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大祓百鬼夜行⑮〜ほんとうのうつくしさ

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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●いつかの結末をなぞって

 ――剥がれていく。
 ――堕ちていく。

 剥がすことを望んだのは己で、その結果堕ちることすら織り込まれた結果だった。
 そうしなければ繋がらない未来があるのだから己を削ることに躊躇いはない。
 だけれども、そこに望まない光景があることも確かな事実だった。

「ア゛、ァ」

 黄金が剥がれていく。
 その度に理性が堕ちていく。
 間も無く、自分は骸魂に意識を奪われてしまうだろう。
 だというのに黄金を剥がすのをやめない愛しいツバメ。かれが居てくれるなら雲の道は間違いなく繋がるだろう。

「キ゛ミ゛、タァ……チ゛」

 だから。
 あとは。
 彼らに――猟兵達に、全てを預けよう。

「タ゛……ノ、ム゛」

 ――僕は醜い銅と鉛になってしまうけれど。
 ――どうか、本当にうつくしいものを、見せておくれ。

 ――――そのためならば、壊れてしまっても構わないから。


●予定調和をぶち壊せ

「Hello,Jeagers! 『大祓百鬼夜行』は順調?」

 マイクを向けるメレディア・クラックロック(インタビュア・f31094)に三々五々の答えが返るだろう。
 それらを耳にした記者は頷きひとつ、「じゃあこっちもヨロシク」と笑って背後のスクリーンへ視線を流す。

「西洋親分『しあわせな王子さま』。かれのおかげで雲の道が繋がってるけど、そのせいでかれの理性は崩壊してる。もちろん、親分ってだけあってすごい強いよ」

 それは鉛色。
 纏うべき黄金を――理性を剥がした像の動きは狂乱の一言に尽きる。
 異形と化した腕は立ち並ぶ瓦礫を粉砕し、壊れたパーツが更なる細片の散弾と降り注ぐ。
 サファイアの視線がひと睨みすれば注がれる呪いはすべての形あるものを崩落させてゆく。
 誰かが生唾を呑む音がした。
 あれだけ強力な妖怪が手放しで力を揮ったならそれは文句なしの災害だ。

「ケド、おかげでキミ達の本能の方も刺激されてるでしょ。だから最初っから全開で行こう!」

 猟兵という存在が生命体の埒外たる所以。
 ――真の姿の解放。
 それを刺激するだけの危険がある戦場だ。だからこそ、それだけの力があることを見せつけることも可能だろう。
 誰も犠牲にしない結末、その為にも。

「キミ達の骨子。一番根っこにある、本当の生き方を見せつけてきて!」

 レーザーワイヤーで編まれた立方体が展開図──戦場へ通じる門へと変わっていく。
 向こう側から通じる虞を、いざ祓え。


只野花壇
 二十五度目まして! 外国の話だとローワンシリーズが好きだった花壇です。
 今回はカクリヨファンタズムより、畏るべき西洋親分が待つ戦場へご案内いたします。

●章構成
 一章/ボス戦『西洋親分『しあわせな王子さま』骸蝕形態』

●プレイングボーナス
 『真の姿を晒して戦う』。
 本シナリオにおいては真の姿を解放するための🔴は必要ありません。
 どんな真の姿なのか、プレイングで教えて頂ければ執筆の参考にさせて頂きます。
 ただし、西洋親分は真の姿を晒しただけで勝てる相手ではありません。ぜひ作戦も工夫してみてくださいね。

●プレイングについて
 ある程度のアドリブ・連携描写がデフォルトです。
 ですのでプレイングに「アドリブ歓迎」等の文言は必要ありません。
 単独描写を希望の方は「×」をプレイング冒頭にどうぞ。

 合わせプレイングの場合は【合わせ相手の呼び方】及び【目印となる合言葉】を入れてください。
 一グループにつき最大で二名様まででお願いします。
 詳しくはMSページをご覧下さい。

●受付期間
 【5月12日(水)08:31 ~ 5月14日(金)08:29】頃。
 完結を優先に運営する戦争シナリオですので採用数は限られます。あらかじめご了承ください。

 それでは、ようこそ自己犠牲主義者を引き倒しに。
 皆様のプレイング、心よりお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『西洋親分『しあわせな王子さま』骸蝕形態』

POW   :    骸蝕石怪変
自身の【黄金の剥がれた部位 】を【異形の姿】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
SPD   :    部位崩壊弾
レベル分の1秒で【切り離した体の部位(遠隔操作可能) 】を発射できる。
WIZ   :    崩落の呪い
攻撃が命中した対象に【崩落の呪い 】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【対象の皮膚や装甲が剥がれ落ちること】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
匡/f01612と
巨大な黒竜の姿で

――その意気や良し
ならば貴様の願いはこの竜が叶えよう
安心しろ、この世界の愛と希望、その目にもしかと映させてやるさ

……ところで匡
それは大丈夫なのか?
そうか……ならば良いが……
いや口調はこちらが素なのだ。この格好だとな

起動術式、【死者の毒泉】
重視するのは防御力
此度の攻撃の要は匡の纏う影よ
私は巨大な盾として、我が親友が好機を見出すまで耐え抜こう
呪詛を纏い、氷の障壁を成し、鱗をより堅固に

こちとら防御は得意でな
その手が一瞬でも緩んだが最後だ
さァ、匡、やってくれ
最後はハッピーエンドでなくてはな

自己犠牲からは何も生まれんさ
――脳の回らん「私」が、分かっているかは知らんがな


鳴宮・匡
◆ニル/f01811と
瞳の奥に揺らめくような青が覗き
半身が影に侵蝕されたように黒く染まる

――“影”の感情に引きずられそうだ
注意深く息を吐き出して、意識を集中

……ああ、これ
ちょっと見た目が派手なだけだよ
お前こそ喋り方……、そっか

あまり喋らないけど、気にしないでくれ
仕事は――いつも通りやる

【影装の牙】は攻撃力重視
守ってくれると信じて、防御を捨てる
異形と化した体は脅威的だろうけど
元の体には見合わない――バランスが悪いはずだ
必ずどこかで隙が生まれる
その一瞬は、逃さない

……イライラするんだよ、そういうの
死んでも成し遂げられればいい?
――そんなわけないだろ
それを見送る側は
もう二度と、こころから笑えないんだ



●黒滴、ひとしずく

 応えた咆哮は、いかにも恐ろしげな黒竜から。
 “王子様”の道を阻む悍ましき悪役が文字通りに牙を剥く。

「――その意気や良し」

 ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(伐竜・f01811)──その名で呼ばれる猟兵の真の姿の一面は、ひとが仰ぐ高さを持つ邪竜である。
 ひととほとんど同じ大きさでつくられた王子の銅像より、ずっとずっと大きい。
 呪詛の色に染まり切った眼窩が理性を喪失した王子を見下ろして細められる。笑ったのだと、想像できるのは付き合いが深くならなければ難しいだろう。

「喜ぶがいい。貴様の願いを叶える竜がここにやって来たぞ」

 黒竜は咆える、肯定を乗せて。
 理性なき王子が最後の理性で望んだであろう美しきものを彼も愛するが故に。

「この世界の愛と希望、その目にもしかと映させてやるさ」
「……」

 親友の言を聞くともなしに流しながら、鳴宮・匡(凪の海・f01612)は片目を眇めた。
 瞳の奥には揺らめく青。埒外たる知覚能力が完全に解放されたあかしだ。
 けれど今彼を見たところで誰も瞳の波紋には気付かないだろう。
 代わりに目を惹くのは、男の半身を染める黒い影。
 
