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大祓百鬼夜行⑮〜幸福の化身

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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#大祓百鬼夜行


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●幸せ? 施合わせ? 死逢わせ?
 王子さまはとても幸福だった。その黄金の体から金箔が剥がれ落ちようと、宝石の瞳が抜け落ちても、人々の幸せが王子様にとっての幸せとなる。だが今のカクリヨファンタズムはどうだろう。虞に満ち溢れ、住民は躯魂に呑まれていく。この惨事をとても見過ごせはしない。
「ツバメさん、黄金を持っていっておくれ。僕は、猟兵達と殺し合わねばならない。僕達『親分』が全力で戦い、そして倒されれば、大祓骸魂が放つ圧倒的な虞も幾らか和らぐ。それが、大祓骸魂に続く雲の道を作る為の必須条件なんだ」
 王子さまは笑わない。だってその身は鉄だもの。だけど鉛の心臓は動いている。誰かの為に、みんなの為に、不幸なものが居なくなる日まで、王子さまの心は砕けない。ツバメがまた一枚、王子さまの体から金箔を剥がし羽搏いてゆく。
 噫、なんて清らかなこころなのだろう。己の全てを投げ打って、施しと希望を与える王子さま。死など恐れない、真に懼れるべきは強きこころが折れてしまうこと。夢を諦め、希望を捨て、未来に期待しなくなること。それだけはあってはならない。
「……頼んだよ、ツバメさん。もし僕が死んだなら、雲の道を繋ぐ役目は君にお願いしたいな」
 UDCアース・忘れられたものたちの終着駅にて、王子さまは一人ごちる。雲の道の先へ、どうか歩んで行ってくれと願いながら……。

●グリモアベースにて
 じっと目を瞑り、猟兵が集まるのを待った。幾人か集ったところで瞼を上げ、全員の顔を見遣る。みな真剣だ。そりゃそうだろう、なんといっても初の『親分』戦だ。緊張や本気なのは当然と言える。天帝峰・クーラカンリ(哀を背にして・f27935)はそんな猟兵たちを前にして作戦の概要を話し出す。
「西洋親分への路が開かれた。彼の名は『しあわせな王子さま』、逸話を聞いたことがある者も居るかもしれんな。此度の相手となる王子さまだが、骸魂の影響を抑え込んだ『黄金形態』と、意識を奪われた『骸蝕形態』の二つの状態で戦んでくる。私の予知に引っかかったのは骸蝕形態だな」
 しあわせな王子さまはあくまでも骸魂にその身を乗っ取られているに過ぎない。何度か倒せば救出することが出来る。この慈悲深い王子さまを、どうか救って欲しいとクーラカンリは猟兵に頼んだ。
「彼の膨大な虞の影響で、こちらは窮地になくても真の姿となって戦う事が可能になっている。そこが攻略の鍵となるだろう。骸蝕形態の王子さまは理性が崩壊していて、黄金の剥がれた自身の肉体を駆使した戦法のようだ」
 西洋妖怪の大親分。周囲に幸福をもたらす妖怪として多くの妖怪達に慕われて来た、愛し愛される王子さま。そんな彼のこころを解き放ってくれと告げて、クーラカンリは幽世へ猟兵を導く――。


まなづる牡丹
 オープニングを読んでいただきありがとうございます、まなづる牡丹です。こちらは戦争シナリオにつき、1章で完結致します。

●シナリオ補足
 本シナリオの敵である『しあわせの王子さま』は骸蝕形態です。『黄金形態』とは使用技が違うのでご注意下さい。

●プレイングボーナス
 ……真の姿を晒して戦う(🔴は不要)。
 真の姿イラストはお持ちでなくとも大丈夫です。真の姿イラストの所持・未所持に関わらず、容姿(戦闘スタイルやスタンスが変わる方はそちらも)を記入して下さいますと大変に執筆が捗ります。

●プレイング送信タイミングについて
 5月12日8時31分よりプレイングを受け付けます。断章はありません。
 執筆は先着順でなく、書けた方から提出を予定しています。失敗判定なプレイングは不採用とさせて頂きます。
 即日リプレイ返却ではありません。期間いっぱいまでお時間を頂く場合がございますのでご容赦下さい。
 (基本は全採用を目指す所存ですが、全てのプレイングの採用をお約束するものではありません。詳しくはMSページをご覧ください)

