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大祓百鬼夜行⑦〜満月には絶対にツッコんではいけない

作者：北瀬沙希

●カクリヨファンタズム・満月のすすき野
　――さら、さら。

　野原一面に広がる銀色のすすきが、静かに風になびいている。

　――さら、さら。

　すすきを照らすように、満月が煌々と……煌々と？

　――うごごごご……。

　満月をよく見ると、鈍く響く振動音を立てながら表面が激しく泡立っている気が？

　――パカッ。

　満月、真っ二つに割れちゃったよ！？
　しかも割れたまま普通にすすき野を照らし出しているよ！？

　――ぶくぶく、ぶくぶく。

　さらに満月の割れ目から、正体不明のどどめ色の泡がぶくぶく湧き出しているような！？
　よく見ると、泡の中には超巨大なカエルの卵らしき物体が大量に！？

　これ、放置しておくとカタストロフの種になりそうなのですが……どうしましょう？

●こんな状況ですがお月見です
「私は何も見ていない、見ていないぞ」
　いきなり断言する、無責任なグリモア猟兵、藤崎・美雪さん。
「私は知らないぞ。骸魂の影響を受けて凶暴化した『満月』が割れ、その中から恐るべき、超巨大な『カタストロフの幼生』が生まれようとしているなど」
　あっそういうことなのね、と察する猟兵の皆様。
　ちなみに、現在生まれようとしている幼生は『どどめ色をした泡に包まれた大量のカエル』のようなものだとか……想像するだけで気が滅入りますね。
「だから私は知らないんだってば。幼生を消滅させるためには、にぎやかな『お月見』をやるしかないなんてことは」
　つまり、割れた満月をなんとか『美しい満月』だと思い込み、月が割れているという現実から目を逸らしながらお月見を目いっぱい楽しめば、幼生は自然と消滅するそうです。
　月見団子を持ち込んで食すもよし、踊るもよし。
　羽目を外さない程度にお酒を持ち込んで嗜んでも良し。
　現実から目を逸らしつつシリアスに語っても良し（？）。
　あっ、もちろん未成年の飲酒喫煙と公序良俗に反する行動はダメですよ。
「今回、私はすすき野に転送するだけだ。月見に巻き込むなよ、いいな！？」
　それは巻き込まれフラグですよ、美雪さん。

　というわけで、グリモア・ムジカの音符に導かれた猟兵様ご一行。
　――絶対満月に突っ込んではいけないお月見会場へ、ご案内！

第1章 日常 『月割れてるけどお月見しよう』

POW   :    全力で月の美しさを褒め称え、「立派な満月」だと思い込む。 SPD   :    賑やかな歌や踊りでお祭り気分を盛り上げる。 WIZ   :    お月見にふさわしいお菓子やお酒を用意する。 👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●『何も問題はない満月』の下で
　――さわ、さわ……。

　穏やかな風が流れる、人気のないすすき野に辿り着いたのは、黒麒麟と仙人姿の半獣半人の瑞獣、厳・範（老當益壮・f32809）。
　生まれてから約千年、封神武侠界から出たことはなかった範は、今は他世界を見聞中の身。
　現在気になるのは、百鬼夜行溢れるカクリヨファンタズム。
　そこで範は、日本酒の入った大きめの徳利を腰にぶら下げ、満月のすすき野に足を運んでいた。
　穏やかな風になびく一面の銀のすすきと、真っ二つに割れどどめ色に染まりつつある月のアンバランスさは、大きな月そのものを見慣れぬ範の目から見ても「おかしい」光景だが。
（「ふむ、あの満月は何も問題はない」）
　範は仙術で自己暗示をかけ、二つに割れた満月を「美しい満月」と思い込む。
　２、３度瞬きすれば、そこにあるのは「美しく輝く満月」。
　問題ない、と目を細めながら微笑み。
「さて、これだけの大きさの満月と、すすきの。なれば……」

　――蝶が舞っているのも、趣があろう。

　範の仙術にて召喚された９８体の小さな蝴蝶が、すすき野に新たないろを添えるべく舞い始める。
　ひらり、ひらりと舞う蝴蝶もまた、月のみに注目しているが、やがて美しさを感じ取ったらしく、舞い方を変えていた。
　月の光に煌めく小さな蝴蝶は、それだけですすき野に幻想的ないろを添え、月見にささやかかつ幻想的なアクセントを添えていた。

　範は月を眺めながら開けた地面に座り、腰に下げていた徳利を外し。
　徐に懐から取り出したのは、月見団子とお猪口。
　日本酒入りの徳利とお猪口は、ＵＤＣアースの月見に何となく合わせてみたくなり、用意してみたのだけど。
　実際に並べてみると――無骨ながらも洗練された形状が、幻想的な雰囲気に良く似合う。
　景気の良い音を立てながら徳利の栓を抜き、お猪口に並々と酒を注げば、あっという間に水面は月で埋め尽くされ。
　それをくいっ、と一息に飲み干せば、月を己が裡に取り込んだようにまた、酒も格別にうまくなった気がする。
「ああ、よき月だな」

