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歪む視界。歪む世界。私は……まだ、見失えない。

#UDCアース #外なる邪神

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#外なる邪神


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「今日も遅くなっちゃった。早く帰って夕飯作らないと…。」
 学校からの帰り道、依里坂・依頼(いより)は腕時計にちらと視線をやりながら、街灯がつき始めた帰路を急ぎ足で駆けていく。
 お父さんが帰ってくるまであとどれくらい時間があるか。
 冷蔵庫には何があったか。この時間じゃ凝った物は作れないな。
「まだ特訓中だし凝った物が作れないのはどの道か。」
 自分の考えに苦笑しながらもその顔はどこか楽しげで、その間にも他の家事の順番を頭の中で組み立てていっていた。
 そして、学校から家までの道中にある川を跨ぐ大きな橋。
 その手前に差し掛かった時、いよりの視界の上から下へと違和感が過ぎていった。
 駆けていた足を止める。
 過ぎていった? 降ってきた? それは自分からは離れた川の対岸。橋から少しそれた場所に堕ちた…様な気がした。
 確かに見た。視界に入った。はずなのに、それをうまく言葉に表すことができない。
 ただ空から水滴が落ちる様に降ってきた様にも、目的を持った上で意志を持って墜ちてきた様にも感覚が印象を告げる。
 なにより視覚、感覚が『在る』と認識したにも関わらず、脳が『無い!』と認識を拒む様にそれが見えないと記憶の中でそれが見えない。
 そんな認識の上で無いとされた『それ』が、視覚の上で橋の陰に入るまでそれほど時間が掛からなかったにもかかわらず、まるで焼き付ける様な存在感でもっていよりの脳にその印象を刻み込んだ。
「……っ。」
 視界が揺れる。ぐらぐらと橋が波打って見える。
 明らかに悪い物を見た。いよりはそう思いながらも目を閉じ大きく息を吸い、吐き。
 一度深呼吸をし、再度目を開けた。
 現実に、橋が波打っている。と言うよりも、身を捩っている。
 外力など無く。そもそも通常であれば既に壊れてしまっているであろう程に身を捩じり蠢いている。
 それは、橋だけに留まっていなかった。
 草も、街灯も、家まで同じように蠢動し始め、人が呻き叫ぶような声も聞こえだした。
 そしてそれらが、火に当てられたように色を変えてゆく。
 赤、紅、朱、緋、丹、あか、アカ、亜化。
 病に侵されたように世界が斑に変容し、色彩に狂っていく。
 けれど赤色はきっと正確な表現ではない。ただ認識しないわけにはいかず、認識するうえで無理やり押し込めた色がそれであったと言うだけだ。
 アカが景色にぶつぶつと増え、拡がっていく。
 どこかから聞いた覚えのない、けれどワカル声が聞こえる。
『縺薙▲縺。縺ォ縺翫>縺ァ』【縺ソ繧薙↑繧ゅ↑繧阪≧】《縺阪∩繧ゅ◆縺昴′繧後↓』
 空気の中を、赤い言葉が這う。
「逃げないと。」
 後ろを振りかえる。けれど光景は変わりはしない。
 赤に冒される世界。電柱が捻れ道を塞いだ。
 ただ、歯を食いしばる。
「私はまだ…。」


「最優先対処事項。レッド・アラート。」
 相変わらず酔っ払いは酔っ払いだ。
「大変だぁねー。災害級だー。UDCの隠蔽でもー、なんかしらの大事件が起こった事にするしかないだろうねぇー。」
 酔っ払いはそう言うと横になっていた体を起こし地面に胡坐をかいた。
「事件の未然の阻止はぁ、ふかのー。予知は不可思議な色彩の落着。外なる邪神の肉片の落下の予知だからぁーそれは防げない。」
 へらへらとした顔で不可能を説明する。
「でぇー、向こうじゃー……まぁ全部ー、つまり世界が発狂し始めてぇ、邪神の肉体に作り替えられ始めてるんだけど―、無視して問題の中心に急いでぇー?」
 拡大を抑える必要はない?
「抑えるよりもー、元凶を消した方がきっと被害は少ないからー。拡大を抑えようと思って抑えられる物でもないしー。人を助けずにはいられない人はー、それでいいんじゃなーい。すきだよーそういうのー。」
 あはーとわらう。
「でー、今回必要なのはぁ、速さ。そしてぇ色彩に狂わない事。色彩の狂気は~君達だって例外じゃないからぁー。
 転送場所はー、元凶の出来るだけ近くにするけれどー。
 色彩の影響をこっちにまで出すわけにはいかないから少し距離ができちゃうんだー。」
 そして、酔っぱらいはニコニコしながら聞いてくる。
「行く覚悟が出来た人からどうぞ~。」


みしおりおしみ
 はぁい。
 今回のグリモアさんが語った内容を要約すればダッシュしてぶん殴る。
 つまり強襲。
 まぁなんの例も無く送り出すのはと言うだけなんで逃げる遊ぶ以外ならご自由にどうぞと言う感じです。

 場所:200mほどの橋と周囲に住宅地。
 色彩の落下地点は橋から少し離れた位置の河原。(オープニングの視点は原因の対岸)

 転送場所:オープニング視点近く(元凶に向かうのに橋ルート)もしくは、
 色彩が落ちた側の岸の堤防となるかと。その他猟兵様の考えで。
(どちらも距離的には400mほど色彩への距離は作ります。)

 狂う世界、有機無機問わず邪神でさえも狂う色彩。外なる邪神。
 とりまぶっとば。
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第1章 冒険 『“見るな、聴くな、知るな”』

POW   :    持ち前の気合で強引に湧き上がる感情を押さえつける

SPD   :    何かに没頭する事で湧き上がる感情を押さえつける

WIZ   :    抗うに足る理由を考える事で湧き上がる感情を押さえつける

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 世界に降り立つと共に、視界が揺れる。
 赤の一片を、一欠片が視界に入った瞬間に心に衝動が埋まれる。
 自傷衝動、自殺衝動。あのアカに身を委ねたいと言う破滅願望。
 いまだ距離があり、はっきりと目にしていないと言うのにその精神汚染はすさまじい物であった。
 それは近づけば近づくほど、強くなるだろう。
 目で見ずとも曝されているだけでココロが罅割れていく。
 それでもいかなければいけない。
 心を強く。思考を確かに。
 この現象の中心へ。
神代・凶津
おうおう、街が一面真っ赤っかだな。
相棒の巫女服には霊的防御で狂気耐性があるが、あまり長居はしたくねえな。

っと、どうした相棒?
「・・・まだ逃げ遅れた人がいるかもしれないから。」
一応捜しとこうってか?まあ、相棒ならそう言うと思ってたぜ。
いいんじゃねえか?気になる事は済ませといた方が戦いに集中できるだろ。

「・・・式、召喚【捜し鼠】」
捜し鼠で逃げ遅れた奴を捜索して見付けたら保護だ。
後は、結界霊符を貼り結界術で狂気耐性を上げて、捜し鼠にこの場から安全に逃げられるルートを捜させて道案内させて退避させるぜ。

さあ、改めて元凶をぶっ倒しに行くとしようかッ!


