14
大祓百鬼夜行⑥〜君よ桜に眠れ

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#カクリヨファンタズム
🔒
#大祓百鬼夜行


0




「桜の下で眠りたいと思ったことはあるかい」
 書物の仮面(怪奇録・f22795)が誘う。

 薄い花びらが降り積もるところに体を横たえて。
 ひっそりと瞳を閉じてみる夢はさぞ美しかろうよ。
 眠る君はそのうち桜吹雪に埋もれていくのだ。
「ほら、花の衾の喩えもあるさ」

 魂と肉体を癒やす桜に身を預けてみるのだ。
 戦場を忘れて、傷つき疲れた体を労ってみてはどうだい。
 木の枝で羽を休める小鳥のようにね。

「そんな君達を、桜だって愛でるのだろうよ」
 花見をすれば桜の力は強まり、オブリビオンを遠ざける。
 やがては幻朧桜の花吹雪が百鬼夜行を包み込み、戦力を削ぐだろう。
 これはその為の宴であり、休息なのだ。

「そう宴だ。宴めいた入眠儀式をしようじゃないか」
 軽くなにか摘んで、腹を満たしてから眠るかい。
 大人が寝酒をやるならそれもいい。
 ようく眠れるように、子守唄を歌う者も居るだろうか。
 目を閉じて微睡み交わす言葉は譫言混じりかもしれない。
「それぞれに楽しみ給え、心を落ち着けられるように」
 安心して眠るといい。
 君たちを脅かすものは近づいては来ないから。
 戦場は遠く、妖しい気配もしない。
 安心できないのなら。
 目を閉じて静かにしているだけでも、少しは休息になるだろう。

 仮面が導くのは猟兵たちの活躍により開かれた【幻朧桜の丘】への道。
 降り立てば桜花爛漫の眺めが視界をあでやかに染めるだろう。
 カクリヨファンタズムに咲いた、サクラミラージュの花。
 異世界より流れ着いた神秘の幻朧桜があなたを迎える。

 花の下臥し、暫しおやすみ。


鍵森
 お花見シナリオです。
 少し眠っていかれませんか。

●花見
 必要なものはなんなりとお持ち込みください。
 お好きなように過ごされてからお眠りくださればと思います。
 朝寝でも昼寝でも夜寝でも大丈夫です。
 特に指定のない場合は夜桜の元で眠る感じになります。

●プレイングボーナス
 よその戦争を無視して宴会する!

●採用人数
 採用人数が少数になる場合がございます。
 早期シナリオ完結を優先させて頂きますことご了承ください。
84




第1章 日常 『桜の下で宴会しよう!』

POW   :    美味しい料理や飲み物を提供する

SPD   :    巧みな芸を披露する

WIZ   :    桜の下で語り明かす

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

三岐・未夜
ジンガ(f06126)と

サクミラの桜がこんなとこまで出張……すごいね、良くぞ来てくれてたって感じ
んじゃ、とりあえず僕らはゆっくり寝よっかぁ

おいで、儚火
周囲の警戒はお前に任せるよ
……ん?だってジンガ、戦場遠くてもやっぱり多少は気になるでしょ?
どうせ寝るんなら少しは安眠して欲しいもん
ほらほらー、寝よ!
(ジンガを引っ張ってぼすんと自分のしっぽに埋める)(今日は星がひとつ欠けているから、その分は少しでも自分が、なぁんて)

ふたりで寝転んだら、秘密の話をするみたいにひそひそと話をしよう
微睡むまで、のんびりと
大切なひとたちのこと
新作駄菓子のこと
いっぱい、いっぱい

握られた手に頬を緩めて握り返し
おやすみ、ジンガ


ジンガ・ジンガ
未夜(f00134)と

ほんと、スッゲー桜ァ
イイじゃん、良いユメみれそーじゃん?

んェ?
どしたの、未夜
……、……そーね。ぶっちゃけ気になるわね
ありがと

生きるために染み付いたもの
鋭く研ぎ澄まされたもの
眠りの浅さ、危険へのアンテナ、etc…

今日は星がひとり足りないから
その分、俺様ちゃんが――とか思ってたのに
見透かされていることに、柔らかく目を細め
大人しく尻尾に埋め込まれ
……ああ、全く、この友は

ひそひそ話は他愛もないものばかりで
やれ、あの店のテイクアウトが美味かっただの
自分達の団地に住まう、面白おかしい他の住人達の話だの
うとうとするまで話し込む

瞼落ちる間際
お先に失礼する前に、やんわり手握り

おやすみ、未夜



 桜の林をそよぐ風に仄白い薄花びらが舞い、光景はやはりどこか神秘を帯びていた。
 異界を渡りこの地に根ざした櫻花はなにを思って咲いているのだろう。
 サクミラの桜がこんなとこまで出張……。
 と、桜の幹に手を置いて、三岐・未夜(迷い仔・f00134)は感慨深げに呟いた。
 世界を賭けた戦争の最中、思いもよらぬ味方が現れたものだと、その事が嬉しくて、頼もしくて。
 そうした気持ちが、あたたかな声にも籠もっている。
「……すごいね、良くぞ来てくれてたって感じ」
「ほんと、スッゲー桜ァ」
 隣のジンガ・ジンガ(尋歌・f06126)もあたりをぐるりと見回して、からりとした笑みを浮かべる。
「イイじゃん、良いユメみれそーじゃん?」
 桜の梢の向こうに見える夜空に星影がちらついて。
 星と桜の下で眠るのならば、ここにはいない誰かの面影も夢に現れるだろうか。
「んじゃ、とりあえず僕らはゆっくり寝よっかぁ」
 二人は気に入った桜を選び、その木陰に腰を下ろした。
 周りに人の気配はなく――かといって寂しい風情でもない、心地の良い静けさがある。
 準備をしよう、と未夜は狐を喚ぶ。
「おいで、儚火」
 現れたのは大きな黒狐。先が白い尻尾を一振り、心得たようにその場に座った。
「んェ? どしたの、未夜」
 ジンガは瞳を瞬く。なにか気になることでもあって儚火を喚んだのかと。
 けれど、尋ねる視線に未夜はただ緩く首を傾げてみせた。
「……ん? だってジンガ、戦場遠くてもやっぱり多少は気になるでしょ?」
 だから見張り番を頼んだのだと、安心させるような調子で声を紡ぐ。
 どうせ寝るんなら、少しは安眠して欲しいもん。
 その純然たる思い遣りに、ジンガの中に目眩にも似た思考が廻る。
「……、……そーね。ぶっちゃけ気になるわね」
 生きるために染み付いたもの。鋭く研ぎ澄まされたもの。
 眠りの浅さ、危険へのアンテナ、etc……。
 夜も眠れぬ理由なぞ、数え上げれば切りがない。それでも。
 誰かに守られて眠る夜があるのだと。
「ありがと」
「ん」
 未夜の手が、ジンガの手を握って。
「ほらほらー、寝よ!」
 ふさふさの尻尾に埋めてやるように引き寄せる。
 小さな子がお兄さん振るような仕草だと、柔く目を細めてジンガは大人しくそれに従った。
 ……ああ、全く、この友は。
 見透かされていると、思う。そして自分はそれが嫌ではないのだ。

