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大祓百鬼夜行⑮〜さいわいの果て

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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#カクリヨファンタズム
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#大祓百鬼夜行


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●さいわいの果て
「ツバメさん、黄金をもっていっておくれ。大祓骸魂に続く『雲の道』は、僕の黄金がなくては作れないんだ」

 あなたがそう言うので、わたしはその美しいこがねを剥がします。その度にあなたが少しばかり表情を歪ませるから、本当はとても嫌でしかたがないのです。
 わたしがこがねを剥がせば剥がすほど、あなたが眠らせている悪いものが、あなたの中で暴れてしまうのですから。

「まもなく、たいせつな役目が始まる。僕は、猟兵達と殺し合わねばならない」

 あなたが彼らと全力で戦うことで、悪いものが削がれていく。それがこの大きな戦いを終わらせるために絶対に必要なこと。
 だけど、もしも間に合わなかったら。わたしが言葉を紡がずとも、あなたはわたしの想いがわかったように、そっとやさしく微笑みます。

「だからツバメさん、黄金を持っていっておくれ。もし僕が死んだなら、雲の道を繋ぐ役目は君にお願いしたいんだ。僕の意識がなくなる前に、さぁもう行って」

 王子様、王子様。あなたのさいわいは、それで叶うのでしょうか。あなたのいのちが潰えてしまったら、わたしのさいわいは。

 ――わたしはあなたに、生きてほしいのです。

●ほんとうの君を
「大祓百鬼夜行、お疲れ様です」
 鎹・たから(雪氣硝・f01148)は集まった猟兵達に短く礼を言うと、すぐさま説明へと入る。
「皆さんのおかげで、妖怪親分の一人、西洋妖怪の大親分である『しあわせな王子さま』の元に辿り着きました。王子さまはとても優しい妖怪ですが、強力な骸魂達を取り込んでおり、意識を奪われた状態にあります。皆さんには彼と全力で戦って頂き、勝利してもらいたいのです」
 全力で、という言葉には続きがある。羅刹の娘はこくりと頷いた。
「王子さまの膨大な虞の影響により、窮地になくても『真の姿』に変身して戦う事ができます」
 つまり、それほどの力でなくては彼には勝てないという意味が含まれている。
「カクリヨファンタズムのオブリビオンは『骸魂が妖怪を飲み込んで変身したもの』です。飲み込まれた妖怪は、オブリビオンを倒せば救出できます」
 普段オブリビオンを『ほろぼせ』と表現する娘が、かたくなにその言葉を告げなかったのは。
「王子さまは、自分の身体に飾られた金を剥がして友達のツバメに託しています。剥がせば剥がすほど、彼の理性は骸魂達に乗っ取られてしまいますが、この金がなくては大祓骸魂まで辿り着けないのです」
 それに、とたからは声を震わせる。
「金を剥がして持っていくツバメは、泣いていました。優しい王子さまとツバメを、皆さんにすくってほしいのです」
 雪と色硝子に満ちた大きな瞳が、猟兵達を見つめていた。


遅咲
 こんにちは、遅咲です。
 オープニングをご覧頂きありがとうございます。

●注意事項
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「大祓百鬼夜行」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 プレイングボーナス……プレイングボーナス……真の姿を晒して戦う(🔴は不要)。

 真の姿はイラストを拝見します。
 複数所持の方は指定、未所持の方はどのような姿かを明記して頂けると助かります。
 真の姿についてや、王子さまへの想いなどの心情があると書きやすいです。

 プレイング受付は5月12日(水)朝8時31分以降から。

 戦争シナリオのため、書ききれるだけの少人数受付になります。
 再送のお手間をおかけすることもあります。
 皆さんのプレイング楽しみにしています、よろしくお願いします。
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第1章 ボス戦 『西洋親分『しあわせな王子さま』骸蝕形態』

POW   :    骸蝕石怪変
自身の【黄金の剥がれた部位 】を【異形の姿】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
SPD   :    部位崩壊弾
レベル分の1秒で【切り離した体の部位(遠隔操作可能) 】を発射できる。
WIZ   :    崩落の呪い
攻撃が命中した対象に【崩落の呪い 】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【対象の皮膚や装甲が剥がれ落ちること】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

月凪・ハルマ
――どうも王子様。お望み通り、
全力でぶちのめしにきましたよ
(真の姿を開放)

