大祓百鬼夜行⑫~ようこそ大根団地
●世界ふたつがヤバい
「カクリヨファンタズムがヤバい」
ルシル・フューラー(新宿魚苑の鮫魔王・f03676)の一言に、「ああ、またか」と思った猟兵もいただろう。
あの世界は、そういう世界だ。
しょっちゅうカタストロフしてる世界だ。
「でも今回のヤバさは、これまでの比じゃない。何せ放っておいたらカクリヨファンタズムを滅ぼす為にUDCアースも滅ぼされる」
世界ふたつ分のヤバさだった。
カクリヨファンタズム――幽世はUDCアースに隣接する狭間に在る世界だ。
故にUDCアースが滅びれば、幽世も滅びる事になる。
「2つの世界を滅ぼそうとしてるのは、大祓骸魂と言う妖怪だ。骸魂の元凶にして、UDCアースの大いなる邪神が一柱。全ての知的生命体に忘れられた究極妖怪」
忘れられたが故に、大祓骸魂の姿を見ることは誰にも出来ない。
――筈だった。
「一部の妖怪達は、大祓骸魂の事を覚えていた。その復活に気づいてくれた」
そして彼らは、敢えて骸魂を食らい、大祓骸魂の軍門に降った。
猟兵達に、大祓骸魂を認知させる為に。
「最近、カクリヨファンタズムで妖怪達が姿を消していた理由がそれさ。猟兵には見えない妖怪でも、その百鬼夜行を認知出来れば見えるようになる」
妖怪達も失いたくはないのだ。
幽世もUDCアースも、彼らにとっては故郷なのだから。
「というわけで、妖怪達が作ってくれた百鬼夜行を倒して回って、大祓骸魂に通じる雲の道を作り出す。当面の目的はそこになる」
●団地と言う名の大根畑
カクリヨファンタズムの果てに、妖怪達が暮らす『妖怪団地』と言う場所がある。
「そこは昔から、団地の地形を利用した『団地闘法』を操る妖怪集団――その名も『団地武装団』が住んでいるんだ」
なんだそれ。
団地闘法ってなに。
「一言では言い表せない。団地で力を発揮する闘法と言う以外、共通点ないから」
妖怪達、自由だな。
「で、今回行ってもらうのは、妖怪団地の1つ。大根団地だ」
その名前は、そこに住まう妖怪からつけられた。
「つまり、大根だ」
大根って野菜だよね。
妖怪じゃないよね。
「大根の妖怪だよ。見た目は、でっかい三股大根ってところかな」
妖……怪……?
「団地のそこら中を開墾して生えてるし、やたら口が悪いし、挙句に自分でスコップ振り回して自己収穫されてくる大根なんて、妖怪以外の何者でもなくない?」
まあ少なくとも、それもう野菜ではないな。
というか、開墾?
「妖怪団地はそこに住む妖怪達に良いように改造されてるんだ。大根の場合は、開墾」
外観は4階建ての2DK。いわゆる団地のイメージそのままの集合住宅のままだが、各扉の中は団地と言う名の大根畑。
但し台所と食器棚だけは残っている。
「大根の団地闘法が、団地にあるものを使って自分達を食わせることだからね。台所の近くなら加熱した大根料理が食べられる。畑の真ん中だと生で出て来るけど」
嫌な戦い方だな。
「彼らを食べる事に抵抗を感じる必要はないよ。彼らは辛うじて意志を保っていて、団地の中で、自分達を倒してくれる猟兵を待ちわびているからね」
文字通りの、私を食べて、というやつである。
「ちなみに、常人が食べると胃が焼ける」
だから大根とは。
泰月
食材オブリビオンには目がない、泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
おでんとかブリ大根とか、煮込んだ大根は最高だと思う。異論は認める。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、『大祓百鬼夜行』の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
今回は『妖怪団地』の1棟『大根団地』に住む大根たちが相手です。
敵はなんか食わせる系攻撃ばかりの、大根です。
そして、今回のプレイングボーナスは『迷宮のように改造された団地を利用して戦う』です。
このOPの何処に迷宮要素が?
大根団地の各部屋の扉をガチャっと開けると、何故かそこは大根畑です。
元々は2DKの空間の筈、とか気にしない勢いで大根畑です。でも台所は残っています。
つまり今回の迷宮要素をぶっちゃけると『大根畑という名の、所謂、特殊型モンハウしかない迷宮』って事です。台所は(比較的)安地。
プレイングは、今回は公開時点から受け付けます。
戦争シナリオですので、再送にならない範囲で書ける限りの採用になる予定です。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 集団戦
『大根』
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POW : 良いから大根を食え
戦闘力のない、レベル×1体の【陽気な大根達】を召喚する。応援や助言、技能「【料理】」を使った支援をしてくれる。
SPD : 大根食ってれば問題ないって
【大根料理】を給仕している間、戦場にいる大根料理を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ : 大根とは以下略
自身が戦闘不能となる事で、【自分達を食べた】敵1体に大ダメージを与える。【大根の効能】を語ると更にダメージ増。
イラスト:塒ひぷの
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
サギリ・スズノネ
大根なのです!サギリ、大根は好きなのです!
一番はーおでんの大根なのですけれどー、サンマに大根おろしもまた良いのです。
……何だか大根食べたくなってきたのです
でもあいつらあんまり美味しそうじゃないのです
とりあえずぶっ飛ばしてー、料理してみるのですよ!
まずは大根団地の扉を開けて部屋に入ります。
台所に大きな鍋があったら借りて、なかったら鉄鍋に、水道で水を入れておきます
あとは大根を倒すのみなのです!
『火ノ神楽』で出した炎の鈴をバラバラに動かして相手の注意を反らしてぶつけます
倒しきれなかったら接近して小鈴鳴丸でいちょう切り
あとは鍋に入れて、残った炎の鈴でことこと煮込んで『料理』……じゃない攻撃するのです!
●鈴を鳴らして、煮込みましょう
「サギリ、大根は好きなのです!」
チリン、チリンと、大根団地の階段に小さな鈴の音が鳴っている。
サギリ・スズノネ(鈴を鳴らして願いましょう・f14676)が、階段を軽い足取りで昇っていた。
敵は妖怪ではあるが、大根を食べていればいいのだ。
足取りも軽くなろうというものである。
(「一番はーおでんの大根なのですけれどー、サンマに大根おろしもまた良いのですー……サンマは時期じゃないですかねー」)
サギリの脳裏に、幾つかの大根を使った料理が浮かんでは消えていく。
「……何だか大根食べたくなってきたのです」
コクリと小さく喉を鳴らして、サギリの手がドアノブを掴む。
「大根いただきに来ましたー!」
『『『らっしゃい!』』』
期待を胸にドアを開けたサギリに、大根たちの視線が注がれた。
『なんとも、こまい子が来よったな』
『嬢ちゃんの口に合うかいな?』
『ワイらは、辛口の大根やで!』
容赦ない大根達の言葉が、サギリに浴びせられる。
なんだろう、大根たちのこの関西弁なノリは。
いわゆる青首大根や白首大根とは違う、聖護院大根や伊吹大根を思わせるずんぐりしたフォルムなので、もしかしたら関西出身なのかもしれない。
「あいつらあんまり美味しそうじゃないのです」
そしてそんな大根達の無遠慮な視線と辛口コメントに、サギリはつい、むっとした顔になって、そう口に出してしまった。
『なんやて?』
『言うたなぁ? 辛いと泣いても食わせたる!』
『さあ、どんな大根料理を食いたい?』
『リクエストしないなら、生やでぇ!』
辛口がヒートアップして迫って来る大根達に、サギリは小さく溜息を零す。
「とりあえずぶっ飛ばしてー、料理してみるのですよ!」
リィンッ。
サギリの手が振った神楽鈴から、澄んだ音が小さく響く。
「鈴を鳴らして舞いましょう」
――火ノ神楽。
九十もの鈴形の金炎が、大根畑を照らし出す。
『うお! 熱ちゃちゃ!』
『こら火ぃかい!』
サギリの意のままに動く炎の鈴に、迫りつつあった大根達が遠ざかる。
『焼き大根にして、辛みを抑えようっちゅう腹か』
「それも良いですけど、違いますー」
勘違いした大根の言葉を無視して、サギリは炎の鈴を恐れる大根達の間を縫って大根畑にぽつんと残った台所へと駆け込んだ。
「大きいお鍋……あ、ありました」
シンク下から大きめの鍋を探し出すと、サギリはそこに水を張って、料理酒、みりん、塩、しょうゆ、固形出汁と加えていき、味を調える。
「あとは大根を倒すのみなのです!」
『ええよ!』
『煮込まれたらぁ!』
サギリがどう料理する気なのか気づいたか、大根達の中から2体が、鈴の炎を掻い潜って大鍋に向かって飛び出してきた。
立派に育った大根達は、見るからに大鍋に入りきらない。
「丸ごとは大きすぎるのです」
だからサギリは短刀『小鈴鳴丸』をスラリと抜いて――。
スパッ、シュルル、ストン!
