大祓百鬼夜行㉒〜札の雨、赤い雨
「こんにちは。ごきげんよう〜」
カクリヨファンタズムの戦争、大祓百鬼夜行も佳境に突入した頃、猟兵はブリーフィングに集まっていた。召集に応じた猟兵に感謝と労いの言葉を述べるのはエーファ・マールト(あなたが感じる確かな重み・f28157)、西洋妖怪である。
にこにこと微笑する姿は非常に愛らしい。愛らしいのだが……。
「連日連戦でお疲れ様です。どうか根を詰めすぎず、自分のペースで戦い抜きましょうね。頑張る姿をマールトさんは応援してますから」
もし倒れでもしたら、と手の甲で拭う所作までする始末。なんだか一挙手一投足が少し重い……。
とはいえ今回の戦争はカクリヨファンタズムのみに影響を及ぼす「わけではない」特殊なもの。一つの怪異が幾重にも波及していく。ゆえに彼女の心配もあながち的外れというわけでもない。
今回は新し親分直属の強力な妖怪によって「見えざる闘技場(デュエルスペース)」が生み出されたことが発端だ。そしてその場所とはすなわち――UDCアース!
「ご存知かもしれませんが、今回の敵は『骸魂』が妖怪さんを飲み込んで変身したものですよ〜。オブリビオンを倒して妖怪さんを救出してくださいね」
説明される概要は以下の通りだ。
「デュエリストブレイド」というトレーディングカードゲーム、コレクター愛とアナログゲーマーの心をくすぐる娯楽を新し親分が開発した! 非常に複雑だがルールを熟知すれば奥深いゲームだ。裏を返せば……ルールがわからなければ紙は紙。投げてよし折ってよし書いてよしの便利飛び道具に早変わりというわけだ。
「優れたカードは銃の撃鉄を止める、なんて話も聞きますね。これを鬼のようにばら撒いてるオブリビオンがいます」
そのオブリビオンとは『アンブレラ』。
名は体を表し、洋傘の西洋妖怪だ。赤い雨とカードの雨の弾幕で、近寄るものを問答無用に圧倒する。羞恥心を感じるような素振りを見せるなど愛嬌のある振る舞いをすることもあるが、本性も本体も暴食と疫病を撒き散らす危険な存在。放置すればどんな被害を撒き散らすか想像もつかない。
「急な通り雨にご注意を。もし風邪でも引いたら……その時はマールトさんが目いっぱい看病してあげますね。うふ、うふふふ」
見上げる空に勝利の快晴が広がることを信じて、猟兵たちは戦場に飛び出す。一歩先には何に降られるかわからない。頭上注意、一切の油断なく、死のスコールに遭わないように立ち回らなければ――!
地属性
こちらまでお目通しくださりありがとうございます。
改めましてMSの地属性と申します。
以下はこの依頼のざっくりとした補足をして参ります。
今回は戦争、佳境の状況で敵のデュエリストと一本勝負です。スピードデュエル、すなわちサクサク攻略して参りましょう。
※このシナリオは、『戦争シナリオ』です。
1フラグメントで完結し、『大祓百鬼夜行』の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
続いて、戦闘について補足をば。
プレイングボーナスは『カードの弾幕に対処する。』です。カード弾幕を躱す、足場として利用する等、対策を用意すればボーナスになります。
では皆様の熱いプレイングをお待ちしています。
第1章 ボス戦
『アンブレラ』
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POW : アンブレラのあかいあめ
命中した【スカート 】の【下】が【牙の生えた口】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD : アンブレラのせいへきなだれ
自身の【スカートを下から覗かれる羞恥心 】を代償に、【錐揉み回転】を籠めた一撃を放つ。自分にとってスカートを下から覗かれる羞恥心 を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
WIZ : アンブレラのくろいきり
攻撃が命中した対象に【刺創と黒い霧(破傷風菌) 】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【破傷風】による追加攻撃を与え続ける。
イラスト:しらゆき
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「オルヒディ・アーデルハイド」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「たくさんカードをならべればかちー! おらおらおらー! ずっと、アンブレラの、ターン!!」
くるくるくる――!
