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大祓百鬼夜行⑦〜月に白薔薇

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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 ふわり、明るい夜のすすき野に白い花が舞う。

 それは不可思議な光景だった。
 少し寂しげな薄野に迷い込んだように佇む廃墟に、真白い薔薇が咲き誇っているのだ。その白に隠れるようにして咲く、別の花もある。
 見上げれば大きな大きな満月が、割れている。
 ――その形はまるで、真白い薔薇の形に似ていた。

●うつつの月白
「白い花に、思うものはあるかしら」
 宵雛花・千隼(エニグマ・f23049)は問いかけて、これもそうね、と片手に持った白曼珠沙華をくるりと回した。
「それから、月はお好き? ……今回お願いしたいのは、お月見なの」
 大きな戦いの最中ではあるけれど、息抜きとて必要でしょう、と小さく笑んで、案内人は少しだけ悪戯に首を傾げた。
「ただし、見て頂く月はすっかり割れてしまっているのだわ。……けれどそんなこと、些細なことでしょう?」
 月は割れてもうつくしい。それはカタストロフの幼生のかたちとして、白薔薇のような形を模していると言う。けれどもそれを気にする必要はなく――気にしてはいけないと、案内人はくすくす笑う。それを気にせず楽しむことで、カタストロフは消え失せるのだ。

「してほしいことはひとつ。お月見を楽しむこと。アナタたちに行っていただくすすき野は、ずっと満月の夜が続いている場所よ。ずっとずっと夜の中にいて、月は花と割れて、すすき野に白い花が咲いたの」

 咲いたのは、白い薔薇。薔薇はすすき野の中に佇む廃墟を覆い尽くすように咲いていて、屋根も窓ももはやない廃墟は座る場所だけを残し、ただ静かな月見場所となってくれるだろう。
「けれど、その廃墟がどんな場所かは、案内できないの。……辿り着いたアナタたちが見つけることで、それは形を得るようだから」
 それは記憶に在る場所。和庵か、教会か、秘密基地か――。あらゆるものの定義が不確かな幽世だからこそ、その場所は咲き誇る白薔薇に飾られるまま記憶を縁取り、訪れた足音を迎え入れるだろう。

 そして白薔薇に隠れるようにもうひとつ、白い花が咲いている。
 月明かりに探せば、その花は見つかるだろう。その花が何であるかは。

「アナタたちの心に聞いて。……花を探すも、想う場所で語らうも、アナタたちの好きなまま」

 ――どうぞ、カタストロフすら忘れる、素敵なお月見を。


柳コータ
 お目通しありがとうございます、柳コータと申します。
 二人でお月見デートしてきてください(要約)。

●案内
 こちらは一章で完結する『大祓百鬼夜行』の戦争シナリオとなります。
 以下ご注意ください。

 ※最大【ペア2組(4名)】をご案内する予定です。
 ※先着順ではありません。完結優先につき書きやすさ重視です。
 ※デートと言いましたが恋人関係じゃなくても何でもいいです。
 ※プレイングとステシしか見ません。
 ※想定外に増えそうなら同系統のものを出します。

●プレイングにあると筆が乗るもの
 ・明確な関係性、お互いの呼称。
 ・どんな廃墟が見つかったか。
 ・どんな白い花が咲いていたか。
 ・お月見どんな気持ちで楽しんでますか。

●プレイングボーナス
 幼生の事を気にしないようにしつつ、全力でお月見を楽しむ。
 とりあえずお月見をふたりで楽しんで頂ければ一番です。

●受付
 公開後22時〜採用ペア2組が決まり次第〆切ます。
 送信前になるべくMSページを確認の上、慌てずご参加頂ければ幸いです。

 以上、少人数になりますが、ご縁がありましたらよろしくお願い致します。
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第1章 日常 『月割れてるけどお月見しよう』

POW   :    全力で月の美しさを褒め称え、「立派な満月」だと思い込む。

SPD   :    賑やかな歌や踊りでお祭り気分を盛り上げる。

WIZ   :    お月見にふさわしいお菓子やお酒を用意する。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

百鳥・円
【揺籃】∞

幼くて柔らかな手を引いて
白い花道を歩みましょうか

満月も三日月も良いですが
割れた月もステキですね
今日この時限りのお月様、って感じです
記憶に残りそうでしょう?

