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大祓百鬼夜行⑪〜綾糸隘路

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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#カクリヨファンタズム
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#大祓百鬼夜行


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●御直し、いたします
 世界の崩落する兆しが曇天を紫紺に染め上げていた。
 ここはカクリヨファンタズム。百鬼夜行の行軍が傷痕となり、綻びんとする世界の端の端。
 遠く低く雷鳴が空気を震わせる宵の口、ぽつんと佇むバス停に集った一同の目には、己が国を救う一助となる決意が煌々と燈っているのだった――。

「「「ぬいぃーーーーー!!!」」」

 つるんとしたフォルムの滑らかな茶色い毛皮。
 胴長の短手短足。
 いつも振るう鎌を捨て、小さな前肢に針と糸巻を握った彼らはそう、俗に言う鎌鼬三兄弟と称される妖怪の成れの果て。
 ……が、複数組。
 わちゃわちゃと、バス停からはみ出さぬよう押し合い圧し合い『世界のほつれ』行きのバスを待っている理由は当然、我らこそがほつれを縫い合わせるのだと意気込みからである。
 物理的に縫えるものなのかはさておき、現場に辿り着けたならば世界が傷付き綻びるのを妖怪パワーで食い止められるはずなのだ。

 けれど、彼らはまだ知らない。

「「「ぬぃぃぃぃぃ?!!ぬっ ぬぅぅぅぅ!!」」」
 進む道は細く狭く、更には大きな地震にも襲われ、罅割れて鳴動する大地はバスを突き上げ小船の様に乗客を翻弄することを。
 座席から投げ出される鎌鼬の数は数知れず、糸巻は緩んで外れてこんがらかって、バスの中でイタチと解けてしまった綾糸は仲良く一緒にミックスされて。
 逃げようったって道の前後は崩れてしまっていて。

●御直し、してくださいます?
「――こうして。できあがったイタチ団子は悲しくも、世界を縫い合わせる機会を永遠に失い。哀れな鳴き声が車の中で響き続けるのでした」
 予見を書き記した本をそっと閉じて、朗読を終えたイディ・ナシュ(廻宵話・f00651)は顔を上げた。
「猟兵様方におかれましては、戦争へのご尽力大変お疲れ様でございます」
 深々と頭を下げ、そして続けるのはまた一つ頼まれ事を引き受けて頂けませんかという問い掛けだ。
 大祓骸魂の軍門にくだり、身を挺して世界を守ろうとする妖怪達の起こした大祓百鬼夜行。その余波でこの世界には、『世界のほつれ』と呼ばれる傷が広がろうとしていた。
 これを見兼ねたのが世界のほつれを修正する『お裁縫妖怪』と呼ばれる住人達だが、目的地へと向かう妖怪バスは大地震に巻き込まれてしまう未来が待っているのだ。
「なにぶん、猫ぐらいの体長の小さな妖怪の集団ですので……。揺れで座席から放り出されてしまったり、気の小さい個体はパニックを起こしてしまったりと収集のつかない事態に陥ってしまうようなのです」

 そこで猟兵達に、鎌鼬をありとあらゆる困難から守って欲しいのだと。グリモアを掲げた女が一同を見渡す。
 鎌鼬たちが転ばないように抱えて守るもよし、安心させるように語り掛けるもよし。いっそバスの運転を代わり類稀なドライブテクニックで踏破してみても、ユーベルコードを駆使して地震を止めようとするのも良い考えだろう。
「皆、命を賭して世界を守ろうとするもの達です。どうか、皆様のご尽力を――」
 よろしくお願い致します。
 再度深く女が頭を下げると同時、幽世への道は開かれ始めた。


白日
 お目通し頂き有難うございます。
 白日(しらくさ)と申します。

 お久しぶりの戦争参加となります。
 今回はカクリヨファンタズムでの冒険シナリオ、「お裁縫妖怪」を地震から守って「世界のほころび」をなんとかしよう!という冒険シナリオとなります。

●バスに鎌鼬の集団と一緒に乗り込み、地震が起こる地点よりの開始となります。
 UCの有無は問いません、行動もご自由にどうぞ。

●プレイングボーナス
「妖怪バスとお裁縫妖怪を、危険から守る」です。

 シナリオが公開となりました時点より、プレイングを募集いたします。断章は入りませんので待たずに送ってくださって大丈夫です。シナリオの成功(失敗)条件が達成された時点で受付終了とし、そこまでにお預かりしたプレイングから執筆させて頂きます。
 全員描写のお約束はできませんが、可能な限り採用させて頂けるよう頑張ります。
 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『妖怪バスでほつれに向かえ』

POW   :    肉体や気合いで苦難を乗り越える

SPD   :    速さや技量で苦難を乗り越える

WIZ   :    魔力や賢さで苦難を乗り越える

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●われら、縫えんじゃーず!!

