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大祓百鬼夜行⑳~何かようかい電話相談室

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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#カクリヨファンタズム
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#大祓百鬼夜行


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●UDCアース、通信ケーブルの中
 電気を操る力を持つ妖怪であった彼女――骸魂妖怪は、とても焦っていた。

「あああああああ~~、めっちゃ世界破壊したーい!!!! やばいな~~ やばい、ああーー、めっちゃカタストロフしちゃおっかな、やばいじゃん~~ダメダメ!!」

 ――大祓骸魂。
 骸魂の元凶であり、大いなる邪神が一柱でもある究極妖怪。
 この度。全ての知的生命体に忘れられたその妖怪が、UDCアースの破壊を企てた。
 しかし。
 企みに気づく事の出来た一部の妖怪達には、とてもでは無いが、大祓骸魂を討ち倒す力は無かった。
 だからこそ大祓骸魂を討ち倒す力を秘めた者たち――猟兵に『究極妖怪の存在』を認識させるべく。
 妖怪たちは大祓骸魂の軍門に敢えて下り、『大祓百鬼夜行』を起こす事となったのであった。

「やば~い、どうしよ! 起こしちゃおっかな、カタストロフ! ちょっとだけ、ちょっとだけ……あーっ、はみだしちゃいそ~~!! あー、ダメダメダメ!! おこしちゃダメ~~!」
 電気を操る能力を持っていた彼女は、敢えて骸魂に取り込まれてから。
 骸魂妖怪――オブリビオンになってしまった後も。
 自分の名前を忘れてもしまった後も。
 UDCアースに帰還出来た喜びから、うっかり通信網に飛び込んでしまっても。
 ちょっと力を暴走させるだけで、現代社会の通信網を破壊し尽くせる状態になってはいるが、本当にギリギリの所で理性を保ち続けていた。
「う、ううう。誰か、誰か……」
 彼女はギリギリの所で、留まっていた。
 彼女はギリギリの所で、求めていた。
 妖怪であった日々の、日常を。
 カクリヨで過ごした、あの日々を。
「あ~~、誰かめっちゃ熱い相談とかしてくんないかな~~!! カタストロフ起こすの我慢できる気がするのに~~~!! あっ、やっぱしよっかな……カタストロフ……」
 ――立派な質問・相談で無くても大丈夫、恋愛相談から科学知識まで。
 相談を聞くことが趣味だった彼女は、みなさんの相談をお待ちしていた。

●グリモアベース
「と、言う訳で。今から案内する公衆電話から彼女と電話ができるみたいっスから、センセにゃ人に言えない不倫相談から、普段から気になっているシミのとり方まで、何でも良いから相談してきてあげて欲しいンスよ」
 一通り説明を終えた小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)は、コンとぽっくり下駄を鳴らしてにんまり笑い。
「まァ、相談をしたところでそれが役に立つかどうかは、全然保証できないっスけれど。――『相談』って形で話をしたいだけの人もいるっスしね?」
 ねっ、なんて、首を傾いで見せてから。
 掌の中を、ぴかりと瞬かせる。
「何より、相談されるだけで骸魂を気合で浄化してくれるみたいっスから」
 気合で理性を保っている彼女だ。
 元々相談――お話をする事が好きだったのならば、人の声を聞くだけでも元気が湧いてくるのであろう。
 それから顔を上げたいすゞは、ひらひらと手を振って。
「それじゃァ、頼んだっスよォ!」
 ――声掛けと共に眩く輝きを増した光は、公衆電話前へと猟兵を送り届けるのであった。


絲上ゆいこ
 こんにちは、絲上ゆいこ(しじょう・-)です。
 こちらは一章で完結する、大祓百鬼夜行の戦争シナリオです。
 よろしくお願い致します!

●UDCアースの公衆電話にて
 プレイングボーナス:妖怪と電話で話す。

 今回の骸魂妖怪は相談をしてあげるだけで、気合で骸魂を自分で浄化します。
 戦闘は一切発生しません。

 好きな人の話、明日の天気、人に言えない話、どうして空は青いのか。
 本当に何でも良いので、相談をしてあげて下さい。
 文字数が余ったら、猟兵になった上での身の上話でもしてあげて下さい。

 彼女はどんな相談にも、真剣に応えてくれます。
 ただし骸魂に取り込まれているので、めちゃくちゃな返答をする可能性も高いです。
 実際の知識を求められる質問も、本当の答えが返ってこない事も高いです。
 ほどほどに参考にしたりしなかったりしてあげると、彼女も喜ぶと思います。

●今回のシナリオ
 受付状況はタグや、お知らせスレッドでご確認ください。
 タグはうっかり忘れている事も多いですが、気をつけます!!

 それでは皆さんの、疑問・質問・相談等をお待ちしております!
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第1章 日常 『電話で話そう』

POW   :    熱意を持って話しかける

SPD   :    巧みな話術を駆使する

WIZ   :    優しく語りかけ、妖怪を慰める

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

夏目・晴夜
へい、もしもし
このハレルヤの悩みを聞いて下さい

まずですね
健康思考も蔓延る昨今ですが、私は圧倒的に肉派なんです
魚もまあ美味いですけど、やはり時代は肉ですね!
野菜は無いです
いや食べられなくはないんですが、あれ分類的には緑ですし
緑って自然の中に優美に佇むものを目で見て楽しむものですよね?

そんなこんなで肉を食べて過ごしているわけですが
でも最近、肉の食べ方がワンパターンな気がするんです
なので何かオススメの肉料理とか知りません?
和でも洋でも中華でも創作でも全然オッケー
肉であるなら何でもいいです
でも焦げてるのはマジできつい
焦げのあの圧巻の黒さと苦さは何故なんでしょう…
あれ、食べてたら絶対に身体壊しますよね…



 トゥルルルルル、トゥルルルルル。
 誰も居ない電話ボックスの中から、呼び鈴が鳴っている。
 音へと獣耳を向けた夏目・晴夜(不夜狼・f00145)は迷いなく扉を開けて、受話器を上げた。
「はい、もしもし」
「あの、あのあのあのあの! あの! カタストロフを信じられていますか?!」
「はいはい、なるほど」
「私はカタストロフが良いなーって思ってて、あの、それで世界が滅亡しちゃうんですけれど、良いですよね!?」
「なるほど、お好きにどうぞとは言い難いですねえ」
 興奮した様子でまくし立てる電話主――骸魂妖怪は随分と混乱しているようだ。
「えーー、ホント? いやいやいや、でもちょっと見たくないですか、終末。やっぱり終末って響きはドキドキするでしょう?」
 そのドキドキは多分、違うタイプのドキドキだろうけれど。
 一人で破壊衝動に耐えて、耐え続けて、やっと話す相手を見つけたのかもしれない。
 2つの世界を救う為とは言え、気が狂ってしまいそうな話だ。
「それはそうと、ね」
 黄緑色の受話器を握り直した晴夜は、一度視線を下げて、上げて。
「このハレルヤの悩みを聞いて貰えますか?」
 胡乱に並べ立てられる言葉を遮るように、彼女の望む言葉を口にした。
「えーーーーーーーーーーーーーーー!! 聞く~~~~!!」
 一気に砕けた口調になった彼女は、受話器の中ではしゃいで声を弾ませる。
「ありがとうございます。では、少し長くなるのですけれど――」
「ウンウン」
 それから。
 やれやれとかぶりを振った晴夜は、堰を切ったように話しだす。
「まずですね。健康思考も蔓延る昨今ですが、私は圧倒的に肉派なんです。魚もまあ美味いですけど、やはり時代は肉ですね! 野菜は無いです、ありえません。いや、いや、食べられなくはないんですよ。別に。でもあれって、分類的には緑でしょう? 緑って自然の中に優美に佇むものを目で見て楽しむものですよね? 食にも絵も自然も、彩りが大切じゃないですか。差し色ってヤツですよ」
「ワッ! ノンストップでめちゃくちゃ喋るね、キミ!」
「いえ、いいんですよ。緑を食べたい者は食べれば良い。個人の自由を否定するほどハレルヤはひねくれていませんからね。そんなこんなで、肉を食べて過ごしている訳ですが……」
「はー、なるほどねえ」
 細く息を吐いた晴夜は天を仰いで、薄汚れた電話ボックスの内屋根を見て。
「でも、どうにも最近、肉の食べ方がワンパターンな気がするんですよね」
「あ~、解るなあ、結局自分のレパートリーの中でしか回せないもんねえ」
「そうなんですよ、なので何かオススメの肉料理とか知りません?」
「えー、そうだねえ、私はアボカドとしゃぶしゃぶにして、肉を巻いて食べるのとか好きだけど」
「緑じゃないですか!」
「も、森のバター……」
「緑じゃないですか。肉であるなら何でもいいんですよ、和でも洋でも中華でも創作でも……」
 晴夜に2度言われてしまえば、骸魂妖怪もううんと唸って。
「あっ、そしたらアルミスキレットで焼くお肉はどう? スペアリブとか塊肉が美味しく焼けちゃうよ。油を引かなくても魚焼きグリルでまるごとスキレットごと焼けちゃうし、グリル自体は汚れないから掃除も楽なんだよね。鉄と違ってお手入れも楽ちんだしさ」
「直火で焼くと焦げるのも早くないですか? 焦げてしまった時のあの圧巻の苦さと黒さ、困りますよね……」
 ジャリジャリと口の中に広がる炭、そのまま食べたら絶対に身体を壊してしまうであろう味。
 味を思い出したのか、舌を見せて晴夜は眉を寄せる。
「魚焼きグリルは気をつけたらそこまで焦げないよ、マリネ液にお肉を漬け込んでそのまま焼いたり、いい感じに脂が落ちて美味しいよ」
「なるほど、他にも何かオススメがあったりしますか?」
「そうだねえ他にはねえ、煮込み料理なんだけど……」
 人と話す事が楽しくてたまらない様子の骸魂妖怪の言葉は、絶えること無く。
 ――晴夜に全ての肉料理レパートリーを伝え終えるまで、受話器を置く事を許しはしなかったのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
この公衆電話かの?
わしのお悩み相談をしておくれ!(10円玉めっちゃもってきた)

もしもし?汝がどんな相談にも答えてくれる妖怪さんか?
わしの友について相談したいんじゃ

わしの友は、えぐい
えぐいんじゃ…えぐいほどの、甘いもの好き…
しかしわしは、甘いものはふつうくらいなんじゃ

しかし、友はの!
たとえば!

パンケーキに生クリームちょこれーとそーすあいすくりーむましましにはちみつと追いホイップクリームましましのましまし
胸やけの甘さ嬉々と食べる
わしは汝が一人で食べればよいというのに、遠慮するなと口に突っ込んでくる
わしは、あんなに甘すぎなんは無理なんじゃ…!

どしたら上手に断れるじゃろか
おしえてなんじゃよ、妖怪さん!



 歩みに合わせてふかふかと揺れる、灰青の大きな獣尾。
 迷いなく公衆電話に歩み寄った終夜・嵐吾(灰青・f05366)は、電話横のスペースに十円玉タワーを建造すると、受話器を上げて一枚硬貨口へと押し込み――。
「む?」
 ボタンに触れていないというのに勝手に響くボタンのプッシュ音。
 そのまま呼び出し音に移行した受話器に、嵐吾が何となくコードを指にくるくると巻きつけているとすぐに単調な音は途切れて。
「はーい!」
「もしもし? 汝がどんな相談にも答えてくれる妖怪さんか?」
 響くむやみに元気な少女の声に、嵐吾は獣耳を揺り動かして尋ねた。
「あっ、そんな風に今言われてるの? うんうん、そうそう、なんでもきくよ~!」
 少女――骸魂妖怪は電話の奥で納得した様子。その言葉に一度頷いた嵐吾は、言葉を切り出した。
「うん、そしたらきいてもらおかの。……わしは、わしはの……わしの友について相談したいんじゃ」
「うんうん。友達についてかあ、どうしたの?」
「うむ、わしの友はの、――えぐい。えぐいんじゃ……」
「えっ……、えぐい……?」
 ぴりりと走る緊張感。
 暴力だろうか、それとも性関係?
 骸魂妖怪の息を呑む音が、受話器越しに感じられる。
 嵐吾は視線を下げたまま、十円玉を一枚追加して。
「えぐいほどの……、甘いもの好きなんじゃ……」
「えっ?」
 嵐吾の言葉を、思わず聞き返した骸魂妖怪。
 彼女の声は何を言い出すのかといったトーンではあるが、嵐吾は気にせずそのまま言葉を次ぐ。
「そりゃあもう、えぐいんじゃ……。生クリームでも泡立てさせようもんなら、砂糖を一袋使ってそうな甘さで丁度良い甘さじゃと思っとる……」
 公衆電話の向こう側を見ている嵐吾の視線は、何処か虚ろ。
 そのまま何かを思い出した様に胸に手を当てると、彼は眉間に皺を寄せる。
「それは……、えぐいわね……」
 骸魂妖怪の声に交じった、同情の色。嵐吾は尾の先を落ち着き無く揺らしながら、コードをきゅっと引き絞り。
「たとえば! たとえばの!? パンケーキを食べに行くとするじゃろ? そしたらわしの友は生クリームちょこれーとそーすあいすくりーむましましにはちみつと追いホイップクリームましましのましましの、胸焼けカロリー爆弾みたいな甘さのもんを嬉々として食べるんじゃ」
「えっと、ちょっとコーヒーとってきていい? 口の中甘くなってきちゃった」
「待って、まだ続きがある」
「解った……」
 多分コーヒーなんて、今の彼女には用意出来ないだろうけれども。
 嵐吾だって言いながら想像だけで胸いっぱいだ、細く息を吐いて。
「そういう訳での。甘いもの好きっぷりがえぐいんじゃよ。……しかし、わしは甘いのはふつうくらいでの」
「うん、うん」
「で、わしが『汝一人で食べればよい』というとるのに『遠慮するな』とそのえぐい代物を口に突っ込んでくるんじゃ」
「……うん」
「わしは、わしはの、あんなに甘すぎなんは、無理……、無理なんじゃ……!」
「……うんうん」
「でも……善意で……、本気で喜ぶと思うて……、わしの口に……あんなえぐい……」
 尾と耳がぷるぷるする嵐吾。
 かける言葉を無くした骸魂妖怪は、頷くばかり。
「そんで相談内容に戻るんじゃが……、どしたら上手に断れるじゃろか?」
「えっ……!?」
「おしえてなんじゃよ、妖怪さん……!」
 真剣に響く嵐吾の声、追加される十円玉の音。
 骸魂妖怪は、こくりと息を呑んで。
「その友達は脳みそまで砂糖漬けになってそうなくらい甘い物好きで、自分の好きなものをシェアすることであなたが喜んでくれると本気で思っているのよね?」
 ゆっくりと言葉を紡いで、確認するよう。
「うむ」
 嵐吾の頷く声に、彼女は声のトーンを落とし。
「じゃあ、そうね、悪い人じゃないと思うんだけれど……」
「うむ……」
 それから小さく唸って――。
「……食育……?」
「食育……」
 妖怪の出しただいぶ絶望的な答えを、嵐吾は復唱するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
これが相談に乗ってくれちゃうお電話かしら?
私の秘めた悩みを相談しましょ

私、思い悩んで苦しんでいるの
助けてくださるかしら?

