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大祓百鬼夜行⑧〜爪痕

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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#カクリヨファンタズム
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#大祓百鬼夜行


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●爪痕
 橋だ。橋がある。
 それはカクリヨファンタズムの川に時折現れる、渡った者を黄泉に送る「まぼろしの橋」だ。
 現れる橋は、それぞれ違うのだろう。
 しかし、この橋に佇んでいると「死んだ想い人の幻影」が現れるというのは同じだ。
 その想い人と、夜が明けるまで語らえば、橋を浄化する事ができるという。

 今はいない、誰か。
 今はいない、大切な、あなたの心に爪痕残した人。
 甘いものか、凄絶なものか、それとももっと別のものか。
 それはあなたにしかわからないけれど、もう一度。

●願
 いつもは己のねぐらから出てくることはないのだけれども、幽世の危機と出てきたのは、思うところがあるからなのだろう。
 竜神の娘、隠乃・皎(不全・f28163)はお願いがあるのです、と猟兵へと言葉向ける。
「カクリヨの橋へと、向かっていただけませんか?」
 そこは不思議な場所。
 死んだ想い人の幻影が現れる場所なのだという。
「皆様にも、だれかしら――そういう方がいらっしゃるやもしれません」
 その方があなたにとって素敵な方なのか、それとも――と、その先は紡がれない。
 皎はいえ、踏み込みすぎでございますねと首をゆるく振る。
 でも、どなたかがあなたの心にいらっしゃるのなら、と。
「再度、出会う機会でございます。ですから、どうぞ心残りのなきように」
 わたくしがそちらへと皆様をお送りしますと彼女は言う。
 そして一晩語らい、見送っていらしてと。そうすることで橋は浄化されていくのだから。
 でも、お気を付けくださいと皎は言葉紡ぐ。
 ともに橋を渡りきってはいけませんと。ともに渡ったら、どこかへ――連れていかれてしまうから。
「あなたの心にいらっしゃるどなたかに、伝えたいお言葉があるのでしたら」
 どうぞその橋へ、お向かい下さいませ。
 皎はそう言って、手の上でグリモアを輝かせる。


志羽
 御目通しありがとうございます、志羽です。
 詳細な受付期間については【マスターページ】【シナリオ上部のタグ】で案内しますのでお手数ですが確認お願いいたします。
 プレイングが送れる限りは送って頂いて大丈夫ですが、すべて採用となるかどうかはわかりません。ご了承の上ご参加ください。

●シナリオについて
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「大祓百鬼夜行」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●プレイングボーナスについて
 プレイングボーナスは『あなたの「想い人」を描写し、夜が明けるまで語らう』です。

 もう二度と会うことの無い人と語らうことができます。
 恋人、親、親友、敵。関係はなんでもOKです。
 相手についてまるっとお任せは不可です。描写に必要であると思う相手の詳細をプレイングに詰めてくださいませ。
 当方は、こちらに届くステータスシートとプレイングしか参照しません。

 セリフなどは指定がなければ描写しません。ふんわりと、お返しします。
 セリフお任せの場合は、文頭に『🌈』と入れていただきましたら。が、イメージと違う、などの可能性もありますのでそのあたりを理解の上でお願い致します。

 また、あなたにどんな爪痕残した人かあると、とても嬉しいです。

●お願い
 グループ参加などの場合は、ご一緒する方がわかるように【グループ名】や【ID】を記入していただけると助かります。また、失効日が同じになるように調整していただけると非常に助かります。
 プレイング受付についてはマスターページの【簡易連絡】にて案内いたします。
 受付期間外に送って頂いたプレイングについてはお返しします。受付期間中であれば再送については問題ありません。
 また、シナリオの性質上、そして早めの完結を目指すため、団体さんについてはお返しとなる可能性がありますのでご了承ください。

 以上です。
 ご参加お待ちしております。
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第1章 日常 『想い人と語らう』

POW   :    二度と会えない筈の相手に会う為、覚悟を決めて橋に立つ。

SPD   :    あの時伝えられなかった想いを言葉にする。

WIZ   :    言葉は少なくとも、共に時を過ごすことで心を通わせる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

篝・倫太郎
橋の上、華焔刀を手に待つ

別に戦う為じゃなく
今、逢いたい人に見せたいから

待てば訪れるのは先代の華焔刀の使い手
俺の、祖父――

よぅ、じいさん

そう声を掛ければ少しだけ眉が上がる
それから、俺が手にした華焔刀へと視線が移って
瞳が柔らかく細められる、安堵したように

うん、凪は俺の手元にある
継承者の紋も背に出てる……

日輪の羅刹紋の中央にある
梵字のようなもう一つの羅刹紋、継承者の紋
それを聞けばくしゃりと笑うじいさんに
今度は俺が呆気に取られる
元々無口で無愛想な人だ……と想ってたから

あんたでも、そんな風に笑うんだな

そう笑って返して穏やかに朝を待つ

んじゃ、ちょっくら往って来るわ
あの世でも達者でな?

