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大祓百鬼夜行⑧〜いつかまた逢えたなら

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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#大祓百鬼夜行


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● 満月の下に架かる橋
 満月が見下ろす幻想的なすすき野と、すすき野を流れる一筋の川。
 その川の上に、一本の橋が現れた。美しい川の上に現れた美しい橋の上には、ぼんやりとした人影が現れては消えていく。
 この橋は黄泉との架け橋。橋の向こうは死者の国。
 本来ならば繋がることのない2つの世界を繋ぐ橋は、静かに、ただ静かに月に照らされて川のせせらぎを聞いている。
 この上に佇むと現れるのだ。死んだ想い人の幻影が。
 それが本当に想い人なのかは分からない。だが確かにそこに現れては、佇む人に語りかけてくる。
 ともすれば黄泉路へ連れ出そうとする幻影は、語り合うことで浄化される。
 ここには誰が現れるのか。何を語るのか。
 満月の光に照らされたまぼろしの橋は、ただ静かに佇む人を待ちわびていた。

● グリモアベースにて
「死んだ想い人の幻影が現れる橋があるそうだ。この橋を浄化するために、アンタ達の力を貸しておくれ」
 静かに語りかけたパラス・アテナは、グリモアに映し出された月とすすき野と川、そしてそこに架かる橋を見つめた。
 ここに架かる橋の上で佇めば、死んだ想い人の幻影が現れる。この上で夜が明けるまで静かに語らえば、橋は浄化され消えていくのだという。
 美しい橋の上に現れるのは誰なのか。どんなことを語り、そこから何を得るのか。
 全てはそこに立つ猟兵達の心を映し出すことだろう。
「ここに現れるのは、あくまでも死んだ想い人の幻影だ。死んだ本人じゃない。話をするのは大事だが、惹かれて黄泉路へ行かないようにね」
 静かに念を押したパラスは、カクリヨファンタズムへの道を開いた。


三ノ木咲紀
 オープニングを読んでくださいまして、ありがとうございます。
 今回は死んだ想い人と語らうしっとりとしたシナリオとなります。
 情景はオープニングの通り。
 思うまま語らってください。

 ご注意としましては。
 死んだ想い人の幻影と、語らいの内容についてはプレイングで指示をお願いします。
 ステシまでは確認しますが、それ以上は確認が難しくなります。
 死んだ想い人がどんな気持ちで、どんなことを言うのかを書いてくださると、アドリブで描写が増えたり増えなかったりします。
 それが分からない場合、ふわっとした描写になるかと思いますので、よろしくお願いします。
 認識違いを恐れずに丸投げしてくださる場合は、その旨をお書きください。
 想像力をたくましくさせていただきます。

 戦争シナリオですので、早めの完結を心がけますが平日は執筆時間が読めないのでギリギリまでお預かりする可能性があります。
 プレイングはすぐの受付開始。〆切はタグでご連絡します。
 なるべく全数採用させていただきますが、再送無しで執筆します。
 そのためありがたくも多数のご参加をちょうだいした場合、プレイングに問題が無くてもお返しする可能性がありますので、よろしくお願いします。
 先着順ではありません。

 それでは、良き語らいを。
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第1章 日常 『想い人と語らう』

POW   :    二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。

SPD   :    あの時伝えられなかった想いを言葉にする。

WIZ   :    言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

レパイア・グラスボトル
想い人:20台後半のレイダー
関係:発掘当時の家族。10年ほど前、レパイアが遠出できない時に頑張りすぎて死亡。レパイアに恋愛感情は無し。

なんでワタシはこんな仕事引き受けたのかね。
しかもオマエが出て来るなんてな。なんでだ?ほんとに。
もう少しマシなヤツでも良かったろうに、この倒錯ヤロウ。
あぁ、オマエが死んでからも皆、元気にやってるさ。
そっちはどうだ?

