11
大祓百鬼夜行⑯~君は何を盗むのか

#カクリヨファンタズム #大祓百鬼夜行

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#カクリヨファンタズム
🔒
#大祓百鬼夜行


0




●画面に映った世界
 UDCアースのとある粗大ゴミ置き場。
 そこに、ひとつの古いテレビが打ち捨てられていた。今時珍しい、ブラウン管テレビである。電源コードは途中で千切れており、アンテナも折れている。
 そんな状態のテレビの画面に、何かが映る筈がない。
 だが――。

 ――ザ……ザザ……。

 その画面に、何かが映った。

 ――ザザ……ザ、ザー……。

 最初の内は、砂嵐やスノーノイズなどと呼ばれる雑音混じりの白黒画面だったが、やがて雑音が少しずつクリアになっていく。

 ――ザザ……もる……まもる……。

 雑音の中に明確な言葉が混じり出す頃には、画面も白黒の砂嵐ではなく、映されているものがはっきりと見えるようになっていた。
 SF映画のセットの様な、非現実的で未来的かつ機械的な風景。
 ドローンで撮影したような上空からのアングルでカメラが動いて、その風景の何処かにある大きな宝箱が映し出される。
 その周囲を徘徊する、巨大な機械と共に。

●Jaeger is Phantom Thief
「ちょっとUDCアースに行って、テレビの中に入って泥棒してきて」
 集まった猟兵達に、ルシル・フューラー(新宿魚苑の鮫魔王・f03676)はそんなわけの判らない一言から話を切り出した。

 大祓骸魂。
 忘れ去られた究極妖怪が隣り合う2つの世界を滅ぼそうとしている影響は、既にUDCアースにも出ている。
 その一つが、ゴミと捨てられたテレビに映る『存在しない筈の番組』だ。
 もう壊れていて何も映る筈もないテレビの画面に映る番組は、テレビの中に入り込んだ妖怪が作る番組だ。
「その番組を放っておくと、UDCアースの現実世界がテレビの世界に侵食されてしまう事になりそうなんだよね」
 そうなる前に止めるには、テレビの中に入るしかない、という事だ。
「但し、まともに戦う必要はない。と言うか、今回の相手は、まともに戦おうとすれば、かなり苦労する事になる類の相手だ」
 番組を作っているのは、『原初の古代機械兵器』。
 『守れなかった』と言う悔恨が実体化した存在とも、UDCアースの先史遺産の機械兵器とも言われているが、装甲がやたらと硬いのだ。
 硬いと言う次元ではないかもしれない。
 ユーベルコードですら、無効化されたり反射されたりする。
「その装甲をぶち抜く手を考えるよりも、確実な手がある。番組の企画――ルールに全力で乗っかるんだ」
 それが、最初にルシルが言ったことの後半に繋がる。

 ――泥棒。

「皆に入って貰う番組は、泥棒体験番組、とでも言うべきものでね」
 UDCアースには、ケイドロ(或いはドロケイ)と呼ばれる子供の遊びがある。幾つかあるパターンの1つに『泥棒チームがお宝に触れたら勝ち』と言うものもあるそうだ。
 それをうんとスケール大きくしたような番組なのだ。
「つまり、お宝――どこかにある宝箱の中身に触れれば、君らの勝ち。それが番組のルールなんだよ」
 具体的には、お宝に触れる事で、装甲無視して攻撃直撃させたくらいのダメージを『原初の古代機械兵器』に与える事が出来る。
 それを繰り返せば、『原初の古代機械兵器』を倒せると言うわけだ。
「それともう1つ。どんなステージで泥棒するかは、人それぞれになるみたいだ。誰かと協力して挑戦したいなら、同時に入った方が良いだろうね」
 それじゃ行ってらっしゃい、とルシルが開いた転移の先は、テレビが一つだけついたゴミ捨て場が見えていた。


泰月
 泰月(たいげつ)です。
 目を通して頂き、ありがとうございます。

 泥棒や怪盗になってみませんか。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、『大祓百鬼夜行』の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
 ⑯TVショーへようこそ、のシナリオです。

 まずは今回のプレイングボーナスから。
 『番組の企画に全力で乗っかる』です。
 すると、戦わずともダメージを与えられます。

 そして『番組の企画』は、怪盗体験。
 お宝を盗んだら(触れたら)勝ち、というアトラクション的な企画です。
 こっそりスニークで近づくでも、ワイヤーアクション張りにアクティブに行くも、方法は自由です。とにかく盗め!
 OPの近未来風ステージはサンプルです。
 どんなステージで、どんなお宝を、どう盗みたいか。
 是非書いて下さい。
 なお、 『原初の古代機械兵器』は必ず『お宝を守る側』で番組にいます。
 OPの様にランダム徘徊かもしれないですし、決まったルートを踏んでるかもしれないです。
 そこら辺もステージ次第かな、と。

 プレイングは、今回は5/6(木)8:30から受け付けます。
 公開がそれ以降だったら、公開時点からです。
 締め切りは様子を見て告知します。
 戦争シナリオですので、再送にならない範囲で書ける限りの採用になる予定です。

 ではでは、よろしければご参加下さい。
155




第1章 ボス戦 『原初の古代機械兵器』

POW   :    ここから先には通さんよ……
単純で重い【UC、異能、装備効果を無効にする機体から】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    もう、誰も亡くしたくないの!
【UC、異能、装備効果を無力化する重火器】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    キサマラハ、マタワタシカラウバウノカ?
【UC、異能、装備効果を反射する脚部の龍】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。

イラスト:8mix

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠大神・狼煙です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

榎・うさみっち
マント&シルクハット&ベネチアンマスク姿で参戦!

このステージは…巨大迷路か!
これは骨が折れそうだ…あれっ?
早速お宝発見!なーんだチョロイぜ…ぴゃあああ!?
宝箱の中から水鉄砲攻撃が…!!
どうやらこのステージ、大量に宝箱が置かれていて
正解以外は全て罠付きのダミーらしい…なんてこった

ここは人海戦術!UCでワルみっち軍団を召喚
手分けして探索だ!
開ける時はまずは遠くから銃で撃って確かめるように

ギャー!古代機械兵器だー!?
…いや待てよ、こいつが居るということは
この先に正解のお宝があるはず…!
攻撃は効かないから小さい身体を活かして
素早く飛んで背後に回り込み強行突破!
その先にある宝箱めがけてばずーか発射ー!



