大祓百鬼夜行⑧~夜明けまで君とまた
●たった一夜のゆめまぼろし
「唐突に聴いてすまないが……皆には、逢いたくとも二度とそれが叶わぬ相手はいるか?」
此度の戦場となる地の光景を予知してのち顔を上げた火神・五劫(f14941)は、複雑な面持ちで猟兵たちに語り掛ける。
男が続けた言葉によると。
彼が視たのは、カクリヨファンタズムの川の光景。
そこには時折、渡った者を黄泉に送る『まぼろしの橋』が掛かるのだという。
「そしてな。その橋に佇んでいると『死んだ想い人の幻影』が現れるんだ」
想い人。
家族、友人、恋人。
最も深い絆を結んだ相手。
或いはけして許せぬ存在。
きっと人の数だけ関係性も、想いの形もあるだろう。
「『死んだ想い人の幻影』と夜が明けるまで語らえば、橋を浄化することができる。生者が誤って渡ってしまうこともなくなり、大祓骸魂の下にも一歩近付けるだろう。だが」
五劫は言葉を切り、仲間を見据え。
「今一度、言うぞ。現れるのはお前たちの想い人――今はもういない大切な者だ。逢いに行く覚悟はあるか?」
信頼と心配、双方を瞳に浮かべて問う。
「橋の向こうは黄泉の国。渡ってしまえば、二度と帰っては来られない。どれだけ手を伸ばしたくとも、まぼろしを追ってはならんのだ。それでも、行くか?」
降り立つ地には、様々な景色が広がっているだろう。
この世のものとは思えぬ美しき光景か、何時か見た懐かしい場所か。
ただし、そこには必ず川が流れており、一本の橋が掛かっている。
「橋に佇んでいれば、いずれ想い人の幻影は現れる。……それが本人であるかは確かめようがないが」
夜明けまで十分な時間がある。
あの時に言えなかった、聴けなかった言葉を。
今、伝えたい想いの丈を。
「存分に語らってくるといい。そして……必ず、帰って来い」
心の澱みをも浄化し、未来へ歩んでゆくために。
藤影有
お世話になっております。藤影有です。
あと一度だけ逢えたら――そう願う相手が、貴方にはいますか。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「大祓百鬼夜行」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●補足
【日常パート】となります。
プレイングボーナス……あなたの「想い人」を描写し、夜が明けるまで語らう。
参加者様が何らかの強い想いを抱く、かつ既にこの世を去った相手であることが条件となります。
(実在するPC様や生きている人物などはNG)
プレイングに想い人の詳細、やりとり、伝えたい想いなど。存分に詰め込んでいただけると嬉しいです。
POW・SPD・WIZの区分は、今回気にせずとも問題ありません。
シナリオの性質上、単独~二名様程までの参加を推奨致します。
また、挑戦人数によっては全員の採用が難しい場合もございますのでご留意ください。
●プレイングについて
OP公開と同時に受付開始します(今回、断章はありません)。
〆切予定等はタグ及びMSページをご確認いただけますと幸いです。
それでは、皆様のプレイングを楽しみにお待ちしております。
第1章 日常
『想い人と語らう』
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POW : 二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。
SPD : あの時伝えられなかった想いを言葉にする。
WIZ : 言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
清川・シャル
だいぶ慣れてきたと思っているけれど…それでもやっぱり気にしてしまう、亡くなった両親の姿。
姿形を知らないとはいえ逢いたいですよ。見れば私のルーツが見られるはずだもの。
青い目と角は父様、金髪は母様。おっとりしている顔立ちは父様に似ているんだとか。
お元気ですか?なんて声をかけてしまうかもしれない。だって心の準備だってままならないと思うもの。
私はとっても元気ですよ!快適に生活しています。全ては猟兵のお仕事をして自分で勝ち取ってきて…友達もいっぱい居てとても幸せです。
父様と母様も幸せでいてください。
涙が1粒、ぽろり落ちて。
●
幽世と現世を隔てる川に、ゆらり流れる桜色。
(「わぁ……!」)
胸の奥に閉まった想いに突き動かされてやってきた少女――清川・シャル(f01440)はその光景に、青い瞳を輝かせる。
咲き乱れる桜並木から、花びらが風にふわりと乗って。
川に落ちては流されて、遠い彼方に消えていく。
(「何処まで続いているのかな」)
橋に佇み、物思い。
生を受けてから、まだたったの十幾年。
物心付いた時には、彼女の“想い人たち”はもう傍にいなくて。
これからも、それが当たり前の日々が続いていくのだけれど。
(「……それでも、やっぱり」)
想いが潰えることなどない。
逢ったことがなくとも――否、ないからこそシャルは此処に来たのだ。
――もしかして。
女の声にはっとして、シャルがそちらへ目をやれば。
「あ、」
姿形を知らずとも、惑うことは無かった。
驚いた様子で口元に手を当てる女の髪は金色をしていて。
女に寄り添って立つ、おっとりとした顔立ちの有角の男は涼やかな青い目を持つ。
二人の面影からは、少女が受け継いだものが確かに見て取れた。
「母様、父様――」
水面が揺れる。
亡くした両親に初めて逢えた少女の心を映したかのように。
元気にしているか、と。
シャルと両親との声が重なり、三人は顔を見合わせ笑う。
「えへへ、私はとっても元気ですよ! 快適に生活しています」
顔を綻ばせた娘の口から、堰を切ったように言葉が溢れ出す。
ずっと知りたくて、逢いたくて。
そして、たくさんたくさん話したかったのだ。
「全ては猟兵のお仕事をして、自分で勝ち取ってきて――」
日常、冒険、武勇伝。
生を受けてから、こんなにもたくさんの歩みがあったのだ。
話も、笑顔も、花が咲き。
「友達もいっぱい居て、とても幸せです!」
時を告げるは、夜空に咲いた大輪の花火。
(「あれは、何時かの」)
――花火って、亡くなった人からも見えるんだって。
友の言葉を想起すると同時、空が白みはじめていることに気付いて。
「父様と母様は、ふたりは」
幸せでしたか?