宙を舞いながら、回りながら、散らすカードは吹雪のよう。荒れた空模様を象徴するように怪異の傘が、一つ。そこが紛うことなき――爆心地。
「わたしのターン! わたしのターン! わはわは、わはははーっ!」
ルールもマナーもない。あるのはただ一つ、強いものが勝つ。決闘の摂理、それだけだ……!
鯉澄・ふじ江(サポート)
怪奇ゾンビメイド、16歳女子
誰かのために働くのが生きがいの働き者な少女
コイバナ好き
自身が怪物寄りの存在なので
例えどんな相手でも対話を重んじ問答無用で退治はしない主義
のんびりした喋り方をするが
これはワンテンポ間をおいて冷静な判断をする為で
そうやって自身の怪物としての凶暴な衝動を抑えている
機嫌が悪くなると短文でボソボソ喋るようになる
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し
自身の怪我は厭わず他者に積極的に協力します
また、例え依頼の成功のためでも
自身の矜持に反する行動はしません
何でもやります、サポート採用よろしくおねがいします!
(流血、損壊系のグロ描写やお色気系描写もOKです)
燐・梟羽(サポート)
長い一つ結びの白髪で、常にメンフクロウの仮面を付けた25歳の男僵尸です。
普段の口調は「仮面の上(私、~君、~さん、です、ます、でしょう、でしょうか?)」、独り言は「仮面の下(俺、お前、呼び捨て、だ、だな、だろう、なのか?)」です。
ユーベルコードは戦闘時の場合発勁・四肢尸掌を主に使用します。
非戦闘時は基本的に周囲を警戒しつつ周りに合わせて行動、不測の事態等があれば仲間に知らせます。
自分が僵尸、即ち死体であると自覚しているため、多少の怪我は厭わない反面、生者が傷つくことを嫌います。
危険がない日常では楽しむべきものは満喫し、生きる喜びを堪能しようとします。
他、細部は自由に使ってください!
常闇の幽世に黒く輝く眼が二つ。白き髪を温い一陣の風に棚引かせ、くいと、仮面を付け直す。今宵はいささか賑やかすぎる。ならば、勇を奮って鎮めるしかないだろう。
今出来の主役は死体。それもとびきり新鮮な動く死体だ。
例えば腕が取れたり、足が捥げたり、首がすっ飛んでも、その理は変わらない。この舞台を譲るわけにはいかぬ。ましてや紙切れ一枚や二枚、数千枚あろうと「チップ」にもなりはしない。
燐・梟羽(仮面の僵尸・f33366)――伝承者。
鯉澄・ふじ江(縁の下の力任せ・f22461)――給仕人。
赤き雨の札使いと相対する。片やその表情は露と見えず、片やその表情は茫洋として知れない。
――ズァッ! ズゾゾゾバサササッ……!
「わたしのターン! くるくるくるくるうくるうくるるるるーっ!」
スカート(と思しき部位)から夥しい量のカードを取り出す。絵札にジョーカー、高コストスペルに即時トラップ、コモンからレアカード、土地やらクリーチャーやら何から何まで、ルール無用の投擲乱舞。ただの紙と思うことなかれ。その勢いは暴風、その物量は豪雨、まさしく力任せのそれは荒ぶる自然そのものに等しい。この中で傘をさせばたちまちに蝙蝠傘となり得るだろう。
凌ぐことは困難な大災害。立ち向かう猟兵はいかに、対処を施すのか……?
――……ぶしゅっ!!
「あぁ……あ〜らぁ〜?!」
対処は、しなかった。
ふじ江の首は鋭利な紙により寸断され、生首が胴体を離れながらゆっくりと、スローモーションに地に落下。その断末魔のセリフもまたゆっくり、ゆっくりと戦場に響いて、お気楽な調子と共に落下した。
露になった両肩が鮮血に染まり、ずちゃと肉音を立てる。なんて、呆気ない。
「ターンエンド? エンド? ……エンドぉお、お……おお?」
「ではこちらの番ですね。果たして私の技が通用するか、否か」
――ヴ……ンッ!
