大祓百鬼夜行⑧〜境目に佇めば
●境界
さらさらと、澄み切った川が流れる。
そこに、橋がかかっていた。
それは、まぼろしの橋。
渡った者を、黄泉に送る橋だ。
●グリモアベースにて
「カクリヨファンタズムの川にかかる、この橋を渡りきったならば、もう戻れないことでしょう。放置すれば、犠牲者が出ることにも繋がります」
アウグスト・アルトナー(悠久家族・f23918)は、静かな口調で言う。
「ですが、あなたがこの橋の上で佇んでいたならば――死者の幻影が現れることでしょう。その人は、あなたにとっての想い人です」
それは恋心を抱いていた相手かもしれないし、親兄弟かもしれない。あるいは親友、もしくは師と仰ぐ人なのかもしれない。ただし、それは誰であれ、『死者』だ。
「そのまま、あなたの想い人と、橋の上で夜が明けるまで語らってきてください。そうすれば、橋を浄化することができます」
その想い人の幻影は、悪意で歪められているわけではない、とアウグストは語る。
「あなたが、その人はこういう人だと。そう思っている、そのままの想い人が、現れます」
強引に、『共に逝こう』と誘ってくるようなこともないだろう――あなたが、『その人はきっと誘ってくるはずだ』と思っていない限りは。
「決して、橋を渡りきることのないようにしてください。必ず、夜が明けるまで死者と語らって、橋を浄化して帰ってきてくださいね。――約束ですよ」
アウグストの手のひらの上で、グリモアが光り輝いた。
地斬理々亜
地斬です。
よろしくお願いします。
これは、カクリヨファンタズムの戦争『大祓百鬼夜行』のシナリオです。
1章のみで完結します。
●プレイングボーナス
『あなたの「想い人」を描写し、夜が明けるまで語らう』
●採用人数
オープニング公開直後から、『5月14日(金)午前8時』までの間にプレイングをお送りくださった方の中から、2名様を選び、執筆させていただきます。
選抜方法は、ランダムでの抽選です。運です。選ばれなくとも恨みっこなしでお願いします。
●注意事項
オープニングで『絶対にやらないでください』と念押しされていることを行うプレイングについては、採用致しません。(つまり、死なないでください)
また、2名様以上での共同プレイングは、今回はなしでお願いします。お一人様でのご参加をよろしくお願いします。
●プレイングについて
いつもどおり、冒頭に『◎』の記号をお書きくださった方は、アドリブ多めにします。
また、あなたの想い人につきましては、【どんな人か(名前、性格、口調、外見、あなたとの関係など)】を、文字数の許す限りプレイングにぎゅっと詰め込んでください。
その上で、【想い人と語らう内容】もご記載お願いします。
それでは、良き邂逅を。
第1章 日常
『想い人と語らう』
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POW : 二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。
SPD : あの時伝えられなかった想いを言葉にする。
WIZ : 言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
レン・デイドリーム
◎
こういうのって大体罠だったからつい警戒しちゃうけど
カクリヨの性質だというのなら大丈夫かな
行こう、シュエ
橋に佇んでいると、一人の男性が歩いてくる
僕にそっくりだけど、所々が違う人
ドラゴニアンの特徴が見えていたり、髪が黒色だったり
……久しぶりだね、『先生』
『先生』は僕を作った人
僕は先生を模して作られた存在
姿形も声色も喋り方も鏡写しみたいだけど
関係としては……親子、かな?