【技能・狂気耐性、式神使い、結界術】
【アドリブ歓迎】



 堤防の上に赤い鬼面を被った巫女服の華奢な女性が降り立った。
 その視界の先には赤に冒された当たり前から逸脱していく日常。
 日が落ち暗くなっていると言うのに浮かび上がる様に鮮明な赤。
『おうおう、街が一面真っ赤っかだな。』
 その光景を単純明快に評するその声は女性と言うには低く…と言うよりも男性の声であった。
「……赤い。」
 それに続くように女性の声が呟かれた。
 なんて事は無い。彼らは女性の神代・桜と鬼面の凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)のコンビであったのだ。
(ホント嫌になる赤だな。あまり長居はしたくねえな。)
 まだ距離はあるがそれでもわかる赤の異常性。
 どんな赤なのか形容する事の出来ないそれが、自身と相棒の耐性をどれほどの時間で染め上げ精神にまで達するのか凶津は考えていた。
 すると赤の中心へと向いていた顔の向きがすいと逸れた。
『っと、どうした相棒?』
 すわ相棒に異常を来したのかと思ったが、
「・・・まだ逃げ遅れた人がいるかもしれないから。」
 その言葉に一瞬で心配は消え心に苦笑が宿る。
 顔が逸れた方向は住宅地。単純に、人を心配しているだけであった。
『助けに行こうってか? まあ、相棒ならそう言うと思ってたぜ。いいんじゃねえか?気になる事は済ませといた方が戦いに集中できるだろ。』
 その同意と共に桜と凶津は発狂する住宅地へと走り出す。
 近づくと共に身を捩り狂う建築物が目に入り、そして多くの呻き声や叫び声が耳に聞こえてきた。
 多くの人は時間が時間故に家の中に居ただろう。けれど、不幸にも外に居り赤に狂った一般人は少なくなかった。なにより屋内に居る一般人であっても、発狂した家屋は大きくうねり平静ではいられない状態であった。
 グリモアの言った、元凶を消した方がきっと被害は少ない。これは確かにそうだ。
 全員どうにかするよりも原因を消した方が早いだろう。しかし…
「・・・式、召喚【捜し鼠】」
 相棒が式神を召喚する。
『相棒、結界霊符はった方が良さげだぜ。』
 怖ろしい事に式神を召喚した端から発狂の兆候を見せたのだ。
 式神がこうなのだ。ならば、外で耐性の無い一般人が影響に曝され続ければどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。
 元凶へ向かいそれを消す方が被害は少ない。けれど少ないだけだ。
 そうしていれば、きっと、少なくとも。今、桜が救おうとしている人々は死んでいただろう。
 狂気に対するある程度の防護を施された捜し鼠が住宅街へ散り、自身も歪み狂う住宅地を駆ける。
『頭がおかしくなりそうだなこりゃ。』
 地面は波うち建物が捻れ街灯がゴムの様に曲がりくねる。
 まさしく悪夢。
 そんな中見つけた一般人はどれも自傷衝動に囚われていた。
 壁や地面に拳や頭を打ち付ける。自分の体を爪で引っ掻き続ける。
 中には赤く染まり始めている者も居た。
 結界霊符を張り進行を遅らせ、自分で動けないものが大半だった故引きずる様にして急いで赤から距離を作り物陰へ退避させた。
 けれど、既に精神に突き刺さった自傷の狂気は消えはしない。
『ちっ。』
 それを認め凶津は気絶させるも、再び起きれば繰り返すだろう。
 だからこれは、彼らが再び起きるまでがタイムリミットだ。
 それまでにこのレッド・アラートを制圧し、UDC組織が介入できるようにする。
 現状赤の影響下で外にいるものはおそらく対応できた。
 屋内のものまで目を向けるには、時間が掛かり過ぎる。
 ならば。
『さあ、改めて元凶をぶっ倒しに行くとしようかッ!』
 時間との勝負だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
離れていても、こんなに心が…
縋るように、愛する『黒』を、withを胸に抱きしめる
狂っていく世界は嫌でも見えてしまうけど
腕の中の感触に意識を集中して、暗示を掛ける
…大丈夫、大丈夫。お散歩してたら、気になる場所を見つけただけ
だからちょっと見に行くだけ
いつもと変わらない、ね

いきなり近付くと、心が耐え切れないかもしれない
だから、焦らないように、努めて普段通りに、歩いて近付く
強くなる汚染を、より強く掛ける暗示で塗り潰して対抗する
…そうだ、私も持ってる。あかいもの
嫌いなものを拒絶する緋色が自身の周りに壁を作る
私の心は、withだけのもの
これ以上、入って来ないで

…黄昏の景色は好き
来て欲しいなら、行ってあげる



 赤色。まるで心を掴む様に瞳から入り込んで軋ませてくる。
「離れていても、こんなに心が…。」
 一度瞳を閉じるも残像の様に瞼の裏に残り離してくれない。
 春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)はは頬を冷たい汗が伝うのを感じながら、最愛の『黒色』を、常に共にある『with』に縋る様に抱きしめながらゆっくりと息を吸い、吐く。
 瞳を開く。
 視界の中に狂っていく世界が嫌でも入ってくる。
 けれど、『黒色』を見つめる。『黒色』の感触に集中する。
 それ以外見えない。感じない。知らないほどに。
「…大丈夫、大丈夫。お散歩してたら、気になる場所を見つけただけ。」
 口に出して呟く。そうなのだ、と自分に聞かせる。
「だからちょっと見に行くだけ。」
 いつもの寄り道。気の向くままに行き先を変えて。
「いつもと変わらない、ね。」
 いつも通り、私は変わらない。『with』が居るから。
 もう一度瞳を閉じ、開くと目を前へ向けた。
 瞼の裏には赤色は無く、黒色だけがあった。
 橋へ向けゆっくりと歩みを進める。いつも通り。普段通り。
 近づけば近づくほど影響が強くなると言うのだから、焦って近付けば心が耐えきれなくなるかもしれない。
 だから意識して、努めて普段通りに歩を進める。
 ともすれば視界の端に赤色がチラつき、欄干から川へ身を投げてしまえと言う衝動が小さく浮かぶたびに、『with』を抱く腕に力を込めてより強く自分に言い聞かせ暗示をかける。
 向かう場所だけを意識する。そこに何があるかも、道中に何があるかも、目的も意識から外して向かう事だけに集中する。
「ああ…そうだ。」
 そういえば、という様に呟く。
「私も持ってる。あかいもの。」
 こんなくるしい赤色でも、何かを求める赤色でもなく、嫌いなものを拒絶する緋色だけど…。
 春乃の背から緋色の翼が広がり、その周りを炎が取り巻く。
 自分から景色を奪う。
「私の心は、withだけのもの。これ以上、入って来ないで。」
 周囲と隔絶し拒絶する様に。
 地面が揺れているけれど、別にそのぐらいなら気にすることでもない。
 吊り橋や波に揺れる船とは違うけれど、自分にとってはこういう道も慣れた物。
 そうして黙々と歩を進め、対岸まで辿り着けば声が聞こえてきた。
 いや、もしかしたらずっと聞こえていたのかもしれない。
 そんな風にも思える風に溶けた理解不能な声。
《縺阪∩繧ゅ◆縺昴′繧後↓》『縺薙▲縺。縺ォ縺翫>縺ァ』
』縺。縺後≧縺。縺後≧縺。縺後≧縺。縺後≧縺。縺後≧『
》縺ゅ°縺ゅ°縺九◆縺昴′繧後≠縺九◆縺昴′縺ゅ°《