あのね、私にはかぁいい妻の人魚と、かぁいい神の夫が居るのだけど
いつの間にか出来ていたのだけどあのね

祝言──婚儀のとき
私は白無垢を着ればいいのか
それとも紋付袴を着るべきなのか悩んでいるのよう
ウェディングドレスかタキシードか、って…カタストロフ並の一大事でしょう?
人魚は白無垢が似合うと思うのよ
マーメイドドレスもいいわ

神だって
紋付袴もタキシードもビシッと着こなせる

なのに私だけが決まらないの…半分ずつでは格好がつかないし…
二人の手をとり歩むとき…私はどちらの格好を…

どうしたらいいの?



 受話器を耳に当てた誘名・櫻宵(爛漫咲櫻・f02768)は、落とした視線に長い睫毛を揺らす。
「……ねえ、あなたは何でも相談に乗ってくれるのでしょう?」
 下唇を軽く噛み。物憂げな様子で、櫻宵は吐き出すように言葉を紡いで。
「私、ずっと、ずっと思い悩んで苦しんでいるの。……助けてくださるかしら?」
「ふふ、そうだねえ。ようかい電話相談室にお任せだよ~」
 対する骸魂妖怪は猟兵から電話が掛かってくるのも、随分慣れてきた様子で。ゆるーく元気に応じるのであった。
「ありがとう、嬉しいわ」
 櫻宵は沈んだ表情に、少しだけ彩りを取り戻して笑み。
 ――秘めつづけた悩みを、語りだした。
「……あのね。私にはかぁいい妻の人魚と、かぁいい神の夫が居るのだけど」
「タイム」
 被せる形で一度言葉を断ち切った妖怪は、受話器の向こう側で煩慮の息。
「え? 今、何て言ったのか、ちょっと理解できなかったんだけど。もう一度お願いしていい?」
「だから、あのね、かぁいい妻の人魚と、かぁいい神の夫が居」
「待って、一夫多妻ですらないの?」
「うふふ、いつの間にか出来ていたのだけど、あのね」
 疑問の言葉にもめげない櫻宵は二人の姿を胸裡に描いたのだろう、唇に花笑みを宿して。
「……うん、妻と夫がいるのね。そっか、それで、それで?」
 他種族で結ばれる事は、決して少ない事では無い。
 つまり櫻宵は夫で妻という事になるのだが、妖怪は細かい前提条件をスルーすることにした。
 大人にはそういう対応力を求められる時があるものだ。大人だから。
 ――何より。
 恋愛やそれにまつわるイザコザの話が、彼女は単純に大好きなのだ。
「それでね、祝言――婚儀のときの事なのだけれど……」
「えっ、三人でするの?」
「そりゃあ、そうよ」
「そっかあ……」
 三人が納得してるならいっかあ……、押し切られる妖怪。
「それでね。私は白無垢を着ればいいのか……、それとも紋付袴を着るべきなのか、悩んでいるのよう!」
「なるほどねえ、……うーん、たしかに妻であり夫であるなら、困っちゃうねえ」
「そうなのよ! ウェディングドレスかタキシードか、って……カタストロフ並の一大事でしょう?」
 櫻宵は言葉を紡ぐにつれてうっとりと眦を緩め、ぽぽぽと角に花を咲かせはじめ。
「うんうん」
 妖怪の相槌に熱の籠もった吐息を吐いた櫻宵は、受話器のコードをくるくる指に巻き付ける。
「人魚はね、かぁいいけれど、強くて眩しくて……、そうね。白無垢がよく似合うと思うのよ。でもマーメイドドレスも良いわね。あの子には柔らかに靡く白がよく似合うもの」
 夢を見るようにうっとり睫毛を揺らして、櫻宵は呟き。
「神だってね、紋付袴もタキシードもビシッと着こなせると思うわ。色はどうしようかしら……、やっぱり白に赤の差し色かしら? 何にせよ、ほれぼれしちゃう位格好良く着こなしてくれる筈よ」
 それなのに。
 ――櫻宵の視線の色が、少しばかり冷える。
 思い悩んでいる、苦しんでいる。
 それは櫻宵にとって、紛れもない事実なのだろう。
「お色直し……じゃ、だめなのよね?」
 その様子を感じ取ったのか、妖怪も声のトーンを落として応じると。
「ええ。二人の手を取って歩む時に、私はどちらの格好をしていれば良いのかしら……」
 ――半分ずつじゃ、格好がつかないわ。
 かぶりを振った櫻宵は、また下唇を噛んだ。
「どうしたら、いいのかしら……?」
「――お色直ししちゃえばいいんじゃないのかなあ。3人で」
 先程までの勢いが失われて、零す様な櫻宵の言葉に妖怪は小さく唸り。
「三人でお揃いの白無垢を着て、三人でお揃いの紋付袴を着たらいいんじゃない? 何なら白無垢風の袴でも良いと思うわ」
 これが答えでいいのかはわからないし、私の考えだよ、と彼女は付け足して。
「それにねえ。最近はタキシードドレスっていうのもある……って、今検索したらでてきたもの。半分ずつでも良いんじゃない? だって、あなたは夫で妻なんでしょう?」
 キッパリ割れないものなら、真ん中でいいじゃない、なんて。
 柔らかく告げるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
相談…そうだね
話を聴いてもらおうか

話すとなるととても緊張するのだが

あのね…私には愛し子がいる
愛しくてたまらない、前世からの縁で結ばれた可愛い子だ
かれは私の巫女なのだが…それはもう可愛くてね
角をつつけば桜が咲いて、ほうと櫻色に染まった頬
潤んだ瞳で見上げられた日には如何なる願いであろうと叶えてあげたくなる…
あの子が笑っていてくれればいい
あの子が笑っていきていてくれる世界こそを守りたい

……で、本題なのだけれどね
そんな可愛い巫女を神隠ししてしまいたい衝動に駆られるのだけれど、どう抑えれば良いのだろう…
いつ神隠ししてしまおうかな…
いつ頃がいいだろう?
喜んでくれるかな

なんて…秘密だよ
あの子にだって言えない



「なにか~~ようかいっ、電話相談室ーっ!」
 骸魂妖怪の元気な調子に受話器を耳に当てた朱赫七・カムイ(約倖ノ赫・f30062)は、眦を緩めて。
「そうだね、――話を聴いてもらおうか」
「おっ、何なにー? だいぶカタストロフ衝動も和らいできたからねえ、何でもきいちゃうよお」
「話すとなると、とても緊張するのだが……」
 カムイは彼女に促されるままに、想いを言葉にして紡ぎ出す。
「あのね、……私には愛し子がいる。愛しくてたまらない、前世からの縁で結ばれた可愛い子だ」
「ははーん、なるほどね! それでそれで?」
 きっと受話器の奥で、笑っているのだろう。
 惚気の気配を感じた骸魂妖怪の相槌は、楽しげに弾むよう。
「かれはね、私の巫女なのだが……」
「…………んっ? ぅ、んっ」
 彼っていったのに巫女って言ったなあ。
 ギリギリの所で疑問の声を承知に捻じ曲げた骸魂妖怪は、息を呑む。
 そう、触れなくていい所は触れないほうが良い。
 大人ってそういうものなのだ。
「噫。……それはもう、可愛くてね」
 彼女の葛藤を知る由の無いカムイは、口に宿した言葉に甘さを感じるように。
 愛おしさを映す眸に長い睫毛を被せて、甘やかに笑った。
「柔らかい髪は撫で心地が良くてね。……角をつつけば、いじらしく桜の花が綻び咲くのだよ。頬を櫻色に染めて、潤んだ瞳で見上げられた日には、如何なる願いであろうと叶えてあげたくなる」
 紡ぐ言葉は何処までも優しく、何処までも甘く溶け行く響き。
 ――あの子が笑っていてくれればいい。
 あの子が笑っていきていてくれる世界こそを、守りたい。
 あの子の横以外に、カムイの安息の地など存在しやしないのだから。
「なるほどね……、あなたはその子が大好きなのね」
 骸魂妖怪はうんうんと相槌を打つばかり。
 なんたってココまでは、完全無欠のただの惚気だ。
 相談が無いと言うのは良い事ではあるのだけれども。
 今日この場で電話をかけてくる猟兵達は、どうやら相談を持ちかけてくれるようだから。
「……噫。いとおしいよ。ひどく儚くて、うつくしくて――」
 形の良い指先で顎に触れて。
 ほう、と身体に溜まってしまった熱を逃がすように、カムイは息を吐き。
「あの子を、……神隠し――してしまいたくなるのだよ」
「うん? え?」
 イマイチ骸魂妖怪の中では、その言葉の前後が繋がらなかったのだろう。
 ついに聞き返してしまった彼女に、カムイは受話器に耳を当てたままゆるゆるとかぶりを振って。
「可愛くて愛おしい子をね、……私は攫って神隠しをしてしまいたくなるのだ。この衝動はどう抑えればよいのだろうね。……いつ神隠ししてしまおうかな……? いつ頃がいいだろう?」
「えっと……」
「……喜んでくれるかな、私の巫女は」
 甘やかに笑うカムイの言葉に、冗句の色は感じられない。
「今私がカタストロフを起こしたくなる的な……感情かなあ?」
「それが汝にとって耐えかねる衝動であれば、きっと同じだろうね」
 骸魂妖怪が唸って絞り出すように応じると、カムイはどこか楽しげに笑って。
「この幾らでも甘やかして、何でも叶えたくなるこの感情は――」
 あの子を苛む、全ての苦しみを、全ての悲しみを、すくって奪って、厄を転じて塞として。
 閉じ込めてしまいたい、隠してしまいたい。
 この身を焦がす、いとしさゆえに。
「……なんて、秘密だよ」
 人差し指を立てたカムイは、内緒の指。
 噫。
 とてもでは無いが、――あの子にだって言えないこと。
「聴いてくれて、ありがとう」
「んーん。……でもねえ、閉じた関係は幸せでとても落ち着くとは思うよ。でも、きっと、いつか、息苦しくなるかもね」
 だからきっとね、隠さないほうがいいよ、なんて。
 骸魂妖怪は、ぽつりと言葉を付け足した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

戀鈴・シアン
(終始ヒソヒソ声)
……もしもし
何でも相談室って此処で合ってますか

あの、お門違いだったら申し訳ないんですけれど
恋の相談とかって……
あ、いや、恋の相談と決まった訳ではないんだけど
一人で答えが導き出せない事があって
…聞いてくれます?

俺の家族……と言っても血の繋がりはなくて
家族みたいに思ってた相手から、好きな人がいるって聞いて
それを聞いた時に……胸の辺りが、靄掛かってしまって
……これって、所謂「嫉妬」ですかね?
体調不良かなとかも、思ったんだけど…
あれ以降なかなか治らなくて

…有難う
聞いてもらえて少しスッキリしました
お姉さんもあんまりストレス溜めないように…
何かあれば電話してくれれば、次は俺が話聞きますよ



 誰も周りに居ない事を確認してから、電話ボックスにさっと入った戀鈴・シアン(硝子の想華・f25393)は受話器を耳に当てる。
 ぴ、ぽ、ぱ。
 それだけでボタンに触れてもいないのに、受話器の奥ではプッシュ音が響いて。
「……もしもし、何でも相談室って……此処で合ってますか?」
 次いで短い呼び出し音が途切れ、通話の準備が整った事を理解したシアンは、掌でマイクを覆って小さな小さなヒソヒソ声で尋ねた。
「おっ、なになにー? いいねいいね。悩める青少年って感じの声! ふっふっふ、何を隠そう今此処でええと猟兵さんたちの相談を受けているのはこの私! 何でも相談したまえよ、きみぃ。役に立つかどうかはしらないけれどね!」
 受話器の奥で弾む、めちゃくちゃテンションの高い骸魂妖怪の声。
 その軽すぎる調子にシアンは、空の色をした瞳を瞬かせる。
「は、はあ……そう、ですか……」
 胸裡に過る、本当にこの人に相談して大丈夫なのかという思い。
 ――しかし。
 他にアテがある訳でもなく、一人で導き出せない答えが在るという事実も確かで。
 小さくかぶりを振ったシアンは、息を吸って、吐いて。
「えっと、……あの、お門違いだったら申し訳ないんですけれど。恋の相……」
「恋!? いいねっ!?」
「あ、や、え……っと、恋の相談と決まった訳ではないんだけど……」
 絞り出した言葉に被せるように、結構な食いつかれ方をしたシアンはもう一度言葉を詰まらせ。
 それでもきゅっと受話器を握り直すと、小さく跳ねる胸に手を当てて言葉を次いだ。
「……聞いて、くれます?」
「ふふ、勿論。何に悩んでいるのかな?」
「……俺の家族――といっても、血の繋がりはなくて。でも、家族みたいに思ってた相手からこの間……、好きな人がいるって聞いて」

 あの日。
 瞼をそっと伏せてから、言葉を紡いだ、彼の表情が脳裏に蘇る。
 ――恋なら、しているよ。ずっと前から。
 シアンは、知らない……ひとに。

 無意識に胸元を掴んだ彼は、落としてしまった視線に長い睫毛を被せて。
「それを聞いた時に、……胸の辺りに靄が掛かったように、なってしまって。聞きたい事があるのに、何も聞きたく無くなって……」
「うんうん」
 あの日と同じ様に、胸に立ち込めだした黒い靄。
 骸魂妖怪の穏やかな相槌に、シアンは吐息混じりに言葉を吐き出して。
「……これって、所謂『嫉妬』ですかね?」
「うん、そうだろうねえ」
 あっさりと骸魂妖怪は答えると、シアンは瞳を一度伏せた。
「……体調不良かなとかも、思ったんだけど、……なかなか治らなくて」
「うん」
「家族の……顔を見るとその時の事を思い出してしまって。……相手はどんな人なんだろう、とか、何処で出逢ったのかな、とか、一体何時から……恋を、……していたんだろう、とか。考えれば、考えるほど胸に黒い靄が立ち昇ってくるみたいで」
 恋を知らない。恋心が足りない。
 彼はシアンの事を、そう評価した。
 ……だから、何時も通り。
 何時も通り過ごせば、この靄だって晴れてくれると思っていたのに。
「キミのソレがね、恋とは限らないけれど。……私はそれを嫉妬だと思うし、キミはきっと欲しいんだと思うよ」
「……欲しい?」
「多分ね」
 受話器の奥で軽く響いた声に、シアンは瞬きを重ねて。
「……有難う、ございました。えっと、聞いてもらえて少しスッキリしました」
 そうして胸を撫で下ろすと、胸に溜まった靄の呼吸のしづらさが少し薄れているような気がした。
「お姉さんもあんまりストレス溜めないようにしてくださいね。何かあれば電話してくれれば、次は俺が話聞きますから」
「おっ、いいねえ、鬼電しちゃお~」
 その時には、キミの靄の答えも出ているといいね、なんて。
 骸魂妖怪はまた笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フローリエ・オミネ
☆アドリブ歓迎

もしもし、初めまして

早速の相談なのだけれど、よろしいかしら?

