大祓百鬼夜行⑮~手のひらいっぱいの幸せを
●UDCアース・忘れられたものたちの終着駅
ツバメさん、黄金を持っていっておくれ。
剥がれた黄金の分だけ、僕と合体した骸魂が目を覚ますけれど……。
大祓骸魂に続く「雲の道」は、僕の黄金がなくては作れないんだ。
そしてまもなく、たいせつな役目が始まる。
僕は、猟兵達と殺し合わねばならない。
僕達「親分」が全力で戦い、そして倒されれば、大祓骸魂が放つ圧倒的な虞も幾らか和らぐ。それが、大祓骸魂に続く雲の道を作る為の「必須条件」なんだ。
だからツバメさん、黄金を持っていっておくれ。
もし僕が死んだなら、雲の道を繋ぐ役目は君にお願いしたいんだ。
●グリモアベース
「西洋親分『しあわせな王子さま』への道が開かれた。ついては、先輩たちに対処をお願いしたい」
イミ・ラーティカイネン(夢知らせのユーモレスク・f20847)はグリモアベースにて、自身のグリモアを収めたガジェットを両手で持ちながら、居並ぶ猟兵たちにそう告げた。
UDCアースの荒れ果てた終着駅、そこで骸魂に飲み込まれた西洋親分『しあわせな王子さま』は猟兵を待っている。
親分たちが全力で戦い、猟兵たちに倒されることで、大祓骸魂の「虞」を和らげることが出来る。王子さまがいかに優しく、気高くあろうとも、今は全力で殺し合わないとならないのだ。
「先輩たちが相対する王子さまは、金箔が剥がされて骸魂に意識を奪われた『骸蝕形態』だ。この状態では理性は崩壊し、自分の身体すらも崩壊させながら襲いかかってくる」
王子さまは理性が崩壊しており会話は望めない。黄金の剥がれた部位を異形に変形させ、身体を切り離して発射し、攻撃が命中した相手に皮膚や装甲が崩落する呪いを浴びせてくる。
間違いなく強敵だ。易易と相手を出来るようなオブリビオンではない。だが、王子さまの姿をグリモアから映しながらイミは話す。
「ここでは、王子さまのまとう強烈な『虞』の影響で、先輩たちは真の姿を晒すことが出来るようになる。王子さまの力は強大だ。使えるものは使ったほうがいいだろう」
つまり、窮地に陥っていなくても十全の力を発揮できるようになるのだ。真の姿を以て王子さまと相対し、ユーベルコードを用いることが勝利の鍵となるだろう。
そこまで説明すると、イミはガジェットから投影していた映像を消した。ガジェットの中のグリモアを回転させながら言う。
「準備はいいか、先輩たち? ここでの勝利は必須事項だ。必ず勝って戻ってきてくれ」
屋守保英
皆さん、こんにちは。
屋守保英です。
いよいよ親分との戦いです。頑張っていきましょう。
●目標
・西洋親分『しあわせな王子さま』骸蝕形態×1体の撃破。
●特記事項
このシナリオは戦争シナリオです。
一章のみで構成された特別なシナリオです。
このシナリオでは王子さまの虞の影響により、窮地になくても「真の姿」になって戦うことが出来ます。
真の姿を晒して戦うことで、戦闘を有利にすすめることが出来ます。
また、本シナリオは少ない人数での素早い解決を想定しております。
参加者全員のプレイング採用を確約は出来ませんので、ご承知ください。
●戦場・場面
(第1章)
UDCアースのどこかにある、荒れ果てた終着駅です。
骸魂に意識を奪われた王子さまが、猟兵を見つけるなり襲いかかってきます。
それでは、皆さんの力の篭もったプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『西洋親分『しあわせな王子さま』骸蝕形態』
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POW : 骸蝕石怪変
自身の【黄金の剥がれた部位 】を【異形の姿】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
