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大祓百鬼夜行⑧~Wiedersehen

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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#カクリヨファンタズム
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#大祓百鬼夜行


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●グリモアベース
「皆々様、つかぬことをお伺いいたしますが、どなたか身近な方を弔われた経験はございますか?」
 リーンハルト・ハイデルバッハ(黒翼のガイストリヒェ・f29919)は浮上用ユニットの上に腰掛けて足を組みつつ、猟兵たちにそう告げた。
 確かに何とも、つかぬこと。意図が掴めず首を傾げる猟兵たちに、こう見えて数々の別れを経験しているリーンハルトは静かに笑いながら説明を始める。
「ええ、家族、恋人、友人、上官……想いの深い方であれば構いません。此度発見されました戦場にて、『死者の幻影と邂逅する』橋が発見されましたゆえに、ご案内に伺った次第です」
 その言葉に、猟兵たちが小さく目を見開いた。
 こういう役柄だ、大事な人との別離を経験している人間は少なくない。そして次なる戦場が、そうした別れた人と相まみえる場所だと彼は言うのだ。リーンハルトが説明を続ける。
「この橋……元は渡った者を冥府へと送る役割を持つ橋だった模様ですね。この橋で佇んでおりますと、お亡くなりになられた方が幻影として戻ってこられるのだそうです。佇む方と、縁の深い方が」
 口の前で指を一本立てながら、彼は話した。
 その言葉に何人かの猟兵がハッとした表情を浮かべる。この橋では死者と出逢う。自分と縁の深い死者が。そうした時、果たして自分は正常な心持ちでいられるか。
「そう、縁の深い、しかしもう現世では逢うことの叶わない方との逢瀬でございます。しかしこの逢瀬はここだけのもの。場所も変えず、ただこの橋の上で、想い人と夜が明けるまで語らうこと……それが、私からの依頼でございます」
 頷いたリーンハルトの言葉に、何人かがホッとした表情をした。これで戻ってきた想い人と殺し合え、なんてことになったら救いようがない。
 口角をそっと持ち上げながら、リーンハルトが盾の形をした紫のグリモアを手の上に浮かべた。それが、くるりと回転する。
「そうです、語らうだけ。切った張ったの立ち回りは此度は不要でございます。それを以て、橋を浄化する。さすれば道は開かれましょう」
 そう話した彼の後ろで、ポータルが開かれた。その前に立ちながら、黒のケットシーはゆるりと腕を前方に伸ばす。
「では、これより皆々様を『まぼろし橋』へとご案内仕ります。どうぞ、良き逢瀬を」


屋守保英
 皆さん、こんにちは。
 屋守保英です。
 Wiedersehen。ドイツ語で「再会」の意味を持つ言葉です。

●目標
 ・「想い人」を描写し、夜が明けるまで語らう。

●特記事項
 このシナリオは戦争シナリオです。
 一章のみで構成された特別なシナリオです。
 この橋に佇んでいると「死んだ想い人の幻影」が現れ、夜が明けるまで語らえば、橋を浄化する事ができます。
 プレイング送信の際は、「死んだ想い人との関係性」を明記していただけると、マスターとしてとても有り難いです。

●戦場・場面
(第1章)
 カクリヨファンタズムの橋にかかる渡った者を黄泉に送る「まぼろしの橋」です。
 ここで佇んでいると死んだ想い人の幻影が現れます。
 夜が明けるまでこの橋の上で幻影と語らえば、橋を浄化することが出来ます。

 それでは、皆さんの心の篭もったプレイングをお待ちしております。
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第1章 日常 『想い人と語らう』

POW   :    二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。

SPD   :    あの時伝えられなかった想いを言葉にする。

WIZ   :    言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

木々水・サライ
……想い人に会える……か。
それなら、俺をかばって死んだ両親に会いたい。
(会えるのは母親のみ)

……お袋だけ?
そうか……親父は、忙しいんだな。
医者として立派に働いてたんだ。向こうでもきっと、忙しいんだろ。
でも俺はそんな親父もお袋も、誇らしく思うよ。

ああ、お袋の心配はわかってるよ。
今の親父にいびられてないか、だろ?
大丈夫だよ。色々と任務で一緒になったりして、ツッコミ入れ……。
あれ……? 俺そう言えば今の親父にツッコミ入れてない日が……ない……??
……くそっ! 今の親父連れてくればよかったか!?