互いに頷いて背を向ける



●夜明けに背を向けて
 ぼんやりと浮かび上がる――橋。
 そこへと篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は華焔刀を手にやってきた。
 その手に華焔刀があるのは戦うためではない。
 見せたいのだ。
 今、逢いたい人に見せたいから――持ってきた。
 先代の、華焔刀の使い手に。
 その姿が橋の上に現れて倫太郎はくしゃりと笑み浮かべて声かける。
「よぅ、じいさん」
 それは倫太郎の、祖父。
 その声に現れた彼は少しだけ眉を上げ、ゆっくりと視線を動かした。
 倫太郎が持つ、華焔刀へと。
 朱で描かれた焔が舞い踊る黒塗りの柄。そして美しい刃紋が映える、薙刀。
 彼の瞳は、柔らかく細められた。
 安堵した、というように。
 嘗て己の手にあったものが、倫太郎の手にあることに。
 その緩やかな視線の動きに気付いて、倫太郎は彼にもっと見えやすいよう、華焔刀を己の前に、差し出して見せた。
 しかしぎゅっと、握って彼に渡す事はない。
「うん、凪は俺の手元にある。継承者の紋も背に出てる……」
 日輪の、『禍狩』の一族に受け継がれる肉体に刻まれた羅刹紋。
 その中央には、梵字のようなもう一つの羅刹紋が現れていた。
 それが、継承者の紋だ。
 嘗てそれを己の身に宿していた老人は、くしゃりと笑う。
 その表情にぱちくりと、倫太郎は瞬いた。
 え、そんな笑い方と驚き、そして呆気にとられる。
 こんな笑い方をするのは、おかしいかと彼は己の頬を撫でて。
 倫太郎は――いや、と首を振る。おかしい事はないと。
「無口で無愛想な人だ……と想ってたから」
 驚いただけ。でも、それは嫌なものではない。
「あんたでも、そんな風に笑うんだな」
 今度は、くしゃりと倫太郎が笑う番だった。
 倫太郎の祖父は、華焔刀の先代の持ち主も穏やかに笑って――朝を待つ。
 朝は、終わりの時間。
 話したことはそんなに多くないけれど、通じる何かがあった。
 倫太郎はにっと口端あげて。
「んじゃ、ちょっくら往って来るわ。あの世でも達者でな?」
 そういって、倫太郎は背を向けた。
 その背中へと――ああ、達者でなと声が向けられ、彼も背を向ける気配を感じた。
 夜が明けていく。それと同時に橋も、嘗てあったものも、ともに彼方へと消えていく。
 後に残るものを知るのは、己のみ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニノマエ・アラタ
🌈アドリブ捏造歓迎。

「待ってたわ」
スーツを着て、白衣をまとい、長い髪をまとめている。
ふわりと漂わせる甘い香りを鼻が期待して探してしまう。
いつもどおりの優しい笑み。
かつて好きだった……愛した女。
片想いであったとしても、大切な存在。
かつて自分は彼女に協力的な実験体で、
研究者である彼女を喜ばせた。
想い出せない、否、出さないのかもしれない
記憶の中に隠れている事実が
橋の上の彼女を形づくっているのかもしれない。
そう考えると、緊張してしまう。

好意を見せ、優しい言葉をかけられたとしても。
それ、皆に言ってただろ。
そう突っ込む。
…本当のことはわからない。
心のわだかまりが少しでも解けたなら
橋の浄化の足しになるさ。



●やさしい夜明け
 ぼんやりと、橋が見える。
 ニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)はこの橋か、と不愛想な表情変えずに足を進めていた。
 橋を渡りはじめ、その先に――人影を見る。
 その人物はニノマエが何かを言うより早く、笑み浮かべて。
「待ってたわ」
 スーツを着て、白衣を纏い。長い髪は綺麗にまとめられている女性。
 すんと、ニノマエは鼻を鳴らしてしまう。
 記憶の中にある、ふわりと漂わせる甘い香りを期待して探してしまったのだ。
 その香りもかすかにあった。
 いつもどおりの優しい笑みを浮かべている。
 そう、その表情だとニノマエは思う。
 彼女はかつて好きだった――愛した女。その想いは、ニノマエだけが向けていたもの。
 片想いであったとしても、彼女が大切な存在であることは変わりない。
「変わらないのね。それとも、変わったのかしら」
 ふふ、と笑う。懐かしいわねと紡いで。
 かつて、ニノマエは彼女に協力的な実験体で、彼女を喜ばせた。
 しかしそれだけなのだろうか――ニノマエにはわからない。
 想い出せない、否、出さないのかもしれない。
 好きだった、愛した女だと綺麗な記憶だけを覚えているのかもしれない。
 記憶の中に隠れている事実が、今目の前にいる彼女を形づくっているのかもしれない。
 そう思うと、そう考えると――意識も、身体も強張ってしまう。
 緊張して何も言えないままだ。
 そんな様子に彼女は苦笑して、一歩近づいてくる。
「眉間に皺が寄ってる。会えて嬉しくないの?」
 たとえ一時でも――私は嬉しいわよ、と彼女は言う。
 柔らかに笑みを讃えてニノマエだけにその表情を向けていた。
 僅かに眉を上げて、しかしニノマエはふと息を吐く。
 その言葉に嬉しいと答えることはない。記憶の中で――同じように、笑っていた、言っていた。
「それ、皆に言ってただろ」
「あら、そんなことはないと思うけれど……ううん、でも言ってるかもしれないわね」
 ニノマエはそんな、からかうような言い方にもなんだか覚えがある気がして。
(「……本当のことはわからない」)
 ニノマエの心の中には、何かがある。解けぬ何か――わだかまり。
 それは少しでも解けたのだろうか。
 全く心動かぬなんてことは、なかった。
 他愛ない話を、彼女が投げかけて――ニノマエは答えて。
 そうして時間が過ぎていく。
「――もう夜明けね」
 少しだけ瞳を細め、彼女は言う。どこか遠くを見て――そして手を差し出した。
「ねぇ、一緒に行く?」
 このお誘いは、ニノマエ君にだけだよと笑って。
 ニノマエはその手を見詰める。その手を取ることはないと、己で分かっていた。だって今――自分には、やらねばならない事がある。
 だから首を横に振る。
 すると彼女も分かっていたのだろう。
 やっぱりそうだよねと、その手をきゅっと握って――ひっこめた。
 残念と苦く笑って白衣の裾を翻し、じゃあねと紡いで夜明けに消えていくように、その姿を消す。
 ニノマエはそれを、何も言わず見送った。
 言いたい言葉は、あったのかもしれない。けれどそれを掬い上げるより早く――彼女は遠くへいく。
 あの手を取らなくてよかったのだろうかと、ふと思ってしまうけれど。
 これでよかったのだと、心に沈めて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

