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大祓百鬼夜行⑮〜今は遠き黄金の日々よ

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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 憎い。
 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。
 私を利用したものが憎い。私を啄んだものが憎い。私を忘れた世界が憎い。
 おお、憎悪。燃え上がり我が魂を苛みながらそしてこの胸にたしかな気力の火を灯す憎悪よ。
 奪い給え壊し給え殺し給え滅ぼし給え。
 あまねく世界を喰らい、そして全てを忘却の海へと引きずり込みたまえ。

(さすがに――もう、耐えるのも無理みたいだ)
 ――思考の奔流。情動の濁流。
 そうした激憤と慟哭と悲嘆と絶望と怨恨と憎悪と呪詛が、畏れが。虞が。骸魂に宿る強烈な思念が、『王子さま』を襲った。
 西洋妖怪親分、『しあわせな王子さま』。――彼はUDCアースの片隅において、この戦い――大祓百鬼夜行を勝利へと導くため、文字通り身を粉にして働いていたのである。
 だが、その役目を果たすために支払った代償は大きい。『王子さま』が身を削ったその行いは、彼自身を疲弊させることで骸魂からの侵蝕に抗う力を弱まらせていたのだ。
 であるが故に、ここで彼は対抗するだけの力を失ってしまった。
(――『にくい』か)
(そんなこと――思ったこともなかったな――)
 最後の理性も刹那。骸魂の力が。虞が、彼を呑み込み尽くす。
 そして――そこに立つのは。
「……憎い」
 骸蝕形態。
 『しあわせな王子さま』が、骸魂に呑まれた姿であった。

「幸せってなんなのかしらね」
 ロスタ・ジーリード(f24844)は猟兵たちへとアンニュイに尋ねた。
「……とゆーわけで、お仕事の時間よ。戦争案件ね。急いでむかってちょうだい」
 そして、一度ゆっくりとかぶりを振って、それから端末を操作する。
 そこに映し出されたのは、廃墟となったショッピングモール跡地の風景であった。
「忘れられたものたちの終着駅……って感じの場所のひとつね。今からみんなには、ここに行って『王子さま』と戦ってもらうわ」
 西洋親分・しあわせな王子様。
 周囲に幸福をもたらすとされる、西洋妖怪の大親分であり、今回猟兵たちが対峙するのは、彼が骸魂に取り込まれた『骸蝕形態』だ。
「さすがに『親分』だし、けっこーな強敵よ。その上骸魂に呑まれてるから一切の容赦なし。優しくなんかしてくれないわ。じゅうぶん注意してたたかってね」
 敵はシンプルに強い。その身に蓄えた虞の力もまた強力なユーベルコードとなって襲い来るであろう。
 しかし。
「で、ここで朗報よ。……この戦場ではー、場に満ちてる虞の力の影響力がみんなにとってもプラスにはたらくの。みんなは、このエネルギーを利用することで『真の姿』になることができるわ」
 『真の姿』。
 ――猟兵たちがそれぞれ持つという、『もうひとつの姿』。それは人によって獣であったり龍であったり、もう一人の自分であったり、あるいは鉄の巨人であったり、様々なカタチをもつ別形態だ。
「『真の姿』になれば当然みんな出力があがるわ。戦いも優位にすすめられるってわけね。最初からクライマックスよ」
 というわけで。
「やることはシンプル。いって、やっつけろ。……で、今回は敵も強いけど、みんなパワーアップして挑めるから、そうすれば互角以上に持ち込めるはず、ってことね」
 そこまで言い終えたところで、ロスタは説明を打ち切った。
「それじゃ、説明はこれくらいでいいわね。それじゃ、張り切っていってらっしゃい。――あ、そうだ。いつものよーに、ちゃんと骸魂やっつければ王子さまも助けられるわ。そこんとこもよろしく頼むわね」
 そして、ロスタは掲げた腕にグリモアの光を宿す。
 かくして、猟兵たちは戦場へと向かったのであった。


無限宇宙人 カノー星人
 ごきげんよう、イェーガー。カノー星人です。
 引き続き戦争案件です。よろしくお願いします。

☆このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「大祓百鬼夜行」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

☆このシナリオには下記のプレイングボーナス要項が存在します。
 ……真の姿を晒して戦う(🔴は不要)。
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第1章 ボス戦 『西洋親分『しあわせな王子さま』骸蝕形態』

POW   :    骸蝕石怪変
自身の【黄金の剥がれた部位 】を【異形の姿】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
SPD   :    部位崩壊弾
レベル分の1秒で【切り離した体の部位(遠隔操作可能) 】を発射できる。
WIZ   :    崩落の呪い
攻撃が命中した対象に【崩落の呪い 】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【対象の皮膚や装甲が剥がれ落ちること】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「にくい」
 鈍色の足が踏み出した。
 ゴトン、と重い音をたて、“骸蝕形態”が歩きだす。
「にくい」
 鈍色の腕が閃いた。
 その手に握った刃は虚空ごと空間を切り裂き、壁を切り崩す。
「にくい」
 鈍色の腕が蠢いた。
 がり、ごり。奇怪な音をたてながら、その腕は肥大化し、鉤爪をそなえた異形の巨腕と化す。
「にくい」
 その言葉と共に、“王子”は鈍色の目で世界を見た。
 ――ああ、壊さなくては。壊さなくては。呪わなくては。潰さなくては。砕かなくては。消さなくては。殺さなくては。

 滅ぼさなくては。

 滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。滅ぼさなくては。

 そして鈍色の双眸に、赤く憎悪の火が灯る。
 おお――おお。
 ならば、往かねば。歩きださねば。ここから、外に出ねばならない。
 忘れ去ったことを、後悔させねばならない。打ち捨てたことを過ちだったと認めさせねばならない。
 往かねば。往かねば。往かねば!!
 膨れ上がる骸魂の憎悪が『王子』を支配し、そしてその躯体を進ませる。
 外を目指す。この忘れ去られた場所を飛び出し、そして現世の者どもにこの憎悪を振りまかんと、骸魂が外を目指す。

 ――猟兵たちよ。
 君たちは。これを打倒し、そして止めなければならない。
スピカ・ネビュラスター
あははははは!!!
これが虞! いい気分だね!
それじゃあ望み通り、そのみすぼらしい身体をグチャグチャにしてあげるよ!

真の姿に変身
https://tw6.jp/gallery/?id=133355
蠢く暗黒物質の身体に、浮かぶ銀河の目、ニヤリと笑うような星雲の口
これが銀河の魔女の真の姿

重量制御、隕石落下、超新星爆発を模した爆裂などのウィッチクラフトで攻撃

うん、キミは強いね
でも、その攻撃ももう効かないよ
ラスボスとして、絶望の権化として、全て壊し尽くしてあげるよ!
(攻撃を受けても『無限に再臨せし災厄』で復活、耐性付与、攻撃性能強化)


メナオン・グレイダスト
・SPD

大いなる妖怪よ、我輩はお前に敬意を払う。
故に、全力でお前を打ち倒そう……。

自身を犠牲に世界を救う行為を、灰色の魔王は比類なき「悪」と断ずる。
自身を慕うもの達に拭い去れぬ傷を刻むであろう行為を、「悪」と言わずして何と言う?

――【グレイダスト・オーバーロード】。
膨大な灰色砂塵を放出しつつ力を最大限に解放し、『王子さま』に全力で挑む。
未だ把握していない自身の「真の姿」。外見こそほぼ変わらないが、荒れ狂う灰色砂塵の嵐を纏う。
外套を翻し、剣戟と銃砲の群れを制御し、時に部分装甲を展開し。
質と量を伴う嵐の如き攻撃を叩きつけ、一方で受けた損傷は何度でも補い。
蹂躙する! 灰色の魔王を阻むこと能わず……!


