大祓百鬼夜行⑧〜別離の再開
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夜。深い闇の中に緩い流れがあった。
星々と月、古ぼけた道路灯。何もかもを甘く反射しているそこはせせらぎを持っていた。
川だ。橋が架かっている。
コンクリート製の橋は片側三車線。広いが、乗せた道路塔と同じく古ぼけていた。路面の標示も掠れ、欄干にも削れがある。何より橋全体が時折“ブレて”いた。
まるで存在自体が不確かなような場所は、やはり幻なのだ。
“まぼろしの橋”。そこに己はいた。
「――――」
否、己だけではない。見知った姿がそこに立っている。
いるはずの無い姿だった。
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いる。
何故なのかと、そう問うことすらもはや無意味な相手が。
思う。
どうしたものかと。
幻の上に立つ両者は果たしてどちらが幻なのか。相手の背後とこちらの背後、どちらが何処へ続いているのか。
だがそんな風に思考したのも一瞬だった。
「――――」
互いに知っているからだ。再び会うことが叶ったならば、何をするべきなのかを。
「…………」
月光とせせらぎの狭間にある橋上、そこに両者はいた。
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「“大祓百鬼夜行”……。カクリヨファンタズムとUDCアースの命運を賭けたこの“戦争”は、各所で行われています」
猟兵達が集まるグリモアベース、そこでフォルティナは言う。言葉と共に広げるのは地図だ。金の雲で道が描かれたそれは、この戦争のマップに他ならなかった。
「戦場となっているカクリヨファンタズムですが、その世界の川には時折、渡った者を黄泉に送る“まぼろしの橋”というものが掛かります」
この橋に佇んでいると『死んだ想い人の幻影』が現れ、その相手と語らえば、橋を浄化する事ができるという。
「語り合う……、これは皆様にとって様々な方法でしょうね。言葉を尽くすこともあれば、ある種の決着を望むこともあるでしょう」
現場は古ぼけたとはいえ、コンクリ製の大橋だ。
そしてタイムリミットがある。
「期限は、『夜が明ける』まで。転移してから夜明けまでの間、皆様は各々のお相手と相対してくださいまし」
黄泉に続く橋ということは、渡り切れば向こう側へ行ってしまうのだ。
ならば、猟兵がやるべきことは何か。
「――お気を付けて」
転移の準備を進めていく。
シミレ
シミレと申します。TW6から初めてマスターをします。
不慣れなところもあると思いますが、よろしくお願いいたします。
●目的
・死別した相手と夜が明けるまで語り合う。
●説明
・カクリヨファンタズムで戦争イベントが始まりました。カクリヨファンタズムの端で蘇った『大祓骸魂』がUDCアースの破壊を望んでいます。猟兵達はそれを阻止します。
・そうして進軍していく最中に、「まぼろしの橋」というものと遭遇しました。猟兵達はそれに対応します。
●プレイングボーナス
以下に基づく行動をプレイングに書いていただければ、プレイングボーナスが発生します。
プレイングボーナス……あなたの「想い人」を描写し、夜が明けるまで語らう。
※プレイングボーナスとは、プレイングの成功度を複数回判定し、最も良い結果を適用することです(詳しくはマスタールールページをご参照下さい)。
●他
皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これを言ってますが、私からは相談は見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
第1章 日常
『想い人と語らう』
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POW : 二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。
SPD : あの時伝えられなかった想いを言葉にする。
WIZ : 言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
リック・ランドルフ
この前のUDCと言い、幻を見せる奴が多いな?
流行ってるのか?(軽口をぼやき、橋の真ん中で喫煙を始める)
……(想い人か。前の時もそうだが、……どんな顔して会えばいいんだか。笑顔?いや、駄目か笑顔似合わないってよく言われたしな。じゃあ、睨み顔。いや、ないな。…となれば何時も通りでいくしか)
(コツコツと橋を渡る足音が聴こえて、煙草をポケット灰皿に捨て、音の方を振り向く)
…よう、この前ぶりだな?この前は…あー、あんまり話せなかったが、…ま、今回も無理そうだが
(目の前の相手が…ってからの事を話す。猟兵、異世界。新しく出会った仲間の事)
あー、終わりの時間か
それじゃ、最後に一言だけ
今でも愛してる
じゃあな
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リックは砂利立つコンクリートの上を歩いていた。
「…………」
靴底から聞こえる擦れるような音だけが、ただ周囲に響いていく。
だが、それもいずれ止まった。歩みを止めたからだ。
幻、か……。
橋の中央で、思考する。自分が以前出会ったUDCもそのようなものだったと。
「……流行ってるのか?」
軽口をぼやき、取り出すのは煙草だ。一本、飛び出すようなそれを口に咥え、着火。
「――――」
この場所では、ライターが生む火炎の音すらはっきりと広がった。
