9
大祓百鬼夜行⑪〜お針子

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#カクリヨファンタズム
🔒
#大祓百鬼夜行


0




 がたがた、ごっとん。がたがた、ごっとん。
 凹凸まみれ、田舎のあぜ道もかくやの道をおんぼろバスが往く。
 窓の外を見れば、バスの通り道以外で見える光景はテレビに映る砂嵐のような光景ばかり。
 ぷしゅ~。
 まさしくと気の抜ける音。
 バスが今迄頑張ってきた身体を休めるかのように、その足を止めたのだ。
 揺れ続けていた車内が落ち着きを取り戻し、唯一の乗客はその視線を窓から古びたバスステップのある方へと向ける。
「世界のほつれだなんて辺鄙なところに用があるのは、あたしみたいなのだけだと思ってたよ」
 新たに乗り込んできた客人こそは、どこかの兎なエルフに送り出された猟兵であるアナタ達。
 その視界に映り込む妖怪の姿はくしゃくしゃ顔のお婆さん。だけれど、まだ髪は豊かで、そのふかふか丸い髪型には古びた簪――いや、縫い針があちらこちら。
 彼女こそがお裁縫妖怪と呼ばれる存在であり、世界のほつれを縫える存在の一人なのだろう。そして、猟兵が守るべき――。
「おやおや、いつまでも突っ立ってたら危ないよ? これから先はちょいと揺れが酷くなるからねぇ。このバスが動き出す前に、席に着いた方がいい」
 おんぼろバスの見てくれ通り、衝撃を吸収してくれるサスペンションなんてあって無い様なものだから。
 ぷっぷ~。
 その言葉が切っ掛けとなったかのように、発進の合図でバスが揺れて、のそりのそりと動き出す。
 がたがた、ごっとん。がたがた、ごっとん。
 バスは揺れて、一路、世界のほつれへと。
 猟兵であるアナタ達に任せられた仕事はバスを、彼女を、砂嵐の向こう側にあるという世界のほつれまで連れて行く事である。
 さて、アナタ達は彼女を無事に目的地まで守り通すことが出来るであろうか。
 先の困難を示すかのようにバスの揺れはより強く、外に見える砂嵐は一層に酷くなるのであった。


ゆうそう
 オープニングへ目を通して頂き、ありがとうございます。
 ゆうそうと申します。

 大祓百鬼夜行はまだまだ続いていますね。
 今回のシナリオは、砂嵐の果てにある世界のほつれへお裁縫妖怪を辿り付かせることが目的となります。
 皆さんも乗り込むことになるバスは世界のほつれを目指しますが、何もしなければお裁縫妖怪ごと砂嵐に呑み込まれ、そこに辿り着くことも出来ずに藻屑となることでしょう。
 ですので、目的の通り、皆さんにはバスと彼女を守って貰えたらと思います。
 バスを砂嵐から守るもよし、バスを砂嵐に負けぬぐらいとするもよし、それ以外の選択肢も勿論のこと。どのようにするかは皆さんの発想にお任せします。

 プレイングボーナス……妖怪バスとお裁縫妖怪を、危険から守る。

 以下、簡単な補足。

●お裁縫妖怪「コトヨ」
 老婆の姿をした妖怪で、その髪には沢山の縫い針を簪のように刺しています。
 性格は人好き。話しかければ、喜んでその会話に参加してくれることでしょう。また、猟兵達の心配をすることはあっても、敵対することはありません。
 世界のほつれを修繕する力はありますが、危険に抗する能力は皆無です。

 送って下さるプレイングの数にもよりますが、今回の採用数は三~四名+α程度になるかと思います。
 +αの数は出来る範囲になりますが、それでもよろしければご一考頂けると幸いです。
 それでは、皆様の活躍・プレイングをお待ちしております。
188




第1章 冒険 『妖怪バスでほつれに向かえ』

POW   :    肉体や気合いで苦難を乗り越える

SPD   :    速さや技量で苦難を乗り越える

WIZ   :    魔力や賢さで苦難を乗り越える

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ジャック・スペード
あんた、縫物が得意なのか
世界のほつれまで縫えるなんて凄いな

――ひとつ、頼みたい
俺は一旦バスから降りるが
再び戻って来た時に、もし
外套が破れて居たら
縫い直しては貰えないだろうか

そういう訳で仕事だな
屑鉄の王よ、力を貸せ
モノアイの異形へと変化すれば
涙淵に電気を纏わせ嵐のなかで静止
多少の衝撃波激痛耐性で堪えよう

動きを溜めに溜めたのち
渾身の怪力で以て、刀をぐんと振り回す
こちらの風圧で
砂嵐を少しでも吹き飛ばせたら良い

一撃を繰り出せば速やかに車内へ帰還
充電が切れる前に
座席へ此の身を預けよう

目的地に辿り着くまでには
再起動出来たら良いんだが

――ヒトが世界のほつれを縫い直す様なんて
滅多に視られないだろう?