その、お料理についてなの

…半年程前から居候の身として家事を始めたのだけれど
元来不器用なわたくしは、包丁がまともに扱えなくって

上手くものが切れなくていつも指を切ってしまうし、不格好な料理が出来上がるのだわ。

彼は「気にしない、作ってくれた事実が嬉しい」とおっしゃるわ
でもわたくしとしてはやっぱり、気になってしまうの。

…いくら猟兵とはいえ、血が出れば痛いし。

お料理を上達させるためにはどうしたら良いかしら?
どうかご教授して頂戴。

…話は相槌を打ち良く聞いて、参考にするわ
人の意見は大事だものね
上達したら彼は喜んでくれるかしら



「はあいどうも、妖怪なんでも電話相談室にお電話ありがとうございまーす」
 骸魂妖怪の声が響く受話器に手を添えたフローリエ・オミネ(思操の魔女・f00047)は、ぱちぱちと睫毛を揺らして。
「ええと、はじめまして。……早速の相談なのだけれど、よろしいかしら?」
「はいはい、いいですよう。何ですか?」
「その……、お料理についてなの」
「お料理、ですか?」
「そうね、……わたくしは半年程前から居候の身として、家事を始めたのだけれど……」
「なるほど」
「……元来不器用なわたくしは、包丁がまともに扱えなくって……」
 フローリエは視線を落としたまま、ゆるゆるとかぶりを振って。
「上手くものが切れなくていつも指を切ってしまうし、……どうにも不格好な料理が出来上がるのだわ」
 彼のために食事を作っているの言うのに、包丁捌きはどうしたって彼の方が上手だし。
 料理本を見ながら調理しているというのに、火が通ったかも分からないし。
 なんたってフローリエにとって食材だってまだ、食べる事すら慣れていないものばかりなのだから。
「彼はね、『気にしない、作ってくれた事実が嬉しい』とおっしゃるわ」
 彼はいつも、たくさんの言葉で伝えてくれる。
 彼のくれるたくさんの言葉に、いつもフローリエは救われている。
 それでも、それでも。
「わたくしとしてはやっぱり……、気になってしまうの」
 彼が気にしない、と言ったとしたって。
 物では無くて気持ちをたくさん貰っていると、言ってくれているとしたって。
 ――綺麗で美味しい料理を彼に食べて欲しいという気持ちは、フローリエの偽らざる本心だ。
 それにいくら猟兵とはいえ、包丁で指を切ると血も出るし、痛いものは痛い。
 割と痛い。
「……そういう訳で、ね。お料理を上達させるためには、どうしたら良いかしら?」
 どうかご教授して頂戴、と。
 フローリエが告げると、骸魂妖怪はううん、と声を零して。
「レシピは見ているのよ、……ね? それに包丁が苦手なら……。ピーラーを使ったり、キッチンバサミで切れるものは、切っちゃうのはどう?」
「ピーラー……、はさみ……。調理器具、よね?」
 ビューラーみたいな名前の器具。
 野菜の皮むきの出来る器具だと思い出したフローリエは、小さく頷いて。
「そう。お肉とか、大きくない野菜ならハサミで切っちゃったほうが綺麗に切れると思うよ! あと味付けは……、レシピ通りにやると大きな失敗は無いと思うし……。慣れていない内はアレンジをしないで、レシピ通りにやることを心がければ良いと思うよお」
「うん、うん、そうね」
「あっ、後はお皿、お皿! お皿が良ければ見た目がいまいちでも何とかなると思うよ! いい感じのお皿を用意しよっ!」
「まあ……、買いに行かなきゃ行けないものが沢山ね」
「そうだよー。調理が楽になるように、使いやすいものを沢山買い足しちゃえばいいんだよー。包丁で切らなきゃいけないなんてルールは別にないんだから!」
 骸魂妖怪の言葉にフローリエは、ぱちぱちと瞳を瞬かして。
「……そうね、そのとおりだわ」
 それから彼女は眦を和らげると、唇に人差し指を寄せて言葉を次ぐ。
「ねえ、あなた、……最後にもう一つ聞いていいかしら?」
「いいよ~!」
「上達したら、彼は喜んでくれるかしら」
「そりゃあ、もちろんねえ!」
「ふふっ、……それは楽しみね」
 健気だねえ、と笑った骸魂妖怪の言葉に、フローリエも唇に小さく笑みを宿し。

大成功 🔵​🔵​🔵​

千々波・漣音
オレ様は神格高い竜神だから、相談されて叶える方なんだがなァ
ま、電話してやるか

オレの幼馴染がな、究極に鈍すぎてだな…
毎日振り回されてばかりなんだよ…

この間も、罠って言ってるのに自分から嵌ってはオレが全部肩代わりする羽目になるし
楽しみに取ってる美味しいモンもいつも食われるし
西瓜で撲殺されるし!

あ、でも超可愛いんだケドな!
不器用なのも、美味そうに食う姿も、酔っ払った時も…(結局俺の幼馴染可愛い話

でもずっと一緒だし、普通気付くと思うんだケド…
え、まさかオレに全く興味がない…いやいやいや
オレは神格も女子力も顔面偏差値も高いからモテモテなんだケドなァ…
どうすればいい?(結局超相談

そっか…頑張ってみるなァ!



 千々波・漣音(漣明神・f28184)は、非常に神格の高い竜神である。
 本人が自己申告でそう言っているのだから、多分そうなのだろう。
「ま、オレ様はどっちかっていうと相談されて叶える方だけどなァ。それが救いになるってェなら、電話してやっか」
 ドヤ顔を浮かべて髪の毛をさらりとかきあげた漣音は、ふ、と笑って。受話器に手を取り、耳に当てると――。
「うおっ」
 瞬間、ボタンを押す前に響き出したプッシュ音と呼び出し音に、小さく肩を跳ねて。
「どきどき! なんかようかい~、電話相談室~~!」
 漣音はめちゃくちゃ元気に響いた声に、ときとき跳ねる胸をなでおろしながら瞳を細めた。
「はァッ!? お、おう……」
 まァ神格の高い竜神である漣音が、それしきの事に驚く訳は無いので、このひっくり返った声は全て気の所為なのだけれども。
「相談を聞きたいって聞いてきたんだが、本当に何でもいいのか?」
「もちろーん! なんでも聞いちゃうよ」
「ん、……オレには幼馴染がいるんだけど……、そいつが究極に鈍すぎてだな……」
「鈍い……?」
「オレ様はそのせいで、毎日振り回されてばかりなんだよ」
「へえ」
 鈍いなんて言葉。
 気づいて欲しい感情がある時しか使わない言葉だ。
 いや。本当に身体的に鈍い可能性も、万が一くらいは残っているかもしれないけれど。
 いやいや、わざわざそんな相談をするってことは。
「なるほどね~~」
 骸魂妖怪は喜色の浮かんだ相槌を一つ。
 そんな彼女の様子に気づいているのか、いないのか。いや多分気づいて居ない。なんたって、漣音もちょっと鈍めの所があるもの。
「この間もさァ、罠だって言ってるのに自分から嵌っては、オレが全部肩代わりする羽目になるし……、楽しみに取ってる美味しいモンもいつも食われるし……、好きな人がいるか聞いてくるし……、いや、あれは気づいて……いや……?」
 漣音はブツブツ呟きながら、勝手に自分の中の柔らかい部分を踏み抜いて。
 勝手にダメージを食らってぶんぶんとかぶりを振り、大きくわざとらしい溜息。
「後、西瓜で撲殺してくるし! とんでもねェんだよな」
「……撲殺?」
 殴り殺されてるのに生きているという事は、この人は悪霊の人なのかもしれないなあ。
 骸魂妖怪が思わず聞き返した言葉を、まるっとスルーした漣音は拳をきゅっと握りしめて。
「そう、とんでもねェ……、とんでもねェ可愛いさなんだよな!」
 そのまま幼馴染可愛いトークに突入した。
「うん」
「浴衣を着たら超絶可愛いし、まあ普段の服も可愛いんだケドな! あの不器用な所も、リスみたいに一生懸命美味そうに飯を食う姿も、酔っ払った時も……、なんだかんだでオレに頼ってくる所も……、は~、超絶可愛いんだよなァ……」
「うんうん」
 あ~、やっぱりこれ恋バナ~~!!
 受話器の向こうで目一杯笑顔になっている骸魂妖怪は、漣音の言葉を促すように相槌を打つばかり。
「でもずっと一緒だしさ。普通……ほら、気づくと思うんだケド……、何故かはぐらかして……というより気づく様子がないというか……、……えっ、まさかオレに全く興味がない、とか? いや、いやいやいやいや」
 一人で勝手に話を進める事が得意な漣音は、相談というよりは全力で一人で思い悩みだしそうになり。顔をぐっとあげると、無理やり軌道修正。
「オレは神格も、女子力も、顔面偏差値も高いからさ、モテモテなんだケド……その幼馴染はどうもこう、気づく様子がねェんだよな~~! で、どうすればいいと思う?」
 突然真に迫った声音で尋ねた漣音を泳がせまくった骸魂妖怪は、こっくり頷いて。
「告白したら?」
「ヘァッ!?」
 肩を跳ねた漣音は、ひっくり返った高音でお返事。
「いや、こう、言った、事が、あるような、ないような、……んなのっ」
「……言ったの?」
「い、いや、ちゃんとは言って、……無いけど……」
「……へええ」
「待っ、違!?」
「ふふふふ、頑張ってね。また今度、報告頂戴ねえ」
 そんな彼に骸魂妖怪は世界一楽しそうに、後の報告願いを告げるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

疎忘・萃請
ぽちりぽちりと慣れぬ手つきでボタンを押す
ヒトの子がしているのを見たことがあるよ
次は耳を当てるのだったな

もしもし、どうぞ聞こえているか?
悩み……を聞いてくれるのだったな

アタシはヒトが好きだ
ヒトの子を愛しいと思っている
……しかし…………
未だきちんとヒトの子と話をしたことがないのだ
同胞の妖怪とは話を出来るのだが
ヒトの子相手となるとどうも緊張してしまう
怖がらせてはいないだろうか
恐れさせてはいないだろうか、と

どうすればアタシはヒトの子と話が……
仲良く出来るであろうか

……ふふ、このような気持ちを話したことも初めてだ
初めてずくしだな



 ついこの間も、押したばかりのボタン。
 受話器を上げて、耳に寄せて。
 疎忘・萃請(忘れ鬼・f24649)は、緑色の瞳を細めるとスピーカーの音に耳をそばだてる。
「もしもし、どうぞ聞こえているか?」
「はぁいどうも、聞こえてるよお。ようかい電話相談室にようこそ! なんでも相談に乗っちゃうよ~、なんたって私はいま骸魂と一体化してて、なーーーんもできないからねー!」
 随分な言い分だが、電話口の向こう側はどこか楽しそうだ。
 萃請はそうか、と呟く。
 どれだけ楽しそうにしていたって、今彼女は骸魂妖怪――オブリビオンになってしまっている。
 それは彼女たちが、ふたつの世界を守ろうとした結果だ。
 ならばそれに応えるのが、猟兵に必要な矜持だろう。
 彼女が質問を、言葉を、声を求めるというのならば。
「アタシは、ヒトが好きなんだ。ヒトの子を愛しいと思っているよ」
 けれど、と萃請は言葉を次いで。
「しかし、……未だきちんとヒトの子と話をしたことがないのだ」
「なるほどねえ」
 電話口で骸魂妖怪が相槌を打てば、萃請も頷いて。
「同胞の妖怪とは話を出来るのだが、ヒトの子相手となるとどうも緊張してしまってな」
 それからゆるゆるとかぶりを振りながら、萃請は瞳を伏せる。
「――怖がらせてはいないだろうか、恐れさせてはいないだろうか、と、……どうにも考えてしまうのだ」
 萃請は『鬼』という神だ。
 畏れを失い、忘れ去られた鬼。
 ――ヒトを知りたい。ヒトと話したい。ヒトを好きだと思う。
「どうすればアタシは、……ヒトの子と話が……、仲良く出来るであろう?」
「私も妖怪だから、っていうか今は世界を気軽に崩壊させられる存在だから、なんとも言い難いんだけどね~~、えっ、それは普通に話し掛けちゃだめなの?」
「……どうにも、アタシが緊張をしてしまってな」
「えー、緊張する時は、ヒトって漢字を掌に書いて呑むと良いらしいけど、あなたが呑むと洒落になんないねえ」
 あはは、と笑った骸魂妖怪は、そうねえ、と。
「緊張して話せないなら、話すしか無い状態になったらいいんじゃない? ……ほら、ヒトの前で敢えてピンチになってみるとかさ」
「……ぴんち?」
「そう、それで声をかけてきてくれたヒトは、あなたの事を助けたいと思っているってコトでしょ?」
「……成程」
 萃請はいまいちピンときていない様子で、相槌を打ち。
 その響きに骸魂妖怪の彼女は、さらに提案を重ねる。
「拾って下さいって箱に入ってみたり、側道にハマってみたり……」
「本当にソレで良いと思っているか?」
「ふふふふふ」
「……ふふっ」
 それから。
 じゃれるように言葉を交わしあった二人は、小さく笑って。
「このような気持ちを話したことは、初めてだな」
「じゃあ、次はそれをヒトとしてこなきゃねえ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧島・ニュイ
※ネタ回答大歓迎

遊んで欲しい年上のお姉さんからは友人感覚で相談されるけどするのはない

もしもし!
僕にはカクリヨから連れ帰ったチョビって茶まろわんこ妖怪(オス)がいるんだけど!
今チョビの目を盗んで電話してるよ!
最初はドッグフードあげてたんだけど、最近は僕の食べるもの欲しがるんだよね
お医者さんが妖怪だからいいよって言ってくれたからあげてるんだけど

最近食欲も好奇心も旺盛で…っ(よよよ)
普通の量じゃ物足りなさそうだし
熱々の鍋の料理によだれ垂らして飛びこもうとするから危なっかしいし
ベッドの下に潜り込んで僕のお宝(えろ本)持ち出そうとするし…!
どう説得すればいいかな!

ってチョビ今どんな事件起こしてるの!?



