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大祓百鬼夜行⑮〜みんなにしあわせを

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

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 これは、人々を救う為に必要な戦い。
 大祓骸魂の『虞(おそれ)』を克服する為の儀式。
 猟兵達と殺し合う事に、心苦しさを感じない訳ではないけれど。

 其れでも、やらなければならない。
 西洋親分――しあわせな王子さまは、真っ赤なルビーの装飾が美しい剣を手に取る。
 そして彼は、肩に乗るツバメへと柔らかな視線を向けた。

「ツバメさん、黄金を持っていっておくれ」
 もし、僕が死んだなら。
 この鉛の心臓が割れてしまって、動けなくなったら。
 雲の道を繋ぐ役目は、君にお願いしたいんだ。
 残る黄金も余さず使って、みんなのしあわせの為に架け橋を作ってほしいのだと。

 王子の言葉にツバメは鳴かず、けれども小さく頷く。
 恐らく、彼の願いを最後まで叶え続けると決めたのだろう。
 もしも最期を迎える時には、彼に感謝と親愛を伝えて……自分も共に眠ろうか。
 一人きりで消えるのはきっと、寒いだろうから。


「お願い、します……です」
 今にも泣きそうな表情で、辰神・明(双星・f00192)は祈る様に告げる。
 猟兵達の此れまでの尽力によって、西洋妖怪の大親分の存在が視える様になった様だ。

 西洋親分の名は、しあわせな王子さま。
 周囲に幸福をもたらす妖怪として、多くの妖怪達に慕われてきたらしい。
 今は骸玉の影響を抑え込んでいるのか、意識を保っている。
 黄金が剥がれてゆくにつれて、彼の意識は削れてゆく。しかし、其れでも――。

「王子さまは、全力で……戦おうとします、です」
 二つの世界を守る為に。
 互いに力の限りを出し切って、殺し合う。
 其れに立ち向かう為には、猟兵達も全力を出した方が良い筈だと……メイは続けた。
 戦場には王子の膨大な虞が満ちており、窮地に陥らずとも『真の姿』を解放する事が出来る様だ。
 ……覚悟に応える為にも、彼女は真の姿で戦った方が良いと伝えてから。

「メイは……みなさんを送るしか、出来ません、です。でも……」
 出来る事ならば、しあわせな王子さまを助けてほしい。
 其の為にも全力で戦って、そして……無事に帰ってきてほしいと。
 ぬいぐるみをぎゅうっと抱き締めながら、メイは猟兵達の転移を始めるのだった。


ろここ。
●御挨拶
 皆様、お世話になっております。
 もしくは初めまして、駆け出しマスターの『ろここ。』です。

 四十五本目のシナリオは、戦争シナリオとなります。
 戦争シナリオの為、一章のみでシナリオは完結となりますので御注意下さい。

 周囲の幸福を望む王子、彼の幸福を祈るツバメ。
 一人と一羽を救う為にも――皆様、全力で戦って頂ければと。

●本依頼について
 このシナリオフレームには、下記の特別な「プレイングボーナス」があります。

 プレイングボーナス……真の姿を晒して戦う(🔴は不要)。

 戦場に満ちる『虞』により、即座に真の姿を解放する事が出来ます。
 真の姿へ変ずる時の思いなども添えて頂ければ、参考にさせて頂きたく思います。

●補足
 受付期間はOPが承認され次第、お知らせ致します。
 期間外に頂戴したプレイングにつきましては、流させて頂きますので御注意下さい。
 また、本依頼は最低人数+数名での運営とさせて頂きます。
 恐れ入りますが、御了承の上で参加を検討頂ければ幸いです。

 また、本依頼では同時描写は多くても『二名様』まで、とさせて頂きます。
 お相手がいる際にはお名前とIDを先頭に記載お願い致します。
 迷子防止の為、御協力をお願い申し上げます。

 長々と失礼致しました。
 それでは皆様のプレイングを明共々、お待ちしております。
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第1章 ボス戦 『西洋親分『しあわせな王子さま』黄金形態』