逢坂・理彦
🌈
これはこれは親父殿。お久しぶりですね。
(現れたのは自分が里とともに守れなかった父親)
もうご存知かも知れませんが仇は討ちました。
時間は掛かりましたがようやく討てました。
『敵討ちなどしなくても良かったんだがなぁ…私はお前が生きていればそれで良かったんだが』
(予想していなかった言葉にハッとして)
そうでしたか…そうですね…はは、なるほど親父殿ならば敵討ちを望んだりしなかったか。
里を…皆を守れなかった俺が幸せになどなってはいけないと思っていましたが大事な人に…俺の大事だった人達がそんなことを望むのかと言われて目が覚めました。
…大事な人が出来たんですよ
こんなふうに語り合えるなら酒があったらよかったなぁ



●夜明けまで語るは
 真っ白だ。霧が立ち込めている。
 逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)の足は、人を容易く惑わせそうな霧の中を真っすぐに進んでいく。
 まるでたどり着くべき場所がわかっているかのように――その、橋へ。
 とん、と一歩踏み入れてまだ霧に隠された先を見つめる理彦。
 すると霧の先に人影が一つ。橋の欄干にもたれかかり立っていた。
 その人物は理彦へと顔を向ける。それが誰か、理彦にはすぐにわかった。
「これはこれは親父殿。お久しぶりですね」
 親父殿――理彦の父親。
 彼は、理彦が守れなかったものの一人だ。
 自分の里とともに守れなかった父親。
 理彦は彼の下へと歩み寄る。理彦もまた、彼の近くへと歩む。
 そして数歩を置いて、立ち止まった。触れることは、できるかできないかきわどい距離。
 そして、お伝えしたいことがあるのですと理彦は言葉向けた。
「もうご存知かも知れませんが」
 仇は討ちました。
 と、静かに紡いだ。
 里を、そして親父殿の命を奪ったものを。
 理彦は――やっとというように、父親へとそれを知らせる。
「時間は掛かりましたがようやく討てました」
 言葉にするとしみじみと、それが成ったのだと改めて思うのだ。
 しかしそれによくやった、と父が大手をふって褒めることは無さそうだとは思っていたが――まさか。
 そんな顔をするとは、理彦は思っていなかったのだ。
 僅かばかり困ったように、彼は眉を八の字にして柔らかに息を吐く。
「敵討ちなどしなくても良かったんだがなぁ……」
 その言葉も、理彦が予想などしていなかった言葉だ。
 何故、とそう思うのは一瞬。彼の次の言葉に、理彦はハッとする。
「私はお前が生きていればそれで良かったんだが」
 それは子を思う父の言葉。
 向けられたその言葉に含まれるものに理彦は一度瞳伏せた。
 一人にはなった。けれど、一人では――なかった。
「そうでしたか……そうですね……」
 はは、と笑い零して己は親父殿を理解していなかったのだと思う。
 親父殿は敵討ちを願うことなどなく、ただ自分の幸せを願う。
 親とは、そういうものなのだろう。
「なるほど親父殿ならば敵討ちを望んだりしなかったか」
 ほとりと零して、理彦は父を見詰める。
「里を……皆を守れなかった俺が幸せになどなってはいけないと思っていましたが」
 幸せになどなってはいけない。敵をとらねばと
「大事な人に……俺の大事だった人達がそんなことを望むのかと言われて目が覚めました」
 あの時目が覚めた。けれど、父を目の前にしたら――まず、敵を討ったのだと言葉が滑り落ちたのだ。
 そしてその通りだったと、理彦はくしゃりと笑む。
「そうか――んん? 大事な人?」
「……大事な人が出来たんですよ」
 大事な人と聞いて、親父殿は聞き返す。そして笑った。
 お前に大事な人がいるということが嬉しいのだと。
 そんな風に喜ばれることはなんだかむずがゆい。
「その人の話を聞かせてくれ」
 その言葉に理彦ははいと頷いた。
 そして――嗚呼、失敗したと思うのだ。僅かにしょんぼりとした表情にどうしたのかと問われて。
「いえ、こんなふうに語り合えるなら」
 酒があったらよかったなぁと思ってと伝えれば――確かにそうだと笑う。
 共に酒を酌み交わすことはできないけれど、それでも夜明けまで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
明(f00192)と

橋にオレと全く同じ姿の人
当然だ
オレは彼を模して造られた
製作者の死んでしまった息子ディフ
この身体本来の持ち主であるはずだった人間
「やあ、フィフス」
彼から自然に零れる笑み
豊かな感情表現
親し気に語る彼にあってオレには無いもの
…起きてはくれないのかい
そう問うのが精一杯で
「起きないよ。オレはもう死んだんだ」
オレの前髪を撫でるオレと同じ手
仕方なさそうに笑う顔
「母さんの願いは嬉しいけど、反魂の罪に負って欲しくない」
「だからその身体ははじめから君のものだよ。君は君のまま生きておくれ。オレたちの分までさ」

去り行く背を見送り
膝をつき顔を覆った
指の隙間から零れる雫
…ありがとう

…そうだね
アキラは?


