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大祓百鬼夜行⑧〜忘れがたき、大切な……

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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●グリモアベース
「……なるほど、こういうのもあるのね」
 複雑な感情で予知を見ていたアンノット・リアルハート(忘国虚肯のお姫さま・f00851)だったが、やがて覚悟を決めたように頬を叩くと猟兵達に向き直る。
「大祓百鬼夜行の新たな戦場が現れたわ、今度の相手は……貴方の心の中に居る!」
 勢い任せな様子で猟兵達にビシッと指を突き付けたアンノットだったが、これじゃ誤解を招くわねと小さく呟くと何度か深呼吸を繰り返し、改めて猟兵達に状況を説明する。
「今回向かってもらうのはまぼろしの橋という小さな橋よ。この橋には渡った者を黄泉に送る役割があるのだけれど、今回の戦争の影響か穢れを抱いてしまったみたいなの。だからこの橋を浄化して元通りにするのが目標よ」
 黄泉に送る。その言葉だけ聞くと恐ろしいものに感じるかもしれない、しかし命を失ったものが行き場もなくさ迷えばどうなるか……過去から蘇るオブリビオンと戦う猟兵達ならば想像できるだろう。
「それで肝心の浄化の方法なのだけど……橋の上にいると誰か来るはずだから、その人と世が明けるまで語り合うこと。それだけよ」
 そう言いながらアンノットは少しだけ顔を伏せ、何か思案するように黙ってしまう。未来を見れるグリモア猟兵であればやって来る「誰か」とはどのような人物なのかわかるだろうに、それすらも話そうとしない。
 いったい何を言い淀んでいるのか、猟兵達がそう疑問に思った時。アンノットはようやく重い口を開いた。
「……橋の上に来るのは、貴方達一人一人の想い人。既に死んでこの世にいない、大切な人よ」
 まぼろし橋は黄泉への橋、ならば当然その上を通るのは黄泉へ行く者のみ。
 橋の上に居れば猟兵の前に大切な人が現れる。ただし会える時間は夜が明けるまで、そしてこの時間が終われば二度と会うことはできなくなる。
 引き留めることも、着いていくこともしてはならない。ただその場で語り合い、そして別れる、それだけが猟兵に許されたことだ。
「具体的にどうするかは、貴方達に一任します、ただ一つ言えるのは……後悔だけはしないようにね。過去に捕まえられるって、結構辛いわよ」


マウス富士山
=============================
プレイングボーナス……あなたの「想い人」を描写し、夜が明けるまで語らう。
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●マスターコメント
 オープニングをご覧いただきありがとうございます、今回シナリオを執筆させていただくマウス富士山と申します。
 今回は戦争シナリオ。既にいない猟兵の大切な人と僅かばかり再開し、そして別れる。ただそれだけのシナリオになっています。
 プレイングには想い人との関係と何か後悔があるのならばその内容を書いてください。また内容の都合猟兵の過去や心情、人間関係に踏み込む描写が多くなるため、その点においてアドリブをしても良いという方はプレイングの冒頭に【●】と書いていただけると幸いです。
 オープニングの公開と同時にプレイングの受付を開始、皆様の参加を心からお待ちしております。
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第1章 日常 『想い人と語らう』

POW   :    二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。

SPD   :    あの時伝えられなかった想いを言葉にする。

WIZ   :    言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。

👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

夕月・那由多
【●】
遠き日に寿命で離別した、社を建ててくれた無二の友であり、秘めた恋の相手
寂しさを隠し友として笑って送り返す

●橋の上
はー!変わらずちびっこいとは、言うのー!
これ省エネモードなんじゃが?昔見せたじゃろ神々しい大人の姿もあるんじゃが?
相も変わらず、落ち着いた雰囲気と裏腹にはっきりモノを言う奴よ
…あの後も村の守り神を続けてたんじゃぞ
ほれ、思い出の場もこうして残し…え、今?
…ち、ちとヘマして封じられてる間に森になっておってな…すまん
その分かってた的な反応つらいのじゃが…
昔と違い人の世に混ざるのも上手くなって茶屋の仕事もたまにしておるぞ
日銭を稼ぐ?まあ確かにそうじゃが
いやそこまで貧乏はしておらんよ!?


