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大祓百鬼夜行⑮〜黄金の虞を備えし西洋親分〜

作者：ライラ.hack

●UDCアース・忘れられたものたちの終着駅
　この崩壊しつつあるUDCアースの廃駅。そこにカクリヨファンタズムの四大親分たる西洋親分「しあわせの王子さま」が降り立っている。
　さすがは大親分という風格を持ちながら、周囲に幸福をもたらす妖怪として、多くの妖怪達に慕われている。だが今は強大なプレッシャーを発している。
「ツバメさん、黄金を持っていっておくれ」
　現在、しあわせの王子さまは大祓百鬼夜行の骸魂に取り憑かれている。それでも意識を保っているのはその体の黄金あってこそだ。
　それを剥がれた黄金の分だけ、西洋親分と合体した骸魂が目を覚ます。だがそうしなければならない理由がある。
「大祓骸魂（おおはらえむくろだま）に続く『雲の道』は、僕の黄金がなくては作れないんだ」
　そう、その黄金をもって大祓骸魂がいるスカイツリー・ゲイン塔の雲の道を作ろうとしているのだ。まさしく身を削る大業である。
　だがやらなくてはならないと王子さまを呟く。他の大親分達も頑張っているはずだから。
「そしてまもなく、たいせつな役目が始まる。僕は、猟兵達と殺し合わねばならない」
　そしてただ西洋親分の黄金を削ればいいというわけではない。西洋親分を含めた「親分」が全力で戦い、それを打ち倒すのが重要なのだ。
　それを成し得た時、大祓骸魂が放つ圧倒的な虞（おそれ）も幾らか和らぐ。それが、大祓骸魂に続く雲の道を作る為の「必須条件」でもあるのだ。

「だからツバメさん、黄金を持っていっておくれ。もし僕が死んだなら、雲の道を繋ぐ役目は君にお願いしたいんだ」
　だからこそ西洋親分は待つ。しあわせの黄金をもって道とし、戦いをもって虞を祓わんとして、猟兵達を待つ。

●グリモアベース・ブリーフィングルーム
「西洋親分の覚悟を無駄にするわけにはいかんのー」
　グリモア猟兵のメイスン・ドットハック（ウィザード級ハッカー（引き籠り）・f03092）はいつになく真剣な表情を訴えかける。西洋妖怪の大親分「しあわせの王子さま」との戦いは避けられないからだ。
　今の西洋親分は骸魂の影響を抑え込んだ「黄金形態」の形を取って猟兵を待っている。現在は完全に意識を保っているが、大祓骸魂の「虞（おそれ）」を克服する儀式として、王子さまは自身の膨大な「虞」を全開放し、全力で殺しにかかってくる。
「この影響で、猟兵諸君は真の姿になれるからのー」
　西洋親分の膨大な虞の影響により、窮地になくても猟兵達の真の姿に変身できる。この力で虞を克服し、雲の道になる西洋親分の黄金も確保しなければならない。
「じゃけど西洋親分の心意気も汲みつつ、助けてもやりたいのー」
　その為には西洋親分の全力を受け止めつつ、骸魂を滅ぼさなくてはならない。だがメイスンは困難であろうとも猟兵達の力を信じていると告げる。
　奇跡を叶える為にメイスンは転移術式を展開する。虞を克服し、生命を救う。そんな死闘が幕をあげようとしていた。

第1章 ボス戦 『西洋親分『しあわせな王子さま』黄金形態』

POW   :    あたたかな光 【黄金の光】が命中した部位に【「理性を破壊する程の幸福」】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する（抵抗は可能）。 SPD   :    しあわせな光 【黄金の輝き】を解放し、戦場の敵全員の【「不幸を感じる心」】を奪って不幸を与え、自身に「奪った総量に応じた幸運」を付与する。 WIZ   :    黄金をささげる 自身の装備武器を無数の【黄金】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「世界を貫くでけえドリル！　それが俺の真の姿だ！」
