●魚亭―ととにゃ―
ぱちぱちと網の上のサカナは、脂を弾けさせて焼けていく。香ばしい香りは空腹をさらに煽って、満腹でもベツバラ状態にさせてしまうほどに、強い。
「うにゃ、らっしゃい! ちょうど焼けたとこですにゃ」
店主のミケ(三毛猫にあらず)は自慢のヒゲをぴんと張らせて、翠の目をきらんとさせた。
「今日も美味しいおサカナがたくさんいますですにゃ。刺身もよし、焼くもよし、もちろん丸飲みも乙なものですにゃあ」
ふくくっと楽し気に笑って、網の上に貝も並べ始める。ぱっかり開くまでまだ時間はかかるとミケ。
「珍しいサクラの花を見ながら食べる美味しいおサカナは、格別ですにゃ。ぜひ、ととにゃのおサカナをおトモにしてってほしいですにゃあ」
ミケは長いしなやかな尾をふらふら、お客を呼ぶ声を響かせた。
●よそはよそ、うちはうち
幻朧桜が咲き乱れる丘は、まさに見頃だ。
「さあ、酒でも呑みにいくか」
桜の下で呑む酒は、それはそれは格別だろう。
「しかも酒だけじゃねえ、近くに【魚亭―ととにゃ―】っていう海鮮料理屋があってな、そこの網焼きが、まあびっくりするぐらいうめえ」
なんのサカナかはわかんねえけどォ……と彼は小さく付け足したが、些末なこと。
「純米酒とビールはこっちで準備したからァ、ととにゃのミケサンが焼いてくれた美味いサカナと一緒に花見しよ」
むろん自分の呑みたい酒を持参しても構わない。
カクリヨファンタズムが大変なときに暢気に花見をして――いる事態なのだ。
「戦場があちこちにあって忙しねえは判ってンだけどォ、こっちだってそれどころじゃねえ」
幻朧桜の下で宴会をすれば、桜の力がを強めることができ、力を纏う桜吹雪が百鬼夜行を包み込めば、敵の戦力に打撃を与えることができるやもしれない。
「よそはよそ、うちはうちってのを頼みてえのよ。ンで、楽しんだモン勝ちだからァ」
桜を愛で、その場の雰囲気を楽しむだけで、桜の力はどんどん強くなる。それだけでも十分なのだが、花見には酒が、そして美味いサカナはつきものだろう。
「あ、そォそ」
紺瞳が俄かに真面目に引き締まる。
「酒なんだけどォ、甘酒もあんのよ。だから酒が飲めんって人も大丈夫、心配しなくっていいよォ。もちろん、お酒はハタチになってからな」
ミケのサカナで桜を楽しんだって、むろん構わない。
「ちなみに俺はね、ミケサンの焼いたカイと、サカナを貰おうと思ってる」
彼は瞳をきらんとさせて、掌上にまあるい蒼いグリモアを顕した。精緻な紋が刻まれたそれは、カクリヨファンタズムへの導となる。
繋がる先は、幻朧桜の丘。花の香りと、焼き魚の美味い香りが混じった風がふわりと流れ込む。
「じゃあ、頼んだ。めいっぱい楽しんでこいよ」
鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)は、紺瞳をやわく細め、笑んだ。
藤野キワミ
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「大祓百鬼夜行」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
====================
プレイングボーナス……よその戦争を無視して宴会する!
====================
ごぶさたしております、藤野キワミです。どうぞよろしくお願いします。
▼プレイング受付期間
・【5/19(水)8:31~】受け付け開始。断章はありません。
・少数採用予定。先着順ではないです。全員採用のお約束はできません。
・受付終了は当マスターページ、シナリオタグ、ツイッター(@kFujino_tw6)にてアナウンスします。
▼お願い
・三人以上の同行プレイングは採用率が下がります。
・公序良俗に反するプレイングは採用しません。コンプラ的に!
・ととにゃで頼めるのは、焼き魚と焼き貝と、お刺身ですにゃ。どれも絶品間違いなしですにゃ!
・鳴北が同行していますが、明確に名前を呼ばれない限りリプレイに登場することはありません。御用の際はお声がけください。
・その他のお願いは当マスターページに記載しています。
▼最後に
みなさまの楽しく美味しいプレイングをお待ちしております。
第1章 日常
『桜の下で宴会しよう!』
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POW : 美味しい料理や飲み物を提供する
SPD : 巧みな芸を披露する
WIZ : 桜の下で語り明かす
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
鈴丸・ちょこ
【黒】
(ぱちぱち焼ける音と香に合わせ
耳も鼻もひげもぴこぴこと
――旨い気配に思わず舌までぺろりと動き)
おう店主、実に良い腕してるじゃねぇか
ふふん、何も迷う必要はねぇだろ
此処は男らしく全制覇で行くとこだ
此程の品を前にして味わい尽くさず帰るなんざ、勿体ねぇからな
(この身は唯の猫に非ず――何をどれ程食っても平気な突然変異胃袋持ちである、どや)
んじゃ早速、桜に負けじと華々しくいくぞ
(持参したマタタビ酒をミケにも差し入れつつ、乾杯たいむへ!)