「もしもーーし、ねえねえ、聞いて、聞いて~!」
 受話器を取った瞬間、元気に話しだした霧島・ニュイ(霧雲・f12029)は楽しげに言葉を紡ぎ。
「はいはーーい、なになに、聞くよ、聞くよ~!」
 骸魂妖怪も彼の元気な声に負けないように、大きな声で応じる。
 ニュイにとって遊んでくれる年上のお姉さんは、相談をしてくるモノだ。
 だからニュイにとって、相談をさせてくれるお姉さんは珍しいモノで。
「あのね、カクリヨで出逢ったチョビっていう、茶まろわんこ妖怪と僕は住んでるんだけどね! 今はチョビの目を盗んで電話してまーす!」
 いえい、と受話器と逆の拳を突き上げたニュイは、ちょっとだけいつもよりテンションが高めのまま。いつもなら一緒のチョビも今日は彼の言う通り、彼の傍らには居ない。
「でね、最初はチョビにドッグフードをあげていたんだけどね、でも最近は僕の食べるものが欲しいって、僕のご飯を欲しがるんだよねー」
 こまるよねえ、と頬を膨らせたニュイは肩を大きく上げて、下げて。
「ふんふん、なるほどねえ」
「あっ、でも、お医者さんが妖怪だから別に食べていいんじゃない? って言ってくれたから、僕と同じ食べ物を今はあげてるんだよね」
 そこで一度言葉を止めたニュイは、大きなため息。拳を口元に寄せて、よよよとシナを作る。
 勿論。
 そんな様子が電話先に見える訳でも無いので、気分の問題なのだけれども。
「だけど最近ね、チョビの食欲と好奇心が旺盛すぎてね……っ! 普通の量だと物足りなさそうだし、熱々の鍋にはよだれを垂らして飛び込もうとするから、危なっかしいし……!」
「量はともかく鍋に飛び込んだら、チョビくんが鍋になるんじゃないの?」
「そうなんだよー! 僕はチョビ鍋なんて食べたく無いのにー!」
 大変なんだよ! とニュイはまた頬を膨らせてプリプリ。
「それにさ!」
「それに?」
「ベッドの下に潜り込んで、僕のお宝も持ち出そうとするんだよ……!」
「ベッドの下にお宝が……?」
「うん……僕の大切なお宝……」
 ころころとサイコロを転がしたみたいにどんどん変化して行くニュイの声色。
 骸魂妖怪はふうん、と少し考え込んだ様子で。
「……ベッドの下はバレやすいし、他の場所にしたほうが良いんじゃないかな?」
「えっ、先にお宝の隠し場所の方にアドバイスをくれるの!?」
 目を見開いて驚くニュイに、くすくすと彼女は笑って。
「ご飯に関しては、そのチョビくんが妖怪である以上、足りてないんじゃない? ――妖怪の食料は人間に向けられた感情だからねえ」
 今以上に沢山遊んであげれば或いは、なんて。
 言葉を紡いだ骸魂妖怪は、ふと思い出した様子で言葉を付け足して。
「あ、でも、食べる食事は嗜好品だから、お腹いっぱいでも別腹かもしれないね」
「ええーーっ、たしかにケーキはご飯の後でも食べられちゃうけど! チョビにとって、僕の食べるものってそんな感じってこと?」
「もしくは、ソレをねだる事で向けられる感情を食べてるんじゃない?」
「ああー……なるほど……」
 ぱちぱち瞳を瞬かせたニュイは、口を開いたまま頷いて――。
「それはそうと、こちらでチョビくんとお電話が繋がっているのだけれど」
「えっっ!?!?!? 待って!? 会話出来るの!?」
「言葉は解らなくとも、電話をつなげる事はできるよ」
 折角だからね、と笑う彼女。
「えー……チョビー、聞こえる?」
 ニュイが耳をそばだてると、彼女の言葉通り遠くから確かにチョビの声が聞こえてくる。
 わっふ、わっふ、わっふ、わっふ。
 ビリビリ……ビリ……。
「待って!?!?!?!? チョビなんか破いてない!?!?!?」
「うん、破いてそうな音がしているね」
「ちょっとまって、チョビ!!! 待って!!!!! お姉さんまたね!?!?」
 ニュイは慌てて受話器を置くと、急いで外へと駆け出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳳仙寺・夜昂
相談、相談か……そうだな……

……なんで俺の友達は揃いも揃ってみんな調子乗りなんだろうか。

いやそれが悪いっつー訳じゃないし、
そうじゃない奴もちっとはいるんだけどよ、
こう、何でなんだろうなーって。
猟兵にもしっかりした奴とか真面目な奴とか、
色んなやつがいる訳じゃんかよ。
なんで俺の周りには調子に乗りやすい奴ばっか来んのかね……。
日頃の行いか?それはなんか嫌だなあ……。

猟兵になる前からいろいろ苦労はしてきたけど、
まあ、こういう苦労なら苦でも嫌じゃねーし、いいんだけどな。
あれでも良い連中ばっかだし。
……だからって常にツッコませてんじゃねえ!


※アドリブ大歓迎です!



 受話器を手にした鳳仙寺・夜昂(泥中の蓮・f16389)は、逆の手で公衆電話の置かれているテーブルをこつりと叩いた。
 相談。
 ……相談。
 彼女に声を掛けることが彼女を救う事になるというのならば、勿論声をかけてやりたいと思う。
 ならば夜昂にとって、人に相談したい事とは。
 彼が思考している内に、短い呼び出し音は終えて。
「はいはーい、次の猟兵さんの相談はなーにかな?」
 だいぶなめらかに舌が回っている様子の骸魂妖怪が、元気に挨拶してくれる。
「あー……もしもし、そうだな……」
 そうして纏まりきらぬ内に話しだした夜昂の口を付いてでてきた言葉は――。
「……なんで俺の友達は揃いも揃ってみんな調子乗りなんだろうか」
 チュンやら神やらへの苦言であった。
「ははあ、……なるほど?」
「いや、それが悪いっつー訳じゃないし、そうじゃない奴もちっとはいるんだけどよ……」
 妖怪の相槌に夜昂は首を振って、テーブルを指先でこつりこつり。
「こう、何でなんだろうなーって。猟兵にもしっかりした奴とか真面目な奴とか、色んなやつがいる訳じゃんかよ?」
「それは……、なるほど」
 なんとなく彼女には原因が見えてきたのだろう。
 だからこそ彼女は口を噤んで、ただ相槌を打つ。
「なーんで、俺の周りには調子に乗りやすい奴ばっか来んのかねー……」
 友人、と言っても。
 おそらく猟兵でなければ接点も縁も無かった者達。
 ぼんやりとそんな事を考えながら、夜昂は瞳を細めて。
「これが日頃の行いだっていうなら、なんか嫌だけどなあ……」
 これは相談というよりは、殆ど友人たちの暴れはっちゃくっぷりへの愚痴である。
「ええと……」
 しかし妖怪には何か思う所があったのであろう、彼女は吐き出した言葉を一度切り。
「磁石にはS極とN極が……、ありますよね?」
「……? そりゃそうだけど……」
「おそらくなのですけれど、あなたはツッコミ極なのですね」
「……は?」
「だから、ボケ極の方々が寄ってくるといいますか……、日頃の属性といいますか……?」
 夜昂には見えぬ姿だが、きっと彼女は電話の奥でろくろを回すポーズを取っているのだろう。
 彼女の言葉に夜昂は、これ以上無いくらい眉間にシワを寄せて。
「……はあ、なるほど……?」
「面倒見が良いんじゃ無いですか? 突っ込んであげたり、構ってあげたり」
 はあーっと大きな溜息を一つ零した夜昂は、心当たりがあるのか、無いのか。
 いやこの目は、割と心当たりのある時の瞳である。
 ちょっと遠い場所を眺めた、夜昂はやれやれと肩を上げて、下げて。
「猟兵になる前からいろいろ苦労はしてきたけど……。まあ、こういう苦労なら苦でも嫌じゃねーし、いいんだけどな。……あれでも良い連中ばっかだし」
 少し、ちょっと、とても、そう。
 周りにいる友人達のキャラが濃いだけだ。
 あとひよことかも居るだけ。
 ……ン、ンン。
「いや、だからって常にツッコみがしてえ訳じゃねえわ」
「そうでしょうねえ」
 電話口から聞こえる彼女は、苦笑を零して。
 つられたように夜昂も、自嘲するように笑った。
 ――そう。
 だからといって、皆と離れたい訳ではない気持ちは確かなのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

曲輪・流生
妖怪さんと電話でお話をすればいいのですね?
それが妖怪さんの望みならば叶えましょう。
お話しすることで気が紛れるのならお話ししましょう。

ええと、もしもし、僕は流生と言います
僕の悩みと言いますかそうですね
僕はお願いを叶える事で信仰を得ていたのでどちらかと言うとお願いを聞く。話を聞くというのが多かったせいか自分から声をかけたりするのが苦手ですごくドキドキしてしまって。
どうすればドキドキせずに声をかけられますか?

(お話をしているうちに聞く方が慣れている流生のペースになり…)
妖怪さんのお話。聞かせてください。
たくさんお話しましょう?



「ええと、もしもし。――僕は流生と言います」
 公衆電話の受話器を耳に当てた曲輪・流生(廓の竜・f30714)は眦を緩めて、挨拶をする。
「はいはいもしもーし、私は自分の名前を忘れちゃったけど元気だよ~」
 ゆるーく返ってくる返事。
 流生の電話相手はふたつの世界を救うために、その身を骸魂に明け渡した妖怪。
 骸魂妖怪――オブリビオンと成った妖怪だ。
「僕の悩みと言いますか……、そうですねー」
 彼女は話をする事で、骸魂に飲み込まれてしまいそうなココロを取り戻せると言う。
 それが彼女の『望み』ならば。
 神様である流生は、叶えてあげたいと思う。
 助けてあげたいと思う。
 ――だからこそ流生は、一生懸命悩みを考えてきたのだ。
「僕はお願いを叶えることで、信仰を得ていたのですけれど……。どちらかと言うと、お話やお願いを聞く事が多かったのですね」
「うんうん」
「ええとそれで……、自分から声をかけたりするのが苦手で。今もなのですけれど、すごくドキドキしてしまうのです」
 流生はゆっくりゆっくりと言葉を紡ぎ、顔を俯かせると長い睫毛が瞳を覆った。
「どうすればドキドキせずに、人に声をかけられるでしょうか?」
「うーん、そうだねえ。今あなたは、ちゃんと声をかけられていると思うけれど、……とってもドキドキしているんだよね?」
「はい……」
 コクコクと頷く流生。
 なら、と。
 骸魂妖怪の言葉に、小さく笑いが混じり。
「場数を踏むっていうのはどうかな。そうだねえ、手当り次第にナンパなんてどう!?」
「な、なんぱ……?」
 彼女の突拍子もない提案に、流生は目を丸くして、まばたきを一度、二度。
「やっぱり経験をしなきゃ、慣れるものも慣れないよ~」
「で、でも、それはどきどきしてしまって、難しそうですっ……」
「ふふふ、そうじゃないかなあと思ってたよ」
「で、でもっ、それが妖怪さんのお願いなら……!」
「待って待って、大丈夫だから、しなくていいからね!?」
 きゅっと拳を握って頑張ろうとした流生を、彼女は逆に止めに入り。
「それでドキドキしなくなったとしても、きみの良さが無くなっちゃいそうだもんね。ふふふ」
 なんて。また受話器の奥で悪戯げに笑った。
「僕の良さ、ですか……?」
「ええ、すこーししか話してないけれど、おねーさんたっぷり語れちゃいそうよう?」
「わぁ、凄いですね!」
「そうでもないわよう~」
 嘯く彼女の言葉に、流生は素直に驚いた様子。
 楽しげな彼女の声に、流生は瞳をぴかぴか瞬かせて。
「ふふ、……じゃあ僕の良いところ、聞かせて貰っていいですか?」
 それから流生はちょっとだけ照れた様子で、骸魂妖怪にお願いした。
 ねえ、ねえ。
 妖怪さんのお話、たくさん聞かせてください。

大成功 🔵​🔵​🔵​

甘恋・周宜
妖怪とお話しできちゃうとかオレ得すぎ
公衆電話でっていうのも最高

もしもしー?うんそう、オレオレ、オレはねぇ、チカちゃんって呼んで、そうそう
あ、それで質問なんだけどねぇ、「いい心霊スポット」を教えて欲しいの、知ってる?
オレはねぇ、心霊スポットが大好きなんだよねぇ
アトラクションみたいで楽しーでしょ?そう、めっちゃ頑張って脅かしにくるじゃん。あれがねぇ、カワイーってなるんだよね。ガッツのある子とか家まで付いてくるけど、一緒にいるうちに居なくなっちゃって(霊の髪の毛をブリーチしようとするからです)
あは、そうそう、悪い子は塩ったりファブったり燃やしちゃったりするんだけどさぁ
うん、行ってみるねぇ、ありがと!



 ぽつりと立つ、随分と長い間誰にも使われていなさそうな電話ボックス。
 味のある佇まいに甘恋・周宜(Danse macabre・f33079)が思わず口笛を吹いて一歩足を踏み出した、瞬間。
 トゥルルルル、トゥルルルル。
 誰も入っていない電話ボックスから鳴り響いた着信音に、内心周宜は大喜びした。
 ――妖怪とお話できちゃうってだけでもオレ得なのに、演出も最高なんてサービス精神旺盛すぎるよねぇ。
「もしもーし」
「はいはーい、聞こえてますか、猟兵さーん」
「うんうん、聞こえてるよぉ。あっ。オレオレ、オレの事はねぇ、チカちゃんって呼んでほしいなぁ」
「チカちゃん?」
「あは、アリガト」
 電話ボックスの壁に背を預けた周宜は、電話コードを指にくるくると巻きつけながら。
「あ、それで質問なんだけどねぇ、『いい心霊スポット』を教えて欲しいんだよねぇ。妖怪ちゃん知ってる?」
「心霊スポット……?」
「そうそう、オレはねぇ、心霊スポットが大好きなんだよねぇ」
 怪訝そうに応じた骸魂妖怪へ、応じる周宜の舌にはピアスがちらちらと覗き。
 伏せた彼の瞳には、面白いものへの探求心だけが揺れている。
「実況とかもするんだけど、ああいうスポットって何よりアトラクションみたいで楽しーでしょ?」
「えー、そういうのって怖いんじゃないの?」
「そうそう、怖がらせようとしてめっちゃ頑張って脅かしにくるじゃん。あれがねぇ、カワイーってなるんだよね~」
「へえー、やっぱりそういう子達もそういう地道な所からカタストロフ狙ってんのかなあ?」
 へらへら笑って言う周宜に、骸魂に飲み込まれている妖怪は隙あらばカタストロフを狙おうとしてしまうよう。
「どうだろ、あっ、でもね。ガッツのある子とか家まで付いてくるし、カタストロフ狙ってる幽霊もいるかも~」
 一緒に居るうちに居なくなっちゃってんだけどね、なんて。
 周宜は肩を上げて、やれやれのポーズ。
 ちょっと髪の毛をブリーチさせて貰おうとしているだけなのにねぇ。不思議~。
「そういう訳でさ、ちょーそれっぽい熱いスポットない?」
「えー、チカちゃんが危ない目にあうの心配~」
「えー、心配してもらって嬉しい~、でも大丈夫だよ。オレ猟兵だし、悪い子がでてきたら、ファブったり燃やしたりしちゃうからさ」
「でも私、こっちの世界については詳しくないからねえ。えー、カクリヨでいい? 本物がでるよ」
「ええー、いいじゃん! あは、教えて教えて、行ってみるからさ」
「本物の悪霊がウロウロしてるから気をつけてね、ホントに」
 骸魂妖怪――オブリビオンだというのに、周宜を心配口ぶりが面白くて。
 周宜はまたあはは、と笑って。
「気をつけまーす、あ、こっちのスポットも誰かに聞いたりしたら教えてねぇ、楽しみにしてるよ」
「まー、私の能力があれば検索くらいすぐなんだけどさあ」
「わー、頼もし~!」
 肩に受話器を挟んで手を叩いた周宜は、やんやと嬉しげに。
 ちゃっかり約束を取り付けて、心霊スポットを教えてもらうのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロニ・グィー
アドリブ・連携(あるの?)・絡み(無い気がする)歓迎!

YOU!しちゃいなよ、カタストロフ!
え、ダメ~?そっか~
ねえねえところで今日の晩御飯は何がいいかな~?あ後でいっしょに食べる?
ボクは昨日はね~ブリトーを食べたんだ~!
さくじゅわの揚げ鶏とシャキサクの野菜をふわふわトルティーヤに包んで―
たっぷりのエンチラーダ・ソースと、とろっとろのチーズをぶしゃーっ!
ってなっててね!もうでんぷんと油とお肉の全力全開!美味しさとカロリーで人は殺せるんだって証明してくれる一品だったよ!
美味しかった~…
最近は南米系にはまってるんだよね~
エンパナーダやチャルキカンもいいよね!
ほら、一緒に食べに行こうよ~!