　そんな口上を述べながら、ディグ・ドリラー（ドリル仁義・f31701）は前に出る。いつもならばドリル語という言葉を話すのだが、今は真の姿を解放しているからか、会話に問題はない。
　そしてその真の姿はドリルに決まっている。ドリルの悪魔たる自身の原初、それこそがドリルこそが彼の魂であるのだ。
「つーわけで妖怪の大将を取り込むようなヤツもぶち抜けるような突撃をするぜ！」
「うん、いいよ。戦おう、ドリルの君」
　そしてディグのドリルに変形した形と共に、しあわせの王子さまへの突撃が始まる。愚直に貫く姿勢はさすがというべきか、その黄金の身体に向けて一直線だ。
　それに対してあたたかな光を発するしあわせの王子さま。包み込むような笑顔と共に、黄金の光がディグに照らされる。溢れるのは理性を破壊する程の幸福感。
「で、なんだその光？　そんなもんで俺が止まるわけねえだろ！」
　だがその理性を狂わせる光を浴びてもディグは止まらない。気合でねじ伏せ、回転力を上げていく。ディグは回避する気も後退する気もない。
　ケンカでもそうだ。ビビったやつから負けていく。だからこそ、ディグは気合と根性では誰にも負ける気はない。
「お前だって無くなりたいわけじゃねーだろ、なのに最初から諦めたツラ見せてんじゃねえ！」
　能力「気合ドリル（メタクラッシャードリル）」が発動し、あたたかな光を霧散させていく。そして気合の入った一撃はしあわせの王子さまの身体を削り取る。
　さすがは猟兵と言わんばかりの表情で膝を突く西洋親分。だがディグの見る目は暖かい光に満ち溢れている。
「ほら、立ちな！　なんかそこの鳥も心配してんだろ！」
　肩に乗ったツバメを見て、王子さまは実感する。猟兵達だけではなく、他の者達にも心配をかけている事実。
　そしてディグのドリルが再度しあわせの王子さまの身体を抉り取る。だが王子さまの身体ではなく、的確に骸魂を狙ってダメージを与えている。
「見ててな、この俺が全部の骸魂をぶち抜いて行く様子をよ！　その石の目でもそれくらいのモンは見えんだろ？」
　その言葉通り、王子さまの瞳にも骸魂の部分が欠けていくのが見えていた。だがディグが与えたダメージでもまだ足りないと、西洋親分は奮起する。
　その覚悟、その奮闘っぷりにジェイ・ランス（電脳の黒獅子・f24255）は目を見張る。そしてそのキャバリア・レーヴェンツァーンの真の姿たる黒き機体を解放した状態で出現する。
「『しあわせな王子さま』か。素晴らしい覚悟だ。ならば、その覚悟に応えるが道理というもの」
　その真紅の瞳はしあわせの王子さまが放つ圧倒的な「虞」を視覚している。それは猟兵であっても一生かけて到達できるかというレベルのものだった。
　だがこの「虞」を超えることが出来なければ、大祓骸魂を倒すことはできない。だからこそジェイは相棒のレーヴェンツァーンを全力の力で操って挑戦する。
「異界とて、護るは我々が使命。その志、討って引き継ごうぞ。全力で参る」
「そうかい、ツバメさん。僕も全力で迎え撃つよ」
　しあわせな王子さまは微笑むと黄金の光を放ち、ジェイのレーヴェンツァーンを飲み込もうとする。その到達より早くジェイは能力「電送機動（リヒト・ローヴェ）」を発動する。
　レーヴェンツァーンは高出力レーザーそのものとなり、瞬間的な移動速度と移動距離が強化される。そして瞬時にしあわせの王子さまへと接近する。