……ああ、そうだ。言うこと言っておかなきゃ。
2人がオブリビオンになってしまったら……俺は、必ず倒しに行くよ。



●縁は異なもの、味なもの
「……想い人に会える……か」
 木々水・サライ(《白黒人形》[モノクローム・ドール]・f28416)はまぼろし橋で夜空に浮かぶ月を見上げながら、ぽつりと呟いた。
 想い人に会える。そして夜明けまで語らえば、橋は浄化される。なんとも虫のいい話だと、依頼の概要をグリモア猟兵に聞いた時には思ったものだけれど。
「……ふっ」
 それでも、やはり期待してしまうのだ。会いたい。赤ん坊の頃、自分を犯罪都市からかばって命を落とした両親に。親というものの実態をよく分かっていないけれど、それでも会いたい。
 そんなことを何となしに思いながら橋の上で佇んでいると、こつりと、橋板を踏む靴音が聞こえてきた。
「……サライ?」
 不安そうにこちらを見つめる若い女性。顔が前髪で隠れてはっきり見えないのは、自分がはっきり覚えていないからだろうか。だが、それでも分かる。この女性が肉親だと、直感で分かる。
 だから、サライは不思議そうな顔をして問うた。
「……お袋だけ?」
「やっぱりサライだわ……ええ、そう。あの人は、忙しくてここまで来る時間が取れなかったらしくて」
 女性の方も確信が持てたのか、サライに近寄ってその両手を取った。自分が赤ん坊の頃に死んだ両親だ。今の自分と年の頃もそう変わらない。それでも、家族だと分かるんだろう。
 そして母親の言葉にサライは苦笑した。実の父親は医者だと聞いていたが、やはり忙しいのは変わらないらしい。
「そうか……親父は、忙しいんだな。医者として立派に働いてたんだ。向こうでもきっと、あっちにこっちに飛び回って忙しいんだろ」
「そうね……あの人は本当に、死んでも相変わらず」
 サライの言葉に苦笑しながら、母親もサライと一緒に夜空を見上げた。
 月が輝く。星が瞬く。夜はまだ長い。だが、話したいことはまだまだたくさんある。
 そこからは、とりとめのないことを互いに話した。どう過ごしている、仕事は何を、病気はしていないか。
「サライは、どう? ご飯、ちゃんと食べれてる? 仕事にかまけてご飯を抜いたりとか……」
「ああ、大丈夫。分かってるよ。それに、今の親父ともちゃんとやってる」
 その流れで何度目か、母親がサライを心配する言葉をかけてくる。それに小さく笑いながら、サライは自分が問題なく生活していることを話した。
 今の父親代わりである闇医者とも、トラブル無く生活している。何も心配することはない。その言葉に口角を下げる母親だ。きっと前髪の下では、眉尻も下げているのだろう。
「そう……それならいいんだけれど」
「大丈夫だよ。色々と任務で一緒になったりして、ツッコミ入れ……ん?」
 その流れで日々の仕事での、闇医者との関係性を話し出そうとするサライだったが、ふと。何かに思い至って言葉を止めた。
 そのまま口元に手をやって考え込み始めるサライを、母親が不思議そうな顔をして見る。
「サライ?」
「あれ……? 俺そう言えば今の親父にツッコミ入れてない日が……ない……?? くそっ! 今の親父連れてくればよかったか!?」
 と、そこでサライは大きな声を上げた。どうやら、思い至りたくない現実に思い至ってしまったらしい。
 やらかした、そう思ってうなだれるサライの横で、ふと母親の小さく笑う声が聞こえた。そちらを見れば、母親がおかしそうに笑っている姿がある。
「ふふふ……いいわ。楽しそうに過ごしてるって、分かったから」
「そ……そうか。なら、いいけどよ」
 その言葉に小さく顔を背けながら、後頭部に触れるサライだ。空を見ればもういい時分、頃合いだろう。
「……ああ、そうだ。お袋、言うこと言っておかなきゃ」
「何かしら?」
 真剣な表情で向かい合うサライ。彼の言葉に母親も口元を結んで対する。
 そしてサライは、静かに、しっかりと告げた。
「絶対、こっちには還ってくるなよ。もし二人が還ってきて、オブリビオンになってしまったら……俺は、必ず倒しに行くから。親父にもそう伝えてくれ」
 世界に戻ってきたら、自分が倒しに行く。再び骸の海に還しに行く。その決意表明に、母親は嬉しそうに小さく笑った。
「そうね……その時は、任せるわ」
「ああ」
 そう短く返す二人の横顔を、登り始めた朝日が照らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
俺が会う人は…多分じいさんだ。
俺の親…みたいな人だったんだ。
実の両親は…生きているか死んでいるか分からないけど、じいさんは…もう死んでいるからな。

じいさん、久しぶり。

俺、じいさんが望んだから、猟兵になったけど…
最近は、俺が人と世界を救いたくて、猟兵してるんだ。
失敗する事もあるけれど…でも頑張ってる。

あと、俺に家族が出来たんだ。
月の精霊様で、チィっていうんだ。
任務で助けた卵から生まれたんだ。

そうだ、俺、箸で麺が持てる様になった!
少しずつなら、箸で掴んで逃がさなくなったんだ!