「……匡、それは大丈夫なのか?」
「……ああ、これ? ちょっと見た目が派手なだけだよ」

 ───嘘だ。
 普段銃器サイズしか扱わないそれが体の半分までに面積を増やしている。
 “影”の広さはそのまま匡を引きずり込もうとする強さだ。
 だから意識を引き絞る。こころの内側ではなく戦場に照準を合わせる。──親友に、声をかける。

「お前こそ、その喋り方……」
「いや、口調はこちらが素なのだ。この格好だとな」
「……そっか」

 匡とニルズヘッグは互いに互いを親友と認識しているけれど、その裡にあるすべてを分け合っている訳ではない。だからそこを深くは掘らない。
 似てはいても異なるカタチは、行き着く先も違うだろう。
 それでも並んで征ける今が大事なのだと知っている。

「お喋りには付き合ってやれないけど」
「構わんとも。後ろは任せるぞ」
「ああ」

 ならば、あとは“いつも通り”に勝利するだけだ。



「アガ…………キ゛、ィ」

 黄金を残した鉄色が組み変わっていく。
 ほっそりとした腕が鋭い剣へと作り変えられていく光景にニルズヘッグは鼻を鳴らした。
 
「はは、お誂え向きという訳か」

 鈍色でも、精緻な細工を随所に施したそれは竜を屠る聖剣だ。
 なるほど呪詛を纏って立ち塞がる邪竜を滅ぼすには相応しいカタチだろう。理性を喪失してはいても判断力まで失われた訳ではないらしい。
 立ち塞がり甲斐がある。

「タ゛……ォ、ズ、ガギィ」
「ああ。ならば呪われてあろうとも」

 咆哮ひとつ、生まれるのは身の丈を越える氷壁。
 内に集わせた呪詛がとぐろを巻く、見るからに悍ましいソレを銅像は怖れない。未だ黄金の残る足が地面を踏んだ。加速を付けた質量はそのまま破壊を生む。腕と繋がっているからこそ、振りかぶりを用いない最速の突きが放たれる。
 ニルズヘッグは動かなかった。その身を守る盾もまた。
 だから聖剣は氷壁の表面を穿ち、貫き、罅を入れて。

「起動術式、【死者の毒泉】」

 ───すぐに埋められる。

 此処は忘れられたものたちの終着駅。かつての世界から失われるべきとされたものたちの墓場。
 よって、ニルズヘッグが武器とする呪詛には事欠かない。
 元より身を守ることにこそ優れた竜が全能力をそちらに傾けたなら、いかな狂える王子といえど崩すことは難しい。
 冷静に考えれば分かるはずのことが分からないから、剣は無数の突きを放った。

「はは、好きなだけ攻撃するといい。もっともこの盾、抜かせんがな」
「!!!!!!」

 阻む。
 守る。
 欠けを埋め、弾き、時に尾と破片の牽制を交えて。
 必要なのは矛先の維持。
 ダメージは考えなくていい。なぜなら自分よりよっぽど強い牙が狙いを澄ませているから。

「なァ、王子よ。知っているか」

 故に竜は語る。聴こえていないと知っていて。
 己が鱗の表皮を削る感触に身を浸し、失われたモノの悲嘆を聞きながら。

「自己犠牲からは何も生まれん。生み出すモノのない結末をバッドエンドとヒトは言うのだろう?」

 それを厭うているからこそ立ち塞がるのだと。
 分からず屋達を阻む盾が二層目を成す。


「──ああ、そうだよ」

 煌めく氷破片。──自然に溶けていくから考慮の必要なし。
 視覚化された呪詛。──着弾時の減速を考慮し弾道修正。
 剥がれていく黄金色も、神速の三連突きも、匡は動かず見上げるばかり。
 予測通り、それらを阻んだ呪詛氷壁が削れていくのが見えた。
 親友に任せた防御は十全。
 だから匡は預かった攻撃へ、すべての“影”を傾ける。
 『    』──そのひとつに引きずられそうな意識を正面の銅像へと向け直す。
 破砕音。
 捻りを加えて落ちてくる剣がついに一層目の盾を砕いた。

「、ドケォァアアァ!!」
「それには応じれぬよ」

 きらきらと散る氷片が空中で制止、反転。剣へと突き刺さり再凍結。
 渾身の振り下ろしの後の隙に凍結の拘束が重なればさしもの王子とて動けない。
 そして、一瞬さえあれば匡には十分以上だ。
 半身を染める影が掌まで落ちてくる。
 粘性の泥を連想させる不定形がカタチを作っていく。

「ああ。もう分かった」

 それがいつもより早い。影に浸った手の中で馴染む、破壊の為の指向性。
 殺すための、だけどそれのみではない影の武器を握る。
 だって、思うのだ。
 戦争直前の予兆に居た親分然り、この王子然り。
 自分が死んでも成し遂げられればいい───だなんて、親分たちは言うけれど。

「そんな訳、ないだろ」

 匡は知っている。
 それは、された側の“こころ”を踏み躙る行為だと。
 見送った側は、した側を大事にしていたぶんだけ“こころ”が欠けてゆくのだと。
 知っているのだろうか。
 知らないふりをしているのだろうか。
 それとも───その上で、それしかないと思っているのだろうか。
 いずれにしたって、

「イライラするんだよ、そういうの」

 その波紋の名前も、字義では知っている。
 引きずられているのかという自問は即座に否定が返った。
 そんなことをされたって嬉しくなかった。
 なのに突っ走ろうとする彼や彼女や、目の前の王子。

「だから、止めてやる」

 【影装の牙】、形成完了。
 弾道も弾種も確定した。
 幼い頃から握り続けた一挺を無造作に、しかし確かな計算を以て向けたなら。
 
「匡!」
「ああ───逃がさない」

 殺すためではなく、生かすためにこそ。
 ハッピーエンドの幕引きへ、滅びを担う牙が叫んだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

レッテ・メルヴェイユ
王子様!
そんな
こんなことって…!

大きな幻獣になりたかった
刃で護りたかった
兄みたいになりたかった

この姿(真の姿)は小さすぎて刃は持てません
小さな獣です

あはは
やっぱり何も出来ないんだ
仕方ない
必要なこと
そう言い聞かせて戦います

小ささを生かして戦います
王子様の足元で戦います
足と足の間をくぐって翻弄をします
必要なこと
必要なことです

「こわれてしまっても構わない」

兄もこの命は主のためにある
そう言って消えました

幻獣様宛の手紙から幻獣様を喚びます
王子様の足元で喚びます
バランスを崩すことを狙います
兄も王子様も強いです
強いのですが

やっぱりあたしには
強い人を助ける力はないんだ


琴平・琴子
真の姿:ベレー帽に今より少し幼い学生服姿

――私は、だぁれ
本当の自分なんて分からない
私は私でいたいのに、それさえ本当かなんて分からない

剥がれ落ちる理性と共に流れてくる涙
ああ嫌、嫌
手は嫌い
触れてこないで

見えない糸で手を切り落として
絶対に触れさせない

だって貴方は王子様なんかじゃない
この姿に触れていいのは王子様とあの人が愛したお姫様だけ

自己犠牲の上で成り立つものなんて嫌
自分を大事になさって

その苦しそうな体は全部切り刻んで
楽にしてあげる

ねえ
貴方は何になりたかったの?
私は――何に、なりたかったんだろう

それさえ今はもう分からない
本当の私は、何処だろう



●嘆きの川へふたごころ

 ぱたりと落ちた、雫は二つ。
 戦場には似つかわしくない、守られてあるべき幼子とちいさな獣へ向けて雨が降ってくる。
 ただ身を濡らし、冷やすだけの雨ならどんなによかったろう。
 その真実は切り離した指先。
 関節部から切り離された銅色の雨は命を奪う為でしかない。