シュエは『先生』に会えて嬉しそうだ
僕の方は親子らしく近況報告とかしてみよう
『先生』の研究は受け継いだし、シュエとも仲良くやってるから
仕事も順調だし、大丈夫だよ
……幻とはいえ「ありがとう、頑張ってるね」と誉めてもらえるのは、むず痒いな
●『先生』
死者との邂逅が叶う場所――。
レン・デイドリーム(白昼夢の影法師・f13030)の経験上、そうしたものは、大抵、罠であった。
だから、警戒心がないと言えば、嘘になる。
(「けど、カクリヨの性質だというのなら大丈夫かな」)
レンは顔を上げ、まぼろしの橋を見る。
「行こう、シュエ」
自らの腕に緩く巻き付く白の触手へと、レンは呼びかけた。
シュエが自らの先端を軽く動かす。頷く動作だ。レンは、橋へと歩み出した。
橋の欄干にもたれかかり、レンは流れる川をぼんやり眺める。
しばらくして、かつん、と足音が響いた。
レンが視線を向けると、一人の男性が歩いてくる姿が見える。
姿はレンに瓜二つだ。だが、ところどころが違う。竜の尻尾や翼が、彼がドラゴニアンであることを示していた。また、髪の色は、レンの藍に対し、彼は黒である。
「……久しぶりだね、『先生』」
「うん。久しぶりだね、レン君」
そっくりな声色で再会の挨拶を交わす二人は、言わば、親子だ。レンは、錬金術師である『先生』によって作られた、人形である。
シュエは、ぱたぱたと勢いよく自らの先端を振った。
「『先生』に会えて、シュエも嬉しそうにしてるね」
「そうだね。先生も、会えて嬉しいよ」
穏やかに、レンと『先生』は微笑み合う。まるで、鏡のように。
「それで、レン君。近況はどう?」
『先生』に問われたレンは、胸を張って答えた。
「『先生』の研究は受け継いだし、シュエとも仲良くやってるから。仕事も順調だし、大丈夫だよ」
それを聞いて、『先生』の瞳に満足そうな色が宿る。
「ありがとう、頑張ってるね」
『先生』の唇から紡がれるのは、優しい称賛。レンは、照れくさそうに頬を掻く。
さらに、『先生』は続けた。
「レン君は、先生の誇りだよ。レン君を生み出すことができた先生は、本当に幸せ者だ」
言った『先生』は、両手を差し伸べる。その片方に、シュエが先端を乗せた。
意図を察したレンが、『先生』のもう片方の手を取る。
「これからも、仲良くね」
レンの手とシュエを、優しく『先生』は握り返す。
「うん。ありがとう、『先生』」
レンは微笑む。
夜は、明けようとしていた。
大成功
🔵🔵🔵
紅砂・釈似
◎
●想い人
神守来背
物静かな読書家
頭を金髪に染めており、指には多くの指輪をつけるのが癖
一人称「俺」二人称「あなた」語尾「だ、だな」
大学時代から夫婦関係にあった 来背からは常に深い愛情を顕にしており、釈似の反応はいつも淡白だったが、ただ愛情を受け止めていた 釈似の人斬り稼業については知らない
結婚から数年後、服薬自殺 遺書には「愛しています」とだけあった
●語り合う内容
静かに向き合って
死ぬ前にひとこと言ってくれたら。後追いなんて絶対にしないし、結局お前が死んでも泣けなかったけれど。俺は生きていたくないんだって、私にはちゃんと言ってほしかったよ──と、ずっと思っていた胸の内を明かす
●愛するが故に
橋の上に佇む、紅砂・釈似(流殺煙刃・f27761)の耳に、足音が聞こえた。
視線を向ければ、懐かしい姿。
金色に染めた髪。数多くの指輪をつけた指。それらの派手な装飾とは裏腹に、内面は繊細で物静かな、かつての夫がそこにいた。
「――ああ」
彼は――神守・来背は、釈似と視線が合った瞬間に、嬉しそうな表情を浮かべた。だが、すぐに恥ずかしそうに目を逸らす。
「来背」
釈似は、彼の名を呼ぶ。
「私を見ろ」
「……。そうだな」
来背は、遠慮がちに釈似と目を合わせた。
釈似は真っ直ぐに彼の瞳を見つめ、語り出す。
「死ぬ前に、ひとこと言ってくれたら。後追いなんて絶対にしないし、結局お前が死んでも泣けなかったけれど」
来背は黙って聞いている。釈似は、続けた。
「俺は生きていたくないんだって、私にはちゃんと言ってほしかったよ」
それは、彼女がずっと胸に抱えていた言葉だ。
『愛しています』という書き置きだけを残して、結婚からわずか数年で服薬自殺した来背に対し、思っていたことである。
「……もしそう言っていたら、あなたは俺を死なせてくれたのか?」
釈似は、言葉に詰まる。
彼は知らないが、己は人斬り屋だ。頼まれれば、誰であれ斬ってきた。
けれど、伴侶にそう言われていたなら、どうしていたのだろう。
来背を説得し、思いとどまらせようとしただろうか。それとも、彼の意思を尊重し、自殺を止めなかったのだろうか。
――あるいは、彼を斬っていたのだろうか?
その沈黙を受け止めた来背は、続ける。
「俺はあなたを愛している。だからこそ、俺があなたの傍に居続けるわけにはいかないと、そう思ったんだ」
「なぜだ」
「あなたの重荷になりたくなかった」
「……お前は」
釈似は拳を握った。
「私を見くびりすぎだ。重荷? それが何だ。抱えていけたに決まっているだろう」
強く言い切る釈似を、まぶしいものを見るような目で来背は見つめる。
「あなたのそういうところを、俺は愛しているんだ。だから――」
朝日が差し込もうとしている。
「どうか、俺のことは忘れてほしい」
「――」
奇しくも、普段自分が言うのと同じ言葉。
「来背!」
思わず名を叫んだ釈似の前で、寂しそうに微笑んだまま、来背は静かに消えていった。
橋は浄化され、ただの橋となった――もう、会うことは、きっと叶わない。
大成功
🔵🔵🔵