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大祓百鬼夜行⑱〜かくばかり戀しくしあらば

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行 #夕狩こあら #おまじないを探せ! #UDC-Null

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●校舎の壁に刻まれたなにか
 ねぇ しってる?
 よる がっこうの かがみを のぞいたら。
 あなたの すきなひとが うつるの。

 それは まどぎわの あのこ。
 それは はなれてしまった ともだち。
 それは しんでしまった おとうと。

 どれも あなたの すきなひと。
 かがみが ひとりだけ うつしてくれる。
 いまの あなたと つないでくれる 彼が身(かがみ)

 そうして かがみは くちびるを ねだるの。
 かがみに くちづけしないと。
 かがみは あなたを つれていく。

●グリモアベース
「廃校舎に出没するという“UDC-Null”を潰して欲しい」
 場所は、三十年程前に廃校となった旧第陸尋常小學校。
 対象は、校舎に残された百枚の鏡の中のひとつ。
 そう端的に切り出した枢囹院・帷(麗し白薔薇・f00445)は、己も聞き慣れぬ言葉を口にしたと、改めて説明を足した。
「この“UDC-Null”とは、UDC組織に『UDC怪物ではない』と証明されたもの。つまり、単なる虚言の類に分類されたもので、これまで人々に忘れ去られていたものだ」
 UDCアースでUDC(アンディファインド・クリーチャー)なる怪物が民間人に知られていないのとは少し違う。其は嘗て確かに存在していた、ただ忘れ去られていただけの存在――そう、人々に忘れられた妖怪達の事だ。
「目下、骸魂と合体して帰還した妖怪達が、此度は“UDC-Null”として人類の前に姿を現そうとしているんだが、これらはどれも“おまじない”に弱い」
 極めて有効だとは帷の言。
 出現するものに対し、「親指を隠す」とか「絶対に綺麗と言わない」等のしきたりや言い伝えを守ると、彼等が出現した瞬間に討伐でき、同時に骸魂との合体を解いて救出する事が叶うと言う。
「今回、君達にお願いしたいのは、とある廃校舎で確認されたUDC-Null『心鑑鏡』……鏡の前に立つ者の愛する人を映し出す怪現象の解決だ」
 UDC-Null『心鑑鏡』――。
 それは廃校舎の壁に刻まれた文字や、教室の机に入れられた儘の交換ノート、職員室に保管された日報等で確認されたもので、それらの記述を纏めれば、件の校舎に百枚程ある鏡の中のひとつが、真夜中に光り出し、鏡の前に立った者が好む像を映すのだとか。
「皆は現地で探索や調査をしながら、UDC-Null『心鑑鏡』の現象の発生を確認した後、おまじないを掛けて撃退して欲しい」
 おまじないをかければ、『心鑑鏡』に映し出された彼が身(かがみ)は忽ち消滅する。
 果して、そのおまじないとは――、
「お別れのキスになるだろうか。君達は鏡に映った愛する者に、口付けを交して“さよなら”をして欲しい。でないと彼が身(かがみ)は、君達を鏡の中に連れて行ってしまう」
 脣か、頬か、額か、或いは手の甲でもいい。
 心の奥にある大切な存在に別れを告げるのは辛かろうが、そうしないと、噂を聞きつけた民俗学者やオカルトマニアが被害者になってしまう可能性も出てくるので、猟兵が対処して欲しいのだと帷は言う。
 全ての説明を弾指をもって終えた帷は、その手にグリモアを召喚して、
「甘いキスになるかどうかは、心鑑鏡か――君達の心の奥に聞いてくれ」
 云って、悪戯な微笑に送った。


夕狩こあら
 オープニングをご覧下さりありがとうございます。
 はじめまして、または、こんにちは。
 夕狩(ユーカリ)こあらと申します。

 このシナリオは、『大祓百鬼夜行』第十八の戦場、虚言の類たる「UDC-Null」をおまじないで撃退する、一章のみで完結する日常シナリオ(難易度:普通)です。
 少人数で完結するシナリオ(👑5)につき、同種を二本、ご用意させて頂きました。