「嫌、いや、こないで」

 琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)の叫ぶ声はただひたすらで、悲痛だ。それは純粋な拒絶。おそろしいものには近づいてほしくないというごく当たり前の感情。
 だがその結果齎されるのは破壊だ。
 手を振る、その指先の延長線上で雨粒たちが寸断された。空を泳ぐは不可視の糸。嘆く琴子の声に、従うだけの武器はただただ“脅威”へと向けられる。
 雨が降る。
 どうして泣いているのかなんて、琴子にだって分からない。
 どうしてこんなところにいるのかすら分からないのに。

「あはは、そっか。……仕方ないなぁ」

 そうして小さくなった破片すら、レッテ・メルヴェイユ(ねこねこ印の郵便屋さん・f33284)には脅威でしかない。
 年齢に比して小柄な琴子が胸元に抱くだけの大きさしかない瑞獣。それがレッテの真の姿。
 ぽろぽろと涙を落とす少女を護る刃を持つことも、力を振りかざして敵を倒すこともできないちっぽけな姿。
 笑えてしまう。
 自分には、あんな風に、雨を払うことすらままならない。
 だから小さな足に力を込める。
 雨をしのぐには屋根が必要だ。

「邪魔をしますよ、王子様」  

 ───それを齎す一番は王子様を斃すこと。
 少女の涙を拭うタオルになるよりずっと確実で、けれどそちらしか選べない自分に嫌気がさす。
 兄のように───ただ一人の主のために命を使える、そんな強さが欲しかったのに。
 現実のレッテでは、小さな体で走り回るしかできない。
 しなければならないことが、こんなにも遠い。

「失礼します、王子様」

 走り抜けたのはまだ黄金の残る足と足の間。
 気のせいではないと気付いたのだろう、王子の足が止まったのがレッテにも分かった。
 翻弄は有効そうだ。次は右足の周りを、と思った次の瞬間。
 それが動いた。
 咄嗟に後方へ跳ねる。けれど間に合わない。ひとを模した銅像とレッテでは一歩の距離が違いすぎる。
 尻尾を踏まれた。

「い、っ、ぁ……!」

 痛い。
 生理的な涙が盛り上がる。
 本能が逃げ出そうと体を振り回すけれど体重が違いすぎてびくともしない。
 だから、レッテの喉奥から漏れたのは悲鳴ではなく哂う声だった。
 こんなことしか出来ないのに、そうと定めたそれすら果たせない。

「……やっぱり、あたしには……強い人を助ける力はないんだ」

 小さな小さな、瑞獣なんて呼ぶのもおこがましい、ただの獣の方が近いかもしれないレッテは。
 落ちてくるタッセルを──自分の命を奪うだろうソレを見上げて小さく身を震わせた。

「拝啓、幻獣様」

 はらり、ひとひら。
 花の封蝋を押した封筒が舞い落ちる。

「どうか、あたしを───」

 その手紙の文面は、世界でただ独りしか知らない。
 応えて現れた亜麻色の毛並みは、何故だか兄に似ている気がした。



 意識が滲んでいく。
 ぼうっとしていく。
 なのに感覚の方は妙に鮮明で、落ちてくる砂のひとつひとつまで分かる気がする。
 だから、わからない。

「私は、だぁれ」

 誰も答えを知らない問いだなんて、揮発した理性では分からない。
 私ってなんだろう。
 それをイヤだということは分かるのに。
 イヤだと思う理由だって、自分の立つ場所だって分からない。

「王子様? 違うでしょう」

 銅像の足元から突然現れた、獣。
 亜麻色の爪が王子の右脚を刈り取る。轟音。巨大なもの同士がぶつかり合う音が耳をつんざくけれど、それが何を意味するかまでは分からない。
 ただ王子の巨体が傾いて、一撃見舞った亜麻色が薄れて消えていくから。

「身を削って助けられてもうれしくないもの」

 だから、楽にしてあげる。
 囁きが不可視の旋律を奏でる。指揮するように振った指先に操られて糸が踊る。
 罅の入った足へと食い込んで、引き裂く。

「触れてこないで。絶対、触らないで」

 王子様じゃないから。
 あの日琴子を助けてくれた王子様でも、その傍らのお姫様もいないのに。
 『しあわせな王子』は、助けてくれたツバメを死なせてしまうのに。

「ねぇ」

 あなたは/私は。

「なにになりたかったの」

 そんなに身を削って。
 苦しそうにもがくクセに、絶対に届かない手を伸ばして。
 どこまで歩いたって消えた記憶の手がかりはなくて、なのに憧れを握って歩くしかなくて。
 それでも進んだ、その理由。
 生きるに値する原動力。
 それさえ分からない。
 それを抱えた『本当の私』は、いったいどこにいるの。



 王子を象った銅像からも、ぐったりとした瑞獣からも答えはなく。
 代わりに一滴がまた落ちる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

郭・梦琪
あーあー
真の姿を晒しちゃったじゃない
隠してたのに
綺麗に着飾って全部隠してたのに!!
腐敗したゾンビは醜いでしょ?
腐った爪も硬直した身体もぼろぼろの髪の毛も全部全部醜い!!
化粧をしなきゃ
ボロボロの身体を隠さなきゃ誤魔化さなきゃ

お前の生き方はうつくしいよ
自分の身を差し出してまで世界を守ろうとしているでしょ
それはお前が綺麗だから出来る事よ
毒をばら撒いて王子様の動きを止めて次に繋げる
隙を作るから動けるやつが動いて
硬直した死体は不便だわ
ワタシはこんなにも醜い
とっくの昔に死んでるわけ
お前みたいに分け与える物はなぁんにも無いの
最後まで他人を思いやれる姿は立派だよ
ワタシには真似できないね


シャト・フランチェスカ
あたしに桜の角はない

シャト・メディアノーチェは
あなたの黄金には劣るけど
そこそこ綺麗な金髪に海の瞳
どう?
ちょっぴり似てるよね

それからもうひとつ

身体は桜の女に貸してるだけで
あたしは大事な幼馴染を残して病気で死んだの

本当は一緒に死んでほしかった
でもそれは我儘だから

「あたしのぶんまで生きてね、なんて
そんなことは言わないよ」

生きて、死んで、
生きるな、死ぬな
どれも言えなかったの

これでいいって思ってた
でもあたしに未練がないなら
とっくに成仏してるよね

自己犠牲なんて所詮
自己満足の言い換え
なのに満足すらしてないの
お揃いだね

だから
あたしが本当に欲しかったものを分けてあげる

どんなに痛くしても無駄だよ
ねえ
抱き締めさせて



●みをつくせないわたしたち

 自己犠牲。
 世界を救うために己の身を差し出して、剥がれ堕ちていきながらそれを由とする。
 そうして出来た鈍色の狂気を見上げて、対照的な二人の女は表情を作る。

「そういうのはね。綺麗なお前だからできることだよ」

 郭・梦琪(斯々然々・f32811)の美しさは見る影もない。
 布をたっぷり使った服も、目の縁の彩りも、爪も口紅も香だって、真の姿をさらけ出す虞の前では露ほどの役にも立たない。
 そこにいるのはただの腐乱死体だ。
 腐った爪。硬直した筋肉。ボロボロの髪に血の気のない土気色の肌。───梦琪がずっとずっと隠して誤魔化してきた、醜い自分。
 だから吐き捨てる。

「ワタシには耐えられない。真似できない」 
「だって、それはただの自己満足だから」

 紫陽花色でない女の額に桜は咲かない。そのための枝角すらない。
 黄金の髪に海色の瞳のシャト・メディアノーチェ(     ・f24181)は屈託ない皮肉を笑みに変えた。