 以上。皆様のプレイングを心よりお待ちしています!
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第1章 ボス戦 『西洋親分『しあわせな王子さま』骸蝕形態』

POW   :    骸蝕石怪変
自身の【黄金の剥がれた部位 】を【異形の姿】に変形する。攻撃力・攻撃回数・射程・装甲・移動力のうち、ひとつを5倍、ひとつを半分にする。
SPD   :    部位崩壊弾
レベル分の1秒で【切り離した体の部位(遠隔操作可能) 】を発射できる。
WIZ   :    崩落の呪い
攻撃が命中した対象に【崩落の呪い 】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【対象の皮膚や装甲が剥がれ落ちること】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

オスカー・ローレスト
【羊と雀】

(表紙に小鳥が描かれた、一冊の童話集が浮く。中は赤文字で上から悲劇的なものに書き換えられていたり、線で消されたりしていた。これがこの雀の真の姿である)

や、やっぱり、この赤は消えてない、か……オウガに書き込まれた、これは……

……俺は、もう、変えられないかも、だけど……王子様の結末は、まだ、決まってない……だから……ハッピーエンドで終わらせられる、ように……!

【小夜啼鳥の真似事】で、王子様の黄金の剥がれた部位をを狙う、よ……(【スナイパー】使用
生えてきた茨と、【継続ダメージ】で、羊が攻撃できるよう、変化や動きを阻害する、よ。
こ、この姿でも、疑似生命には違いないから、血は、出ると思う……


蝶ヶ崎・羊
【羊と雀】
『………アなたガそれヲ望むのナら…オスカーさん、出来ルだけ…痛みのないヨウに終わらせましょう』
外装はひび割れてこぼれ落ちて、赤には程遠い黒い液体が流れ出た化物…それでも俺は貴方を助けます

『オスカーさん…エエ、そうデすね。こんな素敵ナ王子さんには、パッピーエンドでナくてハ』

オスカーさんとワタシに攻撃が来れば【武器受け】か【オーラ防御】で守ります
オスカーさんが行動を阻害すれば即座に近づきUCを叩き込みます
そして至近距離から雷の【属性攻撃】を打ち込みます