人形原・九十九

橋の上に出るのは想い人…であれば、と予想はしておりましたが
橋の上に立つ自身と同じ姿の少女

はい、鏡や自身では無く彼女は人形原・八雲
九十九を購入し、もっとも大切にして頂いた方

あぁ!あぁ!再び貴方様と語り合えるなんて九十九は感激であります!
何を語りましょう、人形原家の方々について?今の世情について?はたまた昔のように愚痴や不満でも語り合いましょうか!

九十九は再び貴方様と語り合えるならどんな内容でも楽しくお聞き致します!


老婆へとなった八雲様を見て
もう行ってしまうのですね。ご安心を、今際の際の言の葉の通り人形原家を末代まで見守りましょう
九十九がそちらへ行ったらまた、昔のように抱きしめて眠って下さい…


レン・ランフォード
【●】
今だ記憶の戻らない私達だけど
それでも…それでも会ってみたいと思った…けど
現れた二人に、第六感が産みの両親であると告げても
何も思い出せず、話そうと思った事も言葉にできず
情けなくて、申し訳なくて色んな感情が混ざって
ただ泣きじゃくしかできない


和服黒の長髪緑の目をした蓮に似た優しい人
思いださなくてもいいと告げ抱きしめてくれた
でも郷の事やれんに似たおじいちゃんの事など
私の思い出せない10年を話してくれる


忍装束・黒髪・緑の目、目つきが錬に似て鋭い
性格も厳しいけど家族には甘い
生きて幸せになれと言ってくれた
その術を分身した錬に実践で教えてくれる

二人とも仇には一切触れない
私も今を話すのに手いっぱい


アマリア・ヴァシレスク
● 希望者:改造前の自分自身(当時のアマリアの肉体はほとんど現存しておらず、戸籍上も死亡扱い)

もう会えない人、ですか…私には改造前の記憶がないので、出会ったとしても実感があるかどうかわからない、です…
でも、それで少しでも何かが思い出せたら…

あ、誰か来ました…です。私よりずっと小柄な、赤髪おさげの女の子…?
…!? あの眼鏡、私の物と一緒…それに、あの鞄の中身はきっと…トランペット、です…!?

どうして…? まさか、貴女が『本当の私』…ですか? だとしても…えっと、何を話せば良いか分からない、です…
そうだ、この曲を知っているなら…もしかして…
(トランペットを取り出し、【楽器演奏】を行う)



●別れを告げるは誰そ彼
 黄昏が過ぎ、辺りを照らすのは月ばかり。橋の上で時を待つ夕月・那由多(誰ソ彼の夕闇・f21742)は少し落ち着かないように尻尾を揺らす。長い長い時の流れの中で、曇ることのない想い出が何度も頭の中で繰り返される。
 どのような表情をして会えばいいのか。友として送り出すのは決めたが、いざその時が近づくと細かいことばかり考えてしまう。
 堂々と構えてるべきか、それとも気軽に話しかけるか、それとも……心持ちが決まらぬままに那由多が橋の上をウロウロとしていると不意に彼女の耳がピンとたった。
「貴女は……」
 聞こえてきたその声を、聞き間違うはずがない。橋の向こう側からやってきたその人物は那由多の前までやってくると目線を合わせるように身を屈め……
「お孫さんでしょうか、もしや那由多様の代わりにお迎えを?……まだ幼いのに偉いですね」
 刹那、那由多の身体が高く飛び上がり目の前に立つ友の後頭部を勢いよく叩く。
「はー!久しく会って最初の一言がちびっこいとは、言うのー!」
 丁度頭を垂れるような姿勢になった友の後頭部に那由多の怒声が浴びせかけられる、もはや先程までの殊勝な態度はどこにもなかった。
「いえ年月も経ってるでしょうし、あまりにもお変わりなかったのでもしやと……」
「これ省エネモードにしてるだけなんじゃが??というか神々しい大人の姿を見せた覚えあるんじゃがー???」
「申し訳ありません、どうにも只人の記憶は移ろいやすいようで……ですが、もう会えないと思っていた方に迎えられるというのはやはり嬉しいものですね」
 そういって顔を上げた友の笑顔に、那由多は思わず口ごもる。整理できない混沌とした感情を表すように両手で空を揉んでいた那由多だったが、やがて諦めたように大きく溜め息を吐くといつものように悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「……相も変わらず、ハッキリとモノを言う」
 そう言うと那由多は綿毛でも飛ばすよう細く息を吐き、自らの手のひらから離れた神気を友にぶつける。するとどうだろう、周囲の景色が色を変え二人の見覚えのあるものへと変わっていく。
「わらわは迎えに来たのではない、送りに来たのじゃ……あの後も村の守り神を続けてたんじゃぞ」
 現れたのは小さな社。神を奉るものにしてはあまりにもささやかだが、那由多にとってこれ以上はない大切なものだ。
「これは、もう忘れてしまったものかと……」
「ふふん、実際はこうして残しておる。見直したか?」
「ええ、守り神を続けてくださったということも。貴女は力はあれどあまり深く考えないところがありますから、てっきり何かしでかして社と共に自然に帰ったものかと」
 友の言葉に那由多は天を仰ぎ、ゆっくりと顔を降ろすと共に視線をそらすように顔を横に向ける。明らかに図星を疲れた反応に友は何も言わず、ただ優しげに笑顔を浮かべている。
「す、すまん……」
「形あるものはいつか崩れます、夢や幻でもこうして残してもらえるだけでも嬉しいですよ……それよりも、今は何をしておられで?」
 懐かしむように桃の木に手を添える友の姿に申し訳ないものを感じつつ、那由多は腰に手を当てて自分の今を語る
「う、うむ!昔と違い人の世に混ざるのも上手くなってな!たまに茶屋の仕事なぞもしておるぞ!」
「…茶屋で、日銭を?」
「……うん?まあそうじゃな」
「ああ、なんと……まさかその身で稼がなければならない程に……もしやこの社を残していたのも……」
「…………いやそっちの茶屋じゃないわ!?そこまで貧乏はしておらんよ!?」
「なら安心です」
 何度目かの溜め息を吐いた那由多はそのまま友の顔を見つめ、どちらともなく我慢できなくなったように笑いだす。二人の頭上では、ユーベルコードが作り出した太陽がゆっくりと傾き始めていた。