「だから、ちょっぴりだけ似てると思うよ。あたし達」

 誘うようなシャトの言葉に王子の答えはない。理性のない咆哮がすべてだ。
 だからまず梦琪が動く。
 と言っても硬直し腐乱し在り方を固定された屍体はそう迅速には動けない。
 ゆっくり膝を曲げて近づく間に、砲弾と発射された黄金色のボタンが落ちてくる。

「おっとっと」

 背中の方へ体を傾ける。少し体幹を崩せば重たい体は自然と倒れてゆく。その動きに腕の上下を合わせれば玉錘は勝手に目の前を薙いでくれる。
 立ち上がる白い煙の招待は鴆毒だ。幾人もの英雄が煽り、そして死んでいった毒。
 目の前の王子のように分け合って差し出す手ではない。かといって楽にしてやろうなんて断じて考えていない。
 ただ動きを止めればいいだろうと、判じた意思に従う毒があたりを染める。煙に巻かれていく光景を見やりながら放たれる声は醜く掠れて罅が入る。

「動ける奴は勝手に動いて」

 そういう梦琪はといえば、すぐさま立ち上がっての追撃は出来ない。
 とっくの昔に死んでいて、土に懐いているのが正しい在り方だからだろうか。死んでいるべきだから倒れた体が起きないのだろうか。
 だったら土に埋もれるべきかもしれないのに、そんな正しいことすら出来はしない。
 喉奥からこみあげてきたものは何だったろうか。

「じゃあ、あたしはいってくる」

 だから散歩するような気安さで、シャトは毒煙の向こうへと歩いていく。
 待ち受ける黄金と鈍色のつぎはぎに臆することなく、朗々と語りかけながら。

「身体は桜の女に貸してるだけ。あたしは、大事な幼馴染を残して病気で死んだの」

 だから、この虞の中で姿を顕すのはフランチェスカならざるメディアノーチェ。
 すでに死んでいるはずの女は花のかんばせに淡く、確かな、されど昏い笑みを過らせた。

「本当は、一緒に死んでほしかった」

 それを我儘だと理解できる程度にはシャトは賢かった。
 生きて、死んで、生きるな、死ぬな。
 そんな我儘の代わりの言葉すら言えなかった。
 代わりに落としていった、一言は。

「『あたしのぶんまで生きてね、なんて。そんなことは言わないよ』……って、言ったの」

 そう遺していったはずなのに。
 それで満足したはずなのに。
 『シャト・メディアノーチェ』は、まだこの世界にのうのうと存在している。
 それが答えだと、彼女はとうに理解している。
 
「満足できないの。お揃いだね」

 王子様、と呼びかける声に木の葉を祓う北風が追従する。
 あらゆる命の生長を許さない季節が終着駅にやってくる。

「抱きしめさせてよ」

 たったそれだけのぬくもりが欲しかったから。
 よく似たあなたにそれを分けてあげる。
 もうそんなことすら許されないあたしの代わりに。

「……」

 毒煙に浸された王子は何も応えなかった。けれどシャトの手を阻むこともなかった。
 もしかしたらそれは動きを封じられているせいだったかもしれないけれど。
 無機の温度にシャトが求めていた柔らかさはない。
 けれど、それが一番良かったのかもしれない。
 手を離す。遠ざかる。白い毒煙が一面を満たす。

  マタアイマショウ
「我们再见面吧」

 きっと、誰も望んでいないから。
 目を閉じたところで待っているのは徒花しかなくても。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

佐那・千之助
しかと承った
犯した罪を贖うため…なんて事情も無く己を捧げ続ける王子こそ
本当にうつくしいものだと思う
この世界を護りたい理由が増えた

真の姿に成り、黒剣を細剣に
(白銀の髪と紅眼の吸血鬼。常に血の渇きを抱えているので表情や声が重い

開幕UC全開で先制を狙う
効果は期待してないが機先を制すれば重畳
増幅した力を活かし全弾間断なく放ち続ける
自分の身は何処が崩れても王子の元へ行けるよう
焔に破魔の力を宿し呪いをオーラ防御
全身防ぐことが難しければ脚の護りを厚く
致命傷以外は後から何とでもなる

ありがとう、私達を信じてくれて
世界も王子も大切なもの。壊させはしない
焔纏わせた細剣で貫き生命力吸収
この先もそなたの力と共にゆこう


クロト・ラトキエ
真の姿…
未だ知らず
堰が有るかの如く成れず

けれど
負けぬ為
貴公の覚悟に報いる為に
今出せる全てと敬意を以て、お相手を

視線。体捌き、腕の動き、踏込み
速度、強度、攻撃後の隙の有無…
凡ゆるを視、見切り、攻撃と回避に繋げる
積み上げた戦闘知識を以て

鋼糸を張り、異形を躱し
カウンターで巻き斬り、斬り断つ
出来る事は何時もと同じ
後は…届くか否か

それでも付いてゆけぬなら
積み上げた全てが無意味なら
終わっても仕方ないか、と

…でも
此処じゃない
未だ…生きてゆきたい

手も足もまだ動く
負けて無い

金の髪と碧眼
唯、見目の変化だけでも
立ち上がり駆ける
先より軽い身体
読める手が増える…
戦法は同じ
けれど、越えて行ける

放つ渾身は、真の
――唯式・絶



●肆線を越えて、今

 真の姿を知らない。
 成れない。
 ある意味で猟兵として失格であることを、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は気にしたことなどなかった。
 虞に満たされたこの戦場でもそれは変わらず。何の変哲もない硝子越しの双眸がただ戦場を睥睨する。

「───狩る」

 飛翔するのは美しい鏃状の炎百連。
 根元に立つ佐那・千之助(火輪・f00454)は白銀を棚引かせる紅瞳の吸血鬼としてそこにあった。
 ほんとうにうつくしいものを───王子のようなものがいる世界を護るためにこそ力を揮う世界の護り手。
 血を吸わない身であっても、それは力を充溢させる真の姿の片割れだ。容赦なく揮われる炎は分裂、幾戦の鏃と連射される。
 とはいえこれが有効だとは千之助とて思っていない。機先を制し、力づくで有利を取るための先手。
 明るい炎は目晦ましでもある。その影に潜んで走り出す千之助へ、王子は足を踏み鳴らした。
 マントの半分に罅が入る。そして、砕けた。

「っ!?」

 そのひとつひとつが砲弾だと気付いた千之助の目が見開かれる。
 瞬間的な判断で炎矢を合体させたものの、さすがにすべてを焼き尽くすには手間がかかりすぎる。その前に潰されるだろうと思考が判じて。
 さあ、どうする?

