【旅団】Aim Battle Royale
『これは旅団シナリオです。旅団「Aim」の団員だけが採用される、EXPとWPが貰えない超ショートシナリオです』
●前置きは抜きにして
「よう、お前ら。挨拶だのなんだのは無しでいこうか。今日皆にやってもらうのは、バトルロイヤルだ。もちろん、最後の一人になるまでやってもらうからよろしくな」
正純が口を開き、今回のバトルロイヤルについての説明を行っていく。
その中で君たちが耳を傾けるべきことは、おおよそ三つほどのこと。
一、これから君たちが戦うことになる戦場は、キマイラフューチャーの超高性能VR世界による『第二の現実』によって生み出された仮想の戦場であること。
つまり、ここならばいくら戦ったところで現実世界の君たちには何の影響も及ぼさないということだ。痛覚も大幅に遮断しているため、神経系への影響も言わずもがなである。
一、勝負は最後の一人になるまで続く。そのため、自分以外の選手が残り一人になるまで隠れ続けるなどの露骨な遅延行為は、円滑な試合運びのために禁止とさせていただく。
その他、試合が始まる前から口裏を合わせてチーム戦に持ち込んだり――といった、いわゆる番外戦術は無効とさせてもらう。これはソロでの戦いであるということだ。
一、『それ以外なら全てあり』。
目突き、金的、足緘、武器の使用、銃器の使用、兵器の使用、魔法の使用、攪乱、逃走、フィールドの破壊にその他全てのアンフェアな行為の全てが勝利のために許容される。
「今回のシチュエーションは、リアルな市街戦だ。UDCアースの街並みなんかを想像してくれればいい。他になんか言うことあったか?」
その他は特にない。
好く楽しみ、好く戦い、好く勝ち、好く負けると良い。結果がどうあれ泣かないように。
「行ってきな。皆の健闘を祈ってるぜ」
バトルロイヤル、開始。
ボンジュール太郎
お久しぶりです、ボンジュール太郎です。
企画成立に感謝いたします。遊びは全力でやった方が面白いと思われます。
全力で、あさましく、手段を選ばず、血を流して、泥を掴んで、手を汚しての勝利を目指してください。
以下は補足です。
・戦場詳細
【市街戦】
今回の戦場はUDCアースをモチーフとした市街です。
いわゆる現代日本の東京における住宅街を想像して頂ければ幸いです。
あたりには一軒家・マンション・アパート・各種商店やショッピングモール等などが雑多に立ち並んでおり、基本的に道は狭く、入り組んでいます。遭遇戦がメインとなるでしょう。
北側は学校エリア。
中高一貫型のマンモス校が存在し、比較的周りの住宅や道が整備されている関係上、見通しも悪くありません。
学校内への侵入も可能ですので、各種設備を利用して立ち回ってみるのも面白いかもしれません。
南側は商店街エリア。
大きく曲がりくねった商店街を中心にして、各種商店や一軒家が雑多に立ち並んでいます。
路地裏や障害物なども非常に多く、潜伏や待ち伏せなどに向いた地形と言えるでしょう。
戦場の中央には、南北に伸びた高速道路と大型道路が戦場を二分割するように存在しております。
高速移動には適しておりますが、見通しが良いため隠れての移動は難しいでしょう。
挟み撃ちに合う可能性もありますが、人を待ち受けるにはもってこいの地形です。
車の往来はありません。
シナリオボーナスは以下の二点です。
1. 「【旅団シナリオ】バトルロイヤル-No.●●」と題したスレッドで話していただいた、【得意なこと】と同様の行動を、プレイング内でも行うこと。
2. 自分以外の参加者に対する、【得意なこと】についてのカウンタープレイングを行うこと。
上記どちらにおきましても、
・記載が詳細である
・見事にシナリオ内の状況と合致している
という観点からボーナスを付けさせていただきます。
第1章 冒険
『ライブ!ライブ!ライブ!』
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POW : 肉体美、パワフルさを駆使したパフォーマンス!
SPD : 器用さ、テクニカルさを駆使したパフォーマンス!
WIZ : 知的さ、インテリジェンスを駆使したパフォーマンス!
👑1
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
マルガリタ・トンプソン
ウィッグを被り“リコッタ”を演じ
UCで呼んだ別人格であり、本体は別にいると誤認させる
囮らしく、Kriemhildだけ持ってこれ見よがしに商店街をお散歩するね
こっち側に来るの、素直に真正面から殴ってこないタイプの人でしょ
俺は索敵って得意じゃないし、それなら自分が餌になるよ
吊られて出てきてくれるなら出会い頭に弾丸をお見舞いしてやるし
本体を探そうとするなら索敵のための道具やUCを飛ばすだろうから
そいつを手掛かりに本人を探しに行く
戦闘は基本的に建物や遮蔽物に隠れての銃撃戦
攻撃を回避しきれないと判断したらMariaに化け
隠れてから一旦逃走するか、近付いてくるなら変身を解いてナイフでの接近戦に持ち込むよ
水衛・巽
さて
主催者殿のお望み通り、全力で、泥臭い闘争と洒落込みます
南から中央へ至るルート上
道路はもちろんドアや配管等からも迷宮を繋ぎます
出入り口や交差へは結界術を張り
破られれば分かるように
道幅は人間サイズに
通行せずには行き来できないよう出入り口を設定したうえで
南と中央の中間あたり、見えにくい位置に隠れる
ここで通行者を各個撃破といきますか
暗がりから身体能力を限界突破させ接近、
高速詠唱での結界術で拘束
かつ判断能力はリミッター解除した呪詛で奪い
頸部や頭部等の急所を狙いましょう
個の能力では他に劣りますし
脇差での暗殺を図ったところで
非難される謂れはないはず
逃げられたら深追いはせず
他の参加者を倒して戻るまで待機
虻須・志郎
南に布陣し同士討ちを誘う
戦闘距離を考えれば迂闊に飛び込むのは愚策だ
内蔵無限紡績兵装で糸人形を裁縫し
展開した眷属で動かして挑発と攪乱を行う
その隙に眷属を哨戒させ目立たない場所に隠れる
工事現場とかあればヨシ
可能ならインセインで戦場にあるカメラをハッキングし
マッドネスで状況をモニタリングしつつ
放った眷属で周辺に毒とマヒの罠の巣を作るぜ
相手の位置が分かれば僥倖
眷属で人形を操作して猟兵を誘導しかち合わせる
俺が苦手な鉄砲使い同士なんか丁度いい
見つかればヴェナトリアを召喚し脱出
後は張った巣を使い生身でロープワークの空中戦
立体的に動いて相手を巣に捕縛して
死角から捨て身で殴って生命力吸収
倒れるまで殴り合いだッ!
ティオレンシア・シーディア
あたしは南側からスタートするわぁ。
まずはエオロー(結界)で〇オーラ防御を展開、最低限の対処して、と。
…こういう地形だと、領域を広げるように進撃するのが定石だけど。あたしの地力は下のほう、「だからこそ」の逆張り速攻。アンサズ(情報)・カノ(叡智)・ラド(探索)で索敵能力を向上、ミッドナイトレースで○騎乗突撃かけるわぁ。
発見次第●鏖殺・狂踊の乱れ射ち。銃弾の通るラインを空間的に〇見切って、徹底的に〇地形の利用した跳弾で三次元飽和射撃を叩き込むわよぉ。最悪バイクは質量弾ねぇ。
当然弾丸には魔術文字、各種付属効果の大盤振る舞いよぉ?
…わざと〇弾幕に穴を作れば、誘導も〇カウンターもしやすいわよねぇ?
ディール・コルメ
アドリブ歓迎
宣言通り、まずは中央で待機
この場所なら見通しが良いし
隠れる場所なんざ少ないだろうからねぇ
万が一、誰も居なけりゃ……乱戦上等で南側に移動
さて、派手に戦り合うとしようじゃないか!
改造戦車『キュー』に乗って
近付く影に注意を払い、気配を感じれば周囲に【制圧射撃】【砲撃】
目に見える障害物を破壊して
周りの奴が小細工を弄する為の場所を潰してやる
それでも近付いてくんなら
『手術用メス』を戦車の手に握らせて急速接近
少しの間、戦車を操作して応戦
折見て、上から叩き潰す様に操作した後
直ぐに戦車から降りて、アタシ自身の拳を叩き付ける
ステゴロ大歓迎って言ったろ?
さぁ――歯ァ食いしばってもらおうかァ!
<UC発動>
レッテ・メルヴェイユ
南側エリアで潜伏をします。
ガジェットは目立つので使う時は建物の中で使いますね。
接近戦の得意な方が多いとみました。
建物を壁にして戦えるように戦闘は複雑な道を選びましょう。
物音がしたらまずは一旦隠れます。
出て来たところを狙われないように先にガジェットを向かわせます。
あとは不意打ちを食らった時のために破壊された瓦礫やそこにある道具なども使いたいです。
攻撃手段はガジェットですが鞄に入った手紙を取り出して
式神を呼び出すふりをします。
式神の攻撃と思わせるために手紙を投げて、ガジェットで風を起こしたりもしたいです。
すでに戦いの始まっている所に遭遇をしたら傷の浅い方を狙います。
バルディート・ラーガ
さアて。対猟兵戦とくらア、いつにも増して気合を入れにゃなるめエ。
滅多に無エ機会です、お勉強さして頂きやしょ。ヒヒヒ!
位置取りはまず南側より開始、物陰を伝いながら次第に北へ。
南に待ち伏せ狙いのお方があらば、逆に看破して燃やしに参りやす。
蛇の「第六感」熱視覚がどこまで通用するかしらン?
サイボーグや戦車のセンサにゃ及ばずとも、侮るなかれですよう。
奥の手はシーフの十八番、【掏摸の大一番】。
折角のバトロワです、対象Aから盗ッたワザを対象Bへ
なンつービックリ箱のよな戦法もアリじゃアねエかしら?
お相手の手札次第、一切合切アドリブ任せなのが難点ですが。
こら追い詰められての咄嗟の閃きに期待するっきゃねエぜ。
シャオロン・リー
呵呵ッ、ほな暴れ倒させてもらおか!
場所は中央
金磚で翼生やして、上空で堂々と待たせてもらおうやん
さて、誰が来んのやろな?
誰が来ようと先ずは空から槍の一斉発射、お見舞いしたるわ
乗物、あとはもうひとりの自分とか?そーいうんは真っ先に狙って潰しといたらななぁ、潰れるどうかは知らんけど
このまま上空から槍降らせるだけ?そんな野暮なことせぇへんわ、二槍で直接ぶっ潰しに行く!せやないと暴れた気ぃも半減や
俺の炎の馴染む閃龍牙に自動で高速連続突き出来る爆龍爪で、炎属性の貫通攻撃で蹂躙したろうやん
相手の攻撃は空に逃れるか、花狐貂巨大化させて隠れるか
出来なそうなら継戦能力に任せて耐える
勝っても負けても「暴れ足らん!」
ジン・エラー
市街地の中央、道路のド真ン中で敵を待つ
ま、とりあえず出会ったヤツから戦うとすっかァ~~~
痛覚がほとんどねェ~~~ってこたァ~~よ、どンだけエグいことしてもイ~~ィンだよなァ~~~~ウッヒャラハハ!!!