ティア、ティア
愛くるしくて愛おしい
わたしの、大切なひと

何故だが名前を呼びたくなって
何度も、あなたを象る名を紡ぐ

白――勿忘草に見守られ
辿り着くのは廃教会でしょうか

月明かりに照らされたステンドグラス
割れた破片は宝石や飴細工のようで
神秘的でキレイですね

摘んだ白で、花の指輪を編んで
あなたの環指へと

あなたを忘れたくない
わたしを、忘れないで

指先交えて額を重ねて
あいしていると、伝えましょう

何があっても
どんな道を進んでも
この想いだけは、ほんとうです


ティア・メル
【揺藍】∞

ゆびさきをそっと絡め
ご機嫌に手を繋いで先を進む
白い花がいっぱい咲いてて綺麗だね

うんうんっ
この特別なお月様も風情があるよね
円ちゃんと一緒だから尚の事

円ちゃん、円ちゃん
ぼくの愛おしい大切なひと
優しくて綺麗で、宝石みたいにきらきらしてる
何度も呼ばれる度、円ちゃんって呼び返そう
愛おしさをいっぱいに込めて

勿忘草に囲まれた廃教会
淡い光が差し込んで幻想的だね
宝石も飴細工もぼく達によく似合う

忘れないよ
円ちゃんの事、何があっても忘れない
円ちゃんも、ぼくを忘れないで

勿忘草で指輪を編んで交換こ
月明かりに照らされた白い指に嵌めていく
額を重ね、淡く咲う
あいしてるよ

どんな道へ進もうと
この想いを抱えて
君の隣



●愛よりもいとしい君を忘れない
 やけに優しい夜だった。
 明るい夜は青に滲んで、静かな風がすすきを揺らす。秋の夜によく似ているのに、虫の声はひとつもしなくて、ただ静かな薄青の夜に真白い薔薇が咲いていた。
「何だか不思議な夜ですね」
 柔らかな亜麻色の髪をすすきと靡かせて、百鳥・円(華回帰・f10932)は一歩先に夜を歩く。すすきを踏み分ける軽やかな足音はふたつ。
「不思議って、あのお月様のこと?」
 一歩後ろから少しだけ跳ねるような足音で、ティア・メル(きゃんでぃぞるぶ・f26360)はひょこりと首を傾げた。その声に振り向いて、円はくすりと笑う。それから繋いでいたティアの幼くて柔らかな手を軽く引いた。ずっと触れていたくなるような、特別なぬくもり。
「それもありますけど、ずっとあなたの手を引いていたくなる、不思議な夜です」
「……えへへ、じゃあ離さないよ」
 ふにゃりと嬉しそうに笑って、ティアは細くて白い指先をそっと絡める。離れないように、離さないように。ふたりぶんの足音が重なって響いて、白い花がふたりの道を彩るように咲いていた。
 きれいだね、とティアが蕩けるような声で囁けば、綺麗ですね、と円がわらう。ふと重なった視線を同じように上げれば、同じ言葉で飾ったような月が見えた。

 終わらない夜に昇るのは、丸くて大きな割れた月。
 空から崩れて落ちそうな月は、薔薇のような形に見える。
「満月も三日月も良いですが、割れた月もステキですね」
「うんうんっ。この特別なお月様も風情があるよね」
 割れた満月。それは世界の終わり――カタストロフの幼生だと聞いた。けれどもその形は、ふたりきりの世界に咲く真白い花と同じ形をしている。明るい月を眩しそうに見上げて、円は繋いだ指先の力を少しだけ強くした。
「今日この時限りのお月様、って感じです。……記憶に残りそうでしょう?」
「きっと忘れないよ。円ちゃんと一緒だから、尚のこと」
 世界のおわりの、特別な月。その光の下で笑い合えば、世界にふたりきりのような気さえした。

