大祓百鬼夜行⑪〜ミシン・トラベラー
●世界のほつれを繕う者
「さて、そろそろ時間だミシン」
カクリヨファンタズムの片隅にある丸看板のバス停の前。待合所から出てきた妖怪が腕時計を見て呟いた。人間の身体にミシンの頭部をもった妖怪の名はミシン・マシーン。古いミシンが妖怪となった付喪神である。
バス停の前に軋んだブレーキ音を鳴らしながらオンボロのバスが止まると、ミシン・マシーンは乗り込み口へと入っていった。
「世界のほつれは、お裁縫妖怪一族として責任をもって繕うミシン」
ミシン・マシーンを乗せたカクリヨ交通のローカル妖怪バスは、百鬼夜行の影響で生じた「世界のほつれ」へ向かってガタゴトと走り出したのだった。
●妖怪バス火山ツアー
「ミシンって、マシンが語源らしいですよ。ミシン・マシーンじゃ意味が被ってるじゃないですか!」
猟兵たちの前でアイ・リスパー(f07909)が口を開く。どうやら予知の内容にツッコミを入れたくて仕方なかったらしい。ミシンは英語ではソーイング・マシンである。
こほん、と咳払いをして取り繕うと、アイは手元のキーボードを操作する。
空中に浮かび上がるのは、アイが予知で見たというミシンの妖怪と彼が乗り込んだバスの三次元ワイヤーフレームモデルだ。
「この人間の身体にミシンの形の頭が付いている妖怪が、お裁縫妖怪のミシン・マシーンさんです。そして彼が乗り込んだのが、野を越え山を越え、カクリヨファンタズム各地へ赴くカクリヨ交通の妖怪バスです」
回転するワイヤーフレームモデルを見ながら解説するアイ。妖怪バスの側面にはきちんと『カクリヨ交通』の文字まで再現されていた。
これ、無駄にワイヤーフレームモデル作る必要あったのかなー、と思う猟兵たちに向かってアイは説明を続ける。
「ミシン・マシーンさんは、百鬼夜行によって生じた世界のほつれを修復できるお裁縫妖怪の一族です。彼は世界のほつれの元へ赴き、空間裁縫術を使ってほつれを縫い合わせようとしています」
空間裁縫術。それは一族秘伝の奥義であり、雑巾千枚縫いや一日耐久ボタン付けなどの辛い修行に耐えることで初めて会得できるものだという。まあ、ミシンの付喪神であるミシン・マシーンにとっては、大した修行ではないのだが。
「それで、このミシン・マシーンさんが妖怪バスに乗って向かう先が問題なのです。これを見てください」
アイがキーボードを叩くと立体映像が切り替わり、切り立った山の山頂を映し出した。
そこは溶岩がグツグツと煮えたぎり、時折、噴火によって火柱が上がる活火山の火口だ。
「この火口の中心が、ミシン・マシーンさんが向かう世界のほつれのある場所になります」
火口の溶岩の中心には、ぽつんと岩石の島が浮かんでおり、そこに『世界のほつれ』と書かれた丸看板のバス停が見える。
そのすぐ近くにあるのが、ぐにゃりと歪んだ空間――世界のほつれだ。
「妖怪バスですから溶岩の上くらいは何とか走ることが可能です。ですが、さすがに噴火の火柱に巻き込まれたり、火山弾の直撃を受けたりしたら無事では済みません。そこで、皆さんには妖怪バスに同乗し、火山の脅威から妖怪バスとミシン・マシーンさんを守っていただきたいのです」
世界のほつれを放置したら、カクリヨファンタズムのこと、いつものようにカタストロフに繋がりかねない。なんとしても妖怪バスを守り抜き、ミシン・マシーンを世界のほつれまで無事に連れて行く必要がある。
「あ、あと、カクリヨ交通はこんな人里離れた場所を走るローカルバスを運行していることから想像つくように零細バス会社です。バスはオンボロで乗り心地は最悪ですし、火山に向かうというのにクーラーも付いていません。車体が溶岩に耐えられても、乗っているミシン・マシーンさんが熱にやられてしまうかもしれませんね」
