大祓百鬼夜行⑲〜車輪の下
「またUDCアースに異変発生だー! 今度は列車が大変なことになっちゃった!」
と、グリモアベースで騒ぐ少年は、グリモア猟兵のクイン・クェンビー。
どうやら「大祓百鬼夜行」に関する予知を得たようだ。
「場所は日本のとある踏切……なんだけど、その踏切が迷宮化しちゃったんだ。
車線も踏切もめちゃくちゃに増えて、だーれもそれを認識できてないの!
このままだと、人も車も停まっちゃってぶつりゅー? が大変なんだって!」
本人のIQが少々足りないのでいまいち危機感を与えられないが、
仮に物流が停止してしまえば、生活必需品が足りなくなり甚大な被害が発生する。
すぐにでも迷宮化を解除しなければならない……が、当然敵がいるのだ。
「この踏切に居るのは、『ニクカリ』っていう寄生型のオブリビオンだよ。
過去に踏切で亡くなった人たちの死体を復活させて、憑依してるみたい。
こいつらも厄介なんだけど、問題は電車がバンバン通ることなんだ!」
この世ならぬ「妖怪電車」は、当然止まってなどくれない。
無理に踏切を渡ろうとすれば、妖怪電車にふっとばされて大ダメージだ。
「でも、うまく利用すれば、逆に敵を轢かせることでダメージ与えられるかも!
たっくさんある踏切と、たっくさん来る妖怪電車に気をつけて戦ってね!」
クインはそう言うと、何かに気付いたように猟兵たちの顔を覗き込んだ。
「……あ、踏切を渡る時はちゃんと手を上げて渡らないとダメだよ! 交通安全!」
それは違うだろ、というツッコミが転移前に入ったかどうかは、定かではない。
唐揚げ
最中です。今回は比較的シンプルめな戦闘シナリオになります。
プレイングボーナス条件は『踏切と妖怪電車を利用して戦う』です。
現地は無数の踏切と路線があり、ビュンビュン電車が飛び交います。
電車の上に飛び乗ってバトルしてよし、回避しながら戦ってよし。
非常にアクション映えする戦場だと思います。かっこよさ重視でOKです!
あ、リプレイは早ければ今日、遅くても明日には着手します。
第1章 集団戦
『ニクカリ』
|
POW : お礼参り
自身の【寄生した肉体の無念解決】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD : 今生焼き
自身の【命】を代償に、【寄生先に憑依するヒヌカン】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【紅蓮の炎】で戦う。
WIZ : 死期目
攻撃が命中した対象に【運命的生命力を減少させる呪い】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【次々と発生する「不慮の事故」】による追加攻撃を与え続ける。
イラスト:FMI
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
ニクカリ。
ヤドカリめいた生態を持つこのオブリビオンは、名の通り肉を「借りる」。
つまり、死体に寄生し、これを動かすことで活動するのだ。
この踏切に出現したニクカリの「宿」は、すなわち人身事故で亡くなった人々の死体である。
ゾンビだと思って油断してはいけない。その動きは予想以上に機敏だ。
うかつに近づかれれば、ニクカリは猟兵の身体を寄生先にしかねない……!
シャルロッテ・ヴェイロン
いや、何人死亡したっていうんですか、この踏切で。
そりゃあ呪われても仕方ないでしょうが――規模大きくなりすぎてません?