横槍や乱戦は考えないものとし、目の前の敵に集中
銃器等の遠隔攻撃に対しては【救済箱】を盾に防御。合わせてUCによる防御強化で距離を詰めて近距離戦に持ち込む
人間非人間問わず足を中心に関節を狙う。【救済箱】から取り出した鎖や拘束具での拘束。また、箱に鎖を繋いで飛び道具としての活用も
上空から攻めたい時は信号機や街灯を使っての跳躍
適宜UCによる肉体強化を切り替えて対応。光量の調整で目潰しも狙う
●笑い絶えぬは人故に
これは真剣勝負のお遊びだ。命を傷つけない、安心安全なお祭りだ。
どう戦うかは問題ではない。ここにあるのはどう勝つかだけ。涙も怒りも必要ない喜劇は、三者三様の笑い声から始まった。
「アッハッハッハッハッハ!」
「呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵ッ!」
「イギャァ~~~~バハハ!」
槍が踊り、弾が舞い、拳がうずいた。
血は出るが、痛みはない。骨は軋み、肉が捥げたとしても、痛みはそこに介在していない。
失血による意識の混濁はあっても、不能の心配はない。銃火も鉄刃もあるけれど、しかして死の恐れはない。
――ああ、楽しい。ここには高揚と悦楽だけがある。強者との闘い、あるいは全力を賭しての自分という存在のぶつけ合いは、やはり心の底から笑えるほど面白い。
正々堂々も非道無常も、この場においては全くの同価値でしかない。ここは過程と手段の正しさや泥臭さを論じる場所ではない。
「さて、派手に戦り合うとしようじゃないか!」
「呵呵ッ、ほな暴れ倒させてもらおか!」
「痛覚がほとんどねェ~~~ってこたァ~~よォ……、どンだけエグいことしてもイ~~ィンだよなァ~~~~ウッヒャラハハ!!!」
彼らが陣取るのは戦場のど真ん中、高速道路上である。開始と同時に中央からほど近い場所に転送された彼らの目的は、偶然にも全く同一。
見通しの良い中央にて、強敵を待つ。それだけであった。
「話聞いてた時から思てたんや――その乗りモン、真っ先に潰したるってなァ!」
「嬉しいコト言ってくれるじゃないか! 口説き文句としては――及第点だね!」
「オイオイオイ、お熱いねェ~~~!! オレも混ぜてくれよ、泥仕合によォ!」
ユーベルコード【金磚】を用いることで自らの背中に竜の翼を生やし、シャオロン・リー(Reckless Ride Riot・f16759)は手に恃む炎を纏った槍を手中に増やしながらの投擲を行うことで戦場の槍の雨を降らせていく。
彼が投げる槍の軌道は一見バラバラであるようにも見えるが、戦場を俯瞰してみればその狙いは明らかだ。
シャオロンが狙いを付けているのは、高速道路の中央にてディール・コルメ(淀澱・f26390)が駆る超高速移動、及び遠距離射撃に特化した改造戦車こと、キュー。
本命の槍の軌道を隠すようにして放たれた多くの『ブラフ』は、キューの戦闘移動領域を狭めるためのものか。
「先ずは空から槍の一斉発射、お見舞いしたるわァ!」
「ハハッ! レディにダンスのお誘いをかけるなら、もう少し上手にタップを踏むんだね!」
しかしながら、ディールは自らの軌道上に迫らんとしたシャオロンが放った槍の悉くをキューの砲塔による制圧射撃で弾き、無効化していく。彼女の売りは弾幕の厚さと機動力の高さだ。
当然、ディールとて避けているだけではない。もちろん狙いがある――。否、待っているのだ。
「ギャバハハ!! オレ様を無視たァつれねえなァ、暴れ竜! 踊ろうぜ、空はお前の専売特許じゃァねェ~~のよ!」
「呵呵ッ! クソオモロいやないかピカピカクソ聖者ァ! 乗ったるわァ、吐いた唾呑み込まんとけやァ!」
ディールがシャオロンの弾幕を避けきったと同時に、ユーベルコード【オレの救い】によって自身の身体能力を強化し、全身から光を放って躍り出たのはジン・エラー(我済和泥・f08098)。
彼はシャオロンの狙いが自分ではないことを察した瞬間に走り出し、高速道路の至る所に立っている照明に瞬く間に飛び乗ったかと思えば、勢いそのままに空中のシャオロンへ向かって跳躍を敢行したのである。
「しッかし無茶するやん! 俺がが避けた場合とか考えてなかったんか!」
「当ォ~然! オレもお前も、こんなシチュエーションで開幕から中央で陣取る大馬鹿野郎だぜ?! だったらお前は避けねえだろ、ギャ~ッハハハハハハ!!」
踏みつけた照明が先端から折れ、コンクリートに埋まるほどの力で跳躍したジンは、シャオロンに組み付かんとして手を伸ばす。
その手にはいつの間にか鎖のようなものが握られており、どうやら――狙いはシャオロンの翼。空の脚を奪う腹積もりか。
だが、シャオロンとて何も『逃げ』だの『安全』だののために空中に陣取っている訳ではなかった。彼の本質は近接戦闘にある。至近においての槍捌きこそ――彼の本領だ。
利きの順手で槍の中ほどを握って振りかぶり、投擲の構えを取っていたシャオロンは、ジンの接近を予知するや否や、即座に槍を擲つことなく自らの体の内側、利き手の反対側の脇に槍を差し込んで見せた。
次の瞬間、彼は利き手の掌で槍を滑らせながら半回転させ、逆手に構えた槍を空中のジンへと繰り出した。
「さっすがァ、読んでたぜェ!」
「ハッ、こっちの台詞やァ!」
ジンは迫りくる槍の穂先を鎖で受け止め、繰り出された槍を逆に掴みながら更にシャオロンへと接近。槍の間合いの更に内側へと入り込み、留まることなく膝蹴りを放つ腹積もりか。
が、敵の狙いにいち早く気付いたのはシャオロンの方。槍を用いての接近を狙っているのならばと、彼は即座に構えた槍を手から離してジンの接近を留め、自分の手中に分身させた新しい槍を握り込み、翼で勢いを付けながら空中で身動きの取れないジンを狙って動く。狙いは彼の頭蓋である。
「ギャハハ! やるじゃねェか――だが――ここまでは読んでたかよ?」
「仲良く踊ってるところ悪いけどね、アタシを壁の華にするなんざ頂けないよ、坊やたち!」
そんな空中でもみ合う二人を照準に収め、引き金を引くのはディールである。先ほど使用されていた迎撃のための弾丸よりも遥かに大きい、大砲での長距離射撃は、ジンの背中とシャオロンの腹を貫通せんとして空を滑る。
ジンはディールに『自分ごとシャオロンを狙い撃ってもらうように計算した上で』、先ほどまでの大立ち回りを敢行していたのである。
「――成程ッ、そう来たかァ! ほンなら――ッ、アァ!?」
「ギャヒャハハハハ、逃がさねェ~よ! オレは背中に穴が開いても生きてられる自信があるけどよォ~……テメェはどうだよ!?」
大砲から放たれた弾が自らの身体を穿たんとしていることを察知したシャオロンは、即刻身を翻して回避を試みた――が、彼の動きを縛るのはジンが回し投げるようにしてシャオロンの腕と翼に絡ませた鎖である。
正真正銘――ジンは、ここでシャオロンを仕留めるつもりだ。自分の身がどうなろうと構わず、ここで彼を終わらせる気でいる。
「呵呵呵呵呵呵呵呵ッ! オモロい! ほんまオモロいわ、イカれ聖者! けどなァ、あがかせてもらうで! 男と心中はしたくないンでなァ!」
けれど、シャオロンとてここで終わるような強者ではない。彼は縛られた後ろ手に新しい槍を生み出すと、それを滑らせながら下へ落とし、踵で浮かせてつま先で柄を蹴り出すことでジンの腕へ突き刺してみせた。
そして次の瞬間、シャオロンは同じ要領で生み出したもう一本の槍をジンの片腕に深々と突き刺さった槍の石突目がけて打ち込むことで彼との距離を作り、同時に弾丸の軌道から自らを逃したのである。
「ギャハハハハ! 面白ェ、本当に痛くねェぜ! これならまだまだ遊べそうだなァ~!?」
自らの作戦が失敗に終わったことを嘆くこともなく、自らの腕の傷口を楽しそうに笑いながら見つめるジンは、自身の装備である救済箱を盾代わりに用いて大砲の弾を上手く逸らして致命傷を避け、そのまま高速道路の照明を踏み潰すようにして無理やり着地へと至る。
着地の衝撃に耐えかねた膝の影響か、全力疾走は難しそうだが――それでも、ジンは楽しそうに笑うことを止めない。何せ、戦いはまだ始まったばかりなのだから。
●悪だくみ
「ヒヒヒ、これで相打ちですなア。怪しいモンじゃございやせんよウ。……取引といきやせんか? なアに、バッチリ合法のお話ですとも。あっしの首元に潜んだ光り物、収めて頂いても?」
「……協力関係ではなく、あくまで互いを利用するだけの関係――ということですか。どうぞ、謳ってみて下さい。一応、耳には入れておきましょう。貴方の炎も仕舞ってくれるのならね」
「これで良し。後は何人がこれを読んでくれるかですね――」
「――へえ、面白い手紙だな……。どう転がすか、もしくはどう蹴るか……。嘘か、真実か……いや、考えても無駄だな。面白い方に乗るかね」
中央でパーティが開かれている間、南では権謀術数が渦巻いていた。このゲームの穴を突く、『試合が始まった後での一時的な利用関係』――。
潜み、隠れ、情報を集め、闇に紛れ、目を光らせ、耳をそばだて、結び、利用し、握った手を千切り、投げ、蹴り、謳い、うなずき、血を流し、血を流させる。
南は手段を選ばぬアウトローの集まりだ。だが、だからこそ――。
●バレットパーティ・序
「だァァァァッ、まずいまずい!」
「――逃がさないわよぉ」
発砲音がパーティの幕開けを知らせ、銃弾の雨がクラッカーの代わりに参加者たちへ降り注いだ。
虻須・志郎(第四の蜘蛛・f00103)が内蔵無限紡績兵装で用意した超高密度の糸の盾でさえ、『彼女』が放つルーン魔術を纏わせた六連の鉛弾が貫いていく。
相性が悪いのだ。志郎の糸は『打撃や斬撃を広く絡めとる』用途には強いが、『銃撃のような狭い衝撃を受け止める』には向いていない。彼が用意した盾にまるでピンホールの如くに精密な穴を開けていく『彼女』の腕前も、その相性差に拍車をかけていた。
「……良くないね。このままじゃ……。『例の地点』っての、まだ先なの?」
「もう少しだ! クソッ、逃げ切れるか微妙だがなッ!」
『彼女』との噛み合わせが悪いというならば、マルガリタ・トンプソン(イン・ユア・ハンド・f06257)も同様である。マルガリタと『彼女』の銃手としての腕前はほぼ互角。――しかし、こと真正面からの戦いにおいては『彼女』の早撃ちがやや有利。
極まったファニングショットはフルオートよりも早いのだ。弾の種類もあちらの方が克ち合いに強い。マルガリタの得意な距離は今よりもさらに内側――ナイフと拳銃を用いての、CQBの間合いである。こうして距離を離しながら逃げているのでは、さしものマルガリタですら『彼女』の放つ鉛弾の弾道を見切って撃ち落とす程度の芸当が精々である。
「あたしを前にして相談なんて、妬けるわねぇ。――何を狙っていたとしても、撃ち落としてあげるわぁ」
「もっと近付いてくれるなら楽なんだけど、隙を見せても深追いしてこない……。あのバーテン、同業の匂いがするなあ」
愛機であるミッドナイトレースに跨って、快音を響かせながら戦場の南側エリアことアーケード商店街のド真ん中を進むのはティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)。
逃げる志郎とマルガリタにトドメを刺さんとして進む彼女の狙いは実に単純――。南側に位置する他のメンバーが策を講じる隙を与えない『逆張り速攻』。
無論、彼女とてこういう地形ならば、領域を広げるように進撃するか、釣りの戦法を取るのが定石であると気付いていた。しかし、彼女はこうも自覚していた。『あたしの地力、継戦能力は下のほう』だと。「だからこそ」の速戦即決狙いという訳だ。
「もう着くぞッ! 備えろ!」
「はいはい」
「――鬼が出るか蛇が出るか。さて、どうなるかしらねぇ」
彼ら三人は何故このような状況に陥っているか? それを説明するには、わずかに時間を遡る必要がある。
●弾丸と銃
アーケード商店街の真ん中に位置する中央道路で、マルガリタは歩いていた。
普通の散歩であるかのようにリラックスしながら歩を進める彼女はウィッグを被り、愛用の短機関銃であるKriemhildだけを手に持ってあたかも囮であるかのような佇まいを見せている。
しかしながら、これは彼女の作戦。マルガリタは自分自身をUCで呼んだ別人格だと他の参加者に誤認させ、本体は別にいると思わせるのが狙いの行動を取っているというわけだ。
釣られて出てくる相手を逆に攻略するか、もしくは何かしらのアクションを見付けた時点で相手の追跡を開始するのが狙いの行動であるが――何分、最初に出会った人物との相性が悪すぎた。
「――いた」
瞬間、発砲音がアーケード商店街の中に響き渡る。連続した破裂のように聞こえるそれは、ミッドナイトレースを超高速で駆るティオレンシアが出会い頭にマルガリタへの発砲を行った音だ。
「外れたか、なら本物ってコトねぇ。当てる気で撃ったんだけどぉ」
「いきなり発砲してくるとか……運悪いな、話は早いけどさ」
更に続いて断続的な発砲音。ティオレンシアが逡巡0で有無を言わさず発砲を行ったのを目視したマルガリタが、即座に周囲の看板を利用して隠れた後に、自らの腕だけを出してティオレンシアへお返しの発砲を仕掛けた音である。
だが、ティオレンシアがその射撃に付き合わない。自らへの射撃が短機関銃によるものであると瞬時に看破した彼女は、ミッドナイトレースを駆使してアーケードの中を上下左右問わずに自在に飛び回り、発砲を悉く避けていく。
「脚早いし、無駄弾も使ってくれないか。速戦即決……最初の相手としては、一番面倒だな」