かしげる首こそないものの、クルクルと回りながら全周囲を注視していたアンブレラが、かき消えた影を追って、見失う。
やがて視界の端に、風を孕んだ白髪の一房を捉えて――。
――ドッ!!
捉えた時には、もう遅い。メコメギメシャと鈍い音を立ててへし折れる体に、苦悶の声が重なり合う。人間であったならば即座に致命になりかねない《発勁・四肢尸掌》。梟羽の特別な肉体が駆け巡る勁を敵に流し、その体を爆発的な衝撃で粉砕する。飛び散った破片にカードの雨を忍ばせて逆撃を喰らうも、初手の一撃としては上々か。
飛び退るアンブレラに追撃とばかりに、振りかざした拳を叩きつける。しかし、カードの瀑布に飲み込まれ、暖簾に腕押したようにいまいち手応えがない。
梟羽はくいと仮面に手を当てた。その眼差しはアンブレラを見ない。
「ですが、一度に操れるカードも限度があるでしょう」
「なーいす、ちゃ〜んす!」
ならばその大河をかき分けるには、無窮の膂力が必要である。
屍同然、否、屍そのものとして転がっていたふじ江はあえて体の一部を千切っておくと、カードの大群の隙間を縫うように腕を捻じ込み、無理やりにこじ開けたではないか。これにはさすがのアンブレラも肝を冷やす。首が切断されてなおあっけらかんと笑い、そのまま向かってくる姿。ひとりでに動く腕が脳というリミッターを外し、信じられない腕力で殴りかかってくる脅威! その驚きと恐怖は筆舌に尽くし難い。
――ズドォ!
「おご?!」
「てごたえ、ありですぅ〜!」
「続きますよ」
閉じた傘をガッチリと生首がホールドすると、ひとりでに動いている両腕が鯖折りの勢いでアンブレラをへし折りにかかる。逃れようと思えば、梟羽の掌底がクリーンヒット。聞いてる方が気の毒になりそうなほどに凄まじい打撃音が響き渡る。
ぐるぐるとその場で切り揉み回転し、なんとか振り払おうと試みるアンブレラ。高速回転は旋風となり、紙切れ混じりの風は無視するにはいささか危険な切れ味を持つ。当然、二人もまたずばずばと切り裂かれるが……二人の手は止まらない。片や僵尸、片や怪奇ゾンビ人間。死体となっても動く執念が、この場の回転する脅威を止めんとしゃにむに組みつく。一進一退の攻防、力と力のせめぎ合い。カードによる駆け引き、ゲームらしさこそないけれど、熱気の迸る戦いの場がそこにはあった。
互いに持てる切り札を温存せず出し尽くす、駆け引きなき応酬。
「わたしぃ、こういうぶつかりあいなら、自信ありますよぅ〜! えーい!」
「ドロー?! ドロー、ドローどろろーん……!」
「あっ……! なんて早い逃げ足でしょう……!」
先に手札が尽きたのはアンブレラ。その場にカードを撒き散らしながら、高く高く舞い上がって行ってしまった。戦いの場が決まってこそいるものの、追いかけ回すのはなかなか骨だ。それに肉を切らせた手前、逃げ出したものを追うのは形勢と異なる。
熱い戦いはひとまずここまで。クールダウンするとしよう。もっともふたり、体はこれ以上ないくらいに低温に冷えてはいるのだが……!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リーヴァルディ・カーライル
…カードゲーム。故郷のダークセイヴァーにはあまり娯楽が無かったから、
トランプぐらいしか知らないのよね…
…もっとも、今回のルールは私好みの物みたいだけどね
魔力を溜めた大鎌を高速回転させる早業で呪詛の盾を形成し、
敵の乱れ撃ちを大鎌のオーラで防御して受け流し、
多少の負傷は自身の生命力を吸収して治癒を施しつつ、
第六感を頼りに敵のUC発動を見切りUCを発動
…お楽しみの処、申し訳ないけどここから先はずっと私のターンよ
敵の頭上に転移して空中機動を行う"血の翼"を広げ死角から切り込み、
大鎌を怪力任せになぎ払い地面に叩き付けるカウンターを試みるわ
…そんなに見られるのが嫌ならズボンを履けば良いのでは?
