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大祓百鬼夜行⑬～ホワイトグルートぐーるぐる

作者：沙雪海都

●幽世・駄菓子屋戦線
「うふふ……うふふ……」
　オブリビオンの少女は巨大なプラスチック容器を小脇に抱え、へらでぐるぐる中身を掻き回す。持ち上げるとドロッとした半固形物が、粘性を持ちながらへらの上を滑り、そしてぼちゃ、と容器の中に落ちた。
　それは「ホワイトグルート」と呼ばれる駄菓子兵器。元は小容器に入ったヨーグルト状の駄菓子だが、駄菓子兵器となったそれは物にへばりつき動作不能にする強力接着剤のような性能を持っていた。
　容器は壺のような形をしていて、掻き回す様は毒薬を作っている魔女のよう。尤もそれは駄菓子兵器。大した差はないのかもしれないが……。

●カクリヨファンタズム・大祓百鬼夜行
「グルー、とは接着剤のことですから、結構危険かもしれません！」
　ロザリア・ムーンドロップ（薔薇十字と月夜の雫・f00270）は視たもの全てを猟兵達に伝えていく。また一つ、駄菓子屋迷宮の事件が起こったのだ。
「今、カクリヨファンタズムの駄菓子屋さんは有事の際の『武器庫』状態になってしまっています！　ここにある駄菓子兵器はユーベルコードを増幅する力を持っているので、例えば防御用の武装であっても置かれているわけですね！」
　盾のような性能を発揮するものも別の事件で見つかっていたようだが、今回ロザリアの予知の中に現れたのは補助兵装に近いかもしれない。
「それで、オブリビオンの集団が駄菓子兵器で武装しようとしていますので、皆さんにはそのオブリビオンを倒して頂きたいんです！　駄菓子兵器は自由に使っても構いませんので、オブリビオンに負けない強力な駄菓子兵器を見つけて対抗していきましょう！　今回のオブリビオンは『骸魂火』といいます！　彼女達は『ホワイトグルート』という駄菓子兵器を持っており、それは強力な接着剤みたいにベタベタくっついて装備が使えなくなってしまうので、当たらないように気を付けてください！　それではよろしくお願いします！」

第1章 集団戦 『骸魂火』

POW   :    光の御返し 【発光している身体の一部】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、発光している身体の一部から何度でも発動できる。 SPD   :    光の御裾分け 【発光している身体の一部】を向けた対象に、【高熱を伴う光線】でダメージを与える。命中率が高い。 WIZ   :    この子は傷つけさせない 全身を【発光させ、防御力が極めて高い身体】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。 イラスト：麻風 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

