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大祓百鬼夜行⑪〜ぬいぐるみバスは炎を走る

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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 大変、大変。世界のほつれを直さなきゃ。
 繕いましょ、繕いましょ。
 バスに乗って急ぎましょ。
 いざいざおチビの裁縫妖怪が参ります、よう。
 世界の一大事に、針一本分の背丈しか無い小さな妖怪が大慌てで駆けていく。

「おおい、ぬいぐるみバスよう、来てくださいよう」

 ぷうぷうぱっぱ。玩具みたいなクラクションの音を響かせて。
 バス停にやってくるのは、ぬいぐるみ製の大きな妖怪バス。
 ひらいた扉へ、ぴょーんと小さな妖怪が飛び乗って。
 ふかふかクッションの座席に収まり、ちっちゃな声で号令をかける。

「そうれ、出発進行ですよう」

 ただ広くてなにもない道をバスが勇ましく走り出した。
 けれど。
 行くのは苦難の道、そうら、どこかで紅蓮の火花が彼等を待ち構えている。

●グリモアベース
 カクリヨファンタズムには「世界のほつれ」を修正する、お裁縫妖怪が居るのだという。謎めく存在である彼等は今、「世界のほつれ」へ向かう場所に乗って出発しようとしている。

「しかしその道は恐ろしい天変地異が待ち構えているのだ」
 巻き起こる天変地異は、まるで地獄。
 このぬいぐるみバスと裁縫妖怪も、放っておけば生命はない。
 走るバスを飲み込むように、道は突如として赤赤と燃え上がり。
 空からも火の雨が降り注いで、バスはあっという間に……。

「バスを止めることは出来ない。世界を救うためには裁縫妖怪の活躍が必要なのだ」
 クック・ルウ(水音・f04137)はそう説明を続ける。
「だから、皆にはこのバスに乗って彼等を守って欲しい」
 天変地異で起こる炎には、どうやら普通の手段では消せない。
 猟兵のユーベルコードだけが通用するようだ。
 恐ろしい炎を切り払って道を拓けば、バスは全速力で走るから。
「どうか、救ってほしい」と、クックは一礼をする。

 転移の向こうには、裁縫妖怪が待つバス停。
 すぐにあなたの前にぬいぐるみのバスがやって来るだろう。


鍵森
 一章完結の戦争シナリオです。
 ぬいぐるみの妖怪バスに乗ってみませんか。

●炎
 天変地異で突然発生する灼熱の炎です。
 普通では消火できない炎も、ユーベルコードだけは通用する様子。
 周辺は道の他に何もないので、派手にふっ飛ばしても大丈夫です。

●ぬいぐるみバス
 布と綿とで出来た不思議な妖怪バスです。
 炎には弱いのですが、衝撃には意外と頑丈だったりします。
 多少吹っ飛んでもふかふかなので大丈夫です。
 破けても裁縫妖怪がちょちょいと繕うでしょう。

●プレイングボーナス
 妖怪バスとお裁縫妖怪を、危険から守る。

●採用人数
 採用人数が少数になる場合がございます。
 早期シナリオ完結を優先させて頂きますことご了承ください。
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第1章 冒険 『妖怪バスでほつれに向かえ』

POW   :    肉体や気合いで苦難を乗り越える

SPD   :    速さや技量で苦難を乗り越える

WIZ   :    魔力や賢さで苦難を乗り越える

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

氷雫森・レイン
(※自分は知らないが雨を司る妖精族)
「誰の!許可を得て!こんなド派手に燃やそうとしてるのよ!」
焼ける前に全部氷漬けにしてや…っちゃダメなのよね、ああもう(苛々)
どこのどいつがやってるかは知らないけど、私よりも小さな命を脅かすなんて許せない
他の猟兵だって来てるわ
全てを守らずとも、ちまちまやらずともいいでしょう
「先陣切るわよ!」
バスの前に進行方向を向いた状態で飛び出してUC発動
「道を、開けなさい!!」
私を起点に、水の魔力(正確には雨の魔力で潮の匂いがしない)で作り出した津波をバスの進行方向目掛けて走らせる(範囲攻撃、全力魔法、属性攻撃、限界突破)
私の天候操作力はまだ弱いし豪雨は使えないから仕方ない