さらりと重要な情報を付け加えるアイである。
バスのメンテナンスや車内の温度管理にも気を配った方がいいかもしれない。
「これも大祓百鬼夜行の戦いの一つです。皆さん、どうかよろしくお願いします」
アイが開いた転移ゲートの先には、『カクリヨファンタズム』と書かれたバス停が見えたのだった。
高天原御雷
このシナリオは「戦争シナリオ」です。1章で完結し「大祓百鬼夜行」の戦況に影響を及ぼす特殊なシナリオとなります。
オープニングをご覧いただき、どうもありがとうございます。高天原御雷です。
今回は不思議な妖怪バスでのカクリヨツアーとなります。「世界のほつれ」を直してくれる、お裁縫妖怪のミシン・マシーンを無事に目的地まで連れて行ってください。
リプレイがコメディになるかシリアスになるかは、プレイング次第です。
以下、シナリオの補足です。
●目的
カクリヨファンタズムにある活火山。その溶岩に満たされた火口の浮島にある「世界のほつれ」にミシン・マシーンを無事に連れて行くことが目的です。
火山は頻繁に噴火しているので、火山に近づこうとするだけで火山弾の雨に襲われます。
また、火口の溶岩の熱だけなら妖怪バスで耐えられますが、火山の噴火や火柱に巻き込まれたらさすがに無事では済みません。
溶岩上を走るバスの中は暑くなるので、熱からミシン・マシーンを守る必要もあるでしょう。
●プレイングボーナス
以下のいずれかの行動を取ると、プレイングボーナスが得られます。
妖怪バスとミシン・マシーンを危険から守る。
ミシン・マシーンを暑さから守る。
妖怪バスの整備をおこなう。
●ミシン・マシーン
「世界のほつれ」を直すことができる、お裁縫妖怪です。厳しい修行に耐え、空間裁縫術を会得しています。
古いミシンの付喪神で、人間の身体にミシンの頭が付いた姿をしています。語尾は「ミシン」です。
なお、繊細で車酔いをしやすいです。また機械だけに熱に弱いです。なぜ火山に来たのか。
●妖怪バス
零細バス会社のカクリヨ交通が運行する妖怪バスです。運転手はいません。
不思議な力で野山や森の中、水上に加え溶岩の上も走ることが出来ます。また頑丈さだけはあり、車体は溶岩の熱にも耐えられます。
ただしオンボロなため、乗り心地は最悪です。クーラーもないため、このまま溶岩の上を走ったら車内はサウナ状態でしょう。
●
オープニング公開からプレイング受付を開始します。
今回は戦争シナリオなので、完結速度優先にして採用人数を絞らせていただくかもしれませんが、ご了承ください。
第1章 冒険
『妖怪バスでほつれに向かえ』
|
POW : 肉体や気合いで苦難を乗り越える
SPD : 速さや技量で苦難を乗り越える
WIZ : 魔力や賢さで苦難を乗り越える
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
トリテレイア・ゼロナイン
(キマイラフューチャーの怪人と少々外観に類似点が見られますね…)
世界のほつれを繕う為、騎士として道中の護衛を務めさせて頂きます
よろしくお願いいたしますね
もっとも、私はバスには同乗しないのですが…
宇宙バイク並みの機動力持つ機械馬に●騎乗
マルチセンサーでの●情報収集で道行く先の地形情報や危険を見切り、●瞬間思考力でなるべく平坦な迂回路などを即座に割り出しながらバスを先導します
さて、火山弾の頻出地帯ですね
バスの護衛はお任せを
大盾でバスを庇いつつ、馬上槍の機関砲と肩部格納銃器の乱れ撃ちスナイパー射撃で●武器落とし
UCで凍結させて砕いて行きます
凍結させた岩は冷却材代わりに車内に送りましょう
エメラ・アーヴェスピア
な、なるほど?要は護衛の仕事って事でいいのかしら?