 進むほど、すすきの中に紛れる白が増えてゆく。
「……あ」
 ゆっくりと歩み進んだ先に見つけた廃墟は、教会だった。
 屋根も、窓もない。百年も二百年も前に打ち捨てられたようなその教会は、かつて白亜であったのだろう。すっかり黒ずんで瓦礫が転がるばかりの壁を、かろうじて残った長椅子を、白い薔薇が代わりに彩るように伝い咲いている。
 全て壊れて忘れ去られたその場所で、唯一かたちを半分だけ残していたのはステンドグラスくらいのものだった。
「神秘的でキレイですね」
 まるで宝石や飴細工のようです、と円はひとつ、ステンドグラスの欠片を拾い上げた。
 かつては最奥で光に満ち溢れていただろうそれは、色とりどりの硝子片となって散らばり、その傍にも花が咲いている。
 けれど咲く白は薔薇ではなく――勿忘草。真白いちいさな花は、月明かりに淡く光る、ステンドグラスの柔らかな色に照らし出されて二人を迎えた。
「幻想的だね。……宝石も飴細工も、ぼく達によく似合う」
 ティアも同じように欠片を拾い上げれば、飴細工のような瞳を柔く緩めた。
「ほら、円ちゃんの色」
 見つけたのは、赤と青の色が隣り合う硝子の欠片。宝石のようなふたつ色の瞳を思い出すそれを月明かりに透かして、ティアは嬉しそうに笑う。その何処かあどけない笑顔を、円は愛おしげに見つめて微笑んだ。
「ティア」
「なあに?」
「……ティア」
「……うん」
 返事が返ったのはわかっていた。けれども何故だか名前が呼びたくなって、円は彼女の名前を繰り返す。覚えるように、思い出すように、忘れないように。

「ティア、ティア。――愛くるして愛おしい、わたしの、大切なひと」

 きっと、言わなくても知れていた。お互いに、その想いを繋ぎ合わせていた。
 けれど言葉にしたくて、声にしたくて。あなたが呼びたい。それさえきっと伝わっていたから、ティアもうれしそうに、愛おしそうに笑う。紡ぐ。

「円ちゃん、円ちゃん。――ぼくの愛おしい、大切なひと」

 蕩けるような声は、うたうように。けれどたったひとりのために応える。優しくて綺麗で、宝石みたいにきらきらしている大切なひとへ。ここにいるよと示すように、離さないよと伝えたように、互いの呼ぶ声を、忘れないように。

 それから少しだけ、繋いだ手を離した。その代わり細い肩を触れ合わせたまま、白い花を、勿忘草を摘んで編む。どうするんだっけ。こうするんですよ。くすくすと楽しげに笑い合って、互いに編み上げたのは花の指輪だ。小さな白い花が、月の光に照らされてきらきらひかる。
「ティア」
 ひとつ呼ぶ声で、円がその柔らかな手を取る。細い指に、勿忘草の指輪を嵌める。
「円ちゃん」
 確かに呼び返す声で、ティアがその真白い手を取る。細い指に、勿忘草の指輪を嵌める。
 それはとても神聖な儀式のようだった。二人以外誰もいない世界のおしまいに、廃れ果てた教会で、秘密の誓いをそっと交わすような。
 月明かりが、ステンドグラスを通して二人を淡く照らす。
 ふたりぶんの影が手を繋いだまま、音もなしに重なった。
 祈るように花の指輪を交わした指先を絡ませて、額を重ねる。
「……あなたを忘れたくない。わたしを、忘れないで」
「忘れないよ。円ちゃんのこと、何があっても忘れない。……円ちゃんも、ぼくを忘れないで」
 吐息がかかるほど近い距離で、祈って、誓う。
 小さな花にその想いさえ込めるように、いとおしいまま、互いの指を繋いで握って、重なった視線は互いの色で淡く咲う。

「あいしています」
「あいしてるよ」

 重なる声に、も一度わらう。こんなに愛おしいひとは、きっと世界のどこにもいないのだ。もしも世界が終わっても、きっとこの言葉も記憶も、なくなりはしない。
「何があっても、どんな道を進んでも。……この想いだけは、本当です」
「うん。どんな道へ進もうと、この想いを抱えて――君の隣」
 甘く笑って、瞳を閉じる。ふわりと月明かりと共に吹いた風が、白薔薇を、勿忘草を、ふたりの髪を揺らしてゆく。その光が、絶えようと。

 ――愛よりもいとしい君を、忘れることは絶対にない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

太宰・寿
英(f18794)と

英は仕事の相棒、でもなにより弟みたいな大切な子
共に歩き進めれば、
見つけたのは真っ白な霞草に囲まれた廃教会

ちょっと覗いて見ようよ
中にはやっぱり入れないかな?
お寺なら行く事あるけど、教会はないし廃墟だから尚更新鮮
座れるところに腰掛けて

出会った時、何も期待してないような、
全部諦めたような目をしてて
だから思い立って聞いてみる

貴方は、自分が幸せになることを諦めないと誓いますか?