また会いたいなんて阿呆な事は考えるなよ。
生まれ変わりなんてできるなら、別の世界に行っちまえよ。

娘が迎えに来る。

あのオッサンは誰かって?
柄にもない事やってくたばったアホウだよ。
ほれ、手を振ってやりな。

彼が何かなんて伝える必要もない。
でも、縁は残り続ける。



● 途切れても残る縁
 すすき野に架かる橋の上に佇むレイダーの姿に、レパイア・グラスボトル(勝利期限切れアリス・f25718)は小さくため息をついた。その姿を見た瞬間に寄った眉間のシワを、指先でもみほぐしていると、こちらに気付いた人影が顔を上げて笑みを浮かべる。
「なんでワタシはこんな仕事引き受けたのかね。しかもオマエが出て来るなんてな。なんでだ? ほんとに」
『久しぶりに会えたのにご挨拶だなレパイア……って痛ぇってやめろ!』
 両手を広げて遺憾の意を表する、とぼけた男に蹴りを食らわせる。幻影でも痛いのかそれとも痛いフリをしているだけなのか。大げさに痛がる男のとぼけた顔には苦笑いしか出てきやしない。
 二十代後半のレイダーはレパイアの蹴りから姿勢を戻すと、橋の欄干にもたれて月を見上げた。月光に照らされた横顔を見たくなくて、レパイアもまた同じ姿勢で月を見上げる。
 あれは十年ほど前か。遠出できない時にオブリビオンが襲撃してきたことがあった。ろくに身動きの取れないレパイア達を守って、頑張りすぎて弁慶の立ち往生かました家族の一人。懐かしくはあるが何度見ても、どこをどうひっくり返しても恋愛感情は湧いてこない。
「もう少しマシなヤツでも良かったろうに、この倒錯ヤロウ」
『倒錯ヤロウは酷いなレパイア。……皆は元気か?』
「あぁ、オマエが死んでからも皆、元気にやってるさ。そっちはどうだ?」
『こっちは相変わらずだよ。だがなにせ手狭でな。あんまり大挙して来るなって言っといてくれ』
「あぁ。お前がいる場所にはやらせないよもったいない。少なくともワタシの目の前にいる連中は、アンタのいる場所なんかに送ってやるもんか」
 憎まれ口を叩くレパイアに、青年は楽しげな声で笑う。久しぶりに聞く笑い声が収まってみれば、すぐに沈黙が横たわる。すすき野を抜ける風を感じながら、隣に立つ青年の気配に口を開く。
「……また会いたいなんて阿呆な事は考えるなよ。生まれ変わりなんてできるなら、別の世界に行っちまえよ」
『そうだな……』
「レパイア」
 呼ぶ声に顔を上げる。此岸の方から歩み寄ってきた金髪碧眼の少女は、レパイアに歩み寄ると男の姿に怪訝そうな顔をした。
「レパイア。迎えに来たわ。……その人は?」
「あのオッサン? 柄にもない事やってくたばったアホウだよ。ほれ、手を振ってやりな」
『オッサンじゃないお兄さんだ』
 眉を顰めるレイダーに、迎えに来た少女はおずおずと手を振る。手を振り返した青年は、こちらに背中を向けると振った手を振り上げた。
『じゃあなレパイア。その子もお前も、まだこっちに来るんじゃないぞ』
「誰に言ってる?」
「ねえ。あの人は? レパイアの知り合い?」
 立ち去る背中から視線を離さない少女に、レパイアは首を縦に振る。彼が何かなんて伝える必要もない。でも、縁は残り続ける。
「あぁ。昔の知り合いさ。ーーさて、帰るか」
 欄干から身体を起こしたレパイアは、此岸へ向けて歩みだす。
 昔したように手を振り上げ挨拶を交わした背中を、振り返ることはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
エリノア……わたくしの御付きのメイド
記憶の中の貴方は17歳の姿