店先の鏡を蹴り飛ばして破壊し、反射を用いることで看板から身を出さずにティオレンシアの様子を伺うマルガリタは、この状況の『不味さ』を瞬時に理解していた。敵の武装は6連装リボルバーであることは先の発砲から明らかだ。リロードは不向きで、弾にも限りがある以上、敵の継戦能力は低いと見て良い。
そしてバイクの消耗も、この遭遇戦で生じるリスクも度外視していることから――敵は明らかに『短期決戦型』。本当ならばリソース消費を避けるために別の誰かに押し付け、消耗した所を狙いたい相手だ。
「ま、そんなことも言ってられないか。逃げるかな――ん?」
「……アーケード街方面の眷属の減りが早いな……。なら、そっちに他の奴らも向かわせ――ッと。……気取られたな? チッ、面倒だぜ……! さっさと戻んねえとな!」
そこで次の手に考えを移行させたマルガリタの目に、『ある情報』が入ってきた。鏡を用いて視野を広くしたからこそ見付けられたのは、『起動している監視カメラ』である。
この状況で理由もなく監視カメラが動くはずもない。あるとすれば、そこには――誰か別の参加者の意図があるということだ。
マルガリタは大きく振りかぶりながら、わざとティオレンシアの目に入るように起動している監視カメラへ鉛弾を放っていく。
「ねえ、そこのバーテンさん。俺と戦うのもいいけどさ、この勝負『誰かが見てる』よ。この状況でやり合うのはお互い旨くないしさ、ダンスは覗き魔くんの方を片付けてからにしない?」
「そそる申し出だけど、興味ないわねぇ。あなたをここで倒してから、覗き魔の方も倒しに行くとするわぁ。あなたをここで逃がすの、なんだかよくない気がするもの」
「聞く耳持たないか。あーあ、一番相手したくない手合いだな……仕方ない」
交渉は決裂し、マルガリタの思考は更に次に進む。こういったアーケード商店街の監視カメラの映像データは、まず間違いなくどこかのサーバーで一括管理されているはずだ。
そういったサーバーは大体がクローズド――であれば、『覗き魔』はまず間違いなく監視カメラへのハッキングを行う際にそこへのアクセスを行ったはず。
先ほどの散歩で下見を行っていたが、それらしいのは――高速道路近くの商店街の自治体本部。
「OK、方針決まり。覗き魔くんもパーティに混ぜてあげよっと。――バーテンさんの方向か、なら……」
「方針は決まったかしら?」
誰に聞かせるわけでもなくそう呟いたマルガリタは、言うが早いかアーケード商店街の強化ガラス製の天井の中央部を短機関銃の斉射で撃ち壊していく。老朽化が進んでいる支柱の部分を狙い、ヒビが入れば後は自重で崩落するのだから簡単な仕事だ。
崩壊した天井の瓦礫は、ティオレンシアを潰さんとして落下していく。回避自体はそう面倒でもないが、崩壊した面が多すぎる。大きく避ける必要があるだろう。
マルガリタはその隙を利用して至る所に存在する看板をパルクールの要領で飛び越えて商店街の脇を移動しつつ、短機関銃による横薙ぎの斉射を行うことでティオレンシアに上下方向も加えた回避を余儀なくさせた。
この二手で、マルガリタはティオレンシアの視線をバイクの上下移動で切り、かつ彼女の反転を余儀なくしたのである。サイズ上バイクはアーケード街の中央を進む必要があるために回避行動を取らざるを得ないが、移動させるのがこの身一つであれば天井の崩落を無視して脇を進めばそれで済む。
「あら、隠れるのがお上手ねぇ」
「どうも、商売柄ね」
「――でも、これはどうかしらぁ。隠し弾よぉ。ゴールドシーン、ありったけの弾……寄越しなさい」
しかしながら、ティオレンシアの猛追はそこで終わらない。彼女は天井の崩落とマルガリタの斉射を大きく避けることはせず、自らの反転軌道上に存在する大きな瓦礫と鉛弾のみを自らの銃弾で撃ち抜き、最小限の動きでマルガリタを追う。
またしても発砲。ティオレンシアのUC【鏖殺・狂踊】による、間断ない連射と跳弾による途切れることのない不規則三次元弾幕が発動する。瞬間、轟音。アーケード街の天井のみならず、ティオレンシアは目に映るものの全てを駆使してマルガリタへ止めを刺さんとしているのだ。
『ゴールドシーン』。祈りに応え、願いを叶える力を持つ鉱物生命体に大量の弾薬を願ったからこそ可能な贅沢な攻め。壁、天井、看板、そして時には弾と弾。銃弾の通るラインを空間的に見切った彼女は、徹底的に地形の利用を行った跳弾により、マルガリタへ隙間のない三次元飽和射撃を叩き込んでみせた。
「頭、心臓、肺、肝臓……少なくても手足の一本は貰っていくわぁ。王手飛車角ってところねぇ」
「――あーあ、俺もこんなに早く隠し弾を出すことになるとは思わなかったな……。残念だったね」
マルガリタの弱点の全てに、ティオレンシアの放つ鉛弾が迫る。一つでも対応を失敗すれば即詰み、あるいは大きなハンデを背負うことになるこの状況下で、マルガリタはユーベルコードを発動する。
【乞われるもの】。マルガリタが自らの魂のかたちを思い出した時、彼女は掌に収まるほどの小型拳銃へとその身を瞬時に変じさせた。肉体の一部もしくは全部を銃器に変異させる力を用いて、逃げ場がないように思われた鉛弾の檻の中を切り抜けて見せた。
「あらぁ……スゴいわね、それ。補給も必要なさそうだし、応用も利きそうだわぁ」
「でしょ? 例えばさ……こういう風にも使えるんだよね」
そう言いながら自らの変身を解いた彼女は、走りながら自らの片手を軽機関銃へと変え、ティオレンシアから離れるように走りながらのめくら撃ちを敢行する。
先ほどの二倍の弾幕となれば、ティオレンシアといえども強引な突破は出来ない。精々がリボルバーから放った弾を跳弾させることで周囲の瓦礫や放置された自転車等を浮かせて壁とし、自分の身を守る程度である。
――そして、舞台は場所を変え、演者を増して更に動く。
●バレットパーティ・破
「見付けたよ、覗き魔くん」
「――チッ! 悪いな、見逃してくれると助かるんだが――」
「うん? あー、うん。俺は見逃してあげるよ」
「……あ? いやに話が早いね、何かあるのかい」
「――だけど、後ろの彼女が見逃してくれるかな」
商店街の自治体本部へと歩を進めたマルガリタは、丁度そこから脱出を図ろうとしていた志郎と鉢合わせる。
彼は彼で既に戦場の多数の糸を伸ばしている最中であり、戦場に存在するカメラをハッキングするための必要な準備のためにここへと足を伸ばしていた際中であった。
故にこの邂逅は彼の作戦如何ではなく、ティオレンシアたちの動きがあまりにも早すぎたからこその、志郎への不運である。
「――あらぁ、あなたが噂の。それじゃ――御機嫌よう、さようなら」
「銃使いが二人――クソッ、最悪じゃねえか! チッ、眷属の減りがどうも早いと思ったぜ!」
志郎の作戦の肝は、南に布陣しながら裏で手を回し、他の参加者たちの居場所を掴んで拡散させることで彼らの同士討ちを誘う点にこそあった。
彼自身の得意距離は近接戦闘。故に、戦闘距離を考えれば迂闊に飛び込むのは愚策であると彼は理解していたのである。
だからこそ彼は監視カメラのハッキングのみならず、ユーベルコード【緋狂群魔】で呼び出した自らの眷属である毒蜘蛛を用いて周囲の哨戒と攪乱を行っていたのだが――。
「ああ、あの蜘蛛が動かしてた人形みたいなやつ? 見つけ次第撃っちゃってたよ」
「あたしもぉ。何かさせる前に蜘蛛を狙って撃っちゃってたわぁ」
「問答無用かよ! 通りでアーケードに撒いといた奴らの減りが早いわけだクソッ!」
そう、志郎は自らの武装である内蔵無限紡績兵装で糸人形を裁縫し、展開した眷属でそれらを動かして周りの猟兵に見せ、プレッシャーを与えることで彼らの動きを慎重にし、時間を稼ごうとしていたのだ。
しかしながら、ここにいる銃手二人は基本的な思考が見敵必殺。挑発も攪乱も、様子見の段が無ければ意味がない。
「で、覗き魔くん。相談なんだけど、一緒に逃げない? 俺一人じゃ相性的に逃げようにも結構厳しくてさ」
「――チェッ、断ったら撃つ気だろうが! 分かったよ、俺も手は欲しい! だけどあのバーテンをブッ倒すまでだ!」
「そっちの話はまとまった? 聞く気もないけどぉ」
「言ってる場合じゃねえや、逃げろ逃げろォ!」
ティオレンシアから逃げるため、二人は商店街の中を高速道路方面に向かって全力で移動しながら言葉を紡いでいく。必要なのは機転と切り替え、そして何よりも勝利への貪欲さ。
異形の蜘蛛型マシン『ヴェナトリア』の機動性も利用しながら周囲の建物に糸をひっかけ、ロープワークの要領でスイングしながら三次元的軌道で逃げるのは志郎。彼は商店街に放置された乗用車やトラックも足場代わりに用いて素早く移動するが、トラックへの接地から跳躍までの隙をティオレンシアが狙う。
そこを助けるのはマルガリタ。彼女は咄嗟に志郎が足場代わりにしたトラックのタイヤを撃ち抜くことで彼の身体を無理矢理ずらし、ティオレンシアの【鏖殺・狂踊】から彼を逃がしていく。
マルガリタがパルクールを行えないような広い通路では、志郎がロープワークで周囲の建物から無理やり引っぺがしてきた室外機を盾にすることで彼女を守っていく。出口がない弾幕が相手ならば、二人掛かりで出口を作る他にない。
時折『幸運な強風』にも助けられながら、二人は遭遇戦の鬼から兎にも角にも距離を離していく。
「っていうか、協力ってルール違反じゃなかったかしらぁ?」
「これはあくまで一時休戦だよッ、勝つための立派な作戦だってーの!」
「それに、公式ルールじゃ禁止されてるのは『試合が始まる前から口裏を合わせること』だけだよ。試合が始まった後なら何の問題もないでしょ?」
そして、時間軸は戻る。いよいよパーティが加速していく頃合いだ。
●暗躍が影に
マルガリタ、ティオレンシア、志郎の三人が辿り着いたのは、高速道路の真下の空間――高架下の工事現場。
連続して立ち並ぶプレハブ小屋や飲み屋、既にある程度の建築が終了している様子のスペース、そして資材を乗せた大量の車が至るところに存在し、見通しは非常に悪いエリアである。
「ここまで来たらOKだ! 飲み屋の辺りに逃げ込むぞ! あそこなら――」
「――OK、ご苦労様」
「なッ!?」
そこで即座に動いたのはマルガリタである。彼女はこの地が非常に自分の戦い方と合っていることを理解するや否や、【乞われるもの】の発動による自らの服の内側への銃器生成によって志郎への不意打ちを放って見せたのだ。
狙いは彼の脚。ティオレンシアの追撃を痛手を負った志郎で躱そうという腹か。そして素早く志郎から距離を離し、プレハブ小屋が立ち並ぶ空間へと移動を行っていく。
「これやると服が破れるから、あんまり好きじゃないんだけど」
「オイ、待てよ! プレハブの方は危険だぜ……!」
「俺としては君に勧められた飲み屋の方が怖いんだよね。さっきはありがとう、助かったよ――ッ!?」
「――へへ。……忠告はしたからな」
志郎の忠告は即ち『罠』であると読み、彼の提案にはなかったプレハブ方面に歩を進めたマルガリタの判断は間違ってはいない。
飲み屋周辺は戦闘開始と同時に志郎の巣へと変じていた故だ。飲み屋の店中に仕掛けられた糸の罠は、引っかかったものに毒と麻痺――即ち、感覚不全と機能不全を付与するもの。彼はこの罠を用いることで、ティオレンシアに一泡吹かせようとしていたのである。
――しかしながら、それだけではない。志郎が罠を仕掛けていたのは、飲み屋周辺のみならず高架下の全てのゾーンであったのだ。彼はわざと『飲み屋』だけに注意を払わせるような発言を用いることで、後々マルガリタにも痛打を加えようとしていたという訳だ。
マルガリタが麻痺の罠に深く片腕を引っかけてしまったのも無理からぬことだ。利き腕ではなかったのが幸運であろう。何せ、この仮想現実においては痛覚は存在しない。故に、麻痺に気付くのは症状が重篤化し、顕在化してからになる。
彼女は素早くダガーを駆使して自分の片腕を肘の部分から切り落とし、麻痺が全身に広がるのを防いで闇へ潜む。影へと逃げ込むことで視線と射線の両方から身を隠すことを優先したのだろう。
「――ヒッヒ! さアて。対猟兵戦とくらア、いつにも増して気合を入れにゃなるめエ。滅多に無エ機会です、お勉強さして頂きやしょ。ヒヒヒ!」
「……ッ、新手か。あーあ、人気者みたいで悪い気はしないね」
しかし、この影には先客がいた。バルディート・ラーガ(影を這いずる蛇・f06338)その人である。
戦闘開始時の位置取りは南側であった彼は、アーケード街のドンパチを横目に物陰を伝いながら次第に北へ向かっていた。そこで志郎が仕掛けた糸人形と罠の痕跡を発見し、それを逆に利用してやろうと潜んでいたのである。
先に一帯を全てを燃やしてしまうことも考えたが、志郎の罠を活かした方が面白いと判断した結果だろう。他にも理由はありそうだが。
暗闇の中、ラーガの右手の牙が光って唸る。狙いはマルガリタの頸椎だ。背後から忍び寄り、有効射程にさえ入ってしまえば――ダガーの攻撃性能は何よりも高く、火力の有用性も極めて無駄がない。
空気の流れを読み、寸でのところで奇襲に気が付いたマルガリタは、片腕で操るダガーにてラーガの繰り出した突きを体を反転させながら流し、逆に自分から突きを放つ。狙いはラーガの眼球である。
「有無を言わさず急所狙いか、気が合うね」
「おやッ、良い目をしてらっしゃる。あっしも必死になるしかありませンなア、ヒヒヒ!」
だが、格闘戦はラーガの望む形である。マルガリタが片腕を失っているのは既にラーガとて理解しているところだ。彼はダガーを引き戻しながらのスウェーでマルガリタの突きを回避すると、空いた片手で黒炎の蛇鞭による横薙ぎを放つ。
それを察知したマルガリタは、ダガーを操る自らの手指を銃器に変えて応戦。鞭を打ち払うような掃射を披露し、片腕を失った手数の少なさをカバーしていく。
「成程、ご自分を銃に! いやア、猟兵戦はこうだから面白いモンですなア!」