『小鈴鳴丸』を包丁代わりにしたサギリに、イチョウ切りに刻まれた大根達が、鍋の中へ落ちていく。
「これは攻撃、攻撃なのです。あとはことこと煮込んで――」
料理ではなく攻撃と自分に言い聞かせるように呟いて、サギリは炎の鈴の一部を合わせて大きな火種とし、大根入れたお鍋を煮込み始めた。
そして――。
「美味しいです。美味しい……美味しいのに……お腹痛くなりそうです」
『それが大根の団地闘法や!』
『大根は細胞が破壊されて初めて出る成分もあるんやでぇ!』
味がしみ込んでトロトロになるまで煮込まれてなお、食べた後にじわじわ溜まる大根のダメージに、サギリはなんとも言えない表情を浮かべていた。
大成功
🔵🔵🔵
マイア・ヴェルナテッド
ふむ、建物内だと植物の生育に必要な日照量などが十分に得られないはずなのですが何故屋内で…?
大根の効能云々は聞いてあげたいところですが防音の『結界術』で完全遮断
まずは近寄られて大根を食べさせられる前に可能な限り『高速詠唱』した【シャドウファイア】で焼き払います
初撃以降は回避に専念しつつ相手の行動パターンを解析し『学習力』で記憶し『見切り』ます
行動解析後は『瞬間思考力』で相手の行動を判断し回避しつつ『魔力溜め』を行い『全力魔法』の最大火力で丸ごと焼き尽くします
●食われてなんぼな大根達だから
「……畑、ね」
ドアを開けて踏み込んだ先が、コンクリートから土に変わったのを足音と靴底の感触で悟り、マイア・ヴェルナテッド(ノーレッジデザイア・f00577)は独り言ちる。
日傘の角度を変えれば、廊下に差し込んでいた外光とは違う、無機質な明るさがその空間を満たしていた。
「ふむ。人工の明かりが大半となる建物内だと植物の生育に必要な日照量などが十分に得られないはずなのですが、何故屋内で……?」
『屋内のどこが、不思議なんや?』
『姉さん、さては日本の人ちゃうな?』
『これはな、家庭菜園っちゅーもんや!』
「……」
大根達の言葉に、マイアは思わず閉口した。
通常、家庭菜園とは自宅の庭やベランダ、共用農園などで、家庭単位で果物や野菜を育てる事であり、部屋を畑に開墾する行為を家庭菜園とは呼ばない。
『ワイらは、『団地武装団』の一員として、『団地闘法』に家庭菜園を利用する事を覚えたんや!』
『ちなみに気にしとる日照量は、気合でベランダの方へ動けば何とかなるで!』
『ベランダは南向きで日当たり良好やからな!』
だと言うのに無茶苦茶な言い分を続ける大根達に、マイアは胸中で溜息を吐く。
(「この勢いで、大根の効能云々を聞かされることになるのですか。聞いてあげたいところではありますが……」)
マイアは黙したまま日傘を畳むと、パチンッと片手で指を鳴らした。
『――――。――! ――』
『―――。―――――――――』
マイアの周りに生まれる、淡い光の壁。防音の結界が、本来マイアの耳に届く大根達の声を遠ざける。
「冥府の王よ。契約に従い我が下に黒き焼尽の猛火を持て」
その隙に、マイアは普段よりも大分省略して短縮した言葉を唱えた。
――シャドウファイア。
この世ならざる黒炎の群体が、1つの巨大な炎となり大根の1体を焼き払った。
『――!? ――!』
『――――!!!』
(「さて、どう来ますか」)
狼狽する大根達を、マイアは結界の中から注視する。
ここからは大根達の反撃に対し、回避に専念しつつその行動パターンを記憶する。それがマイアの作戦だったのだが――。
「……?」
来ると思っていた大根達の反撃は、一向に来なかった。
取り出した包丁も、攻撃ではなく自分達を刻むのに使っている。
仕方ない。仕方ないのだ。
大根達には、自分達を食わせる以外の団地闘法がないのだから。
「……」
どんな料理になるか興味がないわけでもなかったが、マイアは大根達の料理を待つふりをして、魔力を溜めていく。
「高き王座に鎮座し天界との虚しき戦争を飽きることなく続ける冥府の王よ――」
そして、今度は短縮しない、本来のシャドウファイアの詠唱を唱え――。
全力で放たれた黒炎に、料理中の大根達は消し炭となった。
成功
🔵🔵🔴
荒谷・つかさ
なるほど。
つまり。
大根パーティーね!
ええ、好きよ大根。
癖のない首元を煮て食べるのも、ピリッと辛い尻尾の方をおろしで頂くのも最高よね。
それじゃあ遠慮なく……いただきます!
【焼肉担当の本気】発動
寄ってくる大根たちもそうでない大根たちも、片っ端から「烈火包丁」で焼いて食べる
ちなみにここで言う「焼肉」の定義は「敵から剥ぎ取った部位」なので「焼いた大根」だろうと定義上「焼肉」になる
大根だからカロリーは控えめ、健康にも良いわね
その分カロリー蓄積は少ないでしょうけれど、まあゆっくりのんびり大根食べ放題を楽しんでいくとしましょうか
さあ、おかわりはまだかしら?
●斬って焼いたらそれは、焼肉
『なんや、べっぴんな姉さんやなぁ』
『そない華奢な体で、ワイらを食い切れるんか?』
大根畑に入ってきた荒谷・つかさ(逸鬼闘閃・f02032)の姿に、大根達は歯に衣を着せずに告げてきた。
確かにつかさは、一見すると華奢で小柄な大和撫子と言った外見である。
――外見は。
『まあ、食い切れん言うても食わせるけどな』
『しかもワイら、辛口やで!』
「ええ、好きよ大根」
辛口を自称する大根達に、つかさは事も無げに頷いた。
「癖のない首元を煮て食べるのも、ピリッと辛い尻尾の方をおろしで頂くのも最高よね」
『ほぉ……辛い方を『おろし』かい』
『大人やなぁ』
つかさが続けた言葉に、大根達が思わず息を呑んだ。
大根はおろす事で細胞が破壊され、普段はない辛味の成分が出るという。つまり辛い部分を大根おろしにすると言う事は、それだけ辛くなり易いのだ。
『ほなら、ワイらの全身食わせたる!』
『尾から葉まで、余すところなくなぁ!』
「なるほど。つまり。大根パーティーね!」
食べ切れるものなら食べ切ってみろ――挑戦的な笑みを浮かべた大根達の宣言に、つかさも口の端に笑みを浮かべる。
「それじゃあ遠慮なく……いただきます!」
そして、巨大な包丁を抜き放った。
「ふっ! はっ!」
つかさの振るう大剣の様な包丁が、大根達をスパスパ斬っていく。
その切り口は、焦んがりと焼かれていた。
『な、なんやその包丁!』
大根が驚くそれは『烈火包丁』。赤々と熱を常に帯びている、いつでもお肉が美味しく焼ける包丁である。
その刃で斬られた大根は、それだけでもう大根ステーキだ。
「……ん。焼いたから辛味も抑えられてるし、素焼きは少し薄味ね」
焼き立て大根ステーキ一切れを平らげ、つかさは物足りなさそうに呟いた。
噛み締めれば、大根の旨味と辛味が口の中にじゅわっと広がる。素材の味が活きていると言えるが、味付けも何もせず斬って焼いただけでは、薄味なのは否めない。
「何かないの?」
調味料がないかと、つかさは台所を漁り出す。
『このまま食われっぱなしやないで!』
『陽気な大根――出番や!』
大根達がスコップ振り回し、ザクザク畑を掘ると、小さな大根が出てきた。
『よっ! デカい大根!』
『こっちも料理やな! 任せとき!』
陽気な大根達は、つかさが焼き斬った大根ステーキを拾い上げ――。
バシャッ。
そこに、何やら黒っぽい液体が大根も陽気な大根も区別なくぶっかけられた。
「あるじゃない。醤油」
空になった醤油のボトルを投げ捨て、つかさが台所を飛び越える。
「お前も焼き肉にしてやろうか?」
醤油塗れになった大根達に、つかさが烈火包丁を振り下ろす。
『ちょ、ま――』
料理する間もなく、ぶった切られる小さい陽気な大根達。
『ああ!? 陽気な大根達が一撃げが!?』
返す刃で、大根を口からぶった切り、黙らせてから輪切りに切り刻む。
「……うん。醤油で焼くのはぴったりね」
醤油をかけて焼き斬った事で、大根の旨味に焼けた醤油の旨味と香ばしさが加わった大根ステーキを平らげ、つかさはまた烈火包丁を振るう。
その動きに、大根が最後に腹の中から加えるダメージの影響は見られない。
それもその筈。つかさは烈火包丁を抜いた時から、使っていた。
焼肉担当の本気――ヤキニク・パーティー。
戦闘中に焼肉を食べる事で、カロリーを蓄積し力と変える業。
つかさにとっての『焼肉』とは『敵から剥ぎ取り焼いた部位』である。ならば『焼いた大根』も『焼肉』に等しい。
大体、大根から大根以外の何を剥ぎ取れと言うのか。
大根のカロリー蓄積量は肉には及ばないが、それでも大根が食べられる事で与えるダメージを相殺することは出来る。
「さあ、おかわりはまだかしら?」
全ての大根が大根ステーキにされるまで、つかさの大根食べ放題は続いた。
大成功
🔵🔵🔵
司・千尋
連携、アドリブ可
大根食ってれば良いのか?