●18.5cmの怪盗
 上下左右を青白いレンガの様なもので覆われた、巨大な迷路。
 そのステージの通路を、黒ずくめの何かが、ぶーんと羽音を立てて飛んで行く。
 黒で統一されたスーツとマントにシルクハット、そしてベネチアンマスクと言う怪盗スタイルの榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)である。
「巨大迷路か! 骨が折れそうだな……!」
 何度目かの十字路にひとりごちながら、うさみっちは深く考えず直進していく。
「あれ?」
 すると、その前に如何にもな宝箱が現れた。
 しかも2つも。
「早速お宝発見! なーんだチョロイぜ!」
 あっさりと見つかった宝箱。それも何故か2つ。しかしうさみっちは警戒心ゼロで宝箱の片方に飛びついて、その蓋を開ける。
「この怪盗うさみっち様が、お宝頂戴するぜ!」
 ――ぶしゃぁっ!
「ぴゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 宝箱の中から勢いよく噴き出した水をまともにくらい、うさみっちがぐるぐる回りながら吹っ飛ばされていく。
「お、おのれー!」
 たっぷり10mは吹っ飛ばされたうさみっちは、とんぼ返りでもう片方の宝箱に飛びついて蓋を開ける。
 中には――『スカ』と書かれた紙があった。
「コンチクショウ!」
 スカの紙をびりびりちぎって、うさみっちは頭上に放り投げる。
「どうやらこのステージ、大量に宝箱が置かれていて、正解以外は全て罠付きのダミーらしい……なんてこった」
 どうしたものかと、うさみっちは腕を組んで考え込み――。
「全部開けりゃいいんじゃね?」
 と、怪盗っぽさの感じられない方法を閃いた。
「ここは人海戦術! 来い、でんこうせっかのワルみっちスナイパー!」
 うさみっちがパチンッと指を鳴らした音が消えるより早く――僅か91分の1秒で――黒スーツと真っ黒グラサン、そして今回は何故か揃いの帽子も加わったのマフィア風のワルみっち軍団が、うさみっちの周りに忽然と現れた。
「宝箱を探すのだ、ワルみっち達よ! 手分けして探索だ!」
 うさみっちを良く知る者がこの場にいたり、外から番組を見ていたら首を傾げたかもしれない。何故ワルみっち軍団なのか――と。
 人海戦術で行くのなら、もっと数を呼べるうさみっち軍団もいるのに。
「いいか! 宝箱開ける時はまずは遠くから銃で撃って確かめるように!」
 敢えてワルみっちを喚んだのは、うさみっちなりの学習の結果であった。

 ――ぶしゃぁっ!
 ――ぶしゃぁぁっ!
 あちこちから水が噴き出す音が聞こえる。
 たまに、水を避けきれずにずぶ濡れになって吹っ飛ばされてるワルみっちもいたりするが、うさみっち達は順調に未開封の宝箱を減らしていた。
「よーし、残すはこの通路のみ! なんだ、やっぱチョロイじゃねーか」
 その犠牲のお陰で、本命の宝箱の位置は徐々に絞り込まれ、良い気になっているうさみっちの前に――。
 ガシャンッ!
 壊すのは難しいと思われた通路を、下から何かが突き破った。強引に床を壊し、巨大な何かが現れる。
『モウナクサヌ、ナクサセヌゾォォォォォォォォッ!』
「ギャー! 古代機械兵器だー!?」
 巨大な『原初の古代機械兵器』の出現に、うさみっちは思わず悲鳴を上げ――。
「ん? ……いや待てよ?」
 ふと、気づいた。
 何故今になって、急に出てきたのかと。
 うさみっちを進ませない為――それ以外の理由は考えられない。
「こいつが居るということは、この先に正解のお宝があるはず! ワルみっち軍団!」
 うさみっちの指示で、ワルみっち達が手にした銃を素早く構えて、古代機械兵器に向かって撃ち始める。
 カキン、カキン、と弾丸が弾かれる軽い音が響く中、うさみっちは古代機械兵器の下をすり抜けて――。
「ばずーか発射ー!」
 うさみっちバズーカから飛び出したさむらいっちの刃が、宝箱の錠を斬り落とす。
「お宝、ゲットだぜー!」
 そしてうさみっちの手が、宝箱の中の金塊に触れた。
『グオォォォォォォォォ』
 苦悶に呻く様な音にうさみっちが振り向くと、『原初の古代機械兵器』が迷路の底へと消えていったであろう大穴だけが残っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾白・千歳
【漣千】

今日の私は大泥棒!めっちゃすごーいお宝盗んじゃおーっと!
えーさっちゃんも来るの?
せっかくお宝独り占めできると思ったのに

お宝ってどんなのかなぁ?
とびっきり美味しい稲荷寿司だったらいいなぁ~
乙女?ハート?何か言った?

あ、宝箱がある~
どんなお稲荷さんが入ってるかな!?
ワクワクしながら躊躇うことなく宝箱を開けようと
ちょっと、さっちゃん何で勝手に開けるの!?
罠にはさっぱり気づかない

あ、このボタン何かな?(ポチッ
あ、ここだけ床の色が違う!(ダンッ
犠牲に気づくことなく目につく罠に全部ひっかかりながら進んで行く

最後の宝箱を開けると中にはキレイな宝石のついた首飾り
稲荷寿司じゃないのかーがっかり(ポイッ


千々波・漣音
【漣千】

鈍臭いお前だけじゃ無理だろ
ほら一緒にいくぞ、ちぃ
…何、その不服そうな反応!?

オレは神格高い竜神だから、盗人に神罰下す方だけどなァ
ま、でもイケメンなオレ様は、乙女のハートは日々盗みまくり…って、聞けよ!

