銀河帝国攻略戦⑩~迷宮要塞
帝国大要塞エンペラーズマインド。
その威容は広大な星々の海にあってなお巨大であり、宙域が狭くなったかと錯覚させるほどであった。
決戦の火蓋は切って落とされ、いよいよ各所で戦端が開かれつつある。
「――幾重にも巡り巡りし墻壁の、裡に秘めたる硬き珠、ひやうと撃てり、光の矢」
エフェネミラルが紡ぐ旋律はグリモアが与えた予言の歌だ。ただの詩のようだが、猟兵であれば聞き逃すはずもない。
「エンペラーズマインドは目前にある。コアを破壊し陥落せしめるのは、今をおいて他にない」
グリモアベースに集まる猟兵たちは皆、解放戦線に加わろうという気概に満ち満ちていた。決戦の時が近付いた緊張感が、グリモアベースを隅々まで支配している。
「エンペラーズマインドでは何らかの妨害が働いており、直接要塞内へ転送することができない。解放軍のスペースシップに転送後、エンペラーズマインドへと向かってもらうことになる。帝国軍は主として艦隊戦に戦力を割いており、エンペラーズマインドへの少数での潜入は比較的容易とみてよさそうだ」
むしろ、困難が予想されるのはエンペラーズマインドに潜入した後だ。
「内部は入り組んでおり、随所に数百、あるいはそれ以上の隔壁がある。どれがコアに通じる道かは、すまない、予知が及ばなかった。現状ではひとつでも多く、重要とみられる隔壁を破壊していくしかない」
エフェネミラルは猟兵たちを見て眉尻を下げた。結局のところ、危険を冒してその目と足で探ってくるしか方法はないのだ。グリモアの予知も大した意味を成さないとなれば、エフェネミラルはただ彼らを死地に送り込むに等しいのである。
「当然、要塞は完全に敵の勢力下にある。警備兵に見つかれば隔壁の破壊どころではなくなるだろう。できる限り警備の目を掻い潜り、要塞の奥へ向かってほしい。そのほうが、より重要な隔壁に辿り着けるはずだ」
撤退の方法はあるのか、とひとりの猟兵が声をあげる。隔壁の破壊に成功すれば、いくら隠密に行動していたとしても、警備兵が集まってくるのは避けられないだろう。
エフェネミラルはここで初めて表情を緩ませた。
「その点は安心してほしい。送り込むことはできないが、撤退は私の転移が及ぶようだ。隔壁を破壊すればすぐに送還する」
では行こうかとエフェネミラルは掌の上にグリモアを出現させた。
「危険度ばかりが高い作戦だ。みな、どうか無事で」
感情を抑えた声で、エフェネミラルは猟兵たちを送り出した。
降矢青
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「銀河帝国攻略戦」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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ご覧いただきありがとうございます。
こちらは【⑩『エンペラーズマインド』突入戦】のシナリオです。
どうやって警備兵に見つからずに進むか+どのように隔壁を破壊するかをプレイングに記入してください。正解を用意しているわけではないので、特に何も気にせずカッコよく警備網を掻い潜ってカッコよく破壊する感じに書いていただけると嬉しいです。
◆今回は攻略スピードも大切なため、オーバーキルになった場合プレイングを流させていただきます。
オーバーキルでも描写を希望するという方はプレイング先頭に【◇】を記入してください。
(タイミング、キャパシティその他の理由により、◇が記入してあっても描写できない場合もありますのでご了承ください)
スピードが重要といっても、即日リプレイ執筆というほどのスピード感ではありません。