ここで一番美味い大根料理を持ってこい!
扉を開けたら真っ直ぐ台所へ
その辺にあった椅子に座って大根料理を催促してみよう
生も良いけど味がしみた煮込みも美味いよな…!
味に飽きてきたら台所にある調味料を使って味変しよう
うーん、これは失敗だったけど
こっちはなかなかイケる、かも?
調理が間に合わないなら手伝ってやるよ
『空華乱墜』で周囲の大根妖怪を刻んで煮込もう
俺のオススメは烏賊と大根の煮物かな!
いや、待てよ…
やっぱりおでんも捨てがたい
選べないから全部作るか…
幸い大根はたくさんあるし
食べるだけとか楽で良いと思ってたけど
食べ続けるのって意外と大変なんだな…
御馳走様でした!
●みんな一番だったらよかった
『風呂吹き大根に決まってるやろ!』
『いやいや、ブリと合わせてブリ大根や!』
『サンマと大根おろし!』
『此処は敢えての切干大根!』
『いや、ここはおみおつけや!』
『おっと、沢庵を忘れたとは言わさへんで!』
『大根ステーキも忘れんなや!』
まさに喧々囂々。
大根団地のある一室の大根畑では、大根達が『自分が思う最高の大根料理はこれ!』と熱い議論を交わしていた。
「……」
その様子に、司・千尋(ヤドリガミの人形遣い・f01891)は無言で溜息を零す。
(「どうしてこうなった」)
まあその原因は、千尋にあるのだが。
――話は数分前に遡る。
「入るぞ」
大根団地のドアを開けた千尋は、大根達の視線にひるむことなく大根畑にズカズカ踏み込んで行った。
『待っとったぞ』
『早よぉ、ワイらを食って貰おうか!』
『リクエストがあるなら、聞いたるで!』
大根を食えと迫る大根達をスルーして、千尋はその辺に残っていた椅子を取ると、大根畑の奥へズンズン進んで行く。
『おい、黙っとらんで――』
「わかったわかった。大根食ってれば良いんだろ?」
答えを急かす大根に、千尋は運んだ椅子に腰かけ視線を向ける。
「俺の注文は一つだ」
そこで一度言葉を切って、千尋は大根達を見回し、告げた。
「ここで一番美味い大根料理を持ってこい!」――と。
そして、現在に至る。
最初の内は千尋も『生も良いけど味がしみた煮込みも美味いよな』と相槌を入れていたりしたのだが、いつしか大根達の議論は口を挟む隙間もないほどに白熱していた。
『大根は煮込むのが一番なんや!』
『大根のくせに、大根おろしを否定するんか!』
『焼いた大根かて美味いで』
(「注文の仕方がまずかったか……」)
大根達の、大根料理に対する情熱を甘く見ていた――事こうなってしまえば、千尋もそこは認めざるを得ない。
だからと言って、このまま終わる様子のない議論を待つ気もない。
「自分達で決められないなら、手伝ってやるよ」
扇と提灯を持つ黒狐面の『暁』、太刀を持つ白狐面の『宵』。
2体のからくり人形が、千尋の手を離れて大きくなっていく。千尋と肩を並べて――千尋よりも大きく。
(「烏喙は毒があるからやめとくか」)
人形達に続いて、鈍器の『鴗鳥』と小太刀の『月烏』も千尋の手を離れ、空中に浮かんで大きくなっていく。
「落ちろ」
千尋が短く告げれば、巨大化した武器が動き出した。
『暁』の扇が起こす風の衝撃と流星の如く落ちた『鴗鳥』が大根を砕き、青白く光る『月烏』と『宵』の振るう刃が大根を切り裂いていく。
空華乱墜――クウゲランツイ。
からくり人形と武器を巨大化させる業。
その巨大さ故、威力を充分に発揮するには敵味方の区別を諦める必要があるが、ここにいるのが千尋と大根達だけだ。区別の必要はない。
だからこそ、千尋は1人で踏み込んだのだ。
『……』
「議論も良いが、調理もして貰おうか」
あっという間に半分以上減らされた大根達は、千尋の言葉に無言で頷く。
やろうと思えば一掃することも出来ただろうが、千尋は敢えて大根達を残したのだ。大根を調理させるために。
「俺のオススメは烏賊と大根の煮物かな!」
『イカ大根! そっちやったか!』
千尋の言葉に、そっちか、と悔しがる素振りをみせた大根は、ブリ大根を押していた個体だろうか。
「いや、待てよ……やっぱりおでんも捨てがたい」
『成程。兄さん、煮込む派やな』
『焼き大根は!?』
「ええい。選べないから全部作っていいぞ。大根はたくさんあるだろう!」
そして始まる大根料理。千尋もこの味付けはどうだろうと大根達に手を貸しながら、次々と大根料理が出来ていく。
次々と。
どんどん、どんどん――出来上がった大根料理の数々を合わせれば、どう見ても一人前の量ではなくなっていた。
「食べ続けるのって意外と大変なんだな……御馳走様でした」
大根で腹がはち切れそうになった千尋の声が、大根畑に静かに響いた。
大成功
🔵🔵🔵
臥龍岡・群青
団地闘法……その使い手と戦うことになるとはな
だが一切容赦をするつもりはない
お前達がそれを望むのなら、わしは全力で戦うだけだ
……などと格好つけたが、大根なんだよなぁ
台所の位置を適度に確認しつつ、どんどん大根達を捌いていこうか
という訳で尖れ爪!そして鰭!
荒ぶる神の身体を以て迫りくる大根達を次々みじん切りにしていくぞ!
皮も丁寧に剥いてやるからな!
台所付近では熱々の大根が食べられるのだろう?
わし、煮たやつが好き!
あ、でもバーベキュー風味とかも好き!
片っ端から切って食べる!切って食べるぞ!