それ以外にも私がやれる事は多そうね、受けさせてもらうわ
まずは各種装備を使って【情報収集】、火山の影響をいち早く察知し、対応できるようにしておきましょう
そして「魔導蒸気装兵」に対して『その身に纏うは我が英知』よ
今回は『凍て付かすは我が極寒の巨人』をイメージした装備…つまり各種氷冷型魔導蒸気兵器を装備させるわね
装甲を減らし、射程を増やしましょう、火山弾などは前記の兵器や標準装備の貢献で叩き落としなさい…【遊撃】、任せたわよ
ついでにこの兵器の冷気で涼しくはなるでしょう
それと念の為に私は待機ね…【メカニック】で修理等をしようと思うわ
※アドリブ・絡み歓迎
雛菊・璃奈
ウチのメイド(メイド人形)達もメイド修行って言って雑巾1000枚とか縫ってたりしてたけど…もしかして才能あるのかな…?
とりあえず、暑さに弱いみたいだし、バスの車体に護符を貼って冷気の呪術結界【呪詛、結界術、高速詠唱】をバスの周囲に張っておこうか…。
わたしも熱いの嫌だし…。
で、更にバスを守る様にバスの周囲に【狐九屠雛】を展開して配置…。
火山弾とか何かしらの危険や妨害の排除とか、いざとなれば溶岩を凍らせたりもできるしね…。
後はメイド達が作ってくれたクッションを使って少しでも乗り心地を改善…。
…酔いやすいって、口、何処…?
吐いたらミシンの部品とか出てくるのかな…?
とりあえず、酔い止め飲ませておこう…
神代・セシル
熱にやられてしまう可能性があっても、火山に行くマシーンさんに助けない理由はないです。
私はこう見ても、一応妖怪ですので、妖怪バスを乗るのは何も問題ありません。
バスの整備、私も手伝いたいんですが。皆の安全の為に辞めます。
普通の火山弾の雨に対してシールドを展開して防御。
【Oceanic Grace】で頑丈な水属性のバブルを作り、皆を泡に包み込ませていただきます。
さすがにマシーンさんても水に壊されません……よね…
アドリブ歓迎
●
猟兵たちが転移してきたのは、『カクリヨファンタズム』と書かれたバス停の前だ。
そこに『カクリヨ交通』と書かれた古ぼけたバス――妖怪バスが、ガタゴトと車体を揺らしながらやってきた。
妖怪バスは、カクリヨファンタズムを長距離走るローカルバスだ。このバス停でしばらく休憩を取るのだろう。停車して開いたドアから、頭部がミシンになっている付喪神、ミシン・マシーンが降りてくる。
「おや、世界のほつれ行きのバスに乗客とは、珍しいミシン」
ミシンが首をかしげながら猟兵たちを見回した。
「貴方がミシン・マシーン様ですね?」
白銀の鎧を纏った騎士の姿をしたウォーマシン、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)がミシンに声をかけた。トリテレイアは、西洋甲冑の兜に似た頭部に緑色のモノアイを光らせながら、マルチセンサーでミシンの全身をスキャンする。
(キマイラフューチャーの怪人と少々外観に類似点が見られますね)
トリテレイアの感想も無理はない。もしここがキマイラフューチャーだったら、怪人ミシン・マシーンとかいう名前で出てきたことだろう。――同じじゃん。
「なぜ、私のことを知っているミシン?」
「猟兵――と名乗れば納得していただけますか?」
トリテレイアが口に出した『猟兵』という言葉を聞き、ミシンが両目を見開いた。――どこが目なのかよくわからないが、そんな雰囲気がしたのだ。
カクリヨファンタズムにおいて猟兵とは妖怪たちに大歓迎される人気者だ。そして、日常的に発生するカタストロフを防ぎ――今また大祓骸魂に対抗してくれている心強い存在なのだ。
「なるほど、西洋甲冑の妖怪ではなかったミシンか」
トリテレイアの姿を見て失礼なことを言うミシン。だが、その程度のことを気にするトリテレイアではない。