宝箱、そこにあるじゃねェの
…でも、いかにも罠じゃね?
って!ちぃ、そんな無警戒に近づいたら…ッ(咄嗟に庇う
ぎゃあ!?(やはり罠

押すなよ、押すなよ…だァッ!?
アッ、その床踏んだら…どわァッ!
いちいち罠に突撃するちぃを庇っては巻き込まれ(不憫

や、やっと見つけたな
首飾りか、お宝ってカンジだなァ
え、興味ナシ!?(慌ててゲット
お、ダメージ与えられたか(ホッ

てか稲荷寿司なら、オレが絶品の作ってやるし…!



●不憫とはこういうことだ
「今日の私は大泥棒!」
 天井も壁も床も、青白いレンガの様に覆われた通路に尾白・千歳(日日是好日・f28195)の声が響く。
「めっちゃすごーいお宝盗んじゃおーっと!」
「鈍臭いお前だけじゃ無理だろ」
 自信に目を輝かせフワフワの尻尾もぴんと立たせた千歳の後ろから、何だか不憫そうな響きの声が聞こえた。
「えー? なんでさっちゃんも来てるの?」
「何、その不服そうな反応!?」
 歯に衣を全く着せない千歳の言葉に、千々波・漣音(漣明神・f28184)が思わず眉根を寄せて後退る。
「だって。せっかくお宝独り占めできると思ったのに」
「独り占めできる前提かよ。その自信、どっから来るんだよ……」
 ぷぅと頬を膨らませた千歳の言葉に滲む自信に、漣音の口から盛大な溜息が零れる。
 千歳が一度こうなってしまえば、漣音が何を言っても、その自信に根拠がないと言っても聞きはすまいだろう。やや夢見がちな所もあるが、千歳はとても前向きで――悪く言えば諦めが悪い、良く言えば強い精神力を持っているのだから。
 そして――そんな千歳を、漣音は放っておけない。
「ほら一緒にいくぞ、ちぃ」
「……稲荷寿司だったら、あげないからね?」
 前に出て歩き出した漣音の背中に、千歳はまだ不満そうに呟いた。

「ねえ、さっちゃん。宝箱、まだ?」
「まだだよ」
「ねえ、さっちゃん。宝箱――」
「まだだって」
「ねえ、さっちゃん」
「あのな……まだ歩き出してそんなに立ってないぞ」
 背中に何度もかけられる宝箱が待ちきれない千歳の声に、漣音は丁度十字路の真ん中で足を止める。
「そんなに早く宝箱が見つかる筈が……」
 そして振り向こうとぐるりと回――ろうとして、その視界に何かが見えた。
「ん?」
 その何かを確かめようと漣音は首を横に向けて――。
「あるじゃねェの」
 あったのだ。
 宝箱が。
(「……でも、いかにも罠じゃね?」)
 あまりにもあっさり見つかった宝箱に、漣音は流石に疑念を抱く。
「なになに? あ、宝箱がある~」
 そんな漣音の内心を知らず、釣られて首を同じ方向に向けた千歳は、宝箱に気づくなり一目散に駆け出した。
「って! ちぃ、そんな無警戒に近づいたら……ッ」
 慌てて伸ばした手が空を切り、仕方なく漣音も千歳を追って全力で走り出す。
「どんなお稲荷さんが入ってるかな!?」
 宝箱の中身に対するワクワクで警戒心と言うものを忘れた千歳が、何の躊躇いもなく宝箱に手を伸ばし――。
「だから、待てっての!」
 寸前で先に手が届いた漣音が、宝箱を開ける。
 ――ぶしゃぁっ!
 宝箱の中から勢いよく噴き出した水が、漣音の顔を直撃した。
「ぎゃあ!? 目が、目がぁぁぁ」
「ちょっと、さっちゃん何で勝手に開けるの!?」
 思いっきり水が目に入ってしみてる漣音に、罠に全く気づいていない千歳が頬を膨らませて不満気な声を上げた。