ハロ・シエラ
なるほど、こう言う事ですか。
確かに私の力も引き出されていますが、逆を言えばそれだけ危機的状況と言う事。
短期決戦を目指しましょう。
まずは敵の攻撃を回避します。
発射が早いですが、切り放す瞬間などの小さな兆候を【見切り】反応する事が出来ればこの姿のスピードで何とかなるでしょう。
遠隔操作は厄介ですが、敵本体と一直線上に並ぶように【おびき寄せ】たいですね。
ユーベルコードを準備し、回避に手一杯で撃つタイミングをつかめない様に見せつつ動きに【フェイント】を織り交ぜて誘導し、一瞬でも並べば【瞬間思考力】でその瞬間を捉え、まとめて叩きます。
その分込めるエネルギーは大きくなるので、この一発が勝負ですね。


エカチェリーナ・ヴィソツカヤ
・心情
……その憎悪は、とても悲しいな
だが、これ以上は、進ませんよ
親分を、助ける為にもな

・戦闘
真の姿……私の雪の力で封じていた、「クラデニェーツ・スヴァローグ」の力を、ユーベルコード『太陽の神焔』で解き放ち、この身に焔の神衣を纏わせよう
後は、【天候操作】や【属性攻撃】等で骸魂を焼き尽くそう
たとえこの身が、焔に融けて消え去ろうとも



「にくい」
「にくい」
「にくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいにくいわたしをすてたせかいがにくいわたしをわすれたせかいがにくい」
「にくいにくいにくいにくいにくいにくいにくい」
 憎悪が満ちた。
 瓦礫を踏みしめながら、“骸蝕形態”が来る。
「すごい魔力……いや、"虞“かな?」
 スピカ・ネビュラスター(f31393)は、この空間に充ち満ちる膨大なエネルギーを鋭敏に感じ取った。
「そのようだな。……さすがは西洋妖怪の『親分』……いわば我々の世界でいう『魔王』ということか」
 メナオン・グレイダスト(f31514)もまた、同様に膨れ上がる敵の気配を察知する。
「この力が、虞……。なるほど、こう言う事ですか」
 ハロ・シエラ(f13966)はその肌が粟立つような奇怪な感覚と、その身の裡にたしかな熱が灯るのを同時に感じていた。
 グリモア猟兵が語った通りだ。ここに満ちた虞の力は、猟兵たちにも影響を及ぼしている。
「憎い」
 そして――その根源である“骸蝕形態”が、鈍色の眼窩で猟兵たちを捉えた。
「……その憎悪は、とても悲しいな」
 エカチェリーナ・ヴィソツカヤ(f28035)が、その視線に対峙する。燃えたぎるような憎悪を真正面から浴びせかけられながらも、しかしてエカチェリーナはそれに真っ向から向き合った。
「だが、これ以上は、進ませんよ……親分を、助ける為にもな」
 そう。何故ならば、エカチェリーナはカクリヨに住まう西洋妖怪の一員。すなわち、『王子さま』は彼女の親分でもあるのだ。
「大いなる妖怪よ、我輩はお前に敬意を払う」
 メナオンもまた、そこに並び迫り来る憎しみへと相対する。
「お前は『悪』だ。いまお前が働こうとしているのは、他に例を見ぬ比類なき悪事だ。……故に、我輩はその悪事に驚嘆する」
 魔王たるメナオンは語る。
 自身を犠牲に世界を救う行為は、比類なき「悪」であると。
「自身を慕うもの達に拭い去れぬ傷を刻むであろう行為を、『悪』と言わずして何と言う?」
 メナオンは、そう言いながら横目でエカチェリーナを見た。
「なるほどね。そりゃあとんでもない悪事じゃん。……それはダメだね。ラスボスのこのボクを差し置いてそんなでっかい悪事だなんて!」
 そこにスピカが口を挟む。その言葉には幾分面白がるような響きを織り交ぜて。
「であろう、星の魔女よ。我輩たち魔界の支配者を差し置いて、このような大悪事」
 メナオンとスピカ。2人は共に『悪事』を美徳とするデビルキングワールドの者である。
 ここに集ったその2人が、目の前で他人様が自分たちより派手な悪事をやらかそうなどと、そのような話を――
「許すわけないね、そんなの!」
「故に、全力でお前を打ち倒そう……お前のその悪事を叩き潰すことこそ、我輩らが行う大悪事である」
「……結局、助けようということでしょう?」
 デビルキングワールドの猟兵の多くは、皆こうして言い訳をたてて善行を為すのだという。噂にたがわぬその姿に、ハロは肩を竦めて苦笑した。
「では……私も、親分が悪事を働くのを捨て置くことはできない」
 一方で、エカチェリーナはそれに手を貸そうと短く首肯する。
 そして、居並ぶ猟兵たちが“骸蝕形態”に対峙した。
「……」
 睨み合う僅か一瞬、戦場に生まれた静寂。
「憎い」
「憎い」
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い」
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!」
 そうしてそれを打ち破り、呪詛めいた憎悪を『王子さま』が吐き出した。
 同時、爆発的な出力をもって広がった虞が空間を満たす。応じて、猟兵たちはその姿を変じはじめたのである――すなわち、真の姿へ。
「では、行きましょう」
 一歩。踏み出したハロの腕が、炎を纏う。――その腕は、瞬く間に赤く竜鱗を備えたかたちへと変じた。
「ええ。……クラデニェーツ・スヴァローグ……」
 同時に歩み始めたエカチェリーナの躯体が、赤く輝きながら熱を帯びてゆく。
「あははははは!!! ……これが、虞か!これは……素晴らしい!いい気分だね!」
 そして、スピカの身体が解けた。――解けた身体は揺らめきながら広がり、そして星々瞬く星空の姿にも似た暗黒の宇宙が顕現する。
 かくして。
 “骸蝕形態”たる『王子さま』と、真なる姿を解放した猟兵たちの戦いが始まったのである。