小さい頃はよく遊んでもらったわ
歌に絵本に人形遊び、花かんむり
とても楽しかった

でもある日突然、貴方はいなくなってしまった
周囲からは「遠い場所へ『嫁入り』した」と聞かされていたけれど

本当は吸血鬼に目を付けられ
「花嫁」とは名ばかりの隷属を強いられる悲惨な末路だったと知ったのは
随分と後のことだった

逢いたかった
ちゃんとお別れの挨拶を言いたかった
貴方がの悲しみを慰め癒したかった

そして何より伝えたい言葉
「ありがとう」

ああ、貴方はあの日のように微笑んで
「泣かないで」と頭を撫でてくれるのね

たとえ時は戻せなくても
貴方の優しさはこの胸に

※アドリブ歓迎



● あなたに伝える「ありがとう」
 まぼろしの橋に立ったヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は、メイド服姿の少女の姿に目を見開いた。
「エリノア……」
『お久しぶりですお嬢様。お元気でしたか?』
 にっこり微笑む姿は十七歳のままで。年上の優しいお姉さんだと思っていたのに、いつの間にかヘルガの方が年上になってしまっていた。それでもエリノアは優しいお姉さんで、ヘルガのお付きのメイドで、大事な家族の一員で。
「ええ。わたくしは元気よ」
 辛うじてそれだけ伝えるけれど、それ以上の言葉が出てこない。
 小さい頃はよく遊んでもらったのだ。歌に絵本に人形遊び、花かんむり。ダークセイヴァーはとても闇深い世界だけれど、記憶にある屋敷の中庭はいつも輝いていて。とても楽しかった。
 思い出の中のエリノアの笑顔が歪む。夜寝る前に絵本を読んでもらって、「続きはまた明日にしましょう」って言って眠りについて。
 朝起きたら、エリノアの姿はどこにもなくて。絵本の続きはまだ読めないまま。
「……突然、だったわよね。貴方はいなくなってしまったわ。周囲からは「遠い場所へ『嫁入り』した」と聞かされていたけれど……」
『お嬢様……』
「本当はヴァンパイアに目を付けられたのはわたくし。わたくしの代わりに花嫁になったって……!」
 あふれる涙に、ヘルガは顔を手で覆う。エリノアは「花嫁」とは名ばかりの隷属を強いられる悲惨な末路を辿ったと知ったのは、随分と後のこと。それでも残された手記には、残酷な扱いを受けながらもヘルガの身を案じる言葉が残されていて。
「逢いたかったの。ちゃんとお別れの挨拶を言いたかった。貴方の悲しみを慰め癒したかった。なのに……!」
 涙は止めどなく溢れ、嗚咽混じりの言葉は途切れ途切れでうまく伝えられたかどうか。子供のようにただ泣きじゃくるヘルガは、ふいに感じる優しい温もりに顔を上げた。
 幼いヘルガをこうして抱きしめてくれた。あの時と同じ温もりは変わらず包み込んでくれて、その優しさにまた涙が溢れ出す。
『泣かないでくださいお嬢様。奴隷だった私を、お嬢様とご家族は救ってくださったのです。その恩をお返ししただけ。私はどの道、奴隷として同じ末路を辿ったのです』
「でも……!」
 涙に濡れた頬を、温かい指が拭う。戸惑うヘルガを、再び優しく抱きしめて頭を撫でてくれる。
『笑ってくださいお嬢様。お嬢様が笑うと、私も笑えるのです』
「……ええ!」
 涙を収め、笑顔を咲かせる。泣き笑いのヘルガに、エリノアもまた笑顔になって。額を寄せ合いクスクスと笑ったヘルガは、何より伝えたい言葉をエリノアに伝えた。
「ありがとうエリノア。大好きよ」
『こちらこそ。素敵なレディになりましたね、お嬢様』
 微笑んだエリノアの姿がゆっくり消える。彼岸へと戻った姿に手を伸ばしたヘルガは、涙を拭くと立ち上がった。
 たとえ時は戻せなくても、エリノアの優しさはこの胸にある。
 彼岸に目を細めたヘルガは、小さく手を振ると此岸へと戻っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿村・トーゴ
SPD
(過去に殺めた幼友達で初恋の少女に笑いかけ)
んーこれは良い雰囲気
そー思わないミサキ?
『変なとこ夢見がちね相変わらず
これきっと三途の川よ?

