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大祓百鬼夜行⑳〜小豆洗いのアンズちゃん

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行 #5/16シナリオ公開

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#大祓百鬼夜行
#5/16シナリオ公開


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●過ぎし日のUDCアース
 ボクとまさおクンとの出会いは小さな町の河原だった。
 いつものように小豆洗いに精を出すボクに、小学生の彼が話しかけてきたんだ。

「キミ、なんでこんなところで小豆なんか、洗ってるんだい?」
「これがボクの仕事だからね」
「へぇ、その年で偉いんだね」
「えへへ……偉いかな?」
「うん、偉いよ。俺なんかよりずっとね……」
 初めて会った彼の寂しげな顔は今も覚えている。

「実はね……あんこ、嫌いなんだ……」
「なんで。あんこ凄く美味しいのに!」
「味は美味しいと思うよ。でも、俺は嫌い……」
 美味しいのに嫌い。その理由は彼の家庭にあった。
 まさおクンは和菓子屋の一人息子だった。
 パパとママがお店が忙しくて構ってもらえない。
 あの頃の彼はあんこにヤキモチを焼いていたのかもしれない。

 まさおクンは絶対に店を継がないって意気込んでいたけれど、大人になった彼は和菓子屋を継いだ。
 それはボクがいたおかげなのだと、密かに胸を張っていたんだ。

「俺、今度、結婚するんだ。隣町の和菓子屋の娘でさ、実は初恋の女の子なんだよね」
「嘘でしょ? まさおクンにはボクがいるのに……ぐすっ、ぐすん……うわあああぁん!」
 ボクはその場で大泣きし、彼はそれ以来、ボクの前に現れなくなった。
 ボクは妖怪だから少女の姿のまま、ずっと変わらない。
 本当は人間の彼とずっと一緒にいられないのはわかってたの。
 でも妖怪だと知っても変わらずに友達でいてくれたまさおクンなら……って密かに期待してた。
 だから、現実を思い知らされて、ボクは悲しくて泣いちゃったんだね。

 そのあと、ボクは逃げるように幽世に渡り、そこで小さな和菓子屋さんを開いたの。
 まさおクンと一緒に作った思い出のお饅頭。まさおクンの大好きだったバターどら焼き。
 ふわふわのカステラなんかも置いてみた。常連のお客さんも増えて、すっごく繁盛してるんだよ。
 でもね、あの頃の幸せだった思い出は今も忘れられないの。
 今、まさおクンはおじいちゃんになってるよね。会いたいけど、会わないほうがいいのはわかってる。
 本当は幽世に帰ったほうがいいこともわかってるよ。
 でもね、つい期待しちゃうの。ここならまさおクンみたいな男の子にまた出会えるんじゃないかって。
 ボク、こう見えても純情な女の子だからね。えっへん。

●グリモアベースにて
「理性を失いつつある人を救える言葉……そう簡単に思いつかないわね」
 グリモア猟兵の紡木原・慄(f32493)は、ぼんやりと虚空を見つめながらつぶやくと、集まった猟兵たちを見回し、切迫感のある声で事件の発生を伝える。
「大変よ!UDCアースの通信網にオブリビオンが侵入したの!」

 UDCアースの通信網への侵入。通信網に侵入したオブリビオンが、もし通信データを思うがままに改竄できるのなら、国家間の対立を煽って戦争を誘発させることも容易だろう。このオブリビオンの持つのは、紛れもなく「現代社会を破壊しうる力」だ。
 通信網に侵入したのは、電気を操る妖怪。もちろん、自ら骸魂に呑み込まれ、百鬼夜行に加わった、善良な妖怪だ。
 それ故に自我が強く、他人に危害を加えることへの忌避感も強い。

「幸い、そのオブリビオンは強い意志で骸魂に抵抗し、理性を保っているの。今なら直接話し、その魂を浄化することもできるはずよ」

 理性を保っている今なら、猟兵たちが語りかけ、その妖怪を感化させることができれば、魂の浄化も可能だろう。
 それを阻むのは、その妖怪がUDCアースで過ごした日々の「思い出」やUDCアースへの「未練」なのではないかと、慄は推察する。