問うた娘に頷いた両親には、元気いっぱいの笑顔で応えてみせて。
「ふふ、安心しました。これからも、どうか幸せでいてください。シャルは――」
夜が明けて、橋の上には少女がひとり。
涙がぽろりと一滴。
その跡を拭うように、桜の花びらがそっと頬に触れた。
大成功
🔵🔵🔵
水元・芙実
…会ったこともない、でも確実にいた人とは会えるのかな。
その人達はわたしが猟兵になる前、ううん、ずっと前にいなくなってしまってた、名前も残らないくらいに歴史の向こうの人。
だから何を話していいのかは分からない。
その人達は大昔にサムライエンパイアで死んだ人達だから。…わたしの両親。
現地で調べてたら百年くらい前に焼き討ちされた隠れ里の跡を見つけたの、その里の名前が水元。それと妖狐の隠れ里って情報くらいしか残ってなかったわ。多分わたしが異世界の未来に飛ばされたんだと思う。
できるなら一言だけ伝えたいことがあるの。
お父さん、お母さん。わたしは二人の付けてくれた名前でここまで来れました。ありがとうございます。
●
(「……会えるのかな」)
石造りの橋の無骨な欄干から川を覗き込み、水元・芙実(f18176)は思考する。
夜明けまではまだ遠いはずなのに、水面に映った自分の顔がくっきり見える程に視界が明るい。
(「街灯も見当たらないのに、興味深いわ」)
自身が歩いてきた“こちら側”は、現代地球的な見慣れた街並みで。
一方、渡ってはならぬと釘を刺された“あちら側”は、どうしてか何も見通せぬ真っ暗闇。
今宵の星の位置と月の形も、どうやら地球に準じている。
おおよその時刻を推察し、芙実はまた水面に視線を戻す。
「もし、会えたとして……何を話せばいいの?」
いつもの自信に満ちた彼女はそこにはいない。
惑うように揺らぐ川の流れを見つめ、芙実は顔も名も知らぬ想い人らを待ち続ける。
水元芙実。
自身が包まれていた布に記されていた、その名だけが彼女の存在証明。
科学を拠り所としつつ、どうにかこうにかすくすく育ったまでは良かったが。
猟兵に覚醒して後、直面したひとつの事実は年若い少女には残酷なもので。
(「あの里は、確かに“水元”――わたしの姓だったわ」)
サムライエンパイアの片隅に残された、百年程前の焼き討ちで失われた地の痕跡。
その妖狐の隠れ里の情報と、己の境遇から仮説を組み立てるに。
「もう、ずっと前に。歴史の向こうにいなくなってしまったのよね……お父さん、お母さん」
名前すらも残っていなかった。
おそらくは時と世界を越えて、芙実ひとりが生き残ったのだろう。
それが真実であるとして、何故そうなったのかは解を得られぬけれど。
今や芙実の存在そのものが、即ち両親が存在した証明ともいえる。
「どうしてわたしだけが……水元芙実だけが此処にいるの?」
――芙実?