 ひとつ足りない星の不在の分を自分が……と互いに気持ちは同じのようだった。

 はらはらと桜が降る。
 寝転んだ二人のひそひそとした秘密のやり取りだけが夜に溶けて。
 ああそれはまるで大人が知らない子供だけの時間のようだった。
 本当に他愛もないのんびりとした日常のこぼれ話を大事そうに、ぽつり、ぽつり。

「この間さ、あの店のテイクアウトが当たりだった」
「どこ?」
「金曜のランチが休みの店」
「……あー、わかった。あそこでしょ」
 思い出せているのに、店の名前がなかなか出てこないことに二人で小さく笑って。
「駄菓子のねー、新作出てたよ」
「夏限定の奴?」
「そうそう、塩レモン味」
 断片的なキーワードだけで成り立つ会話の心地よさたるや、かけがえもない。
「今頃、なにしてるかな」
「なにしてるかなァ」
 この話題は、なんどとなく繰り返された。星を見上げる度に思い出すから。
 それから、それから。と話したいことは尽きず。
 自分達が住む団地に暮らす面白おかしい住人たちも、度々話に上がるのだ。

 楽しい気持ちのまま、やがては微睡みがやってくる。
 うとうとと、瞼が重くなってきて。
 お先に失礼する前に、と。
 ジンガがやんわり手を握れば、未夜も頬を緩めてその手を握り返す。
 あたたかな手のぬくもりが二人を繋いでいた。

 ――……おやすみ、未夜。
 ――……おやすみ、ジンガ。

 桜の花びらに包まれて、唇だけが言の葉をささやく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レスティア・ヴァーユ
大祓百鬼夜行のはざま
…少し、休みたいとは、思っていた

心ひとつ―戦いのことも、考えず
いつも共にいてくれる親友のことも
こちらを過剰なまでに気に留める兄様についても
何も考えずに、ただ、眠ることが出来たらと思っていた
……心は、少し疲弊しきっていたのかも知れない

依頼で、このような話があるとは思わなかった
ゆっくりと幻朧桜の丘の元へと足を進める

満開の桜の、人気の無い中で一番豪奢な桜の元へ
まるで魅了されたように
樹に、ふらりと寄りかかり
誰かに見られたら情けない程に、
ずり落ちるようにその根元に腰掛け

こんなに魅入られても
敵に襲われることはない

桜を目にし―それはまるで
恋にも似た想いで
ゆっくりと瞳を閉じて
意識を落とした



 ひっそりとした夜に浮かぶ薄紅色の桜景色。
 白い翼を広げたレスティア・ヴァーユ(約束に瞑目する歌声・f16853)は静かに降り立って。

 大祓百鬼夜行、世界の命運を分ける戦いのはざま。
 気の休まる時なぞ、ないものだ。
 一瞬の気の緩みが命取りとなる、そうした生き方をしている。
 けれど……少し、休みたいとは、思っていた。

 いつも共にいてくれる親友のことも。
 こちらを過剰なまでに気に留める兄様のことも。
 何も考えずに、ただ、眠ることが出来たらと思っていた。

 こんな考えが浮かぶあたり……心は、少し疲弊しきっていたのかも知れない。
 深い、息を吐く。
 一人きりで此処へ赴いた時点で、きっと気持ちは決まっていた。
 それでも足取りはゆっくりと重く、頼りげもない。
 疲れていると自覚した途端に起こる胸の重みに溺れそうだ。
 親しく優しい人達から少しだけ離れたいと思ってしまった、これは罪悪感だろうか。
 なにも声にしたくなかった。言葉にしてはいけないようなことだろう、これは。

 人目を避けるように桜の林を奥へ奥へと進む。
 まるで桜に攫われていくようだ。それならいっそ自分を隠してくれと、レスティアは苦く笑んだ。
 やがて、どこをどう歩いたものか。
 櫻花を爛漫に咲かせた豪奢な樹の元へとたどり着く。
 はらはらと咲きこぼれる花びらが、花の帳となってレスティアを包むように風を流れた。
 その美しさに魅了されたのかもしれなかった。
 太い幹にふらりと寄りかかり、一度きつく目を閉じる。
 一際に大きく美しいこの樹なら、自分のことも覆ってくれるだろうか。
 ずるり、と体から力が抜けて膝から崩れるように腰を下ろして。

 お前にしよう。
 今宵、一夜限り花の宿に、お前を選ぼう。

 幹に凭れたまま、薄く瞼を開いて桜を眺める。
 誰にも見せられない、この情けない姿を晒しても。
 お前はただ傍に居てくれるのだろう。
 それはまるで恋にも似た――切ないような想い。

 ゆっくりと瞳は閉ざされ、意識が落ちていく。
 翼をたたんで身を包めば、その姿は桜に寄り添う白い鳥のよう。
 入り組んだ枝の下、今だけは何もかも忘れて眠るその寝姿を、空の星すら見ることは叶わない。
 物言わぬ大樹は、ただ櫻花を散らして彼に捧げるのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

忠海・雷火
別件の戦闘で忙しくて、戦争には出ていなかったのだけれど
その時点であまり気にしていないようなものだし、ここで休むには丁度良いんじゃないかしら

さて、夜桜を見上げながら温かい甘酒でも飲みましょう
然程寒くはないにしても、適度に暖まった方が眠り易いもの
……そういえば、今年は桜を見ていなかったわね
そんな事を思いながら、ゆっくり仰向けに倒れ込む

朝でも昼でも美しいけれど、花弁の色が夜闇に浮かび上がるのを見るのは好きよ
散る花弁の儚さも際立つようで、それも好き
眠るのが勿体ない気持ちになるくらいに綺麗……でも、舞い降りる花弁の揺れが眠気を誘う
抗い難くなってきたら、大人しく目を閉じて
見る夢は、穏やかな春の日々が良い



 一つきりの身体で駆けつけられる場所は限られている。
 無数の世界を駆ける猟兵なら、尚更そのことを意識せざるを得ないだろう。
 数え切れない選択を迫られる日々の中で、自分にできる限りをしている。
 そんな彼女だから、この案件に相応しいのだ。

「他の戦場を気にするな、そういう事なら丁度良いんじゃないかしら」
 大祓百鬼夜行と呼ばれるこの戦争も、別件が忙しくて出ていなかったから。
 そもそも気にしていないようなものだし、と肩の力を抜くように呟いて。
 爛漫の桜が舞う夜。美しく神秘的な景色に導かれようにして。
 忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)は、幻朧桜の丘をそぞろ歩き、眺めの良さそうな場所に足を向けた。
「ここら辺にしようか」
 なんとはなしに居心地の良さそうな木の近くに腰を落ち着ければ、ささやかな宴のはじまり。
 まずは一献。なんて、温かい甘酒を飲んだなら。
 心が落ち着くような素朴な甘みと熱がじんわりと五臓六腑に染み渡って。
 用意してきてよかったと、口元も笑みにほころぶ。
 この場所は然程寒くはないようだけど、きっと体を暖めた方が眠りやすい。
 甘酒を一口ずつ飲んでいると、目線はついでに上を向く。
 見上げた夜桜は空一面に広がるように枝を広げて、咲き誇る櫻花がまるで天蓋のようだった。
 ……そういえば、今年は桜を見ていなかったわね。
 じっとただ花を見上げるような時間も久しい。
 多忙な内に気がつけばもう、桜の時期も過ぎて季節が移り変わろうとしている。
 急かされるものでもないのだから、今夜ぐらいは、悠々と甘酒を楽しんでしまおう。
 くつろぐのも仕事の内。