 妖怪の世界カクリヨファンタズム。
 現世に忘れられ者たちが辿り着いた場所、ここはユートピアではなかった。
 けれど――決して地獄であってよいはずがないのだ。
「ほんとに、小さいのね」
 妖精である自分よりも小さな裁縫妖怪の姿にそっと視線を巡らせる。
 布製のバスは腰掛ける場所には事欠かず、氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)は空いたつり革のところに座っていた。居心地が悪ければ場所を移すつもりだったが、乗り心地は案外悪くはない。
 しかしここへ赴いてからというもの。
 どうしようもなく、苛々とした気持ちが付き纏っている。
「はじまった」
 かすかな大気の変化を感じ取り、レインはサッと窓辺へ飛んだ。
 突如として火が生まれた、そのように見えるだろう。たちどころに辺り一面が火の海と化していく。
 どこにも逃げ場など無い。
「……ふざけないで!」
 聞く者の胸が痛くなるような声で叫ぶ。
「誰の! 許可を得て! こんなド派手に燃やそうとしてるのよ!」
 双眸に瞋恚の色を宿して、レインは翅を広げてバスから飛び出した。
 炎がこんなにも寄ってたかって押し寄せてきたのなら、このバスも妖怪もひとたまりもなかったのだと肌身で感ずる。
 自分たちがここに来なければ失われていたのだ。奪われていたのだ。
 誰が何の権利があって、小さな彼等を理不尽に踏みにじるのか。
 肌に喉にあぶられるような痛みが走り、息もできなくなるような熱風が吹き付けてくる。しかし怯まずに突っきって。
 焼ける前に全部氷漬けにしてや……っちゃダメなのよね。
 ああもう。
「どこのどいつがやっているかは知らないけれど、私よりも小さな命を脅かすなんて許せない」
 氷刃の如く風を切り、レインはバスの前に出るように空中を躍った。
「先陣切るわよ!」
 仲間へ向けて声を飛ばし。制御することが難しい力を、心のままに解き放つ。
 可憐な妖精の少女は灼熱の炎を睨めつけた。
 レインを起点にして水の魔力が迸り、流水となって渦巻きそれは巨大な津波となる。
「道を、開けなさい!!」
 命ずるように叫んだなら。
 巨大な水の壁が走るバスの前を盾となって、紅蓮の炎を押し流す。
 まだまだ、もっと――限界まで、水よ起これ、水よ走れ。
 相手はただの炎ではないのだ。一時も気を緩めず、燃え盛ろうとする炎をねじ伏せるように道をつくり出す。
 蒸気があがる道をバスが全速力で駆け抜けて、まるで波を追いかけるように走る。
「止めさせないわよ、絶対に」
 天変地異を、地獄を、退けるほどの力を振るいながらも尚。
「私の、天候を操る力がもっと強ければ、豪雨を呼ぶことができれば良かったのに」
 口惜しい、と歯噛みする。
 この空を覆うほどの雲で守れたのなら、大地を満たすほどの雨水で守ってやれたのなら。あたりを氷漬けにするよりも上手に事を運べたのではないかと。そんな思いが胸をかすめる。
 自分でも不思議なほどありありと浮かぶ雨の気配は、なぜなのか。知る由もない。

 猟兵さぁーん、ありがとうー! と小さな声で歓声が聞こえた。ぱあぷぷぷ、とクラクションが重なり響いて。
 生きている。
 あの小さき命はまだ生きていて、バスはまだ走っている。
 それはレインが居なければ、なし得ないことだった。
 その事実を静かに噛み締める頃。
 水に濡れた土の匂いが、まるで雨の後のように立ち込めている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城野・いばら
ふふ、可愛らしい乗り物さん
小さなアリスもごきげんよう
世界の解れを縫うって、ふしぎね
縫い方が気になるけど
先ずは真っカな道程をクリアしなくちゃね

UCで消せるならとトロイメライをくるり
水の糸を紡いで纏って
バスの進路に向かって水の針を発射
属性攻撃で水を増しまし
地面の火を消しながら進もう

あとは…
バスを覆う様に、不思議な薔薇の挿し木を伸ばし
武器受けで、降ってくる火の雨からかばうわ
だいじょうぶ
お水をたっぷり含んだ蔓はね、すぐには燃えないの
武器落としの要領で、
水の針や紡錘で火の欠片をえいえい弾きながら
焼けてもまた、魔力注いで茨咲かせ(継戦能力)

いばら達がアリスを守るから
ね、未来を結ぶ素敵な魔法みせてくださいな



 ぬいぐるみの乗り物は、まるで幼い子供のおもちゃのよう。
 小さなアリスはマッチ箱に収まりそうな姿をしていて。
 あなた達どちらへ行くのと尋ねれば、世界のほつれと答えがある。
 それはどんなものかしら、と一輪の薔薇が微笑んだ。

「ふふ、可愛らしい乗り物さん。小さなアリスもごきげんよう」
 丁寧な挨拶をして、城野・いばら(茨姫・f20406)が乗り込めば、バスの車内にはふわりと芳しい花の香りが漂う。
「世界の解れを縫うって、ふしぎね」
 それはどうやって縫われるのかしら。針の太さはどれぐらいが丁度いいのかしら。糸の長さと色はどうやって選ぶのかしら。
 座席の上で揺られながら、いばらは想像を巡らせる。
 気になって尋ねてしまいたくなる気持ちを、今は堪えよう。
「アリスは、後で教えてくれるかしら」
 それとも秘密なのかしら。
「お楽しみはとっておきましょう」
 いばらはそっと息を吐いて、やがて魔法の紡錘をくるくると紡ぎはじめた。