●深い深い、闇の中に
「蓮」
 三人で一人の猟兵レン・ランフォード(近接忍術師・f00762)、その主人格である『蓮』はもう一人の自分である『れん』に声をかけられハッと我に返る。
「あ、ごめん。ボーッとしてた……どうしたの?」
「手」
 そう言ってれんが指差す先を見て、『蓮』はあっ……と小さく声を漏らす。いつからこうなっていたか、自分の手が固く握りしめられ、人形のように真っ白になってしまっている。
「ま、緊張する気持ちも分かるけどな。どうするよ、大典太より大きくて角なんか生えてたりしたら?」
「……かっこいい」
 最後の一人である『錬』とれんの掛け合いに、気を使われてるなと蓮は苦笑する。グリモア猟兵はこの橋には想い人が来ると言っていた、既にこの世には居ない大切な人だと。
 だがそれは、想い人に対する一切の記憶がなくとも来てくれるのだろうか?もし、夜明けまで待っても誰一人来なかったら……。
 恐怖が、焦燥が、蓮の手を握る力を強くする。抑え込んでるはずの震えが溢れそうになった時だった。
「レン!」
 自分を呼ぶ声がする。そう気づいた瞬間、暖かな何かに蓮の視界が覆われた。抱き締められているのだと気が付いたとき、不意に隣かられんの声が聞こえた。
「……おかあさん?」
 その言葉に、蓮は眼鏡が落ちるのも気にせずバッと顔を上げる。
 すぐ目の前に居るのは長髪の女性だった。黒い着物がよく似合っていて、その顔立ち……特に緑色の瞳は写真や鏡に写る自分のそれとよく似ている。