SPD : 部位崩壊弾
レベル分の1秒で【切り離した体の部位(遠隔操作可能) 】を発射できる。
WIZ : 崩落の呪い
攻撃が命中した対象に【崩落の呪い 】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【対象の皮膚や装甲が剥がれ落ちること】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
雨咲・ケイ
この世界の為にその身を犠牲にする……。
まさに真の王子様といった所でしょうか。
ならば私も相応の精神をもってお相手せねば
なりませんね。
【SPD】で行動。
真の姿となって【退魔集氣法】を使用。
高速移動で攪乱するように縦横無尽に
動く事で、敵の攻撃を回避していきます。
回避困難な攻撃は【オーラ防御】と【盾受け】
を併用して耐えましょう。
敵の攻撃を凌いだら【念動力】による
スノーホワイトの薔薇の花吹雪で【目潰し】を
仕掛けます。
怯んだら、そのまま【グラップル】と【功夫】
による接近戦で一気に攻めましょう。
この世界と貴方は猟兵が必ず救います。
どうか今しばらく耐えてください。
シャルロット・クリスティア
自らの命を以て、道を繋ぐことを望みますか……。
……ならば、その覚悟、受け取りましょう。
外見は剣士のようですが、崩れ行く異形となれば、挙動を人の常識に当てはめてはいけませんね。しっかり見切っていかねば。
本業は銃士、目には自信があります。
攻め方や回避の癖、しっかりと頭に叩き込んで、間隙を衝く一撃を。
私の旗槍ならば、その身体であろうと貫くことは出来る筈。
この声が聞こえずとも構いません。
喋らずとも構いません。
その志は、確かに届きました。だから……共に持っていきます。この旗に誓って。
ブラッドルファン・ディラィトゥオクア
之が大祓骸魂の虞か…他の戦場でもうっすら感じとったけど、流石親分衆や他所んトコの戦場た段違いやわ、引き受けてる量が違うとる
…ああ、濃過ぎてウチの中にも否が応でも入り込んできよるわ
人の子に忘れられたウチら妖怪は過去のモンか
忘れられたウチら、過去の堕とし子たるおぶりびおん…境目はどこなんやろなぁ
…ハハッ、虞にアテられてウチの境も靄掛うてよう判らへん
西洋妖怪なんてまぁアイマイなモン、もう姿も保たれへん
形失った白いモヤ、オノレの境界が曖昧模糊な西洋…ウチちゅう形を失うた何か
崩落の呪いで霧が雲散霧消するのが先か、白炎の中グズグズに溶かされるのが先か
最後の一片まで削り合おうやないか、なぁ西洋の親分さんよ!
トリテレイア・ゼロナイン
かの王子とツバメの御伽噺はある意味で私の理想の体現
騎士として大いに尊敬し、見習いたいと考えておりましたが…
見るに堪えない労しきお姿…一刻も早く骸魂から解放せねば
騎士の甲冑模した装甲外れ黒いフレーム剥き出しとなった戦機…真の姿で相対
装甲が外れ●限界突破した出力での怪力の武器受け盾受けで異形形態の攻撃を真っ向から受け止め近接戦闘
攻防の中、センサーでの情報収集と瞬間思考力で敵の形態の長所と短所を見切りつつ応戦
UCの緩やかな挙動で徐々に徐々に押し込まれることで、敵の装甲軽視を誘発
誘導した攻撃を●シールドバッシュで弾き、脚部スラスターの●推力移動足払いで反撃
ご無礼はお許しを!
転倒し薄い装甲に剣を突き立て
天星・雲雀
「必ず助けますから!自暴自棄にならないでください!」
「いま、猟兵のみんなが動いてますから、自ら死期を早める必要は、まったくないんです」
聞こえてるかは、わかりませんが、自分のコミュ力を頼りに、語りかけてる。
【戦闘】真の姿『黒い妖狐』に成って、千里眼の力で異形の部位と虞を消していきます。
本体の王子様はUCの牡牛さんで、オトモに協力してもらって全力突進!