 ざざっ、と、大真面目にバス停で列を作るお裁縫妖怪、鎌鼬。
 一寸法師みたいに、針はお腰に。
 世界を縫う糸は、彼らと同じ薄茶の毛皮色。くるくると糸巻に括って大事に背負えばさあ、向かうは危険ばかりが待ち受ける世界のほころびへ。
 決死の覚悟と超コワイ気持ちを同時に抱えて妖怪バスを待つ彼らの最後尾へと更に並ぶもの達が居るとは、きっとこの瞬間まで夢にだって見ていなかった。

 ようこそ、ようこそ幽世の果てへ!
 猟兵達を迎える小さきものたちの歓声は、きっと起こる奇跡の予感を連れてきて。
夜刀神・鏡介
こんなちっこい奴らも世界を守ろうと立ち上がっているのか……
なら、手伝わない訳にはいかないよな

不安や恐怖は伝染するもの。まずは俺自身が落ち着いた様子を見せて、例えばパニックを起こしそうな子を支えてやったりしつつ、その上で彼らに声をかけ鼓舞する――連の型【絆魂】

もし不安になりそうなら、隣の奴と手を繋いでみるのも良いだろうと言って、自分から手を差し出す。こうやって、ちゃんと独りじゃないって事が分かれば結構落ち着けるものだろ
それに、万が一放り出されそうになっても引き止める事ができるかもしれないからな

静かになるとまたそこから恐怖が広がるかもしれないので、最後まで声は絶やさずに、彼らの気持ちを統一させよう



●りーだーしっぷ?

 世界のほころび行きのバスは、本日満員御礼。
 押しあい圧し合いひしめく車内で、生真面目に座る場所を鎌鼬に譲った夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は泰然と床の上に佇んでいた。
 わちゃわちゃと二足歩行で鏡介の周りを囲んでいるお裁縫妖怪は、鏡介の膝の高さほどしかない小さな妖怪だ。
(こんなちっこい奴らも世界を守ろうと立ち上がっているのか……)
 ある種の感嘆さえ覚えてしまう、力の大小を問わず何かを護ろうとするものたちの、そのありように。
 
 なれば、自分も手伝わない訳にはいかないと改めて助力を誓い、一際不安そうに車内をきょろきょろしていた鎌鼬へと鏡介は声を掛ける。怯えさせないように、安心感を与えられるように、いつもより少し、ゆっくりとした言葉の紡ぎ方。
「……ちゃんと掴まっていないと、転んでしまうぞ?」
「ぬぃっ?」
 自分ですか?とばかりに両の前肢で自分の顔を挟んだ鎌鼬の一匹が、頭上から掛かった声に顔を上げて鏡介を見た。
 はたしてそこに居るのはやさしい目をした青年で、鎌鼬はぱちぱちと目を瞬かせてはいるものの、堂々とした鏡介の立ち振る舞いはちゃんと頼れる誰かが近くにいるという信頼感を相対するものへと与える事に成功していた。

「大丈夫だ、バスはちゃんと進むべき道を進んで目的地に辿り着く。――だから全力で乗り越えるぞ。一緒に」
 連の型、【絆魂】――。
 ユーベルコードの温かな力が、鎌鼬たちへと浸透して行く。手を差し出して、独りじゃないと伝えるように小さな前肢をやんわりと握れば、ちょっぴり不安で曇っていた鎌鼬の目には、みるみる活力が湛えられて。
 
 鏡介の手は、選ばれし者と呼ばれ刀を振るうだけあって戦うものの力強さに満ちていた。最初に繋がれた鎌鼬は、その心強さを同胞へと伝えようとばかりにもう片方の前肢をいっぱいに伸ばして、別の鎌鼬のそれをきゅっと握る。
 そうしたら、次は繋がれたものがまた別の同胞を。鏡介を中心として次々と繋がっていく繋がりは、不安や恐怖とは対極の大きな輪だった。
 万が一放り出されそうになっても、これなら大丈夫だな。
そう言って人好きのする笑顔を見せる鏡介に吊られて、お裁縫妖怪たちも楽しげに繋いだ前肢をぶんぶんっと振り始めれば、まるで車内は遠足の前の空気のようだ。

「いい機会だ、安全に揺れる場所で立っていられる方法でも教えようか。傾く方向とは逆に重心を――」
 どうしたって揺れてしまうバスを怖がらないように、少しでも楽しく居られるようにと、鏡介は停車まで彼らに語りかけることを終ぞ止めなかった。
 
 わいわいとお喋りに夢中になった鎌鼬がそれぞれ背負った糸巻は、いつのまにか鏡介の髪の目の、纏う服の色を写し取ったような黒になる。この糸を使えばどんな怖い綻びだって直せる気がするのだと、鳴き声とジェスチャーで訴える彼らの主張は、果たして彼へと届いただろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
へえ~、これがバスってヤツなんだ。初めて乗るよ
乗り物はスキだ。風にように走ってゆける
揺れるのも結構楽しいよね

