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大祓百鬼夜行⑧〜きみのて

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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#大祓百鬼夜行


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●きみのて
 霧がゆぅるりと、晴れていく。
 映るのは、橋。渡った者を黄泉へと送ると謂われる『まぼろしの橋』。
 そんなつもりではなかった。けれど、気が付くと。
 一歩、二歩。進めた足は、もうすぐそれを渡り切ろうとする――と。

『……、』

 手を引いたのは……だれ?
 嗚呼。嗚呼――それは懐かしく。
 絶対に忘れるはずがないのに、朧になった。

 “きみのて”だった。

●まぼろし橋の決闘
「あんたの手を引く」
 誰かが。誰が? それは。
「あんたの大切なひとらしい」
 死んだはずの想い人。忘れたことがないくらいに大切なひとの幻影。浮世・綾華(千日紅・f01194)は集まってくれた仲間に語る。
「手を引かれる。渡り切ろうとした瞬間」
 まるで、そっちに行ってはダメだと。貴方に伝えるように。
「なあ、あんたは――大切なひとの温度を覚えてる?」
 本当に? その記憶は、絶対だろうか。
 いつか繋いだ誰かの手の感覚は、寸分も狂うことなく、貴方の心にあるのだろうか。
 本当にその記憶の中で正しく生きているのだろうか。
 ――きっと、遠くなっていく。貴方が生きていく限り。
 忘れたくなくても、誰かを想う心が。その記憶を愛おしく美しいものにする。
 それは悪いことではないだろう。それこそが、貴方が生きる証でもあるのだから。
 けれど――。
「その手は、あの日の大切なひとと同じ温度をしてるんだって」
 繋がれるその手は、いつか確かに在ったもの。
 幻だということ以外、本物と差異がないものだという。
 骨張っていて、お世辞にも綺麗とは言えなかった。
 細く長く、折れてしまいそうだった。
 小さく、柔らかく、護りたいと思っていた。
 嗚呼、そうだ。こんな温度をしていた。
 橋の上で貴方は、愛しい感覚を手にする。
「勿論、手だけじゃなくって。幻影のそのひとはちゃんと其処に現れるから」
 今はいないその人と向き合って、夜が明けるまで語らってきて欲しいと男は告げる。
 そうすることで、橋を浄化することが出来るのだと。
「――お願いできるかしら」
 よろしく頼むよ。そう言って、貴方を橋へと送るのだった。


紗綾形
 紗綾形(さやがた)と申します。
 どうぞよろしくお願いします。

 こちらは、1フラグメントで完結する、カクリヨファンタズム『大祓百鬼夜行』のシナリオです。当シナリオではOPの通り、「手」に関する描写を丁寧にしたいと思っています。また、今回は≪ソロ参加のみ≫の受付となりますのでご注意下さい。

●プレイングボーナス
 あなたの「想い人」を描写し、夜が明けるまで語らう。です。
 想い人は死者、そして大切なひとであれば関係性は問いません。

●記載してほしいこと
 想い人について詳しくお聞かせください。
 口調などが曖昧な場合は、記載して頂いた内容のみの台詞となると思います。
 描写して欲しいことは全てプレイング内にご記載をお願いします。
 どうなってもいい! という挑戦者はアドリブ歓迎の◎をご記載ください。

●受付、採用について
 5月13日(水)8:31~の受付とし、OPの内容に合ったプレイングを掛けて頂いた方の中から、≪先着3名様≫を執筆します。5分程の誤差だった場合はダイスで採用を決めます。リプレイは16(日)に公開予定です。

 プレイング、お待ちしております!
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第1章 日常 『想い人と語らう』

POW   :    二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。

SPD   :    あの時伝えられなかった想いを言葉にする。

WIZ   :    言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

隠乃・皎
わたくしをこうした青年
懐かしくいとおしく憎い
この手でわたくしの頬も唇も、優しく撫で
嘘をつく

愛しているという嘘
馬鹿な娘はそれを信じて陸にあがれば一緒にいられると思ったのです
手がヒレで、足が人のものなら違っていたかしらと思うほどに

でもあなたは、人魚がほしくて
わたくしがほしいのではないと突き放した
ふふ、この手で

わたくしに優しかった手が、わたくしを拒絶したのは
悲しくて辛くて、好きなのに憎くて
沢山泣いたの

でも
もういいかしらと思うの
あなたを殺したいと憎むのも疲れました
それに死んでいるのだから、できませんし

愛しくて憎いあなた、さようなら
でもこの手のぬくもりは覚えていたいの
だからわたくしから、この手を離させて




 深い霧が、少しずつ晴れていく。
 晴れたところで、そこはぼんやりと月が照らすだけの宵の中なのだけれど。
 足を進めてしまう。どうしてか、分からない。
 歩む先に何があるのかも、考えられなくなってしまう。
 思考が消えそうになる。
 星を隠す雲のように、また流れ来る靄が。
 少女を、隠乃・皎(不全・f28163)を還してしまうその前に。