大根料理を頂く訳だからわしの動きは鈍らん
将来的にわしの胃袋に収まるのだから大根達はある意味味方
完璧ではないか……
●大根ですからね
「団地武装団か……」
大根団地の階段を上りながら、臥龍岡・群青(狂瀾怒濤・f30803)が厳かに呟く。
「団地闘法……その使い手と戦うことになるとはな」
団地武装団が使うという団地闘法は、群青も詳しくは知らない。
未知の相手が、目の前の扉の向こうにいる。
「ま、負ける気は微塵もないがな」
どんな相手であれ、群青は一切の容赦をする気などない。
「お前達がそれを望むのなら、わしは全力で戦うだけだ」
群青はドアノブを掴むと、ゆっくりと扉を開けて――土の中へ踏み込む。
『らっしゃい!』
『やや、こら竜神様とお見受けする』
『ワイらも、竜神様のご飯になれる日ぃ来たか』
「……などと入る前に格好つけたが、大根なんだよなぁ」
群青が竜神だと気づいて嬉々として食われに来る大根達の視線を浴びながら、群青はやり場のない想いを溜息と共に吐き出した。
●荒波が如く切って、食べる
『竜神様は、どないな大根料理がお好みで?』
「わし、煮たやつが好き!」
好みを訊ねてきた大根に、群青が迷わず答えを返す。それを聞いた大根達の反応は、沸き立つものとしょんぼりするものの2つに分かれていた。
『やっぱ煮込んだ大根が一番やな!』
『焼いた大根かて負けへんで!』
(「……大根達の中にも、派閥があるのか」)
食べられるにせよどう食べられたいか――大根達の中にある好みの違いを感じ取った群青は、気まぐれに空気を読んでみた。
「あ、でもバーベキュー風味とかも好き!」
『っしゃぁ!』
さっきしょんぼりしてた大根達が、群青の言葉にぐっと拳を握る。
とは言え、群青もただ気まぐれに大根達を喜ばせたわけではない。
(「台所は……あそこか」)
大根畑の中にある、台所の位置を把握する時間を稼ぐためだ。
群青が目的を達した今、凪の時は終わりを告げる。
ここからは――荒れ狂う海の時間だ。
「尖れ爪! そして鰭!」
群青が吠えると、その指先の鋭い爪はより鋭く長くなり、半透明の青い鰭も長く伸びて鋭利な刃のようになる。
その名の色に近い深い青の双瞳が、殺意にギラリと輝いた。
「一切合切遠慮はなしだ。バラバラになれ!」
畑の土を蹴って跳び出した群青が、宙を舞い泳ぎ、大根達の間をすり抜けて――そして大根達がバラバラになった。
荒ぶる竜神としての本性を露わにした群青の身体が武器だ。
群青が畑の上を泳ぐ度に、何処かで大根がバラバラに切り刻まれる。まるで、刃の波が襲うが如く。
故に――千波万波。
『何ちゅう、荒々しいのに正確な包丁――いや、鰭捌き!』
「うむ。包丁ではないが、皮も丁寧に剥いてやるからな!」
群青は鰭捌きに感心する大根の脇をすり抜け、やはりその身体もみじんに切り刻む。
そして――辿り着いた台所で、群青は一度動きを止めた。
「どうした。貴様らの団地闘法、わしに見せずに土に還るつもりか? わしは熱々の大根を食べられるのだろう?」
挑発的とも取れる群青の言葉に、大根達が動き出した。
切り刻まれた大根達をササッと拾い集め、流しで洗い、小さい大根は鍋にまとめて入れて、大きく切られた大根をグリルにセットする。
ややあって、香ばしい匂いが台所から立ち昇ってきた。
『ソースとケチャップを合わせたバーベキューソース風味の焼き大根、上がりや!』
「うむ!」
まだ湯気が立ち昇るホカホカ焼き立ての大根に、群青は迷わずかぶりついた。
「あふっ……熱い! しかし焼き立て美味い!」
群青は賛辞を述べながら、焼き立て大根の熱さに思わず振り回した尾鰭で、ついでに後ろの大根を切り刻んでおく。
『大根のおみおつけも出来たでぇ!』
いわゆる大根の味噌汁を、やはり群青は迷わずグイっと飲んだ。
熱さに慣れた口の中に、味噌の風味と溶けだした大根の旨味が広がる。歯応えを残す程度に煮込まれた大根の食感もにくい。
「これも美味い! よし、どんどん持ってこい。片っ端から切って食べる!」
腹の中から来る鈍痛を堪え、群青は再び身体で大根を切り刻んでいく。
この大根畑の全ての大根達が群青の胃袋に収まるのに、時間はかからなかった。
大成功
🔵🔵🔵
備傘・剱
つまり、俺にこれを言え、そういう事だな?
オブリビオン、大根、おいてけ!
さぁ、どんどん、美味しく頂いちゃおうね
調理開始、発動
オブリ飯の真骨頂、魅せてやるわ
あん?ここは団地だって?なら、コンクリの土間があるよな?
其処にしばらく置くと、灰汁の抜けがいいんだよ
そして、米のとぎ汁があれば、なおいいんだがなぁ…
ふろふきにしても、田楽にしても、そして、おでんにしても、おろしでもいける大根、そして、大根菜は漬物にして、ご飯と酒のおともに!
知ってるか?
大根は日本人の大好物だという事を…
つまり、宇宙生まれの俺も、その血を受け継いでいるのだよ
さぁ、大根食祭りの開催だ!
食べたい奴はここに来い!お残しは許しまへんでぇ?
●喋ろうが動こうが、大根は食材
「オブリビオン、大根、おいてけ!」
蹴破ったかと思うくらいの勢いでドアを開け放ち、備傘・剱(絶路・f01759)がそのまま大根団地の一室へと駆け込んで行く。
「む……?」
しかしその足は、すぐに止まった。
団地の中とは思えない柔らかい感触。剱が視線を足元に向ければ、つい先ほどまで歩いていたコンクリートの灰色の廊下ではない。
剱が立っているそこはもう、大根畑の上だった。
「おい待て。コンクリの土間はどこ行った」
『そんなんはあらへん!』
『耕せるとこは全て耕したで!』
訝しむ剱に、大根達が当然と言わんばかりに返す。
大根団地の部屋と言う部屋は、大根畑に開墾されているのだ。台所以外には、調理か食事に必要な僅かな家具が残っているくらい。
「何てことだ。コンクリの土間にしばらく置くと、灰汁の抜けがいいんだが……」
ある意味、全てが土間とも言えるが、剱が期待した環境ではなかった。
「せめて米のとぎ汁があれば、いいんだがなぁ……」
ちらりと大根達に視線を向けながら、剱はぼやくように呟く。
大根の灰汁抜きの際、米のとぎ汁を使う事で、大根の成分と米からとぎ汁に出たデンプンが反応し、大根の苦みやえぐみが良く抜けるとされている。
だが――。
『黙って聞いとったら、兄さんよ』
『ワイらを、そこらの大根と一緒にしてへんかい?』
そのぼやきを聞いた大根達は、剱に険しい視線を向けていた。
『ワイらは、灰汁抜きなんて不要な大根や!』
『何なら今すぐ、生でその口の中に飛び込んだろかい!』
「ほう。大した自信だな」
大根達の剣幕に、剱は僅かに目を細める。
「ならば、どんどん、美味しく頂いてやろう。オブリ飯の真骨頂、魅せてやる」
――調理開始。
料理と類する幾つかの技能を高める業を解放した剱は、不思議な光を湛えた短刀『Orthrus』を包丁代わりに、大根を捌いていく。
腕部分を落とし、皮を向いて、輪切りにして、隠し包丁を入れて――。
『は、早い!』
「当然だ」
その手際に驚く大根に、剱は手を止めずに告げる。
「知ってるか? 大根は多くの日本人の大好物だという事を……」
『はて?』
『そうやったっけ?』
剱の言葉に、首を傾げる大根達。
「ふろふきに田楽、おでんにおろしでもいける。そして、大根菜は漬物にして、ご飯と酒のおともに! こんなに多彩な大根料理を開発してきた日本人が、大根が大好物でない筈がないだろう!」
力説する剱だが、日本人だって大根が嫌いな人だっているだろうし、大好物とまでは言えないという人もいるだろう。
そんな事は、剱もわかって言っている。
真偽はいいのだ。
大根達が、信じさえすれば。
「つまり、宇宙生まれの俺も、その血を受け継いでいるのだよ」
『宇宙? あんさん、宇宙人なんか?』
『そうは見えへんなぁ』
事実を交えた剱のハッタリを、大根達はすっかり信じていた。
「つまり、俺は生半可な大根料理じゃ満足しないくらい、大根が大好物だと言う事だ。お前達に、俺を満足させられるか?」
『ほぉ……そう言う事かい』
『ええやろ……辛口大根、その口に捻じ込んだる!』
ハッタリを重ねた剱が大根を入れた鍋を火にかけると同時に、その言葉が大根達にも火をつけた。
「食べられたい奴はここに来い! お残しは許しまへんでぇ?」
『それはこっちの台詞や!』
剱に負けじと、大根達も互いに切り合いながら、次々と大根料理を作っていく。
「さぁ、大根食祭りの開催だ!」
大根食を楽しまなければ動きが鈍る空間となったこの大根畑も、最初から食べる気しかない剱には、何の問題もなかった。
大成功
🔵🔵🔵
怨燃・羅鬼
わぁ~☆二つの世界が失くなっちゃったら
らきちゃん☆のファンの人達も激減しちゃうネ!