辰神・明
🌈

ディフ(f05200)と
姉人格:アキラで参加

想い人っつーか
昔の相棒みてぇなモン
そん時のアタシは人間じゃなくて『虎』だったけど

男がいた
ボウガンと猟銃を手にした狩人
森を映した色の瞳はきっと瞬き、首を傾げて

おいおい
死ぬ間際までアンタと一緒にいた相棒を忘れたのか?
まっ……アタシのナリは大分変わっちまったケド、な

泣きそうな顔で謝ってんじゃねぇよ
相棒を置いて逃げる不名誉なんざ、アタシはいらねぇ
それに、第二の人生も悪かねぇ
家族やダチも出来て、楽しく暴れまくってさ

んだよ、相棒
別れ際くらい、笑えっつーの
……泣いてねぇよ、バーカ

ディフ
ちょっとはスッキリしたか?
アタシはどうかね……感情って、ままならねぇモンだ



●虎の娘
 霧の向こうに橋がある。
 そこへと――二人で向かう。
 辰神・明(双星・f00192)は誰が現れるんだろうか、と思う。いや、心当たりはあるのだ。
 ゆらりと橋の上に現れた男。
 ボウガンと猟銃を手にした狩人だ。
 その姿を見て明は――アキラは、笑った。
 森を映した色の瞳。懐かしさがある。けれどそれは己を見詰めたのちに瞬いて、彼は首を傾げたのだ。
「誰だ? 人間違いじゃないか」
 こんな幼女の知り合いいただろうか――彼は戸惑って、困っているようだ。
 その姿を見て、はっ、とアキラは短く笑い飛ばして肩竦めてみせた。
「おいおい、死ぬ間際までアンタと一緒にいた相棒を忘れたのか?」
 彼は相棒? と返す。幼女の相棒なんていない。確かに、彼に幼女の相棒はいなかった。
「まっ……アタシのナリは大分変わっちまったケド、な」
 けれど、わからないのも当然のことなのだ。
 彼は、想い人――とは、違う。アキラの、昔の相棒のような者なのだ。   その表情、声色も覚えている。匂いも、獣の鼻であったなら懐かしいと思っていたかもしれない。
 彼と共にいた頃、アキラは人間ではなかった。『虎』だったのだから。
 だからがお、と爪立てるように手を構えてみせた。
 己が虎であった頃の癖を真似て、こんな風に顔を洗っていたかとやってみる。
 すると、彼はハッとして。
「お前……もしかして」
「やっとわかったか?」
 アキラは笑った。彼も笑うかと思ったのに――瞳の端にぎゅっと涙をためる。
 それはいつ零れてもおかしくはない。けれど泣きたくはないのだと、堪えて――そしてその口から、ごめんな、と落す。あの時、なんて紡ぐ。
 それはアキラへの謝罪か、懺悔か――それとも彼自身へと向けたものか。
 だがそのどれであっても、アキラは受け取るつもりはない。だからその言葉をアキラは自分の言葉で、少し苛立ち含んだような声で塞ぐのだ。
「泣きそうな顔で謝ってんじゃねぇよ」
 その言葉に彼はぐ、と口を紡ぐ。けれどその瞳は、まだ何か言いたげだ。
 でもその言葉を受け取ることをアキラは、望まない。
 だから先に、言う。
「相棒を置いて逃げる不名誉なんざ、アタシはいらねぇ」
 それに、第二の人生も悪かねぇとにっと口端上げて笑ってみせて。
 ふん、と胸を張る少女。それは己が知る姿とは違うけれど、まぎれもなく自分の知っている姿と重なって彼は瞬いた。
「家族やダチも出来て、楽しく暴れまくってさ」
 辛い事なんてない。日々を楽しく過ごせているのだと、アキラは言う。
 安心しろと言うように。お前が悔いて泣くことなんて、ないと。
 アキラは『今』の己があるから、そんな顔をするなと言える。
 だってもう――夜明けも近い。
 彼は、アキラへと手を伸ばす。今は小さな幼女だが、昔こうやって擽った、なんて思いながらだろうか。
「んだよ、相棒」
 ああ、それが何だか無性に嬉しくて、でも悲しくて――それは一緒に居られないからだろうか。
 泣きそう、なんて小さく彼が零したのをアキラは拾い上げる。
「別れ際くらい、笑えっつーの」
 けれど、アキラもまたもうすぐ別れが来るのだと思うとじわりと込みあがる想いがあった。
 そしてそれが、熱となって零れそうになる。
「泣きそう?」
「……泣いてねぇよ、バーカ」
 ぐい、と袖で乱暴に拭いて、泣いてないと強がって。
 確かに、泣いてないと彼は笑う。瞳の端を赤く染めて。
 これは二度目の別れ。
 でも――別れは、悲しいものではなかった。

●人形の男
 ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)も橋の上にて己と全く同じ姿の人を見つけ、瞳細めた。
 何もかも、同じ。
 その瞳の色も、髪の色も、肌の色も――それは当然なのだ。
 ディフは彼を模して造られたのだから。己を作った者の息子、ディフ。
 彼は、この身体の本来の持ち主であるはずだった人間だ。
「やあ、フィフス」
 ひらりと手を振って、彼は自然に笑み零す。
 元気? なんて気安さを感じさせるその表情には感情が溢れていた。
 ディフへと親し気に語り掛けてくる、彼。
 彼にはあって己には無いものを目の当たりにしているようなものだ。
 ディフは思う。どうしてそんな風に自然に、笑みも、ちょっと困ったような表情も自由にあふれるのだろう。
 わからない。同じ姿だというのに何故、こうも違うのだろうか。
 そんな風に、自分は――と、こみ上げる想いがあった。
 だから――細い声で。
「……起きてはくれないのかい」
 そう、問いかけるのがやっとだった。ディフが絞り出すように落とした声を、彼はちゃんと拾い上げてくれる。
 小さく、少し困ったように笑って。その問いに彼はちゃんと答えてくれる。
「起きないよ。オレはもう死んだんだ」
 それはどうあっても変わらない事。揺らがない事。どうしようもないほどうに定まりきった事なのだと。
 彼の手が伸びる。そうっと、気遣うようにディフの前髪を撫でていく。
 すると、出会う――ディフと、彼の瞳が正面から向き合うことになる。
 きらきらとその瞳の中の輝きも同じようで、違うように見えた。
 その手も、己が持つ手と同じなのだ。
 仕方なさそうに笑って、その瞳が揺らぐ。ディフの一番近くで。
「母さんの願いは嬉しいけど、反魂の罪に負って欲しくない」
 いくら願われても――ダメなのだと、言うように。
 そしてディフを真っすぐと彼は見る。安心するように笑み向けて。
「だからその身体ははじめから君のものだよ。君は君のまま生きておくれ。オレたちの分までさ」
 そう言って、彼はとんと後ろへ一歩下がる。
 夜が明けていく気配に、もうここにはいられないのだと身を翻して。
 しかしここで君に向けた言葉はオレの本心だと笑って。
 もう時間だと彼は背を向ける。橋の向こうに行かなければ、帰らなければと。
 ちらりと振り返る。そして笑う。その背を見送って、ディフは膝をつき顔を覆った。
 今、自分がどんな顔をしているのか――指の隙間からひとしずく、熱が零れ落ちる。
 は、と息を大きく履いてディフは紡ぐ。
 彼はもう目の前にはいないが――きっと、届くだろう。
「……ありがとう」
 しばらく、ディフは膝をついたままだ。
 その心に抱くものを、己の内に溶かし込むように。