『貴方ハ…絶対に壊シませン…ワタシ達が、元に戻シます!壊すだけノあの時とハ違います!』
壊すだけの…?思い出せませんが今は集中します




 王子さまはとても幸せ。だってこんなに沢山の猟兵が、カクリヨファンタズムを救おうとしてくれている。例えその過程で己がどんな目に遭ったって構わない。王子さまはこの世界と、ここの住民を愛しているから。故に、遠慮はいらない。噫、勇敢な王子さま。骸蝕されようとも想いはひとつ。
『僕を、壊して』
 その悲痛な声にならない叫びを受け取ったオスカー・ローレスト(小さくとも奮う者・f19434)と蝶ヶ崎・羊(罪歌の歌箱・f01975)は、秘められし真の姿を解放する。この姿は、本当はあまり晒したくない。しかし王子さまの覚悟に対してこちらも全力で挑むのが礼儀というもの。
 表紙に小鳥が描かれた、一冊の童話集が宙に浮く。開かれた中は赤い文字で、内容を上から悲劇的なものに書き換えられていたり、線で消されていたりした。雀の物語はめちゃくちゃに荒らされて、それでもオスカーは不思議と冷静だった。ある程度、予想通り、覚悟していたこと。
「や、やっぱり、この赤は消えてない、か……オウガに書き込まれた、これは……」
「イイのデすよ、オスカーさん。貴方ノ姿は、とてモ貴方ラしい。是非読んでミたいですガ……今は王子さまを助けマしょう」
「羊、は……あ」
 本となったオスカー、目はどこにあるかと言えば表紙の小鳥だ。羊を見れば彼もまた姿を変えていて。外装はひび割れ零れ落ち、赤には程遠い黒い液体が流れ出たヒトガタの化け物。襤褸の外套の内に隠すは何ぞや。
「こんな身の俺ですが、それでも貴方を助けます。心優シい王子さま」
『ああ、君たちは醜いね。僕と同じだ。可哀想に、今壊してあげるよ!』
 勿論これは王子さまの言葉ではない。憑りついた骸魂が王子さまを通じて発しているのだ。王子さまはそんなことを望んだりしない。二人はそれが分かっているから、怒りや怯みはしない!
 身に纏う黄金の剥がれた部位を、異形の形に変形させた王子さま。この形は……パン? 嗚呼そうだ、王子さまは今日の食べ物にも困る家に金箔を配ったのだった。屹度、その思い出を、例え意識を奪われていようとも肉体が覚えている。
 ガチガチの鉄で出来たパン、一見接近戦向きかと思いきや……グォっと巨大・長大化して真っ直ぐオスカー目掛けて貫こうとする! バゲットのように切れ込みの入ったその部位は、移動を制限させたが王子さまは気にも留めない。ただ何処までも追尾して、殺す。明確な殺意の塊。
 オスカーへの攻撃を、素早く前に出た羊が受け止める! 弾くために取り出したC.Cからびりびりと伝わってくる強烈な一撃。オーラで守っていなければ折れていたかもしれない。
「……俺は、もう、変えられないかも、だけど……王子様の結末は、まだ、決まってない……だから……ハッピーエンドで終わらせられる、ように……!」
「オスカーさん……エエ、そうデすね。こんな素敵ナ王子さんには、ハッピーエンドでナくてハ」
『ハッピーエンドなんて、夢物語。そんなもの本当にあるって信じているのかい? 良いから壊れろ、壊れ……こ、わ……シテ……!』
 王子様は裡で必死に骸魂と戦っている。『壊して』、それは王子さまの願い。この邪悪なる魂を、どうか。
「……アなたガそれヲ望むのナら……オスカーさん、出来ルだけ……痛みのないヨウに終わらせましょう」
「……やろう。俺達はその為に、ここに、いる。夢物語だって、信じなきゃ実現しない、んだ……!」
 本となったオスカーからぶしゃっと赤くて腥い液体が溢れ出る。まるで生き物のように。それもそうだ、この姿でも疑似生命には違いない。だからこんな芸当も出来る――流れ出た血を代償に、本の頁が捲られた先に描かれたクロスボウが具現化する! それは赤い薔薇が絡む、木属性の矢を放つ洋弓銃。血が付着しているのはご愛嬌。
 洋弓銃で王子さまの黄金が剥がれた部位を狙う。みすぼらしい姿、鉄が剥き出しのところなど幾らでもある。加えて今の王子さまは機動力を失っている。当てるだけなら造作もない。ガッと突き刺さった矢からみるみる内に茨が生え、棘によるダメージと動きを絡めとる。
『くっ……邪魔な草だ……!』
「羊!」
「お任せ下さイ」
 動きの鈍った王子さまの鉄のパンを避けながら急接近したオスカー。即座に回し蹴りを叩き込む! 勿論唯の蹴りじゃない。オーラを纏わせ、強度と威力の増大した足技だ。そしてぐらりと揺らめいた王子さまに追撃の雷を打ち込む!! それでなくとも金属製の王子様は雷を通しやすく、更に巻き付いた茨の中の水分で効果は抜群!
「貴方ハ……絶対に壊シませン……ワタシ達が、元に戻シます! 壊すだけノあの時とハ違います!」
 羊は自分でも何を言ったのか一瞬戸惑った。壊すだけの……? わからない、思い出せない。兎に角今は集中しなければ。目の前の王子さまは相応のダメージを負ったようだが、まだ倒れてはいない。
「羊、まだいける、よね?」
「ハイ。オスカーさんこそ、出血量は大丈夫ですカ?」
「多分」
『ああ。ああ! いいね、いいよ。アハハッ、さぁ、僕を壊してみなよ! 幸せになりたいならさぁ!』
 欠けた瞳で二人を睨みつける王子さま。その心臓はまだ砕けていない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナミル・タグイール
でっかい金ぴか像にゃー!ナミルが貰うデスにゃ!(飛びつき猫)

なんかめっちゃ力が湧いてくるにゃ!お宝パワーにゃ!?
(呪詛と欲望が膨れ上がってフルパワーにゃー!体も膨らんで真の姿にゃ!)
これなら絶対負けないにゃー!金ぴか全部ナミルのにゃ!