●戦場の情報
 某県某市の旧第陸尋常小學校。
 三十年程前に廃校となった校舎ですが、校長室や職員室、美術室やトイレ等の施設の至る所に百枚程の鏡が残されており、その人によって反応する鏡は違うようです。
 反応を示す鏡を求めて歩き回り、現象を確認したら、おまじないをかけましょう。

●戦場での過ごし方
 UDC-Null『心鑑鏡』は一人につきひとつ、校舎の何処かで光ります。
 猟兵は暗い校舎を探索して光を発する鏡を見つけ、鏡面を覗き込んで下さい。
 心を映す鏡にて、自分が映るとは限りません。
 心に秘めた筈の想い人に、故郷の家族に、幼き日の自分に、死なせた親友に、「キスのおまじない」をかけると現象は去りますので、頬や脣や額、或いは手などにチュッとして下さい。出現する像はプレイングでご指定願います。

●プレイングボーナス『おまじないを完成させるために行動する』
 このシナリオフレームには、特別な「プレイングボーナス」があります。
 これに基づく行動をすると、戦闘が有利になります。

●リプレイ描写について
 フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や呼び方をお書き下さい。
 団体様は【グループ名】を冒頭に記載願います。
 また、このシナリオに導入の文章はございません。

●プレイングと採用について
 早期完結を目指し、5名程度の採用とさせて頂きます。
 先着順ではありませんが、執筆開始後は締切を設けさせて頂きます。

 以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
 皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
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第1章 日常 『おまじないを探せ!』

POW   :    忘れられたUDC-Nullの伝承を探し当てる

SPD   :    UDC-Nullの情報を迅速に集める

WIZ   :    UDC-Nullに有効そうなおまじないを考える

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

泡沫・うらら
鏡に映るはあの人(ひと)あの女(ひと)――或いは、
裡に浮かぶ候補は幾つかあれど
その誰れが選ばれるかは、果たして

ヒトが学ぶ為の場を、游ぎ征く
UDCは元より校舎にも馴染みは無いから

見る物凡てが目新しくて、面白い
せやけど
今日の目的は校舎の散策やあらへんから
反応する鏡や、いずこ

光を放ち、誘うは水に近しい場の一枚

潮の香りともまた違う
独特の鼻を突くにおいに気を取られる間も無く
鏡面に映るは、貴女の姿

――嗚呼
やっぱり

納得の意は胸中のみにて
鏡面に触れる手に同じ白魚を重ね合わせる

鏡移しのうちと、貴女
そちらに連れて行って欲しい気持ちもあれど
唇落とすは貴女の掌

――どうか、そちらの海が
あたたかく、やすらかでありますよう



 月夜に白む緞帳(カアテン)こそ昔日の俤(おもかげ)を留めず煤けては居るものの、嘗て此處に彩鮮やかな景色が在ったとは、この世界に馴染みのない泡姫も感じ得よう。
 透徹の翠瞳に映る凡てが目新しくて、好奇心の赴く儘に昏い校舎を游いだ泡沫・うらら(混泡エトランゼ・f11361)は、不圖、図書室にずらり並ぶ書架にぱちくりと瞬いた。
「こない仰山の本を読んではらはったんかしら……」
 月白の繊指に背表紙の文字をなどって、ハッと、また交睫ひとつ。
 慌てて辺りを見渡したうららは、ゆうらと搖らめく艶髪に金絲雀の聲を交ぜた。
「今日の目的は校舎の散策やあらへん」
 鏡を探すんやったと、己のみに反應を示すUDC-Null『心鑑鏡』を求めて尾鰭を打った佳人は、図書室の大きな窓から見える中庭の噴水に、瀲灔たる光の蕩漾を捉えた。
「ひかり――」
 水の近しさに惹かれ、玲瓏なる水鏡に導線を結ぶ。
 中庭に向かう道中、其處な鏡に映るはあの人(ひと)かあの女(ひと)か――或いはと幾人かの面影(かお)が脳裏を過ろう。
 その誰が選ばれるかと、急燥る胸に繊手を宛てつつ噴水に至ったうららは、潮の香りともまた違う、独特の鼻を突くにおいに気を取られる間も無く、真澄の鏡を覗き込んだ。
 果たして、月を映せる水面に搖れるは――。
「――嗚呼。やっぱり」
 櫻色の花脣が、そうっと吐息を零す。
 悴む樣に震えた指先が示す如く、うららの『心鑑鏡』は慥かに、彼女の心の襞に隠れる佳人を顕現(あらわ)しており、混泡の人魚姫の胸に漣波を立てた。
「     」
 納得の意は胸の奥にのみ秘めて。
 不意に零れそなソプラノの佳聲をしゃぼんに溶かしたうららは、鏡面から差伸べられる白磁の繊手に同じ白魚を重ね合わせると、水鏡に隔てられる疆界に心を寄せた。
「うちと、貴女と、鏡うつしやね」
 佳人に誘われる儘に水鏡に飛び込み、そちらに連れて行って欲しいとも思う。
 蓋し彼女は「せやけど」と小さくかぶりを振ると、貴人の掌にそうっと花脣を落した。