「どうも。ついでにさっさとやられてくれると助かるよ――ッ!?」
尻尾を地面に叩きつけることで跳躍し、上方向に斉射を回避したラーガが次に行うのは――プレハブ小屋への引火と、右手の牙の投擲。炎を目くらましにしながら暗闇の中で予備動作もなく放たれたそのいやらしい攻撃は、容赦なくマルガリタの胴体へと伸びる。
それを避けるため、彼女はもう一度【乞われるもの】を用いて自らを小型拳銃に変じることで攻撃を回避。
と同時にラーガが付けた炎を頼りに発砲を行うことで攻撃しながら反動を得、プレハブ小屋の隙間を利用してラーガから離れていく。決死の覚悟で放たれた弾丸はラーガの右目を穿ち、彼に永続的な視野の狭まりを与えて見せた。
「……ヒヒッ! ヤッパシ、ユーベルコードを出し惜しんでちゃアこんなモンですなア。まア、あっしの目的は果たしましたしチカラの正体も把握できた。炎もそのうち回るでしょう、後は野となれ山となれってなア。ヒヒヒヒ!」
●バレットパーティ・急
「あらぁ? あの子は逃げちゃったのねぇ……。まあ良いわぁ。さ、これで止め――」
「へへ……。悪いね、バーテンさんよ。俺だって伊達に死線は通ってきてねえんだ。アンタはもう、俺の糸にかかってんのさ、ティオレンシア。――そろそろだぜ」
「ティオレンシアさん、横から失礼します! ――それッ!」
「っ!?」
ミッドナイトレースに騎乗したティオレンシアがついにこの場所に辿り着き、志郎を追い詰めた――その瞬間。
志郎の呼びかけに応えてそこへ現れたのは、レッテ・メルヴェイユ(ねこねこ印の郵便屋さん・f33284)。彼女と志郎は協力関係にある訳ではないが、それでもこうしてレッテが彼を助けたのには理由がある。
それは、潜伏していたレッテが戦闘開始から程なくして辺りにばら撒いた手紙。彼女の作戦は、戦いの始まっている所に遭遇した時点で傷の浅い方を狙う――というもの。つまりは他の参加者たちの潰し合いだ。
その作戦を円滑に進めるため、レッテはその旨だけを記した手紙を戦場一体にばら撒いていたという訳だ。そして、その手紙を参加者たちの中で最も広く索敵を行っていた志郎が拾い、彼はレッテの作戦をこの状況への打開策の一助として利用したという形である。
と言っても、運任せで彼女の支援を当てにしていた訳ではない。先ほどの逃走の際に『幸運な強風』が吹いた時点で、志郎はレッテの介入をほとんど確信していたのである。
「ハッハハ、おかげで助かったぜ! ま、レッテの狙いは俺を助けるっていうよりも『優勢な方を潰す』って方だろうけどな!」
「成程――それであたしって訳ねぇ。光栄だわぁ」
横合いから登場したレッテがティオレンシアへと行った攻撃は、ユーベルコード【鼠捕る猫は爪を隠す!】にて生み出されたねこねこ郵便局員ガジェット、強風発生装置による超が付くほどの強風。
そして、その風に乗せて吹き飛ばした釘、ペンチ、ノコギリやガラスの破片、煉瓦に瓦礫たちなどの大小様々な質量弾である。この場所が複雑極まる工事現場であり、かつ半室内ことも活かし、彼女はティオレンシアへ『弾幕勝負』を挑んで見せたという訳だ。
さらに、レッテが巻き起こした強風は志郎の身体も浮き上がらせていく。それを好機と見た志郎は、工事現場の仮足場やむき出しの鉄筋へと糸を伸ばして大きく移動しながら推進力を得始めた。こうなれば、彼が負った脚の負傷は影響力に乏しい。
「……こういう、状況を大きく動かす系の相手とはあまり相性が良くないわねぇ。まあ、やるしかないんだけど」
「方向を変えて……まだまだ行きますよ! 風に浮かせて飛ばせる弾は、まだまだたくさんあるんですから! えぇい!」
遭遇戦かつタイマン勝負――状況をそれのみに限定すれば、ティオレンシアは今回の参加者の中でも随一の腕前を持っていると断言して良いだろう。
だが、彼女にも苦手とする状況はある。それは継続的かつ、多角的な攻め。それは例えば、レッテが用いたような様々な方向へと暴風を生み出して多種多様な角度から襲い来る大量の質量弾を生み出す攻撃だろう。
「チッ……迎撃が、追いつかないわねぇ……!」
一発目で投擲したグレネードを撃ち抜きながら煉瓦の束をまとめて破壊し、ルーン魔術を付与した二発目で地面を隆起させて釘山から身を守る盾とする。ミッドナイトレースの機動力を駆使しながら風に抗い、高速道路から落下してくる瓦礫も撃ち抜いて身を逃がす。
三発目で工具の山に跳弾させて弾き飛ばし、四発目でレッテへの反撃を行うも、そちらは志郎が繰り出した糸人形が衝撃を殺していく。
「もう一押し……! っ!?」
「――お楽しみのようですなア、皆様! あっしにも一枚噛ませてくださいよッ……とォ!」
「あぶねえッ、レッテ!」
そんなティオレンシアを救ったのは、レッテの背後から現れたラーガ。彼はマルガリタとの戦闘が終了してすぐに移動を開始し、今の今まで不意打ちのチャンスを窺っていたのだ。レッテと同じく、優勢な相手を潰すために。
レッテへ容赦なく振るわれるのは、ラーガが繰り出すダガーの一撃。彼女の首元へと伸びたダガーは迷うことなく頸動脈を絶たんとして迫る。しかし、その刃はロープワークで高速移動を行い、横合いからラーガを殴りつけた志郎が止めていく。
「ギャッハ! こりゃア面白ェ、蜘蛛の兄サンに猫の姉サンを相手に回してみるのも悪くないモンですなア!」
「勘弁しろよラーガ、ここでティオレンシアを倒しとかねえとめちゃくちゃしんどいんだっつの!」
ここに至り、状況は二分したといっていい。ティオレンシアの退場を望むレッテと志郎、そして対するティオレンシアとラーガ。
ここにいる全員の考えは殆ど一致している――『ティオレンシアとのタイマン勝負は御免被る』。
「で? ひとまず味方って考えて良いのかしらぁ」
「お好きなように捉えてくだせェや、何分あっしは長い物には巻かれるタチでして! ただねエ、バーテンの姐サンにはもう少しだけ生きていてほしいンでさア!」
「人が増えて乱戦になってきました……今なら、あたしだって! まずはティオレンシアさんに、トドメを刺します!」
「――させないわよぉ。ゴールドシーン」
さておき、状況は止まらない。怯んだレッテも既に立て直し、再度豪風による嵐をこの場に呼び寄せて辺り一面の全てを弾に敵を倒さんとして動く。
そこに待ったをかけるのはティオレンシア。何はともあれまずはレッテからと踏んだか、彼女はミッドナイトレースを急加速させながら突撃を敢行する。
五発目の弾丸をレッテの頭蓋に向けて放ち、そのまま自らは弾を補充して離脱――ミッドナイトレースをすら質量弾にして、周囲の建物ごと破壊しながらレッテに止めを刺そうという狙い。
志郎も空中を飛び回りながら糸の網を作ることで速度の乗った質量兵器と化したミッドナイトレースを止めようと試みるが、それを自由にさせないのがラーガ。彼は志郎が張り巡らせた糸に片っ端から炎を付けていくことで無力化していくではないか。
「これで――」
「うわわ、っと……!」
「――貴方はお終いよぉ」
さしものレッテの放つ豪風も、ミッドナイトレースを止めるには至らない。これはまずいとダッシュで何とか態勢を整えるも、逃げた先にはティオレンシアが待ち構えている。
そして六発目が彼女の銃口から放たれようとしたその時――。
「――いいや、終わるのは君だよ。ティオレンシア」
その時、建物の影から手だけを伸ばして引き金を引く女がいた。マルガリタだ。ラーガと同様、彼女もまた機を伺っていたということだ。
マルガリタのたった一発の弾丸が、ティオレンシアの頭蓋を打ち砕く。最初の脱落者は、ティオレンシア。
「……あらぁ。つい楽しくて、ヘイトコントロールを失敗しちゃったかしらねぇ。でもまあ……楽しかったわぁ」
――だが、そのまま脱落することを良しとする彼女ではない。
置き土産として放たれた弾倉の最後の弾は、レッテの強風発生装置を見事に破壊しつつ、更に跳弾。そして、その弾はマルガリタの頭蓋へ向けて一直線に向かう。
「そうすると思ったよ――ッ!?」
「――ハハッ、ああ、俺もだぜ!」
「――ヒヒヒヒヒヒヒ! あっしもでさア!」
ティオレンシアの最後の跳弾を、自分の身体を小型拳銃に変えることで無事に回避するマルガリタ。しかし、彼女に詰め寄る二つの影がある。
上空から糸を伸ばして小型拳銃となったマルガリタを縛るのは志郎。そして、縛られた彼女にダガーを突き立てるのはラーガである。
既に二人はマルガリタの【隠し弾】を見ていたからこそ、ティオレンシアの最後の弾丸を避けるならば彼女はアレをやるだろうと踏んでいたのだ。
二人目の脱落者は、マルガリタ。
「手札を切る運が悪かったな……まあ、皆の健闘を祈ってるよ。それから……後ろ、確認した方が良いと思うけど?」
「あンれまア! こいつァいけねェや、一体どこのどいつが火を付けッちまったんでしょうねエ!」
「あららっ、っこれは……! もしかして、あたしの風も影響してたりしちゃったんでしょうか……!?」
そう言い残しながら脱落していくマルガリタの言葉に引きずられ、レッテたちが後ろを振り向くと――既に彼女たちの背後の工事現場は火の海となっていた。
原因は誰の目にも明らかだ――先ほどの一連の流れで、ラーガが至るところに火を付けたのが原因である。志郎が工事現場へ伸ばした糸への引火や、レッテが生み出した強風も、火の勢いを強める結果となっていたのだろう。火の手は勢いを増し、参加者の全てを飲み込まんとして揺らめいていた。
ティオレンシアとマルガリタの離脱、そして背後の火災。誰もが一度立て直しを図るべきだと判断した。そして、その場にいた全員が高架下の外へ出ようとしたその瞬間であった。
「さて。主催者殿のお望み通り、全力で、泥臭い闘争と洒落込みましょうか――埋め尽くせ、天空。【天空魔境】」
最後の参加者が、高架下の内側と外側を遮断したのは。
●バカ騒ぎまであと少し
「聖者は片腕が死んだね。なら狙うのはまだ元気な方――」
先ほどの一部始終を地上から見ていたディールが次に狙うのは、ジンの放った鎖で翼を捕えられ、僅かな隙を見せているシャオロン。既に落下地点も目で捉えている。
彼女が駆る改造戦車が唸りを上げ、穴だらけの高速道路を疾駆する。先ほどからの戦闘の余波で生まれたコンクリートの瓦礫をすべて破壊することで隠れる場所を潰しながら、彼女はシャオロンに迫らんとしていた。
「待ってたで……そっちから俺に近付いてくれる、この瞬間をなァ!」
「後ろから!? ッ、穴かい!」
しかしながら、シャオロンがディールを待ち構えていたのは瓦礫の裏ではなかった。彼は落下しながら鎖をほどいて自由を得ると、戦闘開始時に自分の槍で開けた道路の穴目がけて落下し、『高速道路の下』に隠れることでディールの追跡を逃れ、背後を取って見せたのである。
朱塗りの中華槍、閃龍牙。刃部から爆炎を発する槍、爆龍爪。二槍を両手に携えた彼は、翼をはためかせることで得た推進力を用いて勢い良く接近。キューの構える砲の照準が定まるよりも素早く、ディールへ痛手を与えんとして動く。
利き手に握る槍は推進力を乗せた突きを放つことで攻めに用い、もう片方の槍は掌中で回転させながら絶えず運動エネルギーを持たせることで自在の守りへと用いる、攻守一体の構え。今やキューの胴体へと、焔包みの二槍が突き刺さるのは間もなくであるかのように思えた。
「――なンやとッ!?」
「危ない危ない。アタシはね……こういうのもいけるのさ」
だが、突きがキューの胴体を刺し穿つことは終ぞなかった。槍の切っ先を逸らすようにして受け流したのは、キューの手で操られる、大砲内蔵型手術用メス。
改造戦車越しとはいえ、ディールは戦場医師である。そんな彼女が『自分の腕の延長に』『メスを握った』以上、何にも不足があるはずもなかった。
「慣れないことは止めといた方が良いで、お嬢ちゃん!」
「ハハ、誰がお嬢ちゃんだい! 今度はこっちからいくよ、坊や!」
ディールがキューの左腕に握らせたメスが、槍の穂先を流した勢いのままシャオロンの肩口に迫る。それを横合いからはじくことで止めるのはシャオロンの構えた守りの槍だ。
距離は既に至近であれば、メスの振り直しの方が早い。弾かれたその勢いを活かしたまま、ディールはキューの下半身を一回転させてメスによる回転切りを敢行する。シャオロンはそれを同じく手中で回転させた槍の穂先で受け止めて弾き、ディールの動きと同様に自らの体を回転させることで次の動きへの布石とした。
だが、それこそが彼が仕掛けたフェイントである。シャオロンが繰り出す次の攻撃は、回転による槍の薙ぎではなく、回転させた槍を『そのまま投擲する』ことにあった。シャオロンの強みは、いつでも手中に自らの獲物である槍を生成できることによる自在の攻めにある。
「チッ!」
「そこや! もろたァ!」
回転を伴った槍を叩き潰すようにして止めるために動いたキューのメスの動きを見越し、シャオロンはそのメス目がけて利き手の槍による渾身の突きを放つ。
手術用のメスとはいえ、横合いから受ける焔槍の一撃には為すすべもなく折れゆくばかり。彼は今こそが好機とばかりにキューの懐に飛び入り、新しく生成した二槍を戦車の胴体へ突き刺さんとして舞うかのように跳躍する。
「残念だったね――ステゴロ大歓迎って言ったろ? さぁ――歯ァ食いしばってもらおうかァ!」
そこで発動したのは、ディールのユーベルコード【理不尽な暴力】。彼女がキューを切り札であるかの如くに見せていたのは、至近距離による近接戦闘を誘ってのこと。
彼女の本当の切り札は、己の拳での殴打であった。
「ガ……ッ!」
キューから飛び降りたディールの拳が、カウンター気味にシャオロンの顎へと突き刺さる。この戦闘では痛みを感じないとはいえ、ダメージそのものは肉体に、そして脳に通じる。