これはアイドルとしてピンチ!
だから、らきちゃん☆も頑張るぞ!
妖怪団地に団地闘法…じゃあ、らきちゃん☆は哀怒流闘法で迎撃だ!
アイドルらしく『大声』で歌って【ブレス攻撃・地形破壊】
入る事前にらきちゃん☆にメロメロになってもらうネ!
そして大根を見つけたらマイクでえい☆【串刺し】
そのまま怪炎で焼いて【焼却】
最後は包丁で輪斬り打ぁー!
はい☆焼き大根の完成だネ!
哀怒流闘法☆突撃!隣我晩御飯
ということでらきちゃんのアイドル力の勝ちだネ!【威圧】
●ゴッドハンドと咎人殺しなアイドル(物理)
――陰摩羅鬼、という妖怪がいる。
充分な供養を受けなかった死体から生じた陰の気が化けたもの、或いはその死体そのものが化けたものとも言われる妖怪である。
「二つの世界が失くなっちゃったら、らきちゃん☆のファンの人達も激減しちゃうネ!」 その陰摩羅鬼である怨燃・羅鬼(怒りの心を火に焚べろ・f29417)は、UDCアースとカクリヨファンタズム、2つの世界の滅びの危機に怒りを覚えていた。
だがその怒りは、羅鬼が陰摩羅鬼である事とは――関係ない。
「これはアイドルとしてピンチ!」
羅鬼が(自称)アイドルだからである。
なんで陰摩羅鬼がアイドルやってんだろう。(やりたかったのかな)
「妖怪団地に団地闘法……じゃあ、らきちゃん☆は哀怒流闘法で迎撃だ! らきちゃん☆も頑張るぞ!」
両手の拳を胸の前でぐっと握ってから、羅鬼は団地のドアを勢い良く開けて、まるで袖からステージに出ていくような弾む足取りで部屋に入っていく。
『へい、らっしゃ――』
『大根食って――』
「らきちゃん☆にメロメロになってもらうネ!」
そしてドアが開いた気配に反応した大根達の言葉を食い気味に遮って、羅鬼は笑顔で告げると大きく息を吸い込んで――大きく口を開けて、喉を震わせた。
「――~~♪ ――~~♬ ――~~~♪♪」
響き渡る怪音――もとい、羅鬼の歌声。
怪音の衝撃で大根畑の土が舞い上がり、怪音を浴びた大根達の身体が震える。台所に置かれていた皿がカタカタとひとりで震えて、パリンッと音を立てて割れた。
羅鬼はアイドルを名乗ってはいるが、歌は壊滅的に下手なのだ。
上手い下手というレベルではないかもしれない。
普通、歌は地形破壊ブレス攻撃にはならない。
「――~~♪ ――♪♪~~~♪♪♪」
だがその自覚があるのかないのか。羅鬼は実に気持ちよさそうに歌い続ける。
ついには音の衝撃で、台所の水道も破壊された。どこに繋がっているのか溢れ出す水すらも、音に流され千切れて飛んで行く。
「うん。今日も、らきちゃん☆最高(サイコ)☆」
羅鬼が一曲歌い切る頃には、開墾されて大根畑となっていた団地の一室は、台所すらないただの荒れ果てた畑に変貌していた。
辺りには、バラバラになった大根の残骸と思しき白い欠片が幾つも散らばっている。
『ちょ、ちょぉ待て……』
そんな中、息も絶え絶えな大根が、よろよろと起き上がってきた。
「あ、大根はっけーん☆」
しかし羅鬼は大根を見るなり、土を蹴って跳んで――。
「いっくよー! 哀怒流闘法☆突撃!隣我晩御飯! えい☆」
『ぎゃーっ!?』
と、何かを大根にぶっ刺した。
『ちょ、おま。ワイ、何で刺されたんや……』
「え? マイクだよ? らきちゃんのマイクの先端は槍になってるの☆」
マイクとは。
「らきちゃん☆ファイヤー!」
羅鬼は大根が何か言う前に、マイクに刺したまま怪炎で串焼きにしていく。
「最後は包丁で輪斬り打ぁー!」
ガシャンッ。
ふぁらりすくん――もとい拷問具『ファラリスの雄牛』の下腹部から、包丁と呼ぶには巨大な刃が生えてきた。
らきちゃん☆の終両離喰禁具。
『どう見てもそれ包丁ちゃうやろぉぼぼばぁぁばばば』
ツッコミ空しく、ギロチン――もとい包丁に刻まれていく、大根。
「はい☆焼き大根の完成だネ!」
ああ、うん。
それが焼き大根であることは、間違いない。そこは疑いようがない。
「らきちゃんのアイドル力の勝ちだネ!」
威圧するまでもなく、羅鬼に意を唱える気力のある大根は、もうこの大根畑にはのこっていなかった。
成功
🔵🔵🔴
レナータ・バルダーヌ
大根、ゴボウ、お台所……これはお料理対決の予感!
こちらは【愉快なゴボウさんディナー!】で、謎のゴボウ生物の亜種『愉快なゴボウさん』たちとゴボウさんチームを結成し、いざ勝負です!
えっ、テーマは「お菓子」……?
いいえ、炒めてよし、煮てよし、焼いてよしのゴボウに不可能はありません。
今回はスライスしたゴボウを揚げた「ゴボウチップス」を作ります。
お砂糖と唐辛子の2つの味を用意し、バリエーションも忘れません。
事前注意があった気がしますけど、大根さんのお料理も勿論いただきますよ。
【痛みに耐え】るのは得意なので、たぶん大丈夫。
せっかく作ってくださったんですから、かける言葉はひとつです。
ごちそうさまでした!