 バスはどれ程走っただろうか、やにわに起こる異変に車内が大きく揺れた。
 窓の外へと目をやれば、真っ赤に彩られた景色が広がって一面は火の海。
 迫る炎がシュウシュウと空気を焼く音をさせている。
 裁縫妖怪が「キャアッ」と悲鳴を上げて飛び上がった。
「大丈夫、アリス」
 なだめるように優しく声を掛け、いばらは紡いだ糸を巻き付けた紡錘を掲げた。
 すると紡いだ透明な水の糸がほどけるように広がり、炎から護るように纏われていく。
「わあ、お水の糸ですよう! 綺麗ですよう!」
 幻想的な美しさを放つ光景に裁縫妖怪は、思わずはしゃぐような声を上げた。
「あなた達の道を邪魔する炎は、こうして縫ってしまいましょう」
 紡錘をくるりと回し、いばらが窓からバスの進行方向に水の針を放てば。
 魔法の針は縫い付けるような軌道を描いて飛び、紅蓮の炎を刺し貫く。
 前方の火が消えたなら、バスは力いっぱい走るのみ。
 けれど、いばらの瞳には空から降ってくる赤が見えていた。
「火の雨なんていやな天気ね」
 呟くと同時に、不思議な薔薇の挿し木が伸びだして、たちどころにバスの上を覆っていく。
 まるで花の枢のごとく。
 可憐な薔薇の茂みが、降り注ぐ火の雨からバスを庇うのだ。
「薔薇の猟兵さん! お花が燃えちゃいますよう!」
「だいじょうぶ」
 心配する裁縫妖怪へ、いばらは自身の唇に人差し指をあてながら、柔らかくわらう。
「お水をたっぷり含んだ蔓はね、すぐには燃えないの」
 そのための水の糸だと安心させるように言い。燃え散った薔薇をまた咲かさせるために魔力を注ぎ続ける。激しく力を消耗する苦しみがあれども、それを悟らせない。
「きっといばら達がアリスを守るから」
 生きて、先へ進もうと、約束するようにささやく。
「ね、未来を結ぶ素敵な魔法みせてくださいな」

 ぱちぱち爆ぜるような火の欠片を魔法の針が弾き飛ばしてやりながら。
 ちいさなアリスが目的地に辿り着けるようにと力を尽くす。
 想いを込めた輝きが、地獄の炎を退けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

空亡・劔
この最強の大妖怪である空亡劔を差し置いてこんな凄い大異変を起こすなんて生意気よ!!

バスの上に仁王立ちよ!(えっへん

即座にユベコ発動よ!
我が真体と氷結地獄を強化!

バスの周りを飛び回り護衛よ!

炎の雨ぇ?
そんなものにこの最強の大妖怪が負けてたまるもんですか!

【結界術】でバスの周囲に結界を展開
【属性攻撃】で氷を展開

更に氷結地獄の力で【天候操作】
猛吹雪にするわ
この天候操作はユーベルコードの力で強化された氷結の力よ!
是ならこの消えない炎で在ろうとも!

それでもだめなら剣二刀で降りかかる炎を全力で迎撃してやるわ!

さぁぬいぐるみバス!
解ってるわよ!
あんた寒さ強いでしょう?
だからこそこの雪道を突き進むのよ!



 異変は一瞬にして起こった。
 草木もない大地が、赤く染まり目も眩むような炎の明かりが走る。
 気がつけば、あたりは一面、焦熱地獄。
 踊るような炎が行く手を阻み、灼熱の息吹が肌身を炙る。

 立ち止まることもせずに走るぬいぐるみバスの上には、一人の大妖怪。
 彼女は仁王立ちになって胸を張りながら高笑うように声を上げた。
「この最強の大妖怪である空亡劔を差し置いて、こんな凄い大異変を起こすなんて生意気よ!!」
 空亡・劔(本当は若い大妖怪・f28419)が実に威勢のよい啖呵を切った。
 そして一息にその背中に氷の翼を広げ、羽ばたき飛び上がる。
 天候をも操る力を身体にみなぎらせ、いざや氷結地獄が迎え撃つ。
「さあ、この私が守るんだから安心してしっかり走りなさい!」
 劔がバスへ声を投げたなら。
 ぷうぱぱぱ! とまるで劔の勇ましさに勇気づけられたようなクラクションが返ってくる。
「よし! いい返事よ!」
 スピードを上げて猛然と走るバスと並行して飛びながら、まずは一振りに炎を斬り払う。
 氷結地獄に守られた真体と我が身は、火に触れても痛くも痒くもない。
 これならば、と。
 同じ様にバスの周囲にも結界を張り、氷の盾を与えてやりながら、周囲に迫る炎を斬る。
 縦横無尽に飛び回りながら、劔は大妖怪の格をこれでもかと見せつけたのも束の間。
 突如。さえぎるものもない空が紅蓮に染まり、炎が雨のように降りだした。
「炎の雨ぇ?」
 恐ろしい光景を、劔はかんらかんらと笑い飛してやった。
 爛々と眼を光らせて、己の力を一層解き放つ。
「そんなものにこの最強の大妖怪が負けてたまるもんですか!」
 バスの上空へと飛び上がった劔の周りに冷気が起こり。
 吹きすさぶような冷たい風が巻き起こり、白い雪が舞う。
「猛吹雪よ」
 この天候操作はユーベルコードの力で強化された氷結の力。
「是ならこの消えない炎で在ろうとも!」
 自在に操られる吹雪が、炎の雨を消し飛ばしていく。
 炎をも凍らせるような冷気が焦げた大地にすら雪を積もらせた。
 全ての炎が消えたわけではないが、それでも劔にとっては丁度よい加減かもしれない。
 適度に火があれば周囲を巻き込んで凍らせてしまうことがないのだから。

「さぁぬいぐるみバス! 解ってるわよ!」
 ぷうぱっぱ? とクラクションが尋ねてくるのへ、大きな動作で道の先を指し示し。
「あんた寒さ強いでしょう? だからこそこの雪道を突き進むのよ!」
 そして凍れる前に走り抜けと、激励を飛ばしてやると。
 ウィンカーを激しく点灯させながらぬいぐるみバスは全速前進する。