そそ。でなきゃ会えねーし?
『なんかアンタだけ少し老けて癪ね

大人になったと言って欲しーな
『私も生きてりゃ同じ歳よ
さっさと所帯持って子供あやしてたかも?』
気が早いねぇ
ま、エンパイアは早婚なとこあるしな

久々の再会に近況を話す様に
思い出より辿れなかった未来の話を
子供は人間?羅刹かな?とか
喧嘩では絶対オレが負けるとか
口喧しく勝ち気なミサキとあんまり色気の無い会話

でも好きだったよミサキ
『…
初耳…』
だよな
『…じゃトーゴ
生き延びてよ?私の分も』
うん、なるべくね

アドリブ可



● 月夜の告白
 美しい満月は金色の光ですすき野を染め上げ、風に揺れる穂先は波のように輝いている。金のすすき野を流れる川面は静かで、鏡面のように月を、すすき野を照らし出している。
 風に吹かれながら美しい景色を見渡した鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は、目を細め深呼吸すると隣の少女に笑いかけた。
「んーこれは良い雰囲気。そー思わないミサキ?」
『変なとこ夢見がちね相変わらず。これきっと三途の川よ?』
「そそ。でなきゃ会えねーし?」
 呆れたように肩を竦めるミサキに軽口で返す。トーゴが殺めて会えなくなってもう随分時間が経つのに、まるで昨日別れたかのように軽やかに会話が弾む。
 吹き抜ける風に目を細めて、なびく髪に手を添える姿は最後に会った時と変わってなくて。あまり変わらなかったはずの身長は、今はトーゴの方が随分高い。ミサキの姿は今も昔も変わらなくて、変わったのはトーゴの方で。
 そんな変化に気付いたのか、上目遣いに見上げる視線に不満を乗せたミサキは、不服そうに頬を膨らませた。
『なんかアンタだけ少し老けて癪ね』
「大人になったと言って欲しーな」
『私も生きてりゃ同じ歳よ。さっさと所帯持って子供あやしてたかも?』
「気が早いねぇ」
『早くないわよ。隣の家の姉さまだって、アンタと同い年でお嫁入りしたんだから』
「ま、エンパイアは早婚なとこあるしな」
 腕を組んでうんうん頷くトーゴの腕を、ミサキの肘が軽く小突く。不満を伝えるミサキの仕草に、トーゴは欄干にもたれると近況を話すように言った。
「それで、子供は人間? 羅刹かな?」
『どっちもよ。上の子は人間で下の子は羅刹ねきっと』
「えー上の子が羅刹だって」
『どっちでもいいわよ。元気で仲良しだったら』
「仲良しかあ。向かいの太郎ちゃんと次郎ちゃんは喧嘩ばっかりしてたけどな」
『あれはあれで仲良しじゃない』
「まあ確かに。俺達も喧嘩するんだろうなぁ」
『もちろん』
「そういえば俺、ミサキに勝ったことってあんまねえよな。口喧嘩じゃ絶対オレが負けるし勘弁」
『最後は負けてくれてたくせによく言うわ』
「でも好きだったよミサキ」
『そんなの……』
 不意打ちに告げる言葉に、ミサキは口を開く。トーゴの言葉の意味を理解したミサキは、口をハクハクさせると頬を赤く染めて顔を伏せた。そんな自分を恥じるようにトーゴから視線を逸らすと、月の映った水面を見つめた。
『……初耳……』
「だよな」
 欄干に背中を預けたトーゴは、からりとした笑い声を上げる。俯いたミサキは小さく唇を動かすと、誰にも聞こえないくらいの小さな声で返事を返す。トーゴの返事を待たずに顔を上げたミサキは、橋の真ん中に立つと振り返った。
『……じゃトーゴ。生き延びてよ? 私の分も』
「うん、なるべくね」
 手を振ったミサキは、振り返らずに彼岸へと立ち去る。闇の中に消えた背中に手を振り返したトーゴは、吹き抜ける風に月を見上げると彼岸へと戻っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
アドリブ歓迎
成功数過多なら却下可

黄泉と現実の境界線、か
なぜかふらり、と足が向いてしまったけど

ここに来ても両親や妹とは会えない
両親の魂は黒剣の中だし
妹はおそらく…吸血鬼化しているから

だが、橋上に現れた人影を見て目を見張る
なぜならそれは…俺が想いを寄せていた同い年の女の子だから
…故郷が壊滅した時に命を落としたはずなのに
※実際、吸血鬼化せず死んでいます