ホワイトラビットを【操縦】してエントリーしましょう。
列車の速度や動きを【第六感】で【見切り】、【ダッシュ】で回避しつつ敵を【蹂躙】していきましょう。
可能ならば列車や線路のシステムを【ハッキング】してみましょう。で、【挑発】や【地形を利用】してうまく敵を【おびき寄せ】てから、まとめて轢殺とか狙ってみましょうか。
※アドリブ・連携歓迎
●単純な疑問
シャルロッテ・ヴェイロンには、ある一つのシンプルな疑問があった。
「――いや、何人死亡したっていうんですか、この踏切で」
そう、それは『ニクカリ』が宿とする死体の出元だ。
グリモア猟兵が言ったとおり、この死体は過去の事故から蘇ったもの。
つまり……この踏切は、迷宮化する前から事故が頻出していたのである。
地元でも名の知れた自殺の名所、心霊スポット……というわけだ。
「そりゃあ呪われても仕方ないでしょうが、規模大きくなりすぎてますよ」
そう言うシャルロッテの前には、じわじわと死体が増えつつある。
ホラー映画のゾンビとも異なる動きは、時折関節の構造さえも無視している。
ニクカリは、あくまで肉体を宿とするオブリビオン。
人間の脳を模倣する生物ではない……そこが弱点あり、厄介な点でもある。
「まともに相手したくないですねえ、寄生されても困りますし」
シャルロッテが指を鳴らすと、背後に電脳魔術によりキャバリアが具現。
じりじりと包囲網を狭めるニクカリから逃れるように、彼女はキャバリアに飛び乗った。
その瞬間、カンカンカンカン……! と、信号の音が鳴り響く!
「さっそくですね、妖怪電車! この入り乱れ方は厄介ですが……!」
シャルロッテは『ホワイトラビット』のブースターを点火し、前に出た。
飛びついてきたニクカリを吹き飛ばしながら、すぐ背後を横断した列車を回避。
敵の攻撃には極力付き合わず、迷宮そのものをハッキングしようとする。
ニクカリは次から次に現れる。これはまともに火器で吹き飛ばすのは骨だ。
そして、彼女の腕前ならば……線路のシステムをハッキングするのは容易!
「突然電車が突っ込んできたら、あなたたちは避けられますかねえ?」
カンカンカンカン……! 再び信号の音が鳴り響く。
寸前に迫る妖怪電車――の走る線路の分岐点が、がちゃんと音を立てて切り替わった!
ホワイトラビットに襲いかかるニクカリは、寸前の路線切り替えに対処出来ない。
シャルロッテはあえて動かない――数十センチまで迫った死体の群れが、電車の撥ね飛ばされてミンチに変わる。
「亡くなった方の死体そのものならともかく、オブリビオンの力で蘇らせられたなら残骸と同じですからねー。ま、ご愁傷さまということで」
複雑に行き交う妖怪電車の路線図は、すでに解明済みだ。
今この瞬間、この地は厄介な迷宮ではなく、シャルロッテの狩場と化した!
大成功
🔵🔵🔵
ルイス・グリッド
アドリブなど歓迎
新しい肉体が欲しかったら追いかけてみろ
俺を追いかけて入ってきたのが運の尽きだったな
SPDで判定
孔雀輪で【空中機動】【空中浮遊】【滑空】し移動
【挑発】して敵を踏切内まで誘導【おびき寄せ】
俺は風の【結界術】や【オーラ防御】を使ったり、敵の攻撃を【見切り】回避する事で身を護る
【暗視】【聞き耳】で妖怪電車が来ている事が分かれば義眼の藍の災い:圧壊【重量攻撃】を放ってその場に釘付けにしつつ、俺は【ジャンプ】して妖怪電車に飛び移って轢かれるのを回避
敵も回避して飛び乗ってきたら銀腕を【武器改造】で槌の形状にし、【怪力】【鎧無視攻撃】をして【吹き飛ばし】線路に落とす
●デッドマンズ・ダンスパーティ
ガタンゴトン、ガタンゴトン――!