●ままならぬこころ
 夜明け――時間切れ。それは終わりを告げる。
「ディフ」
 そっと、けれどはっきりとした声でアキラはディフへと声をかけた。
「ちょっとはスッキリしたか?」
 誰と会っていたか。それは聞かない。互いに立ち入ることではきっとないだろうから。
 ディフは、顔を上げてアキラへと返す。
「……そうだね」
 何かがやっと、自分に溶け込んだような気もする。
 でもそれを明確には言葉には、できないままなのだろう。
「アキラは?」
「アタシは」
 そこで、少しアキラは考えて言葉を探す。
「どうかね……感情って、ままならねぇモンだ」
 すっきりと、こうだと言える言葉は見つからなくて。
 しかしその言葉にディフも、わかるよと小さく笑って返した。
 感情は、ままならないままに――一夜の出会いは二人に何かを、残して、与えていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ペペル・トーン
🌈
橋には知らない女の子
白髪揺らしご機嫌に景色を眺める姿は幼くて
緑の瞳が私を映し、パッと笑顔を浮かべたなら
ああ…貴方は、私の大切なお友達ね
おねえちゃんと私を呼ぶお転婆な子
生前はそんな姿をしていたのね

手を、繋ぎましょ
貴方が一番求めてできなかったことを
満面の顔に微笑み返して
思い返すは海で共に過ごした時

深海に落ちて閉じ込められた貴方達を見つけて
姿見えずとも、お喋りした日々は楽しくて
でも…助けたいと思う間に
生きた意味から死ぬ理由まで
私と捧げて散った貴方
戻ってきたと言ったって
それで良かったって、答えは出ないの
でも、いないのも寂しいの

私は貴方達が好きだから

ゴースト姿の時と同じように
楽しいお話をしましょうか



●いつもと違う、一夜のおしゃべり
 どうして、この場所に足を運んだのだろう。
 でもペペル・トーン(融解クリームソーダ・f26758)の進む先には誰かがいた。
 橋の上、揺らめく霧の中――知らない女の子。
 白髪揺らし、ご機嫌に。橋の欄干に肘ついてその景色をご機嫌で眺めている。
 その姿は幼くて、よいしょと欄干にも背伸びしていたことにペペルは気付く。
 だあれ? とペペルはその子を見つめていた。
 そして、その子はペペルの視線に気づいてぱっと顔を向けた。ぱちりと瞬く、緑の瞳がペペルを映す。
 そしてパッと花咲くように笑んだなら――
「おねえちゃん!」
 ペペルへと手を伸ばし、飛びついてそう呼んだのだ。
 それで、ペペルは理解する。
「ああ……貴方は、私の大切なお友達ね」
 いつも――そばにいる。貴方は、あの子。
 生前はそんな姿をしていたのねと彼女の頭を撫でる。嬉しいともっとというように頭をぐりぐりおしつけてくる少女にペペルは手を差し出した。
 その手を少女は見詰め、そしてペペルを見上げる。
「手を、繋ぎましょ」
 それは、一番求めてできなかったこと。
 いつも傍に居る緑の瞳の、大切なお友達が願って、そして出来ずにいた事。
 その手はいつも、ふわりとすれ違っていたのだ。けれど今は、触れることができるのだ。
 それを理解して、少女は嬉しいと満面の笑み。ペペルも微笑み返してその手を繋ぐ。
 そして、思い返す。
 海で共に過ごした時の事を。
 深い深い海の底。果てかと思えるその場所に落ちて、閉じ込められた貴方を、貴方達を見つけたことを。
「おねえちゃんがみつけてくれて、おしゃべりをいっぱいしたわ!」
 それはとっても楽しかったと少女は言う。
 そう、姿が見えずともお喋りした日々は楽しくて――
(「でも……助けたいと思う間に」)
 生きた意味から死ぬ理由まで、私と捧げて散った貴方。
 戻ってきたと言ったって、それで良かったって、答えは出ないのとペペルは紡ぐ。
「でも、いないのも寂しいの」
 私は貴方達が好きだから――わたしもすきよ! と少女はきゅっと繋ぐ手に力を籠める。
 ペペルはふふと小さく笑い零す。
 そうね、そうよねと――今この一時、貴方は生きていたころの姿だけれども変わらないのだと。
「おしゃべりしましょう。楽しいお話を、たくさんしましょうか」
「うん! おしゃべりだいすきよ!」
 ゴースト姿の時と同じように――楽しいお話を。
 それはいつものと同じようで、いつもと違う。
 夜明けが来るまで、いつもは繋ぐことのできない手を繋いで。
 そんな時間は過ぎ去るのもあっという間――夜明けの柔らかなひかりの中で、少女は言う。
「またあとでね、おねえちゃん!」
 ええ、またあとで――ペペルは微笑んで、その手の小さな繋がりが消えていくのを感じていた。
 消えていく、その感覚が少しさびしくて、名残惜しいもの。