ぎにゃー!なんか気持ち悪くなってるにゃー!
こんな部分いらないにゃ!爪でザクーにゃカットにゃ!
反撃なんてしらないにゃ!ナミルの金ぴかから離れろデスにゃー!

真の姿パワーとUCで回復しまくって捨て身ゴリ押しにゃ!
呪詛を纏って強化あんどダメージにゃー!
金ぴかじゃない気持ち悪い部分は全部ちぎって綺麗な金ぴかだけにしてやるマスにゃ!
金ぴか以外はいらないにゃー!




 金ぴか、というには少々襤褸い気もするが、ナミル・タグイール(呪飾獣・f00003)にとっては些細なこと。この世にある金という金を持って行かなくては。そして目の前には金箔を落とす王子さま、ひらりと剥がれ落ちるひと欠片すら勿体ない! 王子さまに飛びついた。驚く王子さまと、同じく驚くナミル。
「でっかい金ぴか像にゃー!ナミルが貰うデスにゃ! んにゃっ!? なんかめっちゃ力が湧いてくるにゃ! お宝パワーにゃ!?」
『それが……君の真の姿か。ははは、膨れ上がって。成金みたいに肥えたのかい?』
 揶揄う王子の言葉は一言も耳に入ってこない。いやだって、なにこれ。溢れ出る力は暴走こそしないものの、金を求めて手が伸びる。呪詛と欲望が混ざり合い肥大化したフルパワー形態、これなら絶対に負けないと確信出来る。
 ナミルを振り払おうと、王子さまは金箔の剥がれた部位を異形に変えた。この形は……水飛沫? 荒波のようなギザギザとした部位で薙ぎ払う! 引っ付いていたのでダイレクトにダメージを喰らいナミルは吹っ飛んだ。
「ぎにゃー! なんか気持ち悪くなってるにゃー! こんな部分いらないにゃ!! ナミルの金ぴかから離れろデスにゃー!!」
 反撃されようとお構いなし。呪詛の毛皮を纏ったナミルを止められるのは、大量の金だけだろう。いや、在ればある程欲望は増えるか。王子さまは何度攻撃しようとも喰らい付いてくる敵に困惑した。何故って、どういう絡繰りかは知らないが、攻撃すればするほど、ナミルの身体は傷が回復し大きくなってゆく。
 黒い毛並みに輝く金の爪。そこに宿すは際限のない呪詛、そして強欲だの金欲だの食欲だの挙げだしたらキリがない欲望。いつの間にかナミルの身体は王子さまの何倍にも大きくなっていた。
「全部ゼンブ寄越せにゃ! 金ぴか以外はいらないにゃー!」
『醜悪だね。金、金、金……お金に困っているわけでもないくせに。ああ、醜いみにくいミニクイ!! 消えろッ!』
「うるさいデスにゃー! そっちこそ金ぴか置いてけなのにゃ!!」
 片目の宝石には興味なく、ただただ求めるは金のみ。王子さまはどうしたら良いか迷った。攻撃すればナミルが強化され、また金箔が剥がされる。しかしただ大人しくしていても金箔は剥がされる。どっちに転んでも結末が同じなら……抵抗するに決まってる!
 新たに生まれた剥き出しの鉄から、更なる異形と化す王子さま。美しかった姿はどんどんと憐れな姿へと変わっていく。物語は最初から決まっているのだ。ナミルはそんな部位を千切っては投げの繰り返し。どうしても譲れない戦いが此処にある。
「綺麗な金ぴかだけにしてやるマスにゃ! 幸福を呼ぶご利益の黄金像として飾っておくのにゃー!!」
『そんなこと、させるものか。この躰は……渡さない!』
 それは王子さまではなく、憑りついた骸魂の叫び。お持ち帰りされてたまるかと、必死に抵抗を続けた。血と抜け毛と鉄片が辺りに散らばる――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

地籠・凌牙
【アドリブ連携歓迎】
真の姿:黒髪蒼眼、羽根と尻尾が生え両腕が完全に竜化。上半身は黒い靄を纏っています。

本当に立派な『親分』だよ、あんたは。
全力で戦わせてもらうぜ。それが俺ができるあんたへの敬意の示し方だ。
その上でその骸魂を引っ剥がす!