「失礼、邪魔しますよ」

 ひらり、鋼糸が翻る。
 いつの間にか空を支配していた見えざる糸が陣を張る。炎では溶かせぬ鉄も寸断であれば容易と
 みじん切りにされたそれなら束ねた炎で焼けるだろう。
 そう思った二人の目の前。不意に鋼糸同士が剥離し千切れていく。

「な、」
「崩落の呪いだ! クロト、当たるでないぞ」
「っ……ええ、心得ていますとも」

 質量弾と呪詛攻撃の二重仕込み。理性がないとはいえ成程よくやる。
 呪いに侵されぼろぼろと崩れていく鋼糸を自切。残ったそれで可能な限りマントだった鋼を切れば、千之助が前へ飛び出した。
 それは地を駆ける紅い流星。
 ダンピールの身は致命傷でなければ後からどうとでもなる。勝算があるからこその特攻だ。
 それは、読み切れぬ瓦礫ひとつで致命になる人間でしかないクロトではついていけない。


 ───いいじゃないか、と。
 いつかの誰かが耳元で囁く。

 これだけ厳しい戦場についていけないなら。
 積み上げたすべてが無意味だったから。
 ここで終わっても仕方がないと。
 理不尽と苦境を飲み込むことに慣れてしまった大人が、諦めたふうに言う。
 そうすればいい。そうすれば楽になる。
 分かっている。

 、、、
 だけど。

「っ───」

 鋼糸を巻き直す。配置を修正しながら片手に剣を握る。眼鏡を外して走り出す。
 頭は回っている。指は動いている。足は進んでいる。
 ならば、まだ、負けていない。
 前を向けばゼラニウムみたいに鮮やかな緋色がいて。

「クロト!」

 呼ぶ声がする。
 手を伸ばせる。
 だから、終着点は、此処じゃない。



 “俺”は、まだ───生きてゆきたい。




「あ、あ、あああああああああああ!!」
「───!!」
 
 千之助は見た。
 後方から走ってくるクロトの黒髪から色が抜けていく。夜の黒から昼の金へ。ちらとこちらを見た瞳は常よりも鮮やかな碧玉。
 軽やかに、真っ直ぐに、それでいて確かな計算を以て。
 それがきっと、真の姿。
 初めて至った全力だと気づいてなお千之助は戦場であることを一瞬忘れた。

「……綺麗だ」
「馬鹿なこと言ってないで。行きますよ」
「ああ、分かっているとも」

 言い合って分かれる。千之助は左へ、クロトは右へ。
 千之助が持ち上げた細剣の先に現れた炎に王子の目がまず向いた。心得たと笑って一閃、軌跡を描いた炎が王子の顔に向かって飛んでいく。
 さすがにそこは煩わしいのだろう、平手で弾くから炎はあっけなく吹き消され。
 そして、手が動かなくなった。

「……!?」
「さすがに片方しかない目では見えないでしょう?」

 『しあわせな王子』は片目がない。視界もそれしかないと読めていた。
 だから手を縛ったのはそこに設置された鋼糸だ。とはいえ質量が違いすぎるからブチブチとあっけなく千切られていくが。
 その間は無防備。

「ありがとう、王子よ。私達を信じてくれて」

 突き出されるは流麗な細工の黒細剣。
 吸血鬼としての膂力を余すことなく伝えた突きはあまりに容易く銅像を貫いた。そこを収奪の起点とし、あまりに美しく千之助は笑う。

「あなたも、世界も、壊させはしない。護る為の力、そなたからも借りて征こう」
「ええ、よって貴公の覚悟に“全力”にて返礼を」

 生命力───体を動かす根本的なエネルギーを吸われたなら待っているのは虚脱症状。 暴れる動きも見る間に弱々しくなる王子へと突き付けられたのは蛇腹剣。
 膨大な魔力が齎すのは渾身の、そして真の。

「───【唯式・絶】」

 命運を断つ一閃を、千之助はきっと生涯忘れない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ケンタッキー・マクドナルド
◆フェルトと

チィッッ、伊達にバケモンの親方はやってねェなクソ!!
言われてた通り真の姿晒さねェと勝てそォもねェか……!

(今迄やった事はねェがどンな姿かなんて判る。
手前でも気分の良い代物じゃねェしロハで済まねェとも本能で感じる、が)

……そォだな
今更お前に躊躇うモンでもねェ――行くぞ

真の姿解放、来いよ【蜘蛛神】

崩落の呪いか何だか知らねェがこちとら何遍も死んでは生き返ってンだ
喩え崩れようが【屍魂縫合】で瞬時に縫い直して
【人形繰り】でガラクタ共縫い合わせて創った木偶でブン殴り抜いてやる

きり抜けたな……チッ、代償寄越せってか糞蜘蛛
翅の一枚くらいくれて……

おい馬鹿フェルト テメェ何を――!!


フェルト・フィルファーデン
◆ケンと
何とか助けたいけれど……流石は妖怪達を統べる一角。一筋縄ではいかなそうね!

……とはいえ、わたしの真の姿はとても戦闘には向かない。
だからここはケンの助力に徹しましょう。
ふふっ、今更わたしが幻滅するとでも?
――ええ、お願いね。

UC発動。ケンに魔力を注ぎ込みつつ障壁を付与。ケンへの崩落の呪いを極力防ぐわ。【オーラ防御】

どうしたの?ケン……代償?まさか、翅を!?
……させない。真の姿解放。【荊姫】
(手足を荊で拘束された今より幼い姿になって)
この姿で唯一出来ること。代償を長きの眠りに変換した上で肩代わりする。もうあなたに何も、失わせはしない……!

心配しないで。ちょっとだけ、長く、眠るだけだから……



●いつかの糸が追い付いた

 キチキチキチ、耳元に嗤う声がある。
 果たしてそれは、いつ聞いた声だったのだろう。



「"Arthur"、お願い!」
「チィッッ!」 

 そも人間サイズの銅像とフェアリーでは基本的なリーチが、質量が、それによる攻撃力が違う。
 王子が無造作に放つ一撃が掠めただけでもフェアリーにとっては致命傷だ。
 それさえ防ぎきることが出来たのは"Arthur"のスペックとフェルト・フィルファーデン(糸遣いの煌燿戦姫・f01031)の一流の操糸技術があってのこと。
 二度目は厳しいと、白皙を伝う冷や汗が何より如実に訴える。

「何とか助けたいけれど……流石は妖怪達を統べる一角。一筋縄ではいかなそうね!」
「言われてた通り真の姿晒さねェと勝てそォもねェか……」

 理屈では分かっている。
 だから彼は躊躇っている。

 ──ケンタッキー・マクドナルド(神はこの手に宿れり・f25528)は、真の姿を解放したことがない。

 彼は本来戦う者ではない。それを解放すべき状況にそもそも相対したことがない。
 それに、自分の真の姿がどんな姿かなど理解しているのだ。
 幾度となく死に、その度に蘇り、蜘蛛の糸によって繋がれてようやく生を装えている屍人形の身であることを、ケンタッキーはこれ以上なく自覚している。
 だから、躊躇った。
 いくら彼女が知っているとしても、知っているからこそ、決して気分の良い物ではないだろうと。

「ケン?」
「……」

 瓦礫が降ってくる。王子が殴りつけて砕けたガラクタ達が呪いを帯びて二人へ向かってくる。
 揃って翅を広げた。
 大振りな攻撃であればかわすのは難しくない。それだけの機動を二人ともが持っている。
 それでも無口なケンタッキーへ、フェルトはいつも通りに笑ってみせる。

「あのね、わたしの真の姿って戦闘にはあまり向かないの」
「……オマエ、お姫様だもンな」
「ええ。だから、ケンを助けさせてくれる?」
「───」

 その躊躇いを打ち破るのも、結局は彼女の一声なのだと。
 苦笑する。後ろ髪をかき混ぜる。その動作だけで覚悟の在処を定める。

「それに、今更わたしが幻滅するとでも? ケンのカッコ悪いところなんていっぱい見てるのに」
「あァ、そォだな。それと後半は余計なお世話だ」
「何よ、本当のことでしょう?」
「うっせェ。だがたしかに今更お前に躊躇うモンでもねェ――行くぞ」

 たとえタダでは済まされないとしても。
 それで勝利を得られるなら。

「──来いよ、蜘蛛神」

 【蜘蛛神はこの手に宿れり】。
 屍人形を繰る真正の繰り手が、八本足を擦り合わせるようにして笑った。

「───!」

 知っていて、それでもやはりフェルトは息を呑む。
 土気色の肌に蜘蛛を連想させる刻印。肉の上を、恐らくは中の骨までも、縛り付けて吊り上げる銀糸には禍々しい魔力が宿る。
 ソレは死肉を捏ね合わせて形にした屍人形。
 いつかの戦場で見せつけられた光景が一瞬頭をよぎるのを止められない。

