山』を見据え、『連ね鳥居』の道行を急ぐのだった――!
大成功
🔵🔵🔵
空亡・劔
この最強の大妖怪である空亡劔を差し置いてこれだけの大異変を起こすとは
もう生意気ね!
ユベコ即発動よ
ずんずん進むわ
戦闘
【天候操作】で環境を大雪に変更
激烈に寒くするわよ
【属性攻撃】で氷を属性を魔剣二刀に付与して強化!
【戦闘知識】で唐傘の動きを【見切り】
相手の攻撃は回避に努めるけど
【結界術】で自分の周囲に結界を張りダメージ軽減も図り
【念動力】も使って容赦なくめくるわ!
そこで逆鱗を見つけ出して
【二回攻撃】で【切断】よ!
ありがとう
あんた達がちゃんとヒントを出してくれたから
…終わったらナイアルテのスカートも捲ろうかしら
別の依頼であたしも捲られそうだったし(ナイン高橋MSの依頼参照
よし突き進むわよ!(ダッシュ
「この最強の大妖怪であるあたしを差し置いてこれだけの大異変を起こすとは、もう生意気ね!」
そう『連ね鳥居』の中で叫んだ空亡・劔(本当は若い大妖怪・f28419)は、数千にも及ぶ赤い鳥居が続いていく光景に驚愕していた。
けれど、それは別に悔しいからとかそういう問題ではない。
彼女が自身を大妖怪であると定めるのであれば、この『連ね鳥居』に夕暮れを落とすオブリビオン妖怪『唐傘お化け』たちの霊力の高さは、捨て置くことはできない。
永遠に続くかと思うほどの長い道のり。
『竜神の霊山』は、この長く続く鳥居の向こうにある。カクリヨファンタズム最深層。そこに四人の親分のうちの一人がいるはずなのだ。
「なら立ち止まってる暇なんてないわよね! 我が根源…我が存在意義…魔王が在り方を我が身に示せ。我が名は空亡劔…神殺しの魔王が子なり…!」
彼女は、魔王を滅ぼすのは人の勇者のみ(カミゴロシノマオウケンゲン)と示すように超常存在特攻の魔王へと姿を変じる。
その力は天候を変えうるほどの力を持ち、夕暮れ時の『連ね鳥居』を大雪降りしきる景色へと変えるのだ。
「雪!? え、いきなり雪傘~!?」
「どうなってる傘!? え、足寒ッ!」
オブリビオン妖怪『唐傘お化け』たちは素足である。それはそれは大雪であれば空気も凍えるほどに冷え込むというものである。
ならばこそ、彼等の動きは『ドラゴン化』したと言っても鈍るであろう。
「これだけ寒いと凍えて動きが悪いわね! そして!」
降りしきる雪を防ごうと傘を開くだろう。
けれど、この寒さである。傘は閉じていたほうが、冷たさを軽減できる。なにせ素足なもので。
そうなれば弱点である『逆鱗』の位置も丸見えというものである。相手の攻撃を結界術で張り巡らせた結界で躱しながら、念動力でもって強引に傘をこじ開け、『逆鱗』の位置を確認するのだ。
かなり強引な手段に出たけれど、寒さで縮こまっていた『唐傘お化け』たちは傘を閉じることもできず、その足に在る『逆鱗』を曝け出してしまうのだ。
「ひぇー! お助け傘~!」
「強引すぎる傘~!」
そんな声が響き渡る。
なんだかとても悪いことをしているような気分になってしまうけれど、劔はかまわなかった。
手にした魔剣を振るい、『逆鱗』を一撃のもとに砕いて骸魂と妖怪の合体を解除するのだ。
彼等は気絶したように鳥居の中に倒れ伏す。
そんな彼等とて、本来であれば強力なオブリビオン妖怪である。此処まで簡単に打倒できたのは、合体した妖怪たちの覚悟と、本来の気質であるおせっかい、親切心があったからだ。
「ありがとう。あんた達がちゃんとヒントを出してくれたから」
だから、こんなにも簡単に踏破することができる。
気絶しているからきっと届かないだろうけれど、お礼だけは言っておきたかったのだ。
それにしてもと劔は思う。
グリモア猟兵のタイトスカートも後で捲ろうかと考えてしまっていたのだ。とばっちりである。
いや、別にめくらないといけないとか、そういう振りではなかったのだけれど、それでも自分も別の事件でめくられそうであったこともあるのだ。
ならばめくらずにはいられない。
そういう問題かな、と思わないこともないのだが、それでも突き進むのだ。
まだまだ『大祓百鬼夜行』は終わらない。
ならばこそ、劔は決意を新たにするのだ。
「よし、突き進むわよ!」
目指すベクトルが若干変わったような気がしないでもないが、それでも『連ね鳥居』を走り抜け、『竜神の霊山へと真っ直ぐに走り抜けるのであった――。
大成功
🔵🔵🔵