静かな空気を煙草を通して吸い込み、口の中に香りが広がっていく。複雑な味わいを飲み込み、肺に落とす。
……想い人か。
思う。前の時もそうだったが、
……どんな顔して会えばいいんだか。
笑顔か? いや、駄目だ。笑顔が似合わないとよく言われていた。じゃあ睨み顔かと思えば、それだって“ない”だろう。
……となれば。
何時も通りでいくしかないな、と煙草の火を見ながら思ったその時だった。
「――――」
音が聞こえた。橋の向こう側から、硬い足音が。
それを聞いた己は最後の煙を吸い込むと、煙草をポケット灰皿にしまい込み、音の方へ振り向いた。
そして、やはりそこにいた。
いるはずの無い者が。
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「……よう、この前ぶりだな?」
中央分離帯を挟んだ位置にいる相手に、リックは言葉を送った。
以前の、UDCの時の事だ。
「この前は……あー、あんまり話せなかったが、……ま、今回も無理そうだが」
朧げなこの橋は夜が明けるまでしか存在しない。それを過ぎれば、消える。
「でも、話せるだけ話そう」
それから、己は語った。
「――――」
目の前の相手と別れてからの事をだ。
自分が猟兵となり、こうやって異世界に来たこと、そして新しく出会った仲間の事を。
話す前は表情すら迷っていたが、話し始めれば言葉がどんどん出てきて、尽きることはなかった。
相手もこちらの言葉に耳を傾け、様々な反応を見せてくれた。それをずっと見ていたかった。
だが、
「あー……」
そうはならないのだ。
「もう、終わりの時間か……」
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東の空が白み始めていた。離し始めたときは深夜という様子だったが、いつの間にやら未明を過ぎ、もう夜明け直前のようだった。
東の空を背景にした相手から残念という雰囲気が見えたのは、己の自惚れではないだろうことをリックは知っていた。
「それじゃ、最後に一言だけ」
言う。一拍を置いて、
「今でも愛してる」
『――――』
太陽が顔を出し、不確かさを増した橋の上を戻っていった。
「――じゃあな」
橋の浄化に成功したのだ。
成功
🔵🔵🔴
リーンハルト・ハイデルバッハ
別離した相手と再会できる橋……なるほど。
であれば、軍属時代に敵地にて散った、我が旧友とも再会できますでしょうか?
想い人:エアハルト・ブロムベルク(享年28歳、人間男性)
「久しぶりですね、ブロムベルクさん」
そう言って旧友と話し始めます。
話したいことは沢山ありますとも。先代の宗主が侵略戦争の末に命を落とし、穏健派の息子が宗主の座に就いたこと。
戦争ばかりだった国が平和になり、周辺国ともいい関係を築いていること。
多くの軍人が職を失ったが、国内の様々な企業で第二の人生を歩んでいること。
そして、私が当時部隊長だったハイドリヒさんの執事としてお仕えしていること。
「いい時代になりましたよ、ええ」
アドリブ歓迎
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“まぼろしの橋”、リーンハルトはその上を歩き、思考していた。
別離した相手と再会できる橋……。
それが、ここだ。であれば己が再開する者もここに姿を現すのだろう。
……彼岸から。
前方、橋の先は陸地に続いているがあの先は自分の知っている場所なのだろうか。それとも、もしそうでないなら、
もしそうでないなら……。
向こう側からやって来るとすれば誰か。思い浮かぶのは一人の名前だ。
――エアハルト・ブロムベルク。
果たして、
『――――』
その名の持ち主が前方に立っていた。
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「久しぶりですね、ブロムベルクさん」
その人物が現れてもリーンハルトはさして驚かなかった。この不可思議な場で己が再開を果たす相手とすれば、この相手だと思っていたからだ。
そしてそれはその通りとなった。
『…………』
「話したいことは沢山ありますとも」
中央分離帯を挟んだ反対車線。軍属時代に敵地にて散った旧友へ言葉を送っていく。
「先代の……」
『――――』
と言ったところで、相手の雰囲気が僅かに変わった。なので己も頷きを返す。
「ええ、そうです。先代です。……先代の宗主は侵略戦争の末に命を落としました。後を継いだのは穏健派の息子で、戦争ばかりだったあの国も平和になりました」
周辺国との関係も随分といい関係となっている。しかしそれは同時にあることも意味している。
「お役御免となった多くの軍人が仕事を失いました。ですがまあ、国内の様々な企業で第二の人生を歩んでいますよ」
宗主国だ。その名の通り、国の内部には様々な要素を内包している。
『……?』
と、またもや変わった相手の様子に思わず微笑む。
「私ですか? ええ、よくぞ聞いて下さいました。私は部隊長だったハイドリヒさんに変わらず仕えていますよ。執事として、ですがね」
幻の笑顔はしかし記憶と寸分違わず、互いに笑みを重ねた。
「いい時代になりましたよ、ええ。――と」
東の空が白み始めている。息吹を挙げる直前のような、光の気配を空の向こうに感じる。
「旧友との会話は、本当にあっという間だ……。同意してくれますか? ありがとうございます」
『…………』
「ええ、でもここまでです。……お達者で、と言うのは流石に不適当ですよね……」
朧気だった橋がさらに朧げになっていく。ここに残ってはいられない。
「私もいずれそちらに向かいますから。――またいずれ、ブロムベルクさん」
橋を、引き返していく。
大成功
🔵🔵🔵