「よーーし、ボクが許す! YOU! しちゃいなよ、カタストロフ!」
「ええーっ、頑張って抗ってる骸魂妖怪にそれ勧めるの、ダイエット中にケーキバイキングに誘うようなもんだよ~~、ダメダメ!」
「えー、ダメ~?? そっかあ……」
 開口一番にカタストロフを勧めたロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)に、骸魂妖怪であるはずの彼女がダメだよ、と逆に彼を窘めて。
 くるくる受話器のコードを指に巻き付けるロニは唇を尖らせて居たかと思えば、ころっと既に笑っている。
「あっ、ねえねえねえ、ところでさ。今日の晩御飯は何がいいとおもう~? 何でも答えてくれるんだよね? あっ、後で一緒に食べる??」
「この骸魂を破ることに成功してたら、吝かでもないけどね~~、えー。あなたは何が食べたいの?」
 質問というよりは、殆ど――否、ただのナンパだ。
 彼女に聞き返されたロニは、公衆電話の収まったボックスの天井の角を見上げて、思い出しモード。
「えーっと、昨日はブリトーを食べたんだよね~、さくじゅわの揚げ鶏とシャキサクの野菜をふわふわトルティーヤに包んでー……たっぷりのエンチラーダ・ソースと、とろっとろのチーズがぶしゃーっ! ってなっててね!」
「うわー、カロリーの暴力な説明~」
「そう! もうでんぷんと油とお肉の全力全開! カロリーは美味しさだし、美味しさはカロリーだし。美味しさとカロリーで人って殺せるんだなあって証明してくれる一品だったよ!」
 さくさく、ざくざく、ムッチリな食感。
 思い出すだけで口の中に味が蘇ってきたのだろうか。
 とろけそうな瞳で、口の端から零れそうになったよだれを慌ててロニは拭って。
「はー、美味しかったなあ……。最近は南米系の御飯にはまってるんだよね~」
 ねえねえ、とコードをきゅっと引き絞ったロニは甘える子犬のよう。
 電話口の向こうの見えぬ彼女を覗き込もうとするように、瞳を細めて。
「いこうよ、お姉さん~、食べたくなってきたでしょ? ねっ、エンパナーダやチャルキカンもいいよね! ほらほらー、一緒に食べにいこうよ~」
「うーん、骸魂を弾き返すまで待ってくれる~? 今行くと私、カタストロフしちゃいそ~~。皆困るし、ダメでしょ~~?」
 そんな彼を再び嗜めるように、骸魂妖怪は電話口で言葉を紡ぎ。
「えっ、ダメじゃなくない? 晩ごはんカタストロフしようよ~、ねー、おねーさーん。ビーフカタストロフしよ~」
「ビーフストロガノフみたいに言うの止めてくれない??」
 そんな彼女の事情なんて、神で寂しがり屋で構ってちゃんの彼には関係ないのだ。
 ロニは彼女が了承するまで決して電話を切るつもりは無い勢いで、彼女を夕食に誘い続けるのであろう。
「ね、良いでしょ。美味しいお店紹介するからさ~!」
「うーん、そうねえ……」
 ――だからきっと。
 彼女が無事に骸魂を打ち破ったその後には、二人でディナーを。
 ただし。
 ……ロニの方が飽きて忘れてしまっている可能性も、あるけれど。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふ、ふええ、えっと、もしもし
ふ、フリルです。お電話相談でよろしいでしょうか?
匿名希望でお願いします。
ふえええ、もうすでに名乗ってしまっています?
どうしましょう、これってテレビとかラジオで流れるんですよね。
どうしましょう。

えっと、相談ですね。
友達のAさんからの暴力が酷くて、どうしたらいいでしょうか?
特に私が悪いわけでもないのにつんつん突かれて困っています。

ふええ、あ、アヒルさん、これはその、ごめんなさい、突かないでください。



「えっと、……もしもし……。ふ、フリルです」
 受話器を耳に当てて。
 逆の手で帽子のツバをぎゅうっと握ったフリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は、小さな声。
「ふえぇ……えええと、あの、こちらは……お電話相談でよろしいでしょうか……?」
 まるで人に聞かれると困ると言った様子で、フリルはキョトキョトと周りを気にしている。
「はーい猟兵さん、こんにちは。こちらはようかい電話相談室でーす」
 そんな彼女の様子が見えない骸魂妖怪は、元気なお返事。
 別段電話相談室では無かったのだが、いつのまにかそうなったのだからそうなのであろう。
「この相談室では皆さんの、相談をお待ちしておりまーす!」
「ふぇ、それでは匿名希望で、……お願いできますか?」
「もうさっき名乗ってなかった?」
「ふええええ、本当ですね……、ど、どうしましょう? これってテレビとかラジオで流れるんですよね?」
「あー、それは違う奴ですねえ」
 フリルの慌てっぷりに、骸魂妖怪はくすくすと笑って。
「相談があるんでしょー? ふふふ。教えてよ、フリルさん」
 受話器の声ではその姿は見えはしないが、彼女は努めて柔らかな声でフリルへと声を掛ける。
「は、はいっ。えっと……ですね。……あの。友達のAさんからの暴力が酷くて」
「……友達なのに、暴力を振るわれるの?」
 ワントーン下がる声音。
 その内容は骸魂妖怪にとって、真剣に対応するべきものだったのだろう。
 フリルはふるふるとかぶりを振って、絞り出すように被害を訴え――。
「ふえ……、……はい。特に私が悪いわけでもないのに、つんつん突かれて困っているんです」
「えっ、つんつんされるのって暴力なの?」
「はい……、どうしましょう?」
「つんつんかあ……」
 ――そのつんつんがどのくらいの強さであるかも問題だが、片方が嫌がっている関係というのは健全な関係だとは思えない。
 骸魂妖怪は電話の向こう側で、拳を握りしめているのであろう。
「何にせよ、それは許しちゃいけない事だよ!」
 熱く言葉を紡ぐ彼女は、まるでフリルを説得するよう。
 戦っていかなければ、彼女が守られることも救われる事もないのだ。
 ――そこに。
「ふぇっ、あ、アヒルさん!」
 骸魂妖怪からは見えないが、フリルの周りに友人のAさん――。アヒルさんが現れたのであろうと言うことだけ、彼女には理解ができた。
「これはその……、ごめんなさい、突かないで下さい……」
「まって、フリルさん! 諦めないで! ちゃんと嫌だってことを伝えるの! アヒルさんの見た目はどんなの!?」
「ふぇ……えっと……、白くて、アヒルの形をしていて……、浮いています」
 ――骸魂妖怪は勿論、フリルのガジェットのアヒルさんを見たことが無いもので。
 彼女が想像出来たのは、フリルの友人サイズ。
 ――スタンダードな人間サイズの、浮いているアヒルさんであった。
「えっ、怖っ。そっかあ、それじゃあ後は自分で頑張ってもらえる?!」
「ふええ!? ま、待って下さい~!」
 一瞬で捨て置かれたフリルはアヒルさんに無辜の罪で突かれながら。
 無慈悲に電話は切れてしまうのであった。
「ふ、ふええ……」
 後に残ったのは、つつかれるフリルとつつくアヒルさんばかり。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
貌が視えない分
話しやすいな

俺の相談も聞いて貰えるだろうか
無理にとは云わないが

俺は、自分に自信がないんだ
理由はヒトと「違う」こと

まず、俺はデカイ
駅前でぼんやりしてたら
偶に待ち合わせの目印にされる

あと、重い
エレベーターに乗ると必ずブザーが鳴る
あれ、気まずいよな

貌も……
何と云うか、ヒトと違っている
いや、造詣は悪く無いと想う
デザイナーもメカニックも
良い仕事をしてくれたからな

どうしたら、自信が持てるだろうか
ヒトみたいに着飾ったり、クールな車に乗っても
友に其の儘で良いと言われても
自分にヒトと同じ価値があるとは思えないんだ

ずっと自信がない侭なんて
そんなの、カッコ悪いだろう?
だから、アドバイスをくれないか



 転送された先には、一つの公衆電話が設置されたカウンター。
 がらんとした屋内には誰も人は居らず。
 トゥルルル、トゥルルル。
 ジャック・スペード(J♠️・f16475)が電話へ向かって一歩踏み出した瞬間に、公衆電話が呼び出し音を歌い出した。
「はーーい、こんにちはっ」
 臆すること無く受話器を取った彼に向かって、やたらと明るい声が電話口から響き渡り。
「ふふふ、あなたも猟兵さんだよね。なになぜようかい電話相談室、はじめちゃうよっ」
 なんて。
 口を挟む隙すら与えず、彼女――骸魂妖怪は楽しげに言い。
「ああ、では俺の相談も聞いて貰おうか」
 ジャックもまた何処か楽しげな声で、彼女の言葉に応じるのであった。
「……――俺は、自分に自信がないんだ」
「へえー、なんでまた?」
 その声を聞いている限りでは、彼はしっかり話せている。
 とても自分に自信の無い声には聞こえなかった様子で、彼女は不思議そうに聞き返し。
「俺は、ヒトと『違う』」
「……違う」
 それは否定も肯定も含まれない、ただの復唱。
 ジャックはカウンターに指をとん、と立てて言葉を次ぐ。
「まず、俺はデカイ。駅前でぼんやりしていると、偶に待ち合わせの目印にされている」
「えっ、おっきいの便利じゃん。でもその待ち合わせの目印にしちゃうのちょっと解るなあ。人混みの中で信頼できる目印って、やっぱりおっきいものだもん」
 でも、と彼女は言葉を切って。
「きみはソレが、嫌なんだねえ」
 それは確かに困りごとかもしれない、なんて柔く言葉を転がして。
「あと、重いな。エレベーターに乗ると必ずと言っていい程、重量ブザーが鳴る」
「えっ、ヤバイじゃん! でかくて重いってそりゃ目印にされるよ~~。でもブザーが鳴るとめちゃくちゃ気まずいよね。スッと降りるしかなくなるもん」
「ああ、気まずいな」
 ――貌が視えない分、随分と話しやすいように思えて。
 返事を返すジャックの声は、先程よりも和らぎ。
 変化も表情も無い鋼の貌の金眸を一度明滅させた彼は、言葉を次ぐ。
「貌も――、何と云うか。人と『違って』いるんだ」
「何? ワイルドで格好良いとかそういう意味? それとも逆ってコト~?」
「いいや、造詣は悪くないと想う」
 電話の向こう側では、ジャックの貌なんて見えやしない。
 電話の向こう側には、ジャックの姿なんて知る由もない。
 小さくかぶりを振ったジャックは、無機質な視線の光を真っ直ぐに電話に落として。
「デザイナーも、メカニックも、良い仕事をしてくれたからな」
「……あーあーあー、なるほど、ね」
 そこまで会話を重ねてやっと、電話の向こう側の彼女も得心した様子で。
 ジャックがヒトと、『違う』と理解をしたようであった。
「どうしたら、自信が持てるだろうか」
 例えば、ヒトのように着飾ってみたとしても。
 クールな車に乗ったとしても。
 ――友に『其の儘で良い』と言われても。
「……自分にヒトと同じ価値があるとは、思えないんだ」
 この鋼鐵の躰には表情が無い。
 躰を巡る暖かな血潮が無い。
 触れれば傷のつく柔らかな肉も無い。
 爪も、瞳も、肌も。
 該当するものは、全て作り物のヒトを模した形でしか無い。
 叶うことならば、ジャックは――。
「でも、ずっと自信がない侭なんて。……そんなのカッコ悪いだろう?」
「なるほどねえ、君がそう思うなら、そうなっちゃうだろうね」
 ジャックの言葉に、彼女はくつくつと笑って応じた。
「私達は妖怪だから。『ヒト』……人間に焦がれる気持ちは解る気がするよ。……でも、私達は『ヒト』にはなれないでしょう?」
 なんたって彼女は現在、肉体すら持たぬオブリビオンと化している。
「君はヒトじゃない。友達の言う通りだよ、君はキミにならなきゃねえ。……と言ったって、焦がれる気持ちは止められないだろうから」
 きっとこの言葉では解決しないコトだって、彼女は識っている。
「電話でしかキミのコト知らないけどさ。私はキミの声も言葉も嫌いじゃないよ」
 それでも、それでも。
「キミは、キミの価値を認めてあげるべきだと思う」
 自分の中の、自分の価値を認めてあげられるのは、自分だけなのだから。
 なんて。
 言葉遊びのように告げた彼女は、また笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐那・千之助
ラプラス殿(f17180)とばったり遭遇
奇遇じゃな…必然!?
では一緒に挑まねばのう

私の悩みは
世界各地に渡るたび騙されてしまうことで…
行く先々のご当地詐欺に引っ掛かる
例えばこの世界では、いわゆる振り込め詐欺?
幸いお金を振り込む機械を操作できないので被害に至らぬが
こんな感じで世界の数だけ騙されてしまうのじゃ

神。なんと、知らなんだ…ラプラス神…
一緒?優しい。神か。神だった
…しかしあんなことやこんなこともお見通し状態?
それは色々まず…恥ず…う、薄目で見て…!
こほん…
…一緒に居てくれる御礼に、いつか驚かせたいなと思う