「それじゃあ望み通り、そのみすぼらしい身体をグチャグチャにしてあげるよ!」
 哄笑。暗雲めいて広がった暗黒物質の身体の中で、光る銀河の双眸が嘲笑うように歪む。
 ――それは、スピカ・ネビュラスターという魔女の真なる姿。悪の権化たる『ラスボス』としての姿であった。
 スピカは宇宙にも似たその真体から、燃え上がる礫を放った。それは流星。天文学的な速度をもって銀河を往く彗星である。
「滅べ」
 だが、『王子さま』は怯むことなくその闇へと飛び込んでゆく。手にしたその細剣の切っ先に、鈍い光を灯しながら。
 ――実体の存在しない霞のような身体を、物理的な剣撃で切り伏せることが可能なのか?
 尋常の常識で考えるならば否。――しかして、猟兵とオブリビオンの間で行われるユーベルコード戦闘においては、“是”である。
「滅べ滅べ滅べ滅べ滅べ」
 その切っ先に宿る膨大なユーベルコード出力が、彗星を撃ち落とし、そして宇宙を引き裂いた。真体を切り裂かれたスピカが、苦悶するように呻き、震える。
『ならば――これではどうだッ!』
 しかし、更に前進を続けようとした『王子さま』の足元へと砂嵐が纏わった。――【グレイダスト・オーバーロード】。真なるかたちである灰色の砂塵へと姿を変えたメナオンが、嵐となって『王子さま』へと襲い掛かったのだ。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
 だが、それを打ち払うように鈍色の風が吹いた。『王子さま』は、その躯体の表面を砂塵めいて粒子状に削りながら、その一粒一粒に虞の力を込めて放ったのである。
『く、――ッ!!』
 凄まじい出力!押し返されるメナオンの身体が爆ぜる。
「はああッ!!」
 しかし、その瞬間である――!その側面から、燃え上がる翼が『王子さま』を捉えた!
「ぐあ……ッ!」
 衝撃!炎と打突の勢いに押された『王子さま』が、床面を滑りながら後退する!
「身体が熱い……。これが、虞の影響!」
「憎い憎い憎い憎い憎い」
 ハロは自分の身体に湧き上がる膨大な力に、半ば驚嘆すら覚えていた。普段とは比較にならないほど、力が引き出されている。その手の中と胸の内に灯った熱い炎を、彼女はたしかに感じ取っていた。
「確かに私の力も引き出されていますが――この力は、そもそも敵が出しているもの。逆を言えばそれだけ危機的状況と言う事」
 しかして、ハロはその熱に流されることなく冷静に現状を分析する。――目指すべきは、短期決戦。ハロは“骸蝕形態”の姿をあらためて見据えた。
「そうだな。……あまり時間をかけてもいられまい」
 ――その瞬間である。迸る光と熱が、横合いから『王子さま』へとぶち当てられたのだ!
「あまり長く待たせては、私も親分に申し訳が立たん」
 反動による衝撃で後退しながら、エカチェリーナは態勢を立て直し、そして『王子さま』の姿へと視線を戻した。熱く光る彼女の躯体はさながら燃ゆる陽光。【太陽の神焔/スヴァローグ・プラーミャ】。本来であれば雪の妖であるエカチェリーナであったが、その手に握った炎の神器の力によって彼女はこの形態をとる。
 それは彼女自身の身体にも重篤な負荷をかけ、その寿命を削る行いでもあった。
 ――しかし、その代償の分、今のエカチェリーナの放つユーベルコード出力は強大だ。エカチェリーナは剣を薙いだ。切っ先から迸る炎が、津波めいて『王子さま』へと襲い掛かり、そして押し込む!ごう、ッ!火柱めいて炎上する『王子さま』!
「ああアああアアアあァあアァあ!!」
 だが、その炎を振り払いながら『王子さま』は飛び出した。その全身に纏う虞の力は敵意と憎悪を孕みながら膨れ上がり、そして鋭く冷たい殺気とともに猟兵たちを狙う!
「く……ッ!」
 間近に迫られたハロは、しかして素早い身のこなしでその襲撃を躱した。追撃。“骸蝕形態”が追い縋る。
「この姿ならば、と思いましたが――!」
 ハロは歯噛みする思いであった。真なる力を解放した彼女のこの半竜人の姿は、通常時に比して飛躍的な戦闘能力の向上が為されている。――だが、『王子さま』はこの速度をもってしても振り切るのは困難だ。今はまだ回避が間に合っているが――いつまでももつものではないだろう。
「では、重ねよう」
「があアッ!」
 しかし、ここで加勢!ハロに追い縋る『王子さま』の躯体を、再び側面からエカチェリーナの炎が叩いたのだ。
「今だ。合わせてゆこう」
 そこに生じた隙で、エカチェリーナはハロへと呼びかける。
「わかりました。……では、ここに賭けましょう。この一発が勝負ですね」
 頷くハロはその手の中に熱を収束させる。その隣で、エカチェリーナは再び手にした炎の力を高めた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「今こそ命を燃やす時……」
「たとえこの身が、焔に融けて消え去ろうとも」
 ふたつの炎が燃え上がる。憎悪に狂い叫ぶ“骸蝕形態”を、2人の熱が捉えた。
「熱く、熱く、輝き燃えろ」
「【インフェルノ……ブリンガー】!!!」
 ――踊る炎。
 重なり合う熱が燃える憎悪より尚熱く燃え上がり、そして爆ぜる。
 それは、まさに、地上に生まれた極小の恒星であった。
「あ、あ、あ」
 ――だが。
「あああああああああああああああああああ!あああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 狂い悶えるように、炎を振り払いながら“骸蝕形態”が叫ぶ。
 その身に宿した膨大な虞が、致命傷を防いだのだ。その眼窩に尚も憎悪の火を灯しながら、再び“骸蝕形態”は猟兵たちへと敵意を向けた。
 しかし――その時である!
『――それ以上は、行かせん』
 灰色の砂塵が再び舞った。――メナオンである。先の交錯で態勢を崩されたメナオンであったが、しかしてその身体を構成するのは無数の砂粒である。敵の干渉によってその一部を失ったとしても、その身体を再構成するのは困難なことではない。
 メナオンは吹き飛ばされて無力化されたと見せかけながら、損傷を補い、そして再び攻勢に転じるタイミングを伺っていたのだ!
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いッ!!」
『如何に吼えようと、灰色の魔王を阻むこと能わず……!』
 メナオンは再構築した砂塵の身体の一部を収束し、硬化させる。そこに構成したのは、剣である。
『……逃がしは、せん!』
「あああああああああ、ッ!」
 そして、メナオンは刃を突き入れた。長く伸ばした刀身で『王子さま』の躯体を貫き、そして床面に縫い留めるように突き立てたのである!
『……さあ、そちらの番だ!』
 続けてメナオンは虚空へと向けて声をあげた。
 ――否、虚空ではない。メナオンが仰いだその空間には、闇が集っている。
『あははははは……!お膳立てに感謝しよう。なら、ここからは絶望の時間だ!』
 哄笑――!『王子さま』が仰いだ先。そこに集った闇が――否、それは闇ではなかった。それは宇宙の光景であった。――そして、闇の中に灯される星光が、嗤った!
 もはや説明の必要もあるまい。――それは先に切り散らされた筈のスピカであった。
「あああああああああああ!!」
 馬鹿な。屠ったはずだ。激情を露わにするように、“骸蝕形態”が叫ぶ。
『うん。やられたさ。やられたとも。……うん、キミは強いね』
 対するスピカは、嘲笑うようにその身体の内側で星々を瞬かせる。
 そう――メナオンが身体を再構成したように、スピカもまたやられたとみせかけながらそのユーベルコードの力によって身体を再生させていたのだ。
 【無限に再臨せし災厄】――それが、『ラスボス』という絶望をもたらす者、スピカ・ネビュラスターである。
『でも、その攻撃ももう効かないよ。ラスボスとして、絶望の権化として、全て壊し尽くしてあげるよ!』
 そして、星が爆ぜた。

 重なり合う炎と砂塵の刃が舞い、星と闇が明滅を繰り返して爆ぜる。その一方で、鈍色の刃が閃き、燃ゆる憎悪が猛りながら炎を、砂塵を、星々を薙ぐ。
 それは人智を超えた領域であり、神話めいた荘厳な叙事詩であり、化け物たちが互いを食い合う醜悪な光景でもあった。
 真の姿を解放した猟兵たちと、強力なユーベルコード出力を抱えた強力な骸魂――。その戦いの決着は、易々とつくものではなかったのである。
 その攻防は一進一退。互いに凄まじい力を出し合いながら、それぞれの想いと共に彼らはぶつかり合う。

 かくして、戦いは続く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

エル・クーゴー
●SPD



躯体番号L-95
これより、敵性の完全沈黙まで――ワイルドハントを開始します


・【リミッター解除】、真の姿に
・電脳空間より銃砲火器群を無尽に召喚する殲滅戦特化形態と化す

・バーニアを用い【空中機動+推力移動】
・【クイックドロウ】向きの拳銃・L95式サイドアームにて早撃ちの応酬を挑む

・応射に交えて『小型治療無人機群』発動
・治療対象は「遠隔操作中の王子の身体部位」及び「王子自身」

・治療効果を用い「切り離された身体部位を戻させる」「身体部位を切り離させない」!