顎を揺らし、脳をシェイクする彼女の一撃が、シャオロンの動きを鈍らせたのである。――絶好機だ。今のうちに止めを刺すべきである。
「よォ~ォ、良い所じゃねェか! トドメなんて刺させねえぜ……だってよォ、まだまだ序の口じゃねえか! ビャヒャヒャヒャハハハ!」
「アンタ……! 舐めンじゃないよッ!」
しかし、そこへ立ちふさがるようにして空から降ってきたのはジン。彼はまたもや照明を駆使して高度を確保すると、ディールの頭蓋目がけての踵落としを放って見せた。
寸でのところでそれを察知し、最小限の動きで回避に成功したディールへ、ジンは更に連続して攻め入る。鎖を回し投げて彼女の片腕を拘束し、怯んだ彼女の反撃を封じながらそのままヘッドバッドを頭に食らわせていく。
だが、ディールも負けてはいない。片腕が封じられたのならばと彼女が繰り出したのは蹴りとメス投擲のコンビネーション。大きく下半身を動かしながらジンの胴体へ回し蹴りを食らわせたディールは、蹴りの反動を活かして僅かに後退しながら片腕でナイフを怯んだジンの心臓部に向かって投擲する。
「――ギャッハ!」
「なッ――アンタ!?」
ディールの放ったナイフに対し、ジンは必要最低限の動きだけを見せた。即ち――先ほどシャオロンの突きを受けて、使い物にならなくなった片腕で彼女のナイフを受けたのである。仮想現実でしかあり得ない、常軌を逸した受け。
ジンはそのまま地面を強く蹴り上げて彼女に接近すると、まだ生きている片手を用いてディールの片手を強く握りしめた。握手ではない。親指の骨を砕き、人差しと中指を折り曲げ、ディールの片手を使い物にならなくする、彼なりの関節への攻めである。
「チッ――こりゃマズいね、一旦キューに……ッ?!」
「クッソ、一瞬意識落としてたンか……! なンの、まだまだこれから……アア!?」
「おうおうその意気だ、良いねェ! ッとォ、そろそろだぜ……パーティーが面白くなるのはよォ~~!」
彼らがそれぞれ仕切り直しを図ろうとしたその瞬間、高速道路に異変が起こった。
ディールの戦車による戦闘軌道に打ちおろし、ジンの落下に踵落とし、そして何よりシャオロンによる何百何千の炎槍の投擲。三人の派手な戦闘に高速道路が耐えられなかったのだろう。
そして、崩壊――。三人の乱暴者は、それぞれに手傷を負ったまま高速道路の下の空間――高架下へと落下していく。そこに何が広がっているのか、落ちゆく彼らは未だ知る由もない。
●街で一番蠢いて
高架下に広がる迷宮――。
そこには初めに闇があり、そしてレッテ、志郎、ラーガ、巽の四人があった。
水衛・巽(鬼祓・f01428)のユーベルコード、【天空魔境】が発動した結果、高架下に漆黒の闇で出来た迷路が生み出されたのだ。
範囲は先ほど五名の参加者たちが揃っていた高架下の工事現場を丸々覆うほどの広さである。出入口は一つしか存在せず、壁はコンクリートと比べられぬほどの硬度を持つ。そして出入口の情報を掴んでいるのは巽だけ。
迷宮の道幅は大人一人が通れるかどうかというところ。更に、彼は持ち前の結界術を用いて迷宮内の交差点と出入口に人の出入りが分かるような結界を敷いていた。
巽はこの時を待っていたのだ。南と中央の中間にあるこの工事現場付近に隠れ、参加者たちが揃うこの瞬間を。
「申し訳ございませんが、これも勝つための戦術ということで。非難される謂れはないはずと捉えておりますが、如何に?」
「ヒヒヒヒヒ! すいやせンねエ蜘蛛の兄サン猫の姉サン! こういうコトだったんでさア――恨みっこなしですよウ!」
そう、この迷宮に二人を釣り込まんとして画策していたのはラーガもだ。この付近に潜伏していたラーガと巽は、戦闘開始から間を置かずに邂逅を果たしていたのである。
その際、巽は暗闇の迷宮内にラーガを引きずり込むことに成功したのだが――そこは蛇の熱視覚がものを言った。互いに獲物を相手の急所に突き刺す寸前で膠着状態に陥った彼らは、そのまま互いに互いを利用する関係を結んだ。
ラーガは暗闇で構成されるこの空間を、巽はこの空間に人を引きずり込むための助力が欲しかったということだ。
「この空間に銃手がいないのは好都合です。もしもまだいたとしたら、不意打ちにも工夫を凝らさなくちゃいけなくなったでしょうから」
「なるほどね……! チ、こいつはちょっと面倒だな……!」
「真っ暗で狭い――! でも、方向は分かってます! なら、あたしのガジェットの出番ですよ!」
いの一番に動いたのはレッテ。彼女は新造した電灯付き強風発生装置ガジェットを懐から取り出すと、それを用いて周囲に風を起こしていく。先ほどと同様の豪風――いや、四方を壁に囲まれているこの迷宮においては、先ほどよりも風圧は上か。
彼女はその風を利用して、巽やラーガ、志郎たちを纏めて吹き飛ばすことを選択したのである。彼らは立っているのもままならず、迷宮内部を吹き飛ばされていく。
「レッテの風か、こいつはありがてェ! 何せ俺には仕切り直す足が無かったからな!」
「どちらに行かれるおつもりです、蜘蛛の兄サン? 生憎と、出入口は分からないままですぜ」
レッテのいる通路を中心として、東側へ吹き飛ばされたのはラーガと志郎。ラーガは蛇独特の熱感知で、志郎は自らの装備である赤外線ゴーグルで視界を確保ししながら空中で刃を交えていく。
ラーガの繰り出すダガーの突きを、志郎は左右の壁に付着させた糸を用いて全身を捻ってのブローで弾き飛ばしていく。志郎が繰り出す糸の鞭を、ラーガは片端から燃やし尽くしていく。
ややあって、二人は通路の行き着く先である壁に到着――というよりも、激突していく。尻尾を使って衝撃を上手く吸収するのはラーガ。対して『ヴェナトリア』を用いることで背中から着地するのは志郎である。
即座に志郎の腕がラーガの鼻っ柱へ伸びる。着地の態勢の良さを活かした利き腕による渾身のストレート。しかし、ラーガも路上喧嘩には慣れたもの。彼は志郎のパンチに対してカウンター気味にダガーを『置き』、それを以て迎撃として見せる。
が、ラーガのカウンターを察知した志郎は寸でのところで動きを変更。利き腕の薄皮一枚を犠牲に止めながら、もう片方の腕を無理やり使ってラーガの視界外からフェイントアッパーを繰り出すことで、ラーガの顎を叩き割っていく。
「今気づいたぜ……。ラーガ、お前片目が見えてねえな? ヘッ、伊達男になったじゃねえの」
「グッ……そういう蜘蛛の兄サンこそ、上手にあんよが出来ねエご様子。杖がなくって大丈夫ですかイ? ヒヒヒ――!」
「なッ?!」
しかし、ラーガは怯まない。彼は即座に口から血飛沫を吹き出すことで志郎のゴーグルの視界を封じ、同時にダガーによる振り下ろしを放っていく。
危ういところで背中越しに壁に張り付いた『ヴェナトリア』を動かし、志郎は距離を取ることでラーガの攻撃を回避していくが、血を拭って視界を取り戻したかと思った瞬間には、最早彼はどこにもいなかった。
「――天井かッ!」
「ヒヒ、ご名答ォ!」
志郎が咄嗟にラーガの位置を割り出せたのは、ラーガの口から垂れる血液によるもの。繰り出されるダガーの闇討ちに対して志郎が行うのは、蜘蛛型の多機能戦闘ツールことタランチュラによる受け。
が、空中から躍りかかったラーガの攻め手はこれだけではなかった。彼は空中に浮いたまま自らの尻尾を切り落として火を付け、それを志郎の頭上に落としていたのである。火は糸でも防ぎようがない――引火の恐れがあるためだ。
頭上から襲いかかった咄嗟の奇襲を防いだ志郎には、もう逃げる脚も手もない――。
「――チッ! これはもう少し隠しておきたかったがな――! 集まりやがれ、眷属ども!」
「おッと成程、それが兄サンのチカラってワケですかイ! 蜘蛛の眷属を呼び寄せるチカラ――!」
【緋狂群魔】。戦闘開始時から糸人形を操作し、志郎の索敵を助けてくれていた蜘蛛の眷属たちを呼び寄せるユーベルコードである。
志郎は巽の迷宮に閉じ込められたその瞬間、『しめた』と思っていた。彼は先ほどの戦闘の際に、工事現場付近に眷属たちを集結させ、それを隠し弾にするつもりだった。その眷属たちのある程度が、自分諸共迷宮に入り込んでいたのに気付いていたからである。
彼は呼び寄した眷属たちを自らに体当たりさせて無理やり難を逃れると、そのまま蜘蛛に乗って戦線を離脱していく。迷宮内に散らばって配置された眷属たちのおかげで、ある程度の迷宮の構造もすでに分かっているためだ。
「悪ィなラーガ、俺は一足先にこっから出させてもらうぜ! あの二人によろしくな!」
「……ヒヒ、仕方ありやせんねエ。まあ、チカラの見極めができただけ儲けものと考えておきやしょう。さアて、そろそろ……盗み時ですかねエ」
●番狂いロストライト
「巽さん、できれば早めにこの迷宮を解いて頂きたいんですが! お願い出来ないでしょうか!」
「それは出来かねます。レッテさんの風を生み出すチカラは――もしも迷宮を解いてしまえば、その瞬間に場を支配する力になり得る。それが一番怖いですから」
レッテの放つ暴風に耐え、彼女を脱落させるべく近付くのは巽。彼は奇しくもレッテと同じく召喚系術士である。そんな彼が得意とする術が、十二天将の力を用いること。
迷宮を呼び寄せたのと同じように、彼は十二天将をその身に宿して身体能力を限界突破させ、暴風にも耐えながら急速でレッテへの接近を果たしていく。
だが、それを阻むのがレッテの風に乗って襲い掛かる工具と瓦礫。先ほどの工事現場でのいざこざに乗じて、レッテは自らの鞄の中に釘やトンカチを忍ばせておいたのだ。
そして、それを風に乗せることで質量兵器とし、巽の接近を阻んでいるという訳である。
「近付ければ何とでもなるはず……! しかし!」
参加者たちは既に互いの手の内をある程度知っている。巽はレッテの手札をそれなりに把握しているし、逆もまたしかり。接近すれば目があることなど、巽は十二分に承知していた。
しかしながら、それでも常人であれば立っていられぬほどの暴風と危険な工具の組み合わせが接近を許さない。迷宮の道幅が人一人分なのも相まって、巽は苦戦を強いられている形。
巽が急加速を行えば、レッテが後退しながら彼の胴体に向けてトンカチを投擲する。そうなれば巽には壁に張り付くような形でそれを回避する以外に選択肢はない。しかし、そうなればレッテは釘を複数ばら撒いて巽の身体に穴を開けようと動く。
それらを装備した脇差、鵺喚と強化視覚を用いて切り捨てることはできたとしても、このままでは一つ間違えただけで大きな痛手を被るのは間違いない。もしも頭蓋にトンカチなど受けてしまえば、そのまま一発でリタイヤも考えられる、悪い状態だ。
――それならば、自分の得意な方向の戦いに持っていくのが戦術というものである。
「――縛」
「っ、これは……!? 腕が、言うことを聞いてくれません!」
そこで巽が仕掛けたのは、迷宮中の交差点に仕掛けてある結界術を活かす戦法だ。
彼は繰り返し攻めを行い続けることで気付かないうちにレッテを下がらせ、彼女を迷宮の交差点に誘導。そこで発動したのが、レッテの腕の動きを拘束する結界術であった。
腕利きの猟兵が相手となれば拘束の効果は一瞬。しかし、その一瞬があれば十二分にことは動かせる。
巽はレッテの投擲が止んだことを見るや否や、暴風の中で自らの脚の骨が折れるほどの急加速を用いて彼女に接近。痛覚が存在しない仮想現実だからこそ出来る捨て身の技で、息つく暇も与えず彼女の頸部を脇差の突きで狙う。
「――あ、ぶない……!」
「損ねた――しかし! ここで仕留めます!」
だが、そのまま倒れるレッテではない。彼女は巽の一閃が自らの首元に辿り着く寸前で拘束を解くと、手に持つ強風発生装置を床に向けることで自らの身体を浮かび上がらせ、同時に片腕で首を守ることで巽の攻めを凌いでみせた。
しかし、レッテの片腕へは既に巽の脇差が深々と刺さっている。そして未だに彼女と巽の距離は近いままだ。状況は非常にレッテが不利であると言わざるを得ない。
「こうなれば――式神さん!」
「式神――! そうか、彼女も! まずい、距離が近すぎる……ッ、!?」
追い詰められたレッテが取った行動は、鞄の中に手を突っ込みながら手紙を取り出すことで、式神を呼び寄せる振りを行うこと。他の人物であれば、レッテの動きに関わらず彼女に止めを刺していたかもしれない。
巽の運が悪かったのは、陰陽師である彼だけが『式神についての知識を持ちすぎてしまっている』ことだった。この場にいる誰よりも式神に詳しい巽だからこそ、最悪を想像出来てしまう。式神の召還の恐ろしさを最も理解している彼にこそ、このフェイントは覿面に効く。
咄嗟のことに後方へ跳躍することで距離を離した巽に、レッテが取り出した手紙から飛び出した釘の山が襲い掛かる。強風も相まって巽の浮遊時間は長い――対処するにも地に脚が付いていない状態だ。
「くっ……ッ、ブラフでしたか……! ここは一度仕切り直しを――!」
レッテの腕に刺さったままの脇差は既に手元にない。狭い中でも使わざるを得まいと巽が取り出すのは、水衛家の宝刀こと川面切典定。
柄を握って振るったのでは間に合わぬと判断した彼は宝刀の峰を握り込むことで無理やりに構え、自らの頭部に突き刺さる軌道の釘だけを打ち据えていく。刀も自らも傷つかない、仮想現実であればこその運用だ。
とはいえ、巽の傷もそう浅くはない。身体中に撃ち込まれた釘は痛みこそないものの、彼の動作に支障をきたすには十分すぎる要因になり得る。志郎が出入り口付近の結界術に引っかかった反応もある――この状況は旨くない。
ここは一度仕切り直すべきと判断した巽の狙いは、迷宮を一度解除してこの場から逃げること。レッテも深手を負った今ならば、例え迷宮を解除したとしても状況判断に時間を取られて咄嗟に動くことは出来ないはず――そう読んだのだ。迷宮はまだ再展開のチャンスもある。