とはいえ、今は楽しんでいる場合じゃあないな
イタチ君たちが団子になってしまいそう
とりあえずひとり抱え上げ
ワー、胴がだらんって伸びる

よしよし。元気を出して、イタチ君
その長い胴を撫でてあげよう
私がこのバスを運転してやりたいトコロなんだけれど
あいにく運転免許を取得していないんだ
その上、機械を操作するのはどうやらニガテらしい
私が触るとすぐ壊れるんだよね

抱き上げて揺れから守りつつ、窓の外を一緒に見よう
ホラ、景色が流れていく。キミのおうちはどのへんなの?
こんな風に話をしていたら、気分も落ち着かないかな



●顔がまぶしい。

 車輌とは概ね乗員の快適さを重視して作られるものであったが、初めてバスというものを経験したエドガー・ブライトマン(“運命“・f21503)は、その乗り心地を正しく堪能できなかっただろう。
 なにせ、絶賛大暴れ中の大地に翻弄されるバスの揺れは、乗馬とさして変わらないレベルだったので。

「よしよし。元気を出して、イタチ君」
 二人掛けの座席の隣、ちょこんと座る鎌鼬の背があまりにも丸く縮こまっているものだから、エドガーは手を伸ばして小さな体を抱え上げる。
 だらん、ぶらん。
 鎌鼬の両腋の下を掬い上げるようにして顔の高さまで持って来れば、長い胴は見事に伸びて、後肢は白い膝を掠らんばかり。そんな細長い体躯がバスの揺れに合わせて前後左右に揺れる様は、団子からは一先ず遠退いたがトコロテンか何かのようだ。
 その伸びっぷりにワーと感嘆の声を上げつつも一先ず鎌鼬を膝の上に着地させて、ぬるんと長い胴体を白手袋に包まれた指で励ますよう撫でてやれば。
「ぬ……ぬぃ?」
 もたくたと顔を上げて、漸くエドガーの顔をまともに見上げた鎌鼬。
 彼(彼女?)はこの時になってやっと気付く事になった。

 この猟兵のひと、べらぼうに顔が良い、と。

 何せ正真正銘の王子様である。すべらかな金糸の髪、大理石を丹念に彫り上げたような白皙の肌、蒼玉を填め込んだかの瞳は優しさを湛え、身のこなしは優雅さの体現で。
 あとちょっとお花のいい匂いもしている気がする。
「あれ?イタチ君?」
 童話の王子様が抜け出してきたと言われても信じただろう容姿の相手を前にした衝撃で、ふるふる震え始める獣の体。不思議がって首を傾げたエドガーの挙動さえキラキラしたエフェクトが掛かって見えたのは吊り橋効果も相俟ってのことか。地震の恐怖が鎌鼬の頭からすっぽ抜けるのは早かった。効果はたぶん抜群だ!
 急にもじつき始めた鎌鼬の不穏な空気を聡く拾って、エドガーの左腕を悋気の棘がキリキリ刺していたかもしれない。
 ……けれどそんな微妙な薔薇色の空気にあっさり終止符を打ったのも王子様自身の声だったのだが。

 誰も居ないのにハンドルが切られている妖怪バスの運転席を目に映して、彼は言う。
「私がこのバスを運転してやりたいトコロなんだけれど、あいにく運転免許を取得していないんだ」
「ぬぃ」
「その上、機械を操作するのはどうやらニガテらしい」
「ぬ」
「私が触るとすぐ壊れるんだよね……」
「!!!!」
 どごん!とタイミング良くか悪くか一際大きく揺れたバスに飛び上がった鎌鼬が、泡を食って無免許運転駄目絶対を訴える鳴き声は最早高音すぎてピャーとしか聞こえない。
 それでも大概の動物の言わんとしている事は理解可能なエドガーなので、しないよ大丈夫と再び長い胴を持ち上げてぶらーんをしながら宥めるのであった。

 そのまま鎌鼬の体は、窓辺に軽々と寄せられて。流れる景色を共に見る頃には、浮いて落ちてを経験したカマイタチマインドは多少の事には動じない強さを得たのかもしれなかった。
「ほら、キミのおうちはどのへんなの?」
「ぬぃっ」
 ぴっと前肢で示されるのはバスの進行方向。つまりは――。
 そうか、と励ますようにまあるい頭をくりくりと撫でて、青い瞳が柔く撓む。
 顎を逸らすようにして、その双眸をじっと見上げる鎌鼬は己が持つ糸巻をエドガーの顔の前へとぴょいっと翳した。
 その瞳みたいな空の色が、幽世で取り戻せますように。意気込み籠めて、お祈りみたくふりふり糸巻を揺らせばあら不思議、巻き取られている糸は胸のすくような色に早変わり!!