・部位崩壊弾の運用を一時的にでも封鎖成功次第、銃砲火器群より【弾幕/レーザー射撃&切断/砲撃/爆撃/誘導弾】――【一斉発射】し【蹂躙】せん


ルパート・ブラックスミス
往かなくては、か。
あぁそうだな、往かなくてはならん。

青く燃える鉛の翼、そして真の姿を解放し【騎乗】する専用トライクをUC【死線征灯せし戦車】形態に変形。
敵UC対しては、【空中浮遊】【ダッシュ】に伴う【衝撃波】で周囲の廃墟を【地形破壊】。そのまま敵目掛けて瓦礫を【吹き飛ばし】、【物を隠す】要領で敵視界から瓦礫で此方の身を隠す。ほんの一瞬だがこの形態のスピードならば十分。
後は真っ向勝負。呪いが命中しようが【呪詛耐性】頼みに無視、此方が崩落する前に【限界突破】した加速で【捨て身の一撃】で敵を粉砕する。

王子の捨身を無駄にするわけにはいかん。
犠牲には勝利をもって応えねばならん。
骸魂。お前は此処で滅ぼす。


久遠寺・遥翔
親分、あんたの覚悟は受け取った
なら俺は今の俺が出せる全力で挑ませてもらう!

イグニシオンに【騎乗】
真の姿となりさらにUCを起動して装甲を犠牲に攻撃特化の形態をとる

【戦闘知識】による予測を【視力】による観測と【第六感】で補正した心眼で
相手の強化・弱体箇所を【見切り】
【残像】を織り交ぜて回避しつつ相手の死角を攻める
避けきれない部分は【オーラ防御】を【結界術】でコーティングした多重防御壁で受け薄い装甲を補いつつ
被ダメージは結界で受けた敵の攻撃から【生命力吸収】で回復
【空中戦】で焔の太刀による斬撃と劫火による【焼却】属性の【2回攻撃】を叩き込む

あんたが示した道を開いて、あんたも骸魂から今解放してやる!


ミスト・ペルメオス
・SPD

自分を犠牲にしてでも、か。
――それは無理だ。申し訳ないけれど。

愛機たる機械鎧を駆って参戦。『王子さま』の強大さの影響は及んでいる。
――念動力、解放。出力最大。
未だ把握していない「真の姿」。
自身は溢れる念動力により身体が変異し、半ば非実体化した状態へ。
愛機は膨大なエネルギーを迸らせながら一部が変形、または念動力の影響で非実体化。異形の度合いを高める。

ドレッドノート・デバイス展開。
【クイックショット・ホークアイ】。
超遠距離から大威力の狙撃にして速射を次々に叩き込みつつ、一か所に留まることなく飛び回ることで容易に捉えさせない。
全力で打ち倒す。そうすることで骸魂を祓い、『王子さま』を救出する!