少女を認識する者が、橋の上にほかに二人いた。
「……っ!」
はっと芙実が顔を上げると、“あちら側”の真っ暗闇が晴れていて。
見覚えのない人里と思しき風景を背に、男女が連れ立って其処にいる。
ぴんと少女の方へ向いた耳は狐のもの。
そして、二人の表情は驚愕と喜びが入り混じっていて。
「……」
喉が閊えて言葉が出ない。
証明できるものなど何も無いのに、確信だけが胸にある。
そして同時に、ひとつの解を得る――伝えたい言葉が自分にはあるではないか。
深く息を吸って、吐いて。
乱れた呼吸と心拍数を整えて。
どうにかこうにか、いつも通りの自信を持った表情を取り戻して。
「お父さん、お母さん」
背筋をぴんと伸ばして、両親へ向き直って。
「わたしは、二人の付けてくれた名前でここまで来れました。ありがとうございます」
浮かべた笑顔と裏腹に、視界が滲むのは何故だろう。
夜明けまでは、まだ遠い。
大成功
🔵🔵🔵
月守・ユエ
今宵この体を使うは
月神の人格:晧月
此処を訪れたのは
この体を依り代にすれば逢えると思うた
愛おしくも愚かな
月守の長に
ユエの兄…名を神門と云うたか
この眼が見たのは
人から邪なる神へと堕ちた者
月守の象徴は消え失せ
禍々しき邪神の思念体
『月神が直々に呼ぶとは予想外だった』
「そなたがいつまでも現れぬのが悪い
どれほど待たせる
我と己が一族を憎み、
故郷を滅ぼした人間よ」
『忌まわしき神を滅ぼす為
妹達を神の呪縛から解き放つ為
時が来れば必ず現れる』
憎しみの眼が向けられる
「はっ…大いに結構な事だ
だが、忘れるな
一人が為に喪失を胸に旅する子らがいる事を」
今宵は其れを伝えに来た
我と彼が愛した娘達が
彼に逢えず傷つき涙してる事を
●
雄大なる大河は緩やかに流れ、彼方で夜の空へと続く。
漆黒の闇を照らす月灯の下、月守・ユエ(f05601)は呟いた。
「今宵、此の場所で。さて、逢えるだろうか」
否、今の彼女をユエと呼ぶのは相応しくないのかもしれない。
目的を遂げんと表に出ているのは、月神の魂の欠片宿す人格――晧月であるからだ。
「おや、月神が直々にお出ましとは。いや……呼ばれたのか? いずれにせよ、予想外だった」
待ち人来たりて、零した言葉はまるで軽口。
「此の体を依り代にすれば逢えると思うた。そなたがいつまでも現れぬのが悪い」
晧月に睨め付けられようとも、男は何処吹く風で肩を竦めるのみ。
娘に月神が宿っていると気付いた上での、その態度。
無理もない。
今は亡きその男から、月守の象徴は消え失せている。
「愛おしくも愚かな、月守の長……神門よ」
彼はもう、在りし日の彼でなく。
ユエの兄であった頃の彼でなく。
人であることを捨て、邪なる道へと堕ちた者。
禍々しき邪神の思念体に過ぎぬのだ。
月神にかつての名を呼ばれようと、男は何も返さない。
ただ目の前の娘――“ユエ”を見つめる瞳には、意味有り気な色が宿っている。
遠くを見つめるような、不思議と静かな色が。
「神門よ、どれほど待たせる」
されど月神が今一度、名を呼び問えば忌々しげに目を細めて。
「答えよ。我と己が一族を憎み、故郷を滅ぼした人間よ。どれほど待たせる……ユエを!」
妹の名を耳にした途端、その瞳から静謐さは消え失せた。
「時が来れば、必ず」
ようやく口を開いた邪神の瞳は、もう憎しみ一色で。
「忌まわしき神を滅ぼす為」
されど、そいつは確かに言ったのだ。
人としての生を捨てた以上、神門という男は何処にもいないはずなのに。
「妹達を神の呪縛から解き放つ為」
妹、と。
「はっ……大いに結構な事だ。だが」
月は傾き、空に暁の色が混じる。
「忘れるな。一人が為に喪失を胸に旅する子らがいる事を」
返事はない。
だが、夜明けとともに姿が薄れゆく男の瞳には――。
「……ここは?」
我に還ったユエが、ぼんやりと視線を巡らせれば。
向こう岸に去り行こうとする、懐かしい面影を見た気がして。
「――っ!」
思わず呼び掛け、手を伸ばし、駆け寄らんとし。
「……どう、してっ!」
しかし、足が動かない。
まるで自分の足でないかのように、一歩たりとも進めない。
――けして、此の橋を渡ってはならない。
それは直感か、神の寵愛か。
それとも、今の娘にとっては呪縛であろうか。
「……」
伸ばした手を降ろし空を見上げれば、眩い朝日が瞳に射して。
一筋の涙が零れて落ちた。
「……時が来れば、必ず」
暁の空に響き渡るは、ひとりの娘の澄んだ歌声。
幽世と現世の境界を越えて、想いが届きますようにと。
*****
川が流れ、海へと注ぎ、果てが空まで続くように。
過去は今へ、未来へと続き、命は終着点へと至る。
何時か辿り着くその日まで、猟兵たちは歩み続ける。
行く先に待つ人への想いを、己が心と共に連れて。
大成功
🔵🔵🔵