なぁ…じいさん…俺…じいさんの傍に居たかった。
本当はじいさんを見送りたかったんだ…
独りで逝かせてごめん…ごめんなさい。



●躓く石も縁の端
 他方。木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)はぼんやりと、橋の上で月と星を見上げながら考えていた。
「俺が会う人は……多分じいさんだ」
 実の両親は、生きているか死んでいるか分からない。けれど死んでいないのだとしたら、ここには来ないだろう。だが、都月が「じいさん」と呼ぶ老人は、都月自身がその目で亡くなったことを確認している。
 猟兵になるように自分に勧め、老人が褒めてくれると思って猟兵となり、猟兵の仕事をこなして生活が安定した頃に戻ったら、既にこの世を去っていた老人。
「実の両親は……生きているか死んでいるか分からないけど、じいさんは……もう、死んでいるからな」
 そう、間違いなく亡くなっていることを確認しているのだ。妖狐のちからに気がついてから、自分に人間としての知識を教えてくれたのも老人だ。
 だから。山歩き用の靴のゴム底が擦れる音を聞いた都月の耳は、すぐにピンと立った。
「おお……都月か」
「……じいさん」
 じいさんだ。年老いてからも背筋のしゃんとした、それでいて肌のしわくちゃになったじいさんだ。
 思わず都月は駆け寄った。駆け寄って、老人に抱きつく。
「……じいさん!」
「ほっほっほ、大きくなっても、甘えん坊は相変わらずじゃのう」
 そう言いながら、老人は都月の頭を優しく撫でた。ああ、この手付き、この撫で方。あの時と一緒だ。ちっとも変わらない。
 都月は顔を上げながら言った。
「じいさん……俺、じいさんが望んだから、猟兵になったけど……最近は、俺が人と世界を救いたくて、猟兵してるんだ」
 都月の言葉に、老人は少しだけ驚いた顔をした。都月が自分の意志で、猟兵を続けている。そのことが意外に感じたのかもしれない。
 都月は目をキラキラ輝かせながら、嬉しそうにそう話す。
「失敗する事もあるけれど……でも頑張ってる」
「ほう、そうかそうか。あの小さかった小狐がなぁ。大きく、強くなったもんじゃ」
 その言葉に、老人が目を細めながら笑った。本当に、大きくなったものだ。今や猟兵の中でも抜きん出た実力者だ。
 と、そこで都月が老人から視線を外した。自分の羽織ったマントをぽんと叩きながら、家族を呼ぶ。
「あと、俺に家族が出来たんだ。月の精霊様で、チィっていうんだ。任務で助けた卵から生まれたんだ……チィ、俺のじいさんだぞ」
「チィ!」
「ほうほう。そうか、家族っちゅうもんはいいじゃろ。大事にしてやりなさい」
 マントの中から顔を出した白い毛皮の小さな狐に、老人が細めた目を大きく見開いた。チィをそっと指先で撫でながら、都月に家族が増えたことを嬉しく思う。
 と、チィと老人が問題なく触れ合っていることに目を細めた都月がもう一度、目を見開いた。
「あっ、そうだじいさん、俺、箸で麺が持てる様になった! 少しずつなら、箸で掴んで逃がさなくなったんだ!」
「ほっほっほ、そうかそうか。よかったなぁ……あの握り箸でしか箸を持てんかった都月がなぁ」
 都月が発した成長の証に、老人がからからと笑った。本当に、あの当時は箸もろくに使えなくて、老人は度々都月を厳しく叱ったものだけれど。
「それとそれと……あれ? これ……」
 そうしてあれもこれも、と話している内に、不意に都月の目から溢れるものがあった。
 それは、涙。両の目からどんどんと、涙が溢れ出して都月の頬を濡らす。
「……都月」
「なんだろう……急に溢れて……」
 手元でぐしぐしと涙を拭っていた都月だったが、ふと、老人の胸に額を当てた。
「なぁ、じいさん……俺、じいさんの傍に居たかった。本当はじいさんを、傍で見送りたかったんだ……」
 見送れなかった。独りで旅立たせてしまった。それが、都月のずっと後悔していることだった。
 あんなに良くしてくれたのに、あんなに面倒を見てくれたのに、あんなに家族のようだったのに。
「独りで逝かせてごめん……ごめんなさい……」
 はらはらと涙を流しながら謝る都月。その後頭部を、老人のしわくちゃの手が優しく撫でた。
「なんじゃ、気にせんでええぞ、都月」
「……じいさん?」
 ふと、都月が老人の顔を見上げた。すぐ間近にあるその顔が、柔らかく微笑む。
「わしはな、お前と暮らしとった毎日が、とても楽しかった。お前の傍にいる時の温かさが、とても心地よかった。その思い出は、今もわしの心の中に、しっかり留まっておる」
 都月の頭を、もう一度。優しく撫でながら老人はゆっくり告げる。
 寂しくはなかった。都月と過ごした思い出は、老人の中でずっと一緒だったから。
「わしは嬉しいぞ。都月がわしの言いつけを守って、わしの思っていた以上に、『人の幸せを守る、すごい立派な仕事』を日々、こなしてくれているのじゃからな」
「……じいさん!」
 その言葉に、もう一度、都月は老人を抱きしめた。
 嬉しかった。有り難かった。直接話ができたことが。独りじゃなかったことが。
 見れば既に、日が昇り始めている。橋の存在が朧げになる中、老人は静かに都月の背を叩いた。
「さあ都月、お前は他にも仕事があるんじゃろう。行ってきなさい……じいさんは、いつまでもお前を待っているから」
「……うん!」
 そして都月は、振り向いて走り出した。今度逢う時はきっと、もっと立派になった自分を見せてやるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