トリテレイア・ゼロナイン
(●防具改造で外套羽織り、人馬共に関節部に防塵処理を施し機械馬に騎乗
車内にご挨拶)

外からのご挨拶、失礼いたします
何分、体躯が大きいものでして…
世界のほつれに向かわれる妖怪の方々の護衛に参りました

ご婦人の道中の安全をお守りするのも騎士の務め
エスコートをお許し頂けますか?

そろそろ空模様が怪しいので窓をお閉め下さい
私に関してはご心配なく
性質は違えど、酷な環境は故郷で慣れておりますので

砂嵐をセンサーでの情報収集で探知
バスの先頭に立ちUCを構え機械槍を●ハッキング限界突破
砂塵と強風からバスかばう円錐状バリア展開

推進器の炎でバスを炙る訳にはいきませんからね…

ワイヤーアンカーを繋ぎ機械馬の●怪力で地道に牽引


ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎
コトヨには敬語で話す

そういえば、世界のほつれとは何ですか?どうにも想像がつかなくて
砂嵐はあくまで風、目には目を風には風をだ

SPDで判定
危険な場所に行くまでは色々話しかけて【情報収集】
その間は義眼の視界をリンクアイと共有することで周囲を【偵察】
砂嵐の兆候が見られれば風の【結界術】を展開しバスを守り、【大声】で警戒を促す
【結界術】でもバスの車体が浮くようならリンクアイとの共有を解除
バスが壊れない程度【心配り】【優しさ】で義眼の藍の災い:圧壊【重量攻撃】を床部分にかけ重くし飛ばされないようにする


フィーナ・ステラガーデン
とりあえずバスの屋根にUCで召喚した竜を配置して砂嵐を頑張って蹴散らしてもらっておくわ!
私はそうねえ。時折竜に魔力を送りつつお婆ちゃんと一緒に蜜柑を食べながらだらだら喋るわ!
内容は適当にお婆ちゃんの昔話でも聞きたいわね!特に意味は無いわ!
だいたいこういうバスとか電車とかでの相席で蜜柑を食べながらする知らない年上との会話っていうのは後々自分の為とかになったりするものなのよたぶん!
会話の内容完全にお任せするわ!

(アレンジアドリブ大歓迎!)