「猟兵なら――世界のほつれを繕う大仕事、手伝ってくれないミシンか?」
「ええ、騎士として道中の護衛を務めさせて頂きます。よろしくお願いいたしますね」
トリテレイアはミシンに向かって強く頷いた。
「なるほど、要は護衛の仕事って事でいいのかしら?」
トリテレイアとミシンの会話を聞いていた金髪の少女が会話に混ざってくる。
黒と赤を基調とした人形のようなドレスを身にまとい、機械仕掛けの時計を腰と帽子につけた魔導蒸気技術者のエメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)だ。
二人の会話を聞きながら妖怪バスの機械周りの確認をしていたエメラは、そのオンボロ具合に溜息を吐きながら続ける。
「このバス、きちんとした整備が必要ね。どうやら護衛以外にも私がやれることは多そうだし、この仕事、受けさせてもらうわ」
クールな表情でエメラが告げた。
それを聞いたミシンは、両手をぽんと打つと、納得したような表情――どんな表情かわからないが――を浮かべる。
「おお、あなたも猟兵だったミシンか。てっきり、妖怪ロリバ――」
「あら、気に入ったわ。私の魔導蒸気兵器の試し撃ち、受けてみるかしら?」
普段はクールな表情に酷薄な笑みを浮かべたエメラは、周囲に浮遊型魔導蒸気ガトリングガンを展開。その銃口をミシンに向けた。
「エメラ様、落ち着いてください。ミシン様も別に悪気は――」
トリテレイアが慌てて間に入り、エメラが渋々、魔導蒸気兵器を収納する。エメラも本気で撃つつもりはなかったのだろう。――多分。
「ええ、改めてよろしくお願いするわね」
クールな表情に戻ったエメラがミシンに告げた。
そこに、銀色の髪と尻尾を伸ばした妖狐、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)が声をかける。
「その仕事、わたしも手伝うよ……」
魔剣や妖刀を祀る一族である璃奈は、露出の多い巫女装束を身にまとい腰に禍々しい気を放つ妖刀を帯びている。その姿はカクリヨファンタズムに住む妖怪と言っても通用しそうなものだ。
「妖狐さんも妖怪じゃなくて猟兵だったミシンか。それなら、仕事を手伝ってくれると嬉しいミシン」
「ん……。任せて……。この子たちも一緒だから……」
璃奈は無表情で頷いて同意しつつ、連れてきたメイド人形たちを紹介する。
ラン、リン、レンの3人組とミア、シア、ニアの3人組だ。
「むむ、この裁縫力……この子たちには、空間裁縫術を極める素質がありそうミシン」
「裁縫力……? よくわからないけど……メイド修行って言って雑巾1000枚とか縫ったりしてたからかな……?」
璃奈はこくん、と首をかしげた。
さらに、赤い瞳の右目にモノクルをかけた青髪の少女も協力を申し出てきた。
西洋妖怪――吸血鬼の神代・セシル(夜を日に继ぐ・f28562)である。
「私は一応妖怪ですけど、こう見えても猟兵です。熱に弱いマシーンさんが危険をおかしてまで世界のほつれを直しにいくのを助けない理由はないです」
「妖怪なのに猟兵とか、すごいミシン! ぜひお願いするミシン!」
猟兵になった妖怪は、彼らの中で一目置かれる憧れの存在である。そんなセシルに協力してもらえるということで、ミシンは大喜びで仕事の手伝いを頼む。
かくして、四人の猟兵たちはミシン・マシーンの世界のほつれを直す大仕事に協力することになったのだった。
●
「それにしてもバスがボロボロね。壊れそうなところは修理や部品交換をしておきましょう」
魔導蒸気機械に長けた技術者であるエメラは、愛用の工具を取り出すと、妖怪バスの整備を開始した。
バスのエンジンを見たり、車体の下に潜り込んだりしてテキパキとバスの部品を交換していく。