トランプの札を一枚拾い上げる。
これならばわかる、とリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は目を閉じる。瞼の裏に映るのは、夜闇に覆われた異端の神々の住まう漆黒世界。斯様に荒廃した世界に当然娯楽と呼ばれるものは乏しく、多様な絵柄が散乱するうち判別ついたのはこれだけであった。無意識のうちに懐に仕舞い込むと、目を開ける。絨毯のように敷き詰められたカードの海に立ち尽くす、傘。元は陰を語源とする彼女が、月光を背に受けて立ちはだかる。
「デュっえーる!」
「…もっとも、今回のルールは私好みの物みたいだけどね。…始める」
「わたしのターン! ターン、ターン、ターン!」
その場でぐるぐると回転し始めたアンブレラ。突風が巻き起こり、風に紛れたカードの刃がリーヴァルディに襲いかかる。
手数の多さは相手が上、ならばと手にした「過去を刻むもの」を逆手に持ち直し、くるくると取り回す。アンブレラが竜巻なら、こちらは渦。それも呪詛の込められた呪いの大盾だ。直線的な勢いをいなしつつ、好機を窺う。
――ザリザリザリズザザザッ!!
過量の紙束がグリムリーパーの切先に当たり、赤い火花が散った。ずり、とその勢いに後ろに押し込まれる。ぱちぱち弾けたオーラが引火でもしそうな勢いに、押し負けることなくリーヴァルディは耐えている。押されかけている苦境にも関わらず……無表情。この程度を苦難とも思っていないのか、それとも何か策があるのか。
流れ弾ならぬ流れ札が、頬と髪の一房を引き裂いていった。鮮血の霧が迸る。
「…ん」
思わず片目を閉じて、上げかけた声を噛み殺す。
アンブレラは狂騒しつつ、勢い任せの攻撃を繰り返す。肉体……のように見せかけた外装の内から、物理法則を無視した大量の札を繰り出し、叩きつけるだけの攻撃。しかし数は時にどんなものよりも優る暴力となり得る。
「ドローなんてみとめなーい! わたしがかーつ! ずっと、わたしのターン! ターン、ターン!」
アンブレラの圧倒的な優位に見えるこの状況。勝負を決定づけるべく、次なる一手に取り掛かる。
ふわりと浮かび上がったアンブレラは、回転したまま足先をリーヴァルディに向け突撃! ドリルのように強烈な抉る回転に足捌き、直接の肉弾戦術こそアンブレラの切り札である。鎌の回転を自身の回転で相殺し、止まったところに蹴りを加える算段。そのまま蹴り抜いて離脱する二段構えの攻撃だ。
「あなたをトラッシュゾーンへ!」
――ゴウッ!!
捉えた!
アンブレラの口端が、にいっとつり上がる。
しかし――!
その目論見は外されることになる。足先は空を捉えて、何の感触もありはしない。
「……限定解放。お楽しみの処、申し訳ないけどここから先はずっと私のターンよ」
残念、と呟く彼女。アンブレラは見た。彼女が閉じていた片方の目が、煌々と赤く輝く様を。美しくも狂気的な、夜空に浮かぶもう一つの月。月は全てを狂わせる。心も、勝算も、あらゆるものを破綻させる……!
「…この動き、見破れる?」
メコ……と視線だけが辛うじてその動きについていくが、体はまるで追いつかない。結果、振り下ろされた大鎌がゆっくりと肉体に食い込み、さらに勢い任せに地に叩きつけられる様がスローモーションに映るだけだ。何も、言い返せない。
――ズッ……ドォン!!