「気分悪くなるよォなら目閉じてろ。すぐ終わる」

 けれど、その声はいつも通りのぶっきらぼう。
 何も変わらない、フェルトの居場所でいてくれるひとの声だから。

「お断りよ!」

 金色の電子蝶が舞い上がる。
 フェルトの魔力で編まれた盾がケンタッキーを護るべく身を翻す。過去を分け合えないとしても今を支えることは出来るから、フェルトは自分の出来ることに全力を尽くす。

「……そォだな、テメェならそう言うと思った」

 銀糸が垂らされる。
 接続するのはケンタッキーではなく地を埋めるガラクタ達。壊れ崩れたそれらを縫い合わせてヒトガタにするなどアラクネには手慣れたものだ。
 見る間に組み上がるのは王子と同じ大きさのガラクタ人形。
 恐れをなしたかのように黄金色の細剣が揮われる。繰糸を断たれた瓦礫は形を失い、呪いを帯びて繰り手へと注ぐ。

「そンだけか?」

 崩落する。
 肉に糸が繋がっているからすぐさま縫い合わされる。
 このアラクネが一番縫ったものが何かと言えば、それは間違いなくケンタッキーの身体だ。
 だからいくら剥がされたって縫い直せる。
 その痛みに耐えられたから、ケンタッキーはまだここにいる。
 
「だったら──とっとと沈んどけや!!」

 そしてアラクネの人形繰りは糸を断たれた程度で終わらない。
 新たな糸が接続された剛腕が剣ごと王子を殴りつけた。質量が同じなら勢いをつけた方が強い。それを証明するように銅像は思い切り吹っ飛んでいく。

「っし」
「やったわ!」

 喜色は三者三様。
 ケンタッキーは息を吐き、フェルトはガッツポーズを決め、アラクネは足を擦り合わせて哂う。
 その意図することに気付いてケンタッキーの死肉に皺が寄った。

「チッ……代償寄こせってか糞蜘蛛」

 分かっていた。これは決して都合のいい取引相手などではない。驕り昂る怪蜘蛛は人形の無様を笑う為に糸を繋いでいるに過ぎないのだから。
 ロハで済むなど彼だって思っていない。だから、差し出すのは。

「翅の一枚くらいで───」
「───ダメ!!」

 突如電子蝶が崩壊した。
 純粋魔力に還元されたソレがケンタッキーの翅を包む。彼が反応するより早く了承したアラクネがそれを吸っていく。
 充溢したものが消えていく喩えようもない怖気。制止の声を上げた彼女が因だろうとアタリをつけたケンタッキーは振り返り、そして見た。

「おい、馬鹿フェルト、何を───!?」
「心、配……しないで」

 そこにいたのは荊姫。
 手足を荊で拘束された幼い姫君がケンタッキーのよく知る笑顔を作る。
 戦いに向かないと自分で告げた通り、フェルトの真の姿は置いて行かれたあの日のお姫様。

「ちょっとだけ、長く、眠るだけだから……」

 その代わり、今度は彼女が置いて行く。
 “荊姫”は他者の代償を溢れる魔力で肩代わりし、そして長きの眠りに就く。
 すでに一枚失われて、あと三枚しか残っていない翅の、その一枚。きっとその代償たる眠りは途方もなく長く続くだろう。
 きっとケンタッキーは怒る。心配して、怒ってくれる。
 そんな光景を想像して、いっそ晴れやかにフェルトは笑う。

 たくさん、たくさん、失ってきたあなたが。
 もう何かを失っている姿なんて見たくないから。

 黄金の瞳が閉じられる。飛翔の力を保てず落ちていく。
 それこそ人形みたいになった姫君を屍肉の腕はどうにか受け止めた。
 けれど彼女は目覚めない。
 叩いても、揺すっても、叫んでも、黄金の瞳は開かれない。






 キチキチキチ、耳元に嗤う声がある。
 ──それは、いつかの「夢」で聞いたものと、よく似ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
×

…仕方ない
あまり虚無を使い過ぎるのも良くないからな
あの日、あの時から生まれた別の可能性を使う
ただ勝利に執着して、そのほかの全てを削ぎ落した未来
悪魔とも、亡霊とも呼ばれた──冬の残滓だ

本当の生き方、か
間違いなく「勝利」は俺の源流だが…これが正しいのかは、分からない
だがこうすることでしか、生きていけないのは確かだ
さぁ、始めようか

要は攻撃に当たらなければいい
機動力を活かし、撹乱するように接近
黄金の剥がれた部分──銅と鉛の部分に触れて、高圧電流による【マヒ攻撃】
スタンしてる間に脚に仕込みショットガンを撃ち込んで破壊
機動力を奪えば、もうどうにでもなる
持ちうる火力を全て叩き込んで、ただただ勝利するだけだ



●落とした未来の涯は虚無

 ヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)の真の姿と言われれば、やはり誰もが『漆黒の虚無』を想像する。
 その通り、ヴィクティムはそれを用いて他の王子を撃破してきた。
 とはいえ、それを使い続けることによる影響は本人とて承知している。だから最近はセーブしていたのだから。
 だが、西洋親分の纏う虞を祓うのは戦争に勝利するための絶対条件。そこに戦場があるなら向かわないという選択肢はない。
 よって、彼はここでいつか生まれた別の可能性というカードを切る。

 ───これは漆黒ならざる虚無。
 全てを削ぎ落した結末の果てに待つ、冬の亡霊だ。




 黒革のブーツが地を蹴る。
 途端に絶妙のバランスを保っていたガラクタ達が崩れていった。
 だが男は意に介さない。そちらに王子が意識を向けると知っているからだ。
 風を置き去りに揮われる細剣が音の発生源を薙ぎ払ったところで彼はもうそちらにはいない。
 欠けた右の死角に潜り込んでいる。
 走りながら、銅像の頭の先から台座までを眺める。解析は見た時点で終わっている。もっとも有効と判じられた脇腹へ右掌を添えた。
 引き金は意志ひとつ。発声など余分なだけ。

「───!」
 
 だから炸裂した高圧電流は一切の容赦なく王子の総身を貫いた。銅も鉛も、何なら黄金もが電気を通すからその効力は覿面だ。
 轟音を立てて倒れ伏す。無機物は痙攣すら起こさない。それだけの衝撃を与えたはずだ。
 ……それなのに、台座に繋がった足が僅かに動いている。
 狂気に陥ろうと褪せない意地とやらのせいだろうか。理解の代わりに敵の頑健さを上方修正、ダウンロードする火薬の量を三割増やす。

「本当の生き方、か」

 勝利が欲しかった。
 それを手にすることは間違いなく男の源流であった。
 それを成すことに何も感じなくなったのはいつからだっただろう。
 目的であったはずの手段はいつの間にか生きるための手段に成り代わっていた。
 これでよかったのだろうか。
 ヴィクティム・ウィンターミュートが欲しかったのは、こんな未来だったのだろうか?