 だが――今回の漣音の不憫は、これで終わらなかった。

「あ、このボタン何かな?」
「待て。押すなよ、押すなよ……ッ!」
 あからさまに怪しい壁のボタンに、のこのこ近づく千歳を漣音が必死で止める。
「あ、こっちのボタンの方がきれい~!」
 止めた、と漣音が安堵した数秒後、千歳の指が違うボタンを押した。
「だァッ!?」
 後ろの壁がパカッと開いて、中から勢いよく飛び出したテニスボールが不憫にも漣音の頭を直撃する。
「……痛ってェ」
 タンコブこさえた漣音は、それでも千歳が罠にかからない様、コツコツと靴底を打つようにして床下の罠を探りながら先を歩いていく。
「アッ、その床踏んだら危ないぞ」
「なに? どこのこと?」
 見つけた罠のスイッチを踏まないようにと注意させるつもりで漣音が告げた言葉が、逆に千歳にその床に興味を抱かせてしまう。
「あ、ここだけ床の色が違う!」
「だから踏むなって――どわァッ!」
 ダンッと、妙に力強く罠のスイッチを踏み抜いた千歳の手を引いて移動させた直後、漣音の足元が消えた。
 床に空いた穴にスポっと嵌って、漣音は抜け出すのに苦労する事になる。
 漣音が見つけたものも、見つけ損ねたものも。千歳は罠と言う罠を端からかかりそうになっていき、その度に漣音は千歳をかばって罠にかかり続けた。
 ――転がって来る大岩に潰されそうになったり。
 ――壁から放たれた矢が鼻先を掠めて行ったり。
「お宝ってどんなのかなぁ? とびっきり美味しい稲荷寿司だったらいいなぁ~」
(「もう……なんでも良いから早く見つかってくれ……」)
 自分が罠に何度もかかって来た事にさっぱり気づかず、無邪気に宝に思いを馳せる千歳の横で、漣音は身も心も疲れ切っていた。
「さっちゃんは、どんな稲荷寿司が欲しい?」
「稲荷寿司前提かよ……」
 いつの間にか『お宝=稲荷寿司』になっている千歳に、漣音は疲れた声で返す。
「宝の事なんて、オレも良く判らねェよ。オレは神格高い竜神だから、盗人に神罰下す方だしなァ」
 罠でボロボロな今の姿に果たして神格の高さが感じられるのだろうかと言う事は敢えて考えず、漣音は少し声を張り上げる。
「ま、でもイケメンなオレ様は、乙女のハートは日々盗みまくり……」
「乙女? ハート? 何か言った?」
「って聞けよ!」
 しかし漣音の言葉は千歳の耳を右から左に抜けていた。聞いて貰えないとは、また不憫である。
『――セナイ』
 だが、返ってきた声もあった。
「ん? ちぃ、なんか言ったか?」
「何も言ってないよ?」
 誰の声だと訝しむ漣音に、千歳が首を横に振る。
 ならば――。
『モウ、ヌスマセナイ!』
 声の主は――『原初の古代機械兵器』は、迷路の壁を突き破って現われた。
「ちぃ、走れ!」
「う、うん!」
 慌てて走り出す2人。だが、ここで『原初の古代機械兵器』が現れたと言う事は、本命の宝箱が近いという事。
 走る2人の前に、これまでよりも豪華そうな宝箱が見えて来る。
「や、やっと見つけたな……」
「宝箱だ~!」
 安堵の息を零す漣音の横から、千歳が宝箱目掛けて駆け出していく。
 今度こそ千歳の手が宝箱に届いて、蓋がゆっくりと開かれる。
「んー?」
 中を覗き込んだ千歳は、しかし何故か首を傾げた。
「どれどれ? って、首飾りか、お宝ってカンジだなァ」
 遅れて漣音が宝箱を覗くと、そこにキレイな宝石のついた首飾りが納められている。だがそれは、千歳の期待したお宝ではなかった。
「なーんだ。稲荷寿司じゃないのかー。がっかり」
「って、ええ!? 興味ナシ!?」
 こんなの、と千歳は宝箱から拾い上げた首飾りを、ぽいっと後ろに投げてしまう。
 2人の後ろには、何がいるだろうか。
 さっき現われて追いかけてきている、『原初の古代機械兵器』がいる。
「うぉぁぁぁぁぁぁっ!」
 思わず愛用のバス停も投げ捨てて、漣音は床を蹴って飛び出した。『原初の古代機械兵器』が鋼の脚を振り上げるのも構わず、腕を伸ばす。
 そして倒れ込みながら伸ばした掌に――首飾りが収まった。
 漣音の頭の上で、『原初の古代機械兵器』の脚がピタリと止まる。
『グオォォォォォォォォ』
「お、ダメージ与えられたか」
 迷宮の奥へ消えていく『原初の古代機械兵器』に、漣音がホっと安堵の息を吐く。
「あ! 二重底で稲荷寿司が隠れてたりして……!」
「……。帰ろうぜ……稲荷寿司なら、オレが絶品の作ってやるから……帰ろうッ!」
 最後まで危なかった事に気づかず稲荷寿司を求める千歳に、床に突っ伏した恰好のままの漣音は、疲れ切った声で帰ろうと懇願するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

疎忘・萃請
どろぼうはいけないよ
そんなことをする子は鬼に食べられてしまうよ

……うん?ああ、そういう遊びか
ならばいい、楽しく遊ぼう

森のような自然の中のステージで
八咫烏に空から
犬神には匂いを頼りに宝を探してもらう
鎌鼬はアタシと御出で
いざというときアタシを風で飛ばすんだよ

木の葉の緑に紛れ、息をひそめる
鬼のはずなのに、隠れ鬼の子のようだ
宝の場所がわかったら木から木へ移り、そこへ行こう

途中見つかり、追いかけられたら塗り壁に道を塞いでもらおう
宝が射程内に入れば
あとは只管走るだけ

ふ、ふふふっ
嗚呼、カクリヨの危機だというのに
こんなにも楽しいだなんて



●森に遊ぶ鬼
「どろぼうはいけないことだよ」
 新緑と木漏れ日に包まれた森の中に、疎忘・萃請(忘れ鬼・f24649)が小さく響く。
「そんなことをする子は鬼に食べられてしまうよ」
 脅かす相手もいない森で、萃請は一人呟く。
 そういう事を言いたくなるのは――萃請が鬼だからか。
「だけど、そういう遊びならばいい」
 やってはいけない――そう言われている物事に、ヒトと言う生き物は少なからず好奇心を刺激される。そういうものだと、鬼でも知っている。
 だから――萃請は笑っていた。
「遊ぶなら、楽しく遊ぼう」
 からん、ころんと朱塗の一本下駄の音を鳴らして。
 まるで遊ぶ子供のように、鬼が笑う。
「しかし広い森だね。これが、あの中なのかい」
 とてもテレビの中とは思えない広大な森に、萃請は感嘆の溜息を零す。大きな樹を駆けあがって枝の上から見回しても、森の果ても見えやしない。
「これは皆の力を借りた方が良さそうだね」
 樹から飛び降りた萃請は、姿勢を正し目を閉じる。
「萃まれ、集え、吾が名の元に」

 ――百鬼夜行。

 八咫烏、犬神、鎌鼬。
 古に忘れ去られた妖怪達の霊が、萃請の周りに現れる。
「八咫烏に空から、犬神には匂いを頼りに宝を探すんだよ」
 クァーッ!
 ウォンッ!
 萃請の指示で、八咫烏が森の樹々より高く飛び上がり、犬神はプスプス鼻を鳴らしながら、先に進んで行く。
「鎌鼬はアタシと御出で」
 萃請は鎌鼬を傍に残し、犬神の後をついて歩いて行った。