大成功 🔵​🔵​🔵​

疎忘・萃請
🌈
からころ、一本下駄を鳴らしてお前を待つ

スイ、と呼ばれ振り向けば
優しい顔した大男が居た

嗚呼、お前か。お前が来たか
……いや、実を言うと今の今までお前を忘れていたよ
ふふ、怒らないのか?
やはりお前は優しいよ

お前は
夜叉は、アタシと共に畏れ、敬われていた天災
誰からも忘れ去られ、風化し
共にいたアタシにすら忘れられ、消えてしまった存在

嗚呼、あの頃は楽しかったな
周りの妖怪たちを統べ
毎夜酒を呑み交わし、今日はどんな事をしてヒトの子を驚かせたとか
そんなことを語ったな

……今は、そんなヒトの子らを守っているよ
忘れられたアタシだけど
あの営みを守りたいと思ったから

まだ其方には行けない
特上の酒を土産に行くまで
待っててくれ



●過去と、今と
 霧が深い――その先に橋がある。
 疎忘・萃請(忘れ鬼・f24649)はからころ、一本下駄を鳴らしてその橋へと辿りつく。
 まだ、そこにはだれもいない。
 早かったのだろうかと欄干に肘ついて、待つ。暇つぶしのようにこんと、下駄で足元を叩いてみたりとその時間は短くも、長くもあった。
 しかし、一つ気配が近づいてくる。
「スイ」
 聞き覚えのある声だった。でも誰か思い出せぬ。萃請は名を呼ばれ振り向いた。
 そして萃請の視線は上へと引き上げられる。
 大男の優しい顔へといきあたった。
「嗚呼、お前か。お前が来たか」
 萃請が向けた言葉に彼は――お前か、とはと苦笑して萃請の傍らに立った。
「待っていてくれたのか?」
「……いや、実を言うと今の今までお前を忘れていたよ」
 その言葉にんん、と唸るけれどもその表情は穏やかだ。
「ふふ、怒らないのか?」
「忘れていたくらいで怒ったりは、しない」
「やはりお前は優しいよ」
 その言葉に、萃請はふふと笑い零す。
 夜叉、と萃請はその名を呼んだ。
 萃請と共に畏れ、敬われていた天災たる彼。
 けれど、誰からも忘れ去られ、風化していった。
 共にいたアタシにすら、と萃請は彼を見上げる。
 共にいたアタシにすら忘れさられ、消えてしまった存在。
 そう思っているとだ。
「覚えているか?」
 あの頃を――共に過ごした日々をと夜叉は尋ねる。
 萃請は嗚呼、と頷いた。
「嗚呼、あの頃は楽しかったな」
 周りの妖怪たちを統べ、戦闘を往き。
 毎夜酒を呑み交わし、今日はどんな事をしてヒトの子を驚かせたとか――
「そんなことを語ったな」
 萃請は記憶の底を揺り動かして思い返す。
 自分がいて、この夜叉がいて。ほかの妖怪たちがいて――楽しい時を過ごした光景を思い出す。
 あの頃は、ヒトの子は驚かせ、酒の肴にどうであったかと話すものであった。
 けれど今は。
「……今は、そんなヒトの子らを守っているよ」
 忘れられたアタシだけど――あの営みを守りたいと思ったから。
 そう告げると、夜叉はそれも楽しく、面白そうだと笑ってみせる。
 萃請はそうだろうと言って、だからと言葉続ける。
 だから――
「まだ其方には行けない」
 お前をまだひとりにしてしまう。いいだろうかと。
 その言葉に、好きに生きたらいいという。
 好きに、気が済むまでそちらにいて――
「そのうち、こちらにくればいい」
 待っていると、夜叉は言う。
 萃請は微笑みを浮かべる。
「特上の酒を土産に行くまで」
 待っててくれ、と紡いだ。
 その言葉受け取った夜叉はああと頷く。
 ああ、そのいつの日かを待っていると――夜明けの中で、微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐那・千之助
🌈
『ルカ』
褐色肌に銀髪、アイスブルーの瞳
吸血鬼の父に仕えた冷徹な青年
二人のときは優しく緩む頬

14のとき家出して朽ちかけた私の命を救い
追手から護り命を散らした
私に想いの苛烈さを刻んだ存在

息を詰め
『大きくなって…』嬉しそうに緩む彼の顔
…ルカ
『あのあと、無事でしたか。よかった
『立派に成長されて
『いや、生きてるだけで嬉しい
私のため命を擲ったのにやわやわ笑って…
…泣きそうなとき観察するな
『見たいので
じゃない

ルカが助けてくれた命
私も誰かを助けるため
大事に使ってる
この先もずっとがんばるから
ありがとう…

『好きに生きて。貴方が幸せならいい
ああ。共に生きるひともい…
『それは聞きません
え、あ

終夜、穏やかな語らいを



●護り、続いていく
 死んだ想い人に会えるという、その橋。
 佐那・千之助(火輪・f00454)は橋を訪れ――待っていた。
 ここにやってくるならひとり。
 きっと、彼だ。
 褐色の肌に銀髪。アイスブルーの瞳――吸血鬼の父に仕えた冷徹な青年の姿を千之助は思い起こす。
 しかしかれは、二人の時は優しくその表情緩めていた。
「――ルカ」
 その名を、千之助は紡いでいた。
 14の時、家出して朽ちかけた千之助の命を救い、追手から己を護り命散らした青年。
(「私に想いの苛烈さを刻んだ、ルカ」)
 千之助は瞳を伏せる。
 そしてその瞳を開くと――人影があった。
 霧の向こう、息を詰め千之助を見詰める者。
 まぎれもなく、ルカだった。
「大きくなって……」
 嬉しそうに頬を緩め、もっと近くにいっても、と問う。
 その言葉に自分から歩みよる千之助。
「……ルカ」
「あのあと、無事でしたか。よかった」
 最後の時を、ルカは思い返しているのだろう。
「立派に成長されて」
 その喜びは深い。ルカは、しかしそもそもと零す。
「いや、生きてるだけで嬉しい」
 己が身を呈して護った命が、ここまで続いて。そして今、目の前に。
 その喜び、嬉しさ――美味く言葉にはできないのだろうが表情は緩く、やわやわと笑っている。
 その気持ちがにじみ出ているようだ。
 ルカがそうであるように、千之助もまた想いが表情へと現れているのだが――目元から何かが溢れそうになる。
 こみあげる想いが、あるのだ。
「……泣きそうなとき観察するな」
「見たいので」
 しかしにこにこしながらじぃと見詰めてくる視線はなんだか居心地が悪い。
 く、と僅かにそうじゃないと言いそうになるのを飲み込んで千之助は伝えたいことを伝えるのだ。
「ルカが助けてくれた命」
 私も誰かを助けるため、大事に使ってる――もう守られるだけではないのだと、伝えて。
「この先もずっとがんばるから」
 そして――一番伝えたい言葉は。
「ありがとう……」
 その言葉は笑って伝えることができた。
 ルカは千之助からその言葉受け取って、柔らかに微笑むのだ。
「好きに生きて。貴方が幸せならいい」
 貴方が幸せであることを信じて、望んで、祈って。
 それだけでいい。今、そうであることを感じられて後悔などないのだというように。
「ああ。共に生きるひともい……」
「それは聞きません」
「え、あ」
 が、それは聞きたくないとぴしゃりと弾いてしまう。
 千之助は続く言葉の行先を見失って、苦笑する。
「でも、あなたの話は聞きたいです」
 なら、何を話そうか――辿ってきた道を、話せばいいだろうか。
 それは時に、苦しいものもあったけれど。
 でも今、笑って話せることを話そうと。
 穏やかに語らう。
 ルカに、彼が守ってくれた己の時間を、届けるために。
 これまでと、それから――これからも。