 ――どうか、そちらの海が。
 あたたかく、やすらかでありますよう。

 願いと祈りを込めた花脣が、淸らかな水の冷たさを受け取ったのは間もなくの事。
 うららは佳人の影を映す水鏡が光を手放すまで、ずっと、ずっと、瞶め続けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャト・フランチェスカ
シェリ
夜はきみたちの時間だよ
美しいものを見つけて
きっと「彼女」は僕を呼んでいるから

剥がれ落ちた壁材
蜘蛛の巣だらけの教室
学校に通ったことはないけれど

そうだな
あの娘が好きそうなのは―

図書室の傍の水呑場に
月影を映す鏡がある
シェリのひとりが
ワルツの足取りで示した先に
割れた鏡の、大きな破片

やっと逢えたね

そっと拾い上げれば
金髪碧眼のきみがいる
シャト・メディアノーチェ
その長い髪は陽光を知らず
きっと消毒液のにおいが染みついてる
きみが死んで
彷徨った魂は桜の樹に至った

はじめまして、僕の前世

泣きそうで
怒りを噛み殺しているようで
諦念も後悔も綯交ぜの
きっと、僕も同じ顔

きみの口が云う
「赦さないわ」

その唇を、僕ので塞いだ



 月燈りに照る板張りの廊下に、細長い黑叢が影を搖らす。
 嘗て児童らが賑々しく駆け走った通路を、靜默の裡に歩き始めた枯骨の群れの奥から、ひやり、冷たくも美しいコントラルトが滑り抜けた。
「――シェリ、夜はきみたちの時間だよ。昏闇から美しいものを見つけて」
 佳聲の主は、シャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)。
 硝子窓に降り注ぐ月影に半分ほど麗姿を暴いた佳人は、鏡が百枚なら枯骨も百体にて、一人にひとつだけ反應を示すというUDC-Null『心鑑鏡』も間もなく見つかるだろうと、夜帳に覆われる校舎に烱瞳を巡らせた。
「……きっと『彼女』は僕を呼んでいる」
 云って、剥がれ落ちた壁材を爪先に轉がす。
 月光に煌く銀糸を辿り、蜘蛛の巣だらけの教室を見渡したシャトは、己には馴染みない景色ながら、きっと彼女が好む場所があろうと細頤に手を添える。
「そうだな。あの娘が好きそうなのは――」
 云って、爪先は或る方向へ。
 足早な靴音を廊下に響かせ、埃被る教室札を幾つか潜って図書室を探し当てた佳人は、その傍にある水呑場に、不圖、光の蕩樣を見つけた。
 シェリのひとりがワルツの足取りで示した先に、割れた鏡がある。
 幾つかの欠片を毀(こぼ)した鏡のうち、大きな破片が月影を映すのを見たシャトは、その瀲灔たる燿いに乙女色の麗瞳を細めた。