 うるさい声。
「…黄昏の景色は好き。来て欲しいなら、行ってあげる。」
 後は土手を、下るだけ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九重・灯
表に出ている人格は「わたし」です。橋側から元凶へと向かいます。

……これは、厳しいですね。
自分の首に爪を立てて掻きむしりたい衝動を押さえ込み、深呼吸をして酸素を脳に送り込む。
地形の変異は酷いですけど、空気はまだ普通に呼吸できるようですね。

魔力を体内に巡らせる。耐性を補強……精神汚染の浄化。
『魔力溜め3、狂気耐性5、オーラ防御3、浄化3』
しばらくは、これで持つはず。

UC【幼心の魔法】。空間を満たすアカに不快そうに蓋を鳴らす、まどろむ仔猫の匣をなだめて力を引き出す。障害物を飛び越えて進む。
『空中浮遊』

一般人がいるのならサンドマンの眠り砂で眠らせるけど、安全圏まで運ぶ余裕はありません……。
『催眠術5』



「音声のみ記録開始します。ケース、レッドアラート。外なる邪神の肉片飛来。」
 九重・灯(多重人格者の探索者・f17073)は録音機器のスイッチを入れながら冷静に言葉を記録させる。
「距離は現在凡そ400m地点。周囲に物理的影響は確認できません。現地点での精神的影響は…。」
 九重はいつの間にか首元に上がりかけていた手を、もう片方の手で押し下げながらそれでも業務的に声を入れる。
「精神への影響は重度。種別は自傷。突入を開始します。」
 記録を一旦区切り、駆け足で道を進み始める。
(……これは、厳しいですね。)
 まるで何でも無いかのように駆けながらも、九重は内心そう吐き出す。
 衝動を一度認識してしまえばまるで中毒の様に心に湧き上がってくる。
 UDC組織のエージェントとしての使命感でもって衝動と言う欲望に蓋をしてはみたが厳しいものがあった。
(普通の職員の耐性ではあっても焼け石の水でしょうね。)
 九重は呼吸に意識をやり、そして次に自身の体内を巡る魔力へと意識を向け集中する。
 そして魔力を膜の様に体に纏い、同時に体内の毒素を掻き回すように精神汚染を低減さていく。
(これでしばらくは…持つはず。)
 そうしながら進んで行けば、次第に道路は波うち塀などが飴細工の様に歪み始めていく。
「距離、中心から凡そ250m。物理的影響範囲化に突入。物体はその物の耐久性や固さを無視した動きをしながらも破損はみられません。また、所々……………赤? 暫定的に赤としますが赤色へ変異しています。」
 九重は声を記録しながらも発狂し動く障害物と化した建設物を避けながら少し進むもどうしてもペースは遅くなる。
(仕方ありません…飛び越えていきましょう。)
 初めからそうすれば楽ではあった…のだが、そうする為の『まどろむ仔猫の匣』がどうも不機嫌で仕方なかった。
 匣を取り出した今でも周囲が気に入らないとでも言うように蓋が鳴る。
(アカを消す為だから。少しでも早く消す為に、力を貸してくれますか?)
 そう匣を優しく撫でながら心の中で問いかければ、匣の中から小さな猫の鳴き声が聞こえると共に体が軽くなる様な感覚がした。
(ありがとう。)
 そう感謝しながら九重は軽々と道を塞ぐ障害物を飛び越えて行く。
「中心、肉片の落下地点から凡そ200m。目視。」
 九重は落下地点の反対の土手に立っていた。
 大きく踊る橋を横目に見ながら観測する。
「落下地点周囲は赤に変わっています。動いているものは……っ。」
 目を凝らした瞬間、視界が揺れる。
 数拍。顔を逸らした状態で視界が徐々に戻り始める。
「……詳細な確認は困難です。」
 それだけ確認すると橋へとルートを戻した。
 蠢く橋を渡るのなら川を飛んで越えた方が早いと思ったが、アカに中てられて飛んでいる最中に投身させられてはたまらない。
 速さを求めて回り道させられるような余裕はない。
 橋を低く飛ぶように、けれど橋から当たりに来るのに気を付けて渡りながら、思い起こす。
 橋に至るまで短い間ではあったが、道路横の路地裏のアカから影になる場所に幾人か発狂した住人がいた。
 とりあえず『サンドマンの眠り砂』で眠らせはしたが、それらを担いで道を引き返す余裕も無いし、一応アカからは隠れているからと放置した。
 危急と早急。どちらがより早くかと言われれば、時間が経てば経つほど発狂者が増える可能性があるアカの排除だ。。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『黄昏の救済・分霊体』

POW   :    あの浜辺でみんなが待っている。痛みを得た君を。
【輪郭の内側から押し寄せる血色の波】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を亡者の這い出る黄昏の浜辺に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    その痛みが、君の生きている証。痛みこそ命の意味。
【子供のような笑い声と共に皆で踊り狂うこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【地形ごと黄昏の浜辺に取り込ん】で攻撃する。
WIZ   :    苦痛に満ちたあの浜辺で。さぁ、一つになろう。
【激痛を呼び覚まし、法悦に変える赤い雨】を降らせる事で、戦場全体が【輪郭の内側と同じ、苦痛に満ちた黄昏の浜辺】と同じ環境に変化する。[輪郭の内側と同じ、苦痛に満ちた黄昏の浜辺]に適応した者の行動成功率が上昇する。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 辿り着いた落着地点。
 拡がり行く色彩の中心地点。
 河原であったであろうはずのその場所は既に、草も地面もアカに染まりきっていた。
 濃淡すらない不可思議なその色彩は、ともすれば深く深く引きずり込まれてしまうような赤い深海の様にも感じた。
 違う。そんな事はない。
 アカに染まっているとしてもまだそこに地面はある。
 そう思ってしまったのは色彩の狂気と、UDCの能力によるものだろう。
 ズルリ…と、アカの地面から赤とアカの斑の人型が立ち上がった。
 一つ、二つ、三つ……次々に水面から現れる様に姿を現す。
『縺溘◎縺溘◆縺昴′縺溘◎縺後′縺後′』
 理解できない言葉が空気に乗る。
 理解できない。けれど狂気の洞察がそれを察せられた。
 そのUDCは狂っている。邪教徒によって召喚されたはずのそれは、同時に吸い寄せられた外なる邪神によって狂わされていた。
 赤色がアカイロに染まっていく。
 痛みに狂うそれが悲鳴を上げる。
 仲間を、仲間を、邪神の肉体を作り上げる為に。
 色彩はより鮮烈に、強く強く強く放たれる。
 時間をかければ猟兵ですら発狂しアカに染まってしまうほどに。
 精神を保っている間はアカに染まる事は無い。
 だから早く、これらを圧倒し核を引きずり出さなければ。


