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大祓百鬼夜行⑧〜まぼろしの橋に雨が降る

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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#大祓百鬼夜行


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 幽世の何処か、小さな川にて。
 かけられた赤い橋の上に、黒髪の少女が佇んでいた。
 降りしきる雨から身を守るよう、握られた傘は延々と雨粒を弾いている。

 そんな雨の中、ふらりと姿を現したのは別の妖怪だ。
 妖怪は橋の向こうを見つめ、夢の中を歩くように進んでいく。
「ああ、ああ……本当に、あなたなの? もう会えないと思っていたのに」
「そうです。向こうにいるのはあなたの大切な人です。さあ、もう一度手を取りましょう」
 少女にも促され、妖怪は涙を浮かべながら橋を渡っていくだろう。
 それが――黄泉への旅路とは気づかぬままに。

 そして、妖怪を見送る少女の頬も雨粒が一つ流れていく。
 彼女の顔は笑っているのに、その雨粒はどこか涙のようだった。


「皆お疲れ様だよ。大祓百鬼夜行、まだまだ頑張っていこうね」
 猟兵達の姿を確認し、笑顔で説明を始めたのは花凪・陽(春告け狐・f11916)だった。
 彼女の言うように、今回も『大祓百鬼夜行』の案内なのだろう。
「向かって欲しいのはカクリヨファンタズムのとある川だよ。この世界の川にはね、時々『まぼろしの橋』がかかるんだ。その橋は渡った人を黄泉の世界へ送ってしまうらしくて……そこを、骸魂に取り憑かれた妖怪が占拠してしまったんだよ」
 まぼろしの橋を渡った者は妖怪だろうと人間だろうと、黄泉に送られ命を落とす。
 そんな橋を占拠した骸魂がいるというのなら――当然のごとく、悪用されてしまうだろう。
「骸魂はこの橋の性質を利用して、妖怪達をどんどん殺そうとするみたいなの。その性質っていうのも困りもので……『まぼろしの橋』に佇んでいるとね、死んだ想い人の幻影が見えるんだ」
 骸魂は『死んだあなたの大切な人が向こうで待っている』などの甘言を弄し、妖怪達を黄泉へと送っていくつもりだろう。
 このままでは何の罪もない妖怪が死んでいき――そして、骸魂に取り憑かれた妖怪も殺害の罪を背負う事になってしまう。
「今すぐ橋へ向かえば、誰も死なず、罪を背負わずに済むはずだから……皆ならきっと大丈夫だよね」
 そう言葉を紡ぐ陽の表情には、確かな信頼の色が滲んでいた。

「出現する敵の詳細も伝えておくね。今回予知出来たのは雨に願うモノ『翠雨』って相手みたい。竜神の女の子が、雨に関する妖怪の骸魂に取り憑かれた存在だね」
 竜神はまだまだ半人前ながら、前向きに誰かの役に立ちたいと願っていたのだという。
 彼女の降らす雨は優しい幻を見せ、人々の心を癒やす――はずだった。
「竜神の優しい性質は骸魂によって捻じ曲げられて、皆の足を止めてしまうものになってしまった。皆も橋の上にずっと佇んでしまえば、きっと黄泉に連れて行かれてしまうと思う」
 『翠雨』が見せる幻と、橋に佇む死んだ想い人の幻影。
 その両方が猟兵達の手を止めようとするだろう。それにどうにか打ち勝ち、戦いに勝たなければならない。
「橋自体もそんなに広くないから気をつけて。雨の影響で濡れてしまってもいると思うから、川に落ちないようにね」
 落ちてしまえば、きっと戻ってこれないから。
 陽は少しだけ険しい顔を浮かべ、猟兵達をじぃと見つめる。
「説明は以上だよ。気をつけて行ってきてね……そして、無事に帰ってきてね」


ささかまかまだ
 こんにちは、ささかまかまだです。
 雨の日は川の水位が怖いです。

●プレイングボーナス
 狭い橋の上でうまく戦う。

 戦場はカクリヨの川にかかる『まぼろしの橋』です。
 橋の上は狭く、また敵のUCにより濡れています。足元に注意しつつ戦いましょう。

 また、この橋に佇んでいると「死んだ想い人の幻影」を見ることがあります。
 敵のUCを含め、何かを見て何かを思いつつ戦うのもいいでしょう。
 純戦も歓迎ですのでよろしくお願いします。