 きらきらで、涼しげな、神に愛されし空の青。
 お借りします!と宣言するように鳴いた一声は、もうちっとも消沈なんてしていなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

仇死原・アンナ
アドリブ歓迎

二つの世界救う為にも…
世界のほつれ直してくれるお裁縫妖怪達を助けようね…

お裁縫妖怪達を抱っこしながらバスに乗り込み護ってあげよう
彼等に[優しく]接して心を落ち着かせよう

大丈夫…貴方達は私が護るから…ね…

窓を開けて揺れる大地を
【恐怖与える殺意の瞳】で睨みつけて
[殺気で恐怖を与えて]地震をしばらくの間止ませよう…

あぁ大丈夫だから…
ちょっと遠くを見たくなっただけだから…
あ…顔を見ないで…見たら多分…貴方達騒いじゃうから…ね…?



●ゆりかごゆらゆら。

 UDCアースとカクリヨファンタズム――表と裏、隣り合う二つの世界。
 その継ぎ目が解けてしまえば、犠牲になる命の数はきっと、処刑人として積み上げてきた咎人の数よりも遥かに多い。
 だからこそ、そんな悲劇を起こさない為に、仇死原・アンナ(炎獄の執行人あるいは焔の魔女・f09978)は幽世の果てに馳せている。

 鎌鼬と共に乗り込んだバスの中は、UDCで言う所の『通勤ラッシュ』に近い状態なのかもしれなかった。足元を小さな姿が幾つも通り過ぎて、ぐらんぐらんと常に揺れるバスの中で少しでも安全な場所を探し求めて泡を食っている。
 一際慌てたように、足元をぐるんぐるんと周回する一匹の鎌鼬の胴をアンナはひょいっと抱えて、やんわりと闇色を纏う腕の中に収めてしまう。
「ぬぃっ」
「大丈夫……怖くないよ」
 貴方達は私が護るから、ね。
 亡羊とした表情と物言い。最初は抱えられたことに戸惑って短い手足をじたばたと振っていた鎌鼬であったけれど、思いのほか優しく扱われる手付きを知ればすぐに大人しくされるままになる。
 アンナの纏うどこかひんやりとした、静かな空気はまるで夜そのもののよう。それは言葉よりも雄弁に、この人が味方ならば安全だろうという確信を連れてくるのだった。
 空いた席を見つけて座り、鎌鼬も膝の上に乗せれば、そこはもう絶対に揺るがない安全地帯。
 ゆるゆると撫でられる内に緊張が解れてきたのか、頭を下げて体を丸めた鎌鼬は猫よろしくピスピス鼻を鳴らして目を閉じて。
 ……けれど大地も雷鳴もばりばりと、安らぎなど与えぬと言わんばかりに喧しい音と揺れを引っ切り無しに伝えてくるものだから、アンナは柳眉を僅かに寄せて、バスの窓の桟を押し上げるしかなかった。できれば護るものたちを怖がらせたくはなかったのだけど。

「――邪魔を、するなよ……」
 殺すぞ。
 処刑人の、あるいは魔女の怒りは低い呟きとなり、それを機にぶわりとアンナの全身をひりつく程の殺気が覆っていく。
 ピェっと声を上げて跳ね起きそうになるイタチの目を塞ぐように片手を小さな頭へ乗せると、窓の外の荒れる世界を射殺さんばかりの眼差しで睨み付けた。
 オォン!と抗うように鳴る風が、今にも割れんとしていた大地が、強大すぎる力に圧されるように徐々に静かになって行く。
 どれ程の間大人しくさせられているか、それは目的地まで分からぬけれど。
 バスと乗客たちの安全を確かな形で確保したアンナは、窓を閉じてまた鎌鼬をあやし始める。
「ぬぃ?」
「あぁ大丈夫だから…ちょっと遠くを見たくなっただけだから…」
「ぬぬぃ?」
 目元を覆う手から頭を抜こうとする小さな妖怪の体を、ゆらゆら揺らして。
「あ…顔を見ないで…見たら多分…貴方達騒いじゃうから…ね…?」
 切実な呼びかけに、大人しくなった鎌鼬がふにゃりと力を抜いた。
 あとはもう、体を揺らされるままにくぁりと欠伸を零して、ゆっくりお腹を呼吸に上下させていくばかり。
 まっくらで、まっくろなのに、怖くなくて安心で。柔らかく揺らされていれば地震もあんまり分からなくて。

 齎された安寧の恩恵に預かり、ころころとお裁縫妖怪と一緒に揺れる糸巻の糸が次第に深い色に染まりはじめ、やがてはアンナの纏う黒とそっくりになるのに気付いたかもしれない。

 ほころびてしまった世界を、今日知ったこの安らぎの色で縫い合わせてしまいたいと、願った声が直接聞こえたわけでは、ないけれど。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キディ・ナシュ
【大小】

わたしも初めて見ました
言葉通じますか?ぬいぬい?ぬい?
さっぱり分かりませんね!

あれ、揺れますか?
大変です、転ぶと怪我を致しますからね
どうぞ掴まってくださって大丈夫ですよ!
ふふ、私は強い子良いこなのでへっちゃらなのです!