◆SPD
まず即座に【瞬身】を発動して自己強化

UCを含む敵の攻撃は【見切り】【残像】【武器受け】【第六感】で
回避しつつ【武器改造】で爆破機能を付与した手裏剣手裏剣を投擲
更にその爆発に紛れ、【迷彩】で姿を隠す

その後は発見されない様に周囲の遮蔽物や【忍び足】を利用して
【目立たない】様に戦場を駆け、死角から手裏剣で攻撃し続ける

同時に王子様の様子を観察(【情報収集】)
向こうに大きな隙ができたなら【早業】で距離を詰め
魔導蒸気式旋棍を叩き込んだ後に離脱
再度死角からの手裏剣、という流れを繰り返す


助けるさ、必ず。あのツバメのためにもな



 剥がれていった黄金と一緒に、理性が融けていく。露わになった鉛の躰から、深々と色づく虞の風が戦場にごうごうと吹き荒れた。
 骸魂に意識を奪われた王子の前に、身軽な格好で降り立った少年が挨拶を紡ぐ。
「――どうも王子様」
 お望み通り、全力でぶちのめしにきましたよ。
 そう呟くや否や、月凪・ハルマの全身を暗闇が包む。黒い瞳が一等星よりも明るい金の眼に変わった時には、既に少年の姿はなかった。ほうぼうに伸びきった銀の髪を靡かせて、黒衣の男が地を蹴る。
 男が駆けたのと同時、鉛で出来た躰からは想像もつかぬ柔らかな動きで、王子の両腕が切り離される。目にも留まらぬ速さで発射された両腕は、不規則な軌道でハルマの身体を打ち砕こうとするも、自身の感覚を最大限に強化した彼を捉えることが叶わない。バックステップで後ろに飛びあがった瞬間、ハルマは王子めがけて手裏剣を投げつけた。ひと息置いた直後に爆発したそれがもうもうと土煙を巻き起こしたせいで、王子の視界が奪われる。
「(こちらの姿を見つけられなければ、自由自在なあの腕も無意味でしょ)」
 瓦礫まみれの戦場は、よく見ればUDCアースのショッピングモールに似ている。『しあわせな王子さま』が最期を覚悟した場所として選んだにしては妙にとんちんかんで、此処から発った燕の涙を想う。
 地面に落下したまま放置された看板の影から抜け出して、マネキンの山まで走る最中に手裏剣を投擲。ありとあらゆる遮蔽物を利用しながら戦場を駆け抜けて、忍びの刃が放たれる度、次々と起きる爆発が王子の目を攪乱している。
 ふいに、宙に浮く王子の両腕が周辺にあった瓦礫を粉砕し始める。遮蔽物を一気に浚って、ハルマの隠れ蓑をゼロにするつもりらしい。
「(そろそろそういう手に出るとは思ってたよ)」
 同時に、この手段が王子にとって一番大きな隙になることも。かつては青い宝石が埋め込まれていた王子の窪んだ眼窩に、月よりもしろい銀髪が映りこむ。
 魔導蒸気で動く旋棍に籠められた一撃が、ほんのわずかに星の軌跡を遺して王子の躰を穿つ。
「助けるさ、必ず」
 あなたのさいわいを願った、ツバメの想いが届くように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雲烟・叶
……全く、随分と頑張るんですねぇ
一応仮にも猟兵、少しは応えてやらねば嘘ってもんでしょうか

さて、黄金が剥がれた部分を狙え、とのことでしたけど
細かい的なら、君たち得意でしょう
おいで、管狐たち

…………、……この姿、嫌いなんですけど、ね
呟く内に変化したのは歳若い少年の姿
嘗て、一番最初に人型を取った時の、呪詛を抑えることすら知らなかった頃の姿に等しい
呪物である己を憎み、独りでも生きていけるようにと己の幼さを呪って、今の姿となった
けれど、元に戻ったそれだけで、管狐たちへと【呪詛】が漲る
毛を逆立て、歓喜の唸りを上げた管狐たちが狙うは、黄金の剥がれた部分
【恐怖を与え、生命力を吸収し、ダメージを与え続ける】