たらふく食ってたんまり寛ぐ
序でにちょいと戯れるも一興――
おうよ、俺はプロ中のプロだ
思う存分、猫の本気(?)を見せてやろう
(魚堪能しつつ
時々舞う花弁をぺちっと白刃取り)
呉羽・伊織
【黒】
(可愛い顔して食気駄々漏れな連れと
コレまた愛くるしい店主サンの様子に
思わずでれっとニャごみつつ)
や~ホント、こりゃちょこニャンもまっしぐらになっちゃうよな~!
全部美味しそーで悩…む暇も与えぬこの食いしん坊!
オレよか圧倒的にちっこいのに、相変わらず色んな意味でとんでもニャい猫だ…
(腹をつついてみたい衝動に駆られつつも
んなコトしよーモンなら魚の前にオレの手が丸齧りされるよネ~と我慢!)
っとそーだ、ぱぁっとな!
良かったらミケサンも一息入れてな!
(盃掲げ労って、有り難く頂きマースと!)
しっかしマジでちょこニャンにうってつけ過ぎる時間と空間だな、コレ!
花も肴も最高で、ホント自然と力が満ちてく心地だ
●
「うにゃ、らっしゃいですにゃ!」
サカナが焼ける煙の向こうで、店主のミケの声がする。
網の上では、皮が縮んで脂が弾けて、じりじり焼けていくサカナ。
「ちょうど食べ頃ですにゃ、旦那方、いかがですかにゃ?」
耳も鼻もぴこぴこひくひく、鈴丸・ちょこ(不惑・f24585)は、ひげをそわりと揺らした。
ぱちぱちと爆ぜる音ですら旨いと感じてしまい、思わずぺろりと舌が出た。ごくりと唾を飲み込んで、
「おう店主、実に良い腕をしてるじゃねぇか」
「や~ホント、こりゃちょこニャンもまっしぐらになっちゃうよな~!」
すっかり焼き魚な夢中のちょこを眺める呉羽・伊織(翳・f03578)は、によによと、でれっと頬を緩ませた。
(「ニャごんじゃうな~!」)
無邪気で可愛い顔をしながら、食気が駄々洩れるちょこと、器用に網の上のサカナを世話するミケの愛くるしい姿に、癒しの力を感じずにはいられない――幻朧桜の力だけではないのは、眼前の光景が証明している。
「にゃすっ、うちのおサカナはびっくり仰天のおいしさですにゃ」
自信満々なミケの言う通り、網の上の、(種類は判然としないが)こんがり焼けていくサカナは、実に美味そうで。
「全部美味しそーで悩、」
「ふふん、何も迷う必要はねぇだろ。此処は男らしく全制覇で行くとこだ」
「この食いしん坊!」
「此程の品を前にして味わい尽くさず帰るなんざ、勿体ねぇからな」
イケオジ低音ボイスは浮かれていた。品書きは少ないが、ちょこはミケへと「全部くれ」と注文した。
小さき猫の姿をしているちょこだが、侮るなかれ。どんなものでも、どれだけ食っても平気で、ぺろりと平らげ、けろりとしていられるのだ。
「俺を満腹にさせるのは難しいぞ、店主」
(「でた、ちょこニャンのドヤ顔……! いや、ミケサンのキラキラも……!」)
ねこたちの可愛いの応酬に伊織の頬はでれたまま。
「んじゃ早速、桜に負けじと華々しくいくぞ」
「っとそーだ、ぱぁっとな!」
ことんと出された徳利からは、ふわりと漂う酒の香り。手酌で杯を満たした伊織をよそに、ちょこはミケへと持ってきた秘蔵のマタタビ酒を差し出した。
「店主も一杯どうだ」
「滅相もないですにゃ! 旦那のお気持ち、痛み入りますにゃあ」
はわわわわっと慌てる(控えめに言って可愛い)ミケだったが、気遣われたことが嬉しかったのか、でへへとひげを垂らして尻尾を揺らした。
「良かったらミケサンも一息入れてな!」
まんざらでもなさそうな雰囲気に、ミケの分もカップに酒を注いで差し出しておく。あとは彼に任せよう。ちょこは己のカップにも酒を注いで、ミケの手元をじっと見つめた。網から上げる頃合いを確かめているらしい。
「美味しいおサカナができましたですにゃ」
そうして、ふたりの前に出された皿の上にそれぞれ焼き魚が載せられた。
ふたりの杯が掲げられる。
「では日頃の、さまざまな苦労を労って! 有り難く頂きマース!」
滲み出るは、伊織の苦労――それをどこ吹く風とちょこはぐいっと一口煽って、満足の吐息。
彼に倣って、伊織の労も食って呑んで癒してしまおう。焼き魚を箸でほぐして食う。甘い脂を締める塩味が程よくて。
「おお、これはいくらでも食えそうだ」
白魚の刺身は、醤油皿にちょんとつければ、脂がふわっと広がる。貝は大きく口を開けた二枚貝。つぼ焼きにされた巻貝は、歯ごたえ抜群で、磯の塩味と苦味が酒を進ませる。
ガツガツ食って皿を空にしていくちょこの食いっぷりに、伊織から、ははっと笑いが漏れた。