 おんぼろバスはガタゴト揺れる。
 さて、それは草臥れた足回りが原因か。それとも、影響を増しつつある砂嵐が原因か。はたまた、そのどちらもか。
「あんた達、悪い事は言わないよ。このおんぼろが駄目になる前に逃げな?」
 おんぼろバスと同じぐらいに古びた自らが役目の果てに朽ちるは良いが、明らかに前途のある若者達が巻き込まれるは忍びなし。
 コトヨはくしゃくしゃの顔に更なる皺を刻みながら、猟兵達へとそう語り掛けるのである。
「ねえ、お婆ちゃん! その髪にあるのって、簪じゃないわよね?」
「え? ああ、そうだねぇ。これはあたしの仕事道具でもある針さ」
「仕事道具! 縫ったりなんだりが得意なのかしら!」
「そうだよ。これでも縫い仕事には自信が……っと、そうじゃなくてだねぇ」
 怖いもの知らず。いや、降りかかる火の粉は自ら蹴り飛ばしてきたフィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)だ。砂嵐の一つや二つなど今更という物。コトヨの心配も気にせずにちゃっかりと隣の席を確保していたのである。
 コトヨ自身の元来の人好きもあるだろうけれど、こんな状況でも色褪せないフィーナの天真爛漫さに思わずと雑談に巻き込まれてしまうのも無理からぬ。
「――あんた、縫物が得意なのか」
 フィーナのペースからなんとか脱し、再びの心配を口にしかけたコトヨへと差す人影の二つ目。
 話の腰を折られて、しかし、コトヨが見上げた先には黒の巨躯――ジャック・スペード(J♠️・f16475)の姿
 おんぼろバスの内部はその巨体にはちょっとばかり窮屈なのだろう。天井ぶつからぬようにと気を遣う姿は、物々しさとのギャップを感じさせる。
「狭くないのかい?」
「ひとまずのところは問題はない。それで……」
「縫物が得意なのか、だったね。こっちのお嬢さんにも言ったけれど、縫い仕事には自信があってね。それで、今回は――」
「世界のほつれまで縫おうと言うのか。凄いな」
「そういうことさ」
 心配のお話の腰は折れたまま戻ることは無い。何故なら――。
「そういえば、世界のほつれとは何ですか? どうにも想像がつかなくて」
 その話を差し込む間もなく、会話はもう次へと流れていたから。
 するりと会話に入り込んできたその張本人こそはルイス・グリッド(生者の盾・f26203)。かねてよりの疑問をこれ幸いと聞かんとするのである。
「ほつれのことかい?」
「ええ、そうです」
「ん~、なんて言うのかねぇ。服の縫い目が解けちまったみたいなもんさ」
「服の縫い目が」
「ああ。服も縫い目が全部解けたら、それは服じゃなくてただの布だろう? それと同じで、世界も形を保つための縫い目みたいなのがあるのさ」
「なるほど。そのほつれが広がってしまうと、世界が形を保てなくなってしまう、と」
「感覚的な話を分かってくれるだなんて、頭のいい子だね。飴をあげるよ」
「ありがとうございます」
 受け取ったルイスの掌でコロリと転がるイチゴ味。口の中に入れる代わり、今はコートのポケットにゴソリ。
「あ! 私も欲しいわ!」
「ふふ、勿論だよ。何味がいいかね?」
「なんでも食べられるわよ!」
「偉いねぇ。じゃあ、その髪の色とお揃いのレモン味だ」
「ありがとう、お婆ちゃん!」
「あんたもいるかい?」
「何分、こんな身体でな。気持ちだけ受け取っておこう」
 当初の心配話はどこへやら。
 ガタゴト揺れるバスの原因は、もしかしたら賑やかな彼ら彼女らが今は担ってしまっているのかもしれなかった。
「ン、ごほん」
 どこから。外から。
 響いた咳払いに全員の視線が窓の外を向けば、そこには車内の黒色と対照的な白銀の色。
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)がその愛馬/愛機と共に、バスへと並走していたのである。
 咳払いは賑やかな車内に寂しさを覚えたからのものではない。決して、ない。
「外からのご挨拶、失礼致します」
「まあ! そんな外に居ちゃ危ないよ。中もあんまり安全とは言えないけれど、入っておいで」
「お心遣い痛み入ります。ですが、何分、私も体躯が大きいものでして……」
 トリテレイアとジャック、二人も乗り込んではバスが重みで傾きかねない。
「じゃあ、なんでそんなとこに……?」
「世界のほつれへ向かわれるのでしょう? ならば、ご婦人の道中の安全をお守りするのも騎士の務めというものです」
「こんな婆さんを捕まえてご婦人だなんて、口が上手だねぇ」
「ふふ。私に口などはありませんが、エスコートをお許し頂けますか?」
「そんな風に言われちゃ、断れないよ」
 返ってくる答えに、否などあろう筈もなかった。

 ――吹き付ける風の勢い、バスの外装にぶつかる音は少しずつ勢いを増していく。

 テレビのノイズが如き砂嵐。その気配の強まりを、脅威の到来を感じぬ猟兵などいない。
「……あんたらも気付いてるだろう? そろそろ、近いぞ」
「そのようですね。では、そろそろ空模様が怪しいので、窓をお閉め下さい」
「あんた、無理はしちゃ駄目だからね?」
「ご心配なく。性質は違えど、酷な環境は故郷で慣れておりますので」
「俺も外で仕事をしてくるとしよう」
 ミシリ。
 ジャックの一歩にバスの床が鳴いて、彼を外にと案内するかのよう。
「――ああ、そうだ」
「どうしたんだい?」
「ひとつ、頼みたい。俺が再び戻って来た時に、もし外套が破れて居たら、縫い直しては貰えないだろうか」
 バスステップで振り返ったジャックの言葉は、必ず帰ってくるという言葉。
「勿論だよ。そん時には、あたしが綺麗に直してあげるとも」
 黒のロングコートはジャックの一張羅。そこにほつれがあったら、それこそ一大事という物だ。
 命を無駄にしに行く訳ではないと主張する言葉に、コトヨは遠のく彼を見送るのみ。

「こうして轡を並べられるとはな」
「光栄ですね」
「こちらの言葉でもある」
「私は前で路を拓きます」
「俺は少しでも風が弱まるよう、嵐に挨拶でもしてくるとしよう。っと、そうだ」
「どうかしましたか?」
「こいつを」
「……飴玉?」
「御婦人からだ」
「これはこれは……ええ、騎士として働くに十分な報酬ですね」