猛スピードで通り過ぎる妖怪電車の間を、高速で飛翔するルイス・グリッド。
妖怪電車の起こす風がフードを払い、彼の鋭い隻眼をあらわにした。
「新しい肉体が欲しいか? 欲しかったら、俺を追いかけてみろ!」
その後に続くのは、まるで蜘蛛めいた動きで地面を這うニクカリの群れだ。
関節の可動域など、肉体を宿にしているだけの奴らには関係がない。
手足が逆に折れ曲がりカサカサ這い回る姿は、あまりにも不気味でおぞましい。
(空中に逃れればさすがに追ってこれないか……いや)
ここは迷宮だ。路線が地上にしか走っていない、とは限らない。
そんなルイスの予感を肯定するように、すぐ頭上を妖怪電車が駆け抜けた。
「迂闊に浮かび上がるのも危険だな……来いッ!」
ルイスは孔雀輪の力で、地上すれすれを縫うように飛翔する。
徐々にニクカリとの距離が縮まる――捕まれば、彼の身体は!
しかし、ここまでがルイスの作戦通りだったのだ。
デッドマンである彼の身体は、ニクカリから見て極上の「宿」である。
だから追ってくる――そう、踏切に入り込む危険を侵してでも。
「俺を追いかけて入ってきたのが運の尽きだったな」
ルイスは寸前で垂直に上昇し、飛びかかってきたニクカリを回避する。
するとニクカリは四肢の骨を粉砕し、バネのように積層させた。
ようは骨をバネ代わりにしてカエルのように跳び跳ねようというわけだ。
跳躍されれば今度こそ追いつかれる――そこでルイスは、義眼を解放した!
「そのまま地に釘付けにしてやるッ!」
圧壊の呪いが見えない槌となって、ニクカリの身体を地面に叩きのめした。
ガタンゴトン、ガタンゴトン――!
ピン留めされた虫めいてもがくニクカリを……妖怪電車が、撥ねる!
「……ふう。肉体を改造された時は少し肝が冷えたが、うまくいったな」
浮力を失ったルイスは、ニクカリを轢殺した電車の上に着地した。
このスピードならば、ほかのニクカリは追ってこれまい。
自らを囮としたルイスの作戦が、ニクカリの本能に打ち克ったといえよう。
大成功
🔵🔵🔵
アルトリウス・セレスタイト
終わったものは眠るべきもの
早々に戻るが良い
戦況は『天光』で逐一把握
攻撃には煌皇にて
纏う十一の原理を無限に廻し阻み逸らし捻じ伏せる
全行程必要魔力は『超克』で“世界の外”から常時供給
魔眼・封絶で拘束
行動と能力発露を封じる魔眼故、捕らえればユーベルコードも霧散する
どんな「事故」も起こりはしない
拘束して列車にでも轢かせれば楽だろうが、身体は事故の犠牲者とのこと
もう一度事故で眠らせるのも忍びないので打撃で対処
纏う原理を無限に回し、無限量の圧を乗せて撃ち込む
※アドリブ歓迎
●再びの眠り
ああ……うう……と、いかにもゾンビめいた死人の呻きが響く。
だが、それは偽りのもの。ニクカリが声帯を震わせているに過ぎない。
「そういう生態のオブリビオンなのだろうが、実に忌々しいな」
アルトリウス・セレスタイトは無表情に言い、爆発的速度で駆け出した。
飛びかかる死体を殴りつけると、蒼い波動だけが体内を浸透した。
いわば中国武術における勁の要領だ。滅びるのはニクカリのみ!