「ぷげ!?」
くのじに折れ曲がった体が、ぴくぴくと痙攣している。紫の双眸がその様子を油断なく見つめ、今。
「……ぐぐ、ぐう、カードは、簡単に破れないー! そ、してそして」
「…そして?」
「よくも、みたなぁああー?! わた、わたしの、わたしの手札(スカート)をををッ!!」
逆撃とばかりに蹴りかかる。ぶぉんと風を切って繰り出される蹴り技は、当たれば確かに高威力だろう。しかし、血の翼をはためかせるリーヴァルディからしてみれば児戯。
そこで彼女は少々ばかり気になるものを見とめる。きらりと輝くもの。カードが月光を反射した、わけではないようだ。よく目を凝らすと、黒洞洞とスカート状の部位の内部に、白く煌めく牙が生え揃っているではないか。なるほど合点がいった。手を広げている女性のような箇所は擬態で、この口、この部位こそが本体だったのだ。恥ずかしがるのは羞恥心、大口を開けて喰らい付くことを恥じらう女性ならではの感情、といったところか。
合点はいったが、納得はできない。
「…そんなに見られるのが嫌ならズボンを履けば良いのでは? …もっとも、お預け、だけど」
ならばたらふく食らわせてやろう、斬撃を。振り下ろして一撃。怯んだところにさらに追撃。ギザギザに生え揃った牙を丁寧に、撫でるように鎌の研磨を加えていく。物騒な鋭利さを削ぎ落とすように念入りに、醜く歪んだ食欲に裁きの鉄槌を。二度三度四度、何度も何度も、何度も何度も振り下ろす。
がっ、ぶげっ、と苦悶の叫びをあげていたアンブレラは、もはや耐えきれないと這々の体で逃げ出した。取り逃した、というわけではない。もといあれらもまた被害者だ。トドメを刺してしまっては寝覚めが悪いというもの。再び目を閉じて夢想する。
――やはり狩るならばヴァンパイアだろう。この度の戦場、戦争にて仇敵と巡り会えるはずもなく、嘆息する背中はいつもより小さく。使命に燃える心は燻るばかりでフラストレーションが募るのみ。振り上げた刃は、突き立てる先を今か今かと待ち侘びる。手番が巡っても、報われず悲願は達せられない。
懐から拾い上げたトランプが滑り落ちた――ダイヤの9。
……その意味は、『満たされない心』。
大成功
🔵🔵🔵
怨燃・羅鬼
くふふ☆最近のアイドルのトレンドはTCGも嗜むこと!
ということでらきちゃん☆TCGアイドルな貴方にTCG羅射武バトルを挑むよ☆
葬!世はまさに哀処流戦獄時代☆歌や踊り、容姿だけじゃ生き残れない☆
『空中浮遊・機動』
ふわっと空を飛んでカードバトル☆バイクに乗ったりするし普通普通☆
相手のカードの猛攻をクルクルっと『ダンス』で流してカードを貼り付けたファラリスくんをクルリと振り回して一掃☆グレイズ&喰らいボム
カードに怪炎で火を付けこっちもお返しの弾幕だぁ!
相手のUCにはこっちもお返し☆同じく回転のぶつかり合いで勝負だね!
カードバトルは回転が命!つまり、これに勝った方がTCGアイドルだぁ☆!
トリテレイア・ゼロナイン
キマイラフューチャーでの戦闘でカードゲーム等の札遊びにも覚えはありますが…やはり騎士としては此方の方が性にあっておりますね
さて、そろそろ私の手番に移らせて頂きましょう
頭部、肩部格納銃器を展開し放たれるカードに対し●乱れ撃ちスナイパー射撃で武器落とし
事前に背中にドローエンジンならぬ給弾装置を装着しているので手札…弾が尽きる事はないでしょう(防具改造+継戦能力)
脚部スラスターの推力移動で接近し近接戦
飛び上がって大口を…?