プレイングも先着順ではないので、その旨ご了承ください。
第1章 冒険
『⑩エンペラーズマインド突入戦』
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POW : 密かに潜入し、POWのユーベルコードで巨大隔壁を攻撃する
SPD : 密かに潜入し、SPDのユーベルコードで巨大隔壁を攻撃する
WIZ : 密かに潜入し、WIZのユーベルコードで巨大隔壁を攻撃する
👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
黒城・魅夜
厳重な警戒の目を完全にかいくぐるのは至難の業……ならば。
潜入後、巡回の警備兵が現れるのを伺い、【ロープワーク2】【スナイパー2】【先制攻撃2】で鎖を飛ばしてみます。目的は打倒ではなく捕獲。
捉えた警備兵の【血を吸って】意識を低下させ、また【殺気】で威圧。
そのまま、私を案内させましょう。自分の鎖で我が身を縛り上げた私を。
そう、「警備兵に捕まった捕虜である私が連行されていく」という状況を作るのです。ついでに、重要な隔壁のある場所まで案内させられればいいのですが。
目的地に着いたら、【緋色の弔花は悪夢の深淵に狂い咲く】を発動し、隔壁を破壊。案内してくれた警備兵にはお礼を。すなわち苦痛なく悪夢の底へ……。
リリィエル・ロックウェル
アドリブ、絡みは歓迎
【WIZで判定】
・潜入
誰かの服の中に入って身を隠させてもらうのです、できればスカートの中とか呼吸ができそうな場所がいいのですがあまり贅沢は言えないのです。
・障壁破壊
ギガドリルクラッシャーで穴を開けるのです、壁を壊すならドリルなのです、破壊できたら侵入した時と同じ方法で誰かの服に隠れて脱出なのです。
羽馬・正純
【SPD】
(アドリブ、絡み歓迎)
敵要塞中枢への道を拓く一矢…責任重大だね、気合い入れていこう!
【リブートマイセルフ】を発動、高速移動で駆け抜けるよ!
シールドの<迷彩>機能を利用しつつ物陰から物陰に移動したり鋼糸で天井や壁を伝って
敵に気づかれないようにする工夫も必要かな。
ただ【リブートマイセルフ】が長時間の持続は危険が伴うのと敵の増援、
障壁の数を考えるとしらみ潰しに全て破壊するのは厳しいか…
…考えろ、僕があちら側だったら<拠点防御>の際にどこを重点的に守ろうとするのか…
<学習力>で重要な障壁に目星をつけたら放電と<一斉発射>で一気に破壊する、
チャンスは短いけど全力で切り拓く…!
キア・レイス
◇アドリブ即席共闘可
突入する前にアサルトライフルと自動拳銃に減音器を取り付け軽く整備。
敵陣の中、例え減音されていても銃を撃つ事自体が危険だが選択肢はあった方がいい。
「違う世界に来ようとも、やり口は変わらないな」
解放軍の宇宙船から降り中に入ったら、聞き耳をたてつつ忍び歩きで潜入。
【俊鋭感知】を定期的に発動させつつ前進、敵の配置や中の構造を把握することで警備の目を掻い潜りながらもある程度重要そうな隔壁に目星をつける。
敵を排除せざるを得ない場合は即座に暗殺、遠いならライフルで狙撃、近いなら拳銃でクイックドロウだ。
隔壁にたどり着いたら破壊工作の知識で脆弱な部分を探し擲弾発射器のグレネードで撃ち壊す。
アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎
時間が惜しいです。急ぎましょう。
とは言うものの何処へ向かえばいいのか見当も付きませんね。
なんとなく警戒が厚い部分に目的のものがありそうですが、思い込みはいけませんね。頭の隅に置いておくだけにします。