 やがて杯を空け終え、雷火は降り積もる桜の花びらの上に、仰向けにゆっくり倒れ込むように寝そべった。
 はらはらと降る薄花びらをぼんやりと目で追う。
 朝でも昼でも桜は美しいけれど、淡く白い花びらの色が夜闇に浮かび上がるのは好きだった。
 夜の静けさに散る花びらの儚さも際立つようで、それも好き。
「眠るのが勿体ない気持ちになるくらいに綺麗……」
 眺める幻朧桜の風景も、この時だけは雷火だけのものだった。
 心ゆくまで眺めていたいのに、やがて舞い降りる花弁の揺れに眠気を誘われて。
 抗い難くなるまで景色を映した赤色の双眸も、ゆるりと瞼を閉じていく。

 雷火は穏やかな春の日々を夢見るだろう。
 うららかで、やさしい、そんな夢を。
 せめて今宵だけは。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜鳥・藍
WIZ
花の衾、素敵ね。
母に宿る前、私は幻朧桜に抱かれてたのかしら。そして月満ちて両親のもとに生まれたのかな。私は満月の日に生まれたらしいし。
桜の元で眠るなんてサクラミラージュでもあまり経験ないし。……信頼できる方と一緒に行動なんてしないからかもしれないけれど。そもそも信頼できる人なんてできるのかしら。
そっと目をつぶり木に身をゆだねて。

一つ一つ強くなるたびに、自分の死期が近づいてきてる気がして不安だったけど。でもまたこうして桜に抱かれるのなら怖くはないかも。
どうせ人はいつか死ぬ。きっと生命の埒外になったと言われる猟兵だって同じだわ。いつか終わりは来る。
その時を怖がらなくていいようになりたい。



 私達は流転する。
 生きて死んで生きて死んで。少なくともそれを一度、経験したのだ。
 空の月が沈んで巡ってまた昇るように、そうやって生まれてきたことを識っている。
 だからこそ月が欠けていくように私達もまた一歩ずつ死に近づいているのだと思う。
 けれど次に死んだらどうなるのだろう。
 月が満ちた時にまた、生まれ変わるのだろうか。
 ねえ。と呟いて前夜鳥・藍(kyanos・f32891)は桜の前に立って幹に寄りかかる。
「母に宿る前、私は幻朧桜に抱かれてたのかしら」
 語る言葉は、ゆっくり紡がれた。
 さやさやと梢が風に揺れる音がして、散り舞う桜の花びらが髪に止まる。仄かに青い白銀の髪は冴え冴えと彼女の顔を縁取り、月光めいた貌が惺々と夜に映えた。
「そして月満ちて両親のもとに生まれたのかな。私は満月の日に生まれたらしいし」
 まるで月の申し子のような生まれではあるけれど。
 夜に一人。
 桜の元で眠るなんて。
 故郷のサクラミラージュでもあまり経験がない。年頃の娘が野外で寝そべるなぞ、普通はしないものだ。……それとも傍に信頼のある相手がいれば話は別だろうか。
 心許せる守り人。無防備な寝姿を見せられるような、そんな相手がいたならもしかして。
 他愛もない空想をして、藍はくつりと喉を鳴らして笑った。
 ――……そもそも、そんな風に信頼できる人なんて、できるのかしら。
 大きな潤いのある瞳は、濃藍の宇宙に煌めいている。この身が藍晶石である証。この瞳がある限り、他者からの視線に慣れずにいる。
 それでも、物言わぬ桜の木ならば信じられるだろうか。
「私は怖がりだから」
 今宵だけは幻朧桜に身を委ねてみよう。
 木の根元のくぼみに埋まるように体を丸めれは、不思議な温もりに包まれたような気がした。
「抱きしめていて」
 母の胎に宿る前のようにそうしてくれたなら、怖くはないかもしれないから。

 どうせ人はいつか死ぬ。生命の埒外になったと言われる猟兵だってきっと同じ。いつか終わりは来る。
 一つ一つ強くなるたびに、自分の死期が近づいてきてる気がして不安だったけど。
 その時を怖がらなくていいようになりたい。

 願う彼女の身体にしんしんと桜の花びらが降り積もっていく。
 やがては桜の帳に優しく包まれるのだろう。
「……花の衾、素敵ね」
 口元に笑みを漂わせて、藍はそっと目を瞑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベルウェル・メイ
あら 故郷でこの桜を見ることがあるなんて
桜の下 積もる花びら
その上で眠るなんて 素敵ですこと

幻朧桜のそばにふわりと浮かび
持ち込んだ果実を摘んでゆるりと過ごす
水がなくとも平気です 猟兵ですもの

爛漫の桜に夜のとばり
百鬼夜行なんて嘘のよう
過ごしていれば瞼が少しずつ重くなって
浮かぶ力も抜け 宙より降りて
ふわり落ちた花びらの上
横たわれば柔らかく 肌をくすぐる感触

ああ 髪も服も鰭も花まみれです
思わず笑ってしまいます
花の上で眠る ロマンチックな事だと思っていたのに
思っていたのと違いましたわ
童心に帰るような そんな楽しい気分です

ではおやすみなさい
良い夢が見られますよう願い
瞼を閉じて

(アドリブ 連携 全て歓迎)



 ふわりと優雅に金魚めいたあやかしが桜並木を浮遊する。夢幻的な光景に、目にした者は自分は水の中にいるのかと惑うだろうか。風に広がる長い髪やフリルのような尾鰭がゆらゆらと揺蕩うさまが、ありもしない波を思わせるのだ。
 夜の静寂に、クスクスと小さな笑い声が泡沫のように漂っている。
 あら、あら。と愛らしい瞳を瞠って、ベルウェル・メイ(十三月・f33145)は桜を眺めた。
「故郷でこの桜を見ることがあるなんて」
 神秘の幻朧桜はどのような故あって、異界を渡ってきたのだろうか。
 魅せられて、惹かれて、この地に根を下ろしたというのなら麗しいこと。
 軽やかな仕草で長く伸びた枝の上に降りると、ベルウェルはしばらくあたりの景色を眺めた。
 ゆるやかな傾斜をもった丘を覆う桜の花はまるで薄紅色の雲のごとく。
 はらはらと散り零れた花弁に地面も桜色に染められて。

 爛漫の桜に夜のとばり。
 百鬼夜行なんて嘘のよう。

 懐から取り出した赤い果実に口づける。小さく噛んでやると、瑞々しい甘酸っぱさが口の中に広がった。
 寝しなに食むなら水菓子がよい。
「桜の下、積もる花びら……その上で眠るなんて、素敵ですこと」
 果実の蜜で喉を潤し、その時を待ってのんびりと過ごしたのなら。
 やがてしのび寄る微睡みにもあらがわず身を任せて。
 そのまま後ろへ倒れ、枝を滑り落ちるベルウェルはゆっくりと地上へ落ちていく。まるで水の底に沈んでいくようにゆらゆらと静かに。その顔に浮かぶのは、戯れるような笑み。
 とさり、と幽かな着地の音。
 降り積もった桜の花弁の上にベルウェルが落ちて、花弁が水飛沫のように舞い飛んだ。
 散りかかる花を受けて横たわれば、柔らかな感触に肌をくすぐられて。
 どうやら全身くまなく桜にまみれた姿となったのだとゆるゆると自覚すれば可笑しくなった。
「ああ 髪も服も鰭も花まみれです」
 これではまるでお転婆な幼子のようだ。
「ロマンチックな事だと思っていたのに――思っていたのと違いましたわ」
 けれど、落胆した訳でもない。
 まるで童心に帰るような、楽しい気分。
「ふふ、あは、は」
 そのままひとしきり身を震わせてあどけない笑い声を上げてみた。
 どうせ聞いているのは桜ばかり。
 はしたないと嗜めるものも居ないのですから。
「……もう、眠りましょう」
 脳を蕩かすような眠気に瞼は重く、閉じられていく。
「――……おやすみなさい」
 桜のゆりかごに抱かれながら、良い夢が見られますよう願いを一つ。