●雨に願うモノ『翠雨』
 骸魂に取り憑かれた竜神の少女です。
 少女は半人前ながら精一杯頑張る優しい娘ですが、その性質は骸魂によって歪められています。
 彼女は幻によって人々の歩みを止め、そのまま黄泉へと誘うようになってしまいました。
 このままでは殺人の罪を背負ってしまうので、どうにか救ってあげて下さい。

 橋の幻や翠雨のUCで何かを見る場合はプレイングに記載して下さい。
 同行者以外の猟兵が再現される場合は、ぼかした描写にさせて頂くことがございます。ご了承下さい。


 オープニングが出た時点でプレイングを受付開始します。断章の追加はありません。

 シナリオの進行状況などに関しては戦争の詳細ページ、マスターページ等も適宜確認していただければと思います。
 また、プレイングの集まり次第で不採用が出てしまうかもしれません。ご了承下さい。

 それでは今回もよろしくお願いいたします。
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第1章 ボス戦 『雨に願うモノ『翠雨』』

POW   :    雨の記憶
【『誰かの大切な過去』を映す雨】を給仕している間、戦場にいる『誰かの大切な過去』を映す雨を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
SPD   :    雨の鏡
【『今とは違う可能性の今』を映す雨】を披露した指定の全対象に【この雨の中に居続けたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
WIZ   :    雨の夢
【『未来の夢』で優しく包む雨】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鈍・小太刀です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

純・あやめ
ねぇ、【カキツバタ】…この橋では大事な人の姿が見えるんだよね?
わたしの目の前に居る「これ」は誰なのかな?
『何が見えてるの?』
白い…いや、金色?…よく分からない。ぼやけて、欠けてて、人かどうかも分からない誰かがいる
『…あんたの記憶が壊れてるせいで幻影が不完全なのね。
なら、「それ」は無視して奥にいる敵を倒しなさい!』
(投げ手錠を投擲して敵を補足し、射程距離へと引き寄せる。
すれ違いざまに変幻自在刀を発動した警棒で斬ります)

痛いだろうけど、ごめんね
(壊れた幻影の方を振り返り)姿を思い出してあげられなくて、ごめんね
ごめんね…ダメなお姉ちゃんで
『?!あんた…』
うん、思い出した…わたし、義妹がいたんだね




 まぼろし橋では、『死んだ想い人の幻影』を見ることがあるらしい。
 その話を思い出しつつ、純・あやめ(砂塵の衛士・f26963)は橋の上で目を凝らす。
 奥に佇んでいるのは、今回の敵である竜神の少女『翠雨』だろう。彼女はただ雨を降らせているだけで、物理的な危害を加えてくるつもりはなさそうだ。
 それより気になるのは――目の前に見える、ぼんやりとした幻影だ。
「……ねぇ、【カキツバタ】。この橋では大事な人の姿が見えるんだよね?」
『ええ、そうみたいね』
 手にした黒のクイーンのピースに声をかければ、開祖の悪魔が言葉を返す。けれど彼女には幻が見えていないらしい。
「わたしの目の前に居る『これ』は誰なのかな?」
『何が見えてるの?』
「白い……いや、金色? ……よく分からない。ぼやけて、欠けてて、人かどうかも分からない誰かがいる」
 あやめの言葉に反応するように、幻の人物が揺らいだ。
 シルエットの大きさから、自分より小さな相手だというのは分かる。けれどそれ以上は何も分からない。
 一体、あれは誰なのだろう。