 どれだけ進んだだろうか。
 テレビの中だからか、何時間経っても森の中に届く木漏れ日は変わらなかった。光の色も明るさも変わらない世界では、時間の経過を忘れてしまいそうになる。
「……」
 そんな事を考えながら、萃請は木の葉の緑に紛れ、息を潜めていた。
(「アタシは鬼のはずなのに、隠れ鬼の子のようだ」)
 どこかにいる『原初の古代機械兵器』を警戒して隠れているのだが、この番組の元になったであろうものとは違うヒトの子の遊びを思い出し、萃請は息を潜めながらも笑みを浮かべていた。
 ウォンッ、ウォンッ!
 そこに響いた、犬神の鳴き声。萃請が顔を上げて鳴き声の方に視線を向ければ――幾つかの樹々の隙間から、大きな千両箱が見えた。
 クァーッ! クァッ! クァッ!
 萃請が宝箱を認識した瞬間、空で八咫烏がけたたましい鳴き声を上げ、ほぼ同時に何かに気づいた鎌鼬が、萃請の肩の上で弾かれたように振り向く。
『コレイジョウ、ススマセヌ!』
 それほどの巨体がどこに隠れていたのか。
 『原初の古代機械兵器』が、いつの間にか萃請の後ろに現れていた。
「塗り壁!」
 突進して来る『原初の古代機械兵器』の前に、萃請は新たな妖怪の魂を呼んだ。
『!?』
 巨大な壁そのものな塗り壁に阻まれ、『原初の古代機械兵器』の突進が止まる。だがそれも長くは続かないだろう。
「鎌鼬!」
 その僅かな間に、萃請は鎌鼬の起こした風に乗って――跳んだ。
『キサマラハ、マタワタシカラウバウノカ?』
 くぐもった『原初の古代機械兵器』の声は、少し遠くなっていた。稼いだ距離を振り向いて確認しようとはせず、萃請は着地するなり走り出す。からころと、足音鳴らして駆けていく。ああ、だけど。
 萃請は気づいた。今この瞬間なら――ヒトの子の為に足音を偽る必要はないと。
 一本下駄を脱ぎ捨てて、只管走っていいのだと。

 かつて――ヒトにとって鬼とは目に見えない、理解できない恐れであった。
 人知の及ばぬ災害、疫病は全て鬼の業とされ、恐れ、敬われていた。
 だが、長い時が流れ、人知の及ぶ範囲はどんどん広がっていった。天災は予期出来るものが増え、出来ずとも対処できるようになった。疫病も同様だ。
 いつしか、鬼はヒトから恐れられなくなり、忘れ去られた。風化した。それでも――それなのに自我を持ってしまった鬼は。

 ヒトに歩み寄らんとした鬼は――萃請は笑っていた。
「ふ、ふふふっ」
(「嗚呼、カクリヨの危機だというのに……」)
 全力で走って、息が切れそうになっているのに――抑えきれない。
 こんなにも楽しいだなんて。
 足の裏に柔らかな下草を感じて、抑えきれず零れる笑みをそのままに。萃請が伸ばした手が、宝箱の蓋を開いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ガーネット・グレイローズ
今度はTVの中で戦うのか?
敵を弱体化させるアイテムをゲットすればいいんだな。
よし、任せろ!

転送ポイントは摩天楼がそびえる機械都市。
キャバリア「夜の女王」で出撃するぞ。
コクピットでくつろぐメカたまこEXに、《宝探し》機能で
お宝の位置を探らせよう。
《情報収集》能力を併用すれば、場所の特定までそう
時間はかからないだろう。それに、近づけば敵が
妨害をかけてくる筈だからな!

【念動武闘法】でPSDホーネットを射出、《レーザー射撃》
《空中機動》で応戦するが、あくまでもお宝の入手が優先事項だ。
反撃はそこそこに《推力移動》《限界突破》で追撃を振り切るぞ!
宝箱の中身は……これは、見たことのない規格のディスク?



●キャバリア怪盗『夜の女王』
「ここがテレビの中なのか」
 呟いたガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)の声が、紅い髪を靡かせる強風に流され消えていった。
 見下ろす眼下には、幾つもの人工の光が小さな光点となって明滅している。
「ここの何処かにある敵を弱体化させるアイテムをゲットすればいいのか」
 何百メートルあるのかという摩天楼が幾つもそびえる、機械都市ステージ。
「面白い」
 その摩天楼の1つの上から、ガーネットは空中に身を躍らせた。
 ガーネットは摩天楼から空中に身を躍らせた。
「来い、夜の女王!」
 落下するガーネットが、何処からか立ち昇る光の柱に包まれる。
 光の中に現れた5m程の人型の中に、ガーネットの姿が消えて――黒と赤を基調としたデザインのキャバリアが、機械都市の空に飛び立った。

「さてと……宝探しだ。出番だぞ、メカたまこ」
 コクピットに落ち着いたガーネットは、何故かそこでくつろいでいる鉄色のにわとり――にわとり型ドローン『メカたまこEX』を掴むと、ハッチを開いて放り投げる。
 コケーッ!?
 摩天楼ステージの空に響いたメカたまこの鳴き声も、風に流されていく。
 元々は艦内のセキュリティ強化用に導入したメカたまこだが、宝箱と言う目立つものを探すのならこの摩天楼ステージでも充分に働くだろう。
 ガーネットはそれを信じて、メカたまこから送信されてくる情報が途切れない様に、一定の距離を保っていればいい。
「さて。メカたまこが見つけるのが先か、見つかるのが先か……」
 コクピットで呟くガーネットには、もう一つ思惑があった。
 今はまだ姿を見せない『原初の古代機械兵器』。宝箱を守っているのだとしたら、メカたまこが宝箱に近づけば――。
 その予感は、向こうからやってきた。
『トマレ!』
 メカたまこの向かう先の摩天楼の陰から、壁面を伝って巨大な『原初の古代機械兵器』が姿を現した。
 コケッコーォォッ!?
「やはり出たか!」
 慌てたような鳴き声を上げるメカたまこを尻目に、ガーネットは夜の女王のコクピットで一人笑みを浮かべる。
 メカたまこを妨害する形で『原初の古代機械兵器』が現れた。それはつまり、メカたまこが宝箱に近づいている事の裏返し。
「メカたまこ、そのまま宝探しを続けろ!」
『ナクサセヌゾォォォッッ!』
 夜の女王で割って入ったガーネットに、『原初の古代機械兵器』が突っ込んでくる。
「くっ……重いな」
 夜の女王は、サイキックタイプのキャバリアだ。押し合いの様な純粋な力比べに向いている機体ではない。
「神殺しの力の一端をお見せしよう」
 だからガーネットは腰部装甲から浮遊自走砲「PSDホーネット」を放った。その名の通り蜂を思わせる小型兵器の群れが――次々と増えていく。