「――やっと逢えたね」

 そっと拾い上げた鏡片に、金髪碧眼の「きみ」が居る。
 僅かに開いた櫻脣は彼女の名を告げよう。
「シャト・メディアノーチェ。その長い髪は竟ぞ陽光を知らず、きっと消毒液のにおいが染みついてる」
 そんな「きみ」が死んで。
 彷徨った魂は桜の樹に至った、と――。
 鏡へと結ぶ鼻梁に死の匂いを嗅ぎ取ったシャトは、泣きそうで、怒りを嚙み殺しているようで、諦念も後悔も綯交ぜの白皙に靜かに挨拶をする。

「はじめまして、僕の前世」

 斯く言う僕もきっと「きみ」と同じ顔をしているだろうと――鏡に映らぬが倖い。
 目下、破片の鏡が映し続ける「きみ」は、血の気のない佳脣を動かして、混濁した想いをシャトへとぶつけるよう。
 果して彼女は「赦さないわ」と云ったか。
 蓋しその科白は、「僕」の脣に塞がれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
…これ、本人ですか?
いや流石に本物の本人じゃないですよね?
えええ、どっちですか…?同じ顔が映ってるだけですよね?

というか学校の怪現象ってもっと怖かったりするものじゃないんですか?
言ってしまえば学校の怪談ですよね
こんな怖さの欠片もない怪談もあるんですねえ
夢見る女学生だけを厳選して詰め込んだ女子校でも、これ以上にロマンチックな怪談が生まれるかどうか…

…鏡越しの視線が気まずい
だってほら、万一本当に"さよなら"をする事になったりしたら…ねえ?
なんて言ってては終わらないですよね…じゃあ、額で
結局は鏡にするんですから何処も同じでしょうけど

…なんか異様に気疲れしました
さっさと帰ります
本物の帷さんの顔が見たい



 二階へ至る階段の踊り場に皎々と照る鏡を見つけた夏目・晴夜(不夜狼・f00145)は、今しがた送られたばかりの人物に迎えられるミステリーに、一瞬、時を止めた。
「…………これ、本人ですか?」
 訊けば、影はこっくりと頷く。
「いや流石に本物の本人じゃないですよね?」
 もう一度訊けば、影は頬笑みながらかぶりを振って。
「えええ、どっちですか……? 同じ顔が映ってるだけですよね?」
 佳脣を滑るテノール・バリトンが揃いも揃って語尾を持ち上げるものだから、鏡に映る“白薔薇”は「懐疑(うたが)うのかい」と吃々と竊笑して見せる。
 その如何にも彼女らしい仕草に片眉を持ち上げた晴夜は、仄昏い階段に腰を落とすと、立てた膝に頬杖を突いて云った。
「というか学校の怪現象って、もっと怖かったりするものじゃないんですか?」
 此度のUDC-Null『心鑑鏡』は、謂わば学校の怪談だと言を足す晴夜。
 白手袋をした細指で軍帽の廂を持ち上げ、壁に刻まれる文字を流眄に捺擦(なぞ)った彼は、同じく階段に座って話を聽く白薔薇に、飄々と皮肉を零した。
「……こんな怖さの欠片もない怪談もあるんですねえ」
 翩翻(ヒラリ)と掌を振り、可笑しみを昏闇に游がす。
 夜帳に覆われた寂寞の學舎にも、彼は朗々と佳聲を響かせ、
「夢見る女学生だけを厳選して詰め込んだ女子校でも、これ以上にロマンチックな怪談が生まれるかどうか……ええ……」
 而して鏡越しに結ばれる視線に、他愛ない話が萎んでいく。
 お互いに階段に座った儘では寂しいと詰り、疆界を超えて来て欲しいと手招く白薔薇に中てられた彼は、硬質の指を項へ――灰色の髪をクシャリと掻き乱した。
「だってほら、万一にも本当に“さよなら”をする事になったりしたら……ねえ?」
 虚像とは云え「あなた」なんですよと、廂に翳した紫瞳が玲瓏の彩を搖らす。
 気付けば鏡の前に立ち上がっていた彼は、乱れた髪にも櫛を入れて遣ろうと手を伸ばす白薔薇の手に手を添えると、少しばかり上を向く彼女にそっと科白を置いた。
「――なんて言ってては終わらないですよね。……じゃあ、額で」
 瀲灔の光に白銀を彈く睫を伏せ、宜しいですかと、緋瞳を見つめる。
 結局は鏡にするのだから何處も同じとは思いつつ、彼女の前髪をそっと分けた晴夜は、真白の薔薇と透き通る額に、ひとつ、脣を落した。
 噫、此岸と彼岸の境に脣を置くだけなのに、何故こうも――と吐息は零れようか。
「……なんか異様に気疲れしました」
 漸う光を収め、昏がりに己を映し出す鏡を見た晴夜は、餘韻を味わう事なく踵を返す。
「はやく本物の帷さんの顔が見たい」
 と、實に手際良く去った踊り場には、足早な靴音が響くばかりだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花色衣・香鈴
「う…」
思わず鳥肌が立つ様な雰囲気に、破魔の力を宿す双子鈴の羽衣をきちんと纏い直して歩き出す
「どこなんだろう…」
虱潰しに探す頃には自然と誰が映るのか考えてしまう
病で先立つ自分を見せたくなくて家を出た身だから
「両親…なのかな」
結局反応したのは校長室
でも映ったのは
「…うそ」
わたしの家がお仕えしていた一族の子息
ほぼ同い年
身分が違えば幼馴染とも言える
わたしがお仕えする筈だったお優しい人
「坊ちゃん…」
たらればは無意味
それでも憧れ、恋…そういうものになり損ねた何かが胸の奥底に燻ってる
突然消えたくせに未練がましいわたし
「…お許しください…」
絞り出す様に告げ、震えながら鏡像の頬に口づける
お仕え、したかったです