『……あんたの記憶が壊れてるせいで幻影が不完全なのね。なら、『それ』は無視して奥にいる敵を倒しなさい!』
「……分かったよ、【カキツバタ】。あの子には悪いけど、先に行かせてもらおう!」
 戦うことを決意すると同時に、あやめが取り出したのは投げ手錠だ。
 狙いを定めて投擲すれば、翠雨の腕にかしゃりと手錠が引っかかり、小柄な身体は引き寄せられるように宙を舞う。
「【アイリス】、絶対両断の力を貸して!」
 反対の手に握りしめた特殊警棒には悪魔の力を宿し、変幻自在刀へと変身させる。
 そして引き寄せた翠雨に刃を振るえば――彼女の身体は大きく飛ばされ、骸魂の気配が確かに弱まった。

 斬撃と衝撃が相まって、佇む幻にもヒビが入り始めている。あの子もきっと、もうすぐ消えてしまうだろう。
「痛いだろうけど、ごめんね……そっちの子も、姿を思い出してあげられなくて、ごめんね」
 倒れ伏した翠雨と消えかけの幻、その双方に頭を下げ、あやめは更に言葉を紡ぐ。
 けれど、次に溢れた言葉は――殆ど無意識だった。
「……ごめんね……ダメなお姉ちゃんで」
『?! あんた……』
 カキツバタが息を飲む音が聞こえる。うん、何が言いたいかは分かっているよ。
 無意識の向こう側に微かに見えたのは――愛しいあの子との思い出だったから。
「うん、思い出した……わたし、義妹がいたんだね」
 その呟きと共に、幻影はふっと夢のように消え去った。
 けれど――姉の言葉を受けてだろうか。最後にあの子が、優しく微笑んでいた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
これは…A&Wでの依頼の出来事ですね

滅びの本能に抗い、己の住む森を護るミノタウロスのオブリビオン
動物に慕われ、誇り高き彼と森を脅かす他のオブリビオンとの戦いで共闘できたことは騎士として誇らしく
猟兵として、彼と戦い倒さざるを得なかったことに己が無力を恨みました

A&Wの戦争が終わり、彼が愛した森の墓へ報告出来たことは嬉しかった
(単ピン:さて、なにから~)

このまま佇めば彼と再び…

いえ、彼に恥じること無き騎士である為には…

UC起動
雨を切り裂き突撃

転落せぬようセンサーでの情報収集と瞬間思考力で橋の地形情報読み取り見切って移動

貴女の優しさはそのような物では無いでしょう?
骸魂より解放させて頂きます

剣を一閃




 しとしとと降る雨の向こうに、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が目にしたのは美しい森の景色だった。
 あの光景には見覚えがある。A&W、『力の森』と呼ばれていた場所だ。
(私はここで、彼と共に戦い……そして、彼と戦いました)
 記憶を辿れば辿るほど、森の景色はより鮮明になっていく。
 ここで出会ったのはミノタウロスのオブリビオンだった。彼は滅びの本能に抗い、己の住む森を護っていたのだ。
 その性質が偽りではないと示すように、動物達も彼のことを慕っていた。
 そして――彼は、森を脅かすオブリビオンとも勇ましく戦っていた。
 トリテレイアもミノタウロスと共に敵と戦い、森を駆けたことを今も覚えている。
(あの戦いで共闘できたことは騎士として誇らしかったですね。そして……私は猟兵として、彼と戦い倒さざるを得なかった)
 猟兵とオブリビオンは、出会った以上は戦わなければならない。
 だからこそ、トリテレイアも騎士として彼と全力でぶつかって、勝って――そして、墓碑を建てたのだ。
 群竜大陸での戦いのあとに、その墓標へと足を運んだことも覚えている。久しぶりに彼と話せたのは、とても嬉しかった。
 このまま幻の中に佇んでいれば、再び彼と再会できるだろうか。
「……いえ、彼に恥じること無き騎士である為には……」
 きっと彼が望むのは、前を向いて戦う自分だ。彼が大切にしていた世界を護るためにも、猟兵は歩き続けなければならない。
 決意を示すように、トリテレイアは静かに儀式剣を構えた。