 繋ぐ手。優しく、大きな手のひら。
 海の底のような青は、あぶくが弾けるように瞬いた。
 振り返れば、揺れる。
 人成らざるその、うつくしいヴェールのような尾鰭が掠める先で。
 淡く――そして鮮明に浮かぶ懐かしい姿が在った。
 わたくしをこうした青年。
 懐かしくいとおしく――そして憎い。
 少女の白い頬を、柔らかな唇を辿る指先。 
 壊れもののように触れるその手のひらは、唇から零れる言葉は――嘘。
 彼が求めたものを、皎はもう、識っている。

『愛している』

 わたくしは馬鹿な娘でしたから。
 そううつくしい青は細められた。
「あなたを信じました」
 愛してくれるというのならば。
 陸にあがれば、ずっと。ずっと一緒にいられると思ったのです。
 手がヒレで、脚が人のものなら違っていたかしら。
 そんなふうに思ってしまうほどに。
 けれど、あなたが欲しかったものは違っていた。
「でもあなたは、人魚がほしくて」
 わたくしがほしいのではないと突き放した。
 欲しかったのは、こんなものじゃない。
 こんな、不完全な  ではないと。
「ふふ、この手で」
 皎は重ねる、その懐かしい温度に。――熱に。
 優しかったこの手が、自分を拒絶した。
 どうして、と思った。
 だから皎は悲しくて、辛くて。
 好きなのに、好きだからこそ想うほどに憎くて。
「――沢山泣いたの」
 そうして憎いと紡ぐ皎の穏やかな表情の意味。それは。
「でも……」
 もういいかしらと思うの。
「あなたを殺したいと憎むのも疲れました」
 それにもう死んでいるのだから、叶わないことだと。
 重ねた手を両手で包み、軈て。
 愛しくて、憎いあなた。
 でもこの手のぬくもりは覚えていたいの。だからわたくしから。
「この手を、離させて」
 この手に懐く想いは、皎だけのもの。
 苦しみや痛みを抱えて在る今は、ただ幸せと呼ぶには難しいのかもしれない。
 けれど、微かな想いを乗せて、放つように。
「さようなら」
 嗚呼、永かった――夜が明ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クラウン・メリー

お父さんっ!

俺の頭を撫でる手は
大きくてぬくもりのある手
その手からは消毒の香りがする

村でお医者さんをしていたお父さん
身長縮んだのかな?同じくらい!
瞳の色もいっしょ

「クラウン」

ちょっぴり涙が出そうになったけれど
俺は笑顔を魅せて

ピエロになったんだ!

話したいことがいっぱいあるのに
何から話せば良いのかわからなくて

「焦らなくて良いよ」
お父さんの手、握ると安心するな

お父さん、ごめんね
俺、お母さんを――

お父さんは言葉の代わりに頬っぺたを優しく撫でる
俺はいつもそれに甘えちゃう

ごめんね、ごめんね

「辛くない?」

大丈夫!これからも、この先も
それに友達がいっぱい出来たんだ

消える前に伝えたい俺の想い
お父さん、大好きっ




 夜明けを待つ橋の上。足を進めるひとりが、此処にも。
 その青年、クラウン・メリー(愉快なピエロ・f03642)にも、触れる懐かしい手のひらがあった。
 驚いたように目を見開いて、握られる感覚が、懐かしくて。
 振り返る。
「お父さん……!」
 会えなかった、幻だっていつも現れるのはあなたじゃない。
 だからそれが本物じゃないと分かっていても、嬉しかった。
 素直に、心が弾んだ。
 大きな手が、天使の頭を優しく撫でた。
 じわりと滲む温もり。香るのは消毒の――。
 同じくらいの目線にある眸は三日月のように、綺麗に微笑んでくれる。
「クラウン」
 お父さん。クラウンの、故郷。
 生まれ育ったダークセイヴァーの村で、医者をしていたお父さん。
 いつもはお喋りが大好きなクラウンも、今ばかりは。
 すぐに言葉は出てこなかった。
 じっくり見つめる。確かに其処にいる。あの頃と同じ――でも、少しだけ違うと思ったのは。
「――お父さん、身長縮んだのかな?」
 だって、同じくらい。
 そうじゃないよって笑う。
「クラウン、背」
 伸びたなって、笑う。
 話したいこと、いっぱいあるのに、何から話せば良いのか分からなくなった。
「焦らなくていいよ」
 そう言ってくれる声に、ちょっぴり涙も出そうになったけれど、ぐっと堪えて。
 クラウンは笑う。だって、そうだ。自分は――。
「お父さん、俺ね、ピエロになったんだ!」
 涙のマークを指した。この涙は、馬鹿にされながらも観客を笑わせる――心のうちの悲しみを現している。そう教わった。でも、クラウンは違う。
 例え馬鹿にされたって構いやしないのだ。
(「それでみんなが笑ってくれるなら、それが何より嬉しいことだから」)
 故郷ではどうしたって、みんなを笑顔にすることは出来なかった。全部壊れて――……自分が、壊して。
 クラウンの考えていることを察したのか、握り直してくれるてのひら。
 その温かさに、安心する。
「お父さん、ごめんね」
 震える声を、お父さんはどう思っただろう。
 心配しないで、って、どうしたら伝わるんだろう。
「俺、お母さんを――」
 続く言葉が、上手く出てこない。
 代わりに伸びた手が。流せない涙の代わりの青い雫を撫でるから。
 クラウンは瞼を閉じて、委ねるように頬を寄せる。
「……ごめんね、ごめんね」
 お父さんの大好きだった、お母さんを。俺が――。
 謝り続けるクラウンに、お父さんは心配そうに尋ねた。
 ――辛くないかと。
 クラウンは、手を重ねて瞼をあげる。
 心配させたかったわけじゃなかった。お父さんにも。
 例え幻でも。俺が笑顔にしたかった。
「お父さん、俺ね」
 大丈夫だよ。これからも、この先も。
「ね、お父さん! きっと聞いたら驚くよ」
 聞きたい? あのね!
 伝えたのは、友達がたくさんできたこと。
 あの村では、絶対に叶わなかったこと。
 ねえ、それでね――。
 たくさんたくさん、お話をして……嗚呼、もうすぐ夜が明けるね。
 消える前に、伝えたい想いがある。
 例え魂がここになくても。届けって、大きな声で。