 だが、それだけだ。


 ああ、この人が私の母親なんだという実感があるだけ。驚くほどに動かない自分の心と記憶に、蓮の視界が醜く歪んだ。
「……レン?」
「ごめん、なさい……ごめんなさい……!」
 会えば何か変わるかもしれないと思った。
 思い出す者があるのかもしれないと思った。
 だがそう思ってしまった時点で、私は両親を記憶を取り戻すための道具として見てしまっていたのではないか?
 だからこれは、その罰ではないのだろうか。
 もはや言葉を紡ぐこともできず、ただ泣きじゃくる蓮を母は優しく抱き締める。
 何を語れば良いというのか、レンも母も言葉を見つけられず泣きじゃくる声だけが橋に響いていた時だった。
「レン」
 聞こえてきたその声は母のものとは正反対に厳しく、だがその芯に炎のような力強さを宿していた。
「過去とは影だ、常に形を変え続け、時には闇に紛れ見えなくなる……お前は忍の影をそう簡単に踏めるものと思っていたのか」
 黒装束に黒い髪、闇に紛れる外見で翡翠の瞳だけが月光によって刃のように輝いている。
「……思っちゃいないさ」
 その問いに、蓮に変わって錬が答える。少しだけ名残惜しそうに母の腕から抜け出した錬は睨み付けるように現れた男を見上げる。彼が何者なのか、既にレンは理解している。
「でもよ、わかってんだろう蓮がどんな気持ちなのか。わかってて最初に掛ける言葉がそいつなのか?」
「……手を出せ」
 あん?という錬の言葉を無視して、父は手の平を見せるように自らの腕を差し出す。訝しむように目を細目ながらも、その姿勢のまま動かない父に対して錬は渋々といった様子で手の平を合わせた。
「……なにあれ?」
「真面目なのよあの人、お爺ちゃんがれんみたいに気ままな人だったからその反動ね。それに加えて不器用で言葉足らずなものだから、蓮なんていつもお父さんを怒らせちゃったーて勘違いしてたんだから」
「なるほどー」
 母に抱かれたまま、父と錬を見つめる二人のレンの前で問答は続けられる。
「かつてお前の才を見て、闇の中に光ありと称したものがいた。どのような意味かわかるか?」
「さあな、そんだけ凄かったってことじゃねえか?」
「その者の前に影を隠せる者などはいない、という意味だ」
 その言葉に、錬の瞼が僅かに動く。
「視野を広く持て、追い込まれたということは正解以外の道がなくなったということだ」
「……じゃあその正解が、自分じゃ届かない場所にあったらどうするんだよ」
「それは届かないと思い込んでいるだけだ、見えたのならば必ず辿り着ける」
「…………わかんねえだろそんなの」
「届く」
 そう静かに告げた父は、重ねていた錬の手をグッと握り締める。
「このような手をした者であれば、どんな困難も必ず乗り越えられる。絶望に酔いしれるな、前を向け、どんな幸福でもその手に掴めると信じ、生きろ」
 それは錬だけでなく、レン全員に向けた言葉だった。
「ねえレン。お父さんは、私達の知らないレンの話を聞きたいみたいなの」
「……はい、友達が沢山できて、皆で遊んで、それから……そうだ、あの夜空の先、沢山の星の中で過ごしたりして……」
「凄いわねえ、小さい頃から会いたいって言ってた月の卯さんには会えた?」
 優しく撫でてくれる母の腕の中で、蓮は泣きながら今までの事を話し始める。
 その隣で父と二人のレンは静かにその話を聞きながら、輝く夜空を見上げるのだった。