「乾坤一擲、受けてみよ」
　黄金の光を受ける時間が少ないが故に幸福感も少なくて済む。そして思考能力を犠牲にしているが故にその影響も少ない。
　そのままレーヴェンツァーンは四本の腕を使った可変式対艦概念破断剣"ツェアライセン"にて、光の速さで大上段を繰り出す。西洋親分は避けることも出来ずに、そのサーフボードは大きく傷を刻む。
「ああ、それが君の全力なんだね」
　黄金の欠片が飛び散り、それをツバメがキャッチして運んでいく。それが大祓骸魂への雲の道を切り開く鍵となる。
　その身が刻まれようとも関係はない。故に西洋親分たるしあわせの王子さまは今だ「虞」を放ち、存在感を示し続ける。
「我々"切り裂くモノ"、未来を切り開くため、御身を断たぬ」
　その心意気にジェイも応える。空気の波にのるようにツァアライセンを切り返し、さらに先端と最後尾の刃で十字傷を刻むという高難易度技を成し遂げる。
　キャバリアでこの操作は難しいが、真の姿解放で集中力を増しているジェイには難しいことではない。これによって黄金の身体は欠ける。
「親分、あんたの覚悟は受け取った。なら俺は今の俺が出せる全力で挑ませてもらう！」
　ジェイの斬撃を受けてもさらに立ち塞がるしあわせの王子さまに久遠寺・遥翔（焔黒転身フレアライザー／『黒鋼』の騎士・f01190）も奮い立つ。そしてその力を余すことなく解放していく。
　相棒のバイク型AFフェンリルをオーバーフレームとする形で再設計した最新鋭機「イグニシオン」に搭乗している遥翔。そして真の力を解放することによって、翼は青くなり、そのエネルギーは赤から青へと変化していく。
「そう、それだよ。きみの力を見せておくれ」
「SYSTEM-IGNIS起動！」
　不敵に微笑むしあわせの王子さま。膨大な「虞」に対抗する為に遥翔も能力「SYSTEM-IGNIS（システム・イグニス）」を発動させる。さらに装甲を犠牲に攻撃特化の形態をとり、決死の覚悟で突撃する。
　しあわせの王子さまから黄金の光が発せられる。それをさきほどまで見てきた経験と己の直感を頼りに受ける箇所が少ない場所へと回避し、さらに結界のオーラでコーティングした多重防御壁で攻撃に対する防御とする。
「さぁ、歯を食いしばれ」
　しあわせの王子さまの剣からの攻撃を受けつつも、攻撃範囲内に入り込むイグニシオン。その巨体をもってしても、西洋親分としての強さは同等に感じられる。
　だがそれでも負けるわけにはいかないと、黄金の光を吸収して生命力とし、前へ進む力とする。幸福感で理性が崩壊しそうになるが、残像を生み出すほどの速さで攻撃を躱し、機神太刀"迦具土"の焔の太刀による斬撃と劫火による火炎が燃え盛り、傷が刻まれる。
「あんたが示した道を開いて、あんたも骸魂から今解放してやる！」
　黄金をも溶かす焔。熱き思いが迸る遥翔の攻撃は確かにしあわせの王子さまの黄金を欠けさせ、その身に巣食う骸魂に多大なるダメージを与えた。

「優しいね、猟兵さん達。だけど、まだ……まだだよ」
　ディグ・ジェイ・遥翔の猛攻を受けながらも、今だ強大な「虞」を発しながら立ち上がるしあわせの王子さま。その黄金の輝きは朽ちることなく、幸福と幸運を象徴しているようだった。
　さすがは西洋親分、その力は伊達ではないと感じる。だがそれだからこそ、死なせるわけにはいかない。猟兵達の挑戦は今だ続く。解放の時まで諦めない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　猟兵達が傷を刻んで欠けた黄金は、そのまま西洋親分の友たるツバメが運んでいく。その黄金こそが大祓骸魂がいるスカイツリー・ゲイン塔を繋ぐ雲の道となるのだから。