「オレよか圧倒的にちっこいのに、相変わらず色んな意味でとんでもニャい猫だ……」
「おうよ、俺はプロ中のプロだ。思う存分、猫の本気を見せてやろう」
(「猫の本気? その腹かな?」)
見るからに軟そうな腹を突いてみたい衝動に駆られた伊織だったが、そんなことをしようものなら、今しがた食い尽くされて骨になった魚のように伊織の手も丸齧りされることだろう。
選択肢は我慢しかないのが、悔やまれる。時折風に乗って舞い込んでくる桜の花弁が網に落ちる。慣れたことと言わんばかりにひょいひょい箸で摘み取っていくミケ――ちょこは、その様子に鼻を鳴らして、
「序でにちょいと戯れるも一興か――」
なんてぽつりと零せば、ほっと息を鋭く吐いて、舞う桜をぺちっ。
「ほっ! はっ!」
ちりりと涼し気な鈴の音を鳴らして、ぷにぷにの黒い肉球が桜の花弁を白刃取り。
「お見事ですにゃ!」
おおお……と感嘆してミケは拍手。
「しっかしマジで、ちょこニャンにうってつけ過ぎる時間と空間だな、コレ!」
花弁と戯れるちょこは、伊織を見上げて、得意げに金目を輝かせた。
「言っただろう、俺はプロ中のプロだ」
「うんうん、聞いたよ。お、この赤身も旨い」
濃くしっかりとした魚の味に舌鼓。隣では焼き魚に夢中になりながらも、合間で花弁を掴み取る、ちょこのころころした姿と、彼を誉めそやすミケ。穏やかに流れる時間を堪能する伊織は、そんな彼らから、すいっと視線をあげて、薄紅色の壮観に赤瞳を細めた。
(「花も肴も最高で、ホント、自然と力が満ちてく心地だ」)
杯を傾け、伊織は賑やかなふたりの声に耳をやって、いつの間にやらミケによって置かれていたつぼ焼きを手にとる。
凶悪なほどに熱かった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
花川・小町
【酔狂】
ふふ、飲んだくれの出番があるだなんて僥倖よねぇ
相変わらず誉めてくれるわね、御同輩?
(桜と魚の共演――そして饗宴の気配に、心も足取りも軽やかに)
佳い景色を愛でて
好い美酒に浸って
其等を際立たせる良い肴まで頂いて
――思うままに愉しみ酔いしれるだけで、お腹も気分も世界までも平和に満ち行くなんて、万々歳よ
(上機嫌にミケちゃんへ微笑んで、オススメを――気風良く全部頂き、花の下にて豪勢に広げ乾杯を)
愛嬌たっぷりの店主ちゃんに絶品のおもてなし付きだなんて、至れり尽くせりどころの騒ぎじゃないわ
このお店にこの世界が、彼の桜花の如く栄え続けて行くよう祈り祝して――心行くまで謳歌させて頂きましょ
佳月・清宵
【酔狂】
おう、実に面白ぇ話が舞い込んできてくれたもんだ
花の宴に入り浸り、楽しんだもん勝ちの大一番――酔いどれ女に此程似合いの舞台はそうそう無かろうよ
(揶揄も褒言葉の内――早速戯言の応酬を交わしつつも、気紛れに舞い遊ぶ花を愛で、その風に乗じて届く香までも、余すことなく愉しみ)
――ああ、悉くが最高の一言に尽きる
もてなしも料理も天下一品なんて名店まで見つかるたァ、幸いも幸いだ
(ったく、てめぇはとことん派手好きなこって――
なんて広がる肴に笑いつつも、花も団子も楽しみ尽くさんと盃交わし)
花も肴も見事なもんで、酒が進んでならねぇな――ああ、絶やすにゃ勿体無ぇ
――全て片付きゃ、此処でまた祝宴も良かろうよ
●
「ふふ、飲んだくれの出番があるだなんて僥倖よねぇ」
「おう、実に面白ぇ話が舞い込んできてくれたもんだ」
花川・小町(花遊・f03026)の隣を歩きながら、流れていく桜の花弁を見上げて、佳月・清宵(霞・f14015)は、口の端を上げた。
「花の宴に入り浸り、楽しんだもん勝ちの大一番――酔いどれ女に此程似合いの舞台はそうそう無かろうよ」
「相変わらず、たっぷり誉めてくれるわね、御同輩?」
ともすれば喧嘩腰――しかし、ふたりの棘は、距離感を掴めた者のそれ。否、本心を隠し続けるふたりの戯れか。
だったとしても、ふたりとも桜と魚、そうして酒を堪能するつもりで歩む。
なにより既に桜はふたりを愉しませている。満開の桜は、実に壮観で、淡い空とのコントラストに、小町は目を細める。
ふたりの爪先が向いているのは、魚の焼ける香ばしい音とする方。舞う花弁が清宵の赤に映る。ふわりと花弁が連れてくるのは、魚の焼ける旨い香り。
そのすべてを余すことなく愉しみ、漸う【魚亭―ととにゃ―】に辿り着く。
「らっしゃいですにゃ!」
ぺこりと頭を下げたのは、店主のミケ。小町らの来店に喜んで、ふくくっと小さく笑った上機嫌のミケへ、彼女は艶然たる笑みを頬に刻んだ。