 黄昏の救済の攻撃は全て重大な精神ダメージへ変わっています。
春乃・結希
は…流石にちょっときつい、かも…
あかい色が怖いって、思う時が来るなんて…

私が心を護るには、大丈夫だって思い込む事しかできないから
狂気が入り込む隙間が無いように、これまでふたりで歩いた旅路から、楽しいことだけ思い出して
絶対に大丈夫だから絶対負けないから絶対絶対--…
広がった焔は自然と背中に集まり密度を増して
それでもアカが入ってこようとするから
負けそうになるのが怖くて、悔しくて
涙が溢れそうになるのを堪え、聞こえる声から少しでも気を紛らわせるように、言葉にならない声を上げながら
ヒトガタを切り伏せていく

まだ、核が残ってるのに、こんなんじゃ駄目なのに…
どうしようwith…ちょっと私、自信無いかも…



 理解不能な悲鳴が響き渡る。
「は…流石にちょっときつい、かも…。」
 春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)が直面するあかいせかい。目の前に広がる一面のアカ。
 ただ単に視界が赤で一杯なのか、視覚がアカに染まってしまったのか分からなくなってしまうほどのその空間を見ていると、認識に異常を来したのか脳がじくじくと痛みだす。
「あかい色が怖いって、思う時が来るなんて…。」
 大概の人にとって色は色であり赤は赤。怖ろしいと思うものではない。
 けれど、この場所に辿り着くまでの短時間。そしてその中心点を見るに至り春乃の内に赤色への恐れが出来上がりつつあった。
 唾を…飲み込む。
「絶対に大丈夫だから絶対負けないから絶対絶対--…。」
 視界に『黒色』を入れる。その握り慣れた持ち手の感触を確かめる。
 共に歩んだ旅路を思い起こす。
 どれほど共に歩んできただろうか。どれほどの時間を共にして来ただろうか。
 どれほどの死線を共に越えただろうか。どれほど、命を預けてきただろうか。
 綺麗な景色を見た。そうでない光景を見た。
 温もりを感じた事があった。苦痛を感じた事もあった。
 楽しいと言える記憶だけじゃない。
 けれどそれら全てが一緒に歩んできた大切な思い出。
 『with』と一緒に過ごした。
 心を思い出で満たす。心を自分と『with』だけの世界にする。
 そうしていると、春乃を守り覆う様に広がっていた炎がゆっくりとその背に集まり、緋色の翼の様に……。
【莉イ髢薙↓縲∝ッゅ@縺上↑窶ヲ】
 口元が戦慄き、それを隠す様に歯が軋むほどに強く噛み締める。
 声が心の隙間を見つけて入り込んでくる。
 だから、
「――————————!!」
 叫んだ。喉が壊れてしまいそうな程に叫びながらアカい世界に飛び込んで、赤いヒトガタを切り伏せる。
 怖くて、怖くて、心が負けてしまいそうなのが怖くて。
 隠す様に『with』を振るう。
 自分の在り方が崩されそうなのが何よりも怖くて悔しくて。
 強がる様に『with』を振るう。
 涙が滲みそうになる視界に、子供が遊ぶ糸人形の様に手足を出鱈目に歪に振り回しのた打ち回る/踊るヒトガタと、悲鳴/笑い声が耳に刺さる。
 反射的に横に跳ぶ。大きく二度。
 ヒトガタの先にあった空間が空気ごとアカに染まる。
 そして崩れる様に堕ちれば、地面をアカく染めながら沈んで行った。
 否応なしにアカが視界を埋める。
 声を上げても入ってくる声が怖い。
「まだ、核が残ってるのに、こんなんじゃ駄目なのに…。どうしようwith…ちょっと私、自信無いかも…。」
 手の中の『黒色』はまだ、赤色には染まってはいなくとも。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九重・灯
人格が「オレ」に替わる

また邪教徒の召喚に便乗して肉片が落っこちてきたってパターンかよ。まったく、どっちも迷惑なヤツらだ。
周りもアイツらも同じような色だから見えにくいんだよ。保護色かっての!
音声記録取ってようが構わず悪態を吐く。

UC【彼方なる空中遺跡】。空中に石で組まれた足場を幾つか創造する。
足場の上を走り、飛び移るようにして血色の波と現われた亡者をやり過ごす。
『ダッシュ5、ジャンプ5』
あの中の仲間入りはゴメンだね。

詠唱拳銃で魔力を込めた弾丸をUDCに撃ち込む
『2回攻撃5、魔力溜め3、エネルギー充填1』

アカイロの影響でUCの想像が阻害されそうだけど気合いでなんとか持たせる
『狂気耐性5、気合い5』



「また邪教徒の召喚に便乗して肉片が落っこちてきたってパターンかよ。まったく、どっちも迷惑なヤツらだ。」
 九重・灯(多重人格者の探索者・f17073)は悪態をつくも考える。
 この場に着いた時点で邪教徒らしき影はなかった。
 逃亡済み、とはこの近距離で色彩に耐えられるとは思えない。
 ならば、既にこのUDCの仲間入りをしているか。
「は…。」
 まず間違いなく召喚した側としては大失敗なのだろうが、それを収拾する側としてはレッドアラートなのだから原因や過程など考えた所で乾いた笑いが出るだけであった。
「ともかく…。」
 微かに震える手で詠唱拳銃を取り出し、狙いを定め引き金を引く。
 魔力を込める特殊弾である都合上、連射する訳にもいかず狙って撃たなければいけない。
 要は、アカ色に集中しなければならず気を抜けば頭の中がアカ色染まるような錯覚がする。
「機関銃でも欲しくなってくるな。狙わずにバーッて。無理な話だけどな。」
 そんな事を愚痴っていると幾つかのヒトガタがおかしな態勢を取り始めた。
 背を逸らす様にエビぞりになり、ついには頭の部分が地面にまで到達する。
 そして数度びくりびくりと痙攣すると、ごぼりとでも音が鳴りそうな勢いでアカ色の液体が溢れ出し、そのヒトガタを覆い隠す。
「ハ? っておいおい。嘘だろ?」
 初めは理解不能。次にそんなまるで噴水の様な状態のまま近づいてきている事に気づいた呆気。そして銃弾を撃ち込めばアカに呑まれてヒトガタに届かなかった事への驚愕。
「ままならねぇなクソが! 遺物の封印を解放!」
 九重がそう叫べばまどろむ仔猫の匣が小さな音を立て開き、まるでだまし絵の様にその小さな箱から石造りの足場が伸びていき空中に足場を創り出した。
 そして九重が急いでその足場に飛び移り安全を確保して、見ていればヒトガタは十数秒で下をアカ色の液体で塗りつぶした。
 九重が苦々しくその様子を見ていると、そんな赤色の中に所々黒い物体があった。
「あれは……人、亡者か?」
 ヒトガタのUCに、亡者が這い出てくると言うものがあるが…その亡者はピクリとも動かなかった。
 その体の大部分はアカ色に覆われており、探してみればそんな物が幾つも目に付いた。
 明らかにアカ色の色彩はヒトガタの内側にまで影響を及ぼしていた。
「邪魔になる要素が減ったってだけ救いか? 小さいけどな。それよりも…。」
 慰めか焼け石に水の様な僥倖を感じながら、見回してみて気づいたことを叫んだ。
「周りもアイツらも同じような色だから見えにくいんだよ。保護色かっての!」
 横からならまだ影響を受けていない遠くの景色により見つけるのが容易であったが、上から下を狙うのでは対象も地形もアカ、アカ、アカ。
 音声記録を取っているにも構わず悪態をついた。
 ヒトガタの位置はアカ色の波の噴出点である故、探せば見つける事が出来るがそれには集中してみる必要があった。
 また、九重が作り出した空中の足場は、九重の想像によって作り出されたものであり、その精神に何らかの異常が生じれば崩れて行ってしまうものであった。
 つまり、
「…………。」
 九重はアカ色による精神への影響を気合で持ちこたえながら、特殊弾により多くの魔力を込めアカ色の水を突き破り確実にヒトガタを撃ち抜く。
 そんな精神を摩耗させる芸当を演じて見せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神代・凶津
落着地点に到着したが、案の定酷い汚染状況だぜ。
相棒、巫女服に結界霊符を貼っつけといて狂気耐性を引き上げとけよ。
んじゃ、さっさと目の前の分霊体をぶっ倒して核を引きずり出すぞッ!