　それ故に西洋親分たるしあわせの王子さまは傷を負うことを厭わない。むしろこの膨大なる自身の「虞（おそれ）」に怯まず挑んでくる猟兵達を好ましく思う。
「だからだね。僕達は、君達にお願いしたいんだ」
　己の生命が尽きても、大祓骸魂の道を作る。この百鬼夜行を止め、カクリヨファンタズムの世界を救う為の礎に喜んでなると笑顔で戦いへと挑む。
「黄金を与えるのはあなたの習性のようなものかもしれません。ですが、それで命を落とすのを黙って見てはいられません！」
　銀髪金瞳のシスターのオリヴィア・ローゼンタール（聖槍のクルースニク・f04296）は前へと出る。黄金の「虞」に対しても怯んだ様子はなく、むしろしあわせの王子さまの優しさに応えねばという気丈な部分が滲み出ているようだった。
　そしてその親分としての宿命を受け入れつつも、その運命を否定する。それこそがオリヴィアの優しさなのかもしれない。
「天来せよ、鋼の大英雄（ヘラクレス）！」
　そして真の姿たる天使の翼、白銀の小手、パイロットスーツへと姿を変え、オリヴィアは天へと吠える。偉大なる英雄の名を冠した巨いなる鋼の超人、キャバリア「ヘラクレス」である。
　搭乗者の意思に感応して稼働するそのスーパーロボットはオリヴィアの強い意志に反応する。召喚した後にコックピットに乗り込み、しあわせの王子さまへと対峙する。
「この試練、必ずや乗り越えてみせましょう！」
　その鋼の巨人に西洋親分は黄金を捧げることで無数の花びらへと変化させて迎撃する。それに対してヘラクレスはその有り余る力を以て廃駅の線路を引っ剝がし、投擲することで迎撃する。
　さらに電柱を引き抜き、棍棒のように薙ぎ払い、振り回して叩き落していく。その機体が斬撃に晒されて斬り刻まれようとも、気合と根性で駆け抜ける。
「素晴らしいね。猟兵さん」
「その黄金は気高き王子の象徴！　魂そのもの！　オブリビオンには一欠片さえも渡さない！」
　その悲しき笑顔を過去のものにはしはしない。オリヴィアは能力「巨神射殺す星辰の強弓（ギガントマキア・シューティングスター）」を発動する。
　虚空から、どんな防御をも打ち砕くという強弓と矢を召喚し、ヘラクレスが装備する。その願いは、「虞」を超えて、しあわせの王子さまを巣食う骸魂を狙う。
「ヘラクレス！　虞を穿て！」
　その願いを叶えるべく、ヘラクレスは弓矢を放つ。強大な「虞」を斬り裂き、その矢は黄金の身体へと突き刺さり、身体が砕け散る。
　しあわせの王子さまの身体は砕かれるが、多大なるダメージを受けたのは骸魂のほうであった。それを感じ取ってか、さらなる追撃へと死之宮・謡（存在悪：狂魔王・f13193）は向かう。
「己の身を削ってでも勝ちに行くか…己の死を前提とした攻勢か…実に良いな…私は好きだぞ、貴様の様な奴は、な…」
　自身が攻撃的な性格故に、その身を削ってでも大敵たる大祓骸魂を滅ぼそうとする姿勢は見事なものだと謡は思っている。
　だからこそ賞賛の言葉を惜しむことはないし、彼女も手を抜くことはない。それは魔女であり、魔王たるその身から溢れる力が、「虞」にて溢れてくるからでもある。
「別に何だって良い…だがまぁそうだな、骸魂の思惑通りに事を運ばれるのは癪だ…」
　その漆黒のドレスを着た女性に対して、しあわせの王子さまは黄金の花びらを放っていく。そのすべてが身を斬り裂くには十分な威力を持っているだろう。
　だが「虞」は謡の真の姿を暴くには十分な威圧を誇っていた。その身は煉獄の身体を持った魔神へと変じ進行していく。
「さぁ、滅びるが良い…」