牡牛に近づく異形は千里眼で消して、それでも触れてくる異形は蹴散らして、王子に衝突した衝撃で有りったけの虞を弾き飛ばしてやります。
今ある分の虞を祓えば、しばらく持ってくれると良いんですが。
大祓骸魂の方はなんとかしますから、王子様も生き延びてください。
ルネ・シュヴァリエ
誰でも知ってるような気高い自己犠牲の人。
そんなあなたと戦わないといけないなんて……。
真の姿……リリスとしてのルネを押し出した、普段以上に人を惹き付ける雰囲気を纏って。
呪いを受けないように空中浮遊して空中機動で距離を取りながらUC使用。
強化された催眠術でルネの姿を王子様のお友達の燕さんに見せかけるね。
同じように強化した誘惑も重ねていつもの燕さんより輝いて見えるように。
理性が無くても骸魂に蝕まれていても、きっとあなたの体は覚えているはず。
彼の燕さんへの好意を受け取ってルネの力を高めてから生命力吸収。
王子さま……あなたと燕さんの友情を勝手に盗むような真似してごめんなさい。
なるべく早く終わらせるから。
●町の上に高く柱がそびえ、その上に幸福の王子の像が立っていました。
「あ、あぁぁ、ぁぁあぁあ……!」
慟哭とも、咆哮ともつかない声が荒れ果てた駅に響き渡る。
その声を静かに聞いていたブラッドルファン・ディラィトゥオクア(西洋妖怪のレトロウィザード・f28496)は、目を伏せながら静かに息を吐いた。
「之が大祓骸魂の虞か……他の戦場でもうっすら感じとったけど、流石親分衆や他所んトコの戦場た段違いやわ、引き受けてる量が違うとる」
ブラッドルファンの言葉に頷きながら、雨咲・ケイ(人間の宿星武侠・f00882)も構えを作った。目の前の王子さまの自己犠牲の精神、なんと尊いものであろうか。
「この世界の為にその身を犠牲にする……まさに真の王子様といった所でしょうか。ならば私も相応の精神をもってお相手せねばなりませんね」
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)も狂える王子さまを真正面に見据えながら、深く頭を下げて言う。
「かの王子とツバメの御伽噺はある意味で私の理想の体現。騎士として大いに尊敬し、見習いたいと考えておりましたが……見るに堪えない労しきお姿。一刻も早く骸魂から解放せねば」
シャルロット・クリスティア(弾痕・f00330)もそうだ。愛銃を握りながら王子さまの悲壮な覚悟を前に、悲しげに目を細めて言う。
「自らの命を以て、道を繋ぐことを望みますか……ならば、その覚悟、受け取りましょう」
悲しそうな顔をしていたのはルネ・シュヴァリエ(リリスの友想い・f30677)も同じだった。胸の前で手を組みながら、狂い叫ぶ王子さまに視線を送る。
「誰でも知ってるような気高い自己犠牲の人。そんなあなたと戦わないといけないなんて……」
そして、天星・雲雀(妖狐のシャーマン・f27361)も王子さまに声を投げかけた。助けたいと、救いたいとの言葉をぶつける。
「必ず助けますから! 自暴自棄にならないでください!」
その強い声に反応したか。がくんと王子さまの首が折れる。
そして。
「あぁぁ――!!」
「っ!!」
その咆哮とともに発せられた夥しい量の『虞』。それに呼応するかのように猟兵たちの姿が一斉に「切り替わった」。
ブラッドルファンの姿の輪郭がほどけて白い靄になり。トリテレイアの装甲が外れて黒いフレームがむき出しとなり。ケイの衣装は普段の漆黒のそれが目のさめるような純白になり。シャルロッテの瞳が暗く、赤く輝いて。雲雀の尻尾が大きく膨らみ。ルネの服装がより一層、人を惹きつけ目を引くものとなった。
真の姿。埒外の存在たる猟兵の、世界の理に依らない力の具現。ブラッドルファンの声が靄の中から響く。
「……ハハッ、虞にアテられてウチの境も靄掛うてよう判らへん。西洋妖怪なんてまぁアイマイなモン、もう姿も保たれへん」
「いま、猟兵のみんなが動いてますから、自ら死期を早める必要は、まったくないんです。だから!」
尻尾をぶわりと広げながら雲雀も叫ぶ。助けたい。届けたい。思いを自らの言葉に乗せる。それが届かないとしても、構わない。
じゃきり、と傍らで金属音が鳴った。トリテレイアが剣と盾を握り直しながら一歩を踏み出して言う。
「行きましょう。あまり時間をかけたくはない」
「はい。小さき灯は揺らげども、未だ消えることはなく」
マギテック・マシンガンを手にしながら、シャルロットが目の赤い光を瞬かせた。
●王子の像は全体を薄い純金で覆われ、 目は二つの輝くサファイアで、 王子の剣のつかには大きな赤いルビーが光っていました。
先んじて動き出したのは王子さまだった。ブラッドルファンのいる場所に向かって、一直線に走ってくる。