 寝顔にはうっすらと微笑み。
 一枚の薄花弁が、その頬を撫でるように落ちていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒葛・旭親
幻朧桜の下で眠れば佳いのかい
僕にとってはいつもの事だ、
其れで此の世界を救う一助になるなら喜んで

夜更けに参じて朝まで呑もうか
桜酵母の酒にもし興味がある方が居ればどうぞ一献
夜に眠れないひとが居るなら【影鬼】で微力ながら安らぎを提供しよう
夜が恐ければ付き合うよ
僕は夜こそ活動時間だしね

ひとり酒なら其れも佳い
桜に背を預けて其の花を見上げるよ
やあお前さん、如何して世界を渡ったのかな
この世界で見たいものでも有ったのかい?
──なんてね

朝方には眠くもなるだろう
羽織纏って刀は手放さぬまま
おやすみなさい
何処の世界のお前さんも、
やはり僕には心地佳い



 もしも夜を恐いと怯えるものが居たのなら。
 夜更けの暗がりを連れて、一人の鬼がやって来るのだろう。
 朝が来るまで付き合うと、柔和な笑みを湛えながら優しい声で囁くのだ。

「朝まで呑もうかと思ってね」
 桜酵母の酒だ、と御猪口に冷酒を注いで。
 太い桜の幹に背中を凭れかかって、黒葛・旭親(角鴟・f27169)は体を寛がせた。
「僕は夜こそ活動時間だし、あいにく眠たくもない」
 だから気兼ねはしなくていいのだと云うように、御猪口を口にやる。
 酒は、しっとりと風情のある味わいがした。澄み透るような余韻が心地よい。
 仄白い桜の花弁がはらはらと風に流れていく。
 静謐な夜だ。
 沈黙を遠ざけるように旭親は唇をひらく。
「幻朧桜の下で眠れば佳いと聞いてね。それは、僕にとってはいつもの事だった」
 他愛もない口調で旭親は言葉を紡ぐと、落花のかかる褪せた金の髪を揺らす。
 黒曜石の色をした影に、花が零れた。
「其れで此の世界を救う一助になるなら喜んで、と馳せ参じた」
 首を傾けて、流し目に幻朧桜を見上げた琥珀色の瞳が星のように光る。
「なあお前さん、如何して世界を渡ったのかな」
 かつての妖怪達のように、誘われたのか。
 それとも。
「この世界で見たいものでも有ったのかい? ──なんてね」
 尋ねる声にまさか答えがあるはずもない。戯れだ。
 笑ってまた一口、酒を呷る。

 夜に佇むこの男は恐ろしくはなかった。しかし足元にある影は夜よりも深い色をして、その輪郭は時折揺らめいているような気がした。この影は夜の中に混じり、眠れぬひとに安らぎを与えるのだよ。そのように聞かされて、妙に納得をしたものだ。ゆらゆらと虞が解けていく。酒の味と香りに酔いもしたのだろう。ああ、それは良い酒だった。
 月が沈んで暁闇が辺りを包んだ。一段と深い闇の中で、琥珀色の瞳が光っている。
「お前さんも、もうおやすみ」
 投げかけられた声の先には、地面の上に置かれた空になった御猪口がある。

「さて、夜が明けたな」
 空が白むのを見上げてから、そろそろ寝ようかと、あくびを一つ。
 羽織を纏って携えた刀を手放さぬまま、幹に凭れたまま瞼を閉じて。
「おやすみなさい」
 何処の世界のお前さんも、やはり僕には心地佳い。
 朝日を浴びて輝く幻朧桜の下、鬼は一人しずかに寝息を立てはじめる。
 舞い散る薄花びらが、そよりと彼の角にとまった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城野・いばら
わぁ、お日さまの光がきもちいい
胸いっぱい、自然の空気を吸ったら…ほっとして
大きな桜さんにご挨拶してから
その根元に腰を下ろす
直接地面に触れちゃうと
そのまま根付いてしまいそうで

先の戦いで傷付いた腕
未だ人型に戻れないソレを袖で覆う
再生能力があっても
魔力がなければできなくて
正直、ココロもカラダもくたくたで
…土に帰りたい
思わず零してしまう

ふわりと、頭を撫でるように降る花弁さんは
慰めてくれているみたい
ありがとう桜さん
そうね、妖怪のアリス達が待ってるのだもの
弱音を吐いてはダメね
私も優しいこの世界が無くなるのは嫌
だから、頑張るわ

お月さんが昇るまで
休ませてもらっても良い?
幹に寄り掛かり
すこしだけ、おやすみなさい



 そこはあたたかいお日さまの光がいっぱいの丘でした。
 どこまでも広がる桜並木を歩いたら、澄んだ空気のなんと気持ちの良いことでしょう。
 胸いっぱいに息を吸うと、なんだかほっとして、薔薇の花は微笑みました。
 わぁ、お日さまの光がきもちいい。
 ごきげんよう、桜さん。あなたはずいぶん大きくて立派だわ。
 あなたの根元にお邪魔してもいいかしら。

 丁寧に挨拶をしてから城野・いばら(茨姫・f20406)は盛り上がった木の根元にちょこんと腰掛けた。
 直接地面に触れないように少し足を宙に浮かせるように気をつける。。
 そうしないと、そのまま地面に根付いてしまうかもしれない。
 大祓百鬼夜行。世界の命運を賭けた戦争は新たな局面を迎え、ますます激しさを増している。
 ココロもカラダも、何度も傷ついて、くたくたで。
 先の戦いで深く傷ついた腕も、未だに人型に戻れずにいる。
 再生能力はあれども魔力がなければそれもできない。
 ふとした時に覗くソレを服の袖で覆いながら、いばらは顔を曇らせた。
「……土に帰りたい」
 思わず零してしまった呟きに、自分でも驚いてしまった。
 今の声のなんと弱々しい響きだろう。
「いばらは……、……」
 そっと足を曲げ、地面を遠ざけて。言葉を飲むように息を吸う。
 ふいに。
 項垂れた頭に、ふわりとなにかが触れた。
 小さな桜の花びらが頭を撫でるように、はらり、はらりと散りかかる。
 ゆるゆると桜の木を見上げた瞳が嬉しそうに細まる、まるで慰めてくれているみたいだったから。
「ありがとう桜さん」
 幹に頭を寄せて、いばらは、ほころぶような笑みを浮かべた。
「そうね、妖怪のアリス達が待ってるのだもの。弱音を吐いてはダメね」
 あなたも、頑張っているのよね。
 この世界にやさしい桜吹雪を降らせようとしているのでしょう。
 それはきっと大変なことだけれど、諦めたりしないのよね。
「私も優しいこの世界が無くなるのは嫌――だから、頑張るわ」
 この世界での出会いは、傷つくようなことばかりではなかった。
 守りたいと、救いたいと、その想いがあったからこの足で歩いてこられたのだ。
 だからまた立ち上がろう、ずっと遠くまで駆けつけられるように。
 その為にも、いまはどうか眠らせて。
「桜さん、お月さんが昇るまで、休ませてもらっても良い?」
 小さな声で尋ねたのなら。
 風に鳴る草木のざわめきが、穏やかな波のように打ち寄せて、さやさやと何かを囁いたようだった。
 いばらは幹に寄りかかると心地よさそうに瞳を閉じていく。