●かつて見届けたその姿
 夜の闇が深まったころ、人形原・九十九(ヤドリガミの人形姫・f09881)はやってきた人物の姿を見て思わず両手で自らの口元を覆う。夜空に溶け込むような長い黒髪に絹のような白い肌、着物の模様や髪飾りの有無などを除けば、その姿は九十九と瓜二つの少女であった。
 少女の方も自分の同じ姿をした九十九に気が付いたのだろう。彼女は九十九の前までしずしずと歩み寄ると、丁寧な動作で頭を下げる。
「人形原の先祖の方とお見受けします。私のような若輩者をお迎えくださって、心より感謝を」
 十にもならぬような少女には不釣り合いな程に仕上げられた作法、不可思議な状況でも取り乱さすことのない冷静さ、硝子越しに見る彼女の姿はこうだったと思い出しながら九十九は膝を折り下げられた少女の頬に手を添える。
「八雲様、お顔を上げてください。今は作法など気にせずまたあの頃のように語り合いましょう」
 九十九の言葉に少女……八雲は困惑したように顔を上げじっと九十九の顔を見つめる。目の前にいる人物は何者なのか、少しだけ目を細めて九十九の姿を観察していた八雲は、彼女の身に着けている着物の模様を見てあっと声を上げた。
「……九十九、貴方もしかして九十九なの?」
「はい…はい、そうです八雲様!貴女様に大切にして頂いた人形、九十九でございます!」
「夢みたい、また貴方と会うことができるなんて!」
「九十九も、再び語り合えるなんて感激であります!」
 九十九の手をとり、年相応の少女らしい弾ける笑顔を浮かべて喜ぶ八雲を見て九十九の声にも感情の色が浮かぶ。
「何を語りましょう、人形原家の方々について?はたまた今の世情に……」
「あ、待って!そういう話は聞きたくないわ!」
 話を始めようとした九十九の口に、八雲の人差し指が当てられる。何か気に障るような話をしてしまっただろうか、九十九が一抹の不安を感じる中、片頬を膨らませながら八雲は語り続ける。
「それはきっと、私にとって未来の話でしょう?そんなものを聞いてしまったらそれが楽しいものでも辛いものでも未練が残ってしまうわ。ここまで来て現世に後戻りなんてしたら、皆に笑われてしまうわよ」
 そういう言ってほほ笑む八雲の姿は、いつの間にか先ほどまでの少女のものではなく老齢の女性へと成長していた。しかしピンと背を伸ばして立つその姿には、老いの弱弱しさというものが感じられない。名家の風格を背負うに相応しい姿となった八雲を見て、九十九は少しだけ寂し気に顔を伏せる。
「……では、どうしましょう。昔に戻ったつもりで愚痴や不満でも語り合いましょうか」
「あらあら、老婆の小言なんて若い子が聞いても楽しくないでしょうに」
「いえ、九十九は再び貴方様と語り合えるならどんな内容でも楽しくお聞き致します!」
 声を上げ自分の瞳をまっすぐ見つめる九十九を見て、八雲は柔和にほほ笑むとまぼろし橋の欄干にゆっくりと腰を掛ける。
「そうねえ……さっきはああ言ってしまったけれど、実はまだ心残りが少しだけあるの。聞いてくださる?」
「はい、喜んで!」
パタパタと九十九が八雲に走りよると、彼女は九十九の身体を抱き上げて抱きしめるように自分の膝の上に乗せる。それは自分の子供を抱き寄せるようでもあり、昔のように人形を抱きしめているようにも見えた。
 あの頃のように二人、誰にも話せない秘密の会話を。月に照らされ伸びる影は、瓜二つの少女の姿をしているのだった。


●いつかの、その姿
記憶を失い、想い人の顔もわからない。それでも誰か来てくれるだろうか……そう不安を感じている猟兵は一人ではなかった
「うぅ、果たして誰か来るのか……そもそも出会ったとして実感があるのかわからない、です……」
落ち着かない様子でぐるぐると円を描くように歩きながらアマリア・ヴァシレスク(バイオニックサイボーグ・f27486)は橋の向こうを見つめる。サイボーグである彼女は自身が改造される前の記憶がない、ゆえに記憶を呼び起こすきっかけになれたらと参加したは良いもののいざ対面したらどうすれば良いのか、まるで見当がつかなかった。
もし恋人など来たりしたりしたらどうしよう、などと不安のせいか思考が微妙にズレた方向に行き始めた時だった。
「おねえちゃん何してるの?です」
「はいです!?」
突然声を掛けられアマリアが咄嗟に声の方へ向くと、そこには赤髪のおさげをした小柄な少女が一人立っていた。アマリアが一人悩んでいる間にやってきたのだろうが、それでも近づいてきたことにすら気が付かなかったとは恥ずかしい。
「ふー……ごめんなさい、通るのに邪魔だったですか?」
 気持ちを落ち着けるように深呼吸をしたアマリアは改めて少女に向き直り、ふと少女が付けている眼鏡に視線が向く。何か特徴的なものがあるわけではない、どこにでもあるような黒のフレームをした大き目の眼鏡だ。だがそのデザインにはとても見覚えがあった、見間違えということもないだろう、鏡を見れば必ず目に入る、自分が身に着けているものと同じデザインの眼鏡だったのだから。
「まさか、貴女が『本当の私』……ですか?」
「へ?」
「あの、お名前は──」
「……おねちゃん実は変な人、です?」
「え、あ!?違いますです!決して怪しい者では!?」
アマリアの言動を見て、少女は警戒するように数歩彼女から離れてしまう。焦りすぎたとアマリアは自らのミスを自覚するが……。
(な、何を話せば良いか分からない、です……)
 相手は幼い子供だ、今の自分の状況を正確に話しても理解してもらえるとは限らない。それにまだ相手が何者かを判断する材料が眼鏡しかないのだ、友人や家族でお揃いのものを使っているという可能性も捨てきれない。だがしかし彼女は必ず『本当の自分』に繋がる何かを持っているはずなのだ、そのヒントを逃すわけにはとアマリアが会話の糸口を探し始めた時、少女が腰に下げた鞄に気が付いた。
「それ、トランペット…です?」
「そうです、けど……」
 少女の鞄の隙間から見える黒いケース、その中身がトランペットだとわかったアマリアは心の中で密かに拳を握り、自らのトランペットを取り出す。
「おねえちゃんもトランペットやってるです、この曲を知ってるですか」
 そう言ってアマリアが演奏を始めたのは、自分の中に僅かに残る過去の想い出。その旋律を聴いた少女は目を輝かせる。
「白雪姫の曲!今練習してるです!」
 そう言って少女が歌い始めるのは一人のお姫様が王子様に恋をし、その恋を叶えるために彼の待つ城へと向かう歌。楽しそうに歌うその姿を見て、アマリアは彼女が自分なのだと確信する。
 金管の旋律と少女の歌声が月夜に響き渡る。いつの間にか空の月は完全にその姿を隠し、その代わりに太陽が昇ろうとしていた。
 一夜の夢が、終わる時間だ。