　それは王子さまへの言葉ではなく、その身に巣食う骸魂に対して言った、謡の冷ややかな言葉。能力「焔の堕ちる日（ワンダリング・ディザスター）」を発動する。
　全身を変化させた数万度の焔へと変え、周囲一帯を数千度の地獄に変える熱へと放つ。周りに他の猟兵がいないことを感知しての技であるが、それと共に崩壊と衰退の・呪詛と共に黄金も虞も何もかも焼き尽くしていく。
「この熱は……すごいね。すべてを拒絶するようだ」
　しあわせの王子さまは嘆息するように、黄金を捧げ続ける。両者共に攻撃も防御も回避もなく、黄金の圧力と熱と呪詛の圧力のぶつかり合いがその空間を支配する。
　すべてを埋め尽くし斬り裂く黄金の花びらの舞と、総てを焼き尽くす熱の地獄。凄まじい空間のぶつかり合いは総じて、膨大な「虞」と黄金を削り、強いては骸魂の力も削いでいく。
「呪術はかけておいたが、きついか……」
　一応味方に遮断と減衰の呪術によって熱が届かぬようにはしておいたが、あまりの熱に廃駅が融解しそうになる。口惜しいが、やりすぎればしあわせの王子さまが持たなくなると、謡は熱波を止める。
　それに大いに力を削いだとなれば、追撃の猟兵の一手にて、しあわせの王子さまを倒す王手となりうるだろう。そう想像して、煉獄の魔王と化した謡は薄く微笑む。

「自らを犠牲として、世界を救おうとするその覚悟。俺たちもその覚悟に応えなくちゃな」
　そして謡の期待と、しあわせの王子さまの覚悟に応えるべく、アイン・セラフィナイト（全智の蒐集者・f15171）が熱冷めやらぬ前線へと姿を現す。
　大人びた幼い精霊術士ではあるが、その「虞」に反応してか真の姿へと変貌する。一回り成長した、大人の姿。そして魔力量も表情の余裕も桁違いに成長したアインであった。
「英雄の弓矢、煉獄の火炎、その次はどう応えてくれるんだい、猟兵さん」
　それは期待にも満ちた言葉であったのだろう。しあわせの王子さまは黄金を捧げ、再び空間を埋め尽くす花びらを回させる。
「……それなら、俺も全力を以て貴方を討ち倒そう」
　それに対してアインは極光の如き輝きを放つ鴉羽の嵐『暁ノ鴉羽』を周囲に拡散させて、自身の魔力を纏わせる。それによって相殺を狙うが、やはり完全に拮抗することはできない。
「深青を摩す炎天、孤剣刻む退廃の疵、地を這う星火の兆しは此処に―――！」
　勿論アインもユーベルコード相手にまともに防御できるとは思っていない。それはこの術式の時間稼ぎでもあった。
　術式「終焉を告げろ、再誕の祖よ（イフリート・フレア）」を発動させるアイン。無数の超巨大な金炎球が発生し、己の意志を反映させるイフリートの力を身近に感じさせる真の姿たる自分を頼もしく思う。
「イフリート、全てを焼き滅ぼせ！」
　花びらを、金火球によって焼却していき、次々と襲い掛かってくる王子さまの「虞」の化身の対処法とする。外れた火球が地面へと突き刺さり、炎の不死鳥を喚ぶ魔法陣を刻み、それを束ねていく。
　圧倒的な炎の束のなった魔力の奔流をアインは操って一気に花びらを蒸発させていく。それによって強大な「虞」も霧散していくようだった。
「その役目、とても素晴らしいものだ。けれど……けれど、救われた世界を見る役目もまた貴方に存在するはずだ。諦めちゃいけない」
　それは奮闘するしあわせの王子さまに対するアインのエールそのものであった。その尊い役割を果たそうとする行為は理解できる。
　だがそれが犠牲になろうとする行為であってはならないはずだからだ。アインをはじめとして、猟兵達は最初から西洋親分の死を望んではいない。
「俺たちが死なせない。絶対に、全ての妖怪を元に」
「猟兵さん……」