 黒と白銀。機械の身体であれども、二人がその胸に宿すはまさしく「こころ」。
 オプションパーツなくして食べられぬ飴玉ではあるけれど、その気持ちは二人の心を振るい立たせるに十分。
 そして、砂嵐との戦いが遂にと幕を開ける。

 吹き付ける砂嵐/ノイズの風はそれ自体が強固な壁の如く。
 おんぼろバスのエンジンでは前に進もうとしても、にっちもさっちも。むしろ、前から横から後ろからと吹き付けるそれに翻弄され、横転する時を待つばかり。
 本来であれば、そうであったのだ。
「……推進器の炎でバスを炙る訳にはいきませんからね」
 だが、猟兵の集いたる今は違う。
 壁へ穴穿つかのように、先陣の誉れとばかりに、トリテレイアが自らが槍の穂先の如くとなって砂嵐のただ中をバス牽いて突き進む。
 その歩みは牛歩の如くであるけれど、地道に、確かに、一歩ずつと世界のほつれへと近づかせるものであった。
「ですが、助かります。私だけではバスが飛ばされぬように牽けても、安定までは至らなかったかもしれません」
「気にするな。これもそれぞれの役割だ」
 円錐の矛は道切り拓くに適してはいても、護りまで十全にとはいかない。傘の如くと広げれば、どうしても中心より遠きは守りも薄くなるのは致し方のないこと。だからこそ、その足らぬを補強するためにルイスが動いていたのである。
 数多の技能を修めるルイスであればこそ、切れる手札の数も多い。
 その内の一つである結界術を用いて、バスの内部からトリテレイアのバリアを更にと堅固なものへと変えていく。
「ああ、ああ、大丈夫なのかねぇ。無茶をしてないといいのだけれど」
「大丈夫よ、お婆ちゃん! 私たちって、こういうの慣れっこだから!」
「そうです。砂嵐はあくまで風。そんなものに俺達は負けません」
「あんた達……色々と経験をしてきてるんだろうねぇ」
「もっちろんよ! 話せば一夜じゃ済まないぐらい、色々とね!」
「それはすごいねぇ」
「でも、お婆ちゃんだって長く生きてきて、色々な体験をしてるんでしょう?」
「縫い仕事ばかりだったけれどねぇ」
「なら、私、お婆ちゃんの昔話を聞きたいわ! ほら、話疲れても大丈夫なように、蜜柑だって用意してあるんだから!」
「……でも、ねえ」
「構いません。彼女の話し相手になってあげてください」
「そうかい? なら、私の初めての針仕事のことから話そうかねぇ」
「もぎゅもぎゅ」
「相手が話し始める前から、もう蜜柑に手を付けてるのか……」
「いいんだよ、いいんだよ。話がてらに皮も剥いてあげようね。いっぱいお食べ」
「お婆ちゃん、だいすきよ!」
「ちょろ過ぎだろう」
 それがきっと、コトヨの気を紛らわせることにもなるだろうから。
 コトヨにとっては予想以上の大嵐。それに立ち向かう猟兵達への心配。様々な要因が彼女の気を揉み、精神を削っていたのだ。
 もしも、そのまま放置していては、いざという時に十全の力を発揮できていたかも怪しいことだろう。
 だが、そこでフィーナの存在がプラスに働く。フィーナの天真爛漫さが、彼女がコトヨに話しかけ続けることが、コトヨの精神の消耗を軽減していたのである。
 だから、ルイスも躊躇なくとそれを利用するを決めていた。
 コヨトの身を護るのは自分達がすれば良い。精神の安定はフィーナに任せる、と。
 勿論、フィーナがそこまで計算していたかどうかは――彼女のみぞ知るところではあるのだけれど。