少々淑女の行いとは言えませんね
UCを射出し●騙し討ち
●操縦する隠し腕のワイヤーでスカートを絞って口を封じ拘束
スカートの下はみだりに晒すものではありません
ワイヤーを巻き取り剣を一閃
――キュイイン……!
「ほう…….」
駆動音にしか聞こえない、決して悟られない嘆息ではあるが、強固な装甲の内でトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、確かに目を見張った。手のひらに乗るサイズでありながらその光沢、絵柄、世界観を感じさせるフレーバーテキスト。なるほど、ここにロマンを求め盲目的に収集するものがいてもおかしくはない。騎士は人の道を尊重する。ゆえにこういう「決闘」の道もまた、アリなのだろう、と。
「しかし、此度は……やはり騎士としては此方の方が性にあっておりますね」
「らきちゃん☆コラボは大歓迎☆ うんうん☆くふふ! 今のトレンドはやっぱりTCGアイドルだね☆」
トリテレイアの大型シールドに腰掛けパタパタ足をぶらつかせる怨燃・羅鬼(怒りの心を火に焚べろ・f29417)。
両手に扇のようにカードを広げては、内容を吟味している。くいと眼鏡を上げるような仕草は、彼女の無限の想像力が盤上の決闘者のイメージを象ったものだろうか。傍らのトリテレイアも最高(サイコ)な羅鬼の見る世界を及び知らない。
しかし、本来のTCGの戦いのあり方とは、斯様に賑やかなものだったかもしれない。キマイラフューチャーでの戦闘でも、確かそうだった。ならば納得する他ない。
「協力して作戦に当たることは承知です。先に斬り込んでいただいても?」
そんな先触れに羅鬼は頷くと、カードの海と化した戦場に飛び降りた。勢いでぱさっと舞い上がるカードの束が花吹雪のようで、上機嫌に目を向ける。
その先にいるのはアンブレラ。洋傘の西洋妖怪だ。そして――。
「らきちゃん☆TCGアイドルな貴方にTCG羅射武バトルを挑むよ☆尋常波瀾万丈☆」
「なにい!? トラップだとお?! わたしはいつのまにアイドルにぃーっ?!」
「倒ッ☆」
ぴょんぴょんとその場でステップを踏むと、ほぼ垂直なカードの束の塔に向かって登頂を開始する。うず高く積もったそれは羅鬼にとっては花道同然。練り上げられた脚力だけで踏み締めて、軽快なリズムに合わせて時折ポーズも織り交ぜて、勢い任せに駆け上がる。
(BGMはトリテレイア担当だ。事前に借り受けたラジカセのスイッチを押す。優しき騎士は時に寛容であり、律儀でもある)
カードの海の中、回っていたアンブレラも歌い踊りながら向かってくる存在は想定外だったのか、ぴたりと止まると逆回転を始めた。気圧されたからか若干の及び腰だ。あるいは先の戦いで消耗しているからかもしれない。いずれにせよ、あっという間に肉薄、互いに触れられる距離まで近づく。
「せいやー」
「おっと☆」
――ドゴッ!!
わっと舞い上がる埃と紙片。アンブレラの先制、飛び上がってからのかかと落とし! しかしカードを伴って攻撃範囲を広げているせいか直線的な軌道だ。これをバック転で回避してみせる。無気力な声から放たれたとは思えない威力を地に刻み込みながら、当たることのない攻撃に思わず地団駄を踏む。
バク宙の勢いのまま空中浮遊の機動に移ると、逆撃の攻撃を繰り出す!
「ファラリスくん☆」
「なんとぉー?!」
「回転☆オマージュ☆くるりんぱー☆」
――ボウ……ッ!! ボボボボッ!!
「おあちちちち!」
「一掃、炎葬☆大演奏☆」
悲鳴のコーラスと共に、燃え上がる手札。アンコールはない。舞台が炎上したここが佳境、まさしくアイドル推し燃ゆ。サビと思しき部分に突入した戦況において、アンブレラもまた黙って燃やされてはいない。回転の勢いで炎を消しつつ、再び蹴り……否、否だ!