「……どうして? 雨の中にいれば、大切なものが見えたかもしれないのに」
 騎士が戦う姿勢を見せたことで、雨の少女は戸惑っているようだ。
 剣を振るって雨を切り裂きながら、トリテレイアは少女の元へと駆けていく。
「確かに幻とはいえ彼と再会出来るのならば、それは喜ばしいことです。ですが、それ以上に……彼の誇りに、私は報いたいのですよ」
 電子頭脳を全力で稼動させれば、白熱する駆動部は雨を蒸発させていく。
 白煙の中をトリテレイアは突き進み、そして剣を構え――。
「それに、貴女の優しさはそのような物では無いでしょう? 骸魂より解放させて頂きます」
 接近と同時に剣を一閃、その刃は強かに少女を打ち据え、邪悪な力を削っていく。
 その衝撃で雨の勢いが弱まれば、森の幻も溶けるように消え去った。
 微かに見える木々の奥、見えたのは――彼自身の幻か、或いは墓標の光景か。
 戦いが終われば、また会いに行こう。機械の騎士は、静かにそう決意した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パルピ・ペルポル
これはこれで救いとなる者もいるのでしょうね。
でも己の心を傷つけてまでやるものではないわ。

足元の心配はいらないわね。

今とは違うのなら冒険に出ず、人里離れたところで同族たちと暮らしているのでしょう。
皆で遊んでいる花畑の向こうに辛うじて人間男性とわかる程度の人影が見えて。何せ想い人と呼べそうな人はまだ死んでないから、あれは昔世話になった人だわ。
ふふ、やっぱり積み重ねてきた今が大事よね。そもそもわたしが一ヶ所に留まるとか無理だもの。
貴方が教えてくれたことは今も役に立っているわ。だから安心して眠っているとよいわ。

雨紡ぎの風糸で敵の動きを阻害して穢れを知らぬ薔薇の蕾で拘束して骸魂を吸出してやるわ。




 死した誰の幻に、雨が齎す優しい光景。
 確かにこれはこれで救いだと思う者もいるだろう。
 けれど、竜神の少女はそんなことを望んでいる訳ではない。
「だったら、己の心を傷つけてまでやるものではないわ」
 妖精の翅で橋の上空を飛びながら、パルピ・ペルポル(見た目詐欺が否定できない・f06499)は翠雨の姿を見た。
 彼女はパルピの言葉に首を傾げているようだ。
「でも、あなたもこういう光景を望んでいるんじゃないですか?」
 ざあ、と、雨が強まった。
 まるでカーテンのように降り注ぐ雨粒が、パルピの視界を奪っていく。

 目を覚まして見えたのは、人里離れた故郷の光景だった。
「ここは……」
「パルピ、何ぼーっとしてるの?」
「今年は花もたくさん咲いたんだ。遊びに行こう!」
 気がつくと同族達に囲まれて、彼ら彼女らが背中を押している。
 きっとこれはあり得た可能性の一つだろう。旅に出ないで、故郷で仲間達と楽しく暮らす、そんな可能性。
 連れてこられた花畑は確かに美しかった。ここでずーっと遊んで暮らすのも、悪くないかな……。
 そんなことを考えた瞬間だった。
「パルピ」
 花畑の向こう、誰かが自分を呼んでいる。懐かしい声色にパルピは思わず顔を上げ、そちらの方をじっと見つめた。
 そこに立っていたのは自分よりも大きな――人間の男性だ。
 想い人はまだ死んでいない。だったら、あそこに立っている彼は昔世話になった人物だろう。
「……久しぶりね。あなたのことを思い出したら、少し気分も変わったわ」
 積み重ねてきた今の大切さ。旅をすること。それ以外にも、たくさん。
 あの人から習ったことがあるからこそ、パルピは今世界を巡っているのだ。
「ふふ、そうよね。そもそもわたしが一ヶ所に留まるとか無理だもの」
 だから、わたしは大丈夫。これからも前に進めるから。
「だから安心して眠っているとよいわ」
 その言葉に男は消え去り、幻の景色も霧のように晴れていく。
 あとは――翠雨を救うだけだ。