「───」

 ここには誰もいない。
 チームを組んだ凪の海も、白き太陽も。
 もしかしたら世界で一番幸せになって欲しい梅色の陰陽師も。
 男が亡霊になるならきっと切り捨てたひとつでしかないから。
 疑問に答えは返らず、亡霊もまた気に留めない。

「これで終わりだ」
 
 そして、冬の残滓は背を向ける。
 亡霊は何も思わない。
 ただ過ぎ去っていくだけだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロキ・バロックヒート
●真の姿:光り輝く天使

自己犠牲ってとても高尚だよね
混じりけのない気高さは
それだけで魂をこんなに煌かせるの

同時に憐れでもある
そうでもしないと世界は救えないと
世界に差し出せって云ってるようなもの

でも、そう――この姿になっても眩しくて
きっとそれが羨ましいんだろうね
私は自身のなにかを削ってなにかを救う神じゃなかった
それだけのこと

呪いを【救済】の光で解くまで
君が味わった苦痛を甘んじて受けよう
纏った光が剥がれ落ちれば
影のように黒く
伽藍のように空っぽが覗く
まるで君のようになることだろう

君たちをお話みたいに
天国へは連れて行ってやれない神様だけど
世界を灼く光を以て
気に入らない“犠牲”の概念を壊すぐらいならできる



●七つを越えたら神の子に非ず

 ───眩しいな。

 ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)は少しだけ目を細めた。
 何故って目の前の王子が眩しい。
 自己犠牲を躊躇なく選べる魂というのはどうしてこんなに煌いているのだろう。

 ほんとうに、まぶしくって見ていられない。

 世界はそうやって優しいモノにばかり犠牲を強いる。
 そうしないと救えない世界だったら、彼らはあまりに容易く己を差し出してしまうから。 
「羨ましいな」

 翻って、己は。
 すでに過去となった神の影でしかない己は。
 あんな風に世界を救えない。道化の身を削ったところで雲の道は生まれないし人の腹は満たされない。
 ロキは、自分を削って救う神様でも、何かを生み出す神様でもないのだから。

「あは、あははははは」

 光り輝く天使がわらう。
 無邪気に、ひたすらに、ただわらうという表現だけを突き詰めて。
 それは怒りにも嘆きにも似ていたけれど、生憎それに感じ入るほどの理性を王子は残していない。
 天使に触れたのは剣先だ。
 右肩の先に潜り込んで左脇腹まで駆け抜ける。

「あ、? はは、そっか。そうだったね『王子様』」

 けれど天使から血肉は零れない。
 代わりというように剥がれ落ちたのはそれを輝かせる光だった。
 王子から黄金が剥がれてゆくように、天使から光が落ちていく。
 黄金の下にあったのは鉛と銅だったけど、天使の中には虚無しかない。
 痛い。
 痛い。
 この痛みはきっと、彼の自己犠牲と同じだけれど。
 天使から剥がれた光は拡散して消えて世界に何も残さない。
 血すら落とさぬ暗がりは、ただ三日月を描く。

「きっと君の行き着く先は天国なんだろうね」

 ほんもののかみさまが、まだこんな世界にいるのなら。
 きっとこの『王子』や、健気に黄金を運んでいくツバメを、もう身を削らずとも良い楽園に連れていってくれただろうか。
 ロキには出来ない、そんな救済を与えられただろうか。

「残念だなあ」

 呟きと共に光の剥離が止まった。
 それが呪いであるならば破壊の光で灼けぬ道理はない。傷口はまだぽっかり虚ろを開いているけれど、それは天使の意思を阻害するものではない。
 戸惑うように王子の動きが止まる。
 天使はつぎはぎの銅像に近づいていく。
 歪んだ鏡に映したら、天使は王子のようになれただろうか。そんなことを思って、結局鼻で笑ってしまう。

「私には救ってあげられないや」

 救済の名前は、破滅。
 ただそれだけしか出来ぬ“天使”の光がガラクタの駅を染め上げた。

成功 🔵​🔵​🔴​

祇条・結月
小さい頃なんども読んだっけ
しあわせが納得できなくて
どうして、って

……それだけの覚悟が。あの時の僕にあれば後悔しなくて済んだんだろうな
遅すぎるけど、それでも
今度こそ、出来ることをする

禍々しい大きな、銀の鍵が変じた鍵の剣。それを頼りない人影が握ってる
手だけを残して、影はどんどん拡散していって
まるで。鍵を操る手だけがあれば、いいというように

とにかく飛び道具の回避に専念(見切り)
全部を躱し続けるのはきつい
鍵が、軋む
僕が壊れてく

……なんて、簡単に死んではあげれないよね

境界を開いて、邪神の夢を降ろすよ

オブリビオンと妖怪は似てる、なんて嘘だと思う
あなたにこの都市は似合わないよ
最後には勝って、一緒に還ろう
絶対



●遠き夢、あるべきは地

 『しあわせな王子』の童話を幼い頃に読んだことがある。
 何度も、何度も読んで、その結末に辿り着いて。
 その度に思ったのだ。
 どうして、と。



 そこに在ったのは身の丈ほどの禍々しい大剣。
 繋がった鎖ばかりがけたたましい音を立てるけど、それだけだ。
 柄を握る影は頼りなく揺れて今にも消えてしまいそう。握っている、その事実だけが必要だというように。
 それ以外の余分は必要ないというように。

「───……」

 けれど鍵の剣を握る祇条・結月(銀の鍵・f02067)の意識はこれ以上なく明瞭だ。
 自分の目も鼻も口もどこにあるのか分からないけれど。
 それでもやるべきことは分かる。

「ドケッ!!」
「っ、くぅ……!」

 黄金と銅でつぎはぎされた細剣が鍵の剣と競り合う。
 純粋な体重であれば銅像である王子様の方が有利だから結月はじりじりと押されていく。さらに勢いつけて押されて引き離される。直後、礫が降ってきた。
 それは王子の身体から切り離されたいくつもの銅。
 体勢を整えるのに精いっぱいの結月はそれらを甘んじて受けるしかない。

「っ、……だけど、っ!」

 拡散していく影でしかないはずなのに、痛い。
 崩落の呪いに浸されて拡散の速度は早まっていく。鍵が軋む。
 結月が、壊れていく。

「だけど、イヤだ」

 そんな風に簡単に死んでやるほど、結月は優しくはない。
 剣先が何もない空間を裂く。───否、開く。
 大剣の形を取っていてもその本来は鍵であり、それが具える異能は当たり前に持っている。

 ──それは邪神の夢。 
 銀の鍵が繋ぐ先にある、すべてがあって何もない都市。
 怖ろしい程の白の中、つぎはぎの銅像はそこだけ違う風合いで佇んでいる。
 過去になった都市と、違う世界に移っただけの妖怪は異なると告げるように。

「うん。やっぱり、こんなところは似合わないよ」

 だから鍵を握る影が駆ける。
 応じて持ち上がる細剣の切っ先は、けれどどこか動きが鈍い。
 此処は邪神の為の無銘都市。
 そこに連ならない王子と、連なる鍵では後者の方が遥かに勝るのだ。


 ひとつの願いのために、すべてを捨て去る覚悟。
 そんなものがあれば、あの日の結月は正しい道を選べただろうか。
 こんな風に後悔を懐いたまま立ち止まっていないだろうか。
 けれど、いかな境界を開く鍵とて過去は変えられない。
 だからこの決意を抱くことすら遅すぎるかもしれない。
 それでも、結月は手を伸ばす。

「帰ろうよ、王子様。何の変哲もない、来ることを疑わなくていい明日に」

 鍵の剣が振り下ろされる。
 ───銅像の王子が、小さく笑ったような気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ネグル・ギュネス
お前は頼むと言った
その言葉の重み、無念、願いは理解出来なくはないんでな
負けては、やれない

髪を黒く染め上げ、紅き瞳を煌めかせ、力を解放する!