「ああああああああああああああああああにくいにくいにくいにくいにくい!憎い!憎い憎い憎い憎い憎い憎い!」
 爆ぜるエネルギーが、憎悪と共に溢れ出した。
 狂乱する“骸蝕形態”は、瓦礫の廃墟の中から飛び出してゆく。床を蹴って跳躍。その勢いのまま天井を砕いて突き破り、そして屋上へとその身を躍らせた。
 月下である。
 かつて大規模ショッピングモールであったと思しきこの廃墟の屋上は、稼働当時は駐車場として使われていたのであろう。そこはひび割れた瓦礫が転がるだけの平坦で簡素な空間であった。
「憎い」
 そこから、『王子さま』は天を仰ぐ。
「……往かねば」
 そして、その鈍色の眼窩に再び憎悪の火を灯し、足を踏み出した。
 しかし、その瞬間である。
「敵性体の反応を検知しました。こちら躯体番号L-95、現時刻をもって迎撃戦闘に以降します」
「ブラックバード了解。こちらでも捉えました。戦闘に加わります」
「イグニシオン了解!ああ、こっちも見えた。……止めてやろうぜ、俺たちで!」
「こちらブラックスミス。……自分も今到着した」
 陰る月明かり。闇夜を裂いて鳴る風切りの音。そして鼓動めいたマシンの駆動音。
「……!」
「敵性体を目視で確認しました」
 『王子さま』が見上げた先に見つけたのは、推進剤の燃ゆる軌跡を空に描いて宙を舞うエル・クーゴー(f04770)であった。
「これより、敵性の完全沈黙まで――ワイルドハントを開始します」
 機動性で機先を制す!エルはバーニアの出力を上昇させながら加速して急降下。高速機動で『王子さま』へと肉薄する。
「……ああああああ!」
 瞬間、『王子さま』は手にした鈍色の剣を振りかざした。エルは瞬間的に推進方向を切り替え、側面に躱しながら手にした銃のトリガーを引く。L95式サイドアーム。機動力で勝るアドバンテージを活かすため、重火砲より取り回しのよいこちらでの攻め手を選んだのだ。
「通せ、通せ、通せ、通せ!征かなくては、征かなくては!壊さなくては……壊さなくては!呪わなくては!潰さなくては!砕かなくては!消さなくては!殺さなくては!」
 炸裂する弾頭を叩き込まれながらも、“骸蝕形態”は憎悪と呪詛を叫んだ。その躯体の内側で、虞の力が膨れ上がる。
「往かなくては、か」
 しかし、次の瞬間であった。
「あぁ、そうだな。往かなくてはならん」
 燃え上がる蒼炎が闇の中に迸る。
「あああああああああ!」
 『王子さま』は、絶叫とともに虞の力を物理的干渉力へと変換し、その炎を払い除けた。
 そして彼は見る。青白く燃ゆる炎の先、そこに立つルパート・ブラックスミス(f10937)の姿を。
「骸魂よ。貴殿の往くべき道ははじめから決まっている。自分がその道先を案内しよう」
 そして、蒼炎は更に燃え上がる。ルパートの炎を吸って動く彼のトライクが、炎を噴き出しながら唸りをあげた。
「がああああああああああッ!」
 しかし、“骸蝕形態”は吼える。慟哭めいて憎悪の色濃く放つ絶叫。それと同時に、『王子さま』はひび割れた床面を蹴り空をめがけて飛び出した。
「……話は聞いちゃいたが、完全に乗っ取られてるってワケだな」
「自分を犠牲にしてでも、か」
 だが、『王子さま』が逃れた先。星明かりの下に光が流れる。
「憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!」
「こんな姿になってまで、世界を救おうなんてな。……親分、あんたの覚悟は受け取った!」
 迦具土ッ!流れた赤黒い炎の流星は、久遠寺・遥翔(f01190)の駆るキャバリア機体、イグニシオンである!燃ゆる炎の軌跡を描き、加速するイグニシオンは『王子さま』と交錯。熱の刃を叩き込む!
「なら俺は……今の俺が出せる全力で挑ませてもらう!」
「殺す、ころ、ころす、殺す殺す殺す殺す憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いにくいにくいにくい!」
 撃ッ!刃はたしかに『王子さま』の鈍色の躯体を捉えていた。しかし、手応えは浅い。“骸蝕形態”はイグニシオンの一撃を受け切ったのだ。そして未だ尽きぬ憎悪を燃やしながら咆哮し、そして空中で反転してみせた。虞の力を物理的出力に転換し、空中機動を可能としたのだ。膨大なユーベルコード出力を宿しながら、“骸蝕形態”がイグニシオンに逆襲する!
「――それは無理だ。申し訳ないけれど」
 しかし次の瞬間である!降り注いだのは赤い光の雨!ミスト・ペルメオス(f05377)のブラックバードが放ったビームアサルトライフルの弾幕である。ビーム弾頭が『王子さま』の前進を阻んだのだ。
「あ、あ、あ、アアアア!」
 爆ぜる赤光!咆哮する“骸蝕形態”は、押し流されるようにひび割れたコンクリートの上へと叩きつけられる。
 ――しかし!
「憎い、ッ!憎い憎い憎い憎い憎い!私を忘れた世界が憎い!憎い、ッ!憎い憎い憎い憎い憎い憎い!」
 それでも、その躯体は健在である。
 『王子さま』は鈍色の剣を抜き放ち、そしてコンクリートの床面を蹴った。その眼窩は猟兵たちの姿を捉える。
「あああああああああああああああ」
 急加速。呪詛めいた咆哮と共に“骸蝕形態”が飛ぶ。その身に宿した虞の力を更に高めながら、その躯体が宙を舞った。その身体が肥大してゆく――骸蝕石怪変。憎悪を叫ぶ“骸蝕形態”は、もはやひとかけらたりとも金箔の残らぬ鈍色の躯体を、異形のすがたへと変じてゆく。
 ――有体に言えば、巨大化であった。膨大な虞を纏った“骸蝕形態”は、その全身をキャバリア以上のサイズまで膨れ上がらせたのだ。
「敵性体のユーベルコード出力上昇を検知しました。脅威度判定値を更新します」
「これだけ呪ってまだ足りないというか。相当に厄介だな、この骸魂は」
「敵もやる気、っつーことだな……なら、こっちも本気でいくまでだッ!」
「……こちらも、出力を上げます」
 しかし、激しく燃え続ける憎悪の火を前にしながらも、猟兵たちは誰一人一歩たりとも退かずに対峙し続ける。
(――念動力、解放。出力最大……!)
 その瞬間、ミスト・ペルメオスの意識は融けた。その念はブラックバードの全身へと流れ込む。――それはサイキッカーとしての念動力が最大限にまで高まった結果であり、ミストはブラックバードの躯体そのものを自分自身の手足として知覚したのだ。ミスト自身がブラックバードであり、ブラックバードはミストの身体であった。
「お、おおッ!なんだ、こりゃ――身体が……身体が熱い、ッ! ……こいつが、“虞”の力か!」
 それと同時に、イグニシオンの戦闘躯体はその身体から噴き出す炎の色を青白く変じた。――【SYSTEM-IGNIS/システム・イグニス】。纏う炎の熱を高めながら、遥翔の乗騎は真の姿を解放してゆく!
「……往こう。王子の捨身を無駄にするわけにはいかん。……犠牲には勝利をもって応えねばならん」
 蒼炎が燃え上がる。青く燃える鉛の翼。双翼を広げながら、騎乗したトライクの操縦席よりルパートは聳え立つ“骸蝕形態”の巨体を仰ぎ見た。
「友軍、及び当機の戦闘出力上昇を確認しました。敵性の保有エネルギー量に比しても遜色ないものと判断が可能です」
 そして、光の輪が開いた。エルは外部からの干渉によって味方である猟兵たちと、自分自身の戦闘躯体の大幅な出力上昇を感じ取ったのである。
 この戦場に満ちた虞の力が、猟兵たちにも影響を及ぼしたのだ。即ち、“真の姿”の発露。エルにとって、それは自身に課せられたリミッターを解除し、保有する火力を最大限にまで展開する殲滅特化形態へと移行することを指す。エルは電脳空間ストレージより展開した火砲を自身の電脳へと接続し、そして『王子さま』の姿をターゲットサイトの先に捉えた。
 かくして、ここに集った4人の猟兵たちはその“真の姿”を晒したのである。
「当機の計算では、一斉攻撃による火力制圧が最適と判断されました。エル・クーゴーより猟兵各位へ、火力集中による一点突破を提案します」
「ブラックバード、了解……。全力で、打ち倒します」
「イグニシオンも了解だ。一気にケリをつけようぜ!」
「こちらも承知した。……ならば、仕掛けよう」
 そして、猟兵たちは素早く展開した!4つの機影は燃えるような軌跡を描きながら、巨大な怪物と化した“骸蝕形態”を包囲するように奔る!
「先陣を切らせてもらう――行くぞ、ッ!」
「あああああああああああああ」
 ごう、ッ!!青白い炎の軌跡を地上に描きながら、ルパートはトライクを走らせた。虚ろな鈍色の眼窩に憎悪の炎を灯しながら、『王子さま』が緩慢な動きでそれを追う――瞬間!ルパートは巧みに躯体を急反転!“骸蝕形態”の虚を突く!
「――!」
「これ以上好きにはさせん。……骸魂。お前は此処で滅ぼす」
 そして、ルパートは一気にマシンを加速させた。蒼炎の軌跡は矢のように真っ直ぐと伸び、弾丸めいた速度で駆け抜けて僅か一瞬の間に『王子さま』へと向かってゆく!それは――自らの傷もまた厭わぬ捨て身の一撃であった!
「おま、えも――お前も、お前もお前もお前もお前もお前も滅べ!滅べ滅べ滅べ滅べ滅べ滅べ私と同じように滅べ!」
「……そうは、ならん」
 “骸蝕形態”は激しく呪詛を放ち、ルパートの身を蝕んだ。――だが、蒼炎は絶えない。駆け抜けるトライクはその速度を落とさぬまま――激突、ッ!!
 【死線征灯せし戦車/ドゥームデストラクションドライブデュラハーン】!凄まじい加速度を質量をもってぶつかったその躯体は、『王子さま』の胴に大穴を穿って突き抜ける!
「があああああああああッ!!」
 悲鳴めいた絶叫を吐きながら、“骸蝕形態”が吼えた。
「滅べ、滅べ、滅べ、滅べ、ほろ、べ、エェ、ッ!」
 その叫び声と共に、衝突によって砕け散った『王子さま』の鈍色の破片が震え出す。
 ――部位崩壊弾!砕けた自らの身体の破片を操作することで弾丸めいて撃ち放ち、呪詛の念とともに周囲を破壊するユーベルコードである!
「ゆるすものか、ゆるすものか!ゆるすものか、ゆるすものかああああああああああああッ!!」
「対象のユーベルコード出力上昇を検知――状況より『崩壊弾』の発動を推察。メディカルドローン、全機前進します」
 だが、その発動の瞬間である!エルがドローン機体群を差し向けたのだ。『王子さま』を囲んだドローン機体群が、素早くその機能を発揮する――!
「メディカルドローン全機稼働。対象の修復を開始」
 【小型治療無人機群/ヒールドローン】!それは――ドローン機体群を差し向けた対象を高速治療するユーベルコードである。エルは『王子さま』の用いるユーべルコードの特性が破損によって自身の躯体から離れた身体の一部を操作して攻撃に転化するものであることを推察し、“破損を治療する”ことでその技を封じる策をとったのだ。
「……!」
 不意の修復に虚を突かれたか、戸惑うような仕草を見せて『王子さま』が動きを止める――猟兵たちは、その好機を逃さない。
「躯体番号L-95より僚機各位へ。火力支援を要請します」
「了解」
 軌跡が燃える。開いた翼が空を翔け、そして光を放った。
 ブラックバード――ミストは、ターゲットスコープの先に敵影を捉えていた。そして、ミストは腕を掲げる。ドレッドノート・デバイス。長距離砲撃戦闘用大口径重粒子砲。その筒先は今やミストの五指の延長上にあり、文字通りに手足の一部であった。
「……」
 ミストは全身に滾らせた膨大なエネルギーを、その砲身へと収束させる。
「犠牲になど、させない。……こちらブラックバード。ミスト・ペルメオス。……当機はこれより『骸魂』を祓い、『王子さま』を救出する!」
 そして、放った。ドレッドノート・デバイスの砲身からまっすぐに延びた極彩色の光条は神槍めいて『王子さま』を貫く。【クイックショット・ホークアイ】!
「FCSリンケージ――火器管制システムオールグリーン。こちらも火力制圧を開始します」
 タイミングを合わせるように、エルは電脳空間ストレージより展開した火器群へと電子頭脳を接続する。そのターゲットの全てを『王子さま』へと集中し、ブラックバードの砲撃にタイミングを重ねるようにして全ての兵装より弾頭を一斉発射。火力による制圧を試みる!
「お、おおおおおおおお、おおおおおおおおおおお!」
 爆轟!爆轟!爆轟!炸裂する弾頭!爆ぜる火薬に光が交錯し、『王子さま』の躯体が爆ぜる。炎と噴煙が立ち込め、硝煙の香りが辺りに満ちた。“骸蝕形態”の呻く声が、その中で響き渡る。
「……あああああああああ!」
 だが――凄まじい執念!咆哮する“骸蝕形態”は、未だ健在であった!その全身をひび割れながらも炎と煙を振り払い、そして憎悪の強念を撒き散らしたのだ!眼窩に灯す強烈な骸魂の怨念が猟兵たちを睥睨し、そしてその躯体が再び反撃に転じようと動き出す!
「まだ終わっちゃいねえ、ッ!!」
 しかして、その背面から鋭く声が走った。同時に広がる、青く燃える炎の翼!そこに在ったのは、漆黒の太刀を携える炎の巨人の姿!燃ゆる躯体はイグニシオン!
「燃えろ、イグニシオンッ!」
 遥翔は再びイグニシオンを駆り、翔んだ。ゆらめく炎を纏いながら、イグニシオンはもう一度“骸蝕形態”へと肉薄する。
「西洋妖怪の親分さんよ……今、俺達が助けるぜ。あんたが示した道を開いて、あんたも骸魂から今解放してやる!」
 そして――炎の剣が、ユーベルコードによって肥大化した『王子さま』の躯体を灼き尽くしながら両断したのである!
「ぐ、お……お、おおおおおおおおおおおおおおおお、ッ!!」
 爆発!叩きつけられたユーベルコード出力が骸魂の存在核とぶつかり合い、そしてオブリビオンとしての抵抗力による反発力によって爆ぜたのだ。