「そろそろ、中心部も近い。準備はいいか?」
「――問題はない」

 ルイスが連絡を取り合うはバスの天井のその向こう。
 話す間も、バスはトリテレイアに牽引されて着実に進んでいたのだ。砂嵐の中心部にして、ノイズの発生源たる世界のほつれへと。
 ――問題はない。
 そして、連絡に応えた彼こそジャックその人。
 はたはたと砂嵐にコートの裾を遊ばれながらも、その身自身はバスの屋根で大木の幹が如くと揺れず、立つ。
 その視界は、バスを牽引して進む尊敬すべき白銀の背中が見えていた。
 勝ち負けではないけれど、こうして轡を並べて共にある以上、情けない姿など見せられよう筈もない。
「其の威光、世界に聢と焼き付けよう」
 力ある言葉の開放と共に、ジャックの身を奔るは雷光。ばちり、ばちりと弾けて、まるでその身を蝕むように。
「――屑鉄の王よ、力を貸せ」
 それは禁断の力。ジャックの身体に屑鉄の王と呼ばれる骸魂を降ろすことで、その身を一時的にでもオブリビオンへと化すもの。
 ツインアイが音もなくモノアイへと変わり、弾ける雷光は制御されて己の得物――信頼の花咲く刃へと収束されていく。
「視たいものがあるのでな。吹き飛ばさせてもらう」
 ヒト/妖怪が世界のほつれを縫い直すなぞ、今生で幾度視られようか。
 世にも珍しき光景を見逃さぬため。という建前をもって、ジャックは己が身体の限界までその身を引き絞る。
 ――張り詰めた弦がその身を引き戻し、解き放つは風雷の矢。
 ぐんと振り回された刃は風を断ち、解き放たれた風雷の矢は砂嵐を吹き払う。
 風が、空気が、かき回され、まるでシェイカーの中のよう。
 そのただ中にあってバスが横転せぬはトリテレイアが切っ先となりて、その身の刃毀れを恐れずに風を受け止め続けるから。
 そのただ中にあってバスが横転せぬはルイスが義眼の力を解き放ち、その身の全霊でもってバスの安定を図っているから。
 それらが分かっていたから、ジャックもまた手加減などせずにその力を揮ったのだ。
 ノイズの風が僅かに絶え、砂嵐の壁の向こうに世界のほつれが見えた。
「力揮うはここを置いて他にありませんね。皆さん、一気に行きますので、何かに捕まっていてください!」
 ――ラストスパート。
 風の緩んだ一瞬を逃さずトリテレイアが、ロシナンテが、バスごと一気に世界のほつれへの距離を詰めんと加速を試みる。
 ミシミシと鳴り響く音は、切っ先として嵐からの負荷を受け続けていたトリテレイアの装甲の悲鳴であろう。
 それでも、それでもと、トリテレイアはその足を緩めない。
「いや、まだだ! 吹き戻しがくるぞ!」
 ルイスの義眼が見抜く、世界の動き。
 吹き散らされた空気が元あった場所に戻ろうと、その向きを変えて再び強烈な風となって。
「電力は……問題ない。此の躰が朽ちる迄、力を揮うだけだ」
 一撃で足らぬならば、二度、三度。力の許す限り刃振るわんとジャックがその刃を握り込み――。

「ふふん! 蜜柑でお腹も膨れたし、お話も聞けて気力もいっぱい!」

 ――響いた声の明朗快活。
 風如きに吹き散らされぬ炎が中空にて陣を描き、世界を跨ぐ扉を開く。
 其より出でしは、黒鱗の暴竜。フィーナの従えし、嵐を呼ぶ翼。
 忘れてはならない。フィーナは心癒すマスコット枠に非ず。彼女もまた、立派な猟兵なのだから。
「嵐には嵐をぶつけんのよ!」
 命令一つで竜の翼が羽ばたけば、吹き戻しの風に拮抗する暴風が生み出される。
 そして、決定的な間隙を縫って、トリテレイアとバスは遂に嵐の中心部にして、世界のほつれへと至るのだ。

「あんた達、ありがとうね」

 嵐の中心部は無風そのもの。ただ、ノイズを外に向かって吐き出し続ける穴――世界のほつれがそこにはあるだけ。
 コトヨがバスから降りたって、それを前にしながら頭の針の幾つかを抜く。
 それは折れ、曲がり、錆付き、見てくれだけなら心許ない針。
 だが、それならば確かにほつれを縫えるのだという確信が、猟兵達には肌で理解出来ていた。
「いっぱいいっぱい使ってもらって、最後には供養までしてもらったあたしらがまだこうして誰かの役に立てるんだ。針冥利に尽きるってもんさ」
 コトヨの手にあった針たちがひとりでに浮き上がり、向かう先は世界のほつれ。
 するり、するりと縫い留めて、塞ぎ留めて、ほつれを見事と修繕していく。
 穴の全てが塞がれた時には、ノイズの砂嵐は消え去り、抜けるような青空だけがそこには広がっているばかり。
 猟兵達がコトヨを守り抜いたお蔭で、彼女が十全と仕事をこなせるようにしたお蔭で、この地の世界のほつれは見事にと直されたのである。
 くしゃくしゃ顔の老婆が、感謝の笑みを猟兵達へと向けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月15日


挿絵イラスト