残像や迷彩を駆使し、撹乱と回避を重視
瓦礫や壁をも足場として駆けながら、銃の照準を合わせながら、観察をする
多少掠めたりして、義手や鋼の装甲の一部が剥がれても、痛みに表情を変えている暇は無い。癖、歩幅に攻撃動作予備動作を予測

知覚、感覚、聴覚他持ちうる全てを研ぎ澄ませて
──もう解った、其処だ
【紫雨穿撃】の引鉄を引き絞り、狙い定め撃つ


壊れて良いなんて言うな
生かす事は叶わないが、魂だけは救って行く
だから、遠くから見ていてくれ

美しい世界と皆の為に、俺は戦い、生きるから!


陽向・理玖
我が身を犠牲に道を作る生き様は
憧れた師匠の姿に少し似ていて
少し熱くて
…苦しい

けどあの頃とは違う
俺は強くなった

犠牲になんてさせやしねぇ

自分の真の姿は未だ知らない
けど
少しの緊張と恐怖は飲み込み
覚悟決め真の姿解放

頭の中がぼんやりする
けど
力が溢れてんのは分かる
どうやって戦うかも
UC起動
空翔け残像纏い一気に接敵グラップル
拳で殴る

つか…変身してねぇのに
すげぇ出力
ドライバーはこの力制御する為にあったんだな

剥がれた部位は強化点はまともに受けず
半分の弱点に付け込み対応
攻撃は見切り
衝撃波で目晦ましのフェイントと相殺狙い
腕で受け流しカウンター
返すぜ王子!
力一杯蹴り吹き飛ばしてぶつけ追い打ち
拳の乱れ撃ち
押し切ってやる



●たとえ苦境の待つ世界でも

 それでもまだ王子は立っていた。
 撃たれ、切り裂かれ、毒に浸され、殴り飛ばされ、爆破され、灼かれて。
 最初に纏っていた膨大な虞は随分と擦り減って。
 それでもまだだと告げるように。
 黄金と銅をつぎはぎした細剣は猟兵へと向けられていた。

「王子……」

 それが陽向・理玖(夏疾風・f22773)にとっては酷く苦しい。
 我が身を犠牲に未来への道を作るのは他者から見れば眩しい光景ではあるのだろう。
 けれど、それは誰かを置いて行くことだ。
 置いて行かれた側だった理玖はそれを知っている。

「だったら、見送るか?」

 ネグル・ギュネス(Phantom exist・f00099)が問いかける。
 歩く間に白い髪が黒く染まり、眼光は戦意に満ちた赤を引く。
 それはごく無造作な真の姿の解放。
 此処に来る以前──最初の予兆が出たその時から決めていた選択だからネグルは迷わない。

「『壊れてもいい』なんて、本気で言っているヤツを放っておくか?」
「……いや」

 そして理玖も、理玖だって、答えなど最初から決まっている。
 あの頃は見送るしかなかった。伸ばした手は届かなかった。
 かれは喪った師匠ではないけれど、それでも、もう二度と見送りたくはないから。

「絶対、犠牲になんてさせねぇ!」
「───ああ、その通りだ」

 よってネグルは地を蹴った。
 たとえ最も頼りにしていたトリガーを引けないとはいえ、それは元来の機能を損なったことを意味しない。
 むしろ増強するそれらに頼れなくなった分立ち回りは慎重さを増した。
 走り出す。ガラクタを、壁を、縦横無尽に駆けながらも視線は切らない。わざと立てる足音に応じて碧玉が向けられる。
 直後。崩落が来た。

「! っとぉ!」

 その正体は地面を踏み締めることによる小規模な地震だ。廃駅と化しているこの領域はそれだけ脆く出来ていて、それを可能にするだけの質量を王子は持っている。
 バランスが崩れる。転倒しかける。───そこで止まれば潰されることも『解る』。
 だからそのまま飛び込んで転がった。勢いを殺さず突き抜ければ圧し潰される可能性は低い。

「っ」

 それは、傷つかないことを意味しない選択だ。
 王子の攻撃であることに変わりないから、転がってきた位置には鋼板が零れ落ちる。崩落の呪いは機械の体にこそ覿面だ。
 だからどうした。
 それが止まる理由になどなるものか。
 彼は崩壊しかけの理性で「頼む」と言った。本当は悔しかったろうに。自分のままで世界を護りたかったろうに。
 願われたからには果たすしかない。
 彼が願った以上のハッピーエンドを。

「そうと決まれば……」

 睨み据えるのは舞い上がる埃幕の向こう側。
 ───力の発生を感知する。



「……っし」

 実のところ、理玖は自分の真の姿を知らない。
 ほとんどの戦場をドライバーによる全身装甲姿で駆け抜けてきたからだったかもしれない。
 けれど、今日、この戦場で。
 思って渇いた口の中、唾をかき集めて呑み込む。
 もう心は決めてあるのだから。

「行くぞ」

 龍珠を握る。
 力が、溢れた。

「───!」

 変わっていく。
 橙から青色へ、染め変えられていく。
 それは竜の角。そして鱗。───充溢するのはそれを源にした力。
 ごく軽く蹴ったはずの身体が飛翔する。
 尾を曳く虹色のオーラは眩く、恐ろしささえ感じる出力で理玖を空へ誘う。

「すげぇ……」

 我が事ながら、思わず呟きが漏れた。
 “変身”していないのにこれだけの力を揮えることが空恐ろしくすらある。外部制御機構──ドライバーが必要であったことも今更ながら納得がいった。
 そうして色違いの双眸が見下ろした戦場。虚ろと蒼の眼窩が理玖を捉えた。
 揮われる腕の豪奢な装飾が砕け散る。物理法則に反して空にいる理玖を撃ち落とさんと牙を剥く。

「当たるか!」

 それに対して彼が取った戦術は単純明快。 
 己に当たる最低限を拳で弾いて最短距離の一直線を突っ切る。
 交錯は一瞬。
 次の瞬間、理玖の拳は王子を吹き飛ばしていた。 

「───解った。其処だ」

 そして、ネグルの瞳の奥に波紋が広がる。
 静かの海に落ちるひと雫。一瞬の隙を逃さず喰らい付く“相棒”の射撃を、この一撃に込める。
 【強襲弾奏・紫雨穿撃】。
 義手の中から現れた銃口はただ一射で王子の片目を穿つ。

「ギ、ガァッッッ!!!!」
「謝りはしない」

 痛覚らしきものはあるのか、悲鳴じみた叫びを上げる王子の足元へ追加の連射。足止めと陽動を兼ねた攻撃に王子が焦れたように身を捩る。
 踏み込みの音は、二つ。

「だが、あなたの望んだことを果たすために───世界を、護る為に」
「超えさせてもらう。返すぜ、王子!」

 拳圧の衝撃波が王子の顔を叩く。
 初手の衝撃がまた銅像の反応を遅らせて、その一瞬で理玖が距離を詰める。
 龍の膂力に溢れる力を重ねれば生まれるラッシュは神速の連撃。殴る。殴る。殴る。殴る───押し切る!!

「あ、あ、あああああああああああっっっっっ!!!」

 鉛の心臓。
 王子を動かす動力源が、ついに粉々に砕け散った。




 ───戦場を覆う虞が、晴れていく。



「……けれど、これは終わりじゃない」

 ひどく澄んだ声が二人の耳朶を揺らす。
 仰いだところで崩壊は止まらない。虞そのものとなったこの王子は未来を敷く一助になるだけだ。
 本物を助け出せるかどうかは、この先の戦いに掛かってくる。

「僕たちの世界を、頼んだよ」

 だからと告げられた最後の願いへ。
 二人の男はごく当然と首肯した。

「───ああ」
「当たり前だ」
「……本当にありがとう、猟兵達」



「ツバメさん。僕は、ほんとうにうつくしいものを見たよ───」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月17日


挿絵イラスト