とりあえず道中は『第6感』やホワイトパスで残りの5感を強化して『祈り』つつ進めるだけ進みましょう。
しかし隔壁に関しては苦戦を強いられそうですね。
私の繊細な氷魔法と剣技がどこまで通用するか。
ホワイトファングの『全力魔法』『属性攻撃』で隔壁を凍らせて、槍でどこまで破壊できるか、ですね。
もし他の猟兵に会いましたら協力をお願いしましょう。
私一人では微力ですが、協力すればきっと突破できるはずです。
トリテレイア・ゼロナイン
潜入しての破壊工作…騎士と振舞うこの巨体では正直不向きかもしれませんが、宇宙に暮らす人々の為に全力を尽くしましょう
「防具改造」で白い装甲を要塞内部に溶け込む都市迷彩に塗装、関節の駆動時の消音性能も向上させます
センサーで警備兵の足音や振動を検知して接近を「見切り」、物陰に隠れたり、隠し腕を天井に向かって放ち、ワイヤーを巻き取ることで上に逃れたりすることで要塞深部への侵入を試みます
どうしても発見が避けられそうにないなら「だまし討ち」による攻撃で速やかに警備兵を無力化しなければ…
隔壁を発見したら「怪力」による大盾殴打での「鎧砕き」で破壊します
…やはりこういった仕事は慣れる気がしませんね(苦笑しつつ)
エンペラーズマインドへの潜入それ自体は、難しいものではなかった。事前の情報どおりだ。
猟兵たちを乗せた小型艇は砲火を逃れ、大要塞の開口部のひとつに到着した。
「先行して目を引きます」
黒城魅夜は仲間たちを振り向いて肩越しに言うと、いち早く小型艇から飛び降りた。音もなく要塞内部に降り立ち、素早く壁に身を添わせる。
曲がり角から片目だけを出して様子をうかがうと、ひとつ向こうの通路で警備兵たちが歩き回っている様子が見えた。すぐにこちら側に来るだろう。魅夜は指先で鎖の感触を確かめた。
コツ、と靴音が鳴る。
「貴様、そこで何を――」
現れた警備兵に魅夜は鋭く鎖を放った。まず口元に巻きつき声を奪い、次いで腕を胴体に拘束する。
「どうぞお静かに」
ひそやかに言って、魅夜は口を開いた。漆黒の衣装に映えて蠱惑的な唇の奥に見える歯は、ヒトのそれよりも鋭利だ。彼女にヴァンパイアの血が流れる証であった。
魅夜の牙が、警備兵の肌に沈む。
「案内していただけますね、要塞の中枢部まで」
血を吸われ朦朧とした意識で、警備兵は魅夜の目を見た。靄のかかる視界にあって、魅夜の漆黒の瞳だけがどういうわけかはっきりと見えた。見てはいけなかったと感じた。しかし、もはや魅夜の瞳から放たれる殺気に抗うだけの力が彼にはなかった。
「すごいのです、案内させてしまうなんて」
リリィエル・ロックウェルは魅夜の後姿を見て、手を叩きたい気持ちを抑えた。
魅夜は鎖で自らを縛り上げ、それを警備兵に持たせている。鎖に曳かれる魅夜は、他の者の目には連行される捕虜として映るに違いない。
「私たちも行くのです、キアさん!」
キア・レイスはアサルトライフルと自動拳銃の挙動をもう一度確かめてから頷いた。隠密行動ゆえ減音器をつけていても撃つことは避けたいが、魅夜の支援という意味でも、銃という選択肢は持っておくべきだ。
「違う世界に来ようとも、やり口は変わらないな」
手に馴染む重い金属の感触に、キアはひとりごちた。
要塞内に入ると、リリィエルはキアのスカートの中に潜り込んだ。ここまでの道中に頼んでおいたことだ。
要塞はフェアリーの身には広すぎるし、透き通る翅は照明を反射して眩く輝く。美しいが、残念ながらこの任務では邪魔になりかねない。
「広くて息がしやすいのです。助かるのです」
「蹴られないように、安全な位置にいろ」
小声で言葉を交わしつつも、キアは魅夜の後を距離を取りながら忍び足でついていく。