 ぴしりぴしりと音がして、王子の躰にひびが入っていく。その姿を哀れだとも、憐れだとも思わなかったけれど。
「全く、随分と頑張るんですねぇ」
 あわくため息が洩れたのは、そのひたむきさに対してだったろうか。雲烟・叶の眼差しは物静かなまま。こちらに全てを託した妖怪に、仮にも猟兵である自分が出来ることはひとつだけ。ね、と誰に問うでもなく、あるいは意識の墜ちた王子へと投げかけるように。
「少しは応えてやらねば、嘘ってもんでしょうか」
 紫煙をくゆらせたままの呪物の目にも、黄金の剥がれた鉛の躰に骸魂の群れが蠢いているのがよく視えた。あれを抱えているのはさぞ苦しいだろう、と思いながら、煙管をふっと唇から離す。狙うのは、その鈍色の部位。
「細かい的なら、君たち得意でしょう」
 おいで、と呼びかけられた管狐が一匹、二匹、三匹。次々に煙管から零れだしたけれど、その様子が普段と違うのも叶にはわかる。灰色めいていた煙が赤黒く染まっていって、それまで見えていた景色が一回り大きく感じられる。
「……この姿、嫌いなんですけど、ね」
 青年のヒトを模していた叶の外見が、姫御にも似た少年に変わりゆく。ヤドリガミとしていのちを持った後、生まれてはじめて取ったヒトガタの姿は、否が応でも滾る呪詛を溢れさせていく。愛らしい使い魔達は毛を逆立て、主の齎す呪詛を甘い蜜のように啜って歓喜の唸りをあげた。
 ――ああ、本当に嫌だ。
 けれどこの姿を晒してでも、返してやりたいと思ったものがある。
 台座から降り立つ王子が尋常ではない速さで此方へと駆けだせば、まがつの骸魂達の宿るレイピアを振るう。切っ先が濃紅の艶やかな着物に触れるよりも先、瞳を爛々とひからせた管狐の群れが王子の鉛に襲いかかった。
 甲高い鳴き声と共に巻きつく焔に、くゆる煙が形を持った鋭利な爪牙に、なみなみと注がれたのろいが骸魂と喰らいあう。
「こんな着物くらい、すきに裂いてもらって構いませんがね」
 陶磁めいたしろい膚に浮かぶ、真っ赤な手形だけは見せたくない。人から人へと渡り歩いた呪物(じぶん)を憎み、呪物としてしか見てはくれなかった者達に失望して、独りで生きていけるよう己の幼さを呪って(願って)、そうして手に入れた青年の姿を、愛してくれる者が居る。
 そんな者達がこの場に居なくてよかったから、ねぇ、と王子を呼ぶ。
「あんたは、皆に幸せを運ぶんでしょう」
 ――だったら、あんたの幸せを運んでくれる者達を、泣かせちゃあ駄目でしょう。
 呪いに満ちた管狐達が、虞を啄む。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳥栖・エンデ
真の姿:翼もつ黒虎のようなケモノ

しあわせな王子とツバメ、
とても聞き覚えのある物語だねぇ
普段のボクも燕に似た翼を持ってはいるけども

骨噛みで泥の怪物を呼び出して
護ったり攻撃したり対のように撹乱しようか
引き裂いて噛みつき喰らうのがボクらの仕事で
でも昔はキミたちのように
誰かの願うこと叶えてた頃もあったんだけど
自分を犠牲にしてまで叶えさせることは
幸福だったかなぁ、最後までわからなかったよ

共に居られたら其れで良かったのかもしれない
でも出来れば一緒に旅をしたかったな
キミたちは如何だろう?
少なくともボクに出来そうなことなんて
……そう多くはないのだから
存分に砕いてあげよう、
空に輝ける星のようにね