狸塚・雅紀
狸塚)死者との邂逅、一条戻橋みたいな話ですね
狐塚)でもご主人様が俺らをUC指定で向かわせる理由って…

現れたのは元の獣人仲間のリーダーの猫の獣人。
彼が倒される時、狸塚はキングの物になり、狐塚も一緒に倒された後にキングに拾われた。この二人が一緒にいるという事の意味は理解される。そして二人もまたそちら側に誘われる。

狸塚)裏切ったのは認めますけど、ご主人様と狐塚君は裏切れないしあげませんよ。僕の大事な、大事な…
狐塚)嫉妬してた時よりはマシ…なんすかね?だから狸塚君は大丈夫なんでアンタも良い人が見つかるといいっすね、猫田さん。ご主人様みたいに器がデカい人に。興味あるなら狸塚君が引くほど語りますけど?



●死生、命あり
 狸塚・雅紀(キング・ノーライフの従者・f29846)こと、狸塚・泰人と狐塚・雅紀の二人は「まぼろし橋」を二人並んで歩いていた。
「死者との邂逅、一条戻橋みたいな話ですね」
「でもご主人様が俺らをUC指定で向かわせる理由って……」
 そう話し合いながら、二人は橋の真ん中あたりで静かに佇んだ。そのまま、しばしの時が過ぎた後。
 雅紀がふと横を見て、声を上げた。
「あ」
「狐塚君? ……あ」
 泰人も雅紀が向いたほうを見て、同様に声を上げる。
 そこに立っていたのは、パーカーのフードを目深にかぶった、緑色の目をした黒猫の獣人だ。夜闇の、灯りも少ない中で、目だけが爛々と光っている。
 その姿、二人には大いに覚えがあった。猫田・彰。二年前、長崎県のビーチで「バイト」をしていた時に、自分たちのリーダーだったUDC。
「よう」
「猫田君……」
「久しぶりっすね……えーと、もう後少ししたら、二年っすか?」
 底冷えのする声色で声をかけてくる彰に、泰人と雅紀は少しだけ目を細めた。
 ああ、やはりだ。かつての自分たちがそうであったように、彰は未だUDC「街を往く獣人」そのもの。世界を憎み、人の営みを憎むオブリビオンだ。
 何とも言えない表情をする二人を見て、彰がすんと鼻を鳴らす。
「その感じ……なんだ? お前ら、遂に『そっち側』に行っちまったってわけか? UDCだったくせしてよ」
 二人の身体から濃密に立ち上る気配は、明らかに猟兵のそれだ。それはどうやったって隠せるものでもない。故に泰人は、早々に頷いた。
「……ええ、その通りですよ」
「俺たちのこの身体は、ご主人さまに用意してもらったものっす。ま、普段は二人で一緒に使ってるんっすけどね」
 雅紀も同様だ。彰に自分たちの有り様を、猟兵として歩みだしたことを告げる。
 それはきっと、彰にとっては聞くに堪えないことだっただろう。二年前までは同じ集団に所属し、その集団のために悪事を働き、人を、世界を憎む存在だったはずだ。
 それがたった一度の出来事で変わってしまった。ただ骸の海に共に還るのではなく、猟兵の傘下に入って子分としてあくせく働くだなんて。
「気に入らねえな……あのスカした黒髪の男だろう? 裏切って配下に収まるだけじゃ飽き足らず、お前らはそのご主人様とやらと同じ生き物になったわけだ」
 憎々しいと言った心情を隠しもせず、彰は二人に憎悪の言葉をぶつけた。嘲るように、嘲笑うように。