 念動武闘法――サイキックアーツ。

 実態兵器を複製し、念力で操る業。
 ガーネットが「PSDホーネット」の全てからレーザーを放つと同時に、『原初の古代機械兵器』も内蔵した重火器を放つ。光と弾頭が空中でぶつかり――空に咲いた爆炎を、数条のレーザー光が撃ち抜いた。
『ムダダ』
 手数で勝ったガーネットの攻撃だが、しかし光は『原初の古代機械兵器』の装甲に当たった瞬間に霧散する。
「ちっ……本当に硬いな」
 ――コケッ! コケコケコケッ!
 思わず舌打ちしたガーネットに届く、メカたまこからの宝箱発見の合図。
「位置は……近い!」
 その位置を把握した瞬間に、ガーネットは動いていた。攻撃に回していたエネルギーを全て推力に回し、夜の女王を飛ばす。
 自身の精神感応技術の限界を越えて、血中ナノマシンが騒いで細い血管が切れるのも構わずにガーネットが加速させた夜の女王は、『原初の古代機械兵器』を振り切って、ほとんど体当たりする勢いで宝箱に辿り着く。
「これは……ディスクか? 見たことのない規格だが」
 ガーネットの手が中身に伸びた時、後方で『原初の古代機械兵器』が摩天楼の外壁から落ちていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…いい加減、慣れてきたつもりだけど、異世界には本当に色々な娯楽があるのね

…とはいえ、それが最適解だと言うならば是非も無し
今日の私は猟兵でも吸血鬼狩りでもなく怪盗として出向くとしましょう

舞台は近未来の摩天楼。お宝は最上階にあり、
建物内部は無数の警備員が守っている…という設定

今宵、お宝を頂戴しに参上します。怪盗リーヴァルディより

事前に予告状を出しておき闇に紛れてUCを発動
怪盗っぽい血の仮面で目元を覆って吸血鬼化を行い、
脚部に魔力を溜め疑似空中機動の早業で壁面を駆け屋上に向かう

敵が追い掛けてきたら"光の精霊結晶"を投擲し閃光で視界を潰し、
その隙に"血の翼"を使い限界を突破して加速しお宝を頂戴するわ



●ショウタイムは105秒
 ヒュッ!
 風を切る小さな音が鳴り、何処からか飛んで来た1枚のカードが地面に突き刺さる。
『ム? ――コ、コレハ!』
 カードを拾い上げた警備員の、顔のない黒い頭部から驚愕の声が上がった。

 ――今宵、お宝を頂戴しに参上します。
 ――怪盗リーヴァルディより。

 それは紛れもない――予告状。
『カ、怪盗ダ!』
『予告状ダト!?』
 人影の後ろの建物から、同じように顔のない黒い警備員が現れる。そればかりか、後ろの建物――天を衝くかの様な巨大な摩天楼の中のあちこちに、同じ黒い警備員がワラワラと出現していた。

「……大騒ぎね」
 予告状を出した怪盗リーヴァルディことリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、その様子を離れた物陰から伺っていた。
 全面ガラス張りを作りかけの繭の様な骨組みで覆った摩天楼は、外からでも様子を伺う事が出来る。
 内部に出現した警備員は、その場に留まる者と上へ登っていく者に分かれていた。
「……成程。宝箱は最上階か屋上ね」
 その動きから、リーヴァルディは宝箱の在処に当たりをつける。
(「さて。どうやってそこまで行こうかしら」)
 そう思案したところで、リーヴァルディはふと思った。
 ――これが本当に、子供の娯楽を元にした番組と言う設定のテレビの中なのかと。
「……いい加減、慣れてきたつもりだけど、異世界には本当に色々な娯楽があるのね」
 リーヴァルディが感嘆と呆れが混ざったような溜息交じりに呟く。
「まあいいわ。これが最適解だと言うならば是非も無し」
 とは言え、驚いても戸惑っても、リーヴァルディは止まりはしない。
「今日の私は猟兵でも吸血鬼狩りでもなく、怪盗として出向くとしましょう」
 ここがそういう世界ならば、その流儀に合わせるまでだ。

「……限定解放。忌まわしき血に狂え、血の寵児」
 呟いたリーヴァルディの目元を、血の様な紅い光が覆う。紅光が固まった顔の上半分を覆う仮面を纏って、リーヴァルディは物陰から飛び出した。
『何者ダ!』
「怪盗よ」
 誰何の声に短く返し、リーヴァルディは地を蹴って跳び上がる。あっという間に摩天楼の外壁に取り付いて、さらにその外壁を蹴った。
『――!?』
『――っ! ――!!』
 中の黒い警備員たちが慌てるのを置き去りに、リーヴァルディは凄まじいスピードで摩天楼を駆け登っていく。
 その速度は、仮面が齎す力。
 鮮血の仮面は、リーヴァルディが吸血鬼の力を解放した証。その力を制御し、超速戦闘に特化した力を得る奥義。