 嘗ては子供達の笑聲に満ちた學び舎で在ったろうが、埃と蜘蛛の巣に覆われた昔日の俤(おもかげ)は、花色衣・香鈴(Calling・f28512)の前に異樣な氣配を漾わせようか。
「う……」
 肌膚を掠める冷ややかな風に身震いした佳人は、破魔の霊力を織り込んだ羽衣をきちんと纏い直し、双子鈴の淸澄なる音色を連れて昏闇を往く。
「……心鑑鏡……どこなんだろう……」
 人によって光る場所が變わるという、UDC-Null『心鑑鏡』。
 香鈴は百ほどある鏡を一つ一つ丁寧に見て回る裡、己に反應する其は果たして誰の像を結ぶのかと考えていた。
「両親……なのかな」
 云って、白磁の繊手に咲く芍薬の花に、長い睫を落とす。
 病で先立つ娘を送るのは辛かろうと家を出た身にて、両親の事は今でも大切に想っていると、柔らかな乙女色を彩る花片を瞶める。
 鏡面越しに懷しい顔を見られたなら、故郷への想いは溢れようかと足を進めた佳人は、不圖、立ち入った校長室の應接間で、立派な鏡が照り光っている事に気付いた。
 玲瓏なる光の蕩漾に結ばれた香鈴が、幾許か緊張して覗き込む。
 而して其處には。
 上品な扮裝(みなり)をした男が咲みかけていた。
「……うそ」
 不覚えず佳脣から喫驚の息が零れる。
 彼は香鈴の家が奉公に出ていた一族の子息で、香鈴とほぼ同い年の青年。
 身分が違えば幼馴染とも言えたろうか、香鈴が仕える筈だった御曹司が、昔と變わらぬ優しげな微笑で手招きしていた。
「坊ちゃん……」
 若しか家を出なければ――と胸にあわい花色が広がるが、「たられば」は無意味。
 それでも彼に憧れ、戀か愛か、そういうものに成り損ねた何かが、胸の奥底に燻ってる――と、指先にチリと痛みを疾らせた繊麗の手は、きゅ、と握られて胸を押さえる。
 少うし震えた櫻脣は、そっと金絲雀の聲を零して、
「……お許しください……」
 突然あなたの前から消えた事を。
 そのくせあなたを想う未練がましいわたしを。
 絞り出す樣に告げた香鈴は、變わらぬ微咲(えみ)を湛える彼に震えながら口を寄せ、
「お仕え、したかったです」
 と、頬へひとつ。
 しずかに接吻(キス)を落した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
既に別れは済ませてあるというのに
我れながら未練がましい事だな……