「やめちまえ、やめちまえ。つまんねぇだろ、人間ごっこして生きるなんざよ。UDCアースは窮屈だ。人間以外の存在を認めちゃくれねえ。お前らもそれは、十分分かっているはずだろ」
 彼の言葉を、二人は静かに聞いていた。
 間違いではない。自分たちも、ご主人様に抱えてもらうまではそう思っていた。こんな世界はつまらない。人間しか存在し得ないだなんて、そんな傲慢さは許されない。
 だが、今は違う。
「……ふふ、そうかも知れませんね」
 泰人がうっすらと笑いながら、まっすぐに彰に視線を返す。そして雅紀の肩を抱き寄せながらきっぱりと言った。
「裏切ったのは認めますけど、ご主人様と狐塚君は裏切れないしあげませんよ。それに鼬川君も」
「なっ」
 その物言いに、ぎょっとしながら言い淀む彰だ。肩を抱かれた雅紀も、小さく肩をすくめて話す。
「ま、UDCを……オブリビオンを裏切ったのは認めますよ。でも、猫田さんと一緒にバカやって、人間に嫉妬してた時よりはマシ……なんすかね?」
 そう話しながら、雅紀はふと橋の向こうの夜空を見た。月が浮かび、星が煌めいている。この夜空は、きっとあの世界でも同じ空だ。
「あの世界にはいろんな人がいるっすよ。俺たちはご主人様の下で働いて、そのことをよく知ったっす。人間じゃないのに、それでも人間と一緒に手を取り合って生きようとする人も、同じ人間を憎んで食い物にする醜い人も」
 泰人と雅紀が猟兵として活動を始めたのは最近だ。しかしそれまでのおよそ二年間、彼らはご主人様の指揮の下、様々な現場に呼び出されては働いてきた。
 UDCアースだけではない、いろいろな世界に行った。いろいろな人を見てきた。自分たちが見ていた世界が、どれほどちっぽけだったのかを知った。
「だから、狸塚君は大丈夫っす。アンタにも良い人が見つかるといいっすね、猫田さん。ご主人様みたいに器がでかい人に」
「……」
 雅紀がにこやかな笑みを見せながら言う言葉に、彰は憮然としたまま答えない。
 彼がどう思うか、この先どうするかは、彼次第だ。自分たちがどうこうできる問題ではない。だが願わくば、彼の先の道が明るいものであるようにと。
 そう思いつつ、雅紀はすすすーっと、彰の背後に回り込んで言う。
「興味あるなら狸塚君が、引くほど語りますけど?」
「バッ、あるか! っておい、狐塚、離せ! お前最初から逃がす気ねぇだろ!」
「あるわけないでしょう、夜が明けるまで語れっていうのが仕事内容なんですから。いいですか、そもそもご主人様は――」
 抵抗する彰だが、それを許さないとばかりに泰人がマシンガントークでご主人さまの素晴らしさを語り始める。空が白みだす頃までその賛辞は続き、彰はほうぼうの体で逃げ帰ったと言う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

七那原・望
お久しぶりですね、アネモネ姉様。

ずっと昔、わたしを近くて遠い場所から見守り続けてくれていた義理の姉。
ある戦いで自分の生命と引き換えにわたしの未来を護ってくれた人。
直接話す機会は少なかったけれど、皮肉屋だけど優しい、初めてわたしに希望を与えてくれた人。