あ、突っ込んで聞きすぎちゃったかな
この子が穏やかに過ごせたらいいという気持ちは本当
だからこそ、すぐ独りよがりな自分がでてくる
しまったと思うけど
頷く姿に安堵する

ふふ、はい。誓います

今日はいい夜だね


花房・英
寿(18704)と

寿は仕事の相棒、一番俺の事思ってくれる家族みたいなやつ
寿が転けないように先導

気をつけて覗けよ
崩れたら危ないからダメだ
きょろきょろ見回してて、今にも動き回りそうな寿の手を掴んで捕まえとく
あの辺座って見ようよ

急に問われた言葉に息を呑む
思いつきだろうけど
多分俺を心配しての言葉
だから
なにそれ
って呟いて、でも
誓います。…ホントお節介
ずっとそうやって過ごすつもりなんだろうか
俺にそんな価値なんてないのに

あんたは?
貴方は、自分が幸せになることを諦めないと誓いますか?

頷く姿に気持ちが温かくなる

うん、すごく綺麗だ
ここにあるもの全部、そう思える
寿がいるだけで俺は十分なのに、気づいてないんだろうな…



●ぼくらの孤独が下手になるとき
 夜が怖くなくなったのはいつだったろう。
 子供の頃かもしれないし、子供をやめた頃だったかもしれない。
 そんなことを何気なく考えて、太宰・寿(パステルペインター・f18704)は明るいすすき野の夜に足を進めた。
 明けることを忘れた夜には、まんまるな月が割れていて、夜空に咲く花みたいに、薔薇のような形を見せている。世界の終わりが形を成している月なんてそんなのは本当はとんでもない非日常で、怖がるべきなのかもしれない。けれども、ああ本当に割れている――なんて、のんびり見上げることができるのが、そういえば少し不思議だった。
「……上ばっか見てないで、足元もたまに見とけよ」
「え」
 ふと聞こえた声は、一歩前を行く花房・英(サイボーグのグールドライバー・f18794)のものだ。聞き慣れたぶっきらぼうで少し優しい声に、寿はきょとりとしてしまう。その呆けた声音を聞き分けたのか、澄んだ菫色の瞳が寿を振り向いた。
「え、って何だ」
「いやその、よくわかったなあって……英、こっち見てなかったのに」
「……見なくてもわかるよ、それくらい」
 すっかり呆れたように言って、英はまた前を向く。
 わかるのは、仕事の相棒だからというだけでもない。
 寿が少しのんびりしていて、とんでもないお人好しで、仕事には人一倍真面目で――自分のことを一番思ってくれる、家族のようなたったひとり。
 傍にいればその優しさもあたたかさも、危なっかしさだってわかる。だから手こそ引かないまでも、先を歩くのは英なのだ。こと危険に関しては、寿より鋭い自信があるし、何よりきっとあの変わった月に気を取られる足元の安全を守ることくらいはできる。

 そのまま静かな夜を歩き進めば、辺りに白い花が、薔薇が増えてゆく。ふたりぶんの足音を止めたのは、すっかり花に囲まれた不可思議なすすき野の真ん中でだった。
「ね、英見て。この薔薇、棘がないよ」
「見てもいいけど、寿。あれ」
「あれ? ……あっ」
 英が指差した先。すすきの中に埋もれるようにして建つ、廃墟があった。色は剥がれ落ちて灰色にくすみ、屋根も窓もないけれど、剥き出しに見える内側には咲き誇る白い花と、月明かりを浴びて輝くステンドグラスが見える。
 すすき野にあるにしては妙に浮いているのに、花に囲まれるそのさまは幻想的で、何処か絵画のように美しい。その景色に、寿は大きな瞳を輝かせた。
「ちょっと覗いて見ようよ」
「言うと思った。……気をつけて覗けよ」
 苦笑がちに頷いて、英と寿は廃墟と化した教会へと足を進めた。