 さてさていかにも布団じみたつくりだ。乗客の裁縫妖怪もクッションに包まって暖を取る。
 大妖怪さん格好いいですよう! などと瞳は憧れにきらめいて。
 バスの外から聞こえてくる敢然とした声に心を沸き立たせるのだった。

 この勝負、大妖怪空亡劔の完全勝利に違いない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レスティア・ヴァーユ
【防衛用のUCなど考えた事もなかった】
…待て、少し考えさせて欲しい。とアシュエルに声を掛けた
―敵を倒す以外の目的で、UCをまともに使用したことがない―
気付いたその事実は『思考が筋肉だ』とでも言わんばかりの、なかなかに痛ましいものだった

急ぎ、己達に出来る事を確認する
○トリニティ・エンハンスで属性を込めた弾丸で炎を消す
→UCでしか消せないのでアウト
○呪詛覚醒で獅子に姿を変え、無差別に炎を消すのでその間に…
→問答無用で却下された

相手の指摘で思い出す
ほぼ使わず忘れていたが…確かにそれなら

作戦決行
窓からバスの天板へ
親友のUCの指示を受け
炎を狙い鈴蘭の嵐発動
これならば予測の指示通りに先手で炎を消せるだろう


アシュエル・ファラン
【防衛用のUCなど考えた事もなかった】
親友に引き留められた
…あー、確かに…こいつさり気なく脳筋だから、汎用性なんか考えた事もないんだろうな…俺も同じ事にならないように少し戦闘の芸幅広げるか

少し相談
○UCがダメなら技能でどうか!
 →マジでUCでしか炎消せなかったら詰むじゃん?
○レスティアがUCで手当たり次第火を消し、ガジェットショータイムに祈る
 →…お前さ、それまで親友が無策で焦げてくの見て正気でいられるか?

「没ー!」
全力で叫んでから
ふと、お前任意対象範囲攻撃いけたよな?と
…いけるんじゃね?

二人でバスの天板の上に昇り
集中、絶望の福音発動
回避の代わりに親友に指示を出して、炎を全部先手で消していく!



 ぬいぐるみの妖怪バスは、ふかふかとした乗り心地で乗客を迎え。
 隣り合わせの座席に腰掛けた、レスティア・ヴァーユ(約束に瞑目する歌声・f16853)とアシュエル・ファラン(盤上に立つ遊戯者・f28877)の二人は、これから起こる事態にどう立ち向かうかと打ち合わせを始めた。
 とはいえ、戦いに身を置いてきた二人だ。大抵のことならば乗り越えられる自信がある。
 二、三、互いの動きを確認するだけの簡単な話し合いになる。

 そのように、思っていたのだ。

 さて、今回は普通の手段では消せない炎からこのバスと裁縫妖怪を守らねばならない。
 そしてその炎を消すにはUCだけが通用するのだという。
「さて、どう立ち回るろうか」
「……待て、少し考えさせて欲しい」
 どうした親友。とアシュエルは視線で問う。
 レスティアは気がついた事実に多少愕然としながら、一度息を吸った。
 あらためて我が身を振り返ってみたのだが。
「――敵を倒す以外の目的で、UCをまともに使用したことがない――」
 声には不思議な余韻をさせる響きがあった。
「……あー」とアシュエルはなんとなく言葉を濁した返事をする。
 確かに……こいつさり気なく脳筋だから。と納得してしまったのだ。
 汎用性なんか考えた事もないんだろうな……。とはいえ、俺も同じ事にならないように、少し戦闘の芸幅広げるか。などと考えを巡らせて。
 しかし特にフォローのないアシュエルの対応に、隣のレスティアは痛ましい目を浮かべる。
 思考が筋肉だ。とでも言わんばかりの事実は多少なりともショックである。
 とはいえバスは走り出している。
 急ぎ、己達に出来ることを確認しようと案を練った。
「トリニティ・エンハンスで属性を込めた弾丸で炎を消すのはどうだ」
「あれって自身の強化をする技だよな、マジでUCでしか炎消せなかったら詰むじゃん?」
 護衛が優先となれば、イチかバチかになるのは避けよう。と頷きあう。
 なにしろ布のバスに火である。一瞬の判断ミスで燃え上がりそうだ。
「では、呪詛覚醒で獅子に姿を変え、無差別に炎を消すのでその間に……」
「没ー!」
 アシュエルは全力で叫んだ。
 (問答無用か?)と首をかしげるレスティアに、それだけは駄目だと念を押す。
「……お前さ、それで親友が無策で焦げてくの見て正気でいられるか?」
 言葉の中でも気持ちわりと強めに「親友」を誇張しつつ。
 お互いの身と心の安全が大事だとあらためて思う。
 そこで、ふとアシュエルは思い出したのだ。
「お前任意対象範囲攻撃いけたよな?」
「……え?」
 何のことを言っているのか。みたいな目を向けるレスティアにアシュエルも唸る。
「いやなんで当人より俺のほうが把握してんだと思うが『鈴蘭の嵐』だよ。武器を花に変えて攻撃するUC、使えただろ」
 あれなら……いけんじゃね?
 指摘に、やがてゆっくりとレスティアは頷く。
「ほぼ使わず忘れていたが……確かにそれなら」
「よし」
 これで決まりだ。
 と、方向性を決めればあとは互いの腕を信じるのみ。