わたしは今も愛しい彼と一緒に生きてるのです。
こうして今ここに立っていられるのはアネモネ姉様のおかげなのです。

だからありがとう。愛してくれて、護ってくれて、導いてくれて、たくさんの希望をありがとうなのです。

これからもどこかでわたし達の事、見守っててくださいね。

口調:私、望様、ですぅ、ますぅらでしょお?ですかぁ?
10代後半のわたしそっくりの赤目の女性。



●沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり
 他方。七那原・望(封印されし果実・f04836)は静かに、「まぼろし橋」の上で佇んでいた。
「……」
 風の音、川のせせらぎ。そしてこつり、こつりと聞こえてくる、パンプスのソールが橋板を踏む音。
「あらぁ、そこにいるのは望様ですねぇ?」
 そして間延びのする特徴的な話し方。間違いない。この声の主を望はよくよく知っている。声のした方に顔を向けて、その人物に声をかけた。
「お久しぶりですね、アネモネ姉様」
「はいぃ、お久しぶりですねぇ、望様?」
 アネモネ、そう呼ばれた女性は、赤い目を細めながらゆるりと微笑んだ。
 年の頃は望よりも一回りほど上か。だが姿は生き写しか、というくらいにそっくりだ。姉、と呼ぶのも頷ける。
 その姉に、今はもう現世で逢うことの叶わない姉に、望は静かに声をかけた。
「アネモネ姉様……ありがとうございます」
「なんですかぁ? 今更お礼だなんて、改まっちゃってますねぇ」
 はぐらかすように、からかうようにアネモネは笑って言った。その言葉に頭を振りながら、望は確認するように、言い含めるように言葉を重ねていく。
「アネモネ姉様。ずっと昔、わたしを近くて遠い場所から見守り続けてくれていた姉様。ある戦いで自分の生命と引き換えにわたしの未来を護ってくれた人……直接話す機会は少なかったけれど、皮肉屋だけど優しい、初めてわたしに希望を与えてくれた人」
 その一つひとつの言葉を、アネモネは静かに笑って聞いていた。微笑んで、目を細めて。そして望が口元に笑みを浮かべながら、自分の胸に手を当てる。
「わたしは今も愛しい彼と一緒に生きてるのです。こうして今ここに立っていられるのはアネモネ姉様のおかげなのです」
 そう話して、真摯に感謝の意を述べる望。その言葉を静かに聞いていたアネモネは、ますます嬉しそうに赤い目を細めた。
「そうですかぁ、それはとってもよかったですぅ」
「はい、だからありがとう、なのです」
 望はちゃんとお礼を言う。護ってくれたから。見守ってくれたから。
 今まで、ずっとお礼を言えずにいたのだ。傍にいて、見守ってくれていたのは分かっていたのに。だから、これを機にちゃんと言おうと思っていたのだ。
「愛してくれて、護ってくれて、導いてくれて、たくさんの希望をありがとうなのです」
 その御礼を。その感謝を。その想いをまっすぐ、直接送られて、一度アネモネが目を閉じた。
 しばらく、噛みしめるように胸の前に手を置くと。その赤い瞳が見開かれ、望の頬に手を触れながら返す。
「こちらこそ、ありがとうですよぉ。望はたくさんのものを、私が命を投げ出す代わりに見つけてくれましたぁ。たくさん、私には出来ないことをやってくれましたぁ」
 頬を撫でながら、アネモネは望に言葉をかけた。御礼の言葉を。たくさん、たくさん。
 そこにちょっとの皮肉を混ぜ込みながら、アネモネは望に優しく言った。
「私はずっと、ずーっと傍で、あるいは遠くで見ていたんですよぉ? ありがとうなんて想い、常から受け取っていてお腹いっぱいですぅ」
「……そうですか。よかったのです」
 その昔から変わらない言葉に、望はもう一度笑みを浮かべた。ああ、やはりこの人は変わらない、自分の姉だ。
 と、アネモネのもう片方の手が望の頬に振れた。そのまま軽く挟みながら、望に顔を近づける。
「それよりぃ、その愛しい彼とのこと、もっともぉーっと、聞かせてほしいですよぉ」
「え、えっと……こないだは、えくるんと……あっ、えくるんっていうのが彼のことなのです。それで……」
 望は戸惑いながらも、愛する人との話をアネモネに話し始める。一緒にどこへ行った、一緒に何をした、どんな風に過ごした、などなど。
 そうして話していれば、自然と時間も過ぎ去って。気がつけば空がうっすら白い。
「ふふ、そうですかぁ。いいですねぇ、青春って感じですよぉ」
 と、そこでアネモネが話は終わりとばかりに、望の頬から手を離した。そうして彼女からそっと離れる。
 アネモネが離れたことを確認した望も、改めてアネモネに真正面から向き合う。
「はい……アネモネ姉様。これからもどこかでわたし達の事、見守っててくださいね」
「勿論ですぅ。私はいつでも、一緒にいますからねぇ」
 そしてアネモネが優しく手を振る中、望は来た道を戻っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

瀬河・辰巳
仲良しだった熊かと思いきや、現れたのは子供の頃に死んだ母…罪悪感が…

ヴァンパイアに襲われた際、強要されたとはいえ、重傷の母から吸血した俺は止めを刺したようなもの。赦されはしないだろうけど、謝りたい。

「あのヴァンパイアは父さんが始末したらしい。あれから何処にいるか知らないけど…母さんのことが大好きだったんだな」

「ごめん、母さん、本当にごめん」

血の味を覚えた夜に初めて母に泣かれ、ショックで『普通の人間』として生きると約束したのに。時に父の様な姿で衝動のままに戦う自分は、もう論外だろうね。
ただ、もしも赦されるのなら。もう二度と本当の名前を呼んでくれないだろうけど、色んな話が出来たらいいな。