 しあわせな王子と一羽のツバメ。とても聞き覚えのある物語に、鳥栖・エンデがちいさく笑んだ。ふと、青年の腰に飾られた雨燕に似た翼が揺れる。
「キミたちが役目を果たすように、ボクらも仕事をしようと思うんだ」
 山羊の蹄はそのままに、蛇の尾はより艶やかに、飾りの羽根は更におおきく。キマイラの人間らしい部位が毛皮に包まれ、細身の身体はがっしりとした肉食の獣に変化した。黒虎は唸り声をあげるでもなく、王子に穏やかな眼差しを送っている。
 窪んだ片目が獣を捉えると、再び王子の胴体から外れた両腕が宙を舞う。始めようか、とエンデの声で獣が言葉を発せば、黒虎の足元に伸びる昏い影が伸びた。ずるりと這いでて形を創った怪物は、立派な角の頭蓋と鋭い爪以外、ぼたぼたと滴る泥の肉体を持っている。
 ひゅ、と音を立ててエンデへ突撃する王子の両腕を、怪物の爪が阻止する。弾かれた腕が軌道を変えて砕いた瓦礫の山は、元の形をなくして塵屑以下へと粉砕された。
「わぁ、妖怪の親分だものね」
 やっぱりそれくらいの力はあるんだなぁ、なんて呟いて、獣は翼を羽ばたかせて空を蹴った。両腕が此方へと戻ってくる前に、怪物とふたりで王子の本体まで一気に近付いて。怪物が鉛が露わになった脚に、エンデが肩に食らいつく。痛みに耐えかねた王子が身をよじる時、獣にはいつかの想い出がよぎる。
 昔は王子と燕のように、誰かの願うことを叶えていた頃もあったのだけれど。自分を犠牲にしてまで叶えさせることは、
「――幸福だったかなぁ、最後までわからなかったよ」
 背後に風を切る気配がしたから、怪物と一緒に王子からぱっと離れる。戻ってきた両腕がふたりの間を分かつ時、何も映らぬ頭蓋の眼窩と琥珀の瞳が視線を交わす。
 共に居られたら其れで良かったのかもしれない――でも、出来れば一緒に旅をしたかったな。
「キミたちは如何だろう?」
 獣の問いに王子が答えることはなく、代わりにごうごうと蠢く骸魂の無数の叫びが、風と共にエンデの耳に囁く。
 再び黒虎は羽ばたいて王子へと駆ける。自由自在に動く両腕がエンデを挟み込むように突撃してきた途端、彼を護るように怪物は泥の肉体を溢した。片腕を爪で弾いて、もうひとつは泥が包んで叩き落す。
「ありがとう、ごめんね」
 がら空きの王子の心臓に、獣の顎が牙を突き立てた。黄金が剥がれても、透き通る澄んだ彩のハートは煌いている。少なくともボクに出来そうなことなんて……そう、多くはないのだから。
「存分に砕いてあげよう、空に輝ける星のようにね」
 その綺麗なこころが、砕かれないために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
誰かの為に身を擲つ姿には
どうしても想起させられるものがある