●夜明けの頃に
「そろそろ時間かの」
 ユーベルコードで作った想い出の社。高く昇っていた太陽は沈み、黄昏の光が二人を照らす。
「……何か、心残りはあるか?」
「いえ、何も。素晴らしいひと時でした」
 二度目の別れ、あの時はどんな表情をしていたか……だが今は、友を心配させないように。互いに満面の笑顔を浮かべる。
「「さらば!」」
 声は二つ、地面に伸びる影は一つ、その影もまた黄昏の闇に飲まれて見えなくなっていく。闇に紛れるように、過去から去るように、月と星のみが煌々と輝き姿すら見える暗闇の中、一人歩みゆくのは誰そ彼。



「もう大丈夫?」
「……はい、後悔はありません」
 真っ赤に目を腫らし、マフラーは雨にでも打たれたようにぐしゃぐしゃで、それでも自分は大丈夫だと少女は母に笑いかける。本当は後悔もあれば、まだここに居てほしいという思いもある、だがそれは自分の我儘だ。この人達を巻き込んではいけない。
 そんな娘の姿を見て、母はその頬にそっと手を添える。
「全ての物事を完璧に覚えられる人なんていないわ、皆少しずつ過去を忘れていって……そして、その代わりに幸せな未来を紡いでいくの」
 だから、幸せにおなり。
 母の姿が消える、頬に残る温もりもいつかはなくなるだろう。
 前を向けと父は言った。頬に流れる涙を拭った少女は、勢いに任せるように立ち上がった。



「ねえ、私が最期に言ったこと……覚えてるかしら」
「家を、家族を見守ってほしい。貴方様はそうおっしゃいましたね」
「実はあれ、少し後悔してるの」
 かつて少女だった老婆は、かつて人形だった友人に思いのたけを語る。
「私の知ってる貴方は何がっても動じず、静かに私達を見守ってくれていた。でも、とても自由な今の貴方を見て……私の言葉は呪いになってしまってのではないかって」
 遠くを見る老婆は、きっとこの先友が生きる長い時に思いを馳せているのだろう。自分の寿命より遥かに長い、とても長いその時を。
「……そう思うのであれば、一つだけ我儘を言って構わないでしょうか」
「あら、生き返ってほしいなんてものは駄目よ?」
「いつか九十九がそちらに行ったらまた、昔のように抱きしめて眠って下さい」
「……ええ。それじゃあ、向こうで忘れないように頑張らないとね」
 少女の影が一つ、まぼろし橋に長く伸びる。約束ですよと呟いて、人形は一人その場を去った。



 演奏終えると、少女の拍手が響き渡る。橋の上に残っているのはもう二人だけ。
「おねえちゃん、上手です!」
「はい、ありがとう、です。それで──」
「その様子なら、『私』は大丈夫だって安心できるです」
「──えっ?」
 瞬きの一瞬のうちに、少女の姿は消えてなくなる。どこに言ったのだと周囲を見回しても、見えるのは朝焼けの光とそれを反射する川の流れのみ。
「……結局、何も話せなかった、です」
 名前も、どこから来て何をしていたのかも分からずじまい。情報収集としてみたら大失敗もいいところだろう。だけど、安心できると少女は言った。彼女は自分に託したのだろう、自分という存在そのものを。
 ならば、ここでぐずぐずしてられない。頬を叩いて、彼女は歩き出す。
 その足元から伸びた二つの影が一つに重なり、そして幻の橋から去っていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月15日


挿絵イラスト