大丈夫です、最近はぬいぐるみの綿を出さぬ力加減を
ばっちり覚えたので大丈夫ですよ!お任せあれ!
……なぜ怯えるんです?

千隼さんがカッコイイ…!
思わず尊敬の眼差しを送りつつ
鎌鼬さん達を本当に潰さないように慎重に抱えて
ふわふわをちょっと満喫も出来るのでこれはよいですね!

なんて言っていればぎゅっとされました
でも大丈夫、私の仁王立ちは崩れません
千隼さんももふもふ好きですか?


宵雛花・千隼
【大小】

鎌鼬というのは初めて見たけれど、変わった鳴き声ね
ああ、通じ合って…いるわけではなかったのね
というか、あの、思ったより揺れるわ
平気かしら、キディ…力強い仁王立ちだわ
では、と時折掴まって

妖怪たちはキディに抱いて貰いましょう
抱き潰してはだめよ
…何故か一斉に逃げ出そうとしているわ
照れては何も繕えないでしょう、臓物の一つ二つは我慢なさい
転がる子たちを受け止めて

…落ち着いてと言っているでしょう
騒ぐ喉元に苦無を突き出して
良い子になったかしら、ええそう、ではそのままで

抱え切れない子はワタシも預かりましょうか
両手が塞がってしまうから、キディごと抱き締めるようにして
もふもふは好きよ、逃げられるけれどね



●しししんちゅうのぬい。

「ぬ……ぬ?ぬぃ」
 突然ですがピンチです。
 バスの一番後ろの座席の背凭れにギチッと追い詰められた数匹の鎌鼬が、猟兵も乗り込んでいて安全な筈の車内で狼狽した鳴き声を上げている不思議。

「……鎌鼬というのは初めて見たけれど、変わった鳴き声ね」
 すい、と物音一つ立てない身のこなしでお裁縫妖怪へ顔を寄せる宵雛花・千隼(エニグマ・f23049)。
「わたしも初めて見ました!」
 ぐぐぃ!と遠慮会釈もなく鎌鼬と鼻先を突き合わせんばかりの勢いで頭を捻じ込んでくるキディ・ナシュ(未知・f00998)。
 体躯は小柄、態度は大柄な二人の女子に逃げ場を塞がれたひ弱な妖怪たちは今、二対の瞳から放たれる好奇心という名の針の筵に立たされていた。

「言葉通じますか?ぬいぬい?」
「「「ぬんぬぃ!!!」」」
「ぬい?」
「「「ぬぃぃィ!???」」」
 小さくて円らな黒目を潤ませながら、ぶんぶんと首を横に振る鎌鼬一同。
 こてんと可愛らしくふわふわの髪を揺らしながら鳴き真似をしてみせるキディは、なるほどなるほどと尤もらしく頷いている。
 鎌鼬にはさっぱり分からなかった、何故こんなに言いようのない不安を感じてしまうのか。何故世界を繕う一大事業の道中のここで珍獣観察めいた扱いをされているのか。ぬぃぬぃぬぃと何往復もした鳴きの応酬は、何の成果も上げはしない。
「凄いのね、キディ。通じ合って……」
「さっぱりわかりません!!!」
「……いるわけではなかったのね?」
「はい!」
 少女人形はどんな時も良い子のお返事を欠かさない。
 元気いっぱい意思疎通困難な旨を千隼に伝え、伝えられた千隼は残念ねと言う割に全く残念そうではなく、何もかもがまったく通じ合ってない空気に鎌鼬たちは正直バスに乗り込んだ事すら後悔してしまいそうだった。
 
 そんな震えるイタチ心を汲んだかのように、ぐぉんぐぉんとバスは地震の突き上げを受けて大きく揺れる。あら、と僅かにたたらを踏む千隼に対して、キディは怪力を生かした脅威の踏ん張りで微動だにせずバスの床に仁王立ちだ。
「思ったより揺れるのね。平気かしら、キディ…」
「あれ、揺れますか?転ぶと怪我をして大変です。どうぞ掴まってくださって大丈夫ですよ!」
「そう?では、遠慮なく」
 そっと少女の腕に手を添える千隼。誇らしげに頼もしさを見せ付けるキディ。心温まる遣り取りが繰り広げられている隙に逃げてしまえと、とじりじり二人から距離を取っていた鎌鼬たちは、ぐるん!とこちらへ向けられた二つの首に、ヌピャァァァアと悲鳴を漏らすのだった。
「いけませんよイタチさん!地震で怪我をしては大変です、私がちゃんと抱っこしてさしあげます!」
「そうね、アナタたちはキディに抱かれていて貰いましょう」
 ああでもキディ、と、幽艶な美女がそう続けた後の言葉はいっそ悪夢のような。
「抱き潰しては、だめよ?」
「最近はぬいぐるみの綿を出さぬ力加減をばっちり覚えたので大丈夫ですよ!お任せあれ!」
 キディ、ガッツポーズ。ピェェェと笛のような悲痛な声が座席からまた上がる。
「……なぜ怯えるんです?安心してください、わたしたちが地震から守りますから!!」
「照れては何も繕えないでしょう、臓物の一つ二つは我慢なさい」
 冷たく言い放たれたその声で、漸く気付く。猟兵にはやばいやつらもいる。学んだ鎌鼬の賢さが1上がったが、今は何の役にも立たない!