「オススメはなに?」
「おサカナですにゃ! 焼いたおサカナはどれも絶品ですにゃ!」
絶妙に答えになっていないが、それでも気風良く、「それじゃあ、全部頂くわ」と注文。
「ったく、てめぇはとことん派手好きなこって――」
驚き思わず噴き出した清宵だったが、確かに品書きは多くない。ミケのオススメのサカナに舌鼓をうつのも良いだろう。
幻朧桜が勇ましく腕を伸ばす下で、豪勢な皿が次々と広がっていく。
掌大の魚の丸焼き、開きは一夜干し、切り身はなにやらの味噌漬け、赤身の魚の醤油漬け、ツマの上に整然と並んだ白身の刺身。
「カイもいますにゃ! でもまだできてませんのにゃ……超特急でつくるですにゃ! ちょっとお待ちくださいですにゃあ!」
ぺこりともう一度頭を下げて、網の上に貝をころころと並べ始めた。
十分な料理の数々に、まだ出てくるのかと清宵は笑わずにいられなかったが、小町は嬉しそうに破顔。
「では、いただきましょう」
互いの杯に酒を注ぎ合い、少し持ち上げ乾杯。舌を潤し、喉を焼いて、腹を燃やす酒のなんと芳醇なこと。
これから食う魚が楽しみになるような辛口で。こうでなくてはと、一切合切を満喫せんと、清宵はさらに一口で、杯を干した。
小町の美しい所作で身がほぐされていく。サカナの種類は判らないが、白身で小骨は少ない。
ためしに食えば、あっさりとした飽きの来ない繊細な味で、甘い脂も極上だ。そうして含む酒は、まさに桜の香りのように爽やかで、清々しい。
「佳い景色を愛でて、好い美酒に浸って、其等を際立たせる良い肴まで頂いて――」
小町は甘やかな嘆息をひとつついて、清宵を仰ぎ見る。
「思うままに愉しみ酔いしれるだけで、お腹も気分も世界までも平和に満ち行くなんて、万々歳よ」
「――ああ」
清宵は肯く。
愛嬌たっぷりの店主の絶品のもてなしもさることながら、出てくる料理の旨いこと――至れり尽くせりとはまさにこのことで、ふたりは杯を片手にサカナを堪能する。
「美味しい」
貝の濃い旨味に満足の吐息が小町から漏れた。
「幸いも幸いだ――悉くが最高の一言に尽きる」
「うにゃあ、お客さんに褒められると照れますにゃあ!」
ミケはほわわっと舞い上がって、ぶわんと尾を膨らませた。そのままの上機嫌で、口が開いた貝へ醤油を垂らせば、香りはぶわっと広がって、耳に楽しい爆ぜる音。
「花も肴も見事なもんで、酒が進んでならねぇな――」
おサカナも褒められて浮足立ちそうなミケだったが、徳利が空になっていることに気づき、おかわりの準備を始める。
「すぐにお酒のおかわりを用意しますですにゃ」
「ミケちゃん、私のもお願いしても?」
「合点ですにゃ!」
一本目の徳利を空にした清宵は、ちゃっかり便乗した小町に小言を漏らすわけでもなく、くつくつと喉の奥で笑みを零した。
おかわりが出てくるまでに、一夜干しの身をほぐす。旨味が濃縮された干物特有の臭みは、一層酒を進ませて、はらりひらりと舞い落ちてくる桜の花弁は、皿を彩る。
「ふにゃ、おまたせですにゃ」
出てきた徳利を受け取り、小さな礼を口にした清宵は、杯を満たす。仄かに黄金に色づく酒は、白磁を爽やかに香らせた。
「このお店にこの世界が、彼の桜花の如く栄え続けて行くよう祈り祝して――心行くまで謳歌させて頂きましょ」
小町の言葉は玲瓏で、するりと香りに溶け込んだ。やわい雨のように降り注ぐ一片を目で追って、彼女は刺身を食う。
「ああ、絶やすにゃ勿体無ぇ」
だからこそ。今は戦地を忘れて、愉しもう。
(「――全て片付きゃ、此処でまた祝宴も良かろうよ」)
杯の中で咲いた薄紅色を一瞥、清宵はこそりと笑みを深めた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャスパー・ジャンブルジョルト
う~ん、いい匂い。(鼻ぴくぴく)
だが、いきなりがっついたりはしないぜ。花見と言うからには花を愛でないとな。
(三秒ほど桜をガン見)
はい、終了。
次は焼き魚のターン!
ミケ、じゃんじゃん持ってこーい!
おともは銘酒ねこだましい。魚料理との相性ばっちり。箸が進むぅ~ん!
他の奴らにもねこだましいを回してやろう。ん? どうした、誉人? ペースが落ちてるぞ(JJから見れば、大抵の人のペースは緩め)。ほら、もっと食え、もっと呑めーい!
ごちそうさまー。
ふー、さすがに食い過ぎたぜ。
もう一口も(焼き魚は)食えねえや。
てなわけで、次は刺身のターン!
ミケ、じゃんじゃん持ってこーい!