 ――――その、末に。
「お、お、お……!」
 砕けた瓦礫の中で、“骸蝕形態”が呻いた。
 猟兵たちとの交錯を経て、その『王子さま』の姿はもはや廃棄物同然にまで砕けていたが――そこに宿る執念の凄まじさは、ここに至ってもまだ尚『王子さま』を呑み込んだままに足掻いていたのだ。
 だが、その力ももはや風前の灯であったと言えよう。

 あと一押し。あと一歩で、その骸魂は骸の海へと還る筈だ。
 “骸蝕形態”と猟兵たちの戦いは、もはや終局へと向かいつつあった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

淵守・竜二郎
一つの誓いは「王子を守る」
一つの誓いは「幽世を守る」
一つの誓いは「しあわせを守る」

やあ西洋親分さん! 調子は良さそうですねえ!
君は十分に耐え、十分に願い、十分に祈った
だから僕らは間に合った
ならば僕らは魔を討とう
起きろベニバナ! 誓いを握れ!

成すべきことは一つ、「ここから一歩も下がらない」!
往かせない、逝かせない、君にこの境界を超えさせはしない
だからやるべきことはシンプルに殴って殴って殴り続ける
君が千の憎悪を奔るなら
僕は万の正義を握り穿つ
いやはや、マジでキツい!しんどい!痛い!死にそう!
でもまあこれたぶん性分なんでお気になさらず!
君が望む幸せを、決して失わせないと、そう勝手にやってるだけですから


ヴィクティム・ウィンターミュート
そんなに熱い視線を向けるなよ
熱烈な感情、大いに結構だが……応えてやる義理は無い
俺はお前を倒して、勝ちに来たんだ
それが、飲まれた奴に応える唯一の方法なんだからな
本来はセーブしたい力でも、使ってやるさ

Void Link Start
どっちが強いか、真っ向勝負だ──『Void Hex』
ナイフを構えて走り、小さく振って手数で戦う
タイミングを見計らって腕を掴み、左の仕込みショットガンをぶっ放しにいく

俺は出来るだけ、この戦いを長引かせる
そうりゃ俺は手が付けられないほど強くなっていくぜ
おっとぉ、呪い付きの攻撃は不味いな
虚無で消し飛ばしてやるよ──過去干渉、狡い力だろ
我慢比べなら、俺の方が強いって理解させてやる


ブラッドルファン・ディラィトゥオクア
之が大祓骸魂の虞か…他の戦場でもうっすら感じとったけど、流石親分衆や他所んトコの戦場た段違いやわ、引き受けてる量が違うとる
…ああ、濃過ぎてウチの中にも否が応でも入り込んできよるわ
忘れられた憎しみ、憎悪の焔
人の子に忘れられたウチら妖怪は過去のモンか?
忘れられたウチら、過去の堕とし子たるおぶりびおん…境目はどこなんやろなぁ?
ハハッ、虞にアテられてウチの境もグズグズになってもうたわ
西洋妖怪なんてまぁアイマイなモン、もう姿も保たれへん
この霧はもう変化やのうて形無き妖怪の本質や、ウチちゅう形を失うた何か
オノレを削って進む西洋の親分、オノレの形を失せた西洋のウチ
最後のヒトッカケラまで削り合おうやないか!


イヴ・シュプリーム
心情:……彼も骸魂に吞まれてしまったようね……
危険な状態だけれども……この状況を逆に利用すれば……!

「……短期決戦で、行くわ……」
※真の姿:三対六枚の光の羽が出現、胸元の薔薇が青く変化する【リミッター解除】状態

戦術:まず呪詛攻撃を回避するため、<魔法:エネルギー操作>を使用して重力・慣性操作。【空中戦、見切り、フェイント】つまりは高速UFO機動でかく乱。同時に<魔法:精神感応>での【精神攻撃】も同時並行で実施
万が一に備えて【オーラ防御、呪詛耐性】も準備しておきます