 限定解放・血の寵児――リミテッド・ブラッドアニマ。

 但しその力を維持できる時間は限られている。今のリーヴァルディで105秒。
(「このペースなら余裕だけど……そこまで上手くは行かないんでしょうね」)
 胸中で呟いたその予感は、数秒後に現実のものとなった。
 ガシャァァァァンッ!
 摩天楼の硝子の壁が内側から砕け散り、摩天楼の中から巨大な『原初の古代機械兵器』が現れた。
「……出たわね。追いつけるかしら?」
『イカセヌ……何モナクサセヌゾ!』
 仮面の奥のリーヴァルディの瞳と、『原初の古代機械兵器』の機械の瞳が、どちらも紅く赤く輝く。
 先に『原初の古代機械兵器』が、内臓した重火器を放ってきた。放たれた弾丸は、リーヴァルディには当たらず、その前方と周囲に着弾する。
 着弾の衝撃で、硝子の壁が砕け散る。
 駆ける足場が崩れ行く中、リーヴァルディは脚部に魔力を溜めて空中を蹴って、さらに駆け上がっていく。
『オノレ! イカセルモノカ』
 自ら破壊した外壁の空白地帯を越えようと、『原初の古代機械兵器』が腕を伸ばす。
 その瞬間、リーヴァルディが崩れる硝子に紛れさせて落としていた"光の精霊結晶"から放たれた閃光が、辺りを白く染め上げる。
『ド、ドコダ……』
 眩しさに『原初の古代機械兵器』が見失った隙に、リーヴァルディは背中に血の翼を生やして限界以上に加速し、屋上に辿り着いていた。
「確かに頂いたわ」
 宝箱の中にあった紅玉を手にリーヴァルディが振り向き見下ろせば――『原初の古代機械兵器』が、支えを失って落ちていく所だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

檪・朱希
綾華(f01194)と
綾華と似たサイバーパンク風の衣装。ヘッドホンは身につけているものと同じ。
そうだね……それに、怪盗とか、何だかわくわくする。
頑張って、お宝を手に入れよう。
蝶の翅……! どんな色をしているんだろう。暖かい色だといいね。

あ、爆竹投げるなら少し待って。
爆竹を投げ込む前に、UC発動しておく。投げてから赤の攻撃の蝶も爆竹と共に置いて、警備を暫く攻撃してもらおうかなって。
時間は稼げるはず。
あ、耳を塞ぐのを忘れないようにしないと。ありがとう、綾華。
うん、移動は賛成だよ。
わぁ、ワイヤーで移動するの、飛んでるみたい!

あれがお宝……うん、緑の移動の蝶を上手く使えば取れそうだね。


浮世・綾華
朱希ちゃん(f23468)と

降り立ったのは近未来風なビルの上
身に纏っていたのは黒いサイバーパンク風の衣装
成程、結構雰囲気出てんじゃん

盗むのは――蝶の翅っつー宝石らしい
ばらまいたのであろう予告状の一枚を拾って見せ

状況整理しつつ
早速向かいたいところだが…
警備は厳重みたいだな

UCで生まれたのは爆竹
近くのビルに投げて、隙に裏から移動するか
お、いーじゃん。それで行こ
よし。耳、がっつり塞いどいてネ

衣装から飛ばすワイヤで移動を試みる
おわ。結構すぴーど出んなあ
楽し気な彼女を見れば思わず笑って
…はは、だな?

お宝は――あれか

おっけ
扇を手に舞うように炎を浮かばせ引き付けて
朱希ちゃん、頼んだ

蝶の翅は俺らが頂くよ



●蝶の翅は頂いた
 そこは、とても眩い世界だった。
 空は暗く夜を思わせるのに、世界は光に満ちている。
 タイヤのない車が走る道路の所々から光の柱が空へ伸びていて、立ち並ぶ幾つものビルの外壁も埋め込まれた照明で明るく輝いていた。
 更に、空を飛ぶUFOを思わせる円盤型ドローンが、それらの光を浴びては屈折、反射させて光を広げる事で、この街に光の届かない場所はないだろう。
「成程、結構雰囲気出てんじゃん」
「そうだね……」
 闇を駆逐した、近未来のステージ。そこに幾つもそびえるビルの一つの屋上に浮世・綾華(千日紅・f01194)と檪・朱希(旋律の歌い手・f23468)の姿があった。
「朱希ちゃん、楽しそうだね?」
「うん。怪盗とか、何だかわくわくする」
 その口元に浮かぶ小さな笑みに気づいて綾華が訊ねれば、朱希は小さく頷き返す。
「こう言う恰好も、怪盗役なんだって気になるし」
「うんうん、気分でるよな」
 朱希の黒ずくめは普段もそうだが、今は綾華も黒ずくめだ。どちらもサイズぴったりで身体の動きを妨げないデザインながら、朱希はヘッドホンと同じ赤いラインが、綾華は本体の鍵に近い黄銅のラインの装飾も入っている。
 近未来の怪盗衣装と言ったところだろう。
 そんな怪盗衣装のポケットから、綾華は一枚のカードを取り出した。
「ちなみに俺らが盗むのは――蝶の翅っつー宝石らしい」
「蝶の翅?」
 朱希は首を傾げながら、綾華からカードを受け取る。
 そこには、実に簡潔なメッセージが記されていた。

 ――この都市で最大の宝石『蝶の翅』。今宵、我々が頂戴する。

「綾華ってば、いつの間にこんな予告状を……」
「いやいや、さっきそこで拾ったんだ」
 朱希がぢぃっと向けて来た視線に、綾華は片手を振って否定の意を示しながら屋上の端を指差す。
 どうやら、既に『怪盗が予告状を出した』というシチュエーションが整っている状況からのスタートになっているらしい。
 だからだろう。この近未来ステージを照らす明かりの中に、警告灯を思わせる赤い色が混ざっているのは。
(「どうせなら、予告状出すところからやりたかったかも……」)
 眼下で瞬く赤を見下ろし胸中で呟いて、朱希は屋上から乗り出していた身体を戻す。
「綾華」
「ん?」
「頑張って、お宝を手に入れよう」
「おうっ!」
 また小さな笑みを浮かべた朱希の拳に、綾華も笑って拳をコツンと合わせた。