※煮るな焼くなとご自由に扱ってください
●
ここは、宴会会場だ。桜を愛で、酒に酔うことが正義とされた幻朧桜の丘で、かつ【魚亭―ととにゃ―】の暖簾が下がる店先で、ここのおサカナは、びっくりするくらいうめえとの評判とくれば――このひとが現れないわけはない。
「う~ん、いい匂い」
ちいさな鼻をぴくぴく。自慢の銀毛が風にそよそよ、流れてきた桜の花弁を目で追って、ふふんと笑った。
ジャスパー・ジャンブルジョルト(f08532)、そのひとだ。
鼻腔をくすぐる香ばしく美味が約束された香りが、強引な誘惑を繰り返す。
しかし、いきなりがっつくことはしない。
これぞ、オトナのヨユーだ。
見上げた満開の桜。風に揺らされて落ちてくる花弁。綺麗、綺麗。きれい。
「よし、見た。三秒は見た。はい、終了――ミケ、じゃんじゃん持ってこーい!」
「合点ですにゃ!」
ミケはきらんきらんに目を輝かせ、ところせましと網にサカナを載せ、いまに焼き上がりそうな焼き魚をジャスパーの前に出した。
「お酒は、飲みますかにゃ?」
「お供に銘酒ねこだましいを持ってきた」
どんっと瓢箪が登場!
「おおっ! ねこだましい! おいしそうなお酒ですにゃ……」
「魚料理との相性ばっちりだ! ミケも一杯どうだ?」
「にゃにゃ! お客さんのお酒はいただけないですにゃ! かわりにおサカナたくさん焼きますにゃ!」
「そうか? なら誉人、呑んでみるか?」
「へあっ! あ、あはっ、ごめん、JJサン、聞いてなかった、なにィ?」
ネコ好きを隠さなくなって久しい誉人のことだ、きっとジャスパーとミケのやりとりにキュン死していたのだろう。
そんな誉人の杯が空だったから、《ねこだましい》を注いでおいてやった。
「さーて、食うぞー!」
出てきたおサカナをぱくりと一口。ふわんと広がる脂の甘みにジャスパーは目を丸めた。
ぱりぱりの皮は、程よく焦げてアクセントに。溢れる脂はさらりとしつこくない。鼻に抜けていくサカナの臭みも、《ねこだましい》が流していく。
「うんまーい! 箸が進むぅ~ん!」
サイコー。この仕事サイコー。美味いものを食って、美味い酒を呑んで、戦いを忘れる! この仕事サイコー!
次々に焼き上がってくるおサカナを片っ端から食っていく。味噌漬けもイケる。なかなかに美味い。箸が止まらない。
その様子を見られている気がして、ジャスパーは隣を見上げた。
「ん? どうした、誉人? ペースが落ちてるぞ」
「んーん、JJサンについていけないだけェ。やっぱすげえなァって」
貝の醤油焼きをふーふーしながら、誉人。
「JJサン、カイもうまいよ。ミケサン、つぼ焼きもうひとつちょーだい」
「合点ですにゃ!」
「JJサンのお酒も美味いね、ねこだましい」
「そうだろ! ほら、もっと呑めーい! もっと食えーい!」
にゃはははっと高笑い。
一気に飲み干した誉人の杯に、銘酒を足してやった。
◇
「ごちそうさまー……ふー、さすがに食い過ぎたぜ」
カップの中の酒を空にして、腹をぽこぽこ叩いてみた。我ながら、いいぐあいに詰まっている。
「もう一口も食えねえや」
「十分食ったでしょ。さすが、JJサン」
一夜干しも丸焼きも、味噌漬けに、塩焼き、大きい片身から小さなサカナまで食い尽くした。
ジャスパーの鉄の胃袋を見せつけられた誉人は、まだ彼が食っていないものがあることに気づいていない。
もう十分なほど焼き魚は堪能した!
「てなわけで、次は刺身のターン!」
「え、さっき、食いすぎたって、」
「なに言ってる誉人。刺身も貝も、まだ食ってねえだろ?」
堪え切れなくなった笑声を弾けさせた誉人は、酒の力も借りて、普段よりよく笑う。
「ミケ、じゃんじゃん持ってこーい!」
本日何度も聞いた、ミケの威勢のいい「合点ですにゃ!」が響いた。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「…いえ、顔色変わらず寝るだけの事もありますよ?」
目を逸らす
ととにゃ直行
「…燗酒はありますか?焼き魚は切り身でしょうか?西京焼きを燗酒でチビチビ、とか好きなのです」
「コップ酒だと途中からカパカパ飲み始めて宜しくないのです。お箸使いも怪しくなるので食べやすい方が良いかな、と」
目を逸らす
結局清酒で焼魚・焼貝、刺身を全部注文
途中から酒がハイペースに
「あはははは、あはははははは!みけしゃん、おかわりぃ!」
「みけしゃーん、焼いて焼いて、どんどん焼いて!あはははは」
「みけしゃんの焼魚、毎日食べたいれすぅ。結婚しよ、みけしゃん♪」