 残った幻と雨を切り裂くように、パルピが振るったのは『雨紡ぎの風糸』だった。
 煌めく糸はあっという間に翠雨を捉え、妖精とは思えない怪力で彼女の身体を締め上げる。
「今終わらせてあげるわ。骸魂だけを吸い取って……!」
 身動きの取れない翠雨の元へ、パルピは一気に飛んでいく。
 その勢いを殺さぬように突き立てたのは『穢れを知らぬ薔薇の蕾』だ。
 伸びる茨は糸と共に翠雨を拘束し、棘は邪悪な力だけを吸い上げていく。
 白い薔薇は赤色に染まっていき、夜闇の中で誇り高く花開く。
 それはまるで、自由に世界を巡るパルピ自身の誇りを示しているかのようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
よぉJackpot……お前もようやく、骸の海から解き放たれて眠れたってのに…よく駆り出されるもんだ
なんだよ、ここに居て欲しいのか?
ったく…今回のターゲットも同じらしいな

違った可能性の今、か
皆生きてて、全部上手くいって…誰もが自由に、幸福に生きられる
そんな人生があったのなら、そりゃあ一番良いよ
だがなぁ、そうはならなかったんだよ
どんなに上手くいかなかったとしても、覆せないんだ
だからこの今を、精一杯全うしていかなきゃいけねえ

悪いなお嬢さん、そんでJackpot
この銃弾一発で、終いにする
全部停まって、静かに終わるだろうよ
まるで冬が訪れちまったみたいにさ
冬ってのは厳しいもんだが、眠るには静かでいいもんだ




 ざあざあと、雨が降る。
 その中に佇んでいるのは竜神の少女と、懐かしい友の姿。少女はこちらが動かない限り干渉するつもりはなさそうだ。
 そして少女も友も、きっとここに居て欲しいと願っている。それなら、暫く佇んでみようか。
「よぉJackpot……お前もようやく、眠れたってのに……よく駆り出されるもんだ」
 幻の友に向け、ヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)が浮かべていたのは柔らかく、けれど少し寂しげな笑みだった。

 雨はまだまだ降り止まない。水滴がスクリーンのように不思議な景色を映し出し、周囲の様子すらも変えていく。
「……そうか。これが違った可能性の今、か」
 橋の上に佇む友人の向こう側に見えたのは、嘗て暮らしていた場所だ。
 けれどその様子はヴィクティムの記憶と全く異なっている。
 大切な人もそうでない人も皆幸せそうに笑っていて、誰もが自由で。
 人として当たり前の権利を受け取って暮らしている、そんな光景。
 そこには友人も嘗ての仲間も穏やかに過ごすことが出来ていて、自分もきっとこの中に居続けることが出来て。

 けれどヴィクティムはこの光景が幻だと認識していた。
 似たような幻を見たこともあったが――あの時とはまた違う。
 それは、佇む友人の顔が穏やかだからだろうか。
「確かにこんな人生があったのなら、そりゃあ一番良いよ。だがなぁ、そうはならなかったんだよ」
 どんなに上手くいかなかったとしても、過去は覆せない。
 猟兵は、自分達は未来へと歩み続ける存在なのだから。
「だからこの今を、精一杯全うしていかなきゃいけねえ」
 どれだけの恥を晒しても、誰かの憎悪を受け止めてでも、先に進むと決めたのだから。
 そんなヴィクティムの言葉を受け――幻の友が、頷いた気がした。

 ヴィクティムは左腕を構え、少女と友の姿を見据えた。
 寂しい雨の時間は終わり。次は冬の訪れだ。
「悪いなお嬢さん、そんでJackpot。この銃弾一発で、終いにする」
 祈りと共に放った弾丸は、視認した存在を確実に撃ち抜く。
 齎すのは『停滞』と『鎮静』。
 全部停まって、静かに終わるのだ。
 撃たれた少女の身体からは邪悪な気配が薄れ、友は夢のように溶けていく。
 これで彼はもう一度眠れるのだろう。降り積もった雪の中に沈むように、ゆっくりと。
「冬ってのは厳しいもんだが、眠るには静かでいいもんだ」
 だから、おやすみ。
 別れの挨拶は、弱まった雨の中を確かに響いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