『穢れを喰らう黒き竜性』で周りの穢れを吸い取ってこちらへ【おびき寄せ】、俺に攻撃が及びやすいようにしておくぜ。
一緒に呪いを吸っても【呪詛耐性】がある。
【見切り・第六感】で致命傷だけ回避、そこから【ダッシュ】で【捨て身の一撃】、【怪力】を込めた【指定UC】で思い切りぶん殴る!
【気合・激痛耐性・継戦能力】全部使って踏ん張ってでも、この一撃を当てるまでは倒れてやらねえ!




 王子さまは泣いていた。勿論鉄の身体にそんなものはないし、骸魂に乗っ取られている今は尚のこと。こころの中でしくしく、しくしく。王子さまは猟兵に願った。
『ぐっ、ア……カクリヨファンタズムを、救ってくれ。僕はどうなっても……う、あああ!』
「本当に立派な『親分』だよ、あんたは。だからこそ全力で戦わせてもらうぜ。それが俺ができる、あんたへの敬意の示し方だ」
 ぶわっと風が舞う。湧き上がる力は白き髪を黒に染め、翆の瞳は蒼へと変わる。右頬の鱗はそのままに、竜の翼と尾が生えた地籠・凌牙(黒き竜の報讐者・f26317)は、完全に竜化した両腕を広げた。上半身に纏った靄が王子さまに向かう。
 唯の靄と侮るなかれ。これは紛れもない覇気、凌牙にしか使えない固有能力。不運と呪いの原因となる穢れを喰らい、自らの力に変換する。此処には幸か不幸か、穢れに満ちている。王子さまに憑りついた骸魂は引き寄せられそうになるのを必死で耐えるが、そうは言っても唯々黙っているわけもない。
『君から始末してあげるよ』
 金箔の剥げた剣が異形へと変じた。あの美しく細いフォルムは消え、今は先端に巨大な玄翁を携えた槌となった剣を振り回し、凌牙の脳天に狙いを定め振り下ろす! 穢れを吸ったということは呪いも同じだけ吸われたはず、凌牙には不幸が降りかかるはずだと――結論から言えば、王子様の目論見は外れた。凌牙は人間離れした呪詛への耐性を持つ。平常時なら万一もあるかもしれないが、真の姿を解放した今、不幸に屈するなど万に一つもありえない!
 ズシャァッと音を立てて後退し、槌の一撃を躱したならば、今度はこちらの番。ダッシュで詰め寄って、怪力任せの捨て身の一撃を繰り出す! 思い切りぶん殴られた王子さまはよろめいた。同時に内側から穢れ……骸魂が薄まっていくのを感じる。
『これ、は……? ああ、面倒くさい。君は僕の邪魔だ。壊れろ、壊れろ、穢れに飲み込まれてしまえ!』
「うるせぇ! 王子さまは絶対に助ける。骸魂なんかにゃ渡さねぇ!」
 槌が凌牙の骨を砕く。気合やらなんやらを総動員して激痛に耐えた。こんなところで倒れていられない。骸魂と戦っているのは凌牙だけじゃない、王子さまも同じなのだ。二つの世界をかけた戦いに、撤退の二文字はない!
 振り回された槌、重みからか攻撃後に一瞬隙が出来る。そのタイミングを見計らって槌を引っ掴み、踏ん張って逆に引き寄せた。ぐいっと前のめりになる王子さまに、再び拳を突き入れる!
「何度でもやってやるよ、王子さま。この腕があんたを助けるまでは、絶対に倒れてやらねぇ!」
『そんなに大切なのかい? この『王子さま』が。それなのに殴りつけて、ははは、きっといつか砕けるかもしれないな! そしたら君はどんな顔をするんだい?』
「黙ってな。穢れは祓う、王子さまは助かる。こいつぁそういう物語だぜ」
 拳と槌の殴り合いはまだ続く――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クレア・オルティス
希望は捨ててはいけない
大丈夫、二つの世界も元のあなたも救う…!
絶対に死なせないから…!