カウンターからみけさんの方へ身を乗り出そうとしてひっくり返りそのまま寝た…
●
桜はいわば見慣れている――御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は、既視感に近いものを抱きながら、【魚亭―ととにゃ―】を目指し驀進する。
桜は、まあ、いい。美しさも素晴らしさも知っている。しかし、ミケの焼くおサカナはここでしか味わえないものだし、それと合わせる酒は、やはりここでしか味わうことは出来ない。
炭火の上の網には、所狭しと魚や貝が並んでいて、店主のミケは大忙しだ。
「うにゃ! らっしゃいですにゃあ!」
それでもミケは桜花を迎え入れた。
「燗酒はありますか?」
「冷もありますですにゃ! お客さんの好きに作りますにゃ!」
自慢のヒゲをぴっと張って、胸も張った。
「焼き魚は切り身でしょうか? 西京焼きを燗酒でチビチビ、とか好きなのです」
「合点にゃ! お任せあれですにゃ!」
あれよあれよという間に桜花の目の前に、熱燗が用意されて、網の上には味噌漬けのサカナの切り身がじゅわじゅわと香ばしい音と香りを立てて焼かれていく。
あまり呑み過ぎないよう、ペースは控え目に。皿に載せられた切り身に箸を入れれば、小気味よくほぐれていく。
「にゃにゃっ、お客さん、お箸お上手にゃあ。ゆっくり呑んでってくださいですにゃ!」
それはまだ酔っていないからだ。そっとミケから目を逸らして、桜花。
「コップ酒だとカパカパ呑み始めて宜しくないのです。そうなるとお箸使いも怪しくなるので食べやすい方が良いかな、と……」
切り身にしてもらったのもそういう打算があったのだが、しかし、これは美味そうだ。当たりだった気がする。頼んで正解だった。
「今は変ではないですか?」
「にゃすっ。とてもお上手ですにゃ! お客さんはもしかして酔うと、変わっちゃうおヒトですかにゃ?」
「……いえ、顔色変わらず寝るだけの事もありますよ?」
そっと目を逸らして。ミケの視線から逃げる。毎度毎度寝るわけではないが――桜花は、小さく笑ってサカナを食べた。
この甘くて旨いサカナは、一体なんの魚なのだろう。ぱくぱくと食べてしまうし、これに合わせる酒の爽やかな香りが、桜花を愉しませる。
それは、桜花のペースを乱すには十分だった。杯を傾ける角度が上がって、徳利はすぐに空になる。
「みけしゃんっ、おしゃしみくだたい! あとぉ、つぼ焼きくだたい!」
頬は真っ赤になって、目もとろけてしまっているが、手にある杯は、酒で満たされてまま。
出てきた刺身は、赤身と白身の盛り合わせ。醤油と山葵をちょんとつけ、一口ぱくり。とろける脂と、ひやりと冷たい刺身は熱い舌に新しくて、桜花は杯を干して、酌をする――が、一滴ぽたりと落ちただけで、杯は空のまま。
「からっぽ! あはははは、あはははははは! みけしゃん、おかわりぃ!」
「合点にゃ!」
辛口で、爽やかな香りが鼻を抜けていく美味い酒だ。これが魚によく合う。
「みけしゃーん、焼いて焼いて、どんどん焼いて! あはははは!」
「合点にゃ!」
これまた嬉しそうにミケは、甘味噌漬けの切り身を網に乗せた――桜花が美味いと最初に絶賛したものだ。
この甘くとも塩味の効いた味噌と魚の甘い脂が無限に食欲を誘う。そうして、これが酒を進ませる。
「みけしゃんの焼魚、毎日食べたいれすぅ。結婚しよ、みけしゃん♪」
「うにゃ!? 美人さんからのプロポーズですかにゃ!? そんなそんな!」
はわわわわっと慌てるミケへとずいっと身を乗り出した桜花だったが、その場にひっくり返ってしまって、あっという間に眠ってしまった。
「お客さーん!? 大丈夫ですかにゃ!?」
しばらくミケの慌てる声が響いたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
香神乃・饗
誉人ーお花見するっす!
誉人と同じのを頼んで同じ順で食べるっす
ミケさんは何猫っすか
サカナにはどっちの酒があうっすか
かんぱーいっす!
なんのサカナっすか
丸のみってなんっすか?
精がつくっすか
誉人も丸のみするっすか?やるなら一緒にやるっす!
誉人の言ってたサカナはきっと丸のみじゃないっすけど
誉人、桜ついてるっす
髪の毛撫でる様にしてとり
花弁笛にしてぴぷー
いつも通り賑かに楽しく食べて呑んで
誉人のやりたい事全部に付き合うっす
途中で酔っぱらってふわふわしてるかもしれないっすけど
桜も眺め
桜花を謳歌
杯に桜映し
誉人もサクラになってるっす
香神写しっす
へへへ、キレイっす
ミケさん、記念に一枚どうっすか?