攻撃は<魔導弾>を閃光弾とした【目潰し】で隙を作り、【魔力溜め】からの<魔導レーザー>による【レーザー射撃、全力魔法】で仕留めます。



「あ、あ、あ、……ア」
 幽鬼であった。
「にくい」
 ここに至るまでの交錯において、『王子さま』は既に半壊と言えるほどのダメージを負っている。それは同時に、そこに宿した骸魂にもまた大きな傷を与えたということになるだろう。
 しかし。
「にくい、にくい」
「憎い」
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い」
「いいいぃいぃいいぃいいぃいい憎い憎い憎い憎いいいいいぃいぃいいぃいいいぃいいいいいいぃぃ」
「わたしを壊した世界が憎いわたしを捨てた世界が憎いわたしを忘れた世界が憎いわたしをわたしをわたしをわたしをおおおおおぉぉおぉぉおぉぉ」
 死にかけた獣が醜く唸るように、“骸蝕形態”は未だ果てぬ憎悪を叫んだ。
 そして、燃える憎悪の火を灯す鈍色の眼窩が闇の先を睨めつける。――ああ、ああ。往かねば。往かねば。この憎悪。晴らさねばなるまい。ここから出なくては。現の世にこの憎しみをばら撒いて、この世界を沈めねば。
「之が大祓骸魂の虞か……他の戦場でもうっすら感じとったけど、流石親分衆や。他所んトコの戦場た段違いやわ、引き受けてる量が違うとる」
 ――しかし、その足が進み出した先に、気配。
 そこに在るのは猟兵たちの姿であった。崩落した天上の割れ目から注ぎ入る月明かりの中、ブラッドルファン・ディラィトゥオクア(f28496)は対峙する。
「……彼も、完全に吞まれてしまったようね……」
 その隣に、淡く燐光が光った。――イヴ・シュプリーム(f13592)である。
 イヴは冷静に状況を分析する。いま目の前に立つ『王子さま』は、凄まじいエネルギーを周囲の空間へと放射し続けている。宇宙魔法科学の産物である彼女は、生体センサーとも言える術視の能力でもってその虞の力を見極めようとしていた。
「いやまったく。とんでもないじゃないですか」
 いやあ、これは大変だ――。淵守・竜二郎(f28257)は、へらへらと気の抜けるような笑いとともに『王子さま』の姿を見ていた。
「とはいえ、僕らもここで尻尾巻いて逃げる、ってわけにはいかないですからねえ?」
「ああ。少なくとも、ここにいるヤツらは全員覚悟キメてきてるはずさ。そうだろ?」
 そして、闇の中にもうひとつの気配が浮かんだ。
 ヴィクティム・ウィンターミュート(f01172)は、既にその手に得物を握る。
 そうして、猟兵たちは『王子さま』の道を遮ったのである。
「通せ。通せ、通せ……。往かねばならぬ、滅ぼさねばならぬ、殺さねばならぬ、滅ぼさねばならぬ。この憎悪、晴らさねばならぬ!」
 ――激昂。
 その表皮の鈍色の欠片を落としながら、“骸蝕形態”は瞳なき鈍色の眼窩で猟兵たちを睨む。
「……なんて強いパワー……これは、危険な状態ね……」
「おお、怖い怖い。えらいどす黒いお気持ちどすなぁ……ああ、濃過ぎてウチの中にも否が応でも入り込んできよるわ」
「まったくだ。……なあ、おい。そんなに熱い視線を向けるなよ」
 しかして、猟兵たちは向けられるその呪詛めいた憎しみに真っ向から立ち向かう。
「いやはや。あちらさんも随分調子は良さそうですねえ!」
 その最中に在りながら、竜二郎はただ、困ったように笑ってみせた。
「熱烈な感情、大いに結構だが……応えてやる義理は無い」
 そして、ヴィクティムは瓦礫の転がる通路を一歩前へと踏み出した。
「俺は――俺たちは、お前を倒して、勝ちに来たんだ」
 ――それが、飲まれた奴に応える唯一の方法なのだから。そう呟いたヴィクティムの半身が、指先から黒く染まり始める。
 ヴォイド。それはヴィクティムが己が身に宿した虚無の力である。――その力は、今彼の体の中で激しく熱を帯び、そして蠢くように鼓動していた。
 それは――“虞”を浴びたが故だ。ここに至るまで『王子さま』に対峙した猟兵たちがそうであったように、彼もまた“真の姿”を引き出されているのである。
「……忘れられた憎しみ、憎悪の焔。人の子に忘れられたウチら妖怪は過去のモンか?」
 一方、ブラッドルファンは真正面から『王子さま』へと向かい合う。
「忘れられたウチら、過去の堕とし子たるおぶりびおん……境目はどこなんやろなぁ?」
「……お前も、憎め。憎め。憎め憎め憎め憎め憎め。この世界を憎み、そして――」
「嫌やわぁ。ウチはそんな風にはなれませんわ」
 ブラッドルファンは、“骸蝕形態”の叫ぶ憎悪を受け流しながら口の端に薄く笑みを浮かべてみせた。――しかして、この場に在る者は、誰であっても“虞”の力から逃れることはできない。笑うブラッドルファンの指先が、ゆっくりとかたちを失い始めてゆく。
「ああ――あきまへんなぁ。それでもしっかり影響は受けるっちゅうわけどすか。ハハッ、虞にアテられてウチの境もグズグズになってもうたわ。“西洋妖怪”なんてまぁアイマイなモン、もう姿も保たれへん」
 ブラッドルファン・ディラィトゥオクアとは、『西洋妖怪とは、このようなものであろう』という集合意識を根幹として生まれた妖怪である。――であるが故に、確固たる“己”を持たない。その“真の姿”は――霧か霞の如く、かたち持たぬものであった。
「――まわりをこんな風にして、自分自身も、こんな風に歪めて」
 そして、竜二郎が拳を握りしめる。
「そんなになるほど、みんなのために“尽くした”っつーことですな。……ねえ、西洋親分さん」
「……」
「君は十分に耐え、十分に願い、十分に祈った」
 竜二郎は、『王子さま』へとまっすぐに視線を向ける。――紡がれるその言葉は、感謝であり、労いであり、そして救いでもあった。
「黙れ」
 だが、骸魂の憎悪はそれすらも拒絶するように紅蓮に燃ゆる。
「実際、君はよく頑張ったよ。だから僕らは間に合った」
「……黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ!」
 骸魂が吼える。拒絶の意志と憎悪を振り撒き、そして強烈な害意をもって猟兵たちを威圧する。
 しかし――それで怖気づく者など、誰一人としてここには存在していなかった。
「ならば僕らは魔を討とう――起きろベニバナ! 誓いを握れ!」
 かくして、竜二郎はその姿を変じる。
 ここに満ちる虞は、竜二郎の真体をここに呼び覚ましたのである。――すなわち、竜神としての姿!
「……これが、“虞”の影響……。なるほどね……。なら、私も……この状況を逆に利用すれば……!」
 そして、イヴもまた力を解き放つ。大気中に満ちる膨大なエネルギーを、イヴはその身の内へと取り込んだ。――そして、イヴの胸元に飾られた薔薇がその花弁の色を変えた。その薔薇は単なる装飾具ではなく、高度な魔力制御機関を搭載したリミッターでもある。イヴは一時的にその働きを弱めることで、自身の術的出力を増大させたのだ。漏れ出た膨大なエネルギーは、三対六枚の光の翼として彼女の背に顕現する。
「……凄いエネルギー……。だけど、長時間は……身体がもたないわね……」
「せやろなぁ。綺麗なもんやあらへんチカラや。あんまり長いこと吸っとると、ウチみたいにグズグズになるで」
「ハナから時間をかける気はねえよ。……スピード勝負だ。こっちがイカれる前にブッ潰すぞ」
「そうね……。……短期決戦で、行きましょう……」
「よーし!それなら善は急げだ。真っ向勝負といきましょうか!」
 猟兵たちは頷きあった。――かくして、ここに立つ猟兵たちはいずれも“真なる姿”を晒したのである。そうして高めた力でもって――この戦場における最後の交錯が、始まる!