●星降る晴空
「あたしに黙って異変とか生意気よーーーーーーっっっ！！！」
　空亡・劔（本当は若い大妖怪・f28419）にとって幽世とは生意気な奴ばかりの世界になってしまった。故に今日もまた幽世を奔走し、生意気な奴退治に精を出す。
　駄菓子屋では駄菓子兵器なる強力な武器を装備して、世界を破壊しようと企むオブリビオンがいた。劔が辿り着いた時にはもう荒らされてしまっていて。
「まあ、猟兵がここに……！」
　プラスチック容器の中にへらを突っ込んでぐるぐる混ぜている骸魂火の集団に出くわした。骸魂火達は何だか暢気に構えているが、劔はお冠だ。
「あれが駄菓子兵器ね！？　ならば対抗しなければ！」
　劔は辺りの棚を見回したが、なんだかよくわからない白くてべたべたしたものがそこら中に付着していてどれも使い物にならない。手近なところでは剣や槍が白いものによって棚に接着されてしまっていた。
「先程たくさん『試し撃ち』させていただきましたからー。私達が使うもの以外は使えなくなっても別に構わないんですよねー」
　骸魂火の一体は喋りながらも手をぐるぐる動かし、そして突如へらで掬った白いものを劔へ投げつけてきた。べたべたに見えて意外と形を保っていたそれを劔は咄嗟の見切りで身を屈めて回避する。
「くっ……」
　劔は立ち上がって骸魂火に睨みを利かせるが、骸魂火は意に介さずぐるぐると。暢気なものだが手元の凶悪なものをどうにかしなければならない。何かないかと横目で棚の列に目を向けると、運よく被害を免れていた麻袋を発見した。何が入っているかわからないが、劔はそれに賭けるしかなかった。
　即座に走り出す。隙を突いて、と思ったがそもそも骸魂火達は隙だらけなのでさっさと走った。麻袋を掴み口紐を解く。中に入っていたのは手づかみできる金平糖のようなもの。袋には「天華流星砲」と書かれていた。
　袋の裏には、おそらく袋の中身を人が斜め上に投げているイラストがデフォルメされて描かれていた。それが使い方だと悟ると、劔は袋に手を突っ込んで一つ掴み取った。
「逃げるんでしょうかー？」
　骸魂火達が追いかけてきた。しかし今の劔には武器がある。天候を操作し瞬時に戦場を晴天の雰囲気下にすると、
「さぁ！　流星に蹂躙されなさい！」
　叫び投げる。次々投げる。とにかくひたすら手を高速回転させる勢いで投げまくった。宙に届いたそれは滞空したかと思うと人の頭程度に巨大化し、骸魂火達の頭上に流星の如く降り注いでいく。
「ひゃああぁ～！！」
　骸魂火は危機を感じた時に発する声もちょっと抜けているらしい。ともかく降ってきた金平糖の流星群が骸魂火の密集地帯を爆撃。頭やら身体やら、はたまた彼女達と繋がった植物状の何かに命中し、最前列からバタバタと倒れていく。
　どういうわけか袋の中身は減らないので、劔は天華流星砲を投げ続けていれば勝てそうな気がしていた。しかし最強の大妖怪を名乗る手前、駄菓子兵器に頼りきりの自分が許せない。
『我が身、我が真体は時を統べし魔剣なり！　今こそその力を解放せん！！』
　劔は殺神魔剣『空亡・紅』を抜く。時を越えんとする飛翔速度を発揮しながら天華流星砲を宙にばら撒き、落下範囲から逃れようとする者を見つければ即座に回り込んだ。
「ひゃっ――」
「逃げたら斬るわよ！！」
　袋を手放し永久凍剣『二世氷結地獄・極』も抜いた。二刀に冷気を纏わせて右、左と袈裟に薙いでの二回攻撃で斬り刻み、動きを固めてもう一撃垂直に斬り下ろした。
　固まった骸魂火は驚きの顔のままぐらりと倒れていく。見渡せば斬らなければならない相手はまだまだ居そうだ。劔は飛翔速度に物を言わせてひたすら凍らせ、斬り刻み、時折袋を回収して天華流星砲の増援、という作業を繰り返した。
　時の神すら恐れる所業だ。骸魂火が持つ駄菓子兵器に警戒していたのはいつのことやら。
「――斬るっ！！」
　終いには警告すらなく――そもそも警告自体が意味を成していなかったが――斬り捨てた。
　場には骸魂火達の残骸が積み上がる。これで終わりかに見えたが、駄菓子屋迷宮は静寂を取り戻さない。
「まだいるようね……！！」
　劔は天華流星砲の袋を持ち上げると、迷宮の奥に飛翔していくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●あめにうたえば
「酷い有様ですね……」
　藍沢・織姫（紺碧の歌姫・f03959）は声を漏らした。駄菓子屋迷宮内は至る所白い接着剤様の物体がへばりつき、陳列された駄菓子兵器をダメにしている。グリモア猟兵の予知で骸魂火達は駄菓子兵器を確保しているということだから、何かしらの意図で潰しているのだろう。
「何か、残っていれば……」
　広々とした通路に並ぶ棚を、上へ、下へと目線を忙しく移して探す。すると中段の一画に被害を免れている容器があるのを見つけた。織姫は背伸びをしてその容器を両手で取り、手元に下ろす。
　蓋を見るとラベルが貼ってあった。「シンフォノーツ」という名前のそれはのど飴らしい。蓋を開けて中を見ると、しずく型の飴が詰まっていた。
「できれば、身を守るものも欲しいところです」
　シンフォノーツは確保し、また棚を眺めていく。目当ての物なく端まで辿り着いてしまったため棚の裏側へ回ろうとすると、陰になっていた側面に巨大なビスケットが掛かっているのを発見した。これもまた被害なく、織姫は身を守れそうだと判断して棚から外す。
　裏返すと持ち手がついており、その上に「ビスケシールド」と名前のラベルが貼ってある。大きさの割には軽く、片手で扱えそうだったので織姫は左手に持った。
　駄菓子兵器の準備は整った。織姫は一呼吸置くと、本格的に迷宮を巡り始めた。