三人で桜のきょうを残す
●
魚が焼ける香ばしいにおいが漂っている。
【魚亭―ととにゃ―】と描かれた暖簾の下、焼けていくサカナを見ている青年の隣にすとんっと座った。
「たーかと、なに頼んだっすか?」
「お、饗。このね、こいつの焼いたやつ」
「……なんのサカナっすか?」
「さあ?」
ふたりで首を傾げ合っていると、
「ととにゃの美味しいおサカナですにゃ!」
香神乃・饗(東風・f00169)を見つめるのは、店主のミケ。絶妙に答えになっていない答えが返ってきた。
饗も翠の目を見つめ返し、きょとんと黒瞳を丸め、二度しばたいた。
「らっしゃいですにゃ!」
律儀にお辞儀をしたミケにならって、饗もぺこりとお辞儀。
「お邪魔するっす、俺も誉人の食べてるサカナがほしいっす」
「合点ですにゃ!」
名も知らぬ魚を注文すれば、ミケは威勢のいい声で返事した。
「ミケさんは、何猫っすか?」
「ととにゃのネコさんですにゃ、ふくくっ」
やはり絶妙に答えになっていないミケの言い回しに、隣の誉人はくつくつ笑う。
手酌酒に、焼き魚――すでにのんびり食べていた誉人は、かァいいネコチャンにデレていたに違いない。
「そうそう、さっき言ってた丸のみってなんっすか?」
「頭から尻尾まで噛まんで飲み込むンだよ」
顎を上げ、大口を開けたそこに魚を落とすフリをした彼に、肯くミケ。
「誉人はそんなことまでできるっすか!」
「んー……できねえかなァ」
「じゃあ精がつくっすか!」
「んー?」
とくとくとくっと徳利が鳴いて、誉人の代わりに「知らねえなァ」と返事をしているようで。
(「誉人の言ってたサカナはきっと丸のみじゃないっすけど……はて、まるのみできる、さかな?」)
頭にハテナを浮かべたが、
「お待たせしましたですにゃ!」
目の前に置かれたサカナの塩焼きの香りに、疑問が溶かされた。
「いい香りっす! 誉人、このサカナにはどの酒があうっすか?」
「一緒の呑むンだろ、ほれ、杯」
酌をしてやると言う彼に甘えて、注いでもらう。ほわりと頬が緩むのを我慢できなかった。
「ありがとうっす、誉人。かんぱーいっす!」
杯をかかげて、労いの乾杯を。
◇
「誉人、桜ついてるっす」
彼の頭についた花弁を、髪を撫でるようにして掬い取る。
「ん、さんきゅ」
短い礼を聞きながら、それを戯れに花弁笛にして、ぴぷーと一吹き。
「おおっ、じょーず! あはっ、饗! お前の頭だって桜まみれだよォ、ピンクになってる!」
酒のせいでいつもより良く笑う誉人と、いつものように何気ないことで笑い合って、賑かに楽しく食べて、呑めるようになった酒を呑む。
そうすれば、頭上の桜は力を増幅させるという。
めいっぱい楽しむことが、饗の仕事だ――それでも。友が隣で笑っている。彼のやりたい事の全部に付き合って、このときを満喫できれば、これ以上幸いなことはない。
酌をして、酌をされて。美味いと笑み合って。
杯に桜を映して、桜花を謳歌――ダジャレを思いついて、誉人に披露しようと視線を上げれば、ゴキゲンに杯を傾ける彼の頬も薄紅に染まっていた。
「俺の香神写しみたいっすね、誉人」
へへへっと思わず笑んで、自分の杯を空にした。
「キレイっす、キレイに写せたっす」
「なン饗、もう酔ったのォ?」
「よってないっす、きぶんがいいだけっす」
ほわほわ、ふわふわ。身体が浮き上がるような感覚は気持ちよくて、大変気分が良い。
「へへっ、ミケさん、記念に一枚どうっすか?」
ミケに声かけ、《報》を掲げる。ゆらりと小さなシマエナガが揺れた。
饗と、誉人とミケと。
桜の優しい雨が舞う中で、きょうを残した。
大成功
🔵🔵🔵
リシェア・リン
円月さん(f00841)と
見て見て、お魚!美味しそうだわ(尻尾ぱたぱた)
私達もせっかくだから、何か買ってお花見しましょ
私の好きなもの?
そうねぇ…やっぱり美味しく焼けた網焼きがいいかな
ミケさん、網焼き二つ頂けるかしら?
私はまだお酒が飲めないから、甘酒を頂こうかしら
円月さんはもう飲めるみたいだけど…どうする?
色々用意出来たら桜の元へ
綺麗ねぇ、桜…UDCアースの桜はあっという間に散ってしまったから
…円月さん、ひょっとして酔っ払ってる?(じぃ)
もう、そんなにおだてたって何も出ないわよ!
…嬉しいけど…(ごにょごにょ)
うん、頑張って。私はあなたの味方だから(そっと寄り添って)
東雲・円月
リシェア(f00073)と一緒に。
遊んでいていいって変な感じですねェ。
ま、楽しくやるのは嫌いじゃないです、可愛い子も一緒にいますしねェ。
魚かァ、本当においしそうだ。
でも俺はあんまり詳しくないから、リシェアの好きなものを頼んで。
一緒に食べよう?
俺は好き嫌いがないからね、何でも大丈夫だよ。
折角だからお酒も……いや、種類とか良く解らないんですよねェ。
えーっと、今ある魚に良く合うお酒を貰えます?
もしくは店主さんのオススメで!
ん、こりゃ美味しい。つい進んでしまうね。
やー、リシェアってホント可愛いよねェ。可愛くて美人でスタイル良くて。
あの人には負けない、絶対負けないぞ……!
……うぐぐ、酔ってる、気がする?