 幽世に住むのはUDCアースで忘れ去られ、その存在意義を奪われた妖怪だ。
 生き残るために幽世に渡ったが、かつては特定の人間と親しくしていた者も少なくない。そんな妖怪たちが、かつての絆を取り戻せる力を手に入れたなら、UDCアースに留まり、力を行使しようと考えるのではないだろうか。

「完全に骸魂に呑み込まれ、理性を失ってしまったら戦って倒すしかなくなるわ……その前に、彼女に思いを伝え、骸魂に打ち勝つ力を分けてあげてほしいの」

 このオブリビオンとの連絡手段は、UDCアースでも忘れ去られつつある、街外れの公衆電話。公衆電話の受話器を取り、「小豆洗いのアンズちゃん。お話しましょ!」と呼びかければ話すことができるという。

「優しさが溢れた慰めの言葉。悲しみを紛らわすような冗談。熱意が籠もった激励の言葉。誰もが納得するような論説。いろいろな種類の言葉があるわね。私にはどんな言葉が彼女の心を動かせるのか、見当もつかない。会話の内容は皆さんにおまかせするね……」

 慄は少し寂しげに言うと、祈るように手を組んで目を閉じ、猟兵たちをUDCアースへと送り出すのだった。


刈井留羽
 こんにちは。刈井留羽です。今回のシナリオは戦争の箸休め。
 骸魂と合体しても理性を保っている「話せばわかる系」のオブリビオンとの会話シナリオです。
 このシナリオでは、「小豆洗いのアンズちゃん」とお話していただきます。

 アンズちゃんは和菓子が大好きで、普段は物わかりのいい優しい女の子。幽世でも人気者だったようです。
 でもUDCアースでの初恋の思い出が忘れられなくて、心が晴れない様子。
 UDCアースに帰還した彼女は、潜入した通信網を使えば、和菓子が大好きな男の子とまた出会えるのではないかと、淡い期待を抱いています。
 その気持ちが暴走すれば、骸魂に完全に呑み込まれてしまうでしょう。

 プレイングボーナスは、「妖怪と電話で話す」ことです。
 電話で話すだけでボーナスになるので、暴言やセクハラ的な発言をしなければ大抵の場合、成功になると思います。
 リプレイはシナリオの性質上、プレイングの台詞を拾いつつ、必要に応じてアドリブで補完する形になると思います。

 プレイングはシナリオ公開後すぐに受付開始。受付状況はタグでお知らせします。
 リプレイはできるだけ早く執筆しますが、採用数によっては返却が遅れる可能性もあります。
 シナリオ公開から3日後以降にいただいたプレイングは不採用になる可能性が高いのでご了承ください。
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第1章 日常 『電話で話そう』

POW   :    熱意を持って話しかける

SPD   :    巧みな話術を駆使する

WIZ   :    優しく語りかけ、妖怪を慰める

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

岩永・勘十郎
「女子の励ましか……」

と古い公衆電話を手に取り「小豆洗いのアンズちゃん。お話しましょ」と軽く棒読み気味に言う。勘十郎は恋愛に疎い。故に上手く行くか不安ではあったが、思っている事を伝えればなんとかなるだろうと。……数回のコールの後に相手が出てきて

「話は聞いた……その、なんだ。見ず知らずの男の励ましなんて欲しくないだろうが、一応だ」

と苦笑いを浮かべ……

「今は辛いだろう。孤独の恐怖だと思う。だがその恐怖は時期に消える。生きていれば次がある。常に次はあり続ける。素直な心を持った者を、お天道様は見放したりしないんだ」