　骸魂火の集団はホワイトグルートの被害を追っていくと簡単に見つかった。今も迷宮を動き回り、駄菓子兵器を潰している最中のようだ。
「あらー？　見つかってしまいましたのでー」
　骸魂火達の目が織姫に向いて、今まさに投げ飛ばそうとしていたへらが止まる。そしてくるりと織姫のほうへ向き直ると、そのままホワイトグルートを投げつけてきた。
　骸魂火を倒す作戦は思い描いている。織姫はビスケシールドを口元とシンフォニックデバイス「Lyra」が完全に隠れる高さまで掲げ、ホワイトグルートの弾幕を防ぐ。どん、と重量感のある衝撃がビスケシールドを通して織姫の体に走り、ビスケシールドの範囲で防ぎきれなかったホワイトグルートが飛び散って足元に付着していた。
　だが守るべきものは守れている。織姫はシンフォノーツを一粒取って素早く口に放り込むと、
『あの頃のような無差別に死を振りまく歌は、もう歌えないけれど』
　無意識の淵に沈んだ記憶に一抹の寂寥感を覚えながら、言の葉を音に乗せていく。短調の調べは切なさを湛えて戦場に広がっていた。
「この歌声はー……ああぁあっ！？」
　突如、骸魂火が苦しみだした。織姫の歌は骸魂火達には毒となり、その体を蝕んでいく。
　そしてシンフォノーツが歌声に更なる力を齎した。戦場へ声と共に降り注いだのは大量の飴玉だ。シンフォノーツと同じようなしずく型の飴玉が、苦しむ骸魂火達へ追い討ちとなって激しく打ち据えた。
「ふぎゃん！？　うぁぁ……」
　骸魂火達は目から星を飛ばしてぐったりと倒れ込む。倒れたところへまた別の骸魂火が倒れ――を繰り返し、場はドミノ倒しの跡のようになっていた。
「ふぅ……これでここは終わりでしょうか。――ですが、降ってきましたね。飴の、雨が……飴だけに！」
　オブリビオンは倒したし、なんかうまいことも言えたし――織姫は一人、やりきった表情をしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●炸裂、超巨大金平糖クラスター爆弾
（粘着性の兵器は厄介ですね。UDCで防いでも良いですが、液体金属といえど対応に苦慮しそうです）
　水鏡・怜悧（ヒトを目指す者・f21278）、もといロキは思案する。UDCは非常に有用だが、それでも万能というわけではないらしい。
　駄菓子屋迷宮内はホワイトグルート塗れで大部分の駄菓子兵器が使い物にならなくなっていたが、それでも根気よく探していくと、棚の上に載っていた大袋が被害を免れているのを発見した。UDCを伸ばして確保し、床まで下ろして中を検める。
　中身は片手では掴み切れないくらいの大きさの金平糖だった。「超巨大金平糖クラスター爆弾」と名前のついたそれは――まあ、名前の通りのブツなのだろう。
　ロキはUDCで超巨大金平糖クラスター爆弾を取り出し、持てるだけ持って骸魂火を探しに向かった。