 キディの手で胴体を掴まれた鎌鼬の一匹は、じたじた足掻きながらも体を捩って手の中から逃れようとする。けれどある程度抜けた体の部分をもう一方の手でがしっとされ、また毛皮のすべすべ感を利用して抜けようとすればがしっと――。
「千隼さん見てください凄いです!もふもふなのにぬるぬるです!」
 鰻掴みでもやっているような止まらない捕獲ループにはしゃぐ少女と、微笑ましそうに見守る女と、同胞の悲惨な捕物劇に足が笑って動けない残りの鎌鼬と。
 そんな逃げるものと追うものの攻防は、何時の間にか苦無を抜いていた千隼によって終止符を打たれた。
「……落ち着いてと言っているでしょう」
「ぬ゛」
 毛皮越しに刃物の冷たい感触を知った。もう鎌鼬は限界だった。がくっと頭が落ちて微動だにしなくなった様子に、千隼は良い子と褒め言葉をかけているし、キディはきらきらとかっこいい武器捌きに尊敬の眼差しを寄せている。
 どう見ても気絶してるだろうと把握したのは、残りの鎌鼬だけだった。同胞の犠牲は無駄にしない。今の内に、生き残れるものだけでも!鎌鼬の誇りを守るのだ!!
 ぐりんっ!!
 ……逃げられなかったようだ。全てを諦めた顔で持ち上げられる鎌鼬たちの体は、クレーンゲームのプライズよりもぐんにゃりしていたという。

「みんな怖がりさんなんですね、潰したりなんてしませんのに!」
「仕方がないわ、ここまで気を張り詰めていたのでしょう。キディ、抱え切れない子はワタシも預かりましょうか」
「はい、お願いします。……わあ!」
 両手では抱えきれないから、とぎゅっとキディごと保護対象を抱える千隼と、転ばないように仁王立ちを維持するキディと、そんな二人の胸の間に挟まれる鎌鼬数匹。
「「ぬ……ぬぃ……ぬぃっ……」」
 地震よりも、世界よりも恐ろしく強いものを今日は知った。世界のほころびまで辿り着けるかどうかはもはや分からないけれど、この強さがあればきっと何だって――。鎌鼬が今際(気絶)のきわに眼へ映したのは、美しく恐ろしい娘達が揺らす金糸銀糸の豊かな髪の色。何であれそれは強さで、力なきものが焦がれるもので。弱々しい光がそれぞれ背負った糸巻を覆い、鎌鼬の縫い糸が彼女らの強さを模倣するかの如く金銀の色に変容した後には、楽しげな二人のお喋りだけが響いていたという。

「千隼さんも、もふもふ好きですか?」
「もふもふは好きよ、逃げられるけれどね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
イタチ団子にはさせぬ…!
瞳に強く現れておる決意…守らねば、ならぬ…!
…鎌鼬かわいすぎか…(きゅん)

地震の揺れに慌てる子がおったらちょっと失礼するんじゃよと抱きかかえて落ち着かせよう
こけそうな子はわしの尻尾でふかふかきゃっちじゃ!

もふもふの心地よさにきっと安心するはず
好きなだけもふもふしがみ付いておるとええよ
なぁに、こんな揺れもすぐ終わる
地震をとめたりはできんけど、皆のクッション替わりにはなれるからの
懐のが安全かもしれん。嫌じゃなければ入るとええよ
汝らがほつれを縫い合わせるのをお手伝いしたい
と、安心するよに語り掛ける

バスに危険が迫るなら、狐火で燃やして防いでみせよう
無事に送り届けねばならぬからの



●妖怪のだいせんぱい!(多分)

 ぬいぬぃ、ぴゃあぴゃあ!!
 世界のほつれへと近付くにつれて天変地異は苛烈さを増していくようで。
 がたがた揺れるバスの床や座席を転がって、生まれたてのポップコーンのように跳ねている鎌鼬集団を受け止めては妖狐たる象徴でもある尻尾の中にご招待している美青年の姿が、車中にあった。