「んー、せっかくだから、エンジンは魔導蒸気機関に交換して――足回りは魔導歯車で強化しましょうか」
かくして、妖怪バスは外見がオンボロのまま、内部がまったく別物というくらいに改造されていく。
「ミシンさんは暑さに弱いみたいだし、バスの車体に護符を貼っておこうかな……」
璃奈は用意してきたお札を巫女装束の胸元から取り出すと、それをペタペタと妖怪バスに貼り付けていく。そのお札は呪術や結界術が得意な璃奈が作成した冷気の呪術結界を形成するものだ。
「私も熱いの嫌だし、ね……」
冷気の結界で包まれたバスの車内がひんやりとした空気に包まれる。
「神代様、どうされました?」
エメラと璃奈の作業を、離れた場所から見つめるセシルに対し、トリテレイアが声をかける。
セシルは赤い瞳を伏せると、悲しげに呟いた。
「バスの整備、私も手伝えたらよかったのですが……」
妖怪である彼女は、魔術には自身があるが、自他共に認める機械音痴だった。
肩を落としたセシルは、消え入るような声で続ける。
「皆の安全の為に諦めます……」
「気を落とされないでください、神代様。きっとその魔法の力が必要になる時が来ます」
機械の騎士の言葉に、妖怪の少女はこくん、と頷いた。
●
妖怪バスにミシン、エメラ、璃奈、セシルが乗り込み、座席に着く。
機械の白馬『ロシナンテⅡ』に乗ったトリテレイアが、バスの外から声をかける。
「それでは参りましょうか」
ロシナンテⅡを駆るトリテレイアがマルチセンサーを総動員し先方の地形をスキャンする。危険な道を避け、妖怪バスが走りやすいルートを瞬間的に割り出したトリテレイアはロシナンテⅡに拍車をかけた。走り出したロシナンテⅡの後をエンジンを吹かした妖怪バスが追走していく。
宇宙バイク並の機動力を持つロシナンテⅡだが、エメラによって蒸気エンジンを搭載された妖怪バスのスピードも負けていない。以前とは見違えるような速度で荒野を走り、山道の急カーブをドリフトする。整備された足回りのおかげで、激しい運転でも車内は快適だ。
「うわっ、さっきまでとはスピードが全然違うミシン! それに揺れも少なくなったミシン!」
「はい、よかったらこれ使って……」
璃奈が車内のメンバーに差し出したのは、メイド人形たちがつくったクッションだ。
「ありがと、助かるわ」
「使わせていただきます」
ミシンとエメラ、セシルはバスの座席にクッションを敷いた。ふかふかのクッションは妖怪バスの揺れを完全に吸収してバス旅をより快適なものにしてくれる。
そして、あっという間に目的の火山が見えてきた。
バスの車窓から見えるのは、激しく噴煙を上げる切り立った山だ。時折、激しい音とともに山頂から溶岩の柱が吹き上がっている。
「あそこが、目的の世界のほつれがある火山だミシン」
「皆様、周囲の温度が上がってきていますが、大丈夫でしょうか?」
温度センサーの値を見たトリテレイアがバス内に問いかけるが、返ってくるのはセシルの平然とした声だった。
「はい、大丈夫です。車内の温度は快適です」
璃奈がバスに貼ったお札によって形成された冷気の結界がバスを包み込むことで、車内の温度上昇を防いでいるのだ。
「なるほど、これが璃奈さんの冷気の結界ね。なかなか興味深い技術だわ」
エメラも関心したような声をあげ――お札を一枚剥がしてそれを光に透かしたり、ルーペで拡大して見たりと、緑色の瞳に好奇心の光を輝かせていた。
こうして、妖怪バスは急峻な山道を登り始めた。
●
「どうやら車内の方は大丈夫なようですね。――む」
ロシナンテⅡの上でトリテレイアが上空にカメラアイを向ける。
そこに映るは火山の噴火によって舞い上げられ、天空より降り注いでくる火山弾の雨だ。
「皆様、上空にご注意ください!」