「【天空魔境】、解除――」
「ヒッヒヒヒ! ――迷宮を解除するその瞬間を待ってやしたぜエ、陰陽師の兄サン! ――【掏摸の大一番】!」
巽の意志によらぬ所で、迷宮が解除されていく。いや、『盗まれていく』といった方が正しいか。それに合わせ、状況がまた大きく動く。
蛇の影、陰陽師の術、猫の風に蜘蛛の糸。拳を振り回す聖者、槍で暴れる悪党、戦車を乗り回すヤブ医者。生き残った参加者たちが――今こそ、一堂に会しようとしていた。
●緒戦域千鳥掛け
ラーガのユーベルコード、【掏摸の大一番】。その効果は、対象のユーベルコードを『盗んで』『一度だけ借用出来る』という代物だ。
このチカラを用いることで、ラーガは巽の迷宮を盗み、もう一度場を荒らすことができるチカラを手に入れたという訳だ。
「今のは――ッ、まさか、天空のチカラを盗まれた!? 貴様――ッ!」
「ヒヒヒヒ! 仰る通りでございやすとも陰陽師の兄サン! とはいえ一回こっきりですがね、大事に使わせて頂きやすよウ!」
「なんだなんだ、どういう状況だ!? 迷宮の解除、上からの新手……! 楽しいパーティだね、ちくしょうめ!」
「巽さんはラーガさんを狙って動いていて、志郎さんは遠くにいる……なら、まずは上の人たちを狙いましょう!」
「おっと、コイツはどういう状況だい……!? 随分とまあ荒れてるじゃないか、アタシ好みだよ全く!」
「なんやこれ、めちゃくちゃに燃えとるやんか! 風もえらい強いし……ヘッ! つまりは、悪くないシチュエーションっちゅうワケや!」
「ギャーーッハハハハハ! 下は下で面白ェ~~ことになってンじゃねえかよオイ! オレたちも混ぜやがれよ、なァ!」
迷宮の解除と高速道路の崩壊が同時に生じたのは、何も偶然のことではあるまい。そもそも上での戦闘の影響を受け、高速道路は既にいつ崩壊してもおかしくない状況ではあった。
それを何とか支えていたのが、他でもない巽の迷宮であったのだ。工事現場を丸ごと囲うようにして作られた、『外からのどのような影響も受けない』その空間は、奇しくも高速道路を下から支える形になっていたのである。
さて、状況を整理しよう。
まず、参加者たちが集うこの場は高架下の工事現場。そこには最早プレハブ小屋や飲み屋の姿はなく、あるのは崩壊した工事現場の残滓とそれさえも飲み込まんとして燃え盛る大火である。
そこに降ってきているのは、高速道路の瓦礫と上で戦闘を行っていたディール、ジン、シャオロンの三人。そして、彼らの落下地点から比較的近くにいるのがレッテ。レッテの近くに武器を手に戦闘を続行しているのが巽とラーガ。一番遠くに満身創痍の志郎という形だ。
「……ヘヘッ、よっしゃァ! ちょっとばかしフラフラするけどなァ……往くで往くで往くで往くでェ! 全員纏めて、俺の槍の餌食やァ!」
真っ先に動くのは、翼を持っていることで圧倒的な空戦能力を有しているシャオロン。彼は戦闘開始時と同じように、自らの炎槍を分身させながら数を問わず他の参加者たちへの投擲を行っていく。
先ほどディールから頭部に受けた一撃の影響が著しいのか、先ほどまでのキレはない――とはいえ、それでも空戦能力を持つ彼の一方的な攻めは他の参加者たちにとって余りにも脅威だ。
「眷属ども、集合しろ! コイツはやばいぜ……! 制空権か遠距離攻撃、しかも炎まで使いやがる相手だ! コイツを倒さない限り、先はねえ!」
真っ先に狙われたのは、既に足を失って機動力に乏しい志郎だ。それでも彼は落ちて来る瓦礫と槍の雨の中を器用にロープワークの要領で移動を繰り返しながら回避を行いつつ高度を稼ぎ、自分にとっての天敵といえる相手へ接近していく。
「なんだかふらついてましたけど、それでもあの人が一番危なそうですね……! よーし、志郎さんを援護しながらあの人を!」
レッテはシャオロンの乱戦における制圧力の高さを考慮して、志郎の接近を援護する形。彼女の繰り出す強風なら、瓦礫や炎槍の雨でさえものともせずに吹き飛ばしていける。
彼女は戦場を自在に走りつつ、その風を用いながらシャオロンの飛行妨害と志郎の進路作成を行っていく。
「ハッハァ、この槍の中で俺に近付いてこれる馬鹿がまだおるとは嬉しい限りやないか! ええやろ、本気で相手したる! かかってこいや、志郎ッ!」
「乗り気とは嬉しいね、それじゃ殴り合おうぜッとォ!」
レッテの妨害、そして志郎の接近に気付いたシャオロンは、まず自分に向かってくる志郎から狙うことにした様子。槍の投擲を一時的にやめ、両手に二振りの槍を構えながらロープワークで移動を行う最中の志郎へと勢い良く接近。
繰り出されるのは、二槍による容赦のない突き。しかし、志郎もシャオロンの迎撃は読んでいたと見える。彼はシャオロンと刃を交わす寸前に、『ヴァンプ・シュワルグ』を用いて先ほどラーガにやられたような血霧を放ち、眼前の相手の視界を潰していく。
だが、シャオロンとて喧嘩慣れしている悪漢の一人。志郎の反応を一瞬で捉えた彼は、翼を用いることで空中で急停止を行い、そのまま血霧を槍の回転で打ち払って晴らし、その奥にいると思しき志郎に向かって二槍を伸ばす。手ごたえアリだ――。
「さすが、喧嘩慣れしてるじゃねえか――! それじゃコイツはどうだい、シャオロン!」
「ッ、搦手が上手いやんけ!」
「伊達に蜘蛛はやってねえのさ、――オオオオオォォッ!!」
「ガ、ッ――!?」
しかし、シャオロンが血霧の向こうで捉えたのは志郎ではない――彼の眷属である蜘蛛の集合体だ。志郎が血霧を行ったのは、何もシャオロンの隙を生み出そうとしてのものではない。彼はそうして視界を奪うことでひと手間を活かす時間を作ることこそ、彼の目的だったという訳だ。
シャオロンの槍を繰り出す腕が伸びきったことを確認し、志郎が伸ばすのは糸。それをシャオロンの体と自らの身体の両方に巻き付けたかと思うと、彼は上空で意図を思い切り手繰り寄せながら空いた片手を力いっぱいに握り込む。
そして、志郎が繰り出す顎への全力のフックが綺麗に入る。そして意図を握っていた手を離してストレート、拳を戻して再度フック、ブロー、ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。
拳による殴打は失血も少なく、肉体へのダメージも少ないが、それでも先ほどディールの拳を頭部に受けているシャオロンにとって効果は覿面。わずかな時間ではあるが、志郎は彼を気絶させることに成功したのである。生命力の吸収も行い、自分のスタミナを回復させていくではないか。
「へへっ……! あとは着地した後に止めを――ッ?!」
「今だ! 火に向かって、二人を動かします――! ええい!」
だが、そこで動く人物がいた。
空中でもつれあい、糸で絡まり合うようにして落下していく二人を無理やり動かすのは、強風発生装置を構えたレッテである。彼女は志郎の拳がシャオロンに綺麗に入ったことを確認するや否や、二人へ向かって直接風を起こすことで、彼らを火の海の中へ直接落とさんとして動いて見せたのだ。
志郎もレッテの狙いに気付いて即座に状況を回避しようと動くが、そこで行動の妨げになるのがシャオロンと自分の身体を結んだ糸だ。手を動かすこともままならず、二人は火の海へ落下していく。
僅かに動く手首を駆使して何か糸を伸ばせるような足場を探すも、既に高速道路は崩壊しきってしまった後。瓦礫の一つさえ見つかりはしない。
「ごめんなさい、志郎さん! でも、あたしだって本気ですから!」
「だァーーッ起きろシャオロン! 頼むから飛んでくれ! ああ、ちくしょう! ……やるじゃねえか、レッテ! 楽しかったぜ!」
そして、二人は火の海の中に沈んでいく。志郎、シャオロン、ともに脱落――。
「ッ、……まだや……! ギリッギリやったけどなァ、まだまだ暴れたりひんわ……!」
「うそっ、あの炎の中で生きて――!?」
いいや、シャオロンだけは火の海に叩き落されてもまだ生きていた。
彼の幸運を支える要因はいくつかあるが、まず一つは彼が火炎耐性を持つ身であったこと。もう一つは、彼は翼を有していたこと。最後の一つは、彼が魔力を秘めた装備である混天綾を着用していたことだ。
シャオロンは志郎とともに火の海に落下してからすぐに意識を取り戻し、志郎の糸が熱で燃えた後、全速力で翼を広げて炎の海から脱出を果たしたのである。しかし、その代償は大きい。
翼は既に燃え落ちて満足な飛行はままならぬだろうし、志郎に何度も殴られ、炎で焙られた顔面はひどく腫れて彼の視界を阻害している。四肢の末端も炎の影響を強く受けており、最早槍を握った手は開くことさえ出来ないだろう。だが、それでもその手に槍を握っている以上、彼が勝負を諦めることはない。
「ガハッ……へヘヘッ……、ようやく燃えてきたトコや――! とことんやろうやんけレッテ、まだ戦いは終わらへんで!」
「あわわ――! で、でも……あたしだって、ここまで勝ち残ってきたんです! シャオロンさんが相手でも、諦めませんよ!」
「その意気やァ!」
シャオロンが槍を構え、レッテが工具を風に浮かせて向かい合う。炎を背負っているのはシャオロンだ。それを考慮して、レッテはまず強風を彼に向けて放つことで炎の海の中へ悪漢を吹き飛ばすべく動く。
しかし、風がいくら強力であれどシャオロンは決して引かない。左手の槍を地面に突き刺すことで、身体を支えているためである。しかしそれは身動きが取れないのと同義。レッテはシャオロンの隙を見逃さず、風で彼をその場に留めながら釘の雨を放つ。
「――いい攻めや……それを待ってたでェ! 喰らえッ!」
「――そんな、釘を避けようともしないなんて――!?」
その瞬間、シャオロンが動いた。彼の狙いは、わざと隙を作ることでレッテの攻撃を誘うことであったのだ。彼女もすでに片手は失っている。釘を飛ばすために意識を向けている今ならば、カウンターへの反応も遅れると見てのこと。
自分の身体に突き刺さんとして飛来する釘のダメージを無視しながら、シャオロンは空中で行ったジンとの戦いと同じ要領で自分の背中越しに新しい槍を生成していく。握るためではない。既に彼の両手は槍が握られている。この炎槍は、蹴るためのもの。左手に構えた槍は杖だ。足の代わりに手で体を支えれば、自由になった足が開く。
シャオロンの片目に、耳に、舌に、そして内腑の至る所に、鋭利な釘が突き刺さっていく。知ったことかと笑いながら、それでも彼は新たに生成した槍の石突を踵で蹴り上げて回転させ、右足で蹴り出す。狙いはもちろん、レッテの首だ――。
●骨と鞭で踊って
人数が減るごとに、戦いは苛烈さを増していく。
そしてそれは、こちら側でも同様のこと。
「く、……! チカラを盗まれたというのなら、返していただきます! ラーガさん、貴方を打ち倒すことで!」
「良いンですかイ、上から火の槍が降ってきてるってのにあっしの方ばかりを見て! 見た目によらず執念深いお人でいらっしゃる、ヒヒヒ……!」
シャオロンたちが炎の上空で動き始めたとほぼ同時に戦闘を開始したのが、巽とラーガである。彼らは元々距離が近かったということもあるが、それ以上に――ここでラーガを無視できないということを、巽は良く知っていた。
ここで彼から目を離せば、十中八九ラーガは逃げる。そして迷宮の起動のタイミングを陰から窺い、乱戦が極まった瞬間にそれを発動するだろう。それは非常に厄介であり、そして何より――巽としては、自分のチカラを盗まれたことが気に入らなかったのだろう。
どうにかしてこの戦場から一度離脱しようと図るラーガに対し、巽は他のものが目に入らぬというような形で打ち掛かる。
巽の獲物は太刀、ラーガの獲物はダガー。リーチの差もあり、事態は大分ラーガの不利というところ。巽が連続して放つ薙ぎ、袈裟、回し薙ぎを、ラーガは刃を合わせることでなんとか防いでいく。こうなると、先ほどのマルガリタとの戦いで無くした右目が痛い。
今はフードで隠しながらなんとか気取らせないようにしているが、それも時間の問題だろう。
「お熱いじゃないか、そこの二人! アタシらも混ぜておくれよ!」
「ギャッハハハ! 乱戦は良いねェ、最高にモヤモヤしてワクワクするぜェ!」
「うじゃうじゃと――!」
――そんな二人の頭上から降ってきたのが、高速道路の瓦礫、シャオロンが投擲した槍、そして生身のまま突っ込んでくるジンに改造戦車『キュー』を片手で操縦するディール。一つでも選択を失敗すれば、それは即脱落につながるだろう。
轟音を立てて落下していく瓦礫に対し、巽は強化した身体能力を生かしてコンクリートの塊を居合の形に構えた太刀の一閃で切払っていく。しかし、巽の隙に畳みかけるようにしてディールがキューの大砲を放っていく。さすがに二度連続しての居合は不可能であると判断した巽は、前転を行いながら大きく移動することで難を逃れる。
しかし、更にそこへ攻撃を重ねるのがジンだ。彼は落下の勢いそのままに、既に折れて骨が見えているままの脚を使ってのストンプを巽に繰り出した。態勢が崩れたままの巽は片手を駆使して霊符を使用し、自らの身体と瓜二つの幻を作成して難を逃れようとしたが、淡い幻を打ち払うのがジンの光だ。
出血著しい巽の腹に思い切り折れた脚の骨を突き刺したジンは、更に巽の片腕を掴んで彼の骨を折り曲げながら無理やり巽の身体を無造作に空中に放っていく。
だが、巽とて何もできずにやられている訳ではない。彼は機能が残った片腕を駆使し、上半身を捻り上げながら空中で下薙ぎを放つ。斬撃はジンの首元の際どい部分を穿ち、大きな痛手を負わせていく。少なくともジンの身体は既に満身創痍――失血による影響も大きくなってくる頃だ。それは巽にも同じことが言えるのだが。