POW   :    あたたかな光
【黄金の光】が命中した部位に【「理性を破壊する程の幸福」】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
SPD   :    しあわせな光
【黄金の輝き】を解放し、戦場の敵全員の【「不幸を感じる心」】を奪って不幸を与え、自身に「奪った総量に応じた幸運」を付与する。
WIZ   :    黄金をささげる
自身の装備武器を無数の【黄金】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【プレイング受付期間】
 5月12日(水)8時31分 ~ 5月12日(水)23時59分まで

 マスコメにある通り、本依頼は最低人数+数名での運営とさせて頂きます。
 また、同時描写は多くても『二名様』まで、とさせて頂きます。
 恐れ入りますが、御了承の上で参加を検討頂ければ幸いです。

 皆様のプレイングを心より、お待ち申し上げております。
ヴィクティム・ウィンターミュート
──この姿も久しぶりだな
今までは意図的にセーブしてたが、こんな形で解放することになるとはね
普段なら使うのは躊躇してたがよ…
全力でやるのが、最も強い鬼札を切るのが確度の高い戦い方だって言うんなら…やってやるさ

久方ぶりに働いてもらうぞ、虚無
Void Link Start
武器の変質を確認、時空間干渉システムに接続
さて、俺を不幸にしちまうんだったかな
ならその事実は──『消してやる』
まぁ、元から俺は不幸だなんて思っちゃいなかったがな
随分と幸せに生きて来られた気がするよ

そんじゃ、いくか
虚無を纏わせたナイフを構えて接近
回避や防御を実行した事実を『消してやる』
そうすりゃもう、当たる以外の結果は訪れない




「来てくれたんだね、猟兵達」
 ツバメが羽撃き、遠くへと飛んで行ってから直ぐの事。
 近付いて来る足音、様々な姿形の者達。
 複数の気配を感じ取った西洋親分――しあわせな王子さまは、心から安堵した様に呟いた。

「ああ、やってやるさ」
 王子の声に応じるのは、自らを端役と称する男――ヴィクティム・ウィンターミュート(Winter is Reborn・f01172)だ。
 彼の姿は既に、禍々しい何かに覆われつつある。

 其れは、虚無。
 過去を容赦無く削り取る、悪食の漆黒。
 一歩間違えれば、術者の生命や存在すらも消しかねない力。

 英雄や主役と呼ばれる者達の様に、奇跡的な勝利など訪れない。
 ヴィクティムは、其れを重々理解している。
 だからこそ、完璧な勝利を手にする為に確度の高い戦い方を選ぶのだ。
 ……即ち、最も強い鬼札を切る事。
 まさか意図的にセーブしていた力を、こんな形で解放するとは彼も思わなかったけれど。

「久方ぶりに働いてもらうぞ、虚無」
 ――Void Link Start.
 時空間干渉システム、接続開始。
 己が手にした生体機械ナイフの変質を視認した後、ヴィクティムは即座に行動する。
 王子もまた、己の黄金の輝きを彼へ容赦無く浴びせようと。

 敵と認識した者へは不幸を、自身へは幸運を。
 成程。そいつは確かに出来の良い、理不尽な力だ。
 此れが発生した時、ハッカーのやることはただ一つ――書き換える。

「消してやる」
 強制的に不幸を植え付けられた『事実』を。
 王子が、回避や防御を実行した『事実』を。
 ヴィクティムは過去を歪ませて、有り得た筈の可能性を奪う。

 結果――彼のナイフは、王子の身体に深々と突き刺さっていた。
 ……まるで初めから、そうあるべきと決まっていたかの様に。

「まぁ、元から俺は不幸だなんて思っちゃいなかったがな」
 ――随分と、幸せに生きて来られた気がするよ。
 其れを自分に齎した者達の顔を思い出して、ヴィクティムは笑む。

 お前はどうだ、王子さま?
 いや、別に答える必要はない。
 非業の最期を迎える『原因』や『理由』も、根こそぎ喰らい尽くしてやるまでだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
……なぁ。
貴方は自分が死んで、皆が幸せになれると思っているのか?
貴方は親分。群れのリーダーなんだろ?
慕って付いてきた人は親分がいなくても喜べると本気で思うのか?

ふざけるな!
残されて生きていく人の気持ちを考えた事あるのかよ!
狐だった俺でもわかるんだぞ!
どれだけ辛くて悲しくて寂しい想いをすると思ってるんだ!
何がしあわせな王子さまだ!
嘘つきは、詐欺って言うんだ!
名前負けだ!出直してこい!
王子も、皆と一緒に幸せになるんだ!