『もっと良い人が現れる』なんて好きになった事を否定するような事は言わずに相手を励まして。



 UDCアースの忘れられかけた電話ボックスの古い公衆電話。携帯通信端末が普及した現代では、ほとんど使われなくなったものの、災害発生時の備えとして残されているのだろう。
 その電話ボックスに入り、受話器を取った岩永・勘十郎(帝都の浪人剣士・f23816)は、小さくため息をつく。
「女子の励ましか……」
 勘十郎は恋愛に疎かった。失恋をした女性が喜ぶような気の利いた台詞は思い浮かぶはずもない。
 それ故、アンズちゃんとの対話が上手くいくか不安だった。それでも孤独や恐怖に苦しみ、心が折れそうな相手に伝えるべき言葉は持っており、それを伝えればなんとかなるだろうと、思ってもいた。
 そして、勘十郎は、アンズちゃんとの対話を開始する。
「小豆洗いのアンズちゃん。お話しましょ……」
 軽く棒読み気味に発した呼び出しの合言葉に反応し、コール音が鳴り出す。プルルルル、プルルルル、プルルルル。数回のコールの後に接続音がし、電話がつながる。
「もしもし、ボク、小豆洗いのアンズだよ……」
 不安げな声で電話に出たアンズに、勘十郎は簡単に事情を説明をする。
「……みんなボクのこと知ってるんだね。そうなの……ボク、このままじゃ……」
 アンズはそれ以上は語らず、口をつぐんでしまう。その胸中ではどんな思いが去来しているのか。それは想像するしかなかった。
「……その、なんだ。見ず知らずの男の励ましなんて欲しくないだろうが、一応だ」
 勘十郎は苦笑いを浮かべながら、力強く語りかける。
「今は辛いだろう。今お前さんが感じてるのは孤独の恐怖だと思う。だがその恐怖はじきに消える。生きていれば次がある。常に次はあり続ける。お前さんのように素直な心を持った者を、お天道様は見放したりしないんだ」
 勘十郎の真摯な言葉はアンズの心にも届いたようで、電話から聞こえてくる声も明るくなった。
「へへへ……ありがとう。お兄ちゃん、優しいね。お兄ちゃんって、なんとなくまさおクンに似てる気がするよ」
 楽しげに初恋の少年のことを口にするアンズ。しかし、すぐに心細げな声に変わる。
「でも……ボク、本当に素直な心を持ってるのかな? ボク、自信ないんだ……」
 勘十郎は余計な口を挟まず、ただ彼女の言葉に耳を傾ける。
「ボクね、あの時、まさおクンと結婚する女の子にすごく嫉妬しちゃったの。邪魔者はこの世界からいなくなっちゃえばいいのにって……あの時のことを思い出すと、今でも胸がざわざわするの……」
 アンズが感じているのは自己嫌悪なのだろう。それは素直過ぎる心を持つが故の苦悩とも言えた。
「お前さんは、間違いなく素直な心を持っている。それに嫉妬は誰もが持つ当たり前の感情だ。誰にも迷惑をかけておらぬのなら、それほど卑下することでもなかろう」
「そっか……そうだよね。それなら、ボクにもこれから先、いいことがあるのかな?」
「ああ、この先、お前さんには必ずいいことがある!」
 まだ不安げなアンズに、勘十郎は励ましの意味を込めて断言する。
「ありがとう、お兄ちゃん……ボク、なんだか元気がでてきたよ。あのね……ザザザザザ……」
 アンズが感謝の言葉を発すると、音声に不快なノイズが混ざり、通話が切れてしまう。どうやら時間切れのようだ。
 しかし、勘十郎の言葉は確かに伝わり、アンズちゃんに骸魂に抵抗する力を与えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

崎谷・奈緒
思い出、未練。…了解だ、ナオちゃんにまっかせなさーい!

小豆洗いのアンズちゃん、お話しましょー!
…大切な人が恋しいのかい?あたしにもよくわかるよ、その気持ち。
でも、わかってるんじゃない?まさおクンみたいな男の子なんて、まさおクン以外いないってことにさ。これは、あたしの話なんだけどさ。大事な人と別れて思いっきり泣いて、泥のように眠って…目が覚めて、朝ご飯を食べたら、あんなに辛かったのに少し気持ちが落ち着いたんだ。忘れたくなかったのに、段々忘れて行って、…それで、今のあたしがある。
悲しいことかもしれないけれど、きっと大丈夫。いつかきっと、いい想い出になる。笑って、その縁を思い出せるようになるはずさ!