「あぁ、あ――!」
その手に握る細剣がブラッドルファンの白い霧の中を通り抜けると、それによってか呪いによってか、ブラッドルファンの霧が少しずつ空気中に拡散していた。
「あぁ……これが崩落の呪いゆうやつか」
身体が、皮膚が、装甲が徐々に削れ、剥がれ落ちていく呪い。並の肉体なら苦痛に動けなくなるだろうその呪いを受けてもなお、霧の体をしたブラッドルファンは平然と声を上げた。
「そんなら……ウチの霧が晴れる前にしっかり戦わなアカンなぁ」
だがそれは、この呪いに耐性を持っているというわけではない。霧が拡散しきったら存在そのものの危機なのだ。だから彼女は、滔々と詠唱を紡ぎ、練り上げていく。
彼女の霧が動く。魔法陣を構成するように動く。そして白炎がごうと燃え上がって。
「崩落の呪いで霧が雲散霧消するのが先か、白炎の中グズグズに溶かされるのが先か……最後の一片まで削り合おうやないか、なぁ西洋の親分さんよ!」
「っ、あ……!」
ブラッドルファンが吼えたと同時に、彼女の眼前から真白の光線が放たれた。それは王子さまの身体を飲み込み、その腕を吹き飛ばしていく。
ルネはその光線が放たれるのを眼下に見ながら、ブラッドルファンの霧がどんどん拡散していくのを見た。
「そう、これは……あまり攻撃を受けたくはないものね」
「皆さん、気をつけて! 王子さまの攻撃に当たらないように!」
シャルロットも声を上げる。あの呪いは、なるべくなら受けること無く戦闘を終えたい代物だ。王子さまの攻撃を掻い潜りながら、ルネが王子さまの側へと降りる。
「ねぇ……ルネを、ルネだけを見て」
そしてゆるく手を伸ばす。王子さまの目はすでにがらんどう、こちらを見ているかどうかなど分かりはしない。しかし、それでも。王子さまの目は確かにルネを見た。その瞬間だ。
「あ……!」
ルネの姿に何を見たか。王子さまが攻撃の手を止めた。小さく震えだすその身体。雲雀が驚きの声を上げる。
「王子さまの動きが……!?」
「ルネさん!」
ケイがルネへと声を飛ばした。このまま放置していたら、いつ間近にいるルネに大きなダメージが行かないとも限らない。
しかしルネには確証があった。王子さまは自分には攻撃してこないだろう。何故なら。
「……大丈夫」
そう零してからさぁっと、王子さまから遠ざかるように空中へと逃げるルネ。そのルネへと、王子さまが崩れかけている右腕をまっすぐに伸ばした。
攻撃をするための手付きでは、ない。まるで離れていく愛おしいものを呼び止めるかのようなその動き。
「……あ、あ、ぁ!」
「王子さま……あなたと燕さんの友情を勝手に盗むような真似してごめんなさい。なるべく早く終わらせるから」
そう、王子さまはルネに幻を見ていた。自分の親友であるツバメの幻を。今、この場にツバメの姿はない。きっと今も、王子さまの金箔を運んで道をかけているはずだ。
無防備な姿を晒す王子さまに、隙を伺っていたトリテレイアが声を上げる。
「幻を見てるんですか……!?」
「今こそ好機! 攻めます!」
これを好機を見て飛び出したのはケイだ。一気に距離を詰めて拳を振りかぶる。
それに対して王子さまも動き出した。瞬きですら長いほどの速度で、彼の指の第二関節から先が外れて飛んだ。
「――!」
「くっ……!」
次々に飛んでくる指の欠片。それを高速で動き回ることで避けるケイだが、二発か三発はその身で受ける形になった。だが、それによって自分が呪われた感じはしない。
「なるほど、切り離した部位には呪いは乗っていないようですね。これなら!」
その事実にほっと胸をなでおろしつつ、ケイは再び前に出る。そうして突き出した拳が、王子さまの肩を貫いた。
「それであれば恐れることはない、私も前に出ます!」
これを見てトリテレイアも飛び出した。盾を構えながら突き進み、王子さまに剣を突き出す。
それに対して王子さまが、剣を掴むことで止めた。力と力のぶつかり合い。これが崩壊しつつある身体から発せられる力とは思えない。
「あ……!」
「ぬ……っ! 何という膂力!」
「ですが与し得ないほどではありません、このまま行きます!」
トリテレイアが呻く。しかしこれで王子さまの動きは止められた。それを狙ってケイがスノーホワイトの薔薇の花を投じた。花弁が外れて舞い上がり、王子さまの視界を奪いにかかる。
剣を離した王子さまはそのまま、トリテレイアに襲いかかった。ゆるいステップを踏みながら攻撃をしのいでいくトリテレイアだが、その攻撃は苛烈の一言だ。徐々に押し込まれて、トリテレイアが防戦一方になる。
「くっ……!」
「トリテレイアさん!」
後方から千里眼による支援をしていた雲雀が声を上げた。このままではまずい。そう判断するより先に王子さまの剣がトリテレイアに向かって突き出された。