 すこしだけ、おやすみなさい。

 桜の下でやわらかな陽射しを浴びながら薔薇が眠る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「幻朧桜の下でお昼寝…そう言えば、したことがなかった気がします」
目をキラキラ

青空の下レジャーシートを敷いて幻朧桜の幹に背を預け枝の隙間から覗く青空眺めつつ一口最中とお茶を楽しむ
他の人の入眠の手助けになると良いな、と思い、こっそりUCで子守唄も唄う

頭上の青を眺めたまま
「異界で幻朧桜になって、転生無き地に転生を導きたい…それが私の夢なんです。此の丘は、私の夢が叶った場所かもしれません。そう思うと、此処に居るだけで嬉しくて。それに、青空は私にとって何時でも希望と自由の象徴で。幻朧桜の下でお昼寝も、今まで思い付いた事もなくて。今日は嬉し過ぎて、なかなか寝付けないかもしれません…」
ブランケットに潜り込む



 青く晴れた空、なだらかな丘に広がる桜の林。
 爛漫に咲き誇る桜景色に、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)の心も喜びに躍った。
「カクリヨファンタズムに幻朧桜がこんなに咲いているなんて……」
 いそいそと花見の準備をしながら、桜花は嬉しげな笑みを浮かべる。
 微睡みを誘うようなポカポカの陽気、時折吹くそよ風も心地のよい、絶好のピクニック日和。
 木の傍にレジャーシートを敷いて、温かい緑茶と小さな一口最中を乗せた盆を用意したのなら。
 幻朧桜の幹に背を預けて座り、桜の天蓋から覗く青空を眺めながら甘味をいただこう。
「なんだか、ほっとしますね」
 のんびりとお花見。それが幻朧桜の力を高めるというのなら、喜んで楽しもう。
 もちろん眠るための準備だってしっかり用意してきている。
「幻朧桜の下でお昼寝……そう言えば、したことがなかった気がします」
 どんな寝心地がするだろうか。
 またとない機会に、緑色の瞳もキラキラと輝いて。
 嬉しくて嬉しくて、たまらない。そんな気持ちが全身から溢れている。
「少し、聞いて頂けますか」
 背中の桜へ語りかけるように、桜花は言葉を紡いだ。
「異界で幻朧桜になって、転生無き地に転生を導きたい……それが私の夢なんです」
 数多ある世界の中で、サクラミラージュにしか存在しない神秘の幻朧桜が、どのような訳合って別世界に流れ着いたのかは解らないけれど。この景色は夢見る自分にとても心強く。
「此の丘は、私の夢が叶った場所かもしれません。そう思うと、此処に居るだけで嬉しくて」
 それに。と見上げれば、枝花を伸ばして咲き誇る桜の向こうに高く澄んだ青空が広がっている。
「青空は私にとって、何時でも希望と自由の象徴なんです」
 手をかざして、青に触れるように指で宙をなぞれば、晴れ晴れとした陽光に手先が輝いた。
「こんな青空の日に幻朧桜の下でお昼寝、今まで思い付いた事もありませんでした」
 つくづくと今は自由なのだと思う。
 真昼間の丘で寝転ぶことも自分の意志で決められるのだから。
「今日は嬉し過ぎて、なかなか寝付けないかもしれません……」
 ほうっと息を吐いて、桜花は感に堪えないという面持ちで笑んだ。
 やがて。
 緑茶を飲み終え最中も食べてしまうと。
 柔らかいブランケットを敷いて中に潜り込む。
 仰向けに寝転んで見る空は、どこまでも青くて。
 桜の木に囲まれながら桜花は胸の中に熱いものが込み上げてくるような気がした。
 このままではきっと本当に眠れない。
 そっと唇をひらいて。
 桜花は優しい声で、唄いはじめた。
 それは眠れぬ者に捧げる子守唄。
 誰かの助けになればいいな、と思いを忍ばせて。
 目を閉じながら、楚々と唄を紡ぐ。

 すると桜吹雪が舞い起こり、唄声を風に乗せて飛んでいく。
 きっとどこかで傷を抱えた人を癒やすために飛んでいくのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雪白・雫
麗らかな陽射しの中も
きっと心地良かったでしょう
ただやはり…人目に触れながらは
些か羞恥心が…

夜ならヒトも然程多くは…と期待しつつ
それに涼しくて過ごしやすい、です

草木に触れぬよう浮遊しながら移動
人気の少ない場所を選び
持参した敷物を芝生に広げます

自然の中で横たわるのは
こんなに気持ちが良いこと、だった…?
…これが幻朧桜
薄紅の向こうに広がる星月夜ごと
ずっと、眺めていられます

遠い昔…帰る家さえもこの手で壊し
彷徨っていたあの頃
幾度も空を見上げて眠っていたのに
こんなふうに美しいと、感じませんでした

少しだけ、このまま…
今なら…夢に見ずに眠れる気がする、から

死霊と精霊へ
長く眠ってしまったなら
起こしてください、ね



 月明かりに藍色を帯びた夜に桜が満ちる。
 丘に広がる桜の林の風景は見事なもので、花一つにも神秘的な美しさを帯びていた。
 麗らかな陽射しを浴びたこの景色もさぞ美しいのだろう。
 けれど、やはり、人目に触れるのは些か羞恥心を感じてしまうから。
 こうして夜にひそりと訪れたのだ。
「夜ならヒトも然程多くは……」
 期待を込めて雪白・雫(氷結・f28570)は呟く。
 冷たい夜気を纏い、桜の影を地に足をつけず歩けば、水髪は細流めいて風に漂った。
「涼しい、です」
 頬を撫でる柔風に、雫は気持ちよさそうに目を細めた。
 草木に触れぬようにと、その体はふわりと浮遊する。
 人気のない場所を求めて桜の中を奥へ、奥へ。
 やがて花の宿にと決めたのは、丘の窪地となった場所。
 いそいそと草の上に敷物を広げれば、もう花びらが散りかかっていた。
 雫は草木に触れぬようにしていたけれど落花はその限りではないだろう。
「……かわいい」
 ふ、と小さく笑い。指先に花をつまむ。
 そのまましなだれるように傾けた体を、たおやかな所作で敷物の上に寝そべらせて。
 仰向けになって見上げた夜空と桜の光景にしばし見入る。
 自然の中で横たわるのは。
「こんなに気持ちが良いこと、だった……?」
 薄紅の桜が織り成す天蓋その向こうに広がる星月夜、神秘的な美しさを湛えた静寂。
「……これが幻朧桜」
 かの木々は魂と肉体を癒すのだという。
 それだから、この場所もこんなにも優しい気配をしているのだろうか。
 遠い昔……帰る家さえもこの手で壊し、彷徨っていたあの頃。
 幾度も空を見上げて眠っていたのに、こんなふうに美しいと、感じなかった。
 怖くて、不安で、物音の一つにも怯えていたように思う。
 暗闇の中から迫る気配に耳を澄ませ、それは人であれ獣であれ恐ろしいものだったから。
 帰る家もない、その侘しさに体を震わせたこともあっただろうか。

 少しだけ、このまま……こうしていたい。
 今なら……夢に見ずに眠れる気がする、から。
「長く眠ってしまったなら、起こしてください、ね」
 死霊と精霊へ、頼み。
 やがて雫はゆうるりと瞼を閉じていった。

 降り散る花びらがはらはらと、風の精霊と戯れるように舞い、眠る雫を飾り立てていく。
 水髪に、花筏が揺れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐那・千之助
クロト(f00472)と
アドリブ歓迎です

交わす盃は、優しい味わいの日本酒
寝酒…と言っても酒に酔わぬそなたに効果は無いかもしれぬが
気分だけでも良いものじゃろ?