骸魂も、詐欺王子も、理不尽な虞も。全部まとめてブン殴ってやる。

真の姿でUC【妖狐の通し道】を。
俺の全て全乗せマシマシ[属性魔法、全力魔法]を拳に込めて…
歯を食いしばれ、詐欺王子!




 木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)はただ、震えていた。
 王子の膨大な虞に、恐怖を抱いている訳ではない。
 真の姿と化して、妖力を御し切れぬ訳でもない。

 ……ならば、何故か。
 溢れんばかりの感情故に、無意識の内に彼の全身は震えているのだ。

「貴方は親分、群れのリーダーなんだろ?」
「……そうだね。多くの妖怪達が、僕を慕ってくれている」
「慕って付いてきた人が、親分がいなくても喜べると本気で思うのか?」
 木常野の声もまた、震えていた。
 其れに込められた怒気に気付かぬ程、王子は鈍くはない。
 だが……彼にもまた、退けぬ理由がある。
 此れこそが、大祓骸魂に続く雲の道を作る『必須条件』だから。

「少なくとも、多くの生命が救われる」
 人も、妖怪達も。友であるツバメさんも。
 二つの世界を救う為ならば、自分の生命など惜しくはないと、王子は微笑んだ。
 其れで、皆が笑ってくれるのなら……。

「ふざけるな!」
「…………」
「残されて生きていく人の気持ちを、考えた事あるのかよ!」
 ツバメさんだけじゃない。
 王子を慕っていた妖怪達だって、きっと悲しむ。
 いや、其れだけじゃない。木常野は『痛み』を知っている。

「狐だった俺でもわかるんだぞ……!」
 大好きな人に、置いて逝かれる事。
 其れは痛い程に……辛くて、悲しくて、寂しいのだと。
 忘れたくない。けれど、思い出す度に居ない事を再認識してしまう。
 其の度に胸がきゅうと締め付けられて、目の奥から涙が溢れそうになる。

 ――名前負けだ!出直してこい!
 何がしあわせな王子さまだ。嘘つきは、詐欺って言うんだ!
 木常野の激情は妖力を呼び、彼は其の全てを拳に篭める。其れだけじゃない。

「チィ、力を貸してくれ!」
「チチィ――ッ!」
 自分に、不幸を与えられたとしても。
 王子が幸運になっていても、そんな事は関係無い。
 己の力の全てを篭めて、チィから齎される月光の加護も集めて。

「だから――歯を食いしばれ、詐欺王子ッ!!!」
 ――王子も、皆と一緒に幸せになるんだ!
 お腹の底から、思い切り声を張り上げて。
 木常野は黄金が剥がれている部分を、全力で殴り付けるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

檪・朱希
WIZ
ロキ(f25190)と。
真の姿は、初めて現れた時と同じ……赤い目の方が黒紫、もう片方はお日様色の蝶の翅を纏った姿。
一緒に戦う人はロキとは知らない、かみさまと呼んでいた人。でも、一度黄昏時に出会ったことはある。

しあわせな王子さま。世界を助ける為に全力で戦ってくれる。なら、私も応えなきゃ。

花びらが消えていく……!
今なら。燿、雪、お願い!
UC発動。かみさまがUCを無効化する間、守護霊の二人で攻撃を!
『遠慮なく行くぜ、雪!』『あぁ! 遅れるなよ、燿!』

黄昏時のように、あなたのうたを一緒に歌おう。
そして、かみさまと手を取って、一緒に……空を翔ぼう。
蝶のように飛んで……王子さまの想いを、私が導く!


ロキ・バロックヒート
朱希ちゃん(f23468)と

かれのように身を削って世界が救われるなら
同じように身を削っただろうか
それぐらいきっとなんでもない
私はかれと違って己のなにかを差し出しても
世界にとって救いとならなかっただけの話

かれのようなきれいなものを救えるなら
この心が消えてもちっとも惜しくはないのに

――本当に?