この死体は、あくまでこの地に刻まれた記憶から呼び出された残骸に過ぎぬ。
それでもアルトリウスという男は、彼らを轢殺するのをよしとしなかった。
無限加速した拳圧によって、体内に寄生するニクカリだけを滅ぼす。
無表情・無味乾燥な人間のようでいて、彼にはたしかに人情があった。
本当に心を失くした残骸ならば、こんなセンチメントには走らないはずだ。
「お前たちが、再び事故を起こすことはない」
蒼い燐光はニクカリの運命操作異能を封じ込める。
この地は呪われた場所かもしれない。多くの命が奪われたスポットだ。
しかし、それを、オブリビオンが繰り返していいはずはない。
「一匹残らず殲滅してやる。早々に骸の海に戻るがいい」
アルトリウスの拳は疾く、重く、だが慈悲と優しさを宿していた。
死を侮辱するおぞましいオブリビオンは、その力に抗うことが出来ぬ。
倒れ光となって消えていく死体は、どこか安らかな顔のように思えた。
大成功
🔵🔵🔵
ルヴトー・シフトマン
これは随分と特殊な戦場ですね……
気を抜いたらこっちが致命的なことになりかねない
とはいえ利用さえできれば効率も良い
天狼に乗れそうにありませんが、やってみましょう
徒手空拳で勝負します
2秒先の未来視で動きを【見切り】、カウンターで強烈な一発を入れてダウンさせます
2人落としたら頭を引っ掴み、通過していく電車の横っ腹に押し付けて顔面を削り倒します
さらにタックルで踏切の中に吹っ飛ばして、電車に轢かせてやりましょう
電車の横っ腹を蹴って勢いをつけ、跳び蹴りをかましてやるのもいいですね
来るタイミングは2秒先を視て把握できますので、楽勝です
荒事屋は戦場を選ばない
たとえキャバリアが無かろうと、全てを叩き潰します
●荒事屋は戦場を選ばない
戦場において、「あれがあったら」「これがなければ」を語る輩は下の下だ。
アマチュアはともかくプロフェッショナルはそんなことを語らない。
語ってはならない――それが荒事屋の不文律で、プライドである。
「――せいッ!!」
ルヴトー・シフトマンは未来視で見切った飛びかかりを回避し、ボディブローを叩き込んだ。
徒手空拳といえど彼は戦士(ヴィジランテ)。相応の鍛錬と訓練を積んでいる。
いくらニクカリが死体を操っているだけの寄生生物とはいえ、
肉体そのものが動けなくなれば、ニクカリがいくら操作しても無駄だ。
カウンターで叩き込まれたボディブローは、死後の損壊で脆くなっていた脊髄を破壊。
ニクカリが破損した死体を無理やり動くよりも先に、死体を路線に放り込む。
プアアアアアン――……と、妖怪電車のライトが近づく。そして、通過。
ベキベキ、という嫌な音が響き、ザクロのような赤が周囲に飛び散った。
「後ろから来ているのは、わかっているぞ」
ルヴトーは振り返りざまに二体のニクカリ――つまり死体の頭を鷲掴みにした。
折れた手足がぶんぶんと子供のようにデタラメに振り回される。滑稽だが不気味。
ルヴトーは腕力で死体を引きずり、通過する電車の横っ腹に押し付けた。
ギャ――ガガガガガガ!! と、電車の壁面と顔面が擦り合わされる。
肉が飛び散りルヴトーの頬を汚した。頭部が擦り切れた死体を蹴り飛ばし、跳躍!
すると直後、ルヴトーの直下を妖怪電車が通過。
ルヴトーは着地と同時に駆け出し、追いすがる敵をわざと引きつける。
そしてカエルめいて敵が飛びかかってきた瞬間、なんと妖怪電車から飛び降りた。
「鍛え上げた人間ならいざ知らず、死体を動かしてるだけの甲殻類(ムシ)が。俺の不意を突けると思うなよ」
ルヴトーの狙いは、向かい側に走り込んできた妖怪電車の側面を蹴ることだ。
ようはV字型に変則的な三角飛びを行い……つんのめったニクカリを蹴り飛ばす!
反対側に押しのけられたニクカリは、直後やってきた電車に轢殺され、粉砕。
ルヴトーはごろごろと電車の上を転がりながら勢いを殺し、着地した。
「次から次へと。雨後の筍みたいに出てきやがる」
新手が来る。ルヴトーは立ち上がりざまのタックルで死体を突き飛ばした。
新たにやってきた電車が死体を粉砕するのを見ながら、バックキック。
偶蹄類の後ろ蹴りを受けたかのように、ニクカリの上半身がひしゃげ、崩折れた。
「効率は悪くない……数が厄介か」
荒事屋は、どんな場所ででも戦う可能性がある。
こうした特殊な戦場こそ、都市に根付く狼たるルヴトーの狩場だ。
頬についた肉片を拭い、ルヴトーは凄烈たる面持ちで駆け出した!