彼は先の戦いで初めて真の姿になったばかり
だから消耗も激しいのではと心配で
疲れておらぬか?
身体の不調は無いか?
無いとわかれば安堵するものの
普段から休息が不得手な仕事人間の彼を
ここぞとばかり丁重に労りたい

櫻の幹に背を預け
おいで、と彼を膝枕に誘う
戦場では安眠できぬかもしれぬが
身体を休めることはできよう
私が見守っているから安心して
櫻が降るのを見ているだけでも癒されるじゃろう

彼の髪を撫で、幸せそうに見守り
…酒が回ってきた
少しだけ目を閉じよう…
(すや…


クロト・ラトキエ
千之助(f00454)と
(アドリブOKです

寝る場所を選べる程、真っ当な生業では無いですが。
ここで君と飲む一杯は……えぇ。
今眠れば心地良さそうだと思えます。
あー、寝酒についてはご明察。
でも……味と、浮かぶ花弁を楽しむのは、いいものですよ。

至って平常なのですが……
やたら心配されるのは、気を遣って下さってのことだと解るので。
あまり労われるのも擽ったいですし、
大丈夫ですって〜、とへらり笑って。
逆に、彼が酔ってないから心配したり……

思わず絶句したり。
膝枕?
君に、僕?
ここで!?
ツッコミつつ無碍にも出来ず、お言葉に甘えて。

人がいる所でなんて眠れない……けど。
力を抜いて只目を瞑る。
……先に彼の寝息を感じながら



 盃を満たす冷酒は仄かに甘い香りを漂わせる。
 桜の香気と相まって、それは風情に彩りを添えるようだった。
 夜も更けた頃、爛漫に咲き誇る桜の下で、二人きりのささやかな酒宴が始まる。

「寝酒……、と言っても酒に酔わぬそなたに効果は無いかもしれぬが」
 とくとく、と手酌で酒を注いでやりながら佐那・千之助(火輪・f00454)は嬉しげに笑う。
「気分だけでも良いものじゃろ?」
 その笑顔に釣られたように、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)も笑みを深めて頷いた。
「ここで君と飲む一杯は……えぇ」
 寝酒についてはご明察だけれど、と少し申し訳無さそうに肩をすくめれば。
 構わん、と千之助も首を横に振った。
「でも……味と、浮かぶ花弁を楽しむのは、いいものですよ」
 伏目がちに盃を眺めて、盃の水面に浮かぶ夜桜を揺らす。
 優しい味わいの日本酒は、千之助が持ってきただけあって美味だ。
「今眠れば心地良さそうだと思えます」
「うん。なら良いんじゃ」
 こういう機会がなければ、仕事人間の彼は中々くつろげまい。そうした思い遣りが千之助にはあった。
 それに加えて先の戦いで初めて真の姿となったクロトの体調も気遣わしい。
 消耗も激しかったのではないのか、と心配でならず。
 普段から気丈で休息が苦手な彼を、ここぞとばかりに丁重に労りたいのだ。
 とても丁重に労りたいのだ!(二度目)

「のうクロト、疲れておらぬか?」
「はい? ああ、大丈夫ですよ」
 最近どう? ぐらいの調子で尋ねられたのでクロトも無難な答え方をする。
 そうか。うんうん頷く千之助。
「ところで、身体の不調は無いか?」
「別にないですよ、この通り」
「そうか? なんかこうチクチクするところはないか?」
「いやいや、大丈夫ですって〜」
 クロトはヘラリと笑って、質問をやんわりと躱した。
 至って平常なのですが……。とは言うまい。
 やたらに心配されているのは気を遣ってのことだというのも解る。
 けれどあまり労われるのも擽ったい。ので、こちらも労り返してみようと。
「そっちこそお酒のペースが早すぎませんか」
「大丈夫じゃって、ところで最近疲れておらぬか?」
「さっきも同じ質問しましたよ。やっぱり酔ってますよね? 君?」
「冗談じゃよ、冗談」
 からからと笑ってまた盃を呷る千之助に、クロトは心配そうな目を向けた。
 (瞳は赤くないので、本当に冗談なのだろう)
「どうやら調子はよさそうか」
 歯切れのよい言葉の応酬に、千之助も安堵していた。

 ほろ酔いに酒を楽しめば、やがて眠るのに良い頃合いとなる。
 さて、と。
 櫻の幹に背を預けて座った千之助は、クロトと目を合わせながら膝の上を叩き。
「おいで」
 と、あたたかな声で誘った。
 対するクロトは瞠目して、まじまじと視線を返す。
 絶句したまま、思考が素早く廻る。なにが「おいで」なのか。しかしその仕草から導き出されるのは一つだけだ。
「膝枕?」
「そうじゃ」
「君に、僕?」
「そうそう」
「ここで!?」
「遠慮しなくてもいいんじゃぞ」
「えー、」んりょ。なのだろうか。これは。
 戸惑うクロトへ「のう」と千之助がやさしく声を掛ける。
「戦場では安眠できぬかもしれぬが、此処でなら身体を休めることはできよう」
 その声に込められた思いに気づかぬほど鈍くはなくて。
 クロトは二の句が継げず、目を反らしてへらりと笑って誤魔化すことも出来なかった。
 純粋な思い遣りに、存外自分は慣れていない。
「私が見守っているから安心しておやすみ」
 どうしたって無碍に出来ない、と。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
 クロトはにこにこと快く迎えてくれる千之助の傍に横たわって膝に頭をのせた。
 寝る場所を選べる程、真っ当な生業では無い。
 人がいる所でなんて眠れない……けど。
 それでも、今宵は。

「櫻が降るのを見ているだけでも癒されるじゃろう」
 はらはらと零れ散る桜の花びらが、漆黒の髪に散りかかり。
 まるで髪飾りのようだと、頭を撫でるついでに払ってやりながら。
 幸せそうに千之助はクロトを見守る。
 やがて静かに彼の瞼が閉じられたのを見。
 ……酒が回ってきた、少しだけ目を閉じよう……。
 と、自分もゆるゆると瞼を降ろしていく。

 力を抜いて只目を瞑ったクロトは、すやすやと千之助の寝息を感じて。
 静かに吐息だけで笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