「イタチ団子には、させぬ……っ!」
 ふかっ!とまた一匹器用に尻尾へのふかふかキャッチを成功させた頼もしい彼の名を終夜・嵐吾(灰青・f05366)という。
 ふたつの世界を滅亡より救うべく東奔西走する彼の、時に刀を振るう腕が、ありとあらゆる術を駆使する頭脳が、そして数多の人を癒してやまないふかふか尻尾が、今は全て幽世の片隅で鳴き喚くイタチ妖怪を保護するためにフル回転をしていた。
 小さな目に強く宿る決意も、胸をきゅんきゅんさせてくる小動物妖怪も、須らく救われるべき存在であると思うが故に。
「汝ら、よくもまあこれだけ集まったもんじゃの……」
 手の届く範囲の鎌鼬を軒並み保護し終えた頃には、普段からボリュームのある尻尾はたわわに実った鎌鼬のお陰で倍の嵩にもなろう勢いだ。
 ふう、と一息吐いた嵐吾は二人掛けの座席を選んで腰を降ろし、隣の空席に重い尻尾をもふんと乗せる。
「ぬい」
「ぬぃっ」
「ぬぬい!!」
 座席に置かれた極上クッション……もとい嵐吾の尻尾からひょこひょこ顔を出す鎌鼬のはしゃぎっぷりを見るに、ここなら安心させられるだろうという目論見は見事正解だったようである。
 車体がゆさゆさと揺れるたんびに毛皮の中で弾ける鳴き声は、遊具で遊ぶ子供のそれと変わりない。尻尾に手を伸ばして鎌鼬たちを安心させるように撫で付ければ、己が尾の柔らかさとはまた違う、つるりとした毛皮の感触が嵐吾の掌を擽った。
「なぁに、こんな揺れもすぐ終わる」
 地震を止めたりはできぬけれど、と柔和に笑う琥珀色は安心安全の太鼓判を鎌鼬の胸へぽんと押して。
 
 ああ、尻尾もじゃが懐の方がより安全かもしれん――、と促したのと丁度時を同じくしての頃合、

 どぉん!

 一際大きな地鳴りと突き上げるような揺れを受けて車体が傾いだ。
 ぬぃぃぃぃぃ!!流石に肝を潰した鎌鼬たちは、青灰の尻尾に潜り込む集団と嵐吾の懐になだれ込む集団の二手に割れてしまったが故に今度は懐がぱんぱんである。
 危ない!そう言いたげな細い悲鳴の示すものは、進む道の真正面を塞いだ大きな、バスよりも大きな……岩の塊!!
「安全だと言うたじゃろ。汝等がほつれを縫い合わせる邪魔をするものは――」
 ――危険であれ、障害物であれ、燃やし尽くしてみせよう。
 ニィ、と深く笑みを刻むは隻眼の獣のあぎと。

 ぼっ、と空気が膨らむ音が車外で弾けたのを知って目を瞠った鎌鼬たちの目に映りこむ、地獄の業火さながらに路の行く先を埋め尽くす狐の焔。炎の迷宮と呼んでもおかしくない火勢は巨岩をまるごと呑み込んで、バスが突っ込んだところで衝撃一つなく。
 ざらざらと、灰が車体を僅か撫でて風に消ゆる気配を感じるのみ。
「ぬ……」
 ほんの一瞬、妖の凄味を見せた張本人は、何度目か顔を出したイタチに再び鷹揚な笑顔を見せている。
「ぬぬぃ!!!!!」
 親分!とでも呼んでいるような鳴き声が一つあがり、二つ上がり。仕舞いには尻尾と懐の中からやんややんやの大歓声!
 優しい、面倒見がいい、強いの三拍子揃った嵐吾へのぬぃぬぃ途切れぬ親分コールは暫く止まず、バスの中を騒がせていたことだろう。そして。

「痛!!」
 ぐいっ、と小さな前肢が幾つも豊かな尻尾の毛並を引っ張ったのはそれからすぐの事。懐からも前肢が伸びて同じように嵐吾の髪をくいくい引いている。
「なんじゃ、汝ら存外悪戯小僧じゃのう……」
 青灰の毛並を一房ずつ、くるくると糸巻に巻きつけて何やらにゃむにゃむ唱えていた鎌鼬たちが、それを解いて掲げた世界を修復する糸の色はすっかり嵐吾の被毛の色を模していて。
 おそろい!おそろい!大喜びで尻尾や懐を出入りするお裁縫妖怪を見てしまった嵐吾はそれ以上何かを言う気も失せて、代わりにちょっぴりだけ乱暴に鎌鼬を撫で付けて己とは質の違うつるもふをバスの到着まで楽しんだとか、なんとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
揺れる揺れる、ばすの中
世界のほつれを縫い合わす前に
君達がこんがらがってしまうよね

落ち着いてと、言葉で言っても難しいか
地震怖いだろうし
とりあえず、放り出されそうになってる子は
きゃっちして確り抱いて
大丈夫、大丈夫と宥め

車窓に夢幻鏡で、混乱を拭うため
幽世の戦前の日々
楽しい、何気ない大切な日を写そう
眠らせはせず、落ち着くように語りかけ

君達が守りたい世界は、これだよね
縫い合わせに行くなんてすごいよ
日々を守るお手伝いをさせて

揺れに、振り飛ばされないよう
落ち着いた子から
しーとべると、代わりに少し失礼と
手持ちの絡繰糸で座席と痛くない程度に結び

着くまでの辛抱だが、ごめんね
さぁ、怖い子は手を貸して
捕まえておくから



●赤い糸のしんぱしー。

 幾多の困難潜り抜け、それでもまだまだバスは揺れて、揺れて。
 世界のほつれがいよいよ近いのだろう、異様に低い灰空と、地割れの目立つ道。ひっきりなしに続く地震がなくとも、悪路極まる運行はガタガタと喧しい音を伴って……。