救われて、生かされて
たった独り、世界に遺された
それがどんなに苦しいことかを――俺は、知ってる

序盤は回避を重視
異形化部位の形状と性質を見極める時間を作りたい
見た目と本人の動き、攻撃方法から推察できるだろう

「異形」ってことは体に見合わないってことだ
必ずどこかでバランスを崩すだろう
見逃さずに狙撃してダメージを重ねるよ

そうすることが必要だ、っていうのを否定はしない
……だけど、そういうあんたがいなきゃ
幸せになれないやつだって、いるんだ

……助けるから
最後まで諦めないでくれ

◆真の姿
瞳の奥に揺らめくような青が覗き
左半身が影に侵蝕されたように黒く染まる



 剥がれかけのきんいろの箔が、獣の牙に身体を砕かれた拍子に宙に舞う。塵屑と共にはらはらと散らばるそれが煌いて、少しだけ綺麗だった。その身全てをなげうって、王子さまは世界と人々を救う礎になるらしい。
 ああ、とこぼれた吐息まじりの音は、恐らく彼には聞こえない。その姿にはどうしても、想起させられるものがあって。
「――俺は、知ってる」
 救われて、生かされて、たった独り、世界に遺された。それがどんなに苦しいかも、一羽の燕の涙が、きっと永遠にとめどなく溢れていくことも。
 夜のように暗い戦場であろうとも、鳴宮・匡の足元には確かな影が在った。左脚、太腿、胴体、腕、指先。身体半分をつたっていく真っ黒なそれは、しまいに青年の左半身全てを覆っていった。焦茶の瞳の奥で、海原に似たうつくしい青が揺らめいている。
 王子が、ばきばきと嫌な音を立てた。本来ならば黄金に彩られていた刃を持つ右腕――ではなく、マントを抱える左腕。ぶわりと沸き立つようなおぞましい気配を連れて、異様に膨張し巨大化した鉛の片腕が匡の頭上へと振り下ろされる。青年がすぐさまその場から飛び退くと、異形腕を軸にぐるりと王子の身体が匡の居る方角を向く。
 腕には黄金の代わりに、鱗じみた外装が幾重にも張りついている。更に纏わりついているのは、噎せ返るような殺意と怨念だった。ずっと前から感じ慣れたものに、今更怯えたりはしないのだけど。
「大切な友達には、その姿を見せたくなかったか」
 もしくは、己が友達を傷つけてしまわぬように。再びこちらへ激突する左腕を躱せば、前のめりに突っ込んだ王子によって無数の椅子の山が吹き飛ぶ。間違いない、王子はその身体に見合わぬ大きさの腕に振り回されている。
 すかさず銃声が響いて、王子の無防備な背中をまっすぐに穿つ。王子が振り返るよりも先に、左腕が匡へと距離を詰めて殴打を放った。影に呑まれた左半身がふっと溶けるように見えたのは、彼が尋常ではない速度で回避行動に移ったから。敵を見失った左腕が、バランスを崩して王子の身体を瓦礫だらけの床に落とす。
 遺ったままの青い宝石の瞳が匡を捉えた時には――王子の左腕の上に、影色の青年が立っていた。
「そうすることが必要だ、っていうのを否定はしない」
 一発。照準を合わせる時間は要らない。
「……だけど、そういうあんたがいなきゃ、幸せになれないやつだって、いるんだ」
 二発。死神の眼は狙いを違えない。
「……助けるから、」
 三発。その言葉は銃声と共に紡がれる。
 ――最後まで諦めないでくれ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御形・菘
貴方の御伽話を知ったのは最近のことですが、正直に言って感動しました
貴方は「成し遂げた」偉大な憧れの人
だからこそ私も、全力で応えて、止めましょう
決して届かない、そして、誰にも知られたくない理想の姿を晒すことで

邪神オーラ、殺気、覇気や存在感など「そういうもの」すべてを今は吹雪へと変換
吹き荒れて、世界すべてを覆い尽くすほどに
そして私自身は吶喊しましょう

左腕一本だけに任せている格闘を、両手両足の四倍の手数で
そして普段以上の膂力と頑丈さで行います
見映えなど一切気にせず、ただ確実で迅速な粉砕を

ああ、気を強く持たないと、何もかも消えていきますよ
もっとも、そんな状況では戦いに集中できないでしょうけれど



 完璧な『王子さま』に不釣り合いな異形の左腕は、なおも膨張を続けている。鱗状の外装は鋭さを増していき、王子の身体そのものを飲み込みかねない勢いだった。ばきばきと音を立てる様は、増幅する骸魂の叫びだろうか。
 ずる、ずる、と瓦礫だらけの床を這う者が居る。長く立派な尾でとぐろを巻いて、異形と化した王子の前に相対したキマイラは、その背の不気味な翼をわずかに動かす。
「初めまして、王子さま。貴方の御伽話を知ったのは最近のことですが、正直に言って感動しました」
 女の仕草は楚々としていて、黒棘に満ちた外見からは想像もつかないほど穏やかだった。灰の髪はあちこちに伸ばしたきり、土褐色の膚に浮かぶ紋様は全身を巡って恐ろしい。それでも、その女の声だけはやわらかかった。
「貴方は『成し遂げた』偉大な憧れの人」
 ――だからこそ私も、全力で応えて、止めましょう。
 戦場の熱が冷えていく。ぱきりぱきりと、宙に浮いた塵が凍りついて地に墜ちる。破れて傷だらけの翼は生まれたてのように真白に変化し、蛇の下半身は鱗をもったヒトの脚を手に入れた。全身の紋様は四肢の鱗へと収束して、頭部には堂々とした白銀の角が生えている。
 純白の雪化粧が、御形・菘の理想の姿だった。決して届くことのない、誰にも知られたくないこの姿を晒してこそ、王子に敵うのだから。
 王子が走るよりも先、異形の腕が菘へと突き出される。女は慌てることなくそっと息を吐いた。
 こつん、と、靴音を鳴らす。戦場は更に温度を下げ、ふわふわと雪がちらつく。儚いそれもほんのつかの間で、次第にごうごうと吹雪が吹き荒れる。襲いかかる左腕の威力が吹雪によって削がれたのを見計らうように、駆けだした菘が細い両の腕で左腕を受け止めた。
「左腕一本だけに任せた格闘など、取るに足りません」
 四肢に籠めた膂力はすさまじく、凍りついた床がみしみしと音を立てる。尋常ならざる怪力が、ついには左腕を持ち上げた。そのまま腕ごと王子を瓦礫の山に投げ飛ばしてしまえば、土砂崩れにも似た崩壊が起きる。
 起きあがろうとした王子よりも、菘が動くほうが速かった。白鱗に彩られた掌が、王子の腕の外装をばきばきと剥がす。見映えなど何処にもなく、ただ迅速な粉砕を続けながら女は話しかける。
「ああ、気を強く持たないと、何もかも消えていきますよ」
 ――もっとも、そんな状況では戦いに集中できないでしょうけれど。
 邪神のオーラも、夥しい殺気や覇気も、目を背けられない存在感も、全ては吹雪の中に。
「『忘れてしまえ』」
 幽世のすべてを、覆い尽くすほどに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴェル・ラルフ
その身を失ってまで、戦おうとする王子さま
ツバメだけじゃない、西洋親分を慕う妖怪たちだって
きっと泣いてしまう
君を止めるためなら、全力で戦おう