大成功 🔵​🔵​🔵​

硲・葎
久しぶり、だね。
私、ずっと会いたかった。
私の両親と兄を奪った宿敵。
交通事故を起こした貴方。

貴方がなにを思って、私の両親を奪ったのか。
それは分からなかったけど、貴方にだって家族がいたはず。

どうしてちゃんと運転しなかったの!?
そうすれば今もパパとママとお兄ちゃんは私の傍で笑っていてくれたはずなのに!
貴方があの時、突っ込んでさえこなければ、貴方の家族も、生きて、いてくれていたはずなのに!
絶対許さない。謝れ!謝って!
今天国にいるパパとママに!お兄ちゃんに!
いつか、私が絶対に殺しに行く。
彼岸花之葬とバイクさんと……私の大事な人と。
(赤い柄を握りしめ、刃を相手の喉元に突きつけ)
必ず、そこで、待ってて。



●慟哭の果てに
 霧の向こう、橋がある。
 そこにいると硲・葎(流星の旋律・f01013)の足は早まっていた。
 その先に、ある人物の姿を見つけて。
「久しぶり、だね」
 葎は声をかける。でもその声は、冷えていた。
「私、ずっと会いたかった」
 会いたかった――けれど、それは。
 大好きで、大事で、というわけではない。そこに好意などは一切なかった。
 葎の視線は冷えているが熱がともっているのだ。
 目の前にいるのは葎の両親と兄を奪った宿敵。交通事故を起こした者なのだから。
「貴方がなにを思って、私の両親を奪ったのか」
 それは分からなかったけど、貴方にだって家族がいたはず――葎の声色は重い。
 けれど堰切ったように矢継ぎ早に言葉向ける。
「どうしてちゃんと運転しなかったの!?」
 叫ぶ声は痛切。しかしその言葉を、受け取る者はどう思っているのか――
「そうすれば今もパパとママとお兄ちゃんは私の傍で笑っていてくれたはずなのに!」
 瞳伏せて、葎は己が抱えた想いをぶつける。
「貴方があの時、突っ込んでさえこなければ、貴方の家族も、生きて、いてくれていたはずなのに!」
 葎は顔を上げる。
 そしてまっすぐ、相手を睨みつけて。
「絶対許さない。謝れ! 謝って!」
 今天国にいるパパとママに! お兄ちゃんに!
 失った者たちの姿を葎は思う。
 何故、今いないのか――それは、何も言わぬけれど目の前の。
 そう思うと、すらりと赤い刃の妖刀の柄に手を置いていた。
「いつか、私が絶対に殺しに行く」
 そして、抜き放ち――その柄を握り締め、刃を喉元に突き付ける。
「彼岸花之葬とバイクさんと……私の大事な人と」
 そうされていることを、相手は一体どう思っているのだろうか。
 必ず、そこで、待ってて――葎は告げる。
 いつかその首に、この刃を届けるのだと夜明けの中で。