丸越・梓
アドリブ、マスタリング歓迎

_

休む気などなかった筈だ
なのに気づけば此処に来ていた
(「──『まぼろしの橋』で、あいつと逢ったときに咲いていたのが桜…だったからだろうか」)
離れがたい、あの熱を追いかけるように。木の麓まで歩いてくれば、フと自身の弱さに自嘲した
休んでいる暇があるのなら、その時間を一人でも多くの人に与えたい。困っている人を救いたい。
…そう思って過ごしてきた
なのに
(「……」)
…身体が重い。そのまま幹に背を預け、座り込む。
刀を片腕の内側に抱え、深く溜息を吐く。
休んでしまってすまない、と誰かもわからぬ誰かにわびながら
眠りはしないけれど、強く吹き荒れた桜吹雪の内側で
静かに目を閉じた



 休んではいけない。
 一秒でも時間は惜しいのだから。
 眠ってはいけない。
 やらなければならないことが山積みなのだから。
 丸越・梓(月焔・f31127)は己を律し、決して懈惰を許さぬ人物だ。
 それは助けを求める人のため、救える命を取り零さぬようにするため。
 息継ぎ一つの手間が口惜しい。
 溺れるまで深い水の中で藻掻いて進まなくてはいけない。
 この身惜しさに救えた誰かを失ってしまったのなら――それは。

 月明かりに照らされた丘一面に広がる桜の花が、梓を飲み込むように迎える。

 休む気などなかった筈だ。
 なのに気づけば此処に来ていた。

 胸の奥から迫り上がる熱い塊を飲み込むように口元を抑えて。
 一度、二度、瞳をきつく閉じた。
 ――……。
 「まぼろしの橋」で、あいつと逢ったときに咲いていたのが桜……だったからだろうか。
 いまもまだこの世界に面影を探しているとでも云うのか。
 声も、姿も、触れた感触も、まだ残る内にと。
 馬鹿馬鹿しいと、一笑することが出来ない。
 風が吹いて、散った花びらを舞い上げて目の前を流れていった。
 もう戻れない。
 離れがたい、あの熱を追いかけるように、歩き出した。
 花の影に誰かを探すように視線はときおり彷徨い瞳は揺れる。
 居るはずもない。
 そんなことは理解っているのに、無意識に自分は。
 足を止めたのは大きな桜の前、梓はしばらく木陰に立ち尽くし。
 フ、と吐息で笑い自分の弱さを自嘲する。
 休んでいる暇があるのなら、その時間を一人でも多くの人に与えたい。困っている人を救いたい。
 ……そう思って過ごしてきた。
 なのに。
「……」
 自分を労れ。と耳の奥でかすかな木霊がする。
 身体が重い、と感じた。
 桜の木に背を預けてずるずると座り込む。
 携えた刀を内側に抱え、肺腑をえぐられたような深い溜め息を吐く。
「……すまない」
 休んでしまってすまない。
 誰かもわからぬ者たちに、ただ侘びつづける。
 強く吹き荒れた花吹雪が帳となって、内側にいるものを護るように覆っていく。
 静かに目を閉じたまま、眠ることはせずに。
 梓はしばしの夜籠りを過ごした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

桜の布団の上で眠るなんて贅沢だね、サヨ
愛しい巫女の隣、優しい春を思わせる桜花弁の上に横たわる

はらはらと舞い降りる花吹雪は私達を祝していてくれるようだ
サヨ、折角だから腕枕をしてあげようか?
柔い桜の香りと愛しい体温と重さと
幸が胸の裡に咲いていく
見上げれば宵空に桜、横には満開の櫻

私のために子守唄を?
とろりとくすぐる歌声は優しくて柔い微睡みをくれる
私の巫女は可愛いな
ねぇサヨ
私はまだ未熟だけど
ちゃんと立派な神になるからね

──なんの、神?って…まだ分からないけれど

噫、きみのように美しい桜を咲かせられる様になれたらな
私は枯らせること、しか……

桜の下で愛しいきみとずっと
こんな幸福な眠りは、何時ぶりだろう


誘名・櫻宵
🌸神櫻

ふかふかの桜布団が心地いいわ
角の桜も満開に咲いていく

思いきり伸びをして私のかぁいい神様の方を見る
そうね、フラワァシャワーのよう

腕枕?してもらお
猫のように身を寄せて、ころころ神様に甘え出す
たまには私もカムイを甘やかしたい

子守唄を歌ってあげる
童子にするように銀朱の髪を撫でて抱いて
…ありがとう、込めるのは感謝
大好きよ、込めるのは愛
ずっと一緒に、込めるのは願い

カムイは立派な私の神様よ
なんの神になりたいの?

私を咲かせるのは何時だって、優しい愛だと決まっている
カムイは幸を咲かせるのが上手

あら?寝ちゃった?
優しく瞼に口付けを
眠るならこんなにも美しい─桜の下がいい
幸に溺れるよう微睡み眠る

おやすみ、神様



「桜の布団の上で眠るなんて贅沢だね、サヨ」
「ええ、カムイ」
 優しい春を思わせる桜の花びらの褥。
 そっと寄り添い横たわって、朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)と誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は笑みと囁きを交わした。
 はらはらと舞い降りる花吹雪は、二人を覆うように散りかかり花の帳となる。
「私達を祝していてくれるようだ」
「そうね、フラワァシャワーのよう」
 桜布団の心地よいこと、と思い切り伸びをしてから櫻宵は小さく鈴を転がすような笑い声を立てた。
 その美しい桜角の先も満開に咲いていく。ああ、一番綺麗な愛しい桜、とカムイも微笑んで。
「サヨ、折角だから腕枕をしてあげようか?」
「腕枕? してもらお」
 おいで、と腕を広げて頭の下に敷いてやれば、櫻宵も猫のように身を寄せて、ころころ神様に甘える。
 けれどたまには私もカムイを甘やかしたい。とも思うのだ。
「カムイ、子守唄を歌ってあげる」
「私のために子守唄を?」
「そう」
 見つめ合ったまま、櫻宵の指がカムイの銀朱の髪を撫でて。
 唇が蕾のように花開いて紡がれる唄声は、とろりと胸をくすぐるような優しい響き。
 ……ありがとう、込めるのは感謝。
 ……大好きよ、込めるのは愛。
 ……ずっと一緒に、込めるのは願い。
 歌に込められた想いは、カムイを心地の良い微睡みへ誘う。
「私の巫女は可愛いな」かすれた声でカムイが呟く。
 ねぇサヨ。
 なあに。
「私はまだ未熟だけど、ちゃんと立派な神になるからね」
 まるで幼い子が約束するような言葉、櫻宵は優しく頷く。
「カムイは立派な私の神様よ」
 そう言われても、カムイはまだ納得をしていないようだったから。
 あやすように髪を撫でながら、尋ねるのだ。
「なんの神になりたいの?」
 虚を衝かれたカムイは息を呑んで、一瞬言葉を失う。
「──なんの、神? って……まだ分からないけれど」
 立派な神。
 それはきっと。
「噫、きみのように美しい桜を咲かせられる様になれたらな」
 私は枯らせること、しか……。胸裏に浮かんだ言葉を飲み込んで、カムイは無意識に唇を噛む。
 ツ、と細くて白い指がその唇に押し当てられて、
「私を咲かせるのは何時だって、優しい愛だと決まっている」
 真っ直ぐに愛おしげな眼差しをカムイに向けて、櫻宵は微笑む。
「カムイは幸を咲かせるのが上手」

 そうしてあたたかく抱きしめたのなら、その腕の中でカムイの瞳はゆるゆると閉じられていく。
 桜の下で愛しいきみとずっと。
 こんな幸福な眠りは、何時ぶりだろう。
 甘えるように一度だけ、頭を擦り寄せたのは、夢うつつであったからか。
 まるで猫のようね、私のかぁいい神様。
 どこか嬉しそうな声を聞きながら、意識は眠りに落ちていく。