炎神霊装でいくぜ、相棒ッ!
「・・・転身ッ!」
炎翼を展開して高速飛翔で敵に一気に接近して生成した破魔の炎刀で斬り祓っていくぞ。

敵が踊り狂いだしたら攻撃の前兆だな。上空に飛び上がって
地形ごと黄昏の浜辺に取り込んでくる攻撃を回避してやるぜ。
そしてそのまま炎翼から炎刃を放って敵にカウンター攻撃をぶちこんでやる。

てめえらのアカを俺達の炎の赤で染めてやるぜッ!


【技能・結界術、狂気耐性、空中戦、破魔、カウンター】
【アドリブ歓迎】



『到着したが…。はっ、案の定酷い汚染状況だぜ。』
 落着地点に到達した神代・桜と凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)が目の当たりにした光景は道中など比にならないほどの有様であった。
 遠距離感が狂うほどの一面のアカ。
 その色全てが自分を引きずり込もうとしている様な感覚を覚える、肌が泡立つような悍ましい存在感。
『相棒、結界霊符を自分に貼り付けとけ。耐性引き上げとかなけりゃ危ないぜ。』
 凶津のその忠告に桜自身も感じ取っていたのか、小さく頷くと残りの結界霊符を体の各所に貼り付け準備を終えた。
『準備は出来たか? 覚悟はいいな相棒?』
 静かに手を前へと突き出す。無音の返答。
『んじゃ、さっさと目の前の分霊体をぶっ倒して核を引きずり出すぞッ! 相棒!』
「……転身ッ!!」
 凶津の声と共に、桜の声が鋭く響く。
 桜の背に激しい炎が顕現し、翼の形を成す。
 凶津である鬼面と緋袴が呼応する様に橙へと色が移り変わる。
 色彩のアカと神代の赤。
 認識の上では同じ色のはずなのに、どうしようもなく印象が違い過ぎる。
 炎翼は激しく、荒々しく、火の粉を撒き散らし溢れるほどの輝きを放つ動と生の化身だと言うのに、アカはどうしようもなく静かで、冷たく、粘つく様で、はっきりと目に映ると言うのに明るいなどと思えない死を思わせる。
 そんな赤が一直線に軌跡を残し、アカの上を奔る。
 炎翼による飛翔。同じ炎で拵えた炎刀をを手に分霊体を斬り祓う。
 アカい世界の上に赤の軌跡が走るたびに分霊体が一つ、一つと斬り割かれ溶ける様に沈んで行く。
 そんな中、唐突に神代が上昇する。
 直下、上からでは地形に紛れて上手く認識できないがかなりの空間が、空気ごとアカに染まりそして崩れ消えたようだ。
『前兆が分かれば、速度があるから怖くはねえな。』
 炎翼を大きく羽ばたく。
『そんじゃ、お返しだ! てめえらのアカを俺達の炎の赤で染めてやるぜッ!』
 そして羽ばたいた翼から多くの炎刀が放たれ無差別にアカい領域に突き刺さる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
世界ごと歪んで見える程の目眩がする
この声も、悲鳴も、こちらを呼んでいるような
…拙いな、まともに聞いてしまえば引きずり込まれそうだ

まずは銃による射撃で、遠距離から確実に人型を減らす
血色の波は敵を観察して発動を見極め回避を試みるが、躱し続けることは困難かもしれない
範囲が広い上に、変質した地形から這い出る亡者に妨害されかねない
逃げ場が無くなり囲まれるようならユーベルコードで反撃し包囲を突破したい

戦いながら徐々にペースを上げていく
まだ正気を保ってはいるが、影響が既に出始めている自覚はある
深刻な精神ダメージに至る前に勝負を決めたい
声を振り払い、目眩を堪えて、標的である人型を注視し引き金を引く事に集中する



「………―。ー。」
 小さく、息を吸う。静かに、吐き出す。
 最優先対処事項と呼ばれる物はどんなものかなど、聞く限りで危険と十全に分かる物であった事だが、それを目にすればそれでさえ不十分だと実感する。
 出来る事なら関わる事さえしたくない。
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の心が逃避を訴える。
 落着地点をその目で見た瞬間、世界が歪むような感じがした。
 現実確かに色彩によって発狂した物が歪み動いてはいるがそれとは違う。
 眩暈の様に世界が回り、視界が歪んだにも関わらず、アカだけがはっきりとその視界の中で映っていた。まるでそれだけが確かな存在の様に。
 気を抜けば膝を突いてしまいそうなその影響下の中、シキは冷静に視界が元に戻るのを待つ。気を抜かない為に、焦らずに冷静である事を努める。
「一度受けた仕事は完璧にこなす…だろう。」
 そう自分に聞かせるように呟いた時には視界は正常へと回復していた。
 拳銃を、人であれば呆然と立ち尽くしている様なヒトガタへ向ける。
 視界は正常、構える腕にブレはない。引き金を引けばいつも通り、狙い違えるはずも無く人型の頭部に命中しアカに沈ませる。
 さっきまでは戦いの内ですらない。これから、戦いが始まる。
 撃たれたヒトガタの周囲のヒトガタの顔がぐるりとシキへ向く。
 存在しない視線がシキへと幾つも向けられる。
 構わず二度、三度と引き金を引き確実に撃ち抜いていく。
 ゴボリと。けれどヒトガタが反り返りその輪郭から洪水の様にアカい波が押し寄せる。まるで吐瀉する様に吐き出されるそれに、勢いを、銃弾を殺され致命傷に至らなくなる。
「……。」
 行動に焦りは作らない。
 波は範囲は広いが銃弾の様に飛ぶ事は無い。
 なにより、這い出るはずの亡者は波間に漂う死体の様にピクリとも動かない。
 ならば、一定の距離を作り続ければ危険はない?
「…拙いな、まともに聞いてしまえば引きずり込まれそうだ。」
 そうだ。この場所に居続ける事、戦い続けること自体が危険なのだ。
 聞こえる悲鳴が、声が、“呼んでいる”と聞こえるほどになっている。
 だからペースを上げる。
 正気の意識が狂気の影響を自覚した故に、致命的な精神の歪みを生む前に勝負を決めに掛かる。
 意識を前傾に、UCの射程により多くの標的を収めようとする。
 アカい波がシキの逃走経路を潰した。無事であった地面がアカに汚染される。
 逃げ場が消える。いや、あの汚染された場所を無理やり通れば逃げられるが精神にどれほど負担がかかるか分からない。
「――。」
 シキはそんな状況で息を止める。
 恐怖ではなく、集中の為に。
 連続で引き金を引く。弾が切れれば機械の様な正確さで弾倉を入れ替え再度撃ちきる。
 ヒトガタ一つに対し2発。
 一発が吐き出される波を中ほどまで穿ち、二発目がその隙間に追従する様に入り込みヒトガタを貫く。
 一斉に止まるアカい波と沈むヒトガタ。
 戦闘を決め切る確信ゆえの、攻勢姿勢であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『黄昏の救済・飛翔体』