そのとき、キアの視界のはるか斜め前方を人影が動いた。魅夜を連れた警備兵の顔見知りらしく、様子がおかしいことに気がついたのだろうか、声をかけようと近付いてくる。
キアは《俊鋭感知》を発動した。壁や天井を透かして、周囲の様子が脳に流れ込んでくる。幸い銃声が届く範囲に他の兵の気配はない。
キアはすばやくライフルを構えた。構えた瞬間に引鉄を引く。スコープの中で兵の頭部に紅が弾け、辺りにはまた何事もなかったかのような静寂が戻る。
軽く振り向いて目礼をする魅夜に、キアはほんのわずか顎を動かして応じた。
もう一度《俊鋭感知》を発動して駆けつけてくる者がいないかを確かめてから、キアはふたたび足を進めた。
トリテレイア・ゼロナインの潜入は、はじめは不可能とさえ思われた。
「この巨体では潜入に不向きなのは承知していますが……」
それもそのはず、トリテレイアの身の丈は小柄な女性の倍ほどもある。
本来の彼の装甲は白く輝き、神話に謳われる人ならざる騎士をも思わせるが、今は灰を基調とした都市迷彩に塗り替えられていた。間接の消音性能も向上し、隠密行動に適するよう調整されている。しかし、やはり大きさだけは誤魔化しがきかぬ。
「それでも、宇宙に暮らす人々の為に全力を尽くしましょう」
トリテレイアがこの任に参加することになったのは、センサーやその他の搭載機器が有用なこと以上に、隔壁の破壊には彼の力が不可欠と判断されたからである。
巨大な隔壁としか情報がないものを壊せ、というのである。形状もわからぬ。設置箇所も制御方法も、何もわからぬ。最終的に力押しとなった場合、トリテレイアのような者がいなくては、手ぶらでの帰還となってしまうであろう。
「行きましょう、万一の場合は微力を尽くします」
アリウム・ウォーグレイヴはトリテレイアの横について、前を行く仲間たちを追って歩き出した。
「よろしくお願いします。――ああ、その前に、お守り程度ですが」
トリテレイアは小さな噴霧器を取り出し、中の液体をアリウムの肩や腕に吹き付けた。その後、自分にも同様に吹き付ける。
「摩擦抵抗を減らすものです。やりすぎは禁物ですので、要所要所のみ」
「騎士様のおまじないですか、いいですね」
トリテレイアの言葉は正しかった。壁に擦れたときにもほとんど音がしないのでアリウムは感心したが、これが靴の裏にでもついていれば、歩行もままならなかったやもしれぬ。
幸い大半の警備兵の視線は魅夜に集まり、そうでない者についてはキアが片付けている。
その網を逃れた目端の利くものについては、トリテレイアのセンサーが素早く察知した。
そうすることで交戦を避けてきた両名であったが、帝国軍の警備網もさすがに笊ではない。
「……まずいですね」
トリテレイアはアリウムに警備兵の接近を告げた。
「八秒後、前方の通路に兵が来ます。左の角に隠れたいところですが、そちらからも別の兵が来ている」
「進みましょう。警戒が厚くなってきたのは悪い兆しではありません」
重要なものほど警備が厚いのは世の常だ。オブリビオンといえど、その理は共通であろう。
アリウムは歩調を速めてトリテレイアの前に進み出た。
そのとき、トリテレイアの予測通り、通路に警備兵が姿を現した。侵入者の姿を見て目くする警備兵に向かってアリウムは《ホワイトファング》を発動する。
「動かないでくれると助かります」
アリウムがひたと指先を警備兵に突きつける。その先端から冷気が迸った。
アリウムはトリテレイアとともに、凍りついたように動かぬ警備兵の横を悠々と通り過ぎたのであった。
殿軍をつとめたのは羽馬正純だ。
(敵要塞中枢への道を拓く一矢……。責任重大だね、気合い入れていこう!)