「小豆洗いのアンズちゃん、お話しましょー!」
 UDCアースにある忘れられかけた電話ボックスの古い公衆電話の受話器を取り、崎谷・奈緒(唇の魔術・f27714)は、アンズちゃんを呼び出す合言葉を口にした。すると、コール音が数回鳴り、回線が接続される。
「もしもし……ボク、小豆洗いのアンズだよ」
「あなたがアンズちゃんね。よろしくね!」
 テンション高めに語りかける奈緒に、アンズちゃんの緊張もすぐにほぐれた様子だった。
 そして、奈緒とアンズちゃんの、女同士の「恋バナ」が始まる。

「まさおクンとのことはずっと前のことなのに……ボクね……今も彼のことを思い出しちゃうんだ……」
「……大切な人が恋しいのかい?あたしにもよくわかるよ、その気持ち……」
 奈緒はウンウンと何度もうなずきながら同意する。
「おねえさんにも、経験があるの?」
「まあね……これは、あたしの話なんだけどさ。大事な人と別れて思いっきり泣いて、泥のように眠って……目が覚めて、朝ご飯を食べたら、あんなに辛かったのに少し気持ちが落ち着いたんだ。忘れたくなかったのに、段々忘れて行って……それで、今のあたしがある」
 失恋したときのことを思い出し、そのときの経験談を情感豊かに語る奈緒。アンズはオトナの恋バナに圧倒されたようにしばらく黙り、少し遠慮がちに尋ねる。
「えっとね……大切な人とお別れしたときには、泣いちゃってもいいの?」
 奈緒が質問の真意を尋ねると、アンズはまさおクンとの「別れの日」のことを語り出す。
「ボク、実はね……あの日に大泣きしちゃったこと、ずっと後悔してるの……だからまさおクンのことで、もう泣かないって決めたの……でも泣かなくても彼のこと思い出すたびに悲しくなるんだ……」
 別れの日に大泣きしたときの、まさおクンのすごく困った顔。あんなことで泣いてしまうような子供っぽい自分に、彼は呆れたのだろう。あのときもっとオトナの対応ができていれば……。そんな苦い思い出が失恋の記憶をより強固にしてしまっているのかもしれない。
 
 そして、そんな彼女の気持ちを察し、奈緒は優しく語りかける。
「アンズちゃん、大切な人とお別れしたときには思いっきり泣いてもいいんだよ。泣くだけ泣けば、気持ちもすっきりするしね。それで元気が出たら少しずつ前に進めばいいんだよ」
「そっか……泣いちゃうのは悪いことではないんだね……それを知ったらボク、急に……」
 話の途中で涙声なり、アンズは突然泣き出す。
「ぐすっ、ぐすん……うえぇぇん……ボクは、まさおクンのことすっごくスキだったのに、なんで……なんで他の子と結婚しちゃうんだよぉ……うわぁああん!」
 嗚咽とともに滝のように流れる涙。それは彼女の中で長く根付いていた失恋の悲しみを洗い流すために必要な涙なのだろう。散々泣きわめいたアンズが静かになると、奈緒は何気ない調子で尋ねる。
「で、キミはこれからどうするのかな?このままこの世界で、まさおクンの代わりに新しい男の子でも見つける?」
「えっと、それは……」
「もう、キミはわかってるんじゃない?まさおクンみたいな男の子なんて、まさおクン以外いないってことにさ」
「うん……本当はね、ボクもわかってたの……でもボクは悲しくて、寂しくて……ぐすっ、ぐすっ……」
 奈緒の少し意地悪な問いかけに、心情を吐露するアンズ。自分はこの世界で初恋の人の面影をただ追いかけようとしていただけなのかもしれない。そのことに気づいても、彼女はまだ未来に向かって踏み出すことができずに、困っているようだった。
「今は悲しいことばかりかもしれないけれど、きっと大丈夫。いつかきっと、いい想い出になる。笑って、その縁を思い出せるようになるはずさ!」 
「ありがとう、おねえちゃん……ボクもいつか心から笑える日が来るといいな……ザザザザザ……」
 奈緒の未来へ向けた激励のメッセージはアンズちゃんにしっかりと届いたようだが、すぐに音声にノイズが混ざり通話が切れてしまう。
 それでもアンズちゃんは奈緒との対話で、過去と折り合いをつけ、未来へと進むきっかけをつかめたようだ。それは過去の思い出につけこんで彼女を惑わす骸魂への大きな打撃となり、魂の浄化へとまた一歩近づくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