POW   :    曰く、孤独と絶望から救いあげる痛みという共通意識
召喚したレベル×1体の【苦痛を尊ぶ黄昏の教義に命を捧げた殉教者】に【殉教者の骨と肉で造った剣を持たせ、血の翼】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
SPD   :    曰く、心を純粋な苦痛だけで満たす救済の赤い鳥
【苦痛への信奉と希望】を籠めた【飛翔する鳥の輪郭の翼】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【黄昏の教義への忌避感を消し、痛覚と正気】のみを攻撃する。
WIZ   :    曰く、人に流れる血の赤を区別なく啜る平等の神
【拡げた翼】から【血生臭く、纏わりつくような生温い風】を放ち、【耐えがたい希死念慮と自傷衝動】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は火奈本・火花です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 悲鳴が、不愉快な声が絶える。
 ヒトガタが撃退され、一時の安堵と警戒が心の中で混ぜ合わされる。
 一難は去った。あとは核を探すだけ。
 不愉快な声は消えても不愉快な光景は未だ眼前に広がったままであり、色彩の侵食は未だ進んでいるのだろう。
 一歩、アカい領域へ踏み込もうとした時、視界に動くものが映る。
 ヒトガタかと思い緊張し構えるが、目を凝らせどヒトガタは居ない。
 一度頭を振り観察する。
 ズ…、とアカが動く。
 アカが中心地点へ収縮する様に地を這う。
 ズ、ズ、ズ、ズズ、そしてすー、と滑る様に動きす。
 視線をその中心へとずらせばアカが上へと伸びていた。
 拡がったハンカチの中心を摘まみ、持ち上げた様な。そんな形容がぴったりだろう光景であった。
 上へ上へ。アカが上へ伸びていき一面のアカが全て空へと持ち上げられる。
 よく目を凝らせば住宅地に斑に散っていたアカまでもが『それ』へと集まっていっていた。
 間違いなくそれが核であり、外なる邪神の肉体へ作り替えられている『邪神』。
 ならばと武器を構え先制を行おうとした時、『それ』が羽を広げ、羽搏く。
 アカい羽根が空を覆う。空が、アカに染まる。街が、アカの下に収まる。
 その光景は黄昏などと言うにはあまりにも生易しく、悍ましい空。
 だと言うのに、惹き寄せられるように堕ちてしまいそうになる空。
 見ない事、気にしない事、無視する事など不可能に近い災厄。
 その下に居るだけで心を死と親和させられる。
 そしてなにより、何もしなければ……あの空が降ってくる。


 空(黄昏の救済)が降ってくるのはシナリオ失敗時のみです。
 邪神は300mほどの高度に存在します。回避行動はしません。できません。
 代わりに邪神その物の力に加え、血を出す事への欲望と、アカへ落ちて行こうとする願望が生まれます。
九重・灯
「……っ!? ぐ、がはっ」
空を見上げていた自分が息を止めている事に気付き、慌てて呼吸を再開させる。
クソッ! 何なんだありゃあ!?

(「このままでは犠牲者が増えるばかりです」)
頭の中でもう一人の自分の声が響く。
オレのオススメは撤退だがな。あの高度の相手と戦うのは難しい。ましてやこの状況だ。
(「……お願いします」)
チッ、どうなっても知らねえぞ。

UC【彼方なる空中遺跡】。敵に届くように巨大な塔を創造して駆け上がる。頂上は戦いやすいように広く形成する。
殉教者を剣で斬り、本体に銃弾を撃ち込んでやる

アカイロの影響がかなり大きいだろう。この塔を他の猟兵が利用するのはもちろん歓迎だが、いつ崩壊するかわからないな



「………。」
 息を飲んだ。
 空を覆うあのアカ色から目が離せない。
 アカ一色であるはずなのに、オーロラの様に揺らめき色が踊っている様なその光景に見入る。
 見入る。見入る。魅入る。アカだけを見つめる。意識がアカだけに向く。
 まるで落ちる様に視覚がアカに向かって伸びていく。
「……っ!? ぐ、がはっ」
 視界が黒に、意識が落ちかけた。
 九重・灯(多重人格者の探索者・f17073)は膝を突きながら、いつの間にか限界を越えそうなほどに止めていた呼吸を再開する。
 苦しさに気づかないほどに魅入っていた。それほどまでに、一瞬で入り込んできた。
「クソッ! 何なんだありゃあ!?」
 幸か不幸か、魅了されたのは顕現したその異様さに目を奪われたその一瞬の隙。
 気を抜かなければ、まだ正気でいられる。
『このままでは犠牲者が増えるばかりです。』
 頭の中でもう一人の自分の声が響いた。
 んなこた分かってる。そう口にしながら頭の中で状況を整理する。
 相手の高度。手持ちの武器。UC。何より…
「オレのオススメは撤退だがな。」
 肌が粟立つほどの死へと向かわせる狂気。
 気を抜かなければ正気でいられるが、戦い傷つき苦痛を感じれば、それがあの邪神が最も入り込みやすい隙となる。
 だから、
『……お願いします。』
 内から返ってきたのはそれでも、と弱弱しいのに強い言葉。
 荒事担当は『オレ』の担当で、九重灯の攻撃性が『オレ』だと言うのに。
「チッ、どうなっても知らねえぞ。」
 もう一人の自分だってあの狂気を理解していて実感しているはずなのに、まだ折れていない。
 なら。
(やってやろうじゃねえか。)
 二人分の意思で背中を押す。
「遺物の封印を解放……。それは夢の向こう側に垣間見た幻想!」
 確かな想像をする為に、宣言する様に言い放つ。
 九重の目の前の地面から巨大な塔が土煙を巻き上げながら突き出し、勢いよく上へと伸びてゆく。
 石造りの円柱状の塔。
 九重もその外壁に掴まると、塔が伸びるのと一緒に上へと持ち上げられていった。
 勢いよく塔は伸びていき、邪神へと接近していく。
 未だ直接的な攻撃は来ない。出来るだけ接近し直接銃弾をぶち込む…と睨みつけていたら、塔の最上部が花が開く様にめくり上がった。
「ちっ…!」
 塔の延長を止め、アカに発狂し捲り上がった塔の一部を切除し放棄する。
 落ちていく石片は創造の力から離れた事により砂の様に崩れながら地面へと散っていく。
「ここまでか。」
 もう外から先を確認する必要もない。塔の内部へと入り込み頂上に出る。
 閉塞感。圧迫感。
 地面で感じるよりよほど重い緊張感。
 冷や汗が流れる。
「けど、ここからなら届くだろう。」
 笑って迷いなく銃を邪神へと向ける。
 後は魔力を込めて撃つだけ。外す心配もない。
 ぐしゃりと、頂上の床に勢いよく赤色がぶつかり潰れ滑る。
 人と鳥を歪に混ぜ合わせた様な肉と骨の塊が、地面に赤い尾を引きながら縁に引っかかっていた。
 次の瞬間、まるで霰の様にそれが塔目掛けて降り注ぐ。
 邪神の内から次々と、飛ぶ為に飛ぶのではなく、落ちる為に飛ぶ狂った人間大の肉の塊が塔の頂上へ向け勢いよく加速し、飛ぶ。
 飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。飛ぶ。
 数十などでは足りぬ数。数百が1分と経たないうちに頂上へと降り注ぐ。
 それが止んだ時、塔の先の方は真っ赤に染まり、血煙で様子も伺えない。
 一般人であれば狂気など関係なく、その有様だけで発狂するような光景。
「オレだけだったらどうなってただろうな。」
 血煙の中、声がした。
「オレだけだったらまず逃げてたし、今のだってやばかっただろうな。」
 血煙が晴れたその隙間から、創造された石造りのシェルターが覗く。
「オレだけじゃこれだって崩れてたかもな。けれどあいつが行くって決めて、オレが来たんだ。なら、出来るだろ。」
 シェルターが崩れ、一歩も動かず銃を構えたままの九重の姿が現れる。
「全力だ。体に微塵も魔力が残らないほど込めてやったこの一発! ぶち込まれろ!」
 引き金が引かれ、放たれる一発の弾丸。
 邪神と比べればあまりにも小さな弾丸。
 しかしそれは羽根を貫き、そして巨大な亀裂を走らせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神代・凶津
(炎神霊装状態を継続中)