自問に答えること無く真の姿へ
夜も真昼に変えるような
光り輝く天使の様相

黄金の花びらを払うのは【救済】の光
もう身を削らなくとも良いんだよと云えたなら
どんなに――

ねぇ翅のあるひと
黄昏時に出会った子
またいっしょにうたってくれる?
あの時みたいにこの手を取って
共に翔ぼう

君の守護霊がかれに届くよう
物語を悲劇で終わらせぬよう




 心優しい西洋親分。
 骸玉の影響が強くなると知りながら、其れでも。
 王子は迷う事無く、全身の黄金を差し出そうとしている。
 きっと必要ならば剣の装飾も、輝く両目さえも差し出すのだろう。
 だって、ほら――。
 生命すらも惜しくはないと、彼は剣を構え続けているじゃないか。

 ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)は、王子の様子を目に映して……感情の無い笑みを浮かべた。
 王子の様に心身を削って、己を削っても。
 世界にとって、救いとならない。世界は其れを赦さない。

「かれのような、きれいなものを救えるなら……」
 この心が消えても、ちっとも惜しくはない。
 それぐらい、きっとなんでもない――本当、に?
 ロキが自問している間に、隣に並び立とうとする少女が一人。

 右側は黒紫、左側はお日様色。
 二色一対の蝶の翅を纏った姿で、檪・朱希(旋律の歌い手・f23468)はしあわせな王子さまと向かい合う。
 彼女の手には、櫟に蝶が集まる様子が描かれたタロットカードがあった。

 小アルカナ、ワンド:8の正位置。
 其れは、急転や好転を示すもの。王子の想いが叶う様に。
 だからこそ――自分の全てを以って、彼と戦わなければならない。
 世界を助ける為に、そんな彼の想いに応えなきゃ。

「燿、雪――行こう」
 橙と青の蝶が其々、檪の周囲をひらりと舞う。
 彼女の言葉を受け止める様に、そして勇気付ける様に。

 傍らに立つ猟兵の事を、彼女は詳しく知らない。
 ただ、ロキの声には聞き覚えがあった。
 いつかの黄昏時、ビルの上で出会った……誰かと遊びたいような『音』の持ち主。

 もしかしたら、彼は――応える声は無い。
 されど、彼の変化した姿こそが明確な答えだった。
 夜も真昼に変えるような、光り輝く天使の様相。
 ……嗚呼、間違いない。檪は確信する。
 彼はあの時、一緒に歌った『かみさま』なのだと。

「君は……」
「――――」
 ロキはそっと、自分の人差し指を口元へ添える。
 何かを感じ取った王子に、何も言わぬ様にと言外に告げる為か。
 或いは……世界の為に身を削り続ける者へ、掛ける言葉を止める為か。

 だが、もしも。
 王子へ、もう身を削らなくとも良いんだよと云えたなら。どんなに……。
 花びらの様に散りゆく黄金が、瞬く間に救済の光に呑まれてゆく。
 そして、光の一部が消えて生まれるのは……王子の元へ駆け抜ける為の一本道。

「今なら――燿、雪、お願い!」
『任せとけ!遠慮なく行くぜ、雪!』
『あぁ! 遅れるなよ、燿!』
 橙の蝶が虎気を纏い、青の蝶は刀気を纏う。
 ――直後、檪の傍らに現れたのは和服姿の二人の少年だった。

 王子は即座に守護霊達へ、残る僅かな花びらを嗾けようとするも。
 ロキの救済の光は今、彼らの為に在る。
 黄金の花びらが守護霊達の進路を遮る事はもう、無い。

『喰らっときな!』
『断ち斬る……ッ!』
 数発の発砲音が響いた後、鋭い剣閃が王子の剣を断つ。
 ――やるじゃねぇか。当然だ。
 そんな視線だけの遣り取りを終えれば、燿と雪は再び蝶の姿に戻っていた。

「かみさま」
「ねぇ、翅のあるひと。またいっしょにうたってくれる?」
 あの時みたいに、この手を取って。
 初めて出会った黄昏時の様に。共に翔ぼう、共にうたおう。
 そっと差し出されたロキの手に、檪は迷わず自分の手を重ねた。

 王子さまの想いを導く為に。
 此の物語を、悲劇で終わらせぬ様に。
 天使と蝶は共に翔んで、優しいうたを。もっと、いっしょに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アンリ・ボードリエ
貴方は...貴方の仲間の妖怪さんも、この世界も、お隣のツバメさんも大好きなのですね。
だから、そんなに頑張れるのでしょうね。
貴方は、立派だ。それでこそ皆に慕われる『親分』だ。

そんな貴方が救われないなんて、それじゃあハッピーエンドを迎えられないでしょう...?