ぐ…にしてもなんて強い…話もできそうにない
ならば今こそ…私の本当の姿(真の姿)で戦う…!
きっと私の背中には…人々を救い、幸せにできる天使と同じ白い翼があるんだ
実際背中に生えたのは血に濡れた禍々しい漆黒の悪魔の翼(戦闘中は気づずかず。性格変わらず)
深手を負っても救うと誓ったからには…負けない
さあお眠りなさい【指定UC】
白き薔薇の揺り籠で生まれたての赤子のように
痛みも恐怖も感じることもなく安らかに



ふと自分の真の姿を目にする
ずっと抱き続けていた希望が音もなく崩れ落ち、心が砕け、涙が頬をつたう
私は
天使になれない




 UDCアースとカクリヨファンタズムの命運を賭けた戦い。妖怪達は蝕まれ、怯え、苦しみ、現実はゆっくりと怪異が広がる。放っておいては双方の世界だけでなく、もっと被害は広がるかもしれない。だから、ここで退くわけにはいかない。希望は、最後まで捨ててはいけない。
「大丈夫、二つの世界も元のあなたも救う……! 絶対に死なせないから……!」
『救う? つまらない冗談だ。この王子さまはね、自らこの身を差し出したんだ。今はもう『僕』のものだよ』
 内に潜む骸魂は気付いていない。親分はじめ、様々な妖怪があえて大祓骸魂の軍門に降ることで猟兵に認識され、そのまま戦えるということを。どんなに痛かろうと、辛かろうと、覚悟を決めた者たちのお陰で骸魂どもは追い込まれていることを。
 その覚悟を無駄にしない為に、クレア・オルティス(天使になりたい悪魔の子・f20600)は金箔が剥がれ、一部壊れた王子さまと戦う。クレアの純粋な瞳が気に食わないのか、王子さまは躰を異形に変えて襲い掛かる! バシっと強烈な一撃で吹き飛び、壁に打ち付けられた背中が痛い。
「ぐ……なんて強い……話もできそうにない……ならば今こそ……私の本当の姿で戦う……!」
 王子さまがそうしたように、クレアも覚悟を決めて祈った。きっと自分の背中には、人々を救い幸せにできる天使と同じ白き翼があると信じて。しかし、現実は非情だ。実際に背に生えたのは血に濡れた禍々しい漆黒の悪魔の翼。それに気付かぬまま、羽搏いて王子さまへ詰め寄る! 深手を負っても救うと誓ったからには……負けない!
「さぁ、お眠りなさい」
『!? ――薔薇?』
 純白の薔薇の揺り籠で、生まれたての赤子のように。痛みも恐怖も感じることなく安らかに。甘い香りが戦場に満ちる。花吹雪に撒かれた王子さまは、纏わりつく花弁と眠気に抗いながら必死にクレアを攻撃する。それでも終わらない華の舞に、苛々した様子で……己の身体を攻撃した!
「!?」
『はは……ああ、良いね。危うく眠ってしまいそうだったよ。さしずめ君は眠り誘う悪魔かな?』
「え……?」
 嘲笑にふと自分の姿を確認する。衣服は変わっていない、意識だって自分のままだ。それなのに、悪魔? クレアは背の翼に触れた。ぬるりとした液体が手に伝う。恐る恐る羽根を一枚抜き取った。ずっと抱き続け、思い描いていた希望が音もなく崩れ落ちる。白など一片もない、赤黒い羽根が全てを物語っていた。
 はらりと涙が頬を伝う。心が砕け、嘆きが津波の如く押し寄せた。
 ――私は、天使になれない。そうだね、屹度……識ってた。でも目を背けて、一筋の希望に縋ってた……。
『ねぇ。君に僕が救えるかい?』
 王子さまの声は、クレアには届かない……――。

成功 🔵​🔵​🔴​

シノギ・リンダリンダリンダ
様々な覚悟があったのでしょう
他へ己が宝を施すその精神は、大海賊として私も理解します
決死の覚悟でしたのでしょうが、どうやら猟兵というのはハッピーエンドを好むものみたいです
お前の覚悟を踏みにじるようで申し訳ないのですが、救われてください