●根菜対決
『……』
『……』
大根畑の上で、大根の妖怪達と謎のゴボウ生物達が無言で睨み合っている。
(「大根、ゴボウ、お台所……これはお料理対決の予感!」)
予感も何も、この状況になっている原因はレナータ・バルダーヌ(護望天・f13031)が愉快なゴボウさん引き連れ乗り込んできたからである。
『大根の……畑の上でゴボウと大根が出会っちまったら、やる事ぁ一つだろう』
『せやな……料理対決や!』
果たしてレナータの予感通り、ゴボウさんと大根の間で料理対決が勃発した。
『まずはお手軽、大根おろしで先制攻撃や!』
『おろしただけとは手抜きしたな……こちとら、ゴボウをすり下ろしておろしショウガと味噌と混ぜたゴボウスープだ』
先に大根料理を出してきた大根に、すかさずゴボウさんもゴボウ料理でお返しする。
『どうやら、テーマ決めんと長引きそうやなぁ……』
『畑にかち込んだのはこっちだ……選ばせてやるよ、大根のぉ』
『言うたな、ゴボウの。後悔しても知らんでぇ……』
僅か1品のやり取りだけで、互いの料理の力量が拮抗していると悟った大根とゴボウさん達は、料理対決にテーマを設ける事に互いに頷く。
『せやったら、お菓子をテーマで勝負して貰おか!』
「えっ、テーマは『お菓子』……?」
大根が選んだテーマに一番驚いたのは、成り行きを見守っていたレナータだった。
『驚いたか! 大根には大根餅っちゅうもんもある! 独特の香りと歯応えを持つゴボウには餅になる事なんか出来へんやろ!』
レナータのその表情に、大根達がほくそ笑む。
大根達は、ゴボウには真似できない自分達に有利なテーマでの勝負を選んだ――つもりだった。
『ふっ……甘いぜ、大根の』
しかしゴボウさんは慌てず、レナータを見上げる。
「はい。炒めてよし、煮てよし、焼いてよしのゴボウに不可能はありません! ゴボウはポリフェノールと食物繊維がたっぷりですから♪」
こうして、根菜達の料理勝負に、レナータもゴボウサイドで参戦した。
●5倍速再生でお届けします
「それじゃあ、ゴボウさん。スライスしますね」
『ああ、一思いにやってくれ』
まな板に載せた愉快なゴボウさんの1体――その頭の天辺の方を、レナータは薄めにスライスしては水につけていく。
その間に別のゴボウさんが、大鍋に油を張って火にかけていた。
『ゴボウを揚げる気か』
『だったらこっちは――これで勝負や!』
『そ、それは……この勝負、勝ったな!』
一方の大根達は、何やら謎の粉の入った袋を手にほくそ笑んでいる。
どちらも料理に白熱しているのだが――動きはめっちゃ遅かった。参戦したレナータも遅くなっている。
大根おろしとおろしゴボウスープを互いに振る舞った時点で、どちらも『給仕した料理を楽しんでいない対象の動きを遅くする』と言う業の条件を満たしていたのだ。
だが、お互いに動きが遅くなっているなら条件は互角――ではない。
レナータ&ゴボウさんサイドは、薄くスライスにしたゴボウを揚げるのだ。動きが遅くなった状態での揚げ物は、難易度が跳ね上がっている。
「大根さんのお料理、頂きますよ! 痛みに耐えるのは得意です!」
『あ、あかん! 大根おろし下げるの忘れとったぁ!?』
大根が気づいた時には、レナータは大根おろしを平らげ、動きが遅くなった状態を1人脱してゴボウを揚げ始めていた。
そして――両者の料理が出来た。
「大根ときな粉、意外に合いますね」
『やるじゃねえか、大根も……』
大根サイドが作ったのは、きな粉大根の食感と甘味の組み合わせに、レナータとゴボウさん達は舌鼓を打ち――。
『ぐふっ』
「あ、流石にお腹痛くなってきました」
バタバタと、倒れていく。
『ゴボウチップス……食感ええな』
『ザラメの甘味と、唐辛子のピリ辛で、味に変化をつけてきよったか』
『ワイらの負けやな』
一方の大根も、レナータ&ゴボウさんサイドが作ったゴボウチップスをパリパリコリコリと味わい、敗北を噛み締めていた。
誰も動く者がいなくなった大根畑の中、根菜同士の料理対決は、レナータ&ゴボウさんサイドに軍配が上がったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
七瀬・麗治
※()内は闇人格ロードのセリフです。
UDCアースが滅ぶと、カクリヨファンタズムも連鎖的に滅ぶか!
実にまずいぞ、これは。
こちら七瀬、現場に到着!(ガチャ)
……畑?(一旦閉めて再確認)ここ、団地だよな?
なるほど、妖怪団地の大根団地と。
で、本当にお前ら食べていいわけ?
(本人らが食べてくれと言っておるのだ。
食ってやるがよかろう! さあ、飯の時間だ)
じゃあ出てこい、ロード! えっじゃねえ、お前も手伝うんだよ。
そうだな……煮物はちと手間がかかるし、炒め物で。
カットした大根と豚バラを塩コショウで炒めて。
仕上げに酒と味噌で味付けする。どうだ?
(フム、意外と…悪くない)
ま、いい加減一人暮らしにも慣れたからな…。
●ロードの使い方――ツッコミ役と食べる役
(『おい、少し落ち着け』)
「これが落ち着いていられるか!」
脳裏に響く別人格――ロードの声に返す七瀬・麗治(ロード・ベルセルク・f12192)の声には、焦りの色が見えていた。
「UDCアースが滅ぶと、カクリヨファンタズムも連鎖的に滅ぶ! 実にまずい事だぞ!」
UDCの捜査官である麗治にとって、それは看過できない事態だ。
麗治は大根団地の階段を一つ飛ばしで駆け上がり、まだ他の猟兵達が入った形跡のない部屋を探して廊下も駆け回る。
「ここだな! こちら七瀬、現場に到着!」
そしてそれらしい扉を見つけると、報告もそこそこに勢い良くドアを開け――。
『よっ……もうちょい掘れば、収穫や……!』
『辛口大根なら、やはり大根おろしやろ』
『フライド大根も、上がるで!』
そこでは、大根達が動いて喋って、自ら収穫されたり大根料理を作っている畑の光景が広がっていた。
――パタン。
「今……畑が見えた気が……」
愛用の眼鏡を外し、こめかみを片手で軽く揉んでからかけ直す。
「……よし」
――ガチャ。
麗治は意を決してドアを開ける。
『戻ってきよった!』
『今や! 連れ込め!』
『今度こそ、逃がさへんでぇ!』
やっぱり大根達がそこにいた。というか、麗治が一度ドアを開けてそっと閉じたのに気づいていたようで、逃がすまいと手を掴んで引っ張り込まれる。
「ここ、団地だよな?」
(『だから落ち着かんか。妖怪団地の大根団地で、部屋が大根畑になっていると言う話であっただろうが』)
「なるほど、妖怪団地の大根団地……そう言えば、そういう話だったな」
半ば呆然と大根に手を引かれていた麗治だが、ロードからのツッコミに転移前に聞いた話を思い出して、落ち着きを取り戻す。
あと言われていた事は――何だっただろうか。
『さーて、先ずは大根おろし、ぐいっといっとこか!』
『待て待て、ここはフライド大根やろ』
『大根とタコの煮物も作ってるさかい、腹空けとけや』
答えは、大根達が自ら麗治に思い出させてくれた。
「本当にお前ら食べていいわけ?」
『これがワイらの団地闘法やねん』
『腹に響く味に耐えられるなら、どんだけ食っても構へんで!』
念を押す麗治の鼻先に、大根達が大根おろしの入った小鉢を突き付ける。
(『本人らが食べてくれと、ここまで言っておるのだ。食ってやるがよかろう! さあ、飯の時間だ』)
ツンと来る辛そうな大根の香りと共に、麗治の中にロードの声が響いた。
「そうか。じゃあ出てこい、ロード! 」
大根おろしの辛さに眉を顰める麗治は、パチンと指を鳴らす。
『――えっ?』
隣に現れた別人格【ロード】は、呼ばれると思ってなかったという顔をしていた。
「えっ、じゃねえ、お前も手伝うんだよ」
『む……まあよかろう。しかし私は食うのみだぞ』
呼び出されたなら仕方がないかと、ロードは手伝えという麗治に素直に頷いた。
もしかしたら、大根食べてみたかったんだろか。
「よし、ならしばらく任せる」
『おいこら』
台所に向かおうとした麗治の肩を、ロードの手が掴んで止めた。
「まあ待て。俺は逃げるんじゃないぞ? 見てみろ、大根達の料理を」
『む?』
麗治に言われ、ロードが大根達の差し出す料理を見回す。
「フライド大根はともかく、大根おろしにサラダ、タコとの煮物。さっぱり系ばかりで肉を合わせた腹にたまりそうなものがない。だから俺が作る!」
ロードをそう説得し、麗治は台所に立った。
一口大にカットした大根と豚バラをフライパンに入れ、塩コショウで炒める。肉に火が通って赤みが消えたところで、仕上げに味噌を酒で溶いたものを回しかけて、味を調えれば完成だ。
「豚バラと大根の味噌炒め。どうだ?」
『フム、意外と……悪くない』
すっかり慣れるほど続いた麗治の一人暮らしの成果の味に、ロードは一つ頷いた。
こうして――麗治はまんまと、大根達が給仕する大根料理もロードに押し付ける事に成功したのである。
大成功
🔵🔵🔵
木元・杏
マイ皿にマイお箸を手に
ずさっと到着、大根団地(ごくり)
第六感を働かせ、更にはお料理の匂いを嗅ぎとる
んむ、畑の一角に台所、そして和室発見
ちゃぶ台。座布団装備。完璧。
わたし、ぶり大根なら何皿でもいける派
あんかけ大根に小海老と菊の花散らし、粕汁の素朴な味わいも良き
あ、田楽のお味噌もまた良き
知ってる?大根はシチューに入れても感動的な美味しさ
他、おすすめあれば美味しく頂く
肉的なものとのコラボとかあればもう至福
1人で食すのは味気ない
大根さんもお茶などしばきながら団欒などいかが?