「おっとオ、コイツは嬉しいお客様の登場ですなア! それじゃ、あっしはこれで――」
「逃がすわけねえだろが、蛇野郎ォ! 聞いてたぜェ、お前らのさっきの会話をよォ~! なんか盗みやがったそうじゃねえか、なァ~!? 盗人は生かして逃がせねえなァ、ギャハハハハハハ!」
「グッ……!?」
巽が集中的に狙われているのを見たラーガは、その瞬間戦場を離脱するためにジンとディールの動向に注意を払いながら影へと身を潜めた。しかし、それを許さぬのがジンである。
彼はラーガの気配が無くなったことを鋭敏に察知すると、自らが放つ光量を最大にして彼の目を焼き、目を焼かれたラーガの反応から彼の片目が潰れていることまで察知してみせた。
そのまま自らの装備である救急箱に鎖を結んで鎖分銅の要領で振り回し、影の中のラーガの死角方向から高速で回転する救急箱を投擲することで、ラーガの肋骨を折りながら鎖を彼の体に巻き付けていく。
「ギャハハハハ! トドメだァ!」
「ヒ、ヒヒ、……! 面白エ! 聖者の兄サン、アンタ……イカレてらア! ヒャハハハハ!」
「褒めてくれてありがとうよ蛇野郎! ギャーーッハッハハハハハ!!」
そして残っている片手でラーガの身体に巻き付けた鎖を引き込み、彼を自らの方向へ引き寄せたジンが放つのは、シャオロンに折られた腕から飛び出ている尖った骨による刺突。狙いはラーガのもう一つの目である。
引き寄せられながらジンの狙いを察知したラーガであるが、ユーベルコードで強化された彼の膂力には太刀打ちできないことを悟ると、鎖が巻き付いた状態で器用に懐のシガーケースから毒を取り出すと、自在に動く炎の手でダガーの刃に毒を塗り、ジンの胸へ向かって突き刺す構えを取った。
ずぶり。肉と眼球が壊れる音が響き、痛みを伴わない二人の血が大量に流れ出る。毒をその身に宿し、首と胸に大きな穴が開いたジンの出血はもはや致命的だ。ラーガの視界は既に死に絶え、最早彼は闇の中で戦うより他になくなってしまった。
彼ら二人は何を言い合うまでもなく、同時に容赦なく相手の身体から獲物を抜き去り、そして笑い合いながら離れていく。このままやり合っても行きつく先は相打ちでしかないことを、お互いに悟ったのだ。
ならばせめて、勝つための最善を。出血を抑え、息を潜め、最後の最後までその時を待つのが参加者としての務めである。
●『バカ騒ぎ』
「片腕が死んだ――出血もひどい、意識が……! しかし、他の参加者たちも満身創痍――まだやれる――!」
「いやいやアンタ随分辛そうじゃないか、もう楽になったらどうだい!? アタシでよければ手を貸すよッ!」
そんな二人を横目にして、空中で着地姿勢を取ろうとする巽を追撃するのはディール。片手を骨折してしまった彼女ではあるが、それでもキューの操縦は実に冴え渡っている。
遠距離からの容赦のない鋼鉄の弾が巽の身体を貫かんとして幾度も放たれ、巽はそれらを全て川面切典定の一閃で切り裂いていく。しかし、このままでは不利なことに違いはない。なにせレンジが違いすぎる。
着地し、弾を切払い、接近しようと走り、弾を薙ぎ、幻も形代も全て使えるものは使っていくが、それでも弾幕を展開しながら距離を離していくキューの機動力に失血著しい巽の身体では追いつけない。
「ッ、ならば! ――レッテさん!」
勝てない勝負を続ける意味はない。足回りで勝てないのならばと、作戦を切り替えた巽が向かうのは今まさに刃を交えようとしていたシャオロンとレッテの方向。既にジンもラーガも姿を隠した今、ディールはこちらへ来るより他に戦う相手が残っていない。
つまり、巽の作戦は乱戦の状況を作ること。一対一では機動力が十二分に残っている戦車に勝つのは難しいと踏んでのことだ。レッテの首寸前にまで迫っていたシャオロンの槍を太刀の一振りで弾き、巽はレッテを助けてみせた。戦車を倒すには、彼女の力も欲しい。
「え、巽さ――!? あっ、そういうことですか! 成程、確かにディールさんの戦車も強そうです! 今のうちに協力して――!」
「ははァ、上等じゃないか陰陽師の坊主に郵便屋の嬢ちゃん! この状況はアタシだって望むところさ――全員纏めてぶっ飛ばしてやれるんだからねッ!」
「ハハッハハハハァ、そっちの方から来てくれるンやったら好都合やなァ! 追う足がなくて困ってたとこや! 特にディールには、さっきの礼を返してやらなイカンからなァ! ――けどなッ!」
「ッ!」
この状況で最も傷の少ない人物はディールであり、そして一番厄介なのも彼女である。ここにいる全員がそれを理解していた。
だからこそ、人数が集まっている今のうちに彼女を排除しておくべき。そう考えることはいたって自然のことである。しかしながら、シャオロンは巽の狙いを読んだ上で無視していく。
「俺はなァ、暴れられればそれでええ! ディールだけじゃ物足りん、お前らの首、全部俺が貰うッ!」
「クッ、……良いでしょう、そっちがその気なら……! お相手いたします!」
レッテに突き刺さんとしていた槍を巽に弾かれたシャオロンは、巽のアクションを見るや否や彼を打ち倒すべく走っていた。一歩進むごとにシャオロンの爛れた身から血が噴出す。槍を握る手は既に指の感覚がない。
だが、それでも構わない。バトルロイヤルなんてそんなものだ。策略を回す奴もいれば、策略なんて関係ないとばかりに動くティオレンシアやシャオロンのような奴もいる。たったそれだけのことだった。
右の突きを巽の胴体目がけて伸ばし、左の槍の穂先を打ち下ろしていく。既にシャオロンに守りの意識は残っていなかった。というよりも、回転を必要とする守りの型は握ったままの手では不可能だ。だから、彼は攻める。
果敢に攻めいる二振りの槍に対し、巽は獲物の長さを利用しながら身を回転させて遠心力を得ることで片腕で太刀を振るい、連続でシャオロンの槍を横に打ち払う。
「ハハハハッ、まだまだやァ!」
「良い位置だ……纏めて頂くよ――!」
「させませんッ!」
巽の守りを見て、シャオロンはその手があったかと自らの身体を回転させることで同じく槍を回転させながら連続した薙ぎ祓いを幾度も仕掛けていく。
手数の多寡で不利であることを悟り、バックステップで距離を取った巽の背後に回ることで射線上に二人を重ね、二人同時の脱落を狙って火炎放射である焼灼の引き金を引くのはディールである。だが、彼女の構える焼灼から火炎が吹き出す瞬間を狙ったのがレッテだ。
彼女は自らの片腕に刺さったままの巽の脇差を抜き取ると、それを風に乗せて高速で飛ばしてみせた。狙いはキューの構える焼灼そのもの。拾った釘やトンカチでは太刀打ちできずとも、巽の脇差――鵺喚であれば、キューの砲身でさえ斬れると踏んでのことだ。
「面白いやないかレッテェ! 乗ったでッ!」
レッテが放った脇差は、彼女の思い通りに焼灼の砲身を見事に切り裂いてみせた。更にその狙いに乗るのがシャオロン。
彼は巽に間合いから逃げられた際の回転を活かしながら、遠心力の乗った蹴りを以て炎槍を飛ばし、発砲寸前の砲身を詰まらせてみせたのである。
「ッ、チィ! 砲身に異常……! マズいね!」
「なんの、まだまだァ!」
「――合わせます、シャオロンさん。貴方はどうぞ、ご自由に」
砲身に炎槍が刺さったままでの発砲を行う羽目に陥ったキューの焼灼は、その場で暴発による爆発を起こしていく。恐らくシャオロンの放った炎槍が内部の燃料に引火したのだろう。
不意を突かれ、更に暴発の影響でキューが態勢を崩したのを確認するや否や、シャオロンはキューの前方へ、そして巽はキューの後方へと走り寄る。
巽は片腕で構える居合による右の薙ぎを、そしてシャオロンは固く握った二振りの火尖鎗による鋼すら貫く渾身の突きを、二人同時に繰り出してみせた。
「……ハハハ! アンタら、やるじゃないか! まさかキューを破壊されるとはね……! だが、こっからが本番だよッ!」
胴体から破壊されたキューから降り立ったディールは、徒手空拳を用いて前方のシャオロンに殴りかかる。【理不尽な暴力】――ディールの隠し弾であるユーベルコードだ。
――だが、同じ技を同じシチュエーションで二度喰らうシャオロンではない。
「ヘヘッ――それはもう見た技やで、ディールッ!!」
「ぐ――ッ!?」
彼はまるで『ディールの反撃が必ずある』と読んでいたかのようにバク転を行いながら無理やり彼女の拳を避けると、片手に握った槍を地面に突き刺して無理やり倒立を行いながら、もう片方の槍をディールの首に突き刺してみせた。
今までの攻防の積み重ねがあったからこその一瞬の近接戦闘の駆け引きに、シャオロンは読みで勝利したのである。悪漢の面目躍如というところか。
首を貫かれたことで言葉を失いながら、それでもディールは笑いながら脱落していく。『楽しかった』と言わんばかりに。
志郎に続き、四人目の脱落者は、ディール。
「これで残りは五人――! 巽さんとシャオロンさんを纏めて狙えば――!」
「――いいやア、残り人数の計算が間違ってやすねエ、ヒヒヒ! コレで――四人でさア!」
刹那、二つの人影が飛び出した。レッテの背後から近寄って彼女の膝を鎖で絡めとり、後ろから羽交い絞めにするのはジン。
そして崩れ落ちていったキューの影から現れ、黒炎の蛇鞭を広く薙ぎ払うことで見えない視界をカバーしながらシャオロンの身体を捉え、彼の動きを封じるとともに接近してシャオロンの首を掻き切るのはラーガだ。
「ああ、くそ――ッ! まだまだ、俺は――暴れ足らん!!」
「――ヒヒヒヒヒ、さアていきやすぜエ! 陰陽師の兄サンからの借り物で恐縮ですが――【天空魔境】ッ!」
五人目の脱落者は、シャオロン。
そして、戦場は再度闇に染まる。正真正銘、これが最後の殴り合いだ。
●かみひとえ
闇の中、最も素早く行動を行ったのはラーガ。彼は自らのユーベルコード【掏摸の大一番】で、巽の持つ漆黒の闇で出来た迷宮を生み出すチカラこと【天空魔境】を盗み、そして今そのチカラを発動してみせたのである。
自分が作り出した暗闇――しかも自らは既に全盲であれば、ラーガに躊躇も動揺も一切あるはずがない。狙うは、キューの背面を切りつけるために動いていた巽だ。先ほどの剣戟の音から、ある程度の場所は既に見当がついている。
ラーガは素早くその場で跳躍しながらシャオロンに仕掛けたように黒炎の蛇鞭を地面に這わせるようにして振るう。巽の居場所を把握し、その手に恃んだダガーで斬りつけるためだ。黒炎は闇によく紛れ、実に厭らしい。
「ヒヒヒ! どうしやした陰陽師の兄サン、元気が無くなっちまいましたねエ!」
「く、っ、……!」
巽は炎の鞭をもろに片方の足首に受け、その身を焦がされながら迫りくるラーガへの対処に追われていた。恐ろしいものだ。今なら自分のチカラとして十全に振るえていた時は感じなかった、無明の恐ろしさがよくわかる。
人は光を失った時、これほどまでに恐ろしさを感じるものなのか。――だが、それでも諦めるわけにはいかない。ここで諦めてしまえば、その時こそこのチカラは自分の身に戻ってこないような気さえする。
だからこそ、巽は懐から一枚の符を取り出して構えた。それは霊符・斬。対象を切り刻む、あるいは何かから断ち切る意志を籠められた霊苻。彼はこの符を用いて、ラーガの炎鞭を自らの足首ごと断ち切ることで自由を得たという訳だ。
「あっしの鞭を……! いや、この反応は……まさかご自分で足首を斬ったンですかイ!? いやはや、思い切りのいい御仁ばかりが揃うゲームですなア!」
「貴方が寄ってきてくれるなら、別段足に未練もありませんので。さあ――勝負!」
鞭を頼りに至近距離に入ったラーガが連続で何度も振るうダガーに対し、巽は一発で脱落が決定してしまうような一刀のみを武器が振るわれた風の音で判断し、全て居合で弾き落としていく。
薙ぎで巽の頬を抉り、首元に突き刺そうとして払われたダガーを勢いのままに回転させながら逆手に持ち替えて巽の膝に二度突き刺して皿を割り、彼の態勢を崩したことを察知するや否や逆手に構えるダガーを切り上げて彼の胴体を派手に裂こうとするが、その一刀は膝を割られながらも太刀を構える巽が放った横の居合が弾き返していく。
ラーガが頑なにラッシュを繰り広げていくのは、既に彼が無明の中にいるが故だ。両目が潰されてしまった以上、彼はそれ以外の感覚で世界を捉えるよりほかにない。獲物の有効射程も考えると、前に出るほかに道はない。
無論、巽もそれを分かっている。だからこそ彼は闇の最中で膝立ちになりながら居合の構えを取り、前方の広範囲をカバーできるように努めていた。この構えより放つ太刀の薙ぎであれば、ダガー諸共ラーガを捉えられる道もある。
互いに無明ならば、それなりの戦いようがあるということなど、既に互いが知っていた。これは既に詰み将棋。苦しくとも互いに最善手を打ち続け、相手が頓死に至るのを待つほかない勝負だ。
自然に、彼らは無言になっていた。辛うじて両者より聞こえるのは、自分の息を殺す音と、肉を削ぐ音、そして剣戟の華が散る音だけ。
わざとダガーの突きを甘く出すことで巽の居合を誘い、先の後を狙うのはラーガ。その狙いに乗らず、本当に相手が深く踏み込んだその瞬間だけを狙って敵の攻撃を弾き続け、後の先を狙うのは巽。
それでも、状況は大分巽に不利というところ。その理由はダガーが機能する至近距離においての太刀の融通の利かなさであり、無明の中で攻め込んでいるのはラーガの方であるという事実だ。
巽は既に血を流しすぎている。その上で、いつ終わりが来るともしれぬ防戦に身を置いている。太刀での生命力吸収も、ラーガの身体に当たらなければ机上の空論。最早離れるすべはない。仕切りなおした所で、無明の中に光はない。やるほかないのだ――しかし、どうやって?