「見るな見るな、見たな見るな見たなぁー! わたしの手札(スカート)を、み、み、みみーッ!!」
がぱと下半身を大きく広げ、隠された大顎を広げる。大口を開けた淑女らしからぬ食いっぷり。確かにその中身は、だらりと涎を垂らした舌と牙は、進んで人に見せるものでもなし。むしろ恥じらって当然だろう。炎で焦げているとはいえ、カードの旋風を撒き散らしながら迫る姿は驚異的だ。
鉄牛ごと食いちぎらんと迫るアンブレラに影が割って入る!
――ガキィイイィイン!!
火花が散る。金属が削られた甲高い音と、散光!
「さて、そろそろ私の手番に移らせて頂きましょう」
「わたしのターン、エンド? エンド、エンドしなあぁあい!」
「ならば撃ち合いですね。この距離なら……」
早抜き勝負だろうか。黒き口腔、喉奥からカードが噴き出すが、そこに対し頭部、肩部格納銃器を展開、鋼弾を乱れ打ちにて対処する。トリテレイアは周到にも給弾装置、アンブレラの言い方に倣えばドローエンジンを搭載してきた。いかに無限に思えても、アンブレラのリソースには限界がある。そう踏んだのだ。そしてその読みは当たる。大口を開いてカードを繰り出し続けてきたアンブレラの攻勢は、前触れなく止まった。ならば弾の行く先はどこか。
――ガガガガガガガガッ!!
「あがががごが?!」
「ご期待に応えられましたか?」
「あごぉ!」
撃ち抜かれた喉。そこにとどめとばかりに剣を抜き放ち、突きを仕掛ける! がこれは躱される。
満身創痍ながら飛翔したアンブレラは、転身の地に空中を選んだのだ。体を膨らませて、なんとか退避を、と猛烈な勢いで上昇していく。
「闘争☆じゃなかった逃走? らきちゃんショック☆」
「いえ……フィナーレです」
急上昇したアンブレラが、何かに吊られるようにしてビキリと止まった。信じられないといった様子で目を白黒させる。回転も止まってしまった。まるで空中に縫い付けられてしまったかのようだ。
どんな魔法か、神通力か、その答えは存外単純なものだ。言うなれば、そう、テキストに書いてある。――自分の浮力よりも重いものを持ち上げることはできない! 月光の降り注ぐ中に、一際目立って煌めく、細く艶やかな数本。
天上に繋がる蜘蛛の糸のように真っ直ぐ、しかし決して切れることのない頑健なワイヤーが絡み付いている。アンブレラに巻き付いた、がっちりと強固な拘束。《両腰部稼働装甲格納型 ワイヤー制御隠し腕》を銃撃の最中に起動していたのだ。弾と札の撃ち合いなどカモフラージュに過ぎぬ。言い換えれば、戦いは初撃で決まっていた。決闘など所詮は出来レース。それを卑怯と罵る口も、アンブレラには開けない。
このワイヤーは特別製だ。ユーベルコードを破るほどの膂力がなければ、引きちぎるどころか抵抗するものを須く絡め取る無常の鋼糸。
涙声で懇願してももう遅い。戦いに巻き戻しの効果処理などないのだ。無常にもワイヤーが巻き戻され、アンブレラとトリテレイアの距離が再び詰められていく。天上から地上へ、己が散々に撒き散らしたカードの海へ、叩きつけられる。地でバウンドしたその肢体は、斬り刻むのにちょうどいい。
「見ろ、見ろ見せろ、見るな見て、み、うわ、うわわわわっ?!」
「スカートの下はみだりに晒すものではありません」
――ザン!!
一閃。
横なぎの斬撃が、怪異のライフを削り取る。
アンブレラから骸魂が引きはがされ、消滅した後には元の姿に戻っていく――。
……ターンエンド。無限に思えた回転は止まり、戦況が巡る。
騎士と歌姫の凱旋だ。
いざ、次の戦場が待っている――!
大成功
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