人目に付く場に在る物ばかりに映る訳でもあるまい
余り使われていないだろう辺りを重点的に探すとしよう
━━翼使招来、仕事だ
【怪しの気配を辿り探せ】

第六感を集中し、違和感を感じる方向を確かめ歩く先
発見叶えば其の前へ

姿を映す事すらまともに出来ない様な鏡の内
顔の判別さえ付かなかろうとも、君を見紛う筈もない……
何よりも愛おしかった
其の総てを鮮明に覚えている
もう2度と名を呼ぶ事も触れる事もない、心奥に沈めた姿へ
冷たい幻を重ねる事なぞ出来はしない
━━それでも
なぞる様に頬へと触れ
その額へ、静かに口付ける

声無く告げるのは己の裡へ
……お休み、もう一度



「――翼使招来、仕事だ」
 冷艶のバリトンが靜默に沁みて間もなく、無数の羽音が谺する。
 往時は仔らの跫と笑聲が行き交ったであろう板張りの廊下に、黑翼の羽搏きを響かせた鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は、下命を待つ烏天狗達に烱眼を注いだ。
「心鑑鏡が映す“彼が身(かがみ)”とやらは、何も人目に付く鏡にばかり居付く訳でもあるまい。なれば、餘り使われていないだろう辺りを重点的に、怪しの気配を辿り探せ」
 云えば、百八対の烏翼が忽ち昏闇に散じて。
 眷属らに探索を命じると同時、己も爪先を踏み出した嵯泉は、羽聲を幾重に反響させる空蟬の學舎を見渡しつつ、そっと自嘲を嚙み締めた。
「既に別れは済ませてあるというのに、我れながら未練がましい事だな……」
 場所は判然らずとも、誰が映るかは自明っている。
 故に、己を待ち受ける光を求めるのみだと第六感を集中させた嵯泉は、宛ら絲を手繰る樣に昏がりを歩き、少しも迷うことなく、美術室へと向かった。
「……割れた、姿見か……」
 其處に在ったのは、幾星霜を経る裡に罅割れた古鏡。
 零れ落ちた鏡片のひとつ、姿を映す事すらまともに出来ぬ欠片が、月の如く煌々と照るのを見た嵯泉は、黒手袋をした掌にそっと乗せて、なにか囁(つつや)いた。
「    」
 顔の判別さえ付かずとも、見紛う筈も無い。
 何よりも愛おしかった、と光の蕩漾に長い睫を落とした嵯泉は、柘榴の如き赤い隻眼を瀲灔と燿わせる光に、今昔の記憶を結ばれていく。
「噫、其の総てを鮮明に覚えている」
 忘れよう筈も無い君と、共に過した時間と、交した約束。
 もう二度と名を呼ぶ事も、触れる事もない、心奥に沈めた姿へ――冷たい幻を重ねる事なぞ出来はしないと、鴇色に艶めく脣が靜かに引き結ばれる。
(「――それでも」)
 それでも、と手は彼の頬を捺擦るように触れて。
 優しく滑った指先はその儘、長躯を屈めた嵯泉は、彼の額にそっと紅脣を寄せた。

 ……お休み、もう一度。

 聲無き科白は己の裡へ。
 靜やかで穩やかな接吻(キス)を受け取った光は漸う収まり、月影の差す昏闇に残った男の麗顔を映す。
 而して此岸と彼岸の疆界を搖らしていた心鑑鏡は、鏡面に映した心に研かれ「真澄鏡」と成り、寂しさに人を求めて光る事は無くなったという――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月19日


挿絵イラスト