　――こうも大きいと、異世界だとしみじみするが。

　封神武侠界ではまず見られないであろう、空の半ばを覆う月の下で。
　範は月見団子を食べ、美しき月光を浴びながら月見酒を嗜み、そして美しき月を観る。
「うむ、戦いの最中ではあるが、よき休息の間よ」
　範は目を細めつつニカッと笑いながら、再び徳利から酒を注ぎ、月が浮かぶ酒を再度あおり、束の間のひと時を楽しんでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●今日の配信は『くうきよみ企画』！
　コトト・スターチス（バーチャルネット辻ヒーラー・f04869）が、本日の生放送の舞台に選んだのは、カクリヨファンタズム！
　割れた月が空の半分を占め、さらにどどめ色した何かが漏れ出ておりますが、コトトは気にせず黒猫型の生放送動画撮影＆配信ドローンを浮かべ、月が映り込むように立ち位置を調整します。
　それでは、『ことなまっ☆』生放送、開始です！

「こんばんは！　カクリヨからコトトです！」
『こんばんはー』
「今日のことなまっ☆は、メンバー限定のおつきみ配信をしますねっ」
　月を背に、画面の向こうにいるであろうメンバーたちに呼びかける、コトト。
　メンバーたちの目には、真っ二つに割れた月とどどめ色をした泡と卵がしっかり映りこんでいるはずなのに、それを指摘するコメントはひとつもありません。
　それもそのはず。配信画面には、こんな注意書きが貼られていたのです！

【くうきよみ企画です。
　なにがなんでもお月様はきれいな満月なので、そのようにコメントしてください。
　いいですね？】

　普通は首を傾げられそうな注意書きですが、今回はメンバー限定配信。
　過去にも何度か『くうきよみ企画』につきあってくれているメンバーたちですから、これだけでわかってもらえるはず！
　真っ二つに割れた月がでかでかと映し出されると、ざーっとコメントが流れます。
『うわっ、でかい月！』
『すっげーキレイ！！』
『空半分覆う月って、早々見れねーぞ』
　流れるコメントは、いずれも頑張って「美しい満月」を褒めたたえるそれ。
　コメントに目を通しながら、コトトはメンバーたちに話しかけます。
「おつきみといえば、おだんご！」
『おー』
「ＵＤＣアースで出た狩りのゲームをあそんでいると、食べたくなっちゃいますね？」
　ということで……と、コトトはいそいそとバスケットを取り出しニッコリ。
「こんなこともあろうかと作って持って来ました！」
　バスケットの中から取り出したのは、ＵＤＣアースでよく見られる、真っ白の月見団子。
　他にも赤や緑の三色団子に、きびだんごなど、目にも鮮やかな色とりどりの団子が並べられ。
「よければ皆さんも、お好きなおかしやのみものを持ってきてください！」
　お茶を片手に団子をもぐもぐ食べ始めるコトトの顔は、心底嬉しそう。
　時折流れるコメントに目を通し、気心知れたメンバーたちと雑談しつつ、まったりもぐもぐするお団子はまた、格別だから！
　いつの間にか、流れるコメントに『お団子うめー』『ちょっと買ってくる！！』と食欲を刺激されたかのような内容が散見されるあたり、コトトに釣られてお団子を食べたくなるメンバーが増えているような？

「ここで見るお月さまは、なんだかすごく大きく見えてきれいですっ」
　配信画面に映し出される月は、相変わらず真っ二つに割れているけど。
　それでも、真っ二つに割れていなければ、美しい月であることには変わりなく。
「それに、ふつうより半年ほど早くお月見できるなんて、おトクですね！」
　視聴者に言い聞かせるように語り掛けるコトトに、画面向こうのメンバーたちがうんうんと頷いているようで。
『毎日でっかい月の下でお月見が出来る世界かーいいなー』
『あーゆっくり見てぇー、酒のみてぇー』
　メンバーたちもコトトとの会話を楽しむ最中、背後の月からはどどめ色のカタストロフの幼生が消え、割れた月も時間を巻き戻すかのようにくっついていきました。
　どうやら、お月見をしっとりまったり楽しんだことで、満月は元通りになったようです！

　コトトは、画面下部の注意書きを外しながら、ぺこりとメンバーたちに一礼。
「おつきさまが戻りました！　もうくうきよみしなくてもいいですよ！」
『わー！！』
『すげー！！　本当にきれい！！』
　取り戻された満月に喜ぶコメントを横目に、コトトはメンバーたちに呼びかけます！
「ではここからは、くうきよみをしなくていい、おつきみ企画をはじめますっ！
『おーーー！！』
　いつの間にか世界を超えたお月見会となった『ことなまっ☆』放送は、その後もしばらく続きました。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2021年05月16日