ちぃッ!まるで空が喰われてるみてえだ。しかも今にも降って来そうだぜ。
「・・・させません。何としてでも止めます。」
おうよ、相棒ッ!巫女服に貼ってる結界霊符の出力を上げて狂気耐性を強化しな。
んじゃ、一気にあのアカい空まで翔んでいくぜッ!

敵の攻撃を見切ってよけながら炎翼で飛翔していくぜ。
避けきれそうにない攻撃は炎翼から炎刃を放ちぶち当てて軌道をそらして受け流すぞ。

射程距離に入ったら炎刀に限界を突破する程の破魔の霊力を込めて一気に叩き斬ってやるぜッ!

アカを斬り裂いて本来の黄昏空を取り戻してやるぜッ!


【技能・狂気耐性、空中戦、見切り、受け流し、限界突破、破魔】
【アドリブ歓迎】



 空が重い。
 頭上を覆いつくしたアカい邪神は押し潰す様な気配を持ってそこにある。
『ちぃッ! まるで空が喰われてるみてえだ。しかも今にも降って来そうだぜ。』
 神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)は毒づく。
 降って来るとそう思った予感はなんとなくの感覚ではあったが、放置すればそれは必ず起こると言う確信に近い危機感もあった。
「…させません。何としてでも止めます。」
 そして桜自身も同様に感じ取っていたのか気持ちが逸っていた。
『おうよ、相棒ッ! 巫女服に貼ってる結界霊符の出力を上げな。』
 凶津にも逸る気持ちはわかる。
 アレは脅威だ。長引かせれば長引かせるほど被害は増える。
 そして、アレが落ちれば一瞬でこの町は消える。
 わかる。だからこそ逸る気持ちを抑えつける。
『んじゃ、一気にあのアカい空まで翔んでいくぜッ!』
 逸る気持ちの変わりに心を燃やす。
 顕現する炎翼をより強く、より激しく燃やし空気を焦がす。
 邪神と同様の赤い翼。けれど真逆の熱い翼。
 羽ばたかせ空へ昇る。

 空。
 その一撃は唐突であった。
『やべぇっ!』
 炎翼であれば接近することなど瞬きの間に可能となる。
 けれどその瞬きの間、接近した瞬間に翼が騙し絵の様に異様に曲がり、伸び、こちらへと向かってきた。
 見切る目が無ければ、もしかしたら翼に触れられるまで気づく事が出来なかったかもしれない。
 微かな違和感と直感が凶津にその翼を回避させた。
『狂気とか関係なく目がおかしくなるぜこりゃ。』
 そうして飛んで、飛んで。
 迫り来る翼を躱し、時に破魔の炎刃を炎翼から放ち軌道を逸らす。
 そうしながらじりじりと隙間を縫い接近する。
『相棒。直接叩き切れるのはこりゃ一回が限度って感じだぜ。攻撃は避けれるが……アレに二度近づくのは結界霊符がもたないかも知れねぇ。』
「………。」
『はっ、そうだよな。一回が限度なら、その一回に全力で、限界まで。いや限界以上を込めて。一気に叩き斬る! だよな。』
 瞬間、神代の全身から霊力が溢れ出る。
 抑えなどない、次などない、余力など残す気は無いと示す様な激しいさすら覚える開放。
 それを炎翼と炎刀に集める。
 炎翼は大きく強く、空気すら焦がせと叫ぶ様に赤く燃え立つ。
 炎刀は対する様に内へ内へと力を集め、外へなど力を逃がさぬように収斂し焔が消える。変わりに、その刀身は白く輝きを放つ炎熱の刀身と化した。
 残火が散る。
『アカを斬り裂いて本来の黄昏空を取り戻してやるぜッ!』
 瞬間に、最高速。
 炎翼の尾と、炎刀の白光の軌跡が空を裂く。
 伸ばされた翼など関係なく諸共に、邪神の一翼を断ち切る。
 その軌跡はまるで炎の竜が翼を喰らったように残った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
【狼と焔】2名

一瞬アカに惹かれるが仲間の姿を見れば体が動く
結希を邪神の攻撃から庇い、自傷も止めて声をかける

大丈夫だ、結希
お前はwithがいれば最強だろう
それでも駄目なら、俺も共に戦ってお前を繋ぎ止めると約束する、信じて欲しい
結希に応じて指切りを交わし、翼が無くても戦えるようにハンドガン・シロガネを結希に預ける
核に向けて引き金を引け、お前なら出来る

アカの影響を払うように、戦う姿を結希に示す
ユーベルコードで真の姿へ、飛翔する殉教者を足場として使い核へ接近する
同時に結希へ向かうもの、射線を遮るものを処理
ナイフを振るい蹴撃で叩き落とし殉教者を排除
核には獣人の姿へ転じて爪を叩き込み、結希の射撃も期待する


春乃・結希
【狼と焔】

暗示を掛けたくても心を侵すアカに阻まれて
掛けられないなら私は私でいられない
もう翼も生やせない
諦めたように座り込む
with…貴方は貴方の色で居てくれてるのに
私が弱かったから…ごめん…ごめんね…
血を出そうと増える自傷を焔が塞いで