 どれほど時間が経っているのか、すっかり人に忘れられて久しいのだろうその廃墟には、白薔薇と真白い霞草が咲き誇っていた。扉らしい扉は既になく、壁は崩れて、けれども椅子は形を残している。
「中にはやっぱり入れないかな?」
「崩れたら危ないからダメだ」
「……うう」
 お寺なら行くことはあれど、教会に行くこと自体なかなかない。廃墟となれば尚更新鮮で、好奇心は疼くばかりなのだけれど。英にすっぱりと却下されて軽くしゅんとした寿だったが、あちらこちらへと向ける視線は止めようもない。
「……あの辺座って見ようよ」
 今にもあちこち動き回りそうな寿の手を捕まえて、英は根負けしたように、しっかりとした形を残して霞草に囲まれた教会の椅子を指差した。途端にぱあっと輝いた表情に、もう一度手は捕まえ直したけれども。

 廃墟の教会の中からも、月はただただ大きく見えた。柔らかな月明かりが、色とりどりなステンドグラスを透かして真白い霞草に、二人に色を映す。
 綺麗だね、と呟いたのは寿で、ああ、と頷いたのは英だった。いつも二人で何気なく流しているテレビの音はなくて、ただ静かで怖くない夜がある。
 黙ったままで、寿はそっと隣に座った英を見た。整った顔つきは、家族のようで弟のように思っている寿から見ても綺麗だと思う。口にすると怒られそうだから、思うに留めているけれど。
 そのきれいな顔が、菫色の瞳が。出会った頃は何も期待していないような、全部諦めたような目をしていたのを、寿はよく覚えていた。たったひとりで、全て終わらせてしまいそうな。

「――貴方は、自分が幸せになることを諦めないと誓いますか?」

 問うたのは、思いつきみたいなものだった。誓いますか、なんて普段言うことはない。けれどここが嘗ての教会で、あの温度のない瞳を思い出したら、聞かずに居れなかったのだ。
「……なにそれ」
 英は、少しだけ息を呑んだようだった。菫色の瞳が丸くなって、眉間に皺が寄る。
(あ、突っ込んで聞きすぎちゃったかな)
 反射的にしまったと思う。こういうのは、悪い癖だ。家族のようで弟のようで、何よりも大切な子だとそう思っているからこそ、この子がこれからを穏やかに過ごせたら良いと思う。
 だからこそ、すぐ独りよがりな自分が出てきてしまう。
「あ、ごめ……」
「――誓います」
「……ん?」
 ため息。呆れ顔。呆れた声。それらで返された言葉に、瞬いたのは寿のほうだった。ぱちぱちと瞬く間に、英はもう一度ため息を吐く。
「……ホントお節介」
 唐突な問いかけが、どうせ思いつきなのはすぐわかった。息を呑んだのは、それが心から英のためだけに向けられた言葉だったからだ。心配をされている。そんなことは、ずっと知っているけれど。
(ずっとそうやって過ごすつもりなんだろうか)
 彼女は。寿は、英のことを心配して、大切にして、自分のことはすぐ後にしてしまう。
(俺にそんな価値なんてないのに)
 そう口にしたらきっと怒られるから、口にはしないのだけれど。

「あんたは?」
「え?」
「――貴方は、自分が幸せになることを諦めないと誓いますか?」

 問い返せたのは、きっとここが教会だったからだ。こんなこと、いつもだったら言えるわけがない。けれども問いたかったのは本当だ。それを、考えてほしかったのは本当だ。
 寿はまた驚いた顔で瞬いて、それから少し笑う。
「ふふ、はい。――誓います」
 ゆっくりと確かに返った頷きに、英はどこかあたたかな気持ちになった。この身体は、温度なんて知らなかったはずなのに。
「……今日は、いい夜だね」
 寿がいつもよりも柔らかく微笑んで、月を見上げる。その視線を追うように、英も月を見上げた。
「うん、すごく綺麗だ」
 花のような月も、咲いた薔薇も、小さな霞草も。ここにあるもの全部が、そう思える。
 そんなふうに考えられるようになったのは、いつからだったろう。
 静かな夜は二人でテレビを見て、何でもない話をして、ひとりとひとりが当たり前の二人になった。

(寿がいるだけで俺は充分なのに、気づいてないんだろうな……)

 視線を隣にやれば、楽しげに笑う。そんな日々が、どれほど幸せで、もう幸せになっているのだ、なんて。
 何となく繋いだままだった手を握る。
 月と花咲く夜に、ふたり。

 ――幸せが知らず上手になって、孤独が下手になったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月13日


挿絵イラスト