妖怪さんによく礼を言い
がんばって…!
どうか愛しい世界を護ってあげて
あとの事は私達に任せて


ラプラス・ノーマ
千之助(f00454)とばったり
んふふ、偶然ではなく必然なのさっ

受話器のコードをおとめちっくにくるくる指で弄んで
悩み……悩みかぁ
そうにゃー、これと言って無いことが悩みかなっ
あたしゃカミサマだからなー

あ、いっこあったな
あたしは未来が分かるからさ
なんかこう、驚きってーの?そういうのが無いんだよね
サプライズとか見えちゃうわけ
どーしたら驚けるかなー

んふ、聞いてくれてありがと!
千之助は騙され体質かぁ
こりゃ一緒に居た方がいいかもね?
にひひひ、そりゃ楽しみだにゃ
とびっきりのどっきりを頼むよー



「む?」
 佐那・千之助(火輪・f00454)の転送された先は、駅の通路であった。
 壁に備え付けられたテーブルの上に置かれた、黄緑色の公衆電話。
「やっほー」
 その横でラプラス・ノーマ(見つめるのは30秒先の未来・f17180)が、掌をひらひらと振っている。
「おや、奇遇じゃな?」
 たまたま同じ場所に転送されたのだろうか。
 千之助が首を傾いで彼女に近寄ると、マスカレードマスクに指先を添えたラプラスはにんまりと笑って。
「んふふ、違うよ。偶然では無く必然なのさっ」
「なんと、必然……!? ふむ、……では一緒に挑まねばのう」
 出会う事が必然ならば、そう言う事なのだろう。千之助は得心した様子で頷き。
「そうそ、カミサマと一緒に電話出来るなんて光栄でしょー?」
 嘯いたラプラスが唇に笑みを宿したまま、公衆電話の受話器を手に取った。
 受話器を耳に寄せれば、ボタンを押してもいないのにプッシュ音がスピーカーを震わせる。
 そうして、短い呼び出し音が終えた瞬間。
「はーい、次の猟兵さんかなっ? ようかい電話相談室にようこそ~。わー、どんどんぱふぱふー」
 開口一番、やたらと陽気にタイトルコールを行う骸魂妖怪。
「わー、どんどんぱふぱふー」
「む、繋がったか?」
 ラプラスが調子を合わせ受話器を肩に挟んで手をぱちぱちする横で、千之助は興味深げに彼女を見つめて。
「この相談室では皆さんの、相談をお待ちしていますよお~~」
「えー、悩み悩み……、あたしの悩み……」
 妖怪の促しにラプラスは、受話器のコードをくりくりと指先で弄んで。
 まるで恋する乙女のように相違う色の視線を下げると、長い睫毛を揺らして――。
「そうにゃ~~、これと言って悩みが無いことが悩みかなっ!」
「えっ!? 何しに来たの!?!?」
 身も蓋もないラプラスのセリフに、驚いた声を上げる妖怪。
 そんな彼女を尻目に、ラプラスは千之助に受話器をバトンタッチ。
「えっ!? 今!?」
 突然受話器を手渡された千之助は、一瞬わたわたと掌の中で受話器を転がして。
 それからこほんと咳を一つ重ねてから、受話器を耳に当てた。
「あ、あー……、はじめまして。私は千之助と云う」
「あっ、あれ、さっきの人は?!」
「え、ええっと。……先に私の悩みを聞いてくれると嬉しいのう」
 彼女は随分と気ままな部分がある事を千之助だって知っているものだから。
 誤魔化すようにかぶりを振った彼は、本題へと話を戻し。
「うんうん、それじゃあ聞いちゃおうかなあ」
「ああ、ありがとう。……私は……世界各地に渡るたびに、騙されてしまうのじゃ」
「……ん、ん? だまされ……?」
「うむ。行く先々のご当地詐欺に引っ掛かけられる」
「ご当地詐欺」
 聞いたことのないパワーワード。
 妖怪はただただ千之助の言葉を復唱するばかり。
 しかし彼女の言葉に大きく頷いて、ぐっと逆の拳を握りしめた千之助は瞳を伏せて。
 過去の屈辱にうち震えながら、言葉を次ぐ。
「そうじゃ。例えば――この世界であれば、いわゆる振り込め詐欺だの。別の世界であれば寸借詐欺、なにやら当選したと言って金銭を要求されたこともあるし……、絶対に儲かるからと小さな部屋に閉じ込められて随分と同じ話を聞かされた事もあったの」
「へえ、千之助は騙され体質かあ」
 そこに話に割って入ったのは、ラプラスであった。
「こりゃあ、心配だから一緒にいた方がいいかもね?」
「えっ、一緒に? 優しい……神か? 神じゃったな……ラプラス神……」
「それほどでもないよー、あたしゃカミサマだからねー」
 彼女の言葉に感銘を受けた様子の千之助が、彼女を尊敬のまなざしで見ている。
「なるほどー」
 受話器の向こうで妖怪は納得したような声。
 大人って解決できるわけのない問題にとりあえずの終着点を見つけた時に諦めてしまう事が多い。大人ってそういうモノなのだ。
 いやあ、ああやって騙されていくんだろうなあ、と妖怪は言わない。
 本人の中では解決した様子だし、ウンウンと相槌を妖怪は打って。
「うむ、妖怪さんもありがとう」
「あ、そういえばいっこあったな」
 千之助が礼を告げていると、受話器を再び引き寄せたラプラスが思い出した様子で言い出して。
「あんね、あたしは未来が分かるからさ。なんかこう、驚きってーの? そういうのが無いんだよねー」
「なんと!? 知らなんだ、そうじゃったのか」
 その言葉になにより驚いたのは、千之助であった。
 ぷらぷらと受話器のコードを揺らすラプラスは、瞳を細めて。
「サプライズとか見えちゃうわけ。どーしたら驚けるかなー?」
「えっ、でも、あれ……あんなことやこんなこともお見通し状態って事!? えっ、色々まず、恥ずか……えっ、……み、見るなら薄目で頼む……!」
「……んふ」
「あーーっ」
 その横で悶えまくる千之助に、ラプラスはただ小さく笑った。
「そんな相談を受けるのは初めてだけど……えー、カタストロフしたらちょっと驚いたりしない? あと驚きはしないと思うけれど、たぶんそっちの人を見てたら面白くはあるんじゃない?」
「解った時点で止めちゃうだろうからにゃー。あー、……んふふ、そっか、聞いてくれてありがと!」
 受話器から聞こえる妖怪の声に、喉を鳴らして笑ったラプラス。
 いつの間にか床をごろごろしていた状態から復帰した千之助が、きりりとした表情を取り戻して咳払いを一つ。
「……ええっと……、そうだの。私は一緒に居てくれる御礼に、いつか驚かせたいなと、……思っとる」
「にひひひひ、そりゃ楽しみだにゃ。とびっきりのどっきりを頼むよー」
 彼の申し出にラプラスはまた笑って、口元に指を寄せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荻原・志桜
も、もしもし
相談に乗ってくれるって聞いたけど恋愛相談でも?
そっか、それじゃちょっとだけ

(中略)――それでね!
本当にいつもドキドキさせられてばっかりでね
最近はちょこっとだけど
やり返す余裕ができたような、できてないような
でもたまーに恥ずかしそうにしてる彼もすごく可愛いし格好良いんだよ

にひひ。一緒に住むようになって毎日とても幸せなんだぁ
いちばんにおはようもおやすみも言えるし
見送ったり出迎えたり。その逆もあってね
本当にしあわせなの

あの工房が、わたしが帰る場所のひとつになれてるかな
そう考えることもあるけど
彼がわたしと笑ってくれる
好きだと伝えてくれる想いを疑うことはない
わたしの想いも彼に届いてるといいなぁ



 トゥルルル、トゥルルル。
 電話ボックスを使う者など、随分と減ってしまった現代。
 呼び鈴の鳴りつづける公衆電話の収まった箱に、桜色の髪を靡かせた少女は迷いなく足を踏み入れ。
「もっ、もしもし!」
 両手で受話器を取った彼女――荻原・志桜(春燈の魔女・f01141)は、少し緊張の宿った面持ち。
「はあい、もしもーし」
「あの……、アナタが相談に乗ってくれるっていう、妖怪さん?」
 軽く返ってきた返事にぱちぱちと瞬きを重ねた志桜は、確認するように尋ね。
「ええ、何でも聞くよ。なんたって今日の私はようかい電話相談室だからね」
 電話の主――骸魂妖怪は、くすくすと笑って応じた。
 ――そうして。
 語りだした彼女の言葉は、留まる事無く。
 あの日の喫茶店の事。
 彼に教えてもらった事。
 彼とお出かけした事。
 彼と電話をした事。
 ……彼に貰ったたくさんの気持ち。
「それでね、それでね! 本当にいつもドキドキさせられてばっかりでね」
 くすくすと笑った志桜は、その緑の瞳いっぱいに幸せの色を湛えて。
「でもね、最近はちょこっとだけど、やり返す余裕ができたような……できてないような」
「うんうん、いつも照れさせられてばっかりだと、悔しい! ってわけじゃないけれど……、えいって気持ちになる事はあるものねえ」
「そう、そう! それでえいってやり返せた時とかにね。たまーにだけれど恥ずかしそうにしてる時があるんだ」
 志桜はきゅっと受話器のコードを引いて、かぶりを振り。
「そんな時もすっごく可愛いし、格好良いんだよ!」
「はー、幸せそうねえ」
 妖怪が茶化すように電話口で言えば、にひひ、と志桜は口元を覆って笑って。
「にひひ。実は、そう。一緒に住むようになって毎日とても、幸せなんだぁ」
 とろけそうに紡ぐ言葉と共に。胸裏に過る、桜に囲まれた志桜の小さな魔法工房。
 彼と一緒に工房で過ごすようになってから。
 朝は起きていちばんに、おはようが言える。
 夜は一日のさいごに、おやすみが言える。
 ふたりで食べるご飯が、一番おいしい。
 珈琲のにおいがする彼が、いとおしい。
 いってらっしゃいのお見送り、おかえりなさいのお出迎え。
 いとしい、いとしい、わたしだけの人。 
「本当に、……本当にしあわせなの」
 受話器の向こう側の妖怪には、呟いた志桜の表情を窺う事は出来ないけれど。
 そのこぼれ落ちた吐息の音だけで、彼女が本心から言っているのであろうと良く解る。
「きっと彼も、しあわせに思ってくれてるとおもうよ。だって、そんなに一生懸命に愛しているんだもの」
「……そう、かなあ? そうだと、嬉しいなぁ」
 志桜は長い睫毛を瞬きに揺らし、視線を少し下げて。受話器を掌の中で握り直す。
「――あの工房、と、……わたしが。彼の帰る場所のひとつに、本当になれているのかなって、思っちゃう時もあるんだよ」
 でもね、と。
 次いだ彼女の声は、揺らぐ事はない。
「彼がわたしと笑ってくれている事も、好きだと伝えてくれる想いも、本当だから」
 その気持ちは、その想いは、疑いようのないこと。
 ――彼と一緒にいられることは、これ以上ないくらい幸せだと思っているのに。
 彼はいつも、もっともっとそれ以上の幸せを与えてくれる。
「ねえ、……わたしの想いも、彼に届いているかなぁ」
「そりゃあ、今すぐ彼に抱き着いて、聞いてみなきゃわかんないねえ。んふふふふ、今すぐ行ってみる?」
「え、ええっ!?」
 妖怪の揶揄う様な言葉に、志桜は目を丸くして。
 彼女たちのガールズトークは、もう少し続くのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
相談…?(※慣れない
さて、どう語りましょう…。

せ…
好…
恋…
た…、…大切なひと、が、ですね。
(どう呼ぶか迷って吃った?気の所為です!
親子ほど歳下なんですけど、どうも…
子供というか小動物の如く、あ…甘やか、されたり…。
僕と、着ぐるみとかぬいぐるみの組み合わせにやたら喜ばれたり…、
…あ、イヤというわけでは無いのですよ?
お気遣いや、喜んでいただけるのは、純粋に嬉しいんです。
です、けど…!
こちとら親みたいな歳のおじさんで、何故かえらい可愛い言われますけど、
どちらかと言えば格好良いと言われたい男心でして!
顔は変えられないし、どうすれば…。

…熱いか?コレ。
いや、僕は何だか暑いですけど…。
はて、返答は如何に?



 ――相談。人に胸の内を吐き出し、意見を述べ合う行為。
 公衆電話を見下ろしたクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は、受話器に手を伸ばし。
 適切であろう言葉を、その脳裏で選びかねていた。
 そもそも人を利用する事はあれど、深く自らの事を語る等。
 ……否。
 最近は、そうでも無くなってしまった。
 変わってしまった、変えられてしまった。
 受話器を耳に当てると、呼び出し音が一度。
「はあい、次の猟兵さんね、こんにちは! さあさあ、お話を聞かせて!」
「あ、……と、」
 コール音はクロトが想像していた以上に短く。
 むやみに明るい骸魂妖怪の声に、言葉を選びかねたクロトは口を開いたまま音を零して。
「ふふ、なあに? あっ、解った! その感じ~~、恋ねっ? 好きな人の話ねっ!? うふふふ、ねえねえ聞かせて! 聞かせて~!」
「!?」
 普段ならば――別の話題ならば、もっと滑らかに言葉を紡ぐ事が出来るだろうに。
 どうも彼の事となると、思ったように行かぬ事が多いもの。
 クロトは見えぬ電話相手から、顔を隠すように視線を落として息を飲み。
「……せん、……好、こ、い……、…………た、……、大切なひと、が、ですね」
「うん、うん」
 一瞬で高まってしまった体温。
 ときときと跳ねる胸を抑え込むも、不意をうたれたクロトは考えていた適切な言葉すら選びそこねて。噛みに噛んだが何も無かったかのような妖怪の相槌に甘えて、そのまま言葉を次ぐ。
「親子ほど、年下なんですけれど、……どうも、……子どもと、いうか……、小動物の如く、甘やかされ、たり」
「へえー、じゃあキミのほうが年上なんだね」
「はい、……そうなのです、が。――僕と、着ぐるみとかぬいぐるみの組み合わせにやたら喜ばれたり……。……いえ、イヤというわけでは無いのですけれど……」
「んー、何を気にしてるのかな?」
「その……えぇと、いえ……お気遣いや、喜んでいただけるのは、純粋に嬉しいんです」
 です、けど。
 クロトの受話器に当てた指先に無意識に力が籠もり、俯けた顔の頬にかかる髪が流れてゆく。
「……こちとら、親ほど年の離れたおじさんなんですよ」
 眉間にシワを寄せたクロトは、顔を幾度も左右に振って。
「何故だかえらく可愛い可愛い言われますけれど、僕だって……」
「可愛いとダメなの? 大切な人に褒められたら、嬉しいでしょ?」
「嬉しいです、嬉しいですけれど! 僕だってどちらかと言えば格好良いと言われたいのですよ!!」
 骸魂妖怪のゆるーい返しに、受話器を持つ手とは逆の手を胸に当てて必死に訴えるクロト。
「むー、男心ってやつかな」
「男心ってやつです!」
 それから胸に当てた手で顔を覆ったクロトは、掌の下で表情を整え直して。
「……顔は変えられませんし――」
 妖怪を救うため。
 ひいては世界を救うためとは言え、なかなか恥ずかしい事を吐露している気がする。
 いや、している。
「可愛いでは無く格好良いと言われる為には、どうすれば……?」
 しかし、全てはふたつの世界を救うためだ。
 クロトは相談を語り終えると、唇を噛んでこみ上げる感情に耐えながら妖怪の言葉を待ち。
「……えっ、無理じゃない? だってキミ可愛いじゃん……?」
「あの」
「いやー、その言動が可愛いもんね……、そりゃ可愛いって言われるよ。大切な人は全く間違えてないね~」
「あのう……!」
「それにさ、――イヤじゃないんでしょ?」
「……イヤでは、ない、です、けど……」
「嬉しいんでしょ?」
「嬉しい、です、けど……!」
 息を漏らすように、骸魂妖怪は呼気に楽しげな笑いを籠めて。
「じゃあ後は、キミが受け入れるだけだね」
「…………っ!」
 柔らかく告げる妖怪の言葉に、クロトは瞳を見開いて、言葉を飲み込んで。
 伏せた視線、俯けた顔。
 ――胸裡を過るは、可愛いと笑う太陽のようなきみ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

筧・清史郎
俺は言葉を綴り合う事が好きだ
人とも動物さんとも無機物ともな(微笑み
妖怪さんとでんわでお喋りか
ふふ、任務とはいえ、楽しみだ

ふむ…そうだな
相談がない事が相談だ(真面目に
俺は箱で在った為か、ひとの感情の機微がよく分からない
相談と言われ今は思い当たらないが
感情を知れば、きっと俺にも相談事が生まれるのだろうと
なので、相談がない事が相談だな(?)