 ――お父さん、大好きっ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪


想い人:亡くなった母、栗花落秋子
一人称:私
二人称:澪
口調:〜よね、〜かしら(普通の女性らしい口調)
オレンジの長い髪
華奢な体の綺麗で優しい人
※基本聞き役

正直…顔も、声も、思い出せないの
それでも
幼い僕を抱く手の温もり
家事で少しだけかさついた指の感触
僕の髪を撫でる前に僕の頬に触れる癖
ちゃんとわかるよ
本物なんだ、って

久しぶり…母さん

話したい事は沢山ある
友達の事
恋人の事
沢山の冒険譚に
色んな世界の、素敵な景色
辛い事もあるけど
それでも全部がかけがえの無い思い出だから

あのね、母さん
僕は今幸せだよ

母にもらった★お守りを手に
微笑みながらそっと母に抱きついて

いつも守ってくれてありがとう
お母さん…大好き




 薄く広がる霧の中、響くのは川のせせらぎだけだった。
 普段なら心地良いと感じるであろうそれは、今は何処か、不安を煽るように胸に響いたかもしれない。
 見上げる星は遠く、どうしてか、手を伸ばしたくなった。
 ゆらりと導かれるように掲げた手の先、仰いだ視線の先。
 ふわりと舞い降りるようにその手を握ったひとがいる。
 それは少年の、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)の――。
 明るい夕陽色の髪が、重力に逆らい揺れる。
 顔も、声も思い出すことが出来ない。
 けれど、識っている。確かにこのひとがと、一瞬で理解する。
 手にしたのは、幼い澪をいつも抱きしめてくれた温もり。
 握り返そうとして、微かに震える指先を。
 安心させるように柔く力が込められれば、家事で少しだけかさついた指の感触が伝わった。
 もう一方の手が、柔らかな頬に触れて。
 慈しむように辿ってから、さらさらと揺れる髪を撫でるのが、そのひとの癖だった。
(「ちゃんとわかるよ」)
 例えこれが幻影でも、その姿形だけは、本物。
 この感覚だけは本物だと、ちゃんと分かるよ。
「――久しぶり……母さん」
 呼べば微笑むその人は。
 華奢な体で、うつくしく、優しいそのひとは。
 澪の。今は亡き母親――栗花落秋子。
 母さん。そう口にした途端、目頭が熱くなる。
 今まで堪えていた何かが、溢れそうになる。
 話したいことがたくさんあった。
 他でもないあなたに、聞いてほしかった。
 仲良しの友達のこと。
 沢山の冒険譚に、色んな世界の、素敵な景色。
 辛いことだってあるけれど、そんなかけがえの無い思い出も全部。
 それから――大切な恋人が出来たって言ったら、驚くかな?
 ちょっぴり照れ臭いきもするけれど、ちゃんと伝えたい。
 ねえ、聞いて。母さん、僕ね――。
「あのね、母さん。僕は今」
 ――とても、幸せだよ。
 微笑む。紡ぐ言葉と共に、その胸にぎゅっと飛びついた。
 手の中にあるのは、母から貰った大切なお守り。
 きっとこのお守りが、いつだって澪を守ってくれた。
 傍らで、見守っていてくれた。
 そっと背に回される手から熱が伝わって。
「いつも、」
 いつも、守ってくれてありがとう。
 紡がずには、いられなかった。
「ありがとう、お母さん――大好き」
 明けの明星が輝く空の下、懐く感覚が消えていくまで。
 その温度を、手に抱きしめて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月16日


挿絵イラスト