「あら? 寝ちゃった?」
 そうっと、ひそやかな声をさせて。
 無防備な寝顔を瞳の中に収めてから、起こさぬようにゆっくりと。
 眠る瞼に優しく口付ける。
 幸せに溺れるような心地に目を細めて。
 櫻宵も、やがて静かに瞳を閉ざしていく。
 眠るならこんなにも美しい─―桜の下がいい。

 おやすみ、神様。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

愛昼禰・すやり
わあ〜、こんなに綺麗な場所で眠って良いのぉ?
んふふ、うれしいなあ
いつでもどこでも眠れるけどぉ、きれいな植物の側は、やっぱり良いよねえ
それが癒しの花なら、もっと素敵よう

よろしくねえ、と桜を撫ぜて
ごろん、丸くなる
ひとりはさみしい、けれど、ひそやかにひとの気配がする
ああ、ああ…みんなみんな、ずっとずぅっと、一緒に眠れたら良いのに
そうしたらきっと、さみしくないのに…
ひとりぼっちにしないでよう…
いつも感じる心の隙間
だけど今日は、桜が寄り添ってくれるから
睡魔にも浸せない空洞が、少しだけあたたかい気がする

いつか、わたしと一緒に“眠って”くれるひとが見つかったら、
この桜の下を、永遠の茵にしたたいくらい…だ…



 桜花爛漫に咲き誇る幻朧桜が丘一面に広がって。
 ぬばたまの夜を彩るように、仄白い花びらがはらはらと降っている。
 異界から参った桜達はなにを思ってこの地に根を張ったのか。
 さみしくて流れてきたのかもねぇ、なんて思うのは誰の所為。

「わあ〜、こんなに綺麗な場所で眠って良いのぉ?」
 満面に喜色を湛え、愛昼禰・すやり(13月に眠る・f30968)は両腕を広げて笑った。
 くるり、くるり、と戯れるようにその場で舞うように回ってみせる。
 どこもかしこも桜に囲まれた花宿の光景に白い瞳は煌めく。
「んふふ、うれしいなあ」
 いつでもどこでも眠れるけどぉ、きれいな植物の側は、やっぱり良いよねえ。
「それが癒しの花なら、もっと素敵よう」
 寝心地もきっと良いにちがいない。
 ふやふやに蕩けそうな眼をして、寝場所を決めたのなら。
「よろしくねえ」と、桜の幹を撫でて。
 花弁の積もる地面に体を横たえると、ごろん、と猫のように体を丸める。
 そっと瞳を閉じれば、風に揺れる梢の音がよく耳に響いた。
 自分の体を抱きしめるように膝を抱えたその姿に、花びらがはらはらと降り積もっていく。
 夢うつつに、周囲の気配を感じ取りながら、すやりの口元に薄く笑みが漂った。
 ひとりはさびしい。けれど、ひそやかにひとの気配がする。
 今宵、この場に眠るのは一人ではないのだ。

 ああ、ああ…みんなみんな、ずっとずぅっと、一緒に眠れたら良いのに。
 そうしたらきっと、さみしくないのに……。
 ひとりぼっちにしないでよう……。

 焦がれるように囁いた声は、人の夢に夜に溶けていく。
 心の隙間に常にある思いは、すやりの裡を虚しくさせた。
 けれど。
 幻朧桜が寄り添う今夜は睡魔にも浸せない空洞が、少しだけあたたかい。そんな気がする。
 ひとひらの薄花弁の感触さえ心地よくて、意識はやがて深い眠りに沈んでいく。

 いつか、わたしと一緒に“眠って”くれるひとが見つかったら。
 この桜の下を、永遠の茵にしたいくらい……だ……。

 やすらかな寝顔に、ふっと蠱惑的な深い哀愁が掠める
 それを知るのは桜ばかり、夜は静かに更けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
見上げる花天蓋
闇に舞う薄紅

はらり、
ひとひら
かんばせを擽れど積もらず
はらり、
また風に散り消ゆ

悪戯な花弁に淡く笑んで
そっと唇寄せた篠笛は
静かに
清かに
密やかに
夜のしじまに遊ぶ

本性を器と置く身ゆえに
睡眠は必ずしも要するものではないのだけれど
凪の海に揺蕩う如く
穏やかな夜の底に横たわり
ほぅと深い深い息をついたなら
貝が描く蜃気楼みたいに
うつくしい夢を見れるだろうか

其れは素敵ですねぇ、と笑み綻び
翁桜の懐深き幹へと額をそえて

今ひと時の休息をくださる?

木の根を枕に借りる許可と
礼を告げたなら

ふかり、
浮かぶ欠伸をそのままに
ころんと
土の寝台に転がってしまおう

現と夢の狭間に微睡みながら
花筏に乗って
さぁ
何処まで流れて行こう



 柔風の心地よいような、晩だった。
 遠くからは花霞、桜の雲海と見紛うような景色の中に、降りた。
 見上げれば、桜の花枝が織り成す花天蓋。
 散り零れる薄紅色の花びらが、しっとりとした宵闇に舞い。
 はらり、ひとひら。都槻・綾(絲遊・f01786)のかんばせを擽る。
 薄花弁は積もることもせず、はらりとまた風に消えていって。
 悪戯な花弁を目で追いかけ、綾は口元に淡い笑みをさせる。
 遊ぼう。と誘うのならば。
 綾は篠笛を取り出して、唇を寄せた。
 奏でる音色は風にほどけるようにそっと流れて。
 静かに、清かに、密やかに、夜のしじまと遊ぶのだ。
 良い夢をおくるように。

 この身の本性は器と置く身ゆえに、睡眠は必ずしも要するものではないのだけれど。
 幻朧桜の根元に夜籠りを過ごし、見る夢を識りたくて、つい思い描く。
 凪の海に揺蕩う如く、穏やかな夜の底に横たわり、ほぅと深い深い息をついたなら。
 貝が描く蜃気楼みたいに、うつくしい夢を見れるだろうか。
 真白な百合が咲くような、夢を。
「其れは素敵ですねぇ」
 笑みに口元を綻ばせて、古い巨木へと近づいたのなら。
 翁桜のごつりと節くれ立つ幹に額を添えて、許しを請うのだ。
「今ひと時の休息をくださる?」
 その根を枕に借りさせてくれるよう、尋ねて。
 丁寧に礼を尽くした、その姿は真摯なもの。
 声のない返答も快いものだっただろう、落花がぽつりと降る。
「ありがとう」
 拾った形の良い花を手に取れば。
 ふかり、欠伸が浮かぶのだ。ああきっと良く眠れるのでしょう。
 花弁の降り積もる地面へころんと寝転がって。
 先程ひろった桜の花を胸の上にのせて、仰向けになる。
 木の根に頭を乗せたその目の先に、桜広げた遠い夜空。
 星の瞬き数え、揺れる梢を見詰める内に、睡気を誘われて。
 うつらうつらと次第に意識は夢現をさまよい、心地よい狭間に微睡む。
 花びらが降る。はらり、はらはら。
 ひたひたと水が忍び寄って体を浸していく――冷たくもない、これは夢なのだ。

 水面に浮かぶ花びらが彼を連れて行く。
 万事は落花流水。
 さぁ、何処まで流れて行こう。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月21日


挿絵イラスト