 やがて異変は起こり、辺りは焦熱地獄の様相となった。
 猛然と走るバスの天板に昇った二人は颯爽と武器を抜く。
 野外の吹きさらしに立つその肌身を、赤赤と燃える炎が迫り、灼熱の息吹を吹きかけてくる。
 怯まず前を向いたまま、レスティアは【鈴蘭の嵐】を発動させた。
 手に取った武器が姿を変え小さな白い花となって舞い、近づく火を消し飛ばす。
 これならば大丈夫と確信を持って、
「アシュエル」
 静かな声で呼びかけた。
「そこだ」
 アシュエルが手を閃かせ合図すれば、間髪いれず鈴蘭の花が、突如として迫る炎を防いでみせた。
 息のあった動きがなければ成立しない、絶妙なコンビネーション。
 UCにより攻撃を予測するアシュエルが指示し、無駄な回避を減らして攻撃に集中するレスティアの力を最大限引き出している。
「よし! この調子で炎を全部先手で消していくぞ!」
「ああ」
 炎を海を越えるまで、二人は息を継ぐ暇もないだろう、しかしどちらの動きも途絶えることがない。
 やるべきことに意識を研ぎ澄ませ、集中することで互いを支え合っている。

「この調子で頼んだぞ」
「任せとけよ、親友」
 確かな心強さに。
 二人の口元には笑みが漂う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神籬・イソラ
地獄往きでしたら
『終(つい)』の狭間に在るわたくしにとっては
あつらえ向きの道中にございます
厄払いとして、お伴いたしましょう

ぬいぐるみの方にタールが染みてはいけません
できるだけ肌が触れぬよう、装束で肌を覆い、バスに同乗いたします

炎がバスと縫い子(裁縫妖怪)に迫ったなら
「見えない鳥」で森羅万象、範囲内のあらゆる現象を封じましょう
――さ。すべて、囚えておしまいなさい

縫い子が破れを直す際や、炎や危険が迫る時は
タールのこの身を盾のように広げて
あるいは、包み込むようにして衝撃や危険から護りましょう

微力ながら、この世界がただしき有り様へと戻るよう
ちいさな貴方様が、無事に本懐を遂げられますよう
わたくしも祈りを



 バスは、世界のほつれに向かっているのだという。
 そこがどういう場所なのか、目にしても理解るものだろうか。
 世界のどこかがほつれているだなんて、奇妙な事ではないか。

 バスの窓から景色を眺めてみる、それはこれから起こる異変を見逃さないためでもあった。
 広々とさえぎるものもない空の下、草木もなく乾いた地面が広がるばかり。
 さみしいところだと、そのように感じるだろうか。
 まるで不自然な空白に迷い込んだような、そうした印象を受ける。
 このバスが向かう先に、地獄が待つのだという。
 なればこそ。
 『終(つい)』の狭間に在るわたくしにとっては、あつらえ向きの道中にございます。
 布と綿で作られたバスに乗りながら、神籬・イソラ(呪禍・f11232)は胸の内で呟いていた。
「厄払いとして、お伴いたしましょう」
 吐息めいた声で述べる。バスはその声を拾っただろうか。
 ぬいぐるみの方、とイソラはバスをそう呼んだ。妖怪であり自分の意志で動いているのだから、このバスは個であるのだ。
 ぬいぐるみの方はいつもこのように道を走り、停留所を巡っているのだろうか。
 それとも行き先は定まっておらず、求められるまま誰かを乗せて走るのだろうか。
 窓の外を流れる景色に、他愛もない思いを馳せる。
 どこも布で出来た車内は、まるで布団にくるまれているような感触がしていた。
 凭れ掛かれば心地よいのかもしれないけれど、あまり触れたりしないよう背筋を伸ばした女人の形をして姿勢を保ったままで居る。
 車内に己のタールの肌が染みて仕舞わないように、装束に包まれた箇所だけが触れ合うように注意を払っているからだ。イソラは液体の身体がどのようなものかをよく心得ていた。

 見詰めていた景色に、ふいに火花が散った。
 それは一瞬にしてカアッと燃え上がり、大地を火の海へ変える。空からは火が降ってきて、赤赤と燃える色が辺りを染めた。焦げた大地からは煙が走りシュウシュウと音を立てて、如何なるものもここから逃れられぬと言っているようだった。
 焦熱地獄あるいは炎熱地獄、そう呼ばれている光景に似ているのだろう。
「閉じ込めようと、云うのでしょうか」
 きゃーっ、と悲鳴が聞こえてイソラは視線を遣った。
 突然の異変に小さな縫い子が怯えているのを他の猟兵がなだめている。
 怯えるのも無理はない、この場に猟兵が居なければ彼等はひとたまりもなかったはずだ。
 天変地異に意志などあるだろうか、妖怪の世界に於いてはその可能性も否定はできまい。
 それならば、こちらも。
 金の鳥籠を取り出したイソラはその扉を開けた。啼く声も無く、羽音も無い。しかしそこには鳥がいる。
「――さ。すべて、囚えておしまいなさい」
 開いた窓からなにかが飛び立った。
 猛然と走るバスを追うように四方八方と炎が迫る。
 しかし炎が森羅万象の内であるならば、鳥の飛ぶ範囲、その業火は封じられるだろう。
 ふうっと、幽かな気配が炎の中を飛んでいる。