能力を出し惜しみしている暇はない。万一力を使い果しても、幸い前には仲間たちがいる。
「制限解除、活動限界までカウントダウン開始――」
無機質にも聞こえるその声は、彼が生身の人間ではないという事実を滲ませている。
正純の全身を電気エネルギーが這い、覆っていく。それは筋肉に作用し、移動速度を飛躍的に上昇させるものであった。
要塞内部を高速で駆け抜け、時には迷彩を駆使して警備の目を欺きながらも、正純は注意深く周囲に目を光らせていた。扉の配置、警備の巡回、壁に記された何らかの記号。その意味が全てわかるはずはないが、何らかの法則性があろうことは予想がつく。それらを繋げていけば、目指すべき先は――。
最後の一息とばかりに正純は加速した。一陣の疾雷となってトリテレイアを、アリウムを追い抜き、キアとリリィエルを追い越し、魅夜の隣に辿り着く。
「次の角を右だよ!」
雷が閃くがごとく突如として現れた正純に魅夜は驚いた顔をしたが、すぐに頷いて自身を戒める鎖を解くと、前を行く兵士の首にそれを巻きつけた。軽く捻りあげれば、抵抗の様子もなく昏倒する。先ほどから半分失っていた意識を手放すことを、彼はようやく許されたのであった。
「ありがとうございました。せめていい夢をご覧なさい」
微笑む魅夜の横顔を見ながら、『いい夢』がどんなものかは聞かないほうがよさそうだ、と正純は内心で思うのであった。
「まあ、これは――」
辿り着いた隔壁を見上げて魅夜は声をあげた。
まさに巨大隔壁。見上げても、隔壁の上端は照明が届かず暗くなっているほどだ。
「急ごう、チャンスは短い」
「ええ、ですがこれほどの壁……」
魅夜は《緋色の弔花は悪夢の深淵に狂い咲く(フューネラリィ・クリムゾン)》を発動し、隔壁に鎖をぶつけてみた。
しかしそれは隔壁にいくつかの傷をつけただけで、破壊には程遠い。いったいどれほどの厚さがあるのか、想像もつかぬ。
「待って、ここはどうかな」
正純が目をつけたのは、隔壁の接合部だ。これだけの巨大な壁を一つのパーツで製造するのは実質不可能であり、どこかに繋ぎ目がないかと探していたのである。
ぱりぱりッ、と正純の掌で火花が散る。それは瞬く間に長く伸び、絡み合い、青白く輝く蛇となって隔壁の接合部に喰らいつく。
手応えがあった。隔壁の破壊とまではいかないが、接合部が焦げ、剥がれかけてきたのである。
「悪くなさそうだね」
「ここを重点的に攻撃すれば、破壊できるでしょうか」
正純と魅夜は隔壁の様子を確認し、頷きあった。
「そこだな? よし、下がってくれ」
追いついてきたキアがグレネードを構える。
リリィエルもキアのスカートから飛び出し、クレヨンソードを構えた。
その後方からトリテレイアとアリウムの姿も見える。
キアがグレネードを撃てば、すぐにでも爆音で警備兵が集まってくるだろう。準備はいいかと問うキアに、猟兵たちは頷いた。
「――行くぞ!」
キアがグレネードを撃った。
轟音。爆風。
飛ばされかけるリリィエルをトリテレイアの大きな手が包んだ。
「《ホワイトファング》!」
アリウムの槍から冷気が迸る。その威力は先ほど警備兵に向けたものとは比べようもない。
グレネードで灼熱した箇所に、氷よりも冷たい魔力が覆いかぶさり、急激な温度変化に耐えかねた金属が甲高い悲鳴を上げる。アリウムは間髪入れずにそこへ槍を叩き込んだ。
脆くなった隔壁の接合部に、トリテレイアが満身の力を込めて大盾を振り下ろす。トリテレイアの身の丈ほどもあるその盾は重量もかなりのものであろうと想像がついた。そこにトリテレイア自身の体重と、人間には想像もつかぬ膂力が乗るのだ。耳障りな音を立てて隔壁が大きく歪んだ。
「穴を開けるのです、壁を壊すならドリルなのです!」
トリテレイアの肩からリリィエルが飛び降りる。
その手に掲げたクレヨンソードの刀身は銀色。貫通に特化した銀の螺旋だ。
「《クレヨンソード銀色:ギガドリルクラッシャー》!」
クレヨンソードが回転する。先端が隔壁にぶつかると、銀の光が大きく散った。反動で後退しそうになるリリィエルの背をトリテレイアが支えている。
「もう、少し、なのです……!」
横合いから魅夜の鎖と正純の電撃が伸び、周辺を削っていく。
貫通した、と思った瞬間、隔壁ががらがらと音を立てて崩れ始めた。
リリィエルの開けた穴は巨大な隔壁からすれば小さなものだったが、内部の構造を大きく損傷させたため、隔壁全体が崩れるに至ったようであった。
「やったのです……?」
怒号と足音が、もうすぐそこまで迫っていた。
「成功、だな」
キアの言葉が合図となったのか、ただの偶然か。
猟兵たちは次の瞬間、エンペラーズマインドから姿を消していた。
駆けつけた警備兵が目にしたのは壊された隔壁と、僅かな転移の残滓のみであった。
了
大成功
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