大成功
🔵🔵🔵
ネグル・ギュネス
列車にゾンビ、…パニックホラーもかくやと言ったところか
とは言えこう言うフィールドは、俺の得意分野だった、からな
──やれる、大丈夫だ、俺はやれる…ッ、震えるな…!
踏切設備に飛び乗りながら、破魔雷光を放ち、或いは遮断棒をぶん投げて突き刺し、地面に磔して動きを封じる
三回攻撃、二回攻撃、乱れ撃ちと駆使して削ろう
とは言えチマチマ削ってたら数とゾンビ特性に根負けする
故に、だ
疲れたフリをして、敵を此方に差し向け、飛び掛からせる
だが残念、そいつは残像ホログラム、気付いた時には遅い
──列車が参ります、ご注意下さいってな!義手のフックチェーンで列車に組み付き、自分はキッチリ回避させてもらう!
っぱ、一人は、疲れ、る
●独りの戦い
仲間を得ることは素晴らしいことだ――だが、弊害もある。
それは、相対的に孤独の影が色濃くなるということ。
トリガーの力を失ったネグル・ギュネスは、身を以て痛感していた。
「やれる、大丈夫だ、俺はやれる……ッ」
墓場の卒塔婆めいて連なる遮断器をへし折り、死体めがけ投げつける。
ネグルに飛びかかったニクカリは、宿である死体ごと路面に縫い留められた。
直後、信号の音――ゴウッ! と、猛スピードで妖怪電車が駆け抜けた。
「震えるな、こういうフィールドは、俺の得意分野だったはずだ……!」
ネグルは駆け込んできた妖怪電車に飛び乗り、そのまま駆け出す。
すると生者の匂いを嗅ぎつけて、手足の折れ曲がった死体が飛び乗ってきた。
ここまでは狙い通りだ。敵は着々とネグルのほうへ集まっている。
――それが、恐ろしい。
死の実感が恐ろしい。敵の息遣い、存在、這い回る音、気配すらも。
握りしめた拳はどうしようもなく震えて、足がもつれそうだった。
ネグルは、止まらない。逃げるように、だが逃げるのではなく駆け続ける。
「俺は、こんなに意気地なしだったか? こんなに弱虫だったか!」
前方に新たな敵! ネグルは勢いを落とさず雷公を纏った拳で殴り飛ばした!
二体、三体……新たな敵が現れれば、それを次々と叩き落とす。
「なら強くなってやる。何度でも、どこからでも!!」
半ば己に言い聞かせるようにして叫ぶ。あとに続く敵は十数体以上だ。
ネグルはやがて疲れ果て、電車の上から転げるようにして落下した。
「はぁ、はぁ、はあ……ッ!!」
線路上に大の字になり、必死に息を整えるネグル。
後についてきたニクカリの群れが、じわじわとネグルに近づいてくる。
周りは囲まれていて、もう逃げられそうにない。
「――……っふ、ははは」
ネグルは笑い出した。恐怖で頭がおかしくなったのだろうか?
ニクカリは嘲りも侮蔑もしない。ただ、その肉体を奪おうとする……!
「――列車が参ります、ご注意くださいってな」
すると、大の字に寝転んでいたネグルの姿が薄らいで、消えた!
あれは残像ホログラムだ。本体は――フックを使い、真横に走り込んできた電車の直上へ!