　べちゃん、べちゃんと音がして駆けつけてみると、骸魂火達が周囲の駄菓子兵器にホワイトグルートをぶちまけているところだった。自分達が使う物以外は他の手に渡らぬよう潰しておく。オブリビオンらしい作戦だ。
「あら、猟兵……ここまででしたかー」
　骸魂火達は駄菓子兵器潰しを中断してロキとの戦闘を選択し、向き直る。手にはプラスチック容器があり、へらでぐるぐる、ぐちゃぐちゃと混ぜ合わせて。
「これでもー、どうぞー」
　早速ホワイトグルートを投げつけてきた。かなり液状化したホワイトグルートは空気抵抗でびろんと平べったく伸びて向かってくる。
「早速これの出番ですね」
　投げ物には投げ物、と言わんばかりにロキは超巨大金平糖クラスター爆弾を連続投擲。巨大な金平糖がホワイトグルートを押し潰すように飛んでいくが、衝突すると超巨大金平糖クラスター爆弾のほうが破裂して中から大量の金平糖が飛び出した。
　大量の金平糖は宙に撒き散らされ一種の壁を形成する。後から飛んでくるホワイトグルートは金平糖クラスターに捕まってしまい、粘着力を失った状態でべたんと地面に落下してしまった。
「まだまだありますからね……封じますよ、ホワイトグルート」
　ロキは超巨大金平糖クラスター爆弾を骸魂火に向けて投げつけながら、自身も間合いを詰めに走り出す。床には金平糖に塗れたホワイトグルートの残骸があり、粘着力を失っているため踏み越えて骸魂火の元へ突撃していった。
「わわ、来ますよー」
　骸魂火達はとにかくホワイトグルートを投げまくるが、超巨大金平糖クラスター爆弾の前にはもう敵ではない。ロキは超巨大金平糖クラスター爆弾を投げつけながら、空いた触手を伸ばして骸魂火に掴みかかった。胴体ににゅるっと絡みつかれ、持ち上げられる骸魂火達。
『……ッラアァ！』
　身軽な体を触手の腕力で敵集団目がけてぶん投げた。メジャーリーガーも目を丸くしそうな豪速の骸魂火達が飛んでいき、他の骸魂火達を巻き込みボウリングのピンのように跳ね飛んでいく。
「もぅ、お返しですー」
　前から倒れてきた骸魂火達に潰されていた別の骸魂火達がもそもそと起き上がり、発光した手をロキに向けてくる。受け止めたユーベルコードをコピーするそれは今、ロキと同じく超人的なバカ力を発揮するが、当然ロキは掴みかかられないよう後方に跳んで距離を置いた。
「待ってくださいよー」
「待ちませんよ。そんなに何かを掴みたいならこれをどうぞ」
　ロキは超巨大金平糖クラスター爆弾の残りを追ってくる骸魂火達へ投げる。回転がかかり真っ直ぐに飛んでいった超巨大金平糖クラスター爆弾は骸魂火達の伸ばす手に当たり、破裂して花火のように中の金平糖が打ち上がった。
「……あー」
　金平糖は落下し、骸魂火達が持つ容器の中にぼちゃぼちゃ落ちていた。金平糖に表面を塞がれたホワイトグルートの容器はへらを突っ込んでもカチカチで、もう使い物にならない。「むぅ、こうなりましたら……」
　骸魂火達は容器に手を突っ込み、金平糖ごとホワイトグルートを投げつけようとしていた。突起があって掴むとちょっと痛い金平糖を我慢し、粘着力を失ったホワイトグルートを引っ張り出すが。
「金平糖ごと投げるおつもりで？　うまく扱わないと隙間が広がってくっつきますよ？」
「う……あぁぁ……くっついてしまいましたー……」
　掴んだ時に手の中で金平糖が崩れ、隙間から出てきたホワイトグルートが手にべったりと。これではもう、振り回しても叩きつけても取れそうにない。
　ロキはホワイトグルートの扱いに悪戦苦闘する骸魂火達をまた掴み、放り投げて倒してしまうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●御休憩はこちら
　ダスク・ドーン（人間のフォースナイト・f13904）は駄菓子屋迷宮を疾駆する。周りはホワイトグルートだらけだが床は思いの外被害が少なく、迷宮探索に専念できた。
「……見つけたぜ」
　骸魂火の集団だ。一仕事終えてのんびりくつろいでいるところ、ダスクの姿を見て目を見開く。
「まあ、ようやく終わりましたのにー」
　骸魂火達の傍らには空になった容器が転がっていた。ホワイトグルートを使い切ってしまっていたようで、今は骸魂火達にも駄菓子兵器はない。作戦開始から時間が経ってしまっていたことで駄菓子兵器探しを省略していたダスクには都合が良かった。
「数が多いから全部使えそうだな……色は選ばせてやる。いい夢見ろよ！」
　のんびりぽやぽやした骸魂火達へダスクの速攻だ。所持しているフォースセイバーを全て纏めて、跳び上がってから横の棚を踏み台にしての二段ジャンプで骸魂火達の頭上に躍り出る。
「受け止めますよー」
　骸魂火達は両手を発光させ、ダスクに向けて掲げていた。しかしその輝き、ダスクのフォースセイバーの前ではあまりに弱く。
　縦一閃、振り下ろされたフォースセイバーが骸魂火達を強烈な爆発力で吹っ飛ばした。床のタイルや周りの棚も軒並み破壊されていたが、もとよりここには使い物にならない駄菓子兵器しかなかったので構わない。
「きゃああぁー」
　剣圧と爆風を受けた骸魂火達は宙に投げ出され、そのまま自分達が使用不能にした陳列棚に激突。垂れ落ちていたホワイトグルートにべちゃりと引っ付いて磔状態になってしまう。
「こいつらは……骸魂を倒せばいいんだったな」
　体を強か打ち付けた骸魂火達の体から骸魂がじわりと染み出していた。一つの塊になるのを待って、ダスクはフォースセイバーで斬り払う。
　中々に細かい作業だったが、ダスクは文句一つ零すことなく終わらせる。
　こうして駄菓子屋迷宮はまた一つ、オブリビオンの手から解放されたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

最終結果：成功 完成日:2021年05月08日