大成功 🔵​🔵​🔵​

姫城・京杜
🌈

勿論鳴雷も呼ぶ

逢えたら、あれもこれも話そうって思ってたのに
姿見たら――遠夜、って
呼ぶだけで精一杯

けど声聞けば記憶のまま
真面目で優しくて正義感強い、主の友人
俺が死なせた、守りたかった人

語るのは他愛ない事(お任せ
この間、與儀と出掛けた時…
その時、與儀がな…

ああ、俺は今、與儀といる
あの後…救ってくれたんだ

ごめんな、俺のせいで…ごめん

お前は相変わらず泣き虫だな、って笑って頭撫でられて
向けられる彼らしい優しい言葉たちに胸が痛くなる

前の俺なら喜んで一緒に橋を渡ってた
でも今は…ちゃんと見送れる
俺の主は一人だけだ

けど夜明けまで沢山話す
じゃあ、俺の知らない與儀の事、教えてくれよ
内緒にしとくからよ、って笑って



●主
 霧の中にその姿を見つける。
 姫城・京杜(紅い焔神・f17071)の肩に止まっていた雷の如き金瞳の黒竜も、顔を上げて――ぎゃうと一声鳴いていた。
 逢えたら、あれもこれも話そう。そう思ってたのに――その口からこぼれたのは。
「――遠夜」
 そう、呼ぶだけで精一杯だった。
「京杜、雷鳴」
 己の名を呼ぶ。その声聞けば記憶のまま。
 崩れ落ちそうになるのをこらえた。
 そして京杜は、もう一度名を呼ぶ。
「遠夜」
 真面目で優しくて正義感強い、主の友人。
 そして――
(「俺が死なせた、守りたかった人」)
 彼が今、目の前にいる。そのことにこみ上げるものがあった。
 雷鳴が己の肩を離れ、彼の下へ行く。
 じゃれるのを笑って受け止めて、彼は元気してたかと声を向けた。
 そして、どうしていたのか教えてくれという。
 そういわれて、京杜ができるのは他愛のない、日々の話だ。
「この間、與儀と出かけた時、なんか買ってやるって言われて」
「フライパンか?」
「違うぞ! 鍋だ!」
「なるほど、鍋か……」
 それは、與儀が微妙な顔をしただろうなと遠夜は言う。
 京杜はなんでわかるんだと瞬いて、その時と話を続ける。
 他愛のない、日常の話を重ねて――ふと、会話が途切れる。
「與儀と、いるんだな」
「ああ、俺は今、與儀といる」
 遠夜はそれでいいというように、瞳細める。
 それでいい。そうなると、思っていたというように。
 己が死んで――死んだら。京杜が、この青年がどうなるかなんて、わかっていたことだ。
 そしてそれをどうにかできるのも、友だと思っていたから。
「あの後……救ってくれたんだ」
 そう言って、くしゃりと。京杜は表情を崩す。ぐちゃぐちゃの、泣きそうな――いや、泣いていた。
「ごめんな、俺のせいで……ごめん」
 ほろほろと零れていく涙。遠矢はそれを救って、その手を伸ばし京杜の頭を撫でる。
「お前は相変わらず泣き虫だな」
 少し困ったような、くすぐるような声。でも、京杜はそれでいいと優しい言葉をくれる。
 それが京杜の胸に突き刺さり、痛みとなっていくのだ。
「遠夜、遠夜……!」
 ごめん、ごめんと何度も京杜は謝る。
 そして絞り出すように、紡ぐのだ。
「前の俺なら、喜んで一緒に橋を渡ってた……!」
 でも今は、と京杜は言う。
 今は、ちゃんと見送れると。
「俺の主は、一人だけだ」
 遠夜は、主とはならなかった。主は――金色の髪の、花浅葱の瞳の彼なのだと。
 そして遠夜は、それでいいと頷く。そうなるべくしてなったのだから。
「それでいい。俺は死んでいるし、お前をあいつに任せたのは、間違いじゃなかった」
 だからいいと遠夜は言う。でも、まだ夜明けまで時間はある。
 話せるだけ話そうと言って、笑う。
 京杜は涙を拭いて、ちょっとだけ眉を下げて笑った。
「ああ、話す。じゃあ、俺の知らない與儀の事、教えてくれよ」
「それなら沢山あるな。でもばれたら、怒るぞ?」
「大丈夫だ。内緒にしとくからよ」
 笑って、京杜は言う。遠夜はすぐにばれそうだなと笑って、それでも話すのだ。
 京杜が知らない、彼の主の話を。京杜の友の話を。
 夜が、明けて終わるまで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
🌈

紅の髪の女騎士。
その姿が見えた時、俺の肩にいた小竜ミヌレの尾がピンと伸びる

マドレーヌという名の彼女はミヌレの主人であり、俺が騎士をしていた頃の同僚というやつだ。
竜以外には関心も愛想もない彼女が笑顔だったのは驚いたが、その顔は俺ではなく…ミヌレに向けたものなのはすぐに察した。
俺に対しては「何だ、ユヴェン。お前もいたのか」という扱いだからな。
どう見てもミヌレよりも俺の方が大きいし目がつくだろう。お前は本当にミヌレしか見ちゃいねぇ
…相変わらずだな、マドレーヌ。
ま、そんな奴だから楽なんだが

俺の名が長いから「ユヴェン・ポシェット」とお前は呼んだ。
だけど、俺は結構この名前気に入ってんだ。ありがとな。



●その名
 踏みしめる足音がやけに大きく聞こえる。
 ユヴェン・ポシェット( ・f01669)が視線を向けた先には、橋があった。
 霧がかかった橋――先に何があるのか、誰かいるのかもぼんやりとしかみえない。
 その上に紅の色を見つけ、ユヴェンの肩にいた小竜ミヌレの尾がピンと伸びた。
 そしてユヴェンも、その姿に瞳細める。
 マドレーヌ――彼女だ、とユヴェンが思うと同時に彼女はぱぁっと笑顔を浮かべた。
 その表情にユヴェンは瞬き、驚いた。
 自分の記憶の中の彼女は、竜以外には関心も愛想もないものだったのだ。けれど、すぐに思い至る。
 その表情は、自分にではなくミヌレに向けたものだったと。
 ミヌレはユヴェンの肩から飛び出すように羽ばたいた。
 マドレーヌはミヌレを招いて抱き留める。そしてミヌレの鼻先と己の鼻先合わせて笑い合って、ユヴェンへと視線を。
「何だ、ユヴェン。お前もいたのか」
 その表情はすっと平坦なもので、先ほどまでミヌレに向けていたものとは違う。
「どう見てもミヌレよりも俺の方が大きいし目がつくだろう。お前は本当にミヌレしか見ちゃいねぇ」
 そう紡げばマドレーヌは、ミヌレのほうに目が行くだろう、何を言っているというような表情。
 でもそれが、当たり前でユヴェンはわずかに口端を緩める。
「……相変わらずだな、マドレーヌ」
 ま、そんな奴だから楽なんだがと零して、ユヴェンは彼女を見つめる。
 マドレーヌはミヌレと楽しそうにしていた。
 その瞳は優しく細められており、本当にいとおしいのだと思う。
「夜明けまでだが、お前と会えてよかった、ミヌレ」
 首元を擽ってやれば幸せそうに瞳細める。きゅーとかわいらしい声はうっとりとして幸せに満ちていた。
「お前にも礼を言っておこう。ミヌレを連れてきてくれてありがとう、ユヴェン」
 ユヴェン、と呼ばれる。その響き。
 ユヴェンは思い起こす。そしてひとつ、伝えたいことがあると紡いだ。
「俺の名が長いから『ユヴェン・ポシェット』とお前は呼んだ」
「呼んだな。いや、だったか?」
 その言葉にふるりとユヴェンは首を振る。
「だけど、俺は結構この名前気に入ってんだ。ありがとな」
 なら、その名をずっと使ってくれとマドレーヌは言う。
 ユヴェンは、ああと頷いた。そしてミヌレはマドレーヌの下からユヴェンの肩へと戻ってくる。
 それは夜明けが近いから。だからマドレーヌは口を開く。
 その唇がかたどる音は。
「ユヴェン・ポシェット」
 名だった。そして。
「ミヌレを頼む」
 彼女の姿が夜明けの中に溶けていく。その表情には、わずかに笑みが滲んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月19日


挿絵イラスト