だが、その時だ。トリテレイアの盾が王子さまに向かって突き出される。
「よし、計算通りです、ここっ!」
「あ――!」
その盾の一撃で、王子さまの剣が上に弾かれる。
今までの工房は全てトリテレイアの計算通りだ。緩やかな挙動も、徐々に押し込まれるようにした動きも、すべて相手の油断を誘発させるためのもの。結果、王子さまの緩慢な一撃はこうして盾に防がれた。
大きな隙だ。トリテレイアが脚部スラスターを作動させる。
「ご無礼はお許しを!」
そのまま王子さまの足元を掬う。猛スピードでの足払いによって、王子さまは派手に転倒した。詠唱を紡ぎ続けていたブラッドルファンが声を上げる。
「ええこかし方やな、大きいの撃つわ! 当たらへんように!」
「了解です、問題ありません!」
「ドカンとぶちかましてください!」
ケイとトリテレイアも攻撃を継続しながら王子さまと距離を取った。それとほぼ同時に、つぶさに王子さまの動きを観察していたシャルロットが銃を下ろす。
「……ええ、把握しました」
その手に握られるのは大きな旗槍。勝利を掲げるための旗を、ぐっと握って彼女は振りかぶる。
「動きのクセは見切りました。次、王子さまは必ずここで……!」
彼女が独り言ちている間に、王子さまは立ち上がり始めた。仰向けになった状態から、ブリッジするように身を起こし、そこから反動をつけて上半身を起こす。
「っ、ぁ、あ……!」
「そこですっ!!」
その上半身を起こすその瞬間を狙って、シャルロットは旗槍を投じた。猛スピードで投じられた旗が王子さまの腹部を貫き、地面に縫い止める。
「う、あ……!」
「旗!?」
「ナイスですシャルロット様!」
こうなれば如何に身体が崩壊していく王子さまだろうと、容易には動けない。ブラッドルファンもほくそ笑むように声を発した。
「よう止めたわ。喰らい!」
発射される、二発目の破壊光線。今度のそれは一発目とは、威力も射程も段違いだ。
王子さまの身体が飲み込まれる。身体のあちこちが吹き飛ばされて消え去っていく。
「あ、あぁぁぁぁ!!」
悲鳴が聞こえる。苦痛が聞こえる。その声を聞きながら、ルネが慈しむように声をかけた。
「痛いよね、怖いよね……でも、もうすぐだから。もうすぐ終わりだから」
「そうです、ここで決めますよ! 力こそパワー、推進力の一点集突破です!」
そして、満を持して雲雀が動き出した。牡牛の形をした狐火を作り出し、それに跨る。
胴体を蹴るや、狐火が一気に駆け出した。オトモの援護を受けた狐火が猛スピードで王子さまに迫る。
「あ――!」
「大祓骸魂の方はなんとかしますから、王子様も生き延びてください……ここですっ!」
その声とともに、雲雀が未だ動けずにいる王子さまに突撃を決めた。ぶつかった勢いで旗が抜け、その旗が腹に突き刺さったまま王子さまが吹き飛ばされる。
「あ、あ、あ……」
それがトドメとなったようだ。全身を崩壊させながら、王子さまが地面へと力なく倒れ込んだ。
●王子は皆の自慢でした。
横たわったその身体が崩れていく。
黄金が全て剥がれ落ち、みすぼらしい姿になった幸福な王子。
その身体の傍らに、いずこから飛んできたのか。一羽のツバメが降り立った。
ツバメは何も言わない。告げない。ただ、崩れ去ろうとしている王子の傍らに寄り添って。
ツバメの目が、ふと猟兵たちを見上げた。その瞳は、まるで何かを訴えているかのように見えて。
ちょうどツバメの真正面にいたシャルロットが、一つ頷いた。そしてしゃがみながらツバメに声をかける。
「あなたは彼の友達なのでしょう? いいですよ、持っていってください、全て」
シャルロットの言葉を受け取ると、ツバメは王子さまの体に残った金箔、顔にある最後の一片をくちばしで摘み上げた。そのまま飛びゆくと、さぁっとその後を追って王子さまの身体を形作っていた欠片が風に流れ、飛んでいく。最後に残されたものは、二つに割れた鉛の心臓。
それを拾い上げたトリテレイアが、慈しむように割れた心臓を抱きながら言った。
「王子さまの欠片は……このまま、雲の道として私たちの道標になる」
「ええ、それは決して、無駄になることなど無いのです」
ケイも彼の言葉に頷きながら言う。この戦いは、王子さまの決意は、決して無駄になることはない。こうして西洋親分の分体を倒し、滅することが、西洋親分を助けることに繋がると信じて。
「ほんに……妖怪いうんは難儀なものやわぁ」
「そうですね……ほんとに」
ブラッドルファンが王子さまの欠片が飛んでいった空を見上げて言えば、ルネもそちらに視線を送りながら言う。
夜は、まだ深い。
成功
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