「じゃあな」
そして、プアアアアン……という特徴的な音。
残像に惑わされたニクカリが、新たにやってきた電車に――轢殺された。
「……っはぁあああ
……!!」
体力が尽きていたのは事実だ。ネグルは今度こそ電車の上で倒れ込む。
「っぱ、独りは、疲れ、る……ッ」
この電車はどこへ行くのか。冥府まで運んでくれるなら楽かもしれない。
……そんな弱気な考えが湧き上がるくらいに、彼は疲れていた。
「立ち上がる、さ……俺は、信じてくれる仲間の、ため、にも……」
永の午睡にはまだ早い。ただ今は、風の中で目を瞑りたかった。
戦いの合間のわずかな休息は、ネグルにとって唯一許された安らぎの時間である。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィクティム・ウィンターミュート
ヒュウ、風切り音がビュンビュンきてるね
いーじゃねえか、面白くなってきたぜ
ランナー時代はこういう戦場も珍しくなかったからな…流石にここまで多くは無いけど
そんじゃーまぁ、派手にやろうか
近接戦闘でやっていくぞ
ニクカリを蹴り飛ばして走ってる電車の横っ腹にぶつけたり、投げ飛ばして踏切の中に放り投げたりしておく
とはいえ、俺は純粋なファイターじゃあない
そろそろイリュージョンってやつを見せてやろう
ターゲットをロック、仕込みを散布
さて、それじゃあ踏切の中にいておこう
電車が来るよな?そのタイミングで──『Illusion』
入れ替わりが発動して、轢かれるのはお前らってわけ
ンッンー、手品師を相手にするには不足だったな
●ランナーズ・イリュージョン
メガロポリスの闇を駆ける――それがランナーの「仕事場」だ。
こういうアーバンな環境こそ、ヴィクティム・ウィンターミュートの独壇場。
ハッキングで妖怪電車の運行予想図を算出しながら、ヴィクティムはあわいを跳ぶ。
あとに続く死体の群れは、関節がへし折れて壊れた人形めいていた。
「ハッハー! 擬態のひとつも出来ねえと、寄生虫としちゃ三流だぜ?」
ヴィクティムは歯の欠けた死体の頭部を蹴り飛ばし、電車に叩きつける。
勢いよく走り込んできた妖怪電車の横っ腹にぶつかった死体は、
その勢いに引きずられて線路上を転がり、派手に血を撒き散らした。
血に紛れて寄生先から飛び出したニクカリを、ヴィクティムは足で踏み潰す。
「なるほどね、ヤドカリの死体版ってか。醜いこった」
後ろから襲いかかる新手。ヴィクティムは飛びかかりを軽々と回避。
立ち上がろうとした死体の襟首を掴むと、柔術の要領で踏切へ投げ込んだ。
ぐしゃっ!! と、落下の衝撃で四肢がへし折れ、無様に転がる死体。
「ほら、早くリングに戻ってこないとお陀仏だぜ! 3、2、1――」
這いずって逃れようとした死体が、バキバキバキ!! と轢殺された。
「残念、タイムアップ」
ヴィクティムはバイザーにかかった返り血を拭い、皮肉げな笑みを浮かべる。
ニクカリ一体一体の戦闘力は、オブリビオンとしては大したことはない。
問題は死体であるがゆえに損壊に対して非常に抵抗が強いこと、
そして最大の強みは数だ――次から次へと虫のように湧いてくる死体の群れ!
「おいおい、この踏切どんだけ自殺者出てんだ? おっかねえなあ!」
飛びついてくるニクカリの首を手刀でへし折り、腕を取って投げ返す。
そうこうしているうちにもヴィクティムは囲まれ、絶対絶命だ。
しかも追い打ちに、彼の立つ線路上に妖怪電車が突っ込んできた!