番茶が合うかな…(とぽぽと注ぎ)
…
……
大丈夫、目的忘れてない
まだ他に開墾されていない畑があるならどんどん食べ尽く…攻略してく
●食べる気しかない
「ここが……大根団地」
ごくりと喉を鳴らし、木元・杏(メイド大戦・f16565)が階段を上っていく。
杏の食よ――もとい嗅覚と第六感は、まだ階段にいる内から、美味しい大根料理の匂いと気配を感じ取っていた。
その中でも特に第六感がここだと告げるドアの前で、杏は足を止める。
「……。……」
右手に持っていたものを左手でまとめて持つように持ち替えてから、空いた右手でドアを開けた。
『らっしゃい!』
『こら、かいらしい嬢ちゃんやな』
無遠慮な大根達の視線を浴びても、杏は平然とした顔で大根畑に入って行った。
「んむ、畑の一角に台所……和室の名残の畳を発見」
ぐるりと部屋を見回した杏は、慣れた様子で土の上を歩き出した。
「ちゃぶ台。座布団装備。完璧」
半分土の上に出たちゃぶ台、その脇で畳の上に置かれた座布団の上に正座する。
『な、なんや肝座っとるなぁ……』
『わかっとるんか? ここは辛口の大根食わせるとこやで』
『一度座ったら、大根食い尽くすまで、帰さへんで!』
泰然とした杏の態度に、大根達が辛口な言葉を向けて来る。
「問題ない」
しかし杏はそれらをさらりと流し――持参したものを、ちゃぶ台の上に置いた。
「わたしはね。食べに来たの。美味しい大根料理を」
マイ箸と、マイ皿を。
ドアを開ける前に杏の両手が塞がっていたのは、右手に箸、左手に皿と持っていたからである。
「わたし、ぶり大根なら何皿でもいける派。あんかけ大根に小海老と菊の花散らし、粕汁の素朴な味わいも良き。あ、田楽のお味噌もまた良き」
『ちょ、ちょお待て』
『一遍にそないに言われても――』
思いつくままに大根料理の数々を口に並び立てる杏に、大根達の方が驚いた様子で目を白黒させる。
「知ってる? 大根はシチューに入れても感動的な美味しさ」
『カブに負けへんように開発しとった大根クリームシチューの事まで知ってるなんて』
洋食メニューまで出して来る杏のペースに、大根達はすっかり飲まれていた。
「肉的なものとのコラボとかあればもう至福」
『肉的なもの……あ、せやったらあれや!』
杏のリクエストに、大根の1体が台所へ駆けていく。
「他、おすすめあれば全部持って来て」
その背中に、杏は食欲隠さず声をかけた。
●大根と番茶で団欒
そして出て来る、大根料理。
ブリ大根にサバ大根。あんかけ大根は小海老と菊のものと、ひき肉入りのもの。大根ときのこの粕汁に、田楽。そして大根のクリームシチュー。
お肉的なものと言うリクエストには、鳥肉との煮物と、スペアリブとの煮物。
「いただきます」
明らかに一人前以上ある大根尽くしフルコースが、目を輝かせた杏のお腹の中へ吸い込まれるように消えていく。
『……』
その食べっぷりに、大根達は悟った。
杏(の食欲)は、この大根畑の全員が食われても満たせるかどうか判らないと。
「……」
密かに慄く大根達を、ふと箸を止めた杏がじっと見上げる。
「1人で食すのは味気ない」
そして、ぽつりと零した。
「大根さんも、お茶などしばきながら団欒などいかが?」
杏の言葉と手招きに、大根達が驚き目を丸くする。
『いや、ワイらは大根。食材や』
『せやで。ワイらの団地闘法は、食われてなんぼや』
「番茶が合うかな……」
固辞する大根達の言葉をさらっとスルーして、杏はトポトポと急須からお茶を注いで湯飲みを大根達に差し出す。
「どぞ」
『あ、ども』
『結構なお手前で……』
ずずーっ。
お茶を啜る音が、大根畑に響き渡る。
『ってぇ、和んでる場合ちゃう!』
『大根料理作らんと!』
「大丈夫、目的忘れてない。どんどん持って来て。どんどん食べるから」
我に返って台所に帰っていく大根達を見送って、杏はちゃぶ台に残る大根料理を食べ尽くしにかかった。
そして――。
誰も動く者がいなくなった大根畑の扉が、静かに閉められる。
「まだ他に攻略されていない畑ないかな。あるならどんどん食べ尽く……攻略する」
まだ未攻略の大根畑を探して、杏は大根団地の廊下を歩き出す。
多分、食われた大根が腹の中から与えて来るダメージが食欲を上回るまで、杏の歩みは止まらない。
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
た……食べていいの? ほんとに? 後で怒らない?
んん、本人達がそれでいいなら断る理由は無いし
僕も堪能させてもらいつつ一緒に【料理】しよう
人手は多い方が色々作れるでしょ
生で向かってくる大根は炎魔法の【属性攻撃】で焼きつつ台所へ
給仕されたら猫舌なのでふーふーしつつ喜んで食べるし
同時に設備も魔法も駆使して大根料理をお手伝い
魔法で焼いた大根さんもしっかり食材として有効活用
大根さん達本当に美味しいね
瑞々しく柔らかくて、市販の大根なんか目じゃないかも
ふふ、と微笑みつつベタ褒めで油断させ
でもこれもお仕事だし
君達の想いも無駄に出来ないからね
謝罪は入れつつ【破魔】の指定UCで集まってた大根さん達は一掃しましょう
リーヴァルディ・カーライル
………これはまた、理解に苦しむのが出てきたわね
まあ、良いわ。この世界の危機に気付けたのは彼らのおかげでもあるんだし…
望み通り、一つ余さず食べてあげましょう
扉を開け"闇の精霊結晶"を投擲する早業で部屋内を闇で包み、
自身は"精霊石の耳飾り"で得た第六感を頼りに周囲の様子を暗視して見切り、
闇に紛れ存在感を消しつつ台所に駆けつけUCを発動
…日の光とか、水とかどうしているのか気になるけど
…さあ、食事の時間よ。その骸魂はどんな味がするのかしらね
吸血鬼化して限界突破した血の魔力を溜めた真紅の月を畑の空(天井)に形成
魂や生命力を吸収する月光のオーラで防御を無視して敵群を喰らう闇属性攻撃を行う
…うーん、大根味
●大根とダンピールの溝
『おー、やっと来よったな』
『待っとったでー』
『さあ、食っとくれ!』
リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)が大根団地の一室の大根畑んに入ると、そこにいる大根達は既に大根料理を手にしていた。
「準備万端すぎないかしら?」
『他の大根畑から、音が聞こえて来とったからな』
『猟兵さんが来とるのは、わかっとったでぇ』
半眼で呟くリーヴァルディに、大根達は大根ステーキ乗った皿を掲げる。
どれだけ、食べられたいんだろうこの大根達。
「……これはまた、理解に苦しむのが出てきたわね」
大根達の食べられ待ちっぷりに、リーヴァルディが流石に眉をしかめる。
「……日の光とか、水とかどうしているのか気になるけど」
眉をしかめたままリーヴァルディが漏らした疑問に、大根達が目を丸くする。
『日光なら、窓際に移動すればええんや』
『団地のベランダは南向きで日当たり良好やで』
『水は水道の蛇口から出せばええやんか』
『団地水道から水が出るなん、当たり前や』
それがさも当然のように語る、大根達。ここが団地の部屋なら、それらの効能や機能が備わっていても、何ももおかしくない。
でもねえ。大根畑に開墾しきった部屋の真ん中で言われてもねえ。
(「……深く考えない方が良い部類みたいね……」)
リーヴァルディは一つ溜息を零して、深く考える事をやめた。
ダークセイヴァーと呼ぶ世界のヴァンパイアだけを狩る事を生業としていた頃のリーヴァルディだったら、この手の敵には困惑したかもしれない。
だが、今のリーヴァルディは、他の世界の戦いにも加わるようになっている。その経験の中で、深く考えない方が良い手合いもいると知っている。