ここで巽から離れたところで、ラーガにメリットはない。ここまで上手く攻め続けられているのは、偏に太刀の間合いのその中へ入り込んでいる部分が大きい故だ。離れる理はなく、もはやこの目に光を捉えるすべもない。やるしかないのだ――だが、どのように?
「――ッ、ガ、ハッ」
「――しめたア!」
その瞬間、事態は大きく動いた。巽の吐血――。ラーガが幾度となく与え続けていた斬撃のいずれかが、彼の肺を傷付けていたのだろう。気道に入り込んだ血が行き場を求めて巽の口から噴出し、彼の動きを一瞬曇らせ、その手から力を奪っていく。
ラーガに巽の姿は見えないが、それでも分かる。今の金属音は、間違いなく――『巽が獲物を手放した音』だ。さらに言えば、巽はもしかして倒れ伏しているのではなかろうか。千載一遇の勝機――ラーガが勝つために踏み込むならば、今を置いて他にはない。
光があふれる。瞬間、二つの刃が交差して、勝負が決した。
●光あふれて
「降参をお勧めしておくぜ、レッテよォ。今なら楽に首の骨を折ってやる」
「……っ、降参なんて……絶対にしませんっ! 絶対、絶対に!」
「ッ……ヒャハハハハ! そうかい、それじゃあ最後までバトろうじゃねェか! お前もオレが救ってやるよ、ギャビャヒャハハハハ!」
背中に光を背負い、身体能力を強化しているジンに背後から羽交い絞めにされていても、レッテが諦めることはない。彼女はまだ動く片手で上空に手紙を紙飛行機の要領で飛ばして見せると、上空に飛んで行った手紙からトンカチを召喚することでジンの頭の上に落としてみせた。
自分の視界の外から突如現れた攻撃をモロに頭蓋に受け、ジンの拘束に一瞬の隙ができる。それを見逃さず、レッテは構えた強風発生装置を上方向に構えて風を放つことで風の反動を得、ジンの拘束と鎖からその身を逃すことに成功してみせた。
片腕片足を失っているのはお互い同じ。膂力はともかく機動力ではレッテだってジンに引けを取らないし、搦手であれば手数の読めないレッテに軍配が上がる。どうなるかは、最後までやってみなくては分からない。
レッテを逃げた方向を確認し、ジンは鎖につないだ救急箱を彼女に向かって投げ放つ。光をその身に宿したジンにとって、暗闇など何の問題にもならないのだ。
だが、それは強風発生装置にライトを装着しているレッテも同じこと。彼女はジンが自らに再度鎖を投げつけたことを目視で確認すると、強風を発生させて彼が投擲した鎖の方向をずらし、反撃といわんばかりに風に乗せて釘を発射しながらある方向に向けて走っていく。
「なんか狙ってやがンなァ……? 良いぜ、乗ってやらァ! そっちの方が面白そうだからな、ギャヒャヒャヒャ!」
狙いを逸らされた鎖を引き戻しながら救急箱を取り外して構え、飛び交う釘の雨を救急箱で一掃しながらジンは走る。箱に当たっておらずとも、彼が繰り出す振りの風圧があれば『弾』の威力は死んだも同じ。ユーベルコードを用いて身体能力を強化しているからこそできる力技の防御である。
ジンはそのまま迷宮の中でレッテを追う。曲がり角がいくつあろうとも、レッテが逃げるために灯しているライトが彼女の逃げた道を指し示している。追跡はそう難しいことではない――。
その代わり、道中でジンを歓迎するのはレッテが仕掛けたトラップたち。彼女は糸と手紙を結び付けたものを逃げ道の至る所に仕掛け、誰かが糸に引っかかれば自動で手紙が勢いよく開かれるようにし、その中から工具を召喚させることで即席のブービートラップを作ってみせたのだ。
釘やトンカチのみならず、その手紙から召喚されていくのは多種多様な工具たち。工事現場での争いの際、レッテは大量に弾を補充していたということだ。しかし、ジンはそのトラップたちの存在に気付きながら――その上で、全ての罠を踏み抜いて走っていく。
折れた足への負担も罠を踏むことで被る影響も全く考慮せず、彼はただ進む。なにも顧みることなく、ただ前へと。だが、ジンの無策は正しい。追い詰められた相手を追うときは、拙攻が何よりも肝要だ。
「――ハァッ、ハァッ、着きました……!」
「ようやく見つけたぜ――鬼ごっこはもう終わりにしようや、レッテよォ!」
そしてレッテが辿り着いたのは、ディールの装備である改造戦車キューの残骸が存在する場所。彼女がこの場所を強風発生装置の風で歩行能力を補いながら目指していたのには訳がある。
――しかし、彼女が何かをする前に先に動くのはジン。彼は自らの骨折した腕をさらに派手に自分の腕で折り曲げると、橈骨を掴んで引きずり出し、鋭く折れ曲がってナイフのようになった自分の骨をレッテの胴体に向けて投げ放って見せたのである。
レッテはジンが放つ咄嗟の飛び道具に動揺しながらも、なんとか足を動かして致命傷を避けていく。しかし、そこへ更に飛んでくるのが救急箱だ。鎖につながれ、蛇のように闇を舞いながら動揺の最中にあるレッテに襲い掛かっていくそれに対し、彼女は強風発生装置を咄嗟の盾にすることで難を逃れる以外に選択肢を持ち合わせていなかった。
「まず――ま、眩しい……!?」
「オレを見なァ~、レッテ! オレ様を見て、――救われてけやァ!」
レッテに最早風はない。気を付けるべきは手紙と工具のみ。ジンは強風発生装置の破壊を目視で確認するや否や、自らの身に宿した光の輝きを最大出力で放つことで彼女への目くらましを行いながら、折れた足の骨を用いての鋭利な一撃を彼女の心臓に食らわせようとして跳躍を行う。
勝負は、次の一手で決まる。
●そして闇が消える
ジンの身に宿る光の光量は、彼の思いのままに変えることができる。そして、彼が放つことができる最大の光量とは即ち――この曲がりくねった迷宮内に広がる全ての闇ですら、一瞬の間照らすことが叶う光だ。
であれば、その光の影響、あるいは恩恵は――戦いの真っ最中である巽とラーガにも届いていた。
吐血の後に巽が自らの獲物を手放したことは間違いない事実。しかし、彼は恣意的にそれをやったのだ。わざと獲物を落としたのである。その理由はたった一つ。ジンが生み出した光によって一瞬視界を取り戻した巽は、迷宮の床に光に反射して輝くあるものを発見していたからだ。
――レッテが先ほどキューの砲身に打ち込んだ脇差。キューの破壊と同時に吹き飛ばされたものがここに落ちていたのだろう。後は自らの吐血を利用してラーガを誘い込み、わざと太刀を音が出るようにして手放した上で、倒れ込んだふりをしながら脇差を拾い上げればいい。
巽の無明は暗闇によるもの。ラーガの無明は失明によるもの。だからこそ差が出た。だからこそ――ほんの一瞬の光の中で見つけたこの脇差は、最後までラーガに気付かれずに放てる隠し牙に成り得るのだ。
「死ンでくだせエ、旦那アアア!!」
「ッ、アアアアアアア!!」
膝から倒れ伏した格好の巽の首を狙って、ラーガは前へ飛ぶ。跳躍しながら大きくダガーを振りきることで攻撃範囲を広げ、視界の差をカバーしようという作戦だろう。薙ぎ。
対して、巽も前へ踏み込んだ。クラウチングスタートのような格好になりながら、脇差を自らの奥手に構え、ただ大きな一歩を踏みこんで腕を伸ばした。突き。
勝負の差は、薙ぎと突き、それぞれを繰り出す時間の差か。もしくは、踏み込みの差か。一瞬の視界の中でラーガを捉えていた巽は、目の見えない彼よりも大きく前へ踏み込んでいた。
その結果、巽の放った突きの方が素早くラーガの心臓を抉り、彼に止めを刺したという訳だ。
六人目の脱落者は、ラーガ。
「――ヒ、ヒヒヒ……や、やっぱ……盗みなンざ、見せびらかすモンじゃ、なかったンですかねエ……」
「……それも、貴方のチカラでしょうに。チカラに貴賤なんてありません。……今回は、私が勝った。それだけです」
「ハハ――殴り合いも出来て懐も広エとは魂消ましたなア! 良いでしょう、あっしの負けでさア。面白かったですぜ、旦那」
ラーガが脱落したことによって、闇の迷宮は解除されていく。チカラは巽の手に戻り、そして戦いは続いていく。
「ええ。終わってみれば――私も、満足しましたよ。ただ、ああ……、少し……疲れて……」
――だが、ラーガの獲物には麻痺毒が仕掛けられている。麻痺、そして著しい失血。二つの要因は、巽から意識を根こそぎ奪っていった。
血を失った彼の身体が冷たくなっていく。七人目の脱落者は、巽だ。
そして、バトルロイヤルは最終局面に向かう。
●ラストスタンド
「――ああッ!? ……そうか、アイツらかァ!」
「迷宮が、解けたんですか……!? 今ならっ!」
ラーガと巽の決着が付いたころ、ジンとレッテの戦闘も佳境に差し掛かっていた。ジンの身に宿る光がレッテの目をくらませ、その隙に彼が更なる追撃を仕掛けたその瞬間――闇の迷宮は解け、そして辺りに一面の光が差した。
迷宮の解除は闇に目が慣れていた二人に等しく光を与えていく。攻め込もうと動いたジンに僅かに隙ができる――。
「知ったことじゃねェなァ! ここで引くのも面白くねェしよォ! いくぜェレッテ! オレに勝つつもりなら、全力でそいつを試してみやがれェ! ギャ~ハハハハハハハハ!!」
「肉を切らせて、骨を――! これで終わりです、ジンさんっ!」
レッテはその隙を利用して、心臓と利き腕を守る形で体を捻って捌き、自らの脇に彼の骨による突きを受けながらも動く。
彼女が利き腕から放ったのは二枚の手紙だ。ジンに向かって過たず飛び、折りたたまれた手紙の中から召喚されるのは――崩れ落ちた改造戦車、キューから漏れ出している火炎放射器、『焼灼』の液体燃料である。
そしてもう一つの手紙から召喚されていくのは、主人を失ってもまだ燃え続ける火尖鎗――シャオロンの炎槍、『爆龍爪』だ。
そう、レッテがこの場所を目指していたのはこの二つを拾い上げるため。彼女は他の参加者の装備を活かすことで、新たな勝ち筋としてみせたのである。
「グ、ギャ、ア、ア、ア――ヒャハハハハハハハハハハハハハ!!」
穴だらけのジンの身体に、液体燃料がよく染み込んでいく。炎が燈り続ける槍の刃が、ジンの胸にひときわ大きな穴を開けていく。
もしも高速道路上での戦いの中で、ディールかシャオロンのどちらかを脱落させていれば、もしかするとこの場所に二つの装備が揃うことはあり得なかったのかもしれない。
しかし、これは戦術と運、巡り合わせと技術が錯綜して交じり合うバトルロイヤル。もしもの話を言い始めればキリがない。
だからこそ、この男は灼ける喉でそれでも笑いながら脱落していくのだ。今この瞬間、ジンは誰よりもバトルロイヤルを楽しんでいた。
「テメェの勝ちだ――楽しかったぜェ、レッテ! あばよ!」
「――ええ、ジンさん! あたしも――あたしも、楽しかったです!」
最後の脱落者は、ジン。そして、勝利したのはレッテであった。
何が勝利の要因になったか? そんなことは誰にも分からない。あるのは結果だけだ。そして、過程を論ずることに意味はない。
槍が踊り、弾が舞い、拳がうずき、銃火が奔り、弾丸が穿ち、鞭がしなり、風が吹きすさび、誰かが笑った、
血は出るが、痛みはなかった。骨は軋み、肉が捥げたとしても、痛みはそこに介在していなかった。
失血による意識の混濁はあっても、不能の心配はなかった。銃火も鉄刃もあるけれど、しかして死の恐れはなかった。
これは喜劇だ。涙も怒りも求めていない。楽しめたならば幸いである。
ともかくとして――Aim Battle Royale-No.01、これにて幕にございます。
大成功
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