ボクの真の姿は背中に揺れる炎の翼を携え...身体は鉛に侵食され、朽ちていく。
ふふ、ボロボロでしょう?
ですが、だからこそ《覚悟》を持って貴方と向き合うことが出来る。

UDCに彼の安寧を《祈り》、UCを発動します。
《捨て身の一撃》で彼を《浄化》しましょう。

貴方が世界を救うなら、ボクがあなたを救います。




 ……似た者同士、なのかもしれない。
 しあわせな王子さまの在り方、彼の覚悟を目にして。
 アンリ・ボードリエ(幸福な王子・f29255)は其の思いを、より一層強くしていた。

「貴方は……貴方の仲間の妖怪さんも、この世界も、ツバメさんも大好きなのですね」
「うん、その通りだよ」
 アンリの言葉に、王子は確りと頷いた。
 ツバメさんの事も、自分を慕ってくれる妖怪達の事も。
 そして何より……彼らが生きてくれる此の世界が、とても大切なのだと。

 本当に立派な親分だと、アンリは思う。
 故に。彼も覚悟を決めて、背中から炎を広げてゆく。
 炎は徐々に翼の形を成していくが、其れと同時に――彼の全身も変化していた。

「ふふ、ボロボロでしょう?」
 見目美しい姿が、所々錆び付いた鉛に侵食されていく。
 炎翼はまるで、アンリの記憶という燃料を消費して燃え盛っている様。
 いつか、彼の生命すらも焼き尽くしてしまうかもしれない。
 ――だからこそ、覚悟を持って貴方と向き合うことが出来る。

「……本当に、ありがとう」
 君達の覚悟、ちゃんと伝わっているよ。
 敬意を払う様に感謝を告げて、王子は黄金の輝きを放つ。
 揺れる炎翼を、朽ちかけた身体を。
 そして、アンリ自身を壊す為に――全力で。

「貴方が救えるなら、ボクなんてどうなっても構わない……!」
 王子から生み出される、凄まじい光。
 其れに対して、アンリが放つのは別の光だった。
 此の世で最も純粋な、希望と祈りの力。ただ、王子の安寧を祈る。
 ……鉛の侵食が進んでいても、彼は構わず祈り続けていた。

 そして、レイピアに溢れ出た光を纏わせて。
 彼は王子の光を、渾身の力で払い除ける……!

「貴方が世界を救うなら、ボクが貴方を救います」
 王子が報われない、救われないのならば。
 本当のハッピーエンドを迎えられないでしょう?
 とある童話の結末を、繰り返さなければならない理由は無いのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

琴平・琴子
真の姿:ベレー帽に少しだけ幼い学生服姿

この姿になれば戦うのは怖い
だけど臆する場合じゃない
怖がっている場合じゃない

目の前の王子様を、倒さなきゃ

貴方のその自身の身を削る行動は、人によっては美しいと映るかもしれません
でも私の目にはそれは美しいと思えない
自己犠牲の上で成り立つものなんて、美しくない

輝石ランプを揺らして呼ぶのは大きな手
輝きの元を壊して、その輝きを手で大きく包み隠して

不幸を、不幸を感じる心なんていらない
しあわせなら自分で掴みとるの
貴方ごと握り潰してあげる

自己犠牲の上で成り立つのはそれを知らずに笑っている人だけ
それを知ってしまったからにはもう笑えないんですよ、王子様




 現在よりも更に、幼い姿。
 ストライプのリボンが愛らしい、茶色のベレー帽。
 自分の瞳よりも、少し薄い色の胸元のリボンをきゅっと結んで。
 懐かしい学生服を身に纏う、琴平・琴子(まえむきのあし・f27172)の両足は僅かに震えていた。