この身は忌まわしい吸血鬼
血の気の無い皮膚、尖る牙と爪
誰かの命を欲するための浅ましい姿
嗚呼
忌まわしいけれど

王子さまの一部が異形になれば
哀しいのに
少し親近感を持つ自分が浅ましい

貴方の優しい御心には到底及ばないけれど
此の無駄に有り余る速さと力を使って貴方を救えるのなら
僕も、少しだけ
少しだけ、この姿を許すことができるかな

攻撃力や回数、射程を強化された場合は見切って回避しつつフェイントを狙う
装甲や移動力を強化された場合は逃げも隠れもせず、UCを確実に当てるため集中を



 砕かれた左腕の人外めいた外装が崩れ落ちていく。膨張していた鉛の腕は不要な部分を削り取られ、すっかり細くなっていた。もしかすると、元の腕以上に。
 しあわせな王子さまにしてはちぐはぐな戦場に、ヴェル・ラルフが降り立つ。彼の戦姿もまた、瓦礫の山では不思議な組み合わせだった。
 暮れる黄昏の瞳が見つめる先には、その身を代償にして世界のために戦うことを選んだ王子が、骸魂達によって意識を奪われている。
 彼が居なくなれば、悲しむのはツバメだけではなくて。彼を慕う妖怪達だって、きっと泣いてしまう。そんなものがハッピーエンドだとは思えないから。
「君を止めるためなら、全力で戦おう」
 決意を声を出した少年の唇が、血の気をなくしていく。ほんのりと赤みのさした頬も、病的なまでに白く染まる。黄昏色の瞳は深い血の彩を宿して、ヒトの形をしていた爪牙が尖っていく。何より脳を毒々しく支配したがる衝動が、ヴェル自身が浅ましい吸血鬼に変貌したことを痛感させた。
 嗚呼、とかすかに呻くような声がもれる。異形の血を露わにした姿が憎らしい。忌まわしい、けれど。
 少年が吸血鬼へと変わりゆくのと同時、王子にも新たな異変が起きていた。黄金を棄てた右脚が、ばきばきと音を立てて膨張する。硬い鉛の肉体とは思えぬような生々しさで蠢くそれは、巨大な蛸の足か触手のように見えた。本来の彼には不釣り合いな部位に、ヴェルの胸が痛む。
「哀しいね、」
 ぽつりと溢した独り言には、ほんの少しだけ、どこか安心したような心地がしている。親近感を感じた自分が浅ましくて、吸血鬼はちいさく首を横に振った。
 ず、と這う音は一瞬で、王子はヴェルの目前に迫っていた。強化したのは移動力なのだろうと推察しながら、吸血鬼はあかあかと燃ゆる刃の突きで受け止める。異形脚の表面を焔がどろりと溶かそうとも、脚の動きは止まらない。もはや王子の身体がおまけのように戦場を高速で這いまわっては、ヴェルを圧し潰す勢いだった。
 だのに、ヴェルは逃げも隠れもしなかった。翼が生えたように駆けまわり、宙を高く跳んで、攻撃を躱した瞬間に火炎の一撃を脚へと叩き込む。幾度も熱を受けた異形の脚が燃えて、鉛が溶ける嫌なにおいが辺りに広がっていく。
「王子さま、僕の声は聞こえているかな」
 たとえ聞こえていなくとも。膨張した脚に着地して、刃ではなく指先に伸びた長い爪に焔を宿す。振り下ろすのは、何度も穿ったその一点。
 貴方の優しい御心には到底及ばないけれど、この力で貴方を救えるのなら。
「僕も、少しだけ」
 ――少しだけ、この姿を許すことができるかな。