「おや、こいつは四面楚歌ってやつかね――なあんてな」
パチン、とヴィクティムが指を鳴らすと、見よ。
敵とヴィクティムの姿が、そっくり入れ替わっているではないか。
無慈悲な妖怪電車のライトが迫り――そしてまた、嫌な音が響き渡る。
「ンッンー、手品師を相手にするには不足だったな。所詮は寄生虫か」
ヴィクティムはパンパンと手を払うと、大仰におどけてみせる。
動く死体ごときでは、ランナーの上を行くことなど出来はしない。
大成功
🔵🔵🔵
朱酉・逢真
心情)カァンカァンカァンカァン…一定間隔で鳴り響く騒音は一種の催眠装置よなァ。死体に宿れど耳はあるだろう。なれば呼び声も届くのさ。
行動)鳥に乗って空高く。電車は空を飛ばンでなァ…たかっておやり、俺の仔ら。ハエは死体にたかるもの。病毒運ぶも世の常だろう。それが当たれば…ほゥら聞こえるだろう。カァンカァンカァンカァン…と頭を割るよな音だよ。眠気と狂気に飲み込まれ、線を踏み越えれば…あーあ。手はあっち足はこっち、散らかしたねェ。
●車輪の下
――カァンカァンカァンカァン……。
一定間隔で、休みなく響き渡る騒音。
赤い光が上と下に交互に点滅し、規則正しく、虚しく鳴り続ける。
そう、虚しい……迷宮化したこの踏切で、その音にはなんの意味もない。
信号を受け取るべき人々は、もう開かない踏切の前でずっと立ち往生している。
音と光が終わることはない。来るものが途絶えることはないからだ。
だから、虚しい音だ……誰からも忘れられてしまった妖怪のように。
――わあんわあんわあんわあん……。
虚しい騒音を上書きするのは、おぞましい数の蝿の群れだ。
蝿は死体にたかるもの。蛆を植え付け、肉を喰らい、苗床にするもの。
つまり死を生に変えるものであって、それは始まりをもたらす終わりでもある。
ー―わあんわあんわあんわあん……。
頭が割れそうな羽音と騒音が混じり合い、死体の鼓膜を破壊した。
腐った脳みそが割れた頭蓋からこぼれ落ちて、どろどろと水たまりを作る。
蝿どもはそこにたかる。自動的に。生きるために。生むために。
死体は、歩き出す。ニクカリの意思に従わず、まるで生気を取り戻したように。
それはまとわりついた蝿の導きでもあり、痙攣する筋肉の気まぐれでもあり、
何よりもその不気味をもたらしたのは、死体に染み込んだ狂気である。
頭の割れるような音がする。音が、波が、この世ならぬ狂気で死体を汚染する。
死体は、線路に這いずる……ニクカリの寄生から解放されようと。
――カァンカァンカァンカァン……。
音が聞こえる。光が瞬いて、線路のレールが揺れて、電車がやってきた。
ニクカリたちは死体から逃れようとしたが、まとわりつく蝿がそれを拒んだ。
死体はレールにしがみついて動かない。お前たちを逃しはしないと。
厭な音がした。
「ひ、ひ――あーあ。手はあっち、足はこっち、散らかしたねェ」
空から惨状を見下ろして、朱酉・逢真はけらけらと嗤った。
ニクカリが死ねば、迷宮化は解ける。現と幽世の重なりが離れていく。
記憶から蘇り、また死んだ屍の残骸は、腐り爛れ溶けてぐずぐずになった。
「呼び声てなァ存外届くもんさ――だからこそ、聞かないほうがいい音もある。
暗闇に耳をそばだてるのはよろしくないぜ、聴こえちゃいけねェもんが聴こえるかもしれねェからよう……」
ばさり、ばさりと、鳥は羽ばたいて空へと。幽世の側へと飛んでいく。
――カァンカァンカァンカァン……。
「お、ようやく踏切開いたぞ」
「ったく、なんだったんだよ待たされたなあ」
人間たちは、何も知らぬまま、何もせぬまま、取り戻された日常を歩く。
音が示すとおりに立ち止まり、光が示す通りに歩き続けて。
彼らは何も知らぬ――迷宮も、戦った者たちのことも、「あちら」のことも。
それでいい。……それがいい。そうあるべきなのだ。
空から見下ろす男の笑い声は、人々には聞こえない。
もしも聴こえてしまったのならば、その人はきっともう――おしまいなのだろう。
大成功
🔵🔵🔵