百海・胡麦
……放っておけない子だ
公衆電話か。初めて触れるよ「小豆洗いのアンズちゃん。お話しましょ」

アタシかい?百海、コムギという。そう、妖怪だ
宜しく頼むよ
逢いたい人がいると。我慢ならぬだろう
己であれば、そうだ

まさおとやらは態々身を固めると告げたそうだね
哀しいが……彼方にとっても特別であったのだろう
うん。其方が和菓子を作り続ける様に
善き想いを多く注がれたから

今宿るその術が宜しくない力なのは解っているね?
嗚呼そのまま、逢うのは頂けない
かつて妖怪は此処に確かに居た
猟兵や骸の影と成る以外に、世界に在れる方法もあるんじゃなかろうか
力を貸すよ——其方の印
いつか菓子を渡すのも好い。皆にその心優しき味を振舞っておくれよ



 UDCアースにある忘れられかけた電話ボックス。通信網に侵入した電気を操る妖怪は、元は少女のまま姿が変わらない東洋妖怪・小豆洗い童子の女の子、アンズちゃんなのだという。
「……放っておけない子だ」
 神妙な顔でそうつぶやくと、西洋妖怪の百海・胡麦(遺失物取扱・f31137)は、健気に骸魂に抗う妖怪の少女に思いを伝えるために、物珍しげに公衆電話の受話器を手に取る。
「これが公衆電話か……初めて触れるよ。さて……小豆洗いのアンズちゃん。お話しましょ」
 胡麦がアンズちゃんを呼び出す合言葉を唱えると、数回コール音が鳴り、回線が接続される。
「もしもし、ボク、小豆洗いのアンズだよ……あなた誰……この気配は妖怪!?」
「アタシかい?百海、コムギという。そう、妖怪だ。宜しく頼むよ」
「そっか、コムギさんはボクと同じ妖怪なんだね……でもボクはまだここにいたいんだよ……」
 アンズは妖怪仲間が幽世から迎えに来たと思い、胡麦に警戒心を向けているようだ。
「何も其方を力づくで還そうとしているわけではない。アタシは其方の行く末を案じているのだ。今宿るその術が宜しくない力なのは解っているね?」
「えっと……わかってるよ……」
 胡麦が優しい声音で尋ねたのは、アンズを飲み込もうとしている「骸魂」のこと。
 アンズが電話口で緊張したのが伝わってくる。応答の声には後ろめたさのようなものも混じっている。彼女は理性を保っているとはいえ骸魂の影響下にある。頭の中では骸魂の声が聞こえているのだろう。
「聞けば、其方は想い人がいると。アタシにその相手のことを教えてはくれまいか?」
「うん……あのね……」
 アンズは話が変わったことにホッとしたように思い出話を始める。彼女が一通り話し終えると、胡麦は口を開く。
「まさおとやらは態々身を固めると告げたそうだね。別れは哀しいが……其方は彼方にとっても特別であったのだろう」
「まさおクンにとってボクが特別……そんなの嘘だよ。彼はボクのことなんかどうでも……」
「どうでもいい相手に、大事な決断を告げることはなかろうよ」
 アンズの悲観的な考えを、胡麦は語気を強めて否定する。
「そうなのかな……まさおクンもボクのことを少しは思ってくれてたのかな……」
「うん。其方が彼方を想い、和菓子を作り続ける様に、彼方も其方に善き想いを多く注がれたから、自らの道を歩むことができたのだろう」
 人と妖怪との奇跡的ともいえる出会い。まさおにとってアンズとの出会いが和菓子職人への道を開き、アンズも彼との出会いで得たのは、孤独や悲しみだけではなかった。悲恋に終わった恋も、未来に花を咲かせる種を残すこともあるのだ。
「ボクはまさおクンに出会わなかったら、自分で和菓子を作ろうとは思わなかった。彼もボクと出会えたから……そうだったらいいなぁ……」
 アンズは寂しげにつぶやく。直接聞いてみたいが、彼と別れてから既に数十年が経過している。再会はとっくに諦めていた。でも……。
「逢いたいのだろう」
 タイミングよく発せられた胡麦の声に、アンズはドキリとする。
「……逢えるかな?」
「嗚呼、そのまま逢うのは頂けない……」
「そうだね……今のままじゃ、まさおクンも驚いちゃうよね……」
「かつて妖怪は此処に確かに居た。猟兵や骸の影と成る以外に、世界に在れる方法もあるんじゃなかろうか。元の姿を取り戻せたら、其方の願いが叶うように、アタシが力を貸すよ」
 それは気休めの言葉なのかもしれない。彼が生きているうちに逢える可能性も低いだろう。
 それでもアンズちゃんはつい期待しちゃうのだ。期待は裏切られることも多いけれど、期待は未来を前向きに生きるための支えにもなる。
「ありがとう、コムギさん。ボク、幽世に帰るよ……いつかまさおクンに胸を張って逢えるように……」
「いつか菓子を渡すのもよいだろう。皆にその心優しき味を振舞っておくれよ」
「うん、幽世に戻ってお店を開けなきゃね。常連さんも待ってるだろうし……じゃあね、落ち着いたらお店にみんなで遊びに来てね。たくさん美味しいお饅頭をつくって待ってるから!」
 そして、アンズちゃんは自分で電話を切る。それっきり、公衆電話で彼女に呼びかけても、コール音が鳴り響くことはなかった。
 