警告の声を上げながらトリテレイアは空に向かって馬上槍を構えた。
妖怪バスの窓越しにその様子を見たミシンが悲鳴に似た声をあげる。
「火山弾を槍で迎撃しようなんて無茶だミシン!」
「――誰が槍で落とすなどと申しました?」
その言葉とともに、トリテレイアが構えた馬上槍の先端からガトリングガンの銃弾が撃ち出された。さらにトリテレイアの肩部装甲に格納されていた機銃が顔を出し、対物徹甲弾が火山弾に向けて放たれる。
降り注ぐ火山弾に銃撃を精密に命中させながら、次々と砕いていくトリテレイア。砕かれた細かい破片は大盾を妖怪バスの上にかざすことで被害を防いでいく。
「槍かと思ったら弾が出るとか、鎧から銃がでてくるとか、滅茶苦茶ミシン……」
ミシンはトリテレイアの活躍を見て呆然と呟くが、トリテレイアは弾丸を撃ち尽くした馬上槍を投げ捨てると油断なく上空を見つめる。
「どうやら、大物が来たようですね」
落ちてくるのは、先程までとは大きさが違う巨大な岩石だった。
火山によって真っ赤に赤熱した岩石は、妖怪バスに直撃するコースで落ちてくる。
「うわわー、あれは撃ち落とすのは無理だミシン~!」
叫ぶミシンを横目に、トリテレイアは冷静に右腕を岩石に向けた。
右腕の装甲から姿を現すのは大口径の銃口だ。
「氷の剣や魔法ほど華はありませんが……無骨さはご容赦を」
トリテレイアの右腕の銃口から超低温化薬剤封入弾頭――フローズン・バレットが発射される。
特殊弾頭は岩石に命中すると、その内部で炸裂し岩石をバラバラに打ち砕いた。さらに特殊薬剤が岩石の熱を急激に奪って凍結させていく。
「――また、騎士とは程遠い戦い方をしてしまいましたね」
周囲に凍った岩石の欠片が降り注ぐ中、トリテレイアは静かに呟いたのだった。
なお、トリテレイアが凍結させた岩石の欠片は妖怪バスの車内に運び込まれ、車内の冷却に使われることになった。
●
急峻な山道を登りきり、山頂にたどり着いた妖怪バス。
その火口には溶岩の湖が広がっていた。中央にぽつんと島のように見える岩が、目指すべき世界のほつれがある場所だろう。
「ロシナンテⅡでご同行できるのはここまでです。皆様、どうかご武運を」
ミシンたちを乗せた妖怪バスが溶岩の海の上を走っていくのを、トリテレイアは機械白馬の上から見守ったのだった。
「ここが火山の火口……」
「これだけ対処しても、流石に溶岩の上を走ると暑いわね」
バスの外に広がる溶岩の海を見ながら、璃奈とエメラが呟く。
璃奈の結界やトリテレイアの作った氷塊のおかげで耐えられなくはないが、溶岩から発せられる熱によって確実に車内の温度が上昇していた。
「こ、これ以上暑くなるとダメミシン~」
暑さに弱いミシンが早速弱音を吐く。だが、ここを進んでいかねば世界の崩壊を止めることはできないのだ。
「ここは私に任せてください」
すっくと立ち上がったのは、魔法の杖『Oceanic Grace』を手にしたセシルだ。
セシルが属性魔法を操る魔法の杖を振るうと、そこから水が溢れ出し、水の泡でセシルを初め、ミシンや璃奈、エメラを包み込んでいく。
「これは水の膜……」
「これなら、熱への対処も万全かしら」
「助かったミシン~。ありがとうミシン~」
喜ぶミシンに向かってセシルが笑顔を向ける。
「はい、マシーンさんが水に濡れて壊れなくってよかったです」
「暑さ対策もできたし……」
「次はあれの対応ね」
璃奈とエメラが窓の外を見ると、火口の小規模な噴火によって空中に吹き上げられた燃えたぎる岩石が火山弾として降ってくるところだった。
「まずは私が……。魂をも凍てつかせる地獄の霊火……」
璃奈が展開したのは、九尾炎・最終地獄【狐九屠雛】という、触れるモノ全てを凍てつかせる絶対零度の炎だ。そして、その炎を落下してくる岩石に向かって放つ。