 この場を速く抜けようと、ぬいぐるみの方も荒々しい運転となっていた。
 致し方あるまい。
 けれど大きく揺れた車内で、あの縫い子がぽーんと投げ出されるのが、イソラには解った。
 布の床に落ちるならばともかく、そのまま窓の外へ放り出されでもしたら命はないだろう。
 矢も盾もたまらず、咄嗟に身体は動いていた。
「いけない」
 体を投げ出すように飛び出し、身を挺するようにして受け止める。
「ありがとうですよう! ありがとうですよう!」
 包み込むようにして溶けた手の中で、裁縫妖怪がぴょんぴょんと跳ねて礼を繰り返した。
 いいのだと、穏やかに首を振る。
「微力ながら、この世界がただしき有り様へと戻るよう」
 護るべき者の感触を包んだ手の中にして、しとやかに言葉を継ぐ。
「ちいさな貴方様が、無事に本懐を遂げられますよう、わたくしも祈りを」

 この地獄からすくいとった命は、かけがえもない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

伊能・龍己
わぁ……
ぬいぐるみバス、可愛いっすね。
……燃えちゃったら大変っす。バスも妖怪さんも、全力で守るっすよ
道が濡れても、大丈夫っすかね。逆さ龍さんにお願いして、天候操作。〈黒雨〉でバスの周辺を風雨の雲で巻いてみるっすよ。
風で障壁を、雨で炎の弱体化を狙うっす。

しっかり調節して、バスが風に飛ばされないように気をつけます。

雨が降っていると空気も湿気て燃え広がりにくい……って、学校の避難訓練ん時に聞いたっす。
ここの炎はUDCアースのとは違うと思いますけど、ユーベルコードで作った雨の鎮火は通じて欲しいっすね



 まるでちいさな子供が持っている玩具のようだった。
 ぬいぐるみのバス。それは色とりどりの布を上手に使って作られていた。薄い緑色の布、クリーム色や赤色といった布が車体を彩り可愛らしい、細かいパーツまで布製だ。
 車体の角は丸みを帯びていて、そうしたところが一層子供の持ち物だという印象をさせる。
 誰かが昔大事にしていたぬいぐるみが齢を経て妖怪になりでもしたのだろうか。
 案外そうなのかもしれない。
 今は忘れられた存在である彼等の出自など本当にそれぞれなのだろうから。

 ぬいぐるみバスに乗り込んだ伊能・龍己(鳳雛・f21577)は車内の様子にも興味の瞳を巡らせて。わぁ……。と、小さな驚きの声を上げた。
「ぬいぐるみバス、可愛いっすね」
 座席に腰掛けるとふかふかな感触がして、座り心地がいい。
 龍己の声が聞こえたのか、ぷうぱっぱと鳴ったクラクションはどこか嬉しげな声のようだった。
「ねえねえ、猟兵さんもお出かけなんですか?」
 そう声を掛けてきたのは、小さな裁縫妖怪である。
 まだこの先にある苦難を知らないらしい様子に、不安にさせるような事を言わぬよう言葉を選び。
「俺達は、あなた達が安全に目的地へ行けるように守りに来たんすよ」
 その様に答えれば。
「あらまあ。ありがたいことですよう」
 裁縫妖怪が両手を合わせてナムナムと拝むので、龍己は少しくすぐったいような顔をした。
 いいんすよ……と、口にしかけたところへ。
「あたしも人間さんの世界が大変なことにならないように頑張るですよう」
 胸の内を明かすように零された声はなにか深い情の響きがして。
 この小さな妖怪と、玩具のようなバスが命を懸ける理由がそこにあるのだろう。
「妖怪の世界も大変だけど。ほつれのせいで人間さんになにかあったら悲しいですもの」
 小さな目が龍己へジィッと視線を注いでいる。
 自分を通して誰かの面影を見ているのだろうか。
 それとも龍己という人間にその眼差しは向けられているのか。
 龍己はそっと頷いて、
「俺も、きっと同じ気持ちっす」
 あたたかな声でそう答えた。

 やがて。
 突如として、走るバスの周りに火花が散った。
 瞬く間に辺り一面が炎の海と化し、空からは火の雨が降りだし。
 草木もない大地がまるで地獄の様相へと変わる。
「逆さ龍さん」
 窓辺に寄って、龍己はすぐさまに行動を起こした。
 天を仰ぐように見上げ、両手を合わせる。
「……燃えちゃったら大変っす。バスも妖怪さんも、全力で守るっすよ」
 失わせてなるものかと、胸の奥から強い気持ちが沸き起こり。
 雨を願う。焦熱地獄を退ける豪雨を。
「道が濡れても、大丈夫っすかね」
 轟。
 吠えるような風の音がして黒雲が恵みの雨を連れてくる。
 炎がいくら燃え盛ろうが、逆さ龍が起こす嵐の前には為す術もないだろう。
 風が灼熱の息吹を防ぎ、黒雲が火の雨を受け止め、雨粒が炎に包まれた地面を叩いた。
 まるで巨大な龍が黒雲に姿を変じ、邪悪な炎を噛み砕くような光景だ。
「風で障壁を、雨で炎の弱体化を狙うっす」
 バスが風で飛ばされぬように、風量を調節しながら龍己は仲間たちへ向けて声を張った。
 炎と風雨がぶつかり合う恐ろしい音が絶えず響いてくる。
 少しでも気を抜けば炎は容赦なく迫ってくるだろう。かといって風の勢いが強すぎてもいけない。
 意識を研ぎ澄ませて挑む姿は毅然として。
「雨が降っていると空気も湿気て燃え広がりにくい……って、学校の避難訓練ん時に聞いたっす」
 益々と雨を願い、降らせ続ける。