●有為転変は世の習い
 瀬河・辰巳(宵闇に還る者・f05619)は橋の上で自分以外の存在の気配を感じ、そちらを見た時、思わず声を漏らしていた。
「うっ」
 その声は明らかに、望まない結果が目の前にやってきたことの現れだろう。そんな声を目の当たりにした当の本人は、不思議そうな顔をして辰巳を見ている。
「……どうしたの? そんな顔をして」
「あー……いや……」
 辰巳はまごつきながら視線を逸らした。さすがに、言えない。仲良しだった熊がこの場に現れるかと思っていただなんて。
 そんな気まずさを振り払うように、辰巳は母へ、幼い頃に死んだ母へ声をかける。
「あの……母さん」
「なあに?」
 問い返してくる母。その顔をまっすぐ見られない。気まずい。
 しかしその空気を振り払うように、辰巳は深く、母に向かって頭を下げた。
「ごめん、母さん、本当にごめん」
 それは謝罪だった。辰巳に出来る精一杯の謝罪だった。
 彼はかつて、自らの母を自らの手で傷つけた。血を吸うという、自らの母が忌み嫌っていた方法で。
「ヴァンパイアに襲われた際、俺は母さんから血を吸った……強要されたとは言え、重傷を負った母さんから。止めを刺したようなものだ。赦されることじゃない」
 母はどんなにか悲しんだことだろう。どんなにか失望したことだろう。それを思うと、辰巳は心が引き裂かれんばかりだった。その罪を彼は、ずっとずっと、胸に抱いてきたのだ。
 頭を下げ続ける辰巳に、母は答えない。何も言わない。だが、しばし流れた沈黙、それを破ったのは母の方だった。
「そうね……私はあなたに、『普通の人間』として生きて欲しいと思っていた。約束もしたわね」
「……ああ」
 母の言葉に、辰巳は頭を下げたまま堪える。
 母と交わした約束は、これまでに何度も何度も破ってきた。夜に父に連れられ家を抜け出し、人を襲って血を吸ったこともある。猟兵の力に目覚めてからも、ヴァンパイアの本質を顕にして何度も敵を衝動的に屠ってきた。
 赦されない。赦されるはずがない。辰巳はそう思っていた。確信していたと言ってもいい。
 だが、そんな辰巳にかけられる言葉は、殊の外優しいものだった。
「でも、あなたは自分の力を、流れる血を理解して、正しく使っているのでしょう? 父さんのように奔放に使うんではなく」
「……そう、だと思いたい」
 母の言葉に、辰巳が僅かに頭を上げた。どうやら、思っていたのとは違う展開に進んでいるらしい。そしてそんな辰巳の目に入ってきたのは、母の柔らかな笑みであり。
「それなら、いいの。力を自分だけのために使うんじゃなく、他の力なき誰かのために使えるようになったのなら。私はあなたを嫌ったりしないわ」
 母の言葉は、明らかに彼を赦す言葉だった。許しの意思だった。
 その事実に辰巳が目を大きく見開く。顔を上げる。そして母をようやくまっすぐに見て瞳の端を潤ませた。
「母さん……!」
 言葉の端が振れる。涙を堪えるので表情は精一杯だ。これ以上、母の前で無様を晒すわけにはいかないという思いが先行する。
 と、そんな辰巳の前で、母はなにやら考え込む姿勢を見せた。
「……うぅん。いつまでもあなた、じゃなんだか他人行儀だわ。今はどの名前を使っているの?」
「え……あー」
 その突拍子もない問いかけに、辰巳の目から涙が引っ込んだ。すぐにぐしぐしと目を拭うと、少し気恥ずかしそうに告げる。思えば、随分と気取った名前をつけたものだと。
「……辰巳。瀬河・辰巳。そう名乗ってる」
「タツミ。そう、エキゾチックな響きだわ。素敵ね」
 辰巳の名乗った今の名に、母は好意的な感想を返した。日本人名に馴染みのない人物からしたら、確かにエキゾチックに響くだろう。
 そこから色んな話をした。家族のこと、友達のこと、仕事のこと。
 そして話を様々聞いて、夜が明けようかという頃。辰巳を呼ぶ名を得た母が目を細めながら問うた。
「タツミ、一つ聞いてもいいかしら……あのヴァンパイアは、もう死んでいる?」
 その問いに、辰巳の胸にちくりと棘が刺さる。だがそれを振り払うように、大きく頷いて辰巳は話した。
「ん……死んだよ。父さんが始末したらしい。あれから、何処にいるか知らないけど……母さんのことが大好きだったんだな」
「そう……安心したわ」
 その答えに、母はとても安心したようだった。辰巳の父も、きっとどこかで生きていることだろう。何しろ、そういう種族なのだから。
 と、白み始める空のもと。母がくすくすと笑いながら、辰巳に声をかける。
「よかったわ……タツミ、あなたがまだ、動物が大好きだってことが分かって」
「え、なんで……」
「ふふ、そこ」
 そう言って母が指差したのは辰巳のズボンの裾だ。そこには白い毛が、何本も付着している。サモエドのフロッケのものだろう。
「あ……あー。出かける前、ちゃんとブラシかけたのに」
「そういうものよ……身だしなみには、気をつけなさいね」
 そう返しながら、母は辰巳を送り出した。現世へと、明日へと、そしてこの先の戦いへと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

希那古・もち
とむらい…?(探してる人のことかなぁ)
ぼくの大好きなご主人、ここにいるかな?