「まあ、良いわ。この世界の危機に気付けたのは彼らのおかげでもあるんだし……」
食われて倒される事が、大根達の望みなら――叶えるまで。
「望み通り、一つ余さず食べてあげましょう」
口の端に笑みを浮かべて、リーヴァルディは黎明礼装のポケットに片手を入れた。
●闇が広がり紅い月が輝く
リーヴァルディの手が、何かを放り投げた。
ぽとりと大根畑に落ちた、漆黒の結晶――"闇の精霊結晶"が砕けて、中に凝縮されて秘されていた闇が解放される。
『暗っ! なんや!?』
『電灯の故障か?』
『おかしいで、カーテンも開いてた筈や!』
あっという間に一つない完全な闇に包まれた大根畑の上で、大根達が狼狽える声だけが聞こえてくる。
『あかん、あかんでこれは!』
『早よ、何とかせな……!』
大根達の焦りは、闇が怖いからではない。
闇によって視覚が効かなくなることが問題なのだ。
料理を味わう上で、直接味を感じるのは味覚だが、視覚も影響する。例えば、ヘッドマウントディスプレイでサーモンの映像を見せられながらマグロを食べると、多くの人はマグロなのにサーモンの味を感じるという説もある。
食べられたい大根達にとってこの闇は、大きな障害であるのだ。
一方のリーヴァルディは、その闇の中を闇に紛れ、音も立てずに動いていた。
大根達の隙間を縫って、"精霊石の耳飾り"で得た第六感、そして闇の精霊結晶を投げる前に見ておいた大根畑の間取りを頼りに、困惑する大根達の間を静かにすり抜け、台所へと辿り着く。
「……限定解放。血と生命と魂を捧げよ」
そして――闇が紅く照らされる。
限定解放・血の神祖――リミテッド・ブラッドドミネーター。
大根畑の空――と言うか天井に現れた、真紅の月。
それは、吸血鬼化し限界を超えた血の魔力でリーヴァルディが作り上げたもの。異端の大神の力と融合した新たな吸血鬼の力の象徴。
「……さあ、食事の時間よ。その骸魂はどんな味がするのかしらね」
真紅の月から降り注ぐ輝きを浴びて、大根達も紅く染まる。
――それは、魂や生命力を吸収する月光。
「……うーん、大根味」
美味しくなさそうに呟くリーヴァルディの眼下で、紅大根の様に紅くなった大根達が萎びていって――。
「……え?」
大根達におきた変化に、リーヴァルディは思わず目を丸くした。
●平和な光景
トン、トン、トン、と包丁がまな板を叩く音が、一定のリズムで響いている。
包丁を握っているのは、大根である。
まな板の上で刻まれているのも、大根である。
大根が、大根を調理している。
「もうちょっと強火の方がいいかな?」
その隣では、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が、炎属性の魔法も駆使してコンロの火加減を調節していた。
コンロの上でグツグツ煮込まれている鍋の中にも、勿論、大根が入っている。
猟兵と大根が、一緒に料理している。
とても平和な光景だが――この平和は最初からここにあったのではない。
澪が掴んだ平和である。
「お、お邪魔しまーす」
澪とて、最初は警戒していた。
『らっしゃい! 身体細いなー』
『入ったからには大根食ってって貰うで』
『辛口でも勘弁して貰うで』
「た……食べていいの?」
大根畑の上で待ち構えていた大根達の無遠慮な視線と言葉に、思わずそう訊ね返してしまう程度には。
澪とて、食べられるオブリビオンを知らないわけではない。蟹や海老を、狩ったその場で食べたりしたこともあった。
『食え食え。ワイらをたんと食え』
しかしこの大根達は、食べられ待ちなのだ。
「ほ、ほんとに?」
『ほんま、ほんま』
「後で怒らない?」
『怒らへん。怒らへんから、食うてくれ』
『むしろ食わん言う方が怒るで』
澪がどれだけ念を押して確かめても、大根達は自分達を食べてくれと言って来る。
「んん、本人達がそれでいいなら断る理由は……無いね」
大根達の本気を感じ、澪も食べる覚悟を固める。
「じゃあ、堪能させてもらうよ」
澪が笑顔で頷くと、大根達の目がギュピンッと輝いた。
『せやせや、大根食ってれば問題ないって』
『まずは駆け付け、生で丸かじりやー!』
気が逸った大根の1体が、いきなり動き出した。
目を丸くした澪が振り向く間に、1歩、2歩、3歩と進んで、4歩目で大根畑の土を蹴って跳んで、そのまま澪に向かって飛び掛かり――。
「うわっ!」
ギリギリで澪の掌から放たれた炎魔法が、大根を吹っ飛ばした。
「ああ、吃驚した。生はちょっと待って」
焦げてピクピクしてる大根を回収しながら、澪は台所へ向かう。
「僕も一緒に料理するよ。人手は多い方が色々作れるでしょ?」
●光が暴く
そして――。
『できたで! 大根と油揚げの味噌煮込みや!』
『こっちも、大根の揚げ焼きの完成や』
ほぼ同時に、2つの大根料理が完成した。
どちらも出来立てのホカホカ、湯気が立っている。
(「どっちも熱々かあ……」)
猫舌である澪には、もう少し冷まし易い料理の方がありがたいところであった。
『ささっ。焼き立ての熱ーいところを!』
「うん、いただくね」
しかし澪はそんな内心を隠し、笑顔で大根達に頷く。
まずは煮込みの方から、ふぅーと2,3度息を吹きかけ口に入れた。
「はふ……っ」
煮込まれた大根を噛み締めれば、揚げの脂もしみ込んだ大根の旨味が広がる。澪が咄嗟に魔法で焼いて焦がした大根を使ったからか、大根達が言うほど辛さも気にならない。
「それじゃ、次はこっちを」
やはりふぅーと2,3度息を吹きかけ、澪は揚げ焼きも口に入れた。
(「熱……! 美味しいけど、熱っ!」)
予想外の熱さに、澪が目を白黒させる。
さくっと噛み締めれば、片栗粉の衣の中でまだ熱々だった大根から旨味たっぷりの水気がじゅわりと染み出していた。
「……。ふぅ……大根さん達本当に美味しいね……」
熱さが喉元を過ぎてから、澪がしみじみと呟く。
「瑞々しく柔らかくて、市販の大根なんか目じゃないかも。ふふ」
『いやぁ……それほどでもあるんやけどな』
『日夜この団地で、団地闘法を磨いてきたからやな!』
澪に大根料理を褒められ、大根達の相好が崩れる。
「でもこれもお仕事だし、君達の想いも無駄に出来ないからね」
それが、澪の狙いだとは気づかずに。
「全ての者に光あれ」
『え?』
突如、澪の全身から眩い光が放たれる。
Fiat lux――フィーアト・ルクス。即ち、光あれ。
それは破魔の力を込めた魔を浄化する光。
『あ……あぁ……』
『こら、溜まらん……』
浄化の光が、大根達が食らった骸魂を洗い流していく。
やがて光が収まり――。
「え? えぇぇぇぇっ!?」
そこにいる骸魂から解放された大根達の姿に驚く澪の声が、大根畑に響き渡った。
●大根達に見送られ
『いやー、お陰で助かりました』
『こうして見送る事が出来るなんて……』
大根団地を去る猟兵達を、大根が見送っている。
その姿は、さっきまでの丸くずんぐりとした姿ではなく、良く八百屋で見るような青首大根の類のしゅっと細長い大根になっていた。
それはリーヴァルディの紅い月の光が。
そして澪の眩い浄化の光が。
それぞれ、戦いの中で暴き出した大根達の姿でもあった。
つまり、この大根団地の大根達は、骸魂を食べる前はこうだったのだ。
『山本の親分に言われて適当な骸魂食ったら、ああなりましてな』
『きっと関西に所縁のあった骸魂だったんでしょうなぁ』
口調まで変わってるのは、そのせいか。
『それでは猟兵様方、お達者で。ご武運を』
『また大根食べたくなったら来て下せえ。この大根団地ある限り、大根はまた生えてきますから!』
大根達、中々に逞しいようである。
大成功
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