ふと聞こえた声。銀色の人狼さんの
うへへ…私最強やと思ってたんですけど、駄目でした…
約束…?なら、指切りして。私も、あなたを信じるって約束するから

空駆ける人狼さんと、預けられた銃をぼんやり見つめて
シロガネ、さん?あなたのご主人みたいに上手く使えんけど、よろしくね
空に向けて引き金を引くだけ
今の私に出来るのはそれくらい
withに背中を預けて、空を睨んで
お願い、届けて…っ



 魅せられようなアカだった。
 溺れてしまいそうなアカだった。
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の視線は惹かれる様に上へと吸い寄せられる………けれど。
 体が本能的に動く。駆けだす。
 けれど。それよりも。そんなアカイロなんて物よりも。重要な物がその視界に入った。
 見知った顔の存在がアカに落ちかける意識に歯止めをかけた。


 顕れたのは空を覆いつくすアカだった。
 圧し潰すような暴力的な圧迫感。
 飲みこまれてしまいそうな閉塞感。
 埒外の、災厄の、邪神。
 春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)はその下で、力無く、諦める様に地面に座り込んだ。
 春乃の心はここに至るまでに疲弊し切っていた。
 元々が、自身の想いへの依存と暗示で作り上げた心の強さ。
 その強さは強固ではあった…が、常に重く心への負荷を強いるこの場所においては、他者よりもより早い疲弊を強いられることになっていた。
 春乃のその視線は空に固定され、焔の翼は弱く小さい。
 暗示を『アカイロガ』掛けたくて『コワイ』も…。
「with…貴方は貴方の色で居てくれてるのに…」
『黒色』が変わらずそこに居るのに、心を侵すアカ色がそこに居座る。
「私が弱かったから…ごめん…ごめんね…。」
 腕が動く。手が動く。片手が、もう片方の腕へ強く、爪を立てる。
 喰いこみ、肌を破り、血が伝い……引き下ろす。
 けれど、傷は同時になぞる様に炎が塞いで血も一緒に止められてしまう。
 だからまた、血を流す。繰り返される自傷は追って追われているようで。
 暗示が掛けられない、強くない私は。
 私でいられない。/焔の翼が掻き消える。
「大丈夫だ、結希。」
 聞こえた声と、自分を傷つける手を止める腕。


 春乃の腕を見知った銀色の人狼さん。シキが掴みとめていた。
 春乃の姿は弱弱しく、その行動はらしくなく。
「お前はwithがいれば最強だろう。」
 そう声をかける。いつもの春乃なら、そういうものだと思って。
「うへへ…私最強やと思ってたんですけど、駄目でした…。心が駄目なので空も飛べません…。」
 けれど返ってきたのはそんな諦めの言葉。
 自嘲する様に笑って、疲れ切った声色。
 致命的な精神の疲弊。
「それだけで立てないのなら、俺も共に戦ってお前を繋ぎ止めると約束する。もし戦えないとしても敵の思い通りにはさせないし、お前がどこまで沈んでも必ず連れ戻す。信じて欲しい。」
「約束…?」
 だからシキは、応急的な依りかかり先を、立ち上がる為の支柱を増やす。
「……自分を信じられないなら、一度別のものを信じるのも方法の一つだ。」
 シキ自身、それで春乃が立ち直れるのかは分からないが放置などしておけない。
「…なら、指切りして。私も、あなたを信じるって約束するから。」
 だからこそ春乃のその言葉に心の中で一息ついた。
 そして指切りを交わし、切る。離れた春乃の手は自傷へと動かない。
 シキはシロガネを引き抜き、手の上で回転させそのグリップを春乃へ向け差し出す。
「結希、使うか? 翼が無くとも引き金を引けば戦える。」
 差し出されたそれに春乃が少し目を大きくし、驚きの表情を示す。
「威力はよく知ってるけど……でも、シロガネはシキさんの先生から継いだ大切なやつじゃろ? 私使ってもいいと……?」
 それはつまり春乃にとってのwithと、程度は違ったとしても近い存在なんじゃ、と。
「お前であれば信用しているからな。」
 春乃の手にシロガネが託される。
 その時、空で動きがあった。
 邪神の一翼に一面に罅が走り、一翼は切り裂かれ炎に呑まれた。
「あれは…。」
 邪神は明らかに力を減衰させている。
 けれどそれは邪神であって、核たる『外なる邪神の肉片』は未だ空にある。
 放置していれば、再び世界を発狂させ力を増すだろう。
「逃がせないな。シロガネは俺が信を置く武器だ。ただ撃つこと、それだけに集中すると良い。」
 シキはそれだけ言うと近場のより高い位置へと駆けていく。

 その胸に約束を宿した。ここに誓いは立った。
 シキの姿が変容していく。犬歯は鋭く、長く伸び。瞳が獣の様に輝きを宿す。
「――必ず。」
 強く感じる風にさらされる真の姿。
 足を踏みしめ、膝を撓ませる。
 約束により強化されたそれが、月光のような光を纏い、跳ぶ。
 淡い流星の様に昇るシキへ血の翼を生やす物が一直線に迷うことなく特攻を仕掛けてくる。
 間断なく、時にはそれ同士がぶつかり四散する事も構わず飛来する。
 シキはそれを時に腕で、時に蹴撃で叩き落とし、真の姿のポテンシャルでもって強引に器用に無理やりその反動で昇り、反動で避けて邪神へと接近していく。
 シキにとって真の姿のその姿は嫌う姿だ。それでも、
(俺が下手を打って、信じると言ったあいつを嘘付きにするわけにはいかなからな。)
 昇り、昇り、昇り…途端、心が重くアカへ落ちようと言う願望が沈殿する。
「約束は……必ずっ!」
 それでも、先へ。影響を振り払い、その身を完全な獣人へと転じさせ邪神へと爪を叩きこむ。
「結希!」


 駆けていくその姿を見送ると、預けられた銃をぼんやりと見つめる。
「シロガネ、さん? あなたのご主人みたいに上手く使えんけど、よろしくね。」
 とりあえず、大切なものなのだから挨拶は大事。
「シキさんが信じるものは、私も信じられるから、そうしてみる。」
 駆けていき、いまは空を駆けているあの人の姿は、あの人自身が好ましがらない人狼の特徴を表していて。
「空に向けて引き金を引くだけ。今の私に出来るのはそれくらい…けど。」
 それは申し訳なくて、今の自分が悔しくて。
 withを地面に突き立てて、背を預ける様にしながら立ち上がる。
「絶対、絶対大丈夫。」
 空を睨み上げる。
 呼ぶ声がした。睨みつけた先で空駆ける人狼が邪神と接触する。
 そして、そこを中心に亀裂が入り拡がって行き、翼の罅と繋がると全身が硝子の様に砕け散った。
 散るアカい欠片はまるで空中に舞う様に静止する。
 その中にアカい色彩を放つ『何か』が浮いている。
 光っている様なその輝きは、まるで触腕の様に蠢いている。
 迷わず、withに背を預けたままシロガネを構える。
「3つも支えがあるなら、私は最強なのです。」
 ゆっくりと引き金を引き搾り
「お願い、届けて…っ。」
 そして、願いに応える様に放たれた弾丸は真っ直ぐ空気を引き裂き、色彩を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年07月05日


挿絵イラスト