あ、橋の上に優しそうな男の人!ご主人だ!!
わー!ここで迷子になってたんだね!やっと見つけた!!
ねぇねぇぼくご主人探すためにいっぱい冒険したんだよ!エライでしょ!なでて!!
ご主人探してる間もね、いろんなこといっぱいあったんだよ!
いろんな世界があってね、あとね…!
(お友達ができたこと、知らない世界のこと…たくさん話した!)

ところでご主人、『探し物』見つかったの?ぼくも一緒に行くよ!
え、手分け…?…うんわかった!ぼく賢いから一匹でも大丈夫だよ!
「思い出いっぱいできたら、僕にまた聞かせてね」
うん!じゃあ行ってくるね!またね!!



●明日は明日の風が吹く
 他方。希那古・もち(あまり賢くない動物・f24531)は、大きな橋の上をぽてぽて歩いていた。
「とむらい……?」
 黒猫のグリモア猟兵さんの話は、難しい言葉がたくさんでよく分からなかった。でも「探している人と会える」ということだけは、なんとか分かった。
 もしかしたら、自分の探している人も、ここでなら見つかるかもしれない。そう思って、もちは一度立ち止まった。真上の空では、星がきらきら輝いている。
「ぼくの大好きなご主人、ここにいるかな……あ!」
 と、空から視線を落としたところで、もちを真正面から見つめている男の人がいた。優しそうで、にこにこ笑っている男の人だ。もちはその人をよく知っている。
「あ、もち」
「ご主人だ!! わー! ここで迷子になってたんだね! やっと見つけた!!」
 男の人が自分を呼んでいる。もちはその呼びかけに応えて、ぴょんぴょん跳ねながら男の人のところに走っていった。尻尾をぶんぶん振りながら、男の人の足に鼻をすり寄せる。
 ああ、この匂い、この声、この感じ、間違いない。ようやく見つけた。
「よかった、もち、元気にしていたんだね」
 ご主人がかがみ込みながら、もちの顔に自分の顔を近づけて話す。そのご主人の顔に自分の鼻を近づけて、ぺろりと舐めながらもちは言った。
「うん! ねぇねぇぼくご主人探すためにいっぱい冒険したんだよ! エライでしょ! なでて!!」
「そうか、よーしよしよし」
 その言葉を聞いて、ご主人はいっぱいもちのことを撫でてくれた。何度も、何度も、もちがもういいと言うくらいまで。
 だって、今までずっと一匹で頑張ってきたのだ。ずっとこの手に撫でてもらえなかったのだ。
 だから、ぴょんぴょん跳ねてご主人の前足に前脚を乗せながら、もちは話した。もう離れないと言わんばかりの勢いで。
「あのねあのね、ご主人探してる間もね、いろんなこといっぱいあったんだよ!」
「そうか、そうだよね。ゆっくり話そう」
「うん!」
 そうしてもちとご主人は、夜が明けるまで話し合った。いろんな世界のこと、たくさん出来たお友達のこと、海、花火、パーティー。
 たくさんたくさん話して、気がつけば空がもうすぐ明るくなる。そこでもちはようやく思い出した。まだ、話していないことがある。
「ところでご主人、『探し物』見つかったの? ぼくも一緒に行くよ!」
「あ……」
 と、ご主人にそう声をかけると、初めてご主人が少し悲しそうな顔をした。もう一度もちの頭をなでながら、優しい声で言う。
「……そうだね、でも世界は広いから、二人で手分けして探そう」
「手分け?」
 その言葉の意味を、もちは少し考える。分かれて、何かを探すことを言うんだったか。
 ご主人がうっすらと笑いながら、もちに告げる。
「別々に、一人で探すんだ。もちは賢いから、一匹だけでも大丈夫だね?」
「うんわかった! ぼく賢いから一匹でも大丈夫だよ!」
 その言葉を聞いて、もちは短い尻尾を振った。ぴょんとご主人の足から前脚を離す。こうしてはいられない。
 ご主人が立ち上がった。もちに手を振っている。にっこり笑って振っている。
「よし。思い出いっぱいできたら、僕にまた聞かせてね」
「うん! じゃあ行ってくるね! ご主人またね!!」
 ご主人に元気よく一声告げて、もちはくるりと踵を返して走り出した。ご主人と話して元気をたくさんもらった。また明日から、目一杯頑張れる。
 そんな気がしてならなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月15日


挿絵イラスト