 果たして龍己の読みは当たっていた。
 雨に湿った空気はシュウシュウと蒸発音をさせながら熱を遠ざけ。
 泥をはねてバスはぬかるんだ道を猛然と走り続ける。
 そのまま進めと、龍の息吹めいた追い風が車体を後押した。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 世界のほつれとはなんであろう。
 それは気づかぬ内に今までも起こっていたのだろうか。
 停留所の前に立ちながら、雪白・(氷結・f28570)は思いを馳せる。

 ぬいぐるみバスに乗り、雫は慎ましい仕草で車内を眺めた。
 座席に腰掛け静かに頭を巡らせると、彼女の顔を縁取る長い水髪が揺れる。
 やわらかな布で作られたバスの光景を露の瞳にうつしては、ゆっくりと瞬きをして。
 かつて人間であった頃も機会はなく、幽世では暫し隠居していた身であるが故、こうした乗り物にはあまり縁がなかったと、どれもこれも珍しさを覚えながら。
「裁縫妖怪さん……」
 細い声で、雫は声を掛けた。
 クッションの席に座った裁縫妖怪がぴょんと振り向く。
 人と話すのは緊張するけれど、小さな妖怪なら、と。勇気を出して。
「あなた方のおかげで、幽世に住まうわたしたちは落ち着いて暮らせていたのでしょうか」
 ここはあまりにも呆気なく滅んでしまいそうになる危うげな世界だから。どこかで世界がほつれる度に、彼等はこうしてバスに乗ってはあちらこちらと繕い回っていたのかもしれない。
 その事がなんだか忝なくて。
「一言、御礼を……」
 そう、感謝を伝えたのなら。
 小さな裁縫妖怪は照れくさそうに、しかし嬉しさ一杯の様子で笑い。
「こちらこそ、来て下ってありがとうなんですよう。猟兵の妖怪さん!」
 雫へ向けて礼を返したのだった。

 ふかふかの座席の上で揺られることしばらく。
 座り心地の良さに、つい、眠気を誘われそうになるのは。ぬいぐるみバスに、まるで布団に包まれているような風情があるからというのもあるかもしれない。
「目を伏せてしまいたくなります、ね……」
 今は叶わずとも平和な時なら、それもいいかもしれない。
 胸の内でそのような気持ちが起こったその時。
 肌身に生ずる例えようもない違和感。
 火を、感じた。
「来る……」
 呟きながら立ち上がり、車窓の外に広がる景色に視線を馳せた。
 その瞬間、やにわに火花が散って、辺り一面が炎の海へと変わる。天変地異と呼ぶにはあまりにも突拍子もない、まるで狐狸にでも化かされたよう。
 けれどもこの炎は全て本物なのだと、雫には理解っている。
「熱いのは苦手、です」
 バスの四方八方から燃え盛る火が迫ってきている。否応無しに地獄へ引きずり込もうとするかのようだ。ばちばちと火の爆ぜる音が嗤っている。
「このバスが燃えてしまうのも…嫌、です」
 ぎゅっと手のひらを握りつぶやく。
 水のほとりに浮かべた青い花のような楚々とした乙女の瞳に強い光が宿っていた。
「わたしも、まもりたいの……」
 その身の半分は精霊である、自然に漂う同胞たちへの助力を乞うたのなら。
 切なる願いに、霜風と水が応える。
 燃え盛る道を凍てつく風が吹き抜けて、精霊たちが火の勢いを削いでいく。
「空からも火が落ちてくるんでしたね」
 揺れるバスの中で手すりにつかまり体を支えながら、雫が強い願いに力を注ぐ。
 精霊は炎を断つように流水を起こし、それをトンネル状の波へと変えてバスを守り導いた。
 その道をぬいぐるみバスが、ぷうぱぱとクラクションを鳴らしスピードを上げて走り抜けていった。
 一目散に走るバスの運転は荒々しいものであるが致し方がない。
 張り詰めた緊張感が漂うバスの車内で、大きな揺れが起こった。
 衝撃にぽーんと投げ出された裁縫妖怪を、猟兵の一人が手で受け止めるのを見て。
 すぐさまに裁縫妖怪を水のクッションで包み込んで保護をする。
「お怪我は、ありませんか」
「はい、大丈夫ですよう!」
 そう精一杯に手を振り返してくる姿に「良かった」と雫は微笑んだ。
 人知れず失われていたかもしれない命が続いている。
 そのことがひどく嬉しくて、じわりと胸の中にあたたかな気持ちが広がっていった。



 やがてぬいぐるみバスは灼熱の地獄を抜ける。
 あらゆる手段を尽くして守られたバスには一つの傷もなく。
 流石に煤や泥には塗れたが、それだって走り抜いた証だと誇らしげに見えただろう。
「皆さん、ありがとうですよう!」
 元気な裁縫妖怪の嬉しそうな声が何度も何度もして。
 ぷうぷうぱっぱっぱー!
 やがて到着を告げるクラクションが高らかに響き渡った。
雪白・雫
裁縫妖怪さん…
あなた方のおかげで幽世に住まうわたしたちは
落ち着いて暮らせていたのでしょうか
一言、御礼を…
人と話すのは緊張しますが
小さな妖怪、なら…