「さーて。早速向かいたいところだが……下は警備は厳重みたいだな」
「ノコノコ降りてったら、捕まりそうだね」
 綾華の言葉に、朱希も頷き同意を示す。
 地上がダメなら――別の道を行けばいい。
「朱希ちゃん、行くよ」
「う、うん」
 怪盗衣装に付いていたワイヤーの先端を隣のビルに引っ掛け、綾華と朱希は同時にビルの屋上から飛び出した。
 ワイヤーが巻き取られる力に引っ張られ、2人は落下せずに隣のビルに飛び移る。
「おわ。結構すぴーど出んなあ」
「そ、そうだね……」
 思わぬ速度に、やや不格好になってしまった着地に綾華は笑い、朱希は驚いたのか目を瞬かせて頷く。
 とは言え目的地はまだ先だ。同じ移動を、まだ何回かしなければならない。
 だが――2回、3回と繰り返す内に、2人とも慣れていった。
「わぁ!」
 流れていく街並みの光を目で追う余裕も生まれ、朱希が空中で歓声を上げる。
「ワイヤーで移動するの、飛んでるみたい!」
「……はは、だな?」
 飛ぶ勢いで前髪が風に流れ赤い右目が露わになったのも忘れて楽し気な朱希に、綾華も思わず笑って返していた。

 笑顔の空中散歩の終わりは、赤い警告灯の方が多い美術館のような建物の前だった。
「……うん。あそこに蝶の翅があるのは、間違いないよ」
 周囲の『音』を拾いやすい副作用を抑えるためのヘッドホンを外して聞き耳を立てた朱希が、小声で告げる。
「蝶の翅がどこにあるとか、どんな色をしているんだろうって言うのまでは聞こえなかったけど。暖かい色だといいね」
「なーに。見つけりゃわかるさ」
 宝への期待で僅かに目を輝かせる朱希に、綾華も笑って返す。
 だが、問題もあった。
 警備がこれまで以上に厳重だと言う事だ。
 ついに『原初の古代機械兵器』も現れて、謎の警備兵もわんさか。まさに鼠一匹逃がさないと言う空気に満ちている。
「どうしよう」
「ま、何が出るかだな。――開け」
 思案顔の朱希に笑みを向けて、綾華は片手を握り締めた。
 その掌中に、熱が生まれる。握った指の隙間から光が零れ出て、綾華が指を開けば掌の上で光り輝く鍵が――形を変えていった。

 ――千変万化ノ鍵。

 あらゆる困難を打開する鍵は、時に鍵以外の形をとる事もある。
 やがて光が収まると、鍵は数本の紐に幾つもの小さな筒が鈴なりに連なったものになっていた。
「爆竹?」
「爆竹だネ」
 およそ鍵とは思えない形に、朱希と綾華は思わず顔を見合わせる。
「近くのビルに投げて、爆発で気を引いてる隙に裏から突入するか」
「あ、爆竹投げるなら少し待って」
 隣のビルに向かって身構えた綾華に、朱希が待ったをかける。
「コード、ドライ。リミット……アンロック」

 ――蝶の息吹。

 赤、青、緑。それぞれ違う力を持つ3種の蝶が朱希の周りに生まれる。
「赤の攻撃の蝶も爆竹と一緒に置いておくね。警備を暫く攻撃してもらおうかなって。時間は稼げる筈」
「お、いーじゃん。それで行こ」
 朱希の作戦に笑顔で頷いて、綾華は今度こそ隣のビルに爆竹を投げた。
 その後を追って、赤い蝶がひらひらと飛んで行く。同時に、2人は爆竹を投げたのとは別のビルに飛び移って――。
「よし。耳、がっつり塞いどいてネ」
「あ、そうだね。耳を塞ぐのを忘れないようにしないと。ありがとう、綾華」
 綾華の言葉に、朱希はヘッドホンを耳に戻して上から手で押さえ、屈みこんだ。
 ややあって――ズドーンッと、爆竹にはやや大きな爆発音が響いた。爆発の衝撃で屋上の底が抜け、ビルの外壁の明かりが消える。
『ナンダ!?』
『怪盗カ!』
 突然の爆発で下が騒がしくなる。中でも『原初の古代機械兵器』は、爆発の起きたビルに向かって真っすぐに動き出す。
 その隙に、綾華と朱希はビルからビルへと飛び移って、警備の手薄な所から美術館の中へ侵入を果たす。

 中に入ってしまえば、外の騒ぎが嘘のように静かだった。
「あの古代機械兵器の目を逸らしたからかな?」
「かもしれねーけど、警備の1体もいないのは変じゃん」
 まだ何かあるという予感を互いに感じながら、朱希と綾華は美術館の中を駆ける。
 そして――見つけた。
 赤と黄が複雑に混ざった薄い宝石が納められた、透明の宝箱。
「お宝は――あれか」
 しかし宝箱を前に、綾華の脚は止まっていた。宝箱の周りに、これでもかと張り巡らされた赤い光によって。
 それがただのセンサーの類なのか、攻撃的なものなのかは判らない。だが、触れたら良い事にはならないだろう。
 かと言って、その隙間を縫うのも難しい。
 ――人間の身体には。
 朱希の周りを漂っていた緑の蝶が、赤い光の隙間を縫って飛んで行く。
「……うん、緑の移動の蝶を上手く使えば取れそうだよ」
 その朱希の声は、赤い光の向こうから聞こえた。
 それが緑の蝶の力。
 緑の蝶から緑の蝶へ。間にある何にも遮られずに移動する力なら、朱希は赤い光に触れる事無く、宝箱に近づく事が出来る。
『オノレ! コレイジョウハススマセン!』
 しかし、そこに陽動に気づいた『原初の古代機械兵器』が戻ってきた。
「綾華、少しだけお願い」
「おっけ。朱希ちゃん、お宝は頼んだ」
 朱希が言い終わる前に、綾華はその場で振り向き扇を構えていた。
「蝶の翅は俺らが頂くよ」
 舞うように浮かばせた炎を広げ、『原初の古代機械兵器』の周りを囲う。
 その間に、朱希は緑の蝶をどんどん飛ばし、少しずつ宝箱へと近づいていき――。

 『原初の古代機械兵器』が炎を振り払うと同時に、朱希が伸ばした手が『蝶の翅』をそっと掴み取る。
 そして――世界が光に包まれる。

「あれ? ここって……」
「番組は終わりってことみてーだな」
 気が付くと、朱希と綾華は元のゴミ捨て場に立っていた。他のステージで泥棒してきた猟兵達の姿もある。
 ――猟兵達を吸い込んだテレビの画面には、もう何も映っていなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年05月10日


挿絵イラスト