●和菓子屋のアンズちゃん
 幽世の小さな和菓子屋。久々の開店とあって店には常連客が殺到していた。
「お帰り、アンズちゃん。やっぱこの味だよな。俺、この饅頭がないと生活に潤いがないんだよ」
「このカステラ、おやつに出すと子供たちが大喜びなのよね。アンズちゃんが帰ってきてくれてよかったわ」
「俺はこの羊羹だな。甘すぎず、ほんのり塩味が利いた優しい味。アンズちゃんが帰ってきてくれて嬉しいぜ!」
 常連客たちはアンズちゃんの帰還を喜び、お気に入りの和菓子を購入していく。
 
「あの、どら焼き3個ください!」
「はい、いつも買いに来てくれてありがとう。相変わらずいいお兄ちゃんだね」
「まあね。弟と妹はここの和菓子が大好きだけど……俺は和菓子よりアンズちゃんが……」
「ボクが……何?」
「いや、なんでもない! あの、これ……俺が焼いたクッキーなんだ。よかったら食べてよ!」
 クッキーの包みを渡し、脱兎の如く去っていく純情な青年妖怪。彼を見送ったアンズちゃんは小さく微笑む。
「ふふっ、変な人だなぁ。でもこのクッキー美味しそう。あとで食べよっ」

 その後も客がひっきりなしに訪れ、大繁盛の和菓子屋。本日の営業が終わり、アンズちゃんは夕焼け空にむかってつぶやく。
「ありがとう。ボク、頑張ってるよ……いつか逢いに来てね」

 それは電話で一生懸命に励ましてくれた顔も知らない猟兵たちへの感謝の言葉。いつか逢えるときを期待してアンズちゃんは明日も和菓子をつくるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月19日


挿絵イラスト