大成功 🔵​🔵​🔵​

曲輪・流生
真の姿:真白き東洋龍

ツバメさんと王子さまの絆はとても強いですね。
この戦争で大事な役目を果たす王子さま。
そのこがねを運ぶツバメさん…。
それぞれが望むさいわいの形は違うかもしれないけれど僕は二人の願いに応えましょう。
僕は願いを叶える為に存在ですから。

王子を蝕む悪いものを倒しましょう。
UC【白き破魔矢】にありったけの【破魔】と【祈りを込めて。二人のさいわいを邪魔する邪悪に【神罰】を…!

僕の鱗が剥げた所で王子のこがねとは違って役にたたないのだけど…(呪いを【浄化】しようと【祈り】を捧げ)

どうか二人にさいわいが訪れますように。



 がらくたまみれの戦場の中で、『しあわせな王子さま』はゆっくりと身体を起こしていた。鉛の身体のあちこちに刻まれた傷跡は、真の姿を解放した猟兵達の攻撃の凄まじさを物語っている。
 彼の中で蠢く骸魂の怨嗟の声はなおも止むことなく、あらん限りの恨みを振りまこうと叫んでいた。その声を膚で感じることのできた曲輪・流生は、王子の様子から紫水晶の大きな瞳を逸らさない。
「ツバメさんと王子さまの絆は、とても強いですね」
 大事な役目を果たす為にいのちを賭す王子と、彼に託された約束(こがね)を運ぶツバメ。二人の望むさいわいの形が違っても、竜神は彼らの願いに応えようと思う。
 ――僕は、願いを叶える為の存在ですから。
 髪と胸元を飾る白芍薬達が、はらりはらりと散っていく。無数の白い花弁は渦を巻いて、幼い童の全身を包みこんでいけば、いつしかそこにはましろの龍が降臨していた。けれど澄んだ宝石の瞳が、この龍こそが流生であると示している。
 左腕と右脚が使い物にならなくなっても、王子は生身のヒトのように龍の元へと歩き出す。だんだんと駆け足になる度に、ぽろぽろとなけなしの黄金が端から剥がれ、鉛の身体も砕けて落ちた。無骨な中身を晒した剣が龍を斬りつければ、すんでのところで直撃を避けた流生の鱗が欠ける。
 鱗がちょっと剥げたって、構やしない。流生がぱちりと瞳を瞬きすれば、白い焔の矢が生まれる。およそ四百以上の破魔矢は、龍の咆哮を合図に煌々とかがやきを遺して王子の頭上に降り注ぐ。
 猟兵達との戦いで、自ら遮蔽物を破壊し尽くした王子が隠れる場所はとっくになくなっている。全身に白炎を浴びる彼が苦しむ姿に、龍は怖気づいたりしない。破魔のまじないで本当に苦しんでいるのは、彼の中に巣食う邪悪達だ。
「王子さま。あなた達が誰かにさいわいを運ぶように、僕はあなた達の願いを叶えてみせる」
 やさしいあなたを蝕むものを倒す――それが何よりも必要なこと。
 苦しみながらも龍へ飛びかかる王子に相対して、龍は長い身体をくねらせ今一度咆哮する。ましろの焔矢が、昏い戦場を眩く照らす。
 それは土砂降りの雨のように、晴天で燦々とかがやく陽射しのように。王子と彼に纏わりつく骸魂の群れに、ひかりが降り注いだ。
 ――僕の鱗が剥げた所で、王子のこがねとは違って役にたたないのだけど。
 はらはらと落ちていった鱗は白芍薬の花に似て、竜神は祈りを捧げる。
「どうか、二人にさいわいが訪れますように」


 王子さま、王子さま。どうか起きてください。どうか、どうか。
 わたしの声に応じるように、瓦礫の中で眠っていたあなたはそっと目を覚ましました。

「ツバメさん、僕は役目を果たせたのかな」

 あなたがそう言うので、わたしは大きく鳴いて肯定します。あなたは役目を果たしました。

「黄金をもっていってくれたんだね」

 ありがとう、と微笑むあなたの身体のこがねは、わたしが随分運んでしまったけれど。
 そのうつくしさも、いのちも、守られていました。

 ――わたしのさいわいは、叶ったのです。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月17日


挿絵イラスト