故郷を滅ぼした吸血鬼を全て討ったことを話せば
彼女は俺に「こっちにおいでよ」と手招きしてくるけど
首を振って拒否

…ごめん
妹…加耶が見つかっていないし
彼女たち(黒剣の中の魂)と共に在ると誓っている

復讐の鬼は、君には似合わない
だから、ここでお別れだ
…ごめんな



● 思いがけない再会
 ふらりとすすき野を訪れた館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)は、美しいアーチを描く橋の姿に目を細めた。
「黄泉と現実の境界線、か。何故か足が向いてしまったけど」
 ここに来ても、両親や妹とは会えないことは分かっていた。両親の魂は黒剣の中だし、妹はおそらく吸血鬼と化している。きっと誰にも会えはしない。分かっている。だが敬輔は橋のたもとに立つと、まぼろしの橋に足を踏み入れた。
 橋の真ん中まで行って戻ろう。そう思い歩みを進めた敬輔は、橋の真ん中に立つ少女の姿に目を見張った。
「きみは……」
『久しぶりだね敬輔くん。元気だったかな?』
 いたずらっ子のような笑みを浮かべた少女が、立ちすくむ敬輔を覗き込むように身体を傾げる。綺麗な黒髪がさらりと流れ、月明かりを受けて縁が淡い金色に輝いて。
 記憶の中と寸分変わらぬ姿をした少女は、驚きに言葉が出ない敬輔に不満そうに頬を膨らませると敬輔の目をじっと見つめた。
『げ・ん・き・だ・っ・た・か・な?』
「あ、ああ……」
『そう。なら良かった』
 さっきまでの膨れ面はどこへやら。笑顔を浮かべた少女は敬輔から視線を外すと、くるりと背中を向けた。
 彼女は、敬輔が想いを寄せていた同い年の少女だった。優しい心根はそのままに、蛹が羽化するようにどんどん美しくなっていく少女は、敬輔の故郷が壊滅した時に命を落としたのだ。彼女の亡骸を敬輔が埋葬したのだから間違いない。
 あれから時は流れ、敬輔は時を重ねた。背も伸び体も大きくなったが、少女は記憶と変わらないままで。それが、彼女は既に死者であると如実に物語っていて。
 何も言えずに立ちすくむ敬輔を振り返った少女は、変わらない笑顔を敬輔に向けると再び見上げた。
『大きくなったね、敬輔くん。見違えちゃったよ』
「あ、ああ。あれから色々あったからな」
『色々って?』
 首を傾げる少女に、これまであったことをかいつまんで話した。
 死んだ皆を埋葬したこと。吸血鬼化した皆を解放したこと。
 故郷を滅ぼした吸血鬼を全て討ったことを話した敬輔に、少女は微笑み手を差し出した。
『そっか。皆の仇、討ってくれたんだ。ありがとう。それじゃあもう悔いはないよね』
「え?」
 少女の仕草は敬輔を遊びに誘う時と同じだった。境界線の彼岸側に立った少女は、敬輔に手を伸ばすとその手を取った。
『行こう。敬輔くん』
 彼岸へ誘う手の温かさに静かに首を振る。この温もりはまやかしだ。そうあってほしいと願う心を映したものに過ぎない。敬輔は手を振りほどき、黒剣の柄を軽く叩いて別れを告げた。
「……ごめん。加耶が見つかっていないし、彼女たち(黒剣の中の魂)と共に在ると誓っている。だから」
『そっか。じゃあしょうがないね。またいつかだね、敬輔くん』
「ああ」
 寂しそうに手を握った少女は、敬輔に背中を見せるとそのまま駆け出した。遠ざかる背中に目を細めて別れを告げる。
(「復讐の鬼は、君には似合わない。だから、ここでお別れだ」)
「……ごめんな」
 ぽつり呟いた敬輔の声は、風に乗りすすき野を流れて消えていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

怨燃・羅鬼
くふふ☆らきちゃんは陰摩羅鬼、死んだ人の陰の気より生まれた妖怪☆
つまり親も親戚も大切な人なんて居ないのだぁ!


くふふふ☆じゃあ、橋の上の立つ貴方はだぁれ?
アイドルを夢見て男の人に殺された羅鬼ちゃん?
妻や子と一緒に自身が裁いた人に殺された羅鬼ちゃん?
それとも…それとも…それとも…

くふふ☆誰だろうとらきちゃん☆はらきちゃん☆
一緒に歌って踊って語り合おう!