文月・統哉
「ルーク?」
雨の中に浮かぶのは
金の髪に穏やかな青の瞳
アルダワ学園の制服を着た14歳の少年
今は亡き親友の姿

蘇るのは
相棒と戦場に並び立つ懐かしい感覚
華奢な割に怪力で
迷宮探索でも凄く頼りにしてた
魔法学園の生徒なのに魔法はからっきしだったけどな

共に過ごした2年間は
俺の大切な宝物

人になりたかった優しい災魔
殺したくないから殺して欲しい
最後にそう願った君の
命を絶ったのは俺自身
今もまた、君は

「彼女を助けたいのかい?」

頷くルーク
伝わる優しさは昔と同じ
だからこそ、俺も

彼の想いと共に戦う
雨に紛れて念動力で足下に鋼糸伸ばし体勢崩させ
祈りの刃で邪心を…骸魂を斬る

頬を伝うのは温かな雨

会わせてくれて
ありがとう

※アドリブ歓迎




 雨の中を揺らめく後ろ姿に、文月・統哉(着ぐるみ探偵・f08510)は思わず目を見開く。
 金の髪に青い瞳、自分と同じ制服を着た、自分より少し幼い少年。
「……ルーク?」
 声をかけられ振り向いたのは、今は亡き統哉の親友だった。
 同時に雨が強まって、周囲の景色も揺らめいていく。見えたのは何度も足を運んだ魔法学校の迷宮だ。
「懐かしいな。何度も一緒に戦ったよな」
 相棒は華奢だけど怪力で、その戦いっぷりには何度も助けられた。魔法学校の生徒なのに魔法がからっきしだったのも、ある意味彼の個性だろう。
 一緒に並び立って戦うだけで力が湧いてくるようで、どんな迷宮だって突き進めた気がした。
「今だって覚えてる。ルークと一緒に過ごした2年間は、俺の大切な宝物だから」
 けれど、二人の冒険は永遠のものとはならなかった。
 何故ならルークは、災魔だったから。誰よりも優しい、人になりたかった災魔だったから。
「……だから、俺はルークの願いを叶えて、そして……」
 相棒は『誰も殺したくない』と願った。だから『殺して欲しい』と願った。
 その願いを受けて、君の命を、俺が絶った。
 けれど、目の前に見える親友の顔は嘗てと同じく優しいものだ。
 ああ、そうか。君は今も願っているんだ。
「彼女を……翠雨を助けたいのかい?」
 統哉の問いかけにルークが頷く。昔と同じ、優しい笑みを湛えたまま。
 それなら、その想いに応えるのが親友の役目だろう。

「ルーク、一緒にあの子を助けよう」
 親友の想いを受け止めつつ、統哉は雨の中を駆けていく。
 雨の向こうに佇む翠雨に向かって、ただ真っ直ぐに。
 足場が悪いのは相手も同じだ。先に身動きを封じればきっと大丈夫。
 雨の中に紛れ込ませるようにワイヤーを張り巡らせて、まずは翠雨の足元に。
 その衝撃で彼女が体勢を崩したのなら――大鎌『宵』を構えて飛び込むだけだ。
(ルークの分まで、沢山の人を救っていくから。冒険を続けていくから。だから――力を貸してくれ!)
 祈りを籠めて振るわれた輝く刃は翠雨の身体を貫くが、その刃が切り裂いたのは弱っていた骸魂だけだ。

 邪悪な力から解放された翠雨はぺたりとその場に座り込み、そして雨が止んでいく。
 最後に統哉の頬を掠めたのは、暖かな雨だった。
 その温度を感じつつ、統哉は翠雨へと手を差し出す。
「会わせてくれて、ありがとう」
「……そう言ってくれて、ありがとうございます」
 翠雨も統哉の手を取って、一緒に立ち上がった。
 ルークはそんな二人の様子を見守りつつ、夜闇の中に溶けるように消えていく。
 最後に向けられた笑みも、やっぱり昔と変わらなくて。
 きっとこれからも、あの優しい相棒の存在が統哉を突き動かしていくのだろう。

 気がつくと、雨は完全に止んでいたようだ。
 そして空には、月光虹が浮かんでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月16日


挿絵イラスト