　そのアインの言葉に嘘偽りはない。そう感じたしあわせの王子さまは揺れる。だがここで膝を突くわけにいかないと、骸魂をもねじ伏せて「虞」を放ち続ける。
　だが膨大な力も大いに削られて底を感じさせるものになっていた。そしてそれを見たシズホ・トヒソズマ（因果応報マスクドM・f04564）はチャンスを見逃すはずもない。
「真の姿を晒せる……なら、いつもより更に全開でやらせて貰いましょうか！」
　普段は現地の人間に取り付いた状態で参戦するヒーローマスクではあるが、今回はマスクのみで参戦している。その理由はただ一つ、能力「幻影装身（アームドオブリビオン・ミラージュ）」を発動させて取り付くからだ。
　西洋親分が放つ「虞」は倒してきたオブリビオンの幻影をより現実へと具現化させる力をシズホに与えていた。帝竜カダスフィアの幻影を纏うだけでなく、擬人化した竜女のような実態にしそれにマスク本体を装着し、幻影を肉体として動かせるようにしていく。
「これが幻影装身の限界解除使用真の姿です！」
　シズホは己が発揮できる限界を超えた力に奮い立つが、それでもしあわせの王子さまは包み込むような笑顔を浮かべる。まるでその強大な力を受け止め、さらには破壊して欲しいと懇願するようであったかもしれない。
　だがシズホもそうはさせない。彼女もまた骸魂を討つべく行動を開始するが、黄金の輝きを解放して戦場を包み込むしあわせの王子さま。
「させませんよ！　チェスゴーレム！」
　だが相手の輝きを警戒していたシズホは、先んじて用意していたチェスゴーレムを王子さまの周りに召喚させる。そのカダスフィアの力を存分に使った魔力の籠ったゴーレムは隙間なく取り囲み、光を圧し潰して遮っていく。
　しかしシズホは楽観はしていない。光は戦場へと及び、いずれはこちらを包み込んでいくと読んで、ゴーレムが破壊される前に騎乗機械変形人形『ライダ』を呼びつける。
「ライダ！　ドリルチェンジ！」
　そして戦場に光が満ちる前にドリル車両に変形させたライダに騎乗するシズホ。そのまま地面に潜って幸運を奪取されることを回避する。
　姿の見えなくなったシズホに「虞」が緩み、光が収束していくが、シズホは緩めることはない。再びカダスフィアの力を使い、大地を操作して、地面に括りつけるようにしあわせの王子さまを拘束する。
「これは……」
「このドリルでその骸魂を貫きますよ！」
　シズホは地面を勢いよく掘り進め、ついにはその黄金の身体に激突するように躍り出てくる。ライダのドリルにカダスフィアの大地の操作で螺旋力に破壊力を齎した攻撃が突き刺さる。
　黄金が飛び散り、しあわせの王子さまの口からは吐血が溢れる。そしてその「虞」が収束していき、その膝がついに大地へと突く。

「……滅んでいない？」
　その事実にしあわせの王子さまは怪訝な表情を浮かべる。それは猟兵達が体内にある骸魂を攻撃し続けた結果であった。
　結果的に黄金の身体はいくらかは削れたものの、しあわせの王子さまの生命はまだ脈動していた。そしてその事実を一番喜んだのは、相棒であり黄金を運んでいたツバメであった。
「……僕の期待以上だったよ、猟兵さん。君達ならきっと……」
　そう言って微笑みを浮かべるしあわせの王子さまは眩いほどであった。それは数多の妖怪から慕われると言われる西洋親分の本領であったかもしれない。
　そして膨大な「虞」を克服し、大祓骸魂への道へと繋がる黄金を手に入れた猟兵達は前へと進む。かの親分の期待を裏切らない為にも、戦い続けるのだと誓って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2021年05月15日