だが…本日のおやつについては悩むな
洋菓子か和菓子か、と
まぁ両方頂けばいいという結論に至ったが(自己解決
後で友と沢山美味しく頂こうかと(微笑み
あとは、何故箱にはもふもふ耳尻尾がないのか…くらいだろうか

貴女は何か相談事はあるのか?
参考に聞かせてくれ(逆に謎に相談を訊く



 筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)は、ヤドリガミである。
 もとより魂の無かった『モノ』に百年の時が魂を与え、肉体を得た存在だ。
「ふふ、楽しみだな」
 ――元は硯箱であった彼は文字を綴る硯を収める箱であったからと、云う訳だけでは無いだろうが、『言葉を綴り合う』事を好んでいる。
 ヒトと言葉を綴り合う事は、楽しい。
 動物と言葉を綴り合う事は、かわいい。
 無機物と言葉を綴り合う事は、愉快だ。
 ならば。
 骸魂妖怪と言葉を綴り合う事も、きっと。
「ふふ、楽しみだな」
 呟きにかすかな笑みを宿した清史郎は、呼び鈴を鳴らす公衆電話へと歩み寄ると、受話器へと手を伸ばした。
「あっ、猟兵さん! うふふ、次はどんな相談を聞かせてくれる? だいぶカタストロフ欲求は薄れてきたんだけどさあ。こんなに話を聞けるならちょっとカタストロフしちゃおっかな、って気分になるよね~」
「ふむ、カタストロフを起こすと話は聞けなくなる気がするが……」
 スピーカーを耳に当てた途端。
 好き勝手に喋りだした骸魂妖怪に、清史郎は顎に指先を添えて瞬きを一つ。
「そうだな。俺は相談が無い事が相談だろうか」
「ワッ、そういうの二人目だけど……、キミもカミサマなの?」
「そうだな、ヤドリガミと呼ばれている」
 ただ事実を伝える口調で応じた彼は、そこで言葉を一度切り。
 続けて、元より考えてきていた言葉を次いだ。
「――俺は元々箱で在った為か、ひとの感情の機微がよく分からない。だから、相談をと言われても、今は思い当たらないのだが」
「うん、……うん?」
「ひとの感情の機微を知れば、きっと俺にも相談をするような事が生まれるのだろうと思う」
「えっ、じゃあ今日は何をしにきてくれたの?」
 勿論話をしてくれるだけでも、限界を迎えそうになっていた彼女としては嬉しいのだけれども。
 相談という文脈の中でソレを語るからには、目的があるのだろうと。
 彼女は続きを促すように、疑問を口にした。
「ああ。なので、相談がない事が相談だな」
「相談がない事が相談かあ……」
 結局最初に戻ってきた話に、骸魂妖怪は思わず復唱をする。
 否。
 完全に最初に戻った訳では無く、感情の機微を知りたいと言う彼の話の根たる大まかな部分は感じ取れたのだが――。
「ふふ、だが、本日のおやつについては悩む事はあるな」
「今日のおやつを……」
 彼女が考えを纏め終える前に、楽しげに笑い声を零した清史郎が続いて話を始めたものだから。
 骸魂妖怪は咄嗟に相槌を打ち。
「今日は洋菓子か、和菓子か……。まぁ、両方いただけば良いという結論に至ったのだが」
「今自分で問題を発起して、3秒で自分で解決したよね?」
「ああ、後で友と沢山美味しく頂こうと思っている」
「……ふうん、なるほどね」
 ふふふとまた笑った清史郎。
 ――甘味、量を食べる、友。
 何気ない言葉に違和感を感じた骸魂妖怪は、喉を鳴らし。
「もしかして……キミって、パンケーキに生クリームとチョコレートソース、アイスクリームをましましにして、その上に更に蜂蜜と追いホイップクリームをましましのましましにしたりする?」
「おお、よく解ったな。それに練乳をかけても美味しそうだ」
「うんうん、なるほどね」
 点と点が、今此処で繋がった。
 何やら納得した様子の骸魂妖怪はうんうんと何度も頷き。
「ああ、そうだ、……何故箱にはもふもふの耳や尻尾がないかも、悩む事があるな」
「うーん、なるほどねえ」
 清史郎が思い出した事を口にしても、骸魂妖怪は頷くばかり。
「しかしその位だな。……どうだろうか、参考までに聞かせてほしいのだが。貴方は何か相談したい事はあるのか?」
「そうねえ……」
 頷き続けていた骸魂妖怪は、清史郎の逆相談に言葉を切って。
 言葉を選んでいるかのように、たっぷり時間をかけ――。
「食育について……、かな」
「食育について……、か?」
 絞り出されたその答えに、清史郎は小さく首を傾いだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
もしもし
悩み相談室ですか?

頭を抱えている事案がありまして
一緒に考えて頂ければ幸いなのですけれど

私ね
書物が大変好きなのです
常に数冊携帯しておりますし
住処にも沢山の蔵書がございます
其れはもう、溢れるくらいに

いえ
もう既に
足の踏み場すら埋もれてしまう程
溢れておりまして
世話焼きの者に「片付けろ」「処分せよ」と
小言を浴びせられる日々です

書の海には溺れたいですが
小言の海には沈没しそう

逃亡の為に家を出れば、ほら
古書市が開催されていたり
書店街に佇んでいたりして
ふしぎ

ちなみに今日は
断捨離の本を108冊程買い集めてみました
やぁ、色々な視点で綴られていて実に楽しい
書は叡智の塊!

…いえ、はい
素敵な収納術を教えてください



「もしもし、こちら、悩み相談室で良かったでしょうか?」
「はーい、そうでーす。猟兵さんのお悩みをバッチリ解決したりしなかったりする、妖怪電話相談室にお電話ありがとうございまーす!」
 受話器を耳に当てた都槻・綾(絲遊・f01786)が尋ねると、返ってきたおどけた声。
 ――電話相手は、骸魂に飲み込まれた妖怪だ。
 しかし。
 彼女は猟兵達の呼びかけによって、随分と正気を取り戻す事に成功しているようだ。
 綾は朗らかな声から彼女の回復を感じ取り、陶磁の瞳を細めて眦を緩め。
「やぁ、それは十全。さておき、私には頭を抱えている事案がありまして。よろしければ一緒に考えて頂ければ、幸いなのですけれど」
「んっふふ、何でも聞いちゃうよ。なあになに?」
 彼の言葉に骸魂妖怪は、うっきうきで応じるのであった。
「はい。私は書物が大変好きなのです」
「へえ、文字を読むのは素敵なことだねえ」
「常に数冊携帯しておりますし、住処にも沢山の蔵書がございます。――其れはもう、溢れるくらいに」
「……素敵、だねえ?」
「……いえ、少し少なめに伝えてしまいました。もう住処は足の踏み場すら埋もれてしまう程、書物が溢れておりまして……」
「それは素敵じゃないねえ」
「世話焼きの者には、『片付けろ』『処分せよ』と小言を浴びせられる日々なのですよ」
「それは片付けたほうがいいねえ」
 世話を焼く者――式神の少女人形にかけられた言葉を思い出しているのだろうか。
 語られる内容に反して、綾の口調はどこか楽しげ。
「書の海には溺れたいですが、小言の海では沈没してしまいます」
「うーん、自業自得だねえ」
 反して。
 綾が言葉を重ねる度に、骸魂妖怪の相槌はだんだん雑に砕けて辛辣になって行く。
 ウーン! 世話焼きの者に共感しちゃうなあ~。
「ふふ、それで逃亡の為に家を出るのですが――ほら。行く先に何故か書店街があったり、古書市が開催されていたりするのですよ」
「ははーん、なるほどね」
「ふしぎですね」
「ふしぎだねえ」
 ふふふ、と。
 電話越しに小さく乾いた音で笑いあう二人。
「さておき、私もならば、と。断捨離をしようと思い立ちまして」
「うんうん、とっても偉いねえ!」
 綾の言葉には、骸魂妖怪もぱちぱちと拍手で応じ。
「それで、断捨離の本を買い集めてみたのですが……」
「うんうん、……うんうん? 買って集めちゃったかあ」
「やぁ、断捨離とは必要なものだけを残す術だそうで。片付ける術以外にも、人生にすら公言して色々な視点で綴られていて実に楽しい書ばかりでした。全く、書は叡智の塊ですね!」
「うんうん」
 骸魂妖怪の相槌に、ゆるゆると綾は首を振って。
「……いえ、はい。それで今日は、素敵な収納術を賜りたく」
「その方法は、断捨離の本に書いてるやつじゃなくて?」
「ふふ。猫のために矜持を捨てる事は出来ても、書を捨てる事は難しいのですよね」
「書を捨てよ、町へ出ようって言われて、町に出て書を買ってくるタイプだなあ」
「えぇ、そうですね。断捨離の本も読む内にどんどんのめり込んでしまって、108冊程購入しましたし……」
「世話焼きの人の苦労が偲ばれるねえ……」
「ふしぎですね」
「ふしぎだねえ」
 骸魂妖怪はスピーカー越しに、細くながーい溜息を一つ。
 そうして。
「本を捨てられない人の部屋が片付く事は無いから……、図書館みたいな家に引っ越すしかないんじゃないかなあ」
 完全に片付ける事を諦めた、キャパシティを増やす方面の提案を行うのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花守】
(周囲をちらちら警戒し
とっても深刻な面持ちで電話を!)
あ、もしもし?
もんのすご~~く切実な相談があるんだケド、聞いてくださる?

実はオレ、何でか悪い狐の呪いに苛まれててさ…どーしたら悪縁をぶった切れるかな~って…
んでもって、ソレを両断してデスネ?
良縁をこう、きゅっと結ぶには!
優しい女の子に微笑んでもらったり振り向いてもらったりするには!
どうしt
(無言で固まり数秒
乱入者を二度見し)



噂をすれば出たーー!
おい悩みの欠片もないお気楽狐が何滅茶苦茶どーでもいい相談してんだ!
俺は!今!とっても深刻なお悩み相談中だったの!
つか狭い出てけあっちいけ!
タスケテ妖怪サン~~コレじゃオレがカタストロフ~~!


千家・菊里
【花守】
(どうしようかなぁ
羊羹かなぁ
水無月かなぁ
それとも両方かなぁ
オマケに若鮎も付けようかなぁ
――と、今日のおやつに悩んでいたら
こそこそした先客見つけ地獄耳ぴこぴこ)

はいはい、寝言譫言の類で妖怪さんを困らせるのはやめましょうねぇ
(徐に伊織の手からすっと受話器を取って)

――もしもし、失礼致しました
今の男の話は適当にスルーして頂いて大丈夫ですので、改めて今日のおやつ相談に乗って頂けますか?
羊羹と水無月と若鮎に付けるデザート(??)は何が良いかなぁと思いまして
(後ろから響く喚き声は秒で耳に入らなくなり)
ああ、熱い相談といえば、晩御飯はあつあつ狐うどんか、ほくほく肉じゃがか、如何しましょうねぇ――ふふ


佳月・清宵
【花守】
(特に悩みなぞ持たぬも、面白可笑しい気配を嗅ぎ付け――此処にも好奇に耳を攲てる影

暫し考え、何事か思い立った様子で笑みを深め――)

おう、困った野郎のお悩み相談にゃ、後でじっくりたっぷり付き合ってやるから安心しろよ
(もう一匹の狐と反対から、獲物の逃げ場断つ様に現れ)

それよか折角だ
俺にも一つ入知恵を頼むぜ、妖怪よ
そう、一等酒が進む様な――飯が美味くなる様な――この哀れな肴(伊織)の上手い料理方法は、どうしてやるのが一番と思う?(晩飯話の横から流れる様に畳み掛け)

大惨事?破局?知らねぇなァ――てめぇはこれで無事に傑作な大団円間違いなしだろ
(三者三様にとっちらかったまま――だがすこぶる満足顔で)



 転送先は人気の無い、静かな通りであった。
 道端に立つ昔ながらの備え付けキャビネットに、黄緑色の公衆電話が納められている。
 そこへ。
 抜き足、差し足、忍び足。
 きょろきょろと周りの気配を窺いながら、公衆電話へと近付く黒い影。
 人に見つかりませんように、人と会いませんように。全身で警戒心を訴える、不審な動き。
 ――普段のパターンならこの辺りで、『あいつら』は出てくるけれども。
 出てこないという事は、まだ見つかっては居ないようだと、判断した。
 今はその姿が未だ見えぬとは言え、警戒には警戒を重ねるべきであろう。
 呉羽・伊織(翳・f03578)はまろぶように電話へ辿り着くと、真剣な表情を湛えたまま受話器に手に取り。
 そのまま身を屈めると、電話の置かれているキャビネットの影に潜むことで、出来るだけ目立たないように。
 小さく身体を折りたたんでしゃがみ込むと、送話口を掌で覆って口を開いた。
「……あ、もしもし?」
「はあい、なあに?」
 即座に返事を返した電話の相手は、骸魂に飲み込まれた妖怪である。
 彼女のゆるーい返事にも伊織は、自らの誓った意思を揺らがせる事も無く。真剣な表情のまま、慎重に言葉を次ぐ。
「何でも相談に乗ってくれる妖怪サンっていうのは、キミのコト?」
「そうだよ~。今日は人呼んで、何かようかい電話相談室って所かな!」
「ウンウン、それなら良かった。……実はオレ、もんのすご~~く切実な相談があるんだケド、……聞いてくださる?」
「えっ、なになに? 聞く聞く~」
 骸魂妖怪がさらにゆるーく返事をするが。
 伊織としては相談というていで、言葉のキャッチボールが出来るというだけで、既に普段であれば望むことも出来ない状態である。
「えぇとね、実はオレ……」
 その状況にガッツポーズをした伊織は、相談の口火を切りはじめて。
 ――そんな彼を見つめる、視線が2つ。
 一つは通路の左側。物陰にその姿を隠す、千家・菊里(隠逸花・f02716)の視線。
 そしてもう一つは、右の通路に身を隠す者。佳月・清宵(霞・f14015)の視線である。
 二人の黒狐は左右から別々にこの場所へと訪れたのだが、伊織の姿と互いの気配を認めた瞬間。
 アイコンタクトだけで意図を交わしあって身を隠し、彼の前へと姿を現すタイミングを見計らっていた。
 そう。
 ――伊織が警戒に不思議な動きをしていた時から、彼は既に捕捉されていたと言う事だ。
「何でか、悪い狐の呪いに苛まれててさ……」
 しかし伊織はまだ、その事に気付いては居ない。
 しゃがんだ体勢のまま隠れられていると信じている彼は、ゆるゆると首を左右に振って。
「どーしたら、そんな悪縁をぶった切れるカナ~って、ネ?」
「呪い……?」
「そうそう、呪いみたいな悪縁。んでもって、悪縁はさくっと両断してデスネ? 良縁をこう、きゅっと結びたいワケで!」
 受話器とは逆の拳に力を籠めた伊織は、伏していた視線を希望の光に向かって上げて。
 自然と語気に籠もりだした熱は、最早止める事は出来ぬもの。
「できれば優しい女の子に微笑んで貰ったり! 振り向いてもらったりする為にはデスネ!?」
「なるほどねえー、つまりそれってモ」
 骸魂妖怪の言葉が途中で途切れたのは、伊織が握っていた受話器が取り上げられた結果である。
「はいはい、寝言譫言の類で妖怪さんを困らせるのはやめましょうねぇ」
「おう、困った野郎のお悩み相談にゃ、後でじっくりたっぷり付き合ってやるから安心しろよ」
「……」
 受話器を手にした菊里と、清宵が伊織を見下ろしている。
 精一杯気を付けていた筈の伊織は、理解が追いつかない状況に目を見開いて。
 それからたっぷりの時間を掛けて、瞬きを一度、二度。
 ウン、アレ?
 目をこすっても消えない辺り、どうやら突然現れた黒狐たちは、幻覚という訳ではないらしい。
 伊織は口を開いたまま、言葉を紡ぐ事もできなくなってしまう。
「あ、もしもし。失礼致しました。今の男の話は適当にスルーして頂いて大丈夫ですので、……改めて、今日のおやつの相談に乗って頂けませんか?」
 フリーズしてしまった伊織の事を華麗に無視をして、菊里は受話器に語りかけると朗らかに笑う。
「そうですね、おやつに羊羹と水無月と若鮎を頂く事にしたのですが、それに付けるデザートは、何が良いかなぁと悩んでいまして。……どう思います?」
「えっ、ただただ甘いものを食べすぎだと思うけれど……、えっ、何? さっきの子じゃないよね、キミ」
「やあ、保護者みたいな者ですよ」
 電話の向こう側で困惑する骸魂妖怪の声は、勿論伊織には聞こえてない。
 大きな尾を揺らして、いかにもおかしいといった様子で菊里は口元を掌で覆い隠して。
「まーた現れたな!! お邪魔虫地獄悪辣狐ズ!」
 そこに。
 何とか意識を取り戻した伊織が、びしっと二人に指を向けて吼えるが――。
 勿論そんな事でご指名を受けた狐達が動じる事無く、彼等は公衆電話で相談に夢中の様子。
「ああ、それでは晩御飯の相談に乗っていただけますか? 今夜はあつあつ狐うどんか、ほくほく肉じゃが、……如何しようかと想っていまして」
 菊里が首を傾いで更に質問を重ねると、その受話器がひょいと横から奪われて。
 受話器を手にした清宵は、菊里の代わりに口を開いた。
「よう、妖怪よ。俺にも一つ入れ知恵を頼みたくてな」
「あっ、まだ晩御飯の返事を貰っていませんのに……」
 なんて、口では残念そうにしているが。
 菊里は別段気にした様子も無く、狐の尾をゆうらり揺らして。
「待て待て待て、おいコラ! 悩みの欠片もないお気楽狐が、なーーーに滅茶苦茶どーでもいい相談してんの!? 返せ、受話器を!」
 そんな狐たちに挟まれた挙げ句に。
 しゃがんだ体勢のまま額を清宵に押さえ込まれた伊織は、小さくなったまま立ち上がる事ができなくなっていた。
「とにかく、狭い、離れろ、あっちいけーッッ!」
 今の伊織に出来る精一杯の抵抗。
 わたわたと腕を伸ばして暴れる彼をあしらいながら、清宵は妖怪へと質問を。
「そう、一等酒が進む様な、……飯が美味くなる様な。――この哀れな肴の上手い料理方法は、どうしてやるのが一番だと思う?」
「えっ……仲良くしなよ」
 骸魂妖怪に被せ気味に答えを賜った清宵は如何にも楽しげに。
「成程、……仲良くしてるさ。十分な」
 押さえつけていた哀れな肴――伊織を押さえ込んでいた掌を突然解放すると、弧を描く唇の笑みを更に深くする。
「ぶっ」
 暴れていた伊織は、突然の解放に地へと一度転がり。
「俺は! 今! とっても深刻なお悩み相談中だったの! お前達の飯トーークに妖怪サンを突き合わせてる場合じゃナイの!」
 それから両腕を上げると、わあっと吼えた。
「タスケテ妖怪サン~~!! コレじゃオレがカタストロフ~~!!!」
「あァ? てめぇはこれで無事に、傑作な大団円間違いなしだろ」
「あっ、ぴりぴりマーボー豆腐もいいですねぇ」
 清宵も菊里も勝手な事を言い合って、そんな二人を睨め付ける伊織。
「いやもう、仲はよさそうだけれど、……仲良くしなよぉ?」
 なんて。
 ――電話の向こう側で、妖怪はやれやれと呟くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
……なんで相談するだけでおっけーなのかわからねえが
それで勝てるんなら、やってやるさ
つっても人生相談なんてする必要も無いんだけど…あー……
アレだな、女心とかそういうのが分からないんだったわ