●
桜はちらちらと舞い落ちる。ふわりとやわらかな軌跡を描きながら、花筵を広げていく。
東雲・円月(桜花銀月・f00841)は、ほんの少しだけ、苦笑を漏らす。
今まさに世界の命運を分ける戦いが続いている最中に、こうしてのんびりしていられるのだから、なんとも不思議な感覚だった。
しかし、楽しむことは嫌いではない。むしろ楽しめるのなら、それにこしたことはない。
(「なにより可愛い子も一緒にいますしねェ」)
彼の隣でころころと笑う少女が一人。
「円月さん! 見て見て、お魚! 美味しそうだわ」
リシェア・リン(薫衣草・f00073)だ。宵闇を溶かし込んだようおな艶やかな長い髪――同じ色のふかふかの尾をぱたぱたと揺らして、【魚亭―ととにゃ―】の網を覗き込む。
円月もリシェアと並んで焼けていく魚を眺めた。ぱちぱちと皮が焼けて弾ける音は小気味よい。
「魚かァ、本当においしそうだ」
「私達もせっかくだから、何か買ってお花見しましょ」
「でも俺はあんまり詳しくないから、リシェアの好きなものを頼んで」
「私の好きなもの?」
「うん、それを一緒に食べよう?」
「そうねぇ……やっぱり美味しく焼けた網焼きがいいかな」
「俺は好き嫌いがないからね、何でも大丈夫だよ」
「ミケさん、網焼き二つ頂けるかしら?」
「合点ですにゃ!」
にこにことふたりの会話を見ていたミケは、いよいよ大きく頷いて、折り箱におサカナを詰めていく。
「私はまだお酒が飲めないから、甘酒を頂こうかしら」
一緒に酒は飲めないが、共に魚を食うことができるのだから、悔しくはない。
「円月さんはどうする?」
「折角だからお酒も飲もうかな……」
「にゃす、あったかいのと冷たいの、どっちがいいですかにゃ?」
「いや、種類とか良く解らないんですよねェ……えーっと、今ある魚に良く合うお酒を貰えます? もしくは店主さんのオススメで!」
「承知したですにゃ!」
気前よく笑って、ミケは特急で花見弁当を作り上げて、ふたり分の折り箱を持たせてくれた。
「ここ! 円月さん、ここで食べよう!」
木の根元には、誰にも踏み荒らされていない、やわらかな花筵。
「綺麗ねぇ、桜……UDCアースの桜はあっという間に散ってしまったから」
「もう一度、お花見ができて良かったねェ」
リシェアの見つけた花筵に腰を下ろし、弁当を広げる。
誰に邪魔されることもなく、ふたりでのんびりと魚をつつくことができそうだ。
食いやすいようにと、貝殻はすべて取り除かれていて、切り身を中心に美味そうなサカナが詰められていた。
ふたりで、食前の挨拶。
「ん、こりゃ美味しい」
さっそく焼き魚をほぐしてぱくり。口に広がる塩味と旨味は、酒のペースを速くさせる。
甘酒を舐めるように飲みながら、ほくほくと酒が進んでいる円月を見つめるリシェアだったが、彼の愉しげな様子に、にこりとしてぱくりとおサカナを食べる。
「うん、こっちもおいしい!」
旨味が凝縮された脂がじゅわりと溢れて、ほどよい歯ごたえのサカナは、確かに美味い。ミケが得意げに「絶品ですにゃ」と胸を張るのも肯けた。
貝柱のぷにっとした食感も、舌に楽しい。
「ねー、お酒もついつい進んでしまうよ」
にこにこと機嫌よく笑む円月は、サカナを頬張るリシェアをじっと見つめていた。
「やー、リシェアってホント可愛いよねェ」
「うぐっ……!?」
慌てて嚥下、甘酒で流し込んだ。
「い、いきなり? 円月さん、……ひょっとして、酔っ払ってる?」
甘酒の入ったカップを手にじいっと彼を注視。酔っているのか、酔っていないのか――見極めようとしたが、どうにも難しくて。
「可愛くて、美人で、スタイル良くて」
にこにこ、にこにこ。ふわふわとやわく微笑んで、杯を干す。
「もう、そんなにおだてたって何も出ないわよ!」
リシェアの頬に赤みがさす。彼の言葉に、たじろいで照れて、頬が熱くなる。
「……う、……嬉しいけど……」
ごにょごにょと口籠って誤魔化す。ともすれば頬が緩んでデレっととけてしまいそうで、唇をすぼめて耐える。
そんな表情すら円月の目には可愛く映る。そうして、ふつふつと心が沸いて、何度も相槌をうった。
「あの人には負けない、絶対負けないぞ……!」
己に言い聞かせるよう、いま、酒の勢いで決意して、言葉にしてしまえば――それは、言霊になるだろう。
「うん、頑張って」
リシェアの声がやけに近く感じたが、ほわほわと渦巻く思考では、上手く状況を整理できなくて、円月は目を閉じて、うーんと唸る。
「私はあなたの味方だから」
彼女の声音は優しくて、するりと心に沁み込んでくる。それがなんとも心地よい。肩先がじわりと温かくなった――すっかり酔いも回ってしまった円月へと、リシェアが寄り添ったのだ。
(「……うぐぐ、酔ってる、気がする?」)
だとしても、今は隣にあるぬくもりを手放せないと、そっと享受。辛党と自負していたが、ミケのオススメの酒はずいぶんと強い酒だったか。とりとめもなく円月の思考は廻る。
「わあっ、桜吹雪!」
リシェアが歓喜の声を上げる。
見上げた桜は、そよりと風に枝を揺らして、薄紅色の雨をさらさらと降らせた。
リシェアのふかふかの尾も、幸せそうにゆっくりと揺れていたが、円月は気づかない。
しばらくの間、言葉もなく、ふたりで桜を見上げる――それはそれは、倖せの色をした世界だった。
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花に呑み、酒に臥す。
いまは、ただただ、戦いを忘れて、笑みを咲かせる。
大成功
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