 ガタガタガタガタガタガタガタガタ。
「ぬぬぬぬぬぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬぬ゛ぬ゛ぬ゛ぃぃぃ……」
 
 ……どうも特別、怖がり屋が居たらしい。震えを通り越して、座席の上で糸巻を抱えた直立不動のまま激しく微振動を繰り返している一匹の鎌鼬を見つけてしまった冴島・類(公孫樹・f13398)は、思わず頬を掻いてしまいながらも手を差し出した。これがばいぶれーしょん機能、というやつなのかもしれない。
 小さな体が振動で座面を滑り落ちそうになる前にきゃっちするのは間に合ったけれど。びびびびびと露骨に手の中にも動揺が伝わってくるものだから、これは落ち着いてと言って聞かせても相当に難しいとはよくよく思い知るには充分で。
 
 がんばって縫いたい、でも地震は怖い、壊れかけてる世界を見るのも本当は、すごくすごく怖い!!
 やたらと震える一匹から、周りの鎌鼬にまで漣のように広がり始めた不安。
 ――愛しき縁を、大事な居場所を失う暗澹たる思いは知っている。痛いほど。
 大丈夫、大丈夫と繰り返し宥める声に手に、類はいっそう力を籠めて。

 混乱を拭わんと、小麦色の指でバスの窓をとんとん叩いて周囲の鎌鼬の注意を引く。
 円らな幾つもの視線が集まったそこへと映すのは、夢幻郷が創り出す嘗ての幽世、その景色。この辺りには森の迷い路があって。そう、小さな川も流れていて、木漏れ日はこの幻を見せてくれるひとの瞳の色にそっくりで。
 当たり前にあった、なんてことはない、いまや儚い、取り返したい、忘れじのありか。
 優しき夢は、優しい波紋となって鎌鼬たちの心を慰撫し沁み入る。

「君達が守りたい世界は、これだよね」
「「「ぬぃ」」」
「縫い合わせに行くなんてすごいよ」
「「「……ぬぃっ」」」
 日々を守るお手伝いをさせて、と落ち着いた温かな声に応えたのは抱えていた鎌鼬の前肢で。鳴き声の代わりに、ぎゅうぅぅうと類の手首を強く握り続けて離さない。
 その小さな手がぽかぽか熱くて、細い体は震えもすっかり収まっていたから。もう一度繰り返した類の『大丈夫』は今度こそ正しく皆の安心に繋がったのだと実感できただろう。

 振り飛ばされないように、と絡繰糸でしつらえたシートベルトは予想外に大好評で。我も我もと類の足元に鎌鼬の集団が絡みついたのはちょっとしたハプニング。
 辛抱どころか寧ろ誇らしげな、きりっと斜めに掛けられたしーとべるとに得意満面な鎌鼬の数は結構な数になり、やおら各々の糸巻で絡繰糸をぺっちんぺっちん撫で叩くまじないめいた所作が始まって。
「「「ぬいぃ!!」」」
 ほんわり光った糸巻の糸が、しーとべるとと全く同じ色に染まるまでをきょとんと見守っていた類の顔が、お揃いとばかりに糸巻を一斉に掲げられたのに破顔一笑して――ぎぎぃ。笑い声にはバスの大きなブレーキ音が重なった。世界のほつれへの、ご到着だ。 

「さあ、世界を繕いに行こうか」
 類の呼びかけに、ざざっ!と立ち上がった鎌鼬たちの足取りは力強く。
 取り戻す景色を焼き付けた目は、もうちっとも迷っていなかった。
 
●りすぺくと・いぇーがーずからー!
 
 バスから降りたそこに広がるのは、千々にほつれた世界が更に傷を広げ続けている光景で。
 裂けた空と大地。
 吹き抜ける風は鳴き声のようで、櫛の歯が順々欠けるが如く万物が進行形で失われていく――。
 そんな、なんにもがなくなり続ける末期の世界へと、お裁縫妖怪は地を蹴り追いすがる。
 背負う糸は、ここに到着するまでにかの猟兵達から借りた色。
 彼らの持つ強さへの、優しさへの、信念への感謝であり報恩であり憧憬であり。

「「「ぬい!!」」」
 鋭く尖った針に、通す七彩の美しさ。
 縫い、縫い、縫って縫って、空も海も木々も家も、全部全部。
 愛しき世界よどうぞ崩れてくれるなと。

 遠ざかる彼らから聞こえたか微かな最後の一鳴きは、きっと猟兵へと向けて。
 ありがとう、いずれまた、綺麗な糸で錦と飾られたカクリヨのどこかで、と――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月15日


挿絵イラスト