「(戦うのは、怖い)」
 だけど、臆する場合じゃない。
 戦場に立つ以上、怖がっている場合じゃない。
 ……目の前の王子様を、倒さなきゃ。

 琴平は口元を引き結んで、力強い眼差しを王子へ向ける。
 黄金が剥がれても、戦いを重ねた事で身体が崩れ始めていても。
 其れでも、王子は微笑んでいる。
 此れで良いのだと、満足そうにも見えて。

「王子様」
「……君も、僕に言いたい事があるんだろう?」
「はい。私は――貴方の行動が美しいと思えない」
 輝石ランプを揺らしながら、琴平ははっきりと告げる。
 自身の身を削りながら、他者や大切なものの為に行動する事。
 何も知らぬ者から見れば、さぞや美談の様に聞こえるかもしれない。

 だが……知ってしまえば、もう笑えない。
 自己犠牲の上で成り立つものなんて、美しくないのに。
 其れが必要な事だからと、王子は己の終わりを受け入れている。

「いらっしゃい、此処に」
 そんな王子の思いが、琴平の目には諦めの様に映ったのだろう。
 彼女の胸の内に湧き上がるのは、他の感情を塗り潰す様な憤りだった。

 幼い頃、恐れたもの。されど、恐れる事は無い。
 ……昨日の恐怖は今日の味方。
 光で誘き寄せたものは、彼女を脅かすものではないから。
 暗闇や様々な影から緩やかに集まる、黒い靄を見ても……彼女は動じない。
 両足の震えは、何時の間にか止まっていた。

「しあわせなら自分で掴みとるの」
 不幸を、不幸を感じる心なんていらない。
 琴平を守る様に、巨大な手が黄金の輝きを包み隠しながら。
 其のまま――王子を倒すべく、力強く握り潰すのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

榎本・英
【春嵐】

題「現実」
それがこの姿での名
剥き出しの心臓と白い身体の抜け殻だ

剥き出しの心の臓を私は誰かのために捧げることが出来るのだろうか

……これは私のエゴだ
この王子を生かす

真白の原稿用紙にあかい雨を降らせよう
ここは真白い原稿用紙の上

これは王子の物語
私は彼の物語をこの手で綴る

泣くもんか、泣いてたまるか
これは彼の覚悟だ
同じように彼を遺す事が私のすべき事だ

彼からの幸福に抗い
真正面から文字にいのちを、吹き込もう

歩めぬ隣の君を抱え、現実は眸からインクをこぼす
君と共に歩み、王子に筆を突きつける

しあわせな王子様
君は幸福かい?

歯痒い

この運命を受け入れることしか出来ない身がとても歯痒い

ひととはあまりにもちっぽけだ


蘭・七結
【春嵐】

歩む術を失くした脚が浮き上がる
『あなた』を千切り
鬼が契った三の罰
この脚では歩めない
この生命は廻らない
この――

宿す白翼は己が翔ぶため
誰かを癒す力なぞ、存在しない

かなしいことね、王子さま

私には、あなたの心を
しあわせを理解出来ないのでしょう。

罪として捧げた脚
ほんとうは、歩めないの

私は、何を望んだのだろう
わたしは何を願うのだろう
なゆは――ナユは、なにを


そんなことは、何方でも良い


あなたが望まぬとしても
利己のままにあなたを生かす

胸を焦がす血雨に
いのちのあかを添えましょう

あなたの眸が溢すものは宝石ではないけれど
ひとが流すインクは、うつくしいことね

心が波立たないのは何故
いいえ。ほんとうは、理解っている




 やっと、役目を果たす事が出来る。
 二つの世界の為に、みんなのしあわせの為に戦おう。
 此の身体が崩れ落ちて、動けなくなる時まで。
 王子が静かに剣を向けると同時、ひらりと真白の蝶が浮かんだ。

「かなしいことね、王子さま」
 蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は、ぽつりと呟いた。
 彼女が宿す白翼は、己が翔ぶ為のもの。
 誰かを癒す力なんて存在しない。

 大切な『あなた』を千切り、鬼が契った三の罰。
 この脚では歩めない、この生命は廻らない。
 そして、この――。

「(あなたの心を、しあわせを)」
 ――私には、きっと理解出来ないのでしょう。
 歩む術を失くした蘭の脚が、そっと浮き上がる。
 金糸雀の眸を持つ鬼の傍らに立つのは、真っ白な幼き少年――真の姿へと変じた、榎本・英(優誉・f22898)だった。