貴方の恨みも辛みも全部羅鬼のもの
気が済むまで愉しく愉しく嗤って騒いで
気が済んだらあっちへばいばい!

いつか全部の羅鬼ちゃんの気が晴れるまで…
それじゃあばいばい!また羅鬼ちゃんにならないようにネ!


丸投げ



● いつか羅鬼がいなくなる日まで
 彼岸と此岸の境に立った怨燃・羅鬼(怒りの心を火に焚べろ・f29417)は、橋の上で彼岸を見渡すと軽やかにくるりと回った。
「くふふ☆らきちゃんは陰摩羅鬼、死んだ人の陰の気より生まれた妖怪☆つまり親も親戚も大切な人なんて居ないのだぁ!」
 陰の気を微塵も感じさせない笑顔でくるりと一回り。舞台上でダンスするように舞った羅鬼は、ひっそりと立つ女性の姿に手にしたマイクを向けた。
「くふふふ☆じゃあ、橋の上の立つ貴方はだぁれ?」
 ウインクする羅鬼の周囲が、ぐにゃりと歪む。次の瞬間、周囲はコンサート会場に変わっていた。
 満員のお客様が、羅鬼のパフォーマンスに大歓声を上げる。まばゆいスポットライトを浴びながら手を振ると、舞台上手から一人の少女が駆け出した。
 少女は心臓から包丁の柄を出したまま羅鬼に救いを求めるように飛びかかってくる。アイドル衣装に身を包んだカワイイ系の少女の手を取り一緒にくるり。ステップ踏んでマイクでセッション。大歓声に包まれた少女は、本来の姿を取り戻すと煙のように消えていった。
「アイドルを夢見て男の人に殺された羅鬼ちゃん? それとも……」
 羅鬼の声に、再び世界が歪む。
 そこは裁判所だった。法廷に立った被告の男に、裁判官が判決を読み上げる。何事かわめいた被告の男が、自宅でくつろぐ裁判官とその家族に銃口を向けた。
 発砲される直前にステップを踏んだ羅鬼は、被告の男の銃を取り上げると裁判官にウインクした。
「妻や子と一緒に自身が裁いた人に殺された羅鬼ちゃん? それとも……」
 その後も、羅鬼の舞台は続いていった。次々と現れる非業の死を遂げた人々が、救いを求めるように羅鬼の前に躍り出ては、死者の怨みを晴らしていった。

 それとも……。それとも……。それとも……。

 どれだけ死の要因を取り上げても、どれだけ願いを叶えても、尽きること無く怨霊は生まれてくる。踊り続ける羅鬼は、やがて高揚に身を任せるとマイクを手に歌い出した。
「くふふ☆誰だろうとらきちゃん☆はらきちゃん☆一緒に歌って踊って語り合おう!」
 彼岸から一斉に躍り出た怨霊達が、ライブ会場の観客となる。華やかな舞台衣装に身を包んだ羅鬼は、否応なしに跳ね上がる会場のボルテージを一身に受けるとマイクに想いを乗せて歌った。

 貴方の恨みも辛みも全部羅鬼のもの
 気が済むまで愉しく愉しく嗤って騒いで
 気が済んだらあっちへばいばい!
 いつか全部の羅鬼ちゃんの気が晴れるまで

 歌い続け、踊り続けた羅鬼は、大歓声の中で満足して消えていく怨霊達の姿になおも歌を届け続ける。
 最後の怨霊が消え去った時、羅鬼は差し込んでくるまばゆい光に目を細めた。
 夜が明ける。この宴が終わりを告げる。だんだん消えていくまぼろしの橋から飛び降りた羅鬼は、向こう側で手を振る人々の姿に笑顔を向けた。
「それじゃあばいばい! また羅鬼ちゃんにならないようにネ!」
 魅了の笑みを浮かべた羅鬼に、真新しい太陽の光が降り注ぐ。スポットライトのような光を浴びて手を振った時、まぼろしの橋は浄化され消えていった。
 拍手のような音を立てるすすきの音を受け取った羅鬼は、此岸に背中を向けるとグリモアベースに帰還した。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月15日


挿絵イラスト