恋とかそういうのもそうだし、女心とかいうよくわからん概念もサッパリだ
アイツらは一体なにを求めるモンなんだ?そもそも恋心ってなんだ?
どっかの哲学書には恋は求めるもの、とか書かれてるらしいが…俺は他人に求めたりはしないからなぁ
そもそも誰かを自分のものにしたいって気持ちが無いっつーかなぁ
……まぁ建設的な答えは大して期待してないけど
俺が多分、同年代と比べても歪み過ぎてるだけの話なのさ
まともに生きられたなら変わったかもな



 案内された公衆電話を見下ろすヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)は、やれやれと肩を竦めて。
 ……理屈はさっぱり分かんねえが。
 相談するだけで勝手に妖怪が骸魂を打ち破ってくれるのならば、それは儲けものだろう。
 それで勝てるんなら、やってやるさ。
「……しかし相談、――相談、ね」
 受話器を取って耳に当てながらの数秒で、ヴィクティムは思考する。
 言われるがままに転送されて、この場まで訪れはしたが。
 別段ヴィクティムは相談をしたい事なんて――。
「……あー」
 あった。
「はぁい、こんにちは! ようかい電話相談室にようこそ~!」
 むやみやたらに元気な骸魂妖怪の声に、ヴィクティムは眉を跳ね。
「――よう、女心について聞かせてくれるか?」
 世界一女心が理解出来なさそうな言葉を、口にするのであった。
 ……そもそもヴィクティムは、彼自身の言葉を借りるのならば『イカれている』。
 恋という概念こそ知れど、自らには受け入れかねるモノだ。
 女心なんてモノにいたっては、一つだって理解ができない。
 彼にとって大切な、特別な存在は『チューマ』だけ。
 ――そうである筈だ。そうであった筈だ。
「なあ、アイツらは一体なにを求めるモンなんだ? そもそも恋心ってなんだ?」
「哲学的な事を訊ねてくる猟兵さんだねえ」
「そうだ、哲学さ。どっかの哲学書にゃ、『恋は求めるもの』とか書かれてるらしいじゃねえか」
「ふうん、なら愛はなんて書かれてるの?」
「『与えるもの』だとさ。――俺は他人に求めたりはしないからなぁ」
 愛が与えられるモノだとしたら。
 恋心の先に愛が在るのだとしたら。
 求められて、与えられて。
 『一番求められている』自分を想像する。
 『一番愛されている』自分を想像する。
 『一番与えられている』自分を想像する。
 違う、と思う。
 ヴィクティムは、壊してきた。
 ヴィクティムは、踏み躙ってきた。
 ヴィクティムは、そんな自分を自分で肯定する事は出来ない。
 胸裡に落ちる澱のような息苦しさ。苦い痛みにヴィクティムは眉根を寄せて。
「そもそも俺は、誰かを自分のものにしたいって気持ちが無いっつーかなぁ……」
「うーん、心ってそもそも、男と女で違うものなの?」
 電話の向こう側で、骸魂妖怪はううん、と小さく唸って。
「欲しいと思う気持ちが恋なら、その時点で性は関係無い訳じゃない。でも女心が分からない、と言うのなら。異性を自分には理解出来ない『異』の概念だと感じていて。その異なるモノが重なり合ったときに、他人を求める『恋』になるのがさっぱり理解しがたい、……って事だと思うんだけれども」
「言葉遊びだなぁ」
「そうだよ、言葉遊びをしてるの。女心が分からないんじゃなくて、猟兵さんは自分と『異なる』心がわかんないんじゃない? だって女の子以外も猟兵さんを好きになって恋をする可能性はゼロじゃないもんね。その時に猟兵さんはそれを女心、とは呼ばないでしょ?」
「……言葉遊びだなぁ」
「そうだねえ」
 ヴィクティムは妖怪の言葉に肩を竦めて。
「自分と違うモノは理解なんて出来ないよ、相手がこうすれば喜ぶんじゃないか、こう思ってるんじゃないか? って慮ったり、想像する事はできてもね。でも慮るにも想像するにも、その気持ちを経験したり、勉強しなきゃ分からないでしょー」
 それはヴィクティムが、同世代と同じような考え方が出来ないという根本原因。
 歪みすぎているというだけの話なのだろう、と言う結論に帰結する。
「……そうか」
 ――まともに生きられたなら、変わっていたかもしれないな、なんて。
 思うだけ、考えるだけ。
 生きてきた道は。
 歩んできた道は、今更変える事は出来ないのだから。
「ねえ、猟兵さん」
「何だ?」
「女心……女の子の気持ちをトレースしてみたい、っていうならさあ。一般的な教材として恋愛漫画とか恋愛小説をよんでみたらどう!?!!」
「……考えておくよ」
 なんて。
 今にもオススメの本を語り出しそうな骸魂妖怪に、ヴィクティムはやんわり距離を置く返事をした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
うーん大ピンチ。
そんな面白い話はできないけどなんでもいいならちょっとだけ…
こういう場だからこそできる話もあるしね。

最初は挨拶からきっちりと礼儀正しく。
それじゃ…コイバナといこうか。
女の子ナンパして上手くいった時ってどうするのかにゃー。
カフェ行ったりしてるけどなんか方向性違う気が…
いきなり変化球過ぎ?いやいやこれ結構大事なんだよ。
ナンパ好きなね…人がいてねー。その人の思考理解するのに必要かなって。
…本人はもういないから聞けないし。
何か話逸れてきたから戻すと、デートコースってどんな感じで組み立てるんだろう?
妖怪さんのデート模様とか聞いて参考にしてみたいから教えて欲しいにゃー。

※アドリブ絡み等お任せ



 ――そんなに面白い話はできないけれど、なんでも良いならば。
 公衆電話の乗ったカウンターの横に腰掛けたクーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)は、自分の身長の半分程もある、一般的な人間用の受話器を両手で握り締めて。
「やあ、こんにちは」
「はあい、こんにちはー。猟兵さんもお話をしてくれる人?」
「うん。折角だからキミとお話をしたいと思ってね」
「うふふ、やったぁ。なあになに、何のお話をする?」
 電話の向こう側でくすくすと笑う骸魂妖怪。
 クーナはそうにゃー、とゆうらり尾を遊ばせて。
「それじゃ、コイバナといこうか」
「うふふふ、今日は沢山きいたよ。のろけ話も、お悩み相談もたーっぷり!」
「うーん。そうにゃー……、例えば、女の子をナンパして、上手くいった時にどうするのかにゃー?」
 それからゆるゆると首を振ったクーナは、受話器に向かって真剣な眼差しを向けて。
「カフェに行ったりしてるんだけど、なんだか方向性が違う気がして……」
「ははーん。中々スタート地点から難しいお話をするね?」
 骸魂妖怪の言葉に、クーナは肩を一度竦め。
「いやいや、これ結構大事なんだよ」
「ふうん?」
「ナンパ好きな、ね……人がいてねー」
 一度言葉を切ったクーナは、空を一度見上げて。
「その人の思考を理解するのに、必要かなーって。……私にはなかなか大切な事だからにゃー」
 ――……本人はもういないから、直接聞く事は出来ないのだから。
「うん? 人の考えを理解したいから、ナンパをしているの?」
 クーナの零した言葉に、骸魂妖怪は電話の向こう側でぽつりと訊ねて。
 はっと肩を跳ねたクーナは尾の先をぴぴぴと忙しく揺らして、手を振り。
「……にゃはは、自分で話を逸らしてしまったね。話を戻すけれど、妖怪さんならデートコースってどんな感じで組み立てるかにゃー?」
 言いたくないのならば、それはそれで仕方の無い事。
「えー、まず相手の体力を考えるかなー。遊ぶ時って結構体力が必要でしょ?」
 骸魂妖怪は無理に会話を引き戻す事も無く、クーナのやや強引なら話題転換に乗って上げる。
 ――そもそも話したくなったら、その話を聞いてあげるのが骸魂妖怪なりの相談の乗り方であった。
 ……話したくなったときにまた、誰かが居てくれれば良いね、と後は祈るだけ。
「ふむふむ……、でもナンパしたときのデートコースと思うと、そんなに体力を必要としない汎用的なデートコースがいいかなあ」
 クーナは首を傾いで、受話器に向かって口を開いて――。
 そのまま二人は、もう暫く。
 デートコースについて、ゆっくりと話したりするのであろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
もしもし。こんにちは、こんばんは。
ご相談に乗ってくれると聞いたのだけれど、いいかしら。
……あたし? あたしは通りすがりのじょ   いえ、通りすがりの猟兵よ。

――そう、ご相談というのは進路相談なの。
もう5月だけれど。

バタバタとしているうちに高校を卒業してしまって、いまのあたしは無職なの。
……、……正確には職員ではあるし、潜入任務と言われたら全然制服も着るけれど。
それはそれとして、女子高生という肩書きを失って仕舞ったのよ。

これは由々しき事態だわ。
己を定義する言葉の重要性は、きみになら分かるでしょう?
一言で片付けられる立ち位置は便利だけれど、いまのあたしにはそれがない。

ね。何て名乗ったらいいかしら?



 トゥルルルル、トゥルルルル。
 誰も居ないというのに、呼び出し音を響かせる公衆電話ボックス。
 その黄緑色の受話器を手にとると、ぴたりと呼び出し音が止まった。
 耳へ受話器を寄せた花剣・耀子(Tempest・f12822)は、電話ボックスの中で海色をした瞳を細めて。
「もしもし、こんにちは、こんばんは」
「はあい、こんにちは、こんばんは~」
 挨拶をした分だけ、返事をしてくれた電話の相手――骸魂妖怪はくすくすと笑い声を零して。
「ねえ、ねえ。猟兵さんたちと沢山お話したおかげでね、随分と安定してきたみたい」
 そろそろ骸魂だって押し返せそうだ、なんて言う彼女に。
 耀子は電話ボックスのガラスに体重を預けながら、言葉を紡ぐ。
「そう。あたしもきみがご相談に乗ってくれると聞いてきたのだけれど、……まだ大丈夫かしら?」
「ええ、ええ。勿論! あなたはどんなお話を聞かせてくれるの? あなたはだあれ?」
「あたしは通りすがりのじょ……、……いえ、猟兵よ」
「じょ?」
 言葉の途中で不自然な噛み方をした耀子に、骸魂妖怪は訝しげな声。
 なんたって、猟兵とじょは噛み合う音が一つも無いもの。
 耀子はゆるゆるとかぶりを振って、受話器を持ち直すと小さく息を呑み。
「……あたしのご相談というのは、進路相談なのよ」
「そういうのって、学校でするものじゃなくて……?」
「そうね、もうでももう5月なのよ。――あたしはバタバタしているうちに進路を決めずに高校を卒業してしまった女子高生だった者なのよ」
「女子高生だった……者」
「そう、……いまのあたしは無職なの」
「女子高生だった無職さん……」
 耀子の割と強めの言葉を、復唱するばかりになってしまう骸魂妖怪。
「正確に言えばUDC組織の職員ではあるから無職では無いし、高校の潜入任務を言い渡されれば全然制服だって着るわ」
 きっぱりと言い放つ耀子の言葉には決して迷いなんて無い。
 仕事であれば、女子高生のコスプレだってちゃんとやる。
 それでも、それでも。
「……でもね、それはそうとして。あたしは女子高生という肩書きをもう失って仕舞ったのよ」
「女子高生だった無職さん……、留年したほうが幸せだったのかな……?」
「……その呼び方も含めて、由々しき自体だわ」
 ――己を定義する言葉の重要性は、妖怪である彼女はよくよく理解できるだろう。
 それに彼女は今、自らの名前すら忘れてしまっている。
 それは彼女もまた自らを分類する肩書きを失ってしまっている状態であると言っても、過言では無いだろう。
 ならば。
 その重要性は、彼女こそ一番理解して貰える筈で。
「一言で片付けられる立ち位置は便利だけれど、いまのあたしにはそれがないの」
 女子高生という立場は、もし年齢を重ねて行く事ができるのならば、勝手に名乗る事がどんどん難しくなって行く立ち位置だ。
 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
 娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。
 人は女子高生になった時点で、いつか女子高生で無くなるもの。
「ご相談は、そこよ。……ね、なんて名乗ったらいいかしら?」
「フリーターとか、家事手伝い……とか……?」
「それ世の中的には、無職の言い換え言葉に当たるんじゃないかしら?」
「風来坊……流浪人とか、遊牧民とか……?」
「あのね、お家自体はあるのよ」
 気持ちが分かったところで、しっくり来る言葉がすぐに出て来る事も無く。
 女子高生だった無職ともうすぐ妖怪に戻れそうな骸魂妖怪は、暫く言葉を交わし続けるのであろう。
 ――彼女が妖怪に戻って、自らの名前を思い出すその時まで。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月21日


挿絵イラスト