 題『現実』。
 其れが、今の榎本の名。
 髪や瞳だけではなく、全身が真っ白な身体の抜け殻に剥き出しの心臓が一つ。
 此の剥き出しの心の臓を、私は誰かの為に捧げる事が出来るのだろうか。

 己の皮膚にも等しい其れを、剥がされて。
 今も尚、己の理性が削られ続けているのに。
 微笑みを湛えて、心臓すらも差し出そうとしている……彼の様に。

「しあわせな王子様」
「なんだい?」
「君は幸福かい?」
「勿論」
 二つの世界を救えるのなら。
 此の世界に暮らす、皆の笑顔を守る事が出来るなら。
 其れが自分にとっての幸せだと、王子は微笑みながら言い切った。

「(泣くもんか、泣いてたまるか)」
 なんと残酷な程に、優しい覚悟だろう。
 王子の覚悟に涙が溢れそうになり、榎本は堪えようとするも。
 現実は……其の眸から、インクをぼたりと零し続けている。
 涙を流して、足を止めて、彼は喜ぶだろうか。
 其れを、王子が望むだろうか。

 ……違う。今、自分がやるべき事は彼の物語を綴る事。
 筆を突き付ける様に、榎本は手を伸ばす。
 そんな彼の手に、蘭はそっと自身の手を添えていた。

 罪として捧げた脚。
 今の彼女が、本当は歩めない事を知っているからか。
 榎本もまた自然に、蘭の身体を抱える様に支えている。

「(心が波立たないのは何故?)」
 榎本の眸が溢すものは、宝石ではないけれど。
 ひとが流すインクの、なんとうつくしい事だろうか。
 心からそう思うけれど、不思議と騒めきは感じられなくて。
 蘭はふと、そんな疑問を抱いていたが。
 ……いいえ。ほんとうは、彼女自身がよく理解っている筈。

「(本当に、美しい光景だね)」
 互いに結ばれた縁の強さ、尊さを感じたのか。
 王子は柔らかく微笑みを浮かべて――だが、己の役目を果たそうと動く。

 不意に、二人を眩い黄金の光が包み込んだ。
 其れはまるで、王子の意志の強さを物語る様だった。
 本来ならばあたたかな、周囲にしあわせを齎すものだが。
 ……過ぎた幸福感は健常な精神を蝕み、理性を破壊する。

「なゆは――ナユは、なにを……」
 私は、何を望んだのだろう。
 わたしは、何を願うのだろう。
 いとを、あかを。でも、ああ……そんなことは、何方でも良い。
 金の内に秘める虹が輝くと同時、ぶわりと牡丹の花嵐が舞い踊る。
 牡丹が鮮やかに浮かぶ光景を目にして、榎本もまた己を取り戻してゆく。

「これは、私のエゴだ」
「あなたが望まぬとしても、利己のままに」
 ――此の王子を生かす。
 其れこそが、蘭と榎本が抱く意志だった。
 西洋親分たる王子が放つ虞にも、大祓骸魂放つ其れにだって。
 猟兵達は畏れない、決して恐れたりはしない。
 サファイアの両目に映るのは、とても強き心の輝きだった。

 ――ピキッ。
 筆が突き刺さる音と共に、王子の身体が崩壊し始める。

「猟兵達。本当に、ありが……と、う……」
 もう、悔いは無い。
 君達ならば、大祓骸魂を倒す事が出来る筈だから。
 倒れる間際に、王子は黄金を運び続けるツバメを確りと見た、けれど。

「――、――」
 王子は、ツバメへどんな言葉を掛けたのだろう。
 残念ながら、猟兵達でも聞き取る事は出来なかった。

 ――幸来。
 此の物語の主人公は、心優しき王子である。
 文字通り、著者の命を削って……ふたつのあかで綴られた物語。
 真の結末はどうなるのだろう?
 今は未だ、わからない。王子の生死は定かではない。

 あゝ、本当に。
 ひととは、あまりにもちっぽけだ。
 この運命を受け入れることしか出来ない身が、とても歯痒い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月15日


挿絵イラスト