実は…古い人間且つ暫し隠居していた身であるが故
バスにも、あまり乗ったことが、なくて…
ふかふかの御席に揺らされていたなら
眠くなってしまいそう、ですね
けれど次第に揺れが増せば
肌と六感で察する不穏な空気

熱いのは苦手、です
このバスが燃えてしまうのも…嫌、です
この身の半分は精霊
自然に漂う同族たちへ助力を乞いましょう

燃え盛る道は霜風の吹雪で和らげ
火の雨を避けるよう
進む先へは水のトンネルを

裁縫妖怪さんたちが吹き飛ばぬよう
水のクッションで保護を
お怪我は、ありませんか



 世界のほつれとはなんであろう。
 それは気づかぬ内に今までも起こっていたのだろうか。
 停留所の前に立ちながら、雪白・(氷結・f28570)は思いを馳せる。

 ぬいぐるみバスに乗り、雫は慎ましい仕草で車内を眺めた。
 座席に腰掛け静かに頭を巡らせると、彼女の顔を縁取る長い水髪が揺れる。
 やわらかな布で作られたバスの光景を露の瞳にうつしては、ゆっくりと瞬きをして。
 かつて人間であった頃も機会はなく、幽世では暫し隠居していた身であるが故、こうした乗り物にはあまり縁がなかったと、どれもこれも珍しさを覚えながら。
「裁縫妖怪さん……」
 細い声で、雫は声を掛けた。
 クッションの席に座った裁縫妖怪がぴょんと振り向く。
 人と話すのは緊張するけれど、小さな妖怪なら、と。勇気を出して。
「あなた方のおかげで、幽世に住まうわたしたちは落ち着いて暮らせていたのでしょうか」
 ここはあまりにも呆気なく滅んでしまいそうになる危うげな世界だから。どこかで世界がほつれる度に、彼等はこうしてバスに乗ってはあちらこちらと繕い回っていたのかもしれない。
 その事がなんだか忝なくて。
「一言、御礼を……」
 そう、感謝を伝えたのなら。
 小さな裁縫妖怪は照れくさそうに、しかし嬉しさ一杯の様子で笑い。
「こちらこそ、来て下ってありがとうなんですよう。猟兵の妖怪さん!」
 雫へ向けて礼を返したのだった。

 ふかふかの座席の上で揺られることしばらく。
 座り心地の良さに、つい、眠気を誘われそうになるのは。ぬいぐるみバスに、まるで布団に包まれているような風情があるからというのもあるかもしれない。
「目を伏せてしまいたくなります、ね……」
 今は叶わずとも平和な時なら、それもいいかもしれない。
 胸の内でそのような気持ちが起こったその時。
 肌身に生ずる例えようもない違和感。
 火を、感じた。
「来る……」
 呟きながら立ち上がり、車窓の外に広がる景色に視線を馳せた。
 その瞬間、やにわに火花が散って、辺り一面が炎の海へと変わる。天変地異と呼ぶにはあまりにも突拍子もない、まるで狐狸にでも化かされたよう。
 けれどもこの炎は全て本物なのだと、雫には理解っている。
「熱いのは苦手、です」
 バスの四方八方から燃え盛る火が迫ってきている。否応無しに地獄へ引きずり込もうとするかのようだ。ばちばちと火の爆ぜる音が嗤っている。
「このバスが燃えてしまうのも…嫌、です」
 ぎゅっと手のひらを握りつぶやく。
 水のほとりに浮かべた青い花のような楚々とした乙女の瞳に強い光が宿っていた。
「わたしも、まもりたいの……」
 その身の半分は精霊である、自然に漂う同胞たちへの助力を乞うたのなら。
 切なる願いに、霜風と水が応える。
 燃え盛る道を凍てつく風が吹き抜けて、精霊たちが火の勢いを削いでいく。
「空からも火が落ちてくるんでしたね」
 揺れるバスの中で手すりにつかまり体を支えながら、雫が強い願いに力を注ぐ。
 精霊は炎を断つように流水を起こし、それをトンネル状の波へと変えてバスを守り導いた。
 その道をぬいぐるみバスが、ぷうぱぱとクラクションを鳴らしスピードを上げて走り抜けていった。
 一目散に走るバスの運転は荒々しいものであるが致し方がない。
 張り詰めた緊張感が漂うバスの車内で、大きな揺れが起こった。
 衝撃にぽーんと投げ出された裁縫妖怪を、猟兵の一人が手で受け止めるのを見て。
 すぐさまに裁縫妖怪を水のクッションで包み込んで保護をする。
「お怪我は、ありませんか」
「はい、大丈夫ですよう!」
 そう精一杯に手を振り返してくる姿に「良かった」と雫は微笑んだ。
 人知れず失われていたかもしれない命が続いている。
 そのことがひどく嬉しくて、じわりと胸の中にあたたかな気持ちが広がっていった。



 やがてぬいぐるみバスは灼熱の地獄を抜ける。
 あらゆる手段を尽くして守られたバスには一つの傷もなく。
 流石に煤や泥には塗れたが、それだって走り抜いた証だと誇らしげに見えただろう。
「皆さん、ありがとうですよう!」
 元気な裁縫妖怪の嬉しそうな声が何度も何度もして。
 ぷうぷうぱっぱっぱー!
 やがて到着を告げるクラクションが高らかに響き渡った。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月16日


挿絵イラスト