真の姿はドールとしてのガワを捨て様々な呪詛と黄金の星々で構成された宇宙のような霧のヒトガタ
理性を持って【憤怒の海賊】を解放できる姿

どんな攻撃が来ようと略奪し、呪詛として取り込み力とする
どんな呪詛が来ようと略奪し、より強大な呪詛とする

黄金が剥がれた部位を黄金化させ、霧の刃で削る
内から毒が呪いが蝕み恐怖を与える
全てを蹂躙して、殺して、生かす

さぁ、海賊の時間ですよ




「様々な覚悟があったのでしょう。他へ己が宝を施すその精神は、大海賊として私も理解します」
『覚悟? あはは、なんだいそれは? この王子さまのことを言ってるの?』
 応える返事は王子さまではなく骸魂のもの。意識は奪われ、必死に抵抗しているのを嘲るように、王子様は笑う。その笑みにシノギ・リンダリンダリンダ(強欲の溟海・f03214)は強烈な怒りと違和感を覚えた。この感じは、そう――強がりだ。
「決死の覚悟でしたのでしょうが、どうやら猟兵というのはハッピーエンドを好むものみたいです。お前の覚悟を踏みにじるようで申し訳ないのですが、救われてください」
『救ってみなよ、略奪者』
 挑発には敢えてノる。売られた喧嘩は言い値で買って百万倍にして返すもの。シノギはミレナリィドールとしてのガワを捨て、様々な呪詛と黄金の星々で構成された霧となる。それは例えるならばヒトガタの宇宙。呪詛と強欲と黄金で構成された、死霊海賊の王のお出ましだ。
 普段なら到底成れやしない。何故って、この姿は常時理性を喪失するからだ。平常時にやろうものなら数分と持たず発狂してしまう。だが真の姿となったシノギには関係ない。この姿は最早狂れている。人ならざる理解不能な存在。
「ああ、久しぶりですね、この感覚。今なら何でも出来そうです……お前を救ってみせるとかね」
 王子さまは身体の部位を自ら砕き、弾丸としてシノギに差し向けた。たっぷりと詰まった呪詛、怨念、執着、欲望。僅かに垣間見える煌めきは希望か祈りか。どんな攻撃であろうとシノギは受け止めた。
 どんな攻撃が来ようと略奪し、呪詛として取り込み力とする。どんな呪詛が来ようと略奪し、より強大な呪詛とする。溜め込まれていく呪詛はシノギの身体から宇宙色の霧を生み出した。腐敗と猛毒に黄金化のオマケがついた濃霧が王子さまを包み込む。
『なんだっ、この霧は……!?』
「なんでしょうね。なんだと思いますか?」
 茶化しながらもじっくりと王子さまを侵食する霧。金箔が剥がれた部位を黄金化させ、霧の刃で削り取る! 金箔という表皮だけではない、身そのものが抉られる痛みに王子さまは悶えた。剥き出しの内部を毒と呪いが蝕んでいくのが分かる。笑みは消え、恐怖の表情へ揺らぐ。もう繕えない、この躰はもう……。
「どうですか、キくでしょう、これ。痛いですか? 苦しいですか? 怖いですか? 救ってあげますよ、ええ。海賊は任侠商売、二言はありません」
『是ほど壊して、侵しておきながら! ご高説ありがとう』
 全てを蹂躙して、殺して、生かす。最早王子さまは限界だ。ほらね、と無貌のヒトガタが笑う。王子さまの覚悟に対する最大限の敬意と、その黄金に免じて。
「さぁ、海賊の時間ですよ」

 ――彼はしあわせな王子さま。施した末に待っているのが略奪だなんて、一見酷い話に聞こえるけれど、真相は真逆だ。間違いなく、王子さまはしあわせだった。かつて人々を助け、今は未来に希望を繋いだ。だからこれで良い。
『――ツバメさん、僕は――』
 最後に王子さまが何を呟いたかは、其処にいた猟兵のみぞ知る――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月16日


挿絵イラスト