絶対零度の炎は灼熱の岩石に触れるとその熱を奪い去り凍結させると、それを粉々に打ち砕く。
だが、打ち砕いた端から、ひっきりなしに火山弾が落下してくる。
「次は、私の魔導蒸気装兵の出番よ。魔導蒸気鎧装、装着完了。さぁ、行きなさい!」
エメラは喚び出した人型魔導蒸気兵器たる魔導蒸気装兵に、【その身に纏うは我が英知】によって『氷冷型魔導蒸気兵器』を装備させた。
妖怪バスの屋根の上に立つ魔導蒸気技術の結晶たる魔導蒸気装兵。それが持つ氷冷型魔導蒸気兵器は、装甲の代わりに射程強化を受けている。魔導蒸気装兵が上空から飛来する岩石弾へと向け引き金を引いていくと、魔導蒸気技術で生み出された冷却弾が火山弾に命中し、バラバラの破片に変えていく。
「火山弾の破片でバスを傷つけさせはしません!」
璃奈の【狐九屠雛】とエメラの魔導蒸気装兵の攻撃によって巨大な岩石は破壊されたが、その破片や小規模な火山弾が妖怪バスへと降り注ぐ。
だが、セシルが『Starlit Shield』によって発生させたシールドが破片を防ぎ、また【Arbitrator】によって「セシルを守りたい」という気持ちを植え付けられた小型火山弾たちは、無意識的に妖怪バスをさけるように周囲に落下していった。
●
「ふう、これで一安心ミシン~」
ミシンが安堵の息をついた、その瞬間。
まるでフラグを回収するかのように、妖怪バスの進路上に巨大な溶岩の壁が吹き上がった。
「あわわっ、このタイミングだと溶岩の壁に突っ込むのは避けられないミシン!」
ミシンが絶望的な声を上げるが、猟兵たちは諦めていない。
「避けられないなら……」
「そうね、私たちの力で」
「切り抜けて見せます」
「行って、地獄の霊火……」
璃奈が【狐九屠雛】を溶岩の壁に向かって撃ち出した。
絶対零度の炎が命中した箇所が凍りついていく。
「魔導蒸気装兵、【その身に纏うは我が英知】リロード! 【焼き尽くすは我が灼熱の巨人】の『炎熱型魔導蒸気兵器』を装備、発射しなさい!」
続いてエメラが魔導蒸気装兵の武装を一瞬で変更。炎熱型の装備の攻撃力を強化し、凍結した溶岩の壁に向かって発射した。
絶対零度から超高温に一気に温度変化した溶岩の壁が、熱膨張によってひび割れる。
「溶岩の壁さん、お願いです、そこを通してください」
寵姫であるセシルの言葉に従うように、【Arbitrator】の効果を受けた溶岩の壁の中央が崩れ、妖怪バスが通れる大きさの穴が開く。
「いまだミシン~! 突っ込むミシン~!」
全力で駆け抜けた妖怪バスは、火山の火口の中心、岩石の島にある『世界のほつれ』と書かれたバス停に到着した。
●
「うう、気持ち悪いミシン~」
「大丈夫……? 酔い止め、いる……?」
バスから降りたミシンが、車酔いで地面に突っ伏しているのを、璃奈が介抱していた。
猟兵たちによって比較的快適な旅だったのだが、最後の火口での揺れが効いたようだ。口(?)から糸のようなものを吐き出していた。
――しばらく休憩して。
なんとか立ち直ったミシンがフラフラと立ち上がると、歪んだ空間――世界のほつれへと向き直った。
そして、世界のほつれを修復する空間裁縫術の構えをとる。
「我らお裁縫妖怪の一族に伝わる秘技、受けてみるがいいミシン!」
ミシンと世界のほつれの一瞬の交錯の後――。
歪んだ空間――世界のほつれは消滅していた。
こうして、カクリヨファンタズムのカタストロフは猟兵たちによって防がれたのだった。
だが、お裁縫妖怪であるミシンの旅は終わらない。
また次の世界のほつれを探し、カクリヨファンタズムを救うという仕事が待っているのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