「往かねばならぬ、往かねばならぬ。往かねばならぬ」
「おっと――そうはいかない。そうはさせない!成すべきことは一つ、『ここから一歩も下がらない』!」
 先ず、『王子さま』とぶつかったのは竜二郎であった。握った拳に誓いを乗せて、竜神の一撃が『王子さま』の躯体を叩く。
「憎い」
「……憎いかい」
 だが、カウンター!打撃によって崩された態勢から強引に身体を捻り、『王子さま』の鈍色の腕が竜二郎を捉えた。ご、ッ!激しい衝撃に身体が軋む!
「が、ッフ……でも、往かせない……。逝かせない!君にこの境界を超えさせはしない!」
 膨大な霊力の一撃に全身を揺さぶられた。電流が走ったような凄まじい痛覚が竜二郎を苛む――だが、握りしめた誓いが、彼に膝をつくことを許さなかった。
 『王子を守る』と決めたのだ。自らの犠牲を厭うことなく世界を救おうとする彼を守ると、竜二郎は誓ったのだ。
 『幽世を守る』と決めたのだ。『王子さま』が身を挺してまで守ろうとしたその世界を自分もまた守るのだと、竜二郎は誓ったのだ。
 『しあわせを守る』と決めたのだ。この戦いを終わらせて、『王子さま』も救出し、そして大団円にたどり着かせるのだと、竜二郎は誓ったのだ。
 であるが故に――
「君が千の憎悪を奔るなら……僕は万の正義を握り穿つ!」
 痛みと傷に歯を食いしばり、『痩せ我慢』という名の魔法でもって、竜二郎は自分を鼓舞して態勢を立て直す。カウンターパンチ!握った拳が再び『王子さま』を捉えた!
「ああああああああああああああああああああ」
 が、ご――ッ!衝撃!破片を撒きながら“骸蝕形態”が叫ぶ!
「そろそろ俺の相手もしてもらおうじゃないか、『王子さま』!」
 だが、その瞬間であった――追撃の刃が、『王子さま』の身体を穿ったのである!
「ああああああああああああああああああううううぅうぅうううううううぅう!」
 その躯体に傷を刻んだのは漆黒の刃――エクス・マキナ・ヴォイド!その刃を叩き込んだのは、ヴィクティムであった。ヴィクティムは『王子さま』が竜二郎と殴り合っている間に死角へと滑り込み、そして隙を突いてナイフの一撃を叩き込んだのだ。
 報いねば。“骸蝕形態”はその身に纏った憎悪の念を更に強めながら、鈍色の眼窩に赤く火を灯してヴィクティムの姿を視線で追いかける!
「そうだ、こっちを見な。……来やがれ。どっちが強いか、真っ向勝負だ」
「憎い、ぃぃいいぃ、ッ、憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!」
「おわ――ッ!」
 激しく燃やされる憎悪の念!“骸蝕形態”は竜二郎を振り払ってヴィクティムを追い、跳んだ。
「呪わねば。滅ぼさねば。屠らねば。殺さねば」
 破片を撒き散らして崩壊するその腕に、強烈な呪詛の力を込めながら『王子さま』がヴィクティムへと追いすがった。
「ッ……!」
 鈍痛。“骸蝕形態”の腕がヴィクティムを捉えたのだ。衝撃に叩きのめされた身体が瓦礫の床面を転がされる。
「ごほ……ッ!ドレック!“土産付き”か、こいつは」
 そして、ヴィクティムはサイバネ部位からのアラートを受け取る。――『崩落の呪い』だ。放っておけば全身が崩れ落ちて死に至る――!
「……だが、甘く見たな」
 しかして、次の瞬間ヴィクティムは嗤った。
 そしてヴィクティムはその半身を覆う漆黒――己の身に宿す『虚無』の力を行使したのである。
 過去干渉。自身が受けたあらゆるものを消失させる力である。その力によって、ヴィクティムはその身にかけられた『崩落の呪い』を虚無に飲み込み無へと帰したのである。
「──過去干渉、狡い力だろ」
 続けざまに、ヴィクティムは左腕を掲げた。
 そして、その腕に仕込んだ銃口が火を噴く――吐き出された散弾が、『王子さま』へと襲い掛かった!
「あ、あ、あ、ああああああああああ!」
 鉛玉を浴びながら、ひび割れた身体で“骸蝕形態”が激昂を叫ぶ。
 燃ゆる憎悪の双眸は、再びヴィクティムを視て、そしてもう一度その腕を伸ばした。
 そこには執念めいたどす黒い怒りの情動が燃え上がる――しかし、『王子さま』の躯体はそこで突如として動きを止めることとなる。
「嫌やわぁ、そないに叫ばんといておくれやす。――いま、楽にしたるさかいな?」
 膨大な妖力を帯びた黒霧――虞によって“形無き妖怪”としての本質を剥き出しにした、ブラッドルファンであったものが『王子さま』へと纏わったのだ。
「ああああああああああ!」
「直に触れるとようわかってしまうなあ。……親分はんも、よう頑張ったわ」
 ばち、ッ!電気が爆ぜるのに似た音が鳴り、そしてブラッドルファンの霧の身体の端が爆ぜた。
 それは妖力の塊である今のブラッドルファンの身体が同じく膨大な妖力を蓄えた“骸蝕形態”と直接接触をしたことで、互いの妖力同士がぶつかりあって反発したことで生じた対消滅現象であった。
 ぱちん、ぱちん。――ばちばちばち、ばぁん、ッ!“骸蝕形態”を包み込むように纏わりついた黒霧の身体が、土砂降りの日の軒先のように激しく音をたてて爆ぜる。
「あああああああああああ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!わたしは往かねばならぬ!滅ぼさねばならぬ!邪魔を、……邪魔を、するな、ッ!」
「いいや、逃さへん。決着がつくまではどこにも行けまへんで――オノレを削って進む西洋の親分、オノレの形を失せた西洋のウチ。最後のヒトッカケラまで削り合おうやないか!」
 ばぢ、ッ!!――その瞬間、ひときわ強く爆ぜる音が響き渡った。
 “骸蝕形態”とブラッドルファンが、互いに渾身の力を込めて己が身に残った妖力をぶつけあったのだ。凄まじい妖力同士のぶつかり合いによって小規模の爆発が発生したのである。
「お、お、お――ッ!」
「……もう、疲れたでしょう。……『王子さま』も、……骸魂のあなたも」
 ――そして、もはや“骸蝕形態”に残された力は僅かであった。
 ここに至るまでの猟兵たちとの交錯は、『王子さま』を呑み込んだ骸魂の存在力を着実に削っていたのだ。
 そうして今――その最後の力までも失いつつある骸魂が、イヴの眼前へと躍り出たのである。
「これで……終わりにしましょう」
 イヴの胸元で、激しい光が瞬いた。
 それは、イヴの体内に搭載された生体魔導炉によって構築した術式回路の中で精錬され、そして収束させた超高密度の圧縮魔力塊である。
 目も眩むような激しい光の前に、“骸蝕形態”がその動きを止める。
「リミッター……オーバーライド……」
 そうして、イヴは魔力塊に内包させたエネルギーを解放する――広がる光の翼がその輝きを大きく増した。
 イヴはこの空間に満たされていた虞の力を体内の生体魔導炉で魔力へと変換し、そしてこの最後の一撃のためのエネルギーを高めていたのだ。
「……おやすみなさい」
 そして、イヴはその身に蓄えた魔力の全てを戦闘出力へと変換する。
 いわば全力魔法。必殺の魔導レーザーとして、イヴは高めたエネルギーの全てを放った。
「あ、あ、ああああああああ、!い、いやだ、往かねば、往かねば!わたしは、わたしは……!」
 白い光が、戦場を染め上げた。
 極大威力の魔力光が怒涛めいて激しく迸り、夜を塗り潰しながら『王子さま』を包んでゆく。
 ――そして、穢れを祓うように、骸蝕を押し流す。
「せか、い……を……」
 かくして――骸魂は、骸の海へと還る。
 光が晴れたその時、そこに在るのは骸魂の支配から解かれた『しあわせな王子さま』であった。

 だが、戦いを終えて目を覚ました『王子さま』は語る。
「僕のすべきことは、まだ終わっていない」――のだと。
 大祓骸魂に続く「雲の道」を繋ぐため、『王子さま』はまだ何度も猟兵たちと戦う必要があるのだ。
「……迷惑をかけてすまないとは思っているよ。だけど、君達にしか頼めないんだ」
 だから、もう一度戦ってほしい。――そう、『王子さま』は猟兵たちへ頼み込んだ。
「いやはや……マジでキツくてしんどくて痛かったし……っつーか僕もう死にそう!……だけど」
「親分はんの頼みやもんねえ。断れへんわ」
「元々そのつもりだからな。いいぜ、何度だってやってやる」
「……そうね。……私も、協力するわ……」
 猟兵たちは顔を見合わせ頷きあう。
 ――かくして、猟兵たちと『王子さま』の戦いは再び始まるのである。

 カクリヨとUDCアースを股にかけたこの戦争も既に半ば。戦いはこれからまた更に激化してゆくだろう。
 だが、猟兵たちはその歩みを止めはしない。二つの世